妖狐「安住の地を求めて」(906)
>激闘の末、魂刀【霧霞】を破壊する
>あれから二日後……
妖狐「ん……む…?」パチパチ
騎士「っ、起きましたか…!」
猫神「おはよー」
妖狐「うん…?朝、か…?」
騎士「はい。と言っても、二日後の…ですが」
妖狐「何ぃ!?二日!?」
猫神「ずーっと寝てたよー」
妖狐「傷は……治っておるな」
猫神「アタシが応急処置しといた」
妖狐「悪いのぉ、助かる」
騎士「妖狐さんは目を覚ましましたけど……」
妖狐「そうじゃ…!男は!?」
猫神「まだ起きないの」
妖狐「まぁ…一番男が頑張ったんじゃし、寝させてやるか……」
猫神「でもここまで眠り続けるのって、ちょっと気になるのよね」
騎士「ですね……妖狐さんは寝言を発しながら普通に寝てましたので、安心してましたが」
猫神「ぷくくっ……『甘菓子に埋もれるぅ…!』とか言ってたね」
妖狐「んなっ!?」カァァ
猫神「あとあと、男くんの事も―――」
妖狐「だ、黙らんか!このっ!」
猫神「わわっ、枕投げないでよー」
騎士「元気そうで良かった……」
コンコン
ガチャッ
村長「おはよう、様子を見に来たぞ」
騎士「おはようございます」
猫神「おはよー」
妖狐「む…?其方か」
村長「おぉ、片方は目を覚ましたか」
騎士「ですが、男さんがまだ……」
猫神「あの人斬りは?」
村長「そいつは別の部屋に寝かせてある」
村長「手当はしたから、同じくそろそろ目を覚ますんじゃないか?」
村長「おっと、それでだな。昨日…そこの彼を見てて思ったのだが……」
村長「やはり、魔力枯渇症なんじゃないか?」
騎士「魔力枯渇症…?」
猫神「…っ!にゃるほどね」
村長「自身の魔力を短時間で使いすぎたか……もしくは何かが原因で減ったかだな」
村長「この症状に陥ると、眠ったまま起きなくなるんだ」
騎士「何故眠るんですか?」
猫神「自分の魔力を回復させようと、本能的に眠るの」
猫神「でも厄介な事に、魔力って睡眠だけだと回復しないのよ」
村長「私達が普段行っている食事等で、一旦何かしらの魔力を体内に溜め」
村長「その溜めた魔力を自分に見合った魔力に、眠ってる間で少しずつ変換するんだ」
猫神「男くんは人間だと思ってたから、まさかなるとは思わなかったけど……」
猫神「よく考えると、男くんって自身の魔力をアタシ達みたいに使えるのよね」
騎士「ややこしいですね……」
妖狐「男の魔力が足りんと言う事はわかった」
妖狐「それで、どうやって治すのだ」
村長「簡単だ。外から直接彼に魔力を渡してやればいい」
猫神「と言う訳で、妖狐ちゃんの出番よ」
妖狐「それはよいが、どうやってするんじゃ?」
妖狐「取る事は出来ても、分け与えるなんてした事が無くての……」
猫神「方法は、キス…かなぁ?」ニヤ
村長「(…ほぉ……)」ニヤ
妖狐「なるほど、キスか……」
妖狐「…ん?キス!?キスって接吻じゃろ!?」
猫神「そうそう。一番手っ取り早いよ」
妖狐「いやいやいや!他の方法は無いのか!?」
猫神「アタシがしても良いけど?」
妖狐「それは…ならん!」
村長「じゃあ、お前さんがするしかないな」
妖狐「なんでよりにもよって、接吻なんじゃぁ……」
猫神「やり方は―――」
妖狐「待て待て!もうするのか!?ちぃとばかし心の準備を……」
猫神「じゃあアタシが……」
妖狐「ならん!」
村長「では私が……」
妖狐「灰にされたいか」ギロッ
村長「冗談だよ」
騎士「…私がやりましょう、か…?」チラッ
妖狐「其方までボケんでくれ……」
騎士「あはは…何となく乗ってみたかったので……」
妖狐「もうよい…わしがやる……」
猫神「にゃふふ、了解」
猫神「んで、やり方なんだけど……」
猫神「妖狐ちゃんだと、炎を出す時のイメージすればわかりやすいかも」
猫神「それを口から移す感じ」
妖狐「なんか、見目が悪いのぉ……」
猫神「魔力だからへーきへーき!少なくともゲロよりはマシだよ」
妖狐「余計なお世話じゃ!」
妖狐「えーと、炎か……炎を口、な……」ボッ
妖狐「すまん、口から炎が出おったわ」
猫神「ポンコツ過ぎない?」
妖狐「こんの雌猫は調子に乗りおって……」
妖狐「というか、其方らは早ぅ出ていかんか!」
猫神「えー、見させてよ」
妖狐「阿呆か!今度こそ燃やすぞ…!」
村長「流石に灰になるのは勘弁だし、失礼するよ」
騎士「私も同じく。ほら、猫神さん行きますよ」
猫神「しょうがないにゃぁ」
カチャ
パタン
妖狐「全く、騒がしい奴らじゃな」
妖狐「接吻か……するのはあの日以来、じゃな……」
妖狐「こ、これは治す為…!男の為じゃからな!」
妖狐「…男には世話になっておるしの」
妖狐「無茶しおって…。馬鹿者が……」
妖狐「くふっ…成果を上げた雄には褒美をやらんとな」
チュッ
―
―
―
―
村長「はー、しかしお前さんもやるなー」
猫神「ニャフフ、本当は手を体に当てるだけで良いんだけどねー」
騎士「二人共騙していたんですか!?」
騎士「てっきりキスしか手段が無いのかと……」
村長「そんな訳無いだろう。魔力枯渇症は、私やそこの彼女みたいな者達には割りと身近な症状だしな」
騎士「では、妖狐さんが単純に知らなかっただけ…と」
猫神「そういう事。だったら、からかわない手は無いでしょ?」ニャフッ
騎士「…これは妖狐さんには黙っておいた方が、身の為ですねぇ……」
―――
――
―
前スレの続きです
妖狐「わしは聞いてないぞ?」男「言ってなかったな。旅に出ます」
妖狐「わしは聞いてないぞ?」男「言ってなかったな。旅に出ます」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1446218721/)
今日はここで終わります、ありがとうございました!
―
男「ぅ…ん……」
妖狐「ようやく起きおったか……」
男「なんで泣いてんだよ」ナデナデ
妖狐「泣いてなどおらんっ」グスッ
妖狐「こ、これは…そうじゃ、ゴミに目が入っただけじゃ…!」
男「それは大変だな」
男「えっと、それで…俺はどのくらい寝てたんだ…?」
妖狐「おぉそうじゃった。それはじゃな――――
―
―
―
猫神「おはよ。ちゃんと治ったみたいだね」
騎士「男さんも無事で安心しました……」
男「迷惑かけてごめん。皆、ありがとう」
男「妖狐から聞いたよ、魔力枯渇症ってのになってたんだな」
妖狐「無理をしすぎじゃ」
男「はは……」
コンコンッ
カチャ
村長「失礼するぞ」
村長「例の人斬りも目を覚ましたんで、連れてきた」
「…お邪魔…します」
騎士「こ、この方は……」
猫神「フード被ってたからわからなかったけど……」
妖狐「マモノ、じゃな」
>背丈は猫神に似、騎士より少し低い程度だろうか
>頭に二本の角が湾曲に伸びていて、背中には黒い小さな翼が生えている
>肩より下まで長さがある黒髪は、耳より少し高い位置で左右対象に結んである
男「こんにち、は…?」スッ
「ひっ…ご、ごめんなさい……」ビクッ
男「そんなに拒絶されると、ちょっと悲しい……」
村長「…すまない。この人斬り…というかこの娘はどうも、ところどころ記憶が無いみたいなんだ」
騎士「記憶喪失…と言うものですか」
村長「そうだ。それに加え、精神面も少し壊れかけてる」
村長「可能性としては、やはり魂刀に長く乗っ取られすぎて居たからだろう」
「あ、の…わたしが、その…ごめんなさい……」グス…
男「ま、まぁまぁ…落ち着いて……」
猫神「名前とかも忘れちゃってるの?」
「は、はい……ごめんなさい……」
騎士「どうしましょうか……」
妖狐「ふふん、ならわしが名を其方にやろう!」
妖狐「魂刀…えーと、刀か……うーむ。よし、刀娘じゃな」
男「そのまんま過ぎだろ」
妖狐「人斬り等と言う物騒な名よりマシじゃ」
騎士「確かに、いつまでもそれで呼ぶのは気が引けます」
猫神「刀娘ちゃんかー、良いんじゃない?」
刀娘「…ありが、とう…ございま…す…?」
村長「それで何だが……その刀娘とやらをどうするか、だ」
刀娘「…わたし、は……みんなを、傷つけちゃったから……」グス
男「出て行くって…こんな状態で、か」
妖狐「じゃったら、共に来るか?」
妖狐「そろそろわしらも、ここを出るつもりじゃしな」
村長「良いのか?私としては、お前さん達になら安心して預けられるのだが」
男「刀娘が良いなら、俺達は構わないぞ」
刀娘「わたし、は……めいわく、じゃない…?」
男「迷惑じゃないよ」
男「それに、お互い斬り合った仲だしな」ハハハッ
刀娘「きりあう…?こわい、ひと…?」オドオド
妖狐「戯け。怖がらせてどうする」
男「すまんすまん」
村長「では…刀娘の事、よろしく頼む」
男「わかりました」
妖狐「任せい」
村長「なんだか、お前さん達には頼み事ばかりしているな……」
男「気にしないで下さい。困った時はお互い様です」
村長「そう言って貰えると助かるよ」
村長「それじゃぁ、私は失礼するよ」
カチャ
パタン…
男「なあ」
刀娘「ひゃっ…!」ドキドキ
男「これは…どうしよう」
妖狐「声をかけるだけで驚かれては、な……」
刀娘「ごめん、なさい……」シュン
男「騎士さん、少し今から良い?」
騎士「大丈夫ですよ」
男「そうか、じゃあ外にでも行こう」
騎士「わかりました」
男「俺達は少し話をしてくるから。妖狐達は…刀娘と一緒にいてくれ」
妖狐「ほいほい」
猫神「はいよー」
カチャ
パタン
刀娘「わ、わたし…怒らせて、しまったんでしょう…か…?」オロオロ
妖狐「それは違うから安心せい」
猫神「刀娘ちゃんは心配しすぎよー」
―
―
男「ふぅ、一先ず…騎士さん、ありがとう」
男「騎士さんのおかげで、人斬りを止めることが出来た」
騎士「私は、そんな……」
男「それで、だ。そろそろ、この前の答えを聞かせて欲しい」
騎士「ご同行するか否か、ですか」
男「うん」
騎士「私は…男さん達の足手まといになると思います」
騎士「きっと、いつかは……」
男「正直、足手まといになんて思ってないけど」
男「そう思ってるんなら、それでも良い」
男「でも、採掘場の時や人斬りの弱点を教えてくれただろ?アレのおかげで俺は今、こうして生きてる」
男「足手まといだとしても良いじゃないか。俺は損得を考えて誘った訳じゃない」
男「焦らずともゆっくり力を付けていけばいい」
男「って、俺は言える程強い訳じゃ無いけど、さ……」
男「俺は、騎士さんと一緒に居たいから誘った」
男「騎士さんとなら…きっと良い思い出が作れるだろうと思ったから」
男「だから…一緒に来て欲しい。騎士さん」スッ
騎士「男、さん……」
騎士「そこまで、私の事を……」
騎士「…わかりました。微力ですが、私もご同行させて下さい」ギュッ
男「本当に良い、のか…?」
騎士「はい。それに、少し気がかりな事もあるんです」
騎士「今はまだ確証が得られないので、話す事は出来ないのですが……」
男「そっか。じゃあ話せる様になったら聞かせてほしい」
騎士「わかりました」
男「えと、…今日からよろしくお願いします」テレ
騎士「はい!改めてよろしくお願いしますね!」
―
―
―翌日―
宿主「もう行くのか?」
男「はい。お世話になりました」
宿主「おめぇらが来てからの数日、あっという間だったな」
宿主「色々とありがとな」
男「それを言うなら、こちらこそですよ」
村長「…迷惑をかけたな」
男「その分、この刀を頂きました。それで貸し借り無しって事で」
村長「すまないな。刀以外にも武器ならある程度の種類は作れる。だから…またいつでも来い」
男「ありがとうございます」
騎士「それでは、行きましょうか」
妖狐「そういえば、目的地はまだ決めておらんの」
騎士「それでしたら、一度イムサ国に戻ってもよろしいでしょうか?」
男「それは良いけど、何か用事が?」
騎士「この件、一応陛下に報告しておきたいので」
男「あー、騎士さんって元々俺達をここに送る為に来た様なもんだしな」
騎士「そうなんですよ…。空けた期間の理由が一応必要ですからね」
騎士「それと、退職もしなければ……」
男「よし、じゃあ次の目的地はイムサ国だな」
妖狐「あの金貨でたらふく甘菓子を……ふひひ」
猫神「ふあぁ……アタシは寝ようかな……」
刀娘「失礼、します……」
>各々が独り言を呟きながら馬車に乗り込む
騎士「それでは、出発しますよー」
――
―
―
ガタゴト
ガタゴトッ
騎士「…どうかされましたか?」
猫神「ありゃ、気づかれてたか」
騎士「音も無く忍び寄らないでくださいよ……」
猫神「よっと」ストッ
>猫神が騎士の隣に座る
騎士「…………」
猫神「…………」
騎士「貴女の事…まだ信じた訳ではありませんよ」
猫神「うん」
騎士「けど……」
猫神「けど?」
騎士「男さんを助けて頂いたのは感謝してます」
騎士「ですから、私は……納得出来なくても、無理矢理納得する事にしました」
騎士「貴女が私達の仲間である内は、ですけども」
猫神「…そっか」
騎士「はい」
猫神「騎士くんってさー」
猫神「彼女いないでしょ?」
騎士「んなっ!?」
猫神「女の子にそんな、ネチネチと細かい事を質問攻めをしてさぁ」
騎士「し、しかし…これは細かいと言うより……」
猫神「男くんを見てみなよ」
猫神「アタシが怪しいって事、多分気づいてるよ」
騎士「嘘でしょう!?」
猫神「嘘だよ」
騎士「貴女は何を言ってるんですか!」
猫神「騎士くんは器が小さいねえ」
猫神「もっと、男くんみたくどーんっと構えとかないとモテないよー?」
騎士「よ、よよ余計なお世話ですっ!」
猫神「にゃふふっ、焦ってるぅ」
騎士「も、もう!用が無いなら後ろに引っ込んでてくださいっ」
猫神「ねえ、騎士くん」
騎士「何ですかっ!」
猫神「魔物は、好き?」
騎士「…嫌いですよ。憎いほどね」
猫神「…そっ。」
騎士「でも、妖狐さんや猫神さんみたいなマモノは……嫌いではありません」
猫神「ふーん、じゃあアタシの事…好き?」
騎士「ありえませんね」
猫神「にゃふっ…またまた照れちゃって」
猫神「彼女いないんでしょ?アタシが付き合ってあげようか?」
騎士「貴女と付き合うくらいなら、そこら辺の小石の方がまだマシですね」
猫神「こ、小石って…断るにしてもそれは無いよ、騎士くん……」
騎士「猫神さんは好きな人…いや、好きな魔物…?はいないんですか」
猫神「いないよ」
騎士「そうですか……犠牲者が出なくて安心しましたよ」
騎士「こんな怪力の魔物と付き合う方は、なかなかのお方ですからね」
猫神「女の子に怪力って酷いなぁ…っていうか犠牲者って何よ」
騎士「そのままの意味ですよ」
猫神「もうっ騎士くんなんて知らないっ」
猫神「ぷんぷんっぷんすかだよ!」
騎士「何ですかそれは……」
―
―
―
男「刀娘」ボソ
刀娘「…?なん、でしょう…?」
男「(良かった、驚かれなかった)」
男「少し遅れたけど、自己紹介タイムだ」
男「俺は男。んでこっちは……」
妖狐「わしは妖狐じゃ。よろしく頼むぞ」
猫神「アタシは猫神、んで前で馬を引いてるのが騎士って言う人だよー」
刀娘「よ、よろしく…お願い、します……」ペコ
男「それで、俺達は今…住む場所を探して旅をしている」
刀娘「住む、場所…ですか……」
男「あぁ。出来れば、外界から隔離された場所とかが好ましいが……」
刀娘「わたし…ついて行っても……?」
男「君さえ良ければ」
刀娘「ありがとう……ございます」ペコ
男「あー…その。敬語使わなくてもいいぞ」
男「流石に固っ苦しいだろ」
刀娘「でも……」
男「うーん……」
妖狐「そんな事より、刀娘よ。其方は何処から来たんじゃ?」
刀娘「どこ、から…?」
妖狐「うむ」
刀娘「…わか、らない。とおい、とおいところ…?」
妖狐「あやふや過ぎるの」
男「あのさ、刀娘が持ってた刀…あっただろ?」
刀娘「かた、な…?」
男「そうそう」
刀娘「う、ーん……」
刀娘「ごめ、んなさい……どこで、手に入れたのかまでは……」
男「そっか。それがわかれば、良かったんだが……」
妖狐「ふーむ……しかし、本当に其方があの人斬りなのか?」
猫神「どういう事?」
妖狐「いや、なぁ……これがあの人斬りなんて信じられなくてのぉ」
男「そう、だな……人は見かけによらないと言われてるが」
刀娘「わたし…ずっと、必死に抑えてた……」
刀娘「誰かが、わたしの中に…入ってくるの……」
刀娘「でも…止められなかった」
男「お、抑えてた…?」
刀娘「体、動き辛く…してたの」
男「あ、アレでかよ」
男「(腕一本で済んだのはラッキーだったのか……)」
妖狐「魂刀が本来の力を使わなかったのも、其方のお陰かのぅ?」
刀娘「ううん。お腹いっぱいって言ってた」
刀娘「満たされると、少しの間…吸えない?らしいの……」
男「満たされると、ねぇ…。それを処理するのに一定期間かかるっつー事か」
妖狐「タイミングと運が良かったんじゃな、わしらは」
猫神「でも厄介な術は使ってたよねぇ」
刀娘「…?これの、事…ですか…?」ピト
>刀娘が触れた物が宙に浮く
男「そうそう。それされると、見動き取れなくなるんだよな」
刀娘「最後の、方は…体が殆どの乗っ取られてて……」シュン
男「ごめんごめん、お前のせいじゃないよな」
刀娘「一応、重量で制限はある、けど……だいたいの物なら…浮かせられるの」
猫神「(触れられなきゃ良いだけなのね……)」
男「記憶が抜けてるのに、そういうのは使えるんだな」
刀娘「はい…。体が覚えていると言いますか……」
妖狐「ほーむ……」
―
騎士「皆さん、そろそろ日が落ちるので…ここで野宿しましょう」
男「うーい」
妖狐「飯!飯じゃな!」
猫神「そういや、結局寝れなかった……」
男「おーい、刀娘。何してるんだ、降りてこいよ」
刀娘「は、はい……」
騎士「男さん、火って出せます…?」
男「出せるよ。ここでいいか?」
騎士「ありがとうございます、お願いします」
男「はいよーっと」
>全員で焚き火を囲む
―
―
騎士「すみません、あまり食料の持ち合わせが無いので……」
騎士「今回は魚の切り身とラム肉のスープ…それと、米粉パンです」
妖狐「来たー!来た!」
男「(調理器具持ち歩いてるなんて、流石だな……)」
男「スープ…もうこれが飲めるだけで俺は満足だ……」ゴクッ
妖狐「ほおおぉ……冷えた体に染み渡るわぁ……」
妖狐「美味い…!幾らでも飲めるぅ!」
猫神「このパン、なんだか普通のよりモチモチして美味しい」モグモグ
騎士「それは宿主さんに頂いた物ですよ。何でも、自家製だとか」
刀娘「おい、しい……」
騎士「(…皆さんの味付けの好み、今度聞いておかなければ……)」モグモグ
男「イムサ国に着いたら、刀娘の服も買わないとな」
刀娘「…?」
男「なんで?って顔するなよ。その服だと見た目が良くない」
妖狐「そうじゃなあ……常にフードを被っておるし、下は血だらけのボロボロじゃわ」
猫神「アタシ達と居る時は、角とか気にしなくていいのよ」
騎士「イムサ国には、一般的な服から特殊な服まで、色々とありますしね」
刀娘「で、も……わたし、…何も持ってない……」
男「そのぐらいの金は出すって」
妖狐「うむ。男から、たんとふんだくるとよい」クスクス
騎士「私も、食材を調達しておきますね」
刀娘「ごめ、んなさい……」
妖狐「戯け。そこは礼を言う所じゃ」
刀娘「ご、ごめ―――えと……ありがとう」ペコ
男「(妖狐もこれくらい素直なら……)」
妖狐「ふんっ!」ベシッ
男「痛っ…なんだよ」
妖狐「よからぬ事を考えておった顔が見えたんでな」
猫神「にゃふふ、妖狐ちゃん鋭いねぇ」
―
―
―
男「ふぅー、落ち着いたしそろそろ寝るか?」
騎士「そうしましょうか」
男「騎士さん、三人を馬車に寝かせても良いかな?」
騎士「私は大丈夫ですよ」
妖狐「お主らはどうするのだ」
男「俺は見張り」
騎士「それでは、私と交代でしましょう」
男「ありがとう、助かるよ」
猫神「ありがとね。んじゃアタシ達は寝ようか」
妖狐「ふあぁ……じゃなぁ……」
刀娘「…………」ペコ
―
―
猫神「皆で川の字になって寝よっか」
妖狐「わしは端に行くぞ」スッ
猫神「刀娘ちゃんは真ん中ね」
刀娘「…………」コクコク
妖狐「ふむ、丁度よい広さじゃのぅ」
猫神「あーさむさむ」ギュッ
刀娘「ひゃうっ……」
妖狐「毛布を早ぅかけんか」ファサッ
猫神「あら、ありがとー」
刀娘「あり、がとう……」
妖狐「わしは寝るぞ」
猫神「はいほい、おやすみん」
刀娘「おやすみ、なさい」
猫神「…刀娘ちゃん、良い体してるねぇ……」ボソ
刀娘「っ!?」
猫神「ずっと抱きつきたいなーって思ってんだぁ……」
猫神「夜は長いし…一杯楽しもうね?」フー
刀娘「……っ」ガクガク
妖狐「う…みゅぅ……」スピー
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました
♪
文字化けしないかのテストを…
―イムサ国―
妖狐「おほー!ようやく着いたわ!」
男「馬車があると快適だなー」
騎士「…しかしこれは借り物なので、次使うとしたら借りなければならないですけどね……」
男「何ぃ!?金取らるのか!?」
騎士「残念ながらそうなります」
男「…騎士さん、ちなみにおいくら…?」
騎士「借りる所によって変わると思いますが…旅に連れて行くとなれば、いっそ馬とセットで買った方が安く済むと思います」
騎士「お値段は、馬がだいたい金貨25枚、荷車が銀貨5枚と言ったところでしょうか」
男「手持ちは…金貨78枚に銀貨11枚か」
騎士「一応、この国で依頼をこなしてお金をある程度貯め、馬を買ってから出発…という手もありますよ」
男「よし、買うか」
騎士「決断早すぎません!?」
男「大丈夫大丈夫、こんなに持ってるんだしへーきへーき!」
猫神「破産する人は皆そういうのよねー」
騎士「男さんがそれで良いのなら私は構いませんが……」
妖狐「そういや、騎士は王の所に行くんじゃろ?」
騎士「はい」
男「あー、だったら先に宿を決めとくか」
男「じゃあ今日は一日、全員自由行動な」
猫神「にゃふふっ。刀娘ちゃん、一緒に服買いに行こっ」
刀娘「う、うん……」
妖狐「わしは寝る」
猫神「寝てばかりだと太るよ?」
妖狐「歩きながら寝る」
男「それはそれで凄いな」
猫神「妖狐ちゃんも一緒に行こうよー」
妖狐「めんどい」
騎士「だらけきってますね……」
男「妖狐、イムサ国に着いたんだしお前の好きな甘菓子も買えるんじゃないか?」
妖狐「そうじゃ忘れておったわ!お主、金をよこせ」
男「言い方ってもんがあるだろ……」
男「んーと、78枚か」
男「(25枚は馬代、その他で騎士さんに渡す分も含めて…30枚持ってりゃいいの、か…??)」
男「(念の為、もう少し余分に残しておくか……)」
男「妖狐と…それに猫神と刀娘の分も含めて、これを渡しておく」スッ
妖狐「なんじゃ、金貨が15枚しか入っとらんぞ。ケチ臭い奴よのぅ」
男「それでも十分多いっつの!」
男「良いか、絶対無駄遣いするなよ?絶対だぞ?わかったな?」
猫神「(押すなよ押すなよって言ってるみたい)」
妖狐「わかっておる。安心せい」
妖狐「とりあえず、半分は甘菓子じゃな」
男「わかってねーから!甘菓子に半分も使うなよ!」
妖狐「…?では何に使うんじゃ…?」
男「全部使わなくて良いんだってば!節約しろよ!」
妖狐「お主よ、人が何故山に登るか知っておるか?」
男「それは…山があるから、か?」
妖狐「うむ。この金貨もそれと同じ」
妖狐「この手に金貨があるから使う、何も変わらぬであろう?」
男「おめーぶっ飛ばすぞ」
妖狐「か弱いおなごに手を出すのかや…?」
男「その言い方は止めろ。違う意味に聞こえる」
妖狐「酷い主様じゃ…わしはこんなにも従順にしておると言うのに」
男「飼い主に反抗してばかりの狐がよく言うぜ」
男「猫神と刀娘、この狐が無駄遣いしない様に頼むぞ」
猫神「はいよー、勝手に使おうとしてたら腹パンしとくよ」
刀娘「………!」コク
騎士「(猫神さんの腹パンは洒落にならないと思うのですが……)」
妖狐「皆してわしを虐めるのか」
男「お前がもっと可愛くお強請りをしないからだ」
妖狐「…世話のかかる奴じゃなぁ」
妖狐「んんっ…こほん」
男「?」
妖狐「こーんこんっ わしは甘菓子が食べたいのぅっ?」ウワメ
男「惜しい!」
妖狐「惜しい…?」
男「エロさが足りない」
妖狐「お主が可愛くと言ったじゃろうが!」
男「こう、なんつーか……ハハッ、イマイチ萌えない」
妖狐「このっ!」ゲシッ
騎士「(せめて宿に入ってからにしてくれませんかね……)」
騎士「(見るのは慣れましたが、周りの目が痛い……)」
猫神「にゃふっ、騎士くんにもアタシがしてあげよっか?」
騎士「どうぞ」
猫神「ちょ、えぇ!?拒否しないの!?」
騎士「興味はあります」
猫神「しょうがないにゃぁ……」
猫神「あたしもぉ…服を買って欲しいにゃんっ」ペロッ
男「うおおぉエロい!抱き着いて耳舐めは高ポイントだッ!やはり体の違いか……」
妖狐「ふんっぬ!」ドスッ
男「おげっ……」
騎士「服代なら男さんから頂いたでしょう」
猫神「アタシはぁ、騎士くんに買って欲しいなって」
騎士「嫌です」
猫神「本当に嫌そうな顔しないでよ……ちょっと傷ついちゃう」
刀娘「(皆、仲が良いなあ)」
―
―
騎士「では、宿も決めた事ですし私は行ってきますね」
男「騎士さん、用事が済んだら一緒に買い物にでも行かないか?」
騎士「良いですね、行きましょうか」
男「じゃあ宿で待ってます」
騎士「わかりました。なるべく早く帰ってきますね」
猫神「アタシ達も行こっか」
妖狐「わしは寝―――
猫神「行くよー」グイッ
妖狐「テコでも動くつもりは―――ぐえっ締まる…!首が締まる!」
刀娘「……っ」ペコ
猫神「行ってきまーすっ」
カチャ
パタン
男「賑やかなのも良いもんだなー……」
―
―
―ハンカガイ―
妖狐「ふあぁ……眠い。ここに来るのは久しぶりな気がするのぅ」
猫神「一発ビンタいっとく?」
妖狐「刀娘よ、この暴力猫を何とかせい」
刀娘「っ…!」フルフル
妖狐「そんなに怯えて…雌猫に何かされたのか?」
刀娘「!……っ!」カタカタ
妖狐「おい、何をしたんじゃ」
猫神「アタシはべっつにー?」
妖狐「怪しい」
猫神「にゃふふっ……あっ、アレ見て」
妖狐「アレは…なんじゃ?」
猫神「グミだね。お菓子だよ」
妖狐「美味いのか?」
猫神「甘くて弾力があるよ。かしこくはならないけどね」
妖狐「菓子を食って賢くなる訳が無かろう」
妖狐「まっ、一先ず買ってみるか」
「いっらしゃいやせー」
妖狐「すまんの、この袋に入るだけ―――お"ふっ!?」ドムッ
猫神「無駄遣いはダメって言われたでしょ?」
妖狐「無言で腹を殴るのはやめんか……」
猫神「次は《地砕鬼》を使うから」
妖狐「(男よ…わしは泣きたいぞ……)」グス
刀娘「………?」ヨシヨシ
「え、えっと……」
猫神「すみませんっそこの容器一杯分下さいな?」ニコッ
「ま、まいどありぃ……」
―
妖狐「ほぅ…グミとやらもなかなか美味いな」モグモグ
刀娘「……♪」モグモグ
猫神「そだねぇ…あっ、あそこで甘菓子売ってるよ」モグモグ
妖狐「グミ食ってる場合じゃないのぅっ!」ダッ
猫神「ちょ、走ったら―――」
ズテッ
妖狐「ふべっ!?」
猫神「あぁもう、危うく買ったグミが台無しになる所だった」
妖狐「わしの心配より、菓子の心配か……」
猫神「斬られたってピンピンしてるくらい頑丈なんだから、心配いらないでしょ?」
刀娘「大丈…夫…?」ナデナデ
妖狐「刀娘はわしにとって唯一の癒やしじゃぁ……」
妖狐「ふん、まぁよい。甘菓子があれば全てを許してやれる」
妖狐「よっこいせっと」スクッ
「いらっしゃい」
妖狐「甘菓子を創造たる人間よ、この全ての金貨で買えるだけ―――どふぉっ!!?」ズドムッ
猫神「使わなかっただけマシと思いなよ」
刀娘「(飛び蹴り……)」
猫神「すみませんっ、うちの子が迷惑かけちゃってっ」ニコッ
「は、はぁ……」
猫神「銀貨6枚で買えるだけくださいっ」スッ
「あ、ありがとう。金貨一枚での支払いで構わないかな?」
猫神「お願いしまーすっ」
「じゃあこれ、お釣りの銀貨5枚ね」スッ
猫神「ありがとうございますっ」
―
―
妖狐「あー美味いわぁ!これを超える菓子は存在せんな!」モグモグ
猫神「食べ過ぎないでよ?数日分を買ったんだから」
妖狐「それはわしの腹に言ってもらわんとなあ?」モグモグ
猫神「食べた物全部出す?」
妖狐「さ、さぁてと。残りの楽しみは取っておくとするかのぅ」
刀娘「美味しい、ね」モグモグ
猫神「一通り回ったし、次は服だね」
妖狐「わしは帰ってもよいか?」
猫神「帰れるもんなら」ニコッ
妖狐「ちっ、何なんじゃこの猫は」
刀娘「ごめん、なさい……」
妖狐「其方が悪い訳では無い」
猫神「目に入った露店全部回るの付き合ったんだし、服買いに行くくらい付き合ってくれても罰は当たらないと思うなー」
妖狐「しかしじゃな……」
―――
妖狐『これは美味そうじゃな!そこの作主よ、この金貨で―――
猫神『ふんっ!』ドスッ
妖狐『良い匂いがするのぅ!ほれ、この袋に入っている全ての金で―――
猫神『ふんっ!』ズドム
妖狐『あ、あれは…美味そう、じゃ…わ……この金で―――
猫神『ふんっ!』ズドドドッ
―――
妖狐「一つの露店毎に、何かしらの打撃を与えられ続けたわしの身にもなってみぃ」
猫神「だって妖狐ちゃん、お金全部使おうとするんだもん」
妖狐「やれ金貨が何枚だ、銀貨が何枚だ、銅貨が何枚だの面倒なんじゃよ」
猫神「そんなんだと、悪い人に騙されちゃうよ?」
妖狐「その時は燃やせばよい」
猫神「吊し上げられても?」
妖狐「つ、吊るし?燃やすだけでそんな事をされるのか……」
猫神「言っておくけど、人間は魔物より怖いよ。ある意味ね」
妖狐「そ、そうか」
猫神「さっ、服買いに行こっ」
刀娘「……♪」コクコク
―
―服屋―
猫神「わわっ、可愛いー!」
猫神「これも可愛いっ!」
妖狐「さっきから可愛いしか言っておらんではないか」
猫神「でも、これとか可愛いよ?」スッ
妖狐「動き辛そうな服じゃなあ……」
猫神「はぁ…妖狐ちゃんはわかってないなー」
猫神「刀娘ちゃんはどんなのが好きー?」
刀娘「…動き、易いもの…?」
猫神「二人共全然なってないわねぇ」
猫神「おっ…?これなんてどう?」スッ
妖狐「…それは、やめておいた方が……」
刀娘「…?」
猫神「合わせてみようよっ」ズイッ
刀娘「う、うん……」トテトテ
<キャー ヤッパリオモッタトウリネ!
<ホント…?
<ニアウニアウ! キットヨロコンデモラエルヨ!
<エヘヘ…
妖狐「(あのフリフリした服を着るのか……)」
―
―
―
―宿屋―
男「おーう、お帰りー」
騎士「お帰りなさい」
猫神「ただいまー」
妖狐「帰ったぞ。あー、疲れた」ドサ
刀娘「ただい、ま」
男「…へ?」
騎士「(あちゃー、猫神さんに任せるのは不味かったか……)」
猫神「刀娘ちゃん、ほらほらっ教えたやつ!」
刀娘「お、お帰りなさいませ…ご主人様」
刀娘「グ、グミにする…?飴にする…?それ、とも…甘 菓 子?」
男「もう何だか色々とおかしい」
男「まず、何でメイド服着てるのかわかんないし」
男「3択に見せかけて結局砂糖しかねェ!」
男「そもそも、刀娘達が後から帰ってきたのにそのセリフはおかしいだろ!」
男「つーかメイド服ってなんだよ!メイド服ってなんなんだよぉ最高かよ!昇天させて冥土に連れて行くつもりかっ!?」
妖狐「最後は置いといて、お主ならこのボケを処理してくれると思っておったわ」
刀娘「変、かな…?」シュン
男「変じゃない!むしろ今まで思いつかなかった俺をぶん殴りたい!」
騎士「男さん」
男「ん?」
騎士「変態過ぎます」
男「ん……ごめん」
騎士「それで、その服しか買ってないのですか?」
猫神「そだよー」
騎士「嘘でしょ……」ガク
妖狐「この件に関しては、わしは止めたし他の服も買おうと提案もした」
妖狐「即ち、全面的に非があるのは…この雌猫とわしは主張するぞ」
猫神「でも男くん、最高って言ったよね」
男「言いました」
騎士「男さん……」
刀娘「ごめん…なさい……」
騎士「刀娘さんは、その服でも大丈夫ですか?」
刀娘「わ、わたしは…大丈夫」
騎士「でしたら……」
猫神「にゃふふっ、やっぱり女の子なんだし可愛いもの着ないとねー」
男「全くだな」
妖狐「時折、お主の奇行には着いて行けん」
騎士「ふふっ…まぁ、皆さん楽しんでいたみたいで安心しました」
妖狐「そう言うお主らは何をしておったんじゃ?」
男「俺と騎士さんは、買い出しだな」
男「数日分の飯、それと地図や色んな道具を買いに行ってた」
騎士「なかなか良い収穫でしたよね」
男「あぁ。馬と荷車も買ったから、快適になるぞー!」
騎士「預けてあるので、明日取りに行きましょう」
妖狐「ほぅ、それはよいな」
猫神「歩くのって疲れるしね」
男「…馬を扱えるのが騎士さんしか居ないが……」
騎士「そこはお任せ下さい」
男「今度引かせ方教えて貰えるかな」
騎士「勿論良いですよ」
男「ありがとう。流石にずっとだと騎士さんも大変だしな」
騎士「それで…次は何処に行きます?」
男「うーん、特に決めてないんだよな」
騎士「では…トアール国に行きませんか?」
男「そりゃまた、どうして?」
騎士「それは……男さんの故郷も見てみたいなぁと」
男「なるほど…皆はどうだ?」
妖狐「わしは構わんぞ」
刀娘「わた、しも…。着いて行きます」
男「猫神は?」
猫神「……ダメ」
男「え…?」
猫神「行きたく、ない……」
男「ど、どうしてだ?」
猫神「なんとなく…かな。ニャハハ」
騎士「…………」
男「困ったな……」
妖狐「なんじゃ。不都合な事でもあるのか?」
猫神「今は…ダメだと、思う」
騎士「なら、尚更ですね」
男「騎士さん…?」
騎士「猫神さんも、一緒に来て下さい」
猫神「ど、どうして?」
騎士「それは、ご自分に聞いてください」
猫神「っ……」
男「えっと……」
猫神「…わかった。いいよ、行こう」
男「本当に、良いんだな…?」
猫神「うん。もう、無理かなって」
男「よくわからないが…一先ず目的地はトアール国に決めるぞ」
妖狐「(ふ、む……)」
刀娘「…?」
騎士「(トアール国…そこで何が起こっているのか、確かめなければいけませんね)」
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました!
レスありがとうございます
皆さんの仰る通り、刀娘はトウコです
ガタゴト
ガタゴトッ
男「トアール国に帰るのは久しぶりだなあ」
妖狐「わしらの原点じゃな」
猫神「…そだね……」
刀娘「…………」ジー
男「刀娘、何見てるんだ?」
刀娘「う、ん…あのね、これ……」スッ
男「写真、か」ドレドレ
>女性と女の子が並んで微笑んでいる姿が写っている
刀娘「ずっと持ってた鞄に入ってたものなんだけ、ど……」
刀娘「何か思い出せるかなって……」
男「(女の人と子供が一緒に写ってるな……)」
男「(この子供は、外見からして恐らく刀娘……かな?)」
男「(隣に居る人は……あれ?)」チラッ
猫神「?」
男「(いや、そんな…まさか、な)」
男「(似てる人…だよな。人間にもそう言う事はあるし)」
男「(う、うーん…しかし、仮に猫神の子供だとすると……)」
男「(待て待て、そもそも猫神に子供なんているのか!?)」
男「猫神…お前って、その……」
猫神「うん?」
男「えーと、け…結婚してたり…する?」
猫神「結婚…番が居るかってこと?」
男「そう、それ」
猫神「にゃはは、残念な事にお相手が居ないのよねー」
猫神「男くんがなってくれるのかにゃぁ?」
妖狐「燃やすぞ雌猫」
猫神「にゃふっ、妬いてる妬いてるぅ」
妖狐「そうじゃな、焼くか…お前をな」
男「まあまあ……」
男「(じゃあやっぱり、違う人か)」
男「(それに、子供だったら刀娘には猫耳が生えてるはずだよな)」
男「(あ、でも…お相手によっては、変わるのかな)」
男「んあー、わからん。ごめんな」スッ
刀娘「ううん。ありがとう」ニコ
騎士「皆さん、今日はこの辺で休みましょうか」
男「あいよー」
妖狐「うぅーあ"ぁ"……」ノビー
猫神「にゃむぅ……」ウトウト
刀娘「んー…良い風……」
男「おっ、川があるな」
騎士「私は夕飯を作っているので、皆さんは水浴びでもして来ては?」
男「えっ、み…水浴び…?」
騎士「はい?そうですが……」
猫神「妖狐ちゃん刀娘ちゃん、行ってみようよ」
妖狐「わしは飯が出来るまで座って―――
猫神「男くんに臭いって言われるよ」ボソッ
妖狐 ―――おこうかと思っておったが、気が変わったわっ!」
刀娘「っ♪」
騎士「確か、浴巾を買っておいたはず……」ゴソゴソ
騎士「あったあった、皆さんこれをどうぞ」
猫神「騎士くんありがとー」
妖狐「すまんな」
刀娘「ありが、とう」ペコ
騎士「魔物は居ないと思いますが…一応、気をつけてくださいね」
妖狐「わしらが居れば大丈夫じゃろう」
男「いってらー」
騎士「男さんは行かれないのですか?」
男「い、いい行けるわけ無いだろ!?」
騎士「…?妖狐さんは言わずもがな。今更気にすることは……」
男「俺と妖狐が風呂に入るのって、村や街、国とかに着いた時以外した事ないんだ……」
男「だから、騎士さんがナチュラルに水浴びとか言い出した時はビックリした」
騎士「そうでしたか……」
男「妖狐達の水浴びか……」
騎士「気になるのであれば、行ってみては?」
男「時折、騎士さんがからかってるのかわからん時がある……」
騎士「???」
男「(いや、待てよ…?騎士さんがこんな調子なら、安否の確認を口実に覗けば……)」
――
妖狐『ほぉー…お主がその様な事をする戯けとはなあ?』
猫神『流石にドン引きだよ……』
刀娘『こんなこと、する人だったんだ……』
男『こ、これは皆が無事かどうかの―――
妖狐『問答無用!《火炎》!!』
男『あっちいぃ!…で、でも俺は火に少し耐性が―――
猫神『《地砕鬼》』
ドゴォッ!
――
男「(…主に猫神のせいで死ぬ未来しか見えない……)」
男「(落ち着け俺…!そもそも見つからなければ良いんだッ!)」
男「(そうだ、バレなければいいんだよ)」ニヤ
男「(刀娘も増えた事だし……)」
男「(でも、仲間を…そんな邪な目で見て、本当に良いのか…?)」ハッ
男「(刀娘は魂刀から助けたのもあってか、何気に信頼を感じる)」
男「(ここで失なってしまえば……)」
――
刀娘『信じていたのに……』ジトー
刀娘『さいてー、ですっ』プイッ
――
男「イイ!!」
騎士「っ!?」ビクッ
男「(ジト目な刀娘も見てみたい)」
男「(…しかし行ってしまったら…人間として終わりな気がする……)」
男「はあー、ちっくしょう……覗きてぇ」
―
―
―
>その頃、妖狐達は……
妖狐「仄かに冷たいのぅ」パチャパチャ
猫神「良い温度だね」
刀娘「気持ち、良い……」
猫神「男くん達、覗きに来ないかな?」
妖狐「…来ない、と断言できない所が悲しい」
刀娘「恥ずかしい、な……」
猫神「アタシは全然良いんだけどねー」
妖狐「勝手に言っておれ」
妖狐「さ、とっとと体を―――
猫神「ん?どしたの?」ヌギヌギ
刀娘「…?」スル…
妖狐「くうぅ…こんな体になったのが悔やまれる……」
猫神「遠く見つめて、何かあるの…?」
妖狐「ええい、うるさいわ」ベチン
猫神「やんっ…痛いよぉ」ポヨンッ
妖狐「ちっ、その無駄な肉を削ぎ落とすぞ」
猫神「妖狐ちゃんは壁だもんね」
妖狐「この雌猫っ…!」
猫神「刀娘ちゃん、こっち来て」クイクイ
刀娘「?」
猫神「そう、そこそこ。妖狐ちゃんの前に立って……」
ドンッ
猫神「刀娘ちゃん、相変わらず良い体してるねぇ。食べちゃいたいよ……」キリッ
刀娘「わ、わっ……」カァァ
妖狐「…何をしておる」
猫神「これがホントの壁ドン…なんちって」
妖狐「」ブチィッ
バチチチチッッッ
猫神「あ"ばばば……い"だぃよ"ぉぉ"っ」
刀娘「ぅっ…痛いぃ……」グスッ
妖狐「もうっっっ許さんッッ!!」
猫神「こご、で…雷はや"め"てぇ"…!」
―
―
―
バチチチチッッッ……
男「え?なに、え、なになに!?」
騎士「猫神さん達の方から、ですね」
男「あれは…雷か?」
騎士「もしかしたら魔物かもしれません。様子を見てきてくれますか?」
男「わ、わかった!」
タッタッタッタッ
男「(あの雷…多分妖狐だよな)」
男「(…ここら辺、だったか…?)」キョロキョロ
猫神「あううぅ……」
刀娘「ふえぇ……」
妖狐「…………」ボー
>妖狐は棒立ち、猫神と刀娘がうつ伏せに倒れている――――――全裸で。
男「きたあああああぁ!!!」
男「―――って違う!…思わず口に出てしまった」
猫神「男くぅん……助けてぇ……」
男「た、助けたいけど……」
男「(確か浴巾が……あった!)」キョロキョロ
男「いいか、動くなよ?そのままの体勢で居てくれ」
猫神「…うん……」
ファサッ ファサッ
>猫神と刀娘に浴巾をかける
男「(あとは…うっわ、あいつ全裸で棒立ちかよ……)」
男「(見てない、見てないぞ…!見たいけど見てないぞ!)」
ファサッ
男「…何があったんだ?」
猫神「あのね…ちょっと妖狐ちゃんをからかったら、ブチギレちゃって……」
猫神「頭に血が登ったまま魔術使ったせいか、立ったまま気絶しちゃった」
男「おいおい…大丈夫なのか?色々と」
猫神「加減はしてくれてたみたいだから、アタシ達は大丈夫」
刀娘「妖狐ちゃん…死んじゃったの…?」グスッ
男「おーい、妖狐。起きろー」ペチペチ
妖狐「………ぅ」ボー
男「起きないと無い胸揉むぞ」
妖狐「……《火炎》」ボソ
男「え?」
ボシュゥゥッ!!
