奴隷少女「最後に、もうひとつ我儘を聞いてください……」(271)

男「あの奴隷商の君達に対する扱いは酷いモノだったろう? この辺りじゃ評判がすこぶる悪い」

奴隷少女「……」

男「見たところ君には最近出来た傷もあるみたいだし、やっぱり待遇は良くないのか?」

奴隷少女「……」

男「……仮にも商品だと謳うのであれば、傷なんて付けるべきじゃあ無いだろうに。綺麗な肌の子の方が売れやすいんだ。まあ、結局は大人共の玩具にされてボロボロに……」

奴隷少女「……」

男「ああ、ごめん。あんまりこういう話はしない方が良いかな。デリカシーに欠けてただろうか」

奴隷少女「……」

男「……俺は君にそんなことをするつもりは無いから、安心して。だからさ、あんまり深刻そうな顔をしないで、少しお喋りでもしようよ。まだ俺の家までは30マイル近い距離がある。それに、この列車はそんなに速く走ってない。俺はこの調子で30マイル分の退屈を味わうなんて御免だね」

奴隷少女「……なんで」

男「……ん?」

奴隷少女「……なんで、助けたのは私だけなんでしょう。他にも奴隷は居ました」

男「……ああ、それは」

奴隷少女「それはやっぱり、私がまだ真新しくて、あそこでは一番肌が綺麗で……」

男「……」

奴隷少女「救済なんて言いつつ、結局それは卑しい目をした大人達と同じ考えで……!」

男「……俺はあそこの奴隷を皆買えるほど裕福じゃない。だから、一番危険な状態にある君を買ったんだ」

奴隷少女「……危険、って、なんで私が」

男「これ、飲んで」スッ

奴隷少女「……な、何ですか急に」

男「睡眠剤入りのお茶。薄めてあるから速効性はないけど、効果は保証するよ。どうにも疲れてるみたいだから、残り30マイル、休むと良い」

奴隷少女「……」

 ◆◆◆◆◆

男「……お目覚めかい?」

奴隷少女「……っ!」ガバッ

男「俺の家だよ。そう身構えないで。汗ばんでたから着替えさせようかとも思ったんだけど、君は女の子だし、止めておいたよ。紳士だろう?」

奴隷少女「……」

男「……。俺の妹の服だけど、ベットの横に置いといたから、着替えたら隣の部屋に来て」

奴隷少女「……着て良いんですか?」

男「平気平気。だってもうあいつ着れないし。じゃあご飯の用意してるから。着替えちゃってね」

奴隷少女「……あ、はい」

 ガチャッ バタン

奴隷少女「…………えっと、着替えなきゃ」

 ガチャッ バタン

奴隷少女「……着替えました」

男「似合ってるじゃん。サイズも丁度良さそうだし」

奴隷少女「……あの、さっきまで着てたこの服は……」

男「ん、ああ。そこにゴミ箱あるし捨てて良いよ。何か大切な服だって言うなら洗っておくけど。それって奴隷用の服じゃないのかい」

奴隷少女「……そう、ですね。いらないです」ガサッ

男「……さて、ご飯食べようご飯。少女ちゃんは結構食欲旺盛な方?」

奴隷少女「……少食です」

男「じゃあ少な目に……っと。お皿並べるの手伝ってちょうだい」

奴隷少女「……は、はい」

 ◆◆◆◆◆

男「この部屋使って良いから。ベットと机しか無いけど……。何か必要なモノがあったら言って」

奴隷少女「……妹さんの、お部屋ですか」

男「そう。今は妹も居ないし、使い道が無くて困ってたから気にしないで」

奴隷少女「……」

男「じゃ、お休み。明日はちょっと早起きになるから、ちゃんと寝てね。……あ、もしかして枕が変わると寝れないタイプ?」

奴隷少女「いえ……。えと、明日はどこに」

男「野暮用。時間が空いたら都会観光。何か欲しいものとかあったら買ってあげるよ」

奴隷少女「……」

男「あ、あんまり高いのは駄目だぞ。見ての通り俺は安い賃貸物件に住んでる。財布に期待をするのは止めてくれよ」

奴隷少女「……私、何も欲しい物なんてありません」

男「……え?」

奴隷少女「……まだ、奴隷として苦しんでる人達が居るのに、私だけそんな」

男「……」

奴隷少女「……欲しいモノを強いて言うなら、奴隷が解放される未来です……。私はそれ以外のモノなんて……」

男「恨まれたくないんだろ。他の奴隷に」

奴隷少女「…………まあ、ええ」

男「じゃあ、君はさっき、奴隷の服を捨てるべきじゃなかった。自ら奴隷を辞めるべきじゃなかった」

奴隷少女「……そ、それは」

男「……ごめん。これは違うよな。君の揚げ足を取るのは間違ってる……」

奴隷少女「……」

男「……君の気持ちはよく分かる……。でも、俺にはどうすることも出来ないんだ……」

奴隷少女「……男さん……」

男「君一人が、今の俺の限界なんだ……。不甲斐ないけどさ……。他の子も助けてあげなきゃいけない……。でも……」

奴隷少女「……えっと、ごめんなさい。私も折角助けて頂いたのに我儘を……」

男「いや、良いんだ。俺こそ弱音吐いて悪かった……。君は今までずっと縛られてきたんだ。我儘なんていくら言ったって構わないさ」

奴隷少女「……」

男「……奴隷の解放、か」

奴隷少女「……?」

男「近い内に、それは叶うよ」

奴隷少女「……え」

男「だから君は、安心して寝て。昨日とは違う温かい布団で寝ようが、誰も咎めやしない」

奴隷少女「……叶うって、どういう」

男「……奴隷を助けたい人間は、意外に多いんだよ」

奴隷少女「……」

男「……じゃあ、お休み」ガチャッ

友人が「奴隷モノのSSって面白いの多いけどどれも似てるよね」と言っていたので、なるべくテンプレ化しない奴隷モノを目指して書いてみます。
でも私は奴隷モノのSSをあまり読んだこと無いので何がテンプレか分からn(ry

 ◆◆◆◆◆

友人「はあ? 奴隷を買った?」

男「……この子もお前の馬車に乗せて欲しいんだ」

奴隷少女「……」

友人「無理無理! 聞いてないぞそんなの!」

男「昨日だって普通に列車に乗せた。大丈夫だって」

友人「郊外からここまでの列車だろ? それなら検査が甘いから良いけど、その子を連れて都心に入るなんて無茶だぞ!」

男「だからお前に頼んでるんだろ」

友人「最悪俺の仕事が無くなっちまう!」

男「失業、若しくは退職してから二年間は、就活期間として政府より生活補償金が与えられる……。お前だって知ってるだろ?」

友人「補償金があるからって、失業して良い理由にはならねえよ……。第一、犯罪者になっちまう可能性だってあるんだぞ!」

男「安心しろって。お前は無関係を装えば良い。ただの客乗せとして街に入るんだ。もしバレたらシラを切れば良いさ」

友人「……でもなぁ」

奴隷少女「……」

友人「あーもう、分かったよ! じゃあ乗れ」

男「……悪いな」

友人「……ったく、どういう目的で買ったんだ?」ボソッ

男「知ったって良いことは無いよ」

友人「友達のよしみで奴隷を乗せてやるんだから、そのくらい教えろ」

男「…………助けるためだよ」

友人「……誰を」

男「……今は奴隷達。あいつの望みでもあるしね」

奴隷少女「……」

友人「“今は”ねえ……」

男「じゃあ、行こうか」

友人「……急いだ方が良いか?」

男「いや、ゆっくり走って。時間には余裕があるし、あんまり急ぐと馬車は揺れるから辛いしね」

友人「……了解」バシンッ

 ヒヒーン! ガラララララララ

奴隷少女「きゃっ」

友人「お、ちょっと怖かったかな」

男「馴れてないと怖いかもね」

奴隷少女「……平気、です」

友人「しかし、あんまりこういう事を面と向かって言うのは失礼かもしれないけど、傷ひとつ付いてない綺麗な子だね。奴隷ってもう少し扱いが酷いのかと思ってたけど」

奴隷少女「……」

男「……そう、だな」

 ガラララララララ

奴隷少女「……あの、私が一緒に居るとまずいんじゃ」

男「ん、いや。そんなことないよ。どうして?」

奴隷少女「さっき、私を連れてたら行けないって……」

男「……あー、まあそうなんだけどさ」

奴隷少女「……?」

男「着いて来て貰った方が俺としては気が楽だし、ちょっと君関連の用事もあるからさ。大丈夫大丈夫。何もなければ普通に入れるから」

友人「……だといいけどな」

奴隷少女「……」

男「検査官だってじっくりと奴隷かどうかの判断はしないだろ」

友人「あそこに入るには住民登録証が必要だ。それはどうするんだよ。何か策があるもんだと思ってたが、まさか何も考えてないのか?」

男「それなら問題ない。荷台に隠れれば良い」

友人「ガキかお前は。そんな方法が通用する訳ないだろ。マジかよノープランかよ。引き返した方が良いんじゃねえの?」

男「冗談だよ。これがある」スッ

友人「……っ! そんなんいつの間に……」

男「本物じゃない。偽の住民登録証だ」

友人「はあ!? 馬鹿じゃねえのかお前は!」

男「偽物って言っても、レプリカなんかじゃない。写真をよく見てみろ。この子に凄く似ているが、別人だろう? この子をこの住民登録証の名義で街に入れるんだ」

友人「……というと、つまりその登録証には本当の持ち主が居るのか?」

男「ああ。死んでしまった奴隷の女の子が持ってたものを奴隷商から買い取った。死亡届けは出されてないから、まだ効力はある」

奴隷少女「……」

友人「……待てよ、その名義で入ったら“居なくなった子が突然戻ってきた”って騒ぎにならないか?」

男「ちゃんと調べてあるよ。本当の持ち主は捜索願いが出されていない。だから検査官は軽く確認して失踪人物リストにいないことが分かったらすんなり通してくれるだろう」

友人「……上手くいけば良いけど、完全に犯罪じゃないか。奴隷所持に詐欺、不法入国……。街だから入国とは言えないが、見つかったら確実にお仕舞いだぞ」

奴隷少女「……」

男「見つからなければ良いんだよ。最初からそのつもりなんだから」

友人「……はあ。どうなっても知らないからな」

男「馬車代、多めに払ってやるから。頼んだぞ」

友人「はいはい」

奴隷少女「……何でそこまでして」

男「ま、上手くいけばもうビクビク暮らす必要も無くなる。君は何も心配しないで良い」

奴隷少女「……」

色々な方にテンプレハラスメントを受けて、私の心は早くも折れそうです。
「テンプレ、ダメ、ゼッタイ」ではなく「テンプレになる可能性が高いけど、ちょっと新しい奴隷のお話が出来たら良いな」というつもりです。
「誰もやらなかった事に挑戦」というより「奴隷話を軸に色々こねくり回したい」という気持ちで書き始めました。
生暖かい目で読んで頂ければと思います。

奴隷モノを読んで予習すべきだったか……(*´・ω・)
まさか「テンプレ化しないように頑張る」と言っただけでこんなにもテンプレ関連のレスを頂くとは。

 ◆◆◆◆◆

友人「はあ~……。入れた……」

男「だから言ったろ。すんなり通してくれるって」

友人「全然すんなりじゃなかっただろ……。めっちゃ怪訝そうな顔してたぞ」

男「記録だとこの住民登録証で入るのは二年八ヶ月ぶりらしい……。まあ少しは怪しむだろう」

友人「怪しまれるだけで済んで良かったよホント……」

男「しかし都会は良いな。店が沢山ある」

友人「お前が今住んでる部屋って何部屋だっけ」

男「……えー、四部屋かな。広い方だよ」

友人「それで家賃七万ゴールドだろ? 俺もそっちの方に住もうかなー……」

男「あれ、お前ってここに住んでるの?」

友人「都心の外だけど、結構近いから三部屋で月十万。物が揃ってる都心とはいえ、ここに住むなんて俺は嫌だね。一部屋で八万もする」

友人「……それで、これからどうするんだ。まさか観光って訳じゃないだろ」

男「あー、二番通りのカフェに行ってくれ。まずはそこに用があるんだ」

友人「カフェ? 何だよ最初は休憩か?」

男「……いや、会いたい人がいる」

友人「二番通りのカフェに会いたい人……って、まさかあそこの店主に?」

男「そうだよ」

友人「関わんない方が良いってマジで。ヤバい組織に巻き込まれるって噂だぞ」

男「何だよヤバい組織って。漠然とした噂だな」

友人「俺も真偽は分かんないけどさ、止めとけよ本当に」

男「気にしないで連れてってくれ。それに止めとけって言われても、残念ながら俺は既に何回か会ってるんだ」

友人「……」

 ガラララララララ

友人「……着いたぞ」

男「ありがとう。行くよ、起きて」ツンツン

奴隷少女「ん……あ……」ゴシゴシ

友人「俺は、どうすれば良い。もう仕事は終わりか?」

男「……出来れば店主の所に着いてきて欲しいが、あんまり関わりたくないなら帰ってもいいぞ」

友人「……」

奴隷少女「……あっ、すいません。寝ちゃって……」

男「謝るなよ。寝るのは良い事だ」

友人「……はぁ」

男「どうする?」

友人「……分かった。行くよ。お前の目的も知りたいし、乗りかかった船だ。最後まで付き合ってやるさ」

 カランカラン

店主「いらっしゃい。……ああ! 男くん。よく来たね。お連れの方々も、どうぞ座って」

友人「本当に知り合いなのかよ……。なあ、何で俺も着いてった方が良かったんだ?」ボソッ

男「……ああ、それは」

友人「……」

男「お前を“ヤバい組織”に巻き込む為だよ」

友人「……っ!」ゾワッ

男「なんてな。組織は組織だけど、全然ヤバくないよ」

友人「……お前の事はある程度信用してるけど、乗りかかった船に乗るのを今すぐに止めたい気分だ」

男「まあそう言わずに、話だけでも聞いてくれよ」

友人「今日は驚かされっぱなしでもう疲れた……」

店主「……さて、男くんはいつものかな? そちらの二人は何か飲むかい?」

男「良いよ、好きなの頼んで。俺が奢る」

友人「一番高いので」

男「お前って奴は本当に仕返しを怠らないな」

友人「馬車代だけじゃ足らないよ今日は」

店主「はっはっは。そんな注文する人は久々に見たよ。そちらのお嬢ちゃんは何が飲みたい?」

奴隷少女「……」

男「あっちの馬鹿みたいに馬鹿な頼み方しなければ何でも良いから、好きなの頼みな」

友人「おい馬鹿って二回言うな……」

奴隷少女「あの……私……」

男「ん?」

奴隷少女「飲み物を文字で見ても、よく分からないです……」

男「……あー」

店主「なるほどね……。文字が読めないのか。じゃあ適当にオススメの奴を出せばいいかな?」

男「そうですね。ココアとかカフェオレとか……」

奴隷少女「あっ……あの、私……」

男「……ん?」

奴隷少女「男さんと、同じのが……良いです……」

店主「……だってさ。気に入られてるねー」

男「そうだと嬉しいんですが。……でも同じものとなると」

店主「いや、飲ませてあげなよ。物は試しだ。男くんだって子供の頃から飲んでたんだろう?」

男「……まあ、確かに」

奴隷少女「……?」

 カチャンッ

店主「はい、一番高いの」

友人「えっと……これは」

店主「ライオンの血をミルクで薄めた飲み物。昔この辺りの部族が儀式の時に飲んでたらしいんだけど、一時期禁止されて、今じゃこの店でしか飲めない」

友人「……飲んで平気なんですかこれ」

店主「安全確認した血を使ってるから、まあ死にはしないわよ」

男(うわぁ……。あれは飲みたくないな……)

