サウザー「滅びるがいい!愛と共に!」(75)

サウザー「拳王の消息が途絶えただと?」

ブル「はっ。報告によりますれば、北斗の兄弟及び南斗水鳥拳のレイと一戦を交えたとの事にございます」

サウザー「北斗の兄弟?トキとケンシロウか。そこに南斗六聖拳の一人まで加わっては、さしものラオウとて無傷で済まなかったという事か」

サウザー「ヤツがくたばったとは思えぬ。…となると、身を隠して傷が癒えるのを待っているのであろう」

ブル「しかし一時的にとはいえ、最大の障害が取り除かれたのは事実にございます。この気を逃す手はございませぬ」

サウザー「フン、解っておる」

サウザー「聖帝十字陵の完成を急ぐ。子供狩りの範囲を拡大しろ。ラオウの息が掛かった土地であっても構わぬ」

ブル「拳王との相互不可侵の密約は…」

サウザー「それは“奴が力を持ち続ける限り”という条件で…だ。その条件が保てなくなった今、その様な約束を守る義務は無い」

サウザー「それに奴が勝手に闘い、勝手に傷を負い、勝手に雲隠れしたのだ。奴の方から密約を破棄したも同然であろう」

サウザー「そういう事だ。直ちに配下の者全員にそう申し伝えよ。聖帝の名において…な」

ブル「かしこまりました。それとレジスタンス共の事ですが…」

サウザー「まだドブネズミ共の巣は見付からんのか?」ギロッ

ブル「はっ、申し訳ございませぬ。奴らのアジトは幾つかに分散しているらしい事は分かっておりますが、詳細な場所は判明に至りませぬ」

サウザー「ならば、巣の中で死んでもらうとするか」

ブル「はっ?」

サウザー「奴らは食うに事欠いておろう。それを利用するのだ」

サウザー「食料調達隊に毒入りの食糧を大量に持たせ、奴らに襲わせろ。後は巣の中で奴らは全滅するのみだ」

サウザー「卑しいドブネズミらしい最期ではないか。フハハハハ!」

ブル「御意」ニヤッ

男「お前ともあろう者が何とも情けない作戦だな」

サウザー「!」

ブル「何奴!?音もなくいきなり現れるとは」

男「それにあのピラミッドの完成を急ぐなら、非力な子供ではなく大人を使うべきだろう」

ブル「子供達の純真な汗によってのみ、聖帝十字陵は聖なる陵となるのだ!」

ブル「貴様に文句を言われる筋合いはなーい!」

男「もっともらしい事を言うが、単に反抗されると面倒だからではないのか?」

ブル「我ら聖帝軍は拳王軍を相手にも恐れる事はない!」

男「さっきの話を聞いていたぞ。ラオウが居なくなったと知った途端、いろいろ企みを加速させるつもりだった事をな」

男「子供狩りに毒入り食料、それにラオウの睨みが利かなくなった途端勢い付く…。サウザーよ、お前は案外セコい男だな」

サウザー「なにぃ…?」

ブル「ぐぬぬ…!聖帝様をここまで愚弄するとは許せぬ!この場で直ちに処刑してくれるわ」!

