ペリーヌ「ツ、ツンデレラ…?」 (182)
―――――
1950年 12月14日 クロステルマン家邸宅 兼 孤児院
ペリーヌ「ふぅ、最近寒くなってきましたわね」
ペリーヌ(そういえば…もうすぐサトゥルヌス祭でしたわ)
ペリーヌ「いけない…そろそろ準備しないと」
エリー「先生ぇ!これ読んでぇ!」
ペリーヌ「あら、エリー」
ペリーヌ「なぁに、絵本?」
エリー「さっきね、アメリー先生が持ってきてくれたんだよ!」
ペリーヌ「アメリーが?」
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ペリーヌ(そういえば、今朝新しい絵本が届いたって言ってたかしら…)
エリー「ねぇねぇ、読んで読んで!」
ペリーヌ(絵本一つでこんなに喜んじゃって…)
ペリーヌ「はいはい、そんなに急かさなくも、読んであげますわよ」
エリー「やったあ!」
ペリーヌ「ただし、ちゃんと授業を受けた後です」
エリー「え~?」
ペリーヌ「お昼休憩の時に読んであげますから、午前は勉強に集中すること」
ペリーヌ「いいですね?」
エリー「はーい」
―――――
昼 談話室
エリー「先生!早く早く!」
マリア「楽しみだね~」
ジャン「おい押すなよ、見えないだろ!」
ペリーヌ「はいはい、喧嘩しない」
ペリーヌ「じゃ、読みますわよ」
一同「…………」
ペリーヌ「昔々、あるところに、ツンデレラという名の女の子が…え?」
エリー「…先生、どうしたの?」
ペリーヌ(ツ、ツンデレラ…?)
ペリーヌ(え?シンデレラじゃなくて?)
マリア「先生…?」
ペリーヌ「え?あ…ごめんなさい」
ペリーヌ(…アメリーったら、間違えて注文したのかしら?)
ペリーヌ(まったく…相変わらずドジなんだから…)
ペリーヌ「えぇっと…昔々、あるところに、ツンデレラという名の女の子がいました」
ペリーヌ「ツンデレラには、三人の姉と、血の繋がらない継母がいました」
ペリーヌ(あら?シンデレラと一緒じゃない…)
ペリーヌ「三人の姉は、ことある毎にツンデレラを虐めます」
ペリーヌ「ある日のことです。一番上の姉が言いました」
ペリーヌ「おい灰被り、貴様、また鍛錬を怠ったな?」
ペリーヌ「…え?」
ジャン「先生!続き続き!」
ペリーヌ「…え、えぇ…」
ペリーヌ(何かしら…この既視感は…)
ペリーヌ「ツ、ツンデレラは言います…」
―――――
ツンデレラ「お、お言葉ですがお姉様!わたくし、鍛錬を欠かしたことなどありません!」
ツンデレラ「今朝だって、言いつけ通りちゃんと木に向かって打ち込み300回を…」
長女「えぇい嘘をつくな!」
長女「その証拠に、あの木は何だ!?」
ツンデレラ「え…?」
長女「300回も木刀で打ち込みをすれば、あの程度の木は倒せている筈だ!」
長女「なのに木は依然として立っている!これは、鍛錬を怠った動かぬ証拠!」
ツンデレラ「そ、そんな無茶苦茶な…」
ツンデレラ「確かに…お姉さまの馬鹿力であれば、木を打ち倒すなど容易いかもしれませんが…」
長女「…何か言ったか?」
ツンデレラ「い、いえ…何も…」
長女「とにかく、やり直しだな」
ツンデレラ「え…?」
長女「また一からやり直すんだ」
ツンデレラ「そ、そんな!?」
長女「木が倒れるまでは家に入るなよ」
キィィィィ......
バタンッ...
ツンデレラ「…………」
ツンデレラ「きぃぃぃぃぃ!何ですの!?あの姉馬鹿ならぬ馬鹿姉は!?」
ツンデレラ「木を木刀で打ち倒すなんて…」
ツンデレラ「そんなこと!脳みそまで筋肉でできているあなた以外できるわけないでしょう!?」
ツンデレラ「…でも、困りましたわね…」
ツンデレラ「この木を倒さない限り、家に入ることができないなんて…」
ツンデレラ「あぁ…一体どうしたら…!」
―――――
ペリーヌ「途方に暮れるツンデレラが空を仰いでいると、その時、眩い光と共に一匹の妖精が…」
ペリーヌ「…って、何ですのこれは!?」
エリー「先生!早く続き読んで!」
マリア「早く~!」
ペリーヌ「う、うーん…」
ペリーヌ(ツッコミどころが多すぎる内容だけれど…)
ペリーヌ(子供たちが真剣に聞いている以上、途中で辞める訳にはいかないですわね…)
ペリーヌ「えっと、続きを読むわね…」
マリア「わぁい!」
ジャン「それにしてもさぁ」
ジャン「このツンデレラって、何か喋り方がペリーヌ先生に似てないか?」
ペリーヌ「…………」
―――――
ツンデレラ「だ、誰!?」
妖精「通りすがりの妖精だよん」
ツンデレラ「よ、妖精…?」
妖精「にっしっし、お嬢さん、お困りだね?」
ツンデレラ「え、えぇ…そうですけど…」
妖精「なら、助けてあげよっか?」
ツンデレラ「え…?」
妖精「この妖精様の魔法を使えば、お悩みなんて一発で解決さ!」
妖精「さぁ、どうする?」
ツンデレラ「…魔法…?」
ツンデレラ(い、いかにも怪しいけれど…)
ツンデレラ(えぇい!どうせこのままでは拉致があかないのだから、何でもいいですわ!)
ツンデレラ「えぇ!是非助けて頂戴!」
妖精「了解了解~」
ツンデレラ「…さぁ妖精さん!あの木を倒して!」
妖精「はーい」
ツンデレラ「…………」
妖精「…………」
ツンデレラ「…あの、妖精さん?」
ツンデレラ「早くやっていただけないかしら?」
妖精「…………」
妖精「…お腹空いたからやっぱ無理」
ツンデレラ「えぇ!?」
―――――
妖精「もきゅもきゅもきゅ…」
妖精「いやぁ~、生き返ったー」あっはっは
ツンデレラ「うぅ…わたくしのパンが…」
ツンデレラ「…ちょっと妖精さん!」
妖精「ん?」
ツンデレラ「あなたのせいで、今日のご飯がなくなりましたわ!」
妖精「あらら、そりゃ可哀想に」
ツンデレラ「きぃぃぃぃ!誰のせいでこうなったと…!」
妖精「でも、それなのにご飯くれるなんてやさしーよね~」
ツンデレラ「…だ、だって…あんなにお腹が鳴ってて可哀想でしたし…」
妖精「えへへ~、ありがとっ!」
ツンデレラ「べ、別に…感謝なんていらないですわ…」
妖精(…ツンデレですなぁ)
妖精「あぁ、そういえば木だっけ」
ツンデレラ「え?あ…えぇ」
妖精「それじゃあ…はい、シュトルム~」
ゴォォォォッオォォォォオォォォッ!!!!!
ドカーーーーーーーンッ!!!!!
パラパラパラパラ.........
ツンデレラ「…………」
妖精「はい、おーしまい」
妖精「じゃあ、あたし帰るね」
妖精「困った時はまた呼びたまえ!んじゃね!」
ツンデレラ「…………」
ガチャッ!
長女「な、何事だ!?」
次女「何かすげー音がしたけど…」
三女「…あぁ!?ちょ、ちょっとあれ見てください!」
長女「…な!?」
次女「あらぁ…森が…」
三女「無くなってますね…」
長女「お、おい灰被り!何があった!?」
ツンデレラ「…………」
―――――
翌日
継母「今夜は、待ちに待った王宮での舞踏会よ」
継母「娘たち、分かっているわね?」
継母「その美貌で王子を誘惑し、必ずや心を射止めるのよ」
継母「そうすれば、私たちは王族になって、一生遊んで暮らせるわ!」
継母「いいこと!?絶対にしくじっては駄目よ!」
長女「了解した」
次女「ま、気楽にやるさ」
三女「が、頑張ります…!」
ツンデレラ「あ、あの…」
継母「何かしら、灰被り」
ツンデレラ「あの、わたくしも、舞踏会に…」
長女「駄目だ」
長女「貴様には、昨日吹き飛んだ森の掃除をしてもらう」
ツンデレラ「え…」
継母「何が起こったか知らないけれど、あれのせいで大量の木片が辺りに飛び散ったわ」
継母「その場に居合わせた者の責任として、全部片付くまで掃除をなさい」
ツンデレラ「え、えぇぇ!?」
長女「当然のことだ」
次女「悪いな、灰被り」
三女「ご、ごめんね…」
継母「そういう訳で、各々準備に取り掛かりなさい」
三人「了解」
ツンデレラ(な、何でこんなことに…)
―――――
夕方
ツンデレラ「…はぁ」
ツンデレラ「まっっったく終わりませんわ…」
ツンデレラ「こんなの、一年掛かったって終わらない…」
ツンデレラ「せっかくの舞踏会だというのに、一人で留守番だなんて…」
ツンデレラ「あの妖精、助けるどころか余計な事ばかり…!」
妖精「呼んだ?」
ツンデレラ「って…きゃああああ!?」
妖精「にっしっし」
ツンデレラ「い、いきなり出てこないで頂戴!」
妖精「おやおや、またお困りかな~?」
ツンデレラ「…あなたのせいでね!!!!!」
妖精「うわ、大っきい声出すなよぉ」
妖精「…って、何この大量の木片」
ツンデレラ「昨日あなたが吹き飛ばした森です…!」ワナワナ…
妖精「…ワォ」
ツンデレラ「あなたのせいで、わたくし今日の舞踏会に行けなかったのよ!」
ツンデレラ「どうしてくれるんですの!?」
妖精「うるさいなぁ~、わかったわかった、舞踏会ね」
妖精「ちちんぷいぷい…あれ、テクマクマヤコンだっけ…?」
ペリーヌ「何を言って…!」
妖精「まぁいいや、そーれ」
ボワンッ!
ツンデレラ「な…これは…?」
妖精「見た通り、馬車ですが?」
ツンデレラ「こ、こんなことが…」
妖精「うーん、その服じゃあ、ちょっとイケてないなぁ」
妖精「ほいほーい」
ツンデレラ「え?あ…」
パァァァァァァ..........
妖精「うん、その格好なら問題ないね」
ツンデレラ「す、すごい…」
ツンデレラ「わたくし、こんな綺麗な格好したのは…初めてですわ…」
妖精「はいはい、感想は後後」
妖精「さっさと乗らないと、舞踏会に遅れるよ?」
ツンデレラ「よ、妖精さん…」
妖精「ん?」
ツンデレラ「その…えっと…」モジモジ
ツンデレラ「あり…がと…」
妖精「ま、いいってことよ」
妖精「さ、早く乗りなよ」
ツンデレラ「えぇ…あ、でも…」
妖精「ん?どしたの」
ツンデレラ「…やっぱり、行けませんわ…」
ツンデレラ「この仕事が終わらない内に遊びになんて行ったら…お継母さまに怒られて…」
妖精「あー、わかったわかった」
妖精「じゃあ、あたしが今すぐ終わらせるよ」
ツンデレラ「え…?」
妖精「シュトルム~」
ゴォォォォッオォォォォオォォォッ!!!!!
