秋山優花里「西住邸・ウォー!」 (55)

大洗女子学園

沙織「やっぱり、今年の冬はこの色が来るんだよ。絶対」

華「そうなのですか?」

みほ「あ、可愛いなぁ」

沙織「でしょでしょ! 今度、一緒に買いにいこうよぉ」

みほ「うん、そうしよっか」

華「楽しみです」

沙織「新しい服で、女子力もぐーんとアップだよぉ」

優花里「あのぉ……」

沙織「もちろん、ゆかりんも一緒ね」

優花里「あ、いえ、それは嬉しいのですが……あの……その……」モジモジ

麻子「言いにくいことか?」

華「なんでも仰って、優花里さん」

優花里「その、次のお休みなのですがぁ……西住殿のご実家に行くというのは……ダメでしょうか……?」

みほ「えぇ!? わ、私の家に!?」

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沙織「なんでまた」

優花里「以前、西住殿が「今度遊びに来て」と……言っていたので……」

麻子「ああ。転校手続きのときか」

みほ「あ……あぁ……」

優花里「やっぱり、ダメ……ですか……?」

みほ「えっと……。う、ううん! いいよ。それじゃあ、今度のお休みにでも来る?」

優花里「いいんですか!? う、うれしいです!! あぁ、西住殿のご実家を拝見できるなんて夢のようですよぉ……」

みほ「あはは……」

沙織「いいの、みぽりん?」

麻子「色々あったんじゃないのか」

みほ「きっと、大丈夫。お母さんにもちゃんと伝えておくし」

優花里「あ、やはりご迷惑……ですよね……」

みほ「そ、そんなことないから!! 全然! うん!! 優花里さんを招待したいぐらいだし!!」

優花里「よかったです!」

沙織「ホントに大丈夫かなぁ」

夜 みほの部屋

みほ「……」

みほ(お母さんに伝えるだけ……。次の休みに帰るね……友達も一緒だけどいいかな……)

みほ(そう伝えるだけ……伝えるだけだから……)

みほ「……」ピッ

『――はい、西住です』

みほ「み、みほ、です」

『家元と代わりますか?』

みほ「あ、えと……い、いいです。その、お母さんに……今度のお休みに……あの……」

『こちらへ戻られるのですか?』

みほ「あ、なんでもないです」

『おまちに――』

みほ「……」ピッ

みほ「うぅ……なんだか……言えなかった……」

みほ「あ、明日! 明日言おう!! 明日はちゃんと言わなきゃ!! 明日言う!! 今日はもう寝よう!! おやすみ、ボコ!!」ギュゥゥ

数日後 教室

みほ「……」

優花里「明日ですね! とても楽しみです!! やはりお土産は大洗の名産品がいいでしょうか!?」

みほ「あ、うん。良いと思う……」

優花里「失礼のないようにしないと!!」

みほ(結局、何も伝えられてない……どうしよう……)