店主「そしてこっちのお二人さん」カチャンッ

男「あ、どうも」

奴隷少女(何だろこれ……)

店主「さてと……。じゃあ個室に行こうか」

友人「……え?」

男「ただ飲み物を飲みに来た訳じゃないんだ。さっき言ったろ? ……行くぞ」

 ◆◆◆◆◆

友人「不味い……」

奴隷少女「苦い……」

男「ああ、やっぱりまだ早いか」

奴隷少女「何ですかこれ……」

男「ブラックコーヒー。店主、砂糖とミルクください」

店主「はいよ」

友人「なあ男ー……俺これ残しても良いかなあ」

男「飲みきれ」

友人「……」

店主「ほい。砂糖とミルク」

男「ありがとうございます。……これ足してくと甘くなるから、少しずつ自分が飲みやすいように調節して」

奴隷少女「……わ、分かりました」

店主「さて、本題に入ろうか。とりあえずその子が買った奴隷って事で良いんだよね?」

奴隷少女「……」ビクッ

男「そうです。噂通り、奴隷商は真っ先にこの子を薦めてきました」

友人「確かに可愛いもんなーこの子。でもだったら、何で誰にも買われなかったんだ?」

男「……あそこの奴隷商は評判が悪い。最近は購入者自体が減っているし、あんまり薦めるモンだから、何か曰く付きの子で早く売っ払いたいんじゃないか、って噂も立って、買う人が居なかったらしい」

店主「この子を客に薦めるときの謳い文句も、怪しさを倍増させてたしね」

男「まあ、俺はその謳い文句を店主さんから聞いて、この子を買いに行こうと決めたんですけどね」

奴隷少女「……」

友人「何だよ、その謳い文句ってのは」

男「……“この子は傷が早く治ります。労働させるもよし。性奴隷として無理矢理犯しても、身体的な傷跡はすぐに治ってしまうでしょう”……だったかな」

奴隷少女「……」

店主「……あー、男くん。オブラートに包んであげなよ。その子にとって、あんまり心地の良い言葉じゃないだろうからさ」

男「……ん、そうですね」

奴隷少女「……大丈夫、です」

男「ごめん、君もいるのにこんな話しちゃって……」

奴隷少女「……平気です。性奴隷とか、そういう話はずっと聞いてきましたから。私はプレミアを付けたいからといって、性的な事は何もされずに済んでましたけど……」

友人(ああ……。だから“治ってしまうでしょう”なのか。何か妙な言い方だなと思ったけど、奴隷商も使ってない処女なワケね)

奴隷少女「……」

男(……あんまりこの子が奴隷だった話はしない方が良いかな。話してはくれるけど、ちょっと苦しそうだ)

店主「ところで、君が新しい仲間って事で良いのかな?」

友人「……え?」

店主「いや、男くんから“新しいメンバー候補を連れて行きます”って連絡があったから。君だろう? 歓迎するよ」

友人「……おい待て、男。俺はそんな事聞いてないぞ……。いや確かに巻き込むとか言われたけど何で俺が既に入ることに……」

男「お前が俺から聞いてなくても、俺はお前から“最後まで付き合ってやるさ”って聞いた」

友人「……何だよそのメンバーってのは」

男「奴隷解放を求める者達の集いみたいなモンだ。お前が入ってくれると、俺が助かる」

友人「奴隷解放……? 待て待て、まさかヤバい組織ってそれの事か……?」

男「ヤバくねぇよ。ただヤバくはないが、それで間違いない。確かにここの店主さんは組織と繋がっている。恐らく誰かが悪く言ったんだろう」

店主「奴隷解放と言っても、大きく動いているのは貴族層。我々民衆のメンバーは情報集めが主だよ」

男「別に解放を求めるのは違法でも何でもないし、犯罪でもない。人助けの為の安全な組織だ」

友人「……それに入れってのかよ」

男「まあ、そうだな」

友人「……」

男「情報収集の要だった店主さんが奴隷賛成派に怪しまれはじめて動けない状況なんだ。俺は動けなくなった店主さんの代わりに情報収集をして歩いている」

友人「そんな事をしてたのかお前は……」

男「客乗せとして色んな所を走ってるお前なら、より広い範囲から情報を集められる。……協力してくれないか」

友人「……」

男「……頼む」

友人「…………分かったよ。さっき言ったもんな。最後まで付き合ってやるってさ」

友人「……あのさ、話戻して悪いんだけど、その子って本当に傷の治りが早いの?」

男「ああ、早いよ」

奴隷少女「……」

男「今朝、馬車で走り出した時、確かお前“傷ひとつ付いてない綺麗な子”って言ったろ?」

友人「あー、言ったっけか」

男「昨日はこの子、全身に何ヵ所か目立つ傷があったんだ。俺は昨日、帰りの列車の中でこの子に“最近出来た傷もあるみたいだけど”って言ったからよく覚えてる」

友人「……え?」

男「……この子の回復力は本物なんだよ」

奴隷少女「……」

友人「……おいおい、それって何だよ。その子が普通の人間じゃ無いって事か?」

男「……まあ、簡単に言うと病気だよ。……あー、話はここまでにしよう。気が滅入ってきた」

友人「病気……」

 ◆◆◆◆◆

男「じゃあ、奴隷に関する情報があったら俺に伝えてくれ」

友人「了解。程々に頑張るよ。……じゃ、気を付けてな」

男「おう」

 ガラララララララ

奴隷少女「……」

男「悪かったな、あんまり楽しい時間じゃなかっただろ」

奴隷少女「……大丈夫、です」

男「少し時間あるし、アイスでも買ってやろうか」

奴隷少女「アイス……?」

男「食べたことない? 冷たくて甘い食べ物だよ。さっきコーヒーに結構砂糖入れてたし、甘いの好きかなーって」

奴隷少女「……?」

 ◆◆◆◆◆

奴隷少女「……んっ」キィーン

男「ははは。やっぱ食べ慣れてないとキーンとするか」

奴隷少女「……美味しい」

男「全部食べきれそう?」

奴隷少女「……食べきります」

男「無理しなくていいからね。残すようなら俺が食べるし」

奴隷少女「……良いんですか?」

男「……ん?」

奴隷少女「私の食べ残しって……汚くないですか?」

男「……えっと」

奴隷少女「“残すな”って……。“汚くて家畜の餌にもならない”って……」

男「……汚くないよ」ナデナデ

男「君は汚くない。綺麗だ」

奴隷少女「うっ……ぐすっ……」

男「……汚いのは、君達を貶める悪い大人だ」

奴隷少女「……うぅ」

男「君は甘いものが好き?」

奴隷少女「……っはい」

男「良かった。俺も大好きだ」

奴隷少女「……?」

男「だから、甘えてくれると嬉しい」ポンポン

奴隷少女「……男さん、苦いの好きじゃないですか」

男「はは、それはコーヒーだけだよ」

奴隷少女「……ふふっ。ありがとう、ございました。急に泣いてごめんなさい……」

男(流石にまだ落ち着かないか……。奴隷としての積み重ねも長い。こればっかりは仕方ないな。まあ笑顔が見れただけでも成長だ)

暖かいレスが多く、有り難いです。
ご期待に添えるかは微妙ですが、頑張ります。

私自身が、小畑健さんのファンという事もあり、バクマンは読破&所持しております。読み返します(`・ω・´)ゞ
失踪したら死んだと思って下さい。完結までちゃんと書き続けるつもりです。
毎日投下するのは少し厳しいので、日によっては数日の間が空く事もあるかと思いますが、なるべく頻繁に書き込めるようにしたいなと。

一応補足を。店主は男、おっさん、ナイスガイです。

奴隷少女「……ご馳走様でした」

男「美味しかった?」

奴隷少女「はい。甘くてひんやりしてて……」

男「良かった。じゃあ、ちょっと歩くよ」

奴隷少女「……どこか行くんですか?」

男「大した所じゃないよ。ボロアパートだ」

奴隷少女「……?」

男「そこに住んでる人間にちょっと用事があってさ。君関連の事なんだけどね」

奴隷少女「私……ですか」

男「そう」

奴隷少女「……」

男「さっきは他人の住民登録証を使ってここに入ったろ? いつまでもそれじゃ不便だ。……だから、君の住民登録証を作って貰う」

 ◆◆◆◆◆

青年「これで完成しましたよ。その子の住民登録証です。でも出身地とか、色々偽造しているんで気を付けてください」

男「了解。悪いな、仕事が休みの日に」

青年「いえ、偽造証作るなんて仕事場じゃ怖くて出来ませんよ。休みに自宅でやる方が好都合です。それにその子の写真も撮るんですから、仕事場じゃまず無理ですよ」

男「ああ、そうだったな。……はい、君の住民登録証。肌身離さず持っててね」

奴隷少女「……分かり、ました。」

男「……あ。さっき入るときに使った登録証があるんだけど」

青年「ああ、預かりますよ。俺が検査官の日にでも街を出た事にしときます」

男「悪いな、助かる」

奴隷少女「……あの、この人って」

男「奴隷解放の協力者。ここの街の役人で、住民証の偽造とか、国のデータ改ざんとかをしてもらってる」

青年「……俺の荷が重過ぎると思うんですよね。見付かったら死刑モンですよ」

男「役人の協力者は本当に少なくて困ってるんだよ。本当に申し訳ないが、我慢してくれ」

青年「分かってますよ……。報酬も貰ってますし、やる分はやります」

男「……頼む」

奴隷少女「……あの、すいません。私の住民登録証って、どうやって作ったんですか?」

青年「ああ、別に大した事じゃないよ。住民登録者はこの電子機械で一括管理されてる。俺の先輩が仕組みを少しだけ弄って、データの改ざんを出来るようにしたんだ」

奴隷少女「……?」

青年「住民登録は基本的に産まれてから一年以内に行う。でも君が産まれたのは十二年前。当然登録は不可能だ。……だが、ここに“十二年前に登録された”君のデータを入れ、あたかも最初から有ったように偽造する。写真は成長に合わせて撮り直すから、今の写真で全く問題ない。役人共は提示された登録証に書かれたナンバーを入力して照合するだけ。写真なんてマトモに見ないし、無かった人間の名前が増えてても気付かないさ」

奴隷少女「……?」

男「……あー、つまりだ。君のデータを昔から登録されていたかのように偽造するってこと。でも、写真は今ので問題ないから、さっき撮ったのを使えるんだ」

奴隷少女「……あ、なるほど」

青年「俺の説明って分かり難いっすかね」

男「余分な情報が多いんじゃないか」

青年「……情報削減は得意なんですけどね。書類上の経験は対面の会話で生きる事は無いようです」

男「はは、それは残念だったな。……さあ俺達はそろそろ帰るよ」

青年「一応もうその登録証は使えると思いますけど、街のゲートの機械への反映に時間が掛かるかもしれないんで、しばらくこの街に居た方が安全だと思います」

男「今日はこっちのホテルに泊まるつもりだよ。明日なら心配要らないだろ?」

青年「……まあ、そうですね」

確かに“バーのマスター”“おっさん”“ナイスガイ”だとエギルっぽいですね。個人的には少し優しめな白髪のおっさんというイメージです。まあこの辺りはどうでも良いので皆様の想像にお任せします。

わざわざ補足するような事でもないのですが、この世界で扱われる“機械”は、性能がかなり低いです。
こと登録証を扱う機械に関しては、入力と検索くらいしか出来ません。そして青年が簡単に改ざん出来るほどセキュリティは弱いです。

 ◆◆◆◆◆

受付嬢「二名様ですか?」

男「はい」

受付嬢「……えっと、部屋を分けることも出来ますが、その場合料金は二倍になります。いかがなさいます?」

男「ん、部屋は同じでも大丈夫?」

奴隷少女「大丈夫です。一人だと不安ですし……」

男「じゃあ、一部屋でお願いします」

受付嬢「……かしこまりました。何時までのご利用でしょう」

男「明日の朝までで」

受付嬢「お食事はつけますか? 今晩の夕食と明日の朝食を提供いたしますが」

男「……あー、夕飯は外で食べます。朝の方をお願いします」

受付嬢「了解しました。では、お客様のお部屋は369号室です。ごゆっくりどうぞ」ジャラッ

 ガチャッ

男「おー。意外と良い部屋じゃないか」

奴隷少女「……ですね」

男(さっきの受付の人、少し怪しむような顔をしてたな……。親子だと解釈してくれれば良いんだけど)

奴隷少女「あの、夕食って……」

男「ああ、適当な店にでも入って食べようかなって。歩き食いも良いかもね。好きなものを買って食べて」

奴隷少女「……」

男「お昼を食べなかったのはこの為でもあるんだよ。もう結構お腹空いたろう?」

奴隷少女「……はい」

男「……まだ夕食にするには早い時間だし、何かしようか。遊べるものがあれば……」

奴隷少女「……」ギュッ

男「……えっと」

奴隷少女「甘えたいです」

男「……あ、遊ぼうよ。何かしてさ。ずっとこうしてても退屈だろうし……」

奴隷少女「……迷惑でしょうか」

男「……いいや、全く。じゃあこうしてようか」

奴隷少女「ん……」ギュウッ

男(今日で大分距離が詰まったな。さっきも結構普通に話してたし。……今は人の優しさに触れさせてやるべきかな)

奴隷少女「……ごめんなさい」

男「何が?」

奴隷少女「……迷惑ですよね」パッ

男「……別に離れなくても良いんだよ?」

奴隷少女「いえ、すいませんでした。優しい人に会えたのが、嬉しくて……。男さんが、ママみたいに感じて……」

男(母親、ね。俺に甘えるのに、まだ引け目があるのかな……。まあ仕方ないか。ここまで心を開いてくれただけでも充分だ)

奴隷少女「……男さんのことは、会って間もないですけど、大好きです」

男(……今なら奴隷だった時代の話を聞いても大丈夫だろうか。……いや、止めておこう。まだこの子は色々不安定だ。俺が拠り所になって、落ち着き始めたばかり……。余計な詮索はまだしない方が良いだろう)

男「……俺も君が大好きだよ。大切に思ってる」

奴隷少女「……」

男「だからさ、もっと我が儘言っても良いんだよ? あんまり常軌を逸した物じゃなきゃ、俺は気にしないからさ」

奴隷少女「……ありがとうございます」

男「君は家族だ。奴隷じゃない。汚くないし、迷惑じゃない。俺の事を親だと思って良いんだよ」

奴隷少女「……親、ですか」

男「そう。まだ君は年齢も若い。親に甘えて、我が儘言って、そうして成長しなきゃ。そうしてくれた方が、俺も嬉しいんだ」

奴隷少女(……12才って、もう親に甘えるより、好きな人とか出来る年齢だと思いますけど)