ドカーーーーーーーンッ!!!!!
ツンデレラ「…………」
妖精「…ふぅ、隣町まで飛んでったかな」
妖精「さ、早く行きなよ」
ツンデレラ「…………」
妖精「ん?まだ何かあんの?」
ツンデレラ「…別に…」
―――――
夜 王宮の前
ツンデレラ「こ、ここが…」
ツンデレラ「こんな大きなお城、初めて見ましたわ…」
御者「何だ、ビビってんノカー?」
ツンデレラ「だ、誰が…!臆してなどいません!」
御者「あっそ、そんじゃま、気楽に行ってこいよ」
ツンデレラ「言われなくても…って」
ツンデレラ「あの、妖精さんは?」
御者「あぁ、あいつなら、お腹空いたから帰るって」
ツンデレラ「どこまで適当な…!」
ツンデレラ(まぁ…ここまでやってくれたのだから、いいですわ…)ハァ…
ツンデレラ「…では、行ってきます」
御者「おう、行ってこい」
御者「…あ、一つ言い忘れてた」
ツンデレラ「…?何ですの?」
御者「えーっと、妖精からの伝言で…」
御者「何か0時になると…あれ、11時だっけ?」
御者「うーん、何か忘れたけど、事を済ますなら急いだ方がいいらしいゾ」
ツンデレラ「ちょ…伝言はしっかり覚えなさいよ!」
御者「ウルセーナ…まぁ、何とかなるって」
御者「早く行ってコイヨー」
ツンデレラ「ふん、言われなくても…!」
御者「あ、そうだ」
御者「せっかくだから、餞別に今日の運勢を占ってやるよ」
ツンデレラ「え?」
御者「どれどれ…しゅぱっ...」
御者「お、タワーの正位置か」
ツンデレラ「それ…どんなカードですの?」
御者「突然の不幸や事故、災いなどが降りかかるってやつだな」
御者「このカードが出た日は、なるべく外に出歩かないで、家に籠ってる方が賢明ダナ~」
ツンデレラ「…………」
御者「…………」
御者「まぁ、頑張れば?」
ツンデレラ「…ぶっ飛ばしますわよ…」
―――――
王宮 大広間
「王子様、わたくしとダンスを…」
「いえ、わたくしと…」
王子「はっはっは、すまないが、私は踊りが苦手でなぁ」
王子「悪いが、他をあたってはくれないか?」
一同(いや、他って…)
―――――
ツンデレラ「あぁ、王子様…何と凛々しいお姿…」
ツンデレラ「お声をおかけするべきかしら…それとも…」
「早く声かけなよ」
ツンデレラ「きゃあ!?だ、誰…!」
妖精「あたしあたし」
ツンデレラ「あ、あなた…!」
ツンデレラ「心臓に悪いから、急に現れるのはやめて頂戴!」
妖精「あっはっは、ゴメンね~」
ツンデレラ「っていうかあなた、お腹が空いたから帰ったんじゃ…?」
妖精「うん、このお城からいい匂いがしたからさぁ」
妖精「たらふく頂かせてもらったよ~」フゥ….
ツンデレラ「…………」
妖精「…っていうかさぁ、あんまり悠長なことしてると、時間きちゃうよ?」
ツンデレラ「は?時間…?」
妖精「あれ、御者から聞かなかった?」
妖精「今かかってる魔法は、0時になったら解けちゃうんだけど…」
ツンデレラ「0時って…」
ツンデレラ「…………」チラッ
ツンデレラ「……後20分しかないじゃないのっ!?」
妖精「だから急いだ方がいいって言ったじゃん」
ツンデレラ「…あの御者ぁぁぁぁぁ!!!!!」
ツンデレラ「と、とにかく、今からでも王子と…!」
ツンデレラ「…っていない!!!!」
―――――
PM11:53
ツンデレラ「はぁ…はぁ…」
ツンデレラ「何処にも…いませんわ…」
妖精「もう時間がないね…」
ツンデレラ「…………」
妖精「ほ、ほら!あっちまだ探してないだろ!?行こうよ!」
ツンデレラ「…もう、いいですわ…」
妖精「え…」
ツンデレラ「こんな広いお城ですもの…見つかるわけありませんわ…」
妖精「ツンデレラ…」
ツンデレラ「結局わたくしは、どう足掻いても灰被り…」
ツンデレラ「お姫様になんて…なれな…」
ツンデレラ「…う…うぅぅぅ…」
妖精「…………」
妖精(…あ)
ツンデレラ「ふ…うぅぅ……」
「お嬢さん、泣いているのですか?」
ツンデレラ「え…?」
王子「どこか、ご気分でも優れないのですか?」
王子「もしよろしければ、城の医者に診させますが…」
ツンデレラ「…うそ…」
王子「さぁ、お手を…」
スッ...
王子「私が、中まで案内しましょう」
ツンデレラ「…………」
ツンデレラ「王子様…わたくし、わたくし…」
王子「え?」
ツンデレラ「わたくし、貴方に…」
ゴーン......ゴーン......ゴーン......
ツンデレラ「!」
王子「おや、もうこんな時間か…」
ツンデレラ「…わ、わたくし、もう行かないと…!」
王子「え…?」
ツンデレラ「…さようなら…!」
王子「あ、待って!」
王子「…行ってしまったか」
王子「何とも、可憐な女子だったな…」
王子「名前は何というのだろうか?」
王子「…ん?」
王子「これは…」
―――――
ペリーヌ「…その後、婚約者を探しに街へとやって来た王子は…」
ペリーヌ「可憐な姫が落としたとされるガラスの眼鏡を頼りに姫を捜し出し…」
ペリーヌ「見事サイズがピッタリと合ったツンデレラは、王子様と添い遂げ、その後幸せに暮らすのでした。めでたしめでたし…」
ペリーヌ「…何ですのこれは…」
マリア「いい話だね~」
エリー「王子様に見つけてもらうなんて素敵~!」
ジャン「ねぇ、このツンデレラって先生に…」
ペリーヌ「…皆さん」
ペリーヌ「わたくし、ちょっと急用ができましたわ」
ペリーヌ「…ということで、午後の時間は自習とします」
一同「は~い」
ペリーヌ「…………」
―――――
図書室
アメリー「えぇっと、これはこっちで…あ、これは貸出してるから…」
アメリー「…あ、そういえば、みんな絵本喜んでくれたかなぁ?」
「…アメリー!」
アメリー「わぁひゃう!?」
ペリーヌ「…………」
アメリー「あ…何だ、ペリーヌさんか…」
ペリーヌ「何だじゃありません!」
アメリー「は、はぃぃぃ!?」
ペリーヌ「何ですのあの絵本は!?何処であんなものを買ってきたのよぉぉぉ!?」
アメリー「いひゃい!ペリーヌはん、ほっぺをひっぱらないへぇ…!」
―――――
アメリー「ですから、私も知らないんですよぉ…」
ペリーヌ「あなたが買った絵本じゃないの?」
アメリー「いえ、今朝郵便で届いたんですけど…」
アメリー「送り名も書いてなかったし、中身はただの絵本でしたので…」
アメリー「いつもの、民間からの寄付だと思ったんですけど…」
ペリーヌ「…どこから送られてきたの?」
アメリー「あ、ちょっと待ってください、確かここに伝票の控えが…」
アメリー「えーっと…あ、スオムスですね」
ペリーヌ「スオムス…」
アメリー「あの…ペリーヌさん、何か怒ってます…?」
ペリーヌ「…当たり前です!!!!」
アメリー「ひぃぃぃ!?」
ペリーヌ(別に、絵本の寄付なんて珍しくもないのですけど…)
ペリーヌ(あの本の内容といい、どこか引っかかるのよね…)
ペリーヌ(何か、他に手掛かりは…?)
ペラ…ペラ…
ペリーヌ「それにしても、よくもこんなふざけた絵本を…」
ペリーヌ「ん?作者名…」
ペリーヌ「…………」
ペリーヌ「…エイノ・イルマリ・ユーティライネーン…」
ペリーヌ「…………」
アメリー「…あの、ペリーヌさん?」
ペリーヌ「…アメリー」
アメリー「は、はい?」
ペリーヌ「わたくし、来週から一週間ほど暇を頂きますわ」
アメリー「え…えぇぇー!?」
ペリーヌ「ちょっと、行くところができました」
アメリー「ど、どちらへ行かれるんですか…?」
ペリーヌ「…この絵本の送り主のところです」
―――――
12月17日
エリー「ペリーヌ先生行っちゃうのぉ?」
ペリーヌ「えぇ…」
マリア「…早く帰ってきてね…」
ペリーヌ「もう、一週間後に必ず帰ってきますから、泣かないの」
マリア「うん…」
ペリーヌ「帰ってきたら、みんなでサトゥルナリアのお祝いをしましょう」
マリア「う、うん!」
ペリーヌ「それじゃあ、アメリー、後のことは頼みます」
アメリー「は、はい!」
ペリーヌ「…魔道エンジンを起動します。みんな、下がって」
パァァァァァァァ……
ドルン…!ドルルン…!
ブォォォォォォォ……!
アメリー「…あ、あの!ペリーヌさぁん!」
ペリーヌ「ん?」
アメリー「本の送り主に、心当たりがあるんですかぁ!?」
ペリーヌ「…………」
ペリーヌ「さぁね、それを今から確かめに行くんですわ」
アメリー「えー?何て言いましたぁ!?」
ペリーヌ「…発進!」
ブゥゥゥゥゥゥゥゥンッ……….!
