男「やる気も魔力も全然ない」(107)
男「俺のやる気と魔力はどこに行ったんだ」
女「魔力はともかくやる気は迎えに行こうよ」
男「いや、だって魔法使える奴しか就職出来ないじゃん」
女「そんなことないよ、魔力無くても魔法薬とか作って売れるし」
男「魔法薬とか成功したことないんだが」
女「…………基礎だよね」
男「基礎だなぁ………」
女「私が教えるから作ってみる?」
男「でも、材料がないぞ」
女「私の家にあるからちょっと待っててね」ヒュン
男(おー、転送魔法かぁ)
男「やっぱ魔法が使えると便利だなー」
女「持ってきたよ!」ヒュン
男「はやっ!!」
男「でも、本当に俺なんかでも作れんのか?」
女「大丈夫だよ、簡単な魔法薬を作るから」
男「やることないし…作るか!」
女「うん、じゃあまずはお湯を沸かせて」
男「りょーかい」コポコポ
女「次に薬草を入れて煮込みます」
男「ふむふむ」パサッ
女「紫色になったらヤミトカゲの尻尾を入れます」
男「なんでトカゲの尻尾なんて入れるんだ?」
女「ヤミトカゲは魔力を作り出す成分が多く入ってるの」
女「特に尻尾に多く含まれてるから魔法薬には必須なんだよ」
男「へぇー、なるほどな」
ボコボコ
男「おっ、紫色になってきたぞ」
女「そろそろ入れよっか」
男「おう」ポトン
ジュワワ
女「最後にこの天使の涙を入れて終わりだよ」ポタン
男「簡単だな」
女「基礎だからね」
男「基礎だなー」
女「小瓶に小分けして飲んでみよっか」
男「大丈夫かなぁ」
女「さっき転送魔法使ったから私が飲んでみるね」コポコポ
男「気を付けろよ」
女「ふふっ、大丈夫だよ!」
ゴクゴク
男「………どうだ」
女「…うん、成功だよ」ドクン
男「マジか!初めて作れた」
女「じゃあ、一本は男にあげるね」スッ
男「いや、でも俺は───」
女「他は売りに行こっか」
男「これ売れんのか?!」
女「うん、魔法薬は材料揃えるのが大変だからきっと全部売れるよ」ニコ
男「商人じゃないと売っちゃダメなんじゃないか?」
女「今日は魔法薬のフリーマーケットがあるから」
女「一般の人も売れるんだよ」
男「魔法薬必要無いから知らんかった」
女「ほら、早く行こっ!」ピト
男「えっ、どうやって───」
ヒュン
男「……………………」ポカン
女「着いたよ、男?」
男「俺も転送出来んのか」
女「触れた物は一緒に転送できるんだよ」
男「すげーな、お前」
女「えへへ」ニコ
イラッシャイ ミテラッシャイ
男「結構、人いるな」キョロ
女「みんなフリーマーケットを通じて稼ぎに来てるんだよ」
男「何かカラフルな魔法薬だなー」
女「魔法薬にも種類があるからね」
女「魔法をかけて完成する魔法薬もあるし」
男「なるほどなー」チラッ
幸福薬 15万ゼニー
男「15万?!」
女「神秘の加護が含まれてるからね」
男「恐るべし魔法薬の世界」
女「あっ、ちょうどスペースが空いてるよ」
男「しかし、いくらで売るんだ?」
女「1本1000ゼニーかな」
男「結構高くねーか?」
女「ヤミトカゲは案外高級品だから、これくらい取らないと!」
男「お、おう!」
コトコト
男「並びはこんなもんか」
女「うん!じゃあ私、友達の商店見てくるね」
男「えっ、一緒に売ってくれないのか」
女「何事も経験だよ、ワトソン君」
男「いや誰だよ、ワトソン君」
女「ふふっ、まぁ頑張って」タッタッ
男「……マジか」ポツン
スタスタスタスタ
男(誰も見向きもしねー)
男(そりゃ周りに良いもん売ってるしなー)
男「空は青いなー」
?「それは当たり前だと思うのだけど」
男「おう?」
?「こんにちは」ニコ
男(白い髪…スゲー)
男「綺麗だ…」
?「えっ?」
男「あっ、いや、すみません」
?「これは、貴方が作ったの?」
男「はい、友人に習いながら初めて作りました」
?「あら、じゃあ処女作ね!」
男「しょ、処女作?!」
メイド「白姫様、そのような言葉使われてはいけません」
白姫「あら、メイドやっと来たの?」
メイド「あまり離れては困ります」
白姫「これ、初めて作った魔法薬ですって」
メイド「怪しいですね、さぁ、次に行きましょう」
男(えー?!)