サウザー「…貴様は退いておれ。下郎!この南斗の帝王、サウザーの前で随分とふざけた事を抜かしてくれおったな」ザシュッ

サウザー「その貧相なツラと貧弱な身体、その姿を俺の前に晒すだけでも万死に価する!」ザシュッ

サウザー「」ドンッ

男『あっ、消えた』

サウザー「むっ!?」

男「速いな。全然見えなかったよ」

サウザー『見えなかっただと?ならば何故…。確かに俺の拳は奴を切り裂いたはず』

サウザー「どうやったか知らんが上手く避けたな。だが―」バシュンッ

男『あっ、また消えた。目視すら出来ない速さを人力で出すって凄いな』

サウザー『何だこやつは。避ける素振りも見せぬではないか。いや、反応出来ているかどうかも疑わしい』

サウザー「何故当たらぬ?この俺が二度続けて拳を外す事など有り得ぬ」

ブル「…」ゴシゴシ

男「観測者は光の速度を以てしても捉える事は出来ん。何故なら、観測者こそが光の源だからだ」

サウザー「何を寝惚けておる」

男「早い話が、お前が俺を捉える事は不可能という事だ」

サウザー『この様な下郎に奥義を使いたくなかったが止むを得まい』

サウザー「貴様の存在そのものが気に喰わぬ。朽ち果てい!」

     極 星 十 字 拳

男「物分かりの悪い男だ。この世界の中ではどんな技を繰り出しても、俺にしてみれば文字の羅列に過ぎん」

男「それはお前の究極奥義である天翔十字鳳とて例外はない」

サウザー「なにぃ!貴様!未だかつて誰にも名すら口にしておらぬその奥義を何故知っている!?」

男「それを知ったところで無意味だ」

男「少しは聞く耳を持ったか?」

サウザー「…よかろう。貴様が何者かは知らぬが、中々面白い話が聞けそうだ」

男「ラオウが姿を消した事はそこのブルから聞いて分かっているだろうが、ラオウはお前の推測通り死んでいない」

ブル「なんと、わたくしの様な者の名まで!」

男「そして闘ったケンシロウ、トキ、レイの三人も深い傷は負ったが死んではいない」
サウザー「うむ。続けるが良い」

男「この四人の中で一番回復が早いのはケンシロウだ。そう遠くないうちにお前の目の前に現れるだろう」

サウザー「ほう…あの小僧がラオウと闘ってその程度の傷で済んでいようとは」

男「ケンシロウはレイ、トキと続いてラオウの三人目の相手だったからな」

男「それを差し置いても、お前の覇道の大きな障害になる事は確かだ」

サウザー「敵は全て下郎!それが北斗三兄弟であっても同じ事だ」

男「北斗は四兄弟だぞ。ジャギを忘れている」

サウザー「ジャッ…キー…だと?北斗は三兄弟ではないのか?」

男「…ジャギだ。お前は知らんだろうが、そのジャギもケンシロウに肉薄する実力の持ち主だ。南斗六聖拳に混じっても劣らんだろう」

男「つまり、お前は一歩間違うと北斗の兄弟四人全員を敵に回す事になる」

サウザー「フン、北斗など恐れるに足らぬ。三人でも四人でも同じ事だ。纏めて聖帝十字陵の人柱にしてくれよう」

男「心臓の位置が逆だからか?」

サウザー「!」

サウザー「貴様…何処まで知っているのだ?」

男「全て知っている。お前が非情に徹するのも愛深き故の裏返しだという事」

ブル「!」ハッ

男「そしてその切っ掛けになったのはお前の師との…」

サウザー「黙れ!それ以上口を開けば如何なる手段を用いても貴様を八つ裂きにしてくれる!」

男「帝王は退かぬのではなかったのか!」

サウザー「ぐくっ!」

男「確かにお前は他者からは退かないだろう。だが、お前自身からは退いている事に気付かぬのか!」

サウザー「…どういう事だ…?」

男「お前は心に深い哀しみを負った自分を見て見ぬ振りをしている。その自分の叫びがお前の非情さとなって歪んで顕れているのだ」

男「お前は必死で愛を否定しようとしているが、その実は強く愛を肯定したいと願っているのだ」

男「それはかつて感じたぬくもりを、今も覚えているからだ」

サウザー「…」

ブル「サウザー様…」

サウザー「フフフフフ」パチパチ…

サウザー「中々に面白い余興であったわ。楽しませてくれた礼に今回だけはその命助けてやろう…」パチパチ…

サウザー「…」パチッ…

サウザー「わかったらさっさと失せい!この下郎が!」

ブル「さあ、こっちに来るのだ!何時までも聖帝様の御前に居ては無礼であろう!」ガシッ

ブル(後程別室にてお話を…)コソッ…

男(うむ)コソッ…

男「そんなに強く掴むな!わかったって!出ます!出ますったら!」

男「ブルよ。側近の地位にあるお前なら、何となくサウザーの事をいろいろ感付いているんじゃないか?」

ブル「はい…。何と言いますかそのぅ、時々非常に無理をなさっている感がありまする」

男「子供狩りの本当の理由は、さっきお前が言った純真な子供の汗云々ではないだろう?」

ブル「確かな事は申せませんが、無理矢理こじつけた様な感がしまする。我らにとっては聖帝様の命は絶対故、そうせよと言われれば理由も問わずただ従うのみでありまして…」フキフキ…

男「サウザーに意見出来る程有力な腹心は居ないのか?」

ブル「聖帝様は南斗聖拳108派の伝承者を多数配下に従えておりますが、聖帝様に意見する者など誰一人居りませぬ」

ブル「それ以前に、意見する事自体を聖帝様がお許しになられる訳もなく…」

ブル「あ、いや…一人だけ居りました。最もそやつは今では敵なのですが…」

男「シュウだな」

ブル「そこまで御存知で…。はい、南斗六聖拳の一人として、かつては聖帝様に自分と互角に闘えるのはヤツのみと言われていた程でして…」

ブル「しかし今や、シュウは反聖帝を掲げるレジスタンスのリーダーで、聖帝様にとっては排除すべき敵であります」

男「シュウをサウザーの腹心に据える事が出来たら聖帝軍はどうなる?」

ブル「何をバカな!…あ、いや失礼しました。しかし何とも意な事を…!無理に決まっております!」

ブル「聖帝様とシュウは水と油!氷と炎!光と闇!それから」

男「不可能を前提にしては、後に続くものは全て不可能のみ。取り合えずそれが可能なら…という前提で答えてみてくれ」

ブル「その前提は相当に無理がありますなぁ」

男「お前はサウザーを想ってはおらんのか?サウザーの覇道に協力するのは己の生活を安定させる為や、贅沢の為か?」

ブル「わたくしを甘く見てもらっては困りますな!わたくしは聖帝サウザー様こそ、この世を支配するに相応しい御方と心から信ずるなればこそ仕えておるのです!」

男「その為には知勇兼備の腹心が必要だ。優れた組織は必ずそういう存在が居る」

男「南斗六聖拳に入らない南斗聖拳伝承者では荷が重いだろう。サウザーの腹心足り得るのは南斗六聖拳伝承者をおいて他に居ない」

男「お互いに古くから良く知り、物理的にも最も近くに居るシュウ以外に適任は居ない」

ブル「それはそうかも知れませぬが…」フキフキ…

ブル「仮にシュウが我が聖帝軍に加わるとなれば…それは間違いなく拳王軍すら凌駕する最強の軍となりましょうなぁ…」

ブル「しかし何でまたその様な事を?聖帝様とシュウが組んだところで、そちらにはどんな得があるので?」

男「損得ではない。ただ、死なずに済むものなら死なせたくないだけだ。この世界には死なすには惜しい漢が多過ぎる」

ブル「まるでこのままでは聖帝様やシュウが死ぬ事が解っているかの様…」ハッ!

