徒然なるままに (249)
"つれづれなるままに、日くらし硯にむかひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。"
徒然草の序段の言葉だ。
現代語に訳すと
"特にやることもないままに、一日中硯にむかって、心に浮かんでは消えていく何ということも無いことを、なんとなく書き付けると、あやしくも狂おしい感じだ。"
となる・・・らしい。調べた。
いやいや。
普通暇だからって、一日中何かを書き続けたりしないだろ。
きっとこうだ。
「良い作品思いついたけど、書き出しどうしようかな・・・
これだ!」
みたいな。
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寝る前に、何故か気になって次の日の朝、前の席のヤツにこの話をする。
「いや、俺吉田兼行じゃねえし・・・」
それくらい知ってる。
「きっとほら、あれだよ。俺たちには想像もつかないようなふかーい理由があるのさ」
「例えば?」
「実は牢屋に閉じ込められてて、文字を書くこと以外は許されてなかった、とか?」
想像付いてるじゃん。
その後もあーだこーだと色々言い合ったがろくな意見はなかった。
結局、昔の人が何考えてるかなんてわかるわけもなく。
「まあいっか、授業始まるし」
俺の一晩越しの悩みはいともあっさり掻き消された。
「おし、じゃあ宿題集めるぞー」
授業が始まるやいなや、先生が不穏なことを言い出す。
「あれ、宿題あったっけ?」
「え、お前吉田兼好にケチつけてる暇あったくせに宿題やってねえの」
・・・え、マジで?
記憶を掘り返してみると、確かに先週言ってたような気がするような。
ちくしょう、吉田兼好が余計なことを書かなければきっと気付いていたのに。
おそらく、というかどう考えても吉田兼好に罪はないが、ただ忘れたというのはちょっと癪だし罪をなすりつける。
仕方がない、ここは必殺技を使うしかないだろう。
「先生。宿題やってきたんですけど、家においてきちゃって・・・」
「やってないんだなー分かったぞー。他ーやってないやついるかー」
なんと横暴な先生なんだ。これでもし、俺が本当にやったけど忘れてたらどうするつもりなんだ。
小声で怒りを前の席のヤツにぶつけてると「いや、でもやってないだろ?」と一蹴された。
結局、他に誰も声を上げてないところを見ると、忘れてきたのは俺だけなんだろう。
1限目からやるせない気持ちになった。
「昼休みだ!」
勉強嫌いな自分にとっては、学校という地獄のような時間の中での数少ない憩いである。せっかくだしテンション高めで言ってみる。
「あ、3限の宿題やってきた?見せてくんない?」
隣の席のヤツに言われる。
宿題とか言うな、テンション下がるから。
「甘いな、俺が宿題やってきてると思ったのか」
「いや、あんまり期待してない」
彼はあっさりそう言い放つと、前の席のヤツに同じことを頼んだ。
・・・ちょっと傷つく。
幸い、前の席のヤツはしっかりやってきていたようで、携帯で写真を撮らせてもらっている。
やれやれ、プライドはないんだろうか。
バッグから弁当箱を取り出す。中身は昨日の夕飯の残り物、ハンバーグだった。うめえ。
お弁当のつめたーくなっているご飯もまた好きだ。
全部食べ切ると、今度はバッグからイヤホンを取り出してプレイリストをシャッフルでかける。携帯からはピザ屋の宅配の兄ちゃんが困ってるって歌が流れた。
軽快な音楽を聞きながら洗面台で歯を磨く。健康は大事。
歯磨きから帰って、音楽を聞き流しながらプリントの問題を解いていく。やべえ俺かっけえ。出来るヤツっぽい。
休み時間が残り10分を切った時に、問題が起きた。
・・・あれ。これどうやるんだろう。
「すみませんもしよろしければこの私めに宿題の方お見せ頂けませんでしょうか・・・」
「良いけど、プライドはどうしたんだよ・・・」
プライドもへったくれもあるか。プライドで単位は取れないのだ。
プライドを捨てた甲斐あって、宿題はギリギリ間に合った。危ない危ない。
