俺は男、なーんにもやることないし、外は暑いからエアコンガンガンにきかせた部屋でゴロゴロしていた。
男「ああ幸せだ、俺もう死んでもいい」
?「幸せなのに死ぬってなんか変だよ」
男「!?」ガバッ
男「なんだ……気のせいか」
?「気のせいじゃないよ」
ガガガガガガガ
男「え、エアコンから異音が」
にょろにょろにょろにょろ
男「ぎゃあああああああああ!?」
?「いやぁどうもどうも」
男「ななななんだおまえ!?」
神「我は神」
男「神?なんだ夢か」
神「現実だよ。ところでさぁお茶とか出ないの」
男「待て待て待て神ってなんだそんなに早く受け入れられねぇよ」
神「コーラでもいいからさぁ」
男「図々しいわ」
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カラーン
神「ぬるい水だなぁ」
男「うるせーな」
神「ていうかこの部屋寒いよ。冷房の温度もう少し上げてよ」
男「やだよ」
神「設定温度は26度以上が理想だよ」
男「知らんわ」
神「じゃあいいよそこのうちわ使うから」パシッ
男「うおっ!?遠くのうちわが勝手に動いた!?」
神「このくらい誰にでもできるよ神なら」
男「だから神ってなんだよおまえただのガキじゃねーか」
神「ガキと神って似てるじゃん」
男「イントネーションが違うだろ。つーか神でもガキでもなんでもいいけど人ん家に勝手に入るなよ、出てけ」
神「お?いいの?神にそんな口きいて、ただで済むと思わない方がいいよ」
男「なんだ強気になりやがって、出てかねぇなら警察呼ぶぞ!」
神「そういうのはさ、やめよう?」
男「一転して弱気だな」
神「めんどくさいじゃん」
男「で?なんなんだよおまえ、何しに来たんだよ」
神「んーまぁ一言でいえばひまつぶしー」
男「ふざけてんのか」ピポパ
神「オーケイわかった110番はやめよう」
男「次にふざけたこと言ったら即、通話ボタン押すからな」
神「よ、要件を言えばいいんでしょ、分かったよ」
神「うーん要件というかね、君に提案があってね」
男「提案?」
神「君いま退屈してるよね?」
男「いや変なやつの相手させられてぜんぜん退屈じゃない」
神「……まぁ、イエスってことで話を進めるけど」
男「さっさと本題に入れって」
神「能力あげるから戦っておいでよ」
男「……」
男「マジか」
神「おっ、興味ある?」
男「いや逆、ドン引きしてる」
神「なんで?なんで?」
男「いきなり神とかいうワケ分からんガキが来て能力とか言い出したら普通引くわ」
神「そうでもないよ」
男「とりあえずあれだな、警察と一緒に救急車も呼んだ方がいいな」ピピポ
神「ストップストップ」
神「なに?君は退屈じゃないの?」
男「退屈は退屈だけどガキの遊びに付き合ってる暇はないって」
神「ああ、もしかして信じてない?」
男「さっきからそう言ってるだろ」
神「君にはもう二つも、人ならざる力を見せたんだけどね」
男「……!」
男「エアコンから出てきたのと……」
神「そう、このコップの氷を一瞬で溶かしたことだよ」
男「うちわを触れずに動かしたことじゃねーのかよ!!?」
神「ああごめんそんなの普通すぎて数に入れてなかった」
男「つうか氷なんて気付かねぇわ!」
神「でもさ、君も『そういうこと』ができたらなぁ、って思わない?」
男「エアコンの吹出口から出てみたいと思ったことなんて一度もねぇし、これからもたぶんねぇな」
神「そっかー」
神「じゃあ君がもっと興味を惹かれるような力を見せてあげるよ」キョロキョロ
男「?」
神「…まぁこれでいいや…えーと……ここにティッシュ箱があるね」
神「これを……」ピタッ
ボッ!!!
男「あああ!?」
神「どう?一瞬で燃やしたよ。こんなこと普通できないし、できるようになったら便利でしょ」
男「バッカいいから早く消せよ!家燃やす気か!!!」
神「コップの水ばしゃー」バシャッ
男「そこは火を消す能力用意しとけや!!!!」
神「こういうのもあるよ……『木を腐らせる能力』」シュウウウ
男「あああああ床が!!!床材が腐る!!!!!やめろバカ!!!!!!!」
神「どう?まだ信じない?」
男「このまま好き勝手やらせたら家がなりそうだから信じる…」グッタリ
神「じゃあ話を進めるよ。でね、君に今みたいな能力をあげようと思うんだ」
男「ああ、そう…で?おいくら万円?」
神「……?」
男「おめーがちょっとすげぇ奴なのは分かったよ。種は分からんがそういうので俺みたいなのを騙して金を取ろうってんだろ」
男「いくら出せば帰ってくれる?いま財布の中5000円しかねーけどよ」
神「何を言ってるかさっぱり…お金なんていらないよ。ただであげるよ」
男「そんなわけねーだろ」
神「まぁ『ただ』ではないかな。条件がひとつあるんだよ」
男「条件ん?」
神「言ったじゃん。能力を使って戦えって」
男「戦うって何とだよ」
神「他の能力者たちと」
男「…………んん?」
男「他っておまえ……俺以外の人たちにもこういうことやってんのか??」
神「そうだよ。君で8人目」
男「ほかの7人はおまえの話をすんなり聞いたのかよ」
神「うーんここに来るまで3時間くらいかかったかな」
男「1人30分かかってないのか…意外とみんな飲み込み早ぇな」
神「使いたい能力がある人はすぐに受け入れてくれたし、そうでない人も結構軽いノリで受けてくれたよ」
男「へーそう……」
男「使いたい能力……そうだよ、おまえがくれるっていうその能力ってどんなのだ?選ばせてくれるのか?」
神「うん、選ばせてあげるよ」
男「じゃあうちわを手元に持ってきたあの能力をくれ!あれ便利そうだし」
神「ダメだよ」
男「は?選ばせてくれるんじゃないのかよ」
神「我の使う能力は君には渡せないんだ。いま渡せるのは……」
神「この3種類の能力のうちひとつだけ」スッ
男「なんだよそのカード、ババ抜きみたいに1枚引けってのか」
神「そういうこと……カードを引いた瞬間から、そこに書かれた能力が君のものになるよ」
男「見せろよ」
神「えー」
