勇者「俺は生命に呪われし勇者だ」(20)

~~始まりの街 城内~~

王「勇者よ、そなたは今この時より成人の儀を終え、勇ましき者としその身を捧げ魔王討伐に出で発つ事を命ず」

王「宜しいか?」

勇者「あぁ、問題ない。」

王「では、無事に帰って来ることを願っておるぞ」

勇者「あぁ、出来たらな」

~~始まりの街 城下街~~
勇者「…やっと始まるのか、この日をどれだけ待ったか」

勇者「それにしてもこの街も貧乏なんだな…人も居なけりゃ店もやってねぇ」

勇者(儀式を済ませた後、王から貰ったのは円にもならない様なジャリ銭だけ。これでどうしろってんだ)

ー俺はふと憔悴し、金を道に撒いた

勇者「元々人から貰ったモノは好かねぇんだよ、いらね」

ーその時、男が撒いた金に飛び付いてきた

男「お前、この金いらねぇのか?」

勇者(なんだよこいつ、汚ぇ格好しやがって…)

男「なんだ、そのゴミを見る目はよぉ俺は元々城で兵士をやってたんだぜ?」

勇者(んなもんしらねぇよ)「あ?他人が捨てたもん血眼で掻き集めてる奴ァ、ゴミじゃねぇのかよ」

男「テメェ、喧嘩売ってんのか?あ?」

勇者「そんなもん、お前に売るくらいなら商人にでも売るぜ、ゴミ」

男「このガキ…!ぶっ殺す!」

勇者「おーおー、血の気が凄いねぇ…やれるもんなら殺ってみろよ」

男「泣いて詫びても、遅いぞ!」

ー男はどこかに隠し持っていた短剣をいきり立ち、突き付けてきた

勇者「チッ、そんなもん持ってたのかよ…」

ー油断していた、腹部の激しい傷み…

勇者「刺されたか…」

男「ギャハハ!俺が何も持っていないと思ってたのかよ!ゴミはテメェだゴミ!」

勇者(ガキかよ…)「よく見ろよ…俺はまだ生きてるぜ…笑いたきゃ…殺してから笑え」

男「あぁ?テメェみたいなガキ殺してなんになるんだよ?…いや、テメェの身ぐるみ剥いで売っぱらうか!」

ー男が襲いかかってきた

勇者(こいつが馬鹿で良かった…)「フッ…」

男「何笑ってんだよ!覚悟は出来たか!」

ー男が身体の上に乗って来る

勇者「あぁ」

男「死ねぇ!」

ー男は首に手をかけ締め上げて来た

勇者「死ぬのは、お前だよッ!」

ー俺は短剣を逆手に持ち、男に突き刺した

男「て、めぇ…それ…」

勇者「あぁ?これか?気が付いたら俺に刺さってたからな」

ー俺は男に刺さっている短剣を引き抜き、蹴り飛ばした

男「がっ、ぐぁっ…」

勇者「お前ホントに街の兵士だったのかよ、雑魚すぎて敵の数にも入らんわ」

男「ぐっ、くっ、クソがっ!」

ー男が傷みにのたうち回る

勇者「短剣は刺したら抜く、敵に致命傷を与える戦場の基本だろ?」

男「テメェ、何者だ…っ」

勇者「そうだなぁ…何者かって言われると勇ましき者、勇者ってところかな」

男「!!」

ー男が驚いた様な顔で、俺を見てくる

男「こんな…ガキが…か」

勇者「あぁ、こんなガキがだよ」

男「…」

男「」

ー男は絶望した顔で、息絶えた。

勇者「はぁ…30分は無駄にしたな、しかもこんな事があって、ましてや死人が出たのに誰も居ないとはな」

勇者(つまんねぇな)

勇者「一旦帰るか…」

ー俺は短剣をその場に捨て、誰も居ない城下街を去った

~~始まりの街 外れの洞穴~~

勇者「はぁ…街であれじゃ世も末ってやつだな」

勇者(後でまた、街に戻って酒場でも行くか)

勇者「くっそ…もう治ってやがる…気色悪ぃ…」

ー俺は短剣を刺された筈ねその場所に手を触れる。
しかし、そこには傷は無くただ衣服に穴が開いてるだけだった…

勇者「生命の女神の祝福ね…」

ーこの世には様々な女神が存在する。
闘いの女神は、力の象徴。
博愛の女神は、守りの象徴。
勤勉の女神は、知恵の象徴。
そして、生命の女神は…

本来なら存在しない。

ー他にも女神達は存在している、日常に関わる女神達だ。
豊穣の女神達。太陽の女神、変風の女神、四季の女神、雨雲の女神。

こちらにも、生命の女神は存在しない。

生命の女神とは一体…

勇者「ま、難しい事はわかんねぇや」(祝福とは言われてもな)