というか、授業3限しかないのにそのうち2つ宿題忘れるってたるみ過ぎじゃないか俺。明日からはきちっとしよう。多分2日後には忘れてるだろうけど。
前の席で体育服に着替えていた友達に声をかける。
「それじゃ君達は部活動頑張ってくれたまえ。僕は家に帰るとしよう」
「いや、お前も部活行けよ」
「俺はそんな枠には縛られないのさ・・・」
カッコつけて言ってみる。キマった。ここに女子がいたら黄色い声援が飛び交っていただろう。
でもここに女子は1人もいなかったし、前の席のヤツにはあっさりスルーされた。
「あれ、軽音部はどしたん」
「音楽性の相違により脱退致しました」
何言ってんだこいつ、って顔で見られる。てへぺろ、って顔で返すとまた適当に流された。ぐぬぬ。
そいじゃね、と手を振るとばいばい、と軽く手を振り返された。
今まではずっと軽音楽部に入ってた。文化祭では一曲くらい演奏したし、1年の時は地元のイベントに出て見事優勝した。その後も何回か出たけど順位はどんどん落ちてった。
ただ、去年は1年で部室に2回ほどしか行かなかった。1回は忘れ物を取りに帰った時だし、実質1回だけだ。
結局音楽の趣味が合う人が1人もいなくなってやめたわけだし、あながち間違いでもないと思う。パンク好きには肩身の狭い時代。
好きな雰囲気だがメール欄にいれるのはsageじゃなくてsagaだ
詳しくわ↓
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1463843377/)
期待
家に帰って、パソコンの電源を点ける。
起動が終わるのを待ってる間に家着に着替えて、弁当箱と水筒を流しに置いておく。いつも通り。
まあでも、これだけ効率的に動いたくせにやりたいことは特にない。
音楽をかけて、ぼんやりネットサーフィン。暇だ。
そうしてると、プッピプーと着信音が鳴る。ぱんこから着信中・・・の文字。
慌ててヘッドセットを取って、再生デバイスをスピーカーからヘッドセットに変える。音楽うるせえ。
「おいすー。あれ、聞こえてるー?へーい」
おいすー、って返事をする。まだへーいって言い続けてる。あれ。
手元のリモコンを見る。マイクミュート。これだ。
「マイクミュートになってましたてへ」
ドジっ子かー?と煽られる。でも声が高いから、子供に煽られてるみたいであんまりイラっとしない。
前にそれを言うと「せやろー永遠の14歳やぞ!」って調子に乗ってた。小学生くらいじゃない?って言葉はかろうじて飲み込んだ。
「で、どしたんですか」
前にやってたPCゲームで、うちのギルドに入って来て仲良くなった。
彼氏もその時一緒に入って来て仲良くなった。
カップルで同じゲームするの羨ましい、って前に言ったら「カップルじゃないよ!」って言ってた。
よく話すことといえば最近やってるゲームの話とか、最近なんかユウくんとうまくいかなくて・・・とかユウくんこんなこと言ってたんだけどどう思う?とか。
ユウくんというのは彼氏の名前だ。彼女のお眼鏡にかなったのか、やたらと恋愛相談を持ちかけてくる。やっぱカップルじゃん。
「いやー暇だしユウくんいなかったからさーそしたらマスターオンラインなってたしー・・・もしかして忙しかった?」
彼女は俺のことをマスターと呼ぶ。ギルマスだったから。今はもうやめたけど、呼び方はその頃のままだ。
マスターという呼び方は嫌いじゃない。なんか偉そうな気分になれる。
「いや、俺も暇してましたしなんか話しましょ。はよはよ」
だらだらと実のない話をするのも楽しいものです。
1時間ほど、公開予定のゲームの話やユウくんの話で盛り上がった。
相変わらず仲良くケンカしてるらしい。愚痴を聞いてたはずなのに、いつの間にか惚気けられるから困る。
「そいじゃあたし、夕飯作ってくるーのしのしー」
のししー、と返事をして通話を切る。時計を見るとまだ6時を回らないくらいだった。
情報社会の発達は、家にいながら色んな人と交流が出来るようにしてくれた。
でも、それがあるから、家で1人の時の寂しさはより一層浮き彫りになった。
暇だ。そしてちょっと寂しい。まだパソコンを触ることが許されない小学生の頃はどうしていたんだろう。