男「引いたのがババだったらどーすんだ!!内容教えろ!!」
神「なに言ってんの?見ずに引くんだから知ってても知らなくても一緒じゃん」
男「つーかカード表向きで選ばせろや!!」
神「それはつまんないからだめ。まぁ安心して、君がいうところのババのカードはないから…」
神「どれを引いても、ハズレではないはずだよ」
男「……」ムムム
男「待てよ?ハズレの能力がないにしてもだ……」
男「デメリットはあるんじゃないか?なんのリスクもなく使えるなんてありえるか?」
神「慎重だね。でもまぁ気になるよね」
神「その答えは……あるとも言えるし、ないとも言える。使い方次第だよ」
神「さっき使ってみせた『発火』の能力だって、家を燃やしちゃう危険性があるでしょ」
男「ああ…そりゃそうだ」
神「それとも単純に、能力そのものが持つ弱点とか欠点とかそういう特性のことなら」
神「例えばうちわを持ってきた『念動』には『能力を使わなくても届く範囲のものは動かせない』っていうのがあるよ」
男「ふーん……じゃあその3枚のカードの中には、そういうのがあるのか?」
神「まぁ……」チラッ
男「あるのか!?」
神「全部にあるわけじゃないよ」
男「あるんだな!?」
神「そんなに神経質になるような弱点ではないけどね」
男「……」ムムムムム
神「どうすんの?早くしないと30分経っちゃうよ」
男「別におまえが今まで訪ねた奴らと比べる必要はねぇだろが」
神「比べる必要はないね。能力を手にしたら『競う』ことにはなるけど」
男「……そうだ、戦うってのはどういうことだ!?」
神「言葉のとおりだよ」
男「重要な部分だろ、はっきり説明しろよ!」
神「うるさいなぁ、能力を使って、どちらかが倒れるまで戦えばいいんだよ」
男「なんでそんなことする必要があんだよ」
神「なんで?なんでって」
神「最初に言ったじゃん、ひまつぶし」
男「…ひまつぶしだとぉ?」
神「君も暇なんでしょ。だったらいいじゃん」
男「戦うとか倒すとか物騒なんだよ、平和な日本でそんなことできるか」
神「うーん。でも、もしも勝ったら…」
男「……豪華賞品でももらえんのか?」
神「何かいいことあるかもよ」
男「いいことってなんだよ、ざっくりしすぎだろ。そんなんでその気になると思ってんのか?バカじゃねーの」
神「……そこまで言うならもういいよ、別の人んとこ行くから」
男「まぁ待てよ」ガシッ
神「……」
男「引かないとは言ってねーよ、そのカード」
男「おまえの言うとおり、俺は暇で暇でしょうがない。だからおまえのひまつぶしに付き合ってやってもいいぞ」
神「本当にいいんだね?」
男「……いや待てよ……やっぱやめといたほうがいいのか???」
神「君ってすごくめんどくさい人だね……」
5分後
男「決めた!引く!」
神「あ、そう…」
男「さぁ引かせろ!いま引かせろ!」セカセカ
神「落ち着いて、最後にちょっとだけ確認があるよ」
男「なんだよ!スパッと引かせろよ!」
神「さんざん質問してグダグダ悩んでたのは君じゃない……まぁいいや、とにかく確認」
神「カードを引いた瞬間、そこに書かれた能力が君のものになる。さっき言ったよね」
神「それと同時にバトルスタート。24時間いつでもどこでも、出会った能力者とは戦うことになるよ」
神「それと…能力は本気で使おうとしないと発動しないよ」
男「わかったわかった」
神「じゃあ1枚選んでね。2枚3枚同時に引いても、君のものになるのはどれかひとつだけだよ」
男「これだっ」ピッ
神「うそぉ。あれだけ悩んで引くの一瞬だね」
男「俺は昔から、三択で悩んだときは真ん中選ぶようにしてんだよ」クルッ
男「…これが……能力…?」
神「じゃ、頑張ってね」スウッ
男「あ、おい!待て!」
神「バイバーイ」シュンッ
男「消えた……」ポロッ
パサッ
カードに書かれた能力『>>13』
あらゆるものに変身できる
男「……」
『あらゆるものに変身できる能力』
男「へ、変身って……」
男「しかもあらゆるものって……マジであらゆる……あらゆるなのか???」
男「俺好みの美少女に変身できるってことか??全人類の夢だろそれは」
男「いかん興奮してきた…これはひょっとしたら最強能力なのでは???」
男「もう戦う必要なんてねーじゃん!これで俺の人生180度ハッピーターン…」
ヴーッ ヴーッ
男「電話ぁ?誰だよこんなときに…」
男「もしもし?」
神『もしもし我だよ、神だよ』
男「おまっ……!なんで俺の番号知ってんだ!?」
神『まー神だしね。それくらいはね』
男「つーかいきなり消えるんじゃねーよ!この能力!ほんとにあらゆるものになれるんだろーな!」
神『それは自分で確認してもらって……それよりわざわざ電話したのはね』
神『もし1週間誰とも戦わなかったら……君に与えた能力と、能力の使用によってもたらされたすべての利益を没収するよ』
神『もちろんこれはプラスだった状態をゼロにしただけ。我との約束を守らなかった罰としては』
神『君に死ぬほどの苦痛を味わってもらうよ。これでマイナス。分かったかな』
男「……おまえ俺のことどっかから見てるのか?」
神『まぁね。そのときになったらテレパシーで宣告だけはしてあげる』
神『それじゃ』プツッ
男「切れた…」
男「うおおしっかり釘を刺された……たっ戦うのか……1週間以内に……」
男「とりあえず理想の美少女になってみるか…うん、それしかねーわ」
男「…そもそも理想の美少女ってな…俺の理想ってどんなだろう」
男「うーむ……」ゴロゴロ
男「なんか喋りすぎて喉乾いてきたな…あいつじゃないけどコーラ飲みたい…コンビニ行くか」
ガチャッ
神(おや、もう家から出てきたね)
神(能力を試さずに家から出るなんて…不用心だよ)
神(気づいてないのかな?我が3時間で訪れた家は)
神(……『訪れることができた範囲』は、そんなに広くないってことに)
近所のコンビニ
店員「らっしゃせー」
男「コーラコーラ……」
男「あった。よし」ガチャッ
男(?……なんだこの棚…ミネラルウォーターの類がほとんど売ってねーぞ…そんなに人気なのか?)