白姫「メイド、失礼でしょ」
メイド「申し訳ありません、ですが初めて作った魔法薬など白姫様に飲ませる訳には…」
白姫「これ、5つ貰えるかしら」
男「良いんですか…?」
白姫「えぇ、私はこれが欲しいの」ニコ
男「えっと、じゃあ5000ゼニーです」
白姫「メイド」
メイド「……………………」
白姫「早くしなさい」
メイド「…どうぞ」スッ
男「ありがとうございます」
男(スゲー怪しんでるなぁ)
白姫「貴方の魔法薬、大切に使うね」ニコ
男「は、はい」
白姫「それじゃあ、またね」
メイド「失礼いたします」
男「まさか、いきなり半分売れるとは」
?「それじゃあ、残りの半分は私が貰おうかしらー」
男「えっ?」
?「ふふふ」ニコ
男「い、いらっしゃいませ」
男(いつの間に)
?「初めて作ったのでしょ?」
男「どうして、それを…」
?「さっきの話を聞いていたのよ」クス
占い師「私、占い師なのだけど」
占い師「今日、初めて作ったものが幸福を呼ぶと結果が出たの」
占い師「そこで貴方の魔法薬をいただきたいの」ニコ
男「へぇー、それじゃあ、丁度良かったですね」
占い師「はい、5000ゼニー」スッ
男「ありがとうございます、どうぞ」スッ
占い師「ふふふ、ありがとう」
占い師「あぁ…そうだわー」
男「?」
占い師「せっかくだから貴方のこと占ってあげる」
男「いいんですか?」
占い師「もちろんよー」
占い師「額に触れるわね」ピト
男(何か、緊張するな)
占い師「───────」ボソ
男(えっ、今何か…)
占い師「ふふふ、貴方の今日の運勢はとても良いみたいね」
男「ほんと、ですか?!」
占い師「えぇ、巡り来る出会いが貴方の運命を変えていく」
占い師「その出会いは既に起きてしまってるけどね」クス
男「マジですか!」
占い師「良い買い物が出来たわ、ありがとね」ニコ
男「ありがとうございました」
占い師「またね…」クス
男「全部、売れた」ポカン
男「あっという間だったな」
女「男、売れ行きはどう?」タッタッ
男「全部、売れたぜ」ドヤ
女「えっ、全部売れたの?!」
女「凄い、どうやって売ったの?」
男「まぁ、俺の商売人としてのスキルを発動したから売れたのさ」
女「えー、何それ」クス
男「今日は、たまたま運が良かったんだよ」
女「そっか、良かったね」ニコ
男「じゃあ、はい」スッ
女「えっ?」
男「女が教えてくれなきゃ作れなかったから売上の半分はお前のもんだ」
女「でも…」
男「いいから貰ってくれよ」ニッ
女「……うん、ありがとう!」
───
──
─
男「はぁー、疲れた」ドサ
男「何か今日は初めてづくしだったなー」
男「…魔法が使えなくても役に立てるのかな」
男父『この役立たずがっ!!』
男母『魔法が使えないなんて…本当に私達の子なの?』
男「あーあ、何考えてんだか…」
男「飯でも作りますかね」ギシッ
─────ズキッ
男「っ…?!」
男「何だ今の…一瞬頭が痛かったような」
男「疲れて頭痛とか勘弁してくれよー」
男「ますますやる気なくなるぜ」ハァ
男「そう言えば魔法薬って普通に飲んでも疲れが取れるって女が言ってたような…」スッ
男「飲んでおくかな」キュポン
ゴクゴク
男「…………まずいな」
男「……………………」ウト
───
──
─
男「……………………」スースー
バサッ
男「…………んん」
スタスタ
男(誰か…いるのか?)
男(ていうかいつの間にか寝てたのか)
ジッ
男(誰かが見下ろしてる)
グイッ
男(っ!だ、誰だ……!)パチ
メイド「……………………」
男「あ、あんたは…………」
メイド「……………………」
男(何て無機質な瞳なんだ)ゾク
男(何の感情もない、冷たい瞳)
男「どうして俺の部屋に?」
メイド「────切り裂け」フォン
ブシャッ
男「────え」
男「ああああああっっっっ!!」ドクドク
男(右腕にいきなり深い傷が……!)