学校が終わって、友達と一緒に小石を蹴りながら家に帰る。時には白線の上限定、という厳しいルール。
大抵すぐ落っこちて、新しい石を探すことになる。
家に帰ってランドセルを置いたらすぐに友達の家に遊びに行く。
カードゲームをして盛り上がったあと、近くの公園でサッカーをして、疲れてベンチで休んでると友達のおばあちゃんがヤクルトをくれた。
そうしてるうちに5時を過ぎて、また明日、と別れを交わして家に帰る。
それから・・・それから?何をしてたんだろう。
家のチャイムが鳴って現実に引き戻された。
荷物手伝ってー、と母さんの声。
玄関に行くとカゴいっぱいに食べ物やら飲み物やらなんやらが入ってた。
「重いから気をつけてね?」
そう言われて持ったカゴは、思ってたよりもずっと軽かった。
夕飯を食べて、気分良く歌を歌いながらシャワーを浴びる。
風呂場で歌うとなんでこんなに楽しいんだろう。
「たったひとーつーのーことーがーいまをまよわーせーてるんだー」
ドアが叩かれる。うるさい、と叱られた。
仕方がないから声を小さくして歌い続けた。
風呂を上がって明日の授業割を確認すると、嫌いな理系が並んでいた。
そもそも学校自体が理系のところだし仕方のないことではあるのだけど。
記憶を辿る。たしか宿題はなかったはずだ。
ベッドに入って、灯りを少し落とした。携帯を取り出してツイッターを開く。
ゲーム用アカウント。いわゆるサブ垢。
何故かタイムラインには猫の写真が並んでいた。
猫の写真は持ってなかったから、去年食べた秋刀魚の塩焼きの写真を上げる。いいねが6つ。
一言二言、なんとなく思ったことを書き込んで、アイマスクと耳栓を付けて寝た。
外からは猫の鳴き声が聞こえた。
夢を見た。俺は学校の教室で、なぜかスーパーのカートを持って立っていた。
教室の中には半透明な男の子や女の子が6,7人ほどいる。
この子達は自分では動けなくて、俺がカートに乗せて玄関まで連れて行ってあげないと、このまま消えてしまう。
誰かに説明されたわけでもないけど、それだけは分かっていた。
俺は急いで子供達をカートに乗せて玄関に連れて行く。その中に一人だけ、俺と同じくらいの歳の女の子がいた。
全く見覚えはないけど、夢の中では彼女という設定だった。
「私はいいから、先にこの子達を連れて行ってあげて」
その言葉に従って、他の子達を連れて行く。残りはその子だけ。
そこで、夢に変化が起きる。視界が波打ち始めて、少しずつ暗くなっていく。終わりが近い。
もし助けられなかったら、彼女はーーー?
急いでカートに乗せて玄関に向かう。
でも、先生が途中でダンスを踊っていて通ることができない。
何も出来ずにそれを眺めていると、ぼんやりと目覚ましのアラームが聞こえてくる。
最後にこっちを振り返った彼女の顔は、真っ暗で何も見えなかった。
目を覚ます。一番助けたかった彼女はどうなったんだろう。
一生懸命、彼女が消えてしまわないような夢の続きを考えてみる。
でも、どれも希望的観測にしか思えなくて納得がいかなかった。ただの夢なのに。
別に何かを失ったわけでもないし、嫌なニュースを聞いたわけでもなかった。
でもその日は、何も出来ず見つめることしかできなかった、彼女の最後がずっと頭を回っていた。
助けられなかった自分が責められているように感じた。
放課後。学校が終わっていつものように家に帰る。
俺の自転車は変速機が壊れて、6で固定されっぱなしだ。中学の時、縁石の段差で転んだ俺を何度憎らしく思ったことか。
漕ぎ始めが辛いんだ。
幸いにも信号にひっかかることはなくスイスイと進めた。家まではあと少し。
田園風景から住宅街に差し掛かる。
ブルル、と携帯が震える。手に取るとぱんこから着信中・・・の文字。
彼女からの電話はいつもいきなり来る。まあ大抵暇だから良いんだけど。
「お、出た出た。ういすういすー」
イヤホンをつけての自転車の運転は法律により罰せられます。絶対にやめましょう。
「ういすーどしたんですか」
「いやーいつもの如くユウくん寝てて・・・あれ、マスター外いる?」
