宮本フレデリカ「ナキムシのうた」 (15)
アイドルマスターシンデレラガールズです。
宮本フレデリカのお話です。
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「この度は真に申し訳ありませんでした」
例え納得出来なくても頭を下げなきゃいけないのが大人ってもんだ。
「……フレデリカ」
でも、大人じゃない彼女には難しい事なのだろう。先ほどから目は何かを訴えるように、口は何もかもを拒絶するかのように真一文字に結んだままだ。
「申し訳……ありません……」
ようやく、その一言だけを絞り出した彼女の顔はまるで苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「……フレデリカは悪くなかったと俺は思うよ」
車を事務所に向け走らせながら、助手席にいる彼女に話しかける。
「……」
普段の陽気さは何処へ行ったのか。彼女は先ほどから窓の外を見てこちらに目をくれようともしない。
「でも、大人の世界は悪くなくても頭を下げなきゃいけない時があるんだよ」
きっと、彼女には納得する事は出来ないだろう。だって、彼女は大人ではないのだから。でも、もう子供とは呼べない年齢になっている。
「……わかんない」
「だろうな」
ようやく一言発したかと思えば俺の予想通りの答えだった。
「正直、俺だってわかってない」
何故、悪くないのに謝らないといけないのか。その答えは波風を立てないようにするためなのだろう。理解は出来るが俺だって納得は出来ない。
いい歳になったおっさんですら納得出来ないのにたかだか19歳の女の子では到底納得出来ないだろう。
「なぁ、フレデリカ」
返事はないのだが、聞こえない距離ではないはずなので勝手に続ける。
「お前は偉いよ」
きっと、彼女と同じ状況に19歳の俺がなったとして、俺は促されたからと言って頭を下げられたかはわからない。……いや、当時の俺ならまず無理だろう。
「元気出せ、とは言わないけど、そのなんだ……」
こういう時にどんな言葉をかけてやればいいのか全く思いつかない。無駄に歳ばかり重ねてるのに、気の利いた言葉なんて出てきやしない。
「やだなー、アタシは元気だよ。元気過ぎてやっばいよ」
口ではそんな事を言っても、今のフレデリカがまとう空気からは普段の彼女らしさは微塵も感じられない。
「気分転換にCDかけてもいい?」
俺が許可をすると、彼女はダッシュボードを開けゴソゴソとCDを探し始めた。
「んー、これにする!」
お目当ての物を見つけたのだろう。ゴソゴソと探るのを辞め、カーステレオにCDを挿入して再生ボタンを一押しするところが視界の端に写っていた。
「お、風味堂にしたのか」
カーステレオから流れて来た音楽に思わず反応してしまった。
「ふうみどう?」
「そ。俺が好きなバンド。最近全然聞いてなかったな」
最近はうちのアイドルの曲しか聞いていなかったが、昔は風味堂くらいしか聞いていなかった気がする。
「へぇー。じゃあプロデューサーのおススメなんだね!」
「まぁ、そうだな。フレデリカが気に入るかどうかは分からんけどな」
彼女は俺の言葉を聞くとふんふん、と二度三度と頷いてから、また窓の外を眺め始めた。
「ギターの音が聴こえないね」
「ピアノとベースとドラムだけだからな」
変わってるね、と彼女は呟くように言うと、その言葉を最後に無言に戻ってしまった。
いつもならうるさい位に賑やかな彼女が無言でいると不安に感じてしまう。そりゃ、彼女だっていつもいつも騒がしいわけではないのだが。
車内に歌だけが流れる。俺も彼女も一言も発しないまま、一曲目が終わった。
二曲目が流れはじめ、少し経った頃、彼女の様子が変わった気がした。
「どうした?」
特にどこが違うとは言いえないのだが、なんとなく先ほどまでの彼女と、今の彼女がまとっている雰囲気が違うような気がするのだ。
「……これ、良い曲だね」
「気に入ったか?」
どうやら、風味堂は彼女のお気に召したようだ。
「うん。もっかい聞いても良い?」
「いいぞ」
俺が許可を出すと、フレデリカは再びカーステレオをいじりだし、CDケースから歌詞カードを取り出した。
「何かに耐えて笑うより、何もかもすべて忘れて泣く時も必要なんだ……」
フレデリカが歌詞カードを見ながらポツリと歌詞の一部分を読み上げた。
「そして元気が出たなら歌いましょう」
多分俺に向けて言ったわけではないのだろうが、とりあえず歌詞の続きを諳んじておく。
「……なぁ、フレデリカ」
フレデリカはいつだって笑っている。楽しそうに嬉しそうに。まるで喜怒哀楽の喜と楽しかないかのように。
「なぁに?」
「泣く時も必要なんだよ。人生には」
運転をしたままではフレデリカがどんな顔をしているかはよく分からない。でも、きっと今もあの時のように苦虫を噛み潰したような顔をしているのだろう。
「お前は優しいからさ、みんなに笑顔で居てもらいたいってのもよくわかる」
いつも突拍子のない事を言って周りを振り回しているが、その実フレデリカは周囲を良く見ている。
誰かが泣きそうだったり辛そうだったりすると、いつの間にかその娘の側で楽しそうに笑いかけるのだ。
邪険に扱われようが、たまにはきつい言葉を浴びせられようが。……その娘が笑顔になってくれるまで。
「でも、俺はお前が泣いているところ一度も見た事無いぞ。それなりに付き合い長くなったのにさ」
フレデリカからの返事は無い。
「お前の事だから、どんなに辛くても悲しくても人前じゃ絶対に泣かないんだろ? 家に帰って一人になってから泣いてるんだろ?」
「……やだなぁ、アタシはいつだって元気で笑顔に決まってるよ」
ようやく返って来た返事は、言葉の中身こそいつものフレデリカだったが、少しだけ声が震えていた。
「……俺は今運転してるからフレデリカの方は見れないぞ」
「うん……」
段々とフレデリカの声から力が抜け涙混じりになってくる。
「それに、今なら誰も見てないから」
「……うっく………ひぅっ……」
車内に広がるフレデリカの嗚咽をかき消すために、俺はカーステレオのボリュームをちょっとだけ上げてやる。
俺もへたっぴだけど、サビに合わせて軽く口ずさむ。
俺自身の言葉ではないけど、俺なりの心を込めて。
「シャララ……さぁ気がすむまで」
「明日の君に届くまで」
明日の君が笑うまで。
End
以上です。
フレちゃん、書くの難しいですね。好きな娘ですし、なんとなくイメージは出来るのにフレちゃんのセリフにならない感じです。
フレちゃんはすごく繊細な娘だから、一目のないところで静かに泣くんだと思います。次の日には何事もなかったかのように振る舞うために。
泣く時も必要なんだって言ってあげたい。
タイトル及び作中に風味堂の「ナキムシのうた」を使用させていただきました。
今は無き「世界ウルルン滞在記」で一時流れてた曲です。初めて聴いて惚れ込むくらいには素晴らしい曲です。
他にも風味堂は良い曲いっぱいありますので、是非一度お聴きください。
では、お読み頂ければ幸いです。
依頼出してきます。
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