エリー「わ~、速―い!」
ジャン「すっげー!」
マリア「行っちゃった…」
アメリー「…スオムス、かぁ…」
―――――
3日後 12月20日 スオムス(リエクサ) とある施設
男の子「…………」
「ほい、みっけ」
男の子「あー、もう見つかったぁ」
「フフン、甘い甘い…」
男の子「むー…何でいつも見つけるの早いの?」
「んー?知りたいカ?」ニヤニヤ
男の子「うん!」
「それはな~」
男の子「…………」ドキドキ
「…トントが教えてくれるんだよ!」
男の子「えー!?うっそ~!?」
「ホントだって~、その証拠にな…」
ペリーヌ「こらこら、子供に嘘を教えない」
「ん?あ…」
ペリーヌ「お久しぶりね、エイラさん」
エイラ「あれ、ツンツンメガネ…?」
男の子「…この人だれ?」
エイラ「あぁ、えっと…友達っていうか、元戦友っていうか…」
ペリーヌ「あのねエイラさん、ちょっと話が…」
「あれ、もしかして…ペリーヌさん…?」
ペリーヌ「え?…あ!」
サーニャ「やっぱり…!ペリーヌさん!」
ペリーヌ「サーニャさん!」
サーニャ「お久しぶりです…!え、何で突然…」
ペリーヌ「あぁそれは…」
ペリーヌ「それよりも、あなた見違えて綺麗に…」
サーニャ「そんな…ペリーヌさんこそ」
<キャッキャウフフ
エイラ「…………」
エイラ「…私を差し置いてイチャつくなよ」
―――――
客間
ペリーヌ「っていうかエイラさん!何ですのこのふざけた絵本は!」
サーニャ「あ、これって…」
エイラ「ん~?ナンダコレー?」
ペリーヌ「しらばっくれるんじゃありません!」
ペリーヌ「登場人物といい、このふざけた内容といい…」
ペリーヌ「こんなもの描くの!あなたしかいないでしょう!」
エイラ「あちゃ~、バレたか」
ペリーヌ「それに、この作者名…」
ペリーヌ「特定するなという方が、無理がありますわよ」
サーニャ「エイラ…絵本送ってたの…?」
エイラ「あ、いや…あれは軽いジョークっていうか…」
サーニャ「…………」ジトー
エイラ「そ、ソンナメデミンナヨ~…」
ペリーヌ「…あなた、絵本作家にでもなったの?」
エイラ「あー…えっとな」
サーニャ「ううん、エイラの仕事はね、ここの子供たちの先生よ」
ペリーヌ「え…先生…?」
ペリーヌ「え?あなたが…?」
エイラ「な、ナンダヨー!?ワルイカヨー!」
ペリーヌ「あ、いや、そんなことはないのだけれど…」
ペリーヌ「…何だかちょっと意外で」
サーニャ「ふふっ…」
エイラ「…ふんっ」
ペリーヌ「ということは…ここは学校なの?」
サーニャ「ううん…ちょっと違うわ」
ペリーヌ「え?」
エイラ「ここは勉強を教えるところじゃなくて、子供と一緒に遊ぶところだよ」
ペリーヌ「えっと…じゃあ、保育所ってこと?」
エイラ「まぁ、そうダナ」
ペリーヌ(言われてみれば…ここの子供たちは、皆小さな子ばかりでしたわね)
ペリーヌ「あれ…ということは、サーニャさんも…?」
サーニャ「ええ、ここで働いてます」
ペリーヌ「そうなの…」
ペリーヌ「…あ、じゃなくて!」
ペリーヌ「この絵本は結局何なのかしら!?」
エイラ「えっと、それはー…」
サーニャ「それは…エイラが趣味で作った絵本なんです…」
サーニャ「仕事の合間に作ってるみたいなんですけど、いつのまにか、結構な数になっちゃって…」
ペリーヌ「え…ということはまさか…」
ペリーヌ「…エイラさん!あなた、処分に困ってうちに送りつけたのね!?」
エイラ「いや…だって、捨てるのも何かアレだし…」
サーニャ「エイラ…処分したって、こういうことだったのね…」
エイラ「さ、サーニャ…怒らないで~…」
ペリーヌ「まったく、あなたときたら、相変わらずなのだから…」
ペリーヌ(…………)
ペリーヌ「…まぁ、それなりに」
エイラ「ん?」
ペリーヌ「子供たちには“それなりに”好評みたいだから…」
ペリーヌ「“仕方なく”ではあるものの、うちで使わせて頂きます」
ペリーヌ「…孤児院の代表として、感謝の言葉を述べさせてもらいますわ」
ペリーヌ「…ありがとう」
サーニャ「ペリーヌさん…」
エイラ「何ダヨ~、本当は気に入ってたんなら、最初からそう言えばいいじゃんか~」ニヤニヤ
ペリーヌ「き、気に入ってなんかいませんわよ!」
ペリーヌ「だいたい!何ですのツンデレラって!?」
ペリーヌ「他の作品を真似ている上に、登場人物がどこかで見たことある人ばかりですわ!」
エイラ「あれ、主役にされて嬉しくないのか?」
ペリーヌ「嬉しいわけないでしょう!」
サーニャ(何だかこのやりとり、久しぶりに見たなぁ…)
ペリーヌ「…まったく」
エイラ「…っていうか、お前も以外と暇だなぁ」
エイラ「わざわざ絵本の文句言うために、ここまで来たのか?」
ペリーヌ「…………」
ペリーヌ「…そんな訳ないでしょう」ハァ…
ペリーヌ「わたくしも、そこまで暇人じゃありませんわ」
エイラ「じゃあ…何で?」
ペリーヌ「…ほら、これを…」
スッ...
サーニャ「あ、これって…」
ペリーヌ「一応…今はサトゥルナリアの最中でしょう?だから…その…」
ペリーヌ「寄付のお礼も兼ねて…プレゼント…というか、何というか…」
エイラ「新品のおもちゃが沢山…」
ペリーヌ「住所を調べた時は孤児院だと思ったから、若干対象年齢が高いやつもあるでしょうけど…」
ペリーヌ「まぁ…使ってくださいな」
サーニャ「ペリーヌさん…ありがとう…」
エイラ「ツンツンメガネ…お前、すげーいいやつじゃん…」
ペリーヌ「…う、うるさいですわ…」
―――――
保育所 廊下
ペリーヌ「ここの職員は、全部で何人いるの?」
サーニャ「常勤は三人で、後は非常勤の人たちが状況に合わせて入ってくれてるんです」
ペリーヌ「へ~、三人…」
ペリーヌ「…後一人は…?」
「うぎゃーーーーーーーー!!!!」
どんがらがっしゃーん!!!!
エイラ「…あいつだよ」ハァ…
ペリーヌ「あの人は…」
「あいてててて…」
エイラ「…おい、そこのクラッシャーオヘア二代目」
ニパ「だ、誰が二代目だよ!?」
エイラ「ツリーの飾り付けひとつまともにできないのかお前は!」
ニパ「し、仕様がないじゃないか!」
ニパ「見ろ!踏み台の足が、この通りパキッと折れて…!」
エイラ「これ…今月買ったばかりのやつじゃねーか…」
エイラ「はぁ…相変わらずついてねーやつ」
ニパ「つ、ついてないって言うな!」
<ぎゃーぎゃーぎゃー…
ペリーヌ「彼女は…?」
サーニャ「ニッカ・エドワーディン・カタヤイネンさん…通称ニパさんです」
ペリーヌ「あぁ、あの人が“あの”…」
サーニャ「はい…“あの”ニパさんです」
ペリーヌ「確か、元502のメンバーで、エイラさんと同じスオムス出身だったかしら?」
サーニャ「ええ、エイラは501に来る前はニパさんと同じ部隊で、当時から仲が良かったって…」
ペリーヌ「そう…」
ペリーヌ「…サーニャさん、ヤキモチはしないの?」
サーニャ「え?」
ペリーヌ「大切なパートナーを取られたみたいで、嫉妬したりはしないのかしら?」ニヤニヤ
サーニャ「え、えっと…しません…」
ペリーヌ「あ~ら、そうなの」
サーニャ「…もう、ペリーヌさん、昔はそんなこと言わなかったのに…」
ペリーヌ「時が経てば、人は変わるものですわよ」
ペリーヌ「…それより、気になっていたのですけれど」
ペリーヌ「サーニャさん、どうして音楽の道へ進まなかったの?」
サーニャ「…………」
ペリーヌ「除隊後はウィーンに戻って、本格的に音楽を学び直すと思っていたのだけれど…」
サーニャ「…確かに、以前はそうするつもりでした」
サーニャ「でも、501のみんなと一緒に戦って…沢山の人に出会って…」
サーニャ「一人だけじゃなくて、みんなと一緒にできることをやってみたいって…そう、思ったんです」
ペリーヌ「そう…」
サーニャ「…なんて、立派なこと言ってますけど」
サーニャ「この仕事をやろうって言い出したのはエイラとニパさんで…」
サーニャ「私は、二人の後をついて歩いてるだけなんです…」
ペリーヌ「そんなことないわ」
ペリーヌ「あなたが誰かのために行動できる人だっていうことは、わたくしも、501のみんなも知っていますわ」
ペリーヌ「自分の選択に、もっと自信を持ちなさい」
サーニャ「ペリーヌさん…」
サーニャ「ふふっ、ペリーヌさん、先生みたい…」
ペリーヌ「それが本職なのだから、当然ですわ」
エイラ「よーし、私が飾り付けするから、ニパは土台役な」
ニパ「な!?酷いじゃないかイッル~!」
エイラ「お前が壊すからだよ!」
―――――
女の子「お姉ちゃん!遊ぼ!」
ペリーヌ「えぇ、よろしくってよ」
男の子「あははっ、なんかしゃべり方へ~ん!」
ペリーヌ「あ、何ですってぇ~?」
エイラ「何かお前、随分慣れてるなぁ」
ペリーヌ「うちには大きい子から小さい子まで沢山いますからね」
ペリーヌ「子供の相手は、慣れたものですわ」
エイラ「ほほ~う、なら、この子の相手をしてもらおう」
スッ...
