叔母「今日からココに住んで」男「ラブホテルで?」 (433)
男「──ここが約束の場所、だよな」
ピンポーン
男「……」ドキドキ
ガチャ
叔母「ん~…」ボリボリ
男「あ、あのっ! 今日からお世話になります! えっと、その…!」
叔母「……」じぃー
叔母「え? あ、うん。男くんだっけ、そっか今日だったね…忘れてたわ…」
男(わ、忘れてた?)
叔母「んーーッ…!」のびー
叔母「日差しが目に響く…上がっていいよ、ほら…」キィ
男「は、はい…」
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ぱたん
男(こ、この人がパ、…親父サンの妹なのか)
男(何か兄妹って気がしない。あの人の血筋だからてっきり…)
叔母「ねぇ男くん」
男「はいっ!? なんスかね!?」
叔母「君、汚れてる部屋って平気なほう?」
男「…限度によりますけど…まぁ潔癖症ってほどでは…」
叔母「そっか」
叔母「あんな嫁さんの息子だから、心配してたんだけどね。じゃあ大丈夫か」スタスタ
男(心配…俺が来る日忘れてたのに…深く考えるのはよそう…)
叔母「はい。じゃあ、ココが今日から君が住む部屋ね」
ガチャ キィ
男(ゴクッ、ああ、ここが三年間住む部屋──……)
男「……」ピクッ
男「汚ねぇッッ!!!」
叔母「あ。やっぱり?」
男「な、なんスかコレ……? え、ここ、倉庫か何かなんですか…っ?」ダラダラ
叔母「違う違う。ちゃんと人が住める立派な場所だから、全然住めるから」
男「寝るスペースすら無いぐらい…モノで溢れかえってるって言うか…」
叔母「それはココ」
男「…そこはドアが開く空間じゃ…」
叔母「そうともいう」コクコク
男(な、なんなんだ、俺はトンデモナイ所に住まわせられそうになってるんじゃ、いや、なってるよな!?)
男(くそぅ、いやに出来た話だと思ったんだ! 都会に住めるからって釣られたら、倉庫に押しやられると来たもんだ…!)ホロリ
叔母「ま。やっぱりこうなるか、そっかそっか」スタスタ
男「……?」
叔母「よいしょっと」ズボァ!
男「……??」
叔母「お昼のドラマっはと…」ブゥーン…
男「……………、もしかしてココに住んでるんスか」
叔母「そうだよ?」
男「え、えぇ~…」
叔母「意外とイケるけど…」
男「意外と思ってる時点でココがやべぇって分かってますよね!?」
叔母「あんまり嫁さんに似てないね、君」くすくす
男「人となりの感想タイミング考えて! つうか、その待ってください…!」
叔母「?」
男「ということはもしかして、俺と一緒に住む気だったんですか…っ?」
叔母「あ。やっぱりダメだった?」
男「あぁーッ! もう全部ダメーッ! 初対面から今まで、一つ足りとも全部ダメダメなんですけどッー!?」
叔母「君、意外と声がデカイね。それじゃ隣人さんに迷惑かけるよ」
男「今後の不安なんて駆け足過ぎる! …もう、もうもうもう…なんでうこうなるんだ、まったくぅ…」ドサ
男(やっと…やっと俺に転機が回ってきたと…なのにこの仕打はないよ…)
叔母「男くん」
叔母「君の保護者監督に選んだのは、君のお母さんだ」
男「は、はい?」
叔母「だから文句は親に言いなさい」
男(モロに責任転嫁し始めたこの人…)
男(…でも、確かにその通りではあるんだよな)ガサゴソ
ピッ プルルルル
男「もしもし…」
『あ。我が愛しの息子ぉー? もうそっち着いた? ん?』
男「ああ、着いたよ…着いて数秒で初対面の叔母さんに突っ込み入れたよ…」
『ガハハ! 良いよなぁーアイツの妹、ワタシも好きだわ』
男「……で?」
『うんうん。言いたいことは分かる、けど我慢しろ。そこで高校三年間、過ごせ』
『こっちはアイツとの離婚調停で依然、てんてこマイッチングだっつーの』
男「はぁ…もう気持ちは決まってるなら、さっさと別れちまえよ…」
『そうは出来ねーのが大人だ。制約、婚約、夫婦関係、どれも笑っちまうぐらいに枷になる』
男「……」
『つかワタシも言ったろ? 幾つか代わりの候補見せてやっただろ。そこを選んだのテメーじゃねえか』
男「そうだったとしても…ッ! まさかこんな、色々とあるだろ!?」
『こんな人の所に、って言いかけたろ。ガハハ、いいじゃん別にぃ~、おっぱい大きいじゃん?』
男「……っ…何を言ってんだ、まったく…!」
『あれ? 喜ぶと思ったから秘密にしてたのに…』
男「何を言ってんだまったくッ!」
『まーとにかく、今日からそこがお前の住む場所だ。覚悟を決めろ、もうどうにもならんって』
男「ちょ、ちょっと待て!? なに電話切ろうなんて雰囲気出してやがる…!」
『ぶちぐちうるせえな。本当にワタシの息子かよ』
『男見せて頑張りやがれ。親父の妹とドロドロカンケー持っちまっても、ちゃんと母親として褒めてやるぞ』
男「ちっとも嬉しくねぇ!」
『んじゃ、ちょっと弁護士殴ってくるから切るわ。あと電話あんまかけてくんな、メンドイから』ピッ
男「……………」ツーツー
叔母「ん。電話終わった?」
男「ええ…ついでに俺の貴重な三年間も終わりました…」ずーん
叔母「考えすぎだ、青少年」ドドドバババーッ! アルピージィー!
男(いつの間にかゲームしてる…はぁ…もうどうにも為らないのか、この状況は…)
叔母「取り敢えず、男くん」
男「え、あ、はい…?」
叔母「ご飯食べようか。お昼、まだでしょ」ガチャガチャガチャ
男「え、ええ、まぁ…」
叔母「そこに子機があるから、ピザでも頼んで」
男(え、どこに?)
~~~
叔母「煙草吸ってもいい?」
男「ご馳走様でした。え? あ、はい、別に構わないッスけど」
叔母「ん」シュボッ
男「……」
叔母「……、いっしょ吸う?」
男「本気で保護者する気あります?」
叔母「ぱぁ~…最近の子は硬いね…」じぃー
男「…? な、なんですか、じっと見つめて…」
叔母「ん? ああ、童貞なのかなって」
男「ぶぅっ!?」
叔母「さっきから胸ばっか見てるし」ぷかぁー
男「ど、どどど童貞かどうかは関係ないでしょ!?」
叔母「確かに」コクコク
男(だぁ~ッ…もうッ…本当に俺はここで、この人と、暮らしていけるのか…っ)
叔母「君ってえらいね」
男「え?」
叔母「もうココに慣れようとしてる。嫌だ嫌だ言う割には、物分りが良い」
男「そ、そりゃ文句もありますけど…部屋の汚さとか…でも居候する身ですし…」
叔母「だから煙草も我慢するの?」
男「……」ピク
叔母「だから、えらいねって思う。君、大人になったら大変そう」
男「…別に、良いじゃないっすか」プイ
叔母「そうだね。私は喫煙所だったら子連れいようがパンパカ吸うけど」
男「………………」
叔母「例えそれに文句を言われようが、マナー云々以前に人として説かれようが、」
叔母「結局は自分を取る。それが性格なのかもしれないし、我慢強い君と比べちゃ失礼だけどね」
男「あの、何が言いたいんですか…?」
叔母「フゥー、うん」グリグリ
叔母「外でようか、外」
~~~
男(どこに行くんだろう…)キョロキョロ
叔母「この辺り、迷わなかった?」
男「え? ああ、確かに。変に入り組んでて…」
叔母「ん」スタスタ
男「………」すたすた
叔母「この近くに、今じゃ廃れた繁華街があるんだ。昔はよく人で溢れかえってた」
叔母「バブル期なんてそりゃもう凄いことになってたよ」
男「は、はあ…」
叔母「ん」スタスタ
ぴたり
叔母「ここ」
男「…ここが?」
叔母「どう思う?」
男「どう思うって、そりゃ感想言うなら───」
男「───もろ、ラブホテルですよね、これ」
叔母「入ろうか」
男「ん?」
叔母「……」ガシッ
男「ん!?」
叔母「行くよ」ズンズンズン
男「ちょ、ちょっとォー!? えなにコレ!? ま、待ぁああ!?」ズリズリ
うぃーん
叔母「うぃーす」
男「何考えてるスかぁッ!? マジで!? や、やめっ!?」
受付「ん? オーナーじゃないっすか」
叔母「サボるなよ」
受付「一言目がそれってなんですかもー、あり? なんです見るからに青いの連れて…」
受付「はっ! そこまで飢えてたんスか?」
叔母「お前も大概だよ」
男「うっ…やっ…ひっ…!」ビクビク
受付「んでー今日は見回りで? それともお客さんとかだったり?」チラチラ
叔母「44号室は空いてる?」
受付「……。そこが埋まるわけ無いデショ」
叔母「たしかにな。男くん、それじゃ行くよ」ズンズン
男「えぇええぇええッッ!?」
受付「ハイ、これ鍵ね。一応、中からでも手動で鍵が閉められるけどオススメしないなぁ」
受付「錠前みたいになってるから、ぷち監禁用なのよ。まー頑張ってねー」ヒラヒラ
男「っ…!? っ……!!?」
叔母「エレベーター、乗り方わかる?」
男「わか、わかるっていうか、本気でこんなところ連れて来て何考えてるんだアンタ!?」
叔母「ここ。私の所有物、オーナー」
男「…へ…?」
叔母「このラブホテルの経営者」チーン
叔母「私の収入源は全部ココで稼いでるってこと。ほら着いたから降りな」
男「………」
叔母「うん。そしてココに連れてきたのには理由があるの」
男「り、理由?」
叔母「この部屋。好きに使っていい、というかココに住めばいい」
男「…………………」
叔母「コレ鍵ね。じゃ」シュビッ!
男「…………………」
叔母「あ。あと晩飯食べたくなったら部屋おいで、出前とってあげるから」
ウィーン バタン
男「………ぇ、ぁ…」
フラフラ
男「……」ガチャ キィ パタン
フラフラ…
男「……」ポスン…
男(理由は……ココにッ…連れてこられた理由は何処に…ッ…!?)ズゥウウン
男「もぅ滅茶苦茶だぁ…今日一日で色々なことありすぎだよ…あの人一人でトンデモナイねぇ…っ」
男「……」チラ
男(よく見なくてもラブホテルだ…凄いよ、見たことねえけど漫画や雑誌通りの光景だよ…)
男「ぐぁー!」ぱたり
男「……疲れたな、今日は…」
~~~
叔母「…」チーン
受付「おや。お早いお帰りで。一分そこらとは随分テクニシャンっすなぁー」
叔母「大事な預かりモンだよ」シュボッ
受付「ん? あ~! あの子が噂の! へぇー! 全然似てないっスね母親と!」
叔母「私も驚いてる」フゥー
受付「そいで結局、何をしに来たんで?」
叔母「今日からあの子をココに住ませる。よくしてやって」
受付「そんな重要なこと一分で済ませたんスか!?」
叔母「まったくいい子だよ、うん」
受付「絶対にココに連れて来るまで説明してないデショ…」
叔母「……」
叔母「本当は私の部屋で一緒に住む予定だったんだ。でも、嫌がられた」
受付「ウチも嫌ッスよ、あんな汚部屋」
叔母「給料減らすぞ。そうじゃない、煙草…煙草がダメらしい」
受付「ヘビーっすもんね、オーナー。そりゃキツイ」
受付「でもでも、ここも大概デショ? 五十歩百歩、芳香剤で誤魔化されてるだけだし」
受付「というかそもそも、あの青いの何歳なんスか」
叔母「高校生」
受付「……捕まりますよ、アンタ」
叔母「バレなきゃイケる。実のところ困ってたんだ、ああまで『似てない』とは思わなかった」
受付「……」
叔母「軽い気持ちで引き受けるんじゃなかったと…今では…うん…後悔、してる」
受付「ほぇー! オーナーも後悔って言葉を知ってるんスね!」
叔母「減給な」
受付「冗談冗談、それで?」
叔母「ああ、取り敢えずは様子見してみる。ダメだったら糞兄貴を説得しに行ってくる」フゥー
受付「出来ますかねぇ…」
叔母「出来るじゃない、やるんだ」
受付「そんときゃ呼んでくださいな。あの人がぶっ飛ばされて説教されてるのを隠れて見ていたいッスから!」
叔母「ああ」スタスタ
ウィーン
叔母「まぶし…」
prrrrrr
叔母「もしもし」
『あーワタシワタシ、妹ちゃん? アイツはどうなった?』
叔母「とりあえず私のところのラブホテルで決着させました」
『相変わらずスゲーな! とんでもねえことになってやがる!』
叔母「義姉さん」
『ん、なによ?』
叔母「あの子は本当に貴女の子なんですか?」
『ん、ああ? うん、正真正銘にワタシの子だよ。びっくりするぐらい似てないけどな』
『喧嘩すりゃ女子にも負け、口喧嘩には噛んでボロ負け、絡まれりゃすぐ金払う』
叔母「全部真逆ですね、義姉さんと」
『ワタシがSなら息子はNだな。昔からワタシに対してだけは反抗的だった』
『とんでもねえぞ。幼稚園通ってる時に自分で名前入りワッペン縫ってたわ、ワタシのやり方じゃ嫌だっつってな』
叔母「やりますね」
『やるんだよ。その通り、そこが唯一ワタシに似た部分かもしれん。偉そうな奴に反抗的な?』
叔母「…義姉さん」
『あいよ』
叔母「ラブホテル、良いですか」
『よくねえよ。もう決まったのなら引っ張りだしてこい、そこに住まわせるぐらいなら無理やり『こっち』に持っていくわ』
叔母「……」
『アイツはまだガキだ。そもそも妹ちゃん、アンタの所に行くのも反対してるんだよ、ワタシはな』
叔母「義姉さん」
『文句か?』
叔母「彼は、私の胸を気にしてるようです」
『……ん?』
叔母「多感な時期に私のような身体は少し、厳しいと思うのです」
『うん。じゃあラブホテルもやめようぜ!』
叔母「大丈夫ですよ。室内テレビが全チャンネル、エロいぐらいで…」
『超ワタシの息子かわいそう! 友達との会話ネタ厳しそうじゃん!』
叔母「彼は我慢強いので…きっと頑張って友達作ると…」
『それは同意するが、なに、逆に自分の身体は我慢できないだろうってか』
叔母「はい」キッパリ
『その意味不明な自信はすごく好きだぜ…』
『まあ、なんだ、少しだけ気になるんだが。どうして息子の肩を持つ?』
『いや、全然息子のために行動してないけどさ。むしろ追い詰めてるけどさ、選択をさ』
『言っちゃえば妹ちゃん。アンタ、ワタシの所に息子を戻そうって思ってないだろ?』
叔母「ええ、まあ…概ねその通りです」
『なんで?』
叔母「……」
『理由次第では認めてやらんでもない。納得できなきゃ、そうだな、うん…』
『取り敢えず今、持ってる権力振りかざしてホテルぶっ潰すぐらいする』
叔母「……」
叔母「そうですね、正直にいいますけど」
~~~~
『…………………………………………そう、なんだ』
叔母「ええ。だから彼には一人の時間が必要だと思います」
叔母「この三年間。彼は彼なりの時間を過ごすべきだと、私は思いました」
『…………………』
『はっ、こりゃまいったね。まったくもって、本当に』
叔母「ご理解ほどよろしくお願いします」
『ご理解も何も、ったく。いいよ、良いって、好きにしていい』
『ワタシのほうも大変なんだ。息子一人を思い馳せる時間なんてもったいないわ』
叔母(電話してきたのに…)
『くれぐれも問題は起こすな。問題はワタシだけが起こす、厄介事は全部ワタシだけだ』
叔母「キャパは既にギリギリと」
『さっき弁護士殴ったしな。また新しいの雇わんと』
『……じゃあ後、頼む』ピッ
叔母「はい、義姉さん。ふぅー…」
叔母(色々と言っちゃった。でも、いっか)
~~~
叔母(男くん来ないな…ピザ冷めちゃう…)そわそわ
prrrrr
叔母「もしもし? 受付またサボって…」
『オーナー! ちょ、来てくださいよ! 早く!』
叔母「なに? どうした?」
『なんていうか、そのっ、説明しづらいって言うかっ』
叔母「彼に何か?」
『え、ええ、そうッスね! そうとしか言いようが無い!』
~~~
叔母「はぁ…はぁ…どうなってる、彼は…?」ウィーン
受付「あ、オーナー!」モグモグ
叔母(もぐもぐ?)