男「まぁ暑いしな」スタスタ
レジ前
男「……そういえば、ポイントカードどこだっけ……?」ゴソゴソ
?「これください」ドサァ!
男(なんだぁ?いま俺が並んでたの湧かんねーのかよ!)
男「なぁちょっと…」
男「!」
?「……なに?」
男「あ…いや……」
男(うおおおおおおおおものすっげぇ美少女じゃねぇか!!)
男(高校生か?このへんの?こんな可愛い子がいるなんて知らなかったぞ!)
男(もしかしてこれか!?俺の理想の美少女ってこれか!?この子を目に焼き付けておけばいいのか!?)
男「……」マジマジ
?「あの……なんですか」
男「え!あーイヤ!なんでもな……」チラッ
男「……そのカゴに入ってるの、全部ミネラルウォーター?」
?「!」
男「20本はあるように見えるけど」
?「……なにか問題があるかしら」ジロッ
男「…問題…はないけど、持って帰るの大変そうだなぁ、と…」
男(なんだよ可愛いけど妙に迫力あって怖いな!最近の高校生ってみんなこうなのかぁ?)
?「……そうね、たしかに……そこまで考えてなかった」
店員「お会計2990円になります」
男(店員もなんか気ぃきかせてやればいいのにな)
?「はい3000円……」
店員「10円のお返しとレシートです」
男(ん!?待てよ!?俺が持って行ってやればいいのでは!?)
店員「ありがとうございましたー」
男「はっ!」
?「……」スタスタ
男「あっ待っ……」
?「外で待ってるわ」ボソッ
男「えっあっ、おっ……えっ???」
ありがとうございましたー
男「なんだぁ?さっき……『外で待ってる』って言ったか?俺に?」
ウイーン……
男「自意識過剰か?気のせいだよなぁ」スッ
?「……」ジッ
男「ぇあぐっ!?」ビクッ
?「さっきは助言をありがとう」
男「え?助言って……」
?「これ、どうやって持って帰ろうか考えてなかったから」
男「あー……どうすんの?結局」
?「こうするわ」パキョッ
男「飲んで減らす気?まさかな…」
バシャバシャッ
男「……」
男(もったいねーーーーてか最近のJKの言動理解不能すぎ!見た目はマトモなのに中身ちょっとしたエイリアンだわこれ)
?「ただ捨ててるだけに見える?」
男「へ?」
?「……」ドボドボ
ピキピキ…
男「!?」
?「……」ドボボ…
カキーンッ……
男(凍ってる……!?え、これってまさか…)
?「私の名前は女…あなたも能力者ね。水をどうやって持って帰るかは考える必要がなくなったわ」
女「今ここで、あなたを倒すのに使うから…」
男(家出て5分でバッタリ遭遇かよおおおお!??)
こんな感じでやっていきます
男以外のキャラの能力は、全部安価で決めてしまうとえらいことになりそうな気がするので、いくつかは自分で決めます
もちろん安価もまたそのうち出します…出ます…出るはずです
女「氷の……」パキパキパキ…
男(ペットボトルから出てる水が凍ってやがる……これはまるで……)
女「剣!」男(剣!)
ブンッ
男「危ねっ!!!」バッ
ウイーン……
男(……そうだよここコンビニの真ん前!こんなところで襲いかかってくるのかよ!?)
男(とりあえず逃げるしかねぇ!)ダッ
女「……能力者なら能力者らしく戦えばいいのに」パキャッ
女「逃げるなんて、よっぽど弱い能力なのね…」クルクル
女「氷の……」バシャッ
男「!冷たっ……」ビショビショ
女「網。逃さないわよ」
ピキピキ
男「え……え!?」
男「かかった水が凍ってっ……冷てってか痛ぇ!!!!」ピキピキ
男「ああああああ!!」ダッ
女「……500mlじゃ足りないか」
男「さ、寒い!…いや、この程度で済んでるのは気温が高いの真夏だからか!?」
男(あの子が持ってるのはたぶん『水を凍らせる能力』!それで大量の水を買ってたんだ)
男(逃げねぇと冷凍食品みたいになっちまう!)
男「しかし待てよ……」チラッ
女「……」ノロノロ
男(やっぱりそうだ、あんだけの水を抱えて走れるわけねぇ!)
男(このまま家に帰るか!?でももし見られたら、これからすげーめんどくせーことになるよな)
男(逃げるならもっと……よし!あそこだ!)
女「……」パキャッ
女「この大量のペットボトルを運ぶのに適したかたち……」ドボドボ
カキーン
女「たとえば『そり』。これひとつ作るのにボトル5本はもったいないけど」
女「多少でこぼこした道でも、氷は滑るから進んでいける。空になったボトルを取っ手にすれば手も冷たくないわ」
女「あの人が逃げた方向……あっちにあるのはたしか……」
女「……ふぅん、そういうこと」
男(ここだ。ここなら……たぶん大丈夫だ)
男(まさか俺みたいなのがこんなところに隠れるとは思わねぇだろ)
男(こんな……幼稚園にな!!!)
男(もちろん教員に見つかったらやべぇが……ギリギリ外だし、こんな茂みでじっと隠れてる分には問題ねぇだろ)
男(10分もすりゃあ諦めてるはず……余裕だ余裕…)
ガリガリ……
男(……?なんだ?何かを引きずる音?)
ガリガリガリガリ……
男「……」チラッ
女「……」ガリガリガリガリ
男(え!?いるじゃんすぐそこに!なんで分かったんだ?)