あれ、何でわかったんだろう。
「なんかビュービュー聞こえる」
なるほど。実は台風が来てて・・・と答えると「え、ほんと?大丈夫?大丈夫なのっ?」と慌てられた。
彼女と話してるとからかいたくなる。
「冗談ですよ、今帰ってる途中だったから」
イヤホンつけて運転してる!悪い子だ!とからかわれる。思わずにやける。
あ。
「・・・ニヤニヤしてるとこ、近所のじいちゃんに見られました」
きっと変な人だと思われてる、と2人で笑いあった。
明日の老人会で話題になるかもしれない。
そうこうしていると家に着いた。ちょっとしばらく返事できないです、と断りを入れる。
「ただいまー」
「おうおかえり!今日はバイトあるんか」
じいちゃん。もうそれなりには年を重ねてるけど、毎日散歩してるからか背筋はピンとしてる。
色々甘やかしてくれる。お酒に弱い。
イヤホンから「おらーバイトはどうしたーあるんかーうらー」という声が聞こえる。うるさい。
「今日は休みー」
じいちゃんにそう返して、2階へ上がる。二世帯住宅。1階がじいちゃんとばあちゃん。2階がうち。
父さんと母さんはまだ帰っていなかった。
誰もいないけど一応、ただいまー、と声を掛ける。
イヤホンから「おかえりー!おかえりー!おーかーえーりー!」と声がする。
「うるさいです」
「うぃっす」
今日も平和です。
ブラウザカードゲームをした。1対1の真剣勝負。
相手のターン。攻撃。防具で相殺。回復カードでHPとMPを増やして態勢を整える。
ちょくちょく様子を見て攻撃を仕掛ける。
回復も防具もないのか、相手のHPはじわじわと削れていった。残りHPは6。勝てる。
大きい攻撃を食らう。手持ちの防具を全部使ってなんとか凌いだ。
手札が減った分だけカードを引く。攻撃力40の最強武器に攻撃力倍加魔法。
魔法を使うのに必要なMPは十分にある。俺の勝ちだ。
運悪く、もう一度相手のターン。
「一か八かっ、くらえー」
攻撃力1の武器。でも冥属性が付いてる。防げなかったら即死。
手札に防具は・・・なかった。
「ふふふ・・・残念だよぱんこくん。その程度かね」
勝ち目はない。虚勢。ううっ、と弱々しい声が聞こえた。
何か出来ないか色々考えてみたけど、無理だった。
そうしているうちに持ち時間が切れる。防御なしで即死。負け。
「えっ」
「ふ・・・ふふふふふ!ふははははははあ!」
負けてんじゃん!と突っ込まれる。だって防具なかったし。
こうして1対1の真剣勝負は幕を閉じた。
時計を見ると5時半を回っていた。
この勝負で1時間かけたことになる。マジか。
「あ、ご飯炊いてない」
のししっ!と慌ただしく告げられると、通話が切られた。
前にもあったけど、通話が終わったあとはなおさら寂しい気持ちになる。
昔ネトゲをしてた頃を思い出す。俺のギルドはゲームの中でも大手の方だった。
ギルメン限定のグループ通話の部屋に行くと、いつも誰かがいた。
老若男女・・・というほど幅広くはなかったが、40歳いかないくらいのおじさんから高校1年生の女の子。
大学卒業して、今はニートだよって笑ってた人もいた。でもすごい羽振りが良かった。
たまたま機会があった時に聞いてみると、株だかFXだか何だかで儲けてたらしい。
家に帰って暇な時間はいつもそこにいた。
ずっと話し相手がいたから、寂しさを感じることなんてなかった。
一日中、誰かと話していられた。
でも、もうそのゲームはやめてしまったし今はもうギルドマスターでもない。
寂しさを紛らわしてくれるところにはもう行けない。
ツイッターを開く。
「暇です誰か通話しよ」
思ってたことをそのまま書き込む。
ゲームはやめてしまったけど、それでも仲良くなった人たちとの繋がりは切れてはいない。
半分縋るような気持ちで送信する。
とりあえず行動に起こすことが大事って、前に本で読んだ気がする。
10分ほど経って携帯に通知が来る。いいねが1つ。判断に困る。
何をする気も起きなくてベッドで横になる。
うーん、と伸びをして目を瞑ると、あっという間に眠ってしまった。
アラームで目が覚める。今は何時だろう。
朝か夜かも分からないし頭も働かなくて、体を起こしたままぼんやりする。
