男「一番恐ろしいのは人間だったんだ……」 (15)
男「――ってオチの物語を作りたいんだけど、どうすりゃいいと思う?」
女「どうすりゃいいって、どういうこと?」
男「どういうストーリーにすればいいか、考えて欲しい」
女「ちょっと待って。そういうのって普通は書きたいテーマがあって、それに付随するもので」
女「そのオチありきで書くってのはなんか違うんじゃない?」
女「あんた自身、なにか書きたいテーマってないの?」
男「ない! このセリフがオチにくれば何でもいい!」
女「はぁ……」
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女「うーん……そうねえ」
女「たとえば……悪い妖怪集団がいるのよ」
男「うん」
女「そいつらは人間に対して攻撃を仕掛けて、次々に事件を起こすの」
女「暴力を振るったり、町を破壊したり、時には死人を出したり……」
男「マジかよ! 妖怪最低だな!」
女「そこで彼らを退治すべく、妖怪バスターっていうチームが結成されるの」
男「マジかよ! 妖怪バスター最高だな!」
女「ちょっと黙れ」
男「はい」
女「で、妖怪バスターは激戦の末、妖怪たちを追い詰めるの」
女「だけど……ここで驚愕の事実が明らかになるの」
男「……ど、どんな?」
女「実は悪い妖怪集団を操ってたのは、他ならぬ人間だったのよ」
男「えええ!?」
女「法では裁けない妖怪を言葉巧みに利用して、手足にして、悪事を働かせてたってわけ」
女「――で、あんたがいってたセリフがオチに来るってわけ」
男「……なるほど!」
男「妖怪は敵に回すとたしかに強くて怖くておっかないけど……」
男「それを利用して悪事をやらせる人間のがよっぽど恐ろしいじゃねえか、って構図か!」
女「そうそう、そんな感じ」
女「妖怪たちにやむをえない事情があった~なんて設定にすれば、より人間の醜さを描けるわね」
男「うんうん、なかなか面白いじゃん!」
女「他にはこんなのはどう?」
女「ある繁盛してる店があるの」
女「だけど、毎日のように幽霊が出没するようになって、売上がガタ落ちしちゃうのよ」
男「そりゃ大変だ」
女「そこで、探偵みたいなことをやってる主人公が調査を依頼されるんだけど……」
男「けど?」
女「すると、あらビックリ」
女「幽霊の正体は人形かなにかで、それを作った犯人はライバル店の店主だったのよ」
男「うへえ~、そういうオチか」
女「で、事件を解決した後に主人公が一言例のセリフをつぶやくってのはどう?」
男「いいねいいね!」
男「幽霊なんかより、幽霊をでっちあげてまでライバルを蹴落とそうとする人間のが怖いってことだな」
女「そういうこと」
女「あとは、こんなのも思いついたわ」
女「ある世界で、人間と、人間を容赦なく襲う化け物の戦いが繰り広げられてるの」
女「基本的には人間サイドのが弱いんだけど、知恵と工夫でどうにか戦いを五分五分に持ち込む」
男「ほうほう」
女「で、とうとう人間は化け物の正体を暴くの。そしたら――」
女「実は化け物の正体は、人間が作り出した生体兵器のなれの果てだったってことが分かるの」
女「人間を襲ってた理由は、そういう風に命令をインプットされてたからに過ぎなかったのよ」
男「ようするに、人間は自分たちが作った兵器とずっと戦ってただけってことか」
男「しかも化け物側としては命令されたことを忠実に守ってるだけっていう」
女「自分たちの敵は未知のモンスターでもなんでもなくて、単なる身から出たサビだったってわけ」
男「なんだか今の環境問題に通じるものがあるなぁ」
女「あとは、今のパターンの変形だけど……」
女「人間サイドがものすごい超兵器を開発して化け物を一掃するの。で、めでたしめでたし」
男「なんだ、ハッピーエンドじゃん」
女「そう、物語もやったー、ハッピーエンドだー、で幕を閉じようとする」
女「だけどもし、将来その超兵器を悪用しようとする者が現れたら……それは化け物以上の脅威になるわ」
女「そのことを悟った誰かが、さっきのセリフをつぶやく……とか」
男「ハッピーエンドと見せかけてモヤモヤエンドってわけか。ぞっとするねぇ」
男「こうして聞いてると、なんつーか人間ってのは最低だな!」
男「妖怪を利用するわ、幽霊をでっちあげるわ、化け物作るわ、超兵器開発するわ……」
男「いっそ滅んだ方がいいんじゃって気もしてきたぜ!」
女「いや、今までのはあくまであたしの空想だから……」
男「ハハハ、冗談冗談」
男「よぉし、今もらったアイディアを参考にして、傑作を書いてみせるぞ!」
和尚「さっきからキャンキャンうるせえぞ、てめえら!」
男女「ひっ!」
和尚「不憫な死に方したらしいから、俺んちの墓地に住まわせておいてやってるがよ……」
和尚「あんまうるさくすると、成仏させっぞ! いや……消滅させてやっからな!」
男女「すみません、すみません!」ペコペコ
和尚「ケッ、お化けのくせにカップルとかなめてんじゃねーっつの……俺は独身だってのに……」スタスタ
男女「…………」
男「あー、怖かった……」
女「やっぱり、あたしたち幽霊や妖怪なんかより……」
男「一番恐ろしいのは人間だったんだ……」
おわり
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