赤ちゃん「…………」
ペリーヌ「あ、あら…」
赤ちゃん「…えへっ、えへっ!」
赤ちゃん「びぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
ペリーヌ「えっ、あっ、ど、どうすれば…」
エイラ「どれどれ~、この大先生に任せなさい」
赤ちゃん「えぇぇぇぇっ!うぇぇぇぇぇぇっ!」
エイラ「よーしよし、泣き止め泣き止め~」
ペリーヌ「そ、そんな適当な…」
赤ちゃん「…ふぁ…」
ペリーヌ「な、泣き止んだ!?」
エイラ「ま、ざっとこんなもんだな」
ペリーヌ「す、すごい…」
ペリーヌ「エイラさん、わたくし…初めてあなたのことを尊敬しましたわ」
エイラ「初めてかよ!?」
―――――
女の子「サーニャせんせぇ!ピアノ弾いて!」
サーニャ「えぇ、何の曲がいいかしら?」
女の子「んっとね、いつものあの曲!」
サーニャ「わかったわ」
♪~♫~♪~♪~
ペリーヌ(あ、この曲…)
ニパ「あの曲、ここの子供たちに大人気なんだ」
ペリーヌ「あ、えっと…ニッカさん」
ニパ「ニパでいいよ」
ペリーヌ「…わかったわ、ニパさん」
ニパ「この曲、サーニャさんの思い出の曲なんだって」
ペリーヌ「…彼女が小さい時に、お父上がサーニャさんの為に作ってくれたらしいですわね」
ニパ「あれ、知ってるんだ」
ニパ「あぁそっか、そういえばペリーヌさんも元501…」
ペリーヌ「よく、みんなの前で演奏してくれましたわ…」
ニパ「そっか…」
ペリーヌ「さっきサーニャさんに聞いたんですけど」
ニパ「ん?」
ペリーヌ「この保育所、始めようって言いだしたのはあなたとエイラさんだって」
ニパ「あぁ、そうだよ」
ニパ「この辺じゃ、まだ保育所っていうのはそこまで定着してなくてな」
ニパ「幼児も児童も、みんな一緒くたに孤児院か教会に預けられちゃうんだ」
ニパ「同じ子供って言っても、0歳と10歳は全然違うからなぁ」
ペリーヌ「えぇ…それは、よく解る話ですわ」
ニパ「私は馬鹿だからさ、子供に勉強を教えるなんて向いてないし…」
ニパ「だったら、まだ学校にも行けない幼児の相手ならできないかな、って思ってさ」
ニパ「私、子供と遊ぶのだけは得意だからな」あはは
ペリーヌ「とても、立派なことだと思いますわ」
ニパ「ペリーヌさんも、先生なんだっけ?」
ペリーヌ「えぇ、孤児院で子供たちを相手に」
ニパ「そっか~、すごいなぁ」
ニパ「みんな、頑張ってるんだなぁ」
ペリーヌ「そうね…」
ペリーヌ「…そういえば、何だかそこかしこがキラキラしてますわね」
エイラ「あぁ、だってサトゥルナリアだからナ~」
ペリーヌ「あら、エイラさん」
エイラ「そういえば、送った絵本の中にあるツンデレラもサトゥルナリアの季節の話だったな」
ペリーヌ「ホント、ふざけた内容でしたわ…」
ペリーヌ「っていうか、他の絵本もあんな感じなんですの?」
エイラ「えーっと、他にはトゥルーデお姉ちゃんとか、ジャックと豆だぬ木とかがあるぞ」
ペリーヌ「…どんな内容なのかしら?」
エイラ「わがままな娘として村でも有名な少女フランカは、ある日周囲の反対を押し切って、妹好きと悪名高いトゥルーデお姉ちゃんの家に向かうんだ」
エイラ「そして、ようやくたどり着いたものの、フランカは家に閉じ込められ、挙句お姉ちゃんに骨の髄まで可愛がられてしまう…という恐ろしい話ダナ」
ペリーヌ「…………」
エイラ「ジャックと豆だぬ木はだな」
ペリーヌ「もう結構です!!!!」
エイラ「何だよ~、面白い話なのに~」
ペリーヌ「あなたって人は…どうしてそう下らない話を思いつけるのかしら…?」
エイラ「むー、失礼な」
ニパ「あ、そうだペリーヌさん。今夜泊まるところは?」
ペリーヌ「え?あぁ…これから探そうかと」
ニパ「そっか…じゃあさ、うちにおいでよ!」
ペリーヌ「え、そんな…悪いんじゃあ…」
ニパ「だいじょーぶだいじょーぶ!いいからおいでよ!」
ペリーヌ「そ、それじゃあ、お言葉に甘えようかしら…」
エイラ「よ~し、なら今夜はニパん家に集まるか」
エイラ「積もる話とか、色々あるだろうしナ」
ペリーヌ「…そうですわね」
―――――
夜 ニパの家
サーニャ「そっか…ルッキーニちゃんはまだ戦ってるのね」
ペリーヌ「えぇ、わたくしも人伝に聞いただけなので、詳しくは知らないのだけれど…」
エイラ「元501で現役なのも、もうあいつだけなんダナ~」
エイラ「何だか、時の移ろいの早さを感じちゃうね」
ペリーヌ「そうですわね…」
ニパ「私のとこなんて、もう誰も現役はいないよ」
ペリーヌ「でも、軍に残った人も多いのでしょう?」
ニパ「そうだね…えっと私の知り合いだと…ラル指令と、ロスマン先生と、サーシャ隊長と、伯爵と…」
ニパ「あれ、後誰かいたっけ…?」
エイラ「……ねーちゃん」
ニパ「あ、そうだった…」
ニパ「そういえば、アウロラさんに至ってはまだ現役だったっけ…?」
エイラ「あぁ、シールドも使えないのに、未だに陸戦ネウロイを殲滅しまくってるよ…」
ペリーヌ「す、凄いですわね…」
ペリーヌ(…………)
エイラ「…ん?どした、辛気臭い顔して」
ペリーヌ「え?あ、いえ…その…」
エイラ「何だよ?歯切れ悪いな~」
ペリーヌ「えっと…」
ペリーヌ「一見平和そうに見えて…まだ、戦いは続いてるんだなと思って…」
エイラ「…………」
ペリーヌ「…なのにわたくしは、もう…戦うことが出来ない」
ペリーヌ「それが、ちょっと歯痒く感じてしまって…」
サーニャ「ペリーヌさん…」
ペリーヌ「ご、ごめんなさい、何だか、盛り下げてしまったわね…」
エイラ「…ま、気持ちは分からなくもないよ」
エイラ「でもさ、私たちには、私たちにしかできないこともあると思うんダナ」
エイラ「だから私たちは、私たちにできることをやれば、それでいいんじゃねーの」
ペリーヌ「エイラさん…」
エイラ「…って、ミヤフジの受け売りだけどナ」
ペリーヌ「…っぷ、ふふふふふ…」
ペリーヌ「そういえばあの娘、そんなことよく言ってましたわね」
サーニャ「ふふっ、芳佳ちゃん、元気にしてるかな」
ペリーヌ「そうね、今頃扶桑で…」
エイラ「…扶桑…」
エイラ「…………」
ペリーヌ「…エイラさん?」
エイラ「…あぁぁぁぁぁ!?」
エイラ「そうだった!すっかり忘れてたぞ!」
ペリーヌ「え、な、なんですの…?」
エイラ「そうだよ!扶桑といえば、あの人だよ!」
ニパ「ど、どうしたんだよ、イッル」
エイラ「ほら!今はサトゥルナリアだろ!?」
サーニャ「…あ!そっか…!」
ペリーヌ「…?」
エイラ「喜べツンツンメガネ!少佐に会えるぞ!」
ペリーヌ「少佐にって…えぇ!?」
ペリーヌ「しょ、少佐って…さ、坂本少佐…?」
エイラ「他に誰がいるんだよ!」
ペリーヌ「…少佐…」
サーニャ「坂本少佐、いつもサトゥルナリアの時期になるとね、保育所にプレゼントを持ってきてくれるの…」
エイラ「でっかい軍用トラックにプレゼントをぎゅーぎゅーに詰め込んでさ、いつもの調子でナ」
ニパ「あぁ、そういえば忘れてたなぁ」
サーニャ「少佐ったら、いつもこの時期にだけやって来るから…」
エイラ「子供たちからサトゥルヌスのお姉ちゃんって呼ばれてんのな」
ペリーヌ「えっと、少佐は今も外交官を…?」
エイラ「あぁ、相変わらず忙しいらしい」
エイラ「なんか今は、オラーシャを中心に活動してるみたいだけどな」
二パ「…ってあれ、今は確か中佐じゃなかったっけ?」
エイラ「ああ、そういえばそうだった…」
エイラ「まあ、少佐は少佐だ」
エイラ「私たちにとってあの人は、やっぱ少佐の方がしっくりくるよな」
サーニャ「うん、そうね」
ペリーヌ「…そう…坂本少佐が…」
ニパ「例年は確か、サトゥルナリアの七日間のどこかに来てたっけ?」
エイラ「えーっと、今日が20日だから…」
エイラ「多分、後4日の内のどこかに来ると思うぞ!」
サーニャ「よかったですね、ペリーヌさん」
ペリーヌ「4日…」
ペリーヌ(…………)
エイラ「ん?何だ、嬉しくねーのか?」
ペリーヌ「え?あ…も、勿論、嬉しいに決まってますわ!」
ペリーヌ「意図した訳でないにも関わらず、こうしてまた再会することができるのですから…」
ペリーヌ「とても…嬉しいですわ」
エイラ「オイオイ~、大好きな少佐ダゾ~?もっと嬉しそうにしろよー」
エイラ「ほら昔みたいに…あぁ少佐!わたくし、感動で胸が張り裂けそうですわぁ~!」
エイラ「…とかさ」
ペリーヌ「あのねぇ、いい大人が、そんな風にはしゃぐ訳無いでしょう…」
エイラ「なに~?何だよ、ツンツンメガネらしくねーなぁ」
エイラ「…あ、さてはお前、ペリーヌの偽物だな?」
ペリーヌ「だ、誰が偽物ですか!?誰が!」
ニパ「あはははは」
サーニャ「ふふっ」
―――――
翌日 12月21日 園庭にて
エイラ「ほーら、いっくぞ~!」
子供たち「わ~!逃げろ~!」
エイラ「おらおら待て~い!」
ペリーヌ「あらあら、エイラさん、男の子たちに大人気ですわね」
二パ「ああ、本人も身体を動かす遊び大好きだからなぁ」
二パ「男の子からしたら、ああいうふうに遊んでくれるのは嬉しいだろうな」
ペリーヌ「そうなんでしょうね」
ペリーヌ「…それにあの人、見た目は女子でも、中身は男子みたいなものだから、余計に波長が合うのかもしれないですわね」
二パ「あははっ、言えてるかも」
ペリーヌ(…そういう二パさんは、中身は女性的なのに、見た目は少しボーイッシュな感じですわよね)
ペリーヌ(…かと思えば、この胸の大きさ…)ジー
ペリーヌ(うーん、実に女性的ですわ…)
二パ「え、えっと…ペリーヌさん?」
ペリーヌ「え、あ…な、なんでもないですわ!?」
二パ「そ、そう…?」
「…すきあり~っ!」
ぽい~んッ
二パ「うわきゃぁっ!?」
男の子「やーい、二パのおっぱい触っちゃったもんね~」
ペリーヌ「あ、あらまぁ…」
二パ「こ、こんのエロ坊主~!今日という今日は許さないからな~!?」
男の子「へっへーん!捕まえてみろ~!」
二パ「待てぇ~ッ!!!」
ペリーヌ「…げ、元気ですこと」
「ねえ、いっしょにあそぼうよ」
「……やだ、わたし一人がいいの!」
ペリーヌ「…ん?」
「ついてこないで!」
「あ…」
「行っちゃったぁ…」
ペリーヌ「…………」
ペリーヌ(…あの子…)
―――――
園庭裏の倉庫付近
女の子「…………」
「こんにちは、一人でなにしているの?」
女の子「…………」
ペリーヌ「みんなあっちで遊んでいるようだけど、貴女は一緒に遊ばないんですの?」
女の子「……いいの」
ペリーヌ「…お友達と、ケンカでもしたのかしら?」
女の子「…ちがう」
女の子「あっちいって、おねえちゃんきらい」
ペリーヌ「あ、あら…」
ペリーヌ(う、うーん…いきなり嫌われてしまいましたわ…)
女の子「…………」
ペリーヌ(…よし、こういうときは…)
ペリーヌ「…あ、あら…あららららら…」
ペリーヌ「み、見てこれ…!大変ですわよ…!」
