凛「店番してたらアイドルがやってきた」 (53)

※何番煎じかわからないネタかと思いますがご容赦下さい。

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私にとっての季節の移り変わりは、小さいころから見てきたお店の風景。
花たちによって店内が少しずつ色鮮やかに塗られていく様子が、私は好きだった。
長かった冬も過ぎようとしていて、今年も店内に彩りが増えていく。そんなある冬の終わりの日のこと。

アーニャ「ズドラーストヴィチェ……こんにちは、リン」

凛「いらっしゃい、アーニャ。珍しいね、どうしたの?」

アーニャ「はい、今日はミナミの部屋でお茶会をします。なので、お土産を持っていこうと思いました」

凛「ちょうど春の花も入荷し始めたから、色々揃ってるよ。もう決まってる?」

アーニャ「いえ、まだ決まってません。見て決めても、いいですか?」

凛「もちろん好きに見てくれていいよ、聞きたいこととかあったら声かけて」

アーニャ「スパシーバ。では、見てまわりますね」

アーニャ「リン、これはラマーシュカ……カモミールですね?」

凛「うん、そうだよ。これから春にかけての花だね」

アーニャ「白くて可愛いです。それに、この香り……子供のころを思い出します」

凛「それってロシアにいたころ?」

アーニャ「はい。カモミールはロシアの国花、ですから」

凛「そうなんだ……知らなかった」

アーニャ「マトゥリョーシカにも、よく描かれますよ」

凛「理由があるってわかると面白いね」

アーニャ「あとはパドソールニェチニク……ヒマワリも、国花ですね」

凛「ひまわりもなんだ。ロシアってイメージないかも」

アーニャ「日本では珍しいですが、ロシアでは食用ヒマワリの生産量が世界一です」

凛「えっと、ひまわりの種を食べるの?」

アーニャ「ダー、炒ったり油で揚げたりします。日本でいうと、柿の種くらいポピュラーです」

凛「あれは本当の柿の種じゃないけど……花も国によって扱いが違うんだね」

アーニャ「日本は、四季があっていろいろな花が見られますね。とても素敵です」

凛「うん、そうだね、ってごめん脱線しちゃった。カモミールにする?」

アーニャ「そうですね、これにします」

凛「そういえば今日のお茶会は何を飲むの?」

アーニャ「はい、ロシアンティーを飲みます」

凛「これはジャーマンカモミールだからカモミールティーしてもいいんじゃないかな?」

アーニャ「すぐ摘んでしまうのはなんだか可哀想です。香りを楽しみます」

凛「ふふ、わかった。じゃあすぐ包むから待ってて」

凛「お待たせしました。どうぞ、鉢だから気を付けてね」

アーニャ「スパシーバ、ありがとうございました。次は、リンも一緒にお茶会しましょう」

凛「うん、ありがとう。楽しみにしてる。また事務所でね」

アーニャ「ダー、ミナミもきっと喜んでくれますね……それでは」



花を選ぶ時に真剣な顔をする人は多い。そういう人は大抵、贈り物として買うから。
そして、私はそんな真剣な表情を見るのが嫌いじゃない。送る相手のことを考えてるんだろうなって思うから。
渡した時にどんなリアクションを取るだろうって、想像してるのが伝わってくる。
去り際のアーニャの顔を見て、美波の喜ぶ顔が、私にも浮かんだ。

街には連日雨が降り続いていた。関東地方の梅雨入り宣言から数日、もうずっと太陽を見ていない。
出入り口から外の様子を伺っても通行人は普段よりずっと少なく、逆に店内の湿度計の針は普段よりずっと高くを指していた。
わざわざ雨の日に花を買いに来る人なんて、そう滅多にいないもんね。これなら配達の手伝いについて行った方がよかったかなぁ、雨の中で積み降ろすの大変そうだし。
レジカウンターで本日何度目かのため息をついたとき、その滅多にいないお客さんがやってきた。そんなある梅雨の日のこと。

