吹雪「はやく辞めてくださいよ司令官」 提督「吹雪さんこそ」 (145)

どうもこんにちは
ちょっと書き途中の作品の息抜きしようと思ったら長くなりすぎて息抜きとは
そんな感じの作品です

「あー、ヒマ」

 わずかな仕事を片付けた提督が港に出ると、駆逐艦娘の吹雪がタバコを吸っていた。艦娘なので年齢その他は問題ない。問題はないが、見た目はよくない。なにせセーラー服を着た中学生くらいの少女なのだ。
 すでに提督と吹雪が出会って7年が経つ。が、彼は年を重ねても、彼女の容姿は変わらない。艦娘とはそういうものだ。

「吹雪さん、あまり外でそういった姿を見せるのは」
「はー、司令官。もうそういうのいいじゃないですか」

 吹雪は投げやりな口調だ。指先を動かして灰を落とす。

「戦争、終わったんですし」

 最後に一口吸って、吹雪はタバコを海に投げ捨てた。

「いまさらイメージ戦略でもないでしょ」

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 艦娘と深海棲艦との決戦は2年前に終わり、海は平和となった。
 そして艦娘たちはヒマになったのである。
 多くの艦娘は艤装を軍に返し、人間として生きることを選んだ。彼女たちの給料はとてもよかったが、使うアテもなかったので貯金はたまっており、退職金もかなりの額が出たので、彼女らは自由に自分たちの人生を選ぶことができた。

(我々は人造の生命たる艦娘たちに、人類の盾であることを押し付けた。しかるべき報酬を彼女らに支払い、人として過ごすことをできるようにはからったのはしかし、ただの後ろめたさであったとは考えたくない)
「司令官、また変なこと考えてる」
「考えてませんよ。変なのは吹雪さんのほうです」

 吹雪は戦後も軍に残った。もう深海棲艦が出現することはないので、海洋警備や人命救助が彼女の仕事である。
 が、しかし、戦いは終わったとはいえ深海棲艦の爪あとが残る海での産業は2年が経った今でもさほど活発でなく、また、艦娘が守る海でことを起こそうというものもいなかった。
 つまり吹雪はヒマになる。訓練も予算削減のために最低限しか許されていない。その結果、長く続く待機が彼女の仕事となった。
 そのせいかどうなのか、彼女はグレた。

「私は変になったんじゃありません。グレたんです」

 少なくともそう彼女は自称している。タバコを吸い始め、仕事中に酒をたしなみ、規定違反になる程度に服の胸元を開けた。
 提督から見ると、フル稼働中の鎮守府にたくさんいた、本気で頭がおかしい感じの艦娘、本当に頭がおかしくなった艦娘たちにくらべたらかわいいものではある。しかし、ギャップはすごい。なにせ彼と彼女は戦争開始当初からの付き合いだったが、ずっと吹雪は真面目な少女だったのだ。少なくとも、彼の前ではそうだった。
 ただ、提督が問題にしたのはそこではない。

「変になったんじゃなくて、変だと言ったんです」
「へー、どのへんですか?」
「……何度も言いましたが、吹雪さんがここに残るとは思っていませんでした」
「へー、そうなんですか?」
「ずっと言ってたじゃないですか、戦争が終わったら、食べ物屋をやりたいって」
「へー、そうでしたっけ?」
「そうですよ」

 吹雪は深海棲艦との戦いの中でも明るく元気で、真面目なほうの艦娘だった。
 料理が得意で、休暇中はいつも和洋を問わず様々な食事を提督や艦娘にふるまっていたものだ。
 今も彼女は料理をしている。しかし、作るのは自分のぶんだけだった。
 自分はどうも嫌われたらしい。提督はそう理解している。

「……ヒマなのがつらいなら、今からでも」
「司令官、あんまり私の心配ばかりしてるとはげますよ」
「……」
「というか司令官こそもっとマシな仕事を探したらどうですか」
「私がですか」

「ずっと思ってたんですけど向いてないです。もっと戦いを楽しめる人でないと。その割にはがんばっていましたけどね」
「……言われ放題ですね」

 向いていないのはわかっていた。自分は戦争が嫌いなのだ。
 しかし、それを言うのなら彼女も同じだと思う。
 この際だ。もはや二人の間に遠慮も必要ない。ずっと一緒に戦ってきたし、戦いがない2年も過ごしたのだ。

「私は吹雪さんも向いていないと思いますよ」
「えー、あんなにがんばってたのに」
「私にもがんばっていた、って言ったでしょう。同じです」
「じゃあなんで、まだがんばってるんですか。戦争も終わったんだから、やめればよかったじゃないですか」

 横目でうかがうようにしながら、少女は言う。
 男は片手で頭をかきながら、いつもの答えをかえした。

「まだやることが残っているんですよ」
「ははあ。奇遇ですね。私もそうです」
「……初耳ですが」

 何度聞いてもはぐらかされてしまった話題に、急に踏み込めてしまったことに戸惑う。

「何をやり残しているんですか、吹雪さん」
「司令官が教えてくれたら言うかもしれません」
「私のは……そんなに大したことじゃないので」
「大したことじゃないことを2年もかけてやってるなんて無能では? やはりやめたほうがいいですね、今すぐ」
「そういう吹雪さんはどうなんですか。私は毎日、吹雪さんがヒマだと言っているのを聞いていますよ」
「私のことはいいんです。司令官がやめるべきです」
「そういうわけにはいきません。吹雪さんこそ」

 二人の言い合いはいつまでも続いていた。他にすることもないのだった。

2年前

「陽炎ちゃん、荷物のまとめ終わった?」
「終わってる終わってる、3時間で終わったよ。やー、わたしのこの4年間って一体なんだったのかしら」
「あはは、狭い部屋だからね。荷物もたまらないよ」

 今日は吹雪のルームメイトの陽炎が旅立つ日だった。吹雪が訓練を行っている間に、陽炎は荷物をまとめていた。

「陽炎ちゃんはこの後どうするの? 最後の日に教えてくれるって言ってたけど」
「あー、そうだったっけ。うーん、どうしよっかな」
「もう、そんなにもったいぶらないでよ」
「いやいや、ここはもったいぶるところでね。んー、まあ吹雪ちゃんもやめるんだし……」
「なになに?」

 陽炎はちょっと人の悪そうな顔になる。吹雪は思わず前のめりになる。この2週間、ずっと焦らされていたのだ。

「じゃあ発表しちゃいます。わたしはねー、不知火と一緒に……」
「うんうん」

 不知火は陽炎の姉妹だ。吹雪は基本的に陽炎とコンビを組んでいたが、駆逐隊が必要な時は二人と出撃することも何度もあった。
 仲のいい二人が一緒に過ごすことができるようになって本当によかった、と吹雪は思った。このときまでは。

「PMSCに入ります!」
「……は?」
「あれ、吹雪ちゃん軍属のくせにPMSCも知らないの? 民間軍事会社っていう現代の傭兵でねー、実戦から兵站まで取り扱って……」

 戦後の混乱から、PMSCには一定の需要があった。戦闘ではなく復興に備えた警備活動などが主だった任務となっている。

「それは知ってるよ! え、なんでそんなところに!?」
「色々誘われたんだけど、そこが一番給料よかったからさー、老後にそなえて貯金しようかなって!」
「で、でももう艤装も返しちゃったよね!?」

 艦娘たちが人の姿に身につける装備だった艤装類は、軍に残るもの以外からはすでに回収されていた。普通に生活するぶんには必要なものではないのだ。

「なんか会社が独自開発した艤装のテストもするんだって」
「ええー、いいのかなそれ……」
「だいじょぶだいじょぶ、提督もちゃんと調べてくれたところだから!」
「そ、そうなの? それならいいけど……」

 この時期、戦力として、あるいは独自開発した艤装のテストのために艦娘がPMSCに雇用されるケースは多かった。
 もちろん艤装は艦娘にしか使えないのだが、なにせ艦娘は決戦に備えて大勢が建造されており、かなり余ってもいた。
 深海棲艦なみの火力を歩兵や戦闘車両が実現することは難しく、海戦で艦娘の機動性と火力に勝利することも難しい。同じ艦娘、もしくは深海棲艦相手でなければ、ほぼ艦娘は無敵の存在と言える。
 吹雪はそういった諸々を理解しつつも、戦争が終わった今また、戦友が新しい戦いの場に向かうことに納得のいかないものを感じていた。
 もちろん、提督も知っているならたぶん大丈夫なのだろうけれど……。

「そんな心配そうな顔しないでよ。手紙書くからさ!」
「うん……わかった。応援するね」

 あくまでもあっけらかんとした陽炎の雰囲気に、吹雪の顔にも明るい色が戻る。彼女はいつもこうして、考え込んでしまいがちな吹雪をひっぱりあげてくれる。

「で、吹雪は料理屋さんだっけ。レストラン? 食堂? ラーメン屋? 吹雪はなんでも作れるもんねー」
「そ、そんな大げさだよ。まだ決めてないし……しばらくはここにいて、色々と勉強するつもり」
「そっかそっか。いつごろ卒業するつもりなの?」

 卒業、というのは艦娘たちの間で流行った退役を表す言葉だった。

「うーん、まだわかんないんだけど。……でも、もしかしたらだけど、私はしばらくここにいるかも」
「あら、そうなの?」
「うん……ちょっとね」
「ふーん……? ま、いいや」

 陽炎は吹雪が何かを隠したい気配をただよわせていることに気づいた。こういうときの吹雪は、何を言っても折れなくなるのだった。
 気にはなるけど、彼女の道だ。あまり名残を惜しみすぎてもよくない。ここはパッと別れて、またそのうち会おう。そう決めた。

「よし。それじゃー、吹雪、元気でね!」
「うん、元気でね! 気をつけてね、陽炎ちゃん」

 吹雪はなごりおしげに部屋から陽炎を見送った。
 笑顔で手を振りながら、陽炎は提督の執務室へと向かう。

「さてさて、提督に挨拶してかないとね」

「やっと会えた! 陽炎でーす!」
「こんにちは、陽炎さん。……今日でしたね」

 元気に執務室に(ノックせずに)入ってきた陽炎を、提督は穏やかな声で迎える。今までは日常だったこの挨拶も、これが最後だ。

「陽炎さんは……PMSCでしたか」
「うん、そういうことに……、じゃなかった、そうです!」

 提督は真実を知っている。
 陽炎は書類上も実際上も軍を退役するが、実は秘密任務に就いているのだ。彼女らが所属するPMSCはそのカバーにすぎない。
 任務の内容は、深海棲艦を軍事利用する勢力の調査と殲滅だ。
 海に囲まれたこの国では深海棲艦の被害も大きかった。
 しかし、海に面していない内地に存在するさほど被害を受けていない国もまた、あった。
 そういった場所では、深海棲艦を制御するための技術の研究も積極的に行われている。もちろん、公にはなっていない情報だ。その背景には戦後も存在し続ける、艦娘に対抗する兵器を求める想いもあった。
 制御された、あるいは暴走する深海棲艦に対抗できる戦力は艦娘だけだ。多くの選ばれた艦娘たちは極秘裏にこの事実を知らされ、そのうちのほとんどがいつ終わるとも知れない戦いへ、自ら向かうことを志願した。
 陽炎と不知火も、その中の二人だ。

(深海棲艦の正体は未だにわかってはいないが、人間の行いが彼らを生んだという説は多く、根強い……。私たちは艦娘を自分たちの罪に対する盾だけでなく、この上に人が重ねる罪を裁くことすら任せている)
「あ、提督がまた変なこと考えてる」
「考えてません。……私が語れる言葉は多くありません。お気をつけて」
「はいはい。了解でーす」

