――おしゃれなカフェ――
高森藍子「今日はちゃんと、傘もタオルも持ってきましたっ」
北条加蓮「この前は酷い雨だったもんね」
藍子「梅雨が明けるまで、降水確率0%でも傘を持ち歩くことにしたんですよ」
加蓮「うんうん」
藍子「はいっ。これ、加蓮ちゃんの分です! お母さんの傘がいいかなって思ったんですけれど……加蓮ちゃんならこういうのも似合うかな? って思って、お父さんの傘を借りてきちゃいました」
加蓮「私の分? いや、私だって傘もタオルも持ってきてるけど……」
藍子「あっ」
加蓮「傘が3人分になっちゃったね」
藍子「……帰る時にモバP(以下「P」)さんを呼んじゃいましょうか」
加蓮「あ、それいいアイディアっ」
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――まえがき――
レンアイカフェテラスシリーズ第25話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「写真の話でもしながら」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「久しぶりに晴れた日のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「甚雨のカフェで」
加蓮「ちょっと前からまた降りだしたけど、来る時は大丈夫だった?」
藍子「大丈夫ですよ。あ、服の端のところが、ほら、ちょっぴりだけやられちゃいました」
加蓮「そっか」
藍子「雨は大丈夫なんですけれど……それよりも、外、すっごくジメジメしてて……ふ~っ、暑いです」パタパタ
加蓮「……今の、外でやっちゃ駄目だよ」
藍子「ふぇ?」
加蓮「なんでも」
<お待たせしました~
藍子「あっ、店員さん。今日もこんにちはっ」ニコッ
加蓮「…………見てて危なっかしすぎるなぁ」
藍子「???」
加蓮「なーんでも」
藍子「変な加蓮ちゃん。それで、加蓮ちゃんが注文してくれてたのは……そうめん?」
加蓮「うん、そうめん」
藍子「そうめん……もうそんな季節なんですね」
加蓮「夏だね。まだ6月だけど。どう? 夏に入る前に、何かやり残したことはない?」
藍子「やり残したことですか? うーん…………」
藍子「ええと…………」ユビオリカゾエ
加蓮「……え? いくつあるの?」
藍子「あはは……ついたくさん思いついちゃいました。紫陽花の写真と、雨の日のお散歩、それからカフェ巡り。やったのもありますけれど、もっとやりたいって思っちゃって」
加蓮「藍子はワガママだねー」
藍子「聞いてくれる人がいるから、わがままになっちゃいます」
加蓮「じゃ、夏にもいろいろやらなきゃね」
藍子「はいっ」
加蓮「ところでカフェ巡りって梅雨と関係あるの?」
藍子「何を言っているんですか加蓮ちゃん。梅雨のカフェには期間限定メニューがあるんですよ。あそこと、あそこと、あそこと……いくつも回ってないカフェがあるんです。うぅ、来年までお預け……」
加蓮「…………ぷっ」
藍子「?」
加蓮「あはははっ! んーん、なんでも。ほら、そうめん早く食べないと伸びちゃうよ?」
藍子「そうでしたっ……って、そうでしたっけ?」
加蓮「早く食べないと意地悪な加蓮ちゃんがぜんぶ食べていっちゃうよ?」
藍子「加蓮ちゃんも食べたかったんですね。それなら、はいっ。あーん♪」
加蓮「あー……冷たっ! 服にこぼれっ、あちょ、そうめんこぼれ、こぼれ……ぐぬぬぬぬ!」ジュルルル
藍子「ああっ。ハンカチハンカチ……ううんっ、タオル! これ、使ってくださいっ」ズイ
加蓮「さんきゅ。……ぁーミスった。ほとんどシミにはなってないみたい、よかった」
藍子「ほっ」
加蓮「テーブルにもこぼれちゃってるし……」フキフキ