幸子「こんにちは!雨の日もカワイイボクが来ましたよ!」

小梅「あ、あんまり大声出したら、迷惑かもしれないよ……」

輝子「こ、ここが凛さんの家、か……」

凛「えっと、3人ともいらっしゃい。こんな雨の日に買い物?」

幸子「はい、今日は久しぶりに3人揃ってのオフなので」

小梅「雨だからDVD見ようって言ったのに、幸子ちゃん聞かなくて……」

幸子「だって絶対ホラー映画じゃないですか!あ、雨でも外に出ましょう!」

輝子「わ、私はジメジメしたこの季節……嫌いじゃない」

凛「なんか一気に賑やかになったなぁ……それで、花は買ってく?」

小梅「うん、せっかく近くまで来たから、凛さんのお店に行ってみようって……えへへ」

幸子「自室に花があるのもレディーの嗜みですからね!」

凛「そう、どんな花がいい?」

幸子「カワイイボクに相応しい可憐な花をください!」

小梅「どれも綺麗だから、迷っちゃうな……凛さんにお任せしても、いい、かな?」

輝子「私はキノコが欲しい……新しいトモダチを……」

凛「私でよければ選ぶよ。あと輝子、うちにキノコはないから普通の花で我慢して」

凛「そうだね……3人とも好みもバラバラみたいだし、いっそ同じ種類で色違いとかどう?」

幸子「ユニットっぽいですね!ボクはいいですよ!」

小梅「私も、いいかな……」

輝子「うん……お、お願いします」

凛「これはどう?季節感あるし」

輝子「ア、アジサイだね」

小梅「これなら、色もたくさんある、ね……綺麗」

幸子「こんなに小さいのもあるんですね」

凛「道に咲いてるくらい大きいのもあるけどね。部屋に置くならこれくらいの方がいいんじゃない?」

小梅「色や種類も……こ、こんなにあるんだ……どれにしよっか?」

凛「迷うならそれぞれのイメージ色に合わせたり?」

幸子「うーん、この中なら小梅さんは青色で、輝子さんは白でしょうか」

小梅「幸子ちゃんは紫、かな……?」

輝子「ま、待って……!薄紫色の花もあるから、こっちの方が幸子ちゃんっぽいかも……フフ」

幸子「これだけ他と形が違いますね。凛さん、これもアジサイなんですか?」

凛「それはガクアジサイ。ほら、真ん中の花が小さくて、その周りを大きい花が取り囲んで額縁みたいでしょ?」

幸子「こんなアジサイもあるんですね!個性的で魅力的なボクにピッタリじゃないですか♪」

凛「じゃあ小梅が青で輝子が白、幸子は薄紫のガクアジサイでいい?」

3人「はい、これください!」

凛「お待たせしました、なるべく早めに出してあげてくださいね」

輝子「り、凛さんが敬語だ……!」

凛「そ、そりゃお店だし、みんなお客さんだもん」

小梅「凛さん、かわいい……」

凛「もう、茶化さない。ほら、雨軽くなってきてるから今のうちに帰りなって」

幸子「そういえば、アジサイの花言葉って何なんですか?」

輝子「確かに、ちょっと……気になる」

凛「アジサイの花言葉は“移り気”“冷淡”だね」

小梅「あ、あんまりいい意味じゃないんだ……」

幸子「凛さん!意味を知ってて選んだんですか?」

凛「話は最後まで聞く。アジサイはたくさん花言葉があるの」

凛「“移り気”は色の変わるさまを、“冷淡”は花色の印象から」

凛「でも悪い意味ばかりじゃなくて、小さい花が寄り集まって咲くことから“友情”“一家団欒”“強い愛情”なんて花言葉もある」

凛「小柄で、ユニット組んでる3人にとってはぴったりじゃないかな」

3人「わぁ……」

凛「そのキラキラした瞳は素直に恥ずかしいな……」

小梅「花言葉って、ひとつの花にひとつじゃないんだね……し、知らなかった」

凛「うん、同じ花でも反対の意味の花言葉だってあるくらい」

輝子「ち、ちなみにキノコにも、花言葉があるよ……」

凛「そうなの?それは私も知らなかったな。例えば?」

輝子「秋の味覚、マツタケの花言葉は“控えめ”……フヒヒ」

幸子「いや、どこが控えめなんですか!そもそも花じゃなく菌です!」

輝子「事実なんだから、私に言われても……困る」

凛「あ、そういえばガクアジサイにはホンアジサイとは違う花言葉があるよ」

幸子「何ですか?きっとボクを象徴するような素敵な花言葉なんでしょうね!」

凛「ガクアジサイ固有の花言葉は“謙虚”」

しょうこうめ「謙虚……?」

幸子「な、なぜみなさん無言でボクを見るんですか!ボクは謙虚でカワイイですから!」



ふと外に目をやると、雨はいつの間にかあがっていた。
店の前にできた水たまりには、雲の切れ間から覗く青空が映っている。
アジサイを抱えた小さな3人組の笑い声が、少し明るくなった店内に響く。
明日は久しぶりに晴れるかも、と少し微笑んだ