再びアラームが鳴る。びくっ、と体が反応して、ようやく頭がしっかり働き出す。
スヌーズ機能を切り損ねていたらしい。
今の状況を整理する。午後7時16分。学校が終わって、ぱんこさんとゲームした後寂しくなって昼寝した。
少し汗をかいたのか、体が微妙にベタつく。
そういえば帰ってからまだシャワーを浴びてなかった。
リビングに行くと、母さんが夕飯の準備を始めていた。
「おかえり」
「おはよう」
ちぐはぐな会話。シャワー浴びる、と告げて風呂場に向かう。
頭は働いてはいるものの、昼寝の後は何だかふわふわする。落ち着かない。
周りの世界に現実味がないように感じる。
自分が明らかに浮いているような、周っていた世界に急に放り込まれたような気分。
それも、シャワーを浴びて夕飯を食べ終わる頃にはすっかり消えていた。
部屋に戻って携帯を見ると、幾つか通知が来ていた。
いいねが更に2つと、ダイレクトメールが1つ。元ギルメンのグミちゃん。
「どしたん、話する??」
34分前。何となく嬉しくなる。
「是非とも!!!」
返事をする。机の上に携帯を置いて、明日の授業割を確認。
宿題が1つあった。
クリアファイルからプリントを取り出して解いていく。
途中で分からない問題があって詰まった。
ふと携帯を見ると返事が来ていた。
「ごめん、宿題あったから11時からでもいい?」
ういっす!と返事をしてプリントの続きに取り組む。
教科書やノートをあらかた探してみたけど、解き方が全くわからない。どうすんだこれ。
ネットで調べてみると、教科書には載っていない公式が出てきた。これだ。
公式自体は簡単なものであっさりと解けた。
というか授業に出てない公式出してくるなよ。
結局詰まったのはその問題だけで、あとはノートや教科書を見ながら何とか解けた。
時計を見ると10時半を示していた。あと30分。
・・・どうしよう。
インターネットに"UMA"と打ち込んで検索する。中学生の頃に、狂ったように調べた記憶がある。
その頃よく見ていたサイトはまだ残っていた。
記事は増えていたような気もするし、変わっていないような気もする。
何年も前に見ていたものだし記憶があやふやだ。
ページの一番上には、なんだか怪しげな広告と”この広告は、3ヶ月以上更新のないブログに表示されています”の文字。
少し寂しい気持ちになる。
チュパカブラの記事を見ていると携帯が震える。
いるー??と連絡が来た。
いるよーと返事を返す。
携帯にイヤホンを取り付けると同時くらいに通話がかかってくる。
「マスター久しぶり!」
久しぶりー、と返す。ぱんこさんとは違う種類の元気さがある。陸上部的な。
思ったことをそのまま口にしてみた。
「グミちゃん陸上部っぽいよね」
「え、全然違うよ。ピアノ部」
全然違った。そう言われるとピアノとかも似合いそうな気がする。人って単純。
「そいえばマスターフェス行ったって言ってなかった?どうだった?」
・・・やっぱ似合わないかもしれない。
彼女は数少ない音楽の趣味が合う人物だ。教えてもらってハマったバンドもいくつかある。
それからフェスの話やらギルドの話、お気に入りのバンドの話をして盛り上がった。30分ほど。
「マスターあれなら明日とかも話すー?」
最後に聞かれた。喜んでお願いする。
「マジで!グミちゃんが良いなら是非!」
その日は何だか寝つきが良いような気がした。
朝。寝汗と寝癖がひどいから、いつも朝と夜の2回シャワーを浴びる。
友達に話すとハゲるよ、って言われたりする。
それをずっとやってる父さんはフサフサだし平気。たぶん。
シャワーから上がって朝ごはんを食べる。今日は卵かけ御飯。
ご飯に卵を落として、しょうゆとダシをかけてかき混ぜる。
いただきます。
食器を流しに置いて、歯を磨きながら天気予報を確認する。
最高気温は22度、晴天。
自分の部屋に行って服装を考える。4年生になると今までとは違って私服登校になった。
服装を考えるのは楽しいし好きだけど、毎日ってなると着回しが難しい。
パソコンを点けてファッションサイトを開く。
