キャラ・設定少し変更注意
乃々「これ以上は頑張れないんですけど?!」
P「いやいけるって! お前何だかんだ言って仕事やりきってるじゃん!」
乃々「私の心はすでにボロボロなんです!!」
P「ええい! 柱にしがみついて離れやしない! その手を離せ!」グイグイ
乃々「嫌ですー! 私を連れていきたければ、この大黒柱を切り倒してくださいー!」ギュー
美玲「あーあー、今日は一段とぐずるなぁ……」
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輝子「ただいま……」ガチャリ
美玲「お、おかえり。ほら乃々、もう142が帰ってきたぞ?」
P「お疲れ、輝子はすぐ出られるようにしていてくれ」
P「オラァ! 後はお前だけだぞ森久保ォ!」グイグイ
P「もう行かないと現場入りが遅れるだろうがァ!」グイグイ
乃々「今日こそは! 今日こそはボイコットすーるぅー!」ギュー
小梅「いつもより嫌がってるね?」
幸子「どんな仕事なんですか?」
美玲「インディヴィ3人で、水着のグラビア撮影」
幸子「あー、乃々さんの嫌がるタイプですね」
美玲「それに乃々の衣装は、シースルーセーラーの下に濡れると透ける旧スク水なんだ」
幸子「それレーティング大丈夫なんですか?!」
美玲「大丈夫、大丈夫! 肝心なところはパット入ってるから」
幸子「逆に卑猥ですからね!?」
小梅「えっちぃ///」ドキドキ
幸子「……まぁ、ボクが以前味わった、私服姿のままローションプールに突き落とされる仕事の方が、大変だとは思いますが……」
美玲「オマエの感覚も相当ヤバいな」
小梅「えっちぃ///」フンフン
P「これ以上のキャンセルはもう無理なんだよ!!」
乃々「私もこれ以上は無理なんですけど!?」
P「もうキャンセルの理由はないんだ!!」
乃々「それをなんとかするのがプロデューサーの仕事だって、昔言ってましたけど!?」
P「お前4位だからって調子に乗ってるだろ!?」
乃々「遥か昔からずっとこの調子なんですけど!?」
小梅「あれ……?」
美玲「なんか、雲行きが悪いな……」
輝子「2人とも……こ、恐い……」ブルブル
乃々「とにかく!!!!」
乃々「もう私はアイドル辞めますから!!!!!!!!」
「……うっ……ぐすっ……」
P「あ」
「ぐすぐす……ひっぐ……」
乃々「あ」
「えぐ……うえぇ……」
P「あぁ……泣かせてしまったな……」
乃々「そうですね……」
P「ゴメンな輝子、恐かったよな?」
乃々「もう叫びませんから」
輝子「……いや、私じゃない……」
P「あ、そうなのか?」
乃々「さっき怯えてたから、つい」
P「それじゃ小梅だったのか」
乃々「怖がらせてごめんなさい」
小梅「私も違うよ?」
P「小梅だと思ったんだが……」
乃々「小梅さんは、そうそう泣かないですからね」
P「そうか、穴馬の美玲か!」
乃々「泣かせたかったわけじゃないんです……」
美玲「……いや、なんでウチが泣く必要あるんだよ」
P「そうなのか?」
乃々「私のために泣いてくださいよ……」
美玲「知るかッ!!」
P「……え?」
P「じゃあ、誰の泣き声だ……?」
幸子「うぅ、ぐすっ……うえ゛ぇえ゛ぇ゛ぇぇ……!」グスグス
全員「「えっ」」
全員「「……」」
全員「「えっ」」
――――
――
乃々(あの日から、ちょうど1週間がたちましたね……)
乃々(気付けば部屋の片隅で、床にへたり込みながら、ガチ泣きする幸子さんがいました……)
乃々(想定外の人物の号泣に、私たちは無言で仕事場へ向かうことに……)
乃々(それ以上揉めている場合じゃないことは、この私でも、さすがに気付いたからです……)
乃々(私たちは小梅さんに後を託しました……)
乃々(彼女は必至に幸子さんをなだめましたが、何も効果が無かったそうです……)
乃々(仕方なく彼女を自分の部屋へ連れて行き、そこで解散となったそうですが……)