藍子「加蓮ちゃん、もっと顔をこっちに出してください。ほらっ」
加蓮「それでもこれは食べにくいよ。いいよ、藍子がぜんぶ食べなよ。お腹が空いてる訳でもないし」
藍子「はーいっ」チュルチュル
加蓮「…………」ジー
藍子「…………♪」ズズズ
加蓮「…………」ジー
藍子「…………」チュルチュル
藍子「……あの、こっちに来て食べますか?」
加蓮「見てるだけ見てるだけ」
藍子「気になっちゃいますよ~」
加蓮「いーよ。あんまり食欲ないし。最近はもう色々とヤバイからね……ジメジメしてるし、夜とかもう蒸し暑くて」
藍子「…………♪」チュルチュル
加蓮「遂にクーラー解禁しましたー」
藍子「体を冷やし過ぎないように気をつけてくださいね、加蓮ちゃん」
加蓮「藍子がお母さんと同じことを言うー。うざーい」
藍子「ごめんなさいっ」
藍子「…………♪」ズズ
加蓮「……あっ。ね、藍子。心配してくれるのはうざ嬉しいんだけど、」
藍子「う、うざうれしい?」
加蓮「人のことばっかりじゃなくて自分のことも気にかけるべきだよ。ほら、首筋。汗」フキフキ
藍子「ひゃっ……あ、ありがとうございます。でも急にやったらびっくりしちゃっ、く、くすぐったいっ」
加蓮「よし。ここもクーラー解禁されてるんだし、汗はほっとくと体温を奪ってくからね。ちょっとくらい大丈夫だって思うのは危険だよ。この時期はほら、朝とか夜とか気温おかしいし」
加蓮「風邪なんて引いちゃったら、やりたいことがもっとできなくなっちゃうよ?」
藍子「ありがとうございます、加蓮ちゃん。ふふっ♪」
加蓮「……なんか嬉しそーだね」
藍子「やっぱり加蓮ちゃんは優しいなぁ、って!」
加蓮「お節介だよ。私の一番大嫌いなお節介」
藍子「でも、私はあなたのことが大好きですよ?」
加蓮「少しくらい藍子を見習うべきなのかなぁ……」
藍子「…………♪♪」チュルチュル
加蓮「…………」ホオヲカク
藍子「~~~~♪」
加蓮「…………」ソトヲミル
加蓮「マジな話さ、私には雨の良さがぜんぜんわかんなかった」
藍子「……? あめ?」チュルチュル
加蓮「藍子が雨の日も楽しいって言うからさ……探してみたっていうか意識してみたっていうか。でもぜーんぜん」
加蓮「ベタベタしてウザいしセットは崩れるし寝る時は暑いしお母さんはうるさいし。や、お母さんがうるさいのはいつもか」
藍子「そうですか……残念」
加蓮「カレンダーから6月がなくなればいいのにー」
藍子「あ、それは駄目ですっ」
加蓮「えー?」
藍子「6月がなくなっちゃったら、ブライダル撮影もなしになっちゃうんですよ? そうしたら、ウェディングドレス姿の加蓮ちゃんがなかったことになっちゃうかもしれません。写真もなくなっちゃいます。そんなの嫌ですっ」
加蓮「あー…………待て、なんでそれを藍子が持ってるの?」
藍子「Pさんがくれました」
加蓮「よし」スマフォトリダシ
藍子「…………♪」チュルチュル
加蓮「……止めないの? いつもみたいに、そんなの駄目です! って感じで」
藍子「うふふっ♪」
加蓮「うっわ不気味な笑顔。今日の藍子は読めないなー……こら、何を企んでやがるっ。そうめん食べてないで吐きなさい。何を企んでる!」
藍子「そうめん、早く食べないと伸びちゃうって言ったの加蓮ちゃんですよ?」ズズズ
加蓮「うぐっ」
藍子「それに加蓮ちゃん。ご飯を食べている時に吐くなんて言ったら汚いです」
加蓮「ちぇー」
藍子「…………♪」ズズ
加蓮「ブライダルって言えばさ、そういえば歌鈴がなんかやってなかったっけ? ブライダル撮影」
藍子「白無垢のですよね。和風で、綺麗で……歌鈴ちゃんがすっごく大人っぽく見えました」
加蓮「ねー。あそこまで似合うとは。間違えなく誰よりも白無垢の似合う女の子だった」
