美羽「笑顔の彼方、恋模様」 (40)




モバマス・矢口美羽のSSです。






SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1464612340




きっと、わたしはこれからも迷ったり悩んだりすると思う。

でも、大丈夫。



歌うことも。

踊ることも。

話すことも。

ぜんぶぜんぶ、わたしなんだから。



* * * * *

裕子「ム……ムムム……ンハァーッ!!!」バキッ

茜「!」

雪美「!」

柚「わお、ホントに折れた!」

裕子「ハァ、ハァ、……どーもー!! サイキックパワーでーす!!!」

茜「わー!」パチパチ

雪美「ユッコすごい……つよい……」

柚「そうだねーもうどう見ても力技だけどねー」



真奈美「フフッ、私が教えたトレーニングの成果が出てるみたいだな」

心「まなみん指の力つくトレーニング教えてんの? それ何か間違ってない?」



あやめ「……」ズズーッ

輝子「フヒッ……このお茶、おいしいな……」

美羽「ホントですね、すごくおいしいです!」

あやめ「でしょう。頂きものですが、オススメの茶葉ですよ。ニンニン♪」

美羽「……あ、そうだえーっと……あった! えへへ」ゴソゴソ カポッ

あやめ「?」

輝子「ぼ、帽子?」

美羽「これは脱帽の美味しさ! なーんて」ガバッ

あやめ「……」

輝子「……??」

美羽「あ、あれ? わかりづらかったですかね? あ、それとも思わずハットしちゃった? とか」

あやめ「……」ジトー

輝子「……??」

美羽「……あれぇー?」



ワイワイ



比奈「(今日も相変わらずっスね)」

杏「(平常運転だね)」



くるみ「〜〜〜!!!」プルプル

比奈「(そこでくるみちゃんが悶絶するほどウケてるんスけど)」

杏「(そっとしておいてあげなよ)」



* * * * *

こんにちは、矢口美羽です。

今日も事務所はこんな感じで、笑顔があふれています。



特にPaチームのメンバーはにぎやかで、

いつも明るく元気と言われます。

かくいうわたしも、そのひとり。

でもそう言って貰えるの、うれしいです!



まあその、ギャグはもうちょっと、スベらないようにしたいですけど……。



お仕事もちょっとずつ、増えてきています。

もっともっと、がんばります!



* * * * *

美羽「ミニライブですか?」

P「そう。今度開催される合同イベントにうちからも二人ってオファーがあって、ユッコと美羽を推したくて」



きっかけは、ユッコさんと一緒に出るライブの話だった。



P「ユッコと美羽はちょうど先月あたりからレッスンも一緒にやってるだろ? 特に明るく元気な子がいいっていう先方の要望にもぴったりだし、いい機会だと思うんだけど、どうだろう」

美羽「わ、わたしはやってみたいです!」

裕子「私もです! サイキックパワーの見せ所ですね!」



少しでも歌ったり喋ったりする場をもらえるのはうれしい。

がんばらなくては。



P「出番的には、1曲やって、軽く自己紹介とPRして、もう1曲やって終わりになると思う」

裕子「今回はどのサイキックでいきますかね……? イリュージョンをするには舞台袖で時間も準備も要りますからね。もっと手軽なものの方が……」

美羽「わ、そっか、わたしはどうしよっかな。かぶりもの……えっと」



ユッコさんと一緒にお仕事をするのは、実は初めてだったりする。

同じPaチームのサイキックお姉さん。わたしの2歳年上にあたる。

事務所でも舞台でも元気と笑顔いっぱいで、とっても楽しい人だ。



超能力を使えるんだって!

残念ながら、わたしはまだ成功したところを見たことがないけれど。



あ、別に疑ってるわけじゃないですよ?