乃々(それ以来、部屋から幸子さんが出てくることはありませんでした……)
小梅「……あ」
乃々「おはようございます」
小梅「うん、おはよう……」
乃々「……ちゃんと寝てますか?」
小梅「え……うん、大丈夫だよ」
乃々「そうですか」
小梅「どうして?」
乃々「クマがひどいからに決まってるんですけど……」
小梅「え」
乃々「入社したばかりの頃と同じくらいのクマができてますよ?」
小梅「あぅ、どうしよう……」オロオロ
乃々「大丈夫ですよ、小梅さんならメイクだと思われますから」
小梅「そっか……」
乃々「気を付けてくださいよ? ただでさえ肌が白いんですから」
小梅「気を付けます」
乃々「はい、私が聞きましたので、この話はここまでです」
小梅「うん」
乃々「……自分を責めないで欲しいんですけど」
小梅「でも、幸子ちゃんに最後に会ったのは私だし……」
小梅「それにあの時、何もしてあげられなかったから……」
乃々「何もしてあげられなかったのは、私たちもですし」
乃々「だから、あまり自分を責めないでください」
乃々「そういうのは、もりくぼの仕事なので……」
小梅「……うん、ありがとう」
乃々「幸子さんは、今日も?」
小梅「うん、ずっと引きこもってる」
乃々「心配ですね……幸子さんは、そういうタイプじゃないから、特に」
小梅「食事は、ドアの外に置いたものを、食べたりすることもあるから、大丈夫だとは思うけど……」
乃々「えっそれ、食べないときもあるってことですか?」
小梅「うん……」
乃々「……本当にどうしてしまったんでしょうか……」
輝子「あ、おはよう……」
小梅「おはよう」
乃々「おはようございます」
輝子「……小梅、また寝不足なのか?」
小梅「うん……」
乃々「輝子さん、その話はもう私がしたので……」
輝子「そうか、そ、それならいいんだ……」
輝子「もう1週間か……早いなぁ」
乃々「……142はどうなってるんですか?」
小梅「一応病欠ってことになってるよ」
輝子「代役がいらないところは……な、ナイトエンカウンターとして、出演してる」
小梅「でも、これ以上は厳しい……かな?」
輝子「うぅ……幸子……悩みがあるなら、打ち明けてくれたらいいのに……」グスッ
小梅「いなくなって、ようやく気付いたんだけど……」
小梅「幸子ちゃんって……やっぱりトップアイドルだね」
乃々「確かに幸子さんは超有名人ですけど……そこまででしたっけ?」
小梅「仕事の中には『誰でもいいけど3人揃っていないとダメ』ってものがあるの」
輝子「Pが急いで、プロダクションの中から、と、当日時間の空いてる子を探していたな」
乃々「あぁ……あれ、そういうことだったんですね」
乃々「妙に必死だなぁ、とは思いました」
小梅「基本的には、幸子ちゃんと同じギャラの層から選ばれるんだけど……」
小梅「でもね、幸子ちゃんと同じギャラの子って、全然いないんだよ?」
乃々「あぁ『ギャラの谷間』というやつですか?」
輝子「いや、高額過ぎて」
乃々「えっ」
小梅「それこそもう、NGとかCGから選ばないといけないくらいなんだって」
乃々「えっ」
乃々「ちょっと待ってください……え?!」
乃々「幸子さんって、そんなに凄いんですか!?」
輝子「やっぱり……みんな驚く」
小梅「私たちは同じユニット仲間だから、知ってるけどね」
そのころ――
【悲報】神奈川県男性(37)病気の幸子を探して道を飛び出し大けが(797)
さっちゃん病欠ワロタwwwwwwwwwwワロタ。。。(155)
幸子が病欠して1週間経つけど……(246)
【幸子】関係者「ギャラが見合わず代役がいない」【安い女じゃ無かった】(870)
幸子が病欠で俺の会社がマジで倒産寸前なんだがPart7(901)
ありす「『ふみふみの魅力が分からないやつは人生の9割損してる』……っと」カタカタ ッターン!