>男が不意の《火炎》を食らい吹っ飛んだ
ドチャッ
妖狐「…お主までわしを愚弄するか」
猫神「(わ、わー…結構本気なアレだった)」
刀娘「あわわわわ……」
―
―
―
騎士「おや、皆さんお帰り……なさい…?」
猫神「た、ただいまー……」
刀娘「ただ、いま」
妖狐「うむ、帰ったぞ」
騎士「どうしてずぶ濡れの男さんが、猫神さんに横抱きされてるんです…?」
猫神「いやー、にゃはは……」
妖狐「わしは悪くないぞ」
男「ん……あれ?」パチッ
猫神「おっ、起きた。おはよ」ズイ
男「おは……近い!顔が近い!」
男「あと降ろしてくれ……この格好は恥ずかしい」カァァ
猫神「ごめんごめん」スッ
――
―
―
男「腹も膨れたし、そろそろ寝るか」
騎士「では、今日も私と男さんで見張りをしましょうか」
男「だな。じゃあ先に俺がするから騎士さんは―――」
猫神「男くん、今日はアタシと交代しない?」
男「猫神と…?」
猫神「うん。アタシと騎士くんが今日はするよ」
男「でも……」チラ
騎士「私は猫神さんさえ良ければ、構いませんよ」
男「そうか。じゃ、任せた」
猫神「うん。ついでに馬車も使って」
男「なん、だと!?」
猫神「ありゃ、馬車は嫌だった?」
男「とんでもないです!楽園への切符ありがとうございますですよ!」ダッ
猫神「にゃはは……」
騎士「男さんは相変わらずですね……」
――
パチパチッ
パチチッ…
猫神「ふにゃぁ……焚き火、温かいねー」
騎士「…どうして、急に交代を?」
猫神「んー、なんとなく」
騎士「そうです、か」
パチパチッ……
騎士「…猫神さん。トアール国で一体何が起こっているのですか」
猫神「…さぁ……アタシには―――」
騎士「嘘はやめてください」
騎士「陛下から聞きました。定期的に来る
便りがここ数日途切れていると」
騎士「自由にして良いと言われましたが、聞いた以上、私は確かめなくてはなりません」
猫神「騎士くんは…真面目だね」
騎士「…真面目なんかじゃありませんよ」
騎士「私は自己中心的に動いています。ただ、それが結果的に正義に繋がっているだけですよ」
猫神「…そっか」
騎士「猫神さんは、皆さんの事…私の事、好きですか?」
猫神「えぇ!?またまた唐突だねぇ」
猫神「うーん、皆好きだよ。騎士くん含めてね」
騎士「そうなんですか。私は‘‘今の’’猫神さんは嫌いです」
猫神「ちょっとぉ、なんなのよー」
騎士「猫神さん、楽しい顔してません」
猫神「…何で、そう思うの」
騎士「トアール国に行く事を渋った時から……。きっと何かがあるのは確信しています」
騎士「だから、私は敢えて行くんです」
騎士「私は…前の猫神さんは、好きですよ」
猫神「えっ……」
騎士「嘘偽り無く笑っている貴女は好きです」
騎士「でも、今は何かを圧し殺し、無理矢理作り笑いをしている…そんな悲しい顔をされています」
騎士「何か悩みを抱えてるなら話してください」
騎士「きっと、私以外の皆さんも力になってくれるはずです」
猫神「……どうして…?」
猫神「どうしてそこまで心配してくれるの…?」
猫神「私は…キミと違う。魔物なんだよ…?」
騎士「猫神さんは気にしているようですが」
騎士「私は魔物だろうが人間だろうが気にしませんよ」
騎士「私達は…もう友人と思っていたのですが、違うんですか?」
猫神「友…人……」
猫神「そう、だね……」
猫神「…アタシ、は…騎士くん達を裏切るよ」
騎士「……わかりました」
猫神「…あっさりだね。驚かないの?」
騎士「私にとっては今更、という感じですかね」
猫神「そか……」
騎士「でも…猫神さんの口から聞けて良かった」
騎士「やはり、向かわなければなりませんね」
騎士「さ。猫神さんはもう寝ても良いですよ。後は私がします」
猫神「…ありがと。って言っても、ここで寝るんだけどね……」ゴソゴソ
騎士「…何故私の背中にもたれるのですか」
猫神「馬車は満員だしねー」
騎士「離れて寝れば良いのでは……」
猫神「まあまあ…こうやって包まれば温かいよ」ファサッ
騎士「…変な事しないで下さいよ?」
猫神「まさかそれを男性から言われるなんてねぇ……」
――
―
―数日後―
騎士「そうそう、良い感じですよ」
男「うわっ…怖え……」クイッ
騎士「もう私が居なくても、馬は引けそうですね」
男「も、もう少しの間は居て!」
騎士「あはは…わかりました」
男「っと。そろそろ着く頃、だよな?」
騎士「はい。……話をしていたら見えて……」
男「ん?どうし―――
>トアール国から煙が立ち上っている
男「な、なんだ…?」
騎士「(きっと、これが猫神さんが言っていた事……)」
騎士「…急ぎましょう」
―
―
―トアール国―
男「なんだよ、これ……」
妖狐「どうする?逃げるか?」
男「…な訳ねぇだろ」
妖狐「じゃろうな」
男「門は…?」
騎士「やはり居ますね。魔物が」
妖狐「面倒な事になっておるのぉ」
男「馬車は近くの林に隠してきたが……」
騎士「この国の王が気がかりですね」
男「トアール国は東と西の大きな門からしか中に入れない」
猫神「どうするの?」
男「来た方角からするに、あれは西門だな……」
騎士「この状況では、反対側も望みは薄いですね」
男「あぁ。強引に行くしかない。行こうッ」
>男と騎士が前に飛び出し、後方から妖狐が《火炎》を放つ
男「よっと……」
騎士「ふぅ……」
>数が少ないからか、それ程苦戦せずに片付ける
男「案外簡単に倒せるな」
騎士「城へ向かいましょう!」
妖狐「うむ」
猫神「…うん」
刀娘「…っ」コクッ
―王城―
男「…道中は魔物がちらほら居たが……」
騎士「不気味な程、ここは静かですね」
妖狐「王やその他は何処へ行ったんじゃ」
刀娘「…?」
猫神「…この国の王なら、居ないよ」
男「どういう、事だ…?」
騎士「…猫神さん」
スタ… スタ… スタ…
猫神「キミ達を巻き込みたくなかったけど……」
騎士「……」
猫神「来たからには…役目を果たさないと、ね……」ボソ
猫神「まさかここに辿り着くとは思ってもみなかったよ」
男「な、に…?」
>気づくと大勢の魔物に囲まれている
男「こんなに魔物を集めて、パーティでもするのか?」
猫神「…血祭りって意味ではそうかもね」
妖狐「この国の人間達はどうした?」
猫神「さぁ……抵抗していないのは牢に入れてるんじゃない」
妖狐「何故、その様な事をするんじゃ……」
猫神「だって、人間はこの世界に必要無い、から……」
妖狐「なんじゃと?」
猫神「妖狐ちゃんだって、わかるでしょ?」
猫神「あんな酷い事されて、何とも思わないの?」
妖狐「…………」
猫神「男くんも、妖狐ちゃんも…私と来なよ」
男「それは、仲間にか?」
猫神「そうだよ。妖狐ちゃんは魔物、男くんは……」
猫神「半分魔物みたいな物だし、特別に―――」
男「騎士さんと刀娘は?」
猫神「残念だけど、人間と…戦力外な子はダメかな……」
男「じゃあ殺すのか?」
猫神「かも、ね」
男「そうか。まぁ、どっちだろうと…仲間になるつもりは無い」
妖狐「男と同じく、じゃな」
妖狐「こんな事をする輩と、一緒に居たくは無い」
猫神「そっか。二人なら来てくれると思ったのに」
騎士「猫神さん…もしかして、最初から男さん達を取り入れる為に―――
猫神「そうだよ。男くん達がシュウヘン村で倒したマモノ……」
猫神「それを連れてきたの、アタシだから」
男「なに…?」
猫神「放った魔物が倒されたと聞いて、直ぐに向かった」
猫神「そこに居たのが、男くん達って訳だよ」
猫神「ようやく、北の大地の南東と南西を落とし終え……残るここを落とせば、一先ず終わるはずだった」
猫神「北東の地域は、何故かまだ時間がかかってるけど……」
妖狐「こんな事をして、何がしたいんじゃ…?」
猫神「そんなの、人間を消す為に決まってる…じゃん……」
男「人間を…消すだと?そんな事をして―――
猫神「アタシは…やらなくちゃ、いけないの!!」ギリッ
騎士「やらなくてはならない、それだとまるで―――
騎士「貴女の意志では無く、命令されているという風に取れるのですが?」
猫神「ぁっ……」
ボフンッ
猫神「痛っ…!」
>男が《炎粉》を猫神に当てる
騎士「男、さん…?」
男「大丈夫だ、手加減はした。それよりとっとと逃げるぞ!!」
妖狐「し、しかしどうやって……」
>男達が切り抜けようとするも、次々と魔物が行く手を阻む
男「クソッ!キリが無え…!」
男「(…数が多すぎる…俺が囮になって三人を逃せる、か…?)」
男「(いや駄目だ、後ろの魔物が多過ぎて突破出来る可能性は……)」
騎士「どう、すれば……」
男「…俺が、囮になります」
騎士「無理ですよ!この数を相手になんて……」
男「でも、やらないよりはまだマシだ!」
妖狐「お主一人が、か」
男「騎士さんは…妖狐と刀娘を頼む」
騎士「そんな――――
妖狐「わしは嫌じゃな。逃げるくらいなら戦う…!」
男「駄目だ!!一人でも生き残る方法を考えろ!!」
男「四人で戦ったって…勝てないんだ……」
刀娘「男さん……」
猫神「ごめんね、痛くはしないから―――
ヒュゥゥゥ……
>背後から冷たい空気が流れる
「な、なんだお前は!?」
「そんなことはどうでもいい!やれ!!」
「ぐあっこいつ…!なにもんだ!?」
男「やけに、後ろが騒がしいな」チラッ
妖狐「これ、は……」
猫神「なに…?」
パキキキキッ…
>入り口付近が凍り始める
「鱗の魔力を追って来てみれば……」
コツ… コツ… コツ…
「随分と面白い事をやっているなぁ?」
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました
>遡ること数日前―――
氷飛竜「貴様は暑苦し過ぎる」
氷飛竜「私からもっと離れろ……山二つ分くらい」
魔術師「それじゃあ一緒に居られないだろ!」
氷飛竜「いや、居なくていい」
魔術師「くぅ、冷たい!でもそこがイイ!」
氷飛竜「何故だ、何故私を追う」
氷飛竜「住処を変えてるのに追ってくるな」
魔術師「そりゃ好きだから」
氷飛竜「阿呆か。私は竜だぞ」
魔術師「オレはあの時、一目惚れしてしまったんだっ!」ホワホワホワーン
氷飛竜「やめろ、回想に浸ろうとするな」
―――
氷飛竜「ふぅー、やはり適度に体を動かさないといかんなぁ……」
氷飛竜「ここまで降りれば、雪崩も起こらんだろう」
氷飛竜「周囲に邪魔者は…居ないな」
―
―
ザッザッザッ……
魔術師「ハァ…!ハァ!もう、無理だ……」
魔術師「オレは近接戦が苦手なんだよぉ…!」
魔術師「数は…4体、ははっ…オレもここまでか……」
魔術師「死ぬ前に、可愛い女の子のおっぱい揉みたかったなあ……」
魔術師「それと、キスもしてみてえ……」
魔術師「キスもするならその先もしたいな……」
魔術師「あれ、オレ未練タラタラだな」
ズズンッ ズズンッ…
魔術師「なん、だ?この地響きは」チラッ
氷飛竜「いっち…にー、さーんしー」
ゴキ…ゴキッ
氷飛竜「ごーろく…しち、はーちっ」
ドスドスッ
氷飛竜「んんー…はぁー……」ノビー
ゴキキッゴキ …プチッ
氷飛竜「すんごい骨が鳴る」
氷飛竜「やはり体を動かすのは気持ちが良いな」
氷飛竜「さて、と。そろそろ帰るか」
バサァッ バサッ…
魔術師「……竜…?」
―――
魔術師「この時オレは、運命を感じたね」
氷飛竜「その回想のどこに惚れる要素が……」
魔術師「でも氷ちゃんとオレは種族が違う」
氷飛竜「そうだな」
魔術師「そこでオレは1つの案を閃いた」
氷飛竜「ふむ」
魔術師「氷ちゃんの姿を変えたら良いんじゃね…?とな」
氷飛竜「何を言ってるんだこいつは」
氷飛竜「それに、どうやって変えるのだ」
魔術師「おいおい…オレが何の為に魔術を必死こいて会得したと思ってるんだ」
氷飛竜「私を殺す為か?」
魔術師「ばっきゃろー!そんな事するかよ!」
氷飛竜「他に理由が…?それは何だ」
魔術師「まぁまぁ、そう焦りなさんな」ニヤ
氷飛竜「吹き飛ばすぞ」
魔術師「氷ちゃんの吹き飛ばしかぁ……一緒に空を飛べるかな?」
氷飛竜「誰かこいつをどうにかしてくれ……」
魔術師「おっと、それでだな」
氷飛竜「あぁ」
魔術師「この瓶を見て驚いてくれ」スッ
氷飛竜「何なのだ、コレは」
魔術師「驚けよ」
氷飛竜「はァ……」
氷飛竜「おォー!コレは多分凄いやつだな!きっとそうに違い無い!」
魔術師「だろ!」
氷飛竜「早くその瓶の中身を教えろ」
魔術師「コレはなぁ…なんと!飲むと人間になれるのです!」
氷飛竜「そうか」
魔術師「おい、今のはちゃんと驚く所だろ」
氷飛竜「確かに、珍しい物だとは思うが……」
氷飛竜「それを私に見せてどうする」
魔術師「勿論、飲んでもらう」
氷飛竜「飲んだその後は?」
魔術師「めちゃくちゃ交尾する」
氷飛竜「ちょっと待て」
魔術師「どうした?」
氷飛竜「いや、私の耳がおかしいのか?よく聞き取れなかった」
魔術師「めちゃくちゃ交尾する」
氷飛竜「えーと、今日の夕飯は……」
魔術師「めちゃくちゃ交尾させてくれないの?」
氷飛竜「させる訳無いだろう!」
魔術師「あれぇ?おかしいな、氷ちゃんとは相思相愛の筈なのに……」
魔術師「もしかして、照れてる?」
氷飛竜「この氷山の氷が全て溶けるくらいありえない」
氷飛竜「それに何だ、私を人間にしたとしても元は竜だぞ?」
魔術師「魔物だろうが竜だろうが、愛にそんなの関係無いね」
氷飛竜「……はぁ」
魔術師「その溜息……もしや俺に惚れ直したな?」
氷飛竜「阿呆か。呆れてるんだよ」
氷飛竜「それに、人間になるだと?全く面白くも無い冗談だな」
魔術師「ふんっ」ブンッ
氷飛竜「人間の様な矮小な存在に誰が―――んぐっ!?」ゴクッ
魔術師「ふへへ……悪いが、無理やり飲ませてやったぜ」
氷飛竜「き、貴様……瓶ごと投げる奴があるか!」
氷飛竜「どうしよう…瓶が消化されずに出てきたら……」
魔術師「そっちかよ」
魔術師「安心しろ、あの瓶は胃で溶ける特別性だ」
氷飛竜「つまり、貴様は最初から投げ込むつもりで……」ゴゴゴゴ
魔術師「そろそろ、だな」
氷飛竜「ふみゅっ!?」
グニャァ……ポフンッ
ズテッ
氷飛竜「な、何が……」
魔術師「うわ…変化する時がなかなかグロい」
魔術師「(薬が強力過ぎたのか、直ぐに変わったな)」
氷飛竜「貴様…随分と大きくなったな」
魔術師「氷ちゃんが、オレと同じくらいの大きさになっただけだよ」
氷飛竜「は…?」
氷飛竜「嘘……」チラッ
氷飛竜「殺す。今直ぐ殺す…!」パキキ…
魔術師「おっと、人間になってもそういうのは使えるのね……」
魔術師「とりあえず、これ羽織っときな」ファサッ
魔術師「てか、よく見たら…微妙に人間じゃ無くね…?」
氷飛竜「はあ?」
魔術師「ほら、所々鱗もあれば後ろに翼があるし、尻尾もある」
氷飛竜「貴様……せめてするならちゃんと人間にしないか!」
魔術師「すまん」テヘペロ
魔術師「どうやら、失敗作だったみたいだな」
氷飛竜「貴様の馬鹿さ加減は、死んでも治りそうに無いな」
魔術師「つーか、人間になりたかったの?」
氷飛竜「そんな訳あるか!」
魔術師「でもさっき、『するならちゃんとしろ』って……」
氷飛竜「飽くまで‘‘するなら’’だ」
氷飛竜「私は中途半端な事は嫌いなのだ」
魔術師「じゃあ今から交尾だな」
氷飛竜「何故そうなる」
魔術師「人間にさせた後、交尾してようやく目的達成だからな」
魔術師「このままだと、‘‘中途半端’’になっちゃうなあ?」ニヤ
氷飛竜「…ふっ」
魔術師「なんだよ」
氷飛竜「『人間にさせた後』、か」
氷飛竜「ククッ…残念だな。私は人間では無いのだよ!」
魔術師「胸張って言うなよ。揉みしだきてぇ」
氷飛竜「揉み…!?」
魔術師「それと、確かに人間じゃないが……逆に言えば、完全な魔物でも無いんだぜ?」
魔術師「魔物でありながら、人間に近い存在……お前の嫌う中途半端って奴だ」
氷飛竜「ふぅ……とりあえず殺すか」
魔術師「とりあえずゴミを片付けるか、みたいに言うなよ」
氷飛竜「貴様はゴミ以下だ」
魔術師「そのゴミ以下に、こんな姿にさせられたのってどんな気持ち?」
氷飛竜「殺したい気持ち」
魔術師「諦めて交尾しないか?」
氷飛竜「どうしてもそこに持っていきたい様だな……」
魔術師「だってそれが目的だったし」
氷飛竜「クハハッ…良いぞ?交尾してやっても」
魔術師「え、ほんと?」
氷飛竜「但し…やれるもんなら、なッ…!」パキキッ
魔術師「悪いが、それオレには効かないぞ」
氷飛竜「あれ…?何故だ」
魔術師「だから、オレは魔術の事は云々言っただろ」
魔術師「そもそも、教えてくれたのお前だし……」
魔術師「対策をしていない筈が無い」
氷飛竜「知恵の回るゴミめ……」
魔術師「さあーてと…ヤれるもんならヤってみろ、だったか?」スタ…スタ…
氷飛竜「あの、ちょ……タンマ!タンマ!」
魔術師「タマタマ?そんなにしたかったのか」
氷飛竜「違う!少し待てと言ってるんだ!」
魔術師「『待て』だと?そこは待ってください、だろうが」
氷飛竜「あの、待ってください……」
魔術師「ああん?頼み事をする時はどうするのか、魔物は知らないのか?」
氷飛竜「お願い、します……」スッ
魔術師「やればできるじゃねぇか」スタスタ
氷飛竜「なんてすると思ったかッ!!」
ドスッッ
魔術師「ほげっ!?」
氷飛竜「ほぅ?そんなにここを蹴って欲しかったのか、そうかそうか」ドスッドスッ
氷飛竜「やはりな。魔術は対策できても、物理は効くんだなあ?」ニヤァ
魔術師「金的攻撃はやめて、ほんと……」ピクピク
氷飛竜「『やめて』だと?そこは止めて下さい、だろう?」
氷飛竜「よっと」グイッ
>魔術師の両足を掴み股を広げる
氷飛竜「どうした?早くしないと潰れるぞ?」グリグリ
魔術師「すみません、でした…止めて下さると助かります……」
氷飛竜「はあ?頼み事をする時はどうするのか、人間は知らないのか?」
魔術師「この状態でどうやって頭下げるんだよ!」
氷飛竜「地面にめり込ませるしかないなぁ?」
魔術師「無理だろ!」
氷飛竜「無理じゃない。やるんだよ」
魔術師「無茶苦茶だな」
氷飛竜「貴様の息子を潰すか、それとも地に頭をめり込ませるか……選ばせてやろう」
魔術師「…潰される前に交尾したいです」
氷飛竜「まだ言うか、このっ!」グニュッ
魔術師「おっ…ふぅ……」
魔術師「てか、お前にも性の知識はあるんだな」
氷飛竜「まぁ、な……」
氷飛竜「…私の知人に雌の羊が居るんだが……」
氷飛竜「あの金羊の話を聞いていると、自然とついた感じだな」
魔術師「羊…?可愛いか?」
氷飛竜「知らん。だが、媚を売らせると右に出る者は居ないだろうな」
魔術師「まぁ、可愛さは氷ちゃんに敵わないと思うが」
氷飛竜「死ね」グリグリ
魔術師「あぁー…効くぅ」
氷飛竜「……」パッ
魔術師「おい!なんで止めるんだよ!」
氷飛竜「止めて欲しかったんだろう?」
魔術師「もっとしてくださいお願いします」
氷飛竜「貴様は…とんだ変態だな!」ゲシッ
魔術師「最高!」
―
―
―
魔術師「あー、面白かった。息子潰れかけたわ」
魔術師「おっぱい大きい青髪美少女な氷ちゃんに潰されるなら、本望だけども」
氷飛竜「一応言っておくが、私は手加減をしてやっているんだからな」
魔術師「で、お前はこれからどうするんだ?」
魔術師「また家を変えるのか?」
氷飛竜「話を聞け……」
氷飛竜「いや、私はやらねばならぬ事が出来た」
魔術師「ヤらなければならない事?」
氷飛竜「ハァ…。まあ、貴様には特別に話してやっても構わんぞ?」
魔術師「んー、オレが聞いても良い話なら……」
氷飛竜「そうだな。一応、貴様ら人間も無関係では無い」
氷飛竜「……何やら南の大地で不穏な動きがあったらしいのだ」
氷飛竜「攻撃が効かぬ…その様な魔物達が現れたと」
魔術師「南の大地…?」
氷飛竜「貴様、まさか知らんのか?」
魔術師「地理の事は全く興味が無いからな」
氷飛竜「はァ…頭に詰まっているのは煩悩だけか」
氷飛竜「私と貴様が居るここは、北の大地と言う」
氷飛竜「この世界はな、大きく4つに分けられるのだ」
魔術師「ややこしいから図にしてくれ」
氷飛竜「ほんっっとに貴様は馬鹿だな」
魔術師「もっと罵って!」
氷飛竜「図だと、こうだ」カキカキ
3北
2西 1東
4南
氷飛竜「我々が居る大地は3だ」
氷飛竜「そして、先程言った南の大地は4だな」
魔術師「ほー……」
氷飛竜「この4つの大地にはそれぞれ特徴があってな」
氷飛竜「例えば、北の大地は…まさに貴様が日々何気無く踏みしめているであろう、土が広がる大地だ」
魔術師「その言い方だと、まるで地面が珍しいみたいだな」
氷飛竜「そうだ。見渡す限りの海、その中にぽつりぽつりと島が浮かび、その上で独自の進化をした生命が生活をしている……そういう大地もある」
氷飛竜「その点、北の大地の環境は恵まれている。ここで生まれた事に感謝するのだな」
魔術師「氷ちゃんにも会えたしね」
氷飛竜「…私は出会いたく無かったよ」
魔術師「またまたぁ!」
氷飛竜「…貴様らの様な矮小な生命は、他の大地を見るどころか、赴きもしないだろう」
氷飛竜「更に言うと、東西南北の大地は4つに分けられるんだ」
魔術師「また4つかよ、好きだな4が」
氷飛竜「貴様らで言えば、4と言う数字は悪いらしいな」
魔術師「だなー」
氷飛竜「まぁ、そんなもの私には関係ないがな」
氷飛竜「ちなみに、分けるとこうなる」
1 2
北の大地
3 4
氷飛竜「私は最近まで1の場所…つまり北西の地域に居た」
氷飛竜「そこから北東のこの場所まで移動して来た訳だ」
魔術師「お疲れ様っす」
氷飛竜「そう思うなら茶でも出せ」
魔術師「あっつ熱の茶ならここに……」スッ
氷飛竜「何故持っているのだ……そして私は熱い物が嫌いだ」
魔術師「それこそ氷で冷やせば?」
氷飛竜「その手があったか―――って違う、そうじゃなくてだな……あぁもう貴様と話すと話がポンポンずれる」
――
魔術師「それで、お前は南の大地に行くのか?」
氷飛竜「馬鹿言え、わざわざ首を突っ込みに行く訳が無かろう」フーフー
魔術師「じゃあ、何をするんだ?」
氷飛竜「あぁぁ…冷えた茶は美味い。…知人の雌狐が気にかかってな」ズズッ
魔術師「(こいつ冷えてんのに息吹きかけて冷ましてたな……)」
魔術師「さっき言ってた奴とは違うのか?」
氷飛竜「ああ。あの狐共は何も知らんだろう」
魔術師「その狐さんは今どこに?」
氷飛竜「知らん」
魔術師「知らないのに会いに行くつもりだったのかよ!」
氷飛竜「悪い、知らんというのは飽くまで正確な場所だ」
氷飛竜「探す方法はある」
魔術師「どうやって…?」
氷飛竜「あの狐共に私の鱗を渡しておいたからな。それを辿れば……」
魔術師「なるほどな、自分の魔力を追うのか」
氷飛竜「ほぅ、人間の癖になかなか察しが良いではないか」
魔術師「ありがとよ」
氷飛竜「では、そろそろ行くとするかなあ……」
魔術師「おう!」ガシッ
氷飛竜「何故私の肩を掴む」
魔術師「飛ぶんじゃないの?」
氷飛竜「飛ぶが……貴様、着いてくる気か?」
魔術師「当たり前だろ?」
氷飛竜「ハァ……落ちても知らんぞ」
魔術師「おうよ!」
氷飛竜「ふー……はっ!」バサッ
バサッ バサッ
バサッ…
ドテッ
氷飛竜「お、重い……」
魔術師「しっかりしろよ!竜だろ!」
氷飛竜「元はと言えば、貴様がこんな体にしたからだろうが!」
魔術師「それはすまん!」
氷飛竜「私だけなら何とか飛べそうなんだがなー」
氷飛竜「誰かが乗ってるせいで飛べないなー」
魔術師「それもすまん!気合で飛んでくれ!」
氷飛竜「…降りろ」ハァ
魔術師「嫌だ」
氷飛竜「違う、離れろと言う意味だ」
魔術師「…?」
氷飛竜「一緒に行くんだろう?このままでは無理だ」
魔術師「よくわからないが、わかった」スッ
氷飛竜「離れておけ、潰れるぞ」
ドスンッッ
>氷飛竜が元の姿に戻る
氷飛竜「ふー、やはりこの姿が落ち着く」
魔術師「オ、オレの青髪美少女ちゃんが……」
氷飛竜「とっと乗れ」ガシ ポイッ
魔術師「もう少し優しく扱えよ……」
氷飛竜「時間が勿体無い」
魔術師「そうか。それで、どこに行くんだ?」
氷飛竜「私が最近まで居た、北西の方角から微かに私の魔力を感じる」
氷飛竜「丁度イムサ国という所だな」
魔術師「えーと、北西だから…結構遠いな」
氷飛竜「すまないが、何度か体が戻ると思う」
氷飛竜「それ故に、通常より時間がかかるかもしれん」
魔術師「むしろずっと戻っててください」
氷飛竜「…この姿になるには、魔力を凄まじく消費するのだ」
氷飛竜「成っている間は常に魔力を消費し続ける。主に貴様があんな姿にしてくれたせいでな!」
魔術師「オレは後悔してないぜ」
魔術師「でも、元に戻れるもんなんだなー」
氷飛竜「今までは、魔力を消費させて逆の事が出来て居たのだ」
魔術師「人間の姿になれていたって事?」
氷飛竜「正確には、人間の姿を模していただけなのだが」
氷飛竜「貴様のせいで姿が固定されてしまった」
魔術師「オレ天才すぎる」
氷飛竜「馬鹿の天才だな」
魔術師「氷ちゃんの鱗、仄かに冷たいね……」
氷飛竜「…もういい話にならん。行くぞ」
バサッ バサッッ……
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました
―
――
男「…誰?」
妖狐「なんじゃこいつは」
騎士「お二人のお知り合いですか…?」
男「俺…じゃないな」
妖狐「わしでも無い」
騎士「勿論私でもありませんし…刀娘さんは記憶に無いですよね……」
刀娘「…っ」コクコク
男「え? 誰…??」
「貴様ら……私を忘れたか」
「ぷっ忘れられてやんの」
「死ね!」ドスッ
「痛っ気持ち良い!」
「はァ……私は氷飛竜だ」
男「えっ…そんな馬鹿な」
妖狐「はっ……」
氷飛竜「何だ、その笑いは」
妖狐「…ぷくくっ……人間みたいになっておるわ」
氷飛竜「なんだと?」
妖狐「ふっ、ははっ…あはははっ!駄目じゃ堪えきれん…!」プクク
妖狐「わしを笑い殺す気か!けほっ…けほっ……ふふっ」
妖狐「人間を、やれちっぽけだの、小物だの抜かしおったお前が……ぷふふっ」
妖狐「まさかその人間になるとは…体を張った冗談だな…!うははっ!」
氷飛竜「ちっ、コレだから嫌なのだ」
妖狐「あー腹がよじれる……ふふっ―――あれ?」
妖狐「……」ストーン
氷飛竜「…む?」バイーン
妖狐「死ね」
氷飛竜「はあ…?」
猫神「急に出てきて何なの……」
猫神「誰か知らないけど……ここに何の用?」
氷飛竜「…小動物が、私に偉そうな口を利くな」
バキッッ
>自身の周囲から氷柱が突き出す《月下氷針》で、見せしめに魔物を貫く
氷飛竜「群れても雑魚は雑魚のままだな」
猫神「乗り込んで来るなんて、よほど力に自信があるのかしら…?」
氷飛竜「当たり前だ。貴様らの様な下等生物に負ける筈が無いからな」
氷飛竜「私が負ける時は即ち…死、のみ」
>その言葉に苛立ちを感じた魔物達が氷飛竜に襲いかかるが―――
氷飛竜「…今、私が話をしているだろうがッ!!」
>辺り一面、全て巻き込み凍る《竜陸氷河》を怒声と共に放つ
氷飛竜「ふん。こんな姿で戦っているにも関わらず、か」
猫神「他の魔物達は…?」
「そ、それが…どこの部隊からも連絡が来ないんです…!」
猫神「そう……」
氷飛竜「だろうな。私が全て始末しておいた」
猫神「…アナタも、人間の味方をするの…?」
氷飛竜「味方?なんの事だ」
猫神「人間と共存なんて出来る訳が―――
氷飛竜「そんな事か。無論、出来ない可能性もあるだろうな。それは百も承知だ」
猫神「なら、何で……」
氷飛竜「今まで放ったらかしだったが……」
氷飛竜「私の横に居る、この人間を見てみろ」クイッ
「え、おっぱい?」
氷飛竜「聞いたか?見知らぬ貴様らに対しての第一声がコレだぞ」
「そんな、照れるなあ」
氷飛竜「褒めた訳では無い!」バシッ
「自己紹介が遅れました。私、魔術師と申します」キリッ
氷飛竜「そのアホ面は止めろ」
魔術師「氷ちゃんの顔は超カワイイ!」
氷飛竜「ああもうウザイ。いちいち褒めるな、死ね」
氷飛竜「納得がいかないが……‘‘害は無い’’」
猫神「それが、どうしたのよ」
氷飛竜「有害な人間をどうこうするのは構わん」
氷飛竜「しかし無害な人間には、わざわざ関わらなくても良いと言っているんだ」
氷飛竜「人間の中には、魔術師やそこの雄共みたいな変わった奴も居る」
猫神「それは、そうだけど……」
氷飛竜「この世は理不尽で予想外な事ばかり起こる」
氷飛竜「運動をしていたら兵に危害加えたり、魔術師を助けたり……」
氷飛竜「貴様が人間に何をされたのか知らんが」
氷飛竜「こうして生きて私の前に立つ事が出来ている。光栄だろう?」
氷飛竜「全く、色々とどうしてこうなるのか理解が出来ない」
氷飛竜「だが、そこが面白い」
氷飛竜「復讐するのは構わんが、関係の無い者を巻き込むな」
氷飛竜「するなら貴様に屈辱を味合わせた者だけにしろ」
猫神「そんなの、アタシの勝手でしょ……」
氷飛竜「…そうだな、貴様の勝手だ」
バキッキキッ
>凍る様な冷徹な声で静かに《月下氷針》を放つ
猫神「っ…やめ、てよ……」
氷飛竜「先程言ったな。勝手だと」
氷飛竜「だったら、貴様らを殺そうがそれも私の勝手だ」
氷飛竜「貴様にどうこう言われる筋合いは…無いッ」
>遂にこの場に居る全ての魔物達が、氷飛竜に襲いかかる
氷飛竜「くどい」
>飛び込んで来た複数の魔物を、翼で凍てつく衝撃波を発生させる《氷撃翔》で吹き飛ばす
>更に背後からの攻撃を軽く躱し、《月下氷針》で貫く
>懐に入ってきた者は舌打ちをしつつ、五指を鋭い氷で覆う《氷裂爪》で切り裂き
>最後のトドメと言わんばかりに《竜陸氷河》を放った
パキキッ…
ドサッ
ドサドサッ
氷飛竜「この程度の戦力で国を落とせたのか?国取りとは随分と楽になったものだな」
男「(ひょ、氷飛竜さんカッケえぇぇー!!)」
猫神「…強いね。アナタ」
猫神「皆下がってて。アタシが倒すからッ」ダッ
>猫神が地を蹴り、目にも止まらぬ速さで飛び込むも―――
氷飛竜「倒すだと?冗談は火山でしてもらおうか」ガシッ
>呆れた様に呟きつつ猫神の胸倉を掴む
氷飛竜「何をそんなに焦っている?」パキキッ
猫神「ぅぐ…アンタには、関係無いでしょッ!」
氷飛竜「はァ……面倒だな」
ゴシャァッ!
>猫神の頭を地に叩き伏せる
氷飛竜「私はな、いつまでも子供の相手をしている程暇では無いのだよ」
氷飛竜「死なぬ内にとっとと吐け」
猫神「アタ、シは…やらなくちゃ……ダメなの!!」
猫神「捨てられたくないの……」
氷飛竜「クハッ、捨て猫ときたか。実に笑える」
猫神「アンタに…何がわかんのよ……」
氷飛竜「わからんよ。わかりたくも無いがな」
猫神「っ…」ギリッ
氷飛竜「お前の様な雑魚は、足掻こうともしないのだな」
猫神「そう、やって……力を持ってるから、何とでも言えるのよ」
氷飛竜「力を持とうが持たずまいが、何も変わらんよ」
氷飛竜「持ってるが故に、面倒な事に巻き込まれたりもする」
男「なぁ猫神、さっき捨てられたくないって言ってたけど…それって誰にだ?」
猫神「…言わ、ない」
氷飛竜「このクソ猫……」スッ
魔術師「ちょちょっ、待ってよ氷ちゃん」
魔術師「もしかして…言わないんじゃなくて、言えないんじゃないの?」
猫神「っ……」
魔術師「…君の飼い主さんがどういう人か知らないけどさ」
魔術師「本当に、今行っている行為が正しいと思う?」
猫神「…わかん、ないよ……」
猫神「男くん達に接触するのは、もっと後だった……」
猫神「でも…遠くで見てたら、温かったから……」
猫神「皆と関わって…神炎村やイムサ国にも行って……」
猫神「人間にも、騎士くんみたく優しい人達が居るんだって、知った……けど―――
猫神「やらなくちゃ…一人は…もう、嫌なの…!」グス
騎士「…その程度の理由で、こんな事を行ってきたのですか?」
猫神「…皆は、わからないよ。ずっと温かい場所で生きてきたんだから……」
騎士「…私は、家族と親友を…魔物に殺されましたよ」
騎士「二度も、大切な人達を失いました」
騎士「それでも私は生きています」
騎士「憎い…憎悪が溢れ出る程憎い。この世から魔物を狩り尽くしてやろうか、そんな事も思ったことがあります」
騎士「ですけど、そんな事をしたって…何も意味は無いんです」
騎士「それに、魔物にも良い者は居ると、氷飛竜さんの一件で知れました」
騎士「……よく言われますが、復讐は更なる復讐を生むだけ、ですよ」
猫神「騎士、くん……」
男「猫神…お前がやってきたのは全部命令されてた事なのか?」
猫神「……そう、だけど……やったのは、アタシだよ……」
氷飛竜「そうか。では死ね」スッ
猫神「………っ」ギュ
男「お、おい―――
バキキッ…ヒュンッ
>氷柱が猫神に向けて飛ぶ―――
ドスッドスッ……
猫神「…え……」
猫神「どう、して……」
騎士「あはは…やっぱり、痛いですね」ポタ…ポタ…
猫神「アタシは、裏切ったんだよ!?何で、庇うの…!」
騎士「一度や二度の失敗は、誰にでもあります……」
騎士「しかし、そこから立ち上がるからこそ…人も、魔物も、この世に生きる者は強くなるッ!」
騎士「猫神さんにはもう、男さんや妖狐さん、刀娘さんと……そして、私も居ます」
猫神「うん……」
騎士「私は…私達は、貴女を捨てたりはしません」
騎士「勿論、次裏切った時以外は…ですけど」
猫神「……うん」グスッ
騎士「今は人間が嫌いでも…これから少しずつ変えていけば良いのですよ」
騎士「喧嘩したら仲直り、ですっ」スッ
猫神「騎士…くん……」ポロポロ
氷飛竜「茶番だな」
魔術師「その茶番をさせる為に、わざと攻撃したんだろ?」
氷飛竜「黙れ」
魔術師「手加減したのが丸分かりなんだよなー」
魔術師「周りに倒れてる魔物達も、急所外してるだろ」
氷飛竜「偶然だ」
魔術師「素直じゃないねえ」
刀娘「(喧嘩したら…仲直り……)」
刀娘「(懐かしく、温かい言葉……)」
男「と、とりあえず…助かったんだよ、な…?」
妖狐「多分……」
男「氷飛竜、ありがとう。助かったよ」
氷飛竜「む…?あぁ」
氷飛竜「私は助けに来た訳では無い」
男「えぇ!?」
氷飛竜「ただ言伝をしに来たら、偶然貴様らが無様な姿を晒していたと言うだけだ」
男「無様って……」
妖狐「言伝とはなんじゃ?」
氷飛竜「…貴様らは、南の大地を知っているか?」
男「南の……」
妖狐「大地…?」
氷飛竜「貴様らもか……」
魔術師「やっぱそうなるよな」
猫神「…南の大地は、統主様がいる所、だね……」
騎士「統主、様…?」
猫神「うん…。アタシの命の恩人」
氷飛竜「そして、この件の犯人だろうな」
猫神「……うん」
騎士「どうして、その統主さんはこの様な事をするんですか…?」
猫神「…統主様がね、言ってたの。『この世界に生きる全ての人間を、手遅れになる前に始末しなければならない』って」
猫神「だから、アタシ達は各大地の主要な場所を落として行ったの」
猫神「本当は、こんな事言う方じゃなかったのに、な……」ボソッ
氷飛竜「ふん。私は人間がどうなろうが知ったことでは無い…が、目前で好き勝手されるのは腹立たしい」
氷飛竜「なので、貴様らがその統主とやらをぶっ飛ばしてこい」
男「俺達は―――
騎士「行きますよ、言われなくたって」
猫神「騎士、くん…?」
騎士「こんな事をして、何の意味があるんですか……」
騎士「人間を殺してまでしなきゃいけない事とは、一体何なのですか…!」
騎士「私はこの行為に意味があるなら知りたい。そして猫神さんにこんな事をさせたのも含めて…!」
氷飛竜「そこの狐共はどうするのだ」
妖狐「わしら、は……」チラッ
男「行くよ。俺らも」
男「関われば自ずと危険な目に会う」
男「だけどその統主って奴がしようとしてる事は、俺達が求めてる物の障害となる」
妖狐「そうじゃな。ソイツを止めん事には安住の地など無かろう」
氷飛竜「…そうか。なら、先ずは西の大地を目指すと良い」
男「西の大地?」
氷飛竜「あぁ。果てしなく海が広がる大地……」
氷飛竜「その海を渡って南の大地へと行ける筈だ」
魔術師「この北の大地から真っ直ぐ南へとは行けないのか?」
氷飛竜「無理だ。中央には頂きが見えない程高い山がそびえ立っている」
氷飛竜「私でも超えられるかどうか、わからないくらいだ」
男「迂回するしか無い、か」
妖狐「なら早速、西の大地とやらを目指すかのぅ」
氷飛竜「…馬鹿な貴様らには、これをやろう」スッ
妖狐「なんじゃこれは」
男「……地図か」
氷飛竜「西の大地で覚えがある場所は記してある」
氷飛竜「空白の部分は貴様らで何とかしろ」
妖狐「とりあえず、行く場所が決まったんじゃし、構わん」
騎士「猫神さんも、一緒に来ますよね…?」
猫神「アタシ、は……まだやらなきゃいけない事があるの……」
騎士「で、ですがもうここは―――
猫神「ううん、違うの。このトアール国の近くに森があるでしょ?」
男「えっと…確かにあるな」ペラッ
猫神「そこにね、エルフの里があるのよ」
男「はあ!?こんな近くにか!?」
猫神「この国の人間達は、エルフを乱獲しようと兵を全てそこに回したの」
猫神「他の魔物達がそこに向ってるハズだとは思うけど……」
猫神「その手薄になった隙をついてアタシ達は占拠したのよ。笑えるでしょ?」
男「何で、またエルフなんかを……」
魔術師「奴隷、だな」
男「奴隷…?」
魔術師「イムサ国やトアール国に奴隷は居ないが」
魔術師「遠い他国だと、高値で奴隷として売られるんだ。特に人外はな」
男「…何らかの理由があるにせよ、この国の王はエルフを売るつもりって訳か……」
男「そもそも、何でこんな近くにあったのに今まで誰も気づかなったんだ?」
猫神「里の周りには魔結界があって、それがある限り里の者以外は見えないし入れないようになってるの」
猫神「でも最近、誰かがその結界を解いたんだよね」
猫神「そこを人間達が攻めたって感じ、かな」
騎士「誰が解いたんでしょうか?」
魔術師「魔結界はカナリ強力だったし、力のある奴じゃなきゃ解けないと思うぜ」
氷飛竜「…そこの雌猫」
猫神「な、なに…?」
氷飛竜「貴様はその狐と共に行け。エルフの方は私が片付けておいてやる」
猫神「なんで…?」
氷飛竜「人間を掃除するくらい、容易い事だ。貴様の仲間も巻き込むかもしれんがな」ニヤ
猫神「…手加減してあげてよ」
氷飛竜「さぁな」
妖狐「氷飛竜よ…。今回は助けられた」
氷飛竜「…借りは返したぞ」
妖狐「借り…?そんな物貸した覚えは―――
氷飛竜「貴様に無くても、私にはあるのだ」
妖狐「う、うん??まあ、よいか」
男「あの…少し頼みがあるんだけど……」
氷飛竜「…聞くだけ聞いてやる。言ってみろ」
男「エルフの里に、もしかしたら…俺の親父が居るかもしれないんだ」
男「だから―――
氷飛竜「探せ、か。下らん。その程度で私を使うな」
男「こ、ごめん……」
氷飛竜「だが、どうせ直ぐに片は付けられる。暇潰しに探してやらん事もない」
男「あ、ありがとう……」
妖狐「(素直じゃないのぅ)」
―
―
男「それじゃあ、俺達は西の大地を目指すよ」
氷飛竜「あぁ。せいぜい死なぬ様にする事だ」
妖狐「其方もな」
氷飛竜「…ふん」
騎士「エルフの事、よろしくお願いします」ペコ
騎士「行きましょう、猫神さん」スッ
猫神「あっ……ぁり、がと……」ギュ
男「おーい刀娘、置いてくぞー」
刀娘「…うんっ」タッタッ
魔術師「(アイツは……)」チラッ
魔術師「(……ほぅ。まさかこんな所に居るとはな)」
魔術師「(…………ようやく見つけた)」
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました!
ガタゴト
ガタゴトッ…
男「……」
妖狐「……」
刀娘「……」
猫神「……」
男「(気まずい……)」
猫神「……ぁの……」
>重苦しい空気の中、小さな声が静かに響く
猫神「…ごめん、なさい……」
猫神「…邪魔なら、置いていっても…良いよ……」
男「そんな事はしないし、すれば騎士さんにぶっ飛ばされかねんから止めてくれ」
妖狐「わしは強制はせん。着いてきたければ来るとよい」
刀娘「わたしは、気にしてない……よ?」
猫神「……うん……」
ガタゴト
ガタゴトッ…
騎士「皆さん、今日はここで休みましょうか」
男「はいよー」
妖狐「まだ着かんのか」
騎士「地図によると、あと数日はかかりそうです」
男「馬車での移動だから楽なんだが……」
騎士「食料が少し心細いですね」
男「北西の境界門の近くに大きな街があるから、そこに一旦寄るか」
騎士「そうしましょう」
妖狐「…それにしても、面倒な事になったのぅ」
妖狐「そしてこんなにも、この世が広かったとは……」
男「普通に生活してると、気にならないしなー」
騎士「猫神さんは、どこの大地から来られたんですか?」
猫神「アタシは、皆と同じ北の大地だよ」
猫神「地域は南東だけど……」
騎士「南東、ですか……」
男「何かあるのか?」
騎士「あまり良い噂は聞かない所、ですかね……」
男「猫神は南の大地に行った事は?」
猫神「…無いよ。統主様がいつもこっちまで来てたの」
男「となると、敵本拠地の情報は得られず、か」
妖狐「ちょっと待たんか。来てたとは?」
猫神「うん…?そのままの意味だよ」
妖狐「この広大な大地を超えてか?」
猫神「うん。飛んで来てた」
騎士「…マジですか」
男「俺達が殴り込みに行く相手、もしかしてトンデモない奴なんじゃ……」
妖狐「……」
男「……」
騎士「……」
刀娘「…っくしゅ」
男「っと、焚き火しないと冷えるな。すまん」ボッ
妖狐「ま、着いてから考えればよかろう」
騎士「ですね」
――
―
―数日後―
男「おっ、もしかして……」
騎士「見えましたね!」
刀娘「ここは…?」
騎士「境界門近くの街、‘‘トウケン街’’ですね」
男「んじゃ、ここに今日は滞在するか」
妖狐「はよぅ宿に行きたい……」
―
―
―
―トウケン街―
男「す、すげぇ賑わってるな……」
騎士「それに、何やら重苦しい装備をした方々が多いですね」
騎士「妖狐さんが疲れているみたいですし、一先ず宿を探しましょう」
男「だなー」
―
―宿屋―
男「こんちはー」
騎士「こんにちは」
「あら、いらっしゃい」
騎士「部屋は空いていますか?」
「一部屋なら空いてるよ」
騎士「一部屋、ですか……」
「悪いねぇ…今日の午後から週に一度の闘技大会があるもんで、お客が多いのよ」
男「と、闘技大会?」
「そうさね。腕に自身のある強者達が競い合う……まあ見せ物さ」
「毎週豪華な賞品や賞金が出る事もあってか、参加する人も多いよ」
男「後で見に行ってみるかな」
騎士「すみません、部屋にベッドは幾つありますか?」
「ベッドは一部屋につき二つだよ」
騎士「ふ、二つ…。まぁ、それが普通ですよね……」
「ちなみに、もうどこの宿も同じ様になってると思うよ」
騎士「では、ここを取るしか無いですね……。一部屋、お願いします」
「ありがとさん。一泊、銅貨八枚だ」
騎士「では、これで」スッ
「丁度…確かに。これは鍵ね。二階の一番奥の部屋だよ」
騎士「ありがとうございます」ペコ
―
―部屋―
男「ふぅ…とりあえず、落ち着いたな」
騎士「これからどうします?」
男「俺は飯食って、午後からある闘技大会を見に行こうかなと」
妖狐「わしは寝る」
騎士「私は色々と買い物をしてきます」
騎士「猫神さんと刀娘さんは?」
刀娘「わたし、は……どうしよう?」
男「暇だったら、一緒に俺と見に行かないか?」
刀娘「じゃあ一緒に……」
猫神「…アタシは、ここに居るよ」
騎士「わかりました。では各自、自由行動という事にしましょう」
―
―トウケン街 市場―
男「刀娘、腹は減ってるよな?」
刀娘「…っ」コク
男「じゃ、先に腹ごしらえからだなー」
―
「らっしゃい」
男「これは何ですか?」
「サンドイッチっつぅ食いもんよ」
「薄いパンに肉や野菜を挟んだものさ」
男「……」ゴクリ
刀娘「……」ゴクリ
男「い、五つください…!」
「一つ銅貨一枚だが、構わねぇか?」
男「お願いしますっ!」スッ
「ははっ、毎度ありぃ」
―
男「ほい、刀娘」スッ
刀娘「わぁ……」
男「サンドイッチか…初めて食うな」ハム
男「お、おぉ…美味ぇ……」
刀娘「…♪」ハムハム
男「(シャキシャキした野菜に、スライスした肉……)」モグモグ
男「(焼きたてなのか、ほんのり温かく外側がカリカリとしてるな……)」
男「(そしてこの少し黄色がかった白いソースがまたたまらん)」
男「(騎士さんに言えば作ってくれるかな……)」
男「(…みんなの分も、と買ったが……)」チラッ
刀娘「…?」
男「刀娘、皆には内緒にして…残りを食わないか…?」ゴクリ
刀娘「…!」
刀娘「良いの…?」
男「…良いさ!誰も見てねぇ!」
男「金は全員で分けたんだし、皆も美味いもん食ってる筈だ…!」
刀娘「…ごくり」
男「…一つずつ、残り一個は半分こしよう」スッ
刀娘「…っ」コクコク
男「あー、腹一杯だ」
刀娘「はふぅ……」
男「サンドイッチ食べた後、歯止めが効かなくなって次々と色んな食べ物を買い食いしてしまった……」
刀娘「美味しかった……」
男「刀娘は俺の倍食ってたな」
刀娘「まだまだ、いける…よっ」
男「その体の一体どこに入ってるんだ」
男「っと、そろそろ良い時間だな」
男「買い食いしてる時、ついでに場所も聞いたし行ってみるか」
刀娘「うんっ」
―
―闘技場―
男「受付は…あったあった」
男「すみません、まだ入れますか?」
「エントリーされる方でしょうか?まだ受付はしていますよ」
男「いえ、俺達は……」チラッ
>男の目に、ふと今週の賞品一覧が視界に入る
―賞品、及び賞金―
優勝 トウケン街特製の船、金貨三十枚
準優勝 金貨二十枚、フード券
三位 金貨十枚
男「ふ、船!?」
男「あの、賞品に船って……」
「今回は稀にある、特別な週ですよ」
「月に一度、賞品の質が上がるのです」
「すぐ側の西の大地は、船が無いと移動出来ないのもあって、人気ですよ」
男「西の、大地……あっ」
男「(俺達、馬車は持ってるが…船持ってねえ!)」
男「(西の大地は船の定期便とかあるのかな……)」
男「ちょ、あの!これ、今からでも出られるんですよ、ね?」
「えぇ。ただし出場するにはお一人様、銀貨4枚必要ですよ」
男「地味に高い……」
男「…刀娘、出るぞ」
刀娘「…えっ…?」
男「二人で出るぞ」
刀娘「わ、わたしは……」
男「ルールは?」
「相手に急所の一撃を当てる、又は審判が試合続行不可とみなした場合、そしてどちらかが降参した場合のみ勝敗が決まります」
「それと安全性も兼ねて、武器はこちらで用意した物のみとなります」
「防具はある程度の物は大丈夫ですが、過剰と判断した場合、変更して頂く事となります」
「ちなみに武器の種類は剣と刀です」
男「なる、ほど…なら大丈夫だな」
男「俺と、この横の子…エントリーします」スッ
「かしこまりました。では、係員に従って控え室に向かって下さい」
刀娘「え、え…?」
―控え室―
>出場する選手達が、それぞれ真剣な面持ちで待機している
刀娘「わ、わたし……」
男「強引だったのは悪い、謝るよ。だけど、刀娘にも慣れてもらわなくちゃ困るんだ」
男「俺達はこれから危険な所に行く。でも刀娘を守りきれる自身は誰にも無い」
男「戦う事に少しでも慣れないと、俺達は君を連れて行く事は出来ない」
男「ずっと思ってたんだ。だからこの闘技大会は絶好の機会だ」
男「まぁ、賞品を聞くまで出ようとは思って無くて、近くで戦いを見させるつもりだったんだけどな」
男「それに、刀娘は俺をズタボロに出来る程度の強さはあると思ってる」
刀娘「…う、うん……」
男「間近で戦った俺が言うんだから間違い無い…はず……」
男「ま、いざとなれば降参も出来る」
刀娘「…そう、だよね…。いつまでもこのままじゃ……」
男「その意気だ。戦ってると記憶も戻るかもしれないしな」ハハハ
係員「男さん、準備をお願いします」
男「うし、行ってくる」
刀娘「がん、ばって!」
―
―
>観客の歓声が響き渡る
男「よろしく」
「……」
男「(なんだこいつ、フレンドリーじゃないな)」イラッ
>両者が剣を構えたのを見計らって、審判が口を開く
審判「これより、男選手 対 闘士選手の試合を始めます」
カンッ!
>試合開始の合図と共に男が前方へ駆け出し、一気に間合いを詰める
男「しっ!」ビュンッ
>小手調べの垂直斬り
ガキンッ
男「やっぱ受け止められるか」
「なめるなッ!」ヒュッ
>男の剣を弾き、相手が水平斬りをする
男「おっと」サッ
>男は咄嗟にしゃがみ、右足で半円を描き足払いをした
「ぬっ…!」グラッ
>相手が片足で辛うじで踏み止まるも、体勢を崩した隙を逃さず横に叩き斬る
ゴスッ
男「あれ?この剣、斬れないのか」
>鈍い音がした直後、相手の体が横へ倒れた
「ぐ…ぁ……」
男「ふぅ……」チャキ
審判「そこまで!勝者、男選手!」
>再び歓声が上がる
―
―控え室―
刀娘「お疲れ、様……」
男「おう、初戦だったからか案外楽だったな」
刀娘「凄いなあ……」
>しばらく経ち、刀娘が呼ばれる
係員「刀娘さん、準備をお願いします」
男「…来たな。武器はそれにするのか?」
刀娘「うん…なんだか、手に馴染むの……」
男「そっか。頑張れ!」ポンッ
刀娘「行ってくる、ね…!」
―
>女性の出場選手とあってか、歓声がより大きくなる
刀娘「よ、よろしくお願いします……」
「女か…これは良い」ニヤ
刀娘「……」スッ
「……」スッ
>両者が武器を構え、合図を待つ
審判「これより、刀娘選手 対 闘士選手の試合を始めます」
カンッ!
>相手が合図と共に飛び出す
「オラァ!」
キィィンッ
刀娘「わひゃっ……」
>攻撃を危うく弾く
「ほぅ、やるな」
「なら、これならどう…だッ」ヒュッ
>相手が小さな袋を投げつける
刀娘「わっ……」
ボフッ
「ハッ、どうだ?特製目潰し袋は」
>汚えぞ!と観客から野次が飛んでくる
「ふん。勝てば良いんだよ、勝てば…なッ!」ヒュンッ
ゴスッ
刀娘「ぅ"っ……」
>相手の剣が横腹に深く当たる
「オラ、どうした。そんなもんか?」
「もっと良く鳴いてくれよ」
ドスッ ドスッ
>相手の蹴りが腹に数発入る
男「(クソ、審判は何をやってるんだ……)」チラッ
男「(敗北条件の一撃は既に当たったのに……)」
男「(あんなの明らかに反則だろうが…!)」
刀娘「うぅ……」ゲホゲホ
「(ハッ。反則になる訳がねぇよ)」
「(この審判は買い取ってやったからな)」
「俺はなあ…こうやって弱い相手を甚振るのが楽しくてたまらないんだ…よ!」
ドスッ
>力を振り絞り、刀を乱雑に振るう
刀娘「っ……」ヒュンッ
「危ない危ない」スッ
刀娘「はぁ……はぁ……」ヨロ
「まだするのか。その意気だけは認めてやるよ」ヒュンッ
キィィンッ
キィンッ
刀娘「(刃の音……懐かしい……)」
刀娘「(そもそも、何で刀が手に馴染むんだろ……)」
刀娘「(男さんが言ってた、『深く考えず、思うがまま振ればお前は強いよ』って……)」
>相手の攻撃を弾きつつ、頭の片隅でそんな事を思い出した
「そろそろ終わりに―――
刀娘「っ!」ビュンッ
ギィンッ!
>相手の突きを手首の動きだけで弾く
「なっ、なん…だ?」
刀娘「もう少し、もう少しで思い出せそう……」
刀娘「だから、もっと来て…!」
「こ、の…!言われなくてもッ!」ダッ
ギィンッ
キィンッ
>相手ががむしゃらに振るう剣を全て弾き返す
刀娘「(もっと…もっと!)」
「ハァ…ハァ……クソ、なんなんだこいつは!」
「これで…終わりだァ!」ダッ
刀娘「っ!」タンッ
>両者が共に踏み込み、駆け出す
「らァッ!」ヒュッ
>闘士の突きを、頭を僅かにずらし紙一重で躱す
刀娘「っ!!」ギリッ
>右腕を後ろに引き、左足に全体重をかけ踏み込む
>瞬間、刀の光沢が閃光の軌跡を真っ直ぐ描き、闘士の脇腹に深く食い込む―――
>それはまるで騎士が得意とする《閃突》と似た動きの様に…
ズドムッッ
「ぐおっ……!!」
>闘士が勢いを殺せず数メートル後ろに飛ぶ
審判「…闘士選手、気絶。勝者、刀娘選手!」
>審判が言い終えたと同時に凄まじい歓声が上がった
>そこからの試合は、昔の勘を取り戻した刀娘の独擅場だった
>そして遂に決勝戦―――
男「…まさか刀娘が相手になるとは」
刀娘「男さん、よろしくお願いしますね」
男「(なんだか、雰囲気が変わったな)」
男「(前より凛々しくなったような……)」
男「仲間だからって、手加減はしないぞ」
刀娘「勿論です!」
審判「これより、決勝戦…男選手 対 刀娘選手の試合を始めます」
カンッ!
男「はっ!」タンッ
>試合開始の合図と同時に男が間合いを詰める
男「(刀娘は強い。魂刀の時の強さが戻りつつある……)」
男「(手加減すると、こちらがやられかねん)」
男「(だから全力で行くッ!)」
>剣を垂直に振り、更に同じ所を下から切り上げる2連続攻撃《丈華》を男が振るう
刀娘「…っ」スッ
ギィ
ギィンッ
>しかしそれを正確に弾き返す
男「お、おいおいマジかよ……」
刀娘「ここまでこれたのと、記憶が戻りつつあるのは男さんのおかげです」
刀娘「ボクは、男さん達と共に行きたい。だから……」
刀娘「認めて貰う為に、全てをぶつけます!!」グッ
>刀を鞘に収め、刀身に意識を集中させる
男「(な、なんだ…?)」
刀娘「…はッ!」
>高速で刀を振り抜く
ズバンッッ
>男の数センチ側を斬撃が掠めた
男「…へ?ちょ、え…?」
刀娘「(近接武器は間合いを取られる事が苦手……)」
刀娘「(それを埋める為の飛ぶ斬撃、《花跳風月》……)」
刀娘「(…と言っても、魔力で斬撃と似た様なものを飛ばしてるだけですけど……)」
男「と、刀娘さん?もしかして記憶戻ったんです…?」
刀娘「戦い方だけは思い出しました」
刀娘「(本当は半分程、戻りかけてますが……)」
男「都合良すぎない!?」
男「(斬撃が飛ぶって、そんなバカな……)」
男「(だったら…近接戦に持ち込んでやるッ)」ダンッ
男「うおおぉぉッ!!」ググッ
>素早い上段横薙ぎから即座に左斜めへと切り下げ、更に下段横薙ぎでZの字を描き、最後に中央突きの四連続攻撃《獅連斬》を男が全力で振るう
刀娘「(やはり来ますよね……)」カチャ
>刀を鞘に収め、今度は体に意識を集中させ、全身の感覚を底上げする《劫花乱墜》の構えを取る
>上段横薙を屈んで回避し切り下げは重心を左にかけ躱す
>下段横薙を鞘で防ぎ、中央突きも難無く躱す
刀娘「っっ!」ヒュッ
男「(これも避けるか…!―――使いたくなったが……)」ス…
バフッ
>刀を振るより僅かに早く男の左手が爆発する
刀娘「わわっ……」スカッ
>視界を奪われた隙に男が間合いを空ける
刀娘「(だったら、また《花跳風月》を使うまで…!)」ビュンッ
ズバンッッ
>再度、斬撃を飛ばすが―――
男「もう効かんぞ」ボゥ
スパッ…
刀娘「はえ…?な、何で―――
>目の前で信じられない光景を目にする
刀娘「ざ、斬撃を斬るなんて、訳がわからないよ……」
男「斬撃を飛ばすのも、俺にとっては訳がわからなかったが……」
男「俺達の武器は用意された物だ。だから特別な力なんて無い」
男「だったら、武器では無くお前自身が何かしてるんじゃないかと思った」
男「それはつまり、魔術の類だ。ならそれと同じ物を当てれば良い」
男「よく見るとお前の刀、何か白いモヤが覆ってた」
男「だから俺もこの剣に魔力の炎を纏わせ、相殺した。それだけだ」
男「名付けるなら……《炎装》ってところか」
刀娘「(本来の予定よりもずっと早い……)」
刀娘「(ううん。今は気にしちゃダメ。全力で行かなきゃ…!)」
刀娘「…はッ!」ビュンッ
ズバンッッ
男「しッ!」ヒュッ
スパンッ
>数度、同じやり取りを繰り返しす
刀娘「(はぁ…はぁ……流石にキツイな……)」
男「どうした?終わりか?」
刀娘「まだ、まだです…!」スッ
男「へ、へぇ…そうか……」
男「(まだやるのかよ!?大口叩いたものの、もう限界が近いんだけどな……)」ハァハァ
男「…っ」
刀娘「っや!」ビュンッ
ズバンッッ
>《花跳風月》を撃った後、駆け出す
男「はっ!」ヒュッ
スパンッ
男「(斬撃で視界を狭めたか……)」
刀娘「これで…終わりです!」ヒュンッ
>刀を垂直に振り下ろす
男「(隙をついたんだろうが…躱せない事は無いッ!)」ザッ
スカッ
男「(よし…躱した!ここで反撃を―――
>男が右に回避し、反撃に移ろうとした直後、ぐんっと刀が左斜めへと切り上げられる
男「ひょえっ!?」
ゴスッ!!