* * * * * * 

裕子「せっかくなので二人で合体技でもしましょうか! サイキックおもしろギャグ的な!」

美羽「あ、いいですね! わたしも小道具用意して、渾身のギャグを……」

P「二人ともまず歌とダンスの練習をしような。小ネタの話はそれから」

美羽「あ、そうでした。えへ」

裕子「でもトークの時間もあるんですよね?」

P「ちょっとだけな。数分程度になると思うけど……何かやりたい?」

裕子「もちろんです! サイキック込みでアピールしてこそユッコですよ! それに美羽ちゃんのトークもぜひ混ぜて!」



ユッコさんはいつも自信満々だ。

失敗してもくじけない。

それどころか、いつも見る人みんなを笑顔にする。



P「うんうん、出るからには盛り上げたいよな。まあトークのことはまたゆっくり考えよう」

裕子「はいぜひ!」

美羽「お願いします!」

P「で、まずは歌とダンス。既にトレーナーさんに前日までの練習プランを立ててもらっているから、みっちりしごかれておいで」

美羽「うひゃぁ」

裕子「ムムーン、やるしかないですね! がんばります!」



身構えるわたしに対し、

意気揚々といった感じでスプーンを掲げるユッコさん。

意味はわからないけど、何かその、力に溢れている感じがある。



P「それと。ふだん事務所でも交流はあるだろうけど、これを機にもっといろいろお互いを知っておいてほしい。いい刺激になると思うから」

裕子「ありがとうございます! 改めて、よろしくお願いしますね、美羽ちゃん!」

美羽「こちらこそ、よろしくお願いします! あ、えっと、即席ユニットですけど、しっかりとソクセキを残しましょうね!」

P「……ふふっ、相変わらずだな」

裕子「……???」

美羽「あ、えーと今のはですね、即席ユニットの”即席”と、あしあとの意味の”足跡(そくせき)”が掛かっていて……」




* * * * *

レッスン後、事務所でユッコさんと軽く打ち合わせ。

内容はもちろん、ライブでのアピールタイムの話。



裕子「私の方がお姉さんですからね! 美羽ちゃんもどんどん頼ってくれていいんですよ!」ムフー



めいっぱいのお姉さんアピールをしつつ、

わたしに気を配りながら、いろんな提案を出してくれるユッコさん。

とっても楽しくて、気持ちの入る時間になった。



裕子「……で、ここで入れ替わるというのはどうでしょう? これなら時間もかからないですし」

美羽「あ、おもしろそうですね! わたしもそれがいいと思います! ギャグの内容はもう少し考えておくということで……」

裕子「じゃあ大まかな流れはこれで決まりですね! あとは……」

美羽「?」

裕子「ムムーン、私的にはもう一つ何か準備しておきたいんですけどねー」

美羽「スプーン技とかですか?」

裕子「いや、うーん……ごめんなさい、それはひとまず保留で! またいくつかプロデューサーにも美羽ちゃんにも見せつつ、いい感じのものがあればステージ案に入れることも相談させてください!」



かなりハードなレッスンの後なのに、

元気いっぱいに話し続けるユッコさん。

みんなが思っている以上にユッコさんは、いろんなことに熱心で。



そして、プロデューサーさんのことを、すっごく信頼しているのがわかる。





美羽「……本当にユッコさんはプロデューサーさんのこと信頼してるんですね」

裕子「えへへ、そりゃあもう! 私のサイキックのよき理解者ですからね!」ムムーン



わたしたちPaチームのプロデューサー。

おおらかで、前向きな人で。

ちょっとトボけたところもあるけど、

いつも一生懸命で、とってもいい人だと思う。



わたしがお仕事であまりうまくいかなかった時も、

収録で時間がかかっちゃったときも、

嫌な顔ひとつせず、ずっと付き合ってくれて。

少しずつよくなるよう、アドバイスをくれて。



毎日いろいろ忙しそうだけど、

ちゃんとわたしたちを見てくれているんだって、

そういう安心感がある。



わたしもそういう意味で、

プロデューサーさんのことは、

とっても信頼している。



ただ、

ただその。



裕子「♪」



ユッコさんとプロデューサーの信頼関係のそれは、

なんというか、ひときわ魅力的で。



こう、うまく言えないけど、

信じて、信じられて、応えて、ハイタッチ!