順位が上の方のコーディネートを真似て、鏡の前に立つ。良い感じ。
クラスにはほぼ女子がいないし部活もないから、着飾っても男しか見ないけど。
だからって適当にするのはなんか癪だった。
荷物を持って自転車に乗り込む。日差しが眩しかった。風が微妙に冷たくて心地よい。
小学生の付けている熊よけ鈴の音が聞こえた。
ぐっと体重を掛けて自転車を漕ぎ出した。
4年生は自動車登校も許可されている。早く車の免許取りたい。
授業を聞き流しながらぼんやり携帯を触っていたらいつの間にか1日が終わっていた。
1,2年のころは怒られたけど、この歳にもなってくると何も言われないらしい。
自転車に乗って家に帰る。今日は確か自校がある日だ。
自動車学校の略し方には地域差がある、というのを見たことがある。うちの地域は自校派だった。
家に着いて30分ほど待つと、迎えのバスが来た。プップ、とクラクションの音。
家までバスで送迎というのはなかなかに気分が良い。偉い人みたいな気分。
運転手さんによろしくお願いします、と声をかけて席に座った。
イヤホンを取り出して音楽を聞く。俺の好きな曲。
窓の外をぼんやりと眺めて黄昏る。日が沈み始めて、遠くの雲はもう紫がかってきていた。
水平線より少し上。少しぼやけてつぶれた輪郭の太陽は、熟れて地面に落ちた果物のようだった。
見ていると何だか息が苦しいような、切ないような感覚に襲われる。
携帯に目を移してツイッターを眺める。
新しいコンテンツが追加されただとか、自分のキャラクターの写真だとか早く帰りたいだとか色んなことが並んでいた。
読んでいると5分もしないうちに気持ち悪くなった。車酔いしたらしい。
目をつぶって音楽に聞き入る。しばらくして、車の揺れが止まる。
「着いたよ、行っておいで」
ありがとうございます、行ってきますと返してバスを降りた。
夜、久しぶりにギターを弾きたくなった。
アンプにヘッドホンを繋いで、電源を点ける。
ギタースタンドに立てかけられているギターを手に取って、ストラップを肩に掛ける。
ライトニングボルトのレスポール。好きなアーティストの真似だ。
微妙に音が狂っていたからチューニング。
きちんと合わせて、全弦押さえずに弾き下ろす。
ヘッドホンから飛び出してきた音が、脳みそに直接突き刺さるような感覚。俺好みの歪んだ音。背筋がゾクゾクする。
そのままイントロに入る。パワーコードのブリッジミュート。頭の中でボーカルの声が聞こえた。
1曲弾き終わると、おでこにはわずかに汗がにじんでいた。部屋の窓は全開だし、扇風機を弱でつけているのに。
室温が30度くらいに感じる。暑い。熱い。扇風機を強くする。
そのまま10曲ほど弾き終わった頃には汗だくになってて、もう一度シャワーを浴びることになった。
体はべとつくけど、心がスッキリして軽くなったように感じる。単純だ。
シャワーから上がって間も無くグミちゃんから連絡が来た。ベッドに入って返事を返す。
通話がかかってくる。
「うっすうっす」
「こんばんは!」
楽器の話。ギター弾いてた、って言うと羨ましいって言われた。
「でも簡単だよ?そんな金もかからないしやってみたら良いのに」
「私手小さいんよね」
ピアノが弾けるならギターも弾けそうだけどな、特に根拠は無いけど。そんなことを思った。
言ってみると、んー、となんとも言えないような声。
「もしギター弾くようになったらマスターに教えてもらうね!」
約束をする。どうやって教えるか今のうちに考えておこう。
「あ、そいえば私身長どれくらいだと思う?」
手が小さいから飛んできたのか、そんな事を聞かれた。
・・・声だけで判断できるもんなのそれ。
無難そうなラインを狙う。
「156!」
「143です」
「え、マジ」
めっちゃ小さかった。びっくりした。143って、あれじゃん。
小6の頃の俺の方が大きいじゃん。
その日は、何だか体調が悪かった。頭が痛いし微妙に関節が痛む。熱っぽい。
学校休める!と不真面目なことを考える。
なんか熱っぽいんだよね、とアピールをしながら体温計を取り出す。
ピピピ。体温計は36.4℃を示していた。
・・・あれ?