女「……私があなたなら、きっとここに逃げるわ」
女「だってここなら、もし私が攻撃してきても、『障害物』になるものが、たくさんある」
女「つまり園児たち……いくらなんでも子供を巻き込んで攻撃できるはずはない」
女「それにほら…私がかけた『網』が溶けて水になって、滴っているわ」
女「普通の人なら気にならないしそもそも気づかないかもしれないけど、はっきり言ってバレバレよ」
男(うおお…くそぉ…年下の女の子に考えを見透かされるこの屈辱よ!)
男(くっそどうする!?降参するか!?氷漬けは勘弁してほしいからなマジで)
男(……つーかなんで子供を巻き込めないって認めた上でそんな態度取れるんだよ!?)
女「出てこないの?出てこないなら……」
男(なら……?)
女「この幼稚園を凍らせる」
男(は!?)
女「本当のこと言うと、あなたがここにいるって100%言い切ることはできないのよね」
女「滴っていた水がこの周辺で途切れているのはフェイクかもしれない。溶けた氷はタオルで拭き取ってしまえばおしまいだし」
女「でも、もしあなたが、私は幼稚園児を巻き込んでまで攻撃することはないと思ってるのなら」
女「…その偏見、あまりいい感じじゃないわね」
男(こ、こいつやる気だ!本気のトーンだ!俺を引きずり出すための演技とはとても思えん!)
男(とんでもねーサイコJKに遭遇しちまったもんだぜ……)
男(こうなったらやるしかねぇか……ぶっつけ本番だが……)
男(『変身』で!あの子から逃げる!)
女「……ふぅん、出てこないのね。私にそんなことはできないと思ってるのか、本当にここにいないのか」
女「じゃあ、試しに……」パキャッ
ボタタタ
女「氷の槍」ピキィン!
女「これをあの窓に投げ込んでみようかしら。運が良ければ中の子供に当たるかもしれない」
男「悪ければ、だろ!!」バッ
女「!……やっぱりここにいた」
男「よく俺を見つけだしたな!でもあんまり大人をからかうもんじゃないぜ」
女「そんなに年、離れてないように見えるけど」
男「俺はもう20過ぎてんの!生意気盛りのJKとは大違いだ!」
女「むしろすごく子供っぽいように見えるけど」
男「とにかく!俺を引っ張りだしたからには覚悟したほうがいいぞ、俺の能力は超危険だからな!」
女「危険は…承知の上よ」ググッ
男「投げんのか!?その槍!」ビクッ
女「あなたの出方次第よね」
男(イメージだ!あらゆるものに変身できるってのが本当なら)
男(『小さいもの』になるのが今は一番いい!あの槍が当たらないほど小さく……!)
男(しかし具体的に……何になればいい!?)
男(!そうだ)
男「おい君!嫌いな虫って、いるか!」
女「……」ググッ
男「無視かよ!!!」
女「つまらないダジャレ。寒すぎて凍っちゃいそう」ググッ
男「待て!ダジャレじゃない!俺はそんなくだらないこと言わん!!!」
女「凍るのはあなただけで十分よ」ブンッ
男(うおお来た!やるしかねぇ!小さいもの、小さいものに……)
男「……変身!」バッ
男「……変身!」バッ
女「……!?」
がしゃーーーん
男「……変わってないじゃん」
女「……外しちゃったわ」
男「さてはノーコンか!ダサいな!ノーコンって分かるかJK!?No Controlな!」
女「いちいちうるさい人ね…」
男(変身できなかったぞ!『小さいもの』って漠然としすぎだったか!)
女「それにしてもあなた……なに?変身って、何も起きなかったけど」
女「なにかの合図?でもなさそうね」
女「それにしても私、たしかにノーコンね。よく考えたら槍投げなんてやったことないし……武器を変えるわ」
女「私の能力で凍らせた水は、少し時間をおけば能力を解除させて水に戻すことができる。それを再利用プラスあともう1本だけ水を開けて、もっと使いやすい氷にする」パキャッ
女「ガリガリ君って知ってるでしょ?私はあれ、硬くて苦手だからほとんど食べないんだけど」ドボドボ…
女「叩いて使うには向いてそうよね」カキーン
男「俺はガリガリ君大好きだよ、でもなぁ」
男「そりゃただの鈍器だろ!!」
女「はぁっ!」ブオンッ
男(小さいものは一旦やめだ、この距離だと的を小さくしても当たるかもしれない……硬いものが相手ならそれよりも硬いもの?いや……)
男「変身!」カッ
女「!!?消え…た…?」
ズシッ…
女「…アイスに何かがくっついてる……!?」
男(変身できた!これは……)
女「……おもち?」
男(咄嗟だからこれしか出てこなかったが、『柔らかいもの』…!!!! )
男(あの鈍器の衝撃を和らげた!)
女「こんなものをどこから…!それに本人はどこへ…」
男(気づいてないみたいだな!まさか俺が餅になるとは……というか初変身が食い物になるとは俺も思わんかった)
男(しかしまずいぞこれ……今こうして『思考』はできるが………)
男(俺の意思で動くことができない!手足のない餅だとこういう弱点があるのか!)
女「……さっきの『変身』の掛け声はただのハッタリだと思ったけど、今のでいきなり現れたこの餅…消えた本人……」
女「まさか餅になったの?」ガシッ
女「アイスから剥がれない…!」ビヨーーーン
男(柔軟性は間違いなく再現されてる!でも俺の意思じゃ動けねぇ!)
女「もういい!いらないわ!」ポイッ
男(うおっ!)ビターン
女「本当に餅になったというのなら、このまま水で凍らせておしまいよね」パキャッ
男(や、やばい!いけるか!もう一度変身!今度こそ…小さいものに…)
男(変身!)
ボンッ
女「……こ、これは」
女「餅がネズミに…!」
男(よし!走れ俺!)ダッ
ネズミ「ヂヂッ」よたよた……
女「……なにか動きが変だけど」
男(うおお……人間の体とは勝手が違う!四本脚で動くのって難しいぞ!落ち着けば進めそうだ)
男(……)ドクドクドクドクドク
男(ネズミの鼓動速すぎる!落ち着こうとすると余計気になるわ!)
男(そしてこれで俺の能力が『変身』だと、向こうに完璧に割れた…!とにかく離れないと)
女「かわいい」ヒョイッ
男(!?こっこいつ躊躇いなく捕まえやがった!)