男「」ズザザザッ
>勢いに任せて男が吹き飛ぶ
刀娘「はァ…ハァ……良かった、これはまだ知りませんでしたか……」
審判「…そこまで!勝者…及び、今大会の優勝者は―――刀娘選手!!」
>いつまでも途切れない歓声と共に、闘技大会は幕を閉じた
―
―
―
男「お疲れさん」
刀娘「男さんも、お疲れ様ですっ」
男「刀娘、最後のアレ…何だったんだ…?」
刀娘「アレはですね……」
刀娘「初撃は避けられるのを前提で振り、二撃目…つまり本命を油断した所に当てる技です」
刀娘「ボク―――私は《燕返し》って言ってます」
男「なる、ほどな……。避けたと思ったら気づいたら吹っ飛んでたわ」
刀娘「でも、元になったのは男さんの《丈華》だったんですよ」
刀娘「《花跳風月》だって《炎装》をヒントに編み出したものですし」
男「う、ん?俺、教えたっけ…?」
刀娘「い、いえ、えーと…騎士さんに教えてもらいました」
男「いつの間に聞いてたんだ……」
男「くそぅ、やられたなぁ」
男「でも驚いたよ。慣れてもらうどころか、あんなに強かったとは……」
刀娘「刀を振るってたら、自然と…ですかね」
刀娘「その、男さん……ご同行の件なんですが―――
男「お前が戦力外なら、負けた俺なんてもっとだからな」
男「勿論…と言うより、着いて来てほしい。俺からのお願いだな」
刀娘「ありがとうございますっ」
騎士「お二人共、お疲れ様です」
男「あれ?皆来てたんだ」
妖狐「なかなかよい試合じゃったぞ」
猫神「刀娘ちゃん、あんなに強かったんだ」
騎士「ですね。驚きましたよ…まるで別人の様に感じました」
刀娘「そ、そうかな…?はは……」
妖狐「男よ、おなごに負けるとはお主もまだまだじゃな」
男「う、うるせっ。アレは無理だろ」
妖狐「うむ。わしじゃと秒殺じゃな」
騎士「私でも無理ですよ……」
妖狐「それよりお主らは何故、闘技大会なんぞに出ておったんじゃ?」
男「あぁ、それなんだが……」
男「説明が面倒なので、簡潔に言うと…刀娘と今後の為だな」
猫神「刀娘ちゃん?」
騎士「今後の為、とは…?」
男「うん。刀娘の方はすっかり戦力になった」
男「今後の為って言うのは、西の大地での移動手段だな」
騎士「西の大地……そうでしたか」
妖狐「なんじゃ、わしにも分かる様に話せ」
男「少しは考えろよ…西の大地は、果てしなく海が広がるって聞いただろ?」
男「闘技場の受付でも、移動手段は船しか無いと言ってた」
男「一応、定期的に来る船とかはあるかもしれんが、そんなの待ってられないしな」
男「で、運良く今週の優勝賞品に船があったんだ」
妖狐「あったからといって、そんな都合良く優勝出来る筈無かろうが……」
男「そうだなー、なんとか俺と刀娘が決勝戦を独占したおかげで、確定したが……」
妖狐「途中から見ておったが、毎戦お主は相手の力量を軽く見すぎじゃ」
男「返す言葉も無い」
妖狐「もう少し気を引き締めてもらわんと、この先どうなる事やら……」
刀娘「でも…男さん、強かった。さっきのは不意打ちでギリギリ勝てた様なものだったから……」
男「あはは…ありがとな」
刀娘「(北の大地を超える前で、もうこんなに強かったんだ……)」
刀娘「(その男さんでも敵わない……)」
刀娘「(そんな相手に、私は勝て――――
騎士「刀娘さん、どうかしました?」
刀娘「う、ううん。何でもないよ」
騎士「そうですか…。男さんは、以前よりも力をつけましたね」
妖狐「毎日夜中に鍛錬をしておるんじゃ、強くならなければ困るがの」
男「な、何で知ってんだよ。騎士さん……」チラッ
騎士「わ、私は何も言ってませんよっ」
妖狐「ふん、わしは何でもお見通しじゃ」
猫神「それをずっと見てたから、毎日眠いんでしょ?妖狐ちゃん」
妖狐「た、たた戯け!そんな訳が無かろう!」アセアセ
男「そうなのか。だったら今度から一緒にするか?」
妖狐「わしは、力仕事はお主に任せると決めておるからのぅ」
男「そのヒョロい体はどうにかして欲しいがなー」
妖狐「筋肉がつきまくったわしを想像してみるがよい」
男「……やだなぁ」
妖狐「うむ。そういう事じゃ」
男「騎士さんは用事終わった?」
騎士「終わりましたよ、男さん達は?」
男「俺達も、まあ終わったな」
妖狐「…帰るか。わしは眠い」
男「まだ寝るのかよ、この狐は」
妖狐「お主も寝るとよい。宿屋のベッドはフカフカで気持ちが良かったぞ」
男「その前に飯食いたいかな」
刀娘「私も…!」
男「動くと腹減るよな」
刀娘「うんうんっ」
騎士「では、帰ってご飯にしましょうか。男さんと刀娘さんのお祝いも兼ねて!」
刀娘「っ♪」
妖狐「まぁ…なんじゃ。お主も、よぅ頑張ったの」
男「そう思うなら、何かご褒美でもくれよ」
妖狐「そうじゃなぁ…では、甘菓子を買う権利をやろう」
男「それお前に対してのご褒美じゃん!」
妖狐「冗談じゃって。…うーむ、では……」チラッ
猫神「刀娘ちゃん、お疲れ様ー」ナデナデ
刀娘「わわっ……うんっ…!」テレ
妖狐「わしの頭を撫でさせてやろう!」フンス
男「そこは俺のを撫でてくれよ」
妖狐「文句が多い奴じゃなぁ」
男「はぁ…ま、撫でるけどさ……」ナデナデ
妖狐「むふふ…お主、なかなか上手いのぅ」
男「そりゃどうも」
―――
――
―
思ったより長くなってすみません
今日はここで終わります、ありがとうございました
(技名考えてる時は結構楽しいです……)
―二日後―
ザザーン
ザザーン…
男「遂に、出るんだな。北の大地を……」
妖狐「わしはもっと、こう…穏やかに生きたかったんじゃが……」
男「その場所を探しに行くんだろ?」
妖狐「う、うーむ……」
騎士「船は…これですか……操舵室を見てきますね……」ドヨーン
猫神「なんだか、騎士くん元気無いね」
男「あー…馬、可愛がってたからなー……」
妖狐「馬?あの荷車を引いておったアレか」
男「そうそう。流石に船に乗せる事は…出来なくも無いが、馬にとっちゃ危険だろ?」
男「だから、それなら他の誰かに可愛がってもらった方が良いと思って、売りに行ったんだよ」
男「でも騎士さんが、それはもう渋る渋る」
男「毎日可愛がってたから、わからなくもないがなー」
妖狐「動物を愛でたいと言うなら…ほれ、そこの雌猫でも愛でればよい」
猫神「なんでアタシなのよ」
妖狐「いつまでもメソメソしている猫にはお似合いじゃ」
猫神「そ、そんなこと無いもん」
妖狐「ほぅ、どうだか」
刀娘「……船の操縦、誰がするの?」
男「それは……騎士さん?」
妖狐「馬を引くのも騎士がやっておったが……」
妖狐「あの者、何でも出来過ぎじゃろ」
猫神「出来ない事が無さそうに見えるのは確かだよね」
男「いやー、でも…流石に船は無理なんじゃないか?」
男「船の操縦って、習う機会無いだろ」
騎士「…皆さん…いつ出港しますかぁ…?」
男「騎士さん、船の操縦とかって出来るんです…?」
騎士「出来ますよー、昨日船乗りの方に教わりました」
男「マジか。一日でかよ」
妖狐「順応力高過ぎじゃろ」
騎士「あはは…最初は世間話だけでしたけど」
騎士「話が弾んじゃって、色々とお話をしていたんですよ」
騎士「その時に船の事とか、う…馬の事…とかぁ……」グス
男「(やばい掘り返しちまった)」
妖狐「あ、あー 海は綺麗じゃなぁ!」
男「(あからさま過ぎるだろ!)」
刀娘「ひ、ひひーん……」
男「(それは無理があるって!)」
猫神「ど、動物が好きなら、アタシを―――
騎士「…………………馬が良いです」ボソ
猫神「」
男「う、うう馬ならまた買えば―――
騎士「私の、あの馬は…もう二度と……」
男「……っ」ギリッ
男「ぶ、ぶるるっひひーん!なんなら俺が馬になるぜ!」
妖狐「(お主は何を血迷っておるんじゃ……)」
猫神「(…無理でしょ)」
刀娘「(ボクも大概だけど、男さんのはちょっと……)」
騎士「……きもちわるい」
男「」
騎士「…そうだ、客室も確認しておかなければ……」トボトボ
妖狐「お主よ、騎士が敬語を使わんのは相当じゃぞ?」
男「数分前の俺を全力で叩き斬りたい」
猫神「いつに無く落ち込んでるね」
刀娘「どうしよう……」
男「こればっかりは、時間が解決してくれるのを任せるしか無いなぁ……」
ダダダダダダッ
妖狐「む…?なんじゃ―――
騎士「み、みみ皆さん!!客室見ました!?」
男「え、いや、まだ―――
騎士「す、凄いですよ!まるで自分の部屋を持ったみたいです!!」
騎士「こ、これ!好きにしても良いんですよね!?」
妖狐「す、好きに…とは?」
騎士「勿論!自分なりに変えるんですよぉ!レイアウトを!!」
男「えっと、俺は寝る所さえあればそれで……」
妖狐「わしも、特に……」
猫神「うん……」
刀娘「……」コクコク
騎士「わぁ……この個室感…!最高ですね!!何とも言えないワクワク感がありますよ!!」
騎士「例えるなら…秘密基地みたいな!」
男「そ、そうか……」
騎士「あっ…でも、今日出港ですよね……」
騎士「家具を買う時間、無いなぁ……」
妖狐「……」チラッ
猫神「……」チラッ
刀娘「……」チラッ
男「あーもう、わかったよ。出港は明日な!」
騎士「男さん…ありがとうございます!!」
男「ういうい。トウケン街で好きな物でも買ってきてくれ」
男「船に乗り切る程度に、な……」
騎士「わかりました!」ドヒューン
猫神「あっという間に見えなくなっちゃった」
妖狐「まるで子供じゃな」
男「まぁ…元気が戻ったみたいだし、良かったよ」
男「騎士さん、時々女の子みたいになるよな」
妖狐「…そういえばわしの裾、解けた所を縫って貰った事があるぞ」
刀娘「私も……」
男「女子力高いな」
―
――
男「すぅ……はぁ」
男「なんだか、風がしょっぱい」
妖狐「それはそうじゃろ。海なんじゃから」
男「俺、海を見たこと無くてな」
妖狐「海は北の大地にもあるじゃろう?」
男「あったとしても、遠いし用も無いのに行かないだろ?」
妖狐「まぁ…わしも殆ど行かなかったからのぅ」
男「新しい物を感じられるって良いなあ」
妖狐「……そうじゃな」
男「ところで、刀娘は?」
妖狐「わしは見とらんぞ。先程までは居たんじゃが……」
男「…記憶が少し戻ったと言ってたし、一人になりたいのかもな」
妖狐「あれ程強ければ、心配もいらぬ」
男「…刀娘、か……」
妖狐「どうしたんじゃ?」
男「うーん…俺の思い過ごしかもしれないが……」
妖狐「焦らすな、言うてみぃ」
男「闘技大会での、刀娘の一回戦…お前見たか?」
妖狐「いんや、わしらが来た時は既に殆ど終盤じゃった」
男「そうか。その一回戦、刀娘が勝ったんだけどさ」
男「相手をふっ飛ばした技…アレが騎士さんのに似てたんだ」
妖狐「似てた…?」
男「あぁ。‘‘似すぎる程’’に、な」
妖狐「似ていて何が悪いんじゃ…?」
男「悪くは無いんだけど…なんつーかなぁ」
男「技の初動が凄まじかったんだ。それこそ、何年も鍛錬し体に染み付いている様な……」
妖狐「しかし、騎士の技を真似たとしても、わしらが出会ったのはほんの数週間前じゃろ?」
男「そこなんだよ。俺らと刀娘はまだ出会って日が浅い」
男「だが、あの技はどう見ても騎士さんの…だと思う」
男「俺達の知らない場所で、騎士さんの扱う《閃突》が知れ渡っている技なら有り得なくは無いが―――
男「(俺の《丈華》と《炎装》を元にしたって発言も、思い返してみれば引っかかる……)」
男「(もしかして、刀娘は何らかの方法で俺達の行く先―――)」
男「(‘‘未来’’を知っている…?)」
男「(そんな、本でしか読んだ事のない夢物語が実在するのか?)」
男「(仮にそうだとして…じゃあその目的って…?)」
男「(俺達に話さないって事は、つまり信用が無いか、それとも…知られると都合の悪い事か)」
男「(今のところ、害は無さそうだが……)」
男「(もし、敵対する事になれば…全員でも勝てるかどうか――――
妖狐「―――男よ、大丈夫か」ユサユサ
男「あ、あぁ…すまん」
妖狐「悩みがあるなら話せ。一人で抱え込もうとするな」
男「…悪い、まだ言えない。確信が持てた訳じゃないからな」
男「ただ、刀娘には気を付けた方が良い…と思う」
妖狐「ようわからんが、わかったと言っておこう」
男「ごめんな」
妖狐「なぁに、いつもの事じゃろ」
妖狐「じゃが…ちゃんと踏ん切りがついた時には、話して貰うぞ?」
男「わかった。約束するよ」
―
―
―翌日―
男「うし!じゃ、そろそろ出るか!」
騎士「あのー、男さん…目的地はどこにします?」
男「そうだなぁ―――
刀娘「…‘‘澄火島’’に行きましょう」スッ
騎士「チョウカトウですか……地図を見た感じ、ここから近いですね」ペラッ
猫神「そこにする?」
妖狐「ふぅむ……わしは構わんが」
男「待ってくれ。何故そこなんだ?」
男「他にも近…くは無いが、候補になる島はある。その中で、何故ここを選んだんだ?」
刀娘「え、えと……なんとなく、かな…?」
騎士「ふふっ…なんだかその言い方、猫神さんに似てますね」
猫神「アタシこんな感じだったの!?」
男「…駄目だ」
男「なんとなく、では決められない。もしその島が危険な所だとしたら、どう責任を取るつもりだ?」
妖狐「お主よ、そこまで言わんでも……」
刀娘「ご、ごめん…なさい……」
男「絶対に行かないとは言わない。でもせめて理由くらいは教えて欲しい」
刀娘「(…うぅ、マズイ。余計な事、言うべきじゃなかったかも……)」
刀娘「(あの島に何があったっけ……えーと……)」
刀娘「そ、そう!その島には、竜が居たよ…!………多分」
男「竜…?」
刀娘「う、うん……」
男「何でそれを知ってるんだ?」
刀娘「(あわわわ……)」
刀娘「う、噂で……」
男「噂ぁ?胡散臭い―――
妖狐「いい加減にせんかっ!」ベシッ
男「痛っ、なんだよ……」
妖狐「まだ年端も行かぬおなごに、お主は……」
妖狐「情けない姿を見せるな」
男「それは、仕方無いだろ」
妖狐「どうせ目的地はお主にも決められんじゃろうが!」
妖狐「だったら、刀娘が言った島でよい」
男「でも、危険だったら―――
妖狐「行ってみん事にはわからんじゃろう。往生際が悪いぞ」
男「っ…わかったよ。行けばいいんだろ!」
妖狐「何を拗ねておる。幼稚じゃな」
男「拗ねてなんかねーし!」
妖狐「そういうところじゃよ。とっとと刀娘に謝らんか」
刀娘「わ、私は―――
男「……悪かったよ。ちょっと強く言い過ぎた。……ごめん」
刀娘「う、うん……」
妖狐「ほぅ、素直じゃな。褒美に撫でてやろうか?」
男「このっ!」グイッ
妖狐「い"っ!?…尾を引っ張るな!!」
男「…ありがとな」ボソ
妖狐「あぁん?何て言ったか聞こえんかったわ」
男「尻尾の毛を抜き取って枕にするぞ」
妖狐「その時はお主を炭にでもして、鶏の炭火焼きでも作るかのぅ?」
男「残念、俺は炎に耐性があるんだよ」
妖狐「はぁ?その耐性とやらを上回る炎で焼いてくれるわ。舐めるな」
男「《炎粉》」ボッ
妖狐「熱っあっっっつぅ!!」ジタバタ
男「ははっ、お前は効くんだな」
妖狐「当たり前じゃろ!常時耐性がある訳では無いわ!」
男「え…?オンオフ切り替えられるの?」
妖狐「むしろ、お主は常時そのままなのか」
男「特に気にしたこと無かったな」
妖狐「その状態、疲れはせんか?」
男「最近妙に疲れるのって……」
妖狐「まさに原因はそれじゃろうな」
妖狐「暇な時に調節の仕方を、このわしが教えてやろう」フンス
男「はいはい。それで?」
妖狐「体が慣れてきたんじゃろ。本来のわしの魔力を受け継ぎつつある」
男「あっ、じゃあようやくお前の《火炎》とか出せたり?」
妖狐「戯け、ホイホイ出されてたまるか。そんなに濃くは継いでおらん」
妖狐「じゃが…工夫次第では、新しい使い方も出来るやもしれんの」
男「新しい使い方…?なんだよそれ」
妖狐「それは自分で考える事じゃな」
男「ケチなバァさんだな」ボソ
妖狐「そうじゃな、こうやって…使うんじゃよ!」ドスッ
男「お"っふ……ん?なん―――――あ"ばーー!!」ボンッ
>妖狐が殴った腹の辺りが時間差で爆発する
妖狐「触れた所に魔力を留まらせ、任意の瞬間に起動し、炎を弾けさせる」
妖狐「まっ、時限爆弾みたいなもんじゃな」
男「お、お前…俺じゃなきゃタダじゃ済まなかったぞ!」
妖狐「お主だからしたんじゃよ」
男「魔力を留まらせる、か」
妖狐「勿論、距離に制限はあるし対象に一度触れなければならん」
男「覚えておこう。他には―――
妖狐「そうじゃな、ではこんなのは―――
騎士「仲直りしてますね……」
猫神「見てて飽きないよね」
刀娘「よ、良かったぁ……」
―――
――
―
皆さんいつもレスありがとうございます
今日はここで終わりますありがとうございました!
―澄火島―
男「ここ、か……」
妖狐「ふむ……」
猫神「あ、暑いぃ!」
騎士「暑いですねぇ」
刀娘「うん……暑い」
猫神「すっごい汗が垂れてくるよぅ……」
猫神「男くんと妖狐ちゃんは暑くないの?」
男「暑いけど、まだ耐えられる」
妖狐「わしも同意じゃな」
騎士「羨ましいです……」
猫神「…この島、飛ばしていかない?」
刀娘「ダメ、です」
猫神「わ、わかったよ…刀娘ちゃんそんなに睨まないで……」
男「騎士さん、何か扇ぐもの持ってない?」
騎士「そう言われましても……こんな物しか」スッ
男「持ってんのかい。なんだコレは」
騎士「扇子と言う物らしいです。丁度今みたいに暑い状況で使うと聞きました」
男「もしかして、トウケン街で買ったの?」
騎士「その通り。なんでも、トウケン街は西の大地に近いからか、北の大地では珍しい物が色々と入ってくるらしいですよ」
男「なるほどなぁ。それで、どうやって使うんだ?」
騎士「こうやって…ぐいっと横に広げるんです」
男「すげぇ!開いた!」
騎士「そして、こうっ」パタパタ
男「あぁー、涼しぃ!」
妖狐「…はよ。早ぅわしも扇げ」
男「ったく、偉そうな狐だな。騎士さん、少し借りても?」
騎士「えぇ、勿論。どうぞ」スッ
男「ほら」パタパタ
妖狐「ほぅ……これはよいわ」
猫神「アタシもぉ……」
男「はいはい」パタパタ
猫神「あー、涼し―――くないっ!空気が温いから結局暑い!」
男「それはこの島に言ってくれ」
騎士「(男さんと猫神さん、少し壁を感じて心配していましたが……必要ありませんでしたかね)」
刀娘「暑いね…暑すぎる程に」
刀娘「(…何でこんなに暑いんだろう。気温が高いとは聞いてたけど……)」
男「この島に、竜なんかいるのか?」
刀娘「多分……」
妖狐「居るのは構わんが、面倒事はごめんじゃぞ?」
騎士「面倒事…かはわかりませんが、その竜さんに少し聞きたい事が、私はあります」
男「聞きたい事…?」
騎士「はい。主に西の大地の…なんですけど」
騎士「氷飛竜さんが渡してくれた地図…どうも南の大地に行くルートが遠回りに見えるんです」
騎士「なので、短縮出来ないかなぁと」
妖狐「まぁ、早いに越したことは無いしの」
猫神「でもさー、都合良くその竜が教えてくれるのかな?」
男「…氷飛竜みたいな奴だったら助かるんだけどな」
刀娘「竜、かぁ……」
男「おっ…?あそこ、なんだか不自然に空いてるな」
騎士「洞窟…ですかね」
妖狐「行ってみるか」
――
コツ コツ コツ コツ…
男「お、おぉ…すげえぇ……」
騎士「な、なんですか、ここは……」
妖狐「上を見よ。空が見えるぞ」
猫神「吹き抜けになってるんだね」
刀娘「螺旋状に道が壁にくっ着いてる……」
「おや?これは珍しい。久しぶりのお客さんだ」
騎士「こん、にちは……」
「こんにちは。初めまして、そしていらっしゃい」
猫神「あれ…?もしかして、‘‘鳥人族’’の人?」
「そうです。よくわかりましたね」
刀娘「鳥人族…?」
「はい。私達、鳥人族は人間と殆ど変わりませんが、一つだけ大きな特徴があります」
「その特徴とは、この腕の翼と背中の小さな翼です」
男「ほぉ……猫神も、良くわかったな」
猫神「アタシの仲間にも居たのよ。主に連絡系についてたけど」
「その方の言う通り、私達の仕事はそういうものが多いですね」
「それで、どの様な御用件でしょうか?」
男「えと、変な事聞きますけど…竜とかってこの島に居ますか…?」
「…よくお知りですね。もしや炎飛竜様のご加護を聞きつけて?」
妖狐「え、炎飛竜?」
「炎飛竜様は、私達にご加護を下さるお方ですよ。この翼も、そのご加護によるものなのです」
男「翼を生やしてくれるのか」
「私達一族は成人すると、ご加護を受けに儀式を行うのですが、旅人となると……」
妖狐「その加護とやらはこの際どうでもよい。炎飛竜が居る場を教えてはくれぬか」
「炎飛竜様はこの村の内周から頂上まで登り、そこから少しばかり吊橋を歩いた先に塔があるのですが、その頂きに居られます」
男「また塔かよ……」
妖狐「仕方が無い、登るしか……」
「行くのであれば、一つだけ助言を。腕利きの者が数人居てようやく辿り着ける程度には大変ですよ」
「理由は単純に、儀式の為の罠です。本来は成人直前の者が一人で苦難を乗り超え、ご加護を戴くと言う物なのですが」
「あまりにも危険すぎると判断し、護衛として腕利きの者を数人つかせるようになりました」
「一応、罠は塔の内部及び外壁だけです」
騎士「なるほど…成人直前と言えど、まだ子供ですしね」
男「その罠って、ぶっ壊しても?」
「えぇ、壊せるなら是非とも。私達にとっても邪魔ですしね」
猫神「え?キミ達が作ったんじゃないの?」
「いえいえ、あの罠を作られたのはご先祖です。まったく、何度行っても生きた気がしない物ばかりですよ……」
男「了解、それが聞けて助かった」
「あっ、少しそこでお待ちください」
>数分も経たぬうちに鳥人が戻った
「これをどうぞ」
男「水…?」
「えぇ。炎飛竜様の所へ近づくと更に暑いですからね」
「この水は少し特別で…飲むと少しの間、暑さを和らげてくれますよ」
「それと、今の炎飛竜様には気をつけた方が良いです」
騎士「それはまた、どうしてです…?」
「炎飛竜様…今は、すごーーく機嫌が悪いのです」
「それはもう、一つの島を数秒で焦土に変える程には」
妖狐「おっかな過ぎじゃろ……」
「なんでも、頼んだ物が来ないとかなんとか」
「私達の推測によると、冷菓子かなと」
妖狐「冷菓子?」
「はい。その名の通り、冷たいお菓子ですね。シャリシャリしていたりと」
妖狐「……ごくり」
「定期的に氷飛竜様がお持ち下さっていたのですが……」
「最近、それが途切れていまして」
男「氷飛竜…?」
妖狐「それ、もしやわしらのせいじゃ……」
騎士「…その事情も含めて、やはり会いに行った方が良いかもしれませんね」
猫神「氷飛竜のデリバリーサービスって……」
「保冷しつつ運ぶのはそれなりの物が必要ですが、氷飛竜様は簡単と仰っていました」
男「氷の魔術が得意そうだったし、そりゃそうか」
妖狐「飛ぶ冷凍庫じゃな」
「そういう訳でして、炎飛竜様はとても気分屋なのです」
騎士「色々とありがとうございます。もう一つだけいいですか?」
「一つと言わず、いくらでも構いませんよ」
騎士「では…どこかで食べ物、もしくは食材を売ってる場所とかってありますかね…?」
男「あっ…と、ついでに宿とか……」
「どちらもありますよ。多分登っている間にわかると思いますが、先に炎飛竜様の所へ行くのでしたら、帰ってきてからでも案内を致しましょうか?」
騎士「おぉ…それは助かります。是非お願いします」
「わかりました。私は入り口の横の部屋に居ますので、帰られたら声をかけてください」
騎士「わかりました」
「それでは、お気をつけて」ペコ
――
―
男「良い人だったな」
妖狐「うむ。わしらは身元もわからん奴らじゃと言うのにな」
騎士「ですねぇ……」
猫神「それじゃ、炎飛竜の所に行こうか」
刀娘「この高さを登らなきゃだけどね……」
妖狐「…一体どれくらいの高さがあるんじゃろうか」
男「考えても仕方が無い。さっさと登ろう」
――
妖狐「あ"あ"あ"ぁ……足腰に響くぅ……」ヨタヨタ
男「お婆ちゃん、手を引いてあげようか?」
妖狐「婆さんでは無いわ!…全く年寄り扱いしおって……」
男「妖狐、こうやって直立しつつ重心を前にして体を倒してみ?」
妖狐「なんじゃ……わっとと」ヨロッ
男「これなら嫌でも足が前に出るぞ」
妖狐「くっっっだらん!わしの期待を十倍にして返せ」
妖狐「はぁ……」ゴソゴソ
男「ん…?」
妖狐「あむっ…あぁ、美味いわぁ」ニヘラ
男「何食ってんだ?」
妖狐「アメじゃ」
男「やっぱりお婆ちゃんだなぁ」
男「俺の住んでたご近所さんに、いつもアメを持ち歩いてるお年寄りが居て、会う度に『アメちゃん食べるかい?』って言われたもんだ」
妖狐「ーっ!煩いわっ!」
妖狐「だぁーもう!お主のせいでアメが溶けていたではないか!」
男「それは俺のせいじゃないだろ!」
妖狐「いいやお主が暑苦しいからじゃ」
男「お前だって炎を出すんだから暑いだろ」
妖狐「わしは熱いかもしれんが、暑くは無い」
男「屁理屈こねやがって」
猫神「(あんまり意味は変わらないんじゃないかなぁ)」
騎士「そ、そろそろ頂上につきますよ!」
刀娘「やっとだね」
―――
男「高っっ!!」
妖狐「落ちたら即死じゃろうな」
騎士「風で揺れるし、怖いですね……」
猫神「早く渡ろうよー……」
刀娘「…っ」コクコク
ギシ ギシ ギシ…
猫神「男くん、止まって!」
男「なん―――
>踏もうとした足場が抜け落ちる
男「ほわぁぁぁ!?」ズテッ
猫神「男くんの後ろに居て良かった……」
妖狐「なんじゃこの罠は……完全に殺しに来てるのぅ」
騎士「どうかしましたか?」
男「な、なんでもない!」
男「(慌てて尻もちついてしまった)」
男「(騎士さんが最後尾に居て助かった……流石にあんな情けない姿は見せられないからな)」
猫神「大丈夫、男くんはもう情けない姿を晒しまくってるから今更だよ」
男「心を読むなよ!」
妖狐「後ろがつっかえておる、さっさと進まんか」
男「へいへ――― ズボッ
>再度足場が抜け落ち、片足が空中に沈む
猫神「大丈夫?」グイッ
男「もうやだ……」
猫神「アタシが前を歩こうか?」
男「頼む……」
猫神「はいよー」
ギシ ギシ ギシ…
猫神「あ、ここ抜けるから気をつけてね」
男「えっ――― ズボッ
猫神「ごめん、遅かったね」グイッ
男「…死ぬ。渡り切る前に死ぬ」
男「猫神は何で罠の位置がわかるんだ?」
猫神「んーと、木は全部同じだと思うけど…この繋いでるロープ」
猫神「この一つ一つ繋がってるロープが若干違うものがあるのよ」
男「俺には全て同じに見えるんだが……」
猫神「うーん、後は…目が良いから、かな?」
男「なる、ほど…?な……」
猫神「あ、ここ抜けるよ」
男「でもいくら目が良くても――― ズボッ
猫神「がんばれ」グイッ
男「…うん……」
妖狐「何度落ちるつもりじゃ。学習せい」ゲシッ
男「そう言うなら、お前が前に行けよ」
妖狐「お主は、か弱いおなごに危険な前を歩けと?」
男「猫神も女の子だと思うぞ」
妖狐「あの脳筋は大丈夫じゃろ」
猫神「妖狐ちゃん聞こえてるよー」
妖狐「ほれ、わしの前を歩き全ての罠を踏み抜け」
男「死ぬって!」
妖狐「冗談じゃよ。雄が喚きおって情けないのぅ」
男「この野郎……」
妖狐「なんじゃ、やるか?」
男「おぅやってやろう―――
刀娘「揺らさないで!」ギロッ
男「…はい」
妖狐「う、うむ……」
騎士「(…確か、罠は塔だけと聞きましたが……)」
騎士「(それに、この抜け落ちた罠があった場所のロープ……)」
騎士「(まるで、何かに焼き切られた様な……)」
刀娘「騎士さん…?」
騎士「あ、すみません。進みましょうか」
―――
――
―
― 並び順 ―
騎士 刀娘 妖狐 猫神 男 →進行方向
↓
騎士 刀娘 男 妖狐 猫神 →進行方向
― 地 図 ―
の道 決意と諦念の吊橋 緋塔
状
螺旋 崖 崖
鳥人の村 崖 崖
今日はここで終わります、ありがとうございました
― 緋塔 ―
男「扉は…開いてるな」
騎士「きっと、開けていても辿り着けないだろうと言う事なのでしょうか」
猫神「ま、五人も居れば何とかなるでしょ」
妖狐「そうじゃな。炎飛竜…マトモな奴ならいいんじゃがのぅ……」
騎士「…どうでしょうかね」
――
>中は鳥人の村と同じく螺旋状に道が上へと続く
>周囲の壁が紅く煌めき 熱気が覆い尽くす塔―――【緋塔】
男「この塔も罠があるんだったよな」
騎士「そう聞きましたが……」
男「道は…ひとまず真っ直ぐ突き当りまで行かなきゃいけないな」
猫神「そこから上に登れるみたいだね」
男「じゃ、行きますか―――
妖狐「っ!」グイッ
男「うおっ!?」
ヒュヒュッ
>男が居た場所を数本の矢が通過する
男「な、なんだ!?」
猫神「矢…だね。それも燃えてる」
妖狐「音を聴き 咄嗟にお主を引っ張ったが……もう少し近ければ間に合わんかったぞ」
男「何かしらの範囲に入ると起動する罠か……」
妖狐「その様じゃな」ボシュッ
バキィッ
>木製の罠に妖狐の《火炎》が当たり、音を立て崩れる
妖狐「ふん、姑息な物を作りおって」
男「見つけ次第、全部壊して行くか」
騎士「見た感じ木製っぽいですけど、人を感知したりするんですねぇ……」
猫神「もしかしたら、器だけ普通の素材で、中身は魔術を使ってるのかも」
男「どういう事だ?」
猫神「例えばさっきの罠……矢が飛んで来たよね」
猫神「つまり、矢を収納する物は普通の素材」
猫神「そこから、対象を感知し矢を発射するのは魔術が絡んでるんじゃないかな」
男「妖狐より頭が良いな」
妖狐「わしだって知っておったわ!」
男「ホントかよ」
妖狐「ま、魔術が絡んでるんじゃないかナーとは思っておったわ、うん……」
猫神「魔術が絡んでるとなると、人を感知どころか魔力自体を感知したり―――
ボォォォォッ
>突然炎が男に吹きかけられる
男「熱っっ!あつっっ」
妖狐「ど、どこからじゃ!?」
騎士「入り口の扉の上です!!」
刀娘「っ!」タンッ
バキィッ
>刀娘が軽く飛び、扉の真上に設置されていた罠を刀の鞘で破壊する
男「入り口でコレとか勘弁してくれよ……」
妖狐「どうせなら、罠の位置とか聞いておくべきじゃったな」
騎士「この塔は吹き抜けでは無いのが厄介ですね」
猫神「階によって色んな罠とか仕掛けられてそうだよねぇ」
男「暑さと相まってイライラするな……」
妖狐「暑さと言えば、あの水を飲んでみんか?」
騎士「飲んでみますか。皆さんどうぞ」ススッ
猫神「騎士くんありがと。見た目は普通の水っぽいね」
男「だなぁ……本当にこんな水が――― ゴクッ
妖狐「どうした…?」
男「冷たい……」
妖狐「なんじゃと?こんな暑い中、冷たいのか」クルクル
妖狐「んっ……」ゴク…
妖狐「おぉ、本当じゃわ……」
猫神「……もしかして、これも魔術なのかな」
騎士「わかりませんが…ありがたく頂いておきましょう」
刀娘「うん」
――
男「結構登ったな」
妖狐「何度も鬱陶しい罠を仕掛けおって」
騎士「底が抜ける罠は本気で死ぬかと思いました……」
猫神「刀娘ちゃんが咄嗟に掴まってくれなきゃみんな落ちてたねぇ……」
刀娘「もうそろそろ、頂上かな…?」
男「多分、な。こんな暑い所に居る炎飛竜とやらを拝みに行こうぜ」
― 緋塔 頂 ―
コツ…
コツ
コツ
男「出たー!空だ!」
妖狐「あ"ぁ"…もう動けん……」ヘナヘナ
騎士「着きましたね……」
猫神「頂上……んにゃ…?」ジー
刀娘「どうした、の…?」
猫神「あの熱気でモヤモヤした向こうに、何か居る……」
「ほぅ……我に気づくとは。伊達にこの塔を登ってきた訳では無いと言う事か」
シュゥゥ…
>辺りにかかっていたモヤが晴れて大きな竜が姿を表す
>体表が紅い鱗で覆われ 大きく長い尾 横長に広がる翼 そして特徴的なのが常に燃えている角―――
男「…お前が 炎飛竜か?」
炎飛竜「そうだ。して、貴様らは何用でここに来た?」
騎士「えぇと…まず謝らなければならない事がありまして……」
炎飛竜「ほぅ…言ってみよ」
騎士「氷飛竜さんがここ数日来ないのは、その……私達のせいなんです」
炎飛竜「なんだと…?」ボォッ
男「(やばいって、角がすんげぇ激しく燃えてる)」
騎士「えと、あの…ひえぇ……男さぁん!」チラッ
男「(俺に振るなよ! 見てる!炎飛竜がこっち見てる!)」
男「そのぅ……とある事情で氷飛竜さんに助けられまして……」
男「その後、軽い頼み事を……」
男「いえ、正確には 氷飛竜さんが自らやって下さると言ったのですが……」
炎飛竜「……」
男「それで、………やだ、助けて妖狐……」チラッ
妖狐「仕方の無い奴じゃな」
妖狐「炎飛竜とやら。氷飛竜が何か其方に持ってきていたそうだな?」
妖狐「そのブツ、今しがた少し待たれよ」
炎飛竜「……貴様らの言いたい事は理解した。事情があったのだろう」
男「そ、そうなんですよぉ……」ホッ
炎飛竜「しかし―――
男「ん…?」
炎飛竜「それは我の知った事では 無いッ!!」ボォッ
男「(全然理解してねぇ!)」
>足元から火柱が吹き出し 囲まれ
>俺と騎士 妖狐と猫神と刀娘が火柱でそれぞれ一組になって分けられる
男「どう言うつもりだ」
炎飛竜「何… 少しばかりの余興だ」
炎飛竜「貴様らのせいで遅れているのだろう?なら、その埋め合わせはして貰わないとな」
男「俺達を閉じ込めて、何をさせる気だ」
炎飛竜「貴様らで互いを殺し合え」
騎士「なん、ですって……」
男「そんなこと―――
炎飛竜「出来ぬと言うのであれば……そこの者共を代わりに葬る」
男「なるほど。分けたのはそういう事か」
炎飛竜「手加減しよう等と無駄な事は考えるな?その時点で灰に―――
男「っ!」ダンッ
>炎飛竜が言葉を言い終わる前に俺は駆け出す
>互いに殺し合えだと?ふざけやがって
男「っ…らァッ!」ブンッ
>焔壊の剣を握り締め 炎飛竜を垂直に斬る
ギャリリッ
男「んなっ―――
炎飛竜「無駄だ。我の鱗を通す物はそうは無い」ヒュッ
>手応えの無い音を聞きつつ 炎飛竜の尾で弾き飛ばされる
ズザザザッ
騎士「男さん!!」
男「なんつー硬さだ……」ヨロ
ボゥッ
猫神「ひっ…い"…あ"ぁ……げほっ……」
刀娘「猫神さん…!」
妖狐「ちっ……」ゴソゴソ
>後ろを振り返ると 小さな悲鳴を上げ体が炎に包まれる猫神が見える
騎士「猫神、さん……」グッ
バシャッ
妖狐「大丈夫か、猫神よ」
猫神「う、ん……はぁ…はァ……」
炎飛竜「ふむ……あの水で炎を消したか。まぁよい」
炎飛竜「貴様らがなかなか始めんのでな」
男「っ……このクソ竜が……」ギリッ
騎士「…男…さん」
>何かを覚悟した目で騎士がこちらを見つめる
男「お、おい 騎士、さん……」
騎士「…やるしか 無いんです」スッ
男「ちょっ、それ―――
>いつの間にか腰から落としていた魂刀を騎士が拾い上げ―――構える
騎士「男さんと槍で闘えば、間違い無く負けます」
騎士「なので…少しの間、借りますね」スチャ
男「本気なのか…?」
騎士「えぇ。少なくとも やらなければ猫神さん達が―――
男「…わかった。受けよう」カチャ
>焔壊の剣を再度、握り締めながら 必死に打開策を考える
>騎士さんの目…… あれは本気で相手を斃そうとする目だ
男「(どうにかして、妖狐達を脱出させる事が出来れば……)」ジリ
騎士「……」ジリ
>互いに距離を取りつつ 出方を伺う
>ボンッと火柱が音を立てたのを合図かの様に騎士が飛び出す
男「(どう来る…?)」
男「(思えば、騎士さんと本気で殺り合った事は一度も無かったな)」
>騎士が右腕を後ろに引き、左足に全体重をかけ踏み込む―――単純ながら しかし出が早く油断すると一瞬で貫かれる技―――
>これは騎士の得意とする《閃突》だ
男「(嘘だろ……刀で出来るのかよ!)」
男「(いや、そういや闘技大会で刀娘が使ってたな……)」タンッ
>俺は右足で地を蹴り躱しつつ 体勢を横にし 騎士の側面に回り込む
騎士「避けられるとわかってました!」クイッ
>しかし騎士は動きを予想し腕を伸ばしきらず 俺の方向へ水平斬りを放つ
ギィンッ
男「っぶねぇ!」バッ
>騎士の攻撃を剣で受け、素早く後方に移動し距離を取る
男「(刀娘といい騎士といい フェイントが上手いな……)」
騎士「咄嗟の判断力…流石男さんですね」
男「そりゃどうも」
男「(たまたま剣が上半身の位置にあったから防げたんだけどな……)」
>これまで幾度となく剣を振るい 敵を斃してきた
>だが、俺は騎士さんより圧倒的に足りない物がある―――
>それは対人戦の経験だ
>俺が戦って来た相手は、こちらを殺すと言う殺意の意思のみの相手ばかりだった
>思考が単純 相手が上に手や武器を構えれば 予想通りそのまま振り下ろす その単純さ故に俺はギリギリ勝てていた
>しかし、相手がこちらの思考や動きを読み 裏をかいて来ると言うのにそもそも慣れていない
>闘技大会では、今までの経験のお陰か ゴリ押しでも何とかなった
>だが、やはり刀娘の《燕返し》なるフェイント技に俺はまんまとハマってしまった
男「(騎士さんは騎士団に配属されてたらしいな)」
男「(日頃から鍛錬をし、対人戦も訓練済だろう)」
男「(俺が騎士さんに勝つには、騎士さんが扱えず、俺だけが扱える物を使うしか無い)」
男「っは!」ボシュゥッ
>俺は騎士に目がけて《炎粉》を放ち 更に前へ駆け出す
>現状で、騎士さんが扱えず俺だけが扱える物は―――魔術だけだ
騎士「っ!」バッ
男「そう避けると思ってたぜ…!」ググッ
>少し右寄りに放った《炎粉》を避ける為、騎士が左に飛び 避けるのは予想していた
>何故なら 俺が対人戦に慣れていないのと同じく 騎士もまた 魔術と言うものに余り慣れていない
>だとするなら どれくらい自分の体で受けられるかよりも、躱す方が手っ取り早いからだ
男「おぉっ…ぉ!!」ビュンッ
>剣を持つ右手を目一杯、体の左側後方に引き そこから水平斬り、更に垂直斬りをし十字を描く二連撃技《桜架》を騎士に当てる
騎士「ぐっ……!」
―
妖狐「あ奴ら……本気でやりおって…!」ギュッ
妖狐「(この火柱、流石炎飛竜と言える)」
妖狐「(わしの耐性を持ってしても、通れん……)」
妖狐「(また わしは足手まといになるのか……)」
刀娘「…ここを出られさえすれば……」
妖狐「無理じゃ。猫神も動けん今、下手な事をすると―――
刀娘「わかってるよ! でも… やだよ……」
妖狐「……」
―
ドシャァッ
男「ダメだ、入りが浅い…!」
騎士「はぁ……はぁ……」ヨロ
騎士「(男さん、私を殺すつもりで……)」
騎士「(良かった…手加減していたらこちらが本気で倒しに行くつもりでしたが……)」
騎士「(アナタになら 任せられますね)」
騎士「はぁぁっ…!!」ダンッ
>騎士が飛び込んで来る
男「おォォ…!!」ボゥッ
>覚悟を決め 《炎装》で剣に炎を纏う……手加減をすると炎飛竜にバレかねん
>そして…騎士さんなら 妖狐達をきっと守ってくれる筈だ
男「おおぉぉぉッッ!!」ダンッ
>俺と騎士の剣と刀が交わろうとした刹那―――
ズバンッッ
>空から炎を纏った斬撃らしきモノが俺と騎士の武器を弾き飛ばした
男「な…にが……」
騎士「なん、です……」
炎飛竜「なんだ…?」
>炎飛竜も俺達と同じく状況が飲み込めていないらしい
>なら、あの斬撃は一体―――
ヒュ
ゥ
ゥ
ゥ
ズダンッ
>ローブを棚引かせ、先程の斬撃の主が空から降りてくる
>見上げると、空に竜らしきものも見える
「ギリギリ 間に合った、かな」
「ん?刀娘……お前、やっぱり生きてたんだな……」
「一緒に居るとは思わなかったが…むしろ、一緒の方が安全か」
「ふぅむ……しかしこうして見ると、やっぱ猫神寄りだなぁ」
「でも、良かった……本当に……」
>鼻声でローブの者が呟く
男「アンタ、誰だ?」
「うっわー、その無愛想な訪ね方 流石俺だなぁ」
男「はぁ?」
>外見は 俺よりほんの少し背が高いくらいか? 性別は声を聞く感じ、男性だろう
>妖狐がよく羽織っている物と似た様なローブ
>少し長めの前髪に紅い髪留め、首元にはスカーフを巻き
>腰辺りに着物か袴の様な紅い物を巻き付け、チラリと見える後ろ側には、獣毛の様な物を携えている
「炎飛竜の所へ向かったって聞いて、まさかとは思ったが」
「やっぱりくだらねぇ事してたな。クソ竜」
炎飛竜「貴様は…何者だ」
「答える義理は無ぇよ」
炎飛竜「ほぅ…なら、答えなかった事を その身を持って後悔させてやろうッ!」バサッ
「上空から炎を撒き散らすんだろ。わかりきってんだよ―――《炎狐》!」ボゥッ
>ローブ男の手からいくつもの大きな炎が炎飛竜に向かって放たれる
>その炎は狐の様な頭に似た形に変化し まるで生きているかの様に動き回る
炎飛竜「ぐっぉっ!馬鹿な……炎で我が傷を…!?」
「お前は、己が強すぎて 暇だと言っていたな」
「なら、もう一度そのくだらねぇ根性を叩き直してやるよ」ズダンッ
>ローブ男が 地を蹴る音と共に辛うじて目で追える程に早い速度で炎飛竜に駆け出す
「《炎装》……」ボゥッ!!