暑さが日に日に増して、立っているだけでも汗が噴き出してくる。
遠くの空に入道雲ひとつ、本日は晴天なり。今日はこの夏最高の暑さらしい。
蝉の大合唱があちこちで聞こえ、熱したアスファルトからの照り返しは陽炎を生んで先の景色をゆがませていた。
店先に打ち水をして少しでも涼しくしようとするけど、文字通り焼石に水。
そんなとき、揺らめく道の先から猛ダッシュしてくる人影が一人。そんな真夏日のこと。

茜「凛ちゃんじゃないですか!おはようございます!今日も良い天気ですねっ!」

凛「おはよう茜。うん、今日も暑いのに元気だね」

茜「はいっ!夏が暑いのは当たり前です!そして私が元気なのも当然ですっ!」

凛「今日はオフだったよね、また走り込み?」

茜「そうです!こんなに天気が良いのに走らないのは勿体ないですから!」

凛「ちょっと待って茜、汗が凄いからちょっと休んでいきなよ。この暑さでずっと走ってたら倒れちゃうよ」

茜「いいんですか?ではお言葉に甘えます!」

凛「はい、タオルと麦茶」

茜「ありがとうございますっ!っぷはー!汗を流した後の一杯は格別です!」

凛「汗もちゃんと拭かないと冷えるよ」

茜「お店の中は涼しいですね!」

凛「この暑さじゃ花もすぐ傷んじゃうから。うちはそんなに大きなストッカーないし」

茜「ストッカー?って何ですか?」

凛「花用のショーケースのことだよ。ほら、あれのこと」

茜「これですか、見たことありました!ストッカーっていうんですねこれ!」

凛「あとはキーパーとも言うかな。違いは……よく知らないけど」

茜「菊の花がたくさんありますね!」

凛「もうすぐお盆だからね。入りきらないぶんもあるから、どうしても店内のエアコン強くするしかなくて」

茜「お供えの花が元気なかったら、ご先祖さまもガッカリですからね!」

茜「菊以外にもたくさん咲いてますね……あ、ヒマワリもあります!少し小さいです!」

凛「切り花用のだからね。茜はヒマワリ好き?」

茜「はい、好きです!こう……『花!』『茎!』『葉っぱ!』とパーツが雄々しくて潔さを感じます!」

凛「ふふ、何それ。茜らしいというか」

茜「あと、この花が太陽みたいで、エネルギーをビンビンに感じますね!」

凛「太陽、か……茜はヒマワリって漢字で書ける?」

茜「漢字で、ですか?……わかりません!」

凛「向日葵って書くんだけど、これは花が太陽の方向を追って動くからなんだって」

茜「なんと!!動くんですかっ!では夕日に向かってダッシュするんですか!?」

凛「あ、いや、動くっていっても花の向きが変わるくらいだから……」

凛「英語でもサンフラワー……太陽の花って意味だし、みんな茜と同じような気持ちになったのかな」

茜「見てるだけで元気になってきますね!燃えるようです!」

凛「ヒマワリの花言葉は“私はあなただけを見つめる”が有名だけど“情熱”や“光輝”なんてのもあるよ」

茜「一途に燃えて輝く……素晴らしいです!……そうだ!凛ちゃん、良い事思いつきましたっ!」

茜「こんなに沢山ありがとうございます!でも凛ちゃんにもお金出させてしまって……」

凛「気にしないで。事務所にヒマワリがたくさんあったら皆さん元気になる大作戦、だっけ?私は良いと思うし、協力するよ」

茜「このヒマワリは私が責任をもって事務所に届けます!!」

凛「うん、よろしく。アーニャが事務所いるといいなぁ」

茜「アーニャちゃんですか?あぁなるほど!寒いロシアではヒマワリは咲かないでしょうし、ぜひ見てほしいですからね!」

凛「ふふ、アーニャに会えたら話聞いてみて」

茜「はい、そうします……?色々ありがとうございました!タオルは洗って返しますのでっ!」



両手いっぱいにヒマワリを抱えた茜は、炎天下の街に駆け出してすぐに見えなくなった。
どこまでもまっすぐで太陽みたいに笑う、ヒマワリみたいな子だな。
さてと、ちひろさんに『花瓶をたくさん準備しておいてください』って連絡しなくちゃ。