男(離せっ!)
ネズミ「ヂーッ」ジタバタ
女「さっきの質問だけどね……私嫌いな虫って特にいないの。人以外の生き物はだいたい好きよ」
女「だからただのネズミをいじめるのは心が痛むけど、あなたは元人間だから抵抗がないわ」グッ
男(や、やめろぉおおおおおお!!)
男「変身……解除!」ボンッ
女「!人の姿に戻った……!?」
男(…いつでも元の姿に戻れるんだな!よし!)
男「ご自慢のガリガリ君使わせてもらうぞ!」ブン!!
女「乱暴ね…」バシャアッ
男「!」
女「能力を任意に解除できるのは私も同じよ…それはただの水に戻ったわ」
男「へっ……そうだ、それでいいんだよ」
女「…?」
男「今度はこれ使わせてもらうぜ」シャカシャカシャカ
女「なにを振って…」
男「俺の好物」パキャッ
女(…コーラ!?)
男「ぶっかけじゃー!!!」ブシュウウウウーーーッ
女「く…!?」
男「ちともったいねーけどな」ベリリッ
女「目に…入った…」ゴシゴシ
男「変身」ボンッ
女「う…」
女「いない……今度は何に変身したの?」
男(へっ、そう簡単には分かるまいよ)
女(今のは、私に何に変身したか分からなくするための目潰しだったのね……)
女「……」キョロキョロ
男(辺りになにか見慣れないものがないか探してるんだろ?そりゃあ意味ないぜ)
男(俺は君がよーく見慣れたものに変身したからな!)
女「…!」ピタッ
女「変だわ……このペットボトル、1本だけラベルが剥がされてる」
女「……わかったわ、あなたが変身したのは『水』ね!コーラで私に目潰しをして、空になったボトルのラベルを剥がし、すぐに水になって中に入った!」
女「そんなものにまでなれるなんてちょっと驚きだけど、そうと分かればこのまま……」
男(……!)
女「凍れ!」
パキィン!!!
女「……」
女「しまっ……た……」ピキピキ
男「コーラのボトルのラベルを剥がした、ってのは正解だ」
男「しかしよく見な、ラベルの剥がれたボトルは二つある!片方は君の言う通りコーラの入ってたボトル」
男「もう一本は、君が今持ってるペットボトル。それは君がコンビニでたくさん買ったうちのひとつ。これから武器として使う予定だったやつだ!それをひとつ開けてラベルを剥がした」
男「そして俺が変身したのは、そのペットボトルのフタ!これなら今この周辺に、君が使い捨てたのがいくつも散らばってる。フタが一つ多く落ちてるのに気づくべきだったな」
女(フタ…!)
男「君はラベルの剥がれたボトルをひとつ見つけて、すぐにこれがコーラのボトルであること、中に入ってる水が俺の変身した姿であると予想した」
男「君は『俺が水になった』と勘違いをして、すぐに凍らせた。実際に俺が水になってたんならそれで終わってたが」
男「いま、君の全身には、ガリガリ君を解除したときの水がかかってる!1ℓ近くあるし、そんな状態で能力を使ったら自分も凍っちまうわけだ」
女『私の能力で凍らせた水は、少し時間をおけば能力を解除させて水に戻すことができる。』
男「少しの時間をおけば解除できるっつったよな…あと何秒だ?20秒か?10秒?」
女(早く解除を…)
男「そのあいだに残った新品のペットボトルを遠くにポイだ!」ポイポイポイッ
女「……!!」ブルブル
女「……」バシャッ
男「解除できたか……結構ギリギリだったな。これで氷漬けになる怖さがわかったかよ?」
女「…く…」ポタポタ
男「そんな険しい顔すんなよ」
男「水も滴る美少女が台無しだぞ」
女「ふぅ…くだらないわ」
男「しかし焦ったわー」
女「?」
男「もし君が冷静に、中身が入ったのと入ってないの、両方のラベルなしボトルを見つけてたら、俺が中の水に化けたって考えなかったかもしれないし」
男「あ、あと先に空のボトル……本物のコーラボトルのほうを見つけててもやばかったか?何に変身したのかあらためて調べてたはずだし、そうすればフタの数がひとつ多いのに気づいたかもしれない」
女「……それは、どういう意味?私にも勝ち目はあったって、慰めてるの?」
男「いや、こんなガバガバな策で切り抜けた自分を讃えてんだ」
女「はぁ…そう…言い訳するわけじゃないけど、せめてこの幼稚園の敷地内で戦っていたら」
女「いざとなったらプールの水でも使ったのに」
男(ペットボトル数本で手こずったのに、プールの水なんて使われてたら俺は今ごろ…)ゾッ
男「……そういえば、園児を巻き込んでやろうか、みたいに脅してたけど、あれは嘘だよな?」
女「嘘じゃないわ」キッパリ
男「……えっ?」
女「幼稚園全体を凍らせるっていうのはさすがに難しいし、なるべく避けたいとは思ってたけど」
女「そうせざるを得ない状況に追い込まれたら、そうしたわ」
男「じゃあ、氷の槍を窓に投げようとしたのもマジだったのか!?」
女「まぁ、もし投げても、ノーコンだし届かなかったかもしれないけど」
男「はーーーー……可愛い顔してとんだ冷血動物だなおまえ!」
女「……」
女「だって、勝ちたかったのよ。なんとしてでも」
男「……なんとしてでもって、なんでそこまで」
男「もしかしてあれか!?やっぱ景品貰えんのか!?」
女「……聞いてないの?」
男「なにが?」
女「この戦いで最後に勝ち残った人は、神にひとつだけ願いを叶えてもらえるの」
女「どんな願いであっても、ね」
男「願い……!?んなバカな…ドラゴンボールじゃねぇんだから」
女「そして、まだチャンスはある」
男「なに?」
女「……」ジッ
男「……なんだよ?」
女「私、あなたの言うことなんでも聞くから」
女「あなたはこの戦いに勝って、勝ち続けて」
女「私の願いをかわりに叶えて」
男「は……?」
女「……ください。お願いします」
男「いや、そんなこと言われても…」
女「あなたの能力はまだまだ多くの可能性を秘めてるわ。きっと戦いに関してあなたは私よりもはるかに秀でている」
男「そ、そうかぁ?」