沙織「みほ? ホントに明日、ゆかりんをつれて実家に帰るの?」

みほ「う、うん」

沙織「それにしてはなんだか、暗いけど」

みほ「帰ること伝えられてないんだ……勇気がでなくて……」

沙織「ヤバいじゃん。お姉さんには? お姉さんなら色々と間を取り持ってくれたりしないの?」

みほ「けど、いつもお姉ちゃんに頼ってばかりで……」

沙織「そうも言ってられないんじゃない? ゆかりん、目を輝かしてるもん」

みほ「そう……だね……」

優花里「どのような服装がいいでしょうか。やはり、迷彩色に身を包んでいたほうが無難でしょうか」

みほ「――っていうわけなんだけど」

まほ『そうか』

みほ「どうしたら、いいかな」

まほ『分かった。私もその日は実家に戻ろう』

みほ「ごめんね……」

まほ『構わない。来るのは一人だけか』

みほ「うん」

まほ『では、お母様にはそのように伝えておく』

みほ「本当にごめんなさい」

まほ『気にしなくてもいい。ただ、夜にでもお前の口から友人を連れて行きたいということを告げるべきだ』

みほ「うん……そうだよね……」

まほ『では、切るぞ』

みほ「うん。夜に私から電話してみる」

まほ『お母様もそれを望んでいるはずだ』

みほ「そうだと……いいな……」

西住邸

しほ「……はい?」

まほ『私です。お母様』

しほ「まだ授業中ではなくて?」

まほ『今は丁度、休憩の時間です』

しほ「何か用?」

まほ『明日なのですが、みほが実家に戻り――』

しほ「みほに西住の敷居は跨がせない」

まほ『え……』

しほ「西住の人間ではない者を招く理由はない」

まほ『しかし、その、みほも……』

しほ「何を言われたのかは知らないけれど、ダメよ」

まほ『お母様、そこを……』

しほ「なりません」

まほ『……』

大洗女子学園

ピリリリ……ピリリ……

みほ「あ、お姉ちゃんからだ」ピッ

まほ『みほ……』

みほ「お姉ちゃん、どうしたの?」

まほ『……』

みほ「お姉ちゃん?」

まほ『いや、何でもない。お母様は快諾してくれた』

みほ「ホント!?」

まほ『ただ、その日はどうしても外せない予定があるらしく、出迎えることはできないとのことだ』

みほ「そうなんだ……。でも、お母さんが許してくれてよかった……」

まほ『そうだな』

みほ「それじゃ、約束通り夜に私から電話を――』

まほ『しなくてもいい。話はついたからな』

みほ「え? でも、私の口から言ったほうが良いって……」

まほ『しなくてもいい。もう約束は取り付けた』

みほ「そ、そうなんだ……」

まほ『以上だ。明日、港で待ち合わせよう』

みほ「うん。ありがとう」

まほ『気にするな。ではな』

みほ「明日ね、お姉ちゃん」

みほ「はぁ……。お姉ちゃん、ありがとう……」

優花里「西住殿ー!! そろそろ戦車道の授業ですよー!!」

みほ「あ、そっか。早く行かないと」

優花里「急ぎましょう!!」

みほ「優花里さん、明日なんだけど」

優花里「はい! 何か必要なものがありましたら、今日中に用意しますけど」

みほ「気を遣わないで。ただ明日はお姉ちゃんと待ち合わせをして、行こうと思ってるんだ」

優花里「まほさんとですか!! 益々感激です!! あぁ、明日が待ちきれませんよぉ!!」

みほ(秋山さん、楽しそう。招待することができてよかった)

黒森峰女学園

まほ「……」

エリカ「隊長。今日の訓練メニューについてご質問があるのですが」

まほ(言えなかった……。みほに真実を伝えるべきだったのに……私は何をしているんだ……)

エリカ「隊長? ご気分でも優れないのですか?」

まほ(そこまでして私はみほに帰ってきてほしいと願っているというのか……)

エリカ「隊長、しっかりしてください」

まほ「エリカ……」

エリカ「私でよろしければ力を貸すこともできますが」

まほ「そうだな。エリカ」

エリカ「はい」

まほ「明日、私の実家に来てくれないか」

エリカ「え? そ、それはもちろん!! よろこんで!!」

まほ「ありがとう」

エリカ(隊長のご実家に呼ばれるなんて……!! きっと重大な話があるに違いない……次期隊長の話とか……!!)

翌日 港

優花里「会長一押しの干し芋で喜んでいただけるでしょうか」

みほ「多分、大丈夫だと思うよ」

優花里「緊張してきました!!」

みほ「あ、お姉ちゃん」

まほ「おかえり、みほ」

優花里「本日はよろしくお願いいたします!! 私は大洗女子学園普通二科C組秋山優花里です!!」

まほ「よく知っている。いつも妹が世話になっている」

優花里「い、いえいえ!! 私のほうが西住殿にご迷惑をかけているばかりで……」

みほ「そんなことないよ。優花里さんは掛け替えのない大切な友達だから」

優花里「に、にしずみどのぉ……そ、そんなふうにいわれたらしあわせでどうにかなってしまいそうですよぉ……」モジモジ

みほ「あれ?」

エリカ「……」

みほ「逸見さん。どうしたの?」

エリカ「なに? ここに居たらいけないわけ?」

みほ「そ、そういうわけじゃ……」

まほ「私が呼んだ。エリカは私にとって貴重な存在だ。みほが秋山を慕うようにな」

エリカ「た、たいちょう……そ、そんなふうにいっていただけるなんて……」モジモジ

みほ(優花里さんと似たような反応してる……)