乃々「それで幸子さんの代役は、誰になったんですか?」
乃々「NGもCGも、今週は忙しそうにしていましたけど」
輝子「うん……み、みんなスケジュールが合わなかった」
小梅「でも、奇跡的に楓さんのオフと重なってたから、代わりに出演してもらったの」
乃々「……えっ、楓さん!? 幸子さんの代役に、楓さん!?」
乃々「楓さんって、うちのプロダクションでもトップレベルのギャラなんですけど?!」
小梅「そうだね」
小梅「実際には、幸子ちゃんのギャラの方が、ちょっぴり高かったみたい」
輝子「でも、ギャラに釣り合う子がもういないからって……Pも困ってた」
小梅「楓さんは『いつもよりギャラが出るならいくらでもキャラを作ります、フフ……』って喜んでたよね」
乃々「今すごい似てましたよ?」
小梅「やった」
輝子「おめでとう」
小梅「幸子ちゃんって、普通のアイドルの仕事よりも、芸人みたいな企画にすぐ使われるから……」
小梅「安いギャラでこき使われてる……ていうイメージが強いけど」
小梅「実は、幸子ちゃんだけは高いギャラが支払われているんだって」
輝子「Pから聞いた、フヒ……」
乃々「え~……」
乃々「普通そういう企画って、低予算で組めるからですよね?」
乃々「わざわざ高いギャラを支払って、幸子さんを出演させる理由なんて、あるんですか?」
輝子「それが……あ、あるんだってさ」
小梅「Pさんから聞いた話だけど……」
小梅「幸子ちゃんが出演する番組は、絶対に数字が取れるんだって」
乃々「それはすごい」
小梅「どんなつまらない企画でも、幸子ちゃんがいればそこそこ成功するらしいよ?」
輝子「『数字を取る女』は、スタッフみんなのアイドル……フヒヒ」
乃々「そうだったんですね……それなら、納得しました」
乃々「幸子さんがいなくなったことでみんなの笑顔が減り、結果として日本経済が低下した、という『幸子問題』……」
乃々「ワイドショーは連日その話題で盛り上がっていますけど……」
乃々「あれは事実だったんですね?」
小梅「そうだよ」
輝子「みんな、知らなかったのか……」
乃々「さも当然のように知っているお2人もすごい」
美玲「なんだ、全員集まってるな」
乃々「おはようございます」
輝子「フヒ、おはよう」
小梅「おはよう」
美玲「ん、おはよう」
輝子「幸子、どうだった?」
美玲「ようやく食欲が戻ってきたみたいだな。大体食べてくれるようになったよ」
小梅「でも、前よりもずっと食べてないんだよね?」
美玲「全然な……」
美玲「そういえば乃々、オマエはお見舞いに行ったか?」
乃々「え……あ、まだ……」
輝子「乃々はここ1週間、忙しかったからな」
美玲「早めにアイツのもとに行ってやってくれないか?」
美玲「いつ何が起こるか、分からない状態だからさ」
乃々「それじゃ、トレーニングの後に、行きます」
美玲「頼んだぞー」
女子寮・幸子の部屋の前――
乃々(この扉の向こうに、幸子さんがいるんですよね……)
乃々(でも、誰が来ても、返事もなく、扉が開くこともない……)
乃々(いまさら私が来たところで、何かできるわけでも……)
乃々(……)
乃々(ここで考えても、仕方ないですよね)
乃々(とにかく私は、自分の責務を果たしましょう)
乃々「……」コンコン
乃々「幸子さん……森久保です」
乃々「最近忙しかったので……お見舞い、遅れてゴメンなさい……」
乃々「みなさん、とても心配しています……」
乃々「私も、心配していますから」
乃々「……」
乃々「あの、本当に心配してますから……」
乃々「……」
乃々「本当に心配してるんですけど……」
乃々「……」
乃々「あの……」
乃々「私、ずっと考えていたんですけど……やっぱり分からないんです」
乃々「幸子さんはどうして、私のために泣いたんでしょうか……?」