女「それに、私を倒したことで、能力が強化されたはずよ」
男「強化?なんで??餅とネズミとペットボトルのフタに変身しただけなのに」
女「これも聞いてないのね。私たちは、能力者同士の戦いに勝つたびに、能力を強化してもらえるの」
女「正確に言うと、貰ったばかりの能力は性能を制限されていて、それを少しずつ解放してくって感じらしいわ。何回勝てば本来の性能に戻るのかは知らないけど」
男「ぜんっぜん聞いてねぇよ…ふざけんなよあいつ」
女「とにかく、お願い。私、この氷の能力であなたの武器になるわ。だから、私の代わりに願いを……」
男「うーーーん……っていうか」
男「肝心の、君の願いってのはいったいなんなんだ?」
女「……それは」
女の叶えたい願い『>>32』
地球温暖化を止める
女「私の願いは、地球温暖化を止めること」
男「地球温暖化!?」
男「そ、それはどういう…?」
女「聞いたことくらいあるでしょう。このまま温暖化が進んで地球の温度が上がっていくと」
女「異常気象や砂漠化、水不足に陥り」
女「さらに海面の上昇によって土地が水没してしまうのよ」
女「もちろんこの日本も……」
男「ま……」
男「真面目か!!?言葉通りの意味かよ!」
女「……今のはお兄ちゃんの受け売りよ」
男「お兄ちゃん?」
女「お兄ちゃんが口癖のように言ってたの。地球温暖化を止めなきゃ、って」
男「じゃあお兄ちゃんになんとかしてもらえよ」
女「無理よ、だってお兄ちゃん、もういないもの」
男「……!」
女「半年前、事故で…」
男「そ、そうか…」
男「……」
男「え?『お兄ちゃんを生き返らせてもらう』って願いはダメなのか?」
女「私も最初はそう思ったけど、でも神にダメって言われちゃったわ…」
女「生き返らせることができても、いろいろと辻褄が合わなくなって、とても面倒なことになるよ、って」
男「……」
女「お兄ちゃんは真面目で、情が深くて、正義感が強かった。私とは大違い…」
女「それでも意志は、私が継がなくちゃならないのよ」
男(こっ…)
男(断りづれぇわ!地球温暖化とかマジどうでもいいんだけど)
男(今の流れで断ったら俺すげー嫌なやつじゃん)
男(うーん……)
女「あなたは…?」
男「えっ」
女「あなたの願いは?」
男「俺の願い……?」
男「……そんなの聞かされてなかったからよ、何も考えてねぇな」
女「あなたにどうしても叶えたい願いがあるなら、それを優先させるべきだと思うわ…」
男「それはまずい!」
女「え?」
男「俺が俺の願いのために戦うとすると、君とはこれでお別れか!?」
女「そういうことになるけど…」
男「なんでも言うこと聞くってさっき言ったよな!な!!」
女「……ね、願いを叶えると約束してくれるなら」
男(こんな美少女を好きにできるなんて、それこそ一つの願いが叶ったようなもんだ)
男「…よしわかった、とりあえずその方向で行こう!」
女「とりあえず!?とりあえずって……途中で気が変わったりしたら……」
男「ん!?いや大丈夫だ!俺に願いはない!」
男「あるとしてもそれは……」
女「それは…?」
男「と、とにかく、約束する。君の『地球温暖化を止める』ってのが俺の願いだ」
男「ん?いや君の兄貴の願いか」
女「……ありがとう」
男「…じゃあさっそく…俺の言う事を聞いてもらおうかな…」
女「!」
女(なにをされるのかしら…)ドキドキ
男「なんでもだからなぁ…なんでも……そうだな……まずは……」
女「……」ゴクリ
男「ラ、ララ、ラインおせーて!!!」
女「…あ、うん……」
女(そんなことでいいんだ…)
ヴーッ ヴーッ
女「電話鳴ってるけど…」
男「ん?……あ、もしかして」
男「神か!」ピッ
神『ごめーとー。我だよ』
男「なんの用だ!いや用があるのはこっちだ!おまえいろいろ説明してないことがあるだろ!ふざけやがって!」
神『まーまーそう言わないでよ、我も同じ説明を7回も8回もするのめんどくさかったんだよ』
男「めんどくさかっただと!?怒るぞゴルァ!!」
神『あ、そうだ、さっき最後のひとりに能力を渡してきたよ』
男「……!」
神『でもそんなことはどうでもよくって……君、さっそくひとり倒したようだね。お見事』
神『ご褒美に能力を強化しておいたよ』
男「!もう変わってるのか!?」
神『アプデ内容は発話可能』
男「発話……?」
神『君は変身した姿でも人間の言葉を発することができるよ』
男「あ……そうかそういえばネズミになったときはチューチューとしか言えなかったな」
神『それじゃこの調子で頑張ってね』
女「ちょっと待って!」バッ
神『…ああ君か。負けちゃったね、残念』
女「たしかに私は負けたわ。けど能力はこのまま使えるのよね??」
神『うん、別に負けたからって能力を剥奪したりはしないよ。そんなすぐに取り上げたら可哀想だし』
女「この能力で彼を補助するのは?」
神『別にいいけど。変わってるね、もっと好きに使えばいいのに』
女「……」
神『他のところでも戦いが始まってるんだよ。そっち見に行きたいからもう切るね。バイバイ』
女「あ」
プツッ
男「き、聞きたいこと、なんにも聞けなかった……」
女「私が知ってる事はすべて話すわ。それより」
女「他のところで戦いが始まってるらしいわ。早くしないと勝ちを重ねる人が出てくるかもしれない」
女「そうなると能力も相当に強化されるはず……」
男「そういや能力者って全部で何人いるんだ?」
女「さぁ…それは聞いてないけど」
男「確か神は最初……」
神『君で8人目』
神『今渡せるのはこの3種類の能力のうちひとつだけ』
男「8人プラスカード2枚で10人か?」
男「それとも毎回カードを3種類だけ用意して、そこから選ばせてるのか?それなら人数は分からんな」
女「私のところに来たときは、カードを7枚持っていたわ」
男「3人目ってことか!」
女「たぶん。確認はしてないけど」