女の子「え…?」
ペリーヌ「ほら、砂を触ってたら、手がこんなことになってしまいましたわ」
女の子「え…あ!?」
女の子「す、すごい…手に黒いのがいっぱいくっついてる…!」
ペリーヌ「…驚くのは、ここからですわよ~?」
ペリーヌ「それ」
ぐにゅうぅぅぅん…
女の子「え、形が…」
ペリーヌ「…はい、これなーんだ」
女の子「…あ!うさぎさん…!?」
ペリーヌ「ピンポーン」
ペリーヌ「…じゃあ、これは?」
ぐにゅうぅぅぅん…
女の子「わぁ…!」
女の子「えーっと、えーっと…ねこ!」
ペリーヌ「正解」
女の子「すごい…すごいすごーい!」
女の子「ねえ、なんでこんなことできるの?」
ペリーヌ「…さあ、なんででしょうねぇ?」
女の子「む~…いじわる…」
ペリーヌ「…ふふふ、ごめんなさい、教えますわ」
ペリーヌ「砂の中にある、砂鉄というものを集めているんですのよ」
ペリーヌ「ほら、わたくし、こうやって…」
…パリ…パリパリパリッ…
ペリーヌ「こんなふうに、電気を操ることが得意なんですの」
ペリーヌ「この電気を使って、砂鉄を集めると…」
ペリーヌ「ほら、こんな不思議なことができちゃう…ってわけですわね」
女の子「へ~…!」
女の子「…おねえちゃん、もしかしてかみさまなの?」
ペリーヌ「ふふっ、そんな大した人ではないですわ」
ペリーヌ「わたくしは、ただのウィッチですわよ」
女の子「ウィッチ…」
女の子「…じゃあ、わたしと一緒だね…」
ペリーヌ「え?」
女の子「…ほら」
パアァァァァァァ…
ペリーヌ「え、貴女…?」
女の子「先生がね、いってたんだけど」
女の子「…わたし、ウィッチなんだって」
―――――
子供「すう…すう…」
ペリーヌ「ふふっ、よく寝てますわね」
エイラ「悪いなペリーヌ、職員でもないのに午睡の当番させちゃって」
ペリーヌ「いえ、別に楽しいから問題ないですわ」
ペリーヌ「それに、ここで過ごす子供たちの様子を見られるのは、私にとってもいい勉強になります」
エイラ「…ふーん、なんだかまぁ…」
ペリーヌ「…なんですの?」
エイラ「いや、別にぃ」
ペリーヌ「…ちょっと、ちゃんと最後まで言いなさいよ」
エイラ「いや、まあなんていうかさ…」
エイラ「ペリーヌも、すっかり大人になっちまったなぁ…って」
ペリーヌ「…そうね」
ペリーヌ「いつまでも、少女のままではいられないですもの…」
エイラ「…そうだな」
ペリーヌ「…ねえエイラさん、一つ聞きたいのだけれど」
エイラ「ん?なんだ?」
ペリーヌ「さっき、園庭でウィッチの女の子に会いましたわ」
エイラ「ああ…マーレと話したのか」
ペリーヌ「マーレ…」
ペリーヌ(名前を聞きそびれていたけど、あの子、マーレというのね…)
ペリーヌ「あの子の他にも、ウィッチとして魔法力が発現した子はいるのかしら?」
エイラ「いや、今のところ発現したのはマーレ一人だな」
エイラ「…2ヶ月くらい前に、友達と喧嘩してたら、拍子で魔法力が発現しちゃったみたいでさ」
エイラ「いやー、あのときは大変だったんだよ」
エイラ「混乱して泣きじゃくってるのを、なだめるのに苦労してさ…」
ペリーヌ「そう…」
エイラ「元々は、誰にでも気兼ねなく話せる明るい子だったんだけどな」
エイラ「魔法力が発現してからは、どうも塞ぎこんじゃったみたいでさ」
エイラ「友達とも遊ぼうとしないで、いつもああやって一人でいるようになっちゃったんだ」
ペリーヌ「…………」
エイラ「まあ唯一、サーニャにだけは心を開いてるみたいなんだけどな、だからいつもはサーニャが付きっきりで…」
エイラ「…っていうかすごいなお前、あのマーレが会話してくれるなんて、どんな魔法使ったんだ?」
ペリーヌ「…べつに、貴女もよく知ってる魔法ですわよ」
エイラ「え…マーレに電気ビリビリやったのか…?お前それ虐待じゃ…」
ペリーヌ「…す、するわけないでしょう!?」
「…ふぇ…」
エイラ「…お、おま、でかい声出すなよ…」
ペリーヌ「ご、ごめんなさい…」
ペリーヌ「…まったく、貴女が変なこと言うからですわ」
エイラ「相変わらず、冗談が通じないやつダナ~…」
ペリーヌ「…はぁ…まあ、とにかく」
ペリーヌ「あの年齢で急に魔法力が発現したら、確かに混乱するでしょうね」
エイラ「そうだな…普通は10代になってからが殆どだからなぁ」
エイラ「…それに」
ペリーヌ「…それに?」
エイラ「…あの子、両親を戦災で亡くしてるんだよ」
ペリーヌ「え…」
エイラ「…前に、マーレがサーニャに聞いたらしいんだ」
エイラ「私も、大人になったらネウロイと戦わなくちゃいけないの?…って」
エイラ「サーニャは、そんなことないよって言ったみたいなんだけど、それ以来ああでな…」
ペリーヌ「…………」
エイラ「…私は、故郷を奪われたわけじゃないし、戦争のせいで家族を亡くしたわけでもないからさ」
エイラ「例え、同じウィッチだとしても…」
エイラ「あの子が抱えてる、どうしようもない不安とか寂しさを…本当の意味では理解できてないのかもしれない」
ペリーヌ「…………」
ペリーヌ(…あんな小さい身体で、あの子は…それほどの不安と悲しみを背負っていたなんて…)
エイラ「…まあ、せっかく仲良くなりかけてるなら、どんどん関わってやってよ」
エイラ「もしかしたらさ、ペリーヌのおかげで元気を取り戻すかもしれねーし」
ペリーヌ「…そうですわね」
エイラ「まあ、あと2、3日一緒に遊んでればさ、すぐに仲良くなれると思うよ」
ペリーヌ「2、3日…」
ペリーヌ「…あの、エイラさんそのことなんですけど…」
エイラ「ん?」
ガラッ!
「た、大変だ!先生方!」
ペリーヌ「え…な、なんですの?」
エイラ「お、おい、今子供たち寝てるんだぞ…!?」
エイラ「…あれ、配達のおっちゃんじゃん」
おじさん「あ、ああ…すまない…!」
おじさん「とにかく、話があるからこっちへ…!」
エイラ「え、なんだよ…?」
ペリーヌ(……?)
―――――
エイラ「…ネウロイが、こっちに向かってる…!?」
おじさん「あ、ああ…!さっき町に軍の人がやってきてな」
おじさん「なんでも、ペテルブルグの戦闘で取り逃がしたネウロイが2体、こっちに向かって飛んできているみたいなんだ…!」
エイラ「う、うそだろ…?」
おじさん「町にはもう避難勧告が出てる、だから、先生方も子供たちを連れて早く逃げた方が…!」
エイラ「…そうだな、まずは…」
「…今の話、本当ですの?」
エイラ「え…ペ、ペリーヌ…?」
ペリーヌ「すみませんエイラさん、子供たちは今サーニャさんが見てくれています」
ペリーヌ「それより、ネウロイがこっちに向かっているって…」
おじさん「あ、ああ…」
ペリーヌ「…なら、もたもたしていられませんわね」
ペリーヌ「エイラさん、駐車場に、私がここまで乗ってきたトラックが積んであります」
ペリーヌ「全員は載せられないでしょうけど、小さい子から優選して避難させなさい」
エイラ「え、あ…ああ!」
ペリーヌ「他に、子供を避難させるための車両はありますの?」
エイラ「えーっと、買い出し用の軽トラックが一台…」
エイラ「いやでも、それを足しても全員は…」
おじさん「私がここまで乗ってきたトラックがある、それに残った子を乗せよう」
ペリーヌ「では、お願いします」
ペリーヌ「ではエイラさん、今言った通りの手はずで頼みますわ」
エイラ「あ…ああ」
ペリーヌ「…どうかしまして?」
エイラ「ああ、いや…」
エイラ「さすが、506で隊長をやっていただけあるな~…って思っただけだよ」
ペリーヌ「…もう昔の話ですわ、いきましょう」
エイラ「おう」
―――――
男の子「ねえサーニャせんせぇ、どこに行くの?」
サーニャ「みんなで隣の町までお出かけするのよ」
男の子「へ~、楽しそうだなぁ」
男の子「ねえ、お買いものとかしてもいいの?」
サーニャ「…そうね、時間があったらしましょうね」
エイラ「これで最後か?」
サーニャ「うん、そのはずよ」
ペリーヌ「なら、早く子供たちを乗せてしまいましょう」
エイラ「ああ」
「おーい!みんなー!」
サーニャ「あれ、二パさん…?」
エイラ「お前、先に子供たちと避難したんじゃなかったのかよ?」
二パ「はぁ…はぁ…そ、そのつもりだったんだけど…」
二パ「それより大変なんだ!マーレが…!」
二パ「マーレが、いなくなった!」
ペリーヌ「えっ…!?」
―――――
エイラ「い、いなくなったってどういうことだよ!?」
二パ「すまん、みんなをトラックに乗せてるとき、マーレが急に怖がって走り出してさ…」
二パ「子供たちは今おじさんに見てもらってるんだけど…まだマーレが見つからなくて…」
サーニャ「そ、そんな…」
ペリーヌ「…………」
エイラ「いや…泣きごとを言ってても始まらない」
エイラ「みんなで手分けして、急いでマーレを探すぞ」
二パ「あ、ああ…!」
ペリーヌ「…待って、エイラさん」
エイラ「え、な、なんだよ?」
ペリーヌ「みんなで探していたら、ますます避難が遅れてしまいますわ」
エイラ「わ、分かってるけど、今はそんなこと言ってられないし…」
ペリーヌ「…わたくし、マーレの居場所に心あたりがあります」
エイラ「え…?」
ペリーヌ「マーレのことはわたくしに任せて」
ペリーヌ「エイラさんたちは、わたくしのトラックから積み荷を降ろして、子供たちを乗せたら先に行っててください」
エイラ「い、いや、仮に見つけられたとしてもさ」
エイラ「トラックが先に行っちゃったら、お前たち二人はどうやって逃げるんだよ?」
ペリーヌ「…大丈夫、わたくしたちは…これで避難しますわ」
…バサッ!
エイラ「…えっ、これって…!」
サーニャ「ストライカーユニット…?」
ペリーヌ「万が一…と思って、来るとき荷台に積んでおいたんですの」
エイラ「積み荷って…ユニットのことだったのかよ…」
二パ「でも…発進ユニットもなしに、上手く飛べるのか…?」
ペリーヌ「…………」
エイラ「…ま、仮にも“青の雷帝”なんて呼ばれてた英雄に、そんな心配は野暮なんじゃねーの」
エイラ「ペリーヌ、マーレのことは任せたぞ」
ペリーヌ「エイラさん…」
ペリーヌ「…ごめんなさい、本来部外者であるわたくしが、こんな風にしゃしゃり出るのは…」
エイラ「いいって、私も、私たち全員も…ペリーヌのことは信頼してるよ」
エイラ「だから、そっちは任せた」
サーニャ「ペリーヌさん、私からもお願いします…」
サーニャ「マーレを…見つけてあげてください」
ペリーヌ「サーニャさん…」
ペリーヌ「…分かりましたわ、では、そちらは頼みます」
―――――
園庭裏の倉庫付近
ペリーヌ「はぁ…はぁ…」
ペリーヌ「…いない…」
ペリーヌ(ここじゃなかった…?いや…!)
ペリーヌ(昨日まではなかった、新しい足跡がある…それも、大きさからして子供のもの)
ペリーヌ(さっきここを通ったのは、まず間違いないはず…)
ペリーヌ(足跡の先は…)
―――――
ガラッ!