乃々「私たち5人は、よく一緒にいますけれど……」
乃々「私と幸子さんって、特に絡んだ記憶が無いんですよ……」
乃々「これがたとえば、輝子さんと小梅さんなら、よく分かるんです」
乃々「辞めると言い出す輝子さんと、それが原因で泣いてしまう小梅さん……」
乃々「これは凄く分かりますし、実際に起こりそうです」
乃々「でも……どうして私なんですか?」
乃々「私はまだ幸子さんに、何も立派なことはしてきていませんよ?」
乃々「……」
乃々「変なこと言って、ゴメンなさい……」
乃々「……」
乃々「また会いに来まs――」
乃々(適当な挨拶をかわし、立ち去ろうとする私の目の前に――幸子さんが現れました)
乃々(その少女は紛れもなく、幸子さんでした)
乃々(絹と思われる、高級そうなネグリジェっぽいパジャマを着ています)
乃々(その顔は少しやつれ、目の周りは真っ赤になっていました)
乃々(あれから1週間経つのに……まだ泣いていたんですね……)
乃々(でも彼女は、突然扉を開けただけで、そのまま何もしてきません)
乃々「あの……その、えっとですね……」
乃々(しびれを切らした私が口を開いた瞬間、1週間ぶりの幸子さんの言葉が聞こえてきました)
幸子「明日はオフですか?」
乃々「え、あ、はい……一応……」
乃々(本当はトレーニングの予定が入っていましたが、私は咄嗟にウソをつきました)
乃々(ここで彼女と離れたら、もう二度と会えないような気がしたから……)
幸子「……出掛けましょう」
乃々「出掛けるって、どこに?」
幸子「ボクについてきてください」
乃々「えっと、いつ?」
幸子「今からです」
乃々「今から!?」
幸子「着替えますので、そのまま待ってください」
乃々(簡単な用件だけ伝えると、彼女はそのまま扉を閉めてしまった)
乃々(幸子さん……私をどこへ連れて行くつもりなのでしょうか?)
乃々(簡単な変装をした私たちは、そのまま電車に乗り込みました)
乃々(行き先を告げられもせず、ただ着いていくだけというのも、なかなか大変なものです)
乃々(私と幸子さんはその間、ほとんど会話をかわしませんでした)
乃々(それは話しかけても、返事がなかったからです)
乃々(何度も電車を乗り継ぎ、ようやく駅を出た時、出発から2時間も経っていました)
某遊園地跡前――
乃々「ここは――」
乃々(少し前につぶれた、遊園地じゃないですか)
乃々(というかここ、知っていますよ……すごく嫌な思い出しかないんですけど……)
幸子「入りますよ」
乃々「え? でもここ、鎖で封鎖さr――」
幸子「……」パキンッ
乃々(蹴りでちぎった!?)
幸子「行きましょう」トコトコ
乃々「……ま、待ってほしいんですけど……」アワワ
乃々(動かなくなった数々のアトラクションには目もくれず、私たちは歩き続けました)
乃々(そして、廃遊園地のおよそ中央に位置するステージまで到着したところで、幸子さんの足はそのステージそばまで向かいました)
乃々(これ……本当に行くんですか?)
乃々(ここのステージって、私の人生最大のトラウマスポットなんですけど……?!)ガーン
幸子「……」
乃々(ああ……到着してしまいました……)ガクガク
幸子「……」
乃々(私の受難に満ちた人生が確定した、あのステージが目の前に……!)ガクガク
幸子「……」
幸子「このステージではいつも、いろんなイベントが開催されていました……」
幸子「特に『こどものダンスステージ』というのが、ボクのお気に入りでした」
幸子「毎回どこかの子が、練習してきたダンスを披露するという企画なんですが……ご存知ですよね?」
乃々「えぇ……よく知っていますよ」
乃々(それが私の、人生で最初の、アイドルのお仕事でしたからね――!!)