優花里「あの!! まほさん!! これ、つまらないものですが!!」

まほ「私にか?」

優花里「はい! 今日はまほさんもご一緒だとお聞きしましたので!!」

まほ「すまない。気を遣わせたな」

優花里「あと、こちらは家元のしほさんにと思いまして」

まほ「あ、ああ……。今日、お母様は……」

優花里「そちらも聞き及んでおります。ご在宅でないとのことですので、申し訳ありませんがまほさんから渡しておいていただけませんか?」

まほ「了解した。必ず、渡そう」

優花里「ありがとうございます!!」

みほ「それじゃ、そろそろ行く?」

まほ「ああ。そうしよう」

西住邸

優花里「こ、ここが西住殿のご自宅なのですか……」

みほ「うん」

優花里「やはり、由緒ある西住流ですね……おっきいです……」

まほ「遠慮せず入ってくれ」

優花里「それでは、お邪魔しま――」

まほ「しーっ」

優花里「え?」

まほ「見ての通り、ここは閑静な場所だ。大声は控えてくれ」

優花里「す、すみません」

エリカ「全く。大口開けて大声出すだなんて、戦車道を嗜む乙女とは思えないわね」

優花里「つい興奮してしまってぇ」

みほ「別に今ぐらいの声なら問題ないと思うけど」

まほ「ダメだ」

みほ「お姉ちゃん……?」

玄関

まほ「エリカ」

エリカ「はい」

まほ「私と共にこのまま進む。みほと秋山は庭に回り、目的地であるみほの部屋へ侵攻してほしい」

みほ「ど、どうして?」

優花里「あの、ちゃんと玄関から入りたいのですが……」

まほ「色々、あるんだ。理解してほしい」

優花里「西住流の掟ですか。分かりました」

みほ「お姉ちゃん、もしかして……」

まほ「庭へ急げ」

みほ「う、うん。優花里さん、こっち」

優花里「分かりました!!」

まほ「しーっ」

優花里「はぅ!? す、すみません……」

エリカ「学習能力がないのね」

まほ「こっちだ」

エリカ「お邪魔いたします」

しほ「お帰りなさい、まほ」

まほ「ただいま戻りました」

エリカ「お、おはようございます!!」

しほ「逸見さん。私の娘が世話になっているわね」

エリカ「と、とんでもありません!! 私のほうが隊長にご迷惑をかけているばかりで……!!」

まほ「いや、エリカはよくやってくれている」

エリカ「光栄です!! ところで……」

しほ「なにか?」

エリカ「今日はご不在と聞いたのですが……」

しほ「ん?」

まほ「エリカ。客間に案内しよう」

エリカ「あ、はい」

まほ「お茶と菓子も出す。ついてきてくれ」

客間

エリカ「……」ソワソワ


まほ「お母様」

しほ「なに?」

まほ「エリカが是非、お母様と、その、話をしたいと言っているのですが」

しほ「話……? どのような?」

まほ「次期隊長としての心構えなどを直接訊きたいと兼ねてから言っていました」

しほ「貴方にではなく、私に」

まほ「大変恐縮なのですが、来年度の黒森峰を背負う彼女に助言をしていただけませんか」

しほ「分かったわ。それぐらいの時間は作りましょう」

まほ「ありがとうございます」

しほ「まほはどうするの?」

まほ「折角なので散歩でもしてきます」

しほ「そう。分かったわ」

まほ(すまない。エリカ)