受付「あの子マジで何者なんスか!? こんな、こんな…!」
受付「──こんな美味いチャーハン食ったことねぇッスよ!」ポロポロ
叔母「どういうことだゴラ」
受付「今まで聞いたことも無い声!? こわこわ…っ」
受付「ゴクン、えっと、あはは! 気になるなら44号室に行ってみては…?」
~~~
叔母「君は…」ズゥーン
男「あ。叔母さん、来てたんスか」
ジュゥウウ
男「今、買ってきたお肉焼いてるんですけど。食べます?」
叔母「……………………」
男「えっと、アレ? ん~…あっ! やっぱ匂い系ダメっスか!?」
叔母「え? あ、いやっ、別にホテル内でも食事できるし…販売機もあるし…」
男「よ、良かった~…一応そこは心配してたんですよね、ほら、換気扇一個しか無いし」チラ
男「あとIH調理器持ち込んでも衛生面とか気になってて」
男「そしたら受付さんが除菌一式を貸してくれて」ニコニコ
男「あ! それとそれと! 水場が完璧じゃないから、汚水等はスタッフ室の掃除用下水に流していいですか?」
叔母「え、うん、えっと、うん、いいよ…?」
男「ありがとうございます! よし!」
叔母(この子は…なんというか…)
男「ん? 肉もいい感じかな…」
叔母「似てなくないね、むしろそっくりだ」
男「美味しく焼けた、…ッ…!? 今、絶対にお袋と似てるみたいな含めた言い方しましたよね!?」
叔母「勘の鋭さもクリソツ」
男「マジそれだけは言わないで下さい…! 俺が唯一許せないことなんです、本当に!」
叔母「そっか。うん、わかった」ストン
男「本当っすか…?」
叔母「うん」ニコ
男「っ…なら、イイッスケド…」もごご
叔母「また胸見た?」
男「焼いてるお肉加減を見たんですぅー!」
叔母「そっか。それより美味しそう」
男「…た、食べます? 一緒に?」
叔母「うんうん」こくこく
受付「うんうんッス」コクコク
男「どぅあッ!? い、いつの間に!?」
受付「いい匂いしたッスよ~! こんな芳醇なのは販売弁当じゃムリムリっすからね!」ニパー
叔母「働け」
男「ああ、外に流れた匂いが一階の受付に流れ着くのか…後の課題だな…」ブツブツ
受付「なんかこの子すごいッスね」
叔母「私も驚いてる。けど、今は食べよう」ぐー
男「三人か…じゃあ残りのお肉も焼いてしまおう、シチュー用に買ってきたんですけどね」ガサゴソ
受付「あちゃ~シチューも捨てがたい! しかししかしながら、お肉オンリーの破壊力もまた捨てがたいぃい!」
叔母「あ。ピザ忘れてた」
男「ピザ? ああ、また頼んだんですか…」
叔母「うん。あとで食べる? 朝ごはんとか」
男「流石に重いんじゃ…」
叔母「案外イケるよ」
男「危機感機能して!」
叔母「あ。それと男くん」
男「え、あ、はい? なんですか?」
叔母「……」
叔母「ようこそ、我がラブホテル『スィートランド』へ」
男「──……」
男「…はい、こちらこそ、よろしくお願いします」ペコ
叔母「三年間。楽しもうね」
男「…うん」コク
受付「おにくぅううう! お肉こげちゃうううう!」
男「ハッ!? うぃ、えッと!? た、食べましょうね! ほらいただきまーす!」
受付「だっきまーーす!」
祖母「いただきます」
第一話 終
きまぐれに更新
ラブホテル 44号室
叔母「いますっごく」
叔母「煙草吸いたい」
受付「…」
男「…」
ジュゥウウウ
男「あ、えーと、そうなんですか」
受付「エレベーター前に据え置きあるデショ、行ってきたらどうッスか」
叔母「ん、行ってくる」スッ ガチャ パタン
男「……」
受付「おにっくーおにっくー♪」
男「あの。あの人って、何時もあんな感じなんですか?」
受付「オーナー? ヘビーもヘビーで笑えるぐらい煙草に金かけてる人って感じよ、うん」
男「へぇ…」カチャカチャ
受付「ナニソレ?」
男「お肉のタレです。でも叔母さん、煙草吸う人の割には匂いさせてないですよね」
受付「ま! 匂いフェチ?」
男「話の流れおかしくないですか?」
受付「あははー! まあ匂いがしないのはお姉さんも同意ヨ」
受付「見た目と雰囲気と違って、あと汚部屋と違って匂いだけはしっかりしてるんだよなぁ」
男(なんかポリシーでもあるのかな…)ジュワワワワ
受付「んふふ」
男「な、なんですか? 急にコッチ見て笑って…」
受付「やっぱり気になる? おっぱい大きいオトナのお姉さん気になっちゃうっ?」ムフフノフ
男「むっ、胸は関係ないでしょう!」
受付「ごめんねぇ~受付のお姉さんはおっぱいちっちゃくてぇ~つまんないよねぇ~」くいっくいっ
男(…つまんないとか以前に、会話しづらいテンションが苦手、とは言わないでおこう…)
男「…受付さんも煙草吸うんですか」
受付「吸わないよ? 金無駄じゃんか、あんなの金に火ぃ点けて吸ってる様なモンだし」
男「意外としっかりしてますね」
受付「意外とは何かね? お姉さんびっくりしちゃうワ!」
男「はい、出来ましたよ」スッ
受付「ありがとー!」もしゃもしゃもしゃ
男(叔母さんそろそろ戻ってくるかな…)
受付「うめぇ」
がちゃ
叔母「ただいま」パタン
男「もうお肉が出来てますよ、白飯つけます?」
叔母「食べる」コクコク
男「じゃあチンしちゃいますね、受付さんは?」
受付「ビールビール! ビールがのみたいです!」
叔母「部屋の飲み物使うなよ、使うなら金払え」
受付「あんなの飲まないッスよ! まっずい馬の骨すらわからん銘柄…」
叔母「減給な」
受付「墓穴掘っちった☆」
チーン
男「じゃ、コレどうぞ」
叔母「どうも。それにしても物がしっかりしてきたね、ココも」チラリ
受付「さらっと電子レンジあるし。電気無断使用ってやつ?」
男「い、一緒に運んでくれたじゃないッスか受付さん…」
受付「スタッフルーム用だと思ったのよ、さらっとココに運ばれたのはビビったね」
叔母(いつの間にか仲良くなってるな、この二人)モグモグ
男「あの、叔母さん、駄目でした…?」チラ
叔母「ごくん。別にかまわないよ、好きに使っていいから」
男「ほ、本当っすか!?」
受付「え~携帯の充電したら起こるクセに~」
叔母「金払え」
男「良かった。じゃあ候補に入れてたスロークッカーとか、炊飯器とかも」ニヤニヤ
叔母「好きにしたらいいよ」モグモグ
受付(甥っ子に甘ェなこのおばさん…)モグモグ
叔母「そんなコトよりも男くん。学校の方の準備は?」
男「あ。そろそろ入学式なんで、一応はしてます」
叔母「一応?」
男「実は配達予定の制服がまだ…」
叔母「……あ」
受付「ハイ! 分かっちゃったッスよー!」
受付「等の既に受け取ってたけど汚部屋過ぎて何処しまっちゃったか分か熱づづづづーィッッ!?」
男「えっ?」
受付「ひぃー!? 急に肉を頬に当てないでくださいッスよぉ~…!?」ヒリヒリ
叔母「………」
男「えっと、ホントに、そんな感じだったり…?」
叔母「探してくる」ダッ
男「ちょっとッ!? 逃げるように去らないでくださいよーッ!」
叔母「…っ…ごめん、すっかり忘れてた」
男「いや、まあ、来てるなら別に構わないんですけど」
男「一応は聞いておきます。それ、今日中に見つかります?」
叔母「……………………絶対できるよ」
男「よくそんな表情と間のとり方で断言出来ましたね!?」
叔母「ごめん、段取り良くやっても三日三晩はかかりそう」
男「貴女の部屋は魔窟か何かですか…?」
受付「でも今日から探し始めないと入学式間に合わないッスよ」
受付「──なんで今からみんなで探しに行きましょうか! ネ!」
~~~
男「おじゃまします」
叔母「おかえり」
男「……た、ただいま…」テレ
受付「うげぇ~本当にいつも通り変わらぬ汚さッスね」
叔母「…? なんでお前が居るんだ?」
受付「今日が休みだからッス! あと楽しそうだったから!」
男(休みなら、なんで俺の部屋に居たのだろう…?)
受付「で? 検討ぐらいはついてるんスか?」
叔母「多分、あのあたりかもしれん。駄菓子の当たりぐらいの確率で…多分…」
男「例えが分かりにくんですけど…」
受付「んー? なになに───一昨年のスィートホテルの決済報告書じゃないッスか…?」
叔母「そうともいう」
受付「弁護士ー! 警察でもいいから脱税疑惑でお縄にかけてー!」
男(聞かなかったことにしよう。住む家がなくなる、えっとこの辺はっと)
男「うッ」びくん
男(こ、これは…何気なく掴んでしまったものは疑う余地もなく紛れも無い…ッ!)
受付「使用済みの下着ダヨ☆」
男「余計な情報が付け加えられた! って、ち、ちがっ…!」ブンブン
受付「んまぁー」ニヤニヤ
受付「仕方ないよね、やっぱりワンチャン狙ってたよね、今! 気づかれてない今なら盗めるヨ!」
男「思ってない! 全然思ってないッ!」カァァ
受付「新品の方が好み…?」
男「唐突になに言ってんの!?」
叔母「遊んでないで探そう、見つからないと一番困るのは君なんだから」パッ
男(あ…)
受付「今絶対に『あ…残念…』って思ったよね?」
男「う、うるさいわ!」バッ
ずりっ
男「えっ? わっ!」
ドッシャーン
男「痛たた…派手に転んじまった…」チラ
男(ん? コレは写真か、一枚だけ放り出してあるとは、どうなってるんだ)
男「ん、これ…」ピク
「──大丈夫?」
男「! えっ、ハイ!! 大丈夫っす!!」ササッ
叔母「ココで転んだら危険だよ。絶対に怪我するから」
男「本当にとんでもねぇ部屋ですね…」
叔母「受付。そっちはなんかありそう?」
受付「まったく。オーナー、一張羅のタンクトップばっかり」
叔母「そうか」
叔母「男くん。明日に持ち越そうか、このままじゃ埒があかないし」
男「え? 明日なら大丈夫なんですか?」
叔母「ああ、ラブホテルの従業員の一人が地元から帰ってくるから」
受付「やっとケルケルくん帰ってくるんスか?」
叔母「お土産楽しみにしてクダサーイ、と電話で言ってた」コクコク
男「なんだか自分のことで色々と迷惑を…」
叔母「いや、私が原因だもの。頑張らせてもらうよ、いっぱい」ムフー
男「自信満々に言われても…」
受付「よく考えりゃいい時間ッスね。もうこのままオーナーの家で泊まっちゃいます?」
男「何を言ってるんですか、迷惑ですって」チラ
叔母「………」わくわく
男(──アレッ!?)バッ
受付「まあ三人も寝る場所ないし、やっぱ無理かー」
叔母「そっか…」
男(やりたかったのなら掃除しましょうよ…)
受付「キミがお酒飲めりゃお姉さん、一緒これから飲み行くのにな~」
男「高校生、高校生ですからね、俺」
受付「お姉さん中学の頃から飲んでたヨ?」
男「ダメな大人だぁ~…」
叔母「私は煙草もやってた」
男「なんてダメな大人たち!」
受付「今じゃ不良ぶりでかっこつけられないんですね、カルチャーショック」
叔母「だな…」シュボッ
祖母「…む…」ピタリ
グリグリ
男「? どうしたんですか、点けたのに直ぐに消して。別に俺はちょっとぐらい構わないですけど」
叔母「………」
受付「ムフフ。んじゃオーナーまた明日!」スタスタ
男「あ、じゃ、じゃあ俺もこれで」
叔母「ん」フリフリ
男(なんだろう、急にどうしたのだろうか)
数日後 44号室
叔母「……………」ソワソワソワソワ
叔母「煙草吸ってくる」ガタリ
男「あ、はい? どうぞ行ってらっしゃい」
バタン
男「なんか様子が変だな叔母さん…」
受付「そりゃ煙草吸えてないからデショ」モグモグ
男「…さらっと居ますよね、俺の部屋に」
受付「従業員足りなから部屋の点検中。ケルケルくん飛行機延期で戻ってこないし」
男「そうなんですか。大変ですね、あと俺の晩飯ですよソレ」
受付「キミのご飯の匂い凄いんだもん…お姉ちゃん一本釣りよほんとぉ…」
男「お金貰ってるから別に良いですけどね…」
受付「それよかオーナー、あのそわそわっぷりは家で煙草吸ってないと見た」
男「え、なんで?」
受付「みんなでやる制服家宅捜査が延期になったからじゃん? ケルケルくん帰ってきてないから」
男「えっと、それがどのように関係が?」
受付「ズバリ、匂いデショ! キミの制服がある部屋で煙草吸ったら匂い染み付いちゃうかもって!」
男「……………」
男(え? いまさらすぎ無い……? 予想では既に半月はゆうに過ぎてるのに……?)
受付「なんて不器用な人なんだろーね」ニヒヒ
男「ま、まあ、気にしてもらってるのは嬉しいですけども」
受付「うん、これじゃ入学式間に合わないよねこりゃ」
男「ですよね…うん…」
受付「ま、いざとなったらお姉ちゃんの貸してあげるからヘーキヘーキ」
男「平気じゃない、全然平気じゃない」
受付「まだちゃんと着れるよ?」
男「性別の問題ですけど! …え、なんで試着具合を未だに知って…?」
受付「そりゃあ」
男(ハッ!? まさか俺は下ネタの前ふりをしてしまったんじゃ!)ビクッ
受付「ディズニーを学生料金で入るためだよ?」
男「ものっそしょうもねぇ!」
受付「………下ネタだと思ってたデショ?」ムフフ
男「おっ!? お、思ってないですぅー!」
叔母「ただいま」スッキリ
男「あ、おかえりなさい…」
叔母「うん。あと受付、働け」
受付「ついでとばかりに! へへーい、ただいま働きますよーッス」サササ
パタン
男「あの、大丈夫ですか、叔母さん」
叔母「? なにが?」
男「え~と、まあ色々とあるかなと思いまして」
叔母「私のことより、自分のことを心配した方がいいと思うけど」
男(確かにそうだ…)ダラダラ
叔母「ケルくんが明日も帰ってこれなそうなら、もう家中ひっくり返して探すから」
男「それこそ本当に大丈夫なんですか…っ?」
叔母「死なないと思う」
男「生死を伴なうの!?」
叔母「大丈夫。君は来週の入学式だけ考えればいい、そもそも私が原因なんだから」
叔母「じゃ、もう帰るよ。またね」フリ ぱたん
男「ええ、また…」
男(マジで大丈夫かな…見つからない不安より、あの部屋で怪我しそうな方が怖すぎる…)
男「………」チラリ
~~~
叔母「………」ガサゴソガサゴ
叔母(見つかる気がまったくしない)フゥー
叔母(改めて思うけど、なんだこの部屋。魔界にでも繋がってるのか)
叔母(そもそも物が多すぎるせいだろうな。小金持ちって怖い、ドンキばっか行くもんなぁ)
叔母「……!」ポクポクチーン
叔母「もう少し大きな部屋に住めば全体的に良くなる…?」
男「根本的解決になってないッ!」スパーン!
叔母「わっ!」ビクゥ
男「黙って聞いてれば末恐ろしいこと思いつきましたねっ」
叔母「男くん、どうしてここに?」
男「それは…」ビクッ
叔母「鍵はどうやって?」
男「まったくその通りですよッ!? なんで一人暮らしで夜中に鍵閉めてないんですか!? ビビりましたよッ!」
叔母「しー、静かに。夜中だよ」
男「じゃあ鍵閉めてくださいよ…っ! 不用心過ぎますって…!」
叔母「わかった。善処する」コクコク
男「本当にですか…? もう、心配になりますよ…」ハァ
叔母「それで、なにしに来たの? コッチに住むの?」
男「い、いえ、そうじゃなくて、その」
男「一緒に探そうと思って来たんです。なんだか、とても不安になりまして」
叔母「あ…本当に、ごめんというか…」
男「──一人で探してる姿想像したら、入院コースまで浮かび上がりました」
叔母(この子の中の私って一体)
男「とにかく俺も一緒に探します! 残りの日数も少ないですし、二人でやれば見つかりますよ!」
叔母「でも汚いよココ?」
男「いけしゃあしゃあと言えましたね! 知ってますよもう!」
叔母「ん、ありがと。君が一緒なら私も嬉しい」
男「え…あ、はい…」ドキ
ゴッチャアアア…
叔母「もうここまで来たら寝る場所もないから…手伝ってくれないと立って寝ることになる…」
男「…………………」
~~~
男「ふう、あらかた片付いたかな、一応は」
叔母「ん、ありがと」コクコク
男(寝る場所確保しただけで、未だ制服は見つかってないけどさ…)
叔母「おや? これは…」ヒョイ
男「なんですか? あ…」
叔母「随分と懐かしい写真だ、私が高校生の頃かな」
男(やっぱり、この前来た時に見た写真だ)
叔母「…………」
男「なんだか当時から変わってないですね、叔母さんって」
叔母「胸のこと?」
男「褒めてたのに! 褒めてたのにぃ…!」
叔母「まあどうしてか当時から見た目が変わらなくてね」
男「へぇ、凄いですね。そういうのって女性的に嬉しい事でしょう?」
叔母「いや、今でも煙草と酒買うと店員に止められるから。面倒い」ブンブン
男「まったく褒め損ですよ貴女って人は!」
男「っていうか、よく見るとこの制服って」
叔母「うん。その通り、君が今度から通う学校と一緒」
男「OGだったんですか。じゃあ当時から知ってる教師も居たりします?」
叔母「というか同級生が教鞭をとってるよ」
男「おぉっ」
叔母「もう既に甥っ子が通うからヨロシク、と伝えておいたから」
男「な、なんだか逆に緊張しますね、それ。予め相手に顔が知られてるって」
叔母「んー…っと…胸が、小さいかな…?」
男「うん。親切心で相手のこと教えてくれたんでしょうけど、そういうの要らないです」
叔母「大きいほうが好きだもんね」ニコ
男「アンタそういうの相手に伝えてないでしょうね!?」
~~~
男(駄目だ、見つかる兆しすら無い。何故に衣服系と乾燥麺が同じ箱に入ってるんだ)
叔母「…………」ガサゴソ
男「今日はこの辺にして、また明日にしませんか? 十二時回りましたし」
叔母「ん? ああ、布団敷こうか?」
男「いや、今度は布団探しの旅になりそうなんで大丈夫です」ブンブン
叔母「そっか…」
男「寝るなら部屋に戻りますよ。あと、俺から一つ言いたいことがあって」
叔母「なに?」
男「………」じぃー
叔母「?」
男「煙草、吸ってもいいですから、大丈夫ですよ、俺」テレ
叔母「……」ピク
男「気にしてくれてるようなんで言っておこうかなと、確かに匂いとか煙はダメですけど」
男「──叔母さんのなら、別にいっかなって、思ってたりして…」ポリポリ
叔母「それは…」
男「えっとぉー!? 変に深い意味は無いッスよ!? ただ俺的に気にしないって話で!」
男「例え制服に染み付いちゃっててもファブればイケるって思いますしねっ!」
叔母「男くん」スッ
男「はいぃッ!?」ビックゥウン
叔母「──有難う御座います、心の底から感謝します」キリリ
男「…ハイ…」
シュボッ スッパァー
叔母「送って行こうか?」
男「大丈夫ですって、もし絡まれたらお金払いますから」
叔母「君、覚悟の方向性がたまにおかしいよね」
男「よく言われます。それじゃ、また明日」
叔母「ん…」フリフリ
パタン
叔母「………」スゥ
叔母「はぁー…ダメだな、我慢できないなんて」
叔母(このままじゃ彼と一緒に住めないな)スタスタ
ガラガラ ヒュウウ~…
叔母(本当に私みたいな大人は悪影響だよ。煙草もしかり、人間性もしかり)
叔母「おっぱいもしかり…」フゥー
叔母「…この写真と同じ歳か、最近の子は凄いしっかりしてるなあ」クル
『○月?日 クリーニング回収日 忘れるなよ、私』
叔母「──………」
叔母「あ~……なる、ほど~……」
次の日 叔母宅
男「──クリーニング屋に出しっ放し、ってオチでしたか」
叔母「本当に申し訳ない」ペコリ
男「い、いや見つかったなら別に…」
叔母「じゃあ部屋を綺麗にしてもらったお礼を」
男「ええ、その点に関してだけは受け取っておきます…今を常に維持してくださいね、本当に」
叔母「善処する」コクコク
男「本当に感謝してます?」
叔母「もちろん」キッパリ
男「まあ、無事に見つかって何よりですよ。一時はどうなるかと思いましたけど」
叔母「面目ない…まさか写真の裏でメモ代わりにしてたとは…」
男「俺もびっくりです。思い出のへったくれもないですよね、その扱い方」
叔母「多分、高校生、制服、という要点を抑えとけば大丈夫だろうという感じだと思う」
男(物の下敷きになってた時点で要点もなにも…)
男「じゃあ、受け取りに行ってきますね。叔母さんはこれから仕事でしょうし」
叔母「何から何まで…」
男「良いですって。むしろクリーニングに出して頂いて有難いです、あと、住所の方を…」
叔母「ん? ああ、それなら」ピラリ
叔母「この写真の裏に書いてあるから持って行っていいよ」
男「写真の万能感やばいっすね」
叔母「うん。ついでに捨てて良いから、それ」
男「へっ?」
叔母「別に高校時代に思い入れあるワケじゃないし、今になって思うとそれがメモ帳に使った理由かもね」
男「いやにさっぱりし過ぎじゃないですか!?」
叔母「だから捨てていいよ。私じゃ捨てるのも面倒くさがりそうだもの」チラ
叔母「行く準備しなきゃ。それじゃ男くん、またラブホテルとかで」ビッ!