男「……何か不満そう。……俺が親じゃ嫌か?」

奴隷少女「ち、違います。そうじゃないです……」

男「……?」

奴隷少女が心を開いてきて、そろそろ“少女”に名前を変えたいのですが(男に奴隷少女と呼ばせたくない)スレタイが“奴隷少女”なのでこのままいきます。心を開いたからといって、奴隷少女が好き好きアピールするSSにはならないので悪しからず。まだまだ闇は深いです……。

コンピューターは詳しくないので現実に置き換えて説明は出来ませんが、民間に与えられる平均的な機械くらいに思ってください。
セキュリティ対策をしてないパソコンを国が使ってるようなモノです。怖いですね。

 ◆◆◆◆◆

男(話をして分かったのは、案外この子はお喋りだって事だった。普通に話せるし、価値観が大きくズレているという事もない。自分の事を貶める癖はあるようだが、思ったより普通の子だ)

奴隷少女「まだ、心を完全に許してお話なんて出来そうにもないです。……でも男さんが歩み寄ってくれている以上、私も歩み寄らなきゃなって」

男「無理しなくても良いんだよ別に」

奴隷少女「……無理なんてしてないです」

男(……無理してるんだろうな。いきなり信頼が生まれるとも考え難い。今は無害なだけで、俺がこの子にこれから何もしない保証なんてないんだ。……まだ他人だ。……でもまあ、この状態なら普通の子として話せるようになる日も近いだろう)

奴隷少女「……人の優しさを無下にするなって、ママが言ってました。……男さんは優しいので、無下になんてできません」

男(また母親……。この子が母親と一緒にいた頃は、まだ奴隷じゃなかったのだろうか……)

男「……折角外に出たんだし、何か食べようか。食べたいものとかある?」

奴隷少女「食べ物はあまり分からないです……」

男「食べ歩き出来るのが良いかもな。ハンバーガーでも買おうか」

奴隷少女「……ハンバーガー?」

男「食べたことない? じゃあ食べよう食べよう。今日は色んな物を食べて歩こう」

奴隷少女「……ありがとう……ございます」

男「……お礼なんていちいち言わなくて良いんだよ? 俺は君の親代わりだって、さっき言ったろ?」

奴隷少女「……ごめんなさい」

男「こんなことで謝らない」

奴隷少女「……」

男(……まあ良いか。癖みたいなモンだろう。あんまり注意みたいなことをして嫌われるのも良くないし、まだそういうのは控えておくか)

 ◆◆◆◆◆

奴隷少女「……ハンバーガーって、味が濃いですね」

男「もしかして苦手?」

奴隷少女「いえ、美味しいです」

男「多かったら残して良いからね。他にも食べると思うし」

奴隷少女「……はい」

男(……まあ、多分残さないよな。残したら怒られるって感覚があるのかもしれない)

奴隷少女「……」モグモグ

男「……」

奴隷少女「……」モグモグ

男(幸せそうな顔だ。……やっぱり今日は伝えないでおくべきかな……。でもいずれ伝えなきゃいけないし、早い内に伝えなきゃ手遅れになるんだよな)

奴隷少女「……?」

男(……可哀想だけど、伝えるしかないか)

男「……あのさ」

奴隷少女「……はい?」

男「君の傷の話、さっきしただろ? それで、俺が“病気だ”って言ったの覚えてるか?」

奴隷少女「覚えてます……」

男「正確には病気じゃないんだけど、まあ現代では病気とほぼ同格だ。……それで、その病気は本来、発症してから数ヵ月で死んじゃうんだ」

奴隷少女「……え?」

男「何で、君が何年も生きていられるか。それは、殴られ続けたから」

奴隷少女「……」

男「回復する場所があり続けたから生きていられた。もしも普通の子として育てられるようだったら、君はとっくに死んでいた。その病気は、回復する場所が無くなると、体を攻撃し始めてしまう」

奴隷少女「……私が、奴隷だったから」

男「……本当は嫌だ。俺は本当に嫌なんだ。……それでも俺は、君を買った。迎え入れた。……君を生かしておきたい。生きていて欲しい……」

 
 
 
 

男「……だから俺は、君を傷付け続けなきゃいけないんだ」

心開くの早いという指摘ですが、返す言葉も御座いません。一応、ちょっとお話しし易くなった程度だと思って下さい。奴隷少女が頑張って歩み寄っているだけなので、言う程心は開いてないです。

近々、試験が控えておりまして、次の更新は来週の金曜と致します(気晴らしに書くかもしれませんが、一応予定としては来週の金曜日に更新します)。
ご意見等が御座いましたら、レスして頂ければと思います。
少し間が空いてしまいますが、これからも宜しくお願い致します。

奴隷少女「……そんな」

男「……」

奴隷少女「嫌だ……嫌だ……」

男「……ごめん。もっと早くに言うべきだった。落ち着きはじめたのに、そこでまたこんな事を言われるのは、苦しいと思う」

奴隷少女「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……」

男「……ごめん」

奴隷少女「…………違うと思ってたのに。男さんは……優しいんだって思ってたのに……!」

男「……」

奴隷少女「……殴られたくない……嫌だよぉ……」グスッ

男「……本当にごめん」

奴隷少女「……うっ」グスッ

男「明日さ、服でも買おうか。好きなの買ってあげるよ。可愛い服でも着て見せて欲しいな」

奴隷少女「……」グスッ

男「……家に帰ったら、君の部屋を整理しよう。足りないものは、買いに行こう」

奴隷少女「……」

男「……」

奴隷少女「……」

男「……ホテルに戻ろうか。それとも、何か食べたいものとかある?」

奴隷少女「……」フルフル

男「じゃ、戻ろう。今日は疲れたろう?」スッ

奴隷少女「……」ビクッ

男「手を繋ごう。大丈夫、何もしないから。俺だって、君を傷付けたくないんだよ?」

奴隷少女「……すいません」スッ

男「……俺こそ、本当にごめん」

 ◆◆◆◆◆

??「あ、あの子買われたんだ。私が買いたかったんだけどなぁ。喪服が駄目って言うんだもん」

喪服「奴隷を買うのなんて、常識人なら反対します」

??「喪服の頭が固いだけだよ。それより、何であの子が買われたって知ってるの?」

喪服「偽装登録証で街に入った“魔力保有者”が居たと聞いたので、もしやと思い奴隷商に確認しました」

??「えっ、じゃあ今この街にいるの?」

喪服「そうですが、会いに行くだなんて許しませんよ」

??「けち。良いじゃん別に会うくらい。魔力保有者なんて滅多に会えないんだよ?」

喪服「……それでも、駄目です。行動班が連れて帰るのを待ってください」

??「何でさ。喪服っていつもそうだよね。理由も説明しないで駄目駄目って。子供みたい」

喪服「……」

お久し振りです。予告通り金曜日に投下しましたが、どうにも時間ができず、少し短いです。
土日で書けたら書きますね。
支援、ありがとうございます。

 ◆◆◆◆◆

奴隷少女「……」スゥスゥ

男(すぐ寝た……。精神的にも肉体的にも、疲れが溜まってたのだろう。悪いことしたな)

 プルルルルル プルルルルル

男(……っと。フロントからか? 起きちゃうだろ)

 カチャッ

男「……はい、もしもし」

フロント『夜分遅くに失礼します。男様と会いたいと、“眼鏡”という方がお見えになってます。いかがいたしましょう』

男「……人違いじゃないですかね。知らない人です」

フロント『では、お断りという形で?』

男「お願いします」

フロント『かしこまりました』

 カチャッ

男「……はぁ」

 コンコン

男(今度は何だ……?)

眼鏡「申し訳ありません。眼鏡という者です。男様とお話をさせて頂きたいのですが」

男「……お断りしたはずです」

眼鏡「フロントの方にもそう伝えられました。ですので、部屋を借りて直接来たわけです」

男(……何なんだこいつ)

眼鏡「人違いではありません。私は男様に用があるのです。男様と……」

男「……?」

眼鏡「男様の横に居る、その奴隷に」

男「……っ!?」

 ガチャッ

男「何故知っている……!?」

眼鏡「お話して頂けるのですね?」

男「……ああ」

男「だが、ここじゃああの子が居る。場所を移そう」

眼鏡「いえ、ここでお話しましょう。彼女を一人にするのは危険です」

男「危険……?」

眼鏡「ええ。狙われてますから」

男「誰に……」

眼鏡「色々な者に」

男「……」

眼鏡「貴方は賢い方だ。その子が買われずに済んでいた本当の理由が、“謳い文句が怪しいから”なんてモノじゃないと気付いているのでしょう?」

男「……」

眼鏡「おや、気付いていない?」

男「……買ったときから、そんなの知ってたさ」

眼鏡「なら、話は早いです」

男「……入れ。茶を出そう」

 カシャン

眼鏡「冷たいお茶ですか」

男「……苦手なのか?」

眼鏡「いえ。むしろ好きですよ」

男「……」

眼鏡「……彼女の症状の原因を知らなければ、単に怪しいから買うのを躊躇っていたと考えて良いでしょう。知っている人は、まず買いませんが、人道に反した事を平気で行える方々なら、彼女を買ってたかもしれませんね」

男「……俺は知っていたし、買った。だが、人道に反した者じゃないと自負するよ」

眼鏡「彼女を買うのは、死体を買うのと同じです。傷付けなければ、数日で死ぬんですから」

男「……あんまりキツい言葉を使うな。この子が起きてたら……」

眼鏡「失礼しました。……しかし、何故貴方は買ったのですか」

男「……やりたいことがある」

眼鏡「貴方の手に負える子じゃないですよ。彼女は」

男「……」

眼鏡「彼女を手にしたい人間は山ほどいました。ですが、誰もが傷の回復の原因を知り、手を引いたのです」

男「……なら、引いたままにして欲しかったな。何で今更この子が狙われるんだ」

眼鏡「“奴隷じゃ無くなった”というのもありますが、一番の理由は、貴方が買ってしまった事です」

男「……」

眼鏡「今までは、この子を狙っているグループ同士が値段を付け合い、なんとしても他のグループに買わせないようにしようと、様子を見計らっていました」

男「……値段が上がったのもそれが原因か。そこでポッと出の俺が買ったから、そいつらは焦ったと」

眼鏡「そうです。“自分のグループに入れて使うのは難しいけど、他のグループに取られたくない”というだけの状態だったのが、いきなり個人が買うものですから、どこも焦ってました」

眼鏡「ところで男様。何故貴方は彼女を購入できたのですか。とても一個人が買えるような値段では……」

男「秘密だ。絶対に言わん」

眼鏡「……そうですか」

男「……で、何だ。話したいのはそれだけか?」

眼鏡「いえ、勿論他にもあります」

男「……」

眼鏡「彼女を我々に譲って頂けないでしょうか。言い値で買い取りますよ」

男「……っ!」

眼鏡「正直、買いたくないんですよ。我々のグループも。でも他のグループや個人に取られてしまい、そのまま彼女をモルモットとして殺されるのは勿体ない! 貴方に取られた現状が、まさしくそれです。だったら我々のグループに買い入れてしまいたいのです」

男「……言い値か」

眼鏡「……ええ。現実的な額であれば」

男「……」

言い値で買おうとか言ってみたいですね。
眼鏡の性別は男です。筒井さんっぽいです(ヒカ碁)。
高城でも構いません(Charlotte)。

男「……話にならないな。俺は何があってもこの子を売ったりしないさ」

眼鏡「おや、宜しいのですか? 先程も言った通り、男様だけの力ではどうしようもないような子ですよ?」

男「協力者を探すさ。自分だけじゃどうにもならないことは分かってる」

眼鏡「……我々がお力添えしましょう」

男「断る。妙に事情通なようだが、信頼には値しない。帰った帰った」

眼鏡「……承知しました。また後日お伺い致します」スッ

 ガチャッ

男(“貴方は賢い”……なんて初対面で言うか? それに、なんで俺を特定できた……? もしかしたら、あの眼鏡は俺の目的を知っているのか……?)

奴隷少女「……男さん」

男「……あー、起きてたのか」

奴隷少女「……」

男「安心しろ。何もないよ」

 ◆◆◆◆◆

喪服「どうでした」

眼鏡「駄目だったよ。思った以上に強情な奴だった」

喪服「私が色仕掛けでもしましょうか」

眼鏡「冗談だろうが、笑えないぞ。お前の貧相な身体であのロリコン男が堕ちるわけないだろ」

??「貧相な身体って、未発達ってことでしょ? むしろロリコンは食い付くんじゃない?」

眼鏡「うるせぇ。子供は黙って寝ろ」

??「口悪ーい。どうせ男さんにも慣れない敬語で話してたんでしょ? そんなんだから気持ちが伝わらないんだよ」

眼鏡「最初は下手に出た方が良いんだよ」

??「大体、男さんがロリコンなら私が行けば良かったんじゃないかな」

喪服「……冗談はお止めください。それに、我が儘を飲んで連れてきているのですから、大人しくしていてください」

??「大人しくはするけどさー。冗談だってなら、さっき自分だって似たようなこと言ってた癖にー」

喪服「……私は大人だから良いんです」

??「あっ、喪服まで私を子供扱いするんだ」

喪服「世間一般では、子供です。……それと、男さんはロリコンじゃないですよ」

眼鏡「……?」

喪服「彼は生粋のシスコンです」

??「……何が違うの?」

眼鏡「ほら、ガキだ」

??「ガキじゃないよ!」

眼鏡「……ま、どうでも良い情報だな。大体、そんなのどこで聞いたんだよ」

喪服「あれ、言いませんでしたっけ。彼があの奴隷を買った理由を」

眼鏡「……あー、そう言えば。でもどうにせよ、何でお前が知ってんだ」

喪服「秘密です」

 ◆◆◆◆◆

男「……」

眼鏡「おはようございます」

奴隷少女「……男さん」

男「何の用だ。話なら昨日済ませただろう」

眼鏡「男様が安全に街を出るサポートをと思いまして」

男「まずお前が安全か分かんねぇんだよ」

眼鏡「……まあ、そこは信用して頂くしか」

男「……お前になんて頼らないよ俺は」

眼鏡「残念です。しかし私は付いて行きますよ」

男「迷惑だ」

眼鏡「勝手にその子を奪われれば、こちらも迷惑なんですよ」

奴隷少女「……っ」ビクッ

男「……知るかよ。この子は俺が守る。他のグループとやらからも、お前からもな」

眼鏡は敬語苦手系です。脱ぎません(笑)
喪服側の少女の名前は伏せられています。ハテナという名前ではないですよ。分かるか。

本編では男がロリコン扱いされてますが、奴隷少女の年齢が比較的若く幼い故だと思ってください。
私事ですが、たまに“もうロリコンでいいや”って思う瞬間があります。

眼鏡「守る、ですか」

??「やっぱり可愛いーっ」

奴隷少女「……っ」ビクッ

喪服「駄目って言ったじゃないですか! 勝手に動かれては困ります!」

男「……?」

眼鏡「申し訳ありません……。彼女達は我々の仲間です」

男「……この子と同じくらいの子もいるが」

眼鏡「色々あるんです、ウチにも」

喪服「ほら、出たなら出たなりに挨拶をしてください!」

??「こんにちはーっ!」

奴隷少女「こ、こんにちは……」

喪服「申し訳ありません、男様……。そこの眼鏡と同じ組織に所属している、喪服と言います。そしてこの方が……」

??「ねえねえ、傷が早く治るのってどんな気分? 奴隷だった頃と今ならどっちが楽しい?」

喪服「……デリカシーに欠けますよ」

??「良いじゃんこのくらい」

喪服「良くありません。とりあえず自己紹介をしてください」

??「自己紹介ねー、了解」

男「……」

??「はじめまして。猫って言います!」

男「……え?」

奴隷少女「……ねこ」

猫少女「気付いたら人間になってました! 戻りたいけど、戻れないんだ」

男「……冗談はよせ」

眼鏡「冗談じゃないですよ。彼女は元々猫だったんです。……貴方なら、そうなる原因をご存知でしょう?」

男「……」

眼鏡「さて、そろそろはっきりとお話ししましょうか。我々の目的と、貴方の目的を」

男「……知ってるんだろ、俺の目的なんて」

眼鏡「勿論、我々にとっては単なる再確認です」

男「……」

 ◆◆◆◆◆

店主「おや、またぞろぞろと連れてきたね」

男「俺はいつもの。この子にはココア、あとの三人は水で」

店主「個室に行くかい?」

男「お願いします」

眼鏡「噂には聞いていましたが、ここのバーは本当に組織の中心なんですね」

店主「やめてくれよ、そんな大層なモンじゃないよ」

男「あんまりこいつらと関わらない方が良いですよ。とても信頼できる奴等じゃないですから」

店主「そうなのかい? じゃあ何でウチに連れてきたの……」

男「すいません、他に行き場がなくて……」

店主「まあ構わないんだけどね。さあ飲み物は持っていくから、部屋に行って行って」

 ◆◆◆◆◆

男「水で良いって言ったでしょう」

店主「ジュースだって水だよ」

猫少女「おーっ、美味しいこれ」

男「はあ……。じゃあ本題に入りましょう。まずはそちらの目的。あんたらは何でこの子を狙ってるのか」

奴隷少女「……」

眼鏡「……魔法は、勿論ご存知ですよね?」

男(……やはりそうなるよな)