炎飛竜「無駄だ…!我にそんな小物―――
「うるせぇよ」ヒュッ
ズバァンッッ
>弾ける様な音の後 ようやくその場所が水平に斬り裂かれているのが見える
炎飛竜「な、ん…だと……」ズドンッ
「俺は全ての想いを背負って、ここに立っている」
「心を入れ替えていないお前なんかに、俺は絶対負けない」
>落下し 地を震わせ炎飛竜が沈む
「そして やっぱり今のお前は弱いよ」
男「何者なんだ……」
騎士「貴方は…一体……」
>炎飛竜の力が解けたのか 火柱がいつの間にか消えている…
タッタッタ……
妖狐「男よ…無事か…?」グス
男「あ、あぁ……」
妖狐「この…無茶をしおって!戯けっ……」ギュッ
騎士「猫神、さん……大丈夫ですか…?」
猫神「うん…妖狐ちゃんが咄嗟に水をかけてくれたお陰で……」
「…懐かしいな」ボソッ
男「…?」
「妖狐……少しだけ…………」スッ
「……いや、ここには男が居るんだったな」
「男 お前は、俺が護れなかった者を今度こそ護りきれ」
男「お、おぅ」
妖狐「其方よ、助かったぞ。世話になったな」
猫神「……」
「…その顔が見れただけで、俺は頑張れるよ」
妖狐「む…?そうか…?」
猫神「ねぇ そのローブ……やっぱり、よく見たら妖狐ちゃんのと同じのじゃない?」
猫神「その髪留めも、アタシのと似てるし」
猫神「もしアタシの髪留めなら、オーダーメイドだから この世に一つしか無い筈なんだけど」
男「なに…?」
騎士「どういう、事です…?」
刀娘「一体…誰、なの?」
「…お前はいつも鋭いな、猫神」
猫神「んにゃ?なんで、アタシの名を知ってるの…?」
「さぁな。…そろそろ俺は行くよ」
「とっととアイツを見つけ出して、協力してもらわなきゃならない」
「あっ、ところで騎士さん」
騎士「は、はい」
「騎士さんって、まだ中に誰も居ないよな?」
騎士「中…?いえ、何も持ってはいませんが……」
「だと思った。あの時は騎士さん相当強くて手こずったのになぁ」
「今のノーマルな騎士さんとだなんて、お前は運が良いよ」
男「何を言ってるんだ?」
「地図貸して」
騎士「どうぞ……」スッ
「確か…この辺りだったかな。随分と前だから 記憶があやふやになっちまった」カキカキ
「そこの島に次は行け。きっと役に立つ筈だ」
妖狐「何という島なんじゃ」
「それは、行ってからのお楽しみって奴だ」ニッ
猫神「えー、怪しい」
「猫神だって、出会った当初は超怪しかっただろうが!」
猫神「う、うん…?」
「あー、まぁ…そんな訳だ」
「その島に向かった後は、とっとと南の大地を目指せ。まだ間に合う」
妖狐「其方は先程から何を言っておる……」
「モヤモヤするだろうが、いずれ分かる。今は気にしないでくれ」
「おい炎飛竜、起きてんだろう」
炎飛竜「……ふん 話の邪魔をしても構わなかったのか?」
「お前も素直じゃねぇな。とっとと力つけて来い」
「そうだ。お前は俺よりずっと強い筈だからな」
炎飛竜「貴様…本当に何者なのだ」
「さっきも言ったが、いずれ分かる」
「今お前らに干渉し過ぎるとマズイんだ」
「まっ、ここに来たのは状況確認の為だな」
「っと、そろそろ行くわ。おーいっ」
バサッバサッ…
「妖狐……それに皆の顔が見れて嬉しかったよ。またな」タンッ
>そう言うとローブ男は、金色をした竜らしきモノに乗って飛び去って行った
男「何だったんだ……」
騎士「わかりませんが……相当お強い方でしたね」
妖狐「わしらを知っておったみたいじゃったな」
猫神「…本当に誰なんだろう」
刀娘「顔もはっきり見えなかったね……」
―――
――
―
今日はここで終わります ありがとうございました
地の文多くて読みにくいかもしれません
>>284の地図は 自分でも数分思い出せ無かったんですけど、多分これは島を横から見た感じです
>炎飛竜さんの一件は 何とか無事で済み、鳥人族の方達に挨拶をし 謎のローブさんに言われた島へ今は向かっています
>…綺麗な海原ですね 青い水面が太陽の光を反射してキラキラと輝いています
>……おや? 大きな話し声が聞こえますねぇ
騎士「猫神さん、舵をお願いしても良いですか?」
猫神「はいほい、任せてー」
騎士「ありがとうございます」
>私は猫神さんに船の舵を任せ 声のする方へ向かう
>私一人では大変だと、皆さんが気を遣ってくださって 今は猫神さんと男さんと私の三人 交代で船を動かしています
男「だーかーらー 何でもしてやるって言ってるだろ?」
妖狐「阿呆ぅ! これはそう言うので渡す訳にはいかん!」
>やはり男さんと妖狐さんでしたか……
>飄々とした態度で話しているのは男さん
>黒髪に所々緑がかった部分があり 長さは全体的に短めで整えていて 左右はくせっ毛なのか跳ねている
>身長は私と似て一般より少し高いくらいでしょうか
>その横で小さな両手をぶんぶんと振りながら声を荒げているのは妖狐さん
>淡い金色の髪は腰まであり 前髪の左右を少し長めに伸ばしリボンで結んでいる
>身長は小さく 一言で表すなら子供でしょうか
>私はそれとなく 理由を聞き出します
騎士「まぁまぁ……一体何があったんです?」
妖狐「このド阿呆ぅが、わしの尾の毛をよこせと血迷った事を抜かしおってな」
男「だって、ふわふわのモフモフしてそうじゃん?」
>あぁ…… なるほど、確かに妖狐さんの毛並みは綺麗ですし 一度触らせて頂いた時は思わず感嘆の声が漏れたものです
騎士「妖狐さんの毛って、生えてこないんですか?」
妖狐「其方までわしの毛を狙っておるのか!?」
>狙っては……いえ、頂けるなら欲しいですけども
騎士「そうでは無くて 生えるなら少しくらい男さんに渡してあげても……」
妖狐「生えるには生える―――じゃが、その生えるまでの間 わしに辱めを受けろと?」
男「俺らしか居ないんだし、尻尾が禿ようと大丈夫だって」
妖狐「誰が禿じゃ!!」
騎士「うーん、男さん 毛皮とかならどこかに売ってると思いますよ…?」
男「いやー 妖狐の毛に勝るものは無いよ」
妖狐「ふふん、それ程でもあるのぅ!」
男「よし、刈るか」
妖狐「お主は何を聞いておった」
男「大丈夫!チクッっとするだけだって」
妖狐「そう言う問題では無い!」
男「わかった わかったよ俺の負けだ」
男「半分で妥協する」
妖狐「このっ 全部もぎとるつもりじゃったのか!」ポカッ
男「保温性もあってモフモフな枕作りたいんだ頼むよ、俺の安眠に協力してくれないか」
妖狐「お主の安眠など一生来なくてよいわ!」
男「…ちゃんと寝ないと、肌って荒れるらしい」
妖狐「なに…?」
男「睡眠不足は不健康だし 太るぞ?」
妖狐「ふむ……」
男「そんな時に安眠枕ですよ」
男「毛の枕があれば、あら不思議。お肌ツルッツルで体は快調、ウエストだってくびれちゃいます」
妖狐「ほぅ……」
男「今なら な ん と。妖狐の尻尾が禿げるだけでこのお値段!」
妖狐「……」
男「ぜひこの機会に作ってみちゃいましょう」
妖狐「その枕とやらは 誰が使うんじゃ」
男「もちろん俺―――
妖狐「ふんぬっ」ギチチ
男「痛たた!腕挫十字固めはやめろっ」
妖狐「いいや、やめん!この際 お主にはどちらが上か上下関係をハッキリしておかなければのぉ!」
男「俺が上だろ!」
妖狐「それはこの前まで……じゃぁっ」ギュゥッ
男「折れる!」
妖狐「折る!」
男「折るじゃねぇよ!」
妖狐「なぁに、腕の一本くらい大丈夫じゃろ」
男「俺のこと何だと思ってるんだ」
妖狐「…腕を斬り落とされても這い上がってくる変態」
男「前半はちょっとカッコイイけど最後は許さん」
妖狐「変態を変態と言って何が悪いっ」ギュゥ
男「んなこと知らねーよ!」
妖狐「しらばっくれるな 他の雌を見ては鼻の下伸ばしおって…!」
妖狐「そんなに 胸が大きい雌が好きかぁ!」ギチチ
男「すまん、大きい方が好きです」
妖狐「むぐぐ……」
男「……てか、妬いてるの?」
妖狐「な、なにをじゃ?」
男「いや、俺が他の女の子を見ようがお前にとってはあんまり関係無いだろ?」
男「でもそれを指摘してくるって……俺の事、結構見てるんだな」
妖狐「み、みみみ見てなどおらん!」
妖狐「た、たまたま……目に入っただけじゃ!」
男「ほー」ニヤニヤ
妖狐「その気持ち悪い顔を向けるな」
男「ふーん、そう言うこと言うんだ、へー」
妖狐「なんじゃその目は」
男「んじゃ、今日から別々に寝るか」
妖狐「なっ―――
男「いやー 気づかなくてごめん。俺の顔は気持ち悪いもんな」
男「なら、別々に寝た方が妖狐の為だよな」
妖狐「その…お主はよいのか…?眠る時わしの尾が無くても……」アセアセ
男「まー、お前がそんな風に思ってるとは思わなかったからなぁ」
男「流石に遠慮しておくよ」
妖狐「ぅ……」
男「今日から刀娘と―――ダメだ、初日に寝相悪すぎて首を絞められたんだった」
男「えーと猫神は―――これもダメだ、騎士さんにすげぇ懐いてるんだった……」
妖狐「お主は一人で寝ようとはせんのか」
男「寂しいじゃん」
妖狐「まだまだ子供じゃのぅ」
男「一人の寂しさはお前もわかるだろ?」
妖狐「まぁ…わからんでもないが……」
男「仕方が無い、お前と寝るか」
妖狐「妥協案みたく言われるのは腹が立つんじゃが……」
騎士「(…私の事、もう見えてませんね……)」
騎士「(…毎夜 男さんに抱きついて寝ている妖狐さんも人の事は言えないのでは……)」
>喧嘩する程 仲が良いとはこの事を言うのでしょうね
>お邪魔にならない様に、そっと立ち去りますか……
―――
刀娘「騎士さん 何してるの?」
騎士「私も毛の枕をどうにか――― いえ、海を見ていました」
刀娘「毛…?うみ…?」キョトン
>首を傾げつつ横に立つ方は刀娘さん
>猫神さんと同じく真っ黒に染まった髪 それを左右で束ねて……ツインテールと言う物でしょうか
>出会った当初は くん付けで呼ばれていましたが、何故か今は さん付けになっています
騎士「こほん。刀娘さんは何を…?」
刀娘「ボク―――んん、私は風に当たりに……」
騎士「…?そうですか。見渡す限り海ですけど、これはこれで良いですよね」
刀娘「うんっ」
騎士「刀娘さん、何か思い出しましたか?」
刀娘「……少しだけ」
騎士「宜しければ聞かせては……」
刀娘「……男さんと妖狐さんには、言わない?」
騎士「え、えぇ。その方が良いのでしたら」
>やがて刀娘さんが 悲しそうにボソリ ボソリと話し始めた
刀娘「……逃げてきたんだ」
刀娘「ボクのとっても大切な人達が、命をかけて逃がしてくれたの」
刀娘「ここに来れたのは不幸中の幸いだった」
刀娘「まだその頃は、記憶も僅かにあったけど……右往左往して、気づいたら魂刀を持ってて……」
刀娘「記憶が少し戻ったのは、闘技大会で闘って、何か刺激を受けたみたい」
刀娘「…そんなところかな」
騎士「誰かに追われて居るんですか…?」
刀娘「追われてた、が正しいかな」
刀娘「今は…大丈夫だと思うけど」
騎士「そうですか……それなら安心ですね」ホッ
刀娘「男さんは鋭いから、内緒にしててね?」
騎士「わかりました。約束します」
刀娘「じゃ、私は行くね」
>そう言って、刀娘さんは部屋に戻って行きました
>いつもより少し軽い足取りで……
騎士「さて、そろそろ猫神さんと交代しますかね」
―――
騎士「お待たせしました」
猫神「はいよー、もっと休んでても良かったのに」
騎士「いえ、十分休ませてもらいましたよ」
猫神「にゃふふっ、そっか」
>八重歯を覗かせ微笑んでいるこの方は猫神さん
>黒髪を肩の辺りで切り整え、全体的に丸みを帯びている―――確かボブカットと言いましたか
>身長は私より少し低く 体は外見に似合わず出る所は出、引っ込む所はちゃんと引き締まり
>首元が少し開き 覗けば胸元が見え……大変よろしく無い格好をしている
>決して覗いた訳では無いですよ、信じてください
騎士「猫神さんは部屋に戻って構いませんよ」
猫神「アタシも夜までここに居るよ」
>夜間に船を動かすのは危険で 体を休ませる為にも 夜は全員寝るというルールを皆で決めたんでしたっけ
騎士「ここに居ても暇ですよ?」
猫神「騎士くんと一緒だと暇じゃないよ」
騎士「…?そう、ですか」
猫神「あっ そうだ、肩を揉んであげようかっ?」
騎士「いえ、別に―――
猫神「…アタシじゃ、嫌…?」シュン
騎士「……では、お願いします」
猫神「えへへ… りょうかーいっ」
猫神「もーみもーみ……もーみもみっ」モミモミ
騎士「あの、声に出さなくても……」
猫神「気分だよー おっ、凝ってますねぇ……」
騎士「そうですか?」
猫神「あんな重いの着けてたら、そりゃ凝るよー」
>常時甲冑を着ていましたが、妖狐さんに暑苦しいと言われたので 今は脱ぎ、薄いベストを代わりに着ています
猫神「とーんとん とーんとんっ」トントン
猫神「ぎゅっ…ぎゅぅ……」
騎士「気持ち良いですね……」
猫神「そう…?良かったっ」
>この力の入り具合は猫神さんならでは……ですかね
>妖狐さんに脳筋と言われてましたが、あながち間違ってはいないのかも
騎士「もう構いませんよ、ありがとうございました」
猫神「そか、どういたしましてっ」ススッ
騎士「…あの、何故私の膝の上に…?」
猫神「なんとなーく」
騎士「重いのですが……」
猫神「騎士くーん、女の子に重いは禁句だよー?」
騎士「すみません、ではこのままで良いです……」
猫神「えへへ……」スリスリ
>トアール国での一件以来、妙に懐かれている気がしてなりません
>頭を撫でると目を細め、嬉しそうな顔をするのは もはや猫そのもの
>寝る時も、やけに近いですし……
>あの時 確かに、私はずっと一緒に居るっぽい事を思わず口走ってしまいましたが―――
>あまり私に依存し過ぎるのもどうかと……
猫神「騎士くん、どうしたの?」
騎士「なんでもありませんよ」
猫神「…騎士くんって、その……」
騎士「なんです?」
猫神「す… 好きな 人は…居るのかなぁって」カァァ
>耳まで真っ赤にして 体を強張らせながら聞いてくる……そんなに恥ずかしい質問なのでしょうか
騎士「居ませんよ、今のところは」
猫神「そ… そっかぁ」ホッ
騎士「あ、でも昔は居まし―――
猫神「誰?」ボソ
騎士「ひゃぇっ……」ビクッ
>思わず声を上げそうになる
>先程とは打って変わって、静かに しかし声にはとてつもない力が篭った様に聞こえる
>目を見ると心無しか、瞳の輝きが消えて―――
騎士「いたかなーと思いましたけど、やっぱりいませんでした!」
猫神「そう……」
騎士「……はい」ゴクリ
猫神「にゃふふっ 良かったぁ。居たらどうしようかと思ったにゃん?」ニコッ
>無邪気に笑う その笑顔の奥底に 覗いてはいけない物の片鱗を見た気がしてならない……
騎士「ね、ねね猫神さんは しゅきな人っているんですす?」
>動揺のあまり噛みまくってしまった
猫神「にゃははっ そんなに慌てなくてもいいのに」
猫神「アタシは……騎士くんが好きだよ」
騎士「ありがとうございます。私も猫神さんの事は好きですよ」
猫神「もぅ……そういう意味じゃないのにぃ……」ムスー
―――
男「ごちそうさん」
妖狐「ご馳走様じゃ」
刀娘「ご馳走様……」
猫神「ごちそうさまー」
騎士「お粗末さまでした」
猫神「片付け手伝うよ」スッ
騎士「すみません」
猫神「いいの。気にないで」
妖狐「ふあぁ……美味い飯を食うたら眠気が……」
男「船旅…相当快適だなぁ」
刀娘「すぅ……すぅ……」
男「刀娘はもう寝てるし……」
男「しかし思えば、刀娘は未だに謎が多いな……」
男「(あのローブ男が言っていた、‘‘猫神寄り’’ってのは、多分外見の事だろう)」
男「(だとするなら、刀娘が持っていた いつぞやの写真……あれはやっぱり猫神なのか…?)」
男「(しかし 仮に猫神の子供だとして……いつ産まれたんだ?)」
男「(猫神はずっと俺達と居る……腹が大きくなってたり 何かしらの変化は誰か気づく筈だ)」
男「(それが無いってことは……俺達と合流する前…?)」
男「(でも、猫神が今更そんな嘘つく必要なんてあるのか…?)」
男「(刀娘と猫神を見ていても、普通な感じだし、違和感は無い)」
男「(いや…むしろ長く付き合ってる――― グイッ
男「っと…なんだ?」
妖狐「お主はまた、難しいことを考えておる顔をしておった」
妖狐「眉間にシワが寄るからすぐわかる」
男「寝たんじゃなかったのか」
妖狐「近くで唸られては、寝ようにも寝れん」
男「悪い、俺も寝るか……」
妖狐「…何度も言うが―――
男「わかってるよ、まぁそのうち話す」
妖狐「お主のそのうち とやらは果たしていつになんじゃろうな」
男「…さぁな」
妖狐「……はぁ、寝るぞ。明日はお主が舵を取るんじゃろ?」
男「おっと、そうだった」
―――
騎士「よし…洗い物も終わりましたね」
猫神「騎士くんお疲れさまー」
騎士「猫神さんも、ありがとうございました」
騎士「……」
猫神「どしたの…?」
騎士「…いえ。私達も寝ますか……」
猫神「う、うん」
―――
モゾモゾ…
>目が覚める… 空を見上げると、まだ月が登ったばかりだ
>皆を起こさないよう、窓から射し込む月明かりを頼りに部屋を出る
カチャ…
パタン
―
―
ザザーン
ザザーン……
騎士「……」ボー
>時折 不安になる
>皆と旅をするのは楽しいし ずっと一緒に居たいとも思う
>でも… 私のせいで また誰かが―――
>皆さんは強い 私なんかよりも遥かに
>鳥人の島で、男さんと闘った時…私は男さんに託そうとした
>猫神さんを…皆のことを。
>しかし…男さんの最後のアレも 私を生かそうとした一太刀だった
>私は また大切な友人を失うところだった
>妖狐さんも何だかんだ言って お強い
>魂刀の時だって 私は立ち尽くす事しかできなかった。でも妖狐さんは果敢に立ち向かった
>猫神さんは言わずもがな 刀娘さんも闘技大会での闘いを見る限り、やり合えば私は数分と持たないだろう
>私は怖い 私のせいで 私が弱いばかりに……また失ってしまうのが―――
>お荷物にはなりたくない でも…せめて荷物持ちでも良いから一緒に居たい と言う矛盾した感情がせめぎ合っている
騎士「本当に…このまま一緒に居て、良いのかな―――
猫神「騎士、くん…?」
>寝ぼけた眼を擦りながら猫神さんが側に歩いてくる
騎士「猫神さん…どうしました?」
猫神「騎士くんが居なかったから、何かあったのかなって」
騎士「ご心配をお掛けしてすみま―――むぐっ!?」
>突然猫神さんが手で口を塞いできた
猫神「気にしなくていいの。いつも騎士くんは謝ってばかり」
猫神「少なくともアタシは、迷惑だとは思ってないよ」
騎士「す、すみません……」
猫神「ほらまたぁ」
猫神「どうせなら、お礼の方がアタシは良い」
騎士「えっと…ありがとうございます」
猫神「よしよし」ナデナデ
>温かい手で優しく頭を撫でられる
猫神「騎士くん、たまにこうして夜中に起きてるよね」
騎士「バレてましたか」
猫神「まぁねぇ」
猫神「何か悩み事?」
騎士「……いいえ。何でもありま―――
猫神「ウソ。騎士くん、嘘つく時 決まっていつも首元のスカーフを触るよね」
騎士「っ……」
猫神「アタシには話しにくいこと…?それとも、アタシのことまだ―――
騎士「違います…!」
騎士「猫神さんはもう、私の…私達の仲間です」
騎士「でも、だからこそ 話したくないと言いますか……」
猫神「アタシは騎士くんに、全部話したのになぁ」
騎士「えっ……あぁ、トアール国での……」
騎士「しかし、アレは流れで……」
猫神「ぶー 騎士くん、そんなみみっちいこと言うの?」
騎士「みみっちい……」
猫神「ほらほら、どうせアタシしか居ないんだし 話しちゃいなよぅ」
騎士「…はぁ……猫神さんには敵いませんね」
騎士「私にはね… 昔、親友が居たんです」
猫神「居た…?」
騎士「はい。亡くなっちゃいましたけど」
騎士「その人が、退屈な毎日を過ごしていた私を変えてくれたのです」
騎士「色々な所を冒険しました。森や洞窟、時には崖を登り 時には山に何日も篭ったり」
騎士「私はその人となら どこまでも行けると信じていました。お強かったですし」
騎士「ですが、それも終わりがやって来ました」
騎士「ある日、私達は依頼を受けて とある洞窟に行きました」
騎士「簡単な 知性も無い魔物の討伐依頼です」
騎士「その洞窟は、一度来たことのある場所だったので 私達二人だと難無く抜け出せられるんですけど……」
騎士「目的地に着いたと思いきや、いきなり何かで眠らされまして」
騎士「起きた時には違う場所に連れて行かれ、周りは魔物だらけ」
騎士「ソイツら、なんと猫神さんと同じく会話が出来る奴らでして」
騎士「依頼自体が、そもそもソイツらの仕掛けた罠だったっていう」
騎士「見渡した感じ、一応記憶にある場所だったので どうにかして魔物を欺こうと必死に頭を回転させました」
騎士「そして私達が出した答えが……一人が囮になり、一人が助けを呼びに行くというものです」
騎士「親友が言いました。私の方が強い、だから君は助けを呼んできてって」
騎士「私はそれに頷きました。最低ですよね、私は男なのに……」
騎士「運良く袖に仕込んでおいた隠しナイフで手の縄を切り、お互い顔を見合わせ合図をし 同時に敵に飛び込みました」
騎士「親友が隙を作ってくれ、私は魔物を振り切り 無我夢中で洞窟内を駆け抜けました」
騎士「私は心の何処かで思っていました。きっとあの人なら大丈夫だろうと」
騎士「ですが、現実は非情ですね……」
騎士「助けを連れてきた時には、魔物はおらず 見るも無惨な姿で親友が横たわっていました」
騎士「私は……今も後悔してます」
騎士「何故あの時、一緒に戦わなかったんだ」
騎士「何故親友を逃がしてやらなかった」
騎士「何故、俺なんかが生き残って……彼女が死ななきゃならなかったんだって」
騎士「俺はまだ…何も恩返し出来てないのに……」ポロ…
猫神「……」
騎士「このスカーフ、親友がいつも着けていた物なんです……」
騎士「私の口調も、依頼を受ける時に無愛想に聞こえるから 変えたらって……」
騎士「それがいつの間にか、普通になってしまったんですけど」
騎士「……私は怖いんです」
騎士「私は強くありません。皆さんを守れる力なんて―――
猫神「…自惚れないでよ」
騎士「…え…?」
猫神「自分の身くらい、自分で守れる」
猫神「アタシに限らず、男くん達は強いでしょ」
猫神「それに、騎士くんは弱くない」
猫神「採掘場や魂刀、トアール国の時だって アタシ達には欠かせない存在だったよ」
猫神「その親友の人がどうだったのかは知らないけど」
猫神「悪いのは騎士くんじゃなくて、魔物の方」
猫神「魔物に捕まった時、騎士くんが逃げてその相方が囮になるって お互いが納得したんでしょ?」
騎士「……はい」
猫神「だったら その相方もわかってた筈だよ。それが最善の策だって」
猫神「どうにもならない事は、いくらでもあるよ」
猫神「でも、それを糧にして前に進まなきゃそれこそ その相方さん、無駄死にだよ?」
猫神「きっと騎士くんに、生きて欲しかったから 自ら囮を申し出たんじゃないの」
猫神「騎士くんが居る事で、アタシ達に何が起ころうと それは騎士くんのせいじゃない。起こるべくして起こる事」
猫神「それに、一人で守りきろうなんて無理だよ。無理だったアタシが断言してあげる」
猫神「男くん 隠れてやってるけど、毎日鍛錬してるってアタシ言ったよね」
猫神「妖狐ちゃんだって、力をもっと上手く扱える様に頑張ってる」
猫神「刀娘ちゃんは、たまに男くんと模擬戦をしたり」
猫神「それに比べて、騎士くんは何かした?」
騎士「私は……」
猫神「自分は強くなれないって、どこかで思ってたんじゃないの?」
猫神「そうやってクヨクヨと悩んでる間に、もっと皆は強くなっていくよ」
騎士「じゃぁ……じゃぁ、どうすれば良いんですか!」
騎士「私は…ただの人間ですよ…!男さんや妖狐さんみたく魔術が扱える訳でも無く」
騎士「猫神さんや刀娘さんみたく、並外れた力がある訳でも無い」
騎士「私の取り柄なんて、何が―――
猫神「騎士くん、本当に自分が弱いと思ってるの…?」
騎士「どういう意味ですか」
猫神「鳥人の島で、初めて刀を握ったよね」
騎士「それが…?」
猫神「普通考えてみてよ。一度も使った事が無い武器を、あんなに上手く扱える?」
猫神「男くんだって、刀を使ったのは あくまで魂刀に対抗する為だったし、現にそれ以来 剣を使ってるでしょ?」
騎士「それは そうですけど……」
猫神「アタシや妖狐ちゃん、剣とか全く扱えないからね」
騎士「それは、そうですけど……」
猫神「多分、刀娘ちゃんもイキナリ剣や槍を使えって言われても無理だと思うよ」
猫神「騎士くん 鳥人の島の時、間合いの取り方や攻撃を工夫したり まるで手に馴染んだ物の様に使ってた」
猫神「男くん、最後の方まで本気だったの知ってるよね?」
騎士「え、えぇ」
猫神「男くんが本気を出したって事は、騎士くんを 出さなきゃやられる相手だって思ったからでしょ」
猫神「言っておくけど、騎士くんが弱かったら すぐに決着はついてたよ」
猫神「別に魔術が使えなくたって良いじゃん。騎士くんなりに力をつける方法を一緒に考えようよ」
騎士「私…なりに……」
猫神「例えば、色々な武器を使うとかさ」
猫神「急に武器が変わると、意外と相手はそれにすぐ対応が出来なかったりするよ」
猫神「それが戦闘中ホイホイ変えられるって アタシならなるべく相手にしたくないね」
騎士「なる、ほど……」
猫神「船に、予備に買っておいた武器が色々あるから 今度試してみようよ」
騎士「……」
猫神「騎士くん…?」
騎士「…はは……なんだか、情けない姿を見せてしまいましたね……」
騎士「そうですね……立ち止まってばかりでは、いけませんよね」
騎士「私…皆さんと、一緒に居ても良いんですかね……」
猫神「にゃははっ 居てくれないと色々と困るよー」
猫神「それに、アタシを捨てたら―――
騎士「す、捨てませんよ…!何されるかわかりませんし……」
猫神「その時は 襲っちゃうかもにゃん?」
騎士「冗談に聞こえないんですが……」
猫神「ふふっ……いつもの騎士くんに戻ったね」
騎士「猫神さん……」
猫神「そういえば、ローブくんが言ってた島、騎士くんに何か関係あるかも」
騎士「私に…?」
猫神「うん。あのローブくん、騎士くんを見て言ってたから」
猫神「もしかしたら…凄く体が強くなったり、魔術が使えるようになったり…? にししっ」
騎士「あはは……そんなまさか」
猫神「にゃふっ さ、寝ようか」
猫神「話、聞かせてくれてありがとね」
騎士「いえ、私も話せて少しスッキリしました」
猫神「そっか。良かった」ニコッ
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました
次、そのまさかです
……勘の良い人は好きです
ザザーン
ザザーン…
>平坦な陸のみが続く島
騎士「着きました、か」
男「着いたが……」
妖狐「なんじゃここは?」
猫神「なーんにも無いね」
刀娘「うん……」
男「本当にここだよな?」
騎士「え、えぇ。ローブの人が書き記した所はここの筈です」
騎士「磁針もここを指してますし……」
妖狐「あのローブ……わしらを嵌めおったのか?」
猫神「アタシ達を助けてくれたんだし 嵌める理由は無いと思うけどなぁ」
男「…平坦過ぎて、先が見えるな」
騎士「どうします…?」
男「…とりあえず上陸してみよう」
妖狐「嫌な予感しか、わしはしないんじゃが」
男「じゃあこのまま、無視して先に行くか?」
妖狐「うーむ……」
猫神「よっと」スタッ
騎士「ね、猫神さん!大丈夫なんですか…?」
猫神「うん。下は地面だね」ザッザッ
男「っと……そうみたいだな」ザッザッ
男「一応、何かあった時の為に 一人船を動かせる者が残った方が良いかもな」
妖狐「わしは動かせん。無理じゃな」
刀娘「アタシも……」
騎士「わ、私は…行きます!」
猫神「騎士くんが行くなら アタシも行く」
男「わかった。じゃあ俺が残るよ」
男「何かあったら直ぐに出られるように、準備しておく」
妖狐「…気をつけるんじゃぞ」
男「おう」
騎士「では…行きましょうか」
猫神「うんっ」
刀娘「……」コクッ
ジャリッ ジャリッ ジャリッ……
妖狐「ふむ。丁度、島の中心辺りか…?」
猫神「だとおも―――
>猫神が言葉を言い終わる直前 空気を裂く様な音と共に島の中心から外周に向けて模様が描かれていく
シュババババッッッ
騎士「な、何ですか!?」
猫神「ま、まずい……罠だ」
妖狐「くそぅ、面倒じゃのぉ!」
騎士「ど、どうし―――
>騎士が、ふと足元を見つめ 何かに気づく
>島の中心に居る猫神の足元の地が歪んでいるのに
騎士「猫神さんっ!!」ドンッ
猫神「わっ」ドサッ
>咄嗟に騎士が猫神を押し飛ばしたと同時に ぐわんっと重い音を立て足元の地に穴が開く
バシュンッ
>穴が弾ける様に閉じ 騎士が飲み込まれた
妖狐「なっ……」
猫神「うそ……」ガク
刀娘「騎士、さん……」
猫神「アタシ…自分の身は守れるなんて言っておいて……」
猫神「嫌だよ……私を置いていかないで 騎士くん……」グス
妖狐「……猫神よ どうやら、泣いておる暇はなさそうじゃぞ」チラッ
刀娘「これ、は……」
ベチャ… ベチャ…
>模様から影の様な黒いモノが浮き出、次々と形を変えていく
妖狐「人間…?いや、よく見れば魔物も混ざっておるな」
刀娘「国によく居る、兵士さんの格好に近いかも……」
猫神「……なんだっていいよ」
猫神「とっとと全部殺して、穴を開けなきゃ」
妖狐「な、何を言っておる!先ずは―――
猫神「うるさい!!」
妖狐「っ……」
刀娘「ど、どうしよう妖狐さん……斬っても斬っても 湧いてくるよぉ」ザンッ
妖狐「其方はよくもまぁ、得体の知れんモノを平気で斬れるな……」
刀娘「とりあえず斬っとけってのが、男さんの教えだから……」
妖狐「あ奴は何を教えておるんじゃ……」
ドガッッ
>猫神が地を盛り上げ 影を弾き 潰し 吹き飛ばす
妖狐「雌猫は雌猫で、我を失っておるな」
妖狐「全く世話が焼ける……」
妖狐「刀娘よ 多分男も気づいておるじゃろうが、一応伝えてきてくれんか」
刀娘「わかった」コクッ
タッタッタッ…
妖狐「この魔術……どうやら何度か発動しておる様じゃな」スンスン
妖狐「なかなか大きな術に加えて、わしや猫神でも気づかんとなると 仕掛けた奴は相当な使い手……」
妖狐「中心を避け 周りをあの奇妙な黒い影が囲む……」
妖狐「最初に穴にかからなかろうが、徐々に中心の穴に向かわせる物か……」
妖狐「となると、封じる術かもしれんな」
妖狐「封じる術なら 騎士が生きている可能性も大いにあるのぅ……」
妖狐「さて、暴れておる凶暴な駄々猫を止めに行くとするか―――
――
―
ヒュ
ゥ
ゥ
ゥ
騎士「わわわわっ!?」
>風を切りながら落下する……
騎士「どうにか、受け身の体勢を―――
ズシャァッ
騎士「痛た……」ヨロ
騎士「(なんとか打ち身程度で済みましたか……)」
騎士「暗い……ここは、どこなんですかね……」
コツンッ…
「よぅ、兄ちゃンも嵌められたのか?」
騎士「だ、誰ですか!?」スチャッ
「まァそう構えるなよ。ここで殺り合ったってオレ様が勝つだけだぜ?」
騎士「それは…やってみないとわかりませんよ」
「ほぅ、威勢が良いナ」
>声の主が暗闇から騎士の間近まで近寄る
ポゥ
「これで見えるか?」
騎士「明かり……一応、お礼を言っておきます」
>明かりに照らされた目の前の人物……いや、魔物と言うべきだろうか
>垂れた角 背中に少し見える黒い小さな翼 手には鋭く長い爪がキラリと光る
騎士「魔物……」
「そう言う兄ちゃんは、人間か」
騎士「だったら、何だと言うのですか」
「そうカッカするなって。オレ達が出会えたのは運が良かったぜ?」
騎士「どういう……」
「オマエ、穴に落ちたんだろ?マヌケ野郎だナ」キシシ
騎士「貴方も穴に落ちたから、ここに居るのでは?」
「チッ、鋭いねェ」
騎士「そのマヌケな魔物が、私に何の用ですか?」
「兄ちゃんわかってないなァ。オレ達が力を合わせないと ここから出られないんだゼ?」
騎士「何を言ってるんですか」
「上を見てみナ」クイッ
騎士「…あの紫色の模様は…?」
「魔術の、まぁ陣っつーか 罠っつーか」
騎士「高い……」
「高さは関係無ェのよ。問題は、あの陣だ」
「あの陣、クソウゼェ事に 人間と魔物 二つの力でこじ開けないと無理だとわかった」
騎士「二つの、力?」
「そうだ。オレは自身の魔力をブチ当てる。オマエは…なんか適当に殴れ」
騎士「無理ですよ! それに、あの高さ…登れるかどうか」
「高さは気にするナ。オレが何とかしてやる」スッ
騎士「おわっ」バッ
「テメッ!何逃げてンだ!」
騎士「上半身半裸な人に体を触られるのはちょっと……」
「オレはそういう趣味は無ェよ!」
騎士「とか言って……」
「テメェ……人間じゃなければブチ殺してるかンな」
騎士「すみません、どうぞ」
「何かを覚悟した様な目で見るンじゃねェッ!」ピト
>魔物が騎士の体に触れる
騎士「おっ…わわっ……」フワッ
「オレは触れた物や 物体を浮かせられる」
「オマエの体を陣まで浮かせてやるから安心しな」
騎士「ちゃんと、一緒に出してくれるんでしょうね?」
「それは、オマエの頑張り次第だナ」
タンッ
タンッ
タンッッ
騎士「あの……私は浮いてますけど、貴方はどうやって…?」フワッ
「浮かせられるっつっても、空を飛べるワケじゃねェ」
「あんまり言いたく無ェが、オマエでもわかる様にワザワザ言うとだナ……自分で足場を作って跳び続けてるダケだ」
「オマエはオレがついでに背負ってるって感じだナ」
騎士「魔術ですか……」
「羨ましいか?」
騎士「…ですね。私も扱えれば……」
「ケケッ 素直なヤツは嫌いじゃねェゼ」
「っと、ついたな」
騎士「えーと…私は殴れば?」
「あァ。オレの雷撃と同時に頼むゼ」
騎士「わかりました」
「そぉ……らァッ!」バチチチッ
バリリリッッ
>雷撃が陣に当たると同時に 騎士もまた 陣に拳を全力で当てる
ぐわんっ……
「チッ、歪むだけか……」
騎士「痛……雷撃とやらが私にも若干当たるんですが…!」
「そりゃそうだロ、同じ場所を攻撃してンだから」
「もう一度やるぞ」
騎士「えぇ……」
「テメェ…ココから出たいのか、出たくないのかハッキリしやがれ!」
騎士「わかりましたよ!」
>諦め半分、希望半分で再度二人が陣に攻撃を加える
ぐわんっ……
「マジかよ……」
騎士「ちょ、二人で攻撃すれば出られるんじゃなかったんですか!?」
「ンなこと知らねェよ!オレだって困惑してンだ……」
騎士「一旦、下に降りましょうよ」
「……そうだナ」スッ
――
騎士「どうします?」
「なァ、オマエ人間だよナ?」
騎士「そうですけど」
「普通、こんな所に落ちりゃ 喚いたりすると思うンだが……」
騎士「旅の間に色々とあり過ぎて、この程度じゃあんまり ですね」
「肝が据わってんなァ。それで、あの陣だが……」
「やはりオレの推測は当たっていた」
騎士「同時攻撃ですか?」
「あァ。オレ一人では、歪みすらしなかったからナ」
騎士「しかし、もう私達では無理なのでは……」
「外から力が加われば……いや、タイミングを合わせンのは無理か」
「チックショォ……ようやく出られると思ったのに……」
「この罠を仕掛けたヤツ 絶対性格悪いゼ……」
騎士「あの、何故貴方はここに…?」
「……オレはトレジャーハンターっつってな、色んな場所の宝を探し この手に収めてきた」
「この島にスゲェ宝があると聞きつけ、来たのは良いものの なーんにも無ェ」
「しかし、来たからには隅々まで調べる それがオレの信条よ」
騎士「で、まんまと嵌まってしまったと」
「ッるせェ!テメェも嵌ってンだろうが!」
「…ゲホッ……ゲホッ……」
騎士「大丈夫ですか…?」
「ハッ……オレの心配なンかする前に、ここから抜け出せる方法を考えナ」
騎士「と言っても、もう手は尽くしましたし……」
騎士「貴方程の力を持っている方が、出られないのであれば 私なんてもっと無理ですよ」
「オマエは 変わってるナ……」
「……ココに何度か落ちてきたヤツは、だいたい魔物だった」
「生きる為にココで殺し合い たまに人間が落ちてきても やはり殺し合う」
「…ココでこンなに普通な会話をしたのは かれこれ久しいナ……」
騎士「相手の体を食べるのですか?」
「…まァナ。オレはまだ火が通せるからマシだけど」
騎士「そういう問題では無いかと……」
「はァ……ま、最後に会えたヤツがオマエで良かったよ」ドサッ
「流石に、長く居過ぎた。そろそろ限界が近いってヤツだ」
騎士「死ぬのですか?」
「…かもナ。死んだ後は、オマエが食ってくれて構わないぜ」
騎士「嫌ですよ、気持ち悪い」
「サラリと酷ェことを言うナ」
騎士「貴方は私を食べないのですか?」
「…食ったとしても、人間だと微々たるもんだ」
「それに……出られない絶望と向き合うのは、もう飽きた」
騎士「もう一度攻撃してみます?」
「無理だ。アレだけ試して歪ンだだけ……バカらしくなるゼ」
騎士「……もしや、条件が違っているのかも」
「はァ?後残ってるとすりゃァ、オマエだけの力で攻撃 くらいしか無ェぞ?」
騎士「いえ、そうでは無く 私達の力を合わせるんですよ」
「ソレはさっき―――
騎士「貴方か、私のどちらかが、どちらかの体に同化すれば 或いは……」
「……は…?」
騎士「私の友人に 人間と魔物 半々の力を持った方が居るんですよ」
「マジ、かよ」
騎士「ですので、どちらが両方の力を持てば……」
「……テメェの体、オレにくれンのか?」
騎士「構いませんけど、一つだけ条件があります」
「それは…なンだ?」
騎士「ここから出られたら、私の友人達に同行し、力を貸してあげてください」
「…ハッ そンな約束、守るとでも?」
騎士「守るでしょう、貴方なら。そんな気がします」
「チッ 知った様な口をキきやがって」
騎士「……」
「…あーァ やめだやめだ。そンな面倒なことはゴメンだナ」
騎士「じゃあ、貴方の力を私にくださいよ」
「ナに…?」
騎士「私はここから出なければなりません。可能性がある方法が存在する以上、私は諦めたくない」
「…カカッ オレの体を寄越せなンて言った人間はオマエが初めてだよ」
騎士「何か条件があるなら 飲みますよ」
「内容も聞かずに、か」
騎士「えぇ」
「テメェ、面白ェな 本当に人間か?」
騎士「人間ですよ、少なくとも今は」
「まるでこれから変わるみてェな言い方だナ」
騎士「そうですよ。貴方の力を貰うので」
「ケッ 図に乗るなよ人間風情が」ギロ
騎士「……人間だろうと 生きようとして何が悪いんですか」ガシッ
騎士「私は 護ると決めた方の為に もう二度と失わない為に…… こんな所で立ち止まっている訳にはいかないんですよ…!」
「…護る者の為に生きる、か」
「くだらねェ。そンな偽善じみた独り善がりの行為 クソくだらねェナ」
騎士「貴方に何が―――
「だが、 嫌いじゃ無いぜ」ニヤ
「オレにも、そう言う対象は居たしナ」
騎士「居た……」
「オレがオマエの体を要らねェと言ったのは 何も約束が面倒だったワケじゃねェ」
「さっきも言ったが…オレは もう持たねェンだ」
「ここから出られたとしても オマエの友人とやらに最後まで同行出来る自信が、今のオレには無ェ」
「約束を破るっての オレは嫌いだからナ」
「守れねェ約束は もうしねぇ主義なンだ」
騎士「……」
「…だが 場合によっちゃオマエに、力を上げてもやってもイイゼ?」
騎士「良いのですか…?」
「オイオイ、さっきまでぶン取る勢いだったのに 今更だナ」
騎士「……貴方にも、大切な方が居たんですね」
「まァナ。オマエもか?」
騎士「えぇ、まぁ……」
「カカッ ますます面白ェ」
「力を渡してやっても良いが オレも一つだけ条件をつける」
騎士「それは?」
「…たまに、オマエと入れ替わらせてくれ」
「そうだ。何もオレの意識が消えるワケじゃ……いや、多分……無いと……」
騎士「何でちょっと曖昧なんですか」
「オレだって、初の試みなンだから察しろよ!」
騎士「入れ替わるのは……私が許可した時でも?」
「あァ、それで良い。オレも外を感じたいンだ」
騎士「余計なことをしなければ、構いませんよ」
「随分と上からな物言いじゃねェか」
騎士「私が取り込む訳ですし」
「クカカッ 生意気な人間だナ」
「手を出せ」
騎士「…?こう、ですか?」スッ
>騎士が両手を差し出す
「今からオレの力の核を体から抜く」
「それをオマエは飲み込め」
騎士「えぇ!?」
「安心しな、痛みや味とかは無ェよ……多分」
騎士「わ、わかりました」
「成功するか、マジで賭けだナ……」ボソッ
>魔物が目を閉じ 集中する
ポッ…バチチチッ
>魔物の体から 雷を帯びた光の玉が宙に浮き出る
騎士「わっ……」ソッ
騎士「…これを、飲み込むんです、よね……」
「早くしロ!消えちまう!」
騎士「ー!えいっ」ゴクッ
騎士「ーー!?おぇ……げほっ……」
「バッ!出すな!耐えロ!!」
騎士「んぐ……ん…おぇ…んぐ…………」
騎士「……はぁ……」
「上手く行ったようだナ」
騎士「嘘つき。凄い不味さ、更に喉がビリビリとした痛みを感じたのですが」
「それは まァ…そンなもンだろ」
騎士「えぇと、取り込めたんですよね?」
「おう。多分ナ」
騎士「これから、どうしましょう」
「そうだナ、改めて自己紹介とやらをしておくか」
「オレの事は……そうだな、雷魔とでも呼んでくれ」
騎士「雷魔さんですか…。私は騎士と言います」
雷魔「おう、ヨロシクナ。ンで、オレの魔術も説明しておくか」
雷魔「オレは雷の魔術を扱う事が得意だ」
騎士「雷、ですか」
雷魔「一旦変われ」
騎士「ちょ、わっ」スッ
騎士「わ、私の体が…勝手に動いて……」
雷魔「変ナ気分だロ?オレもだぜ」
雷魔「まァ見てナ」
タンッ
タンッ
タンッッ
雷魔「さっきも、こうやって磁力で足場を作っていた」
雷魔「助かる事に、この島は金属が埋まってるみたいなンだ」
騎士「なる、ほど……」
雷魔「さて、と。来たゼ」
騎士「わわっ……急に変わらないでくださいよ!」スゥ
雷魔「ホラ、跳ばないと落ちるゼ?」
騎士「そんなのどうやって―――
タンッ
騎士「凄い、足元に力を感じる……」
雷魔「そうやって徐々に慣れてもらわなきゃ困るからナ」
雷魔「まだオレ達は完全に同化出来て無ェ。だからオレの力を馴染ませなきゃならン」
雷魔「よし、次だ。右手に集中しロ」
騎士「んん…?」
雷魔「今回はオレが手伝ってやる、これで……殴れ!」バチチッ
騎士「…こう、ですかねっ」ブンッ
バチィッッ
―――
―
妖狐「はぁはぁ……キリが無いのぅ……」
男「全然減る気配が無いな」
刀娘「どう、しよう……」
>三人が固まって対処する中 猫神は単独で力を振るう
男「アイツ…あんなに暴れて大丈夫なのか…?」
妖狐「大丈夫な訳が無かろう、そろそろガス欠になるぞ」
妖狐「全く聞く耳持たん。やはり騎士が居なければ……」
刀娘「猫神さん……」
バチチチッ
>突如 島の中心から雷撃が空に向かって伸びる
男「な、なんだ!?」
妖狐「ちっ、次から次へと……」
ドゴォッ
ガラガラガラ…
騎士「で、出られましたよ!」
雷魔「まさか、マジで同化が条件とはナ……」
雷魔「ホント 仕掛けたヤツは性格悪いゼ」
男「き、騎士さん!!」
妖狐「やはり生きておったか」
刀娘「騎士、さん…!」
騎士「すみません皆さん、ご迷惑をおかけしました!」スタッ
猫神「騎士 くん……」
騎士「猫神さん、無事で良かった」
猫神「騎士くんの…ばかぁ!」グス
猫神「ごめん…アタシのせいで……ごめんね……」ギュゥ
騎士「お気になさらず。お互い無事で何よりです」ナデナデ
雷魔「おほー!こりゃボインな姉ちゃんじゃねェか!」
騎士「煩いですね、ぶっ飛ばしますよ」
猫神「えっ…え…?ご、ごめん……なさい……」ポロ
騎士「ち、違います!猫神さんの事じゃありませんよ!」
妖狐「ぶっ飛ばすなどと言う物言い、お主のが移ったのかのぅ?」
男「俺に言われても……」
刀娘「あはは……」
雷魔「歓迎ムードなとこワリィが、とっとと逃げようぜ」
騎士「ですね。皆さん、船まで行きましょう」
男「…?お、おう!」
――
―船内―
男「ふぅ……なんとか、逃げ切れたか…?」
妖狐「うむ…。これだけ島から離れたんじゃ、大丈夫じゃろう」
刀娘「怖かったぁ……」
猫神「騎士くん…生きてて良かった……」グス
妖狐「しかし、よく無事じゃったな」
猫神「妖狐ちゃん それどう言う意味…!」
妖狐「ち、違う どうやって抜け出したんじゃと……」アセアセ
騎士「えぇと、落ちた先で色々ありまして……」
雷魔「ボインな子が二人も居るなンて……最高だナ!」
騎士「貴方は黙っててください」
妖狐「む…?す、すまん……」
騎士「い、いえ 妖狐さんでは無くて……」
雷魔「言い忘れたが オレの声はオマエにしか聞こえないぜ?」
騎士「それを早く言ってくださいよ!!」
雷魔「ケケッ 盛大なツッコミご苦労さン」
刀娘「一体、誰と話してるの…?」
雷魔「ン…?ほぅ、こいつァ面白ェ」
騎士「どうしました?」
雷魔「そこの片方のボイン、オレと似た様な力を感じるナ」
騎士「その呼び方は止めてください。刀娘さんと言うちゃんとした名前があります」
刀娘「う、うん…?」
雷魔「ハッ 名なんぞ個体を区別できりゃなンでも良いンだよ」
騎士「あの、出ていってくれません?」
雷魔「あン?オレ様のお陰で魔術が使える様になったっつーのに」
騎士「いえ、魔術とかもうどうでもいいです。貴方と付き合うのが生理的に無理なんですが」
雷魔「カカッ 残念だがそれは無理ナ話だナ」
騎士「なんですって…?」
雷魔「言ったロ、同化したンだぜ?オレ達」
雷魔「もうオレとオマエは一心同体ってヤツさ」
騎士「微妙に意味が違いますが、最悪ですね」
雷魔「というワケだ ちっと体借りるぜ」
騎士「ちょっ 何してるんですか!約束が違いますよ!」ガクッ
雷魔「確かに約束はした……が、守るとは一言も言って無いゼ」
騎士「こ、このっ 引っ込んでてください!」
雷魔「テメェのちんけな精神力で、抑えられるモンなら抑えてみなァ!」ググッ
騎士「うぐぐ……」
雷魔「らァッ!」バシッ
騎士「痛っ!顔を殴らないでください!」
雷魔「じゃァ大人しくしてる事だナ」スゥ
騎士「調子に乗らないで……くださいよ!」バシッ
雷魔「ってェ…なァ!」バシッ
騎士「このっ このっ!」バシッ
妖狐「騎士は気でも狂ったか…?」
猫神「騎士くん……きっと穴に落ちた影響で……」グス
猫神「大丈夫だよ…アタシがずっと守ってあげるからね……」
刀娘「なんだか、誰かと話してるみたいだけど」
男「……」
騎士「痛たたっ 雷撃は痛い!」バチチッ
雷魔「オレも痛ェンだよ!」
騎士「だったら止めてくださいよ!」
雷魔「オレにも外の空気吸わせロ」
騎士「もう少し後にしてください!」
雷魔「今が良いンだよ 今すぐ吸いてェンだよ!」
騎士「空気くらい、いくらでも吸って上げますよ! すぅーはぁーっ!」
雷魔「テメェが吸うンじゃ意味が無ェだロ!」
騎士「私の体ですし変わりませんって!」
雷魔「チッ やっぱ強引に行くしかねェナ」ググッ
騎士「なっ…!」
雷魔「ケケッ 右手の自由は貰ったぜ ここから徐々に……」ググッ
騎士「くっ……鎮まってください!」ギュッ
男「ずるい」
妖狐「ど、どうしたんじゃ…?」
男「騎士さん、ずるい」
騎士「え、ええ…?」
男「俺も、それやりたかったのに」
猫神「男くん…?」
男「俺だって……もう一人の人格ぽいのと争ったりしたいのに!」
男「俺だって……鎮まれ、俺の右腕!とかやりたいのに!」
騎士「えぇ……男さん、これはフザケてる訳では……」
男「そうだよ!フザケて無いんだろ!?だからずるいんだよ!」
男「でもなぁ、男なら一度は考えるロマンだろ!?」
男「くそぉ……俺もやりてぇ……」ガクッ
雷魔「ナンだコイツは……」
騎士「男さんは、たまにこう言ったアレな所があるんですよ……」
雷魔「そ、そうか……」
雷魔「あーァ シケちまったナ」
騎士「せめて夜中とかにしてください」
雷魔「夜中は眠い」
騎士「それくらい我慢してくださいよ」
雷魔「チッ 仕方ねェなァ」
妖狐「…こほん。騎士よ、説明は…?」
騎士「えぇと、ですね―――
雷魔「面倒臭ェ オレ様が話してやるぜ」
騎士「ややこしくなるから止めてください!」
騎士「……私の中に、その…魔物が居るんですよ」
妖狐「ま、魔物…?」
騎士「はい。と言っても、意識だけなのですが……」
妖狐「ふむ……では、あの雷も?」
騎士「そうです、中にいる魔物に借りました」
妖狐「のぅ…騎士は、大丈夫なのか…?」
騎士「私は大丈夫ですよ」
猫神「騎士くん、その魔物に今すぐ変わって」
騎士「え、でも―――
猫神「はやく!!」
騎士「ハイ……」
男「(怖いな……)」ヒソヒソ
妖狐「(いつになく気迫を感じるのぅ……)」ヒソヒソ
刀娘「(大丈夫かな……)」
雷魔(騎士)「おぅ、なんだいボインの姉ちゃん」
猫神「アンタ、とっとと出て行きなさいよ!」
雷魔「おうおう、また随分と勝手ナ物言いだナ」
猫神「うっさいわね!騎士くんに何かしてみなさいよ……」
雷魔「もし何かしたら どうするンだ?」
猫神「アンタをソコからブチ抜いて挽き殺すから」グイッ
雷魔「お、オウ……やべェなこのボイン……」
猫神「どういう経緯で、そうなったのかは知らないけど……」
猫神「その空っぽそうな頭にちゃんと入れときなさいよ!」
雷魔「お、おい騎士 このボインをどうにか―――
猫神「ちょっとぉ!聞いてんの!?」
雷魔「チッ テメェがこの人間の何かは知らねェが……」
雷魔「あンまり図に乗ってると 殺しちまうゼ?」ギロ
猫神「はうぅ……」ガクッ
雷魔「なンだ…?」
猫神「そんな、見つめられると…照れちゃうにゃん……」カァァ
雷魔「おいマテ オレは見つめてなンか―――
猫神「アンタに言ったんじゃないわよ!!」ギロ
雷魔「テ、テメッ……言っておくが、一応騎士もこの会話を聞いてンだぜ?」
猫神「…へ?」
雷魔「確かにオレ達は入れ替わることが出来る が、何も片方の意識は眠る訳じゃねェ」
雷魔「オレの中……いや、正確には騎士の体ン中で 騎士の意識はハッキリとあるぞ」
猫神「嘘……はわわ……」
猫神「(ど、どどどうしよ…… 今まで余裕を装ってきたのに……)」カァァ
雷魔「…へェ、オマエ…この人間を好いているのか」
猫神「何よ 悪い?」
雷魔「悪いなンて言って無いだロう」
雷魔「そンなにこの体が好きなら……オマエの望む事をしてやっても良いンだゼ?」スッ
猫神「やめてよ」パシッ
猫神「そうやって無理矢理手に入れたって、アタシは何も満たされないの」
雷魔「クカカッ そうかい」スゥ
騎士(雷魔)「ぅ…ん……あれ、出られた」
猫神「騎士くん……」
騎士「はい」
猫神「あの…ごめんね」
騎士「何が、ですか…?」
猫神「その、アタシに好かれても 迷惑かなって……」
猫神「この前は、つい言っちゃったけど……騎士くん、魔物に―――
騎士「別に、気にしてませんよ」
騎士「それに 猫神さんは特別です」ナデナデ
猫神「騎士…くん……」
男「はーい、ちょっといいか?」
猫神「…ナニよ」ムスー
男「あからさまにムスッとしないで、傷つく」
妖狐「惚けるのは構わんが、せめてわしらの居ない所でして欲しいものじゃな」フン
刀娘「(それ妖狐さんが言っちゃうの……)」
男「騎士さんの中に、魔物…?が居るのはわかった」
男「俺が気になるのは……その魔物、俺達が信用しても大丈夫かどうかだ」
男「イキナリ後ろから刺されるのはゴメンだしな」
騎士「多分、大丈夫だとは思いますが……」
騎士「もし、中の魔物が裏切った場合は 私ごと始末して貰っても構いません」
猫神「騎士くん何言ってるの!?」
騎士「皆さんが納得するには、この方が手っ取り早いです」
男「…良いのか?やる時はやるぞ」
騎士「えぇ。それに、男さん達に最後を看取って貰えるなら本望ですよ」
男「マジかよ」
男「…脅したい訳じゃ無かったんだ。ただ、どのくらい信用出来るかの材料が欲しかっただけで……」
妖狐「戯け。そんな覚悟で他人を問い詰めるな」ペチッ
男「悪かったよ……」
騎士「いえいえ!お気になさらず」
――
――
―数日後―
ザザーン
ザザーン……
ゴトンッ… チャプン
男「ここが、南の大地……」
妖狐「いよいよ、じゃな」
猫神「アタシも来るのは初めて」
刀娘「……戻って、来た」
騎士「結構荒れてますね」
雷魔「オマエラ、南の大地には来たことが無ェのか?」
騎士「えぇ。初めてですよ 多分皆さんも」
雷魔「なら気をつけるこったナ」
騎士「え…?それって―――
ガシャンッ ガシャンッ ガシャンッ……
>複数の鈍い金属の様な音が聴こえ 近づいて来る
>それも一つや二つ程度では無い
雷魔「カカッ 噂をすれば、とやらだナ」
騎士「何ですか、この方達は……」
男「…この数、待ち伏せされていたのか…?」
妖狐「わしらをか?そんな馬鹿げたこと……」
騎士「一先ず、話し合いで解決出来ないか―――
雷魔「いヤー、無理だと思うゼ?」
>そうこうしてるうちに取り囲まれ、集団のリーダーと思わしき者が歩み出てきた
「貴様らの中に、猫神と言う者は居るか!」
猫神「え、アタシ――― ムグッ
男「(少し様子見だ)」ボソッ
男「俺達の中に、そんな奴は居ない!」
「フン、人間の癖に虚言を吐くか」
「素直に話せば、まだ考えてやったものを……」
「奴等を捉えよ。猫神だけは余り酷く扱うな」
「他の者は…抵抗するなら殺れ」
>リーダーと思わしき者の指示と共に、魔物達に逃げ道を塞がれる
ザザザッ
男「これは…凄まじくやべぇな」
妖狐「どうするお主よ。トアール国でおった数の比では無いぞ」
男「まさか待ち伏せされてるとはなぁ……」
騎士「あの、貴方の力で何とか―――
雷魔「…少し変われ」
騎士「…? わかりました」
雷魔(騎士)「オマエラ、一度しか言わねぇから よォく聞け」
男「騎士さん、じゃないのか」
妖狐「なんじゃ早ぅ言うてみぃ」
雷魔「アイツらは魔術を軽減する装備を着込ンでやがる」
雷魔「全く効かないと言う事は無いが、それでも押し切るのは数的に無理がある」
雷魔「当然、物理も効かねェぞ。そしてウゼェ事に中身も腕利きの奴らばかりだ」
男「なんだと?」
騎士「でも、何故貴方はそんなのことを…?」
雷魔「昔、一度奴らの蓄えてあるブツに手を出したことがあってナ」
雷魔「攻撃はあンまり効かないわ 武器も弾かれるわで逃げるしか無かった」
雷魔「そして今、奴らを見る限り 当時の装備とは違うみてェだ」
男「とすれば、強化されてる可能性もあるのか……」
妖狐「ますますマズいのぉ」
刀娘「…こんな時、男さんが居てくれたら……」ボソッ
猫神「…?男くんならそこに……」
「話は済んだか?」
男「そんなに余裕かましてて良いのか?」
「フン 貴様らはどうせすぐに終わる命。であれば最後くらいは時間をくれてやっても良いだろう」
男「だったら…お前を叩き斬って 俺達は前に進ませてもらうぜ」チャキ
ダンッ
>リーダー目掛けて男が駆ける
>焔壊の剣で装甲の薄そうな相手の首元を捉えつつ水平に薙ぐ
ギィンッ
男「ぬおっ…!」
「甘いぞ人間。だが、首元を狙ったのは良い判断だ」
>男の動きが読まれていたかの様に 相手が右手のみで剣を掴む
男「離…せ!」ブンッ
ゴオンッ
>男が左手で相手の脇腹へ拳を刺すも 重い金属音が響く
「フン 我らを伏せよう等と思わぬことだな」ブンッ
>相手の拳が男の額に刺さり、元の位置まで殴り飛ばされる
男「いっつ……」ズザザッ…
ザザッ
>他の魔物達が妖狐達を取り囲み 今にも武器を振り抜こうとしている
「やはり人間は人間か」
「ここまで来れたのだから どれ程の力があるのかと思えば……」
「もう構わん。一匹残らず殺―――――
ヒュ
ッ
ドスッ…… ボォォッ
>突如、上空から一本の刀が集団と男達の間に突き刺さり その刀から激しく炎が噴き出した
ヒュ
ゥ
ゥ
ゥ
トンッ
「ふぅ、この前も似た様な感じだったなー」コキコキ
「金羊の情報屋に、南の大地に入りそうだと聞きつけ 慌てて来たが……」
「またまた、どうやら間に合ったみたいだな」ニッ
妖狐「其方は……」
猫神「あの時の……」
男「鳥人の島で会った、ローブ男……」
雷魔(騎士)「なンだァ、コイツは。オマエラの知り合いか?」
ローブ男「おっ、ちゃんとあの島に行ったんだな」
ローブ男「そのクソッタレた口調、懐かしいぜ」
雷魔「はァ?」
「貴様……何者だ!」
ローブ男「あん? お前らを叩っ斬りに来た人間だよ」
「我らを斬るだと? 戯れ言を……」
ローブ男「おやおや…?よく見ればお前、あの時の……」
ローブ男「…こっちだと結構早いな。あっちじゃ、もう少し後に対峙する筈なんだが」ブツブツ
「何を言っている…?」
ローブ男「まぁいいや」
ローブ男「とりあえず斬っとくのが俺のやり方なんでな」スッ
>ローブ男が刺さった刀を引き抜き 軽く前へ構える
ローブ男「お前ら、大人しく斬られてくれないか?」
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました
今後変わるかもしれませんが、現状の強さをざっと表すなら
ローブ男>>>(超えられない壁)>炎飛竜=氷飛竜>>氷飛竜(弱体化)=魔術師=騎士(雷魔)>刀娘>猫神>騎士>男>妖狐
「この数を相手にか? 随分と威勢が良いな」
ローブ男「慢心してるお前らよりはマシさ」
「っ…!かかれェッ!!」
ローブ男「あぁ、かかって来いよ」タンッ
>ローブ男が集団に飛び込む
「バカめ 我らの装備の前には―――
ザンッ
>剣筋が見えない程の速さで 魔物が一人斬り裂かれる
「ッ…!?」
ローブ男「悪いな、あんまり遅いもんで斬っちまったよ」
ローブ男「それに 群れようと、雑魚は雑魚だ」
「なっ……我らの装備をこうも簡単に……」
ローブ男「あぁ、普通の武器なら弾かれるだろうな。……俺の武器が普通のなら、な」
ローブ男「確かにその装備は驚かされた。何せ俺らの武器そのものが効かないんだから……」
ローブ男「でも、それだけだったんだ。お前らの強さってのはな」
ローブ男「その剣や鎧を装備していないと そこら辺の魔物とそう変わらない」
ローブ男「だから……俺達はお前らから受けた痛みを糧に、対抗できうる武器を造った」
「我らから受けた痛み、だと…?」
ローブ男「こっちのお前は知らんだろうがな」
「先程から何をわけのわからない事を……」
ローブ男「わからなくて良いよ。わかろうとする必要も無い」
ローブ男「何故なら……お前らの命はここで終わるからな」
「き…さまァッッ!!」
「多方向から攻めろ!奴も同時になど対処できまい!!」
>ローブ男の周囲を次々と剣や槍等の様々な武器が振りかかる
「ハッ! やはりこの数には勝て―――
ローブ男「同時に対処出来ないって、何故決めつけられるんだ?」
「フン……強がりるなッ」
ズバンッ
>どこから抜いたのか ローブ男は左手にもう一本の剣を手にしていた
「二刀…だと……」
ローブ男「言ったろ。お前らから受けた痛みを糧にしたって」
>ローブ男が疾風の如く剣を振り 刀を薙ぎ 数多の魔物を斬り伏せていく
「チィッ ソイツを囲み動かせるな!」
「残りの者はアイツらを伏せろ!」
バチチチチッッ
>妖狐達の方へ向かって行く魔物を 斬撃と雷撃が走り 弾き飛ばす
ローブ男「なに妖狐に手を出そうとしてんだ」タンッ
>ローブ男が男達と魔物の集団との間に割って入る
男「本当に、アンタ何者なんだ…?」
ローブ男「話は後だ。とりあえずお前らは船に戻れ」
妖狐「なんじゃと?わしらは―――
ローブ男「ここを目指して来たんだろ? だがな、お前らだけじゃこの数は無理だ」
騎士(雷魔)「…その人の言う通り、私達だけじゃとてもじゃありませんが……」
猫神「騎士くんの中に居る魔物が、アタシ達の武器は効かないって」
ローブ男「そうだ。だけど―――
ローブ男「―――刀娘……お前の刀なら 斬れる」
刀娘「え…?」
ローブ男「何だお前、指輪を使用した痕跡があるのに全部思い出せなかったのか」
刀娘「なんで、それを……それに貴方、誰なの…?」
ローブ男「は…?おーぃ、流石にそれは悲しいぞ」
ローブ男「まあそれは後にしよう。刀娘以外は船に戻って待機だ」
ローブ男「船の近くにも、アイツらが居るかもしれないから気をつけろよ」
男「わかった。皆、行こう」
騎士「わかりました」
妖狐「納得いかんが、後から聞かせてくれるんじゃろうな?」
ローブ男「少しならな」
猫神「……気をつけてね、男くん」
ローブ男「あぁ、任せろ」
>刀娘とローブ男を残し、男達が船に向かった
ローブ男「刀娘、お前の刀は猫神と騎士さんの特別製だ」
ローブ男「ソレなら相手に効く筈だ」
刀娘「これ…?そういえば、ずっと腰に提げてたけど……」
ローブ男「ほら、とっとと構えないと相手は待ってくれないぜ?」
刀娘「う、うん……」スチャ
「フン 自らを囮にし、他を逃がしたか」
ローブ男「馬鹿言え、負ける気なんて無いよ」
ローブ男「刀娘、そっちは任せたぞ」
刀娘「…っ」コクッ
>頷きと共にローブ男が駆けて行った
「二匹など我らには容易い!殺れッ!」
刀娘「すぅ……」
>腰を少し屈め 刀の鞘に手を当て深呼吸をし 《劫花乱墜》の構えを取る
ヒュンッ
>研ぎ澄まされた感覚は 武器の空気を裂く音を捉えた
刀娘「…っ」スッ
>それを既の所で躱し
刀娘「っりゃぁ!」ブンッ
>隙が出来た所へこちらの攻撃を叩き込む
>本来、《劫花乱墜》はただ攻撃を躱すだけの技では無い
>この技の真骨頂は 最小限の動きで敵の攻撃を往なし 隙が出来た所にこちらの最大の攻撃を当てるカウンター技だ
刀娘「よっ……」ヒュンッ
ズパンッッ
>距離を取る者には 飛ぶ斬撃《花跳風月》で対応し、近接ではカウンターを叩き込む
刀娘「本当だ…ちゃんと斬れる」
刀娘「ある程度、減らせたかな…?」チラッ
>ローブ男の方をチラリと見ると リーダーと思わしき者の鎧を砕き 斬り伏せているのが見えた
ローブ男「お前らの拠点の場所を教えろ」
「ぐっ……誰が 言うものかァ…!」
ローブ男「じゃ、質問を変えよう。場所は中央の砦か?」
「なっ…なぜ、それを貴様が……」
ローブ男「なんだ、変わってないのか。良かったよ」ヒュッ
ザンッ
「かっ…ひゅ……」ドサ…
刀娘「こ、殺さなくても……」
ローブ男「何言ってんだ、コイツらは生かしておくべき相手では無い」
刀娘「……」
ローブ男「ま、埋めるくらいはしてやるか」
ローブ男「残兵は?」
刀娘「少し、逃げて行ったよ」
ローブ男「そうか。穴掘るの手伝ってくれないか」
刀娘「良いけど……船には向かわなくてもいいの?」
ローブ男「仮にあっちにも魔物が行ってたとしても、ここの惨状は伝わってるだろうし大丈夫だろ」
刀娘「そっか……」
ザクッ ザクッ ザクッ…
>魔物が着けていた鎧や盾で地面に穴を掘り埋葬した
ローブ男「ふぅ、これでいいか」
刀娘「あ、あの……何故この刀だと斬れたんですか?」スッ
ローブ男「そりゃ、俺と同じ様な武器だしな」
ローブ男「お前の武器は 猫神と騎士さんが考案し、造った物だ」
ローブ男「俺の武器だって、基礎は同じだ」
刀娘「猫神さんと騎士さん、の…?」
ローブ男「うん…?お前、今はそんな呼び方してるのか」
刀娘「…何のこと…?」
ローブ男「昔はママやパパって呼んでたのになぁ」
刀娘「どうして、 それを―――
ローブ男「猫神から貰った写真を見て思ったが、あの頃のがそのままデカくなった感じだな」
ローブ男「というか、俺のこと本当に分からないの?」
刀娘「……」コクッ
ローブ男「まぁ、あの頃より姿は変わってるしなー」
ローブ男「もしかして、声かな。ちょっと昔の感じで喋ってみるか」
ローブ男「んんっ……久しぶりだな、刀娘ちゃん」ニッ
>ローブ男がローブを払い、今まで話していた掠れて低い声が 少し高く 通る様な声に変わる
刀娘「その、声……それにその呼び方……」
刀娘「なん、で……だって、あの人は死んだ筈じゃ――― ポロッ
ローブ男「ま、色々とあってな」
刀娘「でも、ここにどうやって…?」
ローブ男「猫神が、最後に託してくれた物を使ってきた」
刀娘「ママに会ったの!?ママは……パパは 無事だった…?」
ローブ男「…すまない、俺が着いた時にはもう手遅れだった」
刀娘「やっぱり……」
ローブ男「しかし、刀娘も猫神も騎士さんも、俺のこと死んでると思ってるとはな」
ローブ男「ちょっぴりショック」
刀娘「だ、だってあの時……そういえば、妖狐さんは…?」
ローブ男「……居るよ。俺と一緒にな」スッ
>ローブ男が腰に提げている毛を指す
>その瞬間、刀娘は全てを悟る
>妖狐は常に、尾の毛を大事に手入れをしていた
>その尾を渡す時……それは自分が死んだ時と妖狐が言っていたのを思い出す
刀娘「ごめん、なさい……」
ローブ男「いいよ、気にすんな」
ローブ男「それより、もしかしてお前……猫神達にはまだ話してないのか?」
刀娘「…余計なこと話すと、マズいかなーって……」
ローブ男「うーん、そうなのかな」
刀娘「…?」
ローブ男「確かに俺達は過去に居る。でも、俺達がここに来た時点で、男達はもう俺達の知ってるのとは別物だと思う」
ローブ男「だから…何かすれば確かに未来は変わるかもしれん。だけど、それで俺達が消えるって事は、無いと思うけどな」
ローブ男「…可能性を試すなら、過去の俺自身が死ぬ事だが……大丈夫だと思っていてもやりたくは無いな」ハハッ
刀娘「なるほど……流石、男さん」ゴソゴソ
ローブ男「まぁ 刀娘が皆に話したくないってんなら、隠しておくよ」
刀娘「そうして貰えると、嬉しい……」ゴソゴソ
ローブ男「…あの、刀娘ちゃん。会話しながら俺のローブのほつれを直すのやめてくれないか……」
刀娘「あ、ごめんね。なんだか気になっちゃって」ススッ
ローブ男「いや、うん。俺の髪をといて直さなくて良いからね?」
刀娘「ごめん、ハネてるのがちょっと……」
刀娘「ちゃんとご飯食べてる?体、昔より痩せたんじゃない…?」
ローブ男「筋肉ついた筈なんだけどなぁ、痩せてるように見える?」
刀娘「少しだけ」
ローブ男「そうか…まぁ、食事なんて適当だし当然か」
刀娘「もぅ、ダメだよ?ちゃんと食べないと……」
ローブ男「(世話を焼いてくる性格は騎士さん似だなぁ)」
ローブ男「刀娘、俺と一緒に来るか?」
ローブ男「俺はこれから第一砦に向かうつもりだ」
刀娘「…え、っと……」
ローブ男「…そうか。流石、俺達だな」
刀娘「え…?」
ローブ男「アイツらと一緒に居るのが楽しいんだろ?気を遣わなくて良いぜ」
ローブ男「まっ、お前が無事で良かったよ」ナデナデ
ローブ男「それに、昔のとは言え 両親も居るんだしな」
刀娘「……えへへ」
ローブ男「ママやパパ、強かっただろ?」
刀娘「うん……みんな強いね……」
ローブ男「それに猫神が騎士に、あんまりデレて無いのは新鮮だろうな」
刀娘「……もう無理かも」
ローブ男「え…?まさか…もうデレ始めたの?」
刀娘「うん…雷魔さんと話してる時にウッカリ……」
ローブ男「あらら……あの二人が交尾をおっ始めない様に気をつけろよ」
刀娘「こ、ここ交尾……」カァァ
ローブ男「何照れてんだよ、お前はそうして生まれてきたんだぜ?」ニヤ
ローブ「妖狐が、『あの雌猫…本当に発情期に入りおったわ』って言ってたのが懐かしいな」
刀娘「あはは……」
ローブ男「南の大地、か……早いな」
ローブ男「アイツらの装備を見る限り、北の大地を出てまだ間もないだろ?」
刀娘「うん……まだ数週間しか経ってないよ」
ローブ男「はぁ!?なんの、冗談だよ……」
ローブ男「俺達五年くらいは西の大地に居たってのに……」
ローブ男「猫神が敵側と知ったのも西の大地でだったし、一体どういう事だ」
刀娘「多分、ボクのせいかも」
ローブ男「刀娘の…?」
刀娘「うん。ボクね、北の大地で一時期、記憶を失ってたと言うか……」
刀娘「刀に操られちゃって、その時に ここの男さんと戦ったみたいで……」
ローブ男「うーむ……本来干渉する筈の無いイレギュラーな存在が絡んで来たから、俺達の辿った過去とズレて来てるのかもな」
ローブ男「あんなに早く、鳥人の島に上陸してるなんて驚いたし」
刀娘「ごめん、それもボクのせい……」
ローブ男「どういう…?」
刀娘「えっと、パパに聞いた炎飛竜さんに会ってみたくて……」
ローブ男「なるほど、な。しかしよくその島に辿り着けたな」
刀娘「氷飛竜さんって方が地図くれたの」
ローブ男「マジで…?」
刀娘「うん、マジです」
ローブ男「くっそぉ、もう少し苦労しろよ!ここの俺!」
ローブ男「色々と順調過ぎて怖ぇよ」
ローブ男「……でも、今度は間に合うかもな」
ローブ男「あの時は何もかも遅すぎた」
ローブ男「あの日から七年、か……」
刀娘「男さんは、どこに居たの…?」
ローブ男「俺は各地を転々としてたよ」
刀娘「そっか……ボクもママとパパと一緒に色んな所に行ったよ」
刀娘「ようやく落ち着ける場所が見つけられたかもって時に……」
ローブ男「ごめん。もっと早く探すべきだったな」
ローブ男「俺は魔物の小さな拠点を潰した時に、騎士さん達らしき人物の情報を得たんだ」
ローブ男「俺は嬉しかったよ。やっぱり信じていた通り 生きてたんだって」
ローブ男「猫神が言ってた。娘を逃がしたからお願い、と」
ローブ男「まさか逃がした先が過去とは思わなかったが」ハハハッ
刀娘「ママ……」
ローブ男「……未だに信じられないが、昔の俺や妖狐達を見たら 信じるしかないよな」
ローブ男「でもさ、取り戻せるかもしれないんだぜ。あの日、何度やり直したいと思ったか」
ローブ男「もう、二度と妖狐を死なせたりしない。ここに来た時、そう誓った」グッ
刀娘「男さん……」
刀娘「あの……砦…?には、一人で向かうつもり…?」
ローブ男「そりゃな」
刀娘「男さん、ボク達と一緒に来ませんか」
刀娘「やっぱり、いくら強くても 仲間は多い方が良いでしょ…?」
ローブ男「……居ても邪魔なだけだよ」
刀娘「本当に、そう思ってるの?」
ローブ男「あぁ」
刀娘「本当は……一緒に居ると辛いからじゃないの」
ローブ男「……」
刀娘「ここの皆は確かに違うかもしれないけど……でも、また話せるんだよ。声が聴けるんだよ」
刀娘「もう男さんの寂しそうな目を見るの、ボクは嫌だよ……」
ローブ男「っ……」
ローブ男「全く、そういう鋭い所は猫神似だ」
ローブ男「……そうだよ。皆の……妖狐の顔を見ると、どうしようもないものが込み上げてくるんだ」
ローブ男「妖狐を抱きしめたい。またあの笑顔を見たい」
ローブ男「最悪だよ、妖狐と喧嘩別れなんて……」
ローブ男「ずっと頭から離れないんだ。皆の顔や声が」
ローブ男「騎士さんや猫神と一杯話をしたい」
ローブ男「飯を食ってると、いつも騎士さんの料理を思い出すんだ」
ローブ男「だけど…ここの皆は、同じであって同じじゃない」
ローブ男「皆は、妖狐は……もう……」
ローブ男「……だから 俺はまだ、泣く訳にはいかない」
刀娘「……」ソッ
刀娘「ボクは……泣いても良いと思う」
刀娘「ここにボク達が来れたのも、きっと必然だと思うんだ」
刀娘「なら、ちょっぴりこの世界に甘えても、罰は当たらないよ」
ローブ男「……」
ローブ男「…わかったよ。参った」グス
ローブ男「まさか刀娘に諭される日が来るなんてな……」
刀娘「少しくらい、ゆっくりお休みしよう…?」ギュッ
ローブ男「……そうだな。じゃあ、少しの間……同行させてもらうよ」
刀娘「うんっ」
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました
刀娘の正体、今更ですかね…
>>432
>猫神「……気をつけてね、男くん」
>ローブ男「あぁ、任せろ」
あれ?猫神は既に気づいてる?