藍子「あの写真を見た後、歌鈴ちゃんにお会いした時、思わず歌鈴さんって呼んじゃいました。すごく恐縮されちゃって……ふふっ」
加蓮「一応年上なんだっけ。一応。ホントに一応」
藍子「加蓮ちゃん、気になるなら歌鈴ちゃんに聞いてみたらどうですか? 実は撮影の後、とっても嬉しそうに色々とお話してくれたんですよ。今までたくさんの結婚式を見送っていた私が! って、最初はドキドキしていたそうですけれど――」
藍子「最後までやりきったら、あっという間だったみたいで。夢のようだった、って言ってましたっ」
加蓮「ちょちょ、藍子がぜんぶ説明しちゃったら歌鈴に聞く必要がなくなるでしょ?」
藍子「あっ……じゃあこれ以上は秘密です。歌鈴ちゃんに聞いてみたらきっと何倍も教えてくれますよ。ほらほら♪」スマホトリダス
加蓮「?」
藍子「こういう時の加蓮ちゃんは、背中を押してあげるって決めてるんです!」
加蓮「連絡先は知ってるけどね。んー…………」
藍子「?」チュルチュル
加蓮「…………いいや。たぶん顔合わせたら喧嘩になるし」
藍子「ええっ」
加蓮「いやほら……仕上がりは私も見たんだけどさ。なんていうか……幸せそーな顔してんの。ああ、幸せなんだろうなぁ、っていうのが……演技でもなくてアイドルとしての顔でもなくて、なんとなくそれが分かってさ」
加蓮「別に何とも思わない筈なんだけどなぁ。藍子とかPさんなら。友達の友達ってヤツなのかなぁ……」
加蓮「うん。出会い頭にPさんの嫁は私だって首根っこ掴むところまで想像するから私は止めとく」
藍子「そんなことしちゃ駄目です」ジトー
加蓮「大丈夫大丈夫。喧嘩してても藍子が止めてくれる」
藍子「……うぅ、たぶん無理です」
加蓮「藍子ならできる。ほら、パッションだし。パッションって強いし」
藍子「言ってることがメチャクチャです……」
加蓮「…………」
加蓮「……Pさんがなー。面倒見るのとか好きそうだし……はー」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「たぶん私は、Pさんにとって理想の人じゃないんだろうなぁ」
加蓮「…………とかさ。あはは……うん、私はアイドルだからね。ほらほら、歌鈴よりアイドル力は高いつもりだし? 別にPさんは関係なくてさー……んー、なんだろ。なんだろうなぁ」
藍子「……大丈夫ですよ。Pさんだって、加蓮ちゃんのことが大好きですから。だっていつもPさんって楽しそうに加蓮ちゃんのことを、」
加蓮「ストップ!」
藍子「わっ」
加蓮「そういうのは……ね? ほら……その……そういうのは、本人から……ああもう、とにかく大丈夫だから。ねっ?」
藍子「……はい」
加蓮「ふー」
加蓮「少しは……理想にならなきゃね。本音を言える相手でも、いろんな顔を見せれる相手でも。なんでも受け容れてもらえるって考えが甘すぎ――」
加蓮「…………」ジー
藍子「?」
加蓮「……やっぱ、羨ましい」ボソッ
藍子「……??」
加蓮「ううん。歌鈴にはまた話を聞いてみるよ。私もブライダル経験者だし、もしかしたら喧嘩なんてしなくて盛り上がるかも」
藍子「そうですよ。喧嘩なんてしないで、楽しくお話しましょ?」
加蓮「藍子の話ならひと晩、いや1週間くらい余裕で行けそう」
藍子「私のお話で!? それは……せ、せめて私のいないところでお願いします」
加蓮「もしかしたらそのままユニットって話になっちゃうかも。アニバ以来の同じステージ! とかさ」
藍子「それなら私、絶対に見に行きますね! 最前列で、おふたりのことを見守っていますっ」
加蓮「最前列?」
藍子「たまにはファンのみなさんの気持ちにもなってみたいから……それに、舞台袖から見るおふたりの笑顔と、客席から見るおふたりの笑顔、きっと違って見えると思うんです。頑張ってスケジュールを空けて、どっちからも見るんです!」