みほの部屋

優花里「おぉ~!! これが西住殿のお部屋ですかぁ!!」

みほ「ごめんね。あまり戦車よりもボコグッズのほうが多くて」

優花里「いえいえ!! こうして西住殿のお部屋を拝見できただけでも感激です!!」

みほ「それなら嬉しいな」

優花里「あ、これって黒森峰のパンツァージャケットと制服ですよね」

みほ「うん……」

優花里「きちんとクリーニングされていますね」

みほ「そうだね」

優花里「……」

みほ「あ、そうだ! お菓子とお茶を用意しなきゃ! ちょっと待ってて!!」

優花里「そ、そんな!! お気遣いなく!!」

みほ「優花里さんはお客さんなんだし、座ってて!」

まほ「邪魔するぞ」

みほ「お姉ちゃん! お菓子とお茶、持ってきてくれたの!?」

まほ「粗茶ですまないが」

優花里「とんでもありません!! 心していただきます!!」

まほ「それではゆっくりしていてくれ」

みほ「どこ行くの?」

まほ「エリカと話をしてくる」

優花里「あのぉ、よろしければまほさんと逸見殿も交えて、お話ししてみたいのですが……」

まほ「嬉しい提案だが、私も個人的にエリカと話したいことがある。他校の、それも戦車道選手に聞かれてはまずいことも含まれている」

優花里「あぁ、すみません。差し出がましい要望をしてしまって」

まほ「時間を必ず見つけよう。ではな」

優花里「はい!!」

みほ「……」

優花里「まほさんって厳かなように感じてしまうますが、実際は穏やかで優しい人なんですね。やはり西住殿のお姉さん、ですね」

みほ「うん。本当はとっても優しいの。戦車道に関しては厳しいけど」

優花里「それは仕方ないかもしれませんね。西住流という名を引き継ぐ人、ですもんね」

みほ「私には、それができなかった……」

客間

しほ「……」ズズッ

エリカ「……」

しほ「……逸見さん?」

エリカ「は、はい!!」

しほ「私に何か話したいことがあるのではなくて?」

エリカ「え……あー……えーと……あの……い、良い隊長になるにはど、どうしたら……」

しほ「曲がりなりにもまほの傍で戦術や技能を見てきたのなら、その模範を行えばいいだけの話」

エリカ「そ、そうですね」

しほ「それができないというのであれば、貴方はそれまでの選手だったということ」

エリカ「精進します」

しほ「……」ズズッ

エリカ「……」

しほ「それだけ?」

エリカ「え!? あの……そうですね……良い車長とはどういった感じだなのでしょうか……」

しほ「……」ゴクゴクッ

エリカ「……」

しほ「訊きたいことがあります」ダンッ!!!

エリカ「は、はい!!」ビクッ

しほ「ここにみほが来ているの?」

エリカ「え……」

しほ「どうなの?」

エリカ「……い、いえ。今日は隊長と私だけです」

しほ「そう……」

エリカ「何故でしょうか?」

しほ「貴方のほかにもう一人いるような気配がして」

エリカ「気のせいではないでしょうか」

しほ「……さて、掃除でもしましょうか」

エリカ「掃除?」

しほ「娘の部屋の掃除よ」

エリカ「な、何故急に?」

しほ「今日は休日。私も手が空いている。掃除ぐらいします」

エリカ「お手伝いさんがいると隊長から聞いたことが……」

しほ「使用人には暇を与えている」

エリカ「え……」

しほ「掃除しましょう」

エリカ(なんだか分からないけど、このまま行かせたら修羅場になってしまうような気がする……!! 別にみほを助けたいわけじゃないけど、隊長が困る事態になるのは目に見えているわ……!!)

エリカ「お待ちになってください!!」

しほ「何か?」

エリカ「しゃ、社会人になっても戦車道を続けたいのですが、どのような心構えでいたらいいでしょうか」

しほ「時間稼ぎでもしているつもり?」

エリカ「ぐっ……!!」

しほ「行かせてもらうわ」

まほ「お待ちになってください、お母様」

エリカ「隊長……!!」

しほ「どうかしたの」

まほ「美味な茶菓子を用意したところです。これを味わいながら、エリカの話に耳を傾けてはもらえませんか?」

しほ「その茶菓子は?」

まほ「高級な干し芋です」

しほ「干し芋……。どこ産なの?」

まほ「ええと、大あら――」

エリカ「(隊長!! これは誘導尋問です!!)」

まほ「む……。熊本です」

しほ「そう。色が違うから有名なものではないようね」

まほ「けれど、味は確かです」

しほ「分かったわ。逸見さんもどうやら切実なようだし、西住流家元として若人の育成にも務めなければならない」

エリカ「恐縮です」

まほ「助かります」

しほ「社会人としてやっていくには――」

まほ(みほ、こちらは任せてくれ)