秋も大分深まって木の葉も落ち始める。
日照時間も日に日に短くなってきた。秋はつるべ落とし、だっけ?
日もだいぶ傾いて、そろそろ片付け始めようかと店先に出ると、不意に声をかけられた。そんな秋の日のこと。

楓「あら、こんにちは凛ちゃん。それともこんばんは、かしら?」

凛「楓さん。ええと、お疲れ様です」

楓「ふふ、お疲れ様、ならいつでも大丈夫ね。秋なのにおつかれサマー、なんて」

凛「楓さんはいま帰りですか?」

楓「ええ、今日のお仕事も終わったので久しぶりに新しいお店を開拓しようかなって」

凛「楓さん事務所でもトップレベルの売れっ子なんですから騒ぎになりません?」

楓「そんなことない……とは、言えないかも。だから毎回違うお店にしてるの。この辺りは初挑戦ね」

凛「近所に居酒屋は何件かありますよ。どこが美味しいとかは……すみません」

楓「いいのよ、凛ちゃんまだお酒飲めないもの。それに自分でお店探すの好きだから」

楓「凛ちゃんはお店のお手伝い?」

凛「はい、今日はそろそろ閉店ですけど」

楓「アイドル活動しながら実家のお手伝い、大変じゃないかしら?」

凛「両親とも活動に理解してくれてますから手伝える日だけですし、私自身こうしてお店に立つの、嫌いじゃないんで」

楓「そう、凛ちゃんはいい子ね……片付けの邪魔しちゃいけないからそろそろお暇しようかしら」

凛「はい、お疲れ様でした……あ、楓さん!」

楓「どうしたの?お姉さんと一緒に飲む?」

凛「あ、いえ……楓さん、髪に何か付いてますよ」

楓「ほんと?あ、これって……」

凛「夕日に溶けて今まで気が付かなかったけど……紅葉ですね」

楓「真っ赤で綺麗ね。ここに来る途中の街路樹から落ちてきたのかしら」

凛「楓さんに楓の葉っぱが……ふふ」

楓「あら、秋らしいおしゃれじゃない♪コーディネートはこうでねーと、なんて」

凛「もうすっかり秋なんですね」

楓「そうね……今夜の肴は秋刀魚の塩焼きにしましょう、肴だけに」

凛「楓さんは楓の花言葉、知ってますか?」

楓「いえ、知らないわ。教えてくれるの?」

凛「楓の花言葉は“調和”“美しい変化”“非凡な才能”。四季によって葉色を変化させることからきてます」

凛「楓さんの雰囲気にも、何だか合ってますね」

楓「ふふ、ありがとう。凛ちゃんにそんなこと言われるのは新鮮ね」

凛「ほかにも“遠慮”や“節制”なんて意味もあるので、お酒はほどほどにしてくださいね」

楓「今夜は許して頂戴、秋の味覚が私を呼んでるの。銀杏の炭火焼きもいいわね……あ、これも花言葉、あるの?」

凛「えっと、イチョウには“荘厳”“長寿”のような花言葉があります」

凛「寺院やお寺の御神木に多い事からつけられたそうです」

楓「まぁ、それはおめでたいわね。銀杏と秋刀魚にもみじおろし、決定ね。楽しみだわ♪」



左手に紅葉をつまんだまま、楓さんは日の暮れかかった街の奥に消えていった。
今夜は月見酒、ならぬ紅葉酒ね。なんてつぶやきながら。
楓さんのことだから、ほろ酔いで白い肌が上気させながら『気分がいいですねぇ、高翌揚して紅葉、なんて』とか言うんだろうな。
秋の夜は長い。明日また事務所で元気な顔を見れればいいんだけど……。

あっという間の年末年始も、もう1ヶ月が過ぎた。
街の広告はどこを見てもハート型が描かれていて、みんなどこかソワソワしているみたい。
私は別に……あ、プロデューサーには何かあげた方がいいかな、お世話になってるし。
女の子の一大イベント前にいつもと変わらない調子でいるのは、彼女たちも同じだった。そんな冬の日のこと。