加蓮「あはは。気が早いよ。歌ってる時に藍子が目に入ったら緊張しちゃいそうだなぁ……」
藍子「そうなったら私がいっぱい応援しますね」
加蓮「私もだけど歌鈴の方がヤバそうかも」
藍子「加蓮ちゃんがサポートしてあげてください。歌鈴ちゃん、緊張を乗り越えたらすっごく頑張るんですよ。加蓮ちゃんなら緊張を解くやり方とか……教えてあげてくださいっ」
加蓮「はーい。……いやいや、これってもしかしたらの話だよ?」
藍子「あっ……そうでした」
加蓮「藍子がそこまで言うなら、せっかくだしPさんに相談してみよっかな?」
藍子「!」スマフォトリダシ
加蓮「気が早いってーのっ」ビシ
藍子「あう」イタイッ
加蓮「そういうのは帰ってから……ううん、明日また事務所に行ってから。今日はここで藍子とのんびりするの。それとも何? 藍子ちゃんは加蓮ちゃんとおしゃべりするのが嫌なの? そっかそっかー、そういう人だとは思わなかっ」
藍子「えいっ」ビシ
加蓮「あてっ」イタイ
藍子「えいえいっ」ホッペタグニグニ
加蓮「ふぉらっ、はなひなさいっ。……ぷはっ。そこまでやってないでしょー」
藍子「加蓮ちゃんがそういう冗談を言わないためにです」
加蓮「無駄無駄ー」
藍子「このっ」ビシ
加蓮「ふぎゅ」イタイ
藍子「…………」
藍子「……………………」
加蓮「?」アタマオサエ
藍子「えい」ビシ
加蓮「ぎゃっ」イタイ
加蓮「……叩きすぎだー」
藍子「……ちょっぴり楽しくて」
加蓮「こらー」
藍子「私はもう慣れちゃいましたけれど、歌鈴ちゃんとお話する時は冗談言っちゃ駄目ですよ? 歌鈴ちゃん、きっと慌ててしまいますから」
加蓮「アンタは世話焼きな親か何かか……。……前からそうだっけ、藍子は」
藍子「もー」
藍子「…………♪」チュルル
□ ■ □ ■ □
藍子「~~~♪」チュルル
藍子「やっぱり夏って言えばそうめんですね」
加蓮「んぅ? そだね。すぐに飽きちゃうから、飽きないうちに楽しまないと」
藍子「夏の間って、ずっとそうめんになっちゃいますよね……そういう時は、味を変えてみると美味しく食べられるんですよ」
加蓮「へー、例えばどんなの?」
藍子「麺つゆを変えてみるとか、ちょっとだけわさびを入れてみるとか」
加蓮「ちょっぴりなら藍子でも食べられそうだね」
藍子「氷の代わりに別の物を入れてみるのも面白いんですよ。そうそう、前にテレビでやっていたんです。トマトを凍らせてすりおろせば、かき氷みたいになるって。この夏に絶対にやるって決めてるんです!」
加蓮「へぇ~」
藍子「今日は今年初めてのそうめんだから……」チュルチュル
藍子「うんっ♪ 夏が来た、って気がします!」
加蓮「あとは帰りにアイスでも買って食べれば完璧かな? って、まだ梅雨だっけ」
藍子「あ、あはは、そうでした。ちょっとだけ、気が早くなっちゃいましたね」
加蓮「やだなぁ、外に出たらまたジメジメするんだよね……。藍子ー、おぶって帰って」
藍子「加蓮ちゃんはしょうがないですね」
加蓮「やったー」
藍子「~~~♪」チュルチュル
加蓮「……梅雨、早く終わんないかなぁ」
藍子「加蓮ちゃんは、夏にやりたいことって何がありますか?」
加蓮「私? そうだね、今年こそ水着の仕事をやりたいなぁ。撮影とか……ほら、グラビアでもいいし、スポドリのCMとかやってみたいなっ」
藍子「ふふっ」
加蓮「そういえば藍子は前に水着の仕ご――」
藍子「やってないです」
加蓮「いや、やったでしょ」
藍子「やりましたけどやってないんです! その……ちょっと前から、Pさんが――」
加蓮「セクハラ?」
藍子「そこまでではありませんっ。ただ、事あるごとに水着の話を振ってきたり、夏服のお話とか……でもなぜかいつの間にかプールや海のお話になってて。それで、この前こっそりPさんの事務机を見たら、カタログとかがいっぱい置いてあって」