勇者「俺にとっちゃ何をしても死ねない地獄の呪いだ…くそっ」

勇者「少し休んでから街に戻るか…」

ー俺は椅子に腰掛け、一息ついた。

勇者(街に行って、酒場で旅を同行してくれる仲間を見つけないとな…)

ー魔王討伐の旅。決して楽ではない…
街はほぼ閉鎖状態で外部との接点が無い

勇者「飢えや欲ってのは、人間を人間じゃなくするのかもしれないな…」

ー街で襲いかかってきた男、あいつは金に飢えてた。
恐らく、食い物か酒を買う為だろう。

勇者(もうこの街も終わりだろうな)

ーそんな事を考えながら俺は、眠りについてしまった。

ー物音がする…近いな。
5メートル、3メートル…いや、もっとか。

勇者「誰だ、人の家に無断で上がり込みやがって」

男2「いやぁ、家ってかどう見ても洞穴でしょ」

勇者(左右の腰に剣、街の者か?…)「お前、何しに来た」

男2「俺の名前は盗賊、別にお前を殺しに来たり金品かっぱらおうって訳じゃねぇよ」

勇者(盗賊…か武器を構える様子もないし、事実の様だな)

盗賊「雨降って来ちゃってさぁ、雨宿りさせてくんね?」

ーそういうと、盗賊は外を指差した。
雨が轟々と降っている。

盗賊「ありゃりゃ、こりゃ豪雨だねぇ…女神様が泣いてるのかなぁ?」

ー盗賊が俺を見ながら、少しニヤついた。

盗賊「まるで誰かが死んだ事に嘆き、血を洗い流してるみたいだなぁ」

ー冷たい眼差しを送られる。
まるで腹の底を握られた感覚になる。

勇者「お前…何が言いたい」

盗賊「そうだなぁ…言ったら仕事の代行ありがとさん、晴れて殺し屋おめでとう。ってか?」

勇者(代行?殺し屋?何言ってるんだこいつは)

盗賊「あいつは、俺が狙ってた奴でねぇ探してたんだよ」

勇者「そして、俺が殺したのをどこかで見た…って事か?」

盗賊「正確には違うが…ま、そういうこったな」

ー盗賊はケタケタと掠れた声で笑った。

勇者「で、お前は俺に何がしたい」

盗賊「お、そうだったなぁ」

ー盗賊が、腰に下げている両方の剣を抜いた。

勇者(何を要求してくる…?)

盗賊「お前の旅の仲間に入れてくれ!」

ー盗賊はそういうと、両方の剣を俺に差し出してきた。

勇者「…は?」

ー俺は、目の前の奴が何を言ったのか理解が出来なかった。

勇者「今なんて言った?」

盗賊「だから、仲間に入れてくれって!お前、勇者として魔王討伐の旅に出るんだろ?」

勇者(こいつ…どこまで知ってるんだ…)「あぁ、そうだな」

盗賊「なら、旅の仲間に入れてくれ!ちょうど良い機会だろ?」

勇者「何が目的だ?名声や富はさっきの事を王に言えば手に入るぞ」

盗賊「それじゃあつまんねぇよ!で、どうすんだ」

勇者(変な奴だな…ま、手間が省けるか…)

ー俺は、差し出された剣を受け取った。

勇者「わかった、今日からお前は俺の旅の仲間だ。」

盗賊「おお!入れてくれるのか!」

勇者「いや、お前の場合は俺が根気負けするまで粘るだろ…」

盗賊「えっ…い、いやそんなこと無い」

勇者「そうか」

盗賊「お、おう」

ー盗賊は気が動転しているのか、逆さに剣を腰に差した。

勇者「ま、とりあえず雨が上がるまで待機だな」

盗賊「向こう側の空は白んでるから、もうすぐ晴れるな…」

ー盗賊は外をずっと眺めている。

勇者「なぁお前に聞きたい事があるんだが」

盗賊「ん?なんだ?」

勇者「俺があの男を殺したとき、お前はどこに居たんだ?」

盗賊「あぁ、その事か」

ー盗賊は外を眺めたまま、不意に姿と気配を消した。

勇者「消えた⁉︎」

ー俺がたじろいでいると、盗賊が姿を現した。

盗賊「これは恐らくだけど、俺にしか使えないハイド呪文だ」

勇者(ハイド…?)

盗賊「一時的に存在を消す呪文だ。」

勇者「聞いた事無いな…」

盗賊「そりゃそうだな、俺が作ったんだから」

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