 陽炎は言葉はいいかげんに、しかし、そのまま教本に載せられそうな、しっかりとした敬礼をした。
 提督もまた返礼する。
 別れの挨拶だった。

「では、失礼しま……あ、そうそう」
「どうかしましたか」
「吹雪がですね、ひょっとすると軍に残るかもって言ってました」
「なんだと」
「あ、敬語が」
「失礼。それは本当ですか」
「さっき自分で言ってたので本当だと思います。ひょっとすると卒業を前にして冗談を習い始めたのかもしれませんけど」
「……なるほど。ありがとうございます」
「いえいえ。それじゃ、本当にわたしはこれでー。今までありがとうございました、またそのうちに!」

 最後まで陽炎は明るく笑って去っていった。さびしくはあるし申し訳ないとも思う。
 少し、晴れがましい気持ちもある。

 と同時に、最後に陽炎が残した言葉が気にかかる。後で考えよう、と思うのだが、どうも仕事が手につかなくなってきた。
 すぐに本人に確かめてみる。そういう選択肢もあるか。しかし……できれば艦娘たちが選ぶ道に干渉をしたくない。これは、彼女たちがその生の中で、初めて自分で将来を選ぶ決断なのだ。
 それを自分も見届けたい。

「提督は軍に残るそうです」
「本当ですか……! 大和さん」

 吹雪と長身の女性、戦艦娘である大和は鎮守府の食堂で会話していた。
 かつては大勢の艦娘で賑わっていた昼時になっても、今はもう4人がまばらに座っているだけだ。まだこの鎮守府に在籍している艦娘はいるが、彼女らは退役後の自分たちの身のふりで忙しい。
 そんな中、吹雪は大和の言葉に衝撃を受けていた。

「どうしてですか? この前まで、軍をやめたら釣り船でもやろうかなんて言ってたのに」
「わかりません……。何かの事情……もしくは、私たちでも知ることができないレベルの話かも」

 吹雪も大和も黙り込む。秘書官も旗艦も経験した二人だったが、彼女らもまた鎮守府の全てを把握しているわけではない。
 軍隊というのは中にいてもひどく不透明な部分を抱えているものなのだ。

「……わかりました」

 吹雪の決断は早かった。女は度胸。戦場では迷っているものから死んでいくのだ。

「私も残ります」

 大和はそんな吹雪を見て、安心したように笑う。

「そう言うと思っていました。吹雪ちゃんがそばにいれば100万人力です」
「えへへ、ありがとうございます」

 語り合う二人の間には信頼がある。
 かつて、大規模な作戦で決戦兵器たる大和を、大胆にも陽動に使う作戦があった。
 作戦は成功したが、敵はせめて大和を沈めようと残存勢力を損害を無視して投入した。
 脱出のため、自分がふたたび囮になると主張する大和から離れず、最後まで大和を守り抜き、自らも生還したのが吹雪と陽炎を含めた5人だったのだ。

「私もできればもう少し一緒にいたいのですけど……。艤装を動かせる状態にしておくだけでコストがかかるとうるさくて」

 深海棲艦の殲滅戦後、予算は急激に削られつつある。5年間にも及ぶ戦いで軍に投じられた金額は膨大であり、逼迫する市民の生活を考えれば当然の措置だった。
 提督と艦娘たちの給料はおおよそ半分、あるいはそのまた半分になり、積極的に艦娘の退役は奨励されている。
 これは予算縮小への対応はもちろん、対外向けのアピールでもあった。あくまでも艦娘は深海棲艦に対抗するための存在であり、人間の国家への脅威ではない、というわけだ。
 最強の艦娘と言われた大和の退役も、この流れの大きな一環である。

「大丈夫です! 私が司令官をお支えいたします!」
「はい。よろしくお願いします」

 両手こぶしをにぎって、吹雪は決意を表した。その姿に、大和は頭を下げる。
 この世に産まれ出た実年齢という意味では実はさして差がないが、二人はお互いを姉と妹のように思っていた。
 業火の海をくぐりぬけた経験も、今では懐かしい日々だ。
 想い出はそのままに艦娘たちは旅立っていく。この広い鎮守府に吹雪を残して行くのはさびしかったが、提督と一緒なら大丈夫だろうと思う。



 その一週間後、大和は旅立って行った。彼女は小さな雑貨屋を開くのだそうだ。そのうちに吹雪もたずねるつもりだ。

「行っちゃいましたね」
「ええ。もう残っているのは私と、吹雪さんと……」

 提督は数人の艦娘の名前を口にした。
 多くの艦娘が残る鎮守府もあるが、ここはそうではない。軍に残る艦娘のほとんども他の鎮守府へと移り、最低限の人員が残される予定だ。
 これは実はこの鎮守府の提督が退役する、という前提あっての措置だったのだが。
 吹雪は、おそるおそるという口調で疑問を口にした。

「……あの、司令官は退役されないのですか」
「そうですね。残務を片付けないといけませんから」
「そうですか」
「吹雪さんは……どうして残るつもりに?」

 提督は一週間前に、吹雪がこの鎮守府に留まると聞かされていた。その時は聞くことができなかった質問だった。
 吹雪は急にあわてたように手と首をふる。

「な、なんでもないです。その、急ぐこともないかなと思ったんです。それだけです。気になさらないでください」
「はあ……そうですか」
「そうです」

 確かに艦娘たちは箱入り娘というわけではないが、ずっと軍隊の中で生きてきたのだ。
 外の世界に飛び出すことをためらう艦娘がいても無理はない。……吹雪がそうだとは思っていなかったけれども。
 もちろん、それでも構わない。いつかは吹雪も巣立つ日が来るだろう。そして、それはそう遠くない日のはずだ。そのときは、自分も……。

 この時はまだ、そう気楽に考えていたのだったが。

というあたりで続きどうしようかなと考え中です
陽炎改二が出るか息抜きしたくなったらまた続きを投稿すると思います

陽炎改二はまだ出ていませんが続きを書いてしまったので続きです
別シリーズはまったく進んでいないので息抜きになっていませんだめでは?
ところで今更ですがこの作品には独自設定がたくさんでてきますが二次創作とはそういうものです




 時は戻り、現在

「司令官、ここにいたんですか。もうやめて出て行ったかと思ってました。そうだ、今からでもそうしましょう」
「そういうわけにはいきません。吹雪さんの退役の手続きを受理しないといけませんから」
「私はやめませんので」
「……どうしてそこまでこの鎮守府にこだわるんですか」

 人がまばらな食堂。
 吹雪は提督の言葉にちょっといらっとして、その後に悲しくなった。
 誰のために残っているのか、司令官は理解していない。それどころか、この前の言い合いからことあるごとに自分にここを出て行くようにすすめてくる。
 わざと嫌われるような態度を取っていたのに、本当にそうなってしまうとつらいものがあった。

「こだわってないですよ。提督がこだわってるからそう見えるんじゃないですか。何だか知らないですけど」

 本音は隠して、イライラだけぶつけることにする。
 食堂の椅子を乱暴に引き、足をテーブルの上に乗せてタバコを取り出す。まったく煙をおいしいとは思わないけど、イラつきは抑えてはくれる。
 火をつけて、司令官の様子をうかがう。彼はただ黙って、吹雪を見ている。規定では食堂は禁煙となっているが、何も言わない。何か言えばいいのに。

「……私もこの鎮守府にこだわっているわけではないですよ」
「じゃあ何にこだわってるんです。机ですか、海ですか、食堂のごはんですか」

 ごはんなら自分が作ってあげるのでやめればいい、とは言わなかった。
 なんか負けた気がするから。

「……正直、私にもわかりません」

 提督は吹雪をじっと見つめながら、そう言った。
 吹雪が、何にこだわっているのかわからない。想い出、外への恐れ、そういうものではないようだった。
 何かもっと違う……具体的な事柄に吹雪は自分の時間を捧げているように思える。
 形のあるもの、と考えてふと思いついた。あるいはひょっとすると……。

「吹雪さん」
「……ふー」

 吹雪はそっぽを向いて煙を吐いていた。何かを努めてこらえているようにも、見える。

「好きな人がいるんじゃないですか」
「ぶはっ」

 肺に海水を流し込まれたように激しくむせている。
 やはり。やはりそうなのか。
 すごい速度で吹雪がテーブルから足を下ろして立ち上がった。顔が赤い。

「突然何を言い出すんですか! ついに鎮守府の毒が頭に回ってしまったんですか? もう提督としての業務は無理なんじゃないですか!」
「そうかもしれませんね。私も少し休みます。では」

 目に見えて焦る吹雪に、提督はまるで興味を失ったかのように、そそくさと食器を片付けて食堂を出た。
 その姿を殺したそうな目で吹雪は見つめていた。あるいはもう少し別のことをしたかったのかもしれないが、とりあえず鋼板をも貫く殺気がこもっていたのは間違いない。



 そんな吹雪を、離れた席で厳しい目で見つめるものがいることに、吹雪はまだ気づいていない。

「……。私、行ってきます」
「おい、まて、何をするつもりなんだ、おい」

「はー」

 提督が去った後に、吹雪は頬杖をついて二本目のタバコをくわえていた。火は点けていない。
 一本目は提督が見えなくなった後、床にたたきつけて踏みにじってやった。ざまあみろ。

「はぁー」

 吹雪は冷静になって提督の発言意図を考えてみようと思った。
 第一のパターン。提督がおかしくなった。
 第二のパターン。自分がおかしくなって幻聴を聞いた。
 第三のパターン。世界がおかしくなったので明日滅亡する。

「はあー」

 考えてみたがダメだった。もう何も考えたくない。死ぬか。海に飛び込んで自分が沈めた深海棲艦どもとお話しようか。意外と話してみると面白いやつもいるかもしれない。笑えないジョークを飛ばすようだったら、もう一度頭を吹き飛ばしてやればいい。

「はー」
「少しよろしいですか」
「ん?」

 急に声をかけられて、思わず吹雪はタバコをくわえたまま振り向いた。
 そこに立っていたのは、一人の駆逐艦娘だ。しっかりと整えられた髪、服、手袋、靴下、靴、いずれにも隙がない。
 髪を下ろし、スカーフを外して胸元を空けた吹雪とは対照的だった。
 その毅然とした姿に、吹雪はじろじろと遠慮のない視線を往復させる。
 どうやら、彼女は駆逐艦娘の親潮だ。
 7日前に建造が完了し、3日前に着任した、実に2年振りの新任艦娘。
 なるほど。
 吹雪は皮肉気に笑ってみせた。

「なんです? 新人さん」

 くわえたタバコもそのままに、せせら笑うように言う。 

「……吹雪さん。あなたの態度は、あまりにも目にあまります!」

 食堂中に響く大きな声だったが、残っているのは彼女たち三人だけなので、止めるものもいない。

 しかし、吹雪の薄笑いは変わらず、バカにしたように彼女を見ていた。親潮がますます腹を立てて、言葉を繋げていく。

「3日前からずっと見ていましたけれど、あちこちでタバコは吸う、だらしない服装、司令への暴言……ひどすぎます」
「お、親潮、そのあたりにしておこう……」

 親潮の後ろから心配そう、というよりは悲痛な声をかけたのは、こちらも駆逐艦娘の初月だ。彼女も8日前に建造が完了し、親潮と同時に着任した新任で、そのルームメイトでもあった。

「私達もここに遊びに来たわけではないのです。なのに、教育係を任じられたはずのあなたは指示もせず、毎日街に出ていくばかりで」
「親潮、君も吹雪さんにも何か考えがあるのかも、って言っていただろう」
「あはは、ありませんよ」
「……ッ! あなたは!」
「落ち着いて、親潮!」

 この二人は本来ならば、現在の提督の後にこの鎮守府に着任するであろう、若年の新提督につけられるはずの艦娘であり、それに合わせて建造を開始・完了する予定だった。
 が、いつまでたっても予定とは違い、現提督(と吹雪)が退役しないため、それならばヒマを持て余したベテランに新艦娘の教育を任せるのもいいだろう、と判断されたのだ。
 二人もそういった事情を説明され、軍の中でも名高い二人との日々を緊張しつつ期待していた。
 が、しかし。そこにいたのは歴史を彩る功績に増長した駆逐艦娘と、それに対して何も罰を課さない日和見の提督だった(というように二人には見えた)。