マーレ「…!」ビクッ
「マーレ、見つけましたわよ」
マーレ「…………」
ペリーヌ「倉庫の中に隠れるなんて、かくれんぼとしてはまだちょっと甘いですわね」
ペリーヌ「わたくしの孤児院の子供たちなんてね、屋根裏とかに隠れるから、見つけるのが大変で…」
マーレ「…………」
ペリーヌ「…マーレ、一緒にいきましょう?」
マーレ「…いや」
ペリーヌ「マーレ…」
マーレ「…ネウロイがくるんでしょ?」
ペリーヌ「え…!?」
マーレ「先生たちがはなしてるの、聞こえたの…」
ペリーヌ(そんな…子供たちには、表向き町へ買い物にいくと伝えたはずですわ…)
ペリーヌ(…それに、子供たちがいる場所では、ネウロイの話は一切してないはずなのに…どうして…)
マーレ「…………」
マーレ「わたし、聞こえちゃうから…」
ペリーヌ「え…?」
マーレ「ほんとは聞きたくないのに、とおくの音も、はなし声も…ぜんぶ聞こえちゃうの…」
マーレ「だから、ネウロイの話も…」
ペリーヌ(…そうか、固有魔法の暴走…)
ペリーヌ(恐らく、この子の固有魔法は聴覚強化…といった感じかしら?)
ペリーヌ(固有魔法の制御は、能力によっては大人のウィッチでも難しいこともある)
ペリーヌ(そんな力が、こんな小さい子に扱いきれるわけがないんですわ…)
ペリーヌ(…だから、この子…)
ペリーヌ「…だから、友達のことを避けていたのね?」
マーレ「…………」コクリ
マーレ「…ウィッチだってことが、大人のひとたちにばれちゃったら」
マーレ「きっと、わたしも戦争につれていかれちゃうんだ…」
マーレ「そしたら、もう先生にも、みんなにも会えなくなっちゃう…」
マーレ「そんなの…いやだよ…」
ペリーヌ「…………」
ペリーヌ「…マーレ」
マーレ「…なに…?」
ペリーヌ「エイラ先生に聞いたんですけどね、貴女…両親がいないんですって?」
マーレ「…うん」
マーレ「…お父さんも、お母さんも、ネウロイが連れていっちゃった」
ペリーヌ「…そう」
ペリーヌ「なら、わたくしと一緒ですわね」
マーレ「え…?」
ペリーヌ「わたくしのお父様も、お母様も、ネウロイが遠くへ連れていってしまったんですの」
ペリーヌ「いいえ、二人だけじゃない…それ以外の、たくさんの大切な人達も、みんな…」
マーレ「…………」
ペリーヌ「貴女の気持ちが分かる…なんて、そんなことを言うつもりはないですわ」
ペリーヌ「でもね、マーレ…」
ペリーヌ「そうやって、なにもかも怖くなって、倉庫の隅で丸くなってる貴女は…昔のわたくしと同じですわ」
マーレ「おなじ…?」
ペリーヌ「ええ、同じ…」
ペリーヌ「自分がどうすればいいか、なにをすればいいのか分からず、ただ怖くて縮こまっていただけだけの…」
ペリーヌ「昔の…わたくしと同じ」
マーレ「…………」
ペリーヌ「ごめんなさい、ちょっと難しい話でしたわね」
ペリーヌ「でもマーレ、あの頃のわたくしは貴女と違って…」
ペリーヌ「大好きな先生も、仲良しのお友達も…わたくしの側には一人もいなかったから」
ペリーヌ「だから…少しだけ貴女が羨ましいですわ」
マーレ「…おねえちゃん…」
ペリーヌ「困ったときや、悲しいときは、我慢しないで先生たちに抱きしめてもらいなさい」
ペリーヌ「貴女には、抱きしめてくれる大切な人が、すぐ側にいるのだから…」
マーレ「…うん」
ペリーヌ「ほらほら、もう泣かないの」
ペリーヌ「一緒にいきましょう、みんなが待ってますわ」
マーレ「うん…!」
―――――
サーニャ「…ペリーヌさん、マーレを見つけてくれたかな」
エイラ「大丈夫、あいつならきっと見つけてくれる」
エイラ「それに、ペリーヌは出来もしないことを出来るとか、今まで一度も言ったことなかったし」
サーニャ「うん、そうだよね…」
サーニャ「…あれ、何か近づいて…」
…ブウゥゥゥゥン!
エイラ「この音…ストライカーのエンジン音…!」
二パ「…あ!あれ、ペリーヌさんと…マーレだ!」
二パ「見つけてくれたんだ!行こう!」
エイラ「ああ!」
―――――
ペリーヌ「ごめんなさい、お待たせしましたわ」
エイラ「ペリーヌ!マーレ見つけてくれたんだな!」
ペリーヌ「ええ、倉庫の中に隠れてましたわ」
マーレ「…………」
サーニャ「…マーレ」
スッ…
マーレ「…!」ビクッ
ギュッ
サーニャ「よかった…無事で…」
マーレ「…サーニャ…先生…」
サーニャ「もう、心配しないで」
サーニャ「あなたのことは、私たちが必ず守るから」
サーニャ「だから…ね?」
マーレ「…ぅ…うぅ…うぅぅぅ…」
二パ「やれやれ、一件落着…かな?」
ペリーヌ「…いえ、安心するのはまだ早いですわ」
ペリーヌ「ネウロイは依然こちらに向かって来ています、それに…」
ゴソゴソ…
エイラ「お、おいペリーヌ、何してんだ?」
ペリーヌ「…たぶん、ジャン=ポールならこの辺に…」
ガチャン…
ペリーヌ「…あった!」
エイラ「お、おい…それ…」
ペリーヌ「MAS38…それと予備弾倉が1つ」
ペリーヌ「ブレンがあれば文句なしですけど…まあ、贅沢も言ってられませんわね」
エイラ「おい、ペリーヌ!」
ペリーヌ「え、なんですの?」
エイラ「なんですの、じゃないだろ…!」
エイラ「お前まさか、戦う気なのか!?」
ペリーヌ「…………」
エイラ「子供一人抱えて飛ぶだけなら、そりゃ〝アガリ゛を迎えたウィッチでもできるだろうさ」
エイラ「でも…もうシールドも張れないお前が、ネウロイと戦うなんて無茶すぎるだろ!?」
ペリーヌ「…あら、坂本少佐だって、シールドが張れなくても最前線で戦っていましたわ」
エイラ「お前な…!」
ペリーヌ「ここまで飛んでくる最中、マーレの固有魔法がネウロイの存在をキャッチしたのよ」
エイラ「え…?」
ペリーヌ「恐らく、ネウロイはもう10キロ圏内まで迫ってる…」
ペリーヌ「このままだと、たぶん追いつかれますわ」
エイラ「だ、だからって…」
ペリーヌ「あらエイラさん、わたくしのこと心配してくださるの?」
エイラ「…………」
エイラ「…当たり前だろ」
ペリーヌ「えっ…」
エイラ「元501のメンバーは全員、私にとって家族みたいなもんだ」
エイラ「サーニャも、お前も…」
エイラ「私にとっては、家族と同じくらい大切なんだよ」
ペリーヌ「…エイラさん」
ペリーヌ「それを聞いたら、余計に行かないわけにはいきませんわね」
エイラ「は…?お、お前…!?」
ペリーヌ「だって、わたくしも同じですもの」
ペリーヌ「わたくしも、家族を守りたいんです」
パァァァァァァァ……
ドルン…!ドルルン…!
エイラ「ペ、ペリーヌ…!」
ペリーヌ「大丈夫!別に倒そうなんて思ってません!」
ペリーヌ「子供たちが安全な場所に避難するまで、時間を稼ぐだけですわ!」
「…おねえちゃん!!!!」
ペリーヌ「…………」
マーレ「…おねえちゃん…わたし、こわいけど…」
マーレ「おねえちゃんのことまってる。ずっと…ずっと、まってるから…」
マーレ「だから…ぜったい帰ってきてね!」
ペリーヌ「…マーレ…」
サーニャ「ペリーヌさん…」
サーニャ「お願い、無茶だけはしないでください…」
ペリーヌ「…了解」ニコッ
ペリーヌ「゛青の一番〝(ブルー・プルミエ)…ペリーヌ・クロステルマン、出ますわ!」
―――――
上空にて
ペリーヌ(MASの装填数は32発…予備弾倉も含めると、全部で64発…)
ペリーヌ(あとは、護身用のPPKが7(+1)発…こちらは予備弾倉はなし、と)
ペリーヌ「弾の数はまだしも、火力の面でやや難アリ…ってところかしらね」
ペリーヌ「あとは、いざとなったら…」
…キラッ!
ペリーヌ「…あら、おいでなすったわね」
ネウロイ≪≪≪≪≪≪≫≫≫≫≫≫
ペリーヌ(中型が一体、それに随伴する形で小型が一体…)
ペリーヌ「…さて、ネウロイとの戦闘なんて3年ぶりくらいだけれど」
ペリーヌ「鈍ってないかしらね!?」
ダダダダダダッ!
ネウロイ≪≪≪≪≪≪≫≫≫≫≫≫
ペリーヌ(避けた…!速いッ…!)
ペリーヌ(小型はまだしも、中型のサイズであの動きをするというの?凄まじい機動性…!)
ペリーヌ「…なんて、だからなんだっていうんですの!?」
ダダダダダダッ!
ネウロイ≪≪≪≪≪≪!!!!!!!!≫≫≫≫≫≫
ペリーヌ「命中…!どうやら、勘は鈍ってないみたいですわね」
ペリーヌ「…ですが…」
ネウロイ≪≪≪≪≪≪≫≫≫≫≫≫
ペリーヌ「分かってはいましたけど、やっぱりMASの火力じゃ装甲を抜けない…」
ペリーヌ「これは、なかなか厳しいですわね…」
ネウロイ≪≪≪≪≪≪◆◆◆◆≫≫≫≫≫≫
ペリーヌ(ビーム攻撃!それも、小型と中型で同時に…!)
ペリーヌ「…くっ…」
まるで二体で連携しているような動き…群体型ってことなのかしら?
並みのネウロイの攻撃なら、シールドに頼らなくても避けられる自信がありましたけど…
このネウロイ…強い…!
ペリーヌ(これは、無傷で帰るのは難しいかもしれないですわね…)
ペリーヌ(ですが、相対して分かった特徴が一つ…)
ペリーヌ(小型のネウロイは、中型の子機として、親機の支援を主目的とした随伴機タイプ)
ペリーヌ(動きが単純なのも、親機の命令を元にした動作をしているから…ってことなんでしょうね)
ペリーヌ(なら、親機を落とせば、命令主を失った小型も一緒に落ちるということ…)
ペリーヌ(狙うのは親機…決まりですわね)
ネウロイ≪≪≪≪≪≪≫≫≫≫≫≫
ペリーヌ「まったく、引退して久しいですけど…」
ペリーヌ「相も変わらず、懲りもせずに色んなタイプで出てくるのね、貴方達は…」
ペリーヌ(小型が攻撃する瞬間、一瞬だけど中型の動きが鈍くなっている…)
ペリーヌ「つまり…」
ネウロイ≪≪≪≪≪≪◆◆◆◆≫≫≫≫≫≫
ペリーヌ「狙うのは今!」
ダダダダダダッ!