ブル「先程の全てを知っているというのはもしや…?」

男『ついでにこの男もこのままではレジスタンスに蜂の巣にされて死ぬんだが…』ジローッ

ブル「あのー…わたくしの顔に何か?」

―レジスタンスのアジト―

シバ「父さん。今日もまた聖帝の子供狩りが?」

シュウ「うむ。拳王が幅を利かせていた頃に比べて明らかに活発になった」

シュウ「拳王が姿を消して少しは穏やかになると思っていたが、彼の存在が子供狩りの抑止力になっていたとは皮肉なものだ」

シバ「何故聖帝は子供ばかりを狙うんだろう?」

シュウ「うむ…。それは私にも解らんのだ。おそらくその徹底した非情さを世に知らしめる為なのだろう」

シュウ『今は言えぬ。奴の心の傷の深さを話すには、子供のシバにはあまりにも残酷…』

シバ「…そうなんだ。でも、何となくだけど僕はそうじゃない気がするよ」

シュウ「ん?」

シバ「うーん…でもそれを何て言ったらいいか分かんないんだ」

シュウ「サウザーに何か感じるものがあるのか?お前はサウザーに会った事はないだろう?」

シュウ『会った事はあるが、お前が生まれて直ぐの事だ。覚えてはいまい』

シバ「それはそうなんだけど…。でもね、父さんは良く言ってるよね。仁星は未来の希望に生きる星だって」

シュウ「ああ。その通りだ」

シバ「その未来の中に、聖帝は居るの?」

シュウ「…何だって!?」

シバ「あ、いや。仁星って何だろうって考えてて、そんな事思う様になって…

シュウ『サウザーまでも仁星の光で照らせと言うのか?…私でさえもその様な事は思いも付かなかったものを』

シュウ『もしや、この子の中で仁星の血が目覚めようとしているのか』

シュウ「確かに仁星はあまねく人々を照らす。聖帝とて例外は無い。だが、今のサウザーは…」

男「昔のサウザーだったら良かったのか?」

シュウ「むっ、誰だ!」サッ

男「肉眼は見えずとも、心の眼が開いているお前なら俺が敵かそうでないかすぐ解ろう」

シバ「貴方は何方ですか?父のお知り合いですか?」

男「いや、俺が一方的にシュウを知っているだけだ。だから知り合いではないな」

シュウ『敵意は感じぬ。それに、随分と華奢な身体をしている様だ。拳法の心得があるとも思えんし、害はなかろうが…』

シュウ『現れるその瞬間まで気配がまるで感じられなかった。六聖拳や北斗の拳士でさえここまで無にはなれまい』

シュウ「…お前は何者だ」

男「…何度聞いたかなその台詞。他人が何者かなんてどうでも良い事。自分が何者かを知るべきだ」

男「シュウ、この子にはサウザーについて何と教えているのだ?」

シュウ「…サウザーを倒さぬ限り、子供達の未来はない。子供達の未来への希望の光を奪うサウザーは倒すべき敵だ」

シュウ「サウザーの心を溶かす事はもはや不可能。ならばこそ倒すしかない。だが南斗聖拳では奴を倒す事は出来ぬのだ」

シュウ「北斗神拳伝承者ならば、ケンシロウならばサウザーを倒せる。しかもただ倒すだけではなく、愛を以て倒せると信じている」

男「君はどう思う?」

シバ「はい。今まで父さんの言う事に間違いはありませんでした。だから、聖帝の事もきっとそうなんだと思います」

男「では、さっきの言葉…あれは何だ?」

シバ「えっ?それは…その」

男「子供は大人より知識はないが、余計な固定観念や経験が無い分、大人には思いも付かぬ智恵を生み出す事がある」

男「シュウは立派な漢だ。尊敬し信頼するに足る人物だが、お前はお前で一人の人間として、自分の感性…つまり気持ちを信じる事だ」

男「ではまた会おう」

シュウ「…」

シュウ「何者なのだあの男は。サウザーの手の物とも思えんが」

シバ「うん。それに何だかこの時代の人とは何か違う」

シュウ「うむ。この時代を憂いているわけでも、この世に覇を唱えるわけでも、欲望のままに生きるわけでもない」

シバ「自分の感性、気持ち…」

シュウ「今日はもう遅い。休みなさいシバ」

シバ「はい。お休み父さん」

シュウ「ああ。お休み」

―しばらく後―

シュウ「何!ケンシロウがサウザーに敗れて捕らえられただと!?」ガタッ

レジスタンスA「はい!しかも聖帝はほぼ無傷と…」

シュウ「くくっ…!私の、私のせいでケンシロウの光が…!」

シュウ「ケンシロウを見殺しには出来ぬ!助けに向かわねば!」

シュウ「シバ、シバは何処に居る?」

レジスタンスB「それが…姿が見えないのです」

シュウ「どういう事だ!?まさか…!」

シュウ『…シバ!お前が!』

レジスタンスA「どうなされましたシュウ様!」

シュウ「シバはケンシロウに救いに向かったのかも知れぬ」

レジスタンスB「何ですって!?シバは貴方の息子とは言えまだ子供!早く追い掛けましょう!」

シュウ「待て。このアジトを空けて出るわけには行かぬ。この中にも守るべき沢山の光がある」

レジスタンスB「それではシバを見殺しに!」

レジスタンスA「我らご命令を!必ずやシバとケンシロウさんを連れ戻して参ります!」

シュウ「残念だがお前達だけで聖帝軍の中に入り込み、ケンシロウを救うのは無理だ。それにお前達に何かがあったら、妻子はどうなる」

レジスタンスA「我々は自分や自分の妻と子の為だけに生きるのではありませぬ!我々全ての光の為に生きるのです!」

レジスタンスB「シュウ様、貴方がそう教えてくださったのではないですか!」

シュウ「お前達…!」

レジスタンスA「我々は仁星の光に惹かれて集うたのです。そして我々もまた仁星として輝きたいのです!」

レジスタンスB「シバを動かしたのも仁星の血に違いありません!」

シュウ『何と言う事だ…。ケンシロウ、シバ、皆…仁星は守りたい者を死地へ誘う運命にあるとでも言うのか』

シュウ『私は彼らの光を守りたいのに、逆に光を奪ってしまうと言うのか』

シュウ『私の血は、私の仁星は…間違っているのか…?』ググッ

レジスタンスA「シュウ様、ご命令を!」

レジスタンスB「今ならまだシバには追い付けましょう!」

シュウ「…駄目だ」

レジスタンスA・B「えっ?」

シュウ「ケンシロウを助けに向かう事も、シバを追う事も、このアジトから外へ出る事も許さぬ」

レジスタンスB「何故です!シバ貴方の息子ですよ!」

シュウ「これは命令だ!」

レジスタンスB「うぐっ…くく!」

シュウ「ケンシロウとシバは私一人で連れ戻す。お前達はここで皆の光を守っていてくれ」

レジスタンスA「如何にシュウ様と言えど、ケンシロウさんを倒したサウザーと聖帝軍に一人で立ち向かうなど…」

シュウ「頼む」ペコリ

レジスタンスA「うっ…」

シュウ「心配するでない。私はお前達を残して死にはせぬ」

シュウ「どれだけ帰りが遅くなっても、私を探しに出てはならん。それこそ聖帝軍の思うツボ!」

シュウ「必ず戻るから私を信じて帰りを待っていてくれ。よいな」

レジスタンスA「シュウ様、俺は嫌です!俺だけでも連れて…おい、何をする!」ガバッ

レジスタンスB「これは、これは…シュウ様が自ら選ばれた道…!」

レジスタンスA「くくっ!」

シュウ『ケンシロウ、シバ…お前達を死なせはせぬ。未来への希望、それはすなわち生!仁星は人を生かす星なのだ!』

シュウ『そして私の元に集まった沢山の光…。この全てを未来へと生かす!』

シュウ『それが仁星のシュウ!』

―聖帝十字陵―

サウザー「今日のは口に合わぬ!」ドガアッ

ガシャアァン

子供A「」チラッ

ソーッ…

ブル「聖帝様の料理に手を付けるとは畏れ多い!」ガシッ

子供A「あうっ!」

ブル「よいか!貴様らが飢えても帝王は飢えん!貴様らが死んでも帝王は死なん!それが選ばれた者の権勢と言うものだー!」

サウザー「」フフン

ブル「貴様はこのガキと一緒にこの料理の後片付けをしろ!」ドンッ

シバ「…」

シバ「…片付きました」

ブル「ん!…何を言うか。全然片付いておらぬではないか!」

シバ「だけど、言われた場所に全部運び…」

ブル「このまま腐らせる気か!貴様らの胃袋の中に片付けるのだ」

シバ「えっ?食べても良いって事ですか?」

子供A「」キュルルル

子供B「」ググーッ

子供C「」ゴロゴロゴロ…

ブル「食べて良いのではない。片付けろと命じているのだ!欠片一つ残すでないぞ!」

子供達「わあーっ!」

パクパクムシャムシャポリボリ…

ブル「よいかー!残飯を処理する事によって聖帝様に御奉仕出来る事を有り難く思え!よいな!」

子供達「はあーい!」

ブル「貴様もサボッてないで早く処理に取り掛からぬか」

シバ「…はい!」

シバ「とこれで一つお聞きしたい事が」パクパク

ブル「何だ?うーむ…ペースが遅いな。これでは何時終わるか分からん。どれ、わしも少し手伝ってやるとするか」ムシャムシャ

シバ「聖帝…様に闘いを挑んだ人が居るって聞きましたけど、その人はどうなったのですか?」

ブル「ケンシロウの事か?聖帝様に半殺しにされて十字陵の地下に閉じ込めてられておるわ」

シバ「何故殺さずに?聖帝様は歯向かう者には容赦しないと聞いています」

ブル「聖帝様のお考えは我らの及ぶところではないわ。拳の勝負では負けていなかった事から、一定の敬意をお示しになったのかも知れんな」

ブル「それでもまあ、十字陵の土台となって死する運命だが」

シバ「十字陵の地下に…」

―聖帝十字陵地下―

シバ「ケンシロウさん」

ケンシロウ「…お、お前は…」

シバ「私はシバ。南斗白鷺拳のシュウの息子です」

ケンシロウ「シュウの…。そうか、シュウと共に俺を助けに」

シバ「いえ。父には黙って私一人で来ました」

ケンシロウ「何!…うぐっ…」

シバ「喋ると傷口が…。聖帝の兵に感付かれる前に早くここを。今手枷を外します」カチャッ

ケンシロウ「うあっ」ガクン

シバ「しっかり!」ガシッ

シバ『うっ、重い!』

ケンシロウ「すまぬ…。俺はシュウだけではなく息子のお前にまでこの命を…」

シバ「気にしないでください。さあ、出ますよ」

シバ『父さん、今ケンシロウさんを連れて帰るからね』

シバ「はぁ…はぁ…」

ケンシロウ「シバ、俺をここに置いてお前は先に戻るのだ。見付かれば傷付いた俺が居ては逃げ切れぬ」

シバ「大丈夫です。ほら、地上への明かりが…」

シバ「」ハッ!