パタン
男(なんちゅう人なんだ、写真を捨てろと。甥っ子に思い出の一部を捨てろと言うのか)チラリ
男「………」ドキ
男(…別に好きにしていいなら…モゴモゴ…俺が持ってても、うん、別にいいよな、良いよね!)ゴソゴソ
オマケ
受付(ん。通路におとしものだい、おっとこりゃ彼のじゃないのん?)ヒョイ
受付「意外としっかり入ってるね、まあ親切なお姉さんが届けてあげようじゃんか」スタスタ
受付(あとでお礼に三割ほど貰おう。ご飯的な意味で)ぱかり
【高校時代の叔母の写真】ペカー
受付「…」パァン!
男「あ。受付さん良い所に、俺の財布見ませんでした? この辺で落としたと思うんですけど」
受付「キミ…」ユラァ
男「? なんですか? あ、それ俺の財布…あっ!? もしかして中身みたんじゃ…っ」かぁああ
受付「──これ複製して頂戴! なんか知り合いに高く売れそう!」カッ!
男「早く返してください」
【取り敢えずご飯作ってあげて証拠を揉み消した。】
第二話 終
きまぐれに更新ノシ
ススッッ パチン
男「──……」スッ
男「うん、ぴったりだ」
受付「おー」パチパチパチ
叔母「おー」パチパチパチ
男「ど、ども。というか何故に拍手を…」
受付「そりゃ当たり前。ナマ高校生とか超レアだし」
叔母「……」コクコク
男「ナマ高校生て…」
受付「電車や街で見るとは違った感じッスよね、こーいうのは」
叔母「まあココ、ラブホだしな」
受付「そうそこ! ラブホ内で学ラン着替える高校生! …なんかエロいよね?」
男「当人に訊くな」
叔母「しかし、久しぶりに学ラン着てる人なんて見たよ」
男「そうなんですか?」
受付「オーナー出不精だから。ここら周辺しか出歩かないし」
叔母「行きたいところがありゃ行くよ。今はそれが無いだけ」
受付「そんな格好つけが様になるのは二十代までッスよ?」
叔母「そしたらお前もそろそろ終わりだな、煙草吸ってくる」ガタリ
受付「人が気にしてるコトさらりとッ!」ガーン
男(あれ、いつの間にいい時間だ。まあ試着も済んだし、買い物でも行こうかな…)プチプチ
受付「出かけるの? ならそのままでいいじゃん。学ランで買い物行ってきなよー」
男「…ココから学ラン姿で外に出ろと?」
受付「明々後日には通う日々になるのに、今更気にしてどうすんのさ青少年」
男「こ、心の準備というものがあるんですよ!」
受付「ならいち早く慣れないと駄目じゃんか、それともお姉さんと一緒出る?」ムフフ
男(誂われてる…無視無視…)プチプチ
受付「……。ねえお願いがあるんだけど良いかな?」
男「なんですか、晩御飯の要望なら掛けてあるホワイトボードに書いてくださいよね」
受付「ウチにボタン外させてくれない?」
男「……。は!? なっ、なに言ってるんですか急に…!?」
受付「やーははーだってリアル十代の子のボタン外すとかレアちっくで」
男「レア度でさっきから測り過ぎじゃない?!」
受付「む。舐めちゃ困るぞー? ちゃんと当時に同級生のボタン外してるぞー?」
男「い、いや…そういうことを言いたいわけじゃなくって…!」
受付「ウチの願いは、そう。年を取った今のウチが、十代の子を脱がす経験がしたいの!」
男「駄目だこの人! 話を聞いちゃくれねえ!」
受付「うへへ…減るもんじゃなしに、その第二ボタンをくりくりっと外させてくれよぉ…」ジリジリ
男「うっ、おっ、マジで詰め寄ってきた…ッ! だ、誰か助けてーッ!」
受付「にゃははー! ここはラブホだぜ! 悲鳴なんぞプレイの一つで片付けられるわッ!」ババッ
ドッガラガッシャーン
受付「ハァッ…ハァッ…華奢な背格好して、中々どうして…!」ハァハァ
男「アンタも必死すぎだろッ! どんだけ脱がしたいんだ俺のことを…!?」
受付「ああ脱がしたいともッ! 心底脱がしたいねッ! 」
受付「ついでに写真でも撮ってダチに見せびらかして自慢してやるのさ!」バッ
男「動機が全て不純過ぎる!」
叔母「ただいま」ガチャ
受付「ゲヘヘーェ! あわよくば売りさばいてやるんだからぁー、あ」
~~~
受付「ズビバゼンデビダ」
叔母「本気で減給するぞ、お前」コキッ
男(酷い目にあった…どうして制服ごときでここまで疲れるんだ…)
叔母「もういい。就業時間はとっくに過ぎてるだろ、帰れ」しっしっ
受付「うぇーい…ごめんね、お姉さんちょっと調子に乗りすぎちゃったよ…」
男「え? いや別にそこまで、気にしてないんで大丈夫ッスよ…」
受付「あ! やっぱり?」
男「という建前です。今度やったら晩飯作りませんよ、一生」
受付「それだけは…ご勘弁を…低コストでおいしいご飯…」ヨヨヨ
叔母「そういや男君はこれから出かけるの?」
男「あ。はい、買い物に行こうかなと」
叔母「晩ご飯か。ならついでに私も一緒に行こうかな、商店街の方に用事があるから」
男「商店街? このへんにあったんですか?」
叔母「あるよ」
男(全然知らなかった。何時もならドンキやスーパーで済ませてたし)
男(それにしても商店街かぁ…なんだか良い響きだ、なんとなく良い買い物が出来そう…)ワクワク
叔母「と、商店街と言ってもほぼ飲み屋街だけど」
受付「あそこ繁華街の延長線上にあるから、行くまでにキャッチが凄いのなんの」
男(なんと短い期待間)ホロリ
叔母「でも並んでる商品や物の安さは保証する。知り合い多いし、値引きしてもらえるかも」
男「値引きとか出来るんですか!? 凄いですね…!」ぱぁぁあ
叔母「ん…」テレ
受付「でもオーナーって商店街の連中によく思われてないッスよね」
叔母「大丈夫だろ。彼を連れていれば面と向かって文句も言われまい」
受付(この人、甥っ子ダシにして用事済ませるつもりか)
男「準備出来ました! さっそく行きましょう!」ニコヤカ
受付「ううっ…頑張ってね、お姉さん応援してるから…」ホロリ
男「? ええ、まあ安いの買ってくるよう頑張ってきますけど…?」
受付「ってか、あれ? 学ランのままで行くの?」
男「叔母さんがこっちでと。この格好で買い物だと変に思われるんで遠慮したいんですけどね」
男「ほら。家庭が苦労してるのかな、とか…」ポリポリ
受付「……っ…」ボロボロ
男「貴女は事情知ってるでしょ!? 何故泣いてるんです!?」
~~~
叔母「ん、ここから商店街風になるんだ」スタスタ
男「おお…確かに雰囲気がガラリと変わった…」
叔母「あそこがタバコ屋。そこがスィートホテルと組んでるレストラン」
男「ふむふむ」
叔母「酒屋はあそこで、八百屋もある。精肉店もあって結構充実してる」コクコク
男「凄いですね! 色々と言ってた割には普通に商店街じゃないですか!」
叔母「そう? なら良かった」
男(…しかし)チラ
「来たぞ…」
「チッ…今日は子供連れか…」
男(妙に各店員さん達にマークされてる気がするのだけれど…)ダラダラダラ
叔母「そういや、今日は何を買うつもりなの?」
男「ええっと、卵に野菜に、あと貝系とか。クラムチャウダー作ろうと思ってるので」
叔母「くらむちゃうだー?」
男「具沢山のスープというか…えぇと…まあシチューみたいな感じです!」
叔母(段々とバリエーションが増えつつあるな、この子。凄い)
叔母(でも私が作れるようになれば、もっと彼から負担を取り除けるのでは)
叔母「それは簡単に作れるの?」
男「そう、ですね。シチューより短時間でさっと煮て、具材も細かく切ればいいだけですから」
叔母(なにやら簡単そう。私でも作れそうかな)
男(何やら食いついてくるな叔母さん、そういや前に作ったシチュー美味しいって…)
男(ハッ!? しかしクラムチャウダーはシチューっぽいけど明確には違う! 期待させる前に…っ)
叔母「へー。なら今日は私も手伝…」
男「違いますからね!? 期待しているほどものじゃないですからねッ!?」
叔母「は、はいっ…! すみませんでした…っ?」ビクゥッ
男「分かっていただけたなら良いですけど…」ハァ
叔母(これからは料理に関して浮ついた質問するのはよそう…恐い…)ドキドキ
男「あ! あそこ魚屋さんですかね? 貝柱とか買いたいんで寄っていいですか?」
叔母「ど、どうぞ」
男「すみませーん」
店主「へい、いらっしゃい」ギョロッ
男(怖ッ!! え、明らかに堅気じゃない眼つきに雰囲気なんですけど…!)
男「あ、あの、その、カイバシラ…をカイタイ…ですけど…」モゴモゴ
店主「あぁんッ!? きこえねぇーよ坊主、もっとしゃっきり喋れ」
叔母「? どうした?」ズィ
男「お、叔母さん…」
店主「あっ! オメー…ッ…すぃーとほてるのッ! どの面下げて来やがったんだ!?」
叔母「………」
男「も、もう帰りましょうよ…? 変なことが起こらないうちに…」クイクイ
叔母「それ、一つ」
店主「はぁッッ!?」
男「お、叔母さん! もう良いですって! 違う所で買いますから…!」
叔母「いや、そうじゃなくて。それ一つだけ鮮度落ちてるから」
男「え?」
叔母「あとその鮭、値段の割には油のってない。二流品流されるなんて腕が落ちたな、アンタ」
店主「お前ッ──」メキィ!
店主「──うわぁああんッ! だからこの嬢ちゃんは嫌いなんだよォオ! いっつもいっつもよォ!」オーイオイ
叔母「私は悪くない。三流品を置いとくほうが悪い」
男「こ、これはどういう…」
叔母「ああ、昔から鼻が良いんだ。匂いとか敏感でね、食材なんて鮮度は匂いでわかる」
店主「いぃーよもォう! もってけ泥棒ぉー! 半額どころか三分の1で売りさばいてやったる!」
叔母「買った」チラ
男「……」キラキラキラ
叔母(ん、ちょっとは叔母としてカッコ良いところみせれたかな)フッ
男「いや、普通に鮮度が良いのが欲しいので。普通に買わせてください」
叔母「………………………」
~~~
男「何やら沢山オマケを貰ってしまった…」モッサリ
叔母「気に入られたね、男くん」
店主「坊主ゥー! 今度またウチで買って行ってくれよォー!」ブンブンブン
男「あはは、…それも叔母さんのせいでしょうが」
叔母「なんで?」キョトン
男「店主さんが言ってたでしょう!? 叔母さんがここら一帯を脅して、タダ当然で持って行くって!」
叔母「本当のことを言ってるまでで…」
男「一時間レベルの鮮度を当てられると、あっちもトラウマになりますよ…」
叔母「む」
男「良いですか? ああいうのはわざとほんの少し鮮度低いのを置いとくんです」
男「そしてお客さんにサービスとしてオマケをつける。それが商売繁盛の秘訣なんですから」
叔母「う、うむ…」
男「許容範囲を、重箱の隅をつつくように責められたら可哀想ですって」
叔母(高校生に叱られる私って)ポリポリ
叔母「まあ気をつけるよ、君がここで買い物しづらくなったらアレだしね」
男「………」
叔母「どうした?」
男「いや、よく考えれば相対的に俺が安く買えるんじゃないかって…飴と鞭みたいな…」
叔母「さっきまでのアドバイスだったの? なら頑張るけど」
男「ち、違います! やっぱり気持ちよく買い物するのが一番です!」
叔母「なんだ、違うのね──婆ちゃん、煙草一つ」
「あら、ホテルのところの。珍しいわね買いに来るなんて」
叔母「今日は雨降るよ、洗濯物早めに取り込んでおいといて」ジャラジャラ
「それは恐いわね~ふふふ~いつもの十番よね、はいはい」
男「……」ポケー
「あら? どうしたのこんな小さい子連れて」
叔母「親戚の子供だよ、預かってる」シュボッ
「あらあら、確かにどこかお嬢ちゃんと面影が似てるような」
男「ど、どうも」ペコリ
男(優しそうな人…)
「あらあら、じゃあ貴方は何番を買うの?」
男「……!? 制服着てますよね俺!?」
「うぅん? あぁごめんなさい、私ってば目が悪くて…」
男「あっ、すみません…!」
「いいのよ気にしないで。取り敢えず、高校生にはライト系がおすすめよ?」
男「話の軸が変わってなくないですか!?」
叔母「あんまり誂うなって、真面目な子なんだから」フゥー
「ウフフ。いいわねぇこういうの、おばさんたのしくなっちゃう」
男(なんでこう叔母さんの周りの人達は濃ゆいんだ…)
叔母「さっき魚屋のオッサンに会ってきたよ。相変わらずの顔面だね、アレ」
「完全に過去に人殺してる面してるものね~笑うぐらい下戸なのにー…」
叔母「そりゃアンタが大酒飲みなだけだよ、歳を考えな歳を」
「あらまあ、まだまだイケるから期待してて」
叔母「長生きしてる方に期待したいんだけど…」
叔母「まあいいや。元気そうだし、これからもちょくちょく買いに来るよ。それか、この子が来るから」ビッ
男「俺に煙草を買わせるつもりですか…?」
叔母「もう店員に顔が割れたし、平気だよ」
男「それ悪い方向で使う言葉ですけどね!」
「大丈夫よ。君が買いに来ても怒ったりしなから」
男「なんで妙なニュアンス含めた言い方を!? 俺は吸いませんってば!」
叔母「ね。この子すごいでしょ」
「新たな期待の星ね。突っ込みキレッキレじゃない」パァァァ
男(こん人たちはァー…ッ!)
~~~
男「つ、疲れた…」
叔母「君、いたる店で突っ込みしてたもんね」
男「褒められてるんですか、それは褒められてるんですか」グテー
叔母「大人たち相手に怖じけることのない姿は凄いと思う」コクコク
男「したくてしてるワケじゃないっすよ!?」
叔母「その分、安く買い物出来たから良しとしようよ」
男「そ、それは確かに行幸でしたけどねっ!」プイッ
叔母(これがケルケル君が言ってたツンデレかな?)
男「って、いうか。叔母さんの用事は良いんですか? もう帰り道ですけど」
叔母「ん? もうとっくに終わってるよ、ありがとう」
男「……? もろもろ含めてどういう意味です?」
叔母「私は商店街の連中に気に入られてないからね、あんまり来れないんだココには」
叔母「ふと気になっても気軽に来れる気がしない」スッ
男(あ。そういや煙草屋のお婆さんと喋ってる時、すごく楽しそうだったな)
男(他の店でも警戒度マックスだったけど、会話してる姿はみんな最後は笑顔で───)
男「──良かったですね、今日はこれて」
叔母「うん。良かったよ」コク
男(普段は周りのこと全然気にしてない感じだけど、ちゃんと想ってるんだなあ)ニコニコ
叔母「さて、それじゃあ」
叔母「見た限りの売上ぶりを兄貴に報告するかな」
男「ん?」
叔母「うん? だから君の父親で私の兄貴が、ココの商店街潰そうとしてるから…」
叔母「数ヶ月に一回見回りしに来てるの。その代表が私、面倒くさいんだよねコレ」
男「なにそれ恐ッ! そりゃみんなに嫌われるしみんなヘコヘコするわ!」
叔母「そうでもないよ。普段は面と向かって文句言ってくる強者揃いだよ」
男「ちょ、ちょっと待って下さいよ…!? じゃ、じゃあ俺の正体がバレたらどうするんですか…!?」
叔母「そりゃ巨悪の代官様の息子となれば、うん」フゥー
叔母「そういや、くらむちゃうだーって美味しいの?」
男「誤魔化しが下手くそ過ぎるッ! だァー!? 明日から買い物しずらァーいッ!」
叔母(しずらいだけで行くんだね、凄いなこの子)プカァ
男「あぁもうどうしよう…っ」
叔母「大丈夫。きっとバレても売り物ぼったくられるだけだから」ニコ
男「その時点でアウトなんですけどねェ!?」
~~~
受付「あれ? じゃあ全ヘイトを彼に集める作戦じゃなかったんッスか?」
叔母「そこまで考えてないよ私でも…」
男「帰り際で末恐ろしいことサラッと言った人が何言ってるんですか」コトコト
受付「泣いて損したじゃん。じゃ今度からはハラドキの買い物展開なんだねガンバ!」
男「面白がってる所アレですけど、あそこで買い物できないなら食費あげますよ」
受付「今度からお姉さんの弟だって騙っちゃう?」
男「ちょっとは同情とかないんですかねェ…!?」
叔母「その点に関しては安心していいよ、男君」
男「え?」
叔母「君が兄貴の息子だとバレる前に、先手を打っておいたから。明日から普通に行けるよ」
男「いつの間に…叔母さん…」キラキラキラ
受付「じゃあなんスか? 商店街での彼の立場って?」
叔母「ああ。私の恋人になってた、なんかココのラブホに一緒入ってるの見られてね」
男「………」カランカラーン…
第三話 終
気まぐれに更新ノシ
男「よっと、これで準備よし」
男(明日はやっとこさ入学式だ。制服もカッターシャツもピンっとノリが張ってある)
男(なんの不都合なく迎えることが出来るぞ…!)
男「…そうであっても、まあ他で不安は有り余って凄いことになってるけど」
受付「いまさらじゃんか」ズルズル
男「例の如くまた俺の部屋に来ましたね、受付さん」
受付「おばんわー、この時間帯って妙にお腹が空いちゃうのよね。てへっ」
男「まあ暇してたんで構わないですけど…」チラリ
受付「ん? ああ、下は大丈夫よ? ケルケル君が受け持ってくれてるからー」
男「ああ、そういや帰ってきてたんでしたっけ? 確か清掃係の人ですよね」
受付「えーっと、多分だけどキミと歳近いはずだから気軽に話しかけてみなよ」
男「えっと、まあ、はい…機会があれば…」
受付「どったの微妙そうな顔して」
男「い、いえっ! その、だって、その人ぱっと見た限り───外国人じゃないですか」
受付「日本語上手よ? むしろお姉さんより礼儀わきまえてるし」
男「最上級の謙譲語ですね、それ。日本語では負けないでくださいよ」
受付「いやいや、若くして他国に渡る根性に勝てやしないよぉ」
受付「特にケルケル君は趣味だけで日本に来た強者だから、やばいよ彼は」
男「趣味、ですか」
コンコン
受付「おんや? 噂をすればケルケル君じゃない?」
男「えっ!? な、何故に俺の部屋に…っ」オソルオソル
ガチャ
男「ど、どなたですか…?」キィ
清掃「………」きょとん
男(わわ! やっぱりケ、ケルケル…君…が居る! ど、どどどうすればっ!?)