加蓮「Pさんにしちゃ頑張ってる方なのかな? 直接言わない辺り……藍子を大切にしてるんだか、ヘタレなんだか」
藍子「前のお仕事の時だって、いっぱいからかってきて……うぅ、夏のお仕事なら……でも……」
加蓮「何がしてみたい?」
藍子「……お祭りのお仕事とか、ひまわり畑のお散歩とか……あの、もしまたPさんが言ってきたら、加蓮ちゃん――」
加蓮「即座に未央と茜を招集し事細かく事情を説明そして藍子の荷物からカメラをパk借りて準備完了さあレッツゴー」
藍子「知ってました」
加蓮「ひひひっ。せっかくアイドルになったんだし、いつもならやらないことをいっぱいやるのもいいと思うよ?」
藍子「やっぱりそうなんでしょうか?」
加蓮「うんうん。無理強いはしないけどさ、やれる時にやらないともったいないって。Pさんもいろんなお仕事とってきてくれるんだし。え? そんな仕事? って思っても、実際やってみたらきっと楽しいよ」
加蓮「私も、クリスマスの時なんかはそうだったし――」
藍子「……そうですよね。あの時の加蓮ちゃん、いっぱいワガママを言ってPさんを困らせてましたよね」
加蓮「お、反撃?」
藍子「でも最後には……うふふっ♪ あんなにいっぱい笑顔で、子供たちにプレゼントを配ってて――」
加蓮「はいこの話は終わり。終了。しゅーりょー! 夏だよ。7月だよ。水着と夏服と浴衣の話をしようよ」
藍子「はーいっ」
加蓮「お祭りに向日葵……向日葵、はちょっと分からないけど、」
藍子「あ、それなら加蓮ちゃん。夏になったら、すっごく綺麗に咲くひまわり畑、今度一緒に行きましょう!」
加蓮「ん?」
藍子「本当にすごいんですよ。一面、綺麗な黄色で……その中に歩ける道があって……息を吸うだけで、いっぱいのお花に囲まれてる気持ちになれるです。写真も何枚撮っても飽きないくらいで、だから加蓮ちゃんにも見せてあげたいんです」
藍子「ううん……一緒に行きたいなっ」
加蓮「…………」
藍子「…………」ムフー
加蓮「はいはい。いつか連れてってね」
藍子「はいっ♪」
加蓮「お祭りならよく大きいのやってるよね。大きな物じゃなくても、プロダクションの近くにある神社でも」
藍子「お祭りの方は、加蓮ちゃんが誘ってくださいね」
加蓮「ん」
藍子「今年の夏も、すっごく楽しみ……♪ あっ、でも、もうちょっとだけ梅雨は続くんですよね。それなら、今の間にやり残したことをやらなきゃっ」
加蓮「……そだね」
藍子「加蓮ちゃんは何か――」
加蓮「ごめん。梅雨にやりたいことっていうのは……ちょっとないよ」
藍子「……加蓮ちゃん?」
加蓮「あのさ、藍子」
加蓮「私はやっぱ梅雨は好きになれないよ。ジメジメしてるし、私まで暗い気持ちになるし……雨ばっか続くから、意味分かんないくらいネガティブになるし」
加蓮「梅雨の……雨の時だから話せることってあるんだろうけど、梅雨のせいにしてぜんぶ吐き出すっていうのは違うと思う」
加蓮「藍子はほら、ちゃんと聞いてくれるけど、そうじゃない相手だっているし。分かんなくて傷つけるとか嫌だし」
加蓮「やりたいこととか、言いたいこととか、後はぜんぶ梅雨が終わってから……雨が上がってから。雨が降っている間は、私はクーラーの効いた部屋にこもることにするよ」
藍子「…………そうですか」
加蓮「ごめんね?」
藍子「ううん。……でも、そんなの寂しいです」
加蓮「ごめん。藍子はやりたいことをいっぱいやって……それを私に教えてよ。梅雨が終わってからでもいいよ。いっぱい教えて」
加蓮「うわー梅雨の間に私はなんてもったいないことをやってたんだー! って思っちゃうくらいに、いっぱいいっぱい教えてほしいな。藍子の幸せな思い出のこと」