「止めないで初月」

 親潮は吹雪をにらみつけたまま、怒りのこもった声を出す。

「いや、しかし……」
「私達が言わなければ、誰も言わないでしょう!」

 提督だけではない。他の鎮守府に残っていたわずかな艦娘たち。彼女らもまた、吹雪の態度に何を言うこともなく受け入れている。
 たまりかねた親潮は直接、他の艦娘と提督に訴えてもみたが、のらりくらりとかわされるばかりだ(と、彼女には見えたが、実際には提督と艦娘たちはものすごく困っていた)。
 そんな状況で、初月は早々に期待と現実に折り合いをつけることにした。
 親潮にはできなかった。いや、しようとも思わなかったのだ。初月にもそれはわかっていたが、どうすることもできずに今の状況へと至ったわけだ。
 そんな二人の前で、吹雪は顔を嘲笑の形に歪めて見せる。

「深海棲艦もいない世の中で、何を張り切っているんですか。カワイイですね」
「いくらあなたが2年前の戦いの英雄だったとしても……! いえ、だからこそ、その態……っ」

 親潮の言葉は途中で切られた。吹雪が机と椅子を蹴るようにして立ち上がったからだ。

「私にアヤをつけよう、って言うんですか」

 くわえていたタバコを足元に落とし、見せ付けるように踏みつける。
 その間も吹雪の表情はにこやかで、口調もまた変わらず穏やかだったが、親潮はその裏に心臓が潰れそうな圧力を感じていた。
 吹雪の中に存在していたそれを、ずっと感じてはいたのだ。わかっていたから、今まで何も言えなかった。
 内在していたものを表に出した吹雪の迫力に、逃げ出したくなる。それでも親潮は、吹雪をにらみかえしてみせた。

「脅すつもりですか……」
「怖がらせてしまいましたか。ごめんなさい」

 その声は優しかった。幼児をあやすような、ペットにした小動物にかけるような、優しさ。
 親潮は必死で敵意を燃やす。

「……そんなことは、ありません」

 自分の声が震えていたことに、思わず涙が流れそうになる。
 吹雪が一歩を踏み出す。
 思わず後ずさりをしてしまい、そんな臆病な自分を呪う。それでも怖かった。
 後ろにいるはずの初月は動かない。動けないのか。
 目の前で、ただ笑顔で歩いているだけの吹雪に二人は制圧されていた。
 吹雪はゆっくりと親潮に近づいてくる。怖い。何の気負いもない、その笑顔が恐ろしい。

「うう……」
「どうしたんですか。前線ではそんな態度じゃあ、目にあまる、では済まない」

 吹雪は7年以上前、開戦以前に最初に建造された艦娘の一人だ。それはつまり、死の世界で生きてきた艦娘ということだ。数え切れない戦いをくぐりぬけている。彼女にとっては、生きていること自体が戦いだったはずだ。
 それは、一日分の生を、十の深海棲艦の死で贖うということだ。

 もちろんそれはわかっている。わかっていたつもりだった。

「私、は……」
「そんな顔では……食べられちゃいますよ」

 そんな声が耳元で囁かれた。……耳元?
 気づけば吹雪は親潮の腰に左手を回し、右手で手を取っていた。まるで社交ダンスのような姿勢。

「な、な……」
「こういう風に、がおー、って……ふふ。口が大きいやつらが、いっぱいいました」

 親潮の目の前で、吹雪が歯を合わせて音を鳴らしてみせる。そのまま首筋を食いちぎれる距離だ。
 全感覚で吹雪の姿を捉えていたはずなのに、見えなかった、感じなかった、気づかなかった。
 何もかもがケタ違いの動き。
 吹雪にそのつもりがあったなら、この一瞬で自分と初月は100回は殺されていたはずだ。死の認識に身体がこわばる。

「思い出しますね、昔を」
「…あ…あ」

 身体が震えるのを止められない。吹雪の一挙動が想起させた殺しの気配に、完全に心が折れてしまった。このまま自分は死ぬのか。死の世界に生きた艦娘の唇と瞳が、弧を描いて……。
 吹雪は、軽く力を入れて固まった親潮の身体を倒しながら回転。食堂の机の上にその上体を押し付ける。

 後ろの初月には、瞬間移動して親潮に抱きついた吹雪が、そのままテーブルの上に押し倒した、という風に見えた。
 親潮は当然あわてる。

「な、な、何、して……?」
「もーーっ、本当に親潮ちゃんかわいい!」

 吹雪のタガが外れたのはここだった。ほんとたまらない、という笑顔でそのままの体勢で親潮をだきしめる。愛しさをこめて頬ずりまでしている。数秒前までの殺気は夢のように消えさっていた。
 親潮はそれどころではなく、恐ろしさと混乱の中で、必死に吹雪の身体から離れようとする。
 しかし、全く動けない。力をいれるたびに吹雪が重心を移動させ、体勢を固定している。同じ駆逐艦娘、同じ程度の体のはずなのに、自分の数十倍も巨大な怪物に乗られているように感じた。
 悪夢のような脅威と驚異に数十秒で親潮は消耗した。もはや、かぼそい声でうったえることしかできなくなる。

「や、やめて……ください……本当に……許して……ごめんなさい……」
「あ。ごめんごめん。この体勢、辛かったよね」

 吹雪は親潮を抱きしめたまま立ち上がる。どうやら腕の中の親潮が立っていられないようなので、椅子を引いて、お気に入りの人形のように親潮を置く。
 解放された親潮はしかし、かわいがられすぎた猫のようにぐったりしたままだった。
 そんな親潮の手を取って、笑顔の吹雪が弾んだ声をかける。

「私に注意してる時の親潮ちゃん、すごくかっこよかったよ。ほんとにまじめでいい娘なんだってわかって嬉しかった」
「……ぇ……ぁ」

 その光景を初月はただ見ていることしかできず、呆然と立ち尽くしている。
 そして、立ち上がった吹雪が回転して彼女の方を向いた。目が合う。彼女の笑顔に浮かんでいるのは猛烈な幸福感と、期待だ。
 逃げなければ。
 後ろを向いた瞬間、初月は抱きしめられていた。

「はあ……かわいい。初月ちゃん……」
「……う、あ、えええ……」

 後ろから腰に手を回され、完全に捕まった。恐ろしすぎて本能が殺されている。身体が動かない。
 初月はされるがままとなった。何ができよう。
 吹雪は後ろから初月の頭に手を伸ばし、前にとがった髪をさわりながらうっとりしていた。

「初月ちゃん美人だよね。お姉さんたちそっくり」
「……あ、ありがとう、ございます」
「でも初月ちゃんが一番美人かも」
「…………あ、ありがとう、ございます……」
「あ、ごめんね。お姉さんたちの悪口を言ったわけじゃないんだよ。二人ともすごくかわいかったし……でも初月ちゃんもかわいい……」
「………………あ、ありがとう……ございます……」
「親潮ちゃんのこと本気で心配してたよね。気持ち、伝わってきたよ。これからも親潮ちゃんを守ってあげて」
「……………………………………………………は……い」

 吹雪の言葉に、初月はかすれた声で返事をする。
 当の先ほどまで親潮を襲っていた相手が、何もできずに逃げ出そうとした自分を褒めているのはなぜだろう。

 そうして抱きしめられながらされるがまま、耳元で甘くやさしい声で自分への好意のこもった言葉をささやかれ続ける。
 この状況に、初月の気力と体力は瞬時に底を突いた。
 吹雪は抱きしめている初月の足元が崩れかけているのを察知すると、片手で腰に手をまわしたまま支えて椅子を引く。親潮と同じように、大切なものを扱う手つきで初月を座らせる。当然初月も、そのまま疲労で動けなくなる。
 かろうじて椅子に座っている……そういう形で固まっている二人とは対照的に、吹雪は実に晴れ晴れとした様子で、手を組んで思いっきり伸びをしていた。

「んーーっ、あーーっ! 堪能しちゃった!」

 その顔は食堂に入ってきた時とは想像がつかないほどに明るく、爽やかで、清々しさを形にしたような笑顔だ。
 それを椅子に座ったまま見つめる二人。その目は泥のように濁り、身体は泥のように重く、心は泥のようにぐちゃぐちゃだった。

「あ、そうそう」

 そんなことは知らぬ気に、もちろん知らないわけはないのだが、とにかく吹雪は再び二人に向き直った。
 二人の目に怯えが灯る。用済みになった今、今度こそ本当に殺すのか。


「教育担当として《お願い》します。明後日のヒトキューマルマル。夜の7時に、二人とも私の部屋に来てください。予定は空いてますよね?」

 二人は必死で何度も頷いた。否の態度を一瞬でも取ったら、何をされるかわからない……。
 そんな二人の内心がわからないかのように、もちろんわかっているのだが、吹雪は安心したように手を打ち合わせた。

「よかったあ。でも、忘れても迎えに行くから安心してね。万がいち予定が入っちゃったら、秘書艦さんに言ってキャンセルしてもらいます」

 吹雪はうれしそうに越権行為の宣言をした。そして、それを咎められるものは恐らく、この鎮守府にはいないのだ。
 二人は何も言えずに、ただただ頷く。それを見た吹雪はにっこり笑って、そのままスキップしながら食堂を出て行った。ご機嫌な鼻歌が遠ざかって行く。
 見送った初月と親潮はしばらくそのままの体勢でいた。そして鼻歌が聞こえなくなってしばらくした後、呪縛が解けたように、同時に音を立ててテーブルにつっぷす。
 気絶していた。

「あーあ……。あれは相当たまってたか……」

 食堂の調理場から、皿を拭きながら一部始終を見ていた艦娘がつぶやいた。

 同時刻。提督の私室に二人の人影があった。
 一人は机に座った提督。もう一人はその傍らに立つ、背の高い重巡洋艦娘だ。

「吹雪さんがこの鎮守府に留まっていた理由がわかりました」
「……ほう。提督はついに辞めるのか」
「何を言っているんです、那智さん。吹雪さんのようなことを……」
「違うのか。そうか。わかった。わかっていないことがわかった」

 重巡洋艦娘・那智は腕を組んだまま、重々しく言った。
 この鎮守府の現在の秘書艦である彼女は、提督と吹雪の両方の事情の理解者だ。
 理解した上で何も言わないでいる。
 実のところ、これがこの鎮守府の(新任の二人を除く)全艦娘の総意だった。

「勝手に決め付けないでください。本当にわかったんです」
「さぞ面白い理由なんだろうな。もったいぶらずに披露してくれ」

「面白く……は、ありませんよ。むしろ、どこにでもあるありふれた理由とも言えます」
「何をすねているんだ、そんな歳か。いいから早く言え。私はヒマなんだ、さっさとヒマ潰しの種をよこせ」

 吹雪が提督にとってみせる態度は、ほとんど那智を真似ているのだと本人は知っているのかどうか。
 とにかく、彼女はさっさと言え、と顎をしゃくってみせる。
 一方、自分から始めた話題のくせに、妙に核心を口にしたくなさそうな提督だった。が、ここに至って先延ばしにしても意味はない。
 肘をついて組んだ手に顎を乗せて、ぼそりと呟くように言う。