眼鏡「そこの奴隷少女さんに宿った魔力を抜き、魔法文明を再構築するのが、我々の目的です」

店主「……魔法文明、ねえ。大それた話だね。子供が考えそうな話だ」

眼鏡「……」

店主「ああ、悪いけど、私も話に参加するし、何かを譲ろうだなんて思っていないよ? 君たちのグループの事はよく知っているんだ」

喪服「……っ! よく知っている?」

こんにちは、ロリコンです。
魔法、というファンタジーな設定は最初から考えてました。現在、物語は中盤です(多分)
ダレる前に終わらせたいです……。
現時点で(書き手側の感覚では)少しダレてる気がしてなりません。頑張ります。

店主「君達だろう? 猫を女の子にしたのは」

猫少女「あ、それ私! 私が猫!」

店主「……それは驚きだ。まさか目の前にいるとはね」

眼鏡「……何故我々の事を知っているのですか?」

店主「喪服女と眼鏡男の事は結構よく耳にするんだ。格好は考えた方が懸命だよ?」

眼鏡「……喪服のせいか」

喪服「失敬な。眼鏡を掛けている貴方のせいですよ」

眼鏡「それはねえだろ! 年がら年中喪服で練り歩く女とか目立ってしょうがねえ!」

店主「……まあ、それは一旦置いとこうか」

男「……猫の話、知ってたんですね」

店主「私の情報収集能力を侮ってもらっちゃあ困るよ。伊達に君の先輩をやってないさ」

男「……その情報網、分けてほしいっす」

店主「……問題は、その猫少女ちゃんだ」

猫少女「……?」

店主「その子を人間にしたとき、君達は奴隷少女ちゃんと同じ魔力保有者の魔力を使った」

奴隷少女「……魔力?」

男「ああ……後で話すよ」

店主「その時さ、魔力保有者を殺してるよね?」

喪服「……っ、それは」

店主「ああ、良いよ別に何も言わなくて。ただの事故だって言い逃れするつもりだろう? 確かに君達は凄いよ。なんたって魔力を使うことに成功したんだから。でも、君達は、その魔力移植を行った奴の意向に反して、魔力保有者を殺した」

眼鏡「何で……そこまで」

店主「だって、その魔力移植をした奴、私達の仲間だから」

男「……え?」

店主「彼は君達の考えを理解できず、こちらに来た。何で、殺したんだい?」

男「……誰ですか、その移植を行った人って!」

店主「……?」

男「何で黙ってたんだすか! 俺の目的は知ってるでしょう! 何で言ってくれなかったんですか!」

店主「……ああ、いや。君が早とちりして何をしだすか」

男「誰ですか! その移植が行える人ってのは!」

店主「せ、青年くんだ……」

男「……っ」

 ガシッ

奴隷少女「痛っ」

男「行くぞ!」

奴隷少女「んっ、男さん……痛い……」

男「あっ、……ご、ごめん」

店主「ほら、そうやって焦るじゃないか」

男「……」

店主「まあ、黙ってた私も悪かったよ。彼等とは私が話しているから、行ってきなさい」

男「……ありがとうございます」

 ガチャッ

喪服「……なるほど、青年さんでしたか」

店主「驚いたか?」

喪服「……いえ、それほど」

店主「彼は天才だ。あれほどの技術力を持った人間はそうそういない」

喪服「その通りですね。何度も彼の能力に助けられました」

店主「……手放して損したね、君達は」

喪服「おや、何を仰っているんですか?」

店主「……?」

喪服「手放した?」

店主「……っ、まさか」

 
 
 
 

喪服「青年さんは、まだ我々の仲間ですよ?」

店主「……っ!」

どんな予想をされたのか気になる所です。
結局テンプレコースかもしれないですね(笑)

店主「男っ!」バッ

眼鏡「どこに行くおつもりですか?」スッ

店主「……どけ」

眼鏡「奴隷解放の動きを見せている貴方がたのグループの監視のため、青年を送り込みました。もっともらしい理由を付けて……」

喪服「お陰様で色々知ることが出来ましたよ。彼に情報管理を任せたのが仇となりましたね」

店主「……」

喪服「一応言っておきますが、魔力保有者を殺そうと提案したのは彼です。……そういう人なんですよ。青年さんは」

店主「……デタラメだ」

眼鏡「デタラメだったら、あの少女は無事に帰ってきますね」

店主「……」

眼鏡「……期待するだけ、無駄かとは思いますが」

 ◆◆◆◆◆

友人「よう、どこ行くんだ?」

男「……お、どうしたんだこんなところで」

友人「客を送った帰り。急いでるなら乗せていこうか?」

男「ああ、悪いな。頼む」

友人「……もしかして家に戻る?」

男「いいや、会いたい人がいるんだ。とりあえずそこの路地をまっすぐ」

友人「りょーかい」

 ガラララララララ

奴隷少女「……あの、私の病気って、何なんですか」

男「……」

奴隷少女「こんなに、色んな問題が起きちゃうようなものなんですか?」

男「……君は病気じゃない」

男「……魔力が体の中にある、魔術者だ」

奴隷少女「……?」

友人「魔術者? そんなの童話の世界だけじゃないのか?」

男「いいや、現実にも魔術者は居る。……正確には“居た”」

奴隷少女「……」

男「だが、数百年ほど前の魔女狩りで、魔族の血を断つために、魔術者の交配が禁止された。これによって、魔術者は急速に減り、今では存在さえ知らない人間も居る。……でも、極稀に魔力を持った人間が現れることがある」

奴隷少女「……私、ですか」

男「そう。でも、本来魔術者が魔力を放出できるのに対して、君みたいな魔力を“持っているだけ”の者は、放出ができず、全ての魔力が回復に回されてしまう」

友人「……回復しすぎの病気は、魔力が原因ってことか。何で知ってるんだ?」

男「……今から向かう家の主が教えてくれたんだ。あいつは優秀な仲間だよ」

お久し振りです(そう久しくも無いですが)。
ちょっと情報量を抑えて少な目に。

 ◆◆◆◆◆

青年「……聞いたんですね」

男「ああ……」

青年「男さんの目的は知ってましたから、協力したいのは山々なんですが、設備がありません」

男「……設備?」

青年「魔力を引き出すための設備です」

男「……そうか。前は眼鏡とかのグループでやってたんだもんな」

青年「再現は可能ですよ。強制的に魔力を引き出す術式を、彼女の体に記せば良いんです」

男「……術式?」

青年「本来、高速筆記の魔術で瞬時に記すのですが、文字列なので普通の人間でも時間を掛ければ扱えます。俺が前に使ってた設備は、この術式を体に照射する装置」

友人「照射……?」

青年「光で文字を作り、それを皮膚に当てるんです。光を消せば術式も消えますから、リスクが低いんですよ」

男「……吸収された魔力はどうなる?」

青年「基本は術式を記した者に行きますが、吸収先の物体の情報を文字列に足せば、任意で操作できます」

友人「……なんだ。結構簡単なんだな」

青年「確かに簡単です。が、問題があります」

男「……?」

青年「……文字列を直接体に書き込むと、間違った術が発生する確率が高くなります。そして一番面倒なのが、術の解除に手間が掛かるという点です」

奴隷少女「……消さなきゃいけない」

青年「ええ。術式は一度発動すれば、完全に消すまで解除されません。光を使っていたのは、これの対策です」

男「……」

青年「ま、俺が居れば大丈夫ですよ。魔術に関する知識なら、ほとんどの研究者に勝っている自信があります。……安心してください」

男「……ああ、悪いな」

 ◆◆◆◆◆

眼鏡「今頃何してるのかねー。青年の事だから、多分術式使う方向に持っていってるとは思うけど」

喪服「……しかし、青年さんにとっても難しい話なんじゃ無いでしょうか。なんせ男さんの目的は……」

店主「……お前らの目的は何だ。魔法文明の再構築が目的なら、何でこんなマネをする」

眼鏡「整わないんだよねー。青年が殺しちゃったお陰でさ」

店主「……整わない?」

眼鏡「実験を進められないのよ。殺すのは人道に反してるってお偉いさん方が言うんだ。だから仕方なく、奴隷少女ちゃんを追ってたってわけ。……まあ、多分あの子も青年にぶっ殺されちまうだろうけどな」

店主「……っ!」

眼鏡「今回は監視なしだから、何しでかすか分かんねえぞあいつ」

店主「……お前らは、何でそんな壮大な実験を行える。金はどこから……」

眼鏡「魔法ってさ、使い方次第では兵器に勝るんだよね」

店主「……まさか」

眼鏡「国の連中は、今でこそ非人道的だなんて言って魔力保有者の捜索だけに留めさせてるけど、本当は渇望してるんだぜ? 魔法文明の再建をな」

喪服「魔力を国家の所有物にするのが目的なんです」

店主「……魔女狩りをしておいてか」

眼鏡「何年前の話だよ。今の国と昔の国は違うの。年取ってる癖にんな事もわかんねぇのか」

猫「眼鏡ってやっぱり口悪いよね」

喪服「他人に敬意を示せないんですよ。馬鹿ですから」

眼鏡「……おい」

喪服「どうぞ続けて下さい」

眼鏡「……」

簡易的に眼鏡が説明してましたが、魔術に関する情報はほとんど国家が握っています。国家と直接繋がっている眼鏡達のグループは魔術の存在を知ることができたのです。
まだ色々謎が残っていますが、少しずつ解決していくつもりです。お付き合い頂ければと思います。

 ◆◆◆◆◆

男「……でも、まだ早い」

友人「……?」

男「出来るって分かっただけで十分だ。まだ実行はしないよ」

青年「どうしてですか」

男「……約束したんだ。奴隷の居ない世界を見せてやるって」

青年「またその話ですか。……言っておきますけど、あの猫には新しい魂が宿っただけなんですよ。男さんが考えてるような魔法の使い方は……」

男「……」

青年「もう良いじゃないですか。その子を助けましょうよ」

男「……良くねぇよ」

青年「……」

男「良くねぇよ! ふざけんな! 諦められるわけないだろ!」

青年「諦めろよ!」

男「……っ!」

青年「いつまでもぐずぐずしてんじゃねえよ。そんなに妹が大好きなのかお前は!」

奴隷少女「……え?」

青年「死んだ人間の為に、今生きてるこの子を傷付けんのか!」

奴隷少女(私が今着てる服って、妹さんの……。男さんの妹さんって……まさか)

男「妹は死んでない……戻ってくる!」

青年「無理だよ! 生き返らない! 魔法は万能じゃ無いんだ! 魔術の全盛期だって、生き返りの魔術は存在しなかった!」

男「……でも、諦められるかよ……」

奴隷少女(男さんが助けたかったのは……妹さん……?)

青年「……すいません。でも……無理なんですよ、諦めてください。今助けるべきなのはこの子です!」

奴隷少女「……」ビクッ

男「……分かってるよ、そんなこと……」

 ◆◆◆◆◆

甲冑「あれ、店主さんは居ないのか」

客「ああ。何か奥で話し込んでるよ。たまに怒鳴り声が聞こえる」

甲冑「それは、温厚な話か?」

客「怒鳴ってるんだから、温厚じゃないわな」

甲冑「そうか。俺行っても平気かな?」

客「知らんよ」

甲冑「……」スタスタ

客(行くのか……)

 ガチャッ

眼鏡「ああん?」

甲冑「店主さん、何ですかこれ」

眼鏡「あー、ごめんなさいね。今大切な話をしている最中でし……」

店主「私を助けろ!」

甲冑「……了解です」

 ◆◆◆◆◆

甲冑「可愛い顔して、すばしっこいな」

猫少女「捕まった……」

甲冑「全員捕まえましたけど、どうします?」

店主「絶対に抜け出せないようにしておいて」

甲冑「身ぐるみ剥げば良いんですかね」

店主「いや……。眼鏡はともかくこっちの二人は……」

眼鏡「待てよ! 俺はともかくって何だ!」

店主「軽く身体を調べて、キツく縛り上げておこう」

甲冑「了解です」

喪服「……何者ですか、貴方は」

甲冑「兵士やってたんだ。素人三人くらいなら余裕なんだよ」

店主「……丁度良いタイミングで戻ってきてくれたよ。今から行かなきゃ行けないところがあるのに、彼等が邪魔で出れなかったんだ」

 ◆◆◆◆◆

――……なんで、助けたのは私だけなんでしょう

――平気平気。だってあいつもう着れないし

――……今は奴隷達。あいつの望みでもあるしね

――まあ、俺はその謳い文句を店主さんから聞いて、この子を買いに行こうと決めたんですけどね

――誰ですか! その移植が行える人ってのは!

――……約束したんだ。奴隷の居ない世界を見せてやるって

――妹は死んでない……戻ってくる!



奴隷少女「私を買ったのは……妹さんの為?」

男「……」

友人「……確か、妹さんって」

男「……」

友人「……言わない方が、良いのか? お前、まだ引きずってたのか……?」

三連休は有意義でしたか?
私はニコニコを徘徊して見事なまでに駄目人間と化していました!

