【艦これ】灰色の未来 (18)



五十鈴「五十鈴は反対よ」

提督「お前は心配性だな」

五十鈴「提督が不用心なだけよ! 深海棲艦を……それも水鬼相手に護衛もつけずに尋問をするなんて、正気じゃないわ!」

提督「筋弛緩剤を打って四肢を拘束し、兵装も無力化しているんだろう?」

五十鈴「バカね、人の使う薬が効くわけないじゃない! 万が一暴れられた場合、提督には抑える手段がないって五十鈴は言ってるの」

提督「自衛の手段ならここにある。ほら」

五十鈴「ふざけないで。そんな銃が効かないことぐらい知ってるでしょ?」



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提督「まあまあ。大破させたお前が傍に居ては深海棲艦も震え上がって口がきけないだろう」

五十鈴「戦ったからこそ水鬼の危険性も承知してるの! そもそも尋問の意味が分からないわ。あいつらは決して分かり合えるような存在じゃない。
    深海棲艦は速やかに沈めるべきだわ。それを拿捕してここに持ち込むなんて……」

提督「だが我々が少しでも深海棲艦の情報を欲しているのは、お前も知っているだろう?」

五十鈴「無駄よ。あの深海棲艦は口を割らないわ」

提督「分っている。いかなる手段を用いようとも有益になる情報は吐かないだろうな」

五十鈴「だったらどうして……」

提督「糸口を見つけるためだ。我々はそろそろ別のアプローチで深海棲艦と接触しなければならない。それを知るための糸口をな」



五十鈴「護衛はつけるべきよ」

提督「五十鈴、これは命令だ。そして私も、お前にそう言わなければならないように命令を受けている」

五十鈴「……」

提督「……」

五十鈴「わかったわ。でもあの水鬼が少しでも不審な行動を見せた場合、速やかに五十鈴を呼んで」

提督「ああ。頼りにしている」

五十鈴「拿捕した水鬼はこの部屋で拘束してるわ。気をつけなさい」



ガチャリ


提督「……」

提督「しかしまあ……随分と怖い顔だったな。私の心配というよりは、一刻も早く脅威を排除したいといった様子だ。
   やはり艦娘が深海棲艦に向ける感情は別種のように見える」

駆逐水鬼「……」

提督「こいつか」

駆逐水鬼「ウ……アア……」

提督「手酷くやられたようだな。だがお互い様だぞ、貴様が我々の艦隊にしたことを思えば残酷とは思わん」

駆逐水鬼「クライ……ナニモミエナイ……わた、し……ドコニ、オチル……」

提督「目の焦点が合ってないな。起きろ」

駆逐水鬼「ア……?」



駆逐水鬼「ア……アアアアアアアア!」

提督「おわっと危ない……寝起きの良い奴だ」

駆逐水鬼「キサマ……!」

提督「お初にお目にかかる。私は貴様を大破させた艦隊を指揮していた者だ」

駆逐水鬼「シズメテヤル……! グウゥ……ナンダコレハ!? ハズセ! アアアア……!」

提督「暴れるのは当然だ。私は座らせて貰うぞ。飽きたら教えてくれ」



駆逐水鬼「……」

提督「……」

駆逐水鬼「……ココハ、ドコダ?」

提督「教えることはできない。想像するのは自由だがな」

駆逐水鬼「ワタシハ……トラエラレタノカ……」

提督「随分と苦労した。敵ながら天晴と言う他ない。む……今の発言は内緒だぞ? 誰かの耳に入ったらお咎めを受けてしまう」

駆逐水鬼「ナゼ、シズメナカッタ?」

提督「腹を割って話をしたいのだ」

駆逐水鬼「ニンゲンドモニ、ハナスシタハナイ」

提督「知っている」



駆逐水鬼「コロスガイイ……」

提督「まあまあそう急くな。私は艦娘の親玉みたいな存在だ。お前たちにとってまさに天敵中の天敵だ。そいつが何を考えているか聞くのも一興ではないか?」

駆逐水鬼「……」

提督「少しは興味を持ってくれたか。そうだな、まずお前を捉えたのは別に不思議な事じゃない」

提督「我々人類は過去に何度も深海棲艦と接触を図ってきた。仮にもこうして意思疎通ができるのだから、情報の入手だって可能だろうと考えたからだ」

駆逐水鬼「ムダナコトヲ……」

提督「ああ。そのすべてが無駄に終わったのは歴史が証明している。いかなる薬剤を用いようとも、肉体的苦痛を与えようともお前たちは決して情報を漏らさない。
   解剖実験などの生化学的な面からのアプローチもすべてが徒労に終わっている。だからこそ、今日まで人類はお前たちに対して無知なのだ」