男「はぁはぁはぁ……?!」
メイド「……………………」ガシッ
男「っ?!おい、どこに連れてく気だ!」
メイド「────風よ」フォン
男(足に風を纏った?!)
メイド「……………」タンッ
男「うぉぉぉぉ?!」
男(窓から飛び降りやがった!)
男「いろんな意味で死ぬぅぅ!!」ドクドク
ブォン
メイド「……………」スタッ
男(着地の衝撃がない)
メイド「……………」タンッ
男「また飛ぶのかよぉぉぉ!!」
───
──
─
屋敷
メイド「お連れしました、白姫様」
男「はぁはぁ、意識が…ぅぅ」
白姫「瀕死状態ね」
メイド「抵抗されては困りますので」
白姫「このままじゃ何れ死んでしまうわ」スッ
白姫「────癒しの風よ」キィィン
男「あ、れ…痛みが…」
メイド「これで話せますね」
白姫「お昼ぶりね、商人さん」
男「いきなり拉致って、何の用だよ」
ドスッ
男「ぐふっ?!」
メイド「言葉を慎みなさい」
男「お、お前も態度を慎めよ!」
メイド「左腕も切り裂きましょうか?」
男「……………」ゾク
白姫「貴方をここに連れて来たのは聞きたいことがあるからなの」
男「なんだ────」
メイド「……………」ジッ
男「何ですか…」
白姫「貴方は『魔女』の苗床なの?」
男「……………は?」
男「いや、待て…魔女?苗床?」
男「何言ってんだ、お前」
メイド「────切り裂け」フォン
ザシッ
男「っっっっああああああ?!」ドサッ
男「お、お前背中を切りつけるとか…っっっっ!」ズキッ
メイド「とぼけないで下さいよ…」ボソ
男「は……………?」
メイド「とぼけるなって言ってるんです」ガシッ
男「がっ…!!」
メイド「貴方から購入した魔法薬に『呪術』が掛かっていました」
メイド「これは、どういうことですか?」
男「呪術…?」
メイド「下位な呪術とは言え飲んでから数時間後に発動するよう、条件が設定してありました」
メイド「条件を設定しての呪術…白姫様を殺すおつもりだったんですね」
男「ち、ちがっ…!それに俺には魔力がない…!」
メイド「っっっっ!!」ブォン
男「うわっっ!!」ドカン
メイド「魔力がない…?」
メイド「ふざけないで下さい!!」
メイド「この世界に魔力を持たない人なんていません」
男「そ、そんなわけねぇだろ…俺以外にだって…」
メイド「気付いていないだけですよ」
男「気付いていない…?」
メイド「魔法は約、数億種類あると言われています」
メイド「その中で自分に合う魔法を探し自分なりに組み合わせる」
メイド「それが魔法使いです」
メイド「貴方達は魔力がないんじゃな」
↑
メイド「貴方達は魔力がないんじゃない」
メイド「自分に合う魔法を見つけられないだけです」
男「……………」
白姫「この商人さんは本当に知らないみたい」
メイド「殺しましょう」
男「なっ…?!」
メイド「魔女の苗床になってしまっては何れは死にますが…」
メイド「他の呪術を使われては面倒です」フォン
白姫「待ちなさい、メイド」
メイド「……………」
白姫「一から説明してから判断しても遅くわないわ」
メイド「……………かしこまりました」
───
──
─
白姫の部屋
白姫「どう?痛みはひいた?」
男「あぁ、治癒魔法って凄いんだな」
白姫「治癒魔法もそうだけど貴方の体質も大きく関係しているわ」
男「体質?」
白姫「えぇ、貴方に治癒魔法を掛けてる時は驚いたわ」
白姫「あまりにも回復が早すぎるんですもの」
男「??」
白姫「さっきメイドが話した通り私達にはみんな魔力がある」
白姫「そして魔力をもつ私達に必然的に備わっているのが『魔力抵抗』よ」
男「魔力抵抗?」
白姫「えぇ、自分の魔法ではなく他人の魔法の影響を受ける時」
白姫「自分のもつ魔力の大きさに応じて影響を軽減させるの」
白姫「それは治癒魔法でも言えること」
白姫「魔力抵抗が強い人は他者からの治癒魔法では回復が遅いの」
男「へぇー、そうなのか」
白姫「貴方、本当に何も知らないのね」