最初の服のくだりでちらっと出てた妹に、スポットが当たりました。

青年「……男さん。助けましょう、この子を」

男「……」

青年「……どう頑張っても妹さんを助けるのは無理なんですよ。死んだのは五年前で、ミイラとして無理矢理保管しているんでしょう? 生き返りませんよ」

男「……」

青年「助けるべきなのは、その子なんですよ!」

男「……帰るぞ」ギュッ

奴隷少女「……えっ?」

男「馬車を出してくれ。家までだ」

友人「……あ、ああ」

青年「……男さん!」

男「悪い、青年。この話はまた今度にしよう」

青年「……」

 ◆◆◆◆◆

店主「男っ!」

男「……店主さん。それに甲冑さんも……」

店主「無事だな! 青年は中か?」

男「中に居ますけど……無事って?」

店主「青年は裏切り者だ! あいつはその子を殺そうとしている!」

奴隷少女「……っ」

 ガチャッ

青年「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。裏切り者だなんて」

店主「黙れっ」

青年「あんたらの仲間になった覚えなんてこれっぽっちもないんですから」

男「……っ!?」

青年「今日でいけると思ったんですけどね。男さん、妹が生き返らない事実を受け入れられない阿呆のようで。残念ながら実験は出来ませんでしたよ」

甲冑「……青年はどうしましょう」

店主「……縛り上げ……」

 ビィイイイイイイイイイイイ


放送『反逆者が街に侵入しました。駆除を要請します』

 ビィイイイイイイイイイイイ

友人「な……なんだ?」

青年「残念だけどさ、この街はあんたらの敵なんだ。奴隷解放が目的だろう?」

店主「……」

青年「奴隷ってさ、貴族の餌だったりするんだ」

傭兵「動くなっ!」

男「……っ!」

傭兵「反逆者共……抵抗するなよ……」

奴隷少女「……男さん」

青年「……おーぞろぞろと」

傭兵2「……仕留めて良いのか?」

傭兵3「あの女の子も反逆者なのか?」

市民「あれは奴隷だろう」

男「……」

甲冑「……奴等は銃を持っている。俺一人なら問題ありませんが、動けば皆を巻き込んでしまう……」

店主「大丈夫だ……なにもしなくていい……」

青年「んー殺すのはナンセンスかな。じゃあ、そこの」

傭兵「はい」

青年「あの女の子殺すつもりで撃って」

奴隷少女「……やっ」

男「おいふざけ……」

青年「撃て」


 ダダダダダダダダダ

男「……うぐぇっ!」

奴隷少女「うあああああ! 痛い痛い痛い痛い!」

青年「男は撃たなくて良い。アレは死ぬ」

傭兵「でも、あの子を撃つとなると」

青年「……」

男「……はあっ……はあっ……」

青年「今にも死にそうですね。楽にしましょうか?」

男「止めろ……」

店主「甲冑。……お前の鎧は、銃を弾くか?」

甲冑「盾になれと」

店主「いや、違う」

甲冑「……?」

店主「何故、盾にならなかった?」

甲冑「……」ブオンッ

店主「……っ!」サッ

青年「おっと、甲冑さん。剣を抜いて、どうしましたか?」

店主「どうしたも何もあるかよ……。お前は始めっから知ってたんだな……?」

青年「ははは、何を知っていたと言うのです?」

眼鏡「……教えてくれよ。何を知ってたのか」スッ

喪服「大方、つまらない戯言でしょう」

猫少女「すっごい……。この銃持った人たち、全員あの真ん中の狙ってるの?」

店主(わざと逃げられるようにしてたのか……)

友人「……どうすんだよ、これ……。傭兵とか市民とか、この街そのものが敵じゃねえか……」

青年「奴隷を解放、なんて馬鹿げた事を考えるのはやめましょう。大人しく、私達のモルモットになって頂けませんか?」

さて、終盤です(自分でも予想してなかった展開とか言えない)。
基本的に最初考えた結末に向かっています。
でも……ここまで【 VS 街】みたいになるとは思ってませんでした……。

動きの多いシーンは、台本形式で書くと間抜けですね。

青年「甲冑、戻れ」

甲冑「はい」

店主(まさか甲冑まで青年の手中とはな……)

青年「さあ、どうです。降伏する心構えは出来ましたか?」

男「……」

青年「……お嬢ちゃん」

奴隷少女「……っ」ビクッ

青年「君はね、普通に生きてたら死ぬんだよ」

奴隷少女「……」

青年「殴られ続けなきゃ死ぬ。回復し続けなきゃ死ぬ。そんな体なんだ」

奴隷少女「……」

青年「でもね、それは君が魔法の使い方を知らないだけ。俺んとこ来れば教えてあげるよ?」

男「……知らないくせに」

青年「何ですか?」

男「お前、魔法の使い方なんて知らねえだろうが!」

青年「……さあて、どうでしょうね。……甲冑」

甲冑「はい」

 ガシッ

男「いたっ、止めろ! 離せ!」

甲冑「……」

青年「私は知ってますよ。魔力を解放できる方法を」

男「……でたらめだ」

青年「ほざいてろ」

奴隷少女「……」

青年「お嬢ちゃんが優柔不断なせいで、男が苦しんでるけど、何かコメントは?」

奴隷少女「……」

奴隷少女「……私が行けば、良いんですか?」

男「……っ!?」

青年「物分かりが良いじゃないか。そうだよお嬢ちゃん。君がこっちに来れば良いんだ」

男「やめろっ、君は……」

青年「君は妹を生き返らせるために必要、か?」

男「違うっ! 君は大切な……」

奴隷少女「……」

男「君は怖いだろ!? 死にたくないだろ!? 生きろよ! 生きてくれよ!」

奴隷少女「まるであっちに行ったら、私が死んじゃうみたいな言い草ですね」

男「そうだよ! そう言ってるんだ! さっきもあいつは君を殺そうとした! 君の魔力が欲しいだけなんだよ!」

奴隷少女「……男さん。この数日間、我が儘ばかりで、すいませんでした」

男「……止めろ、まだ一緒にいよう! 一緒に暮らそう!」

奴隷少女「私なら、大丈夫ですから」

男「駄目だ……俺は……っ」



奴隷少女「最後に、もうひとつ我儘を聞いてください……」



――我儘なんていくら言ったって構わないさ



奴隷少女「……私が男さんの家に出向いた時は、お帰りって、言ってください」



男「………………」

奴隷少女「……男さん」

男「………………駄目だ」

 ◆◆◆◆◆

 あの日は「お帰り」の声が無かった。
 妹が消えた日だ。

男「……妹?」

 玄関の鍵は空いていた。
 だから、家に居るものだと思った。

男「入るぞ」

 妹の部屋に入った。
 ノックは……しなかった気がする。

男「……っ!?」

 部屋に、妹は居なかった。

男「……何だよ、これ」

 代わりに、血が俺を迎えた。

 ◆◆◆◆◆

男「……駄目だ……! ただいまの声を聞かなきゃ、俺はお帰りなんて言わない……!」

奴隷少女「私は死にませんよ。平気です」

男「……嘘つくな!」

奴隷少女「嘘じゃありません。生きて帰ってきます」

青年「無理ですよ。私が殺しますから」

男「……っ!」

奴隷少女「……」

青年「どうやら相当懐かれたようですね。この子は、男さんを助けるために自らの命を捨てるそうですよ」

奴隷少女「……ちがっ」

青年「ああ、構いませんよ。お陰で、終わりそうです」

奴隷少女「……終わる?」

男「……離せ」

甲冑「……?」

男「……」

甲冑「熱っ!」

青年「甲冑、離して構わん」

甲冑「……っ」バッ

猫少女「……熱いって?」

青年「魔力放出の前兆だ。初めてだから相当熱いだろう」

奴隷少女「……! 男さんって」

青年「魔力保有者だ。自覚なし、回復過多なしのね」

男「魔力保有者……?」

青年「知らなかったでしょう? 私は知ってましたけどね」

男「……?」

青年「魔力感知してましたから、大分前から知ってました。ただ、不可解だったのは何故回復過多で死なないのか」

男「……」

青年「そこでこう思ったのです。もしかしたら、男さんには魔力を放出する能力があるんじゃないか」

男「……馬鹿げてる」

青年「言っておきますが、その少女を貴方が買えたのも、私達がキープして貴方に買わせるように仕向けたからなんですよ?」

男「……っ!?」

青年「貴方が妹さんを生き返らせたいのは知っています。私も聞きましたし、魔力で生き返るかもしれないと提言したのも私ですから」

男「……」

青年「魔力保有者を貴方に与え、そして私の下に来させる。そうして貴方の心を揺さぶって、解放させるのです」

男「てめえは……」

青年「おや、お怒りですか」

男「……ふざけんな! じゃあお前らは最初から俺を……」

青年「勿論。前回は失敗しましたから」

男「……前回?」

青年「……妹さんですよ」

男「……っ! ……まさか」

青年「貴方の兄妹は、二人とも自覚なしの魔力保有者です」

男「……お前がっ、妹を……!」

友人「男……落ち着け。ここで解放すればあいつらの思うつぼだ」

店主(青年が実験体に使った魔力保有者の少女が男の妹……。なるほど。初めっから男ん家狙いだったのか……)

男「……」スッ

青年「……? 水筒、ですか」

男「……喉が渇いたから、お茶をな」

青年「どうぞどうぞ。もう貴方は完成一歩手前。何をされようと……」

男「友人、頼んだ」

友人「おう」

青年「……?」

男「この睡眠薬、君が飲んだのよりが飲んだのよりキツいんだ」

奴隷少女「……それって!」

友人「奴隷少女ちゃん! 馬車に!」

青年「……なるほど、ここでの解放は食い止めたか。だが、これだけの囲いからどうやって出るんだ……?」

 ズサアッ!

青年「……っ! 道が出来た!?」

店主「悪いね青年。君がペラペラ喋ってる間に、道が出来ちゃったみたい」

青年「店主の仲間が残ってたのか! 道を塞げ!」

友人「全員乗ったな? 行くぞ」

青年「待て……、店主の仲間の方が多い……?」

眼鏡「まずいっすね……。行きますか」

青年「ああ頼む……。甲冑! 馬車を止めろ!」

甲冑「……」

青年「おい!」

甲冑「残念だが、お前の命令は聞かないぜ?」

青年「……え?」

店主「甲冑! 先に門まで行って、馬車が通れるようにしといてくれ!」

甲冑「……ったく、無茶言いますね」バッ

青年「どういう……事だ……」

 ガラララララララ

男「流石甲冑さんのお弟子さん連合。かなり強いですね……」

店主「怪我しなきゃいいんだけど……」

奴隷少女「……男さん! 寝たんじゃ……」

男「ああ、あれ普通のお茶だから」

奴隷少女「……え?」

男「甲冑さんが俺を抑えてる時、耳打ちしてきたんだ」



甲冑『一回しか言わないからよく聞け。安心しろ。裏切ってない。俺が熱いと言ったら、お前は自分が魔力の解放で苦しんでる風を装え。お前確か、お茶を持ち歩いてたろ。俺の弟子が道を作り始めたら、それを睡眠薬と言って飲め』



友人「俺も、店主さんに耳打ちされた」

男「最初から分かってたんですか?」

店主「甲冑は、青年のところにスパイに行ってるんだ。勿論、私達のグループには秘密という体でね」

男「本当は、まだこっちの……」

店主「そう。ああ見えて甲冑は頭良くてさ。さっきの一連の作戦も、すぐに私に伝えてきた」

男「……ひとつ気になったのですが、俺が魔力保有者ってのは?」

店主「……それがイマイチ分からない。私も知らなかった」

男「……」

店主「でも、君の妹が魔力を持ってたのは事実だ」

男「……っ、そうだ。それ、本当に青年達が……」

店主「……私は、そう聞いてるよ」

男「……」

店主「君が私のところに来たとき、甲冑が教えてくれたんだ。“青年が殺した子の兄だ”って。私は触れない方が良いと思って……」

奴隷少女「……」

男「……君は、もうあんなこと言わないでくれ」

奴隷少女「……ごめんなさい」

男「もう……家族を失いたくない……」

奴隷少女「……」

男「……」

奴隷少女「……私は、男さんの側に居たいです。生きます。辛くても……」

男「……」

奴隷少女「……」

男「……青年の言う通り、妹は諦めるべきなのかな……」

店主「……」

奴隷少女「……」

友人「門が見えてきた! 街から出ますよ!」

久々に大量更新(そんな多くもない)。
流れるようにスレタイを回収しました。
>>142 で、店主が甲冑の裏切りに心の中で驚いている描写がありますが、消し損ねです。本当は無いです。
まあ、心の中まで演技してたって事で。

終わらすなよ
頼む

 ガララララララララ

店主「甲冑!」

甲冑「飛び乗ります! 走り続けてください!」

友人「了解です!」

門番「ま……待て」

甲冑「確かお前らの事も指導したはずなんだがな……。気のせいだったか」

門番「……」

 ガララララララララ

甲冑「よっ」バッ

店主「お疲れ。悪いね、面倒事を」

甲冑「いえ」

男「……あの、逃げたのは良いんですけど、これからどうするんですか」

甲冑「とりあえず、男の家に行こう。馬は平気そうか?」

友人「休み休みならなんとか」

甲冑「青年達も追って来ないようだし、ゆっくりで構わん」

男「……うっ」

甲冑「痛むか」

男「はい……」

店主「……甲冑。お前が機転を利かせて裏切りを演出したのは良かった。だが、男を見殺しにするのはどうなんだ」

甲冑「すいません……」

男「……あまり弾は当たってませんから、大丈夫ですよ」

店主「結果的には、だ。マトモに喰らってたら間違いなく死んでた」

友人「あの青年の使ってた拳銃って、少し珍しい奴でさ。連射ができるようになってるんだ」

男「……?」

店主「詳しいな」

友人「伊達に色んな街を廻ってませんよ。……それで、あの拳銃は威力が弱い」

男「……?」

友人「人を一人撃ち抜けば、飛んだ弾は打たれた人間のちょっと後ろに落ちるか、運が悪ければ、体内に残る。まあ、威力が弱いとかナシに、大抵そうなんだけど……」

男「……」

友人「お前、全弾喰らってるだろ」

店主「……え?」

友人「考えてもみてくださいよ。男に弾が当たってなかったら、後ろに居た俺達に当たります。でも、男以外には、全く当たってないし、放たれた弾も落ちませんでした」

友人「……普通、死にますよ」

甲冑「……中々見る目があるじゃないか」

友人「どうも」

男「……でも、俺は今普通に」

甲冑「青年も言ってただろ? 君は保有者なんだよ。その子より強力な」

奴隷少女「……」

男「待ってください、俺は回復し易いって感じたことも、傷つけられ続けた事も……」

甲冑「回復過多無し……。つまり、お前は魔術師に最も近い人……」

猫少女「残念。不正解」

甲冑「……っ!?」

猫少女「猫の足を舐めて貰っちゃ困るよ。あー、安心して。敵じゃないから」

甲冑「……はあ?」

猫少女「やっ、少女ちゃん。相も変わらず可愛いねー」

奴隷少女「……どうも」

猫少女「……元が猫だから、気配消すのも速く走るのも得意なんだ。逃げてきちゃった」

甲冑「信用出来ないな。お前は」

猫少女「私は男さんの妹だから」

男「……ふざっ」

猫少女「ふざけてないよ。だって、私は男さんの妹の魔力をベースに作られてるんだもん」

男「……」

店主「そう言えば、そうだったな」

甲冑「……それで、不正解ってのは」

男「……」

猫少女「男さんは魔力保有者じゃないよ」

甲冑「……俺達を惑わしに来たのか?」

猫少女「まあまあ。ちゃんと納得できる理由があるよ」

甲冑「……」

猫少女「銃弾の何発かはね、誰にも当たらずに消えたんだ」

甲冑「……はあ?」

猫少女「ううん。私が消したの。気づかれないように、こっそりと」

男「……」

猫少女「青年達には内緒だったんだけど……。私、魔法が使えるんだ」

甲冑「……まさか。そんなのが身近に居たら、青年だって気付くだろう」

猫少女「……むー、信じて貰えない……」

男「……お前は、青年を嫌ってたのか?」

猫少女「……」

猫少女「……うん。大嫌いだったよ。だって、仲間を殺してたから」

 ◆◆◆◆◆

 私は最初、言葉が話せなかった。
 でも、魔力を与えられて、人間と同じように覚える事ができるようになったの。感情も増えた。

猫少女「ごはっ、ごは」

喪服「……はい?」

猫少女「……ご、は、ん」

喪服「ああ、お腹が空いたんですね。何か食べたいものはありますか?」

猫少女「さかな!」

喪服「魚だけはやけにはっきり覚えましたね」

猫少女「……?」

喪服「じゃあ、準備しますので、待っててください」

 しばらくして、私は魔力感知が出来る事に気付いた。
 魔力のあるものだけ、何か纏ってるように見えるんだ。青年の身の回りには魔力を纏った物が沢山あるから、それを指差してた。それで、青年は私の能力に気付いたの。