駆逐水鬼「……ソノクチヲ、トジロ」

提督「む、気に障ったか? だが腹を割って話すと言ったのでな。それにお前たちも我々人類に対して似たような事をしてきたはずだろう?」

駆逐水鬼「……」



提督「深海棲艦は数十年前に突如として全世界の海に現れ、瞬く間に人類から制海権を奪った。その後、それに対抗するように在りし日の艦艇の魂を持つ存在、艦娘が現れた」

提督「お前たちの目的はなんだ? 世界の海を支配することか?」 
  
駆逐水鬼「……ダトシタラ、ナンダ」


提督「ただの確認だ。それとお前たちは艦娘に対し並々ならぬ感情を持っているな?」

駆逐水鬼「アタリマエダ……キサマラニンゲンハ、ワレワレヲ、キズツケルコトハデキナイ……ダガ、カンムスハチガウ……」

提督「そうだな。人類の兵器はお前たち深海棲艦に対し無力だ。唯一対抗できるのは艦娘だけだ」

提督「だから艦娘を脅威に思うのは当然だ。だが、それだけじゃない気がするのだ。お前たちは艦娘に対し異様な執着を見せているだろう? 
   よくわからないが、それは負の感情に起因している。そして艦娘もまた深海棲艦に同様の執着を見せている……」

駆逐水鬼「ナニガイイタイ?」

提督「いや……私もこんがらがってきた」

駆逐水鬼「……」

提督「お、今呆れたな? お前たちもそういう感情はあるのだな」

駆逐水鬼「……」




提督「冗談だ。つまり私が言いたいのは、深海棲艦と艦娘は有り方がとても似ているということだ。特に鬼級や姫級なんかは姿形までそっくりだ」

駆逐水鬼「ダカラドウシタ?」

提督「お前は自分が艦娘に似ているとは思わないか?」

駆逐水鬼「ワタシハ、ワタシダ……カンムスハ、シズメル……ソレダケダ」

提督「そうだ、その考えは艦娘も同じなんだ。彼女たちの存在意義を教えてやろう。それは深海棲艦と戦い、制海権を取り戻すことだ。
   だから私はお前たちもそうだと考えている。艦娘を沈め、制海権を取り戻すこと。それが深海棲艦の目的だ。違うか?」

駆逐水鬼「カッテニ、ソウオモッテイレバイイ」

提督「だが唯一違う点がある。それは深海棲艦の背後には提督のような存在が居ないことだ。だが私は見えていないだけで、絶対に居ると考えている」

駆逐水鬼「……」



提督「恐らくは艦娘と深海棲艦は対存在なのだ。オセロのように白黒分かれた存在だ。先にこの世界に現れたお前たちが先攻で、艦娘が後攻だ。それだけの違いではないのか?」

駆逐水鬼「コノニンゲンハ、キデモチガエタカ……?」

提督「こいつを見ろ。銃だ。陸軍が開発した対深海棲艦用の兵器……お前たちを解剖研究して作られた人類の英知の結晶だ」

駆逐水鬼「ソンナガラクタ、キキハシナイ」

提督「そうか、では試させてもらうぞ……」バァン!

駆逐水鬼「……」キン

提督「……」

駆逐水鬼「ムダダト、イッタロウ……アタマノワルイヤツダ」



提督「ああ分っていた。この銃は艦娘にも効果がなかったらしい。ならばお前たちに効かないのも当たり前だ。だがこれが今の人類の限界なのだ……」

駆逐水鬼「キサマラノ、エイチトヤラハ、トルニタラナイ……キョウイニモナラナイ」

提督「その通りだ。こと深海棲艦において、人類の技術はとっくに座礁していた。だから別のアプローチを考えたのだ。
   簡単な話だった。目には目を、歯には歯を……艦娘に有効なら、深海棲艦にも有効なはずなのだ。違うか……?」

駆逐水鬼「……?」

提督「始めはイ級からだった。それからロ級ハ級と、徐々に高等艦へとシフトしていって……劇的な成果を得られたのはチ級からだった。
   そしてリ級ヌ級と上がるにつれて、我々はようやく理解してきた……」

駆逐水鬼「ナニヲイッテイル……?」



提督「人型だ……! 艦娘と深海棲艦は対存在なのだ! 艦娘と同様、人の姿をし人語を解する鬼級・姫級ならば、より望む成果を得られるに違いないと結論付けた!」

駆逐水鬼「ナンダ、キサマ……イッテイルコトガ、リカイデキナイ……」

提督「分からないか? 資源の話だ! 深海棲艦はどんなに倒そうとも無限のように湧いてくる。ここでお前を処分しようとも、どうせまた似たような個体が現れるのだろう?」

駆逐水鬼「……」

提督「そうとも。艦娘で出来るなら、深海棲艦で出来ないはずはなかったのだ。今こうしてお前と話してみて、私は確信した。
   お前はまさに艦娘の対極のような存在だ。必ずや我々の期待に応えてくれるに違いない」

駆逐水鬼「ナニヲ、カンガエテイル? ワタシヲ、ドウスルツモリダ……?」



ガチャリ


夕張「提督、準備が出来たよ!」

提督「ああ。待っていた」





提督「こいつを解体しろ」





その後。深海棲艦の解体・近代化改修の研究が進み、艦娘の間では深海棲艦由来の兵器が広く使われるようになる。

深海棲艦はともすれば資源とみなされるようになり、人類は急速に版図を広げていった。

だが彼らはまだ気が付いていない。

人類に敵対行動をとる深海棲艦と、人類を守る艦娘。オセロのように白黒別れていた存在が交わることが、どのような結末をもたらすのかを……

おしまい。

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