フレデリカ「凛ちゃーん、こんにちハロー♪遊びにきたよー☆」

志希「ハスハス……うーん、花の香りが鼻腔を刺激するにゃー」

凛「いらっしゃい、2人が来るなんて珍しいね」

フレデリカ「さっきまでこの近くで撮影があってね、そういえばこの辺に凛ちゃんの花屋さんがあったねー、なんて志希ちゃんと話してたんだー」

志希「最近凛ちゃんのスメルを堪能してないからねぇ、だったらフレちゃんと突撃するしかないでしょー」

フレデリカ「いやーそれにしてもお花がいっぱいだねー。あ、お花屋さんだから当たり前かー、これでお魚ばっかりだったらお魚屋さんだもんねー」

凛「えっと、どこからツッコめばいいのかな、これ……」

志希「そうそう、事務所のみんなが話していたけど、最近凛ちゃんが花についての見聞を広めているらしいじゃない。その真相や如何に!ってことでコメントをひとつ!」

凛「そんな大げさなことじゃないよ。お店の手伝いもするし、少しくらい詳しくなっておきたいなって勉強してるんだ」

フレデリカ「凛ちゃんは努力家だねぇ、偉いねぇ。フレちゃん花丸あげちゃうー花だけに!」

志希「なぁんだ、夕美ちゃんにお花さんキャラで負けないように闘志を燃やしてるかと思ったのにー」

凛「いや、そんなんじゃないから」

志希「ではそんな勤勉家な凛ちゃんにちゅうもーん。もうすぐフレちゃんの誕生日だから、素敵な花を見繕ってはくれないかなー?」

フレデリカ「審査員はフレちゃんこと宮本フレデリカ、ご本人登場でーす☆」

志希「看板娘兼アイドルの凛ちゃんは、この難問を突破できるかにゃー?」

凛「本人のいる前でプレゼント選び……ふーん。いいよ、受けて立つ。フレデリカって誕生日バレンタインデーだったよね?」

フレデリカ「そだよー。バレンタインにちなんでー、カカオの木とか?」

凛「流石に扱ってないかな。うん、ちょっと待ってて」

志希「凛ちゃんって負けず嫌いなとこあるよねー、にゃははー」

凛「お待たせ。フレデリカのプレゼントに贈る花は……これとかどう?」

フレデリカ「うわーピンクでたっくさん咲いててキレー☆これなんていうお花?」

志希「これはサイネリアだねー」

凛「そう、私がオススメするのはサイネリアだよ」

志希「なぜこの花を選んだのか、選考理由を聞こうかな」

凛「まずフレデリカの誕生花であること。サイネリアは2月14日の誕生花だから」

志希「ふんふん、誕生花から選ぶのは予想通りだねぇ」

フレデリカ「誕生花から、ってどういうこと?日付から選べばそれでおしまいじゃないのー?」

志希「フレちゃん、良い質問ですねぇ。実は誕生花はひとつじゃないんだよ。日によって違うけど数種類、多いと10種類以上ある日もあるよー」

志希「その誕生花の中からサイネリアを選んだのは、やっぱり花言葉かにゃー?」

凛「志希は花言葉まで知ってるみたいだね。うん、そういうこと」

フレデリカ「え、なになにー?フレちゃん知らないから教えてー!」

凛「サイネリアの花言葉は“いつも快活”“愉快”“常に輝かしく”……花色も含めてこれが一番しっくりくるかなって」

フレデリカ「おぉー愉快痛快フレデリカー、とはよく言ったものだよねー♪うん、アタシ気に入っちゃったよ。これはもう宮本サイネリア、だねー☆」

凛「気に入ってもらえて良かった。じゃあ私の勝ち、だね」

志希「別に勝負をしてたわけじゃないんだけどなー。でもそうだね、凛ちゃんお見事だにゃー、免許皆伝あげちゃう!」

凛「はい、お待たせしました、こちらがサイネリアです。えっと、志希に渡せばいいの?」

志希「まだ誕生日ではないからね、当日に改めて渡すから。フレちゃん楽しみにしててねー」

フレデリカ「わーい、志希ちゃん凛ちゃんありがとー!楽しみでご飯も喉を通らないかも。そしたらパンを食べるねー♪」

凛「堂々と言っちゃう辺り志希っぽいし、それに返すフレデリカも流石だね」

フレデリカ「アタシはいつも通りがいいんだよー。志希ちゃんも凛ちゃんも、いつも通りに仲良くお仕事したり遊んだりー。次は志希ちゃんのプレゼント選びだねぇ」

志希「あたしの誕生日っていつだっけ?あぁ思い出した、5月だから……もう少し先だにゃー」

凛「次があるんだ……うん、考えとくからまたお店来てね」



そして誕生日当日、宣言通りうちで買ったサイネリアを渡したみたい……おまけも加えて。
志希は数日の間にサイネリアの香気成分を化学分析して、お手製の香水まで作ったとか。
それからしばらく事務所でフレデリカとすれ違ったりお喋りしてると、ふわっと香る。
本人も好きな香りらしいし、志希と一緒に2つプレゼントを渡せたってことでいいのかな?
いつも快活でゆるふわなフレデリカには、あの甘い香りがよく似合っていた。

そして季節は廻って、店内は春色で溢れている。
最近アイドル活動が忙しかったので、久しぶりの手伝い。
といっても、お母さんは配達だから店番してるだけなんだけど。
卯月と未央、揃ってのお休みだから一緒に遊ぼうって誘われたけど、お店の手伝いも大事だから……とは言ってもやっぱりちょっと寂しい、かな。
なんて考えていたら、開放してある店の出入り口から春風と共に、よく知るシルエットが2人分。そんなある春の日のこと。