……みたいな、そういう関係に見えて。



ちょっと、うらやましかったりする。





少し前から、

ユッコさんはプロデューサーさんのことが

好きなんじゃないか、というウワサが事務所内で流れている。



ユッコさんはなにかとプロデューサーさんに話しかけているし、

小さなことでも積極的に相談しているイメージがある。

それだけプロデューサーさんは頼りになる人だし、そうなんだけど。



美羽「うーん」

裕子「?」



わたしは恋愛に疎い方みたいで、

あまりピンと来ていないから、

そういうことも断言できないけど。



ただ一つ言えることは、

プロデューサーさんとユッコさんの信頼関係って、

ちょっといいなって感じているってこと。



裕子「どうかしました?」

美羽「あ、いえいえ。……今度のステージ、がんばりましょうね!」

裕子「えへへ、そうですね!」



ユッコさんはいつだって、自分のサイキックを信じている。

わたしはどうだろう。

もっともっと、みんなを笑顔にする魅力を、アピールしていけるかな。





* * * * *

翌日、おひるすぎ。



美羽「ううむ……」



ガチャ



P「戻りましたー」

美羽「あ、お帰りなさい! お疲れ様です!」

P「美羽もレッスンお疲れ。何見てるんだ?」

美羽「あ、これ。以前出演させてもらったトークバトルショーの時の映像です」



空き時間だったので、事務所のテレビでかつての映像を見せてもらっていた。



このTBSでの立ち回りは周囲からも友達からも反応がよく、

よかったよ、とか美羽がんばってるね、という声をたくさんもらえた。

参考になることがあればと思い、時々見返すようにしている。

わたしにとっては、いろいろ思い出深いイベントだ。



P「ホントだ。チア姿の美羽が映ってるな。かわいかったよな、これ」

美羽「えっ、あ、そうですか!?」

P「そうそう、いろんな表情を見せてくれたし、一生懸命応援してる姿も絵になってたし、すごくよかったよ」

美羽「えへへ、ありがとうございます!」



そうか、表情か……なるほど。



*参考
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira110123.png
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira110124.png
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira110125.png
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira110126.png







モソモソ



P「どうかしたか? 急にメモなんて」

美羽「あっいえ、いいって言ってもらえたところは大事にしようと思って。加奈ちゃんみたいですよね!」

P「うんうん、今度ライブもあるしな」

美羽「そうですね!」

P「レッスンは順調?」

美羽「はい、そちらはおかげさまで!」



ギャグはまだ準備中なんだけど。



P「気になることがあればいつでも言ってくれよ。なるべく早めにな」

美羽「ありがとうございます! あ、じゃあ早速なんですけど」

P「うん?」

美羽「今からやるネタ、どっちがおもしろいか意見もらっていいですか?」

P「その話かー」

美羽「えへへ」



大事なことなんですよぅ、わたしにとっては。



美羽「やっぱりこういう機会ですし、わたしらしいところを、もっともっと出していかなきゃって!」

P「……一生懸命なのは俺としても嬉しいけど、あまり追い込みすぎないようにな」

美羽「え、あ、はい」

P「歌だってうまくなってきているし、ダンスだってがんばってる。あんまり個性なんて強く意識しなくても、今できることを精一杯出せばそれで十分素敵なものになると思うぞ?」

美羽「あ、あはは。ありがとうございます!」



プロデューサーさんは優しい人だ。

こう言ってくれるのはとってもうれしい。

でも、だからこそ、期待に応えるためにも。

そして、見てくれる人たちのためにも。



もっともっと、がんばらなくては。





* * * * *

夕方。

美羽「……で、……だから……こう」ブツブツ

裕子「美羽ちゃん、そろそろレッスンの時間ですよ! 行きましょ!」
美羽「あ、そうでした! はい、行きましょ!」ガサガサ
笑美「なんや今日もドタバタやなー」

美羽「準備できました! よーし今日もステップ一回でキメますよ!」
裕子「そうですね!」

バタン



茜「最近の美羽ちゃん、いままで以上に気迫に満ちてますね!」
柚「大変そうだけど、いつも笑顔なのがいいよね」
笑美「……せやねぇ」



ごめんなさい>12は行間あけ忘れました。
再投稿


* * * * *



夕方。


美羽「……で、……だから……こう」ブツブツ



裕子「美羽ちゃん、そろそろレッスンの時間ですよ! 行きましょ!」

美羽「あ、そうでした! はい、行きましょ!」ガサガサ

笑美「なんや今日もドタバタやなー」



美羽「準備できました! よーし今日もステップ一回でキメますよ!」

裕子「そうですね!」



バタン



茜「最近の美羽ちゃん、いままで以上に気迫に満ちてますね!」

柚「大変そうだけど、いつも笑顔なのがいいよね」

笑美「……せやねぇ」





* * * * *

美羽「右ターン、左、左……」



レッスン後。

今日はちょっとうまくいかなかったところがあったので、

すこしだけ居残りで自主練をさせてもらうことにした。



ベテトレ「熱心なのはいいことだ。だが根を詰めすぎないようにな。少しだけにしておけ」

美羽「は、はい! わかりました、ありがとうございます!」



ユッコさんとも一緒に合わせたかったんだけど、

今日は別の予定があるらしい。残念。

でもわたしだけの時にこそ、きちんと習得しておかないと。



一人、広くなったレッスン室でステップを繰り返す。



美羽「左、左、右……よし! できた!」タン!