男「あ、あのっ! えーと、えくすぷれっそ、じゃなくて! そのっ!」
清掃「………」
清掃「!」ポンッ
清掃「ワオ! きみがownerのオイッコーのオトッコー!?」パァァアアア
男「ひゃいっ!? そうですッ! よっ!?」
清掃「ハジメマシテ! ボクはケルケルです! よろぴこ!」ビッ
男「よ、よろぴこ…お願いします…?」
清掃「え? ヨロピコオネガイシマス!? なにそれ復活の呪文とか!?」パァァアアア
男「ん!?」
清掃「えーと、んーと、じゃあじゃあドラクエの復活呪文噛まずに言える勝負ね!」
男「ドラク、えっ? なに? 何の話を…?」
受付「やほーケルケル君、どったのー?」
清掃「あ! フォクシーはやく戻ってこい! owner怒ってたよ!」
受付「げにッ!?」
清掃「ゲニゲニ! 戻らんと、えーとえと、ドハデなPlayした部屋を掃除させるって…」
受付「カレーうどん食ってる場合じゃねぇ! さらば二人共!」ババッ
清掃「バァーイ!」ブンブン
男「あ、はい、がんばってくださいね…」フリフリ
パタン
男(いつの間にか来て嵐のように去る人だな相変わらず)
清掃「………」にこにこ
男(──そして何故っ…彼はここに残ってしまっているのだろう…!?)ダラダラ
清掃「えとえと、んー、オトッコーでいいんだよね?」
男「え? えっと、それ俺のこと言ってるの…?」
清掃「名前知りたい! ボクが名前知るの好き…知らないと満足できないから!」ニッコニコ
男「そう、なんだ。えっと俺の名前はあってるけど、イントネーションが違うかな…」
清掃「ワオ! マジデ? どんなのどんなの?」
男「お・と・こ、男って感じ」
清掃「お…と…こ…ゆっくりね! ゆっくりオトコ! こうっ? こんな感じ? オトコ!」
男「う、うん、そうそう。あってるよ」
清掃「ありがとうオトコ! いいオトコオトコね!」グッ
男(なんだかハイテンションな人だなあ。もう十二時回りそうなのに、超元気だ)ポリポリ
清掃「……………」
男「…………」
男(…!? ヤバイ! 静かになられても困る! 会話的な意味でッ!)ドキドキドキ
男「あ、あの! け、ケルケル…君で良いんだよ、ね? 皆そう呼んでるから…」
清掃「うんっ! ボクはケルケル、FullNameは超長すぎダルいから!」
男「そ、そうなの? そういやケルケル君って何処の人なの?」
清掃「タイだよ! ボクはタイ人! タイ人みーんな長い名前大好き!」ニコニコ
男「へぇ~ちなみにケルケル君の名前って?」
清掃「んーっと、日本語っぽくいうとー」
清掃「けるじがけるどっとけるだびんどけるでぃーくけるどっく!」
男「長い! どんだけケル入ってるの!?」
清掃「タイは長い名前つけるのカッコイイ、だからボクも自分でつけた!」
男「すげぇ!! 名前自分でツケられるんだ!?」
清掃「うんうん! …かっこいい? オトコもカッコイイ思う?」モジモジ
男「う、うん…魔法の呪文みたいでカッコイイと思う…?」ハッ
男(し、しまった!? 変な感想を述べ──)
清掃「へへっ!」テレッ
男(──超嬉しそうだからいっか!)
男(しかし立ち話もなんだし、上がってもらおう)イソイソ
清掃「オトコ? なにそれ?」キョトン
男「ん? これは座布団って言って、ああ、他の部屋には無いもんな」
男「あんまり椅子で生活する習慣がなくって落ち着かないんだ、だからドンキで買ってきた」
清掃「床、掃除してる?」
男「もちろん。あと安物のカーペット買ってもうちょっと居心地良くするつもり」
清掃「ほぇーオトコすごい。でもなんでラブホで充実しようとしてるの?」
男「ええ…確かにそのとおりですよね、ええ…」ズーン
清掃「?」
男「ま、まあ取り敢えずお茶でも飲む?」
清掃「好き!」
男「おおっ? それはよかった、じゃあ用意するから待っててね」ガチャガチャ コポ…
清掃「うんっ! すわってまってる!」ストン
男「はい。どうぞ、安物のお茶パックでごめんね」
清掃「ソチャですが! ってやつ? ボクそれ好き、日本のお茶美味しいから」
男「そうなの?」
清掃「うん! 公園のお水ガブのみ出来るのやべえ思うんだ、これ」
男(とりあえず日本が凄いんだと捉えよう…)
清掃「っ……っ……っ……」キョロキョロ
男「づづ、ん? どうしたの?」
清掃「あっ! え、えとね、その、ね…」モジモジ
男「うん?」
清掃「……………」じぃー
男(うっ、なんだろ。この妙に熱の篭った視線は)
清掃「その…オトコはぁ~…げ、げーむとか、したり…する?」チラチラ
男「え、ゲームって、こうやってコントローラー持ってするやつ?」
清掃「………」コ、コクコク
男「ああ、ごめん。俺はそういうのあまり、興味がなくて」
清掃「あ…」
清掃「…ソウナンデスネ…」しょんぼり
男(あぁっ!! すごいしょんぼりしてる! そ、そうかそこを期待されてたから、部屋に残ってたのかっ)
男「ご、ごめんね? 俺も引っ越してきたばっかりだから」
清掃「!! じゃ、じゃあ荷物きたら入ってたりする!?」
男「えっと、トランプとか?」
清掃「……………………」ズーン
男「そういうのじゃないよね! ごめん!」
清掃「ううん、オトコ悪くないよ。ボクが勝手に期待しすぎた、ごめんなさい」ペコペコ
男「あ、うん、でもケルケル君はゲームが好きなんだね」
清掃「好き! だって日本のゲーム超たのしい!」
男(へぇ、俺の周りじゃ皆ゲームなんて興味ない人ばっかりだったからなぁ。凄い新鮮だ)
清掃「だからボクは日本きた!」
男(うん、このレベルは他と比べたら失礼だ。凄すぎる趣味力)
清掃「でももっともーっと楽しいことあるよ。日本やばすぎ、なんでリアルに人描ける?」
清掃「アニメやらコミック、みんな人っぽくて良いの。ド変態ばっかだよね日本!」けらけらーっ
男「そ、そうかな? そこら辺もあんまり詳しくないからどうにも…」
清掃「え…? じゃあどうやっていつも休み過ごしてるの…?」
男「もっと他に選択肢あるよね!? 絶対にあるからそんな顔しないで!」
清掃「でもオトコの部屋ってなんにもないね、とにかく」
男「さっきも言ったけど引っ越してきたばっかりだから。これから増える予定だよ」
清掃「じゃあじゃあゲーム買おうよ! ゲーム! おすすめあるよ?」
男「う、うん、ちゃんとそういったことも視野にいれてる。学校で話題作ろうと思ってるから」
清掃「そうそう! ボクも日本でトモダチつくったとき、ゲームで仲良くなった!」
男「良いよね、楽しく皆でゲームって。でもね…」
男「ここ、テレビの主導権が全部フロントにあるんだよね…見れてもエロいのばっかり…」フフフ
清掃「わぁお…」
男「hdmi端子も三色ケーブルも、妙な機械に阻まれてるし。ははっ、大丈夫かな高校生活…」ホロリ
清掃「大丈夫! トモダチ出来なくてもケルケルが居るよ!」
男「け、ケルケル君…!」ぱぁああ
清掃「でもまずはゲーム買ってからね!」ニコ
男(悪気は全くないんだろうけど、なんかなぁ、なんかなあっ)
清掃「むふふ」ニコニコ
男(友達作るのって、自分から趣味を合わせないといけないのかな…)
清掃「ん!? よく考えればそう! あれでいいよ!」ガタッ
男「どうしたの急にっ?」
清掃「待っててオトコ! すぐ戻ってくる!」ダダダッ ガチャ バタン
ダダダダ
清掃「ただいま!」ガチャア
男「うん、えっと、その手に持ってるのは?」
清掃「小型ゲーム機だよ! これ、テレビもいらないし皆で出来る!」
男「なん…だと…? 世の中そんなものまで出てるのか…!?」
清掃「オトコ本当に日本人? 知らないなら教えるよ、ほれほれ」ぱかり
男「ほ、ほぉー…凄い、普通にテレビ画面がついてる…しかも二つ…」
清掃「………。このスイッチ入れるです!」カチリ
男「ぐぁあああ!? な、なんだ目が急におかしくなった!? これがゲーム脳ってやつじゃ…!?」
清掃「落ち着いて、落ち着いてオトコ」
男「あ、ああ、思わず驚いて面白い反応してしまった…魂取られたりしないよね…?」
清掃「ボクのお婆ちゃんみたいなリアクション取るね、オトコは」
清掃「へいきへいき、これはゲームが3Dで見れるの! マジファンタジー!」
男「すりぃーでぃー? なに、飛び出して見えるワケ? 嘘だろこんな小さいのに…」
清掃「……」スッ
男「すげぇええええええええ!!? なにこれェー!!??」
清掃「デショー!!?」
ガチャッ… スッ…
受付(気を揉んでたが無事に仲良くなってる様子)コソコッソーッ
受付「国境を超えたフレンドタイム…スバラなことやで…」ナムナム
受付(撮って友達に送ろ。ラブホで同性十代わいわいなう、っと)
シュボッ
受付「ヒッ!」ビックゥウウン
~~~
叔母「──ケルケル君、君まだシフト中だろう」
清掃「大丈夫! フォクシィと違って終わらせてココ来たから!」
叔母「いや、その時間にも給料は発生してるんだけどね…」
叔母「あの馬鹿よりはマシか。しかし男君も明日は早いんだ、もういい加減に寝た方がいいよ」
男「あ。そうだった、明日学校だった…」
清掃「ワァオ! ガンバってオトコ! レッツエンジョイ!」ぐっ
男「うん。ありがと、がんばる」
がちゃ きぃ パタム
叔母「いい子だろ」
男「はい。勝手に距離をおいてた自分が馬鹿みたいでした」
叔母「これからも良くしてやって。あの子は一人で日本に来たんだ」
叔母「そら数年もこっちに住めば知り合いなんて出来る。けれど、歳が近いヤツはそういないだろうし」
男「そうなんですか?」
叔母「良い子なんだけど癖が強くてね。日本人の友達を作りづらいみたい」
男「そうなんですか…ま、まあ俺でいいのなら構わないですけど…」
叔母「君だから良い」ニコ
男(…むぐぐ、この人は本当に面と向かっていうよなあ…っ)
叔母「それじゃあオヤスミ。初日で遅刻なんてしないように、いいね」ガチャ
男「勿論です。おやすみなさい、叔母さん」
叔母「ん」フリフリ
パタン
男(叔母さんの言う通り早く寝ないと、始まる前に色々考えても意味ないしな)
男(学校、入学式、友達、ゲーム、かあ。俺、本当に明日から───普通に…学校に…)
スヤスヤ
男「むにゃむにゃ」
叔母「男くん!!」ガチャアッ!!
男「むァいッ!? な、なんですかッ!?」がばぁっ
叔母「い、いい忘れてたことがあったんだ…はぁはぁ…これは大事なことだよ…っ」
男「え、な、なんですか?」
叔母「歯磨きちゃんとやった?」
男「すげえどうでもいい!」
受付「うぇぇ…おーなぁ~~…あの部屋の掃除は業者に任せましょおお~…」ベトー
男「うっ! な、なんて匂いをさせて俺の部屋に…!?」
叔母「ちゃんとやれ。あと近寄るな、クサイ」
受付「ヒドイ!」ガーン
男「あ、あの、本当にそろそろ寝たいんですけど…」
清掃「アァ!? そういやオトコ、ここ電気消して寝てる?」ヒョコ
男「ケルケル君まで!? どうしたの急に…え、消してるけど何時も…」
清掃「そ、そなんだ…ウン、なんともなかったらいいよです…」スッ
男「なにそれ恐い!? 気まずそうな顔して何なの一体!?」
受付「あり? 説明受けてないの? ココ、おふざけで44号室作ったら出───」
叔母「おやすみ男くん」キィ
男「誤魔化せると思ってんのかッ! 出るんでしょココ! どうして黙ってたんですか!?」
叔母「……私は見たこと無いし」フィ
男「見たことある人いる時点でアウトですよねッ!」
叔母「客の戯言だよ。従業員みんな見たこと無いし、平気だよ」
受付「誰も居ないのに物音はたまにしてたッスよね、ココ」
清掃「この部屋むかしから掃除しなきゃいけなくて大変だったよ!」ニコ
男「ワンチャンあったら見えてましたよねそれ!? あとケルケル君のは何の掃除!?」
叔母「ほら、解散解散。男くんは早く寝るんだし、みんな邪魔しちゃ駄目だよ」ぱんぱん
男「寝れるかコラーッ!! 俺もそっち側に連れてけー!」
~~~
男(──なんてことだ、結局、一睡も出来なかった)うつらうつら
男(あの部屋で寝るの怖すぎてスタッフルームにお邪魔したけど、逆効果だった)チラ
受付「ぐかー」
清掃「ふんふーん♪」ピコピコ
男(受付さんの晩酌に付き合わされるし、ケル君のゲーム話題で頭がぐらぐらする)
清掃「CLEAR! フィー! あれ? オトコ、大丈夫なの?」
男「大丈夫じゃないよ…このままじゃ電車を寝過ごしそうで恐いよ…」フラフラ
清掃「ああ、エット、そうじゃなくって、んーっと」チラ
清掃「──あの壁カケ時計、一時間遅いから!」ニコ
男「……………………」ボー
男「ッッッ!!?」ババッ
【六時四十五分】+一時間
男「遅刻してるゥーーーーーーッッ!!」
受付「わぁいッッ!?」ビクゥン
清掃「エェッ!? やっぱりダメ感じッ?」あたふた
男「あと十五分で入学式始まるッ! 電車で移動考えたら当然のごとく間に合わない!」ダダッ
清掃「アワワワ」
受付「ん~…どったの…?」ゴシゴシ
清掃「フォクシィ! オトコが遅刻だってあぶないよ!」
受付「ちぃこくぅ~? んなのお姉さんだっていっぱいしてるよぉふぅうわぁあぁあぁあ~…」
男「アンタと一緒にするなーッ!」ババッ
受付「まあヒドイ」
男「ごめんなさいテンパってるもんで! あぁもうッ! どうしてココの時計こんなに狂ったまま何ですか…っ!」バタバタ
清掃「フォクシィが働く時間ごまかすためだよ!」
男「やっぱアンタ最低だよッ!」
受付「あ。あの壁時計見てたの? そりゃごめんね、だったらお姉さんの原付きかすからそれで行きなって」
男「どうあがいたって遅刻は免れないですよ…!?」
受付「となり町の高校でしょ? 電車だと遠回りで十五分、歩き含めりゃ五分で合計二十分」フワァ
受付「八時に入学式なら電車乗って行くより原付き乗って突き進んだ方が速いよ、全然」
男「そ、そうなんですか? でも俺免許も持ってないし…」
受付「そっか。ならケルケル君に任せたらいいんじゃない」
清掃「ボク? オッケー!」
男「超柔軟! しかし二人乗りって、というか何故にケル君に任せるんですか…!?」
受付「お姉さん飲んで八時間立ってないもの。ケルケル君は免許持ってるし、平気平気」
清掃「ボクの国もみーんな二人のり! へたすりゃ五人乗り!」
男「曲芸師かよ! い、いやいや! ケル君に迷惑をかけるのはっ!」
清掃「オトコ!」がしっ
男「ハイッ!」
清掃「よくきいてっ! ボクはオトコの為にやりたい、がんばりたい! それダメなこと?」
男「だ、ダメじゃないけど、なにより危険で最初から俺のせいだから…っ」
清掃「…それは違うよ、オトコ。危険だからがんばる、オトコの為にがんばりたいからがんばる!」
清掃「──それがトモダチってことだから! ケルケルはそう思う!」ビッ
男「ケル君…お、俺…」
男「──わかった、俺、ケル君に助けて欲しい。どうかお願いしたい」ペコーッ
清掃「じゃあ行くよオトコ! はやく駐車場へレッツ!」ダダッ
受付「ヘルメはボックスにスペアあるからねー」
男「は、はい! 受付さんもありがとうございました! 帰ったら好きなの作りますから!」
パタン
受付「まあ…」ポリポリ
受付(あの時計、遅いんじゃなくて速いんだけどね。だから今は五時四十五分過ぎ)
受付「じゃないと就業時間誤魔化せないし…ふわぁ…まあ親交深められた、良いお姉さんってことで」モゾリ
シュボッ
受付「…………………何時からそこに?」
~~~
清掃「早くのってオトコ! 出発するよ! 今するよ!」ブィイン ブィイイイン
男「う、うん! 本当にありがとうケル君!」ドスン
清掃「お礼は無事についてからってね! へへっ、今のかっこいい?」
男「タイミング考えてケル君! でもカッコイイよッ!」
ブィイイイイイイイン
男(うぐっ、凄い風と揺れだ…! 二人乗りが危険だと言われる理由がとてもよくわかる…!)ぎゅっ
男「け、ケル君! 有り難いけど、あまりスピードの出しすぎには気をつけて…!」グラングラン
清掃「ぐー…」スヤー
男「ケル君!? ちょっとケル君!?」
清掃「はっ!? じゅるる、もう着いちゃった!?」
男「違うよ寝てたよ完全に熟睡してたよ今っ!?」
清掃「あ! だから学校に着いた夢みてたのかー!」てへ
男「その照れ隠しが出来てよかったね! あと一歩で夢のままで終わってたよ!」
清掃「うぐぐ、朝までゲームしたから限界なのかも…」うつら…うつら…
男「えぇっ!?」
清掃「大丈夫! こんなときに効くおまじないの言葉ある! それで元気なる!」
男(そ、それって故郷に伝わる系の、お婆ちゃんが教えてくれる感じのヤツかな…!?)
清掃「ぞたういびほぜもむのねひぎなひにこおてぐじりばほさりくつした!」
男「ねっからゲーム脳だなあ! ケル君はぁッ!」
清掃「うっ…じゅもんちがいます、間違えたよオトコ…もうねひほ…」スピー
男「ダメダメダメ! 寝たらその後は復活の呪文でも効かないからねッ!」
清掃「うん、じゃあ眠らないようオトコも手伝って、一緒に言って」
男「いや、だから、俺はあんまり詳しくないんだって…っ」
清掃「……。そっか、ならボクがんばる」
男「あ…」
男(違う、違うそうじゃなく、そんな悲しそうな顔をさせたかったワケじゃない)
男(興味がなかったことをいきなり、…押し付けられても困るだろ。俺だって仲良くなりたい、けれど)
男(自分に無かったものを、相手と仲良くなりたいってだけで増やしていくのは変じゃないか)
男(何時かは無理出る。限界が訪れる。その終わりを抱えたまま友達に、なんて、そんなの)
男「………」
清掃「ぞたう、いびほ、ぜもむの、ねひぎ…」ボソボソ
男「ケル君、あのさ」
清掃「ハーイ? なに?」ニッ
男「…。俺実は、夜遅くまでケル君が話してくれたゲームのやつ、殆ど意味がわからなかったんだ」
清掃「じゃ帰ったらまた話すね!」
男「そゆことじゃないよケル君! そうじゃなく興味が持てないんだ、君が言ってることに…」
清掃「そうなの?」
男「君が楽しそうに話してること、俺にはちんぷんかんぶんで良くわからない」
男「…だから、それを聴き続けてるのはとても辛い、んだと思う、多分」
男「だから! だから…俺は…」
清掃「………」
清掃「すごいね、オトコ」
男「ええっ? な、なんで! 俺は君に酷いことを言ってる、のに」
清掃「ううん、そうでもない。だってボクが言ってること、あんまり楽しくないの知ってる」
清掃「それをハッキリとノーって言ってくれる。そんな人、オトコが初めてよ?」
男「俺が初めて…」ズーン
清掃「違う違う褒めてる、褒めてるよオトコ! ボクはそんなハッキリと言えるオトコが凄いって言いたい!」
清掃「いやならいやでいい、ダメならダメでいい、一番しちゃだめなのは───」
清掃「───ひとり抱えて黙ってるコト」
男「…っ…」
清掃「ボクはそう思う。だって、ムリなんてトモダチにしてほしくない。いやならいやって言って欲しいから」ニコ
男「それで、君は良いの?」
清掃「どうしてそんなこと訊くの? ボクはねオトコ、こんな話を出来たことが嬉しいんだよ!」
清掃「だってすごい、やっと日本で友達できた感じ。正直にいってくれる、そんなトモダチが!」
男「ケル君…」
清掃「好き。そういうの言えるオトコは好きよ、だからカッコイイ」
清掃「だから自信を持ってチャレンジ。オトコならきっとたくさんいっぱいトモダチできるから!」
男「───……」
男「……………」ぎゅっ
男「ぞ、ぞ…ぞたういびほぜもむのねひぎなひにこおてぐじりばほさりくつしたッッ!!」
清掃「オトコ?」
男「む、昔から物覚えだけは良いと両親に褒められてたんだ。だから、もう一度だけ教えてくれ」
男「あと! さっきまでのこしゃくれたしゃべり方はもう辞める! だ、だって…」
清掃「………」
男「…トモダチ、だから」テレ
清掃「うんっ! ボクらトモダチ! じゃあいっくよー! オトコ!」
男「おうよッ! ドンと来やがれってんだッッ!」
清掃「一文字でも間違ったらじゅもんがちがいますだよ!」
男「まかせろォ!」
「「せーのっ」」
清掃&男「──ぞたういびほぜもむのねひぎなひにこおてぐじりばほさりぐつじもッッ!」
ブィイイイイイイイイイイイイイイイイイインッッ!!!
