男「アイドルのプロデューサーになりたい」 (10)
友「プロデューサー?」
男「ああ、ずいぶん前にアイドルのライブに行ったんだけどさ。それ以来ハマっちゃって」
友「お前ってそんな奴だっけ? ドルオタってやつ? ライブとかで一緒になって踊ってんの?」
男「いや、流石にそれはしないけど。でも、サイリウムぐらいは持っていって、曲に合わせて振ってるぞ」
友「サイリウム?」
男「あの、暗闇で光る棒みたいなやつな。普通のバンドのライブとかでもやってるだろ」
友「ああ、あれな。あれ、サイリウムって言うんだ」
男「おう。で、それ振って応援してる」
友「……へえ。……そうなん」
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男「やっぱ引くか? もしかしてドン引き?」
友「いや、まあ……。多少は引いたけども」
男「そっかあ、ま、普通はそうだよなあ。他のツレもそんな感じだったしさ。歌手とかにハマってるって言ったらそうでもないのに、アイドルにハマってるって言ったら腫れ物扱いとか酷くね?」
友「いやでも、歌手の場合だと、音楽好きなんだなってイメージだからな。それがアイドルだと、ロリコンかよってまずなるし。社会人としてちょっとな、みたいな感じになっても仕方ないんじゃね?」
男「言いたい事はわかるけども。でも、そんなんじゃないんだって。口では説明出来ないけども」
友「大体、何でアイドルにハマったんだよ? 理由は? ライブ見てって言ってたけど、そのどこに惹かれたんだ?」
男「客がほとんどいなかった事」
友「ごめん、意味がわからん。もっと詳しく」
男「だからさ、ライブって言っても有名どころじゃなかったんだって。地下アイドルって言うの? バンドのインディーズみたいに小さなライブハウス借りてやるやつ」
友「まず、何でそこに行く事になったんだ」
男「ツレから誘われたんだ。何でも先輩の先輩から回りに回ってチケットが巡って来たらしくって。で、断るのもあれだからって貰ったはいいものの、一人で行くのは流石にって事で俺が誘われたんだ」
友「ふーん」
男「で、実際に行ってみたら、開始時間になってもがらんどう。客は俺たち含めて八人だけだった」
友「切ない」
男「たださ、そんな中でもその子は一生懸命歌って踊るんだよ。小さな体を大きく見せるかの様にぴょんびょん飛び跳ねて。ステージの端から端までめいっぱい使って、笑顔で踊って、楽しそうに歌って」
『今日も元気一杯だにゃ!』
男「思わずその子の応援がしたくなった。この気持ちはわかるだろ?」
友「弱小球団をつい応援したくなるあれか」
男「いや、それは微妙に違うけど……。とにかくまあ、その日以来、俺はその子のファンにされた訳だ」
友「ふむ」
男「で、その後、家に帰ってソッコーでGoogle先生に尋ねて、その子のブログとか探して」
友「そこらは基本だな」
男「で、次のライブの予定があったから、それもチェックして実際に行ったんだよ」
友「へえ。ちなみに、その時は客は何人いたんだ?」
男「俺含めて五人」
友「減ってるじゃねーか」
男「ただ、次のライブの時はかなり多くて、今度は二十人ぐらいはいたんだぞ」
友「おー、何かそれいいな。段々増えてく感じで」
男「で、その次のは七人だった」
友「言うな、切ない」
男「で、まあ、そうやって何回かライブに行く内に、他のアイドルも気になってきてさ。メジャーなアイドルのライブも一回行ってみたんだって。チケット買って横浜アリーナまでわざわざ」
友「へえ。それでどうだったんだ?」
男「ステージまで遠くてろくに見えないし、周りの奴らキモい男ばっかりだったし、あと無駄な熱気が鬱陶しかったしで最悪だった。チケット高かったし、スゲー金と時間を損した気分」
友「お、おう……」
男「だから、ああいうデカイところは二度と行かないと決めて」
友「そうか……」
男「小さいところの別のアイドルのライブに行ってみた」
友「で、そっちは良かったと」
男「そ。ステージまですぐ近くだから、顔も良く見えるしさ。何より、その子達の頑張りとか気持ちとかが伝わってくるみたいでメッチャ燃えるんだわ。むしろ、萌える」
友「言っとくが、客観的に見たら、十分お前もキモい男だからな」
男「つー事で、ハマってからほぼ毎週の様に色んなアイドルのライブを見に行ってさ」
友「よく金が持つな」
男「安いんだよ。チケット一枚、二・三千円だし。たまに無料ってものある」
友「へー。無料ってのは凄いな」
男「何かのイベントなんだろうけどな。そこら辺よく知らんが、何しろ飲みに行くよりも安いからな。車持ってるから、他に金がかかるのはガソリン代と駐車料金ぐらいだ」
友「で、そうやって何回もライブに行ってる内に、アイドルのプロデューサーになりたくなったと」
男「おう。ゲームじゃないけどさ、俺が気に入ってる、でも知名度が低い子全員、俺がプロデューサーになってもっと有名にさせてやりたいって思う様になったんだ」
友「ま、有名にさせたいって気持ちはわかる。そこでプロデューサーになりたいって思うのはイマイチよくわからんが」
男「そこは、あれだよ。単なる夢物語とか願望だって。気に入ってるアイドルを自分の手で有名にさせてやりたいってのは、誰もが思う事だろ? 美味いのに客が少ない料理店見つけたら、誰かに教えたくなるのと同じだって」
友「なるほどねえ」
友「にしても、アイドルのプロデューサーかあ……」
男「ま、コネもないし、それだけの為に今の会社やめて芸能事務所に入るとかは流石に出来ないしな。なれたらいいな的な話だよ」
友「うーん……」
男「どうした、友? そんな難しい顔して」
友「いや、ちょっとな。悪いが、少し思い付いた事がある。しばらく席外すかもしれんけど、いいか?」
男「いや、それはいいけど……。つうか、それだったら、そろそろお開きにするか? もういい時間だしさ」
友「ん、そうだな。結構二人とも飲んだしな。そろそろ店出るか」
男「ああ」スクッ
後日、この事がきっかけになり、俺はマジでプロデューサーとして活動する事になるんだが、その時はそんな事なんか思いもしなかった。
つづく
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