「彼女には、想い人がいます」
「……ほう」
「恐らく、艦娘の誰かでしょう」
「へー」

 一瞬鋭い目をした那智は、三秒でどうでもよさそうな目になった。
 さすがにむっとしたのか、提督は言い募る。

「本当です。本人の態度からして間違いありません」
「そうかよかったな」
「それに、吹雪さんは艦娘が大好きですから」
「まあ、それはそうなのだがなー」

 俗に、艦娘は艦娘を好むという。この話は故無きものではない。
 彼女らが戦闘のために設計された、人造生命体であることに由来する現象だ。
 艦娘は、同じ艦娘が受信可能な味方識別信号を発している。それを同じ艦娘が受信することで好意を抱く、という仕組みである。
 この発信は意識しているものではなく艦娘が生きている限り発せられている。また、電波や電磁波などの形で計測できるものでもない。
 この信号によって艦娘は互いに仲間意識を育みやすくなり、人間同士で起こる感情的なトラブルは減っている(もちろん同時刻の食堂で起こったケースのように、皆無とはならない)。
 また、戦闘時も艦娘同士が互いの位置を常に把握することができ、これによって高度な連携を行えるのだ。

「我々艦娘の中でも、吹雪の信号受信能力は飛びぬけている。普通は300メートル程度が限界で、訓練を重ねても2kmも行けば天才と言われる。間に障害物が無い状態の話で、だ。
 だが、吹雪は建造間もなくの性能試験で、半径3km内の都市部に配置された艦娘たちを、誤差1メートル以内でリアルタイムで感知し続け、その上で個人識別までしてのけた……」
「はい。その代償、というわけでもありませんが、吹雪さんは艦娘に対して強い好意を寄せるようになった」
「信号パターンを受信し慣れていない、新任やよその艦娘には、特にな。そういえば先日入ってきたあの二人は大丈夫か」
「大丈夫か、とは。吹雪さんがあの二人に何かをするということですか」
「私の記憶がさび付いたのでなければ、されなかった艦娘はいなかったはずだな」

 那智は少し遠い目になる。吹雪の『歓迎』を受けた艦娘の後始末をするのは彼女の役目だったのだ。

「さすがに大丈夫でしょう。もう2年も新任艦娘は来ていなかったわけですし。それに、今の吹雪さんは……あの様子です」
「ふーん。貴様は本当に。本当に、本当に、本当に、本当に、本当に、吹雪のことをわかっていないな。感動的なアホめ」
「……私はいつでも彼女のことを考えている」
「敬語はどうした」
「失礼。私も精一杯彼女を理解しようとしているつもりです」
「口だけだな」
「那智、お前に何が」
「敬語」
「失礼。那智さん、あなたには彼女のことが全てわかっている、とでも」
「ふむ」

 妙に嫉妬の混じった言葉に感じる。あらぬ疑いをかけられたのかもしれない。アホか。
 …………しかし。
 そろそろこのあたりが、吹雪と提督の限界なのかもしれない。
 この提督とかいうアホはまあいいとして、思えば吹雪には悪いことをした気もする。

「……そろそろ潮時かもしれん。……艦娘だけにな」
「は?」
「用事を思いついた、失礼する」

 那智はさっと敬礼をすませ、言葉を挟む暇を与えずに素早く部屋の外に出た。
 置き去りにされた提督は少しだけ固まって、そのまま疲れたように背もたれに身体を預けた。
 吹雪と違い、まったく那智は変わっていない。7年間、変わらず自分に厳しいままだ。

「……どうしたものでしょうか」

 いや、どうもしないほうがいい。那智は何らかの手段で状況を動かすつもりだ。彼女の行動を待つ。

「自分の2年間が、無駄だったとは思いたくないものですが……」

 急にタバコを吸いたくなった。喫煙の習慣はない、のだが。

というあたりでおしまいです 終劇
Fin
第一部 完

次に書くときは今度こそ陽炎改二が発表されています きっと
多分明後日くらいに発表されます やったぜ やってるといいですね

どうもこんにちは
陽炎改二はまだ出ていませんがこれはMIBの陰謀です
アーケードに陽炎が参戦したので続きです

 初月が目覚めたのは、自分のベッドの中だった。

「生きてる」

 どうやら生き延びた。
 身体を寝かせたまま首を横に向けると、親潮も自分のベッドで寝ている。恐らくは自分と同じく、誰かに運ばれベッドへと寝かされたのだろう。二人とも制服のままだった。

 現在の鎮守府では部屋はいくらでも空いているので、本来ならば初月と親潮の二人に個室を用意しても問題はないのだが、新任同士の交流という名目で二人は同じ部屋にされていた。
 この部屋は左右対称になっている。ベッド、机、タンス、鏡台、その他諸々。軍の宿舎のはずなのに、広々として清潔感があり、女性的な内装。
 大きめの個室を二人部屋に改装したものだ。親潮と初月は知らなかったが、提督のはからいだった。
 だが、部屋の優雅な内装を楽しむ余裕は、もちろん今の初月にはない。
 上体を起こし、身体をチェックする。異常なし。
 つまり、自分たちは傷ひとつつけられないまま圧倒され、意識を失ったということだ。

「何だったんだ」

 吹雪はただの不良艦娘ではなかった。怪物だったが、ただの怪物でもなかった。
 ではなんなのかというと、わからない。
 自分が心配していたのは、単に暴力を振るわれるとか、立場を利用した嫌がらせをされるとか、その程度のことだ。殺されるとまでは思っていなかったが、そういった事故の可能性も頭になかったわけではない。
 しかし、実際には、あれは……あれはなんだったのだろうか。

 簡単に起こったことをまとめてみれば、二人は、死を覚悟するほどに脅かされた後、異常なまでの好意を表現された、ということになる。
 怖がらせた後、ほっとさせる。そういう愛情表現があることはまあ、体験したことはなくとも知ってはいた。

 しかし……吹雪が行ったのは、本当にそういうものだったのか……?
 されたことがわかっても、その意図がわからない。ただの愛情表現だったのか。自分達は歓迎されたのか。それとも……どうしてもその裏を探ってしまう。それほどに強烈な体験だった。
 そして、もしも、次にあれをされたら……され続けたら、自分はどうなってしまうのだろう。

「……ううぅ」

 身体が震え始めた。自分の身体を抱くようにして、前のめりになる。寒い。怖い。自分を簡単に殺せる相手に弄ばれるのは、すさまじいストレスだ。
 さしずめ、自分たちは虎の口に入れられた後、舐めまわされた小鳥か。虎は小鳥を吐き出した後、今もすぐ近くでこちらを見つめている。
 それに、それに……。

―明後日のヒトキューマルマル。夜の7時に、二人とも私の部屋に来てください
―忘れても迎えに行くから安心してね
―万がいち予定が入っちゃったら、秘書艦さんに言ってキャンセルしてもらいます

 次がある。すでに予告されている。

 自分と親潮は、自ら虎の口に入らなければならない……。そのまま舐められるだけで済むのか、噛み砕かれるのか、あるいは丸呑みでもされるのか、わからないままに。
 どうすればいいのか。
 誰かに……たとえばこの鎮守府の外にいる人間や、現提督の上官に、この窮状を訴えても恐らく無意味だ。
 なぜなら自分たちは吹雪に抱きつかれた後、部屋に呼び出されただけなのだから。それだけのこと。
 それだけのことに宿った恐怖は、体験したものにしかわからない。
 
「……それが狙いなのか」

 自分たちがどんなに吹雪の恐怖を訴えても、一笑にふされて終わり。
 これを繰り返して嗜虐嗜好を満足させる。あるいは心を折って言いなりにでもするのか。証拠も傷も残らないし、何の規則違反も犯していない以上、外から防ぐ方法はない。
 ではどうするか。

 脱走。そんな言葉が頭に浮かんだ。
 自分が知らされた限りでは、戦場に臨んだ艦娘たちの中に、自ら逃げ出したものは一人もいなかったという。
 それが真実ならば、自分がその不名誉をあずかる一番乗りになるわけだ。

「でも、無理だ」

 仮に脱走を試みたとしても、それを察知できない艦娘はこの鎮守府にはいない。個々の信号受信能力がどの程度のものかはわからないが、吹雪を含め、全員が何度も実戦を経験した艦娘なのだ。
 彼女らに比べ、建造されて間もない自分たちの信号制御など、たかがしれている。探知を逃れることはできない。
 不審な動きを捉えられるか、逃げ出した後にあっという間に捕まるかのどちらかだ。
 そして、吹雪以外の艦娘も提督も、吹雪への態度からして二人の味方ではない(もちろんこれは誤解だが、至極妥当な推論ではあった)。

「……もう嫌……」

 初月はベッドの中でうずくまった。
 自分たちは絶望的な状況に追いやられた。
 なぜ、どうして。
 問うても答えはどこにもない。
 現実はただただ理不尽だ。

 もういっそ何も考えないほうがいいのか。今から吹雪の部屋へ行って、もう二度と口答えはしない、奴隷にでもなんでもなる、と土下座して許しを請うか。
 ……やけになってそんなことを考えたつもりが、妙に甘美な選択に思えた。
 吹雪がどう判断するかはわからないが、少なくとも今こうして恐怖に震えている状況からは抜け出せる。
 もともと、彼女は新任艦娘など、いつでもどこでも、どうにでもできるはずだ。鎮守府の人員全てが味方なら、何をしても訓練中の事故で通すことだって。
 それならいっそ……。

「ぅ……あー……」

 横から声が聞こえて、初月は、はっと振り向いた。

急に二人がかわいそうになってきたので今回はここまでにします

生きとったんかワレェ!

 ベッドで寝ていた親潮が目覚めようとしている。ゆっくりと開く、天井を見つめる、ぼんやりとした虚ろな瞳。
 初月は、胸の中にたまらないものを感じる。

「私……生きてる」
「おはよう。親潮」

 初月の声に、親潮が顔だけを向ける。初月はなんとか笑顔のようなものを作ってみせた。
 しかし、親潮は挨拶を返すこともなく、無表情で身体を起こす。
 初月が見たことが無い親潮だった。朝はいつも初月よりも早く起きていて、自分の目覚めに明るい挨拶を送ってくれる少女なのだ。
 初月はすぐにベッドから降りて親潮のベッドに向かう。その側の床にひざをついて、彼女の肩に手を回した。その体をいつもよりも冷たく感じる。親潮が流した汗が冷えていた。

「大丈夫か、親潮」
「……。私、生きてるんですね」

「ああ、生きてるさ。僕も生きている」
「…………」

 初月が必死に明るさを取り繕った声にも、親潮の表情は沈んだままだった。
 どうすればいいのか、初月には全くわからなかった。自分が生まれてたったの8日。そのうちの7日を共に過ごしたのが彼女だ。なんとか元気づけてやりたい。
 しかし、彼女にかける言葉がみつからない。
 なぜなら自分もまた、親潮と同じ絶望を抱えているからだ。
 何をされたのかわからない。これから何をされるのかわからない。ただただ不安だけが胸の中でうごめき、怪物となって自分の心を食い破ろうとしている。
 親潮は初月に顔を向けないまま、淡々とした声で問う。 

「初月は、私達に、あの……あの人が何をするつもりだと思いますか」

 親潮は、吹雪という名前を口にしなかった。口にすることで、それを呼び寄せてしまうと信じているかのように。
 そしてこの問いに初月は、明確な答を思いつくことができない。何をされてもおかしくない、という印象がある。逆に言えば、何をされるのかを特定もできない。正直に答える。

>>58
”大往生”したなどと誰が決めたのか。

ちょっとした覚悟をきめたのでテスト投稿しました

「わからない。また同じようなことをされるのかも、と考えはしたが」
「私は……考えてることがあるんです」

 ためらいがちで、口にするのも辛そうな口調。それは恐らく初月にも聞かせたくないおぞましい想像なのだろう。
 しかし、その想像を胸の中に一人抱え込んでいることもまた親潮にはできないのだ。

「……聞かせてくれるか」

 初月の言葉に、親潮は少しためらったように口を閉じる。初月の覚悟をうかがうように、顔を向ける。
 初月は親潮の肩に回した手に力をこめ、頷いてみせる。
 それをみて、親潮はついにその内容を口にした。
 初月は驚愕する。

「まさか。だって、僕達もあの人も同じ艦娘で、女で……」
「そういった性的志向も、少なくとも人間には珍しくはないんです。……なんでこんなことを知ってるのか、私にもわかりませんけど」