うまくいった。

よかったー。



美羽「はぁーっ、はぁーっ」



……。

舞台でのネタ、どうしよっかな。

明日また、ユッコさんとの確認もあるけど。



……プロデューサーさんとも、もう一度ゆっくり話したいなぁ。





「お疲れさま。はい、ドリンク」

美羽「あ、ありがとうございます」



ゴクゴク



……。



美羽「え、芽衣子さん!?」ガバッ

芽衣子「こんにちは、レッスン頑張ってるんだね」ニコ



白のTシャツに明るいオレンジのジャージ姿。

旅するオトナ女子こと、芽衣子さんがそこにいた。



美羽「え、ど、どうしたんですか、急に?」

芽衣子「最近レポのお仕事が続いて、レッスンあまり出られてなかったからね。ちょっと身体動かしておこうと思って、自主的にね♪」





* * * * *

芽衣子「そっか、イベント近いし頑張ってるんだね」

美羽「はい!」



並木芽衣子さん。

いつも明るい、Paチームの素敵なお姉さん。



旅好きアイドルとして人気上昇中で。

最近はあちこち出向いて、

食べ物や風土の紹介をしている。



芽衣子さんのレポはいつもとっても楽しそう。

魅力的な人だなって思う。



美羽「芽衣子さんって、旅好きなのは昔からなんですか?」

芽衣子「ん? そうだよ。学生の頃から好きで、今もそう」



自分の好きをちゃんと強みにしてるのって、憧れる。



美羽「カッコイイですね」

芽衣子「ありがと。美羽ちゃんも活動していくうちに、きっともっともっと、いろんな個性がみえてくるよ」

美羽「あはは、そうですね、期待したいですね!」



わたしもがんばらなきゃ。



芽衣子「……?」

美羽「?」

芽衣子「ね、ひょっとして何か悩んでる?」

美羽「え、そんな別に……」

芽衣子「そう?」

美羽「えと、ギャグの内容では迷ってますけど」

芽衣子「それはちょっとコメントできないかな」

美羽「ですよね」





* * * * *

芽衣子「……プロデューサーさんが私に旅関連のお仕事を増やしてくれるようになったのって、実は最近なんだけどね」

美羽「あ、はい」



芽衣子さんが、そっとわたしの隣に腰を下ろして、話し始めた。



芽衣子「理由を聞いたら、”いくつかこなした仕事の中で、やっぱりレポがいちばんいい笑顔で、楽しそうにできていたから”だって。もちろん、お仕事に優劣をつける気はないけどね」

美羽「そうなんですね」



ちょっと意外な話だ。



芽衣子「ホントの個性なんて、まだまだ私もわからないよ。でもね」



おおきくひと伸びして、前屈をはじめた。

……芽衣子さん、身体柔らかいなぁ。



芽衣子「事務所のみんなや、ちひろさんや、プロデューサーさんを信じていれば、きっと大丈夫だよ」



優しい笑顔と、おおらかなアドバイス。

このどこかまったりした芽衣子さんの語りに、心奪われる人も多いとか。

ふふっ。わたしも芽衣子さんのふんわりした空気、いいなって思う。



うまくやらなきゃって思って、

少し、気持ちが焦っていたかもしれない。

もっと楽しくいかないと。



美羽「そうですね、わたしもプr

芽衣子「美羽ちゃんは、プロデューサーさんのこと好き?」



……。



美羽「は、え、ええっ!? わたしですか!? わたしはそんな、特にその」

芽衣子「……ふぅん?」ニコー



話題は、意外な方向に流れ出した。





芽衣子「美羽ちゃんって、プロデューサーさんの言葉すっごく大事にしてるし、いつも満面の笑顔で話してるし、彼への信頼も厚いじゃない? 好きなんじゃないかなって思ってたんだけど」



……えっとその、

いや、いい人だとは思っていたし、

信頼は確かに厚いんだけど。



いつも笑顔で応じてくれるし、

頼りにしてるし、

特別意識したことはなかったけど、

その……あれ?



美羽「……///」

芽衣子「ふふ。顔、真っ赤だよ?」

美羽「うひゃい!? いえこれは!」



おおげさな動きでのけぞって倒れたわたしは、

レッスンルームの床を少し転がった。

恥ずかしいものから逃げるように。



芽衣子「ごめんごめん、待って待って」





え、わたし、好き、なのかな……?

いや、でもその、ほら、ユッコさんとかもいるし。



あ、でも、ユッコさんとプロデューサーさんの信頼関係が

うらやましいって思っていたのは、その、

そういう関係に、憧れているからとか……?