シュウ「シバ!ケンシロウ!」

シバ「父さん!」

シュウ「ケンシロウ、すまぬ…。南斗の争いにお前を巻き込んでしまった」

ケンシロウ「シュウ…。いや、貴方の息子がこうして俺を助けてくれた」

シュウ「シバ、よくやってくれた。お前にも仁星の血が流れているのだな」

シバ「父さんごめん、勝手に飛び出して。どうしても動かずにはいられなくて…」

シュウ「さあ、アジトに戻ろう」

シュウ「しっかりしろケンシロウ。もうすぐ一番近くのレジスタンスのアジトに着く」

ケンシロウ「う、うむ…」

シバ「だけどおかしいね」

シュウ「どうした?」

シバ「とっくにバレていてもおかしくないと思ってさっきから後ろを気にしてるんだけど、追手が来る気配がまるでない…」

シュウ『まさか…。いや、全てのアジトの場所は聖帝軍には知られていないはずだ』

ケンシロウ「…乗り物のエンジン音…」

シュウ「何?」

ケンシロウ「それも一台や二台ではない…。あの方角だ」スッ…

シバ「僕らの居る本部の方角だ!」

シュウ「くっ!そんな!」

ケンシロウ「シュウ、シバ、俺を置いて急いでくれ。ここまで来れば俺一人で何とかなる」

シュウ「シバ、お前を息子としてではなく一人の男として頼む」

シュウ「ケンシロウは任せたぞ」

シバ「…はい!」

シュウ「」ニコッ

シュウ『一目お前とケンシロウの成長した姿を見たかったぞ』

―レジスタンスのアジト―

サウザー「ほう、ドブネズミの親玉が帰って来たか」

シュウ「サウザー!」

レジスタンスA「シュウ様…申し訳ございませぬ!力及びませんでした…」

レジスタンスB「かくなる上はシュウ様だけでもお逃げくだされ!」

サウザー「貴様の仁星は乱世においては何の意味も価値も無かったな」

シュウ「私はそうは思わん。例え私は死すとも我が息子シバや皆、ケンシロウの未来の光は守ってみせる!」

サウザー「この俺と闘う気か。よかろう、俺は一切抵抗せぬ」

サウザー「だが、果たして貴様にこやつらを見捨てる事が出来るかな?」

シュウ「何だと!貴様、皆の命を人質に取るつもりか!」

サウザー「こやつらを人質と思うか思わぬかは貴様の勝手だ。人質だと思わぬなら、遠慮なく掛かって来るがいい」

シュウ「ぐっ…!」

サウザー「この俺を倒す事が貴様の悲願!ケンシロウですら倒せなかった、この俺を倒すチャンスだぞ」

シュウ「私の悲願はお前を倒す事ではない!お前の人を人とも思わぬ心と、人を暴力で支配しようとする考えを改めてくれる事だ」

サウザー「」ピクッ

シュウ「ケンシロウならば愛を以てお前を倒せると信じたが、ケンシロウが敗れた以上、私も命を掛けねばなるまい!」

サウザー「貴様…人質がどうなっても構わぬと抜かすのか?」

シュウ『やはり私の仁星は人を死に導く星なのだろうか。守ろうとすればする程、守りたい者が手から溢れ落ちて行く』

シュウ『このサウザーとて、かつては将器と確信して共に時代を歩もうと決意したのに今では敵と味方に…』

シュウ「例え貴様を倒せなくとも、阿修羅となって闘おう!この命尽きるまで!」

サウザー「…本気のようだな。よかろう、ならば掛かって来るがいい!」

シュウ「一つ約束をしろ!決着が付くまで皆には手を出させぬと!仮にも王を名乗るなら、その位の気概を見せてくれても良かろう!」

サウザー「フン…。どの道同じ事になる。俺を倒す絶好の機会を自ら棒に振った事を後悔しながら皆で果てるが良い!」

シュウ「サウザー、覚悟!」

南斗白鷺拳奥義
       誘 幻 掌

サウザー「!…気配が読めぬ。だが…」

サウザー「そこだっ!」バシュウッ

シュウ「ぬうっ!でやあっ!」

       烈 脚 空 舞

サウザー「遅い!」バキイッ

シュウ「ぐあっ!」ズダァン

レジスタンスA「ああ!シュウ様!」

サウザー「フハハハハ、どうしたシュウ!ケンシロウの方が遥かにマシだったぞ」

レジスタンスB「おのれサウザー!」

シュウ「動くでない!決着が付くまでは動いてはならぬ!」

サウザー「勇ましいな。助けてもらったらどうだ?俺は構わぬぞ」

サウザー「ただ向かって来た者は確実に死ぬ事になるがな。尤も、死ぬのが少し早くなるだけだが…フフ」

シュウ「はぁ…はぁ…」

レジスタンスA「シュウ様!」

レジスタンスB「シュウ様!」

サウザー「もう立っているだけがようやくだな。苦しかろう。今楽にしてやる」ザシュッ
サウザー「仁星は将星の衛星に過ぎぬ。反逆した時点で貴様の敗けは決まっていたのだ」ザシュッ