 そう言って、親潮は少し皮肉気な顔になる。
 建造されたばかりの艦娘でも、その知性と能力は世界的に見ても高い教育水準をクリアしている。どの艦娘も生まれてからすぐに、提督業務の補佐、秘書艦を勤めることができる。
 この知識がどこからやってくるのかは艦娘たち自身も知らない。建造時にデータを書き込むように与えられるのか、自分たちの魂とでもいうべきものが、過去の世界から持ち込むのか。
 そんな艦娘たちの知識にも、個人差はある。親潮が語った推測は初月にとってはまったくの想像の埒外だった。

「私、あの場でそうされるんじゃないか、とすら思いました」
「そんな……」

 つとめて淡々と語る親潮の言葉は、初月の中に激しい嫌悪感を生んだ。そんなことをされたら、自分はどうなってしまうだろう。
 いや、自分はまだいい。……親潮は、目の前にいる少女は……もうすでに、彼女はこんなにも壊れそうなのに。
 親潮はわずかに顔を上げて、初月の顔へと向けた。たった一日で、いや、一時間にも満たなかった時の中で……こんな風になってしまったのに。

「あの人が言っていたことは、ほんとうだったと思います」
「本当」
「私達のことを、ほんとうに好きになったんだって……好き、って言葉で正しいのか、わかりませんけど」
「……わかったのか。僕にはわからなかった」
「なぜか、わかりました。私の信号受信能力のせいかもしれません」

 建造後のテストでは、親潮は初月よりも信号受信テストでは高い成績を収めていた。
 艦娘は感情、体調など様々な要因で信号を変化させる。受信側の能力が高ければ、変化した信号から相手の情報を読み取ることもできるのだという。
 しかし、高い受信能力を持っていたとしても、生まれたばかりの艦娘に普通はできることではない。
 あの時、親潮は吹雪をその全感覚でとらえようとしていた。決して目をそらさなかった……そらせなかった。極限の緊張が、彼女の感覚を常識を超えて鋭敏にしていたのかもしれない。

「でもそれなら、その……そういうことはしないはずだ」

 自分たちに好意を抱いているというのならば、親潮が危惧するような事態は起こらないはずだ。昨日あんなに自分たちがおどかされたのは、少し意地悪をしてやろうというつもりだった、とか。問題は、吹雪は歴戦の艦娘だったので、『少しの意地悪』に自分たちが耐えられなかったことだ。それだけ。
 そうも考えられる。
 そう考えたかった。
 だが、親潮の表情は暗いままだ。

「わかるんです。あの時に感じた……あの人の好きは、普通じゃなかった。とんでもない大きさと熱さで……私の精神も潰されそうに……」

 親潮が震えはじめた。自分の両肩を掴み、必死で震えをこらえようとする親潮。
 今すぐ抱きしめて安心させてやりたいと思う。
 でも、彼女も自分も、抱きしめられて壊れかけている。そう思うと動けなかった。
 どうすればいいのかわからない初月の前で、親潮は独り言のように早口でつぶやき続けている。

「あの人が本気で私達に、その気持ちをぶつけようとしたなら昨日のように抱きしめるだけではきっと終わらない。その先に、もっとその先に……私はきっと抵抗もできない。あの人の恐ろしさを知ってしまった。いえ知らせたんだ。抵抗できなくなるように……私をぐちゃぐちゃになるまで……」
「親潮……!」

 思わず顔を近づけた初月に、親潮が飛び掛るようにその両腕を掴んだ。

「……!」
「どうして私なの!? 私、あの人に会ってまだ3日しか経ってないよ! 私が生まれてまだ一月も経ってないのに、なんであんな……! こんな、こんな……いや、いやだ、わたし……」
「っ……!」

 たまらず初月は親潮を、その胸の中に抱きしめた。親潮は抵抗しなかった。
 親潮が泣いている。
 ただただ、普通の少女のように涙を流している。

 初月の胸の中で、たまらないものが弾ける。

 決意は一瞬だった。
 やってやる。

 全ての絶望が燃えて消える。

 平和な世の中に艦娘が必要なのか、と思ったこともあった。
 自分の力が必要な時は来るのか、と疑問を感じてもいた。
 そんなことはなかった。
 この世は今も理不尽にあふれている。
 今だ。力が必要なのはいつだって今なんだ。

「大丈夫だ、親潮」
「…………?」

 別人のように強い響きに、涙を流す親潮が顔を上げた。
 そこには初月の顔があった。凛々しく、端正で、冷たくすら見える美貌。
 しかしその目には何よりも熱い輝きが点っている。

「僕がやる」
「初月……!」

 我が身を捨ててでも、弱きものの盾となり、理不尽を砕く槌で在る。
 初月の生涯を彩った崇高なる不滅の大義が生まれたのは、この時だった。

 
 
 
 たとえそれが盛大な勘違いから生まれたものだったとしても、まあ、いい話ではあった。そのはずだ。

 
 
 
 


一方その頃。

ふと今月中に完結させようかなーと思いました

>>75
こいつ気楽なことをいいやがって
思うだけなら誰でもできるわ

こんばんは
いつ陽炎は改二が実装されるのでしょうか
陽炎型フルコンプが優先されているのかもしれませんね
あるいはナチスの陰謀でしょう
ほらドイツ艦ってすぐ2が出ますし

「こんにちは、那智さん。ヒマなんですか。提督の無能のせいですね。やめるように言ってあげたほうがいいですよ」
「吹雪、私に対してまでそんな態度を取る必要はないぞ」
「なんのことだかわかりませんけど」

 吹雪は提督の執務室近くの廊下で窓にもたれかかって、タバコを吸っていた。秘書艦である那智は当然執務室に用事があり、そこから出ればこの廊下を通る。
 彼女がなぜわざわざこんなところでタバコを吸うのか、那智にはわかっていた。その姿を提督に見せるためだ。
 あまり賢くはない行いだとは思うが、いじらしさはあった。

 吹雪は実のところ、人を好きになるやり方を知らないだけなのだ。
 色恋沙汰とは無縁の自分でも知っている、そのやり方。

 が、それを伝えることは、まだしない。もう少しだけ彼女のいじらしさを見ていたかった。
 そのかわりに彼女につきあってやることにする。
 那智は吹雪が手にしているタバコをつまんで奪った。

「あ」
「安物だな」

 床に落として踏みつけて火を消す。およそ秘書艦にふさわしい行為とは言いがたかったが、どうせ不良に付き合うのだから、不良艦娘だ。

 懐からタバコを取り出した。吹雪が吸っているのは鎮守府外の自販機で買った人間用だが、これは艦娘向けの特製で、一本300円(一箱ではない)のそこそこの高級品だ。
 そんな那智を見て、吹雪は心の底からおどろいていた。いつもの那智なら、ほどほどにしておけよ、と軽く注意をして通り過ぎるだけだった。グレたので嫌われたかどうでもよくなったのかも、なんて思ってさえいたのに。

「ほれ」
「む」

 那智が自分のタバコを一本取って吹雪の口にくわえさせた。
 指先をその先端に当てる。タバコに火が点った。艦娘の力、その一端だ。
 那智も吹雪と並んで窓によりかかり、一本をくわえて同じように火を点ける。
 吹雪はなんだか妙な顔になっていた。困惑しているような、申し訳なさそうな、そんな顔。

「どうした。うまいか」

 今までのタバコと違う味がしたのはわかった。おいしいかどうかはよくわからない。

「……なんでこんなことするんです」
「貴様と過ごした7年間はそこそこに長い」
「……つまり?」

「この那智も吹雪を好きになる。それくらいには十分な時間だということだ」
「…………」

 吹雪が照れたように顔をそむけた。那智は少しおかしく思う。
 あの時とは、まるで逆だ。

「私の勝ちだな」
「突然なんですか?」

 本気でわからない、という顔の吹雪。それはそうだ。全て那智の胸の中にしまっていたことだ。
 せっかくなので、想い出話として吹雪にあのころを語ってみることにする。 ひょっとするともっと勝てるかもしれない。

「私と初めて会った時のことを覚えているか」
「もちろん、覚えてますよ。那智さんは……かっこよかったです」

 ちらりと那智の顔を見る吹雪。

「今は知りませんけど」
「そして吹雪はかわいかったな。今もだ」
「うえうええあ」

 そんなことをよりによって、那智が言うとは全く思わなかった。そんな風に思われていたことを想像もしていなかった。吹雪は顔を赤くして手で顔を隠す。
 動揺する吹雪を見て、自分の勝利を確信する那智。

「提督に自己紹介をした後、貴様が私の部屋の案内をしろと命じられた」
「……そうでしたっけ。忘れちゃいました」吹雪は顔を手で隠したままだ。
「廊下に出たらいきなり抱きつかれた。あの時は驚いたぞ。あれほど驚いたことは私の7年の生涯でも数少ない」
「うそです。全然動じなかった」
「見せかけただけだ」
「うそです」
「誓って真実だ」

 吹雪は指の間から那智を見た。タバコをくわえている以外はいつも通りの那智だ。
 泰然としていて、スキがない。全身が凛とした雰囲気で満ちている。腕を組んだ立ち姿がとても様になっている。
 横顔の唇が笑う。

「驚いたら甘く見られる、なんてな。意地を張っていた」
「……本当ですか」
「こんな嘘をつく意味もないだろう」
「どうして、本当のことを言ってくれたんです」
「ふむ。……そうだな」

 吹雪に那智が顔を向けた。少し胸の鼓動が早くなるのを吹雪は感じる。
 やはり、今でも那智はかっこいいと思う。
 那智は微笑んで言う。

「抱きつかれて、実は嬉しかった」
「え!」
「歓迎されたのも、格好がいい、憧れる、と言ってもらえたのもあの時が初めてだ。生まれたてなのだから当然だが」
「そ、そんな」
「まあ、その後に吹雪が毎回新任に同じようなことを言うとは、知らなかったのもある」
「あ、えーと……」
「それでも、だ」

 少し困った顔になった吹雪を、那智は片手で抱き寄せた。ひゃお、と吹雪が妙な声をあげる。
 那智から吹雪を抱きしめるのは、初めてのことだった。

「ありがとう、吹雪」
「那智さん……私も今、嬉しいです」

 吹雪もタバコを持っていない手で那智を抱き返す。
 那智とこうしていると、この7年間がいいことばかりの日々だったような気がしてくる。
 少なくとも、今日、この時があっただけでも自分の7年には価値がある。きっとそうだ。
 那智も同じような気持ちでいてくれている、と思う。

「そうか。私も少し恥ずかしい。引き分けだな」
「……勝ち負けなんですか?」
「私はずっと借りていた気分だった。やっとやり返せてすっきりした」

 そうして、二人は身体を離す。顔をあわせて笑いあう。
 しかし、吹雪はふと笑顔を陰らせた。今日は急に、いつもはしない話ばかりしている。

「なんだか、別れの挨拶みたいでした……」
「そんな顔をするな。私が勝ってしまうぞ」
「……どこかに行ってしまうんですか」
「私が行くわけではない。行くのは貴様だろう。いつかはな」
「……私は、別に、ここにいても……」
「いや」

 那智は断言する。

「吹雪はここを出るべきだ」

 ついでにあのアホも、とは口には出さない。言葉ごと短くなったタバコを、携帯灰皿の中に押し込む。
 あまりにもきっぱりと告げられた言葉に、吹雪はわかりやすくすねた顔になっていた。