白姫「でも、貴方の魔力抵抗は極端に低い」
白姫「というよりも魔力を増幅させてるようにも思えた」
白姫「貴方の身体は魔力を増幅させるのだとしたら」
白姫「魔女の苗床にされるのも説明がつくわ」
男「さっぱり分からん」
白姫「ふふっ、でしょうね」ニコ
白姫「さてと…まずは、どこから説明しようかしら」
男「魔女って…一体何者なんだ?」
白姫「私やメイド、他にも魔法を使う人のことを何て呼んでる?」
男「魔法使い、か?」
白姫「そう、私達は魔法使い」
白姫「魔法使いには決して使ってはいけない禁忌の魔法があるの」
白姫「禁忌の魔法を1度でもしようすれば、二度と魔法を使うことはできない」
白姫「代わりに与えられる力は、人を殺すためだけの力」
白姫「呪術という力を持つ者、それが魔女よ」
男「魔法使いの禁忌を破った奴等が魔法使いなのか」
白姫「そういうことね」
男「魔法と呪術って、別物なのか?」
白姫「別物よ」
白姫「魔法には多くの種類がある」
白姫「その中には治癒魔法や補助魔法もある」
白姫「でも、呪術にはそういったものはない」
白姫「さっきも言った通り、ただ殺すだけのもの」
白姫「そんなものは魔法とは呼ばないわ」
男「魔女の苗床って、何だ?」
白姫「魔女の使う呪術は魔法のように直接的なものとは違って」
白姫「対象に苗床を植え付けてそこから呪術を発動させるの」
白姫「苗床は呪いのようなものね」
男(俺、呪われてんのか!)
白姫「対象は物でも動物でもなるけど」
白姫「その中でも人間を苗床をすること発動する呪術はかなり強力なの」
男「じゃあ、俺も…」
白姫「────呪われし種子よ」キュイイ
男「?!」
ズズズッ
男「か、身体に紫の模様が……………」
白姫「苗床にされた呪われし身」
白姫「かなり深くまで種が育っているわ」
男「俺は…どうなるんだ?」
白姫「……………」
白姫「さっき、魔力抵抗の話したよね」
男「あぁ」
白姫「苗床を植え付けられた人間は魔力抵抗で苗床の育ちを抑制するの」
白姫「でも、魔力抵抗の弱い人は苗床によって魔力そのものを支配され」
白姫「呪術を発動したのち、絶命する」
男「……………俺は死ぬのか?」
白姫「魔力を支配されるというのはその人の命を支配されたと言っていい」
白姫「でも…もし魔力がないとしたら」
白姫「呪いは何を支配するのかしら?」
男「……………」
白姫「貴方、自分の作った魔法薬は飲んだ?」
男「あぁ、飲んだけど」
白姫「それが呪術発動の引き金ね」
男「そういう設定にしたのか?」
白姫「えぇ、呪術を発動する前は魔法薬」
白姫「発動してからは死の劇薬ね」
男「……………なぁ」
白姫「ん、何?」
男「それって、俺が作った魔法薬を飲んだ奴は全員掛かるのか」
白姫「えぇ、貴方が飲んだ時点で全ての魔法薬は死の劇薬になるんですもの」
白姫「先に魔法薬を飲んでる人がいればその人は呪術に掛かっているわ」
男「───っ!!」バッ
白姫「どこへ行くの?」
男「俺の魔法薬を飲んだ奴がいる」
男「そいつは俺の友達で………」
女『────』ニコ
男「絶対、死なせられないんだよ!!」
白姫「それで?」
男「……………それで?」
白姫「貴方が行ってどうやって助けるの?」
白姫「魔力もなく呪術の解除方法も知らないのに」
男「それは……くっ!」ギリ
白姫「……………メイド」
ガチャッ
メイド「御用でしょうか、白姫様」
白姫「この人の友人の呪術を解きなさい、最速で」
メイド「かしこまりました」
男「いいのか?」
白姫「死なせたくないなら、全てを巻き込みなさい」
白姫「じゃないと…本当に後悔するわよ」
男「……………ありがとう!」バッ
メイド「行ってまいります」ペコリ
タッタッ
男「悪いな面倒かけて」タッタッ
メイド「私は白姫様の命令に従うだけです」
男「そっか、メイドの鏡だな」
メイド「……………早くしないと死にますよ」
男「縁起でもないこと言うなよ!」
屋敷外