もう一度測り直す。今度は36.3℃。次は脇で軽くこすりながら測ってみる。36.4℃。
「早く学校行く準備しなさい」
体温至上主義。うぃっす、と返事をして朝ごはんを食べる。
自転車を漕いでる間も頭痛は止まなかった。
一応マスクをつけてきたけど、そのせいで息がしづらい。
なおさら頭が痛む気がする。
教室について、手を枕にして寝る。
何のやる気も出ない。
頭痛と戦いながらぼんやりとしていると昼休みになっていた。
授業は何をしていたのか覚えていない。
もしかしたら寝ていたのかも。記憶があやふやだ。今日は何曜日だっけ。
頭は痛くても食欲はあるらしい。弁当を食べる。
歯磨きに行く元気はなくて、食べ終わるとすぐに寝た。
昼休みが終わるまであと10分もない、というところで急にお腹が痛くなった。
慌ててトイレに駆け込む。廊下からガヤガヤと騒ぎ声が聞こえる。
扉一つ隔ててるだけなのに、何だかすごい遠くに感じた。
腹痛を済ませて教室に戻ると、誰もいなかった。頭が働かない。何が起きたんだろう。
ふと気がついて、時間割を確認する。
次の授業は移動教室だった。教科書とノートを持って向かう。
チャイムが鳴る。教室に入る。ガヤガヤとうるさい。幸い先生はまだ来ていなかった。
「あれ、お前今日来てたんだ。初めて見た気がする」
まともに返事をする元気もなくて、うん・・・とだけ返して机に突っ伏す。
頭の痛みはまだ続いていた。
家に帰って体温計を取る。37.8℃。
朝のうちからこれくらいの体温でいてくれたら良かったのに。
今更どうにもならないけど。
体調が悪い時は、いつもの何倍も心細くなる。
体が弱ると心も弱る、という言葉を思い出す。
その通りだと思った。
お茶を1杯飲んで、家着に着替える。
今はとりあえず寝たい。寝たい。ねたい。
ベッドに転がり込む。関節が痛む。頭がズキズキする。
外の工事の音。下校中の小学生の笑い声。
車のエンジンの呻り。クラクション。
咳をしても一人、という俳句。
あれの作者は誰だったっけ。
彼もきっと今みたいな気分だったんだろう。咳こそしてないけど。
ツイッターを開く。「体調悪い辛い」と頭の悪そうな文を書き込む。
こんな時でも携帯を開くあたり現代っ子だと思う。
眠い、もう無理。携帯を投げ捨てて目を瞑る。
眠気ばっかり強くなるのになかなか寝付けなかった。
声が聞こえる。
「君はいつも1人でいるよね」
そんなことない、と言い返す。
本当に?と聞き返される。
本当に?いつも周りに人がいて、寂しさを感じたことなんてない、そうだった?
小5の頃、ガンプラにハマっていた。
陰キャラ、と言うほどではなかったけどあまりアクティブじゃないグループでいつもつるんでいた。
ガンプラといっても、しっかりとしているものはそれなりに良いお値段だ。
そんな中で、三国志ガンダムは540円とお手頃価格だった。
皆でそれを買って、一人の友達の家に集めて遊んでいた。
お手頃と言っても小学生にはそれなりの価格。月の小遣いが800円の俺にはとても大事なものだった。
そんな中で、呂布のモデルが出た。プレミアムなやつで、2000円する。
なんか金メッキとか使われてる。かっこいい。
どうしても欲しくて、親におねだりする。
家事の手伝いを色々やって、頑張ってお金を貯めて買った。
嬉しくなって友達に自慢する。ちやほやされる。
その日は父親が休みだったから、皆より早めに帰った。また明日。
次の日。学校で友達に、呂布を壊してしまったと告げられた。
本当にごめん、弁償するから。
今はお金ないから、もうちょっとだけ待って欲しい。
すごいショックだったけど、責めてもどうしようもないから。うん、分かったよ。と答える。
それから1ヶ月後、そいつに自慢された。新しいガンプラを買った。
三国志じゃなくて、しっかりしたやつ。大きい。4000円。
あれ、呂布は?って聞くとごめん、もうちょっと待って。と返された。
それから何回も、そいつは俺に新しいおもちゃを自慢してきた。
1円たりとも返されないままに。
いい加減腹が立って、キレた。壊したときの言葉はどうした。
それでなお自慢してくるのか。
場所が悪かった。昼休みの教室。普段あんまり騒がないグループだったから尚更。
先生に呼び出されて、聞かれる。何があったのか。
「お金をよこせって脅されました」
叱られる。
俺だけ。
「お友達からお金を取ろうとするなんて、何考えてるの!」
でも、僕のおもちゃをこいつは壊したんだ。説明しても無駄だった。
先生の中で、俺は友達をカツアゲするどうしようもない極悪人だと決まってしまったから。
挙げ句の果てに、そいつは「そんなこと僕はしてません」と言っていた。親にも叱られた。
それ以来、そのグループとは遊ばなくなった。
残りの2年間は静かに寂しく過ごした。
中学になると、今度は目立つグループでつるむようになった。ウェーイ系。