男「そうか…全部で10人だとして……俺が君を倒したから残りの敵は8人…」
男「まぁいいや。それよりまたひとつ、俺の言う事を聞いてくれるか」
女「!な、なに?」
男「能力を検証したい…発話以外にも、そもそも何ができて何ができないのか……」
男「あらゆるものに変身できるとは言っても、餅になった俺は俺の意思では動けなかったし、ネズミになったときは体の仕組みも完全にネズミですげー不便だった」
男「戦いの中で、やりたいことを100%こなせる姿をすぐにイメージするのも結構難しいしな」
女「なるほど…」
男「ちょっと付き合ってもらうぜ」
女「いいわ、少しでも勝つ確率を上げるためには必要なことね…」
男「あ、そうだ」
女「!…今度はなに?」
男「門限とかある?」
女「……もう夏休みだし、あんまり遅すぎなければ…」
男「よし分かった」
女「ちょうど、この幼稚園のすぐ近くに公園があるし、そこでやってみましょう」
男「ごめんその前にトイレ行ってきていいか?」
女「…イマイチ調子出ないわね」
………………
?「なんだ、ぜんぜん大したことないぞ」
「う、うぅ」ピクピク
?「本当にこれで願いが叶うんだろうな?」
神『一人倒しただけじゃ駄目だよ、君が最後まで勝ち残れたら、願いを叶えてあげる』
神『脱落者はこれで3人。残りは7人だよ』
?「余裕すぎるな…この『>>42』の能力があればまず負けることはない」
神『どうだろうね。まぁ頑張って』
神『あ、そうだ、ひとついいかな』
?「ん?」
神『たとえば君が能力者の半分以上を倒したとしても、一度でもやられてしまったら願いは叶えられないからね』
?「倒した数のトータルは関係なく、あくまで最後まで勝ち残ることが重要だと言うことだろ?分かっている」
神『ならいいんだ。無闇に戦わずに数が減るまで隠れてるのもアリだからね』
?「それじゃお前の暇つぶしにならないだろ?それに、一週間戦わなければ能力を剥奪すると言っていたじゃないか」
神『……我は方向性を示してるだけだよ。好きなようにやったらいいよ』
?「もちろん好きにやらせてもらうさ」
嫌なことがあってもわりと早く忘れる
女「検証お疲れさま…結構いろんなことが分かったわね」
男「ああ、この能力は……」
男「思った以上に不便だ!」
男「まぁいくつかは、敵を倒してアップデートしていくうちに解消されてくかもしれんが……」
男「不満点が多すぎる!」
女「……」
男「ところでさぁ聞きたいことが三つあんだけど」
女「なに?」
男「なんで俺が能力者だって分かったんだ?」
女「それも聞いてなかったの…」
女「能力者は……私もそうだけど、『お香みたいな』匂いがするの」
男「はい?」
女「 あなたとすれ違ったときにすぐ分かった」
男「なんでお香なんだ?」
女「お香そのものじゃないわ。私はいつもお兄ちゃんにお線香をあげてるから分かるの、よく似てるけど、まったく別の匂い」
男「なんでそんな匂いがするのか、原理は知らない」
男「ふーん、じゃあ君の匂いを覚えておけばいいわけだ」クンクン
女「!」
女(……まぁ、能力者を判別するのに必要なことだし)
男「……」クンクン
女「ちょ、ちょっと…そんなにしつこく嗅がなくても」
男「クンカクンカクンカクンカクンカクンカ…ああー現役JKのかほり、たまらんなぁ」
女(さっきまでマトモだったのに急に変態じみてきた…)
男「クンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクン」
女「通報していい?」
男「ごちそうさまでした!!!」
女「はぁ……それで、もうひとつの聞きたいことって言うのは?」
男「ああ…『敵を倒す』の条件ってなんなんだ?」
女「……!」
男「俺は君に傷一つつけてない。けど、君を倒したことになってる」
男「君は水を取り上げられたことで降参したが、 やろうと思えばまだ戦えたはずだよな。 それでも『倒した』ことになるのか?」
女「なっているから、今こういう状況なのよね。…これは私もわからないわ、神に聞いてみないと」
男「神、神!おいコラァ、出てこいや!」
女(この人、神にはやたらと当たりが強いような)
しーーーーん…
男「チッ、出てこないか…」
女「でも、『降参させる』が条件に入ってるのは間違いないでしょうね」
男「うん、そうだよな…」
男「そうすると降参の定義はどうなる?相手を油断させるために『参りました』っつってもアウトなのかな?」
女「さぁ…でもそんな汚い手使う……?」
女「最後のひとつは?」
男「……君のこと、なんで呼んだらいいんだ?」
女「え?」
女「……そういえばお互い自己紹介もしてなかったわね」
男「そりゃ君がいきなり仕掛けてきたからな」
女「私は女。〇〇高校に通ってる普通の高校生。昨日までは」
男「身長は?体重は?スリーサイズは?でも君あんまり発育いい感じじゃないよな。最初は中学生くらいかと…」
女「いま私があなたを殺してたらルール的にはどうなるのかしら?」
男「ごめんなさいやめてください」
男「……俺は男」
女「それだけ?」
男「俺のこと気になるのか?もしかして恋しちゃったかなこれは」
女「あなたのゲームはここで終わりよ」
男「ごめんウソ!ウソ!!!ごめんって!!!!」
男「じゃあ、今日は帰るよ。せっかくの日曜がこれで終わりだなんてお互いツイてないよな」
女「あなた……」
男「ん?」
女「……いえ、なんでも」
男「そっか。じゃあな気をつけて帰りなよベイビーちゃん」
女「は?」
男「……すいません」
翌日・朝
ヴーッ…ヴーッ…
男「ん……?うるせぇーな目覚ましなんてセットしてねぇぞ…」
男「あっ違う電話か!」ガバッ
男「もしもし?」
女『私だけど…』
男「ああ…なんか用かい?もしかしてモーニングコール?」
女『違うわよ。いま、通学途中なんだけど』
女『いるわ。能力者』
男「なにっ……!?」