 ぐれたはどうした。那智はそれを見ておかしくなる。その両の頬をつまめば柔らかく、ひっぱってやるとますます面白い顔になった。

「な、なにふるんでふか」
「ところで話は変わるが、貴様またやったな」
「え、なんのはなひでひょう」
「新任二人だ。食堂で気絶させたと聞いたぞ」
「あ」

 吹雪がしまった、という顔になったので、頬を離しておでこを指で弾く。
 重巡のでこぴんは強い。痛みに両手で額をおさえる吹雪。 

「吹雪は反省しないな」
「そんなことはありません……たぶん」
「ほう。ならば、今回は私が後始末をする必要はないのか」
「考えがあります」

 吹雪が少し得意げな顔になったので、思わずおでこを指ではじく。

「いたっ、なんでですかー」
「さてな。どんな考えなんだ」
「聞いてからにしてくださいよー」

 そんなわけで、吹雪が自分の作戦を那智に話しはじめた。
 聞いている那智の目が、だんだんと遠くなっていった。吹雪はなぜそんな顔をされるのかわからない。
 話が終わると、那智は全くわかっていなさそうな吹雪のおでこを指ではじく。

「いたたっ、いい考えだと思うんですけど」
「そう思うなら、しっかりやれ。手間はとらせないようにな」
「はい、ばっちりです。いたっ、ちょっと那智さん、さすがにでこぴんのしすぎじゃないですか」
「不安だな……」

 那智はとりあえず、新任二人の様子を見てみることに決めた。まったく吹雪には振り回される。

「さっきの話だと、まだ準備があるんだろう」
「あ、はい」
「じゃあさっさと行け。こんなところで油を売っていないでな」
「あ、でも……」

 そもそも吹雪はなぜこんなところでタバコを吸っていたのかを思い出したようだ。吹雪は提督に会うためにここにいたのだ。
 那智的にはどうでもいい理由なので、さっさと部屋に帰らせることにした。
 那智は吹雪のタバコをとりあげて咥える。最後に一度吸って、灰皿へ収める。

「私も仕事をすることにする。だからお前もそうするんだ」
「……はい、わかりました」
「よろしい」

 那智は歩いていく吹雪を見送った。彼女が見えなくなった後、吹雪から奪って踏んだタバコを拾っておく。
 さて、あの二人はどこにいるのか。信号を探知することはできたが、それは艦娘の間ではプライバシーを侵害するマナー違反とされている。とりあえず初月と親潮の部屋に向かうことにした。



 その数分後。
 二人の艦娘の信号が遠ざかったのを感知した初月が、提督の執務室へやってくる。


というわけで完結です
第二部完
次回から主役は空条承太郎です

陽炎改二が早く発表されたらいいですね

吹雪「司令官! お待ちしておりました!」空条承太郎「やれやれだぜ」

~これまでのあらすじ~

空条承太郎はごく一般的な不良学生(嘘つけ)だったが、ある日艦娘使いとして覚醒する
病に倒れた母を救うために、首筋に☆型のアザのある吸血深海棲艦・DIO姫を追って仲間と共にエジプトあたりの海域へ
数々の熾烈な戦いを潜り抜け、仲間たちの犠牲を乗り越え、ついにDIO姫を追い詰めたのだった…

DIO姫「ば、バカな……このDIO姫が……」

承太郎「俺が羅針盤を止めた……」

スターフブキナ『司令官……最後までお供します!』

承太郎「ゲージが回復したと同時にスターフブキナを叩き込む……かかってきな」

DIO姫(クククク、承太郎、やはりお前は人間だ……ごく限られた資源しか使えない提督としての考え方を)

スターフブキナ『ガンバリマスガンバリマスガンバリマスガンバリマスガンバリマスガンバリマス!』(試製61cm六連装(酸素)魚雷)

DIO姫「バ、バカな……このDIO姫がーっ」(轟沈)

承太郎「てめーの敗因はたったひとつの単純な答えだぜ……『てめーは俺を課金させた』」

おわり

「なんですかこれは」
「司令官、知らないんですか。SS」
「えすえす」
「しょう(S)せつ(S)の略です」
「では小説と言えばいいのでは……。というか、そういうことではなく」
「言いたいことがあるならはっきり言えばいいんじゃないですか」
「えーと……、はっきりとはわからないのですが」
「私のことが嫌いなんですね」
「なぜそういう話になるんです」
「司令官が辞めればいいんです」
「なぜそういう話になるんですか……」

「何をやっているんだ、あいつらは」
「吹雪が提督に嫌がらせをしているらしいわよ」
「呪いの手紙でも渡したのか」
「私もよくわからないのだけど。執務室に乗り込んで、これを渡したそうよ」
「……ふむ。本当に意味がわからんな」
「そうよね」
「スターフブキナとはなんだろうか」
「私に聞かれても」
「……ひょっとすると結婚願望、とか」
「その解釈はどうかと思う」

「……何をやっているんでしょうか、あの人たち」
「ここにいる人はみんな暇なんだろう。僕達も含めて」
「あら、何か紙が……。え? なんですかこれ?」
「何かの悪い夢じゃないか」
「承太郎って誰なんです」
「知らないよ」
「こんなものを提督に渡して……嫌がらせでしょうか」
「そう言い切るのも難しい微妙さだな」
「でもこれを渡されても嫌がらせ以外には解釈できないと思います」
「それはそうだろうが」
「……やっぱり抗議をしたほうが」
「……気持ちはわかるけど、しかし……」
「でも……」

「……こんにちは」
「あら、こんにちは。お久しぶりですね」
「うん。これ、知ってる?」
「紙? ……なんでしょうか?」
「吹雪ちゃんが書いて提督に渡した」
「深海吸血棲艦……?」
「B級映画みたい」
「……吹雪ちゃん、大丈夫ですか?」
「たぶん」
「心配ですね……」
「たまには様子を見てあげるといいと思う」
「そうですね。最近は会ってないし、私のほうから出向きましょう」
「吹雪ちゃんも喜ぶよ」
「私も楽しみです」

「何を読んでいるのですか?」
「いや、吹雪の手紙に入ってたんだけど。たぶん間違えて入れたんでしょ」
「……なんなのですかそれは」
「六連装だからガンバリマスって6回言ってるんだよ、きっと」
「そういうことではなく」
「吹雪、相当に追い詰められてるんじゃないかな。まだ辞めてないみたいだし」
「全てはあなたが提督に余計なことを言ったせいではないですか」
「私のせいか」
「恐らくは」
「うーん。何か気の利いた返事を考えないと」
「……あの鎮守府にいる人たちは何をしているのでしょうね」
「多分楽しんでると思う」
「ありそうです」

 完

ところで>>98は艦娘(と司令官)当てクイズなので当ててくれるとうれしいです

吹雪 司令官
那智 足柄
親潮 初月
大和 初雪
陽炎 不知火

提督の呼び方で混乱

>>102
>提督の呼び方で混乱
あー

確認したところ、三番目節の奇数行と五番目節の奇数行が間違っていますね
両方とも「司令」です
ごめんなさい
ちゃんと対応表を作ります

答えはCMの後です
つまり本編に出てきます

 執務室。
 提督は私用の携帯電話を使って会話をしている。私用といっても個人的な会話をするためのものではない。軍に傍受されることのない通信を可能とする、公ではなく、私的に用件を済ませるためのものだ。当然、違法だった。
 そして、鎮守府を統括する提督の仕事の半分は、これを使って情報を集め、交渉を行い、鎮守府を維持するためのあれそれを行うことだというのが一般的な提督の認識だった。
 彼はその眉間に皺を寄せ、苦渋に満ちた顔のまま、小声で会話する。

「……本当なんですか、大淀さん」
『確度はおよそ66パーセントというところです』
「つまり確定も同じ」
『そう考えるのが安全ですね』

 大淀は元はこの鎮守府に所属していた艦娘で、その情報処理能力で彼の参謀に近い立場を勤めていた。
 秘書艦は艦娘を指揮し、設備を管理する。大淀はそれ以外の物資や情報・通信を管理するという住み分けだった。時にはその両方を同時に担うことさえやってのけている、とてつもなく優秀な艦娘だった。
 今は軍を離れているが、何をしているのか提督も詳しくは知らない。正確には知らないようにしている。
 そして時折、彼女がどこからか集めてきた情報を受け取っている。恐らくは非合法な手段に手を染めてもいるのだろう。
 それについて提督は何も言う気はない。必要ならばそうすることを教えてしまったのは恐らく自分だ。

(ただ、そのせいで彼女が裁かれるのならば、それは私の罪とする準備はできている。人を模したとはいえ、彼女たちが我々の罪まで模す必要はない)
『また何かおかしなことを考えていますね』
「考えていません。わかりました。こちらも対応を……」

 そこまで言って彼は沈黙する。対応をする。それ自体は簡単だが、しかし、そうすることで相手がどう動くか。大淀の情報によれば、こちらはすでに監視されている側だ。
 下手に動けば違う形で相手も動き、結果としてこちらが遅れを取る。あるいは市民が巻き込まれるかもしれない。
 大淀はそんな提督の心のうちを読み取ったように言う。

『対応はしなくても大丈夫です』
「大丈夫、とは?」
『私達が動きます』
「それは!」
『問題ありません。すでにH2はCでこの国に向かっています』
「な、そこまで……!」

 提督は驚愕する。大淀は自分が思っていた以上に……どれほどか想像できないほどに、広範で深い影響力を持っているようだ。

 何も言うまいと思っていたのに、つい大淀の身を案じる言葉を口にしてしまう。

「……あまり危険なことはしないでください」

 そんな提督の言葉に、何がおかしいのか大淀は小さな笑い声をあげた。

『ふふっ。ありがとうございます。でも、危険なのはそちらですよ』
「私は……いえ、私達は軍の人間です。危険を負うのが仕事です」

 真面目に言ったつもりが、大淀は電話のむこうでまた笑った。何がおかしいのかわからない。
 大淀は笑い声に言葉をつなげた。彼が聞いたことがない、どこかからかうような口調だった。

『これが終わったら辞めたほうがいいと思います』

「……貴女までそんなことを言うんですね」
『実のところ、みんな思ってましたよ。上官なので言わなかっただけです。私は気楽に言える立場になれてよかった』

 実に清々とした口調に、提督は先ほどとは別の意味で眉をよせる。その言葉が本当なら、まったく気がついていなかった。
 吹雪もずっとそう思っていたのだろうか。ならば、自分は最近に嫌われたのではなく、ずっと嫌われていたのかもしれない。
 へこみそうになる。
 大淀はそんな提督の内心を知らないように、話を戻す。

『では、こちらが把握しているデータを送信します。ご覧になっていただければわかりますが、正直、さほどのものではありませんよ』
「それはありがたい」
『新任艦にだけは気を配ってあげてください』
「ええ、それはもちろん考えてありま……」

 その時、執務室の扉をノックする音が聞こえた。
 提督が知らない叩き方だ。誰か、と思い至る前に声がかかる。

「駆逐艦娘の初月です。お時間よろしいでしょうか」

「初月さん? 少し待っていてください」

 奇妙なタイミングの良さだ。まさか、こちらの会話を聞いていたわけでもないだろうが。
 伝えるべきこと、聞くべきことは終わっている。大淀と提督は話をまとめはじめる。

『Cのタイミングはこちらに任せていただけますか?』
「ええ、そもそもこちらからは難しいでしょう。お任せします。……何から何まで、ありがとうございます」
『いえいえ。あ、代わりというわけではないですけど、辞めたら教えてくださいね。退職金のいい運用先をご紹介します』
「……はぁ」

 今更だが、彼女は軍をやめてだいぶ性格が変わった気がする。あるいは素を見せているのか。だとすれば、いいことなのか。
 そのまま通話を終了し、一息つく。携帯を懐にしまった。
 改めて、見せてはいけないものが机の上にないことを確認し、扉の向こう側にいる初月に声をかけた。

「お待たせしました。どうぞ、初月さん」

というところで一区切りです
お疲れ様でした
ついにストックがなくなりました

実際に書く時間よりもこれでいいかどうか決断するための時間のほうが長いです

陽炎改二でないですねえ…
ところでトリップを忘れてしまったのですがこれでいいでしょうか

 初月は提督の執務室の前に立った。改めて辺りに他の艦娘がいないのを確認する。
 ここに来るのはこの鎮守府に到着した時以来だ。あの時のように、しかし、あの時とは全く違う理由で緊張が全身を包む。
 まず、提督は自分達の味方だろうか。それとも吹雪に味方をするのか。
 そして、仮に味方であったとしても自分の要求を受け入れてくれるだろうか。

(……可能性は、そこまで低くはないと思う……しかし)

 あんな態度を吹雪が取っている以上、二人は対立関係にあってもおかしくはないが……。それでも二人は長い付き合いのはずだ。
 ここに来て日が浅い自分達には、二人の関係はまだつかみかねているところがある。
 どちらにせよ。
 このタイミングで要求をすれば、自分達の意図は露骨に伝わるだろう。だから本当はまずい。しかしもう時間はない。
 ダメだった時のことも考えてはある。早く済ませてしまうことにする。
 初月は、執務室の扉をノックする。

「駆逐艦娘の初月です。お時間よろしいでしょうか」
「初月さん? 少し待っていてください」

 その言葉に、初月は無意識に扉の向こうを探っていた。

(電話……?)