みほの部屋

みほ「これがアルバムだよ」

優花里「わぁ……。西住殿ってこんなに小さなときから戦車に乗っていたのですか」

みほ「うん。よくお姉ちゃんが運転するⅡ号戦車で出かけたりしたの。周りには田んぼばっかりだから」

優花里「やっぱり昔から戦車に接してきたのですね」

みほ「そうだね」

優花里「そのころから西住流というのは意識されていたとか?」

みほ「ううん。私はそこまで考えてなかった。お姉ちゃんはどうだったか知らないけど……。私は無邪気で、戦車もただの遊び道具ぐらいにしか思ってなかった……」

優花里「そうなのですか?」

みほ「だからなのかな、お姉ちゃんとは戦車道に対する向き合い方が違うんだ」

みほ「お姉ちゃんは西住流の戦車道を……。私は私だけの戦車道を……。それが正しいのかどうなのかは今も分からないけど

優花里「間違ってはいないと思いますよ」

みほ「早く、お母さんに認められたいな。私の戦車道……」

優花里「西住殿……」

みほ「そしたら、堂々とここに戻ってこれるような気がするから」

優花里「ありがとうございます。西住殿のことを少しだけ知ることができました」

みほ「ううん。前に優花里さんのアルバムも見せてもらったし、そのお礼ってことで」

優花里「あはは。そういえば、そうでしたね」

みほ「それにしてもお姉ちゃん、遅いなぁ」

優花里「逸見殿と大事な話をされているのでしょうね」

みほ「それもあるかもしれないけど……」

優花里「他に何かあるのですか?」

みほ「そうだ。うちで飼ってる犬がいるんだけど、どうかな?」

優花里「是非、みたいです!!」

みほ「こっちだよ」

優花里「きっと西住殿のように英明な犬なのでしょうね!」

みほ「いや、普通の犬なんだけど」

優花里「どこにいらっしゃるのですか?」

みほ「庭にいるよ」

優花里「わかりました!! 楽しみです!!」

客間

しほ「――そうすることで撃破率を上げることも可能になる」

エリカ「なるほど。では、そのあとの戦術に関してなのですが」

まほ(このまま時間が過ぎれば、無事に終えることが――)

『おぉー!! かわいいですぅ!!』

まほ「……!?」

しほ「……」

エリカ「あの!! 森林地帯での有効な攻め方を!!」

しほ「お客様がいるようね。お出迎えしないと」

まほ「私が行ってきます。お母様はこのままエリカの質問に答えてあげてください」

しほ「……そう。では、頼むわね」

まほ「はい」

エリカ(秋山優花里……なにやってんのよ……)