~~~~~~
「うう…」
「緊張しすぎて早く登校しちゃった…こんな時間じゃ生徒どころかお姉ちゃんだって…」
(入学式、ああもぉうイヤだイヤだ、心機一転なんて狙うんじゃなかった)
『私の妹であるなら、きちんと品行方正で真面目に無事に卒業すること! わかった?』
「…そんなコト言われても、あたしにどうしろっていうのよ」
「あぁーもうッ! 漠然とじゃなく教師ならタメになるアドバイス教えなさいよね全く!」ズンズン
(はっ!? ま、また怒りっぽくなった。もうもうもう、この性格をバレないうちに本当にどうにかしなきゃ)
「……」
「ちゃんと友達、できるかなぁ」
──イイイイイイイイイイ──
「ん? 何の音?」
──ブィイイイイイイイイイイイイイイイ──
「え、後ろから」チラ
ヴイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!!!!
「ひっ」
清掃「ぞたういびほぜもむのねひぎだびにこおてぐじりばほさりぐつじもォオオオオオオオオオオ!!」
男「ぞたういびほぜもむのねひぎなひにこおてぐじりばほさりぐつじもォオオオオオオオオオオオ!!」
ゴバアアアアアアッッ!!
ドンッ!! キキィ! どっがらがっしゃーーーーーん!!
(う、後ろに乗ってた人飛んでったー!? ひ、人殺し、事故!? いやそれよりも…!)ダダッ
男「うう…」
「あ、意識がある…きゅ、救急車を呼ばなきゃ…」ブルブルブル
男「…ぁぁ…」
(どうしようどうしよう、こんなのどうればいいってのよ! 血は出てないみたいだけど、ってか同級生!?)
男「…じゅ…」
「え、なにっ?」
男「復活の呪文を…」
「ヤバイ! 頭打ってる系だわコレッ!」
『もしもし、救急ですか、消防ですか』
「あ、繋がってた──もしもし、それがそのっ……!? ひいいいいい!?」
清掃「───ぞたういびほぜもむのねひぎなひにこおてぐじりばほさりぐつじもォオオオオオ!!」ダダダダダダ
(外国人がこっち向かって母国語っぽいの言いながらで走ってきてるぅー!!)
ズサァッ…!
清掃「オトコ!ぞたういびほぜもむのねひぎなひ、だよ。途中で間違ったよね!」
「あ、あの…ちょっと…」
男「…ぞたう…」
男「ぞたういびほぜもむのねひぎなひにこおてぐじりばほさりぐつじもォオオオオオ!!」カッ!!
「ひぃいいいいいい!!!?」
清掃「ナイス! さあ学校はもう目の前だ、行っておいでオトコ!!」
男「ああ行ってくるッ! 有難う、我が友よ!」ダダッ
清掃「うんっ! ファイトヨー!」ちゅっちゅっ
「…………」ぽかーん
清掃「さて、帰ろっと」ガチャン
ドルゥン ドルゥン ぶびっ ブィイイン
「……なん、なななん、なな…」
『あのー? きこえてますかー?』
第四話 終
気まぐれに更新ノシ
次は二話連続です、宜しくお願いします
ぽちょん ぽちょん
男「ぐぬぬ、うぬぬ、うーぐ」もぞり
ポチョン
男「………」モゾ
── ケタケタ キヒヒ アハハ ──
男「……!?」バサァッ
男(き、気のせいだよな、絶対に絶対で気のせいだよな!?)キョロキョロ
ぽちょん!
男「ひぃっ!?」ビクゥウウ
男(ああ、くそっまた水漏れしてるじゃないか。まったく何度締め直せば気が済むんだっ)ストン
男「これでよしっと」ギュッギュッ
男(早く寝ないと…明日も学校だし、委員長としての仕事もあるし…)スッ
男「バカなこと考えてないで、ちゃんと頑張らないと──」チラ
──ピチョン
男「…え!? あああああああああああああああああッッ!!!???」
翌日 スタッフルーム
受付「ゆぅ~れぇ~いい~?」バリボリボリ…
男「もうもう何度何度締めても締めても水漏れ水漏れでぇ!?」
受付「あーうん、必死なのはわかる。けど状況が水漏れしか分からないよーう」セイセイ
男「アレは絶対に幽霊の仕業なのでは!? 何とかして下さい受付さんッ!」
受付「なんとか言われてもお姉さん困っちゃうんだけどなぁ、あ、ケルケル君?」
清掃「ん? ハーイ! どしたのフォクシィ?」スタスタ
受付「ちょっと聞いてよ、男くんってばまた幽霊みたんですって」
清掃「ワオ! オトコってば運イイネ! ボクまだ一度も見れてない! テラクヤシイ!」ニコニコ
男「ちっとも思ってない顔で言わないでくれっ」
受付「でも凄いよね。お姉さんも未だ音だけ、オーナーだって見たことないのに
清掃「ownerは信じてないだけっぽいケド」キョトン
受付「ありゃ信じる感情がそもそもないのさ。客だって騒いで問題になったのに」
男「問題なってる!?」
受付「苦情たんまりよ、黙殺して証拠隠滅してるけど。だからキミが何時だって使えるわけじゃんか、住まわせてもらってるんだから文句いわなーい」
清掃「掃除しなくて大変ラクチンね」ウンウン
男「だからケル君はそこでなんの掃除をしてたのか教えてくれ…ッ!」
受付「でも水漏れ程度ならケルケル君が直せそうじゃない?」
男「程度ってなんですか? 今までそれ以上なことがあったんですかッ?」
清掃「うん! まかせてオトコ、ボクならきっと安眠を保証できるよ! イッツオーライ!」
夜 44号室
清掃「──バルブが緩んでたので治しましたケド、どうだろー?」ゴソゴソ
男「これで水漏れしない…?」
清掃「平気と思うよ? パッキン傷んでたらバイしてくるし、ミズモレ程度なら安心楽ちんよ」にぱー
男「そっか~…」ホッ
男(……。冷静になってみると、何を水漏れ程度で幽霊幽霊と騒いでたのだろう。凄くケル君に申し訳ないなあ)
男「その、ありがとねケル君。俺の我が儘につき合わせちゃって」
清掃「ノンノン、気にしないのがトモダチだから!」
男「ケル君…!」
清掃「でもやっぱ、シャワールームの水漏れはチョット意味わかんない。アレ謎すぎだよ」ニコニコ
男「唐突に新情報出さないでッ!? シャワールームも!?」
清掃「あ、あれ? 知らなかったの? むしろそっちの赤い液体ドロップを怖がってるとばかり…っ」アセアセ
男「ひょおおおああああああ!!」メキュメキュメキュ…
清掃「ひぁー! オトコが見たことない顔になってくよー!」
【怖すぎたので泊まってもらうことにしました。】
男「け、消したの方がいいの? 前に電気は消さない方が良いって…」
清掃「ヘイキ! ユーレイなんてボク信じないから! どーまんせーまんだよ、オトコ!」
男「う、うん、台詞はアレだけど度胸は頼もしいね…」
──パチン
清掃「えへへ」ニコニコ
男「? どうしたの、うれしそうだね」
清掃「とってもなつかしーフンイキなのです。ボク、故郷で兄弟たくさんで小さな部屋で寝てた!」
清掃「今それをちょっと言いたかったの、オトコにね!」ニコ
男「ふーん、そうなんだ。ちなみにどれくらいの大きさだったの?」
清掃「ここの三分の一ぐらい?」
男(やべぇ…軽く想像を超えてきたので、気安く感想を言いにくい…)
清掃「ジャパンは高く細く家を造るからすごい」フンスー
男「そ、そうだね日本ってやるときゃやるよね…」
清掃「あ。そういえばオトコはどうだったの?」もぞり
男「ん? なにが?」
清掃「前の家ね。ココ来る前はどんな感じの部屋だった?」
男「──……」
男「いや、別にフツーの部屋だったよ、特に何も無い、かな」
清掃「そうなの?」
男「兄妹も居なかったし、両親も毎日仕事で家にも居なかったから、あれだね、中学生の頃は友達よび放題」
清掃「……」
男「休日前になんて、男の友達と真夜中にお酒を飲んだりしてさ。べろんべろんに酔っぱらって大変だったよ」
清掃「……」
男「え、えと、そんな感じだったんだけど…?」チ、チラリ
清掃「すっごい楽しそう! ケルケルも一緒にいたかったそこ!」ぱぁああ
男「あ、うん! お酒は懲り懲りだけど、今度はココで一緒にやろうよ」
清掃「うん! やろうよ、ね!」ニコニコ
ぽちょん
男「今の音って、」ババッ
清掃「──オトコ、静かに」シッ
ぽちょん
男「シャワールームから、だよなコレ…うわっ…どうしようどうしよう本当に…!」
清掃「大丈夫、安心して。ボクが居るからヘイキ」スサササッ
清掃「ボクが見るよ、怖くないしヘイキだし、オトコはそこで待っててね」コソーッ
男(ケルケル君…っ!)
清掃「どまーんせまんッ! わるいごはいねがァーッッ!」がぱぁ
男(色々間違ってるけど威勢は格好いいよ!)
清掃「……」
男「…? け、ケル君? どうしたの固まって──」
清掃「…ファック…」スッ ばたこぉーん!
次の日
受付「ありゃ重傷だ。想像してみ、あの温厚なケルケル君がさ、流暢な英語で罵詈雑言の場面をね」
男「ハイ…マジ気安く頼んでスンマセンでした…っ」ドンヨリ
受付「君がダメージ受ける必要ないのに、どったの?」
男「いえ、無視してください…儚い俺の夢が砕け散っただけの話です…」
受付「うむぅ、にしても見逃せない状況になっちゃったなぁ。従業員が認めちゃえば対策を講じないとね、流石にさ」
男「…何か案でもあるんですか?」
受付「御札貼ろっか。あと部屋の隅に塩盛って、部屋の空気の出入り口にちょっとお高いお香を焚いてみよう」スッ
受付「そういや昨日の晩酌のお酒、残ってたっけ。神棚上げてないけど、まっいっか」
男「え、えっ? あれ、意外としっかり考えてたんですねっ?」
受付「おいおい、失礼なやっちゃなチミ。言っとくケドお姉さん、これでも現職の巫女さんよ?」
男「はぁっ!? 嘘でしょそんなん!?」
受付「ハイ傷ついた~~お姉さんのやる気全てその反応でブチ折られたので、もう帰りまーす」
男「ま、待ってください! ごめんなさい! 謝りますから、どうか戻ってきてください! 何でもしますから!」
受付「…いったなぁ~?」キラリン
夜 44号室
男(確かになんでも、とは言ったけども…)
受付「ほれっ、もっとツマミもってこォーい! ゲラゲラゲラゲラ!」
男(一晩、晩酌につき合えって。後で使うっぽいお酒飲んじゃってるし、しかし無碍にしても解決しない…)
受付「げぇえぇぷ」プヒー
男「……。敢えて突っ込みますけど、豪快ですね本当に」
受付「にゃははー、おねえひゃんらんはぁ~すろいのれす!」
男「呂律ヤバいヤバい。…だ、大丈夫なんすか?」
受付「んぐっんぐっんぐっ──ううん、大丈夫じゃない、明日地獄みると思うよん?」
男「なら何故そんな無茶を…」
受付「知らないのー? 騒ぎは一種の厄払い、だから世の中にお祭りって概念があるんだから」
受付「人が居て、皆騒いで、血の通った空間は、吹き溜まった厄を洗い流すの」コトリ
男「へぇ~そりゃ凄いっすね、なんだか格好いいです、受付さん」
受付「ほめろー! もっとお姉さんをうやまえー!」
男「へへぇ…どうかご贔屓にお願いしやす…へへっ…」トクトク…
受付「ん…」
男「でも、これぐらいにしておいて下さい。あんま飲み過ぎて辛い目にあってる姿も見てて辛いですし」
受付「ん? んん、うん…」くいっ
男「って、聞いてねーなこの人。ま、まあ除霊的なことしてもらってる立場ですし多くは言いませんけども…」
受付「……。なんか、きみ、イイね」ジッ
男「へっ?」びくっ
受付「慣れてるじゃん、めんどーな大人の相手シカタさ。前から思ってたけど、本当に高校生なりたて?」ジィー
男「そう、ですけど、いやっ一週間前ぐらいにみたでしょ? 俺の制服姿を…」
受付「くす、そうだったね。確かに、そうだった」ニコ
受付「でも好きだよ。君のそういった気苦労多そうな部分、魅力的だと思う」クス
男「──ゴクッ」
男(はぁうっ!? な、なんだこの空気!? 視線逸らしたいのに逸らせない!)
受付「……」じぃー
男(どうして無言で見つめてくるんだ!? やばい、何がやばいか知らんがとにかくヤバい!)
受付「どしたのよ、見るからに緊張しちゃってさ。いつも余裕ある君らしくないじゃん」ススス
男「なっなーに言ってるんですかーっ? 意味不明ッス、理解不能ッス、全くもって!」ススス
受付「──意識、しちゃった? お姉さんと一緒の部屋に、二人っきりだもんね」ズズズイッ
男「あっははまっさかー! んな冗談はたち悪いッスよほんっとにぃ~~~……っ!」ズサァッ
トン!
男(おぅあ!? 壁まで追いつめられたァ!?)
受付「……」
男「…な、なんですか…?」ダラダラダラダラ
受付「──騒ごっか?」ニヘラ
男「え”っ?」
受付「ふたりでいっしょ、おんなじことシて、わいわいきゃっきゃって──お姉さんと、君で」スッ ぐいっ
男「や、厄払いって意味でっ? うぉおっ?」ドサッ
受付「んふふ。そうそう、二人で一緒に厄払いだよ~~」すとん
男「……何故、俺の腹の上に座るんスか……」バクバクバク…
受付「君に、近づかなきゃ騒げないからじゃん、ね? 後のことはお姉さん任せで良いから…」スススッ…
男「うッ、受付さんッ!? それ以上は流石に変な感じにッ、つか服を捲るのは一体どんな理由があって…っ!?」
受付「ほほぉー…」コショコショ
男「わぁひぃ!!??!」
受付「やるやないの、君。ちょっと驚いた、坊ちゃん育ちかと思ってりゃ中々どうして」サスサス
男「だぁーーーーッッ!!」びびくん
受付「くふふ、おなか触れて「だぁー!」とか叫ぶ人はじめて見たし。ね、ね、じゃあこっちはどぉーかなぁ~?」
男(くひっ、おひぇっ!? っっっ……た、耐えるんだ俺最後までッ! ここで機嫌損なわせる訳にいかないのだ!)
男(知ってる、分かってる、この状況がモロに危ない一歩手前だということはッ! しかし…ッ)
男(しかし、だ…ッ!!)チラ
ぽたり ぽたり ぽたぽた…
男(──シャワールームのドア隙間から水がこぼれ落ちてるんですけど! なんか真っ赤な奴が!)ゾゾゾォ
受付「こことかどぉ?」
ビシャッ! バシャバシャ…
男「わあああああああああああああああッッ!!??」
受付「絶叫は凄すぎ、敏感すぎでしょー」ケラケラケラ
男(しくされこの…っ…のんきに笑っとる場合かアンタ!)
男(だが、後ろの状況を知られ逃げられたらかなわない…ッ! 耐えろ、迎える転機までこの状況下を…っ)
──ぴちょん
男(…? なんだ、音が収まった?)
受付「ふむふぅー、たいへん満足した。やっぱ若いこ良いなぁ、ふれてるだけでお姉さん元気になっちゃうなー」
受付「──それじゃ、いただきます」ぱん
男「って、ちょ、ちょっとぉー!? 今、はっきりと不可解な言葉を発しましたよねアンタぁー!?」
受付「大丈夫。ヒドいことはしないしなーい」ズリズリ
男「きゃああああああああああ!!!!」
受付「うへへ…生娘でもあるめーし、なまっちょろい悲鳴あげてるんじゃねーよ…かまととぶりやがってぇ…」ウェヘヘ
受付「ここは正直に身を任せなさ───」
男「っ…っ…っ…」ぶるぶるぶる
受付「──妙に怖がってると思ってたけど、きてたか幽霊っ!」
ばばっ!
受付「今日こそ年貢の納め時! 現職巫女さん厄払い、世に残った残留思念ぱやっと祓ってみんぜようッ!」
叔母「……」
受付「そして続きをぱぱっとはじめ、ちゃ、…う」
叔母「…で?」シュボッ
受付「……………………」ダラダラダラ
叔母「何か、ほかに【お前が】言い残す言葉は?」フゥー
受付「え、ダーイ…な、感じ…ですか…?」
叔母「ダァ~~~イ、だなぁ」ぷかぁ
受付「──ほんっとすみませんでしッぷげらぁッッ!!??」ゴッッ!!
