サイゼリア――

男「おー、よかった。わりと空いてる」

友「時間外したかいがあったな」

店員「何名様ですか？」

男「二名です」

店員「こちらのお席へどうぞー」

店員「メニューが決まりましたら、こちらのボタンでお呼び下さい」

男「どうもー」

男「……じゃ、さっそくメニュー見るか」

友「ああ……ジョジョの『億泰』がトニオさんの店で食ったやつっぽいメニューをオレらも頼もうぜ」

男「そういや『億泰』ってなに食べてたっけ？」

友「えぇっと『モッツァレラチーズとトマトのサラダ』と『娼婦風スパゲティー』と『子羊背肉のリンゴソースかけ』と」

友「あと『プリン』だ」

男「よく覚えてんな……」

友「あのエピソードは好きで何度も読んだからな」

友「あ、忘れてた。そういえば『ミネラルウォーター』もあったっけ」

男「あったあった。まあそれは水で代用すりゃいいだろ」

男「じゃあまず、サラダから決めるか。どれどれ……お！」

男「この『フレッシュチーズとトマトのサラダ』ってやつ、モロじゃん！　モッツァレラチーズ使ってるし」

友「ホントだ！　サラダはそれで決まりだな！　幸先いいな！」

男「Ｗサイズにもできるみたいだけど、どうする？」

友「いや、オレあまりトマト好きじゃないから、普通サイズでいいや」

男「好きじゃないのかよ！　だったら無理せず普通のサラダ頼んだ方がよくね？」

友「いや……やらせてくれ。オレを『億泰』にさせてくれ！」

男「フッ……分かったよ」

男「次は『娼婦風スパゲティー』の代用品だな」

男「うーん……さすがにサイゼリアに同じ名前のメニューはないな」

友「あるわけないだろ。ファミレスで『娼婦』なんて単語メニューに使ったら、絶対クレーマーが湧いてくるぞ」

男「あー……フェミ団体みたいな奴らな。じゃあ、どれにする？」

友「この中だと……『ペペロンチーノ』が一番近いんじゃないか？　にんにくとトウガラシ使ってるし」

男「じゃ、これにするか」

男「お次は『子羊背肉のリンゴソースかけ』か。肉料理のページ見てみるか」

男「えーと……ハンバーグやステーキが並んでるけど、羊肉使ってるのはないなぁ」

友「まー、羊肉なんて仕入れるの大変そうだしなぁ。しょうがないだろ」

友「ここはいさぎよく羊肉は諦めて、見た目が一番近いやつにしよう」

男「たしかあれって骨付き肉だったよな？　だったら――」

男「この『辛味チキン』が一番近いんじゃね？　おつまみのとこにあるやつ」

友「羊肉の要素もリンゴソースの要素もないけど、雰囲気重視だ。それにしよっか」

男「ラスト、『プリン』」

友「これはもうデザートのとこにある『イタリアンプリン』一択だろ。考える必要すらない」

男「プリンなんて久々に食うわ～、俺」

友「オレは結構、コンビニで買ったりするけどな、プリン」

・水　0円

・フレッシュチーズとトマトのサラダ　299円

・ペペロンチーノ　299円

・辛味チキン　299円

・イタリアンプリン　249円



男「じゃ、この四品を頼むとしますか！」

友「一人あたり合計1,146円か……ま、お遊びするにはちょうどいい額だな」

【水】

男「……」ｸﾞﾋﾞｯ

友「……」ｸﾞﾋﾞｯ

男「水だな」

友「ああ、水だ」

男「おっと、ちゃんと『億泰』っぽいリアクションしなきゃあな」

男「たとえるなら、アルプスのお姫様が三日間砂漠をうろついて初めて飲んだ水、って感じだ！」

友「うろ覚えすぎんだろ」

男「ところで『億泰』って水飲んだ時どうなったんだっけ？」

友「寝不足だったから、目から涙が出まくってスッキリしたんだよ」

男「あ～……俺がもしあの水飲んだら、確実に涙ドバドバだわ。慢性的な寝不足だし」

友「オレは大丈夫かな。このところ、毎日７時間は寝てるし」

男「お前寝付きいいもんなぁ、羨ましいよホント。なんかコツとかあるの？」

友「布団に入る、目をつぶる、妄想する、いつの間にか寝てる、って感じ」

男「これが天才か……」

【フレッシュチーズとトマトのサラダ】

男「いただきます！」ﾓｸﾞｯ

友「いただきます」ﾓｸﾞｯ

男「うん、うまい！　チーズとトマトってよく合うんだな！」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

友「うん……いけるね。トマトあまり好きじゃないけど、結構おいしいわ」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