しほ「外が気になる?」

エリカ「いえ。私が気になるのは西住流の極意だけです」



優花里「あ、すみません。今、声が大きかったですよね」

みほ「別にいいと思うけど」

まほ「何をしている」

優花里「あぅ……」

みほ「優花里さんにこの子を見せてたの。それでこのまま散歩に行こうかなって」

まほ「まだいいだろう。それよりも二人は部屋に戻っていてくれ」

優花里「あの、まだお話しは長引きそうですか?」

まほ「しばらくはかかる」

優花里「そうですかぁ」

『まほ』

まほ「はい。お母様」

『誰がいるの?』

まほ「……大洗女子学園の秋山優花里がきています」

『秋山……? 通しなさい』

優花里「あ、あれ? 今日はご不在だったのでは……?」

まほ「みほは部屋に戻って」

みほ「お姉ちゃん……」

まほ「私が悪いんだ」

みほ「そんな。元はと言えば、私に勇気がなかった所為で……」

まほ「とにかく今は部屋に戻って。秋山、共に来てくれ」

優花里「わ、わかりました」

みほ「優花里さん、ごめんなさい」

優花里「何故、謝るのですか」

みほ「なんだか、その、巻き込んじゃって……」

優花里「いえいえ。気にしてませんから」

まほ「早くこい。感づかれる」

優花里「はい!」

まほ「あとで呼びにいく。部屋でゆっくりしていてくれ」

みほ「う、うん……」

客間

まほ「お連れしました」

しほ「どうぞ」

優花里「お、お邪魔します」

しほ「秋山さんね。みほがお世話になっているわ」

優花里「いえ!! とんでもありません!!」

しほ「それで今日はどのような用件でここの門を叩いたのかしら」

優花里「わ、私も西住殿……みほさんと共に、戦車道を歩んでまいりました。それなりの技術も身に着けたつもりであります」

優花里「ですが、更にステップアップするためには、西住殿の模範ばかりではなく、こうした活動も必要ではないかと思いまして」

しほ「なるほど。様々な実力者から話を聞き、多くのことを吸収したいということね」

優花里「はい!!」

しほ「では、私がこれから言うことを秋山さんは大洗に戻っても実践してくれると?」

優花里「も、もちろんです!!」

しほ「貴方が慕う隊長とは全く違うモノだとしても?」

優花里「それは……」

しほ「いいでしょう。西住の門を叩いたからにはその精神を知ってもらいましょうか」

優花里「せ、精神でありますか」

しほ「西住流は何があっても前へ進む流派。強きこと、勝つことを尊ぶのが伝統。犠牲失くして大きな勝利を得ることはできないのです」

優花里「それはたとえ川に落ちてしまった戦車があったとしても放っておけということですか」

しほ「そうよ」

優花里「西住流を否定するわけではありませんが、それは間違っていると思います」

エリカ「ちょっと、やめなさい」

しほ「戦車道もスポーツ。事故はあって当たり前。覚悟なくして戦車乗りと名乗ることは許されない」

優花里「仲間よりも勝利なんて、おかしいです。勝つことよりも大切なことがたくさんあります」

しほ「ありません」

優花里「な……」

しほ「何千時間、何万時間と繰り返してきた反復練習、地味なトレーニング、辛いだけの訓練。それは何故続けるのか。勝つためでしょう」

しほ「たった一度の事故で全ての時間を捨てるというの? 結果が欲しいから練習に耐えてきたのではないの?」

優花里「違います。みんなで戦車に乗るのが楽しいから続けてこられたんです」

しほ「ならば、試合になどでなければいい。学園艦の隅で戦車を走らせていればいい。何故、試合に出るの?」

優花里「そ、れは……」

しほ「勝利することは何にも勝る喜び。勝者しか味わえないもの。それを求めていたはず」

まほ「……」

しほ「悔いのない試合にしよう。精一杯がんばればいい。結果など二の次。みんなで良い思い出を作れたらそれで十分だ」

しほ「馬鹿馬鹿しい」

優花里「な、なにを……」

しほ「負ければ悔いは残るもの。精一杯の努力の果てにある敗北ほど口惜しいものはない。全員で作る最も良い思い出は勝利することで得られるはず」

しほ「弱者の言い訳には呆れてモノもいえないわ」

優花里「仲間を犠牲にして得られた勝利なんて良い思い出にはなりません!! 後悔だって残ってしまうと思います!!」

エリカ「あの私も、秋山さんの意見には賛成します」

しほ「……」

エリカ「去年の準決勝。あそこでみほが助けに行かなければ試合には勝っていたかもしれません。けれど、決してみんなで数年後に笑いあえる思い出にはなっていなかった」

優花里「逸見殿……」

エリカ「当時の副隊長は最善を尽くしたと言ってもいい。ただ、そのあとに黒森峰を去ったことを許すつもりはありませんが」

まほ「お母様。みほの行動は皆の心に深く刻まれています。黒森峰から逃げたことに対するわだかまりはあっても、この行動を非難する者は一人としていません」

しほ「何故、私は気が付いてやれなかったのか。今ではもうすべてが遅すぎるけれど」

まほ「は……?」

しほ「昔からまほはそうだったわね。同じ西住の名を継ぐ者として私は育ててきたのに、貴方はみほをなんとしても西住流に染めないよう努めてきた」

まほ「……」

優花里「それって、どういう……」

しほ「西住流の意志、伝統を自分一人で背負う決意をどこでしていたの?」

まほ「幼少の頃からです」

エリカ(一緒に育ってきたはずの二人がここまで違うのって……隊長が……)