叔母「お、いいの入った」ヒュ~
男(高速土下座に膝の超反応カウンター…えぐい…)
~~~
叔母「私は怒っているよ。珍しく君にね」
叔母「──居もしない幽霊で周りを騒ぎ立てて、経営に支障が出たらどうするつもり?」
男「で、でも…っ」
叔母「話を聞く限りじゃ、水漏れ程度で騒いでたらしいじゃないか」
叔母「ケルケル君だって「ナニモミテナイヨ」と断言していたし」
男(忘れてたいんだろうなあ…深く追求するのは可愛そうだから良いけども…)
叔母「いい加減にこれっきりにして、二度と騒がないように。良いね?」
男「わかり、ました。本当にすみませんでした…」ペコリ
叔母「素直に謝るのは良いことだ。許そう」ウム
男「…ありがとう、ございます…」ションボリ
叔母「まあ、あのさ。君がこの部屋が嫌なのは別にかまわない」
男「……」
叔母「今日から私と一緒に住めば良いと思うんだけど、どうかな…って」チラ
男「あの。ちょっと良いですか?」
叔母「何?」キラリン
男「少し気になってることがあって。ごめんなさい、もう一回だけ幽霊の話題を掘り下げさせて下さい」
叔母「…………、どうぞ」ムスッ
男(ううっ、やはり機嫌を悪くさせてしまったか。けど気になってる「あの現象」は追求しておきたい)
男「叔母さんは一度も、幽霊的な現象を見たことないんですよね?」
叔母「いないよ、そんなモノは」
男「…そうですか、だから気になったことが一つだけ」
男「音が、鳴り止んだんですよ。叔母さんが44号室に訪れた途端に」
叔母「水漏れが収まったって? へぇ、それが何?」
男「ほぼ、毎日ラブホに来てるハズの叔母さんが幽霊未経験で、なのに受付さんやケル君は少しばかり経験してる」
男「つまり、これらに繋がりがあるとは思えませんか?」
叔母「まったく感じない」フリフリ
男「です、よね。こじつけにも程があるし、それじゃあまるで怖がっているのは【幽霊のほう】になるし…」
叔母「……」ぴくっ
男「そんな馬鹿げた話あるわけないっすよね、ごめんなさい」ペコ
叔母「……………」
男「……、ん? え?? ある、んですか…? その可能性…が…?」
叔母「……………、無い!」
男「うそつき! 叔母さんの嘘つき! 可能性感じちゃってる顔してた絶対! 絶対に絶対に!」ビシッビシッ
叔母「あれ…おかしいな…胸ポケットに入れた煙草がなくなってるなぁ……」キョドキョド
男「年がら年中タンクトップだろうに!」ジトー
叔母「いやっ違う、だってあり得ないからっ、そんなことっ」
男「何を隠そうとしてるんですか」じぃー
叔母「……………」ダラダラダラ
男「本当は幽霊が実際に居ることを隠してるんじゃ…」
叔母「それは本当に知らない! 私は…っ」
男「──それは?」
叔母「あが、ぱく、うぅ~~っ……はぁ~~……っ」カックシ
従業員室
男「──幽霊じゃない…? それどういう意味ですか…?」
叔母「私が知ってることは一つ、過去に、悲惨な目にあった女性が居たってことだけ」
男「44号室で、ですか?」
叔母「今からだいたい十数年前に、とある学生カップルがラブホテルを使用したんだ」シュボッ
叔母「二人ともラブホテルは初体験らしくって、そりゃもう楽しみ半分緊張半分で44号室に訪れたらしい」
ふぅー
叔母「そして悲劇が起こったんだ…」
男「いきなり!? い、一体どんな悲劇が…!?」
叔母「うん。フられたの」コクコク
男「…はいっ?」
叔母「彼女のほうが、ココに来ていきなりフられた。実は彼氏のほうが常々鬱憤が溜まってたらしくて…」
叔母「ラブホテルまで着といて、彼女がうにゃむにゃ難癖付け始めたんだ。やっぱり私たちには早いよ、みたいな感じで」
男「それで呆れた彼氏さんが、その彼女さんをフったと…? ここまで来ておいて…?」
叔母「結果論だけど、どっちもどっちだよね」
男「いやっ、まあ確かに悲劇的っちゃあ悲劇ですけどその別れ話がどう幽霊騒動と繋がってくるんですかっ?」
叔母「この話には続きがあって、フられた方の彼女が周りに自慢してたんだ。とうとう彼氏が出来た、今度ラブホテルに行っちゃうって」
男(女子って自慢するんだ、そんなこと)
叔母「でも結果があれだったことで失墜したまた呆然と44号室に佇んでた彼女さんの所に…」
叔母「──当時、彼女の先輩で、極秘バイト中だった私が掃除にやってきた」
男「うわあぁぁ~~……」
叔母「あのときの、彼女の顔は忘れようにも忘れられない」フゥー
男「……。え、えっと、もしかしてその…?」
叔母「それからだったね。幽霊騒ぎが出始めたのって」
叔母「そう、その時の彼女のショックもとい【怨念】が44号室に染み着いたと言っても過言じゃないんだ」グリグリ
叔母「特に私が来たら超常現象が収まる、ってところが関連性が見受けられるし」
男「んな馬鹿な話が…」
叔母「馬鹿な話なんだよ。でも原因を突き詰めると必ず、あの日からでしか考えられない」
男(そりゃ叔母さんも認めないよなあ…)
叔母「ちなみに、そのフられた彼女である私の後輩は元気だから安心して」
男「あ、そうなんですか…生き霊って奴なんですかね、よくわからないですけども、生きてるならよかったです…」ホッ
叔母「というか君の学校の教師だけれども」
男「ぐッ……ここにきてまさか聞かなきゃ良かったと思わされるとは……ッ!!」
叔母「後輩と色々話してみたけど、全く認めないしむしろしつこいと、嫌われちゃったしさ」
叔母「出来ればこの話はもう金輪際したくないんだ、個人的に」
男「…はい、わかりました。でも原因だけでも知れて良かったです」
叔母(これは一緒に住むと言われる流れかな?)わくわく
男「でもやっと安心しました、ならここで住み続けても平気ですね!」
叔母「今日は記念にぱーっと出前を──うん?」
男「ただの怨念程度で起こる現象なら、なにも怖くない。俺が一番怖いのは正体不明なことなんで」ニコニコ
叔母「え、え、えっ? あれ? あの、でも超常現象は起こっちゃうかもだよ…?」
男「でも叔母さんの後輩が原因なんでしょう?」キョトン
叔母(え、なに言ってんだこの子?)
男「というか実家の方がやばかったですよ、ガチもんでしたもん」
男「夜に誰もいないのハズの庭から酒盛りする声聞こえたりして。あと確実に戦時中の若い兵士っぽい会話だったり」
男「後で調べ尽くして、近所に特攻隊の基地があったのが分かって安心しましたけどね」
叔母「…ぇぇぇ…」ドンビキ
男「あ、そうだ。後輩さんのことも調べないとダメな流れかなコレ、こうしちゃいられない。明日から備えないとな」バッ
男「それじゃあ叔母さん、言い辛い事情話させてしまってすみませんでした! もう金輪際しませんので! ではっ!」
パタン
叔母「……うん」スッ
叔母「やっぱ、あの子すごいな」
【叔母は深く考えるのをやめた】
第五話 上編 終
学校 教室 放課後
男「……」
女「……」
男「あの、女さん? 出来ればクラス委員長として意見を頂きたいんだけど…?」
女「ふん。貴方の好きにしたら良いでしょ、私のような不出来な人間の言葉より、貴方の意見のほうが通りやすいわよ」
女「…きっとねっ」キッ
男「そう、言われても。今回は委員長二人で今月のクラス目標決めるって話だったじゃないか」
女「なによ、不良のくせに優等生ぶっちゃって」
男「だからそれは誤解だ!」
女「なーにが誤解よばーかばーか! 日本全国どこ探しても、入学式当日に原チャリでぶっ転ける奴がいますってーの!」
バン!
女「なのにっ…誰一人信用しないどころか、私が何故か変な奴だと周りから思われる始末…!」ぶるぶるぶる
男「う、うん、えと大丈夫? 手痛くない?」
女「うっさいッ! なんでよ…なんでこうなるのよっ、どうして貴方が一年代表の最優秀生徒なのよ…っ!」
男「またその話か…」ハァ
女「このインテリ不良! 人を騙して悦を得る変態男子ぃー!」
男「ちょっと!? あんまり大声だすなってば…!」
女「なによ! 触らないでよっ!」バッ
男「いや、あんまり騒いでるとまた変人だと思われるんじゃないかなってさ…」
女「おぐッ」
男「あのね、入学式の日に一緒に謝られなかったのは本当に申し訳ないと思ってるよ。許してくれとまでは言わないから」
男「騒ぐのだけはやめとこう。お互いのために、俺は俺で君の手助けができればそれでいいよ」
女「…なによ、まったく」ブツブツブツ
男「…というか、君まで委員長になる必要あった?」
女「はぁっ!? そりゃあるに決まってるじゃない!」
男「てっきり面倒な仕事は全部、俺がやれってことかと思って」セイセイ
女「だって委員長って優等生っぽいじゃない…! なって損なんて考えられないし! 格好いいと思うの!」
男「……あぁ~、そういう…」
女「今ッ、アホっぽい理由だと思ったでしょ…ッ!」ブルブル
男「いやっ!? 無い無い無い! まったくもって!」ブンブン
女「──私はならなくちゃダメなの、優等生に。ダメな大人にならないよう、これからずっと頑張らなきゃいけないのよ」
男「志は素晴らしいと、思う。それを初っぱなから挫かせてしまったのも申し訳ないと思ってます…!」
女「本当にその通りよ全く…」ハァ
男「なら、頑張って考えないと。今月の目標をさ、格好いい委員長としての最初の仕事なんだし」
女「元気な挨拶ぐらいで良いじゃないの」
男「言う割にはテキトウに決めるね、君。もっとこう他にある気がしない?」
女「じゃ貴方のほうには良い案があるってわけっ?」
男「……。この前、男子グループと女子グループが衝突した雰囲気があった」
女(え、全然知らないんだけど…)
男「周りは今後一切、その事は触れないでおこうって空気だけど、少し気になるし、仲直りを促す的なものにすれば…」
サラサラ
男「うん。これでどーだろう?」
女「『男女で挨拶を心がける』…えぇ~? こんなの明らかに意識してますってアピールしてるようなもんじゃない」
男「…やっぱそうなるか」シュン
女「はぁーん、優等生不良は同級生間での雰囲気把握は苦手なようね、良いこと知ったわ」クスクス
男「………」
女「な、なによ? 急に黙って」
男「優等生不良ってどういう意味?」
女「私も知るかんなモン! 目標なんてちゃっちゃと決めて、雰囲気変えたいならもっと現実的なことしなさいよ!」
女「今月クラス目標なんて誰も気にしない。高校生にもなって小学生な無垢さ持ってるワケないじゃない!」
男「へぇー、じゃあ例えば何をすれば良いと?」ジトー
女「え、ぇえと、そりゃ考えてるわよ、勿論」
女「……。クラスの男女仲が悪いなら、代表的な男女が仲良くしていけば──どうのこうの上手く影響が広まったりとか?」
男「代表的な男女って?」
女「え? そりゃ君と私になるけど…」
男「……」
女「……」
女(あれ、突然なにを言い出したんだろ、私)ドキ
男「確かに良い案かも知れないな…」
女「…マジで言ってるのそれ?」
男「他に思いつく案があるわけでもない。よし、それでいこう」ガタ
女「ちょ、ちょっと本気なの!? わ、私と貴方と二人で、率先して仲良くするってことよそれ!?」
男「良いじゃないか、むしろ望んでた機会だと思ってるし」
女(な、なによその行動力は)
男「? なにしてるの? 早く一緒に帰ろう、確か同じ方向の駅だったよね」がらり
女「へっ?」
男「早いうちから始めていこうじゃないか、仲直り作戦って奴」
女「……あ、うん…」ぽかん
数日後
女(──うそでしょ、本当に?)キョロ
わいわい がやがや
女(たった数日で、確かにギスってた雰囲気が収まった気がする。これも作戦のお陰…?)
「ねえねえ女さん。ちょっといい?」
「あの噂ほんとっ?」
女「へいっ!? な、なんのことかしら…っ?」
「委員長二人がつき合ってるって話だよ~」
「よく一緒に帰宅してるの、見てる人多いよ~?」
女「──…ハァッッ!? んなワケ、もがぐごっ」ぐいっ
男「すぐ大声出すのは悪い癖だよ、女さん」しぃー
女「けほこほっ、貴方ねえちょっと力加減考えなさいよ!? 死ぬかと思ったじゃない!」
男「あ、ごめん。でも、いつも女さんは唐突に騒ぐし…この前も…」
女「あーっ!? ゲーセンの時のやつまだ言ってるの!? クレーンゲームで景品とれて騒がない方がばかじゃない!」
くすくす
女「そればっかりは貴方が納得するまで言い続け──…え、何よ?」
「ねー、やっぱ付き合ってるよねww」
「お幸せにー」フリフリ
女「なぬッ!? なにを馬鹿なことを言って…! かふッ!」グイッ
男「…ちょっとこっち来て」ズリズリ
廊下
男「否定しても良い、けど必死になって騒ぐのはダメ。わかった?」
女「必死に否定しなきゃ勝手に勘違いされるでしょ…!? さっきみたいに!」
男「だったら言われる度に否定すればいい、躍起になって作戦内容を暴露しない自信あるの、女さん」
女「……、何気に私の扱い方わかってきてるわね、貴方」
男「自分で言うな。ほらそーいうところだ、この数日で君がどれほど率直に物事をぶっちゃけるかを身を持って理解したんだ」
男「もう少しだけ我慢して。嫌だろうけど、あとちょっとで今の雰囲気なまま定着しそうな感じはするから」
女「う、うす…」コ、コクコク
男「後で散々に俺のこと罵倒してくれ良いから、それじゃあね」フリ
スタスタ…
女「ま、待ちなさいよっ。 …貴方の方はそれで良いの? 周りから勘違いされたままでも」
男「自分は平気。慣れてるから」
女「…変な返事しないでよ、不安になるじゃない」
男「うーん、でも、嫌な気はしないよ? だって女の子と付き合ってると噂されるのは男として悪くないし」ポリ
男「あとで散々ボロクソに言われる前提だったとしてもね、うん」ニッ
男「じゃあ、また放課後で」フリフリ
女「………」ムスッ
女(なによそれ、変に意識してるの私だけみたいじゃないっ)プンスカプン
女(フン! 良いわよ、だったら私なりのやり方で楽しんで行こうじゃない。始めはそうね、貴方の余裕綽々の顔剥いでやったるわ!)
~~~
男「どうしたの? 急に自転車で帰ろうって」
女「送って行きなさいよ、私のこと」
女「それぐらいお手のモンでしょー? 原付で二人乗りしてた奴が、規則が~~なんて生っちょろいこと言わないでよね」ぷいっ
男「これ、荷台無いけど大丈夫?」
女「え”?」
男「流石に後ろをスカートで立ち乗りは辛いと思うけど…?」
ギィ ギィギィ…
女「ふぬりゅうううううー!!」ギィコギィコ
男「アンタ本当にガッツというか諦め悪さ凄いよね…」グラグラ
女「やるといったらッ、やるッ、んのよぅ! どうッ!? 参ったかしら!?」ブモモォーッ
男「う、うん、今ちょっと女子としてやらかした顔してるけど概ねオッケーです」コクコク
~~
女「ん」グイッ
男「え、何? 弁当箱? これ、くれるの?」
女「作ってきたわ、超! 完璧にね、代わりにアンタの食べさせなさいよ」
男「……」スッ
女「どうも。じゃない! ふん! 有り難く思いなさいよね! …どれどれ…」シュルシュル
ぺかー!
女「え…超綺麗…」ぽけー
男「がりぼりがりっ、すげぇ…全部の卵焼きの中に巨大殻入ってるんですケド…カルシウムばっちし…」
女「くッ! いいわよもうッ、交換は無し! ハイ終わり!」ササッ
男「あ。でもご飯の炊き方は凄い好みだ、いいよね固めに炊くの」のほほん
女「あぐっ…あ、ういッ…いいわよね、固い方が口触りいいし…お姉ちゃんもそっち好きでさ…」モジモジ
男「うんうん。どうせなら二人の弁当分のオカズ合わせて食べようか?」
女「…うん」コク
~~
女「──…」ボォー
女(今日は何をしよう。一昨日はカラオケで点数超えてやったし、中間テストの見直しもやっちゃったし)
女(あ。そうだ、まだケータイのアドレス知らないじゃない)ハッ
女「くくく、さすれば機会が多く訪れるというものよ…」ケケケ
カァーカァー
女「…遅いなぁ、アイツ…」ボソリ
女(何してるんだろ、この時間帯いつもならすぐに教室に来るのに)
がらり
女「! ばかねっ、この私を待たせるなんて良い度胸じゃない!」バッ
女「今日という今日は堪忍袋の尾が切れたわ! 駅前クレープおごりジャンケン、受けて立ってもらうわよ──」チラ
女姉「ずいぶん楽しそうね、貴女」
女「──おね、ちゃ!?」サァーー
女姉「失言よ、それ。学校では絶対に姉と呼ばないよう散々注意したのに、まだ理解できてないの?」
女姉「ちゃんと先生と呼びなさい。良いわね」
女「ご、ごめんなさい先生…」シュン
女姉「もういいわ。無駄に残ってないで早く帰りなさい、折角、私が親に掛け合って塾を免除させてあげたのに」ハァ
女「…はい…」
女姉「貴女が自主勉強を頑張ると言い切ったの、忘れたのわけじゃないでしょうね」
女「……」コクリ
女姉「──でも、今回の中間テストは良かった」
女「えっ?」
女姉「勉強したのね、ちゃんと。しかしまだ甘い、ニアミスの酷さが教員連中で話題のネタになるぐらい酷かったわ」
女「…ウッス…」
女姉「けれど個人的に評価してあげる。貴女の頑張りは認めるわ。きっと良い──」
女姉「──良い、クラスメイトが居たのね」フッ
女「……!」
女姉「暗くなる前に帰りなさい。良いわね、絶対よ」
女「あ、おね、えぇと先生…!」
女姉「なに?」クル
女「あ…その…えと…これからも、頑張りますっ」ピシッ
女姉「くす。ええ、勿論。だって期待の妹ですから」ニコ
電車内
女(えへへ、お姉ちゃんに褒められちゃった)デュフフ
女(しばらく嬉しさに呆然としちゃってて、さらに帰宅時間が遅くなったのは我ながらアホっぽいけど…)
すたすた
女「頑張ったね、だって…期待の妹ですから、だって…んふふ~」ニヨニヨ
女(でも、あれかしら。認めるのは癪だけど、ほんの数歩は貴方のお陰って考慮しても良いかもね)クス
がたんことーん がたんことーん
女「……今日のこと報告したら、なんて言うかしらアイツってば」
女(なーんてね、お姉ちゃんのことも知らないだろうし、言っても意味不明だけだろうし)
女「ってあれ!? 既に降りる駅通り過ぎてない私!?」ガバァッ
ぷしゅー
女(やばいやばい! これ以上遅くなったらお姉ちゃんが先に家に着いちゃう! 早く対向車線に乗り換えないと…!)
女「はやくはやく───」ダダッ
女姉「……」
男「……」
女「───…ぇ…」
女「お姉ちゃん、に。どうして隣に、貴方が居て…」ピタ
女姉「…」スタスタ
男「…」スタスタ
女(そのまま駅を降りていく…? こんないかがわしい繁華街しかない駅で、二人でっ、どうして…!?)
女「…っ…」ゴクリ すた、すたすた…
~~~
女(どこまで行くんだろう、というか二人は知り合いだった? 二人で一緒に出歩くぐらいに? いつのまにっ?)スタ…
女(いや、待って、でも確かに)
『──良い、クラスメイトが居たのね』
女(──お姉ちゃん笑ってた、あんまし人を評価しないで普段もピクリとも揺るがない鉄仮面お姉ちゃんが…)
女(知ってた、の? 誰に教わってたのか、一体誰が良いクラスメイトだったって…)
女「あ! 見逃してしまった…!?」キョロキョロ
たったったったっ
女(やだ、なんかやだ、こんなの嫌だ…っ)ドッドッドッドッ
女(これ以上追いかけたら駄目な気がするのに、でも、足は止められない───)
ババッ
女「………」ドサリ
『スィート・ラブホテル』
女「…あ…」
女姉「…っ…」スタ、スタスタ…
男「………」スタスタ…
女「…嘘、あはは…そんなの、だって…っ」
女「ッ…!!」くるっ ばっっ!