サウザー「貴様は守るべき者を守れず、貴様自身も俺によって死ぬのだ」ザシュッ

サウザー「皮肉な事よ。貴様はこの俺に屈服したのだ!フハハハハ」

サウザー「死ねい!」

ヒュッ…

サウザー「ん?」サッ

コロコロ…

サウザー「誰だ、この石ころを投げた者は」ギロッ

子供D「」キッ

レジスタンスA「リョウ!」

リョウ「そ…それ以上シュウ様に手を出したら許さないぞ!えいっ」ヒュッ

パシッ

サウザー「小僧…聖帝に石を投げ付ける事が何を意味するか、解っておろうな」

聖帝軍兵士A「むっ、ガキが!痛っ」ポコッ

子供E「シュウ様に手を出すな!」ヒュン

子供F「シュウ様をいじめるな!」ヒュン

聖帝軍兵士B「こらぁ!やめんかー!」

シュウ「お前たち、やめるんだ…。やめてくれ」

レジスタンスB「俺はシュウ様と共にここで死ぬ!お前を守ってやれなくてすまぬ!」

女A「いいえ、私も一緒にます!」

レジスタンスA「リョウ、父さんはお前とシュウ様と皆の為に戦って死ぬ!至らぬ父であった事を許してくれ…」

リョウ「父さん!ううん、僕は父さんの子で良かった!」

サウザー「見たかシュウ。お前への想いが、女子供すら狂わす!」

シュウ「…サウザー」

サウザー「人は愛故に悲しみ、愛故に早死にする!愛こそが人を最も苦しめる!」

サウザー「俺が築くのは愛無き世界!俺の世になれば誰も悲しむ事も苦しむ事も無い!」

サウザー「愛など幻想!幻想故にしがみつけば尚苦しむ!何故それが解らぬ!」

シバ「父さん!」

シュウ「シバ…!」

サウザー「貴様の息子か…!」

サウザー『こやつ…幼き頃のケンシロウと同じ目をしておる』

シバ「父さん、皆とここから離れて!」サッ

聖帝軍兵士A「げえっ!」

サウザー『ダイナマイト!こやつ俺を道連れに自爆して果てる気か!』

サウザー「小僧、貴様正気か」

シバ「」コクッ

サウザー「仁星とは悲しい星だな。貴様に関わる者全てを狂わせ、早死にさせる」

サウザー「だが俺は帝王。アリの反逆も許さぬ!逆らう者は子供とて許さぬ!」

ドシュッ

シュウ「ぐああっ!」

シバ「父さん!」

シュウ「シバ…」

シュウ「仁星の宿命だからと他の者ばかりを気にかけ、息子のお前には何一つ父親らしい事をしなかったと言うのに…」

シュウ「…よく、よく立派に育ってくれた」ドサッ

シバ「父さん!」

―お師さん!

サウザー「」ハッ!