単純計算すると五年と七年で12歳だけど、あの日ってのがいつかわからんからなぁ…
そしてそれよりも猫神の発情期が気になって仕方がない
妖狐「(…はぁ、どうして こう上手く行かないんじゃろうな)」
コツンッ
妖狐「っ…!」ピク
妖狐「(何かの音……)」
妖狐「(うーむ…視えん。ここから距離があるのかのぉ…?)」
>どんな生命にも量は違えど、必ず魔力は宿っている
>その魔力を視覚から感知する魔術、《暗視》を今は使用している状態だ
ガササッ
妖狐「ちっ…《火炎》」ボォッ
>キキー! と生き物の鳴き声が響く
妖狐「(魔物ではなかったか……)」
妖狐「(まぁよい。ここの動植物はどれも凶暴と聞いたしの)」
妖狐「(しかしここは森、か…?)」
妖狐「(男の奴め、わしを突き飛ばしおって……)」
妖狐「(急に来るもんで、おほー!などと みっともない声を上げて転げ落ちてしまったわ)」
妖狐「(……全く、何が武器じゃ。わしはそんなもん扱えぬと言うのに……)」
妖狐「(しかし男達には必要じゃしなぁ……)」
妖狐「(……男よ、何処におるんじゃぁ……)」グス
妖狐「……」
妖狐「(……わしの悪い癖じゃな。都合が悪くなればすぐに男に頼っておる)」
妖狐「(現に こうして、男とはぐれてしまったと言うのに……)」
妖狐「(気に食わんが、あの怪しげなローブの言う通りかのぅ……)」
スタスタ スタ…
>辺りを暗闇が包み、地を静かに踏む音が反響する―――ここは柳花の森
>遡る事 数日前
―船内―
ローブ男「皆、大丈夫だったか?」
男「ローブの……アンタも無事で良かった」
ローブ男「刀娘が居てくれたお陰でな」ポンッ
刀娘「わ、私は…そんな……」
騎士「ともあれ、皆さんがご無事で何よりです」
妖狐「うむ。それで…そこのローブよ」
ローブ男「…まぁ待て。先ずは船を出そう」
ローブ男「南の大地から結構離れてはいるが、追手が来るかもしれない」
男「出すって、行き先は…?」
ローブ男「変わってないなら、大丈夫だ」
猫神「全然答えになってないケド……」
ローブ男「まあまあ。舵は俺が取ってもいいか?」
妖狐「其方は、わしらと来るつもりか…?」
ローブ男「皆が良いなら、少しの間 一緒に同行させて欲しい」
ローブ男「勿論、ダメってんなら―――
猫神「良いよ」
騎士「猫神さん…?」
猫神「この人は二度も助けてくれたし、同行するくらいならアタシは構わないよ」
刀娘「ボクからも…お願います」ペコ
騎士「な、何故… 刀娘さんが頭を下げるのですか」
男「俺も、良いよ。色々と謎が多いが、戦力にはなる」
騎士「皆さんがそう言うのでしたら、私も……」
男「妖狐は?」
妖狐「わしは、わからん……」
妖狐「助力して貰ったのは感謝する。じゃが、なに故 わしらに同行するんじゃ?」
妖狐「せめて理由くらいは聞かせて欲しいところじゃな」
ローブ男「理由、か……」
ローブ男「皆に、新しい武器を渡したい。だから、その案内…かな?」
妖狐「それがあれば、騎士の中に居る者が言っておったモノに対抗できるのかや?」
ローブ男「まぁな」
妖狐「何とも胡散臭い話じゃな」
妖狐「確かに二度助けられた。が、逆に言えば 二度も都合良くわしらが危険な時に現れた」
妖狐「其方は一体、何者なんじゃ?」
刀娘「よ、妖狐さん…!」
妖狐「止めてくれるな、刀娘よ。そろそろ こ奴が何者なのか明瞭にしておかなればならん」
ローブ男「その面倒臭い性格は相変わらずだなぁ……」ボソ
妖狐「なに…?」ジロ
ローブ男「お前のその 疑り深い性格が面倒臭いって言ったんだよ」
妖狐「疑り深くて何が悪い。何か起こってからでは遅いのだぞ」
ローブ男「そう言う割には、ホイホイ騙される癖に」
妖狐「なんじゃとぉっ!」
ローブ男「慎重になるのは良いが、お前はそれよりも もっと他に直さなきゃいけない所はあるだろ?」
妖狐「ふん。それはどこじゃ、言うてみぃ」
ローブ男「その態度だよ。俺に助けて貰ったってのに礼の一つも言えないのか?」
ローブ男「(昔のツンケンした妖狐も好きだが、やはりちゃんと素直になって貰わないとな……)」
妖狐「ぐむむっ……」
妖狐「其方が来なくとも、わしらだけで切り抜けられておったわ!」
ローブ男「……本当にそう言えるのか」
妖狐「な、なんじゃと…?」タジ
ローブ男「鳥人の島で、お前は何が出来たんだ」
ローブ男「自分は無力…故に、ただ見ている事しか出来なかった―――そう思ってたんじゃないのか?」
ローブ男「さっきの南の大地で、魔物に待ち伏せされていた時もどうだ」
ローブ男「お前はただ、皆に頼っていた。誰かが何とかしてくれる。自分が頑張らずとも良いと思ってたんじゃないか?」
ローブ男「お前の側には皆が、男が居る。でもな、頼るばかりじゃダメなんだよ」
ローブ男「南の大地は魔術が扱えるやつがゴロゴロと居る。昔はどうだったか知らんが、今のお前なんて そこら辺の魔物と大して変わらない」
妖狐「わ、わしは……」
ローブ男「ハッキリと言うぞ」
男「っ…! お、おい―――
ローブ男「今のお前は皆にとってお荷物だ」
妖狐「…っ」グス
妖狐「其方に… 何がわかるんじゃっ!」タッ
猫神「妖狐ちゃん!」
バタンッ
騎士「そ、そこまで言わなくても……」
猫神「どうしてそんなこと言うの!」
ローブ男「そうやって甘やかすからダメなんだよ」
刀娘「妖狐さん……」
ローブ男「これで少しは―――
男「……お前が決めるな」
ローブ男「何…?」
男「お荷物かどうかは、お前が決める事じゃない。俺達が決める事だ」
男「確かに、妖狐は……俺達はアンタより弱いよ」
男「技術だって、剣の振り方一つにしても アンタと俺では決定的な差がある」
男「でも、それがなんだ。俺達は弱いからって見捨てたりしない」
男「弱いなら 強くなれば良いだけだ」
男「アンタだって、最初からそんなに強かった訳じゃないだろ」
男「同行するのは構わない。だが、お荷物がどうのこうの、なんてのは余計なお世話だ」スタスタ
パタン…
ローブ男「……」
猫神「どうするの」
ローブ男「やべぇ、言い過ぎた……」
ローブ男「あれはブチギレてる時の俺だな……」
猫神「当たり前でしょ!妖狐ちゃん泣いてたんだよ!」
ローブ男「…俺だって、見たくないよ。妖狐の涙なんて……」
ローブ男「だが、現状のまま南の大地に行かせる訳にはいかない」
ローブ男「誰かが言わなければならないんだよ」
騎士「南の大地とは、それ程 危険な場所なんですか…?」
ローブ男「…そうだな。例えば 俺と刀娘が戦った相手、アイツらに捕まっていた場合、拷問を受けてるぞ」
騎士「ご、拷問……」
ローブ男「騎士さんも含め、ようやく全員が魔術を扱える様になった。が、それはまだスタートラインなんだ」
ローブ男「もっと力を、知識をつけて貰わなければ、南の大地は超えられない」
ローブ男「……まぁ、ここだけの話… 妖狐はそんなに弱くないんだよなー」
猫神「どういう、こと…?」
ローブ男「刀娘は知ってると思うが、妖狐は二つの属性の魔術を扱える」
騎士「私も、妖狐さんから聞きました」
ローブ男「そうか、なら話は早い。本来この世に生きうる生物は 自身の最も素質のある、一属性の魔術しか扱えないんだ」
ローブ男「だが、妖狐みたく 一部例外が居てな」
ローブ男「二つ扱えると言うのは それだけ大きな力を持ってる、特別ってことなんだ」
刀娘「あれ…?でも…えっと、うーん……」
刀娘「(マズい、男さんの事どうやって呼べば―――
ローブ男「ローブさんとでも呼んでくれ」ハハハ
刀娘「あっ…うん……。えと、ローブさんも炎と雷…?を使ってた気がするんだけど……」
ローブ男「俺のは元から使える訳じゃないよ。貰っただけだ」
ローブ男「ま、扱うにはそれなりに苦労したけどな」
ローブ男「で、だ。妖狐はもっと上手く魔術を扱える筈なんだよ」
ローブ男「しかし男や皆が居るせいで、あんまり鍛錬してないんだろうな」
ローブ男「過保護になるのもわかるし、俺だって危険な目に合わせたくない」
ローブ男「でもそれだったら、南の大地なんかに行かず、北の大地で適当に死ぬまで暮らせば良いってなる」
ローブ男「……数年したら、それも無理になるが……」
ローブ男「まぁいいや。アイツは、残れって言っても着いてくる、絶対に」
ローブ男「だから、死なない為にも強くならなければいけない」
猫神「理由はわかったけど、妖狐ちゃんだって何もしてない訳じゃ無いのよ?」
ローブ男「隠れて何かやってるんだろ?だがそれだけじゃ足りないんだ」
ローブ男「それに、妖狐は近接の戦闘にもっと慣れなくてはならない。猫神もな」
猫神「そりゃ、アタシも得意では無いケド……」
ローブ男「猫神は妖狐よりマシだが……それでもまだまだだ」
ローブ男「刀娘、猫神にちょっと教えてやってくれないか」
刀娘「えっ……えぇ!?む、無理だよぉ」
ローブ男「今のお前は、猫神より多分強い」
ローブ男「飽くまで、‘‘今は’’ だが……」
猫神「むぅ…確かに、刀娘ちゃん強いもんね」
ローブ男「猫神は、無理に武器を扱おうとしなくても良い。せめて武器種によっての対処の仕方、間合いくらいは覚えて欲しい」
猫神「……わかった」
猫神「まっ 男くんの言うことだもんねー、素直に聞いとくよ」ボソ
ローブ男「ちょっと待て、何故それを……」
猫神「んー?にゃぁーにかな?」ニヤ
ローブ男「ぐっ……本当にお前の観察力は凄いな」
ローブ男「騎士さんはそこら辺で釣りでもしてて」
騎士「私だけ適当すぎやしません!?というか釣りをしても強くなれない気がするんですが!」
猫神「だいじょーぶ!アタシが全力で釣られに行ってあげるよっ」
騎士「それ何の意味があるんですか!猫だから魚で釣れって言うのですか!そもそも猫神さん魚嫌いでしたねすみません!」
ローブ男「猫神を釣るなら裸にならなきゃ」
騎士「何で裸になるんですか!私に何が待ってるんですか、怖過ぎますよ」
猫神「…ごくり」
騎士「猫神さん落ち着いてください」
刀娘「…ごくり」
騎士「ちょっと待ってください、刀娘さんまで……」
ローブ男「…ごくり」
騎士「なんっっで貴方まで入ってくるんだよ!刀娘さんも乗らなくていいっつーの!!」
猫神「騎士くん素が出てるよ……」ボソ
騎士「……こほん」
ローブ男「騎士さん、二人も同時に手を出すなんて流石だ」
騎士「出してませんよ!というかこれは冗談で―――
猫神「アタシとは、遊びだったの…?」シュン
騎士「そもそも手を出してませんって!」
ローブ男「じゃ、俺は操舵室に行くわ」
騎士「この状況を放ったらかして行かないで!」
ローブ男「はは、冗談だよ。懐かしいな……」
ローブ男「騎士さんはそのジャラジャラしたのを少し減らすことだな」
ローブ男「いくらなんでも持ちすぎだ。傍から見ると、とりあえず持てるだけ武器を持ってみました感が漂ってる」
騎士「そ、そんなにですかね…?」
ローブ男「うん」
騎士「そうですか……まぁ自分でもちょっとこれは多いかなと思ってたりしてたんですが……」
ローブ男「そんな騎士さんには、これをあげるよ」スッ
騎士「これは…?」
ローブ男「即効性の麻痺毒」
騎士「!?」ワタワタ
猫神「…それ、なんだか私が使ってるのと臭いが似てる」
ローブ男「そりゃ、元は猫神から教えて貰ったからな」
騎士「何の事です…? と言うか猫神さんそんな物持ってたんですね」
猫神「うん、私も小太刀に塗ってるよ。使わない時は拭き取らないと錆びちゃうから手入れが面倒だけどね」スッ
騎士「……身の危険を感じるんですが」
猫神「えー、後ろから刺したりしないよ?」
ローブ男「薄めたのを料理の中に入れようとしたことあるだろ」
猫神「っ…な、なんのコトかナー」
騎士「入れた場合、もう口聞きませんからね」
猫神「じゃあ入れない!」
騎士「入れようとしてた事は否定しないんですね……」
ローブ男「さて、と……俺はあの二人の所に行くとするかな」
騎士「お二人だけにさせてあげた方が良いのでは…?」
猫神「いくら男くんでも、これ以上酷い事言ったら許さないからね?」
ローブ男「…わかってる。頃合いを見計らって行くよ」
――
ザザーン
ザザーン……
男「妖狐、やっぱりここに居たのか」
妖狐「……何故わかった」
男「悩みがあると、広い景色を眺める癖があるからな」
妖狐「何用じゃ」
男「俺は…妖狐の事、足手まといとは―――
妖狐「気を遣わんでよい。わしの事はわしが一番理解しておる」
妖狐「あのローブの言う通りじゃよ。わしは、どこかでお主らに頼りきっておった」
男「…俺も同じだ。でも…仲間は、友人ってのはそういうもんだろ?」
妖狐「お主の言う友人とは、頼られてばかりの存在なのかや?」
男「それ、は……」
妖狐「持ちつ持たれつの関係じゃろう」
妖狐「わしは…お主に着いて行くと行った」
妖狐「じゃが 南の大地が危険な所くらい あのローブの言葉を聞いておればわかる」
妖狐「じゃから……戦力にならぬくらいなら……」
妖狐「のぅ、お主よ。わしを置いて行ってはくれぬか」
男「…それで、お前はどうするんだよ」
妖狐「わしは…適当に生きてゆく。心配は無用じゃ」
男「勝手だな。お前はいつも自分勝手だ」
男「他人に判断を任せて、自分は罪悪感から逃れようってのか?」
妖狐「そ、そんなつもりは―――
男「妖狐を置いて行くなんて、出来るわけ無いだろ」
男「俺は皆と……騎士さんと猫神と刀娘と……そして妖狐、お前と一緒に居たい」
男「探すって言っただろ、ゆっくりと暮らせる場所を。約束、破るのか?」
妖狐「わしは……お主と居ても良いのかや…?」
男「誰が駄目って言ったんだよ。どこに行こうが探しに行くからな」ギュッ
妖狐「男……」
男「……まだ何か用か?」チラッ
ローブ男「すまん、邪魔したな」
ローブ男「その、少し言いすぎたから、謝ろうと思って、な」
妖狐「構わん。其方の言う事は真実じゃからな」
ローブ男「そっか……」
ローブ男「…もう、二度と繰り返したくないんだ」
ローブ男「その為にも、せめて戦うということに慣れて欲しい」
男「そんなに、南の大地には強い奴が居るのか?」
ローブ男「居るよ。俺は負けるつもりは無い。でも、皆を護れる自信は無い」
男「……なら、俺に教えてくれよ」
ローブ男「教える…?」
男「あぁ。恥ずかしいが、俺は戦闘に関しちゃ素人だ」
男「刀娘や猫神みたいな賢く強い魔物と戦った時、多分俺は負ける」
男「アンタ、強いんだろ?だったら、戦い方を教えて欲しい……―――いや、教えてください」
ローブ男「つっても、俺だって独流だぞ?」
男「強くなれるなら、何でも良い」
ローブ男「……お前、二つ持ってるんだな」
ローブ男「(ここのコイツも俺だし……もしかしたら二刀扱える、かもしれんな)」
ローブ男「それ、ちょっと貸してくれないか」
男「…? これか?」スッ
ローブ男「この刀……おいおい、これどこで…?」
男「鍛冶屋だったエルフのおっさんに、打ってもらったよ」
ローブ男「(鍛冶屋で、エルフのおっさん……まさか、な)」
ローブ男「この刀、打ち直せば良い物になるぞ」
ローブ男「皆に武器を渡すって言ったよな。ついでにこの刀も打ち直そう」
男「…?」
ローブ男「一先ず、戻ろうか」
――
―
猫神「おっ、おかえりん」
騎士「お帰りなさい」
刀娘「大丈夫、だった…?」
男「ただいま」
妖狐「迷惑をかけた、すまんの」
猫神「ううん、気にしないで」チラッ
ローブ男「何もしてないよ……」
男「それで、ローブの。話って?」
ローブ男「あぁ。南の大地は一旦お預けだ」
ローブ男「ちょっくら、知り合いの所に行こうと思う」
猫神「知り合いの所…?」
ローブ男「そうだ。少数のエルフが暮らしている島なんだが……」
騎士「そこに行って、一体何を…?」
ローブ男「勿論、武器を造ってもらう」
男「鍛冶屋が居るのか」
ローブ男「あぁ。奴らを断ち切れる武器は必須だからな」
騎士「なる、ほど……。その島の航路は?」
ローブ男「大丈夫だ」
妖狐「では、その島に行くとするかの」
ローブ男「今度はやけに素直だな」
妖狐「ふん。其方は信用しておらんが、わしが力不足と言うのもまた、間違ってはおらん」
妖狐「故に、今は男達の為に従ってやるだけじゃ」
ローブ男「…そうかい」
騎士「それじゃあローブさん、改めてよろしくお願いします」
ローブ男「おぅ、よろしくな」
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました
>>458さんが言っている通り、刀娘はだいたい12歳程度です
書けるかテスト
「俺達の……やってきたことは 全て無駄だったって、ことかよ……」
「一体何の為に……俺達は……」
「……失って初めて気付いたよ」
「何気無い日常を送れる事が 幸せだったんだって……」
「なぁ…俺はどうすればいい……」
「俺を一人にしないでくれ……」
「声を聞かせてくれよ……」
「逝かないでくれ……」
妖狐……
「…くん!」
猫神「男くん!大丈夫…?」
ローブ男「…あ、あぁ。どうした?」
猫神「どうしたって……ずっと、ぼーっとしてたから」
ローブ男「何でも無いよ。それより皆は?」
猫神「まだ寝てるよ」
ローブ男「そうか。あとその名前で呼ぶのやめてくれないか……」
猫神「ここの操舵室には、アタシしか居ないんだし良いじゃん」
ローブ男「……はぁ。言っても無駄なんだろうなぁ」
ローブ男「いつから気づいてたんだ?」
猫神「鳥人の島で、もしかしたらって疑惑があって」
猫神「確信に変わったのは、南の大地でかな」
ローブ男「お、俺…何かやらかしたか…?」
猫神「うん。キミと刀娘ちゃん以外が船に向かう時の別れ際、アタシ キミの名前呼んだんだよね」
ローブ男「別れ際……」
ローブ男「あぁっ!あの時かよ!」
猫神「思い出した?キミ普通に返事を返してきたから、アホなのかなって思っちゃったよ」
ローブ男「酷ぇ言い草だな……間違ってないけどさ」
猫神「半ば信じ難いケド、やっぱり男くんなんだよね」
ローブ男「と言っても、多分お前の知ってる男とは違うと思うけどな」
猫神「同じだよ。男くんは男くんだよ」
猫神「キミは…未来の人、なんだよね?」
ローブ男「そうなるな」
猫神「なら、あっちのアタシってどんな感じなの?」
ローブ男「騎士と結婚してたから、そこら辺は安心して良いぞ」
猫神「ホントに!?」
ローブ男「うん。……あ、これ言っちゃっても良かったのかな……」
猫神「えへへ……騎士くんと結婚……」ニヘラ
ローブ男「ま、いいか。こっちもいずれそうなりそうだし」
ローブ男「こういう所は、同じだなぁ」
猫神「あっちのアタシと騎士くんは、どんな風に暮らしてるの?」
猫神「やっぱり、皆とこうして旅してたりするのかな」
ローブ男「……そうだと良いな」
猫神「…?」
ローブ男「猫神、そもそも俺がここに来たのは何故だと思う?」
猫神「うーん、そこが良く分からないのよねぇ」
猫神「何かしらの目的があるのは分かるけど……」
ローブ男「猫神だから話すが……理由は二つあるんだ」
ローブ男「一つは、こっちに居る ある娘を護って欲しいって頼まれたこと」
ローブ男「もう一つは、最悪の事態を未然に防ぐこと」
猫神「ある娘…?」
ローブ男「悪い、それは言えない」
ローブ男「(……猫神はまだ刀娘については気づいて無い、か)」
ローブ男「(刀娘の奴……俺より上手くやりやがって……)」
猫神「そっか。じゃあ最悪の事態って…?」
ローブ男「俺も詳しくは分からないんだ。あっちでは意識が戻ったと思ったら、もうなってた」
猫神「それが起こった場合、どうなるの?」
ローブ男「まずこの全ての大地に、影みたいな形をした、生物の心の闇が生まれる」
ローブ男「ソイツは俺達、人間や魔物に対して明確な殺意を持ってるものだ」
ローブ男「騎士さんの中に居る、魔物が居た島を覚えているか?」
猫神「あの なーんにも無かった島?」
ローブ男「そうだ。アレは大昔に俺が言った闇のほんの一部を封印した所らしいんだ」
猫神「ちょっ!そんな危ない所に行かせないでよ!」
ローブ男「大丈夫だって。もう殆ど封印の意味を為して無い島だし、闇だって時間が経てば消える筈だ」
猫神「……それで、それを止めに来たの?」
ローブ男「あぁ。俺は……統主がやったとは思えないんだ」
猫神「統主って、アタシの知ってる統主様…?」
ローブ男「そうだ。アイツと対峙した時、やっぱり俺達と同じ目的だったんだ」
ローブ男「でも……アイツのやり方は、闇共のやってる事と大して変わらない」
ローブ男「だから、もっと他の方法を探そうと説得を試みたが……」
ローブ男「やはり相容れないってんで、戦った」
ローブ男「まぁ、負けちゃったんだけどな」ハハハ
猫神「統主様が?」
ローブ男「いや―――
ローブ男「―――俺達が、だよ」
猫神「えっ……」
ローブ男「あ、その時に 猫神と騎士さんは死んでないから大丈夫だ」
猫神「……そっか」
ローブ男「おっ、そろそろ目的地に着くぞ。皆を起こしてきてくれ」
猫神「……うん」
パタン…
猫神「(……さっきの言い方だと、まるでアタシと騎士くん以外の誰かが死んだみたいじゃん……)」
猫神「(男くんは生きてる。なら……死んだのは妖狐ちゃん…?それとも、刀娘ちゃん…?)」
猫神「(男くんは、一体何を背負ってるの……)」
――
―
ローブ男「皆、飯を食いながらで良いから聞いてくれ」
ローブ男「先程、目的の島付近に到着した」
ローブ男「が……どうやら様子がおかしい」
騎士「と言うと…?」
ローブ男「まず、俺が……詳しくは言えないが、違う所で見たことも無い植物がそこかしこに生えてる」
ローブ男「既視感があるとすれば、忘れがちだがシキの存在だ」
ローブ男「シキもこんな感じで広範囲を根城にしていた」
猫神「アタシが連れてきた植物の魔物ね」
ローブ男「そういうこと」
ローブ男「多分似たような奴だとは思う。それより、この島にいるエルフ達が気がかりだ」
男「助けに行くのか?」
ローブ男「あぁ。俺と刀娘、男と妖狐で二手に別れて捜索しよう」
騎士「私と猫神さんは…?」
ローブ男「念の為、船に居てくれ」
ローブ男「時間は……そうだな、太陽が真上に登ったら、一先ず船に全員戻るとするか」
妖狐「わしらはエルフを探すのか?それとも、あの植物の本体を探すのか?」
ローブ男「……本体を探してくれ」
男「アンタはどうするんだ?」
ローブ男「俺と刀娘も本体を探しつつ、エルフ達を探す」
騎士「何かアテでも…?」
ローブ男「無くは、ないんだ」
猫神「ま、そういうことなら良いんじゃない?」
男「俺も大丈夫だ」
妖狐「わしも構わん」
刀娘「…っ」コクコク
ローブ男「妖狐と男、一つだけ守って欲しいことががある」
ローブ男「……俺にも、何が起こるかわからない。だから、危ないと感じたら直ぐに船に戻ってくれ」
男「わかった。約束する」
妖狐「うむ」
――
―
―翠朱の島―
男「おぉ……これは想像以上だな」
妖狐「片っ端から燃やすか」
ローブ男「待て待て、あんまり刺激するな」
ローブ男「先ずはエルフ達の安否が最優先だ」
男「もし本体を見つけた場合は?」
ローブ男「勝機があるなら倒しても構わない。少しでも危険なら戻れ」
男「了解」
ローブ男「刀娘、体調は大丈夫か?」
刀娘「うん、バッチリ」
ローブ男「よし、じゃあ行こう」
――
ジャリッ ジャリッ ジャリッ……
男「植物が生い茂ってるな」
妖狐「シキと似た様な魔物、か……」
妖狐「シキと言えば、お主の腕に宿っておったな」
男「全然出てこないんだよなー」
妖狐「シキで何か出来んのか。例えばその腕に生えておる蔓を伸ばすとか」
男「それ、もう試したことあるんだよ」
男「でも全く言う事を聞いてくれなくて、少し泣ける」
男「シキにとって俺は、飽くまでただの寄生主ってだけで協力は面倒臭いのかもな」トントン
男「……反応無し、か」
妖狐「燃やすか」
男「うおっ!痛たたっ」ビチィッ
妖狐「蔓がさっきよりキツく巻き付いておるな」
妖狐「気が変わった。やはり燃やさんでおこうかのぅ?」チラッ
男「ん…?なんだか緩くなったな」シュル…
妖狐「やはり燃やすか」
男「痛いっ」ビチィッ
妖狐「燃やさん」
男「ふぅ……」シュル…
妖狐「燃やす」
男「痛いっ!」ビチィッ
妖狐「燃やさん」
男「ほぉ……」シュル…
妖狐「燃や―――
男「もういいって!」
妖狐「くふふっ……すまんすまん、面白くて つい、な」
男「身の危険を感じると反応するのか。なんて現金な奴だ」
妖狐「キンペン街では、あれ程饒舌に喋くりおったのにのぅ」
男「おーい、シキ。聞こえてるか?」
「燃やしたりしませんか…?」
妖狐「おぉ……」
男「何だか既視感のあるやりとりだな……」
男「燃やさないから出てきてくれ」
シキ「……」ヒョコ
男「シキ、久しいな」
シキ「お久しぶりです。……と言いましても、ずっと意識はあったのですけれど……」
男「何で出てこなかったんだ?」
シキ「あまり外に出ない方が迷惑では無いかなと思いまして……」
シキ「それと、傷がまだ回復していないので疲れるのです」
妖狐「傷?」
シキ「はい。原因はわからないのですけど、結構前に、急に体と引き裂かれまして……」
男「魂刀の時のアレか……」
シキ「どなたかが応急処置をしてくださって、何とか繋ぎ止め、その後はずっと回復に努めていました」
妖狐「ふぅむ……なるほどのぅ」
男「つまり、俺のせいで出てこれなかったってことか」
シキ「すみません」
男「シキのせいじゃないよ。俺にもっと力があれば……」
妖狐「そんなに悩まずとも、これから付けていけばよい」
男「……そうだな」
シキ「あの、ここはどこなのですか?」
男「ここはエルフが住んでる島らしいよ」
シキ「そう、なのですか。あまり長居したくは無い場所ですね……」
妖狐「どういうことじゃ?」
妖狐「どういうことじゃ?」
シキ「周辺に瘴気が満ちています。このままこの場に留まり続けると、体が痺れ じきに動けなくなるかと思われます」
妖狐「いつぞやの、瘴気の��みたいな所と言う訳―――
ガササッ
男「っ!魔物か…!」ドンッ
妖狐「のわわっ!」ズルッ
オホー!
男「やべっ、咄嗟に突き飛ばしたら……」
男「くそ……とっとと片付けて妖狐を―――
――
―
ズザザッ ザザザッゴロゴロロロッ……
妖狐「おほーーっ!」
妖狐「へぶっ……」ズテ
妖狐「いったた あ奴、わしを突き飛ばしおってからに……」
妖狐「跳ねながら転げ落ちたのは、坂…とは言い切れんな。急すぎてもはや若干、崖っぽいの……」
妖狐「おっふ……腰が……」ヨロ
妖狐「一先ず、どうするかのぅ」
妖狐「ここは瘴気が満ちておると言っておったな。適度に自身を《浄化》しつつ進むか……」
スタスタスタ…
―
―
スタ スタ スタ…
妖狐「……ふぅ」
妖狐「あー……」
妖狐「やってしもた」ガク
妖狐「この歳になって迷子とは……」
妖狐「い、いや!そもそも、わしらはこの島の地図を貰っておらん!」
妖狐「あんのローブめ……計画性の無さは男と一緒じゃな」
妖狐「……落ちた場から動いた、わしも計画性が無いの……」
―――
――
―
>こうして島を捜索し始めたは良いものの、少しして魔物から奇襲され
>そして、今に至る
妖狐「木々に覆われているからか、日が差し込んで来ない分、視界が悪いのぅ」
妖狐「はぁ……足もヘトヘトじゃぁ」
妖狐「お主、わしをおぶって―――
妖狐「……そうか、はぐれたんじゃったな……」
妖狐「…これも、良い機会かもしれんの」
妖狐「わしだって役に立つことを、あのローブにわからせてやるとするか」
スタ スタ スタ……
妖狐「疲れた。しんどい。もう動けん」
妖狐「空を見上げようとも、木々に隠れて日が見えん」
妖狐「そして帰路もわからずじまい。なんてこったパンナコッタ」
妖狐「腹が減ってひもじいのぅ……」
妖狐「……」
妖狐「わしは、わしだって、何か役に立つんじゃ……」
妖狐「いつまでも頼ってばかりじゃならんのは、わしが一番知っておる」
妖狐「じゃが、今も男に迷惑をかけておるのは明白。やはり―――
>自問自答をしつつ歩いていると、周囲が広く空いた場所に出る
妖狐「む…?ここだけ、木々がかき分けられておるの」
>丁度中央に、周りにある木等と比べると、一際大きな茎の様なものが生えている
妖狐「ここなら視界もよいな。少し休むか」スト
ザザァ……
>今までのジメッとした空気とは変わって、心地良い風が頬を撫でる
妖狐「……ふぅ」
妖狐「男は無事じゃろうか……」
妖狐「はー……疲れ――― チラッ
>ふと上を見上げると、何やら見慣れない黒い点の様なものが目に入った
ギョロッ
妖狐「」
ズダダダダダッッ
>駆ける 翔ける 賭ける
>草や枝が足に絡まろうと走り、飛び、相手が追ってきていない事を祈り ひたすら走る
妖狐「(ほわわわっ!ななななんじゃぁっ!?)」
妖狐「(くくく茎が、生きておったぞ!?)」
ズゴォッ! ズドォッ!
>木や根、蔓の様なものが地中から飛び出してくる
妖狐「ひいいいぃっ!追ってきておるわ!」ボシュッ
>走りつつ後方を確認し、的確に《火炎》を命中させる
妖狐「ほっほっ!わしにかかれば、草木なんぞちょろいわ」
妖狐「ほれほれ、もう終い―――
ゴゴゴゴゴッ……
ズドンッッ!
>先程地中から飛び出していたものより何倍も大きな茎が地を盛り上げ姿を表す
妖狐「こ、これは…いつぞやのシキの比では無いのぉ……」
妖狐「(姿は……わしらと似て形があるみたいじゃな……)」
妖狐「(外見は幼いおなごか……)」
シュルルッ
>対峙している魔物の左右から太い蔓が伸びてくる
妖狐「あぶなっ!」ヒョイッ
ビチチチチッ
>魔物は相手を捕らえられないと判断したのか、打ち付ける様に蔓を扱う
妖狐「痛たたたっ!邪魔くさいやつじゃな、《火炎》!!」ボシュッ
ボッ
>《火炎》が蔓を巻き込み燃え散らす
妖狐「はぁ、はぁ……けほっ……」ガク
妖狐「(何故じゃ……この程度でわしが疲れる筈が―――
妖狐「(そう、か。瘴気を吸いすぎたか)」
妖狐「(一旦《浄化》を使い体の毒を―――
ビチィッ
>思考を巡らせる為に意識を逸らした隙に、相手の茎で重い一撃を浴びる
妖狐「ぅぐっ……《火炎》」ボシュッ
妖狐「(相手の眼前で隙を晒すとは、わしもまだまだじゃな)」ポトッ
>側の森へと駆け、身を隠す
妖狐「(どうする、この瘴気が回った体で何が―――
妖狐「(いや考えるのは後じゃ。少しでも《浄化》で取り除かなければ……」シュゥゥ
妖狐「(む…?手首のミサンガが無い……)」
妖狐「(……あの一撃を食らった時に千切れたのか……)」
妖狐「(猫神と刀娘から貰った物じゃのに……)」
妖狐「(坂を転がり落ちるわ、ようやく腰を下ろせると思いきや魔物の本体に座るわ)」
妖狐「(挙句、大切なミサンガまで落とすんじゃからな……)」
妖狐「(どうして、わしはこんなにも……)」グス
ズルルルッ
>重い何かを地に引きずる音が聴こえる
妖狐「(……大丈夫、この場所がバレる訳が無い。やり過ごし、見計らって一先ず逃げ―――
ズルルルッ…… ズルルルッ…
>しかし、鈍い音は確実に少しずつ、そして迷い無くこちらへと近づいて来る
妖狐「(何故じゃ……何故わしの居場所が―――
妖狐「(臭い、か。あの蔓を打ち付けたのは、自身の臭いを敵に付着させる為……)」スンスン
妖狐「(やられた、のぅ。そもそも、敵の攻撃を食らうなどと、それ自体が既に間違いなんじゃろうな)」
妖狐「(わしは…皆の、男の役に立たず、ただの足手まといで終わるの、か……)」グス
妖狐「……」
妖狐「(……いいや。こんな所で終わる訳にはいかん)」ゴシゴシ
妖狐「(男と探すと約束したんじゃからな。それをほっぽり出すなどと言語道断)」
ズルルルッ… ズルルルッ……
妖狐「(一か八か、最大級の《火炎》を、あの本体と思わしき所にぶち当てれば……)」
>しかし、思考とは真逆に、体は言う事を効かない
妖狐「(…怖い。一人で立ち向かうのが、こんなにも恐怖を感じるなんての……)」
妖狐「(昔はどうとも思わなかったが……今は、死ぬ訳にはいかん)」
妖狐「(敵はすぐそこなんじゃ…!わしの体よ、動いてくれぬか…!)」
ズルルルッ… ズル…
>必死に恐怖を掻き消そうとしたその時―――
「おい。そこのお前」
妖狐「(っ…!)」
>聞き慣れた、少し低い声が静かに森へと響く
「お前のソレに絡まってる物は何だ」
「コレのコト?」
「驚いた。まさか喋れるなんてな」
妖狐「(男……)」ポロ
>男と再び会えた喜びで気が抜けそうになるが、何とか持ち直す
「アタリマエじゃない。そこらの低級なゴミと一緒にしないでくれるかしら」
男「ゴミ…?」
「そうよ。弱い魔物をゴミと言ったのよ」
男「そうか。それで、その手に持ってる物はどこで手に入れたんだ」
「フフ。ワタシが望んで手に入れた訳じゃ無いわ。勝手に絡まっていただけ」
男「勝手に、だと?」
「そうよ。よわーい魔物をいたぶってた時にねェ」
男「弱い魔物、ね……」
男「…この島の異変はお前が原因か」
「サァ?どうかしら」
男「……」
「……」
>その場で激戦を繰り広げているかの如く、両者の睨み合いが続く
男「そのミサンガ……俺に渡せ」
「ナゼ?」
男「俺の、大切な奴の物かもしれないからだ」
「ヘェ……なら、尚更渡したくないわね」
「ワタシ、そういう物を壊す時が最高に快感を感じるのよねェッ」ニタァ
ギチチッ
>魔物がミサンガを引き千切ろうとした刹那、男の剣が蔓を斬り飛ばした
スパッ…
「ギッ…!?」
男「二度は言わんぞ。渡せ」
「そぅ。だったら力づくて奪ってみなさいよッ」
男「シキ」
シキ「あの魔物の核は、丁度胸の辺にある珠です。それ以外の部分の損傷は効果ありません」ヒョコ
男「了解。さっささと片付けるか」
「フフ、人間の癖に随分と傲慢ね」
男「……俺達はお前の養分じゃ無い」
「なんですって…?」
男「いつまでも、お前にとって都合の良い存在が居続けると思うなよ」
男「弱かろうが強かろうが、この世に生きうる物は全て平等だ」
「ナニを言ってるの?強い者が弱い者を喰らう。何も間違っていないわ」
「ましてや、全て平等? 全く蔓がピクリとも動かない冗談ね」
男「だったら、そのまま枯れて死んでろ」
「イラつくわ。人間の癖に……」
男「あぁ、こっちだって苛々してる。魔物だからって調子に乗るなよ」
「……」
男「……」
>パキッとどこからか小枝の折れるような音がした瞬間、両者が動く
>魔物の蔓が鋭く尖り、左右から男を明確に突き殺そうと伸び 更に下方から木の根が足を絡めようと進む
男「邪魔だ」ボッ
>しかし男は《炎粉》で足元の根を焼き払い
>更に体を半回転させ左側の蔓を斬り裂き、流れる様な動きで右側の蔓も難無く躱す
男「シキ!!」
シキ「っはい!」シュルルッ
>男の言葉と共に、シキが蔓を伸ばしミサンガを奪い取る
「う、ウソ……人間なのに、魔物と同じ力を……」
男「不思議か?」
「アナタ、何なの……」
男「人間だよ。お前が言う 弱い、な」
「だったら…大人しくワタシに吸われてなさいッ!」シュルルッ
ビチィッ
>男の右腕にいくつもの相手の蔓が絡みつく
「フフ…そんな刃物でワタシを倒せると思って?」
男「思ってるさ。お前程度の相手ならな」
「生意気な人間ね。いいわ、アナタは特にいたぶって、じわじわと死を感じさせてアゲル」
「今更後悔しても遅いわよ?」
「あっ、そう言えばさっきの無様な魔物も、捕らえに行かなきゃいけないわね」
「フフ……ホント、あの必死に逃げる姿は笑えたわ」
男「……そいつはどんな魔物か、俺も見てみたいな」
「イイわよ。なら特別に、アナタとさっきの魔物、同時にいたぶり遊んでアゲルわ」
「せいぜい、あの動物の様な魔物のみたく、みっともない姿を晒して逃げ―――
スパパッ
>魔物が言葉を言い終える前に、男が左手を、まるで鬱陶しい虫を払うかの様な仕草で動かし蔓を斬り裂く
「えっ…?」
男「いい加減お前の話は飽きた」
男「丁度良い。二刀をお前で試すとするか」
男「《炎装》」ボォッ
>《炎粉》を放つ時の様なイメージを、右手の剣に集中させ、炎を纏わせる
男「もう片方はまだ難しいんだよなー」
タンッ
>男が軽く踏み込む
男「まずは、その周りの蔓を払うとするか」ググッ
>攻撃を躱しつつ左右の太い茎や蔦を男が斬り払っていく
「クッ…この!」
ボコォッ
>攻撃が効かないと知るや、魔物が男の足元から固く大きな根を突き出し地面を崩す
男「うおっ!?」グラッ
「残念ね、アナタはここで殺すことにしたわ」ヒュッ
>鋭く尖った何本もの蔓が伸び男を貫いた―――
―――筈だった
バチィッ
「ガっ……?!」
妖狐「はぁ…はぁ……どうじゃ、わしの炎は……」
「さっきの……」プスプス
男「妖狐……」
妖狐「男よ!今じゃッ!」
男「…っ、あぁ!」グッ
「フフ……そう、そんなに死にたいなら、ここでズタズタにして魔力を吸い尽くしてアゲルわ!!」シュルルッ
ズバンッ
>再度蔓が伸びるてくるも、男は軽く往なす
男「妖狐が弱いだって?調子に乗るのも大概にしろよ」
男「アイツはお前と違って、強くなろうとしてるんだよ」
男「必死で何が悪い。必死になれない奴こそ弱い奴だ」
男「そうやって人の努力を、何か頑張ろうとしている奴を嘲笑う奴が、俺は一番嫌いだ」
男「いつからこの島に、居着いたのかは知らんが」
男「それも今日で終わりだ」
男「お前のくだらない性格ごと叩き斬ってやるよッ!」ダンッ
「アナタも、随分とお喋りをするのね」
「ワタシを倒すの?笑わせてくれる」
「やってみなさいよ。どいつもこいつも必死になって……」
「そんなに努力したって、何にもならないのよッ!」シュルルッ
>行く手を阻む様に蔓や根が迫る
男「(あのローブの男が言っていた)」
男「(武器を振る時、振り初めから全力で振れと)」
――
ローブ男『いいか?二刀を扱う時は片方に意識を持って行き過ぎるな』
ローブ男『普通、武器を振る時は対象に当たる寸前に力を込める』
ローブ男『だが、二刀を扱う時はそれだと片方だけに意識が削がれ、結果的に反対側を振るのが遅れる』
ローブ男『そうならない為に、振り初めから全力で振り、振り抜いた後をイメージするんだ』
ローブ男『そうして全力で振った瞬間、すぐに反対側の腕へと意識を移せ』
ローブ男『後はさっき言ったように同じく振るだけだ』
ローブ男『最初はもつれると思うが、そこは慣れだな』
――
男「おぉッ…ぉぉ…!」
スパッ スパッ ズパンッッッ
>迫りくる攻撃を全て斬り裂く
「そ、そんな―――
男「何かを必死にすることが出来ないお前に、妖狐を弱いと言う資格は無いッ!!」ググッ
>魔物の本体に右手の剣で垂直斬りをし、左手の刀で同じ箇所を斬り上げる《丈華》
>更に右手で水平斬りをし、左手で垂直斬り《桜架》を放つ
「グぅ…ぎ…ぃ……」
ボト…ボト…
>草木や茎等、魔物に絡まっていたものが全て地に落ちた
男「…ハァ…はァ……」
ヒュッ ポテ…
妖狐「お、男よ…!何か落ちたぞ!」
男「へ? え、なんだよアレ……」
>魔物だったものの痕から、何やら珠のような物がコロコロと地面を転がっている
「(ひぃぃ……危うくやられる所だったわ)」
「(アイツラ、マヌケね。ワタシの存在に気がついて無いようね…!)」コロコロ
「(フフ……また体を作り直して今度こそ吸い取ってやるわ!)」コロコロ
男「……シキ」
シキ「はぁい」シュルルッ
「ほへ…?」フワッ
>シキが自身の蔓で珠を掴む
男「今のお前、最高に無様だな」
「ぴゃっ!?」
妖狐「な、なんじゃそれは?」
シキ「どうやら、先程の魔物の核ですね」
「ふ、フン!殺したければ殺すがいいわ!」
「でも覚えときなさいよね!ワタシの仲間がいずれ―――熱っあつつつ!」
男「妖狐、遠慮なく燃やせ」
妖狐「任せい」ボッ
「やめ、ちょ、熱いから!」
男「殺しても良いんだろ?」
「え、えぇそうよ?やれるもんなやってみなさいな!ただしワタシの仲間が―――熱っ!あついっつーのゴラァッ!」
男「うおっ、怖えー」
「フン!ようやくワタシに恐れを抱いたのね、遅いわよ」
「さっ、早くワタシを離しなさい。今なら見逃してアゲル」
「運が良かったわね?ワタシの様な心のひろーい相手で」
男「ふんっ!」ブンッ
ベチン
「痛っ!ちょ、地面に叩きつけないでよ!」
ベチン ベチン
「痛いってば、蔓を絡めながら何度も手元に戻して投げるのやめてくれない?」
ベチン ベチン ベチン
「痛いって。いい加減ワタシ怒るわよ?あーあ、怒っちゃおうかなぁ!」
ベチン ベチン ベチン ズパンッ
「痛いって言ってんのよおんどりゃァァ!!」
「何度も何度も、投げては引き戻し投げては引き戻し!」
「ワタシはヨーヨーかっつーの!」
「え?珠だからどちらかと言えばヨーヨー風船だろって?」
「どっちでもイイっつぅぅぅのぉおおおぉッッ!!!」
「ワタシは何なんだよぉぉ!クルクル回るかぽよんぽよん跳ねるかの違いだろうがよぉぉぉ!!!」
「元の姿は跳ねるものが無い?うるっっせぇぇぇ!そうだよ!胸なんて無ーよ!」
「ヨーヨー風船を胸に詰めて憧れのぽよよんバストにっ」
「って何言わせんのよッッ!」バチン
男「まーた強烈なのが来たなぁ」
妖狐「正直、騎士の中におる魔物で既に腹一杯じゃと言うのに……」
男「じゃ、燃やすか」
「ちょいちょいちょい!ワタシの仲間が黙ってないって―――べふっ」ベチン
男「少し黙っててくれるか。それ以上喋ると、お前を蹴りつつこの島を一周するからな」
「ひゃ、ひゃい……」
男「どうする、妖狐」
妖狐「わしに聞かれても困るんじゃが」
男「……どうするよ、シキ」
シキ「始末しましょう」
「お客さぁん、良い品ありますぜ!おぉ、お目が高い!それはなかなか珍しい魔力の珠なんで……おっほほ!お客さん気前が良いねぇ!即決、始末ですかい!」
ベチン
男「次は無いからな」
「ひゃい……」
妖狐「うーむ、こ奴を放置しておけば、またツマラン事をしでかしそうじゃしのぅ」
「ワタシ、オモシロイコト、デキルヨ」
ベチン
男「何喋ってんだよ。あと裏声で片言は腹立つからやめろ」
「はぁ?さっきから言いたい放題言ってくれるわねェ!」
男「すまん、火薬は持ってないんだ」
「砲台じゃねーつぅのぉぉ!!珠だから夜空に花を咲かせろって?花火かッ!どどーん!」
妖狐「ノリが良過ぎて若干引く」
シキ「始末しましょう」
「はぁ、はぁ!終わらない、くそ、まだ終わらないと言うのか…!……始末書がっ!」
ベチンッッ
男「鬱陶しい」
シキ「主様、放っておけば何をするかわかりません。ここで息の根を止めておくべきです」
「はーい!ワタシ、息をずっと止めていられまーす!……根っこのだけど!プフフッ」
男「よーし妖狐、こいつを投げてどこまで飛ぶか競争しようぜ」
妖狐「その前に燃やしてしまうかもしれんのぅ」
「へいへい!バッターへばってるぅ!チャンスよ!ここはアナタの得意なフォークで勝負するの!」
「(フフ……これで投げられた後、とっとと体を作り直しておさらばよ!)」
男「おらぁ!」ブンッ
ズベチンッッ
「ほべらっ!?」
妖狐「おぉ…地にめり込んだわ」
男「悪い、俺ノーコンなんだ」
「へへっ良い珠じゃねぇか……思わず痺れちまったぜ」
男「お前、仲間居るのか?」
「……」
男「今黙るなよ」
「……沈黙が答えよ」
シキ「やはり始末しましょう」
「アナタのとこの子、躾け悪すぎじゃない!?全く、近頃の若モンときたら……」
シキ「お黙りなさい」ギチチッ
「あっ……そこ、触らないで……」カァァ
妖狐「もう先に進まんか。こ奴に構っておると日が暮れる」
男「だな。でもこれ、どうしよう?」
シキ「叩き割れば致命傷を与えられると思います。その後は放っておけばじきに息絶えるでしょう」
「なにこの子、怖いわ」
男「地面に叩きつけまくってるのに、一向に割れないぞ?」ベチン
「フフン!ワタシはアナタ達みたいなショボくれた魔物とは違うのよ!」
「それこそ、魔力を断ち切る物でもない限りねェ!アーハッハッハッハァ!」
男「そういえばローブの男が、魔力をどうのこうの言ってたし殺せるな。いけるじゃん」
「おげげげっ……」
妖狐「……」
男「……」
シキ「……」
「……そうよ、死ぬわよ!アナタ達、ワタシのことバカだって思ってるんでしょ!」
「あーあ、こいつ自分で弱点言ってらぁ……なんて思ってるんでしょ!」
「口が滑ったどころかワタシの体は滑りまくっちゃってるよ!つるつるだしね!」
「そうよ言っちゃったわよ!対策されたらパッカリ珠が割れて中身がこんにちはしちゃうわよ!!」
「こんにちはー!今日も良い光合成日和ですねぇ!え?あぁっと、そちらはスプラウト栽培でしたか!つってねェッ!!」
男「終わったか?」
「…何よ。どうせアナタ、ワタシのことアホだと思ってるんでしょ」
「そうよアホよ!なーにこいつ独り言をずっと喋ってんだよ、ぷぷっもしかて流行りのボッチてやつかぁ?って思ってるんでしょ!!」
「ボッチで何が悪いのよッ!ワタシには植物が居るわ!植物は友達よ!つまりボッチじゃないのよ!!」
妖狐「で、男よ。これからどうする?」
男「そうだなぁ。とりあえず船に戻ろう」
妖狐「帰路を知っておるのか?」
男「わからんが、シキにマーキングをして貰いつつここまで来たから、それを辿っていけば……」
妖狐「わしが落ちた辺りまで戻れると言う訳か」
男「そういうこと」
「無視すんなあああぁぁッッ!!!」
男「っせーなぁ……」
妖狐「植物の者よ、静かにしておらんと本当に沈黙することになるぞ」
「植物の者って何よ」
妖狐「貴様の呼び名じゃ。わからんからそう呼ぶしか無かろう」
「ワタシはねェ、ちゃんとした形になってたでしょうが!」
妖狐「幼い娘には見えたが……」
男「この珠のまま言われてもなぁ」
シキ「始末しましょう」
「その子はさっきからそればっかりね!」
シキ「同族嫌悪という物です」
「はぁ?アナタと一緒にしないでくれるかしら」
「ワタシはねェ、植物系の中でも一際上位の―――痛い!」ギチチッ
シキ「どうでもいいです。主様に何かしたら許しませんからね」
「(このガキ……後で殺したるわ!」
ギチチチッ
シキ「聞こえています」
妖狐「はぁ…植娘よ、貴様をどうするかはローブの者に任せるから、それまで静かにしておけ」
「なによ、その植娘って」
妖狐「貴様の名じゃ」
「はぁぁぁ!?」
男「植娘うるさい」
シキ「静かにしてください」
植娘「ちょっと待ちなさいよ!誰がそんな許可を―――
男「それにしても、腹が減ったなぁ」
妖狐「そろそろお昼時かのぅ?」
男「早く戻って騎士さんの料理食いたいなぁ」
妖狐「じゃなっ」
植娘「んああああああぁぁぁッッッ!!!」
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました
植娘をどうしましょう
埋めるか同行させるか…
妖狐「これはメタネタを含む息抜きみたいなもんじゃから、苦手な人間はパパーっと下まで飛ばすのじゃぞ」
妖狐「いわゆる何でも有りな感じじゃからな」
男「えー、みんな俺が主人公じゃないとか騎士さんが主人公だとか言ってるみたいだが」
男「それは大きな間違いだと言いたい」
男「そもそも、俺は妖狐とイチャコラしたいが為に旅を始めた訳だ」
妖狐「は、ハッキリと言うな……戯けがっ」カァァ
男「こうやって妖狐をデレさせつつ、適当に思いついた各地をテキトーに旅すりゃ良いかなって最初は思ってた」
男「だから前スレはあのスレタイだったんだ」
男「しかしだ。この日記を見てくれ」スッ
妖狐「なんじゃこれは」
男「今までの旅の記録だ」
妖狐「ふむ……」ペラッ
男「さっきも言ったが、俺は普通にゆるぅく旅をしたかったんだ」
男「それが、やれ魂刀だの、やれ猫神の裏切りだの、やれ西の大地だの……」
男「一気にバトル物っぽくなってしまった」
男「なぁ……俺達は一体どこに向かってるんだ?」
妖狐「それは南の大地じゃろ」
男「物理的にじゃねぇよ!何やら各地の人間を殺し回ってるという、物騒な統主と言う奴に会う為に南の大地を目指してはいるが」
男「まっ、別に今の旅も楽しいぜ?この先に何があるのかワクワクするしな」
男「ただ、真面目な話のあとは皆と団欒したくなるのは許してほしい」
男「そういや……あのローブの男はなんなんだ?」
男「妖狐を足手まといだの、何か意味深な発言ばかりしやがって……」
男「俺は終始腹が立って仕方が無い」
妖狐「……すまんの」
男「気にするな。あいつの言うことなんか ほーん、くらいに捉えときゃ良いんだよ」
男「そして、今更ながら もはや前スレの序盤辺りなんかの記憶がほぼ無いことにも気がついた」
妖狐「お主は鳥頭かや?」
男「思い返すと、あの頃はまだ主人公だったんだ」
妖狐「先程、もはや忘れておると言わなかったか」
男「おばあちゃんはちょっと黙っててね」
妖狐「そのくだらん鳥頭に、旅の初めからここに至るまでを、わしが懇切丁寧に解説付きで話してやろうか?」イラッ
男「うるせぇ植娘投げつけるぞ」
妖狐「そいつを出すな。やかましくなる」
男「というか、それはどうでもいいんだ」
男「それより騎士さんが主人公って言われてる件についてだ」
妖狐「この書物によると、当初は男をサポートしつつ、割と何でもこなす便利な仲間と設定しておったらしい」ペラッ
妖狐「しかし刀娘を出すにあたって、わしと男の子供じゃと面白くないと思ったんで騎士と猫神の子にしたらしいぞ」
男「素直に俺と妖狐の子にしてくれよ!」
妖狐「わしらは初々しい恋人、騎士と猫神は夫婦の距離感と分ける事にしたらしい」
妖狐「まぁ、現時点ではわしらと騎士ら、どちらとも恋仲にすらなっていないがのぅ」
男「騎士さんの方は色んな意味でヤバそうなんだよな」
妖狐「うむ。そして決定的じゃったのが……」
男「トアール国で猫神の説得だな。っつーかトアール国って何だよ!」
妖狐「書物を見返すと、トアール国は『とある国』、シュウヘン村は『周辺の村』、キンペン街は『近辺の街』、イムサ国は『サムイ(寒い)国』と適当につけたら後々結構絡んでくる事になって後悔しておるらしい」ペラッ
妖狐「それと、日記を見て気づいたが……」
妖狐「多分わし以外誰も気づかんじゃろうな。男が猫神と一緒にわしの記憶を視ておった時、所々猫神は細工をしておった」
男「嘘だろ!?」
妖狐「じゃからアレは微妙にわしの記憶とは違う部分がある」
妖狐「大方、人間への復讐心でも煽って男を仲間に引き入れようとしたんじゃろうな」
妖狐「猫神は何かを企んでいる時は、『ニャフフ』などとカタカナで笑うんじゃよ」
男「じゃあ、純粋に笑ってる時はひらがな…?」
妖狐「うむ」
男「絶対気づいてる人いないだろ……」
妖狐「おっと、話が逸れたな」
妖狐「まぁそんな訳じゃ。お主の行いと騎士を比べれば妥当じゃろうな」
男「なんでだ!」
妖狐「お主には、騎士の様な包容力も無ければ、器用さも無い。時には相手の凝固な氷の心を溶かす優しさも無い。後、飯が美味い」
男「飯は関係無いだろ!」
妖狐「つまりじゃな、主役交代した方がよいのではないかや?」
男「ま、待て!俺は騎士さんより強い!」
妖狐「逆に言えば、騎士はまだまだ成長が見込めるという訳じゃな」
妖狐「そして、その様に強さだけで居座ろうとする所もまた、要因じゃろう」
男「うぐ……」
妖狐「諦めるんじゃな」
男「そん、な……俺が、主人公…なのに……」ガク
妖狐「……こほん」
妖狐「ま、まぁ?わしはどんなお主でも……その、気にせんぞ?」
男「妖狐ぉぉ!」ガバッ
妖狐「こ、これっ 急に抱きつくな……全く。ふふ……まだまだ子供じゃな」ナデナデ
猫神「何この茶番」
猫神「ていうか、騎士くんが主人公に決まってるんですけど!」
猫神「妖狐ちゃんは男くんに甘いんだから……」
騎士「おや、皆さんどうしたんです?」
猫神「騎士くぅん!丁度騎士くんの話をしてたんだよー」
猫神「騎士くんがこの物語の主人公だと、アタシは思うの!」
騎士「……そうですね」
妖狐「なん、じゃと……まさか認めるとは」
騎士「ですが、私が主人公であるなら、皆さんだって同じく主人公ですよ」
妖狐「どういうことじゃ?」
騎士「皆、それぞれ個々の物語を 今この瞬間も紡いでいるのです」
騎士「だとするなら、その主人公は自分以外、考えられないでしょう?」
騎士「ですから、私も主人公であると同時に、皆さんも主人公なんですよ」
騎士「誰を中心にでは無く、皆さん一人一人が中心なのです」
妖狐「つまり、今はたまたま騎士ばかり焦点が当たっておる、と」
騎士「そういう事です」
妖狐「なるほど―――
男「ごはぁっ!」ガクガク
妖狐「男ぉっ!?」
男「ひゅー……ひゅー……」プルプル
妖狐「き、騎士よ。もうそれくらいで勘弁してはくれぬか……」
妖狐「男が精神的ダメージで痙攣を起こしておる」
妖狐「男よ、主人公とはこういうことを言うのじゃぞ」
妖狐「もはや勝機は皆無。諦めよ」
男「今まで主人公面しててごめんなさい……」グス
男「俺は、俺なんかが……」
男「おれ……生きてて良いのかな…?」
妖狐「何を言っておる。お主、わしを独りにする気かや?」
男「妖狐……俺もう、生きていく自信無いよ……」
猫神「じゃ、ここで息の根を止めるかにゃー」
妖狐「其方は血も涙もないのか……」
騎士「男さん、顔を上げてください」スッ
騎士「私はそもそも、主人公では無いのですが……」
騎士「主人公と言う枠に収まることによって、男さんが輝けるのなら、私は譲ります」
騎士「私は、男さんと旅が出来るのであれば、脇役だろうが何だろうが喜んで受け入れますよ」ニコ
男「どぅぅる"るるるっっあ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っっっっ!!!」ゴロロロッ
妖狐「こ、これが主人公の力か……」
ガチャッ
刀娘「あれ、みんな何してるの?」
妖狐「刀娘よ!よい所に来たの!」
刀娘「うん…?」
妖狐「其方は、男と騎士、どちらが主人公ぽく見えるかのぅ?」
刀娘「騎士さん」
男「」
猫神「そ、即決……」
刀娘「(だってパパなんだもん)」
妖狐「あ、あははは……ま、まぁ……男も主人公に見えるよのぉ!?」
刀娘「うーん、見えない……」
妖狐「」
刀娘「でも、どっちかって言うと、お兄ちゃんかな」
男「え…?」
刀娘「たまにカッコイイし、最初の頃、みんなと解け込めない私のこと心配して何度も声をかけてくれたり」
刀娘「ちょっとヘンタイな所あるけど、それは男の子だから、普通…なのかな?」
刀娘「だから、私にとってはお兄ちゃんに近いよ」
男「刀娘……」キュン
刀娘「えへへっ」テレッ
男「もう一度お兄ちゃんって言ってくれ」
妖狐「死ね、灰になって死ね」
妖狐「そう言うことを抜かすから、駄目じゃと何故気づかん!」
男「妹が欲しかったんだよ!」
猫神「男お兄ちゃんっ」
男「最高だな」
騎士「兄さん」
男「弟も悪くない」
刀娘「お、お兄ちゃん……」モジモジ
男「可愛い、何でも好きな物買ってあげたくなる」
妖狐「お兄ちゃ―――って何やらせるんじゃ!」
男「おばあちゃんはちょっと……ごめんな」
妖狐「ぬがー!調子に乗りおって!」ダンダン
猫神「わわっ、揺らさないでよー」タユン
刀娘「静かにして……」タユン
妖狐「こんのっ乳袋共が!」バシッ
雷魔(騎士)「おほほっ、そのたわわなボインを揉みしだきたいナ!」
妖狐「貴様は急に入れ替わるな!」
騎士「イイじゃねぇか、ボインがそこにある。なら入れ替わらない選択肢は無いだろウ?」
妖狐「ぜんっぜん訳がわからぬわ!」
騎士「まァ……オマエは揺れる物が無いからなァ……ブハハッ!」
妖狐「よぅし、そこに立て。塵も残さず消し飛ばしてくれる」
騎士「男さァん!助けてくださイ!」
男「あ、え?戻ったの…?」
騎士「何とか入れ替わることガできましタ!」
妖狐「少し待て」ガシッ
騎士「へ…?」
妖狐「貴様……言葉の抑揚が少しおかしいのぅ?」
妖狐「騎士と入れ替わっておらぬな」
騎士「……ほゥ、よくわかったな」
妖狐「騎士を騙った事、後悔するがよい」ボォ…
猫神「よ、妖狐ちゃん!船燃やす気!?」
妖狐「こんなもの、燃やしても構わんじゃろ」
猫神「ダメだって!」
男「妖狐、落ち着け…………もう一度俺をお兄ちゃんと呼んでくれないか?」
猫神「男くんが落ち着いてよ!」
男「いやぁ、年齢はアレだが、見た目、的にはいけるかなーと」
妖狐「お主もそこの雷魔と一緒に灰になるか?」
男「はーい(灰)、なんつって―――
ドゴォ!