乃々(『少しだけだから代わりに出演してほしい』――)
乃々(軽い頼みだと思って、しぶしぶ引き受けたそれが、まさかあんな大勢の前で披露するものとは……!)
乃々(あんなウソまでついて、どうしても私をステージの上にあげたかったようです)
幸子「ここに出演する子供たちは、一般人からプロ志望まで、それこそ色んな人たちがいました」
幸子「ボクはそんな、様々な出会いを楽しめる、このステージが大好きだったんです」
幸子「そんなこの場所でボクは、ボクの心から消えることのない――ボクだけのアイドルと出会ったんです」
幸子「見た瞬間から、素人の子だってことが分かりました」
幸子「全然ステージに慣れていませんでしたし、それどころか嫌がってさえいました」
幸子「『だまされた』とか『やめたい』とか『む~りぃ~』とか、色々泣き叫んでいましたよ」
幸子「でも、最後の最後で吹っ切れたらしく、ひきつった笑顔のまま踊っていました」
幸子「確かに、顔は涙と鼻水まみれだったし、心ここにあらずって感じでしたよ」
幸子「でも――ボクは彼女に釘づけでした」
幸子「あれだけ嫌がっていた割に、パフォーマンスはバッチリだったんですよ」
幸子「可愛いところで可愛く、格好いいところで格好よく、キメるところでキメて……」
幸子「ステージは自分の庭だ、と言わんばかりに、輝いていたんです」
幸子「そしてボクは『カワイイアイドル輿水幸子』になることを、誓いました」
幸子「その女の子が、ステージに上がった日に――」
乃々「女の子が、ステージに上がった日――」
――
――――
のの「うぅ……ぐす……」エグエグ
係員「はい、お疲れ様」
のの「よのなかがこわい……」
のの「もうだれもしんじられない……」
係員(闇深すぎィ!!)
??「あ、あの!!」
のの「え……あ、はい?」
??「ボク、あなたのダンスにかんどうしました!」
??「あくしゅ……おねがいします!」
のの「あ、はい……」アクシュ
??「ありがとうございます!!」アクシュ!!
係員「あ、乃々ちゃん。お母さんが呼んでるよ?」
のの「はい……わかりました……」トボトボ
??「あ、の、ののさん!!」
のの「ひえっ……はい、なんでしょうか?」ビクビク
??「ののさん、とってもかわいかったです!」
のの「いえ、わたしなんて、とてもかわいくは……」
??「いーえ! ぜったいにかわいかったです!!」
のの「でも、その……」
のの「そ……それでは、こうしましょう」
のの「わたしは『かわいい』のではなく『カワイイ』です」
??「? どういういみですか?」
のの「えっとですね……『とくべつ』ってことで、ここはひとつ――」
??「『とくべつなかわいい』ですね! きにいりました!」
??「ののさんは『カワイイ』アイドルなんですね!?」
のの「いやわたしはアイドルなんてガラではなくていやほんとごめんなさいかんべんしてください……」
係員「ホラ乃々ちゃん、お母さんがそこで呼んでるよ?」
のの「……あ、では、わたしはここで……」ソソクサ
??「あっ……」
のの「さ、サヨナラ!」ダッ
??「あの……ののさん!」
??「ののさん! ボクもなります! いまきめました!」
??「ボクもぜったい! カワイイアイドルになってみせます!」
??「だから、つぎにあったら! もっとおしゃべりしましょうね!!」
??「やくそくですよ!! ののさん!!」
――――
――
乃々(突如鮮明によみがえってきた、かつての記憶)
乃々(逃げるように立ち去る私の背後から聞こえてくる、少女の叫び声)
乃々(外ハネのカワイイ、小柄な女の子――)
幸子「ようやく……思い出して、くれましたか……?」
乃々(私は眼前の同僚に目を向けました)
乃々(目に一杯の涙を浮かべ、そこから何筋も涙を流し……それでも嬉しそうに、私を見つめている)
乃々(彼女の今と昔の面影がハッキリと重なった時――心臓の鼓動で胸が締め付けられるのを自覚しました)
乃々「ご、ごめんなさい……」
幸子「謝らなくていいです……覚えていないのが普通ですから……」
乃々(そうは言うものの、彼女は少し辛そうな表情を浮かべた)
乃々(今の今まで、まったく気付きませんでしたよ……)
乃々(まさか、私の苦し紛れの適当な言葉が、今をときめくトップアイドル・輿水幸子を産んだなんて……!)