シュウ「シバ…聞きなさい。お前の顔を見る事は出来ないが、私にはお前の目に仁星が宿っている事を感じる」

―私はお前に極星・南十字星を見ていたのだ。

サウザー「うっ」クラッ

サウザー『何故…!何故この親子と俺の過去が被る!』

サウザー『忌まわしき愛の幻影め…。何処まで俺を苦しめる!』

男「その苦しみは愛故に…ではない。愛を否定するが故に生じるのだ」

サウザー「…貴様!」

男「見ろ、シュウとシュウの元に集う者達の姿を」

サウザー「…」

男「お前はこれを狂った姿に見える様だがそうではない。愛とは結び付きを生じさせるものだ」

男「お前はかつて強く結び付いた師をその手に掛けた。その時お前は結び付きが断たれたと思い込んでしまった」

男「だが、その結び付きは未だ断たれてはいない。それは聖帝十字陵という形を取って顕れている」

サウザー「バカな!俺は愛を捨てた!」

男「ならば何故、シュウの為に命を投げ出そうとした者達を愛に狂ったと表現したのだ?」

サウザー「なにぃ…?」

男「お前が完全に愛を捨て去っているならば、何かを見てそれを愛だと表現する事は出来ん。もちろん、否定する事も出来ん。だって“無い”のだからな」

男「だが、お前はある姿を見てそれを愛と表現し否定もした。それはお前の中に愛が“有る”からだ」

男「有るものは有ると認めろ。そもそもお前が師を敬愛するのは、師がお前に愛を注いだからではないか?」

サウザー「ならば…ならば何故師は俺に自らを討たせた!愛していたならば、愛していると解っている者を討たせるものか!」

男「それは今のシュウを見れば解る」スッ

男「全てを託せると安心したんだろうなぁ。もちろん拳法だけではなく愛とかその他諸々を含めて」

男「俺も良く解らんのだけど、全てを託せる相手の為なら自分の命すら惜しくは無くなるんだろうよ」

男「オウガイも最期は笑っていただろう?今のシュウの様に」

サウザー「…」

ブル「聖帝様!捕らえたはずのケンシロウが何者かに連れ出され…おや、またお会いしましたな」

男「」コクリ

ブル「むっ!?残飯処理の途中で居なくなったと思ったら、こんなところで何をしておる!しかもそやつはレジスタンスの長、シュウだぞ!」ツカツカ

シバ「父です」

ブル「父ぃ~!?」ハッ

ブル「貴様か~!ケンシロウを連れ出したのは!」

シュウ「息子に手は出させぬ…。この命尽きようとも」ググッ

ブル「ひっ!」

男「手を出さぬが身の為だ。さもないと本来の運命と同様に輪切りだぞ」

ブル「へっ?あわあっ」ヘタッ

シュウ「サウザー…。もう一度だけ頼む。人を人として見てくれ」

シュウ「さすれば私はお前に反抗せぬ。この頭を垂れ、膝を折ろう」

シュウ「私には後継者が出来た。だから命を寄越せと言うのならくれてやる。どうか考えてみてくれぬか」

サウザー「…」

サウザー「俺は帝王。後退はせぬ」

シュウ「やはり駄目か…」

サウザー「だが、譲歩はしよう」

―聖帝十字陵・聖室―

サウザー「お師さん。俺は貴方に愛と温もりを教えて頂いた」

サウザー「しかし、愛と温もりをどの様にして与えれば良いかは教わっていない」

サウザー「愛をどうやって表現したら良いのか、それが解らぬのです」

サウザー「…フッ。まさか俺が愛について想いを巡らせようとは。俺も仁星に触れ過ぎて狂ったか」

サウザー「お師さん、また参ります」スッ

―サウザーよ。

サウザー「!」ハッ

サウザー「…空耳か」

―サウザーよ。南斗の極星、南十字星は一つの星に非ず。

サウザー「空耳ではない…。が、頭の中に直接響いているかの様だ」

―将星はそれのみで輝かず。他の星の光を受けて輝く星也。

―この意味を己の中より見つけ出すが良い。

サウザー「いよいよ本格的に狂ったか。お師さんの声まで聞こえおるわ」

サウザー「…」

サウザー「お教え、ありがとうございました」スッ

―サウザーの居城―

ブル「聖帝様!拳王軍が迫っているとの報告が!」

サウザー「フン、ラオウめ。子供狩りの際に奴の土地に侵攻した事に腹を立てたか。さぞ鼻息が荒かろう」

サウザー「よかろう。傷が回復したようだが所詮は病み上がり。ここらでケリを付けてくれるわ」

ブル「奴らは本隊と別動隊に分かれ、拳王率いる本隊は真っ直ぐこちらへ、別動隊は方角からしてシュウ達の元へ向かっているものと」

サウザー「何?ラオウめ、何故シュウの元へも向かう?」

ブル「よもや、聖帝様と敵対するシュウを抱き込み、戦力増強を謀ろうというのでは!?」

サウザー「フハハハハ!ラオウめ、弟達に痛い目に遭わされて臆病振りに拍車が掛かったか!」

サウザー「ラオウの居る本隊を迎え討つ!雑魚の集まりに過ぎん別動隊とやらは放っておけい!」

ブル「しかし、万が一シュウめが拳王に付く事になれば…」

サウザー「それならそれで構わぬ。帝王は誰を敵にしても退かぬ」

サウザー「全軍に出撃命令を出せ!貴様等は将として各部隊を率いよ!よいな」

リゾ「はっ!」ザッ

ギジ・ベジ「聖帝軍に栄光あれを!」ザッ

ハッカ・リロン「聖帝様に勝利を…!」ザッ

消毒男「聖帝様の道を塞ぐ奴は消毒だ~!」ザッ

サウザー「ブル、うぬは俺の参謀として同行せよ!」

ブル「ははーっ!」

アミバ「何故天才のこの俺が別動隊に!」

ジャギ「まあ、そう腐んな。シュウとかいう男の説得にはお前の口の巧さが役に立つんだろよ」

アミバ「それを考えに入れても、あのトキ以上の秘孔術の達人である俺に対してあんまりな扱いではないか」

アミバ「それに口の巧さならシンを唆した貴様だって負けておらんだろうに」

ジャギ「ああ、あれは多分奴は俺に唆された振りをしてたと思うのよ。あいつもバカじゃねぇし、ケンやユリアの事を本当に大事に想ってたしな」

ジャギ「ところで、サウザーの野郎は北斗神拳が通じねえって噂だが、どういうこった?」

アミバ「ふむ。何でも秘孔が効かんらしいぞぉ。大方、内臓逆位で秘孔の位置が正反対なだけなんだろうがなぁ」

ジャギ「お前、何気にサラッと凄い事言いやがったな」

アミバ「以前天才の俺が尽く秘孔を外してしまう妙なデクがおってぁ。よくよく調べてみたら心臓の位置が逆だったのだ」

アミバ「心臓の位置が逆という事は、血流の流れも秘孔の位置も通常とは逆という事だ。だからそうとは知らずに通常の秘孔の位置を突いても効かんのよ」

ジャギ「…おい、それラオウの兄者には伝えてあるんだろうな?」

アミバ「ん~?何の事かな?」

ジャギ「…」

アミバ「まさか拳王は内臓逆位を知らんのか?俺はてっきり北斗の者には常識かと思ってたぞ」

ジャギ「俺も初めて知ったわ!…おい、そこのお前!直ぐにラオウの元に行き、今の話を伝えて来い!」

ジャドウ「承知した!」ブロロローン

アミバ「んん~間違ったかな?クイッ」

ジャギ「ラオウの事だ。秘孔無しでも何とかするだろう。見えて来たぞ、あれだ」

アミバ「久々にトキの名を使わせてもらうとするか。拳王軍の名では聞く耳持つまいて」

アミバ「私は北斗の次男、トキと申す者!南斗白鷺拳のシュウにお目通りを願いたい!」

ケンシロウ「トキ?」ヌッ

アミバ「ケンシロウ!何故貴様がここに!?」

ケンシロウ「お前はアミバ!お前こそどうしてまたトキに成り済まそうとする。改心したのではなかったのか?」

ジャギ「サウザーの野郎にコテンパンにされたらしいな。聞いたぞ」

ケンシロウ「ジャギ!何故お前まで…」

ジャギ「そのサウザーを倒す為、シュウを抱き込んで来いとのラオウの兄者の命令でな。シュウは何処だ?」

シュウ「ここだ。残念だが私は拳王の味方はせぬ」

ジャギ「何故だ?貴様はサウザーと敵対していよう。今ラオウと組めば奴を倒せるのだぞ」

シュウ「いや、サウザーは将星として輝きを増しつつある。それを見届けるまでは奴に敵対する事をやめたのだ」

シュウ「かと言って、まだサウザーに付くと決めたわけでもないが。…それに見よ、私はサウザーとの闘いで身体が完全に癒えておらぬ」フラッ

シュウ「この様では役には立たんだろう。万全であっても完敗を喫した事だしな。どの道お前達の期待には沿えぬ」

ジャギ「無理に連れ出そうとすればまたケンシロウと闘う事になりそうだな」

アミバ「俺と貴様の二人で掛かれば、ケンシロウとてひとたまりもあるまい」チラッ

ジャギ「北斗の闘いに二対一はねぇ!」

ケンシロウ「ジャギ…。変わったな」

ジャギ「第一、俺はケンシロウの事まで命令されてねぇ。シュウもこの通り連れてってもしょーもない役立たずだ」

ジャギ「帰るぞ」

アミバ「手ぶらで帰るのと言うか?それじゃ後で拳王にどんな罰を受けるか分からんぞ」

シュウ「…いや、二人が闘えばどちらもタダでは済むまい。サウザーと拳王の無益な闘いを止めねばならぬ」

シュウ「拳王に組みせぬが、お前達と共に行こう」

ジャギ「…そうか。おいケンシロウ!貴様はどうする?兄者と聖帝がやりあうのを見物しに行くか?」

ケンシロウ「うむ。しかし奴にはどういう訳か秘孔が効かぬのだ。ラオウとて秘孔が効かぬ謎がある限りは…」

アミバ「フッフフフ…。俺は聖帝の謎を知っている!」

ケンシロウ「何!アミバ、お前は!」

―聖帝十字陵―

ラオウ「サウザー、うぬはこの拳王が居なくなったとでも思ったか?随分と好き勝手してくれおったらしいな」

サウザー「貴様が勝手に自滅して力を失っておいて何をほざいておる。先に密約を反故にしたのはラオウ、貴様ではないか」

ラオウ「相も変わらず小賢しい二枚舌、今日こそ引き抜いてくれるわ!」バサアッ

サウザー「よかろう。取り逃がしたケンシロウの代わりに、貴様のそのデカイ図体を十字陵の人柱にしてくれるわ!」バサアッ

ラオウ「皆の者!この勝負に手出しは無用!」

サウザー「貴様との腐れ縁も今日で終わりだ!ハアッ!」バシュウ!

ラオウ『相変わらずの踏み込みの速さよ!だが…』

ラオウ「小賢しい!バキィン」

サウザー「フッ、流石だラオウ!ケンシロウですら初撃は反応が遅れていたぞ」

ラオウ「うぬとは修業時代を含めて何度も闘り合(お)うておる!予備知識の無かったケンシロウと一緒にすると後悔する事になる!」

サウザー「たが貴様とて俺の身体の謎は解けておるまい!何度も闘り合って手の内を知っているのは俺も同じ!つまり貴様も俺の前ではケンシロウと変わらぬ!」

サウザー「ケンシロウと同じく無様に散れい!」

   極 星 十 字 衝 破 風

ラオウ「ぬうっ!」ブシャアッ

ラオウ「…ふん、それがうぬの奥義か!カこの様なかすり傷で…?」

バシュン!

サウザー「油断したなラオウ!」

      極 星 十 字 拳

ラオウ「なにィ!ぐわあっ!」ズバアッ!

ラオウ「ぬぬ~…!」

サウザー「止めだ!死ねいラオウ!」バッ

南斗鳳凰拳奥義
      天 翔 群 星 脚

ラオウ「ぐわおお~っ!!」

サウザー『やはり将星は非情の血によって輝く!愛など要らぬのだ!』

ズルッ

サウザー「なにっ!脚が!」

ズダァン!