男「」
騎士「」
猫神「騎士くん大丈夫!?」
刀娘「(あぁ……部屋の天井が消し飛んだ……)」
―――
――
―
【にゃんにゃんらじお】
猫神「はいこんにちはー!」
猫神「さぁて、ね!始まりましたよ、にゃんにゃんらじお!」
猫神「にゃーんにゃんっ♪ はぁ……疲れる」
猫神「パーソナリティは、アタクシ猫神が努めさせて頂きますよー!」
猫神「そして今日はゲストに妖狐ちゃんをお呼びしました!」
妖狐「……ふん」
猫神「えーと、あはは……機嫌が悪そうですね」
猫神「(妖狐ちゃん!真面目にしないとパッカーンされちゃうよ!)」ヒソヒソ
妖狐「……」
妖狐「こーんこんっ こんにちはー!今日は呼んでくれて嬉しいぞっ☆」
猫神「(壊れ方が酷いにゃ……)」
猫神「じゃ、じゃあね。さっそくお便りを読んでみましょう」
猫神「ラジオネーム、『パラレルワールドの俺』さんから」
猫神「『魔術師が鬱陶しすぎるから落下死させて』」
猫神「えー……はい。魔術師さんですか」
妖狐「奴か……」
猫神「結構前にちょこっと登場しただけで凄くヘイトを集めた人、ですねえ」
猫神「この人ね、強さの表でも意外と上の方に居る方で驚きますよね」
妖狐「わしらより強いのか?何故じゃ……」
猫神「えーと、なになに……。関係者によると、魔術師は後々重要な役割で更にヘイトを集めることになる、と……」
妖狐「なんだか恐ろしいのぅ」
猫神「ネタバレもいいところにゃー。どうせエロいことしか言わないですよきっと」
猫神「しかし、今後更にヘイトを集めるらしいので、登場する回は見所ですねー」
猫神「続いてのお便りは、ラジオネーム、『騎士くんの圧倒的主人公感』さん」
猫神「『アホが各地を回り力を得つつ魔物化していく話かと思ったら、主人公違った』ですか……」
猫神「そうですね……アタシも当初はそう思っておりました」
猫神「あんな序盤で妖狐ちゃんの魔力を得て、半分魔物みたいな扱いになり 更にシキまで宿しちゃうんですからね」
妖狐「どんどん人間を辞めていくかと思いきや、それっきりじゃったな」
猫神「ほら、よくある日常ギャグぽい感じがいつの間に能力バトル物みたくなってる現象だにゃ」
妖狐「わしらも魔術と言うものを使ってる点では同じじゃな」
猫神「ま、まぁ……男くんはいつも斬られたり何かと苦戦してるし弱いからせーふせーふ」
猫神「それは置いといて。全く期待外れも良いところですよねぇ、だから主人公になれないんだにゃ」
猫神「それにまぁ……相手が騎士くんだもん!」
妖狐「随分と騎士の肩を持つんじゃな」
猫神「当たり前じゃん!騎士くんだよ!?」
妖狐「う、うむ……(訳がわからぬ)」
猫神「むしろ男くんが主人公って……ははっ、笑っちゃうよ」
妖狐「む…!植娘と対峙した時も凄く頼もしかったんじゃがな!」
猫神「うっそだぁ!ないない!」アハハ
妖狐「(ここまで言われるとはの。男よ、わしだけはお主の味方じゃからな……)」シュン
猫神「まぁ、ね。主人公に関しては上でやり取りしたからそれで終わりにしましょう」
猫神「続いては ラジオネーム、『熱い展開』さん」
猫神「『ローブ男の付けてる物、形見だとしたらやばいな、前スレで妖狐は袴、騎士はスカーフ装備してたし獣毛って妖狐のっぽいのがまた』」
猫神「これは、まぁ……もう見ている皆さんには明かしてますし、ネタバレにはなりませんので言いましょう」
猫神「ズバリ、ローブ男の正体は……未来の男くんなのです!」
妖狐「それはもう知っておろう。この便りの主は、装備について聞きたいみたいじゃぞ」
猫神「ふふん、任せなさい」
猫神「もう言っちゃうと、皆の形見を装備してるだけなんです」
猫神「熱い展開さんが言う様に、これは妖狐ちゃんが着ていた袴。その長さを調節してして、腰に巻いています」
猫神「後ろの腰に着けているのは妖狐ちゃんの尻尾ですねー。フワフワもふもふですよ」
猫神「それと騎士くんの……え、ウソ。騎士くんのスカーフ!?ハァハァ!」
妖狐「落ち着かんか。いつも匂っておるじゃろ」
猫神「そ、そだね……って何で知ってるの!」
妖狐「アレだけ大胆にしておれば、誰にでもわかるじゃろ」
猫神「にゃん、だと……」
妖狐「はぁ…。話を戻すぞ。形見ということは、わしや騎士はもう死んでおるのか?」
猫神「ローブ男くんの口ぶりからして、その可能性は大だよ」
妖狐「そう、か」
猫神「うん……アタシの髪留めつけてたからもアタシも死んでると思うケド」
妖狐「死人から物をふんだくるとは、許せん奴じゃな」
猫神「そりゃぁねぇ。大切な人達が亡くなったら、形見として持っておきたいにゃん?」
妖狐「そういうもんかのぅ」
猫神「そういうもんだにゃ。騎士くんが死ぬ時はワタシも一緒だケドね」
妖狐「う、うむ……」
猫神「……しんみりしちゃったね。次行こっか」
妖狐「……あぁ(主に其方のせいじゃが)」
猫神「ラジオネーム、『そろそろシキにも出番を…』さんから」
猫神「『寄生してるんだし宿主の戦力になってあげたり 植物だし腕から蔦とか蔓とか出して相手を捕まえたりとか移動に使ったりとか』」
妖狐「シキか……」
猫神「あの子、あんまり出てこないよね」
妖狐「思えば、わしと男が旅を始めて、初の魔物じゃったな」
猫神「アタシが連れてきた子でもあるにゃー」
妖狐「じゃが、最近なかなかの活躍を見せたぞ」
妖狐「わしの大切なミサンガを奪い返してくれたからのぅ!」
猫神「アタシと妖狐ちゃんと刀娘ちゃんの三人で、トウケン街で買ったお揃いのだよね」
妖狐「うむ!」
妖狐「そう言えば、シキの性別はどちらなんじゃ?」
妖狐「外見は雌に似ておるが……」
猫神「どちらかと言うと雄なんじゃないかな。男くんに寄生して随分と可愛くなっちゃったけど」
妖狐「あの外見で雄か」
猫神「ねー、いわゆる男の娘ってやつだね」
妖狐「わしはずっと雌かと思っておったんじゃが」
猫神「男くん、植娘ちゃんも寄生させるのかな?」
妖狐「わからん。わからんが、それだけはやめて欲しいところじゃな」
猫神「どして?」
妖狐「あんなもんが片腕におってみぃ。やかましくて落ち着かんわ」
猫神「あー、確かに。常に片腕にバンドのライブを開催してる状態だもんね」
妖狐「ばんど?わからぬが、とにかくやかましい」
猫神「シキくんは大人しいのにね」
妖狐「全く、少しは見習ってほしいものじゃな」
猫神「植娘ちゃんと言えば、どう読むのかまた混乱を呼んでるね」
妖狐「ウエコかショッコかの物議を醸しだしておるの」
猫神「アタシはショッコの方が可愛いと思うケドなー」
妖狐「わしはウエコの方がよい」
猫神「えー、ウエコって何か……ババ臭い」
妖狐「なんじゃとぉ!?」
妖狐「全国のウエコさんに失礼じゃろ!」
猫神「じゃあ間を取って、ショクコちゃん」
妖狐「うーむ、それだと言いにくくないか?」
猫神「うえむすめ」
妖狐「もう何がなんだかわからぬ」
猫神「しょくむすめ」
妖狐「それじゃと食べる娘みたいになるじゃろ」
妖狐「なんじゃ、食べる娘って。自己紹介してどうする」
猫神「ショッコ……でもショッコも何かおかしくない?」
妖狐「おかしいと言われても、元々そんなもんじゃろ」
妖狐「其方だって猫娘では無く、猫神じゃしの」
猫神「ワタシは神だからね!」
妖狐「そうかそうか…。それより、何やらわしと植娘が合体…? とやらを望む輩がおるんじゃが」
猫神「合体?アハハっ、妖狐ちゃんが?植娘ちゃんと?ぷっくく……」スッ
妖狐「は…?なんじゃこの紙は?」
猫神「ニャフッ。まぁまぁ、アタシは植娘ちゃん役ね」
妖狐「…?」
―――
妖狐「植娘よ!そのミサンガを早く着けるのじゃ!」
妖狐「それを着けさえすれば、わしと合体できる!」
植娘「ハァ?なんでアナタと合体なんてしなきゃいけないワケ?」
植娘「こんなもん……どりゃぁッ!」ブンッ
妖狐「んなっ!ミサンガを捨ておった!」
植娘「あんな敵、ワタシ一人で充分なんですけどぉ!」
植娘「アナタと合体するなら死んだ方がマシよ!」
妖狐「今そんなことを言っておる場合か!」
植娘「どりゃらららららッッッ!!」シュルルルルッッッ
妖狐「くっ、植娘の奴 ヤケになって蔓のグミ撃ちを…!」
ズガァンッ!
……モクモクモク……
植娘「ハァ……ハァ…!やったかしら!?」
ヒュッ
ドゴォ!
植娘「グハァッ!」ヒューン ドゴ!
妖狐「植娘ぉぉぉ!」
妖狐「やはり、あんなもんじゃ全く効いておらん!」
妖狐「くそ!どこじゃ!落ちたミサンガは―――
植娘「うおおおおおぉっっ!!」ズババババ
ドスッ!
植娘「ゴハッ…!」ヒューン ドガァン!
妖狐「くっ……無謀に攻めようともやはり殴り飛ばされるか…!」
妖狐「このままじゃと、植娘が…!」キョロキョロ
妖狐「むっ…?あった!あったぞ!!」
妖狐「植娘よ!今度こそ着けるんじゃ!」ブンッ
植娘「だから、ワタシは―――
妖狐「このまま負けてもよいのか!男を、大切な皆を助けるにはコレしか無いんじゃ!」
妖狐「もう、わしらしか奴を倒せんのじゃぁ!」
植娘「……」
植娘「……チッ。ええぃ、クソ!」ゴソゴソ
植娘「着けたぞ!コレでいいんだな!?」
妖狐「う、うむ!コレで―――おわっ」グンッ
植娘「ふにゃっ!?」グンッ
バチーンッ
ピカー!
「う、ん……ん?」
「よっしゃーおらぁぁぁッッ!合体してやったぞおんどりゃァァ!!」ヒュンッ
ドカーンッ!
「くふっ、アナタ弱いのぉ!」
「本気でやってその程度なのかしら」
「フフ……植娘と妖狐が合体して、植狐ってところかのぅ?」
―――
猫神「みたいな、某龍玉の様な展開が真っ先に思いつくにゃ」
妖狐「なんっっじゃこれはっ!」バチーンッ
妖狐「真面目に読んだわしもアホじゃが……」
妖狐「そもそも、ミサンガで合体って意味がわからぬわ」
猫神「そこはほら、オリジナリティを出していこう」
妖狐「そもそも、植娘と妖狐でショッコって変わってないじゃろ!」
猫神「むしろ良い感じに合体出来てるよ!」
猫神「デブの妖狐ちゃんとか見たくないし」
妖狐「あの合体は失敗せん筈じゃろ」
猫神「……」
猫神「はーい!ということで、そろそろお時間がやって参りました!」
妖狐「無視か」
猫神「リスナーのみんなごめんねー、お便りが届いたらまた放送するよ♪」
妖狐「便りは何でも構わんからの。ここにある程度たまり次第、答えさせて貰う」
猫神「こんなラジオ聴いてらんねーよ!って言う人が一杯居るともう放送は無いかもにゃ」
妖狐「む?勝手にわしらだけでやればよかろう」
猫神「妖狐ちゃん、大人の事情だにゃん」
猫神「あと妖狐ちゃんは、次あるとしたら居ないよ」
妖狐「何故に!?」
猫神「妖狐ちゃんは飽くまでゲストだからね」
猫神「次のゲストは決まって無いけど、連続で呼ぶとつまらないにゃいからねぇ」
妖狐「ま、待て!それじゃとわしがツマラン奴に聞こえる!」
猫神「……」
妖狐「何故黙る」
猫神「だって……ねぇ?」
妖狐「なんじゃ、申してみぃ」
猫神「ここの場くらいもっとはっちゃけて良いんだよ?」
猫神「今の妖狐ちゃんはまだ、自制心を感じるにゃ」
妖狐「わ、わしは―――
猫神「はい!という訳で、猫神の【にゃんにゃんらじお】をお送りしましたーっ!」
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました
羽目を外し過ぎましたでしょうか…?
魔王と村人もこの人のか?
今読み返してて、おっ?っとなったぜ
完結させてくれー
>一方ローブ男と刀娘の二人は―――
ローブ男「……あれ?」
刀娘「どうしたの?」
ローブ男「い、いや……」
スタ スタ スタ…
ローブ男「……何故だ」
刀娘「次繰り返したら言っても良い?」
ローブ男「あ、あぁ……」
スタ スタ スタ…
ローブ男「……」
刀娘「……」
ローブ男「…………」
刀娘「迷ったよね?」
ローブ男「くそ!なんでだ!?」
ローブ男「おかしい……この島がおかしいんだ!」
刀娘「見て、ボク達が乗って来た船がまだ見えるよ」
ローブ男「げ、幻覚だ……そうだ、これは幻覚なんだ」
ローブ男「はは……そうだ。この島に居る植物の魔物が俺達に―――
刀娘「方向音痴なの、認めようね」
ローブ男「嘘だろ……俺が?方向音痴?」
刀娘「うん」
ローブ男「だ、だったら刀娘が案内してくれよ」
ローブ男「俺は刀娘について行くから」
ローブ男「その代わり、刀娘も迷ったら俺は方向音痴じゃないっ」
刀娘「わかった……ケド、どこに行こうとしてたの?」
ローブ男「ここから丁度見える、あの山……と言うより崖…? だ」
刀娘「わかった、行こう」
スタ スタ スタ
ローブ男「おいおい、そんなにさっさと進んでいいのか?これじゃあ迷っちまうぜ」
スタ スタ スタ
ローブ男「あ、あれれー?なんだか目的地がぐんぐん近づいてくるなー」
スタ スタ スタ……
ローブ男「……」
刀娘「ここ?」
ローブ男「…すみませんでした」
ローブ男「あの、何故道がわかったんです…?」
刀娘「地面見たらわかるよ」
ローブ男「地面…?普通の土だよな」
刀娘「そう?この地面、あの崖の土と質感が似てるんだ」
刀娘「だからそれを辿って行っただけだよ」
刀娘「目的地に近くなるにつれて、濃度が濃くなっていってる」
刀娘「多分、一部崩れたんじゃないかな」
ローブ男「はえー……」
ローブ男「(そういや、猫神は地属性の魔術が得意だったっけ)」
ローブ男「お前も、しっかり成長してんだなぁ」ナデナデ
刀娘「えへへ……」
ローブ男「それで、ここに来たのは理由があってな」
ローブ男「そもそも、この植物は俺達が見た事も無い―――
ローブ男「いや、刀娘は小さかったから、この島の事は覚えてないだろうが」
ローブ男「あっちで俺達がこの島に来た時は、既に事が終わった後だったんだ」
刀娘「終わった…?」
ローブ男「そうだ。何か既視感があると思ってたが、ようやく思い出した」
ローブ男「この島の植物は確かに、あっちの俺達が居た世界でも住み着いてたんだ」
ローブ男「で、ここで植物を焼き払った奴が出てくる」
刀娘「その人がこの植物を…?」
ローブ男「あぁ。それをやったのはお前達も一度会ったことのある、炎飛竜だ」
ローブ男「あっちでは金羊の情報屋に、依頼されたとか言ってたっけな……」
ローブ男「で、多分その焼き払われる日は、今より少し後だったんだろう」
ローブ男「それより俺達が早く来てしまった。だから俺も見覚えが無かったんだ」
ローブ男「ちょっとややこしいか」
刀娘「えぇと…つまり、南の大地の時みたく、行くのが早すぎたってこと?」
ローブ男「そうなる」
刀娘「それは、マズイことなの…?」
ローブ男「……正直どうなんだろうな」
ローブ男「あっちでは遅すぎた。でも早ければ良いってもんじゃないと、南の大地でわかったし……」
ローブ男「早く事が進み過ぎると、予期せぬ事態ばかり起こる」
ローブ男「まぁ、俺達の辿って来た時間の数年を、すっ飛ばして進んでる訳だからそうなるか」
刀娘「男さん……」
ローブ男「っと、話が逸れたな。で、ここに来たのはな」
ローブ男「多分、この中にエルフ達がシェルターを作って避難してる筈なんだ」
刀娘「なるほど」
ローブ男「あっちでエルフから、チラッと聞いてな」
ローブ男「ここだと思う。……ここだと思いたい」
刀娘「なんでちょっと自信無さげに言うの」
ローブ男「記憶があやふやでなぁ。もしかしたら違う場所かもしれない」
ローブ男「ま、一先ず調べてから考えるか」
刀娘「うん」コク
――
――
ローブ男「うぐごごごご!」ググッ
ローブ男「開かねぇぇ!何だこの扉は!」
刀娘「えいっ」ドゴッ
ローブ男「……」
刀娘「頑丈な扉だね。よっと」ベコ
ローブ男「可愛い声して、恐ろしいな……」
刀娘「か、可愛い……」カァァ
刀娘「も、もうっ 冗談はやめてよっ」ズドンッ
ローブ男「ぐえっ?!」
――
ローブ男「はぁ…はぁ……ようやく中には入れたな」
刀娘「まさか三層も扉が続いてるなんて驚きだよね」
ローブ男「疲れた理由はそれじゃないんだがな……」
ローブ男「(褒める度に、怪力で照れ隠しの一撃を貰うとは……)」
「だ、誰だ!」
ローブ男「ん…?」
「ア、アンタ…どうやってこの中に……」
刀娘「ごめん、扉は壊しちゃった」
「そうか、壊したのか―――壊した!?アレをか!?」
刀娘「うん」
「嘘だろ……並の魔物の力程度じゃビクともしない強度な筈なんだがな……」
ローブ男「んじゃ、こいつが並の力じゃなかっただけだな」
「そうなる、な……」
「で?我らを殺しに来たのか…?」
ローブ男「ククッ……よくわかっな?」ニヤリ
「ぐっ…!やはり―――
刀娘「こらっ。助けに来たんでしょ?」ズドッ
ローブ男「あ、あの……もう少しツッコミは優しく……」
ローブ男「刀娘のは、ペチッじゃなくてズドッて音が重いからね?」
刀娘「これ以上、手加減は難しいよ……」
「な、なぁ…それで、どっちなんだ?」
ローブ男「ん、あぁ。助けに来たぞ」
「ほ、本当か!?」
ローブ男「嘘だ」
「なんなんだアンタは!」
刀娘「もぅ、嘘はダメだよ?」ズドッ
ローブ男「しゅまん、本当だ」
「本当に本当か?」
ローブ男「本当に本当だ」
刀娘「えぇと、エルフさんで良いのかな。今状況はどうなってるの?」
「そうだ。……少し前にこの島に魔物が住み着いてな……」
「ヤツめ、我ら同胞を捕らえ、どこぞの住処へと攫って行くのだ」
ローブ男「この奥に他のエルフは居るのか?」
「あぁ。幸い、捕らえられたのは数人だ」
刀娘「その住処って、一体どこなの?」
「それが、私もわからないんだ」
ローブ男「ふぅむ……どうしたもの―――
ゴゴゴゴゴゴッッ
「な、なんだ!?この揺れは!」
ローブ男「刀娘、そこで待ってろ」タッ
――
ボォッッ……
>外に出て辺りを見渡すと、遠くで火柱が立っているのを目視する
>その火柱が消えた直後、辺りの植物がシナシナとヘタって地に倒れていった
ローブ男「コレは……」
ローブ男「ははっ、アイツらやったんだな」
ローブ男「タイミング良すぎだろ、全く」
ローブ男「(妖狐達には、まだ荷が重いと思ってはいたが……)」
ローブ男「(案外、アイツらも俺が思ってるより強いのかもな)」
ローブ男「後は捕らえられたエルフを助けるだけだな」
ローブ男「一先ず、エルフ達を村に戻らせ、俺達は船に戻るか」
―――
刀娘「あっ、どうだった?」
ローブ男「おう。妖狐達がどうやら倒したみたいだ」
「倒した…?まさかここに住み着いた魔物をか!?」
ローブ男「そうだよ。捕らえられたエルフ達も、俺らが探すから安心してくれ」
「何故、我らを助けてくれるのだ…?」
「言ってはなんだが、私とアンタ達には何も接点が無い筈だが……」
ローブ男「そりゃ勿論、取り引きをする為だ」
「取り引き、だと…?」
ローブ男「俺達の武器を打ち直して欲しい」
「打ち直す……鍛冶か」
「……それを何に使う」
ローブ男「ざっくり言うと、魔物を殺す為だな」
「……我らは殺しの道具なぞ造りたくは無い」
ローブ男「別に、何も無差別に振るうって訳じゃないさ」
ローブ男「それに、俺達と言ったが……正確には俺と この横に居る刀娘以外の奴の武器だ」
「アンタと、その横のは必要無いのか?」
ローブ男「もう持ってるからな」
「そうか……」
「助けて貰ったのは感謝する」
「だが、無条件で武器を造る訳にはいかない」
ローブ男「その条件は?」
「我らの武器を振るう、その者達に会ってから判断しても良いだろうか」
「それに、鍛冶長は少しお固い人でな……」
ローブ男「いいよ。良い返事を待ってる」
ローブ男「一先ず、皆を連れて村に戻ってくれ」
「あ、あぁ…わかった」
ローブ男「俺達も仲間の所へ、安否の報告に行く」
「村の場所はわかるか?」
ローブ男「それは大丈夫だ」
刀娘「教えてください」
ローブ男「いや、俺は知って―――
刀娘「教えてください。男さんは役に立ちませんので」
ローブ男「これには流石の俺も泣いちゃう」
「わ、わかった。村の場所はだな―――
――
――
―船内―
騎士「皆さん遅いですね。そろそろ日が真上に登る頃なのですが……」
猫神「まー、大丈夫なんじゃにゃい?」
猫神「なんて言ったって、ローブくんが居るんだし」
騎士「そんなに信頼出来る方なんですか…?」
猫神「うんっ」
騎士「そうですか。猫神さんがそう言うなのなら、そうなんでしょうね」
騎士「私達は待つ事しか出来ず歯痒いですが、信じて待ちましょうか」
猫神「にゃふふっ。だねー」
猫神「そうだ。騎士くん、アタシと模擬戦でもしてみる?」
騎士「えぇ……猫神さんには勝てませんよ」
猫神「今の騎士くんなら、魔術も扱えるじゃない」
騎士「まだまだ、小さな力しか使えません」
猫神「まぁまぁそう言わずにっ」グイッ
騎士「わっ とと……」
――
猫神「船の近くでなら、大丈夫ね」
騎士「私は女性に武器を向けるのは……」
猫神「もぅ!それはカッコいいケド、観念しなさいっ」
騎士「わかりましたよ……」
猫神「一応、寸止めね」
騎士「はい」
猫神「……」スッ
騎士「……」スッ
>互いに少し距離を取る
>この間合いなら、アタシでも一瞬で詰められる距離だ
猫神「騎士くんからで良いよ」
騎士「いえいえ、ここは猫神さんからどうぞ。レディーファーストと言うものです」
猫神「にゃふ。ありがと!」
>あぁもう、カッコいい! でもここは心を山猫にしなきゃいけない
>騎士くんは自信がまだ無さそう
>だからアタシと交えて、少しでも自分が強いって事を自覚し、自信が付けば良いんだケド―――
猫神「じゃ、行くよー!」ダンッ
>地に足がめり込む程強く踏み込み 騎士との間合いを一瞬で詰め
>腰から小太刀を逆手に引き抜き、騎士の首元目掛けて振り抜く
騎士「はっ!」
キィンッ
>それを予測していたかの様に、騎士が同じく小太刀で綺麗に受け止める
猫神「にゃら、これはどうか……にゃ!」ブンッ
>アタシはすかさず屈んで体を半回転させ、足払いをする
騎士「のわっ」ヨロ
>しかし、騎士は辛うじて体勢を立て直し、再びアタシと距離を取った
騎士「やはり早いですね……」
猫神「アタシは、一発目で仕留められると思ってたんだけどにゃー」クルクル
>小太刀を軽く手で弄びつつ話す
騎士「たまたまですよ」
猫神「じゃ、ここからは魔術を使ってみるかにゃん」
騎士「そう言えば、私は魔術を扱って戦うのは初ですね……」
猫神「ついでに慣れておくと良いよ」スッ
>地に手をつけ、騎士の足元の地面を盛り上げる
>これは、土であればその形状を変化させられる魔術《震異》だ
騎士「くっ…!」
騎士「そう来ると思っていました!」ヒュッ
猫神「ふにゃ!?」
>驚いた、まさか持っていた小太刀を投げてくるとは
>反応が遅れ、辛うじで避けたその隙に、逆に騎士が間合いを詰めて来る―――
>いつの間に取り出したのか、先程まで持っていなかった、騎士の腕より少し長い剣を手に携えて
猫神「(ちょちょ、武器を複数持つのは良いんだケド―――
猫神「(その構え、絶対アタシを斬る気だよね!?)」
騎士「これで、終わり―――
猫神「まだまだ……にゃんっ」パンッ
>アタシは両手を合わせ、そこから強烈な光を一瞬放つ
>これは相手の視界を眩ませ少しの間奪う、不意打ち用の魔術《猫騙視》だ
騎士「うっ、目が……」
猫神「油断は禁物だよ、騎士くん!」
騎士「なら、こちらも使いますよ…!」バチッ
カッッ!
>アタシのより大きな光が騎士の体から放たれる
猫神「ま、眩しっ!」タッ
>思わず後ろに飛び退き、間合いを取る
猫神「(痛た……なんだか体が少し痺れる……)」
騎士「ふふ、少し痺れて動きが鈍る筈です」
騎士「(光で目を眩ませ、ついでに少し弱い雷撃を浴びせる……まぁ猫神さんのを真似ただけなんですけども)」
騎士「(今の私では、これくらいが限界……)」
猫神「えー、そんなのズルいよ騎士くん」
騎士「多分、猫神さんは痺れさせてやっと、こちらはついていけると思うんですよね」
猫神「にゃら、こっちもトッテオキを見せてあげるにゃんっ」スッ
>再度、騎士の足元の地を、今度は少し低く そして鋭く尖らせ盛り上げる
ゴゴッ
騎士「二度、同じ手には引っかかりませんよ!」タンッ
>騎士が素早く飛び退き、回避する
>しかし、アタシの目的は地を崩す事では無い
>狙ったのは―――
騎士「っむ!?」ググッ
騎士「か、体が動か…ない…!」
>―――そう、地に映る騎士の影だ
>今まさに、盛り上げた地を鋭く尖らせ 騎士の影を貫いている
>場所は土限定だが、対象の影を貫き動きを停める魔術《影駐》だ
猫神「今度こそ、終わりにするにゃっ」タンッ
>勢い良く間合いを詰める。これで終わりだ
>騎士の首元に小太刀を突き付け、敗北宣言を取り、アタシの勝利―――
>―――の筈だった
騎士「しっ!」ブンッ
>騎士が持っていた剣を投げる
>それはアタシが居る場所とは全く違う空を貫き、通り過ぎる
>最後の悪足掻きかに思えたその行動は、思いもよらぬ事態を引き起こした
バチチチッッ
猫神「な、なに…?」
>雷撃が顔を掠めつつ後方に直撃した
>その場所は―――アタシが《影駐》の為に盛り上げた地面だ
騎士「私はまだ、思い通りに力を扱えませんからね」
騎士「剣を避雷針代わりにさせて貰いましたよ」スクッ
>雷撃で盛り上げた地面が崩れ、《影駐》の拘束が解ける
猫神「にゃるほど……でももう遅いにゃ!」ヒュン
>騎士に小太刀を振り抜く。先程剣を投げた、ならもう武器を取り出す暇は無い筈だ
>今度こそ、この一撃で終わる。そう確信したが―――
騎士「武器なら‘‘まだ’’ありますよ!」バチッ
>背後から小太刀がアタシの頭に飛んで来る
>こんな芸当、いつ練習したのか。武器を引き寄せる事まで出来るなんて……
>この小太刀は、騎士が最初に隙を作る為に投げたものだ
>今からじゃ対処が間に合わない。仮に出来たとしても、目の前には騎士が居る
>近接の肉弾戦に持ち込まれると、分が悪い……
>にゃはは、負けちゃったにゃ―――
騎士「おっとと、危ない」パシッ
猫神「っ……」
騎士「模擬戦ですからね。怪我をさせる訳にはいきません」
猫神「ふにぁ……」フラッ
騎士「ははは……疲れましたね」ギュッ
猫神「んにゃぁ。騎士くん、結構本気でアタシを倒そうとしてなかった?」
騎士「その通りです。猫神さん相手に手を抜けば、勝機はありませんからね……」
猫神「にゃはは、それは光栄だにゃん」
猫神「……あれ?」
騎士「どうしました?」
猫神「……はっ!」
猫神「(今自然と騎士くんに抱き着いちゃってる…!)」
猫神「(にゃふぅ……あったかい)」
猫神「(それにこの匂い、落ち着くにゃぁ)」スンスン
猫神「(……今、アタシが上で騎士くんが若干、下に倒れる様な形で抱き合ってるよね……)」
騎士「あ、あの……」
猫神「(これ、もしかしてこのまま押し倒せば……)」
猫神「(騎士くんと既成事実が作れる…!!)」ハァハァ
猫神「ニャフフ……」
騎士「猫神さん、目が怖い」
猫神「騎士くん……野外でアレだけど、ヤっちゃおっか?」グイッ
騎士「え、ちょ、何を!?」
猫神「雄と雌がすることって言えば……一つしか無いニャン?」
騎士「えぇ!?ていうかここで!?」
騎士「いやそもそも場所は関係無いですけど!」
猫神「だよねだよね!じゃあここでシよっ」ググッ
騎士「違いますよ!そういう意味で言ったのでは―――強っ!力強い!」バタバタ
猫神「大丈夫だよ、アタシに任せて!」
騎士「嫌ですよ!何かマズイことが起ころうとしてるのだけはわかります!」
猫神「ほら、模擬戦で騎士くんが勝ったんだし」
猫神「勝者の特権ってことで、アタシを好きにして……イイよ?」ポッ
騎士「特権と言うのでしたら、拒否権くらいくださいよ!」
猫神「はい か イエスね」カチャカチャ
騎士「どっちも同じ意味なんですが!」
――
>模擬戦が始まる数分前―――
ローブ男「無事、戻ってこれたな」
刀娘「お疲れ様っ」
ローブ男「妖狐達は……まだか」
刀娘「もしかしたら船に戻ってるのかも」
ローブ男「じゃあ船の中を覗いて―――ん?」
ローブ男「あれは……猫神と騎士さんだな」
刀娘「二人で何してるんだろう?」
ローブ男「うーん、武器まで持ち出してどうしたんだろうな」
刀娘「喧嘩、じゃないよね…?」
ローブ男「まさか。仮にそうだとしても、どちらかが先に折れるだろ」
ローブ男「ましてや、武器まで持ち出して喧嘩なんてな」
刀娘「そっか……」
ガササッ…
妖狐「む…?其方らも無事じゃったか」
男「おー、戻ってたんだな」
刀娘「うんっ、私達もさっきここに着いた所だよ」
妖狐「何じゃ?船へ戻らんのか?」
ローブ男「それがな……」スッ
男「あれは……猫神と騎士さんだな」
妖狐「何をしてるんじゃろうか」
男「うーん、武器まで持ち出してどうしたんだろうな」
刀娘「同じこと言ってる……」
ローブ男「流石だな」
妖狐「あ奴ら、何やら構えだしたぞ」
男「お、おいおい……止めるか?」
ローブ男「いや、もう少し様子を見よう」
刀娘「わわっ、猫神さんが騎士さんに斬りかかったよ!?」
妖狐「本当に大丈夫なんじゃろうな?」
ローブ男「殺し合いでは無いだろ。なんせあの二人だしな」
男「地面の形状を変える魔術か……」
男「いつ見ても、便利だよなぁ」
ローブ男「騎士さん、あっちのより強いな……」ボソ
妖狐「のぅ、騎士の動きが止まっているようじゃが」
ローブ男「あれも猫神の魔術だな。影をどうのって言ってた覚えがある」
ローブ男「あれにかかると酷い目に合うぜ?体が固定される分、連続で殴られるからな」
男「経験談みたく聞こえる……」
刀娘「あっ、騎士さんが剣を投げて―――
妖狐「あばばばばっっ」ビリリッ
男「妖狐どうした!?」
ローブ男「うわー、騎士さんはまだちゃんと力を扱えてないな」
ローブ男「剣を避雷針代わりにしたっぽいが、漏れた分が運悪く妖狐に飛び火したようだ」
妖狐「し、しびれりゅ……」ヨロ
刀娘「二人の決着がついたみたい」
ローブ男「猫神も騎士さんも、強いじゃないか」
ローブ男「これなら、南の大地でも十分戦えるな」
刀娘「良かったぁ」
男「おい待て、あの二人……」
ローブ男「げっ。あいつら ここでおっ始める気か…!?」
刀娘「わ、わわっ……」カァァ
男「ろ、ローブの。行ってきてくれよ……」
ローブ男「ばっ、無理だろ!」
男「刀娘は―――
刀娘「ふみゅ……」ヘタ
男「恥ずかしさで座り込んでしまった……」
ローブ男「妖狐もヘバッてるし、俺らしか居ないぞ……」
男「ヤバイヤバイ、今もこうしてるうちに猫神がズボンに手をかけて―――
ローブ男「え、ええぃ!行くぞ!」グイッ
男「い、嫌だ!猫神に殺される!」
ローブ男「じゃあこのまま眺めてろってか!?」
男「それはそれで、気まずい!」
ローブ男「なら行くしかないだろ!」
男「……わかったよ。妖狐、刀娘、立てるか?」
妖狐「うむぅ……」ヨロヨロ
刀娘「うん……」
ザッ……
ローブ男「戻ったぞー」
刀娘「お待たせ……」
男「お、遅くなった」
妖狐「う、うむ……」
猫神「……」
猫神「……チッ」
騎士「皆さん!!良かった、本当に色んな意味で良かった……」
猫神「みんな遅かったにゃー。お疲れ様っ」
ローブ男「あ、あぁ……」
妖狐「其方らよ、別にやるなとは言わんがせめて場所を―――むぐぅ?!」
男「あ、あー!猫神と騎士さんは何してたんだ?」ギュッ
猫神「アタシ達はちょっと模擬戦をしてたんだよ」
騎士「模擬戦だけで済んで良かったですけれどね……」
男「そ、そうなんだー はは……」
刀娘「そ、それより…エルフさん達の村に行ってみようよ」
猫神「あ、もう助けたの?」
ローブ男「おう」
猫神「案外早かったねぇ」
男「えー、こほん……」
男「皆に少し相談がある」
騎士「どうしたんです?改まって」
男「妖狐、アレを……」
妖狐「む?あぁ、アレか」ゴソゴソ
刀娘「…?」
植娘「ぷはー!ようやく出られた!!」
植娘「ちょっとお前ら!どんっっっだけポケットの中に突っ込んどく気じゃぁ!」
植娘「ポケットの中には植娘がひとつ!」
植娘「ポケットをたたくと植娘がふたつ!」
植娘「もひとつたたくと植娘がみっつ!」
植娘「たたいてみるたび植娘が増ーえーるー」
植娘「ってワタシはビスケットかっつーの!!増えるとか怖いわ!」
ローブ男「なんだこの煩いのは」チャキ
猫神「わー!なになにこの子!」
男「この島に植物が生えてただろ?その原因がコイツだよ」
ローブ男「ほぅ、なら始末するか」
妖狐「シキと同じこと言っておるわ」
男「それでだな……コイツをどうするかの相談なんだ」
植娘「フン!なんでアナタにワタシの運命を決められなきゃいけないワケ?」
植娘「こんな運命……変えてみせるっ!」
ローブ男「……」サクッ
植娘「ぎょぇええぇ!?!?な、何してんのアンタァァ!!」
植娘「い、痛い!本当にマジでガチの本気で真剣に痛い!!」
妖狐「やはり、其方の武器なら通るんじゃな」
ローブ男「まぁな。で、殺すぞ?」
植娘「ま、待って待って!お願いします許してください!何でもしますから!!」
ローブ男「なら、先ずはその煩い口を閉じろ」
植娘「ひゃい!んぐっー」
ローブ男「もう一つ、お前が捕らえたエルフ達はどこに居る?」
植娘「んぐー?んぐー、んぐぐーっんぐんぐー!……ぷふふっ」
ローブ男「フザケてるのか?」グリグリ
植娘「痛いって言ってるでしょうがァァ!!」
ローブ男「口の利き方がなってないな」グリッ
植娘「ひっ…痛いですので……勘弁してつかぁさい……」
ローブ男「で?どこだ」
植娘「多分、もう解放されてるかと……」
ローブ男「た ぶ ん だと?」
植娘「い、いえ!解放されてます!」
ローブ男「なら、もう村に戻ってるか……」
植娘「へっ 本当にちゃんと戻れてるとイイなァ?」
ローブ男「あ"?」
植娘「戻れてますよ!きっと!村から近い所ですし!」
騎士「態度がコロコロ変わりますね……」
刀娘「どうする、の…?」
ローブ男「ソイツに要は済んだ。もう殺しても構わんだろ」
植娘「そ、そんなぁー 滅相なっ」
男「俺は…何かに利用出来そうな気がしないでも無い」
男「それに、コイツだってここに来たくて来た訳じゃ無さそうだしな」
植娘「……さぁね」
ローブ男「じゃあ、多数決で決めるか」
ローブ男「俺はこの場で始末」
刀娘「わ、私は……どっちでも……」
騎士「私も皆さんに任せます。あ、雷魔はどうでもいいと言ってます」
猫神「アタシも騎士くんと同じー」
シキ「始末しましょう」ヒョコ
男「俺は……一先ず連れて行く。何か怪しい行動をした場合は始末で」
妖狐「わしも、男と同じで構わん」
ローブ男「始末が二人、一先ず同行が二人、残りは任せる、か」
ローブ男「見事に別れたなぁ」チラッ
植娘「ひょっ……」
ローブ男「まぁ、いいや。ならコイツが余計な事しなければ見逃してやるよ」
ローブ男「煩かったり、調子に乗ってると叩き割るからな」
植娘「ひゃい!ありゃーごぜーますっ」
ローブ男「ちゃんと言え」サクッ
植娘「はい!ありがとうございますっ」
ローブ男「(ま、そろそろ皆と別れるつもりだし 俺が決めてもな)」
男「俺が首から吊るしとくよ」ゴソゴソ
植娘「紐で吊るされるなんて、屈辱ね……」
妖狐「静かにしておるんじゃぞ。あのローブは躊躇なく斬るからの」
植娘「わかってるわよ。気配を消しておくわ……」
ローブ男「それじゃ、村に向かうか」
――
――
―エルフの隠村―
「……ようやく来たな」
ローブ男「おぅ。んで、鍛冶の件はどうなった?」
「私は飽くまで手伝いだからな。どうするかは、あそこに居る長に聞いてくれ」
ローブ男「はいよ」
――
ローブ男「失礼するぞー」
「何だお前達は……」
ローブ男「鍛冶の件で伺った」
「……なるほどな。話は聞いている」
ローブ男「じゃあ―――
「が、私も簡単に打つわけにはいかない」
「私はお前達を、自分の打った物を託しても良い者達か見極めなければならない」
男「と言われても、な……」
「物を頼むのに、名乗りもしないのか?」
男「わ、悪い。俺は男だ」
妖狐「わしは妖狐と言う」
騎士「騎士です。よろしくお願いします」ペコ
猫神「……猫神よ」
刀娘「刀娘です」ペコ
ローブ男「俺、は……えーと、ローブとでも呼んでくれ」
「ローブ…?名を偽るのか」
ローブ男「いや、俺……実は記憶が無いんだ」
ローブ男「自分の名前すら思い出せない。だから外見の特徴であるローブと呼んでもらっている」
「そうだったのか。それはすまない事を聞いた」
「私も自己を紹介しておこう。ここの鍛冶業の長をしている者だ」
男「(外見は綺麗な女性なのに、迫力が凄いな……)」
長「それで、武器を打ち直して欲しいそうだな」
ローブ男「こいつらのを頼む」
長「……とりあえず、持ってる物を見せてみろ」
男「ど、どうぞ」スッ
長「ふむ……。この剣は余り珍しくは無い物だな」
長「もう一つは―――なっ……おい、これをどこで手に入れたッ!?」
男「え、それは…同じエルフの人に打って貰った刀だけど……」
長「あの人、まだ生きていたんだな……」
妖狐「のぉ、一体なんじゃ?話が見えん」
長「ぐすっ……すまない。この刀は、ここの村で長を務めていた元村長のなんだ……」
長「あの人が出て行って、幾数年―――
長「生存が知れて、本当に良かった……」
男「大切な人だったのか?」
長「あの人はな、私の鍛冶の師匠なんだ」
男「し、師匠!?」
長「刀のここに……ほら、サインがあるだろう?」スッ
妖狐「なんじゃ?この下手くそな汚れは」
男「ば、馬鹿!」
長「はは……良いんだ。私も良く師匠をからかったものだよ」
長「こんな汚い字のどこがサインなんだーって」
長「今では、懐かしいがな」
騎士「村長さんなら、元気にしていましたよ」
長「そうか……。あの人がもう一度、打つ気になったんだ。私も打たない訳にはいかないな」
長「しかし、どう打ち直す?ただメンテナンスをすれば良いと言う訳ではなかろう?」
ローブ男「その方法は俺が教えるよ」
長「しかし、お前は記憶が無いのでは…?」
ローブ男「へ…?あ、えーと、知識だけは何故か覚えててな!」
長「…何とも都合の良い記憶喪失だな」
ローブ男「だ、だよなぁ!俺もそう思ってる」
長「まぁ良い、お前達の武器を全て鍛え直してやる。私に任せろ」
男「あ、ありがとう…!」
騎士「ありがとうございます」
長「結構数が多い故、数日はかかるぞ」
ローブ男「大丈夫だ」
長「わかった。終わるまでは適当にこの村に泊まって行くと良い」
男「お願いします」
――
――
ローブ男「ふぅ、やべぇやべぇ。危うくバレそうになったぜ」ボソ
刀娘「酷い苦し紛れの嘘だったね」
ローブ男「ああいう時はどうも言えんからなぁ」
妖狐「ローブよ。わしらも其方の真名を聞いてはおらんかったな」
ローブ男「面倒だからローブでいいよ」
妖狐「はぁ……。なら、もうそれでよい」
騎士「ようやく一息つけますね」
猫神「宿屋ってあるのかな?」
ローブ男「確か……入り口の近くにあった筈だ」
男「なら、そこに泊まるか」
ローブ男「俺は長の所へ行ってくる。皆は適当に過ごしててくれ」
男「了解だ」
妖狐「いよいよじゃな」
騎士「完成すれば、南の大地に…ですね」
猫神「じゃ、一杯ここで休んどかないとねー!」
刀娘「とりあえず、寝たい……」
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました
>>604
長い間手を付けられずすみません。あちらはまだまだ時間がかかりそうです…
「ホントに行くの?」
ローブ男「あぁ。気になるしな」
>少し心配そうな顔を目の前の者は伺わせる
>俺の前に立ってるのは、金羊の情報屋だ
>小柄な体躯で、名の通り少し長い金色の髪をたなびかせ
>胸や腰には白い羊毛を着け、俺と似た形で色が黒いローブを頭だけ露出させ羽織っている
>一言で表すなら、少し貧しそうな女の子が一番しっくりくる
>外見に気を遣えと言ったことがあるが、どうもこの格好が本人は気に入っているらしい
金羊「この依頼さ、報酬金が桁違いなんだよネ」
金羊「割に合わないから断ったんだけど、相手がどうしてもって言って引き下がらないの」
金羊「その相手は初見さんだし、この情報って怪しすぎるでしょ?しかもそれを特定の人物に伝えてくれって言伝の依頼をされたんだ」
金羊「僕は情報屋として、真の情報だと言う確信が得られた物だけ、売る様に心がけてる訳だよ」
金羊「信用第一の商売だしね」
金羊「ま、今回は売るのとは違うけどさ」
金羊「いつも依頼してきた人は必ず伏せるけど、今回は了承も得てるし言えるから、聞いとく?」
ローブ男「勿論」
金羊「依頼人は、氷飛竜……それと魔術師と名乗ってたよ」
ローブ男「氷飛竜、だと?」
金羊「そうさ。北の大地の竜だ。ま、僕に依頼しに来たのは魔術師って奴だけだけどネ。氷飛竜は飽くまで信用を得るために名を出してくれと言われた」
ローブ男「その魔術師って人は、本当に‘‘俺’’を指名したのか?」
金羊「あぁ、間違いは無いと思うよ。ローブ被ってて、凄く強い人って言ってたしね」
ローブ男「ローブ被ってるのなんて、そこら辺に居るだろ」
金羊「でも、魔術師から聞いた名は‘‘男’’だ。君はそうだろう?」
ローブ男「そうだな……。念の為に言っておくが、このことは誰にも言うなよ」
金羊「なら、口止め料を貰わないとネ。銅貨二枚でいいよ」
ローブ男「全くボロい商売だな、情報屋って」ゴソゴソ
金羊「毎度ありっ。言っとくけど、常に死と隣り合わせだからね?」
金羊「幾多の危険な場所に行かなきゃならないしさー。色々とこれはこれで面倒よ」
ローブ男「ならなんでなったんだよ」
金羊「……知りたい?」
ローブ男「教えてくれるなら」
金羊「…お得意さんだし、特別ネ」
金羊「理由、それは怖いからさ。僕は知らずに対処できないことが何よりも怖い」
金羊「無知であることが怖いんだ。でも情報はいくら増えても困らない、いや……己の自信に繋がる」
金羊「だから僕はこれからも情報屋であり続けるよ」
ローブ男「……そうか」
ローブ男「じゃあついでに、その魔術師とやらの言伝である『見捨てられた国』って何だ?」
金羊「何だも何も、その名の通りだよ」
ローブ男「通称ではないのか?」
金羊「それはわからない。少なくとも僕は名称としてしか知らない」
金羊「知ってるのは、過去に災厄があったと聞いたことくらいかな」
ローブ男「災厄…?」
金羊「そう。何があったかの詳細までは知らないけどネ」
ローブ男「怪しすぎるな」
ローブ男「そして魔術師が伝えて来た本題、『統主について重要な手がかりがあるかもしれない。調べてきてくれないか?』だ」
金羊「おっと、そうだ。ご丁寧に地図まで貰ってあるよ」スッ
ローブ男「粗いが、この通りに沿って行けばいいのか?」
金羊「だと思うよ。先ず『腐濫の水門』を開け、中に入る」
金羊「その後、『廃れた街道』を道に沿って進み、その先が『見捨てられた国』だ」
金羊「ま、行くかどうかは君次第。責任は取らないからね?」
ローブ男「わかった」
金羊「僕はちゃんと警告したからネ。 じゃ、そろそろ行くよ」
ローブ男「…ありがとう。死ぬなよ」
金羊「それは君も」
>そうして、情報屋は去って行った
ローブ男「……魔術師、か」
ローブ男「まぁいい。手がかりなら行ってみる、か」
ローブ男「あいつらに相談して、無理なら俺一人で行けば良いしな」
ローブ男「罠だとしても、なら何故この場所に向かわさなければならなかったのか、と言うことがわかる」
――
――
―翌日―
男「待つとは言ったものの、暇だな」
刀娘「……」ベシベシ
妖狐「わしは暇なくらいが丁度よい」
猫神「というか、男くんがただの戦闘狂なだけじゃないの」
男「いやいや、俺だって好きじゃないし、極力避けたいよ」
男「それこそ、ローブのやつみたく無傷で相手を圧倒出来るならまだ良いんだけどさ……」
男「俺はそこまで強くないから、毎度全身傷だらけで地味に痛い」
妖狐「なら、わしの様に遠くから相手を攻撃すればよいじゃろう」
男「俺の弱っちい炎で何が出来るんだよ……」
妖狐「そこは気合で」
男「気合で何とかなったら苦労しないって!」
刀娘「……」ベシベシ
猫神「ねぇ、刀娘ちゃん。あんまり植娘ちゃんを刀で叩くのやめてあげてね……」
猫神「流石に可哀想だよ……」
刀娘「全然話さないの。何でだろう…?」ベシベシ
男「気配を消すって言ってたし、潜んでるんじゃないか?」
刀娘「そうなんだ……お話したかったなぁ」
妖狐「やめんか。そう頻繁に騒がれてはこちらの身が持たん」
刀娘「うん……」
男「あー……しかし、暇だ」グテー
男「なーんにもする事が無い」
猫神「思えば、こうやって落ち着いて休むのって久しぶりな気がするにゃー」
妖狐「暫しの休息じゃ。惰眠を貪るのも構わんじゃろ」
男「毎日忙しくても、いざ休みになるとそれはそれで落ち着かない」
男「妖狐、何か面白い話でもしてくれよ」
妖狐「はぁ。お主もそこの騎士のように眠っておれ」
騎士「……」スースー
男「誰よりも早く起きる騎士さんが、今日は珍しいよな」
妖狐「昨日の弊害じゃろうな」
猫神「昨日のって、模擬戦…?」
妖狐「うむ。騎士はまだ魔術の扱いに慣れておらん」
妖狐「それ故に、体が疲労したんじゃろう」
妖狐「男とて、初めはよく眠っておった」
男「懐かしいな。そう言われるとそうか」
猫神「あ、アタシのせいで騎士くんが……」
妖狐「其方のせいでは無い。遅かれ早かれ、いずれはなることじゃ」
妖狐「それが、其方との模擬戦で少し早くなった、それだけじゃよ」
妖狐「寧ろ、慣れておかねば敵地で眠りこけるやもしれんからの。これでよいのじゃ」
男「妖狐も珍しく、マトモなことを言ってる」
妖狐「戯け。わしはいつだって真面目じゃ」
男「崖から落ちる時、『おほー!』なんて言ってた癖にな」
妖狐「あ、アレは急にじゃったから……」
男「普通、『きゃー!』っとかだろ?おほー!ってなんだよ」
妖狐「……さて、わしは散歩でもしてくるかのぅ」ヨッコイセ
猫神 (逃げるつもりにゃ……)
男「じゃ、俺もついて行くよ」
妖狐「ほぅー」
妖狐「くふふ。もしや、わしと一緒に居たいのかや?」
男「そうだな。ちょっと二人で話したいことがある」
妖狐「んにゅっ!?」
妖狐「そ、そそそ そうなのかか……」カァァ
妖狐「ま、まぁ……お主がどうしてもと言うのであれば……」モジモジ
男「じゃあ、どうしても」
妖狐「し、仕方のないやつじゃなっ」
妖狐「では日が昇りきる前に行くとするか」スッ
男「ん…?あぁ」ギュ
妖狐「ふふっ、お主が迷子になるといけないないからの」
ガチャッ
パタン…
猫神「……」
猫神「なにあれ」
猫神「人前ならぬ猫前でイチャコラして…!」
猫神「なーにが迷子よ!手まで握っちゃってにゃぁ!」
猫神「男くんも男くんで、『ん…?あぁ』って!」
猫神「さも当たり前の様に握るってどういうことなの!?」
猫神「んにゃぁぁ!!アタシも言われたい…!」
猫神「騎士くんから『ちょっと二人で話したいことがある』キリッ って言われたいっ」
猫神「アタシと一緒に居たいって言われたいぃぃ」バタバタ
猫神「肝心の騎士くんはずっと眠ってるし―――
猫神「……ずっと眠ってる…?」
猫神「眠ってる。寝てるなら、今襲えば……」チラッ
騎士「……」スースー
猫神「ニャフフ……」ソローリ
ガシッ
猫神「っんにゃ!?」
刀娘「ダメだよ。それは流石に」
猫神「にゃ、にゃんのことかなー?アタシは騎士くんが風邪を引かないように、毛布をかけてあげようとしただけにゃん?」
刀娘「そうだな。ちょっと二人で話したいことがある」キリッ
猫神「刀娘ちゃんに言われても意味にゃいにゃぁ……」
猫神「それで、アタシに話って?」
刀娘「ん…?あぁ」
猫神「それ会話が成立してにゃいから!」
刀娘「はい」ギュ
猫神「なんで手を握るの……」
刀娘「あれ…?」
猫神「『あれ…?』じゃないからね」
猫神「ああもう、ちょっと素で返しちゃったよ……」
刀娘「それより、一緒に外へ行きたいな」
猫神「刀娘ちゃん一人で行けば良いじゃないの」
刀娘「猫神さんと行きたいな……ダメ?」
猫神「うぅ、そんな目で見ないで……」
猫神「わかった、わかったにゃー……」ハァ
猫神 (まぁ、騎士くんは寝てるし、いっか)
刀娘「やったっ。行こっ」ギュ
ガチャ
パタン…
騎士「……」スース…
騎士「……」
騎士「……ふぅ」
騎士 (猫神さんが迫って来た時はどうしようかと思いましたが……)
騎士 (刀娘さんが気を利かせて、連れ出してくれて助かりました)
騎士 (起きようとすると、何やら猫神さんがブツブツ独り言を言っておられ……)
騎士 (しかも薄目でチラッと横を見た時、刀娘さんと目があっちゃいましたからね……)
騎士 (猫神さん……)
騎士 (好いてくださるのは嬉しいのですが、そろそろちゃんと応えてあげなければいけませんね……)
――
――
――
妖狐「そ、それで?話とはなんじゃ…?」
妖狐「まさかお主、こんな所で……」モジモジ
男「…? 何を言ってるのか知らんが、これを返しておこうと思ってな」スッ
妖狐「う、む…?」
妖狐「これは、ミサンガ……」
男「取り返したのはいいものの、渡すタイミングを失ったから……」
男「猫神や刀娘に見られるのは、ちょっとアレだしな」
妖狐「男……すまんの」
妖狐「のぅ、頼んでもいいか…? 結ぶのを」
男「いいよ」
男「わかってるよ。……っと、こんなもんか」ゴソゴソ
妖狐「うむ。ありがとう、礼を言うぞ」
妖狐「お主の力が篭ったんじゃ、これで大丈夫じゃなっ」
男「そりゃ良かった」
妖狐「さて、と。ここいらで少し腰を下ろすとするか」スッ
男「んー、そうだな」ドサ
ザザーン…
妖狐「見よ、果てが見えぬ海が広がっておる」
男「俺達が渡って来たのは、あっちの方だな」
妖狐「……綺麗じゃな」
男「うん。綺麗だ」
妖狐「……」キョロキョロ
妖狐「お、お主よ……ひ、膝枕してやろうか…?」
男「どうした突然」
妖狐「ま、まぁ…なんじゃ、気分じゃ 気分!」
男「じゃあ、お言葉に甘えて……」スッ
妖狐「くふっ、素直なお主は可愛いのぅ」
男「へいへい」
ザザーン…
妖狐「……」
妖狐「わしはの、長く生きようともつまらんだけと思っておった」
妖狐「生きる為に物を食い、適当に過ごす日々を送った」
妖狐「味気の無い食い物、誰とも関わらぬ毎日、ただどこまで続くかわからぬ寿命が尽きるのを待つだけじゃった」
妖狐「しかしの。わしは今、初めて己の命が長い事への感謝をしておる」
妖狐「そのお陰で、男と…そして みなと知り合えた」
妖狐「まぁ、お主との出会いはアレじゃったが……」
妖狐「色んな物を知り、美味い飯を食い、皆と過ごす日々は、わしにとってのかけがえの無い思い出じゃ」
妖狐「こんなにも、誰かと食う飯が美味いとは思わんかった」
妖狐「じゃからな、わしを連れ出してくれたお主には感謝しておる」
男「……でも、お前は人間のこと……」
男「俺達、人間を何とも思わないのか…?」
男「裏切られ、酷い仕打ちをされて、それでも―――
男「それでも、俺達を信じてくれるのか?」
妖狐「む…?酷い仕打ちとは?」
男「その…妖狐は昔、人間に裏切られて……」
男「今じゃ扱ってる所は殆ど無いが、銃でその体を……」
妖狐「銃…?なんじゃそれは」
男「え…?銃で撃たれて、その後あの洞窟に……」
妖狐「それは本当にわしか? 少なくともそういう記憶に心当たりは無いぞ」
男「あ、あれ?でもお前の過去を視たんだけどな……」
妖狐「あの洞窟に縛り付けられていたのは、そういう類いのものでは無い」
妖狐「まぁ、誰かにやられたのは合っておるが、人間にやられた訳では無いから安心せい」
男「そっか」ホッ
妖狐「そ れ よ り、じゃ」
男「な、なんだ?」
妖狐「わしの過去を見たと言っておったな?」
男「え……あ、やべ」
妖狐「乙女の清い思い出を覗くなどという不届き者がおるとは、のぅ?」
男「すまん……」
妖狐「お主一人の力では出来んかろう。協力者は誰じゃ?」
男「……猫神です」
妖狐「あんの雌猫。やはり余計な事をしておったか……」
男「この際バレたから聞くが」
男「よ、妖狐……あの青年って……」
妖狐「ふん。お主に話す義理など無い」ツーン
男「青年のこと…好きだった、のか…?」
妖狐「話さぬと言っておろう」
男「そう、か……そうなんだな……」シュン
妖狐「全く、お主は勘違いをしておるな」
妖狐「あの青年とは何も無い」
妖狐「確かに好いてはいたが、それは友人としてじゃ」
妖狐「お、雄と雌の様な色恋沙汰では無いっ」
男「そうなの、か?」
妖狐「うむ」
男「良かった……」
妖狐「お、お主は…その……わしのことを好いておるのかや…?」
男「好きだよ。でもこれが男女が持つ恋心なのかどうかはわからない」
妖狐「煮えきらんやつじゃな」
男「その、もし妖狐が青年のことを好きなのだとしたら……」
男「俺みたいな男が、妖狐と一緒に居るのは嫌かなって……」
妖狐「嫌な訳なかろう。わしから離れると許さんからの」
男「妖狐が嫌じゃないなら、側に居るよ」
妖狐「ふふ……うむうむ。それでよい」
男「……ゆっくり腰を落ち着ける場所を見つけたら、宿屋でも作るか」
妖狐「うん…む? 何故に宿屋なんじゃ?」
男「俺らってさ、ここまで何気無しに宿屋に泊まってきただろ?」
男「旅人にとっては、旅の疲れや心の疲れを癒せる、唯一の拠り所と言っていい」
男「だから、そういう場所は一つでも多くあった方が良いかなって思った」
男「それなら、俺と妖狐で作れたら……楽しいだろうな」
妖狐「ふむ……お主にしては名案じゃな」
男「だろ? ま、住む場所を見つけたら本格的に考えていこう」
妖狐「そうじゃな……」
妖狐「さて…もっとお主には膝枕をしてやりたい所じゃが……」
妖狐「先ずは、あの雌猫に話を聞かなければならん」
男「それじゃ、帰るか」
妖狐「うむ」
――
――
猫神「それで?外に来たけど……」
刀娘「今日は風が穏やかだね」
猫神「か、風? う、ん……そよ風が吹いてるね」
刀娘「透き通る風、懐かしいな……」ボー
猫神 (……何だか、刀娘ちゃんって不思議な娘ね)
猫神 (話をした感じ、まだ若そうだし……)
猫神 (そもそも、成り行きでアタシ達に着いて来ちゃってるけど、その辺りはどう思ってるんだろ…?)