藍子「……いっぱい教えてあげて、いっぱい悔しがらせてあげますから。そうして夏が来たら、その分たくさん外に出ましょうね」
加蓮「うん」
藍子「約束ですよ?」
加蓮「約束」
藍子「………………でも……」
加蓮「ってことで私はここに篭もるんだー。もう一歩も外に出ないんだー。カフェ引きこもり系アイドル……うん? 藍子に杏ちゃんを融合させたらそうなるのかな?」
藍子「うーん……」
加蓮「……藍子? 藍子ちゃーん? おーい……?」フリフリ
藍子「はっ。ごめんなさい、ちょっぴり考えごと……えっと……?」
加蓮「や、大丈夫。冗談垂れ流してただけだから」
藍子「ほっ」
加蓮「ってことで私はここに篭もるんだー。もう一歩も外に出ないんだー」
藍子「あ、冗談は繰り返すんですね。ええとっ……ご、ごほんっ。そんなことしたらPさんが困っちゃいますよ。わがまま言わないで、事務所に行きましょう!」
加蓮「思うんだけどさ、やっぱ相手の理想に自分を無理矢理合わせるのって意味なくない? それって嘘をつき続けるってことだよね。理想の関係とはほど遠いと思うんだ」
藍子「え、え? えっと……それは、さっきのお話?」
加蓮「ってことで私はここに篭もるんだー」
藍子「それとこれとはどう繋がっているんですか!? もう、それならPさんを連れてきちゃいますよ!」
加蓮「あははっ。呼ぶ理由は何にしよっか。あ、私の体調不良ネタはナシで。Pさんにその手の冗談は冗談じゃなくなるし」
藍子「うーん……加蓮ちゃんがわがままを言うから?」
加蓮「あ、自分だけいい子ぶってPさんの好感度を上げる作戦? あくどいんだー」
藍子「えい」ベチッ
加蓮「うぎゅ」イタイ
藍子「……!」ピコーン
藍子「加蓮ちゃん」
加蓮「ん?」
藍子「…………ご、ごほんっ」
藍子「すぅー、はぁー……」
加蓮「?」
藍子「よしっ」
藍子「はい、実はそうなんです。Pさん、加蓮ちゃんのことが大好きですから……このままじゃ、加蓮ちゃんをPさんにとられちゃいますもん。そんなの悔しいです」
加蓮「おお……?」
藍子「私が加蓮ちゃんと一緒にいるのも、実は、そうしたら……Pさんに、アピールできるから、で…………」
藍子「…………」
藍子「…………ごめんなさい、むりです」ベチョ
加蓮「うん、よく頑張った」ナデナデ
藍子「うぅ……嘘でもやっぱり言えないですっ。嘘をつくなら、もっと楽しくて、ひっかかった方も笑顔になれるような……」
加蓮「うんうん」ナデナデ
藍子「…………」ベチョ
加蓮「うんうん」ナデナデ
(少し経ってから)
加蓮「よし。いろいろ拭けたよ。はい藍子、手鏡」スッ
藍子「ありがとうございます、加蓮ちゃん。あはは、みっともないところを見せちゃいましたね」
加蓮「む、しまった写真を撮り忘れてた。藍子がいっぱい写真を撮ればいいのにって言ったから気にかけてたのにー」
藍子「そんな写真を撮ってほしいって言ってないですよ……」
加蓮「ふふふー。ね、そろそろ出よっか。夏の話をしてたらPさんにも聞かせてあげたくなっちゃった。スケジュールが埋まる前に相談しなきゃ」
藍子「2人で相談しちゃいましょう。……み、水着のお仕事を入れられちゃう前に」
加蓮「手遅れっぽくない?」
藍子「うう、言わないでください。……加蓮ちゃんと一緒だと、加蓮ちゃんが余計なことばっかり言っちゃう気がします」ジトー
加蓮「お、そうやって理由をつけて私からPさんを遠ざけて自分だけのものにしようと、」
藍子「もうそれはいいですっ」
加蓮「しょうがない、たまには藍子ちゃんの味方になってあげよっか。あんまりやり過ぎると仕返しされちゃいそうだし?」
藍子「頼りにしてますね、加蓮ちゃん」
加蓮「あーい。ちょうど雨も止んでるみたいだよ、ほら外」
藍子「ですねっ」
加蓮「藍子、傘を忘れて行かないようにね」