ネウロイ≪≪≪≪≪≪!!!!!!!≫≫≫≫≫≫
ペリーヌ「効かないんでしょう!?知ってますわ!」
ペリーヌ「…なら、これならどうかしら!?」
ペリーヌ「…トネール…!!!!」
バリバリバリバリバリッ!!!!!
ネウロイ≪≪≪≪≪≪!!???!?!?!?!?!?!?!?≫≫≫≫≫≫
ペリーヌ(ドンピシャですわ…!全盛期ほどの威力は出てないけれど、全力で撃ったトネールなら…)
中型ネウロイ≪≪≪……………≫≫≫
ペリーヌ「なんとか…装甲ごと、焼き切れたようね…」
ペリーヌ(…ふう、かなり危なかったけれど、これで…)
中型ネウロイ≪≪≪……………!!!!!!≫≫≫
ペリーヌ「え…?」
小型のネウロイが…破壊された中型ネウロイを吸収している…!?
まさか…そんな…!
…そうか、わたくしは、見た目に捕らわれて…なんて勘違いを…
〝本体〝は…小型の方だったなんて!
ネウロイ≪≪≪≪≪≪≫≫≫≫≫≫
ペリーヌ「…くっ、まずいですわ…」
ペリーヌ(さっきのトネール…想定していた以上に、魔法力を消費してしまいましたわ…)
ペリーヌ(今の状態じゃ、さっきのような動きで避けることも…)
ペリーヌ(せめて、シールドが使えれば…!)
ネウロイ≪≪≪≪≪≪◆◆◆◆≫≫≫≫≫≫
ペリーヌ「くっ…!」
馬鹿ねわたくしも…
時間稼ぎをするだけなんて、エイラさんに大見栄切っておきながら…このザマですもの
久しぶりにネウロイを前にして、「わたくしもまだ戦える」なんて…思ったのかしら?
その思いあがりが、この結末…
ごめんなさい、エイラさん、サーニャさん、二パさん…そして、マーレ…
約束、守れそうにないですわ…
――――
「おいおい、ぼさっとしてんなよナ~」
ペリーヌ「え…?」
バシュウウゥゥゥゥゥンッ…!
エイラ「うわー、あっぶね…」
ペリーヌ「え、エイラさん!?なんで貴女が…!」
エイラ「私だけじゃないぞー」
「ペリーヌさん!ケガはないですか!?」
ペリーヌ「な、サーニャさんまで…!」
サーニャ「よかった…間に合って」
エイラ「いやー、間一髪でさぁ~」
ペリーヌ「あ、貴女たち…!どうしてここに!?」
エイラ「そんなもん、心配だったからに決まってるダロ~?」
ペリーヌ「…貴女…いえ、貴女達ってどうしてそう…ああもう…!」
サーニャ「ペリーヌさんが行った後、すぐ直後に軍の人たちと合流できたんです」
エイラ「子供たちは預けてきたから、もう心配いらねーよ」
エイラ「それに子供たちには二パがついてるし…な、問題ないだろ?」
ペリーヌ「…はあ、そういう問題じゃなくてですね…」
サーニャ「二人とも!ネウロイの攻撃が来る!」
ネウロイ≪≪≪≪≪≪◆◆◆◆≫≫≫≫≫≫
バシュウウゥゥゥッ…!
エイラ「あっぶね、ふい~、こえーこえー…」
ペリーヌ「…あのねえ!子供たちの先生が、戦場なんかに出てきてどうするんですの!?」
エイラ「ええ~…お、お前がそれ言うの…?」
ペリーヌ「もう、貴女達は…501にいたころから変わらないですわね」
ペリーヌ「仲間想いで、仲間の為なら危険を顧みない…おバカな人達…」
エイラ「お、お前な…」
でも…そんな人たちだから…
わたくしは…どうしようもなく、大好きだったんですわ
ペリーヌ「…でも、数が増えたところで、あのネウロイはエクスウィッチ(元魔女)に倒せる相手じゃ…」
エイラ「んなもん分かってるよ、ほれ」
ペリーヌ「わっ、ちょっと…」
ペリーヌ「あ、これ…?」
エイラ「周波数は合わせておいた、たぶん繋がってると思うぞ」
ペリーヌ「繋がってるって…」
「…こち…502統合…航空団所属…ラウス大尉……」
ペリーヌ「こ、これって…」
『聞こえますか?こちら、502のクラウス大尉であります』
『ネウロイと、あなた方3人の姿が視認できました。今すぐその場から離脱してください』
ペリーヌ「…ウィッチ…!来てくれたのね…!」
エイラ「ふ~、さっきインカム貰っておいてよかった」
エイラ「おかげで、ネウロイの正確な座標を中継することができたな」
ペリーヌ「…これで、もう安心ですわね」
エイラ「…ああ、そうだな」
エイラ「私たちの役目は、子供たちを守ることであって、戦うことじゃない」
エイラ「戦うのは、もう私たちの仕事じゃないよ」
ペリーヌ「…ええ、そうですわね」
エイラ「お疲れさま、ペリーヌ」
エイラ「戻ろうぜ、私たちの…いるべき場所に」
ペリーヌ「…ええ」
―――――
その後、駆けつけた502部隊の隊員たちによって、無事にネウロイは撃墜された
元々あのネウロイは、モスクワからペテルブルグにかけて
神出鬼没に現れては消え…を繰り返していた、隠密性に長けた偵察型ネウロイだったらしい
未だ激戦続くオラーシャでの戦闘において、あのネウロイの存在は非常に厄介なものであったと、クラウス大尉は若干興奮気味に語っているけれど…
まあ、わたくしとしては…子供たちが無事だったのなら、なんでもいいんですけど…
―――――
リエクサから少し離れた避難所
クラウス「それにしても、感激であります!光栄であります!」
クラウス「まさか、あの伝説の部隊…501部隊の1期メンバーであり、506の元隊長でもあらせられる…」
クラウス「〝青の雷帝゛ペリーヌ・クロステルマン大佐にお会いできるなんて…!」
ペリーヌ「も、元大佐…ですけどね」
ペリーヌ「それと、雷帝ってあだ名はわたくし…あまり呼んでほしくないというか…」
クラウス「ああ、これは失礼いたしました!」
クラウス「申し訳ありません、ですが私、同じガリア軍人として…大佐のことはずっと憧れていたのであります…!」
ペリーヌ「そ、そうなんですの…」
クラウス「つきましてはその~、ここにですね、「親愛なるクラウス大尉へ」とサインをですね~…」
「こら!サンディ!」
クラウス「うわ!?そ、その声は~…」
二パ「お前なぁ、ペリーヌさんはもう民間人なんだぞ?あんまり困らせるんじゃないよ」
クラウス「に、二パ先輩…お久しぶりです」
二パ「はあ…大尉になったみたいだけど、あんまり変わってないなぁお前…」
クラウス「し、失礼な!これでも私、502の戦闘隊長任されてるんですからね!?」
二パ「ええ~?お前が…?」
二パ「はあ…502も落ちぶれたなぁ」
クラウス「な、なんて失礼なこと言うんですか!?私やるときはやるんですよ!?」
<ギャーギャーギャー…
ペリーヌ「に、にぎやかですこと…」
ペリーヌ「そういえばエイラさん、聞き忘れていたんですけど…」
エイラ「ん?なんだ?」
ペリーヌ「貴女たち二人、なんでストライカーユニットなんて持っていたんですの?」
エイラ「ああ、うちの自宅にこっそりおいてあるんだよ」
エイラ「退役時に、こっそりかっぱらった二台が…」
ペリーヌ「…い、今のは聞かなかったことにしておきますわ…」
エイラ「…結局さ、私たちは骨の髄までウィッチってこったな」
エイラ「戦いは忘れられても…空を忘れることはできない」
ペリーヌ「…ええ、そうね」
エイラ「たま~にこっそり、サーニャと夜の空飛んだりしてるんだよ」
エイラ「…やっぱり、どうしようもなく飛ぶことが好きなんだよな」
エイラ「だって、私たちは…」
ペリーヌ(…そう、わたくしたちは…)
蒼空を駆ける、魔女なのだから…
―――――
その後 夕暮れ時
エイラ「それじゃあ点けるぞ~、それ」
パッ…パッパッ…パパパッ…!