美羽「……えっと」



うわー。

うわー。

ちょっと待って、わからなくなってきた。



芽衣子「よい、しょっと!」グッ

美羽「わ」



床で悶え続けていたわたしは腕を引っ張られ、強引に起こされた。



芽衣子「ごめんね、でも……ふふっ、ちょっと焦りすぎじゃない?」

美羽「あ、すいません……。でも、いやだって、好きってその、そういう……意味ですよね?」

芽衣子「そうだね」

美羽「いや、わたしは……そういうの、まだわからなくて……」



芽衣子さんがうん、うん、と、大きくうなずきながら笑顔を見せる。



芽衣子「大丈夫大丈夫、そんなのわからないならわからないでOK!」バシバシ

美羽「え」

芽衣子「今大事なことは、そんな気持ちさえ見え隠れするくらい信頼できる人と、いつも笑顔の仲間と一緒に、いろんな挑戦をしているってことだよ!」

美羽「あ、はい」



言い出したのは芽衣子さんなんだけどなぁ。



芽衣子「ほらほら、いつまでも顔真っ赤でぽやーっとしてないで、目を覚まして!」

美羽「な、ちょっ」



芽衣子さんのせいですよ! という言葉が喉まで出かかったが、やめておいた。

これも芽衣子さんのすごさだし、芽衣子さんの魅力だ。





芽衣子「好きかどうかの話なんて、答えを急がなくてもいいよ。でも、それだけプロデューサーさんは頼りになる人なんだし、もっと頼るべきだし、もっと甘えるべきだとは思うよ?」

美羽「そう……ですね」



そうなんだろうか。

そうなのかもしれない。



好きかどうかはまだはっきりわからないけど、

信頼していることは確かだし。

わたしはもっともっと。



もっともっと一緒に、アイドル活動をしていきたい。

プロデューサーさんと一緒に、みんなを笑顔にしていきたい。



芽衣子「歌もダンスも、見る人聴く人をたくさん幸せにできると思うよ。美羽ちゃんはそのうえで、一生懸命だったりちょっとコミカルだったりもして。マジメなことも言えて。でもどれが大事とかじゃなく、きっと全部が素敵だし、そのすべてが美羽ちゃん、なのかなって」

美羽「……」



とてもいいことを言ってもらっている、気がする。

顔がもう一度熱くなるのがわかった。



芽衣子「どれかに絞るのが難しいなら全部追っかければいいんだよ。今できる全力の中で、きっといずれ強さも弱さも出てくるよ」

美羽「あ、ありがとうございます」

芽衣子「一生懸命、楽しいを探し続けないとね!」

美羽「……はい!」



楽しいも、うれしいも、素敵もぜんぶ。

どれも追いかけてこそ、わたしなのかもしれない。

困ったなぁ。



美羽「……えへへ」



今、とっても楽しいや。



芽衣子「……で、どうなの? やっぱり好きだったりする? プロデューサーさんのこと」

美羽「え、ええっ!?」





* * * * *

笑美「……」シャク シャク



P「……ええ、はいでは、よろしくお願いします、はい失礼しますー」ガチャ



P「ふう」

笑美「今日も忙しそうやね、プロデューサーはん」モグモグ

P「ん、ああ。でも今日はもうこれでだいたい終わりかな」

笑美「そーか、お疲れはん。プロデューサーはんもアイス食べて一息どうや?」

P「……もらおうかな」

笑美「ほい」

P「ありがとう。……梅雨もまだなのにアイスバーかぁ。夏が怖いな」シャク シャク

笑美「ほんまやで。この時期に熱いのはかなんなー」シャク シャク



< ボンバァァァアァアァアァアァ!!!!! ドタバタドタバタ



P「まあ、茜は年中あんな感じだけどな」

笑美「せやね」



笑美「……それはそうと、プロデューサーはん」

P「ん、どうかしたか?」

笑美「ライブがあるのはわかるんやけど、美羽ちょーっと気合い入りすぎてへん?」





P「……そう見える?」

笑美「うん」

P「うーん、もともとそういうタイプの子だし、俺もなるべく気づかってたんだけどな」

笑美「ライブのために一生懸命なのはわかるし、それ自体はええ傾向やと思うんやけど」

P「ちょっとトバしすぎ、か?」

笑美「んーまあ、ちょっとウチにはそう見えたかな」

P「わかった。レッスン終わる頃だし、帰ってきたらまた時間とって、直接話してみるよ」



笑美「……」

P「ん?」

笑美「いや、フォローもそうなんやけど、なんちゅうかね、その……」

P「?」



笑美「……Coチームに二宮飛鳥ちゃんと神崎蘭子ちゃんっておるやん?」

P「ん? ああ」

笑美「プロデューサーとして、あの子ら見てどう思う?」

P「……? まあ、思春期ならではの繊細な感じ、だよな。もし担当だったら……それぞれの感性は大事にしてほしいし、そのスタンスを受け入れたうえで、ゆっくりプロデュースするんじゃないかな」

笑美「さすがの回答やね」

P「そりゃどうも。それで?」

笑美「いや、美羽もあの子らと同い年やで、って言いたかっただけなんやけどな」

P「……うん? うん」

P「美羽が今、プロデューサーはんからもらって嬉しい言葉は、”信じとるでー”やなくて、”ここがよかったで”とか”おもしろいで”とか、あと”これが美羽らしくてええでー”みたいなことやないんかな、と」