藍子「そうですね。……あっ!」
加蓮「?」
藍子「加蓮ちゃん、今日、ここに来た時にしたお話を覚えていますか? 傘を1本余計に持って来ちゃったから――」
加蓮「あーっ、Pさんを呼ぶって話!」
藍子「そうですそうです!」
加蓮「どうする? 呼んじゃおっか」
藍子「Pさんの予定が空いているなら、迎えに来てもらっちゃいましょう。ふふ、加蓮ちゃんが教えてくれました。せっかくだから、今できることはやってみようって!」
加蓮「早速来たね。Pさんの予定なら空いてる筈だし、今なら車も出してもらえる筈だよ?」
藍子「え、どうして知って」
加蓮「1週間分のPさんの予定は記憶済みですー」
藍子「すごい……」
加蓮「カフェの情報をぜんぶ覚えてる藍子ほどじゃないよ。やりたいって思った時にやれない理由があるのってすっごく悔しいもん。それなら準備はぜんぶやるに限るよね」
藍子「加蓮ちゃんらしいですねっ」
加蓮「Pさんに迎えに来てもらって……それから家? ううん、ちょっと事務所に寄ってみよっかな」
藍子「あ、それなら――ほら、せっかくPさんにお話したいことがいっぱいできちゃいましたから、少しだけ――」
加蓮「だね。よーし、藍子がいかに意地悪なことをしたか有る事無い事吹きこんじゃえっ」
藍子「私の味方になってあげるって言ったのに!」
加蓮「連絡しなきゃ。電話にする? メールにする?」
藍子「電話にしたら長くなっちゃいそう。メールにしましょうっ」
加蓮「オッケー。うーん、迎えに来てって言えばいいのかな……」
藍子「私のスマートフォンから送るより、加蓮ちゃんのスマートフォンから送った方がいいのかな? あ、でも、加蓮ちゃんからの連絡だったら、Pさん、不安に思っちゃうかも? うーん……」
加蓮「うーん……」チラッ
加蓮「!」ピコーン
加蓮「ねね、藍子。ちょっと賭けない?」
藍子「賭け、ですか?」
加蓮「私が藍子の方に行ってっと。今から私と藍子と……ほら、写真撮るからもっとひっついてっ」グイ
藍子「きゃっ」
加蓮「こう、左腕に傘を3本かけて……えい」パシャ
藍子「ふんふん」
加蓮「それでね、これで――って意味にPさんが気付くかどうかって賭け!」
藍子「それ、とっても面白そう……! じゃあ私は、気付いてくれる方に賭けちゃいます」
加蓮「なら私は気づかない方。Pさん鈍感だからなー、きっと気付かないだろうなー」
藍子「気付いてくれるかも? って思った方が、わくわくしながら待つことができるんですよ?」
加蓮「……そっか。ふふっ、そうだね」
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From 高森藍子
To プロデューサーさん
(加蓮と藍子の笑顔と、3人分の傘が映っている写真)
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お話したいことが、いっぱいあるんですっ。ちょっとだけでいいので……。
Pさんの分の傘も用意してるんだよ。少し、一緒に歩かない?
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。
次回予告
第26話 北条加蓮「藍子と」高森藍子「虹を見に行きましょう!」
近いうちに投下致します。またお付き合い頂ければ幸いです。
※スレタイは変更する予定が御座いますのでご了承ー
作者です。いつもコメントありがとうございます。
ちょっとだけ訂正を……。
>>34
誤:スレタイは変更する予定が
正:スレタイは変更する可能性が
変更する予定とは一体
一応、訂正だけさせてくださいなー
このSSまとめへのコメント
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