サウザー「何故…何故着地で脚が滑ったのだ!うっ、た…立てぬ!」

ラオウ「この俺が貴様の身体の謎の前で何時までも手をこまねいていると思ったか!」

サウザー「もしや秘孔を…!」

ラオウ「死ねい!」

      北 斗 羅 裂 拳

サウザー「ぐはっ!」バシューン

クルクルッ…スタッ

サウザー『脚は…何とか動く様だ…』

サウザー「ぐふっ!貴様!俺の身体の謎を…」

ラオウ「いや、完全には解けておらぬ。解けてはおらぬがおおよその見当は付いておる!」

ラオウ「どういう訳か身体の中心に位置する秘孔だけは効果があるようだな」

サウザー「ふっ、だが見るがいい。貴様の突いた秘孔は俺の脚を完全に封じるには至っておらぬ」

サウザー『しかし長引けば完全に奴は気付くだろう。その前に勝負を決せねば…』

ラオウ『肉を斬らせて骨を断つ覚悟で突いた秘孔だが、確かに奴の言う通り、僅かに秘孔の位置がズレておる』

ラオウ『奴の拳を掻い潜って秘孔を突く事自体容易ではないと言うに…。このままではこちらが不利だ』

サウザー「よかろう!帝王不敗の誇りを賭けた拳、貴様に見せてやろう!」スーッ…

ラオウ「南斗鳳凰拳に構えが!」

サウザー「ケンシロウにすら見せなかったこの俺の究極奥義!果たして貴様にこの俺が倒せるかな!?」

南斗鳳凰拳究極奥義
     天 翔 十 字 鳳

サウザー「天翔十字鳳!行くぞ!」

ラオウ「空中から地に攻めるとは!撃ち落とせと言わんばかりの愚行!」

ラオウ「宙に浮いては身動きの取りようがあるまい!人は鳥にはなれぬのだ!どうりゃ!」

フワッ…

ラオウ「ぬお!?ぐはっ!」ブシュッ

サウザー「たあっ!」ヒュオッ

ラオウ「でえい!」

フワッ…

ラオウ「またしても!がはっ!」ブシュッ

サウザー「俺は天空に舞う羽根!どんな達人にも砕く事は出来ぬ!」

サウザー「ここまでだ…。ラオウ、野望と共に十字陵に散れ!ハアーッ!」ヒュオッ

ラオウ「砕けぬのならば…」クグォッ

ラオウ「吹き飛ばしてくれるわ!」ボォォッ

      北 斗 剛 掌 破

ズドオオオォォン!

サウザー「なっ!ギリギリまで引き付けて…!うわあああああーっ」ギュルギュルギュル…

ズシャアッーッ!ゴロゴロッ!

ブル「聖帝様ーッ!」

サウザー「ぐっ…ぐほあっ…」ガフッ

ブル「バカな!聖帝様が敗けるはずは無い!」ワナワナ…

ラオウ「剛掌破ですら直撃を免れおったか!本来ならばその五体は四散しているものを!」

ラオウ「だがもはやこれまで!今のうぬならば秘孔など突けずとも拳の一撃で倒せるわ!」

サウザー「はーっ…はーっ…闘気だけで俺を倒す事は出来ぬ…!拳技だけの勝負ならば南斗に分があるわ」

ラオウ『まだ退かぬか…。見事だサウザー!流石はこのラオウが強敵と認めた数少ない漢!』

ラオウ「うぬの闘志と南斗最強の拳に敬意を表して、このラオウも不敗の拳を以て葬ってくれよう!」

サウザー『俺はサウザー!南斗六星の帝王!』ザッ

ラオウ「ふぬうーっ…!」

サウザー『退かぬ!媚びぬ!顧みぬ!』ザッ

ラオウ「受けてみぃ、このラオウ無敵の拳!」グゴゴゴゴ…

サウザー「帝王に逃走はないのだーっ!」

ラオウ「天将―」

ガキィィィン!

ラオウ「何奴!…ぬ、お前は!」

シュウ「この男は殺させぬ!」ババッ

サウザー「なっ、シュウ!貴様…!」

シュウ「私は将星が激しく光輝く可能性を見た!未来への可能性、未来の希望に生きるが我が仁星の宿命!」

サウザー「貴様…俺の将星ですらその仁星で照らそうと言うのか!」ハッ

―将星はそれのみで輝かず。他の星の光を受けて輝く星也。

サウザー『もしや、我が師オウガイの言葉はこの事を!将星は独裁の、孤高の星ではないと言うのか!』

ラオウ「シュウよ、南斗六星ではこの拳王を止める事は出来ぬ。俺の敵はうぬではない…退けい!」

シュウ「退かぬ。サウザーもまた仁星の光の中に在るのだ!」

ラオウ「ならばサウザー共々、俺の闘気で消し飛ぶが良い!」

ラオウ『目の見えぬ貴様にこの技を回避する術は無い!』

     北 斗 剛 掌 破

ブル「聖帝様ー!」

シュウ「!」ドンッ

ゴオオオオッ!