P「……」



笑美「自信と前向きさの塊みたいなユッコですら、ちょっとしたことでも褒めて褒めてってよう言うてるやん? 14歳の、まして自分らしさを探してる真っ最中の美羽には、もっともっと彼女の為だけの言葉、伝えてやっても損はない思うでー」

P「……そうか。そうだよな」





笑美「たぶんプロデューサーはんは、美羽をめっちゃ信じてるんやと思う」

P「……うん」

笑美「あの子が自覚しとるかわからんけど、美羽はホンマに気配りがしっかりできてて、いっつも笑顔で、なんかもう”ええ子やなー”って思えるやん?」

P「ああ、わかる」

笑美「けどな、せやからこそ、身近な、当たり前のことをこなした時にもっと褒めたるべきやし、そういうところも見てるぞ、大丈夫やぞって教えてやるべきやと思う」

P「……」

笑美「14歳やしな」



P「……そっか、信頼しすぎて、抜け落ちてたことがあったんだな」

笑美「プロデューサーはんが責められることやないで」

P「いや、言ってくれてよかったよ。いろいろありがとう」

笑美「いえいえ。ウチこそ生意気言うてかんにんやで」

P「嬉しいよ。すごいな笑美は」

笑美「ウチこそまだまだやって。頑張るさかいに、またオモロイお仕事とってきてな?」

P「わかった。……よしじゃあ、ちょっと行ってくるよ」

笑美「うん。それがええね」

P「まあまた、ギャグの辛口採点してやってくれ」

笑美「あはは、せやなー。けど」

P「?」

笑美「んー、ウチもうまくは言えへんけどな。なんちゅうか……ウチは”オモロイ”で、美羽は”楽しい”みたいな、そういうところ、何かこう……な? うまく言うたってな!」

P「……なるほど。了解したよ。ありがとう」

笑美「行ってらー」



バタン



笑美「……プロデューサーはんも、罪な人やで」

杏「笑美的にも、だよね」ヒョコッ

笑美「お、杏はんお疲れ」

杏「だよね?」

笑美「……さぁ、どやろね?」



杏「珍しく語ってたよね」

笑美「まぁ、たまにはなー」

杏「……」

笑美「まあウチも、もっともっと頑張ってかんとなー」

杏「なんでやねん!」バシッ!!