たったったったっ……
第五話 中編 終
三日後ノシ
【今から時は遡り…『入学式前日』】
女姉「……」スタスタ
「今日も凛々しいよな、女姉先生」
「もう歩く姿も完璧すぎて笑える」
「大学生の頃にいかがわしいサークルを何件もぶっ潰したらしいぜ」
女姉(まったく、噂をするなら耳に届かない範囲でしなさいよ。まる聞こえじゃない)フゥ
女姉(まあ…悪い気はしないけれど、せっかくのプラス評価に水を差すきはさらさらないわ)スタスタ
「女姉先生。今日も一段と歩き方が美しいですねえ」
女姉「それ、軽度のセクハラですよ校長。おはようございます」ペコ
「これはこれは手厳しい。おはようございます」
女姉「それで、何かご用でも?」
「ええ、明日は新入生の入学式ですから。確か貴女の妹さんが入学されるとか…」
女姉「はい。不出来な妹ですが」
「またまたご謙遜を。期待していますよ」
女姉(……、そうだ。あの子がとうとう入学する──中学で問題ばかり起こしていた妹が、私が教鞭を執る学校へ…)
女姉「けれど…」
女姉(大丈夫よ、私。この私が居る限り、妹には決して問題行動を起こさせたりしないわ)
~~~
「おい!? 聞いたか、入学早々に一年女子が一年男子に喧嘩ふっかけたらしいぜ!?」
「ああ、しかも周りに舐められんようにと、目立とうとして救急車を体育館に呼び込んだんだろ…!?」
「やべえなマジでやべぇの来ちゃったよ一年坊…」
女姉「……………」
「…聞いた話によると女姉先生の妹らしいぜ…」
「まだ騒いでるって、一年女子。凄い気迫で喚いてるらしい」
「先生が完璧主義者なのって、妹さんを更正させる為らしいぞ」
女姉「………………………」ピクピクピクピクビクビクッッッ
「女姉先生」ニコニコ
女姉「こ、校長…! 今回の不祥事、教員立場という以前に姉として──」
「ええ、ええ、わかっていますよ」ニコ
女姉「え、いや、あの、…一体なにを?」
「私の【期待】、裏切らないようお願いしますねえ」ニッゴリィ
女姉「……ハイ……」ダラダラダラ
~~
女姉(これじゃあ私の完璧な人生設計に傷、いや罅、ううんそれ以上の影響が出てしまう…)ギリッ
女姉(妹に、あの騒動の理由を問いつめても意味不明なことばかりいう。なによ、復活の呪文で起きあがったってッ!)
ダァンッ!
女姉「──私はいつだって完璧じゃないと駄目なのよッ!」
女姉(なんとしてでも、今後の妹の問題の芽を潰す手段を考えないと…)グググ
ガラララ
女姉(…! こんな時間に生徒っ? しまった、さっきの殴打を聞かれた可能性が──)
男「あの、すみません…」コソ
女姉「──君、一年代表に選ばれた生徒よね?」
男「え、あっ、はいっ! 覚えていただいてたなんて嬉しいです!」
女姉(忘れるわけがないでしょう! 馬鹿妹が喧嘩ふっかけた張本人、ただの生徒ならここまで問題にならなかったというのに…!)
男「その、えーっと…」キョロキョロ
女姉「君、もう下校時刻はとっくに過ぎているのよ」
男「す、すみません! 実は部活動の勧誘を遅くまで受けてまして…断るに断りきれずこの時間帯に…」
女姉(うぐッ、超良い子そう。まったまったくあの子はなんでまた、こんな子に喧嘩売ったわけ…?!)
男「その~無理を承知でここに来たんです。実は個人的なことで先生に相談がありまして~…」チラ
女姉「個人的相談?」
~~
男「──というワケなんです、ええ」シュン
女姉(嘘、まさか本当にこの子が原付二人乗り事故を? あの子が言っていた通りの展開が起こってた…?)
男「今更、周りに真実を話しても信じてもらえずに、むしろ庇ってあげる必要ないと言われる始末でして…」
男「だから、こうなったらもう公式的に教師の方々から俺が起こした真実を発表してもらいたいんです!」
女姉「……」
男「どうにか出来ないでしょうか? このままじゃ彼女が可愛そうで…」
女姉(──駄目だわ、学校側が認めた代表一年が起こした不祥事を発表するなんて認めるわけがない)
女姉(こうなってしまえば話は別。むしろ妹が話題を肩代わりしてくれて有り難いと言わんばかり)
女姉(それにしてもこの子。わざわざそれを教師に提案しに来るなんて、ただのお人好しにしては…不可解ね)
男「あの? 先生…?」
女姉「……。君は彼女に謝罪がしたいのかしら、それとも周りの誤解を解きたいのかしら」
男「…どちらもです」
女姉「賢明な判断ね。けれど、良心の呵責から出た行動だとしても【学校側はなにもしない】が私の見解よ」
男「っ!? ど、どうしてですか…!?」
女姉「【君がそういう立場だから】。わかるでしょう? 君が起こした罪は簡単に周囲は認知できない、してはならない」
男「……」
女姉「だから──どうしたの?」
男「そう、ですか」スッ
男「有り難うございます。教師として、言いにくいこと敢えて言ってもらえて、改めてふんぎりがつきました」
女姉「私は…」
男「──一人で、頑張ってみます。何とか誤解が解けるように」ニコ
女姉(この子…まさか、始めからそのつもりで…?)ハッ
女姉(これ、は。決まったわ、今さっき咄嗟に浮かんだ名案が。きっとこの子ならやり遂げてくれるかも知れない──)
男「では、これで…」ガタ
女姉「待ちなさい! ううん、待って…! どうか最後まで私の話を、いや願いを聞いてほしいの…!」
男「願い…?」
女姉「そう、お願い。貴方でしかきっと出来ない、やり遂げられないことを教師として、一人の人間として…ううん」
女姉「──一人の姉としてお願いしたい
数日後
「えー、今日はこのクラスでの委員長二人決める。誰か立候補、また推奨する者はいるか」
女「は、はいっ! 私が委員長に立候補します!」バッ
ヒソヒソ ザワザワ
「え、あっいやぁーそのだね、君は…」
男「自分も委員長に立候補します」ガタ
「えぇっ? し、しかし、でも君は…」チラ
女「……っ」ビクッ
男「他に誰か立候補する人も、推薦する者も居ないみたいですし。どうでしょう、このまま決めてしまっては」
「ふぇぇ…?」
男「──何か問題でも?」
「そうだそうだー早く帰りたいつーの」
「先生ぇも中間テストの範囲決めで忙しいっしょー?」
キーンコーンカーンコーン
女姉「……」スタスタ チラリ
女「っ~~~! ~~!?」
男「……、…、……」
女姉(無事に二人、どうやら委員長になれたようね。これからも頼んだわよ、男くん)スッ
女姉(彼には妹の面倒を直で見てもらう。担任じゃない私では介入に限界がある、だから同士を見繕う必要性があった)
女姉「でも、よくこんな願いすぐさま承諾してくれたわね…」ハァ
女姉(──彼の謝罪と真実の露見、この件のお返しに私が手助けするとは言ったけど…彼にも無理に近いことは理解してるはず)
『もし、仮に君の願いが叶えられなかったら。また異なった願いを言って頂戴、出来る限りのことはするつもり』
『大人がそういうこと言わないで下さいよ。期待してます、先生』
女姉(大人、か。私もまだまだね、子供に諭されるなんて完璧主義者が聞いて呆れるわ)フッ
女姉「今更かもしれないけれど、立派な大人として、彼に良いところを見せなければ…」ツカツカ
~~
「聞きましたよ先生、あの問題の二人が委員長って話」
「ええ、今から胃がキリキリと…」
「やっかいごとは増やさないで欲しいもんですなあ。ただえさえ問題児が多い学校と噂されとるのに」
「過去にもいましたねぇ、繁華街のホテルで無断にバイトする生徒がおったりして」
「──まったく、学校にまで持ち込んで欲しくないもんですよ」
女姉「……」
~~
「女姉せんせーおはようございまーす」
女姉「あら。どうしたのかしら、今日は一段と良い挨拶ね」
「へへ、あのね? 一昨日からカレシと仲直り出来たんだぁ」
女姉「へぇ…」
「クラス中巻き込んでさ、変なフンイキになっちゃってたんだけど──ここだけの秘密だよ?」コソコソ
女姉「? なにかしら?」
(実はウチのクラスの委員長二人、付き合ってる噂で持ちきりなの。先生の妹さんでしょ? それって?)
女姉「え、あ、うん…?」
「あの仲悪い二人がそっこーで仲良くなってる姿みたらさぁ、ウチも喧嘩してたのばからしくなっちゃってww」
「──だから先生もはやく、良い人みつけなよー?」
女姉「馬鹿ね。大人を心配する暇があったら将来を悩みなさい、今度の中間テスト期待してるわよ」
女姉「……」
女姉(……。そこまで近づけとは言ってないのだけど、私は)
~~
『ええっ!? な、なりゆきですっ! 誤解ですってば!』
女姉「君、嘘が露骨に声に出るわね。電話越しでも動揺顔が手に取るようにわかるわよ」
『…はあ、まさかの予想外。でも、作戦は上手くいったみたいで安心しました』
女姉「作戦ですって?」
『ええ、クラス男女仲を良くする為に。仲の悪いと噂される二人が率先して一緒に帰宅すれば変わるかもと』
女姉「思い切ったことするものね。君からの提案かしら?」
『違いますよ、妹さんです。…煽ったのは俺ですけど、まあ、女姉先生から彼女の性格はよく聞いてましたし』
女姉「そう、なら油断しないことね。妹はどこで感情を爆発させるかわかったもんじゃないの、注意を怠らないように」
『あの、遅いですその助言…この数日でいやと言うほどわからされましたけどね…』
『──ぅーん、あ! こりゃナオンと電話中デショ! んな雰囲気だしてるー!──』
『ワオ! オトコってば手がはやーい──ちょっとお姉さんに変わってみ? 働け──ゴキィイインッ』
女姉「どうしたの? こんな夜中に騒がしいわね」
『ちょ、電話中だって言ったでしょさっき!? シッシッ! …い、いや、その親戚の人がお酒飲んで騒いでまして…』
女姉「? そう、なにか骨が折れた音も聞こえたような…」
女姉「まあいいわ。それよりも明日も学校なのだから早く寝なさい。良いわね」
『わかりました。では、これで』ピッ
女姉(順調そうでなにより。けど、まさか妹のほうから彼に提案するなんて少し変わったのかしら、あの子も)
~~
女「……」ザッザッ…
女(ふぅー、目についたから気まぐれに掃除してみたものの)キョロ
女「…ヤバイわね、コレ、今日中に終わるのかしら」ズーン
男「大丈夫。終わらせよう」
女「おわーっ!? びっくりした!」
男「おわーってアンタ…もう少し繊細な驚き方が出来ないのか…」
女「う、うるさいわね! 良いでしょ別に、つか驚き方まで口出すんじゃない!」
男「はいはい。口うるさくてすみませんね」ザッザッ
女「…っ…な、なによ、一緒にしてくれるのっ?」チラリ
男「素直に手伝うと言えば怒るだろうから、勝手に始めただけだよ」
女「分かってるなら口に出・す・な!」ガァンッ
男「だァー!? なにも集めたゴミを蹴ることないだろ!」
女「いちいち突っかかってくるなら手伝わなくて良いわよ馬鹿!」
男「説明しないならしないで、意味がわからないからキレ始めるだろアンタは!」
女「きぃ~~~!! 腹が立つ、なによわかったようなこと言って! ええそのとおりよバカ!」
ギャーギャー ワーワー
女姉「…ハァ…」
~~
女姉「もう少し静かに活動できないかしら…人払いできるタイミングも限られてるのよ、私でも」
男「うぐ…すみません、どうにも彼女相手だと口が止まらないようで…」
女姉「相性が良いのか悪いのか、とんとわかりづらいわね貴方達」
男「相性、良いですか俺ら?」
女姉「あの娘相手に上手くやれてる方よ。…勘違いしないように、交友関係であって交際関係では無いから」ジィー
男「まだ疑ってるんですね…」ハァ
女姉「勿論。私の監視下である限り、そのような自体は認められないわ」
男「それ、妹さんを想っての発言ですか?」
女姉「変なことを聞くのね。どうしてそう思う?」
男「…いえ、なんとなくただ、」
男「──女さんと女姉先生が話してる姿が、全然思い浮かばなくて」
女姉「そう、私もそう思うわ」スッ
男「えっ?」
女姉「でも良いのよ別に。妹にとって私は壁でいい、辛い存在で良いの。私も望んでも居ないし、彼女だって望んでいないでしょう」
男「……」
女姉「今日はここまで。遅くなりそうなら車で送っていくけれど?」
男「い、いえっ、電車はまだあるので大丈夫です! それでは…」ガララ
女姉「そう。じゃあまた明日」
女姉(…そう、私は厳しい姉として居ればいいだけ)
~~
「女姉先生。おはようございます」
女姉「! 校長、おはようございます!」サッ
「いえいえ。そう堅くならず、私も少々言い過ぎたと反省しておるのですよ」
女姉「仰る意味が…」
「目まぐるしいばかりではないですか、妹さんのご活躍は私の耳にも届いてますよ」
「率先してでの委員長立候、風紀委員で自らゴミ拾いをし、挨拶運動にも自主的に取り組んでいると」
女姉「……。それは嬉しい限りですが、彼女が起こした問題が決して無かったことになるとは思いません」
「お厳しい言葉で。ですが、過ちもまた成長。何時かの機会に妹さんへ言葉を投げかけてみては如何でしょう」
女姉(…言葉を、投げかける)
第四講義室
女姉(甘い言葉なんて必要ない。私は妹にとって厳しく、現実を突きつける嫌な姉で良いのよ)
女姉(今更彼女に優しい言葉なんて──)
ガララ
女姉「ん、来たわね。今日は遅かったじゃない」
男「少し私用な用事があって、もう終わったので安心して下さい」
パタン
女姉「? そう、ならいいわ。では早速始めましょう。今日は私の方から君へのお返しする件について──」
男「……そのことなんですが」
男「『あの件の願い』は撤回したいと思って、ここに来ました」
女姉「撤回…? 急にどうして…」
男「やはり自分の力で彼女が受けている誤解を解こうかと。その道も何とか見えてきましたし、わざわざ先生の力を借りなくても…」
女姉「……」
男「あ。でも、先生との取引は続けるつもりです。まあ、公私混同なことになりますけど…」
女姉「君は…」
女姉「ハア、なんというかお人好しという部類に入る人間ね」
男「です、かね」ポリポリ
女姉「敢えて私から言わせてもらうけれど、君がやってきたことは私の要望でもあったのよ。そして君もそれを受け入れた」
女姉「その結果、私の要望を限りなく成功させたのが君。それが事実」
男「でも…」
女姉「でもじゃない、あのね? 私が一人で成し遂げるべき私用に他人を巻き込むだけじゃなく、生徒一人を使ってやり遂げたの」
女姉「本来なら教えとくべき立場の君に、……無様にすがりついた」
女姉「こんな体たらくぶり許されるわけがない。なのに今まで嘆かず突き通せたのは、君へのお返しがあったからこそ」
女姉「それを今更になって要らないと言われたら、私はどう自分に落とし前をつけたらいいのよ」
男「どうといわれましても…」
女姉「勝手なことを言ってるのはわかってる。けど、君はそれだけの仕事をこなした、だったら見返りある報酬を受け取るべき」
男「仕事、なんですか?」
女姉「…!」
男「俺思ったんです。俺は報酬を受け取るから女さんと仲良くなったのかって、始まりはそうでも…今は違うと思ってます」
男「誤解を生んでしまったのは俺の責任です。解く方法があるならきちんとやり遂げるべきだとわかっているつもりです」
男「でも、こうじゃないって思ってしまって…結局、自分は最初から最後まで女さんを騙してるんじゃないかって…」
女姉(騙して、る…)ズキン
男「俺、ちゃんとやります」
男「先生との約束は守りますが結果としてそうなってるだけで、ちゃんと俺の意志で仲良くやっていきます」
男「だから報酬なんてものも要りません。でも、そうであっても先生が納得しないなら…」
男「…どうか女さんに一言あげてください。頑張ってるって、よくやってるねって」
女姉「な、なぜ、そんなことを私が…」
男「彼女が言ってくれたんです。頑張る理由が、駄目な大人にならない為には、」
『私、お姉ちゃんみたいにカッコいい女性になりたいの』
男「だから、どうか一言で良いので褒めて下さい。彼女を…」
男「もっと近くで見てあげて下さい。それが、俺の今の願いです」ペコリ
~~
女姉(もっと近くに居て、褒めてあげて下さい。なんて、元より求められてなかったらどうするのよ)
女姉「……、ハァ…もう腹をくくろう」がらり
女「! ばかねっ、この私を待たせるなんて良い度胸じゃない!」バッ
女「今日という今日は堪忍袋の尾が切れたわ! 駅前クレープおごりジャンケン、受けて立ってもらうわよ──」チラ
女姉(…………。この子は本当に…)ズーン
女姉「ずいぶん楽しそうね、貴女」
女「──おね、ちゃ!?」サァーー
女姉「失言よ、それ。学校では絶対に姉と呼ばないよう散々注意したのに、まだ理解できてないの?」
女姉「ちゃんと先生と呼びなさい。良いわね」
女「ご、ごめんなさい先生…」シュン
女姉(どうしようもない娘ね、本当に。何度教えても覚えない、何度壁を作っても挫折する。なのに結局諦めない根性っぷり…)
女姉「もういいわ。無駄に残ってないで早く帰りなさい、折角、私が親に掛け合って塾を免除させてあげたのに」ハァ
女「…はい…」
女姉「貴女が自主勉強を頑張ると言い切ったの、忘れたのわけじゃないでしょうね」
女「……」コクリ
女姉(ああ、ほんとうに昔の私を見ているようで嫌になるわ。頑張れば報われるなんてそうあることではないのに)
女姉(でも…)
女姉「──でも、今回の中間テストは良かった」
女「えっ?」
女姉「勉強したのね、ちゃんと。しかしまだ甘い、ニアミスの酷さが教員連中で話題のネタになるぐらい酷かったわ」
女「…ウッス…」
女姉(きちんと言うべきことは言う、厳しいことだけを見せつけても駄目。わかってる、そんなことは)
女姉(しかし、私はそうして失敗してきた)
女姉(成功だけに取り憑かれ、失敗を恐れなかった。過去に経験した苦い思い出を彼女にさせたくない)
女姉(──でもこの子にとっては大切な【今】じゃない)
女姉「けれど個人的に評価してあげる。貴女の頑張りは認めるわ。きっと良い──」
女姉「──良い、クラスメイトが居たのね」フッ
女「……!」
女姉「暗くなる前に帰りなさい。良いわね、絶対よ」
女「あ、おね、えぇと先生…!」
女姉「なに?」クル
女「あ…その…えと…これからも、頑張りますっ」ピシッ
女姉「くす。ええ、勿論。だって期待の妹ですから」ニコ
ガラリ パタン
女姉(フゥー、慣れないことするもんじゃないわ。顔、熱い)パタパタ
女姉(これでよかったのか教えてほしいものだわ。はっ、教師が聞いて呆れる。心の折り合いをご教授願うなんて完璧主義者にもほど遠い、)チラ
男「……えっと~」ポリポリ
女姉「趣味が悪いわね、覗き見? それとも聞き耳?」
男「ふっ、不可抗力です! というか教室にカバン置きっ放しですし!」ブンブン
女姉「認めないわよ。…だから、少し付き合いなさい」ツカツカ…
男「えぇっ?」
女姉「大人の私をここまで辱めた責任を取って」じぃー
男「えぇッ!? 言い方悪くないっすかそれッ!?」
~~
男(コーヒー奢り程度で良かったんだ。安心した…)ズズズ
女姉「……」コロコロ
男「あの、飲まないんですか?」
女姉「飲むと吸いたくなるのよ、煙草」
男「え、吸うんですか? なんだか意外ですね」
女姉「昔、煙草を格好良く吸う先輩に憧れて始めたの。まあその程度だったから、ぱったり止めれたりもできたんだけど…」
カシュッ
女姉「ふぅ、今日は色々と当時を思い出したから。コーヒー程度で吸いたくなりそうよ」ニコ
男「そ、そうっすか」ドキ
女姉「ねえ、質問があるのだけれど。いいかしら」
男「…どうぞ?」コク
女姉「じゃあ遠慮なく。君、まったく大人を信用してないでしょう?」
男「ぶほぉっ!? けほ、こほっ、一体なにを急に…!?」
女姉「最初に私が聞いた君の相談、あれ、前提から教師の『公式発表なし』という言質を取るためだけに出向いてきたんでしょうし、」
女姉「他にも色々と、大人を行動基準に入れずに考えた末に出た答えが、見え隠れしているもの」
男「そんなワケ、」
女姉「じゃあ今回で私の報酬を要らない、と言い切った君なりの意見は?」
男「それ、は」
女「大人がやることを信頼してないからでしょう? だから良い落とし所を考えて私に提案した。まあ、穿った見方をすればね」
女姉「聞かせて。どうして、そこまで大人を信用出来ないのかしら?」
男「違いますよ、それは…」チャポ
男「信用してないとかじゃなく、俺に出来ることと大人が出来ることを把握してるだけです」
男「やれないことは俺にもあるし、むしろ子供の俺のほうが多いでしょう」
女姉「そう、そうなのね」
女姉「信頼してないじゃなく、大人を期待してないのね。貴方は」
男「…………」
女姉「そっちのほうが問題だわ。子供らしくない、まるで大人以上に未来に道がないと言わんばかりじゃない」
男「だって、あーしてくれこーしてくれと嘆いたってしょうがないじゃないですか」
男「大人だって暇じゃない、例え先生でも生徒一人一人の都合に合わせられるわけじゃないし」
男「だから頑張るんです。無理してるなんて言われても、俺のために無理して他人を付き合わせるほうがもっと面倒くさい」
女姉「君…」
男「──先生。俺は期待するより期待される人間に成りたいんです、きっと」ニコ
女姉「……! ねえ、本当に願いは無いの?」
男「えっ? な、なんですか急にっ?」
女姉「良いから言いなさい、馬鹿ね、そんな苦労は大人になってから考えれば良いの」
男「こ、高校生も既に大人の仲間入りなんじゃ…」
女姉「それ以前の問題」
女姉(一人でなんでも出来るか、なんて大人になっても望むかどうか)
女姉(完璧主義者をうたう私であっても、他人の大切は痛感している)
女姉(この子こそ誰よりも『認めてくれる人』が必要じゃない。なのに、これ以上誰かに認められようとしてるなんて)
男「せ、先生…?」
女姉「決めた。妹を褒めるという願いの件、やっぱ無しよ。君への報酬にはならないわ」
男「はいっ!? でもこれ以上俺が女姉先生に叶えて欲しいのなんてっ」
女姉「どんなことだって良い。私という人間が出来ること、なんだってするわ」
男「ちょっ、これ他の人に聴かれたらやばいんじゃ…」ソワソワ
女姉「どうなの? 無いの? あるの? 考えつかないなら私が考えるわよ?」
男「うぐッ、マズイ本気ですね先生…ッ! うーッん、えっとぉ~…ッ」
女姉(やっぱり無いのね。ここまで言えば邪な望みぐらいでると思ったのだけれど、まあ私の考えすぎか…)
男「───…実はありました」ダラダラ
女姉「え? ある、の?」
男「だめでしょうか…?」
女姉「い、いえ、駄目じゃない、全然駄目じゃないわ。ドンときなさい、私を期待して」
男「わ、わかりました! じゃあ早速ながら今日にお願いしたいんですけど…」
男「今から俺とラブホテル行ってもらえません、か?」
第五話 中編 2/2 終
四日後にノシ
男「今から俺とラブホテル行ってもらえませんか?」
女姉「あぁなんだ、その程度なら別に構わな──」ほっ
女姉(えっ)
──ガタン ゴトン プシュウウウ…──
女姉(えっ)
ワイワイ ガヤガヤ ニイチャン ヤスクシトクヨー
女姉(えっ)
【前回までのあらすじ 男は教師をラブホに誘った。】
男「先生、この路地裏ではぐれると厄介なんで気をつけて下さいね」
スタスタ
女姉「……」ピタ
女姉(──返事に窮していたら、とんでもない所まで着いてきてしまったわ)
ブンブンブン…
女姉(しっかり気を保ちなさい女姉。なにを戸惑っているの、バカね)
女姉(私と彼は教師と生徒)
女姉(きちんと言わないと駄目よ…例え懇意にしていた生徒の願いであっても…)
女姉(で、でも、私からああまで催促して今更無しと言うのも可愛そ、ばか! 何を考えてるの!)