幸子「こうして一緒にお仕事をするようになってからはずっと、ボクはあなたのことを見続けました」
乃々「失望、しましたよね? なんでも逃げてばっかりで……」
幸子「……いいえ、逃げても、良いと思います」
幸子「だってそれが、乃々さんですから」
幸子「でも……でも……」
幸子「『辞める』だけは……ぐすっ……言わな゛いでください゛……!」ポロポロ
幸子「それ゛だけは……!」ダキッ
乃々「ひゃっ」
幸子「ようやく会えたのに……一緒に、活動できるようになったのに……」
幸子「ボクの前から゛……ぐすっ……また、いな゛くなら゛ないでぐださい……!」グスグス
幸子「そばに゛……いさせでぐだざい……」ギュゥゥ
乃々「幸子さん……」
乃々(私と出会ってから、幸子さんは『カワイイアイドル』を目指すようになった……)
乃々(それはきっと、とても大変だったはずです)
乃々(なにしろ、その目標となる私はどこにもいない……)
乃々(周りに説明するのも難しいでしょうし、あまり同意してもらえなかったはずです)
乃々(きっと両親には応援されていたでしょうけれど……)
乃々(幸子さんはたった一人で、アイドルを目指してきた……!)
乃々(しかも幸子さんはまだ14才……壮絶だったはずです……!)
乃々(……確か、ここに来る前の幸子さんは、セルフプロデュースで活動していたって聞きました)
乃々(セルプロは、事務所からの支援を一切受けられない代わりに、自由に活動できるプロデュース方式……)
乃々(歌や踊りを学びながら、あちこちのイベントに参加し、地道にファンを集める……しかもたった1人で……)
乃々(幸子さんはそれを中学生……いえ、彼女の性格を考えれば、きっと小学生のころから活動していたはず……!)
乃々(子供には過酷なセルプロという道を選択した理由……)
乃々(それはきっと『私を探すため』――!)
乃々(……)
乃々(そうまでして私を追い求めていたんですね……)
乃々(幼いころに決意した、あの約束を守るために……)
乃々(……)
乃々(そんなの……離れられるわけないですよね……)
乃々「幸子さん」ギュ...
幸子「あっ……」ドキッ
乃々「その約束……私がしたわけじゃないですよね……?」
幸子「……はい」
乃々「幸子さんが自分で決めた約束ですよね……?」
幸子「……はい」グス
乃々「その約束のために、ずっとアイドル活動してきたんですよね……?」
幸子「……はい゛」グスッ
乃々「幸子さんにとって私は……何ですか?」
幸子「……」グスグス
幸子「……今は」
幸子「親友で……元は友達の友達で……同僚で……」
幸子「でも、ボクにとって乃々さんは、昔からずっと……」
幸子「ずっとずっと昔から! 乃々さんは! 乃々さんは……!」
幸子「ボクの……一番の憧れのアイドルです……!!」ギュッ!
乃々「……」
乃々「分かりました」
乃々「今……決めましたよ」
幸子「……」
乃々「私……辞めませんから」
幸子「……はい」グス
乃々「私のファン第一号が良いと言うまで、ですけど……」
乃々「私は辞めませんから」
幸子「……はい゛」エグエグ...