 内容までは聞き取ることができなかった。いったい誰と話していたのだろう。

「お待たせしました。どうぞ、初月さん」

 提督の声を聞いて、初月は思索を打ち切る。今はとりあえず関係ないはずだ。今は提督自身と向き合わなければならない。

「失礼します」

 扉を開けて、中に入る。机に座っているのは、穏やかな顔をした青年……いや、すでに壮年に入るあたりなのか。穏やかで落ち着いているのに、若々しく見える。
 何年も軍の中で生き、最前線の指揮を担当していたはずなのに、軍人らしくない娑婆っ気すらある。それが初月には不思議だった。
 有体に言っておおよそ軍人には見えない、軍服が似合わない男。

(だから、なめられているのか)

 そう考えれば納得がいく。いきそうになる。
 しかし、そんなはずはない。それだけの提督があれほどの大戦果を挙げ続けたはずはない。
 戦いを終わらせた決定的な勝利、あの作戦は彼が立案したものだとも聞いたことがある。
 初月にとっては、非常に不可解な存在だった。

「今日はどうしましたか、初月さん」
「は……」

 不可解と言えば、なぜこの人は艦娘に対して敬語なのだろうか。もっとも新参である自分に対してすら。
 上官というよりはまるで教師のようだと思う。それなら似合っている。

(やはりよくわからない人だ)

 それが初月の結論だった。

 よくわからないなら、とりあえずぶつかってみる他はない。状況に迫られて色々と考えてはいるが、正直、自分には向いていない気はしている。
 親潮が先になっただけなのかもしれない、と思う。親潮がそうしなければ、いつかは自分が吹雪に食ってかかったのかもしれない。
 ともあれ。もはやここまで来たのだから、何をためらうこともない。直截に用件を切り出す。

「自分と親潮二人の艤装。その常装許可を頂きたく参じました」
「……え、ええ? 常装ですか?」

 提督が目を丸くした。逆に初月の視線は鋭くなる。
 常装とは、艦娘の艤装に対する場合は、戦闘任務中以外の時間……つまり、鎮守府で日常生活をする間も、常に艤装を装備することを指す。
 これは戦中はごく一般的なことだった。いつ出撃任務が下るか、あるいは深海棲艦が攻撃を仕掛けてくるかわからないのが日常だったのだ。常に艦娘は戦闘に備えた状態でいることが望ましいとされた。
 実際にこの鎮守府でも、潜水型の深海棲艦を中心とした部隊による奇襲攻撃を受けた際、常装状態にあった艦娘たちがその身を盾にして鎮守府を防衛した事例がある。
 しかし、今は戦後の平和な時期であり、艤装を常装している艦娘はどの鎮守府にもほとんどいない。
 艤装は当然かなりの重量はある。しかし、道具の形はしているが、強く艦娘の心身に結びついた、存在の一部であるため、重さはほとんど感じない。
 とはいえ、わざわざかさばる艤装と弾薬を身に着けていたいとは、どの艦娘も思わないのだ。

(だが、今の僕達には必要だ)

 初月と親潮は自分の身を守らなくてはならない状況にある。
 何からか。言うまでもなく、吹雪からだ。
 自分たちの能力を最大限に発揮するためにも、艤装を求めるのは当然のことだった。そして、それでも、とても十分とは考えられないのが吹雪だ。
 恐らくは、自分達が艤装を装備していても、両手両足を鎖で縛った吹雪と互角か、まだ不利……という戦力分析が初月と親潮の共通見解だった。
 もちろん、自分達の武装が吹雪を刺激する可能性も当然考えていた。そうなれば、事態を派手にしてやるつもりだ。自爆を覚悟するくらいでなければ、逆に吹雪から逃れることなどできないはずだった。
 初月は決意を篭めたまなざしで、提督を貫く。

「許可をいただけますか」
「……初月さん。海は好きですか」
「は?」
「川はどうでしょうか。この近くにある川、ですが」
「……おっしゃっている言葉の意味が、わかりません」
「では下水道」
「……?」

 その表情を困惑から不審に変えていく初月の様子を、提督はじっと観察する。
 初月は知っているのか? それとも偶然なのか? まさか、自分と大淀の会話を聞いていたのか……?
 いや、そもそもだ。二人はこの時期に入ってきた艦娘だ。それは偶然なのか。誰かが意図を持って彼女たちを着任させた可能性は。
 提督は、初月の真意を見極めようとする。

 ……実のところ、彼は吹雪と二人との食堂でのあれそれを知らなかった。
 那智が報告を意図的に止めていた。どうせ余計なことを考えるだろうという気遣い半分、面倒半分の判断だ。

 お互いに相手のことを、探るような目で見つめあう提督と初月。
 雰囲気を変えた提督に対し、初月は不審げな表情をやめ、毅然とした態度をとる。
 二人の間に流れた、緊張を帯びたわずかな時間。
 沈黙を破ったのは提督だった。

「先ほどの質問は忘れてください。……なぜ艤装の常装を?」
「もちろん、錬度向上のためです。我々は新造されて数日の艦娘。現状のうちに艤装の装着と運用に慣れておきたい、と考えました」
「なるほど」

 提督はうなずき、少し顎に手を当てて考え込む。
 初月も事前に用意をしておいた返答だが、嘘を言ったわけではない。来るべき日のために、何かをしておきたい。たとえ吹雪とのことが杞憂に終わったとしても、艤装の常装経験は無駄にはならないだろう。

ではまたこのあたりで
陽炎改二が出たら更新します(出なくても決心がついたらします)

(もちろん本当の理由は提督もわかっているはずだが……しかし、これも手続きか)
(筋は通っている。まだ会って数日しか経ってはいないが、この二人ならありえないことではないとも感じる……。しかし、タイミングがはまりすぎだ。常装を求めるのは、何らかの危機感を持っているからでは……?)

 そこまで考えて、ふと顔には出さずに笑って、それはそれでいいか、と考え直す。危機感を持っているのならばいいことのはずだ。大切なのは機密を守ることではない。

(生まれて数日の艦娘が命であがなう機密などありはしないし、あってはならないはずだ。私がまだここにいたのも、そうさせないためだったと考えればいい)

 初月は提督の瞳に、妙に力がこもっているような気がした。思わず言葉にする。

「提督、失礼ですが……何か、妙なことをお考えになっていませんか」
「考えていませんよ。わかりました。常装を許可します」

 提督は立ち上がり、自ら書類を取り出す。必要事項を記入して判を押した。
 自分でやるのは、秘書艦がいないのだから当然なのだが、初月は驚いている。

「提督みずから手続きをしていただけるとは……」
「気にしないでください。私もヒマなんですよ。仕事を与えてくれたことに感謝をしたいくらいだ」

 常装の許可に大した手続きは必要ない。もともと常装を求めるのは艦娘が持っている権利なのだ。後は初月がこの書類を持って格納庫に行けばいい。
 まず無いとは重うが、もしも万が一おかしなことを考えているとしても、艤装の護りを務める『彼女』がそれを見抜くだろう。

 一方、初月はそのフットワークの軽さに、先ほどと同じ戸惑いを感じた。提督というのはもう少し威厳を意識する存在だと思っていたのだ。
 受け取った書類を見る。もちろんおかしなところはない。
 仮にサインの形が暗号になっていたら? そもそも書類が違うものだったら?
 ……なんて考えてもみるが、どうしても目の前の人は、あまりそんなことをしそうに思えてしまう。
 それにしても、自分が最初に常装の許可を求めた時は困惑していたようだったが、ずいぶんと簡単に許可をもらえたと思う。

「どうしました? 何か不備でもありましたか」
「いえ……。あの、よろしいのですか」
「構いませんよ」

 たとえ機密を破っていたとしても、それはそれで構わない、ということだ。
 
(……提督は吹雪を積極的に排除したい、ということだろうか)

 どうやら提督は少なくとも敵ではない、のかもしれない。
 実質的には自由にやる許可をもらったようなものだ、と初月は理解した。
 話はまったく通じていないのに、会話は成立してしまっていたのがとてもよくなかった。

「では、僕たちは艤装を受領します。ありがとうございました」
「ええ、お気をつけて」
「……期待に応えてみせます」
「あ、いやそこまで無理はしなくても。ご自分と親潮さんの身を守ることを優先してください」
「……はい。ありがとうございます」

 身を守る。提督がはじめて発した、踏み込んだ言葉だった。
 提督は自分で動くことはしておらず、どこまで頼ることができるのかも怪しい。しかし、間違いなく吹雪とは逆の勢力ではあるらしい。

 一方、このやりとりで提督は初月たちが既に情報を得ており、そのために動いているのだと確信した。まさか吹雪に身の危険を感じているとは思いもよらない。
 
 というわけで、結局二人はお互いの思惑を取り違えたまま別れることになる。

「親潮、初月、いるか」

 そのころ、那智は二人の部屋を訪れていた。ドアをノックして声をかける。
 反応はない。不在か、と思ったが一応ドアノブに手をかけてみる。鍵はかかっていなかった。

「入るぞ」

 那智は扉を開いて、中をのぞきこむ。二人を迎えた時と内装は変わっていない。
 この部屋の女性的な調度は、実は那智が整えたものだ。こういうことをやれる人材は、彼女とぐれた吹雪だけだったので自分でやった。
 見た限り初月はいないが、親潮のベッドには膨らみがある。頭は奥側にあり、顔は見えない。

(眠っているのか?)