青年「ここを通る人間で、魔力を持ってる人間が居たら、教えろ」

猫少女「……ん」

 門に立たされた私は、通る人をじっと見てた。
 そして、一人の魔力保有者が通った。

 ◆◆◆◆◆

猫少女「それが、男さん」

男「……」

猫少女「まだ、マトモに話せなかった私は、魔力を持ってるのが男さんの持ち物だって伝えられなかった……」

甲冑「……ああ!」

男「……?」

甲冑「そういうことか!」

店主「……どうした?」

甲冑「俺も、この子が門に行かされてたのは知ってました。それで、魔力保有者が居たことも。……誰なのかは教えてくれませんでしたが」

男「……」

甲冑「初めて男が店主さんに会いに来た日、確か、妹さんの遺品を持ってました!」

男「……あ。そう言えば、髪飾りを持ってました」

甲冑「妹さんは、明らかな魔力解放型……。使い方を知らないだけで、魔力は放出し続けてた。……髪飾りに少しくらい魔力が移ってもおかしくはない……」

猫少女「……それを分かっていても、伝えられなかったんだ。言葉が上手くなかったから。……最近まで、そんな事があったのさえ忘れてた。だって、標的を少女ちゃんに移したんだと思ってたから」

男「俺の顔を見て、思い出したと」

猫少女「うん。それで、青年に聞いてみたんだ。男の方はどうするのって」

 ◆◆◆◆◆

 魔力が無いことは言わなかった。
 なんだか、情報を渡すのが嫌だったから。

青年「なんだ、ちゃんと覚えてたのか」

猫少女「まあ……」

青年「……あっちが本命だよ。妹と同じ解放型だからね。まあ、奴隷の方は適当に使うさ」

 ◆◆◆◆◆

猫少女「皆、魔力が見えないから。私が言ったことを本当だと思い込んじゃうんだ。魔力に関しては、だけど」

奴隷少女「……」

猫少女「少女ちゃんを見付けたのも私なんだ。ごめんね、こんなのに巻き込んじゃって」

奴隷少女「……平気」

 ◆◆◆◆◆

青年「……おい。猫少女が居ないぞ」

喪服「……っ」

眼鏡「逃げたんじゃないっすか。青年さん、猫殺しまくるから」

青年「気配を消されるのは厄介だと思ってたが、まさか逃げられるとはな」

喪服「追わないんですか?」

青年「居場所がわからない者をおっても仕方がない。それに、あんなのひとつの実験動物に過ぎん」

眼鏡「……奴隷少女のことえらく気に入ってたからなー。今日襲ったのが腹立ったのかも」

喪服「……あり得ますね」

青年「……」

さて、猫少女が味方か敵か分からなくなりました。
回想を挟みつつ謎を解いていきます。
思えば最初っから猫少女は奴隷少女寄りでした。

終盤で、回想が増え始めます。
上手くまとめられるか微妙ですが、頑張ります。
多分、まとめに時間が掛かって、すぐには終わらないと思いますが。
正直、その日の思い付きで添削もせず書いていると、私自身予想外な事が多いです。

>>160
ごめんなさい、多分終わっちゃいます。
まあ、確実に一ヶ月は続くでしょうが、物語的に終盤なのは確かです。
もしかしたらスピンオフ的な続きを書くかもですが。

 ◆◆◆◆◆

男「……どうぞ」

店主「おじゃまします」

甲冑「……良い部屋じゃないか」

男「街から離れてますからね。安いですよ」

奴隷少女「……おじゃまします」

男「……ただいまでいいよ」

奴隷少女「……」

男「……」

奴隷少女「……ただいま」

猫少女「ただいまーっ!」

男「君は違うだろ……」

猫少女「えー……」

甲冑「……妹さんは、この家にいるのか?」

男「……いますよ」

甲冑「……そうか」

男「……」

猫少女「……生き返るよ」

男「……え?」

猫少女「妹さん、生き返るよ」

甲冑「馬鹿な事を言うな。蘇生術だとしても、死んでから時間が経ちすぎてる。無理だ」

猫少女「蘇生術じゃない。修復術」

甲冑「……」

猫少女「言ったでしょ。私、魔法が使えるって」

甲冑「……なるほどな」

友人「どういうことだ?」

甲冑「死んだ人間を生き返らせる魔法に、蘇生術がある。難易度が高い上に、死体の鮮度が保たれてなきゃ出来ない術だ。これは術式を書くことで再現できる」

男「青年が言ってた、文字列ですね」

甲冑「聞いたのか。なら話が早い。青年は魔術の再現に、ほとんど魔力を必要としない文字列を利用した。だが、当然魔力がなきゃ使えない魔術もある訳だ」

店主「それが、修復術か」

甲冑「ええ。修復術は、魔力を直接流し込んで物体の状態を戻す魔術です。この魔術には、必ず魔術を持った術者が必要になります」

猫少女「……」

甲冑「蘇生術は、死んですぐの人間をなんとか延命させる魔術で、実際、完全に機能停止した人間を生き返らせるのは無理です。だから、代償は全く無い」

猫少女「ただ、修復術は本来不可能な復活を魔力を使って無理矢理行う。だから代償が必要なんだ」

男「……代償って?」

猫少女「……魔術者の、命」

男「……」

店主「まあ、そんなところだろうとは思ったよ」

男「猫少女が、死ぬのか?」

猫少女「……」

男「……駄目だ」

猫少女「妹さんが死んだ理由は衰退じゃなくて、殺人。だから、修復して死ぬ前の状態に戻せば、健康に生きると思う」

男「お前が死んで、妹が生き返るのは……」

猫少女「奴隷少女ちゃんの魔力は使おうとした癖に」

男「……」

奴隷少女「私は……別に……」

猫少女「別に何。死んでも良いって?」

男「俺は……知らなかった。人を生き返らせるのが、そんなに大変だなんて。魔法があれば、良いんだと思っていた」

猫少女「何言ってるの。魔法はある。私が使える。それで生き返るんだよ? 望んだ通りじゃない」

男「でも、誰かが死ぬのは駄目だ……」

猫少女「……私は、たまたま生きてる」

男「……?」

猫少女「仲間は皆、青年に殺された。私だけ生きてる」

男「……」

猫少女「私は、死にたいの」

男「……嘘つくなよ。死にたいなんて」

猫少女「……」

男「お前、戻りたいって言ってたじゃないか」

男「……猫に戻りたいんだろ?」

猫少女「……」

男「……何で、お前も、少女ちゃんも……。何ですぐに死のうなんて思えるんだよ……!」

猫少女「……」

男「頼むから……止めてくれ……」

猫少女「……ごめん。私らしくなかった……かも」

男「……」

奴隷少女「……」

甲冑「助かる方法、あるかもしれないぞ」

男「……?」

甲冑「妹さんが生き返って、奴隷少女ちゃんが普通に戻って、猫少女が猫に戻れる」

男「……え?」

甲冑「魔力を移す術式がある。妹さんから猫に魔力を移したときに、似たモノを使った。奴隷少女ちゃんを吸収元、猫少女を吸収先に指定して、猫少女は妹さんに修復術を使う」

店主「……奴隷少女ちゃんの魔力で、猫少女ちゃんが妹さんを修復するってことか?」

甲冑「そうです。で、奴隷少女ちゃんには、魔力を空にしてもらう」

猫少女「……死んじゃうよ」

甲冑「お前が蘇生術で生き返らせるんだよ」

猫少女「妹さんは?」

甲冑「勿論、そっちも生き返らせる」

猫少女「馬鹿みたい。そんなの出来っこないよ」

甲冑「いや、出来なくはないと思う」

猫少女「……」

甲冑「修復術で術者が死ぬのは、普通人間が持っている魔力の量を越えた魔力を無理に使うからなんだ。つまり、奴隷少女ちゃんの分の魔力を一緒に使えば、猫少女ちゃんは死なない」

猫少女「……ねえ、それって……」

甲冑「……ああ。最悪全員死ぬ」

男「……!」

猫少女「無理だよ。私はそんなに上手く魔術を使えないから」

甲冑「奴隷少女ちゃんは魔力が無い状態で生き返って、妹さんも生き返る。そして、猫少女は猫に意思を移せば戻ることができる」

猫少女「……少女ちゃんが魔力なくなって、蘇生術を使ったからって生き返るなんてあり得ない! 魔術者は産まれたときから体が魔術に対応しているから、魔力がなきゃ、蘇生しても……」

甲冑「奴隷少女ちゃんは、普通の体だ。魔術師とは違う」

奴隷少女「……」

猫少女「……でも、確実じゃない……」

男「……そうですよ」

甲冑「……」

男「……確実じゃない事を、今の状況で行うなんて……」

店主「甲冑。お前が真剣に考えてるのは分かった。でも、それは駄目だ。リスクが大きい」

奴隷少女「でも、それ以外に方法って、あります?」

男「……」

店主「……まあ、無いと思うが」

奴隷少女「……」

男「……駄目だ」

奴隷少女「……男さん。賭けてみましょうよ」

男「……」

奴隷少女「この我儘は、最後だなんて言いませんから」

男「……俺が、良いって言うのを待ってるのか?」

猫少女「まあ……うん」

奴隷少女「皆が不幸になる可能性もあります。でも、皆が幸せになる可能性もあるんです」

男「……」チラッ

店主「……私は、もう止めないよ。お前次第だ男」

男「……」

友人「乗り掛かった船に最後まで乗ってやるって、言ったろ? どんな結果でも、俺は喜怒哀楽をお前と共にしてやるよ」

男「……」

甲冑「……男の為にここまで来たも同然なんだ。最後の判断は、任せるさ」

男「……」

奴隷少女「……」

男「…………わかった」

 ◆◆◆◆◆

 ガタガタ

男「……本当は、奴隷を先に助けたかった」

友人「……お前がこの前言ってたアレ、妹ちゃんの願いだろ」

――…………助けるためだよ

――……誰を

――……今は奴隷達。あいつの望みでもあるしね

男「……分かってたのか」

友人「今日、何となく分かった」

男「これ。妹が死ぬ前に書いた手紙」スッ

友人「……」

男「死体と一緒に届いたんだ」

友人「……」ペラッ

 ――兄貴へ

 ごめん。何か死んじゃうみたい。
 この手紙がちゃんと届いてると良いな。
 最後に兄貴と話したのは、いつだったっけ。
 いきなり居なくなって、驚いて、心配させちゃってたかな?
 私も突然拐われて、殺されかけて、多分兄貴より驚いたと思うよ。
 兄貴が十驚いたなら、私は百驚いてるね。

 ……まあ、私は今、奴隷みたいな感じ。
 楽しい話とかしたいけどさ、何も思い付かないや。
 最近何も楽しいことしてなかったから。
 楽しいってなんだっけ、みたいな。

 奴隷って、大変なんだなあって。
 次は奴隷の居ない世界に生まれたいな。
 それで、また兄貴と暮らしたいよ。

 大好きでした。
 バイバイ。

友人「……青年での、施設の話か」

男「奴隷同然だったんだろうな……」

友人「……」

男「よいしょっ」ガタガタ

友人「……それが」

男「うん。妹が入った箱」

友人「運ぼうか。手伝うよ」

男「ああ、頼む」

友人「……よっ」

男「……少女ちゃんが苦しむのは見たくないからさ」

友人「……?」

男「傷付けないと、死んじゃうんだ。奴隷が居なくなるまで、その状態のままで居て貰うのは、苦しい」

友人「……そうだな」

 ◆◆◆◆◆

甲冑「ほお。結構、しっかり保管されているじゃないか」

奴隷少女「……妹さん、綺麗……」

男「……自慢の妹だよ」

店主「……まず、猫を探そう。猫少女ちゃんが移る先になる猫」

猫少女「……私は、いいよ」

男「……どうして」

猫少女「だって、私が猫に入ったら、元々いた子が消えちゃうじゃん」

男「……」

甲冑「青年の所なら、お前の死体が保管されているぞ」

猫少女「……え?」

甲冑「冷凍保存だが、形状は維持されている。蘇生でなく、それに直接入る訳だから、問題ないと思う」

甲冑「あと……術式を書くなら魔術書が必要だ……。どうにせよ青年の所に行かなきゃいけない」

店主「移動は明日になるか……? 青年の所に戻って、そう簡単に物を持ってこれるだろうか……」

甲冑「多分、街では抗争が続いていると思います。俺の弟子たちがどれだけ頑張っているか……」

店主「……」

甲冑「俺も戻って加勢を……」

店主「駄目だ」

甲冑「でも!」

店主「お前は、私たちを守ってくれ」

甲冑「……」

店主「頼む……」

甲冑「……分かり、ました……」

 ◆◆◆◆◆

奴隷少女「……」ギュッ

男「ん、どうした?」

奴隷少女「男さんと寝たいです……」

男「いや、猫少女ちゃんと寝てきなよ」

猫少女「私もじゃあ男と寝るよ」

男「いや……」

店主「良いんじゃないか。じゃあ部屋分けを変えよう」

男「……まあ、俺は構いませんが。じゃあ、店主さん達は俺の部屋で寝てください。俺はこの二人と妹の部屋で寝ます」

友人「声は抑えてくれよ」

男「何の話だ」

 ◆◆◆◆◆

男「シングルベッドに川の字で寝るのは厳しいな……」

猫少女「私も少女ちゃんも小さいから平気だよ」

男「……お前はさ、本当に味方なのか?」

猫少女「……何今さら」

奴隷少女「……猫少女さんは、味方だと信じたいです」

男「俺もだよ。でも、まだ完全に信用は出来ない……。青年の差し金じゃないかって……」

猫少女「……猫はね、好きじゃないとこんなに近付かないよ」

男「……“まだ”人間だろ」

猫少女「……うん。まだね」

男「……戻れると良いな」

猫少女「ありがと」

物語上の長い一日が終わりました。本編の長さはいざ知らず。ここまで書いて、まだ奴隷少女と出会ってから三日目の夜です。密度たっか。でも実際、現実の時間で考えたらこんなモンだと思います。