メイド「ここまで来ればもういいでしょう」スッ
男「ん?」
メイド「─────風よ」フォン
男「俺の足に風がまとわりついてくる?!」
メイド「魔法をかけた方が早く走れます」
メイド「貴方の友人の家はどっちの方角ですか? 」
男「あっちだ」スッ
メイド「では、行きましょう」タン
男「これ、めちゃくちゃジャンプできるな」タン
メイド「風の風力によって跳躍力が何倍にも上がりますから」タン
男「これなら直ぐに着くな」
メイド「あまり、跳ばしすぎると壁に激突しますよ」
男「……………気をつける」
女の家
男「女、いるか!」ドンドン
メイド「待って下さい」
男「な、なんだよ…」
メイド「結界が張られています」
男「結界?」
メイド「─────決別せよ」
バキン
メイド「……………」ガチャン
男「何で結界なんか…」
メイド「見られたくないものがあるからですよ」スタ
男「……………!!」ゴクリ
男「……静かだな」スタ
メイド「明かりもついてませんね」
男「女!」
シーン
男「……………」スタスタ
メイド「……………」
男「……………」ピタ
男「女…?」
女「…………………」
男「寝てるのか──」スタ
ビチャ
女「……………」ドロッ
男「な…んだ…?」
メイド「遅かったようですね」
女「…………………………」
メイド「呪術が発動して魔力抵抗した痕跡です」
メイド「内臓が破裂しています」
男「死んでるのか…?」
メイド「はい」
男「……………」ガタガタ
男「嘘だろ…?」
メイド「……………」ピト
女「…………………………」
メイド「……可哀想に」
男「どうして……………!」
男(どうして……?)
男(何言ってるんだ)
男(女を殺したのは俺じゃないか)
男(俺が魔女の苗床にならなければ、女は死ななかった)
男(俺が魔法薬なんか作らなければ、女は死ななかった)
男(俺がやる気さえ出さなければ、女は死ななかった)
男「俺が殺したんだ」
ドクン
男「っっっあああああああ!!!」ブォンン
ブワッ
メイド「?!」バッ
メイド(黒い霧…まさか?!)
メイド「くっ!!」タン
バリン!!
メイド「……………」スタッ
メイド(あの黒い霧は上位の呪術)
メイド(どうして急に…?)
男「俺が…俺がぁぁぁ!!」ブォンン
ブワ ブワ
メイド(とにかく今はあの黒い霧をどうにかしないと)
メイド「─────竜巻よ」フォン
ゴァァァ
メイド「霧を遥か上空へ!!」ゴァァァ
メイド「これなら地上へは拡がらないはず」
ドクン ドクン
男「あああああああァァァァ!!」ブォンンンン
ブワン
メイド「霧が拡がっている?!」
メイド「私の風魔法では防げていないの?」
メイド(いや…最初は確実に防げていた)
メイド(呪術の威力が上がっている…?)
ブワン ブワン ブワン
メイド「このままじゃ、死者が出る…!」
メイド「─────風神の守りよ」ブォン
男「…………………………」
女『えへへ』ニコ
男「……………っ!」
スタッ
男「……………?」
メイド「──────!」ブォン
男(何言ってるんだ…聞こえない)
メイド「──────!」スタスタ
男「……俺は、誰とも関わらない方が良いんだよ」
メイド「…………………………」
バシン!
男「っっ…!?」ズキン
メイド「貴方は何をしてるんですか!」
男「えっ?」
メイド「彼女を殺したのは貴方じゃありません」
メイド「魔女が彼女を殺したんです」
メイド「でも、今は貴方が多くの人を死に至らしめようとしている」
メイド「魔女は貴方の弱い心を感じ取っているんです」
メイド「このままじゃ、貴方は本当に魔女に利用されるだけの存在になってしまいますよ!」
男「それは、嫌だ…!」
メイド「なら、揺るぎない意志を持って下さい」
男「揺るぎない意志?」
メイド「魔女に屈服しない、貴方の意志です」
男「俺の意志…」グッ
男(そうだ、この身体は魔女の物じゃない)
男(利用されっぱなしにされてたまるかよ!)