 起こさないように静かにベッドへと近づく。錬度が高い艦娘が本気で身体制御をすれば、衣擦れの音ひとつ立てることなく歩くことができる。
 やはりふくらみの正体は人影だ。その顔を覗き込む。
 陸奥が寝ていた。

「おい」

 那智は陸奥の頭を蹴とばした。

「いたっ、もう……何するのよぉ……」

 かなり強く蹴られたはずだが、大して痛がる様子もなく、眠そうな声を出しつつもぞもぞと布団が動いた。
 ねぼけたように身体を起こしたのは、戦艦娘の陸奥だ。
 那智のすぐ後に着任した艦娘であり、鎮守府に残っている艦娘の中では吹雪の次に長い付き合いだった。
 そんな仲ではあったが、なぜ陸奥が親潮のベッドで寝ているのかはわからない。

「何をする、とはこちらが言いたい。吹雪の真似事か? 私も貴様もやられたはずだな」

 ああ、と陸奥は懐かしそうな顔をした。

「ベッドの中に気配を消して隠れて、こっちが部屋に入って落ち着いたところで抱きついてくるアレね」
「そのまま並んで寝るケースもあった。アレはよくなかったな。多くの艦娘がとても誤解をした」
「あなたも?」
「貴様も」

 陸奥は面白そうに笑い、一方で那智は苦く遠い目をする。
 吹雪にこれをやられた艦娘は、色々な……何らかを真剣に考える。その後に周りの艦娘に相談し『それ私もやられた』と言われてなんだそれ、となるのだ。
 ほっとする娘も、怒る娘もいた(ただ、最後はみんな吹雪を許した)。

 そのパターンならまだいいのだが、誰にも相談せずに思いつめるタイプの艦娘もいて、これが大変だった。
 その中でも、足柄とかは面白かったな。
 そこまで考えて那智は首を振る。どうも最近、他の艦娘と顔を合わせると過去の話をしてしまう。
 「楽しかったあの頃」なんてものを懐かしむほど生を続けたつもりはない。
 今は今の話をしよう。

「それで、結局何をしていたんだ」
「たぶんあなたと同じよ。二人が心配になっちゃって」
「様子を見に来た」

 食堂の様子を那智に報告したのは、陸奥だった。

「でも誰もいなかったから」
「この部屋で待つことにした、と。そこまではわかるが、なぜ親潮のベッドで寝ている」
「ほらー。私みんなのご飯作ってるから、朝早いのよね」

 陸奥は食堂で一人働いている。
 これは単純な消去法の結果だ。現在鎮守府に残っている艦娘の中で二番目に料理ができて、三番目以降はできるという段階には達しておらず、一番目のようにぐれていないからだった。

「だから眠くなっちゃって、ついふらふらーっとベッドに入っちゃったというわけ」
「なるほど、そういうことか」

 那智は納得した。
 そして、そのまま陸奥に背を向けて初月のベッドへと歩いていく。

「あら? どうしたの? 秘書艦さんもおつかれでおやすみ?」
「無駄な韜晦(とうかい)はよせ。観念するんだな」

 初月のベッドの側にひざまづき、左手でそのへりを掴む。
 そのまま片手で、軽々と持ち上げてみせる。

「なあ、吹雪」
「…………えへへ。こんにちは」



というわけで次回は陽炎改二か初月改二が実装されたら更新です
那智改三でもいいです
これなら確実にすぐに更新できるはず

こんばんは
ふぶなちを書いているのが全人類で自分だけなのではという想像が恐ろしいので更新することにしました
なんだこの焦燥感は

「あーあ、バレバレね」

 ベッドの下で気配を殺していた吹雪に、那智の冷たい視線と、陸奥の面白がっている笑顔が向けられる。
 那智はベッドを持ち上げたまま、右手で吹雪の首の後ろをつかんで引きずり出す。
 そのまま立ち上がり、右手で吹雪を猫のように持ち上げた。吹雪はされるがまま、何かをごまかすような笑顔で那智を見ている。
 那智の表情は変わらなかった。

「ど、どうしてわかったんですか」
「陸奥の言い訳が酷かったな。早起きしたくらいで居眠りをする艦娘などいない」
「私もさすがに無理があるかなと思ったんだけど、インパクト重視でねー」

 那智が全く反省をしていない陸奥をじろりと睨むが、彼女は気にした風もない。ふたたび吹雪に視線を戻す。

「で、何をしている。準備をするんじゃなかったのか」
「えっと、初月ちゃんと親潮ちゃんが、どんなのが好きか気になりまして」
「それで?」
「だから、ここで一晩過ごせば色々と……そのー」
「私は止めたのよ?」
「黙ってろ。で、一晩過ごせばなんだ? 言ってみろ」
「い、いろいろなお話が聞けるかなーなんちゃって……」
「ほう」

 那智は吹雪と同様に陸奥の首もつかみ、そのまま二人を部屋の外へとひきずっていく。那智の膂力ならば、片手で陸奥を持ち上げることもわけはない。
 二人に何をするかわからないこいつらを、ここに置いておくわけにはいかない。

「私は何もしないわよー」
「ベッドの中に潜り込んでいる時点で既にしている」
「ごめんなさい、悪気はなかったんですー」
「なくてもダメだが、あっただろう。お前が盗聴のためだけにベッドの下に潜むなんて、誰が信じると思う」
「それはその通りよね……」
「ひどい、ちょっと寝顔を見たり、寝ている間に起こさないよう抱きついたりするだけなのに」
「セクハラ駆逐艦め」

 こうしていると、那智は日々新しい艦娘が増えていたあの頃を思い出す。ほぼ毎回吹雪はこうして……。
 那智は舌打ちした。また昔のことを考えてしまった。自分が歳をとったような気分になる。
 全部吹雪が悪い。陸奥も同罪だ。
 そんな那智のいらつきを感じながらも気にしない陸奥は、そういえば、と同じようにひきずられている吹雪に目線を向けた。

「吹雪、秘書艦さんと普通に話してるけどぐれたのはやめたの?」
「……あー、えーと、これも不良活動の一環です」
「あいつ以外に迷惑をかけるんじゃない」

 こうして三人は食堂まで歩いていき、説教をする・される流れとなったのであった。

 同時刻。

 親潮と初月は二人で、格納庫へ艤装の受け取りへと向かっていた。

 彼女たちはお互いへの連絡を識別信号の操作で行っていた。艦娘が発信している信号に強弱をつけ、そのパターンを暗号化することで、自分たちにしかわからない通信になる。
 他の艦娘が本気で感知しても露見することを避けるため、微弱な操作に留まっていたが、親潮側の受信能力が高かったため、少なくとも初月から親潮への通信は問題なく行える。
(もっとも他の艦娘たちはプライバシーを尊重していたため、実際にはその必要はなかっただろう)
(部屋に潜り込むのは吹雪の中ではグレーゾーンであり、グレーならついやってしまうのが吹雪でもあった)
 初月が許可をもらったことを信号で伝え、それを受け取った親潮が部屋を出た後にタイミングを合わせて合流し、こうして廊下を歩いている。 

「……あっさりと許可がもらえたんですね」

 親潮はいぶかしげ、というよりはっきりと疑っている顔をしていた。
 無理もない。自分だって、こんなにあっさりと許可が下りるとは思わなかった。

「提督は僕たちの味方なんだと思う。あてにはできないけれど」
「……確かに、あの人の態度は司令に対してはずいぶんと辛辣でしたね」
「深刻な対立があるのかもしれないな……」

 なんとかこれを利用できないか、と二人は話し合ってみたが、結局は状況がまだ不透明に過ぎて、具体的な行動に繋がる結論を出すことはできなかった。
 他の艦娘たちとも、もっと話をしてみるべきかもしれない。ただ、時間はない。
 期限は明日の19時なのだ。

 話をしながら歩いていると、廊下が装甲化された地区にさしかかる。いざという時は全てのシャッターを下ろし、艤装を守る要塞ともなると聞いている。
 艦娘という人型の生き物と、その装備である艤装は不可分と言ってもいい関係にあり、その両方が高い機密によって守られているのだ。
 親潮と初月は、物々しい雰囲気に緊張を高めた。自分達は反逆スレスレの目的で艤装を身につけ、武装をしようとしているのだ、という事実の重さを感じる。

(大丈夫だ、この書類があれば……)

 自分の手の中にある書類を見て、ふと、初月は疑問を感じる。

「そういえば……この書類は誰に渡せばいいんだろう」
「……言われて見ればそうですね」

 親潮も不思議そうな顔をした。
 この鎮守府に現在配属されている人間は提督だけだ。運営の業務は全て残った艦娘と、そのサポートをする存在たちが行っている。
 運営といっても、ほんのわずかな人々(艦娘含む)がごく普通に生活する程度の仕事だ。訓練等も自主的に行うものとされている上で、大して積極的に行っている者もいない。
 有体に言って、みんな暇をもてあまして好き勝手に過ごしていた。
 そんな緩んだ雰囲気に不満を募らせたのがこの二人だったが、緩みきっていると思われた吹雪が全く緩んでいなかったので、この鎮守府に対する印象がよくわからなくなっていた。

「まだ自分達が会ったことがない、誰かがいるということでしょうか」
「そうなるのか……?」

 しかし、着任時に不在だった艦娘へも、鎮守府を歩いて挨拶回りをした。その時も、その後の会話にも他に誰かがいるという話は出てこなかったと思う。

「……確かに格納庫には挨拶に行かなかったけどさ」
「……中に住んでる人がいるのかも」

 そんな冗談を言って、少し親潮は笑った。
 初月も、つられるように微笑んだ。冗談そのものより、ずっと塞いでいた親潮が笑ってくれたことが嬉しかった。
 艤装の許可をもらえたこと、そして提督が味方であるとわかったことが良かったのかもしれない。少なくとも自分達はこの鎮守府で、孤立したわけではなかった。
 そう意識すると、自分の足取りも少し軽くなった気がした。

 歩みを進めるうちに、ついに廊下の突き当たりに、大きな両開きの扉が見えた。
 近くに誰かがいる気配はない。

「ここか……」

 分厚い金属製の無骨な扉は、赤黒い錆のような色で覆われている。
 装甲された廊下と比べて見ても、少し浮いた印象があった。
 近づくに連れ、どうやら暗い赤の地色の上に、黒で精緻な柄をつけたものだとわかる。

「……妙な装飾だな」
「秩序だっているような、そうでもないような……」

 黒の柄は、時に整然と並び、時に無秩序に形を取ることなく、ある部分では何重もの円を描いている。
 そこで親潮は、その柄の中に特に太い線があることに気づいた。そして、その線は繋がり、曲がり、形を成している。
 こう読めた。

『生還第一!』

「……初月、これは文字です」
「ん……? 本当だ!」

 二人が扉にかけよってみれば、そこにあった柄と見えたものは、直径が一ミリ程度の、しかし確かな文字のつらなりだとわかる。
 ごく細い、筆の毛数本で書いたような細い線の文字で、膨大な文が赤い扉に書き連ねられていたのだった。

「こんなに細かな文字がたくさん……」
「……米に文字を書く職人が大勢勤めていたのでなければ、これを書いたのは艦娘たちだろうな……」

『静かな海が其処にありますように』『元気が一番!』『節度も一番』『勇気あれ』『無事を祈って』『勝利を誓う』『がんばる』『今夜の晩酌のために』『必殺』『幸運祈願』『本気出すわよ』『艦載機の調子は上々』『努力は裏切らない』『私も行けました』『よろしくね!』『よろしくてよ』『魚雷が当たりますように』『今日も遠征』『ちょっとは休み増やせ!』『実戦記念!』『ふぉいあ』『SALLY, GO!』『我らに意志あり』『艤装をあまり壊さないように』『酸素魚雷装備記念カキコ』『艦娘に嵐の加護があらんことを』

 そこにあったのは、どれもこれも字の形も癖もバラバラな、短い言葉の羅列だった。
 初月はそっと扉に指を触れる。冷たいはずの扉に、なぜか熱いものを感じた、気がした。

「……開けましょう」
「……ああ」

 初月は両手を扉の握りにかけた。
 そういえば、カギがかかっているはず……と思ったのは力を篭めた後だった。
 しかし初月の手は、重さを感じながらも、しかし、抵抗無く回った。

 扉が開く。

次回からは外伝のふぶなち伝説がはじまります
もしくは陽炎改二が追加されて続きをかきます

ツイッターアイコンにスパッツが見えた時、ちょっとだけ期待したのに…
と勝手に傷ついていたら一ヶ月経ってるのでどうしよーって気持ちですが

陽炎改二さえ来ていれば…!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年07月09日 (土) 14:28:53   ID: Au3IvF3S

斬新な設定の吹雪で面白い
続き期待してます

2 :  SS好きの774さん   2016年08月10日 (水) 23:37:00   ID: Tc82i0xs

ついついクスッとしてしまいますね、更新頑張って下さい。

3 :  SS好きの774さん   2016年10月01日 (土) 19:41:40   ID: cWQ9PEVv

期待

4 :  SS好きの774さん   2016年10月02日 (日) 06:02:13   ID: EU9z5e4-

どう話が転がるか、期待

5 :  SS好きの774さん   2018年06月03日 (日) 18:56:37   ID: QlIrGiRo

続きが読みたいんじゃー!

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