未央「やっほーしぶりーん!いい子で店番しとるかねー?」

卯月「凛ちゃんこんにちは。いきなり来てごめんね、未央ちゃんがサプライズって言って聞かなくて」

凛「え……いや、来るのは構わないけど、今日は2人で遊びに行くんじゃなかったの?」

未央「そうだよー、でもどこに行くかは教えてないもんね!」

卯月「凛ちゃんがお店のお手伝いって言ってたので、じゃあ2人で行こうってことになったんです」

未央「お休みでもしぶりんに会いたいからさー、忙しそうなら一目見て帰ろうってことで!」

卯月「迷惑じゃなかったですか?」

凛「……迷惑なんて思わないよ。卯月、未央、ありがとう」

未央「いやーしぶりんは意外と寂しがり屋ですからなー」

凛「ちょ、何言ってるの未央!」

卯月「り、凛ちゃん落ち着いて、ね。未央ちゃんもからかっちゃだめですよ。ほら、一緒にお花見て周ろう?」

卯月「色んなお花がありますね、どれも綺麗です」

未央「うんうん、なんかこう、春爛漫!って感じだね!」

凛「未央はいつでもそんな感じだけどね」

未央「んーそれって褒めてる?褒めてるのかな?どう思うしまむー?」

卯月「え、えっと、未央ちゃんはいつも笑顔で元気いっぱいだから!」

未央「しまむーにもなんか誤魔化された気がするのは未央ちゃんの気のせいなのかなー」

卯月「あ、ほら、それにしてもお花屋さんって良いですよね!小さいころからアイドルを夢見てたけど、お花屋さんも憧れだったなぁって。ちょっと凛ちゃんが羨ましいです」

凛「そう?これが普通だったから何も思わなかったけど。でも確かに、小学校の作文でお花屋さんやケーキ屋さんが夢って友達、いたかな」

未央「えへへ、私はケーキを食べる人になりたかったなー」

凛「未央は昔から変わってないね。お花屋さんは?」

未央「今も昔も花より団子です!」

卯月「未央ちゃん、お花屋さんに来てそれ言っちゃうのは……」

未央「いやいや冗談じょーだん!私も花を愛でる乙女心くらいちゃんとあるよ!」

凛「例えばこの中だったらどれが好きなの?」

未央「へ?えっとねーこの中だったら……あ!これ、ガーベラ!」

卯月「オレンジ色のガーベラ……未央ちゃんらしいね」

未央「でしょでしょ!この正に花!って感じ、見てて明るくなれるよね!」

凛「ガーベラの花言葉は“希望”“常に前進”、確かに前向きなものが多いね」

卯月「色でもそれぞれ違うって聞いたことあります。オレンジはどんな意味なんでしょう?」

凛「オレンジ色のガーベラは“冒険心”や“我慢強さ”だよ」

卯月「色の意味まで何だか未央ちゃんに合ってますね!」

未央「えへへっ、しまむー、そこまで言われると流石の未央ちゃんも照れちゃうよ!」

未央「じゃあ今度はしまむーの番!」

卯月「え、私も?そうだなぁ……うーん、やっぱりこれ、かな」

凛「赤いスイートピー……」

未央「アイドルである大大大先輩の曲だね!」

卯月「はい!私このお花が好きで、その曲のことも大好きです!」

凛「その曲が発表された当時、赤いスイートピーはなかったんだって」

卯月「そうなんですか!?」

未央「えっどういうこと!?」

凛「正確には“当時流通している品種に濃い赤色がなかった”が正しいらしいけど」

凛「この歌をきっかけに品種改良を重ねて、2002年、ヒットから18年の歳月をかけて生み出されたのが、この赤いスイートピー」

未央「2002年って、結構最近のことだったんだ」