猫神 (それに、あのローブの方の男くんと妙に親しげに話してるのも気になる……)
猫神 (妖狐ちゃんは自分のことをペラペラ喋ってくれるし、北の大地である程度の過去を視た)
猫神 (騎士くんも、過去と悩みをアタシにだけ話してくれた)
猫神 (アタシに‘‘だけ’’ってのがミソね!)
猫神 (この二人だけのヒミツ感、最高だにゃぁ……)
猫神 (男くんは……まぁ、アホだから放っておいても大丈夫でしょ)
猫神 (きっと何かあっても、妖狐ちゃん側につくと思うし)
猫神 (ここまで一緒に来たんだから、少し信用しても罰は当たらない)
猫神 (でも刀娘ちゃんに関しては、思い返すと知らないことが多い)
猫神 (アタシが知ってると事と言えば、ただ強いってだけ)
猫神 (あぁそれと、たまに男くんとボケ倒してくるケド……)
猫神 (だから、まだ信じれるかどうかの判断に迷ってるのが現状にゃぁ……)
猫神「ねぇ刀娘ちゃん」
刀娘「うん?」
猫神「刀娘ちゃんって……アタシ達と出会う前はどこに住んでたの?」
刀娘「どこ、なんだろう?」
猫神「アタシに聞かれても……」
刀娘「詳しくはわからないケド、今みたく こうやって崖の近くだってことだけは覚えてるよ」
猫神「崖、ね。そうなんだ、景色が良いからかにゃ?」
刀娘「うん。まさしく、景色が良い場所だからって言ってた」
猫神「そか。その言ってた人、アタシと気が合うかも?」
刀娘「っ……だと思う」
刀娘 (合うも何も、ママ本人だからなぁ……)
猫神「刀娘ちゃん、もう一つだけ聞いて良い?」
刀娘「うん、一つと言わずいくらでも」
猫神「刀娘ちゃんはアタシ達と一緒に居て、どう?」
刀娘「どう、って…?」
猫神「あのね、刀娘ちゃんは成り行きでアタシ達に同行してるじゃない?」
猫神「だから、もし自分が住んでた場所に帰りたいとか、そういうのあったら遠慮無く言ってね」
猫神「アタシが責任持って送り届け―――
刀娘「嫌」
猫神「んにゃ?」
刀娘「嫌だよ、離れたくない……」
刀娘「ボクは…みんなと一緒に居ちゃダメなの…?」グス
猫神「え、えと、全然!刀娘ちゃんが良いならアタシは……アタシ達は全然構わないにゃ!」
刀娘「ほんと…?」
猫神「ホントホント!…ほら、泣かないの。どこにも行かないから」ギュッ
刀娘「うん……」
猫神「よーしよし」ナテナデ
「ほれ!もっと右じゃ」グイ
「痛たた……俺の髪は舵じゃ無いんだぞ」
「むむっ…わしの直感がこっちにおると、ビビっと告げておるわ!」グイ
「わかったから!俺の頭が禿げる!」
猫神「なんだか聞き覚えのある声が……」
妖狐「ほぅれ、やはりおったわ!」ブチッ
男「おまっ!髪を抜くな!」
妖狐「すまぬな、余りにわしの直感が素晴らしかったものでなっ」
男「自画自賛で俺の髪抜かれるとかたまったもんじゃないぞ……」
猫神「どしたの?二人とも」
刀娘「…?」キョトン
妖狐「なんじゃ、其方らこそこんな所でおっ始めようと?」
猫神「流石に外でやる趣味は無いにゃ……」
妖狐「騎士と野外で危うく―――どわっ!?」ズルッ
男「目的地に着いたんだし、肩車は終わりな」
妖狐「わ、わかっておるから……その…横抱きを早ぅ離せっ」カァァ
男「注文の多い狐様だ……」
妖狐「…こほん。わしが用が有るのはそこの雌猫じゃ」
猫神「何よ……ナニよ」
男「そこ言い直さなくていいからな」
妖狐「其方よ、男にわしの過去を見せたらしいのぉ…!」キッ
猫神「ニャンのこと?」
妖狐「む…?知らぬのか?」
猫神「アタシにはサッパリ。誰がそんなこと言ってたの?」
妖狐「男から聞いたんじゃがな……」
猫神「へぇー……」チラッ
男 (猫神の目が笑ってない)
妖狐「うーむ、お主よ。猫神は知らぬと言っておるぞ?」
猫神 (妖狐ちゃんは相変わらずチョロいにゃぁ)
男「え、でも―――
猫神「男くん?」
男「な、なんだ?」
猫神「…♪」ニコ
男 (このままじゃ殺されかねん)
男 (しょうがねぇ、文字通り必殺技を使うしか無い)
男「猫神、そうやって嘘ついていいのか?」
猫神「何が言いたいのニャ?」
男「騎士さんが言ってたぞ。嘘をつく猫が何よりも嫌いだとな!」
猫神「アタシがやりました」
妖狐「なんじゃと!?」
妖狐「き、聞くところによると、何やら捏造疑惑があるんじゃが……」
猫神「それもアタシがやりました」
妖狐「なんじゃと!?」
男「なんじゃと!?」
男「待て待て、俺騙されてたのか!?」
猫神「いやー、アハハ……」
妖狐「アハハじゃなかろうが!」
男「猫神、どこからどこまでが…?」
猫神「んー……戦の辺りから、かな」
妖狐「何故、そんなことを……」
猫神「あの時はまだ、男くんをこっち側に引き抜こうと思ってたんだよねぇ」
猫神「妖狐ちゃんに人間が傷を負わせたって知ると、こちらに来てくれるかなーと……」
猫神「わざわざ細工したのに、結局意味が無かったんだけどにゃー」
男「あの時の悲しい気持ちを返せよ!」
猫神「とか何とか言って、たった三日でもう忘れてたじゃにゃい」
男「う、ぐぬぬ……」
妖狐「言い返せんということは、そうなのか……わしは哀しいぞ」
猫神「ていうか、よく気づいたね。今更だけど」
男「たまたま、な」
猫神「ふーん、にゃるほどね」
妖狐「はぁ……もうよいわ。それより腹が減ったぞ」
刀娘「私もお腹空いた……」
男「そろそろお昼時だし、一旦帰ろうか」
――
――
―部屋―
「……」
「……」
「…………」
「行ったかしら?」ボソ
植娘「ふぃーっと、ようやく出られるわね」ニョキ
植娘「カーッ!シャバの空気は美味ぇ!」
植娘「ったく、あの乳デカ女はワタシをベシベシ叩くし怒りで頭パッカーンしそうになったわ」
植娘「早急に、どうにかして逃走の算段を立てないといけないわね」
植娘「ちくせぅ……近くに植物が無いし、どうにもならないわ……」
植娘「あのシキとか呼ばれてるのには終始睨まれるし、私何かしたのかしら?」
植娘「まっ、人間に取り付いて生き長らえてるヤツはロクな思考回路じゃないってコトね」
植娘「いや……逆にアイツをどうにか取り込めば、それを養分にして逃げるだけの体は確保できる、か…?」
植娘「しかしそれをすると、あの男とか言うのに気づかれるし……」
植娘「バレたら最後、ローブマンに物理的に八つ裂きにされるのだけは避けないと」
植娘「悩ましいわねぇ―――
騎士「……あの」
植娘「ぴょえええええぇっっ?!?!」ビクゥッ
騎士「すみません、驚かすつもりはありませんでした」
植娘「あ、あにょ……いつから?」
騎士「『行ったかしら?』の所からですかね」
植娘「最初からでしたんすね!」
植娘「え、えと……ぅ……」
騎士「私達の元から離れたいですか?」
植娘「い、いえ!そんなことは……」
騎士「構いませんよ、逃がして差し上げましょうか?」
植娘「え…?良いんですか?」
騎士「えぇ。ただし……逃した後の安全は保証しかねますがね」ニヤリ
植娘 (こ、こいつぅ!ワタシを逃がして油断した所を後ろから叩き割る気か!?)
植娘 (『逃げられた!やったー!おごぉっ バキィッ』)
植娘 (上げて落とす、優しそうな顔してやることがえげつないわね……あたいは騙されへんで!)
植娘「へへっ……いいぜ、受けて立ってやるよ!」
騎士「あっ、男さん達 お帰りなさい」
植娘「っ!」ヒュバッ
騎士「……」
植娘「……」
騎士「……」
植娘「アナタ、なに虚言ぶっこいてんのよ!」ニョキ
騎士「帰ってきたと思ったんですけどねぇ」
植娘「きー!なんなのこいつ!」
植娘「覚えときなさいよッ!絶対アナタから嬲り殺し―――
騎士「近くで話し声が」
植娘「っ!」ヒュバッ
騎士「……聞こえた気がしました」
植娘「この人間……調子に乗って――― ニョキ
騎士「おや?足音」
植娘「っ!」ヒュバッ
騎士「……を感じた気がしました」
植娘「なるほどね、なるほどなるほど。そう来るわけね、なるほどだわ、なるほどなーるなるほどね」ニョキ
騎士「鳴る歩道」
植娘「右見て左見てー、よぉし安全確認!渡りましょっ ビビーっ! えぇ!?何この音は!?」
騎士「鳴らない歩道」
植娘「あっれ?おかしいわね……普通なら歩行したら音がなるはずなのに……」
騎士「名も無き歩道」
植娘「なんで名前無いんだろこの歩道……え、ウソ!?調べても載ってない……まさか神隠しの歩道なの!?」
騎士「名探しの放浪」
植娘「ワタシはどこを目指すのか。果ての山脈、蒼く澄み渡る底深き海、荒れ果てた大地……旅の中で数多の知識を得た。違う、ワタシが知りたいのはただ一つなんだ、そう 己の名だけ……」
騎士「菜を掘ろう」
植娘「うんとこしょっ どっこいしょぉ! なにこの菜……全く抜けないわ!ってそれはカブだっつーの!」
騎士「菜を撫でよう」
植娘「よーちよち、いいこでちゅねぇーっ って菜を撫でてなんの意味があんのよ!」
騎士「菜を茹でよう」
植娘「ぐつぐつぐつ……わぁっいい感じに茹で上がったわ! んんー、このシャキシャキ感がたまんないのよね!って茹でてどうすんのよ!つーか菜ばっかだな!!」
騎士「すみません、もう良いですかね?」
植娘「なんっっでワタシが悪いことになってんのよぉォッ!!」
騎士「思いの外、ノリが良かったもので……」
植娘「まぁ、ワタシはつくだ煮派だけどねー」
騎士「あぁ、海苔の佃煮ですか。美味しいですよね」
植娘「わかってくれるかしら! 乾燥してパリパリした海苔も悪くは無いわよ?でも佃煮には負けるわ!」
騎士「おっとこんな所に、都合良く海苔の佃煮が」スッ
植娘「何で持ってるの!?」
騎士「昨日の夕ご飯の時、出した筈なんですが……そう言えば植娘さんは居ませんでしたね」
騎士「パンなら余ってますし、食べます?」
植娘「アナタ良い人ね!たべる!」
騎士「どうぞ」スッ
植娘「うまっ んまっ!」モグモグ
騎士「食虫植物みたいな葉で食べてる姿は絵面がヤバイですね……」
植娘「そう? ならこれならどうかしら」ギチチチ
騎士「わ、わー……グロい。変化の仕方が ただただグロい」
植娘「く、ふうー……ちょっとマシになったかしら?」
騎士「長髪の幼女ですね」
植娘「見た目はね。それよりまださっきの余ってる?」
騎士「ありますよ、はい」スッ
植娘「ありがと! んまっ うまいわ!」モグモグ
騎士「それで、どうします?今ならまだ間に合いますよ」
植娘「んー……アナタと居れば、美味しいものもっと食べれるのかしら?」
騎士「食事の際に顔を出して頂けるのでしたら、植娘さんの分も作りますよ」
植娘「一緒について行くわ!」
騎士「食事は作ります。しかし、一つだけ条件をつけても?」
植娘「イイわよ、なに?」
騎士「私達の言葉にこんなものがあります。働かざる者食うべからず、と」
騎士「なので、植娘さんには食事分の働き程度は期待しても良いんですよね?」
植娘「ふふん!その程度なら任せなさい!」
騎士「では、よろしくお願いしますね」スッ
植娘「えぇ!」シュルッ
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました
次の投下はラジオなので苦手な方はすっ飛ばして下さい
「ほーい やって参ったのぅ!にゃんにゃんらじお―――
―――では無く……くふふっ」
妖狐「わしが乗っ取ってやったわ!」
妖狐「【にゃんにゃんらじお】ぉ?」
妖狐「こんなもの……」ケシケシ
妖狐「くははっ 今日から【こんこんらじお】じゃな!」
妖狐「あの雌猫、わしを呼ばないじゃと?つまらん奴じゃとぉ?」
妖狐「戯けた猫め。わしが、ちょー面白いらじおにしてやるわ!」
妖狐「何より、今回は二回目じゃからな!」
妖狐「二回目で乗っ取られるあの猫……ご愁傷様じゃな……ぷくく」
妖狐「さて、早速お便りとやらを読んで―――――ほべぇっ!?」ドゴォ!
猫神「へー、妖狐ちゃんこんなことするんだぁ?」
妖狐「ひっ……放送室のドアを壊しおった……」
妖狐「あの喋るドア、自動学習機能付で凄まじく頑丈な筈なんじゃが……」
猫神「なーんか怪しいなーって思ってんだぁ」
猫神「放送日が明日になったって妖狐ちゃんが言ってる時、ずぅっっとニヤニヤしてたんだもんねー?」
猫神「ほーん、【こんこんらじお】ねぇ……」チラッ
妖狐「いや、そのぅ……」
猫神「おラァッ!」バキィッ
>粉々に砕け散るホワイトボード
猫神「次こんなことしたら……こうなるのは妖狐ちゃんの番だからね?」
妖狐「…っ」コクコク
猫神「よっと」ズシン
猫神「新しいホワイトボード持ってきたから。【にゃんにゃんらじお】っと……」カキカキ
妖狐「ね、猫神よ……」ユビサシ
猫神「え?……なに、もう放送してるの!?」
猫神「……」
猫神「にゃーんにゃんっ ちょこーっと遅刻しちゃったにゃ!みんな今日もよろしくにゃん♪」
妖狐「無理があるじゃろ……」
猫神「はい、えー、ではお便りを読んでいきましょうね」マガオ
妖狐「急にテンションを下げるでない。聴いてる者達はズコーっじゃ」
猫神「あ、ついでに今日のゲストは面倒くさいんで妖狐さんでーす。しくよろー」
妖狐「適当すぎるじゃろ、ついでってなんじゃついでって。あと面倒とか言ってはならん」
猫神「はぁ……ちょっとだけ繋ぎお願い」ススッ
妖狐「はぁ!?な、何を言って―――くぅ、出て行きおった!」
妖狐「え、ええぃ!仕方の無い雌猫じゃな!」
妖狐「わしだけで【お便りこーなー】とやらを進めるか……」
妖狐「んーむ、先ずはこれじゃな」ゴソゴソ
妖狐「なになに……らじおねーむ、『騎士が主人公だというのはよく分かったぜ!』さんからじゃな」
妖狐「『SSにおけるフード男とかモブの中のモブって印象しかないけどな!』…か」
妖狐「言われてみれば、そうじゃな……」
妖狐「大方よく印象に残るのは、主人公じゃったり、ひろいんじゃったり、らいばる、後は倒すべき目標の敵等じゃな」
妖狐「呼称では、男や女、友や女友……」
妖狐「わしらの様なのは、パッと見て一発で特徴がわかるものが多いじゃろな」
妖狐「わしは『妖狐』と呼ばれておるが、『狐娘』でも外見的には違和感は無いからの」
妖狐「『男』はわかる。パッと見て、あぁこ奴は自己投影しやすい男性なんじゃろうな、的な」
妖狐「『騎士』も分かり易いかのぅ?よく居る兵士よりは強い、みたいな。と言うかこ奴、元は兵士と呼ばれておったな……」
妖狐「そして、難解なのが『猫神』と『刀娘』と『ローブ男』辺りじゃろうな」
妖狐「先ず、『猫神』ってなんじゃ。『猫娘』じゃ駄目なのかのぉ?」
妖狐「神だなんてわしは納得していないからの!絶対に呼びとう無いわ」
妖狐「それに、わしは男以外の者は基本的に適当じゃしな。ある程度の仲の者は其方(そち)呼ばわりじゃ」
妖狐「敵対者や腹立たしい者へは『貴様』と使う場合もある」
妖狐「じゃが、たまに名を呼ぶこともあるぞ。その時は‘‘真面目もーど’’と言う訳じゃな」
妖狐「っと……話が逸れた、すまんすまん」
妖狐「次に、『刀娘』じゃな」
妖狐「これは、正直わしにもわからん。じゃから調べて貰った物を読むとする」
妖狐「『トレードマークである主要武器の刀を扱う若い女の子』」
妖狐「……そのまんまじゃな」
妖狐「いや待て、女の子のとれーどまーくとやらが刀ってのもどうなんじゃ…?」
妖狐「わしの様に、淡い金色の長髪、この可愛げのあるみにまむぼでぃ、そして綺麗な毛並みの尾」
妖狐「普通こんなんじゃろう?それが刀って、いくら何でも可哀想じゃなかろうか……」
妖狐「む…?まだ続きがあるの」
妖狐「『幼少期から刀を好み、それを見た妖狐が名付けた』……え?」
妖狐「わしか!わしなのか!?」
妖狐「い、いや……そうじゃな、思えば刀娘と言ったのはわしか……」
妖狐「じゃがあの時は単に、魂刀を持っていたからであってな……」
妖狐「そもそも幼少期とは…?今の刀娘は少し幼さは残るものの、そこまででは無いしのぅ……」
妖狐「昔どこかで会ったことは……うーむ、わしの記憶には無いな」
妖狐「全く訳がわからん」
妖狐「っと……最後が『ローブ男』じゃな」
妖狐「悔いが、これもわしにはわからんのでな。貰った物を読むぞ」ゴソゴソ
妖狐「『適当』」
妖狐「む…?」
妖狐「…?てきとう、じゃと?」
妖狐「適当…?なにがどう、適当?」
妖狐「ま、待て待て!これだけか!?」
妖狐「わからん……ますますわからん」
ガチャ
猫神「お待たせ、待った?」
妖狐「待ったわ!待ちくたびれたわ!」
妖狐「なんじゃこの、『待った? ううん、今来たとこー!』みたいなやり取りは!」
猫神「めんごめんご」
妖狐「喋り方が腹立たしい奴じゃな……」
猫神「えーと、ローブくんだっけ」
妖狐「うむ。其方は何故『ローブ男』と名付けられたかわかるか?」
猫神「んー……さぁね」
妖狐「其方にもわからんか……困ったのぅ」
猫神 (ローブくんのこと、妖狐ちゃんにはまだ言えないしね)
猫神 (きっと、『未来の男』だと長いし、かと言って『未男』とか『来男』とかだと紛らわしい)
猫神 (だから、妖狐ちゃんの大切なものでもあるローブを羽織ってて比較的被りにくい……いや、ローブは被ってるけども。そんな訳でローブと男で『ローブ男』なんじゃないかと推測するにゃ)
猫神「ま、答えは『わからない』という事にして次行こうよ」
妖狐「そうするかのぉ」
猫神「妖狐ちゃん、読んで」
妖狐「何故わしなんじゃ……」
猫神「今回はゲスト側に回ろうかなと」
妖狐「はぁ……」ゴソゴソ
妖狐「えっと……らじおねーむ、『第一話からのレギュラーメンバー飛び越して騎士が主人公とか×面じゃあるまいし勘弁な!』さんから」
猫神「ほほーぅ」
妖狐「『自分としては、件の妖狐と植娘の合体アイデアは、シキと植娘がほぼ同種のマモノと仮定して男の相方の妖狐がそれを装備すれば面白いなーくらいな物だったんだが。でギ○とガ○の腕輪みたいに合体攻撃が発生するとか、胸熱?みたいなー?みたいなー。』」
猫神「熱いお便りありがとにゃん!」
猫神「×面、ねぇ」
妖狐「なんなんじゃ?それは」
猫神「アタシが思いつくのは浜○くらいかにゃ」
猫神「○ギと○ガなんてまた結構古いね」
妖狐「仮面の乗り手か?」
猫神「そこはライダーって言おうよ。果たしてアタシにこのお便りを送ってくれた人の真意を汲み取れてるか怪しいケド……」
妖狐「シキと植娘が同種と言うのは、あながち間違ってはおらんのじゃろう?」
猫神「あの子ね、まぁ……ちょっとワケ有りなのにゃ」
猫神「今後、ちゃんとどこかで説明されると思うケド、ざっくり言うなら……」
妖狐「言うなら…?」
猫神「同じであって同じでは無い、感じかにゃー」
妖狐「意味がわからぬ。もっとわかるように話さんか」
猫神「……バカ」ボソ
妖狐「な、ん、じゃ、とぉ?」
猫神「例えば野菜なんかは、栽培か自生かで別れるでしょ?」
猫神「人が手を加えたものか、そうでないものか」
猫神「そしてシキくんは前者に当たる訳よ」
妖狐「シキは野菜じゃったのか」
猫神「バカ」
妖狐「ハッキリと申すな」
猫神「じゃ、次行こうかにゃー」
妖狐「無視か、無視なのか」
妖狐「……まぁよい。 らじおねーむ、『植娘はパーティに入れなくていい』さんからじゃな」
妖狐「『始末しましょう 草属性はショタのシキくんが居るから充分』、か」
妖狐「ふむ……先ず、ぱーてぃとはなんじゃ?」
妖狐「下着をぱんてぃと男が言っておったが……それの亜種みたいなものかの?」
猫神「本当にバカにゃ」
妖狐「もはや隠さなくなったのぉ……」
猫神「パーティって言うのは、まぁ簡単に言うと 集まりだよ」
猫神「アタシたち五人と二匹で旅してるでしょ?それもパーティって言うのよ」
妖狐「ほぅ……下着の亜種では無かったか」
猫神「似たようなのがもう一つあるにゃ」スッ
妖狐「どれどれ……らじおねーむ『ここだけの話しばらくシキのこと忘れてましたよね…?』さんから」
妖狐「『頼むそうじゃないと言ってくれ』……この一言のみじゃな」
猫神「……そうじゃないよ!忘れてないにゃ!ほら、ちゃんと魂刀の時に出てきたでしょ?」
妖狐「思い出したようにな」
猫神「ぅぐ……」
妖狐「わしが推測するに、男の右腕が斬られる→そう言えばシキが居たのぅ、ついでに出しとこ。みたいな感じじゃろ」
猫神「そ、そんなこと言っちゃダメ!」
猫神「シキくんのお陰で男くんの右腕が繋がったんだよ!?」
妖狐「日記を見る限り、其方の助けもあったみたいじゃが?」
猫神「じゃ、じゃあアタシとシキくんの力のお陰だよ!」
妖狐「まぁ、よいか。今やシキの他に植娘までおるんじゃし、今度こそ忘れんじゃろう」
猫神「シキくん静かだからにゃぁ……」
猫神「ところで植娘ちゃん、何でこんなにヘイト溜まってるんだろ?」
猫神「魔術師くん程じゃ無いケド……」
妖狐「やかましいからじゃろな」
猫神「なんでよ!可愛いじゃないの!アタシに二倍攻撃出来るんだよ!?」
妖狐「は…?二倍…?」
猫神「草は地面に二倍だよ、知らないの?」
妖狐「知らんわ。初耳じゃ」
猫神「でも妖狐ちゃんや男くんにはあんまり効かないんだよね。炎だから……」
猫神「騎士くんや刀娘ちゃんには等倍かぁ」
妖狐「全く話についていけん。わしは植娘より強いというのでよいのか?」
猫神「うん、相性抜群だよ!」
妖狐「ほぅ、なら植娘と組む方がよいのか」
猫神「そっちの相性じゃないにゃ」
猫神「まぁ冗談は置いておいて……」
猫神「植娘ちゃん、どうやら胃袋を騎士くんに掴まれたし、多少は静かになるんじゃにゃい?」
妖狐「流石騎士じゃな」
猫神「だよね!妖狐ちゃんわかってるぅ!」
妖狐「う、うむ……」
猫神「んじゃっ次行ってみよー!」
妖狐「しょ、承知した……」ゴソゴソ
妖狐「らじおねーむ、『俺は植娘好きだけどな…』さんからじゃ」
妖狐「『あれだけ暴走するんだしなんか色々とサブイベが起こると嬉しいw あと定期的にラジオは続けてほしい
魔術師のこととか意外と解消されたしほのぼのしてて良いわ』」
猫神「おぉ、イイねイイね!」
妖狐「ほのぼの、と言ってもよいのか?」
猫神「植娘ちゃんを好きな人と嫌いな人が居るのね、悩ましいわ」
妖狐「ところで、『さぶいべ』とはなんじゃ?」
妖狐「『寒い』が訛っておる感じかのぅ?さぶぃべぇー」
猫神「妖狐ちゃんは黙っててね、横文字弱すぎるから」
妖狐「ひどいべぇー」
猫神「……」バゴ!
妖狐「すまん。悪かった。じゃからドアをヘコまさんでくれ、あ奴はアレでも生きておる」
猫神「次読んで」
妖狐「らじおねーむ『猫神大好き』さんから」
猫神「にゃんと!嬉しい!」
妖狐「『今更ながら女キャラって全部人外ですよね。何かこだわりでもあるんですか?』」
猫神「にゃふふ。お便りをくれたキミ、鋭いにゃ」
猫神「そう……普通の女の子なんか出てきてもありきたりだからね!」バンッ
妖狐「言われてみると、わしら雌(メス)は全て何かしらの魔物じゃな」
猫神「アタシは猫、妖狐ちゃんは狐、刀娘ちゃんは角が生えた蝙蝠っぽいよね」
妖狐「ちらっと出てきた金羊は、文字通り羊らしいしの」
猫神「この資料によると、どうもそうらしいね」
妖狐「まだ人外は山ほど居るし、ゆくゆくは動物園みたくなりそうじゃな」
猫神「あぁ、騎士くんに飼われたい……」
妖狐「飼われてどうするんじゃ」
猫神「そりゃぁ……ねぇ?」
妖狐「……するのは構わんが、刀娘にはもうやめてはくれぬか」
猫神「だって刀娘ちゃん、反応が可愛いんだもん」
妖狐「事後の朝、わしに泣きついて来たぞ」
猫神「そんなに…?」
妖狐「うむ。やめてやれ」
猫神「ただ抱き着いてるだけなのににゃぁ……」
妖狐「其方のは、‘‘ついで’’に抱き着いてるだけじゃろう」
猫神「じゃ、今度三人でしようか」
妖狐「やめんか。代わりに植娘で勘弁してくれ」
猫神「そう言えば、まだ手を出してなかったわね……」
妖狐「あ奴ならいくらでもよいぞ。少しは静かになるじゃろ」
猫神「ニャフフ……楽しみね」
妖狐「…む?そろそろ時間が来そうじゃな」
妖狐「えーと、最後は【装備の紹介こーなー】じゃ」
猫神「ほうほう」
妖狐「この、ほわいとぼーどの裏に……よっ」グイッ
『 【猫神】
頭 【真紅の髪留め】
体 【黒服飾の衣裳】
腕 【無】
脚 【音黒のストッキング】
武器【強化魔鏡小太刀】
盾 【無】
装飾品
左【親交のミサンガ】
魔術《地砕鬼》
《猫騙視》
《震異》
《影駐》
《猫足》
《照猫画個》…etc.
』
猫神「わー、アタシの装備?」
妖狐「今回はその様じゃな」
妖狐「ふむぅ、見た感じ黒を基調とした感じかのぅ」
猫神「そだよー、アタシ黒が好きだから」
妖狐「【黒服飾の衣裳】(こくふくしょくのいしょう)とは?」
猫神「見た目は刀娘ちゃんが着てるメイド服に近いよ」
猫神「一応、隠蔽する為に加工してあるにゃん」
妖狐「へそ出しの服とは、最近の若者は洒落ておるの」
猫神「アタシも妖狐ちゃんくらい生きてるんだけどなー」
妖狐「なん……じゃと……」
猫神「【音黒のストッキング】(おんこくのすとっきんぐ)は、足音があまり立たない様に、これも加工してあるにゃ」
猫神「《猫足》(びょうそく)は足音を聞こえ難くする魔術。これを合わせると殆ど音を立てずに歩けたりするよ」
×面>Xmen
『チームのリーダーはウルヴァリンじゃなくてサイクロップスじゃねぇのか?』的な。
蔑ろにされ感が半端ねぇ…。
妖狐「便利じゃな。……よもやそれで騎士の寝込みを襲おうとしては無かろうな?」
猫神「したよ。いつも雷魔に邪魔されるケドね」
妖狐「したのか……それに呼び捨てとは、其方にしては珍しいの」
猫神「あの忌々しい魔物……アイツさえ居なければ…!!」ギリッ
妖狐「おー、こわ……」
妖狐「【《強化》魔鏡小太刀】(きょうか まきょうこだち)は、例の鍛冶屋のエルフが手を加えた物じゃな」
猫神「だねー、これで邪魔者は消せるにゃん」
妖狐「……物騒な言い方じゃが、まぁよいか」
妖狐「あと説明されていないのは、《照猫画個》(しょうびょうがこ)くらいか」
猫神「これね、アタシのトッテオキにゃ」
妖狐「そうなのか?」
猫神「なんとこの魔術、目視したことのある相手の姿を微妙に真似ることが出来るのよ!」
妖狐「び、微妙に…?」
猫神「うん。微妙に」
妖狐「どうせなら完璧に真似ればよいじゃろ」
猫神「そんなの無理じゃよ」
妖狐「口調を真似るな」
猫神「例えば、妖狐ちゃんに友人が居たとする」
妖狐「ほぅ」
猫神「その人にアタシが化ける訳よ」
猫神「遠目で見たらバレないけど、近づきすぎると、あれ?お前誰?ってなるにゃ」
妖狐「なんとも使い辛い術じゃの」
猫神「言っておくけど、最初の頃はこうやって妖狐ちゃん達を尾行してたりしてたんだよ?」
猫神「ほら、ぶつかって来た子とか居たでしょ?あんな風に監視してた」
妖狐「なんじゃと!?」
猫神「よくもまぁ、ところ構わずあんなにイチャついて……見てるこっちが恥ずかしかったにゃ」
妖狐「あ、あれを全部見られていたのか……」カァァ
猫神「恥ずかしがるなら、もう少し場所を選ぼうね」
妖狐「よ、余計なお世話じゃ!」
妖狐「そもそも、男の奴が―――
猫神「はーい、そろそろお別れの時間がやってきたにゃー」
妖狐「わしの話を聞―――
猫神「また不定期に放送するから、その時は是非とも聴いてにゃー!またねー!」
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました
疑問を解決する為のラジオ、本当に解決してるのか怪しい……
>>733
まさかの伏せ字じゃ無かったのですね、申し訳無いです
更新きたと思ったら本編無しでの雑談のみってさ…
―数日後―
>朝日が部屋に差し込む
>少し遠くでは、トントントンとまな板に刃物が当たる音が反響し、心地良い音色に聞こえいつまでも眠れそうだ―――
男「ん……ぁ……」
男「もう朝か……」ノビー
>昨日何があったのか、と寝ぼけた頭で記憶を辿る
男「そういや、昨日は妖狐と取っ組み合いになったんだっけ。その後疲れて寝てしまったのか……」
男「皆は……まだ寝てるな」チラ
男「痛た…妖狐め、本気で首に噛みつきやがって……」
男「少しは猫神らしく従順になってほしいもんだ」
妖狐「…むにゅ……」ゲシッ
男「……やっぱり次からはベッド必須だな。雑魚寝だと蹴られまくってたまらん」
ガチャ
騎士「おはようございまーす……」ボソ
>部屋にたちまち食事の温かみのある匂いが広がる
>この香ばしい食欲をそそる匂いは、穀物のパンか……なんて考えつつ返事をする
男「騎士さんおはよう」
騎士「起きられていたんですね」カチャカチャ
男「俺以外はまだ寝てるよ。そろそろ起こそうか」
男「妖狐、猫神、刀娘、起きろー 朝だぞ」ユサユサ
妖狐「っくしゅ…ん…む……朝から煩いやつじゃな……」ゲシッ
男「お前もう朝飯抜きな」
妖狐「しゅまん」ノソ
男「猫神ー、ほら起きろー」
猫神「ん…にゃ……うるしゃぃ」ゲシッ
男「お前ら寝起きだけは仲が良いな」
男「騎士さん、猫神をお願い……」
騎士「猫神さん、朝ですよ。そろそろ起きて朝食を食べましょう」
猫神「……はぁい」モゾ
男「刀娘、起きろー」ユサユサ
刀娘「…う、ん……」ガシ
男「い"っ!?っった!!」
男「痛いっつーの!寝技かけるのやめろ!」
刀娘「……ん」ギュゥゥ
刀娘「…あれ?」
男「起きたか……」
刀娘「ごめん、抱きまくらかと……」
男「抱き枕に寝技もどうかと思うがな」
男「はぁ……毎朝疲れる」
騎士「あはは……お疲れ様です」
男「騎士さんも、いつも食事ありがとな」
騎士「どういたしまして、です」
妖狐「……」ボー
男「どうした?」
妖狐「……しんどい」
男「昨日あれだけ騒いだんだ。疲れない方がおかしいよ」
妖狐「う…む……」
猫神「んにゃー」ジー
騎士「猫神さん…?」
猫神「妖狐ちゃん、具合悪そうだね」
猫神「みんなは体調どう?」
男「俺はなんとも」
騎士「私も同じく」
刀娘「私も……」
猫神「アタシも。みんなが大丈夫となると、何かしらの感染では無さそうね」
猫神「男くん、刀娘ちゃん、手出して」
男「ん…?」スッ
刀娘「はい」スッ
猫神「二人とも体温は普通、か」ギュ
猫神「妖狐ちゃんはっと……」
妖狐「…ん……」
猫神「やっぱりアタシ達と比べると熱いわね。額も含めて体が」ギュ
猫神「妖狐ちゃん、喉見るからあーんして」
妖狐「んあー」
猫神「騎士くん、光お願い」
騎士「あ、はい」ピカ
男 (めっさ使いこなしてる……)
猫神「んー、若干赤く腫れてるわね」
猫神「騎士くんもういいよ、ありがと」
猫神「うーん……これは多分風邪かもにゃぁ……」
猫神 (でも風邪にしては少し違和感が無くはないケド……)
猫神「んー、この島に薬の材料ってあるのかな」
猫神「妖狐ちゃん、一応何かあったらすぐ言うのよ?」
妖狐「うむ……」コク
騎士「猫神さん、お詳しいのですね」
猫神「昔、医者の真似事やってたからにゃー。本業には劣るケド……」
騎士「それでも私にとってはとても凄い事ですよ」ナデナデ
猫神「にゃふふー♪」
>騎士に頭を撫でられ口を『ω』な形にして猫神が喜んでいるが、それどころではない
男「ど、どどどうしよう!?」
猫神「んにゃ?」
男「ま、まずは冷やす為の水……あっ!それより窮屈だろうから先に衣服を緩め―――緩める!?」
男「いや、タオル!タオルだよ!そうタオルだ!タオルが必要だ!」
猫神「タオル連呼しすぎでしょ……」
騎士「男さん落ち着いて……」
男「と、とにかく水だ!水を―――おわっ!?」ズテッ
猫神「そんなに慌てなくても、妖狐ちゃんは大丈夫だよ」
妖狐「こら、慌ただしい奴じゃな……。前のお主はもう少し落ち着きがあったぞ……」
男「む、昔と同じ様になんて扱えるかよ…!」
刀娘「……」セッセ
猫神「刀娘ちゃん、凄く手慣れてるね……」
騎士「私達が話をしている間に、看病の準備を終えるとは……」
騎士「お、男さん。そういえばローブさんから伝言が」
男「な、なんだ?」
騎士「『飯食ったら鍛冶場に来てくれ』、と」
男「預けてた武器が完成したのかな……」
騎士「だと思います」
男「でも……」チラ
妖狐「わしのことは気にするな。行ってくるがよい」
猫神「アタシも残るよ。三人で行ってきて」
男「ぐむむ……わかった。終わったらすぐ戻るからな」
騎士「猫神さん、妖狐さんをお願いします」
刀娘「タオルと水、ここに置いとくね」
猫神「任せるにゃー」
――
――
―鍛冶場―
ローブ男「お、来たか」
騎士「おはようございます。お待たせしました」
男「待たせた。終わったのか?」
ローブ男「あぁ。っと、詳しくは長に聞いてくれ」
長「預かった武器全てに加工を施した」
男「加工…?」
長「そうだ。通常の武器であれば、魔力の類を断ち切るのはほぼ不可能と言っていい」
長「しかし、我らエルフ等が持っている特別な魔力を織り込むことで、武器に魔力の類を阻害する効果を付加させられる……らしい」
長「私も実際、この目で見るまでは半信半疑だったがな」
長「さぁ、受け取ってくれ」スッ
>各々が長に預けていた己の武器を手に取っていき、久々の再開とばかりに武器に目を向ける
男「見た目は……そこまで変わってないな」ス
男「よっと」サクッ
植娘「んぎにゅあ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
刀娘「わわっ…刺さっちゃった」
男「なるほど、こりゃ凄い」
騎士「猫神さんのは私が預かりますね」
騎士「それと、私の武器…数が多くてすみません」
長「気にするな。私も久しく打つことが出来て嬉しいからな」
長「その代わり、大切に扱ってくれよ?」
騎士「ありがとうございます。承知しました」
男「ありがとう」
ローブ男「で――――
男「悪い!話はあとだ」ダッ
ローブ男「お、おう。……あいつどうしたんだ?そういや妖狐と猫神も見かけないが……」
騎士「実は、妖狐さんが風邪を引きまして」
ローブ男「なんだと!?それを早く言え!」ダッ
騎士「あっ!……もう見えなくなりましたね……」
刀娘「追いかけようか」
騎士「ですね」
長「ふふ…。まったく騒がしい者達だ」
――
――
―部屋―
バンッ
ローブ男「妖狐!?無事か!?」
猫神「あれ、ローブくんどしたの?」
妖狐「なんじゃ…?騒がしいのぅ」ケホケホ
男「ローブの。少し静かに頼む」
ローブ男「あわわわ……」
猫神「んにゃ?」
ローブ男「ど、どどどうしよう!?」
ローブ男「ま、まずは冷やす為の水……あっ!それより窮屈だろうから先に衣服を緩め―――緩める!?俺が緩めてもいいのか!?」
ローブ男「いや、タオル!タオルだよ!そうタオルだ!タオルが必要だ!」
猫神「妖狐ちゃん具合悪いから、大きな音は立てないで……」
ローブ男「と、とにかく水だ!水を―――おわっ!?」ズテッ
猫神「なーんかデジャヴなんですケド」
男「俺、こんなんだったのか……」
騎士「はぁ…はぁ……ようやく追いつきました」ゼーゼー
刀娘「ローブさん早すぎ……」
ローブ男「よ、妖狐……」ガク
妖狐「……」
ローブ男「ちくしょ…こんな貧相な体になって……」
ローブ男「ははっ……見ろよこのフザケた顔…これで死んでるんだぜ…?信じられねぇよ」
猫神 (これは乗った方がイイの…?)