一緒に祭りに行ったり、花火したり。冬にはかまくらも作った。楽しかった。
2年の春に、友達の家に集まって遊んだ。
皆で持ち寄ったDSで通信対戦。
その時に、人数が多すぎて一人だけ余ってしまった。
順番に他のゲームをやって対戦が終わるのを待つ。
最後は自分が余りになった。友達のゲームを借りて遊ぶ。
それじゃまたね。ゲームを返して、解散した。
次の日学校に行くと、何だか皆が冷たかった。気のせいかもしれない。
色々考えていると、昨日ゲームを貸してくれたやつに言われる。
「俺のゲーム無いんだけど知らない?」
その目は冷たかった。
お前が持ってるんだろう?そんな目をしていた。
そんなことは無い、きっと友達の家に忘れていったんじゃ無いか。
そう答える。探してみたら?って。
そしたら横から、こう返される。
俺の家、探してみたけどなかったよ、って。
結局ゲームは見つからなかったらしい。
これで俺は泥棒、とレッテルが貼られた。
絶対に自分じゃない、そう言っても誰も信じてはくれない。
虐められることこそなかったけど、誰も仲良くしてくれなくなった。
卒業間近になった時に、あの日家を貸してくれていた奴に声をかけられる。
「実はあの後、家の大掃除の時にゲーム見つかったんだよね。ごめん」
きっと、ずっとこの言葉を言えずにいたんだろう。
彼を長い間苦しめていたこと。後悔。
卒業する前に、きちんと清算したかったんだろう。
彼の中では、これでこの問題は解決した。
俺はまた、人を信じられなくなった。
今でも忘れてない。この世界に、深い絆なんてない。
一緒にいればいるほど、醜いところが見える。
友情なんて薄っぺらいもので覆い被せても、すぐに剥がれてしまう。
それ以来、自分から友情を築こうとはしなくなった。
楽しかった日々の先に、深い悲しみがあるのなら最初から無い方がマシだ。
別に誰とも関わらないようにする必要は無い。知り合い以上友達未満。
失っても、裏切られても傷が少ない程度の関係。
仲良くしてくれるのなら、甘えたらいい。
いつ失ってもいいように、過度に期待をしなければ。
問題はない。
居なくても、誰も気にしない。居ても、嫌にはならない。
それぐらいまで自分を薄めた。
世界が機械仕掛けだとしたら、自分は何処にも合わさっていない歯車のようなものだろう。
取り付けたら1人で回り出す。取り付けなくても支障は無い。
君は、いつも1人でいるよね。
今度は何も言い返せなかった。
目を覚ますと、目から涙がこぼれた。
次いであくびが出る。何か夢を見た。
良く覚えてないけど、切ない夢。
まだ頭痛は治ってないけど、少し楽になった気がする。
リビングに行くと母親が料理をしていた。
体調が悪い、と伝える。
大げさに心配される。
薬飲んどきゃ治るでしょ、と返す。
実際ただの風邪だろうし。
寝汗が酷かったし、シャワーを浴びて夕飯を食べる。牛丼。
「急だったから、そこまで消化に良く無いだろうけど・・・大丈夫?」
弁当食べれたし大丈夫、と返す。
いつもより、少し時間はかかったけど食べ切れた。
薬を飲んで、歯を磨いて寝た。
次の日の朝。土曜日。体調はもういつも通りになっていた。とはいえ油断はできないけど。
そういえば宿題があったはず。教科書の問題を眺める。
寝起きだからなのか、頭が読み込んでくれない。無理。
ギタースタンドからアコギを取る。
中学の時のクリスマスプレゼント。
エレキと違って押さえ辛いけど、アコギの綺麗な音も好きだった。
ザナルカンドにて、を爪弾く。
しっとりとしたメロディ。何となく物悲しい気分になる。
何で土曜の朝から自分でテンション下げてるんだろう。
ネットで、コード譜を調べて好きな曲を何曲か弾き語る。
歌はあんまり上手くないけど、楽しければいいのです。
指先が痛くなってきて、ギターをスタンドに戻す。
教科書を取り出して、改めて問題を読むと今度はきちんと理解できた。
ノートに解答を書き込んでいく。
問題を解き終わって時計を見てみると、もう1時間半も経っていた。
勉強は嫌いだけど、一度波に乗れるとずっと続く。
この調子で毎日勉強できたら良いのに。
さて、じゃあ次は。
とそこまで考えて気付いた。やりたいことない。
音楽をかけて、歌詞を見ながら歌う。
楽しいけど、なんか違う。
何をして遊べば良いのかわからない。
結局、ぼんやりとYouTubeを見たりネットで色んなサイトを見て回って貴重な土曜日を潰す。
ここまで趣味がないと、自分が不安になる。
今までは何をしてたんだろう。
確か、ゲームをしてた。でもそのゲームはやめてしまった。
宙に浮いているような感覚。なんかふわふわする。
結局ベッドに入って寝た。
アラームをセットしてなかったから、2時間ほど昼寝してしまった。
起きてもやりたいことはなくて、22時に寝た。健康的だ。
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