卯月「そんなに掛かったんですね……」

凛「そうやって長い時間を掛けて出来た花があるのも、それだけあの曲がみんなに愛され続けていたってことだよね」

卯月「……」

未央「いやー凄いね、なんか感動しちゃった……ん?しまむー、どうしたの?大丈夫?」

卯月「うん、本当に凄いなぁって……この綺麗な赤い花を咲かせるために、長い時間を費やした人がいるんですね」

卯月「たった一曲の歌が、ここまで人を動かしてしまうんですね……」

凛「卯月……」

卯月「私……私なんかじゃ無理かも知れないけど、それでもやっぱり、そんな歌を歌いたいです!」

未央「しまむー……うん、大丈夫!しまむーなら、きっと出来るよ!それにしまむーは一人じゃないよ!」

凛「私も同じ気持ちだよ。だから、一緒に走ろう?」

卯月「未央ちゃん、凛ちゃん……うん、ありがとう。これからも3人一緒、だね!」

未央「まさかしぶりんの店で泣かされるとはねー」

卯月「ご、ごめんなさい!なんか感極まって、それで私……」

凛「謝らないで。卯月はいつも通りの笑顔が一番だから、笑ってよ」

卯月「……はい!島村卯月、笑顔ですっ!」

未央「きれいにまとまったし、次しぶりんのやる?」

凛「私はいいよ。それより、2人に見せたい花があるんだ」

卯月「な、なんでしょう?」

未央「気になる気になる!」

凛「ちょっと待ってて。すぐ持ってくる」

凛「はい、これが私の見せたかった花」

未央「紫色のカーネーション?こんなん初めて見たよー!」

卯月「うわぁ、凄い綺麗ですね!」

凛「これはムーンダストっていう青色カーネーションの一種。色の濃さで名前がいくつかあるんだけど、この花の名前は……」



凛「プリンセスブルー」


卯月「あれ、それって……」

未央「ユニット名決めるときにしぶりんが言ったやつ!」

凛「覚えててくれたんだ。うん、お父さんが考えてくれた、その元になってる花がこれだよ」

未央「お花屋さんらしいねぇ。もう、しぶりんも言ってくれたらよかったのに」

凛「あ、あの時は元があるなんて知らなかったの!花の勉強してて、偶然知ったんだから」

卯月「凛ちゃんのお父さんも、元になった花のことまでは言わなかったんですね。それで、花言葉……ユニット名には、どんな願いが込められてたんですか?」

凛「うん、プリンセスブルーの花言葉は……“永遠の幸福”」


未央「永遠の……」


卯月「幸福……」

凛「な、なんか恥ずかしくなってきた。もう、言わなきゃよかったかも……」

卯月「そんなことないよ!聞けて良かったです!」

未央「うんうん!なんかますますやる気になってきた!」

凛「そ、そう?……なら私も、やっぱり言えてよかった、かな」

未央「今日ここに来て本当によかったよー!ね、ね、いつものやろうよ!」

卯月「え、でもそれは流石に迷惑じゃ……」

凛「……いいよ、やろう。私もやりたい」

未央「さっすが!よーし、では原点回帰ってことで一番最初のでいくよ?今回はしぶりんに音頭をお願いします!」

凛「みんな、これからもよろしくね。じゃあいくよ……せーのっ!」




「フライドチキン!!!」



花言葉なら夕美だろとなりましたがプリンセスブルー書きたくて凛ベースに仕上げました。
ここまで読んで下さった方に花束を。

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