ラオウ「」ニヤリ

ラオウ「なっ!?」

サウザー「」ハーッ…ハーッ…

ブル「おおっ!聖帝様ー!」

シュウ「サウザー…お前、私を助けて…」ハッ

シュウ『何だこの感覚は。今までのサウザーとは全く違う…』

ブル「おお…見ろ!聖帝様のお顔を!」

リゾ「険が取れて何とも慈愛に満ちたお顔に!」

ハッカ「しかし何処かもの哀し気だ…」

ラオウ「ぬく!おのれ!北斗剛掌―ぐあっ!」ブシュゥ

ラオウ「こ、これは南斗白鷺拳!」ハッ

シュウ『何だって!?』

サウザー「」ユラリ…

ラオウ「無数の掌が…気配が読めぬ!」

シュッ

ラオウ「ぬあっ!」ビシュッ

シュウ『これは誘幻掌か!?サウザーが私の南斗白鷺拳の奥義を!?』

ラオウ「何だ…一体どうしたと言うのだ!こやつに…サウザーに何が…!」

サウザー「」

ラオウ「何とも哀しい目よ…。俺の知る非情のサウザーの目ではない!」ハッ

ラオウ「まさか…まさかこれは…!」

男「そう、無想転生」

ラオウ「何ィ!戯けた事を!北斗神拳究極奥義である無想転生を、何故南斗のサウザーが纏えるものか!」

男「愛と哀しみを背負い得る者は何も北斗に限った事ではない。南斗だろうが泰山だろうが、それこそ拳法家ですらない者だってそれは起こり得るだろう」

ラオウ「北斗史上誰も体得出来なかった無想転生を最初に体得したのが南斗のサウザーと…?その様な事が!」ワナワナ…

男「いや、あれは体得したと言うよりは、無想転生の方がサウザーを乗っ取ったと言う方が正しい」

男「だからサウザーは体得した訳ではないだろう」

ラオウ「何故うぬはこのラオウですら知り得ぬ事をさも当然の如く語れるのだ」

男「この世界が好きだからなー。もう最初から最後まで、隅々まで何度も見たよ」

ラオウ「…うぬは何を言っておるのだ?」

男「それよりも、ここは退いた方が良いんじゃないのか?お前とて平気ではないだろう」

男「無想転生状態のサウザーと渡り合うのはかなり分が悪いと思うが」

ラオウ「ぬ~…!」

男「それにケンシロウやトキも後に控えているんじゃないのか?ここで傷を負えば覇道はさらに遠くなるぞ」

ラオウ「やむを得ぬ。ここは退こう。俺の最終的な目的な天を握る事であって、サウザーを倒す事ではない」

ラオウ「サウザーよ、勝負は預けておく!皆の者、引き上げだ!」

ドドドドド…

ジャドウ「拳王様!聖帝の秘密が解りました!何と心臓の位置が…あれ?拳王様は?」

男「帰った」スッ

ジャドウ「そんな!来る途中で切れたガソリンを苦労して手に入れてまで急いで来たのに~」ブロロローン…

―サウザーの居城―

サウザー「ううっ…ぬ?ここは?」

ブル「おお!お目覚めでございますか聖帝様!」

サウザー「何故俺はこんなところで寝ていたのだ?ラオウは…シュウや皆はどうなった」

シュウ「私はここだ。お前の部下も誰一人欠けてはおらん」

サウザー「そうか…。ラオウとの決着が付いた記憶が無いが、俺は奴に敗れたのか」

シュウ「いや。お前が無想転生を纏った姿を見て、拳王は分が悪しと判断したのであろう。引き返して行った」

ブル「そうでございますとも!聖帝様の勇姿!あの慈愛に満ちたお顔!このブル、感極まりましてございまする」ウルッ

サウザー「無想転生?慈愛?俺がが?」

シュウ「間違いない。サウザー、お前の将星は輝きを増している」

シュウ「私の目もこんなで無くば、慈愛に満ちたお前の顔を一目見たいものだ」

アミバ「ほぉ…目が悪いのか。どれ、俺が治してやろう」ズイッ

シュウ「いや、これは自分の拳で潰したのだ。治せるようなものでは…」

アミバ「心配するな。俺は天才だ。俺に不可能は無い!」サッ…

シュウ「気持ちは嬉しいが…」フッ

ケンシロウ「シュウ、その男はトキも認めた男だ。安心して任せるがいい」

シュウ「ケンシロウが信頼するならば、私も信頼してみよう。頼む」

アミバ「その目を治す秘孔はこれだ!」ピシッ

シュウ「…!」

アミバ「ゆっくり目を開けてみろ。見えるはずだ」

シュウ「おお…なんと!サウザー、お前か!」

サウザー「シュウ…まさか見えるのか?」

シュウ「私の…私の仁星はやはり間違いではなかった!その目を見れば解る!」

ケンシロウ「シュウ!」

シバ「父さん!」

シュウ「シバ…!お前はケンシロウか!ああ…!何とも逞しく育ったものだ!」

ジャギ「お前、ホントにすげーな」

アミバ「天才だから当然の事だが、俺も時々自分の天才振りが恐ろしくなるわ。フヒャヒャヒャ!」

ブル「シュウ…いや、シュウ殿!これからは腹心として聖帝様に力をお貸しくださらんか!この通り!」ガバアッ

シュウ「頭を上げなさい。もとよりそのつもりだ。私は将星が光輝き、人を治める世を見てみたい!」

サウザー「南斗乱るる時北斗現ると聞く。だが裏を返せば南斗が結束する限り北斗は現れないと言う事だ」

サウザー「いや、現れても違う役割を担うのであろう。乱れた時は南斗を滅ぼすが、結束した時は…」

シュウ「…南斗を光輝かせる」

―サウザーよ。南斗の極星、南十字星は一つの星に非ず。

サウザー『あの意味はこれか!他の南斗と北斗によって南十字星は極星として輝く…と!』ハッ

サウザー「南斗の先人達は北斗の影に怯えていたのではなく、南斗が乱れる事を恐れていたのか…」

サウザー「フッ…完全に俺の誤りだ」

ケンシロウ「師父リュウケンも常々教えていた。北斗と南斗は表裏一体、争ってはならぬ。力を合わせてそれぞれの拳を伝承せよ…と」

―聖帝十字陵―

シュウ「さあ、後はこの聖碑を頂上に積むだけだ」

サウザー「うむ。最後はやはりこの聖帝の手によって完成させねばなるまい!」スッ

シュウ「サウザーよ。この聖碑は私に積ませてくれぬか」

サウザー「シュウ、お前が!」

シュウ「済まぬ。私の背に載せてくれ」

ジャギ「おう」

アミバ「なんなら、筋力が数倍になる秘孔を突いてやろうか?」ササッ

シュウ「心配するでない。この聖碑を皆の未来と思えば重くはない」ズシッ

ズシッ…ズシッ…

ケンシロウ「頂上に着いた…」

シュウ「聞け、皆の者!これより将星は南斗の極星として光輝く!」

ドシーンッ!

―おわり―

―おまけ―

サウザー「ところで、ケンシロウと共に居るお前達二人は誰なのだ?」

アミバ「フッフッフッ~…聞いて驚くがいい!俺はあのトキですら俺には及ばぬと認め!」

アミバ「ケンシロウや拳王ですら見抜けなかった、貴様の謎である内臓逆位を見抜いた男!」

アミバ「秘孔の天才!アミバ様だぁー!」

サウザー「ほう…。それが本当なら確かに天才と言う他あるまいな」

アミバ「そうだろう?聖帝のお墨付きの得た事でますます俺の天才の名にハクが付いたわ!」

ジャギ「俺はジャギ。北斗の三男で、そこのケンシロウの義兄だよ」

サウザー「おお、お前がジャッキーか。実は最近まで北斗は三兄弟とばかり思っておってな」

ジャギ「お前、ワザと間違えてねぇか?あぁん?」

サウザー「北斗の男にしては品性の欠片も感じんな。本当にこの男はお前の兄か?」

ケンシロウ「ああ。確かに昔はどうしようもない男だったが、今は違う。口と態度の悪さだけは直らぬようだが」

ジャギ「おいケンシロウ!貴様…フォローする気あんのか?」

ケンシロウ「ない!ところで、お前の顔が元に戻っているが、どうしたのだ?」

ジャギ「ひょっとして今気付いたのか?気付くの遅過ぎるわ!バカめ!」

シュウ「盛り上がっているところ悪いが、見てくれ。聖帝十字陵の完成だ」

サウザー「ご苦労」

―お師さん。貴方の聖帝十字陵が完成しました。貴方が私に見た極聖を現実のものとする事をここに誓います。

―天で再び会うその日まで…さらばです!

―ホントにおわり―

他の編と比べて二倍以上の長さ、それに伴う誤字脱字の増加、さらにグダクダで纏まりの無い感を拭い切れず、大変読みにくい愚作と化してしまい、楽しみにしていた方には申し訳ない事になってしまいました。

出直して参ります_(:3」∠)_

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