まほ「妹には違う道を歩んでほしかった。西住流には縛られない、違う道を」

しほ「こうなってしまうことも予測していたのね」

まほ「できれば同じ道を歩んでほしいとは思っていました。ですが、みほにまで私と同じものを背負わせることもないかと」

しほ「勝手なことをしてくれたわね」

まほ「どのような咎も受けるつもりです。ですが後悔はしていません」

優花里「まほさん……」

まほ「みほは立派な戦車乗りになってくれましたから」

しほ「秋山さん」

優花里「は、はい」

しほ「大洗に戻ったら、出来の悪い娘に伝えてもらえるかしら?」

優花里「何をでしょうか」

しほ「姉を通したりせず、私に直接帰りますと言いなさい、と」

優花里「はい。了解しました」

しほ「こんな時間ね。夕食はどうするつもり?」

優花里「あ、いえ、今日中に大洗へ戻らなくてはならないので、夕方には失礼させていただこうと思っています」

しほ「そう。逸見さんは?」

エリカ「わ、私は、まだ時間に余裕がありますので……その、よければ……」

しほ「よろしい。では、買い物に行ってくるわね」

まほ「お母様、私が行きます」

しほ「貴方はお客様を持て成しておきなさい」

まほ「は、はい」

しほ「では、後ほど」

優花里「家元自ら料理をするのですか」

まほ「滅多なことでは料理などしないが」

エリカ「今日は特別なのでしょうか」

まほ「嬉しいのかもしれない。みほの友人と直に喋ることができて」

優花里「あぁ、だったら、夕食も……」

まほ「気にするな。それに、普段料理をしない分、調理にはかなりの時間を要する。今日中に帰れなくなるかもしれない」

優花里「あはは……なるほど……」

エリカ「今の話、みほは聞いていたでしょうか」

まほ「素直な妹なら部屋に戻ってくれてはいるだろうが、昔からみほは私の言うことをあまり聞かなかったからな」

優花里「そうなのですか!?」

まほ「とても活発で、何をするにも自分でできると言い張る困った妹だ」

優花里「イメージと違いますね」

エリカ「根っこの部分は変わってないんじゃない?」

優花里「そうですかぁ?」

エリカ「あの子、結構強情だから。だって、仲間のこと何があっても見捨てないぐらい、甘っちょろいじゃない」

玄関

しほ「まずは黒毛和牛を手に入れなければ」

みほ「あ、の……」

しほ「……」

みほ「おかあ……さん……」

しほ「そこをどいてくれるかしら?」

みほ「ごめんなさい……どうしても……勇気がでなくて……」

しほ「私はこれから買い物に行くの。邪魔をしないでくれるかしら」

みほ「こ、今度は!! ちゃんと言うから!! だから……あの……」

しほ「……」

みほ「また、戻ってきても……いい……?」

しほ「勝手にしなさい」

みほ「ありがとう」

しほ「早く帰りなさい。ここに貴方の居場所はないわよ」

みほ「うんっ」

客間

優花里「あ、西住殿」

みほ「どうだった?」

優花里「とても有意義な時間でした」

みほ「よかった。今度は沙織さん、華さん、麻子さんと一緒に来ようね」

優花里「はい! それがいいです!!」

まほ「そのときは、ちゃんと連絡をするように。人数が多いと大変だからな」

みほ「そうだね」

エリカ「みほも帰るの?」

みほ「ここに私の居場所はないんだって」

エリカ「ふっ。そう」

まほ「お前の居場所はもう別の場所にあるからな」

みほ「お母さん、私のこと見ててくれたんだね」

まほ「当然だ」

みほ「嬉しいな……本当に……嬉しい……」

みほの部屋

みほ「忘れ物はない?」

優花里「大丈夫です!!」

まほ「いつでも戻って来い」

エリカ「今度は全員で来なさいよ」

みほ「うんっ」

優花里「あの、このパンツァージャケットって……」

まほ「お母様だ。綺麗にしておくようにと」

みほ「……」

まほ「いつ戻ってきてもいいように……」

みほ「ごめんね」

まほ「構わない。お前の道だ。私がお前の手を引っ張ることなどしない」

みほ「また来るから」

優花里「本日はありがとうございました!!」

まほ「玄関まで見送ろう」



優花里「最後にお母さんとお話しはできたのですね」

みほ「少しだけ。今はそれで十分かな」

優花里「行きましょう。出航の時間です」

みほ「うん」

しほ「――みほ」

みほ「お母さん……!」