妖狐「……おほん。勝手に殺すな」
ローブ男「し、死人が喋った……」
妖狐「わしは死んでなどおらん。あと貧相な体とは聞き捨てならんな、わしは元から―――いや、まぁよい。最近はこの体じゃ!」
妖狐「それになんじゃ、急に来たと思ったら喚くわ、眠ってるわしを死人扱いするわ。こっちが信じられん」
妖狐「あと……フザケた顔で悪かったのぅ?」ジロ
ローブ男「えぇと……」
妖狐「それに―――あー、痛い。頭が痛い……」
ローブ男「え、あ……あー、そう。うん、あった」
ローブ男「えーと、なんだっけ?」
猫神「アタシに聞かれても困るにゃ」
ローブ男「うーん……(どこまで言うべきか)」
妖狐「お主の頭は鳥頭かや?」
ローブ男「っ……はは、そうかもな……」
騎士「珍しいですね。妖狐さんが男さん以外にそう呼ぶのは」
妖狐「む?そうじゃな……何故か男と同じ雰囲気を感じて、つい…の」
男「俺とぉ?まぁ炎を使うのとかは似てるけどさぁ……」チラッ
ローブ男「俺と似てるのは不満か?」
男「流石に俺はこんなアホじゃないぜ」
ローブ男「お前にだけは言われたくないな」
男「んで、ローブの。用って?」
ローブ男「っと、そうだな」
ローブ男「ある伝手の情報なんだが、南の大地に統主に関する重要なものがあるらしい」
騎士「重要なもの?」
ローブ男「あぁ。俺も詳しくはわからないんだ」
男「それは…どこかの場所にか?」
ローブ男「察しが良いな。南の大地の……南西の方角だな」
ローブ男「その辺りに、『見捨てられた国』ってのがあるらしい」
猫神「嫌な予感しかしないんですケド」
ローブ男「だな。俺もそう思う」
ローブ男「だから、ここから東の大地に突っ切って行くかそれとも……俺と一緒にさっき言った場所へ行くか選んでくれ」
男「ま、待て待て!そもそも東の大地って何だ?」
猫神「東の大地って言うと、南の大地を超えた先だね」
ローブ男「あぁ。隣だからな」
騎士「……しかし、そこにどんな用が…?」
ローブ男「用って、騎士さんは何言ってんだよ。統主倒しに行くんじゃないのか?」
騎士「それは、そうですけども……」
ローブ男「ん…?あれ、お前らもしかして……南の大地に統主が居ると思ってる?」
猫神「逆に聞くけど、南の大地には居ないの…?」
ローブ男「居ないね。アイツ東の大地に拠点があるぞ」
猫神「嘘!?で、でもアタシは……」
ローブ男「猫神、お前と統主は四六時中一緒に居た訳じゃないだろ?」
猫神「う、うん……。南の大地に大きな軍事基地―――まぁ砦ね。それがあって、そこでアタシは統主様と暮らしてたんだケド……」
猫神「言われてみると、数日間空けることは何度もあったし……」
ローブ男「つまるところ、その場所は統主からしたら別荘みたいなもんだろ」
猫神「んにゃぁ……ショックすぎるよ―――
猫神「って、ちょっと待って。東の大地……」
騎士「どうしました?」
猫神「ぅぁ、最悪じゃん。東の大地行くのってあの砦を三つ超えなきゃいけないにゃ……」
妖狐「けほっ…けほ……。なんじゃ、話が全く見えんぞ」
猫神「南の大地にはね、三つの防衛線があるのよ」
猫神「アタシ達が居る西の大地から、順に三つね」
【西の大地】 【東の大地】
【南の大地】
進行方向→ 1,2 3
猫神「こんな感じ」
男「こんなバカでかい大地なんだし、避けて行けば良いんじゃないか?」
猫神「それが出来ないから言ってるのよ」
猫神「そりゃぁ、出来ないこともないよ?でも空でも飛べない限り無理かにゃー」
男「どういう意味だ?」
猫神「南の大地はね、何があったのか色々な所に大きな湖があるの」
【南の大地】
西 湖 湖 | 東門
の | | |
海 湖 砦 | |
岸 | 砦 砦
| | |
湖 | |
|
湖
猫神「昔の地図の記憶を頼りに描き起こしただけだから、変わってなければこんな感じにゃ」
騎士「都合良く、湖が進路を阻害してますね」
猫神「無論、砦もそれなりに大きいよ」
男「湖を泳いで渡るのは?」
猫神「無理ね。警備兵が巡回してるし、見つかりでもすれば一巻の終わりよ」
お願いだからこれ安価とか止してね…。
猫神「あっ……ねぇ、ローブくん」
ローブ男「無理だ」
猫神「アタシまだ何も言ってないんだケド!?」
ローブ男「俺が乗ってた竜のことだろ?」
猫神「そ、そうそう。アレに乗って超えるのは―――
ローブ男「アイツ、雷飛竜って言うんだが、今どこにいるかわからないんだよ」
ローブ男「一応別れ際に頼み事をしたが……」
ローブ男「そもそも、アイツとは協力関係な訳でも無いしな」
猫神「乗ってきてたのに!?」
ローブ男「たまたま会っただけだからなぁ」
ローブ男「あの金羊の情報屋に頼めば、ある程度の居場所は掴めるかもしれんが……というか金羊もどこに居るのかわからんし……」ブツブツ
ローブ男「あの羊、いつも俺の行く先々で会うって、尾行でもしてんのか…?」ブツブツ
猫神「ま、まぁ……結論、無理ってことね?」
ローブ男「ん?あ、あぁ。そう言うことだ」
猫神「となると、砦をどうにかして抜けるしか無いにゃぁ……」
刀娘「正面突破で」
猫神「刀娘ちゃんそれ全滅しちゃうからね!」
刀娘「気合でなんとかなる、かも」
猫神「ならないから!なったら悩んでないから!」
ローブ男「俺と刀娘で強引に突破することも出来るが、俺の体力がどこまで持つか……」
男「犠牲を払う案は却下だな」
妖狐「なら、一先ずローブの言う場所へ向かってみんか?」
騎士「そう、ですね……それから考えましょうか」
猫神「ローブくん、キミが言ってた場所ってどの辺りなの?」
ローブ男「んーと、確か……」スッ
【南の大地】
西 湖 | 東門
の 湖 | | |
海 砦 | |
岸 | 砦 砦
| | |
湖 | | |
↓ 湖
☆
ローブ男「この辺りじゃないか?」
猫神「だからアタシに聞かれても困るにゃ……」
ローブ男「……誘っておいてなんだが。何が起こるかわからない。気をつけてくれよ」
男「わかってる。早速行こうか―――と言いたいところだが、先ずは妖狐の風邪が治ってからだな」
騎士「ここから南の大地までは二日と半日かかりますけど、どうします?」
妖狐「向かうぞ。二日もあれば風邪なんぞ絶対に治る、絶対になっ」
猫神「一応数日分の食糧は買い込んで―――って、この島に店あったっけ…?」
騎士「ありますよ。銀貨不足らしく、銀貨の価値が金貨を少し上回ってましたから、私達にとっては助かりますね」
猫神「じゃ、そこで買い込もうか。アタシもついて行くよ。買いたい物もあるし」
ローブ男「じゃあ、各自準備を整え次第、ここを出よう」
―――
――
―
―南の大地―
妖狐「っくしゅ……」
男「まだ風邪が治ってないんじゃないか?」
妖狐「かも、しれぬ……」
猫神「『絶対に治っておるわ!』なーんて言っておいて」
妖狐「わしは治っておる。ただ風邪の奴がわしの体が恋しいらしくての」
猫神「それを治ってないと言うのにゃー」
妖狐「まぁ、この前よりかは幾分か楽になったから安心せい」
ローブ男「船は一応、入江の見え難い所に隠しておいた」
ローブ男「そしてここからは歩きだな」
騎士「どのくらいの距離なんでしょうか?」
猫神「歩く速度によって変わるけど、半日あれば着くんじゃにゃい?」
男「妖狐、おぶってやるよ。その体調で半日歩くのは疲れるだろう」
妖狐「おぶって歩くお主の方が、余計に疲れるじゃろ」
ローブ男「ここはもう敵地だ。ノロノロペースを合わせて歩いてると敵に出会う可能性もある。大人しく甘えておいた方が良いぞ」
ローブ男「この場に居るのはお前だけじゃないんだぜ」ポン
妖狐「う、む……承知した」
猫神 (前よりはやんわり言う様になったわね)
――
――
>目的地へ歩を進める
>景色は見渡す限り、どこまでも続く荒野と言っても過言ではない
>遠くに目を向けると、長広い建物が小さく見える。きっとあれが猫神の言ってたものなんだろう
ローブ男「しっかし、こうも視界が良すぎると俺達も困るな」
騎士「幸い…と言って良いのかわかりませんが、体よりも更に大きい岩等が多く見えますからそこを通りつつ行きましょうか」
ローブ男「そうだな。あまり姿を晒すと不味いしな」
騎士「水も多めに持ってきておいて良かったです。水辺が全く見えませんから……」
ローブ男「最悪、飯は食わなくても良いが、水は無いと困るからなぁ」
妖狐「のぅお主よ、こ奴はどんな奴なんじゃ?」スッ
>妖狐が先程から何度も頭をペチペチと叩いて質問をしてくる
男「見せてみろ」
男「えーと……あぁ、勇者のことか」
男「勇者ってのはな、文字通り勇ましい者だ」
男「強大な敵や、苦難や困難……それに折れず、立ち向かえる勇気ある人だな」
妖狐「ほー。ならわしも、勇者とやらになるのかの?」
男「ずぼらなお前は無理だろ」ハハ
妖狐「なんじゃと!」ベシッ
>どうやら、おぶられて暇なのか騎士から本を借りたようだ
>静かに読んでくれたら良いものの、いつもと同じく煩くなってしまった
>でも、妖狐が静かだとそれはそれでつまらない……
>なんて思ってしまうのは、きっと妖狐と話すのが楽しいと思っている自分がいるのだろう
妖狐「ふぅむ……」ペラ
妖狐「おっ……あぁ!」ベシッ
妖狐「……そうくるか……」ペラ
男「いちいち叩かないでくれよ、最近お前のせいで毛根の刺激が半端ないんだからな」
妖狐「勇者になれぬ禿者は、黙ってわしをおぶっておればよい」
男「ハゲは関係無いだろ!お前に髪の無い人の何がわかるって言うんだ…!」
妖狐「これだから禿は……わしの尾を少し分けてやろうか?」
男「そんな慰めはいらねーよ!ていうかハゲてねーし!」
妖狐「それより禿よ、この魔物とやらは何じゃろうな?」スッ
男「ハゲ言うな。……これは、俺にもわからん」
男「確か騎士さんの本だったよな。騎士さんはわかる?」
騎士「私も詳しくはわかりません。ですが……」
騎士「推測するに、そこに出てくる魔物は四人が力を合わせてようやく相打ちに出来る程度には強いと言うことですかね」
妖狐「勇者が率いる仲間……武に長けた武闘家に、魔法を扱える魔法使い、そして教会の教えを重んじる僧の者……」
妖狐「こやつらの旅も、なかなかのものじゃが……」
騎士「その四人相手でさえ、相打ちに持っていける程、魔物は強敵だったんでしょう」
妖狐「不思議な村娘と出会い、ようやくこれからという時に、のぅ……」
騎士「魔法使いが勇者に全ての力を分け与え、武闘家が命をかけて隙を作り、その間の回復を身を削って僧侶が行い」
騎士「その空いた隙に、文字通り全ての力を解き放ち勇者が攻撃を加え、魔物が半死半生になり、ようやく封印……」
騎士「以来、その大地は平和になったものの、勇者達は魔物と戦った数日後」
騎士「元々体の弱かった順に、僧侶、魔法使いと息を引き取り、武闘家と勇者は思い出の崖で酒を酌み交わしながら眠るんですよね……」
妖狐「平和を願い、そして親友といつもと変わらぬ会話をしながら息絶える所は泣けるのぅ」
男「そんなに面白い話なのか?」
妖狐「うむ!是非お主も読むとよいぞ」スッ
騎士「読むのであればお貸ししますよ」
男「じゃあ暇な時にでも読んでみるかな」ゴソゴソ
――
――
ローブ男「はぁ…はぁ……」ヨタヨタ
ローブ男「ようやく、着いたか……」
猫神「大丈夫?」
ローブ男「こんなに歩くとは思わなかった」ハァハァ
ローブ男「ていうか、お前ら体力あるな」
妖狐「お主は体力馬鹿じゃからな」
男「うるせ」
騎士「刀娘さん、大丈夫ですか?」
刀娘「うん……。ふあぁ……なんだか、眠い」
猫神「ここ、なんだか変な雰囲気ね」
ローブ男「見捨てられた国、か……」
ローブ男「ふぅ……早速入るか」
――
―腐濫の水門―
妖狐「ぐぅ……くしゃい」
男「……臭いな。俺でもこんなに臭うってことは、妖狐や猫神はもっとじゃないか?」
猫神「にゃはは。アタシは少し鼻が良い程度だけど、妖狐ちゃんは鼻がもげるくらいキツイんじゃにゃい」
騎士「あまり長居はしたくありませんね」
ローブ男「苔に気をつけて進むぞ」
コツ コツ コツ……
男「入り口の扉は閉まってるな」
ローブ男「どこかに解錠出来そうな装置は―――
バコッ
刀娘「ごめん、取っ手が取れちゃった」
猫神「そのまま押したら開けられるんじゃない?」
刀娘「うんしょっ」ギギィ
猫神「隙間空いた!もうちょっと……よっと」ベコッ
刀娘「空いたね」
男「ナチュラルにこじ開けて怖い」
妖狐「これから、其方らには逆らわんことにする」
男「怪力でも限度があるだろ……」
ローブ男「す、進むか……」
騎士 (この扉、少なくとも鉄製ですよね。それを無傷でヘコませるって……)
――
―廃れた街道―
ローブ男「石畳になったおかげか、走れるな。急ごう」
騎士「人の気配がありませんね」
猫神「いや……人以外なら感じるよ」
妖狐「じゃな。ローブの言う通り、急いだ方がよいな」
刀娘「…っ」コク
コッ コッ コッ コッ……
男「お、おい。またこりゃ大きな扉……いや、門か?」
刀娘「んんっ……これ、固いね」
猫神「ちょっと避けてて」
猫神「よいしょっと!」ブンッ
>ばごぉぅん! と鈍い音が響く
猫神「ダメにゃー、これは固いね」
ローブ男「やっぱり、他の方法で―――
刀娘「連続で叩けばいけるんじゃない?」
ローブ男「……へ?」
猫神「その手があったにゃー。《地砕鬼》で……」ブンッ
>ばごぉぅん! ばごばごばごばご―――
ドゴォ!!
>門が中央からヘコみ、周りの壁が崩れ落ちた
妖狐「……この猫をどこかに閉じ込めることは不可能じゃな」
男「とんでもない猫がいたもんだ」
ローブ男「猫神もだが、刀娘もなかなかアレだと思うぞ……」
騎士 (これ、門と言うのですからきっと多勢で攻められても大丈夫なくらいの強度な筈ですよね)
騎士 (見た感じ、結構分厚いですし)チラッ
騎士 (猫神さんだけで国を落とせるのでは…?)
猫神「さっ、行こうか」パンパン
男 (猫神さんカッケー。俺も片手間でしましたよ。みたいに手を払いつつ言ってみたい)
――
―見捨てられた国―
ローブ男「ようやく目的地か……」
猫神「建物も手を加えられてないのか、結構腐敗してるね」
妖狐「しかし、こんな所に本当に手がかりがあるのかのぅ?」
ローブ男「……」
刀娘「どうした、の…?」
ローブ男「……え?あ、あぁ。そう、だな。あると良いな」
騎士「……ここ、最近誰かが来ました?」
ローブ男「こんな所に用があるのなんて、俺らくらいだと思うぞ」
騎士「そう、ですか」
猫神 (騎士くん、何かあった?)ヒソヒソ
騎士 (足元を見てください。目を凝らせば汚れが少し薄くなって居る所が多々あります)ヒソヒソ
騎士 (きっと何者かが私達より先に、この地へと足を踏み入れたのでしょう)ヒソヒソ
猫神 (にゃるほど、ね)ヒソヒソ
男「で、どこに行けばいいんだ?」
ローブ男「ちょい待ち。確かに地図に……」ゴソゴソ
ローブ男「こっちだ」
ザッ ザッ ザッ……
ローブ男「この辺りに……あった。ここだ」
猫神「随分大きな建物ね」
ローブ男「研究棟らしい」
騎士「とにかく、入ってみましょうか」
ギィィ……
―研究棟―
妖狐「けほっけほ……凄い埃じゃの」
ローブ男「ここに何かある筈なんだが……」
猫神「んー……ん?」
騎士「どうしました…?」
猫神「なんだか、この気配……どこかで―――
>ギシッと、妖狐が中央より少し奥の床板を踏む音が響いた瞬間
>ブンッと、羽音の様な音が耳に入ると同時に、紫の円が部屋全体を覆う
ローブ男「っ!刀娘!」グイッ
刀娘「わわっ」
>ローブ男が咄嗟に自分から一番近い刀娘を力任せに引っ張り、外に放り出す
猫神「みんな構えて!」ドンッ
>猫神が注意を促しながらローブ男を外に突き飛ばした
ローブ男「おっ、おい!」
男「ちっ。なんだかよくわからんが、不味い状況なのは確かだな!刀娘!」ブンッ
>直後、ぐわんっと辺りの景色が歪み、真っ黒な空間に四人が引きずり込まれ―――
パシュンッ
>弾ける音と共に黒い空間が閉じた
ローブ男「あれは……」
刀娘「お、男さん!」
ローブ男「おいおい、このタイミングでか」
>どうやら、この一帯を根城にしている魔物達に気づかれたのだろう
ローブ男「全く、面倒なことになったな」
――
――
タッ タッ タッ タッ……
>いくら倒したのだろうか。逃げ回りつつ魔物をなぎ倒す
ローブ男「はぁ……はぁ。キリが無いぞこれ」
刀娘「みんな、どこに行っちゃったの……」
ローブ男「四人同時に引き込まれたんだ。きっと一緒な筈だし大丈夫だと思いたい」
ローブ男「それより……」
ズバンッ
ローブ男「こいつらをどうするか、だ」
ローブ男 (まさかここまで連戦を強いられるとは思わなかった)
ローブ男 (そろそろ限界が近い……が、刀娘が居るんだ。倒れる訳にはいかん!)
ローブ男 (どうにかして、目を眩ませ―――
刀娘「男さん!後ろ!!」
ローブ男「っ…!」
バチィッ
>いつの間にか、刀娘の首に提がっていた珠から触手飛び出し魔物の攻撃を弾く
>少し前に男が何かを投げたと思ったら、植娘とか言うのを刀娘に渡していたのか……
植娘「……」シュルル
刀娘「植娘、ちゃん……ありがとう」
植娘「勘違いしないでよね。助けた訳じゃないから」
ローブ男「…すまん」
植娘「言っておくけど、結果的に助けた様になっただけ」
植娘「乳デカ、仲間が危険に陥った時、アナタならどうするかしら」
刀娘「も、勿論助けるよ!」
植娘「そうね、ワタシも助けるわ」
植娘「ワタシが言いたいのは、そこのローブマンを仲間と思ったから―――いや、仲間と‘‘認識してしまった’’から本能で攻撃を防いだだけよ」
ローブ男「……」
植娘「薄々感じてはいたけど、アナタ……既に一度死んでるんじゃないの」
刀娘「えっ……どう、いうこと…?」
植娘「人間の言葉で言うなら、‘‘心臓が無い’’かしら?」
ローブ男「……さぁな」
植娘「とぼけたって無駄よ。アナタから感じるもの。ワタシと同じ様なものを」
植娘「もっとわかり易く言うなら―――
植娘「あの男に引っ付いていたシキとか言うのと似たようなものね」
植娘「ソイツで無理やり生きながらえてるんじゃないのかしら」
ローブ男「……チッ」
ローブ男「やっぱりシキの言う通り始末しておくべきだったな」
刀娘「お、男さん……」
ローブ男「一先ず話は後だ。……っはッ!!」ボォッ
>最低限の魔力を残し、炎を周囲に撒き散らす
ローブ男「こっちに隠れるぞ!」グイッ
刀娘「う、うん…!」
―――
――
――
ローブ男「……」
刀娘「……」
ローブ男「言ったか…?」ボソ
刀娘「……たぶん。足音が遠退いて行ってる」ボソボソ
ローブ男「はぁ……」
刀娘「ね、ねぇ。一度死んでるって……」
ローブ男「そいつが言った通りだよ」
ローブ男「俺の……丁度人間で言えば心臓がある部分にシキが居るんだ」
ローブ男「もっとも、心臓の代わりになったせいか、もう意思疎通は出来なくなったけどな……」
植娘「他人を犠牲にして、アナタはのうのうと生きてるワケ?」
刀娘「植娘ちゃん…!」
ローブ男「……そうだよ。それでも、俺は生きたかった」
ローブ男「だから、チャンスをくれたシキに感謝してるし、シキの為にも俺はやり遂げなければならない」
植娘「なら、せいぜいずる賢くなって、こんな所で死なないようにすることね」
ローブ男「何が言いたい?」
植娘「この乳デカに頼れって言ってんのよ」
植娘「アナタ、もう魔力が殆ど残ってないんじゃないの」
ローブ男「だとしたら、何だよ」
植娘「全て使い果たすと……死ぬワよ」
植娘「こんな所で死ぬと、少なからず悲しむ奴が居ることくらい私でもわかるわ」
刀娘「……」
植娘「何を背負ってるのか知らないけど、背負うのをそこの乳デカに少し手伝って貰っても罰は当たらないわよ」
植娘「ここに居るのは、アナタだけじゃないのよ」
ローブ男「っ……まさか、自分の言った言葉が返ってくるとはな」
ローブ男「……本当、その通りだ」
ローブ男「周りが見えてなかったのは、俺の方だな……」
刀娘「…! 足音がこっちに……結構多いよ」ピクピク
ローブ男「刀娘、耳が良いんだったな」
ローブ男「はぁ……悪い。今から少し刀娘に頼ることになる」
刀娘「っうん!なんでも言って!敵だってやっつけちゃうよー!」
ローブ男「ありがとな……先ずはここを離れよう」
ローブ男「妖狐達が引きずり込まれたものは、多分俺達がここに来たのものと同じだ」
刀娘「えっ……それって」
ローブ男「あぁ。アイツらは……もうこの時代に居ない可能性が高い」
ローブ男「飛んだ先が過去か未来か、それはわからないが……」
ローブ男「ここに戻ってくるには、飛んだ先と飛ぶ前の同じ場所に大きな力を加えたら少し道標ができると聞いた」
ローブ男「でも、飽くまで指標ができるだけだ。そこから飛ぶには、飛んだ先……つまり妖狐達の方で何かしらの事をしなくちゃいけない」
ローブ男「……と。刀娘の母から聞いたよ」
刀娘「ママから?」
ローブ男「そうだ。その何かってのは俺にもわからない。こっちに来る時も猫神が全部してくれたしな」
刀娘「みんな、大丈夫かな……」
ローブ男「大丈夫だろ。なんて言ったって、昔の俺が居るんだからな」ニヤリ
刀娘「不安だなぁ」
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました
てすと
>ぐわんと空中に穴のような空間が開き、放り出される
ヒュ
ゥ
ゥ
ゥ
男「うおっ…ぉ…!!」
ビタンッ
男「いってぇ……」
男「な、なん―――
妖狐「ふべっ」ズシ
男「ぅ…ぐ……重ぃ」
騎士「わ、わっ……!」ズシ
男「ぉ……ぅ……」
猫神「よっと」スタ
男「ふ、二人共……おもぃ……」
妖狐「おぬしの姿が見えんと思うたら……何をしておるんじゃ?」
男「『何をしておるんじゃ?』じゃねぇだろ!お前が乗っかってるんだよ!」
騎士「男さん、ご無事でしたか!」
男「騎士さんも乗ってるから絶賛ご無事じゃないよ!」
猫神「はい」ドサ
男「なんでお前はわざわざ乗った?」
猫神「乗る流れかにゃーって」
男「そんな流れは水に流してくれ」
妖狐「わしが乗ったことも水に流すがよい」
男「ぬがー!」ガバッ
――
*
男「それで、ここはどこなんだ?」
妖狐「知らぬ」
騎士「私達が居た場所と似てるような……」
猫神「似てるというか、これ……」
男「まるで、時間が戻ったみたいだよな」
猫神「場所は同じっぽいけど、建物が風化して無い」
猫神「ということは、アタシ達が居た時間より前ってことににゃるねぇ」
猫神「だとするなら、男くん」
男「……あの輝月の湖で視た時の様に、俺達四人を何らかの方法で過去を視せてるってことか?」
猫神「そういうことっ」
騎士「えーと、つまり。魔術の類でいいのですよね?」
猫神「だと思う。こんなに詳細に視せられるなんて、この時点で相当高度な魔術ってだけはわかるよ」
妖狐「ようわからぬが……どうすればよいのじゃ?」
猫神「この魔術を作った人の意思を探すしかないよ」
猫神「一定の時間進むと勝手に解かれるのかな……」
男「それで、これから――― ドンッ
「ってぇな兄ちゃん。もう少し前見てから歩きな!」
男「す、すみません!」
妖狐「全くお主は……注意力が散漫しておるぞ」
男「……ぇっ」
妖狐「む…?」
男「い、意味がわからない……」
猫神「うそ……」
騎士「どうしました?」
男「猫神……」チラ
猫神「これ、視せてるんじゃないってこと…?」
妖狐「一体何を言って…?」
男「これが過去を俺達に視せてるとしたら、その中で出てくる人や物には触れられない筈なんだ」
騎士「先程、思いっきり触れましたね」
猫神「そんな、過去に飛ぶなんて……」ブツブツ
猫神「いや、でもそう言えば……」ブツブツ
猫神「みんな、ここはアタシ達が居た時間から遡った昔の場所の可能性が高いよ」
男「時間って……まさか、過去に来たってのか?」
男「そんな……お伽話みたいなこと、あり得るのか…?」
猫神「有り得るよ」
猫神「……なんせ、身近に居たからね」ボソ
妖狐「ふぅむ……」
騎士「言われてみると、周りから凄く視線を感じますね」
猫神「昔に来たってことは、文化の違いなんかも当然あるからね」
猫神「アタシ達の服装とか、珍しいんじゃないかにゃー」
妖狐「一応、耳と尾はこのまま隠しておくか」ゴソゴソ
猫神「アタシもおなじく」ゴソゴソ
男「しっかし、参ったな。帰り方が全くわからんぞ」
騎士「刀娘さんとローブさん、大丈夫でしょうか…?」
妖狐「刀娘もローブの者もそれなりに強い。大丈夫じゃろ」
騎士「だと良いんですけどねぇ……」
猫神「過去のこの時間に飛ばしたってことは、これから何かが起きるんだと思う」
男「おいおい、まさか俺らでそれを解決しろってのか?」
猫神「それしかもう手がかりが無いってのが本音」
妖狐「全く厄介なことになったのぅ」
>辺りからは楽しげな会話や軽快な音楽が聴こえてくる
騎士「そんなまさか。この活気ですよ?」
騎士「こんなに賑わっているところに、本当に起こるんでしょうか?」
騎士「とても何かが起こりそうな気配はありませんけど……」
騎士「ねぇ、男さん?」
男「騎士さんそういうこと言うと―――
ドドンッッ!!!
男「ほらきた!」
騎士「す、すみません」アハハ
男「あははじゃねーよ!」
猫神「この地響きは一体……」
>楽しげな雰囲気から一転、悲鳴と人々の地を踏み駆ける足音が響き渡る
男「おいあんた」ガシッ
「な、なんだよ!離してくれ!早く逃げなきゃ……!!」
男「頼む、少しで良い俺に時間をくれ。何があったんだ?」
「っ…。魔物だよ、中央の広場に突然魔物が現れたんだ!」
男「魔物……」
「あんたらも命が惜しけりゃ、とっとと逃げな。あんな魔物に勝てる奴なんて……」
「いや、もしかしたらあの勇者さん達が……」
騎士「あ、あの!勇者さん達とは…?」
「あんたら、勇者さんらを知らないのか?」
「勇者さん達はな、この世に蔓延る魔物の親玉……魔王ってのを倒す為に旅をしてるお方達だ」
「俺らじゃ太刀打ちできねぇ魔物どもをバッサバッサとそりゃぁもう!」
「けど……」
男「けど…?」
「広場に現れた魔物と勇者さん達の戦いを遠目で見ていたが……」
「相当苦戦を強いられていた……」
「最初はあの人達さえいれば大丈夫だと。これは何かの催し物だと思っていたんだ」
「でも……勇者さん達が必死な形相で『とにかくここから逃げろ』って」
「その時、あの魔物が催し物なんかじゃないんだってみんな気づいた」
「……笑ってくれよ。俺は命欲しさに逃げ出したんだ」
「俺らだって、戦えないなりに何かできたはずなのに……」
男「…なら、あんたは是が非でも安全な場所に命がけで逃げることだな」
男「せっかく勇者ご一行が救ってくれた命、無駄にしないことだ」
「っ…!」
男「みんな混乱してる。あんたは誰かと協力して逃げる人々を安全な場所に誘導してくれ」
「……わかった」
「あんたは、どうするんだ…?」
男「俺達は……」
妖狐「うむ」
騎士「えぇ!」グッ
猫神「だと思ったにゃー」
「行くのか……。気をつけてくれ、あの魔物はそこら辺の魔物とは全く別物な気がするんだ」
男「忠告、ありがとう」
――
――
*
「はぁ……はァ……」
「こりゃ、厄介だな」
「あぁ。俺達で倒せるかどうか……」
「勇者、それをあいつらに絶対言うんじゃないぞ」
勇者「っ……すまん、武闘家」
武闘家「弱音を吐くのはオレの前だけにしておけ」
武闘家「それより―――
『ゴガァァァァァ!!!』
勇者「咆哮だけでここまで気圧されるのは久しぶりの感覚だ」ビリビリ
武闘家「良いじゃないか、原点に戻るとしようぜ」ビリビリ
武闘家「オレ達はどんな敵にも立ち向かい、四人で乗り越えてきた」
武闘家「それは今も同じだ」
勇者「あぁ……」チラ
武闘家「……僧侶は怪我を負った人達を癒やすので精一杯」
勇者「魔法使は市民への攻撃の足止めでこっちには手が回らない」
武闘家「……なら」
勇者「俺らがやるしかないよな」
武闘家「おう!」
――
ズガンッ
>魔物の大きな前足が地を砕く
勇者「っ…!」
武闘家「大丈夫か!?」
勇者「気にするな!少し掠っただけだ!」
武闘家「この魔物……」
武闘家「攻撃がまるで効いている様子が無い……」
武闘家「オレは魔法の類は全く使えない……」
武闘家「勇者の魔法も、魔法使より力は弱いものの、それなりに敵に傷を負わせられる程度には強い」
武闘家「だが、コイツには殆ど効いて無いように見える……」
勇者「オラァッ!」バチチチッ
>魔物の顔面にありったけの雷魔法を直撃させる
『グッ……ゴァァ……!』バシュンッ
勇者「ちっ、効いてないかッ…!」
武闘家「…?」
『ガァァァァ!!』ボゥ
武闘家 (な、なんだ…?一瞬、魔物の周りにある霧のようなものが……)
勇者「武闘家!!」
武闘家「ッ!しまっ―――
ボフンッ!
>どこから飛んできたのか、炎の塊が魔物に当たり、よろめく
武闘家「っ!?」
勇者「炎の魔法……魔法使か!?」
武闘家「いや、魔法使はまだ市民を誘導してるはずだ…!」
勇者「なら、この魔法は一体……」
「すげぇ!マジで百発百中じゃん!」
「ま、まぁの!」
「本当にこんな遠くから当てるとは……流石ですね」
「相変わらず命中率が気持ち悪いにゃー」
勇者「人…?」
武闘家「と、ともかく勇者。無事で良かった」スッ
勇者「あ、あぁ……」グッ
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました
長く空けてしまいすみません
もう一年も経つんですね……
タッタッタッッ…
男「おーい、大丈夫かー?」
勇者「……武闘家」チラ
武闘家「……あぁ」
勇者「お前は俺達を助けてくれた、そう解釈しても良いのか?」
妖狐「むっ、なんじゃその言い方は…!」
騎士「妖狐さん落ち着いて」スッ
男「何を疑われてるのか知らないが、俺達はあそこの魔物を倒しに来た」
男「そのついでに助けただけだよ」
武闘家「……オレ達は先程見たく、誰かに窮地を救われたことが何度かあるんだ」
武闘家「その際、対峙していた敵と共犯し、何度も裏切られてきた」
勇者「敵から救ってくれた俺達は、そういった奴らをまんまと信用してしまった……」
勇者「俺達は名がそれなりに通っていて、金品を狙われることが多い」
勇者「でも……金品や俺に危害が加わるのはまだ良い。だけど仲間に―――
勇者「魔法使と僧侶の体を狙おうとする輩に何度も遭遇してきた」
勇者「だから……もう仲間を危険な目に合わせる訳にはいかない…!」
男「そう、か……」
勇者「それ故に、疑い深くなってしまった。すまない」
騎士「そ、それより!魔法使さんと僧侶さんと言うのは…!?」
騎士「あのっ!あなたはもしかして―――
勇者「なんだ、やっぱり俺達を知ってるのか?」
武闘家「まぁ、なら軽い自己紹介を―――
『ゴガァァァァァッッ!!!』
猫神「させてくれる訳無さそうだね」
男「一先ず妖狐と猫神は下がれ!」
妖狐「わしも―――
男「……下がっててくれ」
妖狐「う、うむ…。承知した……」スッ
猫神「りょーかい」
――
*
勇者「来るぞ!」
『ガァァァアアア!!』
>どすどす、と地響きを鳴らしながら魔物が風を切り突進を始める
武闘家「来るなら来い…!」グッ
男「側面に攻撃を当てられるか……」スッ
騎士「いや、これは―――
>魔物は前方に居る勇者と武闘家に目もくれず駆け抜ける
騎士「男さん!!標的は私達じゃありません!」
男「妖狐達か…!」チラ
勇者「ッ!」ギリッ
バチチチチッッ
>勇者が雷撃を飛ばし妨害を試みるも、魔物は止まる気配を感じられ無い
男「騎士さんッ!」ボォッ
騎士「えぇ!」バチッ
>間髪入れず、炎球と雷撃が魔物に直撃する
『ゴ…ァァ……』バシュンッ
武闘家「っ…!」
『……』ボゥ
勇者「クソ…!まるで効いてねぇな……」
武闘家「なぁ。アンタ、もしかして魔法が使えるのか?」
騎士「えぇと、魔法と言うより私達はこの力のことを魔術と呼んでますが……」
武闘家「何でも良い。勇者と同じ様な力が使えるんだよな?」
騎士「多分……」
武闘家「なら、少し協力してくれないだろうか?」
騎士「協力?」
武闘家「あぁ」コク
武闘家「オレの合図と共に、さっきの魔術? とやらを魔物に叩き込んで欲しい」
騎士「わかりました。伝えてきます!」タッ
――
*
武闘家「勇者、先程言った様に合図と共に雷魔法を頼む!」
勇者「任せろ!」
騎士「来ますよ!」
男「こっちも準備は出来てるぜ!」
『ゴアァ"ァ"ァ"ァ"ッッ!!』
>再び魔物が咆哮を発しながら突進を繰り出す
武闘家 (魔物の側面に回り込んで……)スッ
武闘家「みんな!今だッ!!」
勇者「っしゃぁ!」バチチチッ
騎士「はい!」バチィッ
男「おう!」ボォッ
『グゥッ……!』バシュン
武闘家「《正拳突き》!!」ブンッ
>武闘家の《正拳突き》が魔物の腹部に叩き込まれ、衝撃で鱗のような物が舞い散る
『ガ…ァ……』ガク
武闘家「通ったぞッ!」
勇者「嘘だろ……すげぇ……」
勇者「で、でも何でだ…?」
武闘家「あの魔物を見てくれ」スッ
勇者「若干ボヤケて見えるよな……」
武闘家「あぁ。表面に霧みたいなモヤがかかってる」
武闘家「そのモヤが、勇者の魔法を受けた時、一瞬晴れたんだ」
武闘家「だから、さっきは勇者と君達二人の力を合わせ、より大きな力を叩き込むと完全に消える……かもしれないと思った」
勇者「ハハっ、なるほどな。上手く成功したってワケだ」
男「なら俺達も魔術を撃った後に攻撃すれば……」
武闘家「更に傷を負わす事が出来る…!」
騎士「弱っている今のうちに追撃しましょう!」タッ
>俺が放った炎球、そして騎士さんと勇者の雷撃が魔物に吸い込まれる様に直撃する
>その攻撃で表面の霧が晴れた瞬間、武闘家が素早く数発の打撃を叩き込み
>ワンテンポ遅れて各々が全力で武器を振るう
『ゴッ……グゥ……』ヨロ
勇者「このまま押し切るぞッ!」
武闘家「おう!」
騎士「はい!」
『フゥー…… フシューー……』シュゥゥ
男 (なんだ…?魔物から蒸気みたいなものが―――
『ガァアアアッッ!!』ボゥッッ
>弾ける様な咆哮と同時に視界が紅く染まり後ろへ吹っ飛んだ
男「ぐぉッ……!」
騎士「っ 男さん!」
勇者「こ、こいつ…!」
武闘家「魔法が使えるのか…!?」
――
*
男「あっつぅ……」ヨロ
妖狐「男よ…!無事か!?」タッタッ
男「あ、あぁ……」
猫神「アタシ達もやっぱり―――
男「駄目だ。どんな魔物かわからない以上、危険な目に合わせる訳にはいかない」
猫神「……でも、早く倒さないとマズイことになりそうだよ?」ユビサシ
男「なに…?」チラ
――
*
騎士「はぁ……はぁ」
勇者「さっきから炎ばかり撃ちやがって…!」
武闘家「お、おかしい!何故こうも魔法が使えるんだッ!」
武闘家「魔法っつーのは有限だった筈だろう!?」
勇者「確かに、魔法ってのは身体にある魔力を使って使用するが……」
勇者「あれ程の大きな炎を何度も放てば、直ぐに枯渇すると思う……」
騎士「心無しか、疲れるのが早く感じられます……」
勇者「俺もだ……」ハァハァ
騎士「この魔物……そういえばどこから現れたんですか?」
武闘家「どこからって……」
勇者「下から…?」
騎士「下…?」
武闘家「地中から、だよな」
勇者「あぁ。……待てよ」
勇者「地中から魔物……」
武闘家「勇者!避けろ!」
勇者「チッ!」ヒュッ
勇者「とりあえず走りながら話すぞ!」タッ
武闘家「了解だ!」タッ
騎士「はい!」タッ
勇者「ここの大地……魔物の被害が各地で、これまでにも何度かあったんだ」
勇者「その魔物に荒らされた場所は、どれもすぐ近くに大きな穴が空いていたらしい」
勇者「そしてこの魔物も地中から出て来て、穴がある」
武闘家「地面の中を移動してんのか…?」
騎士「で、ですが…!」
勇者「焦るな。問題なのはここからだ」
勇者「その魔物に荒らされた場所は、その周囲一帯が枯れ果てた土地になっているらしい」
勇者「ここの大地に来てまだ日が浅いから、実際に俺が見たわけじゃ無いんだがな」
騎士「枯れ果てる…?」
勇者「そうだ。草木や潤った土、その他全て、まるで命が尽きたかの様な有り様らしい」
騎士「命が、尽きる……」
騎士「吸う…?」
武闘家「どうした?」
騎士「そう、か……」
騎士「吸ってるんですよ!今この瞬間も!」
勇者「な、何をだ?」
騎士「魔力ですよ!」
騎士「あの魔物は私達が今、この場に居る周囲の魔力を吸収してるんです!」
武闘家「ま、待て待て!だとするなら……」
勇者「周囲の魔力が尽きるまで、あの魔物は魔法を使ってくるってことか!?」
騎士「私と勇者さんが妙に疲れているのもきっと……」
武闘家「そうか、オレは殆ど魔力を持たないから……」
騎士「人間には、あなた達が言う魔法が使えなくとも魔力は宿っている、と聞きました」
武闘家「つーことは、オレもわからないだけで吸われてるってことか?」
騎士「えぇ。そして、人は魔力が尽きると回復するまで眠ります」
勇者「やべぇじゃねぇか!」
騎士「武闘家さんがあまり疲れていない理由……」
騎士「私が推測するに、武闘家さんの身体を割合で表すなら肉体のみの力が9、魔力が1と言ったところでしょうか」
騎士「私や勇者さんの身体は多分、半分ずつの割合なんだと思います」
騎士「なので魔力を取られると……」
勇者「割合が多い分、身体に負担がかかるって訳か」
騎士「だと思います」
武闘家「なるほどな……」
勇者「それで、ここからどうする」
勇者「このまま炎を避け続けるのは体力が持たないぞ」
騎士「……そうですねぇ」
騎士「こちらの相方が、そろそろ何か策を思いついていることに期待しましょうか」チラ
――
*
妖狐「あの魔物、半永久的に魔力を回復するみたいじゃな」
猫神「どーするの、男くん」
男「魔力が回復するのは厄介だが、飽くまで回復するのは魔力だけだ」
男「なら、持久戦に持ち込まれる前に決着をつけるしかない…!」グッ
男「格好つけて下がれと言ったが……二人の力を貸して欲しい」
妖狐「はぁ……最初からそうすればよかろうに」
猫神「それで、アタシ達は何をしたら良いの?」
男「俺が攻撃を引きつけつつ、あの魔物に突っ込むから炎をどうにかしてくれ」
猫神「どうにかって……」
妖狐「ふふん、わしの出番じゃな!」ウキウキ
猫神「何をする気なの?」
妖狐「炎に炎を当てる」
猫神「無理でしょ」
妖狐「無理じゃないない」チッチッ
猫神「それで騎士くんに飛び火したら許さないからね?」ギロ
妖狐「わ、わかっておる……」
男 (攻撃を引き付けるの俺なんだけど……)
―――
――
―
今日はここで終わります、ありがとうございました
てすと
―――
――
―
男「……」スー…スー…
騎士「……」チラ
騎士 (全くこの人は……この状況で良く寝ていられますね……)
騎士「はぁ……」
「どうした、溜息なんてついて」
騎士「こんな所に居ると溜息もつきたくなりますよ」
「ハハッ、ちげぇねぇな」
「お前さんら新入りだろ?」
騎士「みたいですね」
「どうした、何をしてこんな所―――――
「この難攻不落の牢獄にブチ込まれたんだ?」
騎士「‘‘統主’’さんとやらに喧嘩を売ったんですよ成り行きで……主にこの横の方が」
「あぁ、さっきから寝てる兄ちゃんか」
騎士「えぇ」
騎士 (妖狐さんから聞いた話では、魔力を使い過ぎると眠くなるらしいですから仕方が無いのかもしれませんが……)
「統主に喧嘩を売るたぁ、なかなかやるじゃねぇか」
「生きてるだけですげぇぜ」
男 (こんなにガタイが良いのに、やけに可愛らしい声してるな……)チラ
男「……次は殺すよ、絶対にな」
騎士「すみません、起こしましたか…?」
男「いや、気にしなくていいよ」
「さっき兄ちゃん、『殺す』と言ったが……そりゃ無理な話だぜ」
「アイツは化けもんだ。本物な」
男「化物って言ったって魔物と変わらないだろ?」
「……まぁな。だが、そこら辺の魔物とは格が違う」
「生半可な力で喧嘩を売りゃ、俺みたいになるぜ」
騎士「……その傷、どうしたんですか…?」
「統主の野郎に喧嘩を売ったら、気づいたらついてたよ」ハハハッ
「というか僕―――んん。俺からすればお前さんらが五体満足でここに居るのが不思議でならねぇ」
「是非ともここに来た経緯を聞かせて欲しいな」
男「面倒だから騎士さん頼むよ」
騎士「はいはい……」
騎士「えっと……見捨てられた国って知ってますか?」
「あー……聞いたことはあるな。気味が悪くて近寄った事は無ぇが」
騎士「私達はとある用があり、そこに行ってたんですよ」
「げー、兄ちゃんらやるなぁ」
騎士「詳しい説明は省きますが、なんやかんや強い魔物と戦いまして」
「ほー、魔物ね」
「……兄ちゃんらは、魔物は全て悪だと思ってたりするのか?」
騎士「いえ、少なくとも私達は一概に悪とは思っていませんよ」
「……そうか。止めて悪かった、続けてくれ」
騎士「わかりました」
騎士「それで、その魔物を倒した後、見捨てられた国へ魔法使さんと言う方が戻してくれたんですよ」
「んん?待て待て。戻ってきたって事は、別の場所に行ってたのか?」
騎士「そうです。この辺は言っても信じてもらえ無さそうなんで省きますね」
「ほーん。わかった」
騎士「必死でその魔物を倒しました。それこそ持てる全ての力をほぼ出し切り」
騎士「で、戻ってきたのは良いんですが……」
「やべぇ、続きが読めちまった」
騎士「……その時に、統主さんとやらが見捨てられた国へ来てたんです。それも隊を率いて」
騎士「包囲されちゃって、こっちはヘトヘトですし」
「兄ちゃんら二人だけなのか?」
騎士「いえ、私達二人と他に四人程居ました」
騎士「ここからは多分、貴方の想像している通りです」
騎士「他四人を逃がす為に私達が囮になった感じですね」
騎士「……皆、無事だと良いのですが……」ウツムキ
男「無事さ。あいつらはそんなに弱くない」
男「それに、あのローブも居るんだしな」
騎士「……そう、ですね」
「なんだなんだ、カッケェじゃねぇか」
「俺はそういう奴、好きだぜ」
男「……統主は俺達に言ったんだ。『面白い、殺すな』と」
男「ナメられたもんだ」ギリッ
騎士「男さん……」
――
――
男『ようやく帰ってこれたと思ったら……』
ローブ男『すまない……』
刀娘『ごめん、なさい……』
騎士『二人は悪くありませんよ。それよりも―――
猫神『この状況をどうするか、だにゃー』
妖狐『次から次へと……』
男『完全に囲まれてるな』
『貴様らか。面倒な事を……』
男『そう言う俺達を包囲してるお前こそ誰なんだ?』
『貴様らに名乗る道理は無い』
猫神『統主、様……』ボソ
騎士『あの方が…?』
統主『……ほぅ。猫神よ、そこに居たか』
統主『報告を受けた時、間違いであって欲しかったものだかな』
猫神『……』ギュ
猫神『もぅ、こんなこと辞めよう…?アタシは―――
統主『何を発すのかと思えば……』
統主『裏切り者の言の葉など必要無い』
統主『人に惑わされたか。それとも……』
統主『まぁいい―――潰せ』スッ
ローブ男『最悪だな、こんなタイミングで……』
妖狐『やるしか無かろう…!』グッ
男『……ローブ、お前まだ体力は残ってるか』
ローブ男『少しならな』
男『そうか。なら、四人を連れて逃げろ』
ローブ男『……お前は囮になるって言うのか?』
男『いいや。俺はまだまだ体力が残ってるからな』
男『あの偉そうに上空で高みの見物をしてる統主の野郎をぶん殴ってくるよ』
ローブ男『殴るって……お前飛べないだろ』
男『なら炎を当てればいい』
ローブ男『そういう問題じゃない』
妖狐『何を…言っておる男よ……』
妖狐『わしは嫌じゃぞ…!』
男『あぁ。そう言うと思ったよ』ドスッ
妖狐『げほっ……なにを、するんじゃ……』ヨロ
騎士『っ……』
男『ローブの。妖狐を担ぐくらい大丈夫だろ?』
ローブ男『……あぁ』
男『猫神、お前はわかってるよな』
猫神『……わかりたくない』
男『よっと』ボォッ
>迫る敵を炎球で弾き飛ばす
男『時間は無いぞ、早く行け』
ローブ男『刀娘、行くぞ』ガシ
刀娘『でも…!』
妖狐『ぐむぅ!離せっ!』ジタバタ
猫神『……もう!!』バン
>猫神が地を叩きいくつもの壁を作る
猫神『騎士くん!行くよ!』タッ
騎士『……』
ローブ男『……』タンッ
刀娘『っ……』ギュ
>幾数もの敵を剣で薙ぎ、炎球で弾き飛ばす
男『流石に多いな……』ハァハァ
男『皆は……無事に行ったかな……』
男『…………』
男『はは……今まで騒がしかったせいか、一人だと妙に寂しさを感じるな……』ボソ
男『まぁ、こんな最後も―――
騎士『なら、私が居れば少しはその寂しさが紛れますかね』
男『……おいおい、俺は逃げろって言った筈なんだけどな』
騎士『言われましたね』
男『じゃあなんで―――――
騎士『私は了承した覚えはありませんよ』ニヤ
男『なんつー屁理屈だよ……』
騎士『私はもう……逃げて後悔はしたくありません』
騎士『体が疲弊して悲鳴を上げてる……そんなの上等ですよ!』
男『騎士さんに何かあったら猫神に殺されそうなんだがなぁ』
騎士『では、ちゃんと帰らないと……ですね』
男『……うん』
男『ありがとう、騎士さん』
騎士『お礼は皆と合流した後、利子を付けて返して貰いましょうかね』フフッ
男『そりゃ早く行かないと、だな』
――
騎士「みたいな感じで……」
「カッコつけてこの様か」ハハッ
男「ホントにな」
「だが、仲間の元へ帰れるかは正直わからんぜ」
騎士「というと?」
「さっきも言ったが、ここは難攻不落」
「脱獄した奴は居ねぇ。それどころかそんな素振り見せただけで終わりさ」
「みな囚われてるが、それでも命は惜しいからな」
男「じゃあ、俺らが脱獄者第一号と第二号だな」
「おめぇら、マジでやる気か…?」
男「いずれな」
騎士「何か策が…?」
男「何も。でも、先ずは俺達の武器をどうにかして取り戻さないと……」
「武器か。もしかしたら何処かに保管されてるかもな」
「ここは訓練施設も一緒になってる。だから可能性は無くは無い」
男「それはどこに…?」
「わからん。何せここから出る時は働かされる時ぐらいだしな」
騎士「どうすれば―――
ガチャッ……ギィ
『おい、出ろ。時間だ』
男「時間?何のだよ」
『お前……口答えするのか?』
男「口答えっつーか、質問というか……」
「わりぃわりぃ看守さん!コイツらまだ此処に来たばかりなんだ」
「コイツらには俺からちゃんと言っておく。今回は多目に見てやってくれないかね…?」
『……次は無いぞ』
「すみません。ありがてぇ。ほらお前ら、行くぞ」スッ
男「……」スッ
騎士「……」スッ
*――
>ジメッとした牢から出て長い通路を歩く
>ようやく外へと出られ、日差しを浴びつつ辺りを見回す
男「土……」
「そうだ。昼から夜まではここで作業をするんだ」
「ちなみにサボったりするのだけはやめておけよ」
騎士「何かあるんですか…?」
「無けりゃ、俺だってサボってるさ」
*――
騎士「よっ……ふっ……」ブンブン
「おー、なかなかウマイじゃねぇか」
「土を耕すのって案外最初は手こずるもんだがな」
騎士「一応っ、経験っ、者ですの……で!」ブンブン
男「ふん!ふん!ふんんんん!!!」ゴスゴス
「ば、馬鹿野郎!鍬を反対にして遊んでんじゃねぇ…!もしバレたら―――
『おい。何をしている』
「ったく……言わんこっちゃねぇ……」ハァ
男「鍬の使い方がわかりませーん」
『……体力が有り余っているようだな 外周を五十週してこい』
男「へーい」タッ
「……五十週で済んで良かったな」
騎士「大丈夫でしょうか……」
「拷問よりはマシ、と思っておいた方がまだ気持ち的に楽だぜ」
騎士 (男さん……一体何を考えて居るのでしょう)
―――
――
―
挨拶が遅れました
明けましておめでとうございます
今日はここで終わります、ありがとうございました!
騎士 (うんしょっと……)ガリリッ
>牢の中に居ると何日経ったかもわからなくなる
>そうならないように、床に岩の破片で傷を入れているのだが……
騎士「今日で八日ですか……」チラ
男「でさー、ソイツがスゲぇ竜で―――
「ほー!そいつぁ一度拝んでみたいもんだ」
騎士 (相変わらず何を考えて居るのかわからない)
騎士「男さん。かれこれ八日経ったのですが」
男「みたいだな」
騎士「みたいだな、って……」
騎士「男さんが力を使うなって言うので、使いませんでしたが」
騎士「いっそのこと、この鉄格子を壊して早く逃げませんか…?」
騎士「男さんの炎でしたら―――
男「無理だよ」
騎士「えっ…?」
男「初日試した。この鉄格子は俺の炎じゃ壊せない」
騎士「そう、ですか……」
男「……ま。本当はもう、逃げようと思えば逃げられるんだ」
騎士「なっ……でしたら!」
男「まだダメなんだ。一つ、たった一つだけ欲しい確証がある」
騎士「それは?」
男「妖狐達が無事に逃げ切れているかどうか、だ」
男「俺達と同じく捕まっていたとして……」
男「もし俺達が逃げたとする」
男「その時、捕まっていたらどうする?」
騎士「それ…は……」
男「人質、見せしめ、何かしらのことをされるだろ」
男「それと気になるのは、統主が俺に言った―――
男「『我を殺したくば追って来い』、だ」
男「考えてもみろ。俺達は毎日ただ労働させられているだけなのが不自然なんだ」
騎士「何か裏がある、と…?」
男「かもしれない」
男「とにかく、妖狐達が捕まっていないことさえ分かれば―――
「お前さん達が言ってる『妖狐達』ってのが誰かは知らんが……」
「少なくとも、ここへお前さん達より後に来た奴は誰もいないぜ?」
男「なんでそんな事がわかるんだ?」
「俺やここに居る奴らは全員知ってると思うぞ」
「なんせこんな所だ。世間話しかすることが無ぇのさ。それも、この場所での話題でな」
「新しい奴が入ってくれば半日も経たずに広まる」
「お前さんらも初日、色んな奴に話しかけられたろ?」
騎士「言われてみれば……」
男「な、なら!誰もここへ来てないんだな!?」
「俺が保証するぜ」
騎士「男さん…!」
男「あぁ!帰ろう、騎士さん!」グッ
「おいおい、何か出る方法でもあるのか?」
男「俺達どころか、全員出られるぜ?」
「なんだと…?」
男「先ずはこの牢から出ないとな」
男「通路の天井を見てくれ」
「あん?ただ電灯があるだけじゃねぇか」
男「アレって電灯って言うのか」
「何言ってるんだ?当たり前だろ」
騎士「電灯……」
男「俺達が住んでいた所ではな、電灯っつーものは無かったんだよ」
「嘘でしょ!?」
男「良かったよ、あの電灯があって」
男「アレって点く時に、たまーに火花が出てたんだ」
男「だから……」スッ
バキィッ
:
:
ボォォ……
男「こうやって火が出ても違和感は無いだろ?」
騎士「炎を電灯へ……」
「兄ちゃん、そんな隠し玉を持っていたのか……」
>突然の発火に辺りの囚人達がざわつき始める
男「じゃ、大きな声で……」スゥゥ
男「火事だぞーーッ!!!」
騎士「周りが騒がしくなってきましたね」
「これなら出られるかも…!」
男「だろ?」ニヤリ
*――
>火が次第に大きくなり辺りが紅く染まる
男「……」
騎士「……」
「……」
騎士「あの……」
騎士「看守どころか誰も来ませんね……」
男「…………」
「…………」
男「ぬおおおぉぉぉ!!誰かぁぁぁぁ!!!」ガシャシャシャッッッ
「どうするの!?誰も来ないよ!?」ガンガン
騎士「あんなドヤ顔で炎を放ったのに」
男「火事だぞ!?普通誰か様子を見に来るどころか囚人達の安全を確保するだろ!?」
「僕達は死んでも良いってことなの!?」
男「死ぬううううぅぅ!!」ガンガン
「水!水!!」ドタバタ
騎士「どうします?」
男「騎士さんは何でそんなに冷静なの!?」
騎士「慌てると出られるなら慌てますよ」
男「どうしよう!どうしようぅぅ!?」
「あっ」
男「なんだ!?」
「そういえばここの壁、壊せるかもしれないよ」
男「壁…?」
「うん。結構前にね、囚人が暴れた時―――
男「騎士さん雷撃で!」
騎士「無理でした」
男「ちくしょ!もう火が来てるぞ!」
「よっ」バゴッ
騎士「なんと」
「一応壁くらいは壊せるよ……と言っても、あんまり意味は無いけど」
男「意味はある!ここから出られる可能性が―――
「無いよ。だって、横に行っても結局鉄格子があるんだ」
「コレをどうにかしない限り無理だよ」
「端まで行くと厚い壁だからね、流石の僕もどうしようもない」
男「……そんなのわからないだろ」
男「俺達三人居るんだ、何か手はあるはずだ」
男「一先ずここから横へ移ろう」
「……わかったよ」
騎士「ええ」
*―
ガラララ……
男「横は……誰も居ないのか」
「あーまずい、とけそう」
騎士「確かに、これは溶けそうな程の熱さですねぇ……」
「じゃなくて、解けそう」
男「とける?」
「うん。……ぁ」ボンッ
男「えっ」
騎士「これは……」
「あらら、壁壊す時に力使い過ぎたかも」
男「どういうこと??」
「毎日の労働にこの体だと耐えられなかったからさ、姿変えてたんだ」
「いつも就寝までなら持つ程度にはなってたんだけど……」
「まさかこの姿まで戻る事になるとは思わなかったよー」
騎士「小熊…?」
「んー、そうだね。熊娘とでも名乗っておこうかな。よろくねー」チョコン
男「全く人の姿じゃないが……」
熊娘「本来なら人の姿になれるけど、ちょっと最近無理しすぎたからねぇ」
熊娘「ま、この姿の方が……」ヒョイッ
騎士「なるほど。身軽ですね」
騎士 (しかし、キャラ作りしていたのは何故なんでしょうか……)
熊娘「という訳でよろしくー」
男「俺の肩に乗ったのは、連れて行けってことかよ」
騎士「そしてどうします?」
男「少し火から離れられたのは良いが、どうしようも―――
雷魔『あるゼ』
男「……雷魔か」
雷魔『おめーらがちんたら、あたふたしているのを見て笑ってたガ……』
雷魔『そろそろここから出ないとナ。流石に騎士が死んだんじゃ笑えねェ』
男「出られるならとっとと言えよ」ベシッ
騎士「男さん痛いのですが……」
男「ごめん、つい」
騎士「それで、方法は?」
雷魔『オレを誰だと思ってやがる。トレジャーハンターだゼ?』
男「それ言ってて恥ずかしくないか?」
雷魔『よーしわかった、ここでお前らと心中してやろうじゃねぇカ』
熊娘「誰だか知らないけど、ここから出られるなら出してよー」
雷魔『小せェ熊は黙っておねんねしてナ』
熊娘「なんなのこの人、急に口調が変わったり……痛い人?」
男「あんまり触れないでやってくれ。病気なんだ」
騎士「二人共酷すぎません?」
雷魔『カカッ。あー、面白ェ』スッ
>騎士が鉄格子へと手をかざす
グニャァ……
雷魔『ホラヨ。これで通れるだろ』
男「こんなこと出来るならマジで早く言えよ」ベシッ
騎士「男さん、皆さんと合流したらご飯一日分抜きですから」
男「ごめんんんっ」ガバッ
熊娘 (胃袋握られてるのね)
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今日はここで終わります、ありがとうございました!
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