後輩「また勉強教えてほしいんです」
男「え、ああ、別に俺なんかでよかったら構わないけど、たぶん数学なら俺より妹の方ができるぞ」
後輩「妹ちゃんは部活忙しそうじゃないですか。それに……」
男「確かにあいつ忙しいもんな」
後輩「……」
後輩「はい。だからせんぱいで妥協してあげます」
男「ああ……そういうことね。まあそりゃそうだわな」
後輩「……というか妹ちゃんより数学できないんですか!?」
男「そんなもんだよ。あいつができるのもあるけど数学は得意じゃないんだ」
後輩「ちょっとだけ心配になってきましたよ……」
男「だ、大丈夫大丈夫……教科書見ながらならなんとかなるレベルだし……」
後輩「……こんなこと教えてもらうのに言っちゃ失礼でしたね。ごめんなさい」
後輩「(まあ私としてはせんぱいと一緒にいられるだけでいいんですけど)」
男「いいっていいって。そんじゃそろそろ閉館時間だし行こうか。司書さんもはやく帰りたいだろうしな」
後輩「そうですね」
*
男「お前とこうして一緒にいるのもずいぶん久しぶりだよな」
後輩「そういえばそうですね。もう2年も前ですから」
男「俺のあのころはすげえ走ってたなあ。もう最近は運動不足で階段上っただけで息切れしてるよ」ケラケラ
後輩「せんぱい、なんで高校では部活入らなかったんですか?」
男「んー、中学と違って高校は遠いしな。家に帰る時間が遅くなったら飯が作れないし」
後輩「あ!そういえば……ほとんど親御さんうちにいらっしゃらないんでしたね」
男「そゆこと。まあ単純にそこまで陸上に熱があったわけでもないのもある」
後輩「そう、ですか」
後輩「……あ、そうだ。せんぱい。勉強見てくれたお礼に今度ご飯作りに行ってあげますよ」
男「え、いや、悪いしな……」
後輩「遠慮しないでください。それとも料理に並々ならぬこだわりがあって私じゃ不服ですか?」
男「そうか? じゃあお願いしようかな」
後輩「任せてください!」
***
「せんぱい」
「せーんぱい」
「せんぱい!」
男「……んん」
後輩「……やっと起きましたか」
男「あれ、俺寝てたのか……。あ、いい匂い」
後輩「もうご飯できましたよ」
男「あ、ああ、ありがとう。帰ってすぐにソファに寝転がるなんて久しぶりだったからかな……」
後輩「せんぱい」
男「ん?」
後輩「涙、出てますよ」
男「あれ?」
後輩「ふ、ふきますね」フキフキ
後輩「(か、顔近いっ……)」
男「ご、ごめん。ありがとう」
後輩「いえ、あくびですかね?」
男「……たぶん」
男「じゃあさっそく後輩の手料理とやらの実力を見ようかな」
後輩「はいっ!」
***
後輩「せんぱい、鍵!」
男「わかってる!ちょいまち!」ゴソゴソ
男「あった!すぐ開けるから!」ガチャ
*
男「まさか急に降るなんてなあ」
後輩「天気予報では晴れだったんですけどね」
男「シャワー浴びる?」
後輩「しゃ、しゃわわわ……」
後輩「えっと、ふぁい」
男「? とりあえずタオルとってくるよ」
後輩「は、はひ……」
後輩「(何を焦ってるんだ私は……)」
後輩「(ただシャワー借りるだけでしょ……)」
*
男「あれ、着替え置いておいたのに。制服濡れてるでしょ」
後輩「いえ、お構いなく」
男「妹のじゃサイズあわなかった?」
後輩「そ、そんな感じです……」
男「そっかそっか、じゃああとで戻しとくよ」
後輩「お願いします」
男「そういえば、今日は俺がご飯作ったしもうこれ食べていきなよ」
後輩「えっ、なんかすみません。ご飯作りに来たのに」
男「いいっていいって。いつもありがとうな」
後輩「いえいえ。……せんぱい、料理うまいですね……」
男「そうか? んまあ毎日してるしなー。やってりゃうまくなるよ。数学とおなじおなじ」
後輩「そんなもんですかね」
男「数学なんてほら、3か月前とはもう全然点数も違うもんな。よく頑張ってるよ」
後輩「……あ、ありがとう、ござい、ます……ふふ」
後輩「(あれ? 話をそらされたような)」
後輩「あ、」
男「ん?どうした?」
後輩「……その本棚のCD」
男「あ、これ? このバンドのベストは持ってなかったから勢いで買っちゃったんだ」
後輩「いいなあ……。すごいふわふわした曲なのに力強い歌声。けど歌詞はすごく女々しいんですよね。すごく好きです」
男「わかってるねえ。もう俺はプレイヤーに入れたしよかったら貸すよ。」
後輩「ほんとですか!ありがとうございます!」
***
男「もしもし」
男「うん、俺。悪いけど今日ちょっと遅くなりそうでさ……」
男「ううん、夕方から降った雨と雷で停電したとかでバスがあんまり動かなくて」
男「ごめんな。今日試合だったろ? ご飯食べといていいよ。お米は炊けてると思うし、ふりかけはいつものところに」
男「そっか……ダメだったか……。まあまだ冬の大会や高校もあるんだからさ」
男「え? ああ、いいよ、疲れてるだろ。ってかお前料理なんかできないじゃん」
男「……あー、うん。悪かった。けど今日はいいよ。日曜日頼む」
男「え?……違うよ」
男「そんな簡単に彼女作れるわけないだろ」
男「じゃあ、たぶん2時間はかからないと思うから、うん」
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