子供「わ~!きれ~い!」
ペリーヌ「わぁ、すごいですわねぇ」
エイラ「へっへ~ん、だろー?」
エイラ「ま、私の手にかかれば、こんな素晴らしい装飾もできちゃうわけダナ」
二パ「なにいってんだよ、私だって相当手伝ったじゃないか」
エイラ「その分相当壊したけどな!」
ペリーヌ「…あ」
ペリーヌ「…雪が…」
サーニャ「きれい…」
ペリーヌ「色々とごたごたしてて忘れていましたけど、そういえば今はサトゥルナリアでしたわね…」
エイラ「はー、ネウロイのやつのせいで、今日は疲れたよ」
ペリーヌ「ええ、まったく…」
エイラ「そういえば、今日も少佐来なかったか…」
ペリーヌ「…………」
エイラ「まあ、明日か明後日か、気がついたらひょっこり顔出すだろ」
エイラ「ペリーヌ、今日も二パの家に泊まっていくか?」
ペリーヌ「え、ああ…」
ペリーヌ「…ごめんなさい、実は言いそびれていたのだけれど」
ペリーヌ「わたくし、今日中にはここを発たなくてはならないのよ」
エイラ「え…?」
ペリーヌ「わたくし、孤児院の子供たちと約束しているんですの」
ペリーヌ「みんなで一緒に、サトゥルナリアのお祝いをしましょう…って」
ペリーヌ「パ・ド・カレーからここまで来るのに、だいたい3日かかるんですけど」
ペリーヌ「今日が21日だから、今日中に帰らないと、24日までに帰れなくて…」
ペリーヌ「なので、口惜しいですが…今日はこのまま帰らせていただきますわ」
サーニャ「そんな、ペリーヌさん…」
サーニャ「そんな、ペリーヌさん…」
エイラ「そっか…まあ、そういう事情じゃ仕方ないよな…」
エイラ「…ありがとなペリーヌ、わざわざここまで来てくれて」
ペリーヌ「いえ、こちらこそ」
ペリーヌ「貴女たちと…子供たちの元気な姿が見られて、とても充実した2日間でしたわ」
二パ「ペリーヌさん、もうすぐに行っちゃうのか?」
ペリーヌ「ええ…実はもう、荷物の支度は済ませてあります」
ペリーヌ「ただ、少し名残り惜しくて…この時間まで残ってしまいましたわ」
エイラ「…ペリーヌ」
エイラ「元気で、な」
ペリーヌ「ええ、貴女達も…」
サーニャ「ペリーヌさん、また来てくださいね」
二パ「なんなら、今度はこっちから行ってやろうか~?」
ペリーヌ「あら、それは嬉しい提案ですわね」
ペリーヌ「…ふふっ、こんな風に握手するなんて、501の解散以来ですわね」
エイラ「おいおい、そういうこと言うと、なんか泣きそうになるからやめろよな…」
ペリーヌ「あらあら…ごめんなさい」
サーニャ「…あっ、ねえエイラ、あれ…」
エイラ「ん?…あっ、そうだった」
エイラ「ペリーヌ、ちょっと待ってろよ、渡したいもんあるから」
ペリーヌ「え?」
―――――
エイラ「おーい、おまたせ~」
ペリーヌ「あの、渡したいものって…?」
エイラ「ああ、まあ…私たちからの、クリスマスプレゼントってやつだ」
ペリーヌ「あらあら…」
エイラ「まあ、荷物の邪魔にならない程度のものだからさ、受け取ってくれよ」
ペリーヌ「ありがとう、ありがたくいただきますわ」
エイラ「…ただし、渡すのは私じゃないぞ?」
ペリーヌ「え?」
エイラ「おーい、プレゼント渡してやってくれ~」
サーニャ「…………」
ペリーヌ「…えっと、サーニャさん?」
サーニャ「あ、私じゃなくて…」
ペリーヌ「…?」
サーニャ「…マーレ、渡してあげて」
マーレ「…………」
ペリーヌ「…あ」
ペリーヌ(マーレ…サーニャさんの後ろに隠れていたのね…)
マーレ「…………」
サーニャ「えっと、一緒に渡す?」
マーレ「…………」ブンブン
マーレ「…じ、自分であげたい」
サーニャ「…そっか」
ペリーヌ(…マーレ…)
マーレ「…おねえちゃん、こ、これ…」
マーレ「プレゼントです、どうぞ…」
ペリーヌ「…ありがとう、マーレ…」
マーレ「…あ、あのね、おねえちゃん」
ペリーヌ「ん?なんですの?」
マーレ「あのね…わたし…わたし、こわくて、ウィッチになるのがいやだったけど…」
ペリーヌ「…………」
マーレ「でも…わたしも、いつか…おねえちゃんみたいに…」
マーレ「おねえちゃんみたいな、つよくてやさしいウィッチになりたい…!」
ペリーヌ「…そう、貴女なら、きっとなれるわ」
ペリーヌ「誰よりも勇敢な…小さな魔女さん」
マーレ「うん!」
…ゴーン…ゴーン…ゴーン
ペリーヌ「あら、この音…?」
エイラ「ああ、近くの教会の鐘だな」
エイラ「いつもこの時間になると、こうやって鐘を鳴らすんだよ」
ペリーヌ「そう…」
本当に、ここに来れてよかった…
一時期は、軍に残ることが、恒久平和への一番の近道かもしれないと考えていたこともあったけれど
やっぱり、一番守るべき平和は…守らなければいけない世界は、子供たちの平和なんですわ…
エイラさん、サーニャさん、そして二パさん
未だネウロイが残るこの世界で、彼女たちが平和に過ごす様子を見られたこと
それが、わたくしにとってどれほど救いになったことか…
…ただ、一つだけ心残りがあるとすれば…
―――――
駐車場にて
ペリーヌ「…それでは、みなさんまた」
ペリーヌ「またいつか、こうして会えると信じていますわ」
エイラ「ああ、またな」
サーニャ「ペリーヌさん、いつでもまた来てくださいね」
ペリーヌ「ええ、ありがとう」
二パ「今度会うときはさ、世界からネウロイがいなくなってるといいよな」
ペリーヌ「ふふっ、わたくしもそれを願っていますわ」
ドルン…!ドルルン…!
エイラ「もう暗いから、安全運転でいけよな~」
ペリーヌ「ええ、気をつけますわ」
…ただ、一つだけ心残りがあるとすれば…
もう一人、お会いしたかった人がいましたわ…
………坂本少佐………
エイラ「じゃ~な~……って、あれ…?」
エイラ「…なあサーニャ、あれ…」
サーニャ「え?…あ…」
ペリーヌ「それではみなさん、ごきげんよ…」
エイラ「お、おいペリーヌ!」
ペリーヌ「え、なんですの?」
エイラ「ああえっと…!ら、ライト切れ!」
ペリーヌ「えぇ…?暗いから気をつけろって今貴女が…」
エイラ「いいから!早くライト切れって!あとできればエンジンも!」
ペリーヌ「も、もう…、なんですの…?」
フッ…
ペリーヌ「あのねエイラさん、一体どういう…」
エイラ「…ペリーヌ、あれ」
ペリーヌ「え…?」
エイラ「道の向こう…ライトが…」
ペリーヌ「え、ああ…あれは、トラックかしら?」
ペリーヌ「ええっと、例の配達のおじさまでなくて?」
エイラ「こんな時間にこねーよ」
ペリーヌ「じゃあ…あれは…」
今日は待ちに待った、お城での舞踏会
でもツンデレラは、0時の鐘と共に魔法が解けてしまうので、お城から去らなければいけません
お城の王子様は、街に降りて、ツンデレラのことを探しました
そしてふたりはついに再会を果たします
まるで、不思議ななにかに導かれたように…
そう、二人は…運命の糸で結ばれていたのです
ブロロロロロッ…
…バタンッ…
「ふう、急に降ってきたなぁ」
「ウィッチだったころは、この程度の寒さ、気に留めるほどでもなかったのだが…」
「…ん?そこにいるのは…エイラとサーニャと…二パか?」
サーニャ「…うそ…」
エイラ「…ははっ、このタイミングで来るかふつー?」
二パ「…坂本少佐…」
坂本「なんだなんだ、全員でわざわざ出迎えてくれたのか?」
エイラ「…ああ、みんな、少佐のこと待ってたんだよ」
坂本「はっはっは!そうかそうか、それは嬉しいが、こんな寒い中待たせてしまって悪かったなぁ」
エイラ「まあ、色々と言いたいことはあるんだけどさ…」
エイラ「もう一人、少佐のこと待ってたやつがいてな、そいつに全部言ってもらうよ」
坂本「ん?もう一人…?」
ガチャッ…
…バタンッ…
坂本「…あれ、お前…」
ペリーヌ「…………」
坂本「え、ペリーヌ…か?」
坂本「ペリーヌ…!どうしてここに?」
ペリーヌ「……うさ……」
ペリーヌ「坂本少佐ぁ!!!」
ガバッ
坂本「わぁ…!ぺ、ペリーヌ…」
坂本「お前…きれいになったなぁ」
ペリーヌ「う、ううぅ…ぅうぅ…」
坂本「ペリーヌ、久しぶりだな」
坂本「…会えて嬉しい、会いたかったぞ」
―――――
後日 12月24日 パ・ド・カレー 孤児院の理事長室
コンコンッ
「…入れ」
ペリーヌ「失礼しますわ」
ペリーヌ「理事長、クロステルマン、戻りました」
ペリーヌ「この忙しい時期に長いお暇をいただき、本当にありがとうございました」
ルーデル「…まあ、ここ最近職員の数も増えているからな、急に一人休んでもなんとかなるものだ」
ルーデル「それに、名目上は休暇ではなく、施設訪問…だからな」
ルーデル「勉強したいという者を、止める道理もない」
ペリーヌ「あ、ありがとうございます…」
ルーデル「…だが、おかげで昨日やった演劇は、君の代わりに私が役を務めることになったがな」
ペリーヌ「あ…」
ルーデル「実に楽しかったぞ、サトゥルヌス神の役は」
ルーデル「あんなに楽しい役回りができるなら、もっと早くやるべきだったかもな」
ペリーヌ(う、うわぁ~…もの凄く怒っていますわ…)
ペリーヌ「…ご、ごめんなさい…本当~にごめんなさい…」
ペリーヌ「…あの、これよろしければ…」
ルーデル「…なんだ」
ペリーヌ「あの…スオムスで買ったお菓子の詰め合わせなんですけど…」
ペリーヌ「ど、どうかこれで機嫌を…」
ルーデル「…………」
ペリーヌ「…………」
ルーデル「…そんな菓子で、私が喜ぶとでも?」
ペリーヌ「え、え~っと…」
ペリーヌ「…申し訳ありません、では、子供たちにあげてきますわ…」
ルーデル「…待て」
ルーデル「子供たちが口にして良いものかどうか、決めるのは私の判断だ」
ルーデル「…よって、その菓子はそこに置いていけ」
ペリーヌ「は、はあ…」
ルーデル「…今夜は、サトゥルナリアのパーティがあるのだろう」
ルーデル「子供たちはみんな君を待っていたんだ、早く行ってあげなさい」
ペリーヌ「あ、はい…」
ペリーヌ「…では、失礼いたしますわ」
ガチャッ
バタンッ…
ルーデル「…昔の仲間、か」
ルーデル(…そういえば、あの頃共に戦っていたやつらは、今頃どうしているのだろうか)
ルーデル「…まあいいか、めんどくさい」
ルーデル「さて、どれから食べるとするか…」ゴソゴソ
ルーデル「ふむ、サルミアッキ…これにしてみるか」
―――――
エリー「あ、みんなペリーヌ先生きたよ!」
ペリーヌ「みんな、久しぶり」
マリア「わあい!ペリーヌ先生おかえりなさ~い」
ユリウス「…まったく、ようやくご登場かよ」
ペリーヌ「あら、ユリウス…ただいま」
ユリウス「おかえり、…ってか、なに持ってんのそれ?
ペリーヌ「ああ、これ…」
ペリーヌ「訪問した施設で貰った、プレゼントですわ」
ローズ「へ~、何が入ってるの?」
ペリーヌ「ああ、ええっと…」
ペリーヌ(…そういえば、何が入っているのか聞いてないですわね…)
ペリーヌ「なんですかね、中身について聞いてないから、わたくしもわからないんですの」
ユリウス「ふ~ん、とりあえず、開けてみれば?」
ペリーヌ「え、ええ…」
ベリッ…ベリッ…
ペリーヌ「……えっ……」
ユリウス「ん?これ…」
ローズ「絵本?」
ペリーヌ「…の、ようですわね」
「ツンデレラ2」 著者:エイノ・イルマリ・ユーティライネーン
エリー「わあ!新しい絵本!?」
マリア「すご~い!先生、早く読んで~!」
ペリーヌ(はあ、あの人はどうしてこう…ふざけることしか頭にないのかしら…)
マリア「ねー、読んでよ~」
ペリーヌ「え、ああ…」
ペリーヌ「…それじゃあ、読むのはパーティが終わって、寝る時間になってからにしましょう」
子供たち「はーい」
ペリーヌ「…ふう…」
ユリウス「…あっちでなんか、良いことあったのか?」
ペリーヌ「え?」
ユリウス「なんか、嬉しそうな顔してるぜ」
ペリーヌ「…そうね、良いこと…ありましたわ」
ペリーヌ(エイラさん、サーニャさん、二パさん、坂本少佐、マーレ…)
ペリーヌ(彼女たちに会えたことが、わたくしにとってなによりのプレゼントでしたわ…)
ペリーヌ「…また、来年も会えるといいですわね…」
ユリウス「え、何が?」
ペリーヌ「…べつに、なんでもありませんわよ」
ユリウス「お、おい…!なんだよ、教えろよ~!」
ペリーヌ「ふふっ、教えません」
おわり
おしまい
だいぶ昔に立てたやつの立て直しです。
現実の季節と全くリンクしてませんが、どうかご容赦を。
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