乃々「これからも、口では色々言いますけど……」
乃々「辞めませんから」
幸子「乃々……さん……!」ポロポロ
幸子「……ごめ゛……な゛……ざぃ……」
乃々「どうして幸子さんが謝るんですか?」
幸子「だっで……ボグの゛せいで……乃々゛さんが……!」グスグス
幸子「ボクの゛せいで……辞゛められなぐな゛ってるがら……!」
幸子「ボクは……ボクは、乃々さん゛を苦しめ゛だいワケじゃ……!」ポロポロ
乃々「いいんです」ギュッ
幸子「う゛ぅぅ゛ぅ……!」
乃々「私は、これだけ私のことを想ってくれるファンがいることを知りました」
乃々「……すごいですよね」
乃々「たったそれだけで……あんなにイヤだったこの業界で、頑張っていこうって思えるんです……」
乃々「あの私がですよ?」
乃々「……きっと幸子さんも……同じなんですよね?」
幸子「はい゛……はい……!」ボロボロ
乃々「幸子さん……私、頑張ります……」
乃々「あなたがいれば頑張れます……」
乃々「だから幸子さんも、頑張ってください」
乃々「……私のためにも、カワイイアイドルでいてください……!」ギュ
幸子「はい゛……分がり゛まじだ……!」
幸子「ボクも……ボクも、がんばり゛まず……!」グズッ
乃々「ありがとう……ございます……」グスッ
乃々(辛い思い出のステージで、私たちは抱き合って、ずっと泣き続けました……)
乃々(それはまるで、これまでの辛い記憶を洗い流すかのように……)
乃々(泣いて、泣いて、泣き疲れて……)
乃々(お互いのひどい顔を見て、思わず笑って……)
乃々(希望に満ちたステージで、私たちは抱き合いました……)
――――
――
乃々(あれから1週間が経ちましたね……)
乃々(幸子さんが現場に戻ったおかげで、日本経済の冷え込みは解消しました)
乃々(そういえば『幸子問題』の文字も、ワイドショーから見なくなりましたね)
乃々(この一件以来、業界の人間は――いえ日本国民は――幸子さんが日本に与える影響とその恐怖を理解しました)
乃々(話によると、無茶な企画をさせられることがずいぶん減ったらしいですよ)
乃々(まぁ、うちのプロデューサーは相変わらずだったそうですが……)
乃々(そして今――)
乃々(私は大黒柱にしがみついています)
P「えぇい!! 早くその手を離せ乃々!!」ググググ...!
乃々「いーやーでーすー!!」ググググ...!
幸子「今度はどんなお仕事なんですか?」
美玲「乃々単独で保険会社のCM撮影」
小梅「すごい」
輝子「佇んでいれば……お嬢様だから」
幸子「じゃあ特にセリフはないんですね? それのどこがイヤなんですか?」
美玲「衣装が白のワンピース1枚だけ(文字通り)なんだ」
幸子「それ逆にイメージダウンになりますよね!?」
美玲「『透き通るほど清純な美少女』というイメージのために背後から、これでもかと言わんばかりの数のスポットライトを浴びるらしい」
小梅「す、透けちゃう……!」
幸子「それお茶の間に流しちゃダメなヤツですよね!?」
美玲「まぁ、流して大丈夫かどうかは――」チラッ
P「早く行くぞ森久保ォ!!」ググググ...!!
乃々「むーりーでーすー!!」ググググ...!!
美玲「乃々の抵抗次第だな」
輝子「頑張れ……乃々……!」
小梅「日本のレーティングを守るために……!」
幸子「誰も手助けしないんですね」
そのころ――
【大悲報】神奈川県男性(37)復帰の幸子を探して道を飛び出し大けが(797)
【ID腹筋】復帰直後の幸子に腹パンしようとしたやつはちょっと来いPart26(188)
【祝】急に日本経済が明るくなった理由wwwwwwwwwww【幸子復帰】Part3(90)
【朗報】サチコノミクスキタ━━━━ヽ(゚∀゚ )ノ━━━━!!!!【日本大勝利】Part4(411)
幸子が治ったことでうちの会社が大黒字になったったwwwwwPart39(762)
ありす「『だから私は橘ありすじゃありません!あとありすって呼ばないでください!』」カタカタッターン!