女『匂いが離れないから、私に気付いて着いてきてるんだと思う。悟られたくないから振り向かないでいるけど』
男「攻撃されてないのか?」
女『されてない……周りに人がいるからかしら。でもこのまま見逃してくれるかどうか…』
男「勝負から降りたってことを伝えれば向こうも離れるんじゃないか?」
女『それはそうだけど、私がわざわざ電話した理由は』
女『こいつを倒してほしいってことよ。あなたに』
男「!」
女『今もどこかで誰かが戦ってるとしたら……あなたもうかうかしてられないでしょ』
男「なるほど……そりゃそうだ。〇〇高だったな!?近くでよかった」
男「すぐに行く!」ピッ
女「……」ピッ
?「用は済んだか?」
女「!」
?「あー隠さなくていい。お前が能力者なのはわかっている」
女「そうね。でも私はもう負けてるから…」
?「負けてる?」
?「ちっ。無駄骨だったか」
女「どうかしら。あなたと戦える人、別にいるけど」
?「ほう……?今の電話はそのためか…なら早くソイツを連れてこい」
女「直に来るわよ。それより聞いていいかしら」
?「なんだ?」
女「こんなふうに女子高生に付き纏うなんて傍から見たら相当怪しいと思うんだけど、そういうこと考えてないの?」
女「あなたたぶん会社員よね。それも結構優秀な…スーツも靴も時計も、そこらで見るような安物じゃないわ」
女「だけどスーツ姿でこんなところにいるなんておかしいわよね。仕事はどうしたの?まさか出勤途中に私を見つけて、ノコノコやってきたというの?」
女「だとしたらロクでもない大人ね。私と戦ってたらきっと負けてたでしょうし、そうしたら重体で無断欠勤は免れなかったわよ。そこだけはツイてるかもね」
?「……」ピクッ
?「……そうだな、いかにも私は普通の会社員だ。36歳にして課長。そこそこ優秀なんだぞ」
?「しかし君の攻撃……いや、『口撃』……実にいいな、センスがある。常人なら耐えられないだろう」
?「しかし私にとっては小鳥の囀りに等しい」
女「私は人よ。あなたバカなの?」
?「……囀りというのは、そのときは聞き入ってしまっても、あとでどうでもよくなってしまうものさ」
ヴーッ……ヴーッ……
男「また電話だ!もしもし!?」
女『あのね、さっきは来るように言ったけど、このリーマンは相手にする価値がなさそうよ』
男「リーマン?リーマンなのか??」
女『そうみたい。ロクでもない、大人のリーマン』
男「そうか……すまんでももう」ピッ
男「着いた!」
女「!」
リーマン「君が…」
男「てめぇ、その子に手を出すなよ」
リーマン「おいおい……何もしちゃいないさ。むしろ出されたのはこっちだ」
リーマン「手ではなく口をな」
女「今ので分かるようになんかめんどくさい喋り方するおっさんなの。早いところ倒しちゃって」
男「なんか今日はえらい冷めてるなー」
女「だって遅刻しちゃうわ」
男「いいよ行って」
女「でもせめて能力だけでも見ていきたいのよね」
男「もう好きにしなよ…」
リーマン「能力?能力か……フフ」
リーマン「すでにお嬢ちゃん……君には見せているのだがね」
女「……ということは直接攻撃ができる能力ではないわけか。こんなヒントくれるなんてあなた相当ウカツね」
女「会社で無能上司って陰口を言われてるんじゃないの」
リーマン「……」
男「お、おい…言いすぎじゃね?」
女「こういう回りくどい人、嫌いなのよ」
リーマン「なんのことかな」ズイッ
男「!」
リーマン「フリースタイルバトルを知っているかね?」
男「フリースタイル……?なんでもありってことか?」
リーマン「違うさ。フリースタイルバトル、別名MCバトル、またはラップバトル」
男「ラップ……!?あんたラッパーなのか?」
リーマン「いいや私はリーマンさ。ラップなんてまったく聞いたことない。君もだろう」
リーマン「だが、若い君ならこういう言葉は知ってるだろう?」
リーマン「『ディスる』!」
男「相手を貶すってことだろ」
リーマン「私が君としたい勝負はそれさ。『ディスり合い』だ。分かるかね?」
男「ディスり合い……だと……!?」
女「くだらないわね」
男「!」
女「そんな勝負して何になると言うの?そんなことしてる暇あったらゴミ拾いでもして社会の役に立ちなさいよ」
リーマン「……君はすでに負けているのだろう?ならばあっちに行け」
男「いや、確かにそうだ。あんたの言うディスり合いなんて微塵も興味ねぇ。能力があるなら、使ってみろや!」
リーマン「ほう……」
リーマン「怖いんだな?この私とディスり合いで勝負をするのが」
男「!?」
リーマン「まぁ無理もないか……最近の若者には逃げ腰な奴が多いんだ」
男「逃げ腰……?俺が……」
リーマン「いや!仕方のないことさ。強い意思を持てず、傷つきやすく、とても臆病なのは、君の年頃ではよくあることだが、それは決して悪いことじゃない。そういう選択肢もあるだろう」
男「……」
リーマン「だが人生は選択の連続だ。そんな弱気な者が、正解を引くのは難しい。私のように成功した人間はね、どんなときも逃げたりはしない…」
リーマン「どんなに高い壁が立っていても、振り返らない。悩み、苦労し、戦い抜いて、打ち破る!それが…」
女「長いわ!意味のわからない話をグチグチ続けたところで…」
男「やってやるよ!!」
女「えっ」
男「誰が逃げ腰!弱気だ!俺はやるぞ!やってやる!ディスればいいんだろ!?」
リーマン「ほう、少しは骨のあるやつみたいだな。その勇気が仮初のものでなければいいが」
女「ええ…?やるの?本当に……」
男「ここからは男だけの戦いだ!危ないから下がってろ!」
女「どこが危ないの?」
リーマン「男だけの戦いか…そのとおりだ、手加減なしで罵倒(ころ)してやろう!」
女「もういいわ……好きにして」
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