メイド(瞳に光が戻った…今なら)ピト
メイド「─────光の加護を!」コァァ
シュー
男「霧が消えていく」
メイド「……………」フラッ
男「お、おい!」ガシッ
男「大丈夫か!」
メイド「魔力を使い過ぎました」ハァ
男「悪い…俺が弱いせいで」
メイド「……………いいえ」
メイド「貴方は強い人です」
メイド「絶望の中から貴方は強い意志を見出だせたんですから」
男「それは、メイドのおかげだよ」
メイド「いきなり呼び捨てですか」
男「あっ…つい!嫌だったか?」
メイド「……………ふふっ」クス
メイド「構いませんよ、男さん」ニコ
男「俺のことも呼び捨てでいいぞ?」
メイド「いえ、そこまで仲は良くないので」
男「地味に傷ついた…」
メイド「とにかく今はここから離れましょう」
メイド「騒ぎで人が集まって来ていますし」
男「そうだな…」
女「…………………………」
メイド「……………男さん」
男「わかってるよ」
男「………………ごめんな」
───
──
─
メイド「遅いですよ、男さん」
男「人におんぶさせといて…!」タッタッ
メイド「私は魔力を使い果たしてろくに走れませんから」
男「魔法薬とか持ってないのかよ」
メイド「もったいないです」
男「何でだよ!こっから屋敷までめちゃくちゃ遠いだろうが!」
メイド「筋トレです」
男「今から?!」
メイド「ところで男さんは白姫様な一族がどういったものか、ご存知ですか?」
男「いや、全く知らんが」
メイド「白姫様の一族は代々、『魔女狩り』の一族として使命を果たしてきました」
男「魔女狩り?」
メイド「はい、魔女になった魔法使いを殺すこと」
メイド「それが王から与えられし使命」
メイド「魔女との戦いは長年に渡って繰り広げられました」
メイド「呪術に対抗する光の魔法を得意とする白姫様の一族は」
メイド「その圧倒的な力で民を守りながら少しずつ」
メイド「魔女の数を減らしたのです」
男「すげー、一族なんだな」
メイド「はい、光の魔法なくして魔女とは戦えません」
男「………………」
男「光の魔法が使えない俺はどうなるんだ」
メイド「貴方が使えなくても白姫様や私が使えます」
メイド「呪術の対抗魔法を用いれば貴方が無意識に発動しても」
メイド「周りに被害は及びません」
男「でも、俺は呪術の力を高めてるんだろ?」
メイド「はい、男さんは体質的に魔力を強くするようです」
男「何で…そんな体質に…」
メイド「白姫様なら何かご存知かもしれません」
男「そうか、よし急ぐぞ!」
───
──
─
屋敷
メイド「ただいま戻りました」
白姫「おかえりなさい」
白姫「それで、お友達はどうだったの?」
男「………………」
白姫「…そう、ダメだったのね」
メイド「呪術が発動してからかなり時間がたっていました」
男「…………白姫」
白姫「何?」
男「俺のこの体質は何なんだ?」
白姫「…そうね」
白姫「それはもう少し調べてみないと分からないわ」
男「このままじゃ嫌なんだ」
白姫「どうしたいの?」
男「俺に呪術に対抗する方法を教えて欲しい」
白姫「魔力を持たない貴方に対抗する力を?」
男「何か…何か方法はないのか?」
白姫「なら、魔法薬師になりなさい」
男「魔法薬師?」
メイド「主人の専属で様々な魔法薬を作る人のことです」
メイド「基本的には高度な魔法薬を作る人を魔法薬師にします」
男「ほとんど知識ないんだが」
白姫「メイドは私専属の魔法薬師だから」
白姫「いろいろと聞くといいわ」
男「でも魔法薬の勉強で呪術に対抗できるのか?」
白姫「魔法薬の中には呪術に対抗する物もあるわ」
白姫「魔女と対峙した時に戦うための魔法薬もある」
白姫「魔法が使えなくても魔法薬で戦えるの」
白姫「今日はもう休んだほうがいいわ」
白姫「部屋は好きに使っていいから」
男「いや、でも…」フラッ
白姫「この屋敷は光の魔法で結界が張られているわ」ピト
白姫「外にいるよりも呪術を発動させるのは難しい」
白姫「安心して眠りなさい」
男「………………」
───
──
─
───どうして?
男(誰だ…………?)