女の子二人と寝ている羨ましい男ですが、勿論何も起こりません。普通に朝が来ます。何も起こらなくても羨ましいですが。まったく羨ましい。

 ◆485日前◆

男「ただいま」

妹「遅い」

男「ごめんごめん。最後に乗せた客がなかなか起きてくれなくて」

妹「投げ落とせば良かったのに」

男「そんな事出来ないよ。お金を払って貰ってるんだから」

妹「……嫌だね客乗せってのは」

男「それで食ってるんだから、文句言わない」

妹「はーい。じゃあ、ご飯食べようか。兄貴」

男「今日は何かな」

妹「兄貴が好きな奴だよ」

男「んー。豆板醤かな」

妹「初耳なんだけど」

 ◆463日前◆

甲冑「……拐ってきたのか?」

青年「ええ。可愛らしいでしょう」

甲冑「やり過ぎだ」

青年「政府から公認されているんです。奴隷なら実験に使って良いと」

甲冑「……その子は奴隷なのか?」

青年「さあ、どうだと思います?」

甲冑「……」

喪服「気にしない方が良いと思いますよ甲冑さん」

甲冑「……分かったよ」

青年「そんなに気にかけるなら、その子は君が管理してください」

甲冑「……」

青年「勿論、逃すなんて考えないように」

 ◆462日前◆

友人「妹が居ない……?」

男「血が……。血が部屋に……! 妹が……!」

友人「お、落ち着け」

男「昨日帰らなかったから……! 俺が帰ってれば!」

友人「……」

男「……あの客を送ったから……。妹は待ってただろうに……」

友人「出掛けたんじゃないのか?」

男「血を残してか!?」

友人「……」

男「……どうすれば……どうすれば…………」

友人「……とりあえず、中入れ」

 ◆458日前◆

甲冑「はい、お茶」

妹「……」

甲冑「連れてこられた時の傷の痛みは引いた?」

妹「……痛い、です」

甲冑「……まあ、そうだよね」

妹「……」

甲冑「……あれ、服が破けてる。ごめんちょっと見せて」

妹「……」

甲冑(……人為的な傷に見える。これってまさか……)

妹「……乱暴、される……。服、無理矢理脱がされて……。嫌だ……」

甲冑(……やっぱり)

 ◆450日前◆

店主「……そうか。猫に命を宿したのか」

甲冑「……」

店主「落ち込むな。お前が防げた問題でもない……」

甲冑「……守れなかったです」

店主「……」

甲冑「……守ろうって……。思ったのに……」

店主「甲冑、お前は頑張ってる。そう気に病むな」

甲冑「あの子は……一回も……。一回も笑わなかった……」

店主「……」

甲冑「兄に……会いたいって……ずっと……」

店主「……お前は、何も悪くない」

甲冑「……」

話は一年以上前に遡ります。
現在に至るまでをキャラごとに紐解き、ラストへ向かいます。
一気にまとめようと思いますが、リアルがちょっと忙しかったので久々にちょっぴり更新。

 ◆445日前◆

喪服「この子の処理はどうしましょうか」

青年「……捨てても構わないぞ」

喪服「廃棄処分、ですか」

青年「ああ……いや。そいつの家に送り返してやれ。確か兄貴が居ただろう」

喪服「死体を送るのですか?」

青年「感動の再会じゃないか。たとえ死体でも喜ばしい事だ」

甲冑(悪趣味な……)

青年「どうした、甲冑」

甲冑「……えと。……死体を送り返すなら、これも一緒に送ってくれないか?」

青年「……?」

甲冑「あの子が、兄に向けて書いた手紙なんだ」

ごめんなさい。
何か最近したらばがまともに動きません。スマホだからなのでしょうか。したらばだけです。
なんとか続きを投下できそうと思ってひとつ書き込んだら、それ以降全く動かなくなりました。この報告さえ投下できるか不安です。
いくつか続きを書いているのですが、ちょっと無理っぽいです。
書き貯めておきますね……。

 ◆443日前◆

初老「……生き返らせる? 無理に決まってるだろ」

男「貴方は素晴らしい医者だと聞きました……。どうにかなりませんか」

初老「なるわけがない。生命活動が完全に止まってる。少なくとも現代の医学じゃ戻らないよ」

男「……」

初老「魔法ならどうにかなるかもしれんが……」

男「魔法……」

初老「まあこの時代、魔法を使えるやつなんか居ないけどな」

男「……」

初老「……あー、生き返らせるのは無理だが、保存なら出来るぞ?」

男「保存……」

初老「見た目重視になるが、一応長い間形を留めておける……。どうだ?」

 ◆436日前◆

友人「客乗せやめるのか」

男「ああ。……お金は大分貯めてたから、一応しばらくは余裕をもって暮らせるし」

友人「そうか……お疲れ」

男「……」

友人「金に困ったら言えよ? 貸してやる」

男「返さないかもな」

友人「……うわあ」

男「……冗談」

友人「……」

男「ありがとう」

友人「おう」

 ◆419日前◆

商人「奴隷の話なら隣町の店主って奴に聞くと良い」

男「店主……?」

商人「そう。奴隷開放を目的にしてるグループの中枢に居る奴だ」

男「……」

商人「流石に死人を生き返らせるなんて事はどんな手練の医者でも無理だ。だが、奴隷の居ない世界を目指している奴はいくらでも居る」

男「……会ってみたいです」

商人「なら、場所を教えよう。紙と鉛筆はあるか?」

男「はい」

 ◆416日前◆

甲冑「……この人、前に言った実験体にされた子のお兄さんです」ボソッ

店主「……顔で分かるのか?」ボソッ

甲冑「写真は見ましたから」ボソッ

男「……」

店主「あー……君、何か飲むかい? ここは喫茶店だ。注文を受けよう」

男「……と、じゃあ。コーヒーのブラックで」

店主「了解。じゃあちょっと待っててくれ」

男「……」

 ガチャッ

甲冑(……何か、言った方が良いのか……? 俺は妹を知っている。伝えた方が良いのか?)

男「……」

甲冑(しかし、見たところかなりやつれている……。触れない方が良いかもしれないな)

お久し振りです。直ったみたいですね。
まだ生きていますし、まだ続きます。
「〇日前」という風に、現在にどんどん近付く形で書いていますが、これが想像以上に難しい。
遅くなっていて申し訳ありません。

 ◆同日・416日前◆

猫少女「……居た」

青年「……っ、顔は覚えているか!?」

猫少女「……」コクン

青年「門番、通行人のリストを」

門番「……勘弁して下さいよ。バレたら俺が……」

青年「早くしろ」

門番「……」スッ

青年「どれだ?」

猫少女「……これ」

青年「…………っ! こいつは……」

猫少女「……」

 ◆???日前◆

奴隷少女(……柵で仕切られた向こうの部屋で、今日も私より年上の奴隷さんと、私達の飼い主が交わっている)

奴隷女「あんまり見ない方が良いわ」スッ

奴隷少女(そう言って、奴隷女さんは私を抱き寄せる。奴隷女さんは私と同じ檻の中にいる奴隷だ)

奴隷女「中古品なんて、売れないのにね。ここは中古品ばかりだから、買ってくれるお客さんも少ないし、買ってもらっても……ねぇ」

奴隷少女(奴隷女さんは、時折難しい事を言う。でも、優しい人だ)

奴隷女「奴隷少女ちゃんの新品も、幼いうちだけかもしれないから……。早く買われると良いわね」

奴隷少女(私は何を言いたいのかわからないという風に、小首を傾げる。実際には、良くわかっているのだけど、そうするのが、癖になっていた)

 ◆???日前◆

奴隷少女(私は不思議な体質だ。傷ついても、すぐに治る。私の貞操は守られているが、その代わり、よく殴られる。……でも、すぐに治る)

奴隷女「あの人、他にする事ないのかしらね」

奴隷少女(今日も飼い主は、他の奴隷と交わっていた。あの子も、新品じゃない)

奴隷女「暇ねぇ。外に出れば少しは退屈を凌げそうだけど」

奴隷少女「……外って、良いものですか?」

奴隷女「良いわよ。ここみたいに汁の匂いが染み付いてなくて、空気が美味しいの」

奴隷少女「空気が……」

奴隷女「……ん、ピンとこないかな」

奴隷少女(私は、外に出た事が無い。物心がついた時にはここに居て、奴隷女さんが母親のようなものだった。……だから、空気が美味しいという感覚は、良く分からない)

 ◆???日前◆

奴隷少女(今日は、奴隷女さんの番だ。私は気まずくて目を背ける)

奴隷商「おい、奴隷少女」

奴隷少女(飼い主が話し掛けてきた。話し掛けられても、ろくな事があった試しはない)

奴隷商「ちゃんとこっちを見ろ。これも勉強だ」ゴスッ

奴隷少女(そう言って、飼い主は私を殴る。痛い。痛いのは嫌だ。傷はすぐに治るけど、痛いのは嫌だ)

奴隷商「おら、こっち見ろって言ってんだろ」

奴隷少女「……は、はい……」

奴隷商「泣いてんじゃねぇよ」パンッ

奴隷少女(飼い主は、私に平手打ちをして、また奴隷女さんの所に戻る。これを私に見せて、何が楽しいのだろうか。私には皆目検討もつかなかった)

 ◆同日・???日前◆

奴隷少女(裸で蹲っている奴隷女さんに、ボロくて汚い毛布をかける。毛布は、各部屋に一つしかなく、オンボロだ)

奴隷女「ありがとう……」

奴隷少女「……いえ」

奴隷女「……」

奴隷少女(奴隷女さんは、少し、泣いていた)

 ◆238日前◆

店主「ここ最近、私の事を嗅ぎ回っている人間が居る」

男「……それって、危ないんじゃ」

店主「まあ、良い訳はないな。……そこでだ。君に頼みたい事がある」

男「……」

店主「情報収集の仕事を変わって欲しいんだ」

男「……情報収集、ですか」

店主「もう半年以上ここにいるんだ。そろそろ誰かの付き添いなんかじゃなく、自分の足で動いてもらおうと思ってね。君だって、その方が良いだろう?」

男「……あ、ありがとうございます」

店主「……それで、だ。君に会ってもらいたい奴がいるんだが、明日にでも行ってくれないか」

男「……?」

 ◆237日前◆

青年「収集した情報は、俺の所に集めてください。データ化して、全て管理しますので」

男「……わかり、ました」

青年「俺からも、何か情報があれば提供しますんで。まあ、ちょくちょく来てください」

男「……」

青年「……俺は機密を扱ってるんで、表に出ないんです。俺の存在を知ってるメンバーは、結構少ないですよ」

男「……そうなのか」

青年「店主さんが認めたってことでしょう」

 ◆同日・237日前◆

甲冑「……良かったんですか? 彼を青年の所に行かせて」

店主「問題ないだろう」

甲冑「彼は魔力保有者として青年にマークされている……。危険です。せめて彼に青年が敵であることを……」

店主「いや、必要ない。少なくとも青年は、まだ手を出さない」

甲冑「……確かに、青年の施設には国の監視が付きました。今は青年も動けません。でも、政府には青年の協力者が何人もいる……。いつ綻び彼が危険に晒されるか……!」

店主「……それなら、男にはなるべく青年と接触しないようにさせよう。それで良いか?」

甲冑「…………」

 ◆???日前◆

奴隷少女(食事は全く美味しくない。味がしないし、冷めている。量も少ないが、一応生きていける)

奴隷女「大丈夫? ご飯、足りる?」

奴隷少女「大丈夫です……」

奴隷女「そう。なら良いんだけど……」

奴隷少女(奴隷女さんは、毎日ご飯が足りているか聞いてくる。私は胃袋が小さいから、この量で案外十分だ。……むしろ、足りていないのは奴隷女さんだ)

奴隷女「……育ち盛りなんだから、ちゃんと食べなきゃいけないんだけど……」

奴隷少女(彼女は私の母親ではない。私は孤児で、物心つく前にここの飼い主につれてかれた。……母親というものが、私にはよく分からないけれど、彼女は実に母親らしいなんて、思うときがある)

 ◆???日前◆

奴隷少女(久々に客が来た。客は、眼鏡をかけた男の人と、可愛らしい少女だった)

眼鏡「……ん、あれか?」

猫少女「うん」

奴隷少女(客は、私を指差していた。そうしてから、飼い主に何かを聞いている)

奴隷女「……買われるかもね」

奴隷少女(……それは嫌だ。奴隷女さんと離れたくない……。買うなら、奴隷女さんも……)

眼鏡「……」パシャリ

奴隷少女「っ!?」

眼鏡「ありがとうございました。また来ます」

奴隷少女(今日の客は、私に向かって見たこともない機械を向け、光った後にそのまま帰っていった……)

 ◆25日前◆

青年「新しい魔力保有者が見つかったのか」

眼鏡「ええ、奴隷市で。傷が治りやすい奴隷として売られてました」

青年(最近はまた、政府が協力的になってきている……。ここらでその奴隷を使って……いや)バッ

喪服「どこに行くんです?」

青年「ちょっと野暮用。その奴隷の使い方を思い付いた」

喪服「使い方……?」

青年「……運が良ければ、使えると思うんだが……」

 ◆同日・25日前◆

青年「ああ、居ましたか」ガチャッ

店主「……青年か。珍しいな。どうしたんだ」

青年「男さんにちょっと用がありまして」

男「俺……?」

店主(……甲冑が遠征に行っている時で助かった……。しかし、男に用って……)

青年「奴隷を購入しませんか?」

店主「……おい、お前は何を」

青年「勿論、考えあっての発言ですよ。その奴隷は、不思議な能力があるんです」

男「……?」

青年「もしかしたら、妹さんを生き返らせるかもしれません……」

男「…………え?」

 ◆???日前◆

奴隷少女(客が来た。飼い主に何かを見せている)

奴隷商「え、あの子を買うんですかい。まあ、構いませんが」

奴隷少女(そう言って、飼い主は私の方をチラリと見て檻の鍵を解いた。まさか……)

奴隷商「おい、奴隷少女。購入者だ。こっち来い!」

奴隷女「……あら、ついに買われるのね。いってらっしゃい」

奴隷少女「嫌だ……奴隷女さんと……離れたくない……」

奴隷女「我が儘言わないの。これは、仕方のないことなのよ」

奴隷少女「……でも」

奴隷商「ああもう、早く来い!」グイッ

奴隷少女(嫌だ。嫌だ! 離れたくない! ……何で……こんな…………)

 ◆同日・3日前◆

奴隷商「じゃあ、こいつは上に運びますね」ガチャッ

男「あ……はい」

奴隷少女「嫌だ! 嫌だ!」

奴隷商「うるせぇ、喚くな!」

男「……」

奴隷女「……ぐすっ」

男(檻の中で、一人の奴隷とおぼしき女性が静かに泣いているのが見えた)