男「ってちょっと待て！　普通に食ってどうする！」

男「『億泰』みたく、ウンまああ～いっ！！！　……ってやらなきゃ！」

友「おい、声でけーよ！　店の人、チラッとこっち見たぞ！」

男「あ、わりい。テヘヘ……」

男「これ食った『億泰』は、肩からボロボロ垢が出まくったんだよな」

友「そうそう、で、肩こりが治るんだよ」

男「高校生で肩こりって……いくらなんでも体にガタきすぎじゃないか？」

友「兄貴が厳しかったし、肉の芽で異形化した親父の介護もあるから、苦労してたんだろ、きっと」

男「そういや、『億泰』って、温泉行った時はもっと垢出て腰痛が治ったっていってたよな」

友「山形の白布温泉ね」

男「あれって単にアイツが大げさなだけかと思ってたけど……もしかしたら温泉がスタンドだったんじゃね？」

友「温泉型のスタンドか……その発想はなかったわ」

【ペペロンチーノ】

男「俺、スパゲティー食う時はだいたいカルボナーラなんだよな」

友「オレはナポリタンかな」

男「いただきます」ﾍﾟﾛｯ

男「あっ、辛いっ！　これは無理！　食えないッ！」

友「まーた『億泰』ごっこかよ。やるのはいいけど、声もうちょっと小さくしてくれ、頼むから」ｸﾙｸﾙｯ

男「ごめん」

男「つーかお前、フォークにパスタ巻くの上手いな。俺、それ上手くできないんだよ」ｸﾈｸﾈｯ

友「不器用すぎだろ」ﾊﾟｸｯ

友「うん、うまい」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

男「ところで、イタリア人は麺をすすれないって聞くけど、実際どうなんだろうな？」

友「あーそれ、オレも聞いたことある。外国の人は麺をすする習慣がないとか」

友「だけど、全くのデマ、実際はすすりまくってるってのも聞いたことある」

男「どっちが真実なんだろうな？」

友「さあ……結局確かめるには、自分でイタリア行くしかないよな」

友「ネットでググった情報だと、真実っぽい大嘘って可能性もあるし」

男「イタリアか……一生行く機会なんてないんだろうなぁ」

友「だろうなぁ……」

男「漫画だと、スパゲティー食った『億泰』はどうなるんだっけ？」

友「虫歯が抜けるんだよ、すごい勢いで。すぐ新しいのが生えてくるけど」

男「あー……だったら俺、一本か二本、抜けるかもしれない。初期虫歯がある」

友「ちなみにオレは虫歯ゼロだ」ﾆﾋｯ

男「マジで！？　いいなぁ～」

友「家族もみんな虫歯ないし、歯が強い家系なのかもしれないな」

男「だけど、お前はその恵まれた遺伝子を残せないまま一生を終えるのか……ご愁傷様」

友「いや、そんなことねえよ！　絶対残す！　頑張る！」

【辛味チキン】

男「よっしゃ、これを『子羊背肉のリンゴソースかけ』だと思って食おうぜ！」

友「羊肉でもないし、リンゴソースもかかってないけどな」

男「いいんだよ！　こういうのは気分が味わえればいいの！」ﾑｼｬｯ

友「まあな」ﾑｼｬｯ

男「うん、うまい」ﾑｼｬﾑｼｬ

友「辛味ってあるけど、そこまで辛くないし、おいしいな」ﾑｼｬﾑｼｬ

男「……で、これを食った『億泰』はどうなったんだっけ？」

友「腹の調子が悪かったから、内蔵が爆発するんだよ」

男「あー、思い出した。トニオさんはいい人だけど、あんなのスタンド攻撃だと思われてもしょうがねえよな」

男「つか腹の調子が悪いんなら、涙の時みたいにとんでもない量の便が出る、とかのがそれっぽいんだけど」

友「いや、そんな汚いシーン、少年漫画でやれないだろ」

男「いや、でも浦安の国会議員はやってるだろ」

友「あれはチャンピオンだからいいの」

男「まあチャンピオンだしね……」

友「ちなみに、トニオさんのエピソードの元ネタらしい筒井康隆の『薬菜飯店』では便出まくるシーンあるぞ」

友「主人公が、出した便の勢いで便器から吹っ飛ぶんだ」

男「……食事中にする話じゃなかったな」

【イタリアンプリン】

男「じゃ、ラストはイタリアンプリンで締めるか！」

友「おう」

男「……」ﾊﾟｸｯ

男「甘くてうまい！　プリンってうまいな！　今度からコンビニでちょくちょく買おうかな」

友「最近のコンビニのデザートってマジでうまいからな」

男「プリン食った『億泰』はどうなるんだっけ？」

友「水虫が治る。ちなみに治る場面は描かれてない」

男「ふうん……」

男「どうやって治ったんだろうな？　やっぱり……」ﾇｷﾞｯ

友「おいおい、なにやってんだ！　こんなとこで裸足になるなよ！」

男「こうやって足の裏を引っかきまくると、水虫がボロボロ落ちて……」ﾎﾞﾘﾎﾞﾘ

友「バカ、やめろって！　きたねえって！」

男「へっへっへ」ﾎﾞﾘﾎﾞﾘ

友「ったく、悪ノリしやがって……！　店の人に見つかったら――」

店員「あなたたち、何やってるんですかァーッ！」

男「ひっ！」

友「す、すみません、店員さんっ！」

店員「ファミレスで堂々と足の裏をボリボリかくなんて、何考えてるんですか！？」

男「ホントにごめんなさいっ！　つい出来心で！」

友「こいつ、すぐ調子に乗っちゃうタイプなんです！」

店員「ダメです！　絶対許しません！　あなたたちには罰を受けてもらいますッ！」

男「ば、罰！？」

友「い、いったい……何をすればいいんですかァーッ！？」

店員「それはもちろん……」