しほ「買い物の帰りにたまたま見かけただけよ」

みほ「そっか……」

しほ「必ず、黒森峰が大洗を叩き潰すわ。それまでは体には気を付けて万全の状態を維持しておきなさい」

みほ「はい!」

優花里「お世話になりました!!」

しほ「次来るときは手土産は不要。空手で来るように」

優花里「あぁ……」

みほ「あはは……。それじゃあ、行ってきます」

連絡船

優花里「買い物帰りと行っていましたけど、何も持っていませんでしたね」

みほ「……」

優花里「西住殿、よかったですね」

みほ「何も変わってなかったのかな。変わってしまったって思い込んでただけで」

優花里「きっとそうですよぉ」

みほ「優花里さん、次はいつ遊びにきてくれる?」

優花里「いつでも構いません!!」

みほ「それじゃあ、秋の連休とか……冬休みとか……」

優花里「いいですね!! お正月は西住殿のご実家で過ごすとか!!」

みほ「あ、お正月はダメ」

優花里「どうしてですかぁ?」

みほ「お母さん、見栄っ張りだから、その……来た人にお年玉を配るから……」

優花里「それはとても気を遣ってしまいますね……」

みほ「みんな受け取りにくそうにしてるし、私も結構な額をもらっちゃうし……」

西住邸

しほ「完成した」

エリカ「……」

まほ「お母様……これは……」

しほ「今晩の食事よ」

エリカ「(な、何人前あるのですか……)」

まほ「(分からないが、二人で殲滅するには無謀な量であるのは確かだ……)」

しほ「残さず、食べるように」

エリカ「は、はい!! いただきます!!」

まほ「あの、これはもしやみほの分や秋山の分まで……」

しほ「食べなさい」

まほ「はい!」

エリカ「はむっ……! はむ……!!」

エリカ(やっと3キロやせたところだったのに……!!)

まほ(みほに伝えておいたほうが良いかもしれない……)

大洗女子学園 艦内

華「おかえりなさい」

優花里「みなさん。お迎えにきてくれたのですか?」

沙織「うん。どうだったのかすぐに聞きたかったしねぇ」

麻子「まぁ、夕食を一緒に食べたいという沙織と五十鈴さんの提案もあった」

みほ「みんな……」

華「それでどうだったのですか」

優花里「すっごいよかったです。西住殿の昔の写真も見れましたし」

沙織「いいなー。やっぱり私もいけばよかったぁ」

麻子「大人数で行けば迷惑になるからやめておこうといったのは、沙織だろ」

沙織「だって、みぽりんの実家だよ? 急に4人で言ったら絶対に困るじゃん」

みほ「今度は皆で遊びにきて」

華「よろしいのですか?」

みほ「うん。きっと夕食もご馳走してくれると思う」

麻子「へぇ……。それは楽しみだ。絶対に行く」

ピリリリ……

みほ「ん? お姉ちゃん……? はい、もしもし」

まほ『みほ……うっ……こ、んど……くる、ときは……その……できるだけ……せんりょく、を……そろえて……こい……うっ……』

みほ「お姉ちゃん!? どうしたの!?」

しほ『まほ、そんなところで何をしているのです。まだ皿には黒毛和牛が残っているのよ。西住流に逃げるという道はない』

まほ『お、かあさま……流石にお肉は……きりわけてもらわなくては……こんな丸ごと……』

しほ『来なさい』

まほ『みほ……せんりょくを……ぜった、い――』

みほ「お姉ちゃん!? お姉ちゃん!! 切れた……」

優花里「なにがあったのですか!?」

みほ「多分だけど、お母さんがかなり張り切って料理を作ったみたい」

沙織「良いことじゃない」

みほ「量がすごいことになってるんじゃないかな……」

麻子「あぁ……」

優花里「うちの父も何かとサービス旺盛なので、わかります……」

みほ「戦力を揃えて来いって言ってたけど……」

華「そんなに量があるのですか?」

みほ「あ……」

華「はい?」

沙織「その辺は大丈夫じゃない?」

麻子「うん」

優花里「ですね」

みほ「華さん」

華「はい?」

みほ「絶対に、私の家に遊びに来てください」

華「はい。楽しみにしています」

みほ「華さんがいれば……きっと……勝てる……!!」


優花里【――数ヶ月後、西住邸で最大の戦いが勃発することになるのですがそれはまた別のお話しです】


おしまい。

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