笑美「なんで今ツッコんだんや、マジメなこと言うたやろウチ」





* * * * * 

ガチャッ



P「美羽いるかー?」

美羽「は、はい! え、あ、プロデューサーさん!?」

芽衣子「あ、お疲れ様ー!」



ウワサをすればなんとやら、

プロデューサーさんが現れた。



P「芽衣子も一緒だったのか。自主練?」

芽衣子「うん、軽くね」

P「昨日旅レポから戻ったばかりなんだし、無理しないようにな」

芽衣子「ありがと、でも大丈夫だよ」



P「美羽も……やっぱり居残りで練習してたのか?」

美羽「えーっと、はいその、え、まあ、そんな感じで……///」

P「?」



ちょっとその、このタイミングで突然来られると。

わたしにも心の準備ってものがですね。



P「美羽」

美羽「ひゃい」

P「ごめんな、ここ数日ちゃんと見てあげられてなくて」

美羽「え、いえそんな」

P「今そこでベテトレさんとも会って軽く話したんだけど、美羽が人一倍頑張ってることも、少しずつダンスも上達してることも聞いた。成長著しいって聞いて、嬉しかったよ」

美羽「あ、あはは、今日は失敗もあったから居残りしてたんですけどね」

P「それはまあ、そんな日もあるさ。でも美羽はひとつずつマジメに取り組む子だし、課題はクリアしてるもんな。どんどん魅力が増してると思うよ」

美羽「ホントですか! あ、ありがとうございます」



やっぱりプロデューサーさんはとても優しい。

……あと、こういう会話できるの、うれしいな。






日々のレッスンを、とまではいかなくても。

こうして時々ちゃんと確認してくれて。

いつもいろいろ支えてくれて。



いいところは教えてくれて。

一緒に笑顔になってくれて。



P「……どうかしたか?」

美羽「えへへ、プロデューサーさんとお喋りするのって、楽しいですね」



プロデューサーさんの笑顔って、とっても落ち着く。



P「美羽らしいな」

美羽「そうですか?」



何か、胸のつっかえが取れた気がする。

プロデューサーさんにも、芽衣子さんにも感謝しないと。



P「……ところで二人とも、まだ自主練続ける? もうそろそろ終わり?」





* * * * *

ジュー



美羽「……」



レッスンとか、

芽衣子さんとの話とか、

プロデューサーさんとか。



何かいろいろどたばたした時間が終わり、

わたしは今、ごはんを食べにきている。



……プロデューサーさんと。



P「時間あるなら、ご飯でも一緒に行くか?」



居残りレッスンの後、

わたしはプロデューサーさんのお誘いで、ご飯に行くことになった。



もっと話したい、と思っていたところだったから、

うれしいお誘いだったんだけど。



芽衣子「ごめんなさい、また今度誘ってね」



芽衣子さんはあいにく、美里さんと惠さんと予定があるんだとか。

目の奥がちょっと、何か言いたげに笑っていた。

別にその、わたしは何かそんな、そういうわけじゃないんだけど。





目の前の鉄板では、

かわいらしい動物のパンケーキ、

……に、なるはずだったものが。

個性的な顔の生き物のような姿で、焼かれている。



美羽「難しいですね、これ」エヘヘ

P「大丈夫、大丈夫」



テーブルの鉄板で、パンケーキを自由に焼けるという、ちょっと珍しいお店。

一度来てみたいなって思っていて。

どこか行きたいとこある? と聞かれて、思わず言ってしまった。



せっかくなので、

プロデューサーさんにかわいいのを

作ってあげようと思ったんだけど。



美羽「うきょあーっ!?」



これがなかなか、うまくいかない。



美羽「いやいや、まだセーフ、セーフ……」

美羽「ここから巻き返しますからっ」

美羽「必ず1枚はおいしいの焼きますからっ。もうちょっとだけ待って……」



悪戦苦闘するわたし。

無理しなくていいぞ、じゅうぶんおいしいぞってプロデューサーさんは言ってくれるけど。

せっかくだし、出来栄えにも喜んでもらいたい!





* * * * *

クルッ パン



美羽「あ! これはイケた……かも!」



材料が底をつくころに、ようやくひとつ、キレイに引っ繰り返せた。

あとは焼けるのを待つだけ!

よかった。ちゃんとできそう……!



今度こそいけると思い、ふと顔をあげる。

そこでようやく、笑顔でじっとこちらを見つめている

プロデューサーさんの視線に気がついた。



えっと、つまり……。



美羽「そんなにじっと……はっ! もしかして芸的なモノ期待してました!?」

P「いやいや、そんなことしなくても、今の美羽はとってもかわいかったぞ」



じゃあ今からパンケーキでギャグを……というわたしの言葉を遮って、

ちょっと恥ずかしい言葉を投げかけてくるプロデューサー。



美羽「かわいいなんてそんな、あ、あはは」

P「ふふっ。……そう、そうだ。美羽はそういうところこそが、素敵なんだよな」

美羽「えっ」





P「身体を張ったり、一生懸命走り回ったりするのも美羽の魅力だから、それも大切にしてほしい」

P「でもまず、美羽はとってもかわいいんだってこと。笑顔が魅力的なんだってこと。それと、そんな美羽が笑顔を振りまいて、それでファンも笑顔になっているんだってこと」

美羽「えっ、あっその、えっと」



あわわ。あわわ。



P「あ、ごめん。落ち着いて、落ち着いて」

美羽「わ、わたしあまりそういう恥ずかしい言葉慣れてなくてっ……」



今日はいったい何の日だっけ?

いろいろありすぎて。

うれしくて、いろいろぐるぐる巡って。

照れくさくて、向き合っていられない。



でも、でも、

とっても大事なことを、言われている気がして。

精一杯頷きながら、一生懸命、耳を傾ける。





プロデューサーさんの話は続いた。



ライブが近いから焦る気持ちはあるかもしれないけど、

無理はしないで、その時々にできる一生懸命をしよう。



汗をかくことも大事だし、ギャグを披露するのも大事なことだ。

でも笑顔を見せることだって、じゅうぶんみんなを幸せにするんだよ。



そして、だからこそ、

もっともっと笑顔を増やすために、

仲間や、スタッフや、もちろん俺にも、

もっともっと相談して、頼って、一緒に頑張っていこう。



美羽「…………!」

P「美羽はとっても素敵なアイドルだし、その笑顔を大事に、自信を持っていこうな?」





ガッ

ごくっ ごくっ



P「お、おい」



ダンッ



美羽「ぷはぁーっ!!!」



なんていうの、この、その……

ステキな感じ!!!!!

ステキな、感じ!!!!!



高鳴りを抑えたくて、思わずジュースを一気に飲み干してしまった。

でもその、その。

はぁ〜。



美羽「びっくりしましたよぉ……し、心臓止まったかと思いました!」

P「えぇ……な、なんでやねん」



え。



美羽「……ぷ、あはは!!」



プロデューサーさんのせいにきまってるじゃないですか!!