───どうして助けてくれなかったの?
男(この声は…)
女「………………」
男「女…」ゴク
女「男、どうして助けてくれなかったの?」
男「違うっ!俺はお前を助けたかったんだ」
女「でも、私死んじゃったよ」
女「男のせいで死んじゃったの」
男「……ごめん」
女「ごめん?」
女「それだけ…?」ゴポッ
ボタッ ボタッ
女「私、凄く苦しかった」
女「苦しくて苦しくて苦しいまま死んじゃったの」
女「それなのに、たった一言で全て終わらせるの?」
男「じゃあ、どうすれば…どうすれば許してくれるんだ!」
女「そうだね…しゃあ───」ズズズ
────私に全て身を委ねろ
男「お前は…!!」
キィィィン
────邪魔が入ったなぁ
男(急に光が…)
────忘れるな
────私はお前の直ぐ近くにいる
男「おいっ、待て!」
───
──
─
男「んっ……」パチ
男「ふぁぁぁ」バサ
メイド「おはようございます、男さん」
男「おぅ、おはよ……っうわ?!」
メイド「魔法薬師ならもっと早く起きて下さい」
男「ここって屋敷だよな?」
メイド「何、寝惚けてるんですか?」
男「あ、あぁ…そうだったな」
男「昨日の夜にまた白姫の屋敷に戻ってきんだったな」
ビュン
男「っ?!」
メイド「白姫、様です」
男「厳しいな、お前…」
メイド「これを、白姫様からです」スッ
男「何だこれ?」
メイド「白姫様の専属魔法薬師としての証明書です」
男「専属魔法薬師…」
メイド「さぁ、早く着替えて下さい」
メイド「朝食の準備は出来ていますから」
ガチャン
白姫「おはよう、よく眠れた?」ニコ
男「おはよう、良く眠れたよ」
────どうして?
男「っ……」ドクン
白姫「そうでもなさそうね」クス
男「あんまり良い夢じゃなかったからな」
白姫「そう、とにかく朝食を食べましょう?」
男「あぁ」
男「しかし、スゲー豪華な朝食だな」
白姫「全部メイドが作ってるのよ」
男「マジかよ、何時から作ってんだよ!」
メイド「この程度直ぐに作れます」
白姫「ふふっ、メイドの料理は本当に美味しいわよ」
男「……本当に旨い」モグモグ
メイド「疑っていたんですか?」ジッ
男「いやいやいや!」
白姫「男、昨日話したことだけど」コト
白姫「貴方には私の専属魔法薬師として働いてもらうわ」
白姫「その中で魔法薬の知識と呪術に対抗する魔法薬の作成を行えるようになること」
白姫「それとメイドの手伝いもお願いね」
メイド「必要ありません」
男「キッパリだな」
白姫「私は午前中から外出するから」
白姫「二人とも仲良くね」
メイド「かしこまりました」
男「目が笑ってねーぞ」
メイド「早速、男さんには働いてもらいます」ニコ
男「………いい笑顔で」
調薬室
メイド「ここで魔法薬を作ります」
男「スゲー数の薬草だな」
メイド「大抵の物は揃っています」
男「へぇー…これは?」スッ
メイド「既に出来上がっている魔法薬です」
メイド「赤は鬼神薬といって鬼の角が入ってます」
メイド「飲めば一時、鬼の力を手にすることが出来ます」
男「鬼の力…」
メイド「そうですね、最初にその鬼神薬を作ってみましょう」
男「いきなり難しそうなんですけど!」
メイド「はい、難易度はかなり高いです」
メイド「でも、貴方にはあまり時間がありません」
メイド「一刻も早く魔女に対抗する力を手に入れる必要がある」
メイド「鬼神薬を飲めば鬼の力を使うことが出来るだけでなく」
メイド「呪術の発動を断ち切ることもできます」
男「わかった……作ろう」
メイド「高度な魔法薬ほど薬草を入れるタイミングや」
メイド「火加減に気をつけなければいけません」
メイド「私が指示を出しますので、それ通りに」
男「おう!」
───
──
─
メイド「全然、ダメですね」
男「何でだー!!」
メイド「本来、鬼神薬は真っ赤な液体になります」
男「黒いし紫だし茶色だな」
メイド「失敗ですね」
男「言われた通りに入れたぞ」
メイド「作り手の問題かと」
男「どういう意味だ、それ」
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