奴隷女「……」

男「……あの」

奴隷女「……?」

男「貴女も、連れていきましょうか? あの子と一緒に生活を……」

奴隷女「ううん。いいの。優しいのね」

男「……」

奴隷女「……」

男「……助けます」

奴隷女「あなたが?」

男「俺が……、俺達が……必ずここの人達を助けます!」

奴隷女「無理よ。出来っこない」

男「……」

奴隷女「……あなたがまともな人で良かった。あの子を安心して送れるわ」

男「……ごめんなさい」

奴隷女「どうして謝るの」

男「……俺、無力で……」

 ◆同日・3日前◆

男「あの奴隷商の君達に対する扱いは酷いモノだったろう? この辺りじゃ評判がすこぶる悪い」

奴隷少女(確かに、酷かった)

男「見たところ君には最近出来た傷もあるみたいだし、やっぱり待遇は良くないのか?」

奴隷少女(待遇なんて、良い訳がない)

男「……仮にも商品だと謳うのであれば、傷なんて付けるべきじゃあ無いだろうに。綺麗な肌の子の方が売れやすいんだ。まあ、結局は大人共の玩具にされてボロボロに……」

奴隷少女(あんただって……)

男「ああ、ごめん。あんまりこういう話はしない方が良いかな。デリカシーに欠けてただろうか」

奴隷少女(気遣う振りをするな……)

男「……俺は君にそんなことをするつもりは無いから、安心して。だからさ、あんまり深刻そうな顔をしないで、少しお喋りでもしようよ。まだ俺の家までは30マイル近い距離がある。それに、この列車はそんなに速く走ってない。俺はこの調子で30マイル分の退屈を味わうなんて御免だね」

奴隷少女「……なんで」

男「……ん?」

奴隷少女「……なんで、助けたのは私だけなんでしょう。他にも奴隷は居ました」

男「……ああ、それは」

奴隷少女「それはやっぱり、私がまだ真新しくて、あそこでは一番肌が綺麗で……」

男「……」

奴隷少女「救済なんて言いつつ、結局それは卑しい目をした大人達と同じ考えで……!」

男「……俺はあそこの奴隷を皆買えるほど裕福じゃない。だから、一番危険な状態にある君を買ったんだ」

奴隷少女「……危険、って、なんで私が」

男「これ、飲んで」スッ

奴隷少女「……な、何ですか急に」

男「睡眠剤入りのお茶。薄めてあるから速効性はないけど、効果は保証するよ。どうにも疲れてるみたいだから、残り30マイル、休むと良い」

奴隷少女「……」

 ◆同日・3日前◆

奴隷少女(服を貰った。食事は美味しかった。奴隷女さんのいった通り、空気も美味しかった。男さんは意外と優しい人で、私をどうこうしようとしている訳じゃなさそうだ。布団はとても暖かい。おんぼろなんかじゃない。はじめての温もりだ。何で……私だけ助けたのだろう……)

 ◆2日前◆

青年「そうか。街に入ってきたか」

喪服「どうしましょう。二人まとめて捕らえますか」

青年「いや、遠回しに妹を生き返らせる可能性があるのが俺だってことを示唆しよう。男が自分からこっちに来るのを待つんだ……」

喪服「……それは、どうやって」

青年「お前らが行け。男に接触して、上手いこと俺の事を伝えろ」

眼鏡「んな無茶な」

青年「……あくまでその奴隷を狙っているかのように装え」

眼鏡「……」

青年「それと……眼鏡。お前は男にへりくだった態度で接しろよ」

眼鏡「うわ……メンド……」

 ◆同日・2日前◆

猫少女「けち。良いじゃん別に会うくらい。魔力保有者なんて滅多に会えないんだよ?」

喪服「……それでも、駄目です。行動班が連れて帰るのを待ってください」

猫少女「何でさ。喪服っていつもそうだよね。理由も説明しないで駄目駄目って。子供みたい」

喪服(……この子にはあまり多くを伝えていない……。偽りの情報も多い。青年さんには連れていけと言われたが、会わせて良いものなのか……?)

猫少女「眼鏡も帰ってこないし、暇だーっ」

喪服「では、何か遊びましょうか」

猫少女「うん! 何する?」

喪服「そうですね……」

 ◆同日・2日前◆

奴隷少女(男さんは、やっぱり優しい人だった。この人は、まるで父親のようで……)

男「……まだ夕食にするには早い時間だし、何かしようか。遊べるものがあれば……」

奴隷少女(私から消えた温もりを、もしかしたらこの人が補ってくれるんじゃないか。そんな風に思えた)ギュッ

男「……えっと」

奴隷少女「甘えたいです」

男「……あ、遊ぼうよ。何かしてさ。ずっとこうしてても退屈だろうし……」

奴隷少女「……迷惑でしょうか」

男「……いいや、全く。じゃあこうしてようか」

奴隷少女(……男さんは、暖かいな。私は、出会って間もないこの人の事を、好きになったのかもしれない、なんて。そう思えた)ギュウッ

 ◆同日・2日前◆

男「……だから俺は、君を傷付け続けなきゃいけないんだ」

奴隷少女「……そんな」

男「……」

奴隷少女「嫌だ……嫌だ……」

男「……ごめん。もっと早くに言うべきだった。落ち着きはじめたのに、そこでまたこんな事を言われるのは、苦しいと思う」

奴隷少女「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……」

男「……ごめん」

奴隷少女「…………違うと思ってたのに。男さんは……優しいんだって思ってたのに……!」

男「……」

奴隷少女(ああ、……勝手に好きになったり、嫌いになったり……。私って、馬鹿なんだな……。男さんは、優しいのに……)

 ◆1日前◆

喪服「青年さんは、まだ我々の仲間ですよ?」

店主「男っ!」バッ

眼鏡「どこに行くおつもりですか?」スッ

店主「……どけ」

眼鏡「奴隷解放の動きを見せている貴方がたのグループの監視のため、青年を送り込みました。もっともらしい理由を付けて……」

喪服「お陰様で色々知ることが出来ましたよ。彼に情報管理を任せたのが仇となりましたね」

店主(……知っているよそんな事……。とりあえず、男が青年の所に向かったのがラッキーだ。青年に攻撃する理由が出来た……)

喪服「一応言っておきますが、魔力保有者を殺そうと提案したのは彼です。……そういう人なんですよ。青年さんは」

店主(それも知っている……。だが、知らなかった風を装わねば……)

 ◆同日・1日前◆

店主「全てが計算通りに動いた訳じゃない。青年に裏切られて驚いた振りをしたのも、咄嗟の判断だし、色々焦らされる場面はあった」

甲冑「……俺も、結構焦ったりしましたよ」

店主「男には悪いことをしたなと思う。青年のグループを潰すために、色んな場面で利用した。危うかった」

甲冑「……」

店主「命を落とされれば、元も子も無いことは分かっていたのに」

甲冑「今の現状に、収集がついたら、全て話しましょう」

店主「……友人君は……もう寝たか。私達も寝よう。もう日付が変わる」

甲冑「……俺は、起きてますよ。皆を守らなくちゃいけないんで」

 ◆今日◆

店主「……そうか。お休み」

 



 ◆◆◆◆◆

青年「全てを終わりにしよう……」

喪服「……」

青年「目的は明確だ。男と奴隷少女以外は殺して構わん」

眼鏡「良いのか……? 流石にそれは」

青年「良いんだよ……。これが成功すれば、俺がこの国、この世界を治めることになるだろうからな……」

この遡りで描きたかったのは、一見矛盾じみている所を正すのと、奴隷少女が買われる前のミニエピソードです。
店主や甲冑が、最初から青年が敵だと知っていながら、青年に遅れをとっていたり、驚いた表情を見せたのは、それらを利用しようと手繰っていた感じです。

端的に言うと、思い付きで書いていて生まれた矛盾を、無理矢理修正しましたm(_ _)m

てなわけで、時間軸が現在に追い付きましたね。
もっと細かくやりたかったのですが、あんまり随所随所キャラの心中を書いていくと、長くなりそうなので、結構猛スピードで書き上げました。

どうでも良いですが、映画のプラネタリアン面白かったです。

今日は本編もコメントも長いですね(´・ω・)

 ◆◆◆◆◆

甲冑「……起きてください」

店主「……ん、どうした」

甲冑「窓から、そっと顔を出して……」

店主「……」

甲冑「見えました?」

店主「ああ、人影が」

甲冑「……地面に石灰で何かを書いています」

店主「猫少女を起こそう。元々猫である彼女ならはっきりと見えるかもしれん」

甲冑「……そう、ですね。猫少女だけじゃなく、男達も起こしてきます」

店主「そうだな……。おい、友人君。起きて」

友人「ん……」

 ガチャッ

甲冑「……なんだ、起きてたのか」

猫少女「私は夜も起きれるからねー」

男「俺は寝付けなくて……」

猫少女「外で何かやってるみたいだけど、あれやっぱ青年かな?」

甲冑「……多分な。とりあえず、少女を起こそう」

男「……良いですよ、寝かせておいて。いざとなったら運ぶので」

甲冑「しかし……」

男「寝かせてやって下さい……」

甲冑「……」

男「魔術に鍵開けってあります?」

甲冑「ああ。確かあったはずだ」

男「それで入ってくる可能性もありますね……」

甲冑「……ここは逃げるべきか?」

男「それが一番良いとは思いますけど、これ多分四方八方塞がれてますよ」

店主「起きてたか」

男「ええ、まあ。……どうします? 逃げ道は無いと思いますが……」

甲冑「俺一人で戦うのも無謀だろうな……」

男「厳しいでしょうね……」

友人「詰み、じゃないのか」

店主「ここには他の住人も居る……。乱暴なことはしないと思うが……」

甲冑「……どうでしょうね……」

奴隷少女「……ん」

男「……あ、起こしちゃったか」

奴隷少女「どうしたんですか?」

男「青年が攻めてきた」

奴隷少女「え……」

男「……想定してなかったわけではないけど、ちょっと油断してたな……」

奴隷少女「大丈夫なんですか?」

男「……大丈夫だろう問題な――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――!?」

奴隷少女「……え?」

猫少女「はあ……はあ……」

店主「建物が……消えた……!?」

猫少女「危なかった……。私が気が付かなかったら……」

青年「素晴らしい。……猫少女なら、きっと防護すると思ったよ」

猫少女「……お前は……私が魔法を使える事を知らないはず……」

青年「……馬鹿なことを言うな。知らないわけがないだろう」

猫少女「……!?」

男「……」

青年「何が起こったか分からないというような顔だな」

男「何をした……」

青年「時間はたっぷりあったからな。魔方陣を建物の周りに書かせてもらった」

猫少女「……これだけの術、魔方陣だけじゃ……」

青年「ああ。無理だ……だから……」

喪服「……私が」

猫少女「……!?」

青年「面白い事を教えてやろう。動物を人間にしたのは、猫少女、お前が初めてじゃない。喪服は、カラスなんだ」

奴隷少女「カラス……」

青年「そして、それによって魔力が宿ることも検証済みだ」





 ◆◆◆◆◆

兵士「……国王様。報せをお持ち致しました」

国王「何だ。朝から……簡潔に話せ」

兵士「……青年とその側近、及び青年が標的にしていた者の死亡が確認されました」

国王「……そうか」

兵士「近隣住民は家ごと行方不明となっております」

国王「随分と強力な魔力を投資したんだろうな……。魔術師一人じゃ到底補えんぞ……」

兵士「……しかし、一人だけ、生き残りが居ます」

国王「ほう」

兵士「明日、お連れします」

国王「……」

王子「父さん、青年の奴が死んだって」

国王「らしいな……」

王子「家を消す魔力なんて、カラスと猫じゃ足りない」

国王「ああ、足りないだろうな……。恐らく、私達が知っている以上の事をしでかしていたのだろう」

王子「……魔法ってのは、恐ろしい奴だな」

国王「ろくなものじゃないよ。私も初めは賛同してたんだがね……。青年は少しずつ擦れ始めた」

王子「……」

国王「この事は、なるべく秘密利に処理するさ。青年みたいな馬鹿がまた現れても困るからね」

王子「魔法って、素晴らしいものだと思ってたよ」

国王「残念ながら、魔法は恐ろしいものなんだ」

 ◆◆◆◆◆

奴隷少女「嫌だ……! 嫌だ……!」

兵士2「落ち着いて、大丈夫だから!」

奴隷少女「離れたくない……!」

兵士3「分かった、そいつも連れて行こう。それでいいか?」

奴隷少女「……あなたたちも、青年の味方だろ!」

兵士3「……」

奴隷少女「あいつは、自分が殺されそうになったら……自爆した! 巻き込んで!」

兵士2「……僕らは」

奴隷少女「生き返る方法が、あるんじゃないのか!? あんたらなら知ってるだろ!」

兵士2「……」

兵士3「……」

 ◆◆◆◆◆

国王「なるほど、魔力保有者か。回復力が抜群に高いと……」

兵士「それにより、生きていたそうです」

国王「精神状態は?」

兵士「錯乱しています」

国王「……そうか」

王子「……元奴隷、か。まだ幼いってのにな」

国王「……」

兵士「彼女は、仲間とおぼしき者達の死体から離れようとしませんでした……。生き返る方法を、知っていないかと」

国王「……」

国王「人が生き返ったら、どれだけ良いことか……」

王子「魔法じゃ、無理なのか?」

国王「魔法ってのは、優しくないんだ」

王子「……」

国王「非情だろう? これが戦争だ」

王子「戦争……?」

国王「あの二つのグループは、邪魔だった」

王子「待てよ……」

国王「少女は青年が自爆したと思ったようだが……実際は我々の攻撃だ。そうだよな?」

兵士2「はい、そう指示されましたので」

王子「……」

国王「……どうした?」

王子「……いや、なんでもない……」

 ◆◆◆◆◆

奴隷女「……お帰り」

奴隷少女「……」

奴隷女「私を買いに来たの?」

奴隷少女「ううん。外に居ると、辛いから」

奴隷女「……?」

奴隷少女「また、一緒に居たいんだ」

奴隷女「……」

奴隷少女「私、外の世界が向いてないみたい」

――終――

 ◆◆◆◆◆

老婆「……ふざけた御話しだろう? 幸せなんてこんなもんさね」

子供「……誰も、幸せじゃない」

老婆「でも、本のタイトルは“幸せ”なんだ。どうしてだと思う?」

子供「……?」

老婆「この少女はね……。奴隷女さんと一緒に居るのが幸せだった……。いや、外での簡単に崩れ去る幸せに絶望したんだよ」

子供「……わかんない」

老婆「よく分からないか。まあ、面白くもない話だ」

子供「……」

老婆「……書いた私も、よく分からないんだ」ボソッ

子供「……え?」

老婆「いんや、何でもない。まあ、私の我儘みたいなものさ」

お疲れさまです。
以上でこの物語は終了となります。
正直中盤から想定とぶれていたので、終盤が微妙になってしまいましたが、大体これで終わりです。

書き直して良いなら書き直したい(*´・ω・)
でもちょっと面倒臭い……。

ちょっと自分でも納得してないので、本当に申し訳ない限りですが、これで終了とさせていただきますm(_ _)m

生存ルート書こうと思ってたのに、何か書いてたら詰んだ((( ;゚Д゚)))
やっぱ間隔空けちゃうとキツいな……。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年08月28日 (日) 02:10:09   ID: ek3iV7b8

きたい!!

2 :  SS好きの774さん   2016年09月22日 (木) 14:56:15   ID: Q87G-9Xn

続きをはよ…。

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