そう言いたかったけど。

すごく言いたかったけど。



美羽「プロデューサーさんもツッコミヘタですね! あはは!」

P「え、えぇ〜?」



今はヒミツ。





すっごくわかった。

プロデューサーさんを、もっと頼っていいんだって。

むしろ、もっと一緒にがんばらないとって。



それと、

わたしはこのまま、アイドル矢口美羽として走っていくんだって。

それがわたしで、それでいいんだって。

そばにプロデューサーさんがいるなら、

きっとこれからも、迷った時には助けてくれるから。



美羽「いろいろありがとうございます、プロデューサーさん!」



芽衣子さんが言ってくれたことも、そうだった。

どれが本当の……とかじゃなくて、

一生懸命の、そのぜんぶがわたし。

きっと今は、それでいいんだって。



ね。





* * * * *

ライブ当日。



美羽「会場のみんなーっ! 楽しんでますかー?」



< ワー ワー



裕子「ありがとうございます! エスパー堀裕子と!」

美羽「みうさぎこと矢口美羽です! 覚えてもらえたらうれしいな!」



美羽「それじゃあここで、ユッコちゃんのサイキックコーナーいきます!」

裕子「ちゅうもーっく!!」

美羽「みんなも応援してくださいね!」



ワイワイ



茜「盛り上がってますね!!」

柚「すごいねーあの2人」

笑美「ウチらも負けてられへんなぁ」



裕子「ムムム〜ン サイキッーク……」

美羽「ガンバレー! 会場のみんなも、もっと大きな声、出してみてっ! せーのっ!!」





* * * * *

裕子「終わりましたー!」

美羽「ハァ、ハァ、……ばっちりです!」

P「二人ともよく頑張ったな。お疲れ様! とってもよかったぞ! はいタオル」

笑美「お疲れー見とったでー!」

茜「熱いステージでしたね!」

柚「よかったね! 楽しかったよ」

裕子「ふふん! やりましたね!」

美羽「緊張しました〜!」



P「ユッコもそうだけど、美羽は特に、最後まで手こずってたダンスもちゃんと成功したな。すごくかわいかったぞ」

美羽「うまく決まってよかったです。まだ心臓バクバク言ってますよ!」

P「トークも会場と楽しく受け答えできてたし、すごかったぞ」ワシャワシャ

美羽「わぷ……えへへ、ありがとうございます!」



笑美「なんやかんや、心配もあったんやろうなぁ、プロデューサーはん」

柚「だろうねー。でも、本番うまくいったしオッケーじゃない?」

笑美「せやね!」



はりつめた緊張の糸が、ようやく緩む。

よかった、無事終えられた。



すごい熱気を感じて。

笑顔をたくさん出せて。

会場の笑顔もたくさん見れて。

今、こうしてみんなや、プロデューサーも笑顔で。



がんばってよかった。うん。





裕子「さいきっくぅ〜! ヒザ! カックン!」ゲシッ

P「あ痛っ!」

裕子「私もがんばりましたよー」ジトー

P「ユッコお前ヒザカックンはちゃんとヒザにしろよ、今のただのモモキックじゃんか!」

裕子「何ですか!」

P「何だよ!」



笑美「なんか始まったで」

柚「いつものことじゃない?」

茜「元気そうで何よりです!」



P「……うん、まあユッコも今日はホント、よく頑張ったよ。立ち回りもダンスも、さすがお姉さんって感じだったな」ナデナデ

裕子「むっ! えへへ、そうでしたか? ありがとうございます!」ニヘラ



柚「あっさり仲良し空気になっちゃったよ」

茜「いつもの流れですね!」

笑美「美羽、なんかツッコミ入れたれ」

美羽「えっ!? あ、えーと、なんだ……なんでやねーん!」バシッ

笑美「ヘタか!!!!!」






みんなそれぞれ、笑顔の源がある。

好きなことにも、楽しいことにも。

わたしはきっと、ここにあるんだ。



きっと、わたしはこれからも迷ったり悩んだりするだろう。

でも、大丈夫。



歌うことも。

踊ることも。

話すことも。

ぜんぶぜんぶ、わたしなんだから。



そして、わたしが笑顔でがんばる限り、

きっとそばには、プロデューサーさんがいるから。



P「よし、みんなで写真撮るぞー」

美羽「せーの、みうさぎピョーンピョン♪」

笑美「なんでやねん!」



ほら、みんな笑顔だ。





以上です。

他に
・みちる「もぐもぐの向こうの恋心」
・みちる「プロデューサーの手がおっきいんですよ、ホラ」
・紗枝「プロデューサーはんは胸の大きい女の子が好きなんどすかー」
・友紀「もっと大好き、語っていい?」
など書いています。

ありがとうございました。


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