美玲「なあP、乃々もさ、もうちょっと声静かにしてくれない?」
美玲「雑誌読みたいのに気が散るんだけど」
P「それは乃々に言ってくれ!!」ググググ...!!!
乃々「Pさんに丸投げします!!」ググググ...!!!
美玲「どっちでもいいから静かにしてくれよッ!」
P乃々「「むーりぃー!!!!」」ググググ...!!!!
美玲「あーもうッ!! うるさいなぁッ!!」
輝子「Pが先に手を離すのに、エリンギ定食1つ」
小梅「それじゃ、乃々ちゃんが先に手を離すのに、結婚1つ」
輝子「えっ」
小梅「私が旦那様だから」
輝子「えっ」
幸子「まったく……仕方ありませんね」フゥ
幸子「Pさん、今良いですか?」
P「後でいいなら後にしてくれ!」
幸子「Pさんを敏腕プロデューサーと見込んで、提案があります」
幸子「乃々さんのそのCMのお仕事、ボクも混ぜてもらえませんか?」
P「……何だって?」
幸子「キャストをボクと乃々さんの2人にするんです」
幸子「清純な美少女がテーマですよね? セリフなしなら、ボクもイケますよ!」
P「しかし、契約料の都合でお前は候補から外れたんだぞ? そこはどうするんだ?」
幸子「……このままじゃ乃々さん、てこでも動きませんよね?」
P「そうなんだよ。こいつの筋力が、日に日に増している気がするぞ……」
幸子「てこでは動きませんが、ボクでなら動きます。ついでにボクも出演する流れになると思いますが……」
幸子「ボクのことは、迷惑料扱いにでもしてください」
P「……それを通用させろと? しかも俺に?」
幸子「たったそれだけで違約金を回避できるなら、安いものですよね?」
P「……」
P「5分で話をつける」スタスタ
幸子「乃々さん、もう手を離していいですよ?」
乃々「あ、ありがとうございます……!」
輝子「私の勝ち……フヒ」
小梅「残念……それじゃ、私が星小梅かぁ……」
輝子「えっ」
小梅「私が掛け金をレイズしたんだから、当然だよね?」
輝子「えっ」
小梅「子供は3人は欲しい、かな///」
輝子「えっ」
美玲「急な出費はつらいんだけどぁ……」ペラ...
輝子「えっ」
乃々「ごめんなさい……幸子さんをタダ働きさせることになるなんて……」
幸子「本当ですよ! ボクはそんな安い女じゃないんですから!」プンスカ
幸子「罰として、カメラの前でボクに最高の笑顔を見せてもらいますからね!」
乃々「それは……お安い御用です」
幸子「……はい。これで契約成立です」
幸子「それでは準備してください、Pさんが来たらすぐに出発ですよ!」
乃々「は、はいぃ!」タッタッタ...!
幸子「まったく……困った先輩ですね」フフ...
輝子「……ん?」
輝子「なぁ、幸子の方が先輩……だよな?」
小梅「え? うん、そうだよ」
小梅「入社したタイミングも、アイドル歴も、どれも幸子ちゃんが上のはずだよ」
輝子「なのにどうして……さ、幸子は乃々を『先輩』だなんて、呼んだんだ……?」
美玲「皮肉だろどうせ」ペラリ
輝子「うーん……?」
小梅「それより私、着たいウェディングドレスがあるの」
小梅「少し前に蘭子ちゃんが、ファッションショーで着てたんだけど……」
輝子「アッハイ」
乃々(相も変わらず、私はネガティブアイドルとして頑張ってます)
乃々(でも、心の中はずっと清々しいです)
乃々(世界中で誰よりも心強いファンが、私のそばにいますから――)
終わり
ギャグなしは久し振りすぎです
以上です、ありがとうございました
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