男「先生? 大丈夫ですか?」ヒョコ
女姉「ひゃいっ!?」
男「……本当に大丈夫ですか?」
女姉「くっ、も、もちろん大丈夫に決まってるじゃない…っ」
男「やっぱりココは慣れない雰囲気ですよね…」
女姉「──あら、大人の女性にあまり失礼なことは言わない方が身の為よ?」キリッ
男「そ、そうですよね! ごめんなさい!」ペコペコ
女姉(あ~~~っ! ここに来て見栄を張ってる場合じゃないのに!あ~~っ!)キリリッ
男「じゃああまり遅くなるとあれなんで、急いで行きましょうか」
女姉「どこへかしら?」ニコ
男「ラブホテルです」
女姉「………………………」ダラダラダラダラダラ
~~~
女姉(なんとか説得方法を考えなければ、考えろ考えろ考えろ…)ズモモモモモ
男(なにやら居心地悪そう。やっぱり生徒と一緒じゃ駄目な場所だよな)
男(まあ一応、人気少ない路地裏を選んでるつもりだけど…)スタスタ
男(──しかし、先生が知っていたとは。俺が住んでる場所がラブホテルだって)ウンウン
男(言い方マズッたかと思ったけど、案外、普通に着いてきてくれたし)
男(事前に調べてたのかな。まあ【あの部屋】ことは覚えてるか分からないけど…)
女姉「君はこの辺に随分と土地勘があるのね…」オドオド
男「え? ええ、この制服姿じゃやっぱり目立っちゃうので」
女姉「へ、へぇ~…手慣れてるじゃない…」チ、チラ
男「頑張って探したんですよ、いつか友達を連れてきたいと思ってますので…」テレテレ
女姉「友達未満で!?」
男「えっ、あっ、それはまだ早すぎますかねっ?」ビクッ
女姉「あったり前じゃないの! 今の発言は教師として聞き逃せないわ…!」
男(やはりそうだったのか…俺も友達を家に連れていくのハードル高いと思ってたんだよな…)
女姉(嘘、この子見た目によらず肉食系なの…そう、そうよ私を連れて行こうってぐらいだもの…)
男「じゃあ先生はどれぐらいなら友達を連れても良いと思いますか?」
女姉「ええっ!?」
男「是非、先生からご教授願いたいです」キラキラ
女姉(なんて澄んだ眼をして…ううん、そうよ、教師としてやることは一つ)
女姉(この子をこっち側に引き戻すのよ、私の教えで)グッ
女姉「えっと、その…まずはお互いの気持ちを知って、分かり合ってから、きちんとした段階を踏んで…」
男「はい先生、質問です」シュバァ
女姉「はい! 男くん!」ビシィイイ
男「すると段階が一発で分かる手段はなんでしょうか?」
女姉「良い質問よ。それはもちろん──キスでしょうっ」ピッ
男「キスですか!? キスが正解ですか先生!?」
女姉「わわ私はそう思うのだけれどもっ!? ささ最近の子はそれとも違うのかしら!?」キョドキョドドド
男「俺もちょっと知らないですけどッ! キス~~ッ…てぇのは口、と口を…?」
女姉「く、くっつけて…そう、…互いの口を…」カァァ
女姉(わ、私は一体何を言って…でもこれで彼に清く正しい順序を教えられたはず…)
男「よし! 話を参考にして友達できそうになったら、なんとかやってみます!」
女姉「一切分かってないじゃない! 話し損よまったくッ!」
~~~
男(友達作りって想像以上に大変なんだな…さらに不安になってきた…)ズーン
女姉(どうやったら清く正しい交際の仕方を教えられるのかしら…)ズーン
男「先生、どうやら俺には難しいみたいです。当分のところ諦めておきます…」
女姉「そう簡単に諦められちゃ困るのよ……!」
男「うぐッ、じゃ、じゃあ先生はどうやって(友達)作ったりしましたか?」
女姉「えっ…!? ど、どうやって(恋人)作ったか…!?」
男「関係を深めるのがどうにも苦手なんですよね…」ハァ
女姉「き、君なりの悩みがあったのね…けれど教えられるほど私も経験が…」
男「え、もしかして(友達作りの)経験ないんですかっ?」
女姉「………、ハイッ!? えっ、あっ、えっ!? ちがっ」カァアアア
男「意外ですね…そうは見えないのに…」マジマジ
女姉「いやっ…そうと決まったわけじゃ…」キョドキョド
男「あ、失礼なこと言ってすみません…経験ないとか…」ペコペコ
女姉「そんなこと謝らなくても結構よ!? ていうかそうと決めつけないで!」
男「でも経験がないってさっき…」
女姉「さ・ほ・ど、よ! さほど! まるっきり無しとは言ってないじゃない!」
男「すみません! ではご教授のほどよろしくお願いします…!」
女姉(墓穴を掘ってしまった!)
男「あの、無理して嘘をつかなくても良いんですよ…?」チラ
女姉「なによその同情した顔は…ッ! 良いわよ、大胆不敵な過去話しに震えなさい!」
女姉(こうなったら見栄っ張り上等でとことん上塗りした恋愛話をぶっちゃけて──)バッ
女「………」ヒョコ
女姉(───うん?)ダラダラダラダラ
男「先生? 後ろがどうかしましたか、ぱふぃっ!?」バチン!
女姉「絶対に、振り向いちゃ、ダメ、わかった?」ミチミチミチ
男「ふぇ、ふぇい」コクコクコク
女姉(なぜにあの子が此処にッ!? 私たちの後を着いてきてた…? 一体どこから!?)チラ
男「…っ…っ…」ドキドキ
女姉(って不味い、この距離で近づいてたらあっちに勘違いされるっ)ぱっ
男「なんですか急に…びっくりしまたよ…」チラ
女姉「──行きましょうか」
男「えっ?」
女姉「さっさと行くのラブホテルに! 速攻で誰に見つかることもなく!」
男「声量考えて先生! いくら人気無くてもヤバい内容ですから!」
女姉「ごちゃごちゃいわずにさっさと行く…!」グイグイ
男「え、ええっ…やっぱり経験ないの誤魔化しにかかってるんじゃ…」
女姉「だまらっしゃい!!」ズンズンズン
女姉(あの子が居るなら悠長にしてられない! ろくに帰宅ルート覚えず来たから戻れないし…!)
女姉(手早くホテルに向かって姿をくらます。道中で妹を巻けばいいだけっ)
女姉「ほらっ! 貴方が行きたがってるホテルはどこにあるのっ?」
男「そこの通りまっすぐですけど、あの、少し声量を落として…」
女姉「今更恥ずかしがる神経持ってないでしょ貴方は!」
ずんずん ずんずん
男「ここ、です」
女姉「ここね! じゃあ早く入店して───」
『スィートランドホテル』
女姉「──ふええ?」キョトン
女姉(ここって、確か。え、あれ、見覚えあるけど、あれっ? あれれっ?)
女姉「…っ…」カツン
男「──先生」がしぃっ
女姉「ひいっ!? お、男くん!?」
男「今、逃げようとしましたよね? ダメですよ、逃がしませんから」ギュウ
女姉「まっ、待ってくれない? え、どうしてこのラブホテルに…!?」
男「何を今更知らないふりをしてるんですか」
男「俺にはどうしても解決しなければならない事があるんです。ご覚悟を」
女姉「解決…なにそれ、待ってちょっと!? やだやだやだやだ! ここはやだ!」グイグイ
男「あ! やっぱり今の今まで部屋のこと忘れてたんですね!」
男「でも諦めませんよ! これが俺の願いです! しっかり解決させてもらいます!」グイグイ
女姉「やめてやめて! ほかのラブホテルだったら良いから! 着いていくからここだけはイヤ!」
男「ここまできてなに意味不明なこと言って、るんッ、ですか…っ」ギリギリギリ
女姉「いぃ~~~~やぁあ~~~~っ」ギリギリギリ
「──大声でうちのホテルを大否定するな、迷惑だろ」シュボッ
女姉「ひぃいっ!?」ビックゥウウン
叔母「ん? あれ、お前…」フゥー
女姉「あっ…あぁあ…っ…! せ、せんぱ…っ」
叔母「とうとう生徒に手を出したのか?」
男「ちがう!! もう叔母さんは黙っててください! ややこしくなるから…!」
叔母「いや普通の心配だと思うんだけど…」
女姉「叔母…さん…?」
男「と、取りあえず店に入りましょうっ? このまま目立つよりましですから!」
女姉「え、ええ…は、はい…?」ス、スタスタ
叔母「というか会うの久しぶりだな、元気してた?」チョンチョン
男「中でやってくれ中でッ!」
スタッフルーム
女姉「──先輩の甥っ子ですって?」
叔母「言っただろ、以前に。私の甥っ子がそっち入学するって」
女姉「言ってましたねえ…街角で『来月、甥っ子がお前の所向かう』と後ろから唐突に…」ピクピク
男「なんで暗殺者みたいな報告するんですか…」
叔母「面と向かえば逃げるのが目に見えてたから?」
女姉「恐ろしさに振り返ったら、誰も居ないよりマシだと思いませんか!?」
叔母「おあいこだろ」フゥー
女姉「ど・こ・が! ですか! まったく本当に昔から先輩は変わってなさ過ぎです!」
叔母「そういうお前もまったく変わってないよな、特に胸とか」
女姉「きぃーーー!!!」
男(やっぱ姉妹だなあ。女さんと怒り方が一緒だ)
男「こほん、では早速ながら先生にお願いを叶えて欲しいんです」
叔母「まさか君…44号室の謎を…?」
女姉「えっ!? ちょ、ちょっとまだあの部屋あるんですか!?」
叔母「うん。というかこの子を住まわせてる」
女姉「当時から何も変わってないなあこん人はーッ!」
女姉「っていうか、一体なにを考えてるんですかっ?! 年端もいかない子供を住まわせるなんて…!」
叔母「ここまできたやつが言うセリフじゃないぞ」
男「そういえばここが家だと知らずどう納得して来たんですか…?」
女姉「わ、わぅ忘れなさい! いいのよもうそれは…っ」
叔母(きっとエロい勘違いしてたんだろう)ひそひそ
男(じ、実はわかってますけど黙ってて下さいっ)ひそひそ
女姉「聞こえてるわよそこの一家…ッッ!」ぴくぴく
男「と、ともかく! 俺の願いを聞いて下さい! 先生!」
【一方、その頃】
女「……」ヒョコ
清掃「……」ヒョコ
女「じゃ、じゃあ本当にさっき言ってたとおりなのね…?」
清掃「うん! ボクは見た、オトコが嫌がる女性を無理やりホテル連れってたトコロ!」フンスー
女「なんて…なんて悪辣非道なやつなの…!」ワナワナ
女(この私に近づいたのは、私のお姉ちゃんを手中に収めんが為の行動だったのね…ッ!)
清掃「ボス? どうしやすか?」わくわく
女「無論! 乗り込んでとっちめてやるわ!」
女「──大切なお姉ちゃんは私が守ってみせる! 行くわよ、手下ケルケル!」バッ
清掃「らじゃー!」ダダッ
【数十分前】
女「ひぐ、えぐ…がえりがだ…わがんばい…」ヒックヒック
女(どうしよう、このまま黒い服の人に拾われて外国に売られちゃうんだ私…っ)トボトボ
女「うぅ~っ…これも全部、アイツのせい…あの男のせいじゃない…っ」
ごしごし
女(あ。そう考えだしたら腹が立ってきた…なによお姉ちゃんといつの間に仲良くなってたワケ!?)
女「こ、この私を弄んだ挙句にそーいうところ向かっちゃうなんて上等ねッ!」クルッ
清掃「……」じぃー
女「部屋に乗り込んでとっちめて、きゃーーーーーーーー!!??」
女(あ、あれってどう見ても以前に校門前で事故ってた外国人…!?)チラ
清掃「……」じぃーーー
女(見てる! どうしてこっち凝視してるの…!? やだ、このままじゃ本当に売られちゃう…?)
清掃「アノー?」ニコニコ
女「ひいいっ!? お、おいしくにゃいから! 食べても私おいしくない…!」ガクガクガク
清掃「もしかしてオトコのトモダチなの?」
女「…え? 友達…?」ぐす
清掃「だって同じ制服きてるから、同じかなあって、トモダチかなあって」ニコ
清掃「もしや迷子してる? ならケルケルが駅に連れてってあげ──」
女「馬鹿ねッ! アイツと友達なわけ無いじゃない! 生涯かけての敵よ、ライバルよ!」
清掃「Rival…?」キョトン
女「そう! 決して心許す友じゃない…
もっとこう複雑で、心がぽかぽかして、とにかくそんな気安い関係じゃなことは確かね!」
清掃「ほほー…凄い…トモダチなくってRival…凄い…」キラキラキラ
女「ふ、ふん! そんな敵の味方の言葉にほいほいついて行くものですか…っ」チ、チラリ
清掃「ううん、ボクはもうオトコの味方ちがう」フルフル
女「えっ!? な、なぜ…?」
清掃「ボクは見た。信じてたオトコが女性むりやりホテル連れていくトコロ!」
女「それはもしや…」
清掃「相手は大人の女性だったよ。キリリってしてCoolな人だった」
清掃「──でも、オトコはワガモノ顔で引っ張ってったの! ぶんすかだよケルケル!」プンスカプン
女(お、お姉ちゃんの事だわ! あああっ、遠くで顔が見えなかったけど嫌がってたのねお姉ちゃん…!)ポロポロ
清掃「ケルケルは裏切られた…きっとオトコは優しくて格好いい素敵なオトコ思ってた…」
女「そう、そうよ。奴は人の心を弄んで悦に浸る最低最悪の人間なの!」
清掃「くッ…なんてやつなんだオトコは…!」
女「賛同してくれて有り難いわ! よし、そうと分かれば私についてきなさい!」
清掃「ワオ! ボクもパーティ入り決定しちゃった!?」パン
女「もちのロンよ! よぉーーしッ! 悪の魔の手からお姉ちゃん奪還作戦、開始よ!」
44号室前
女「覚悟して突っ込んだ割に結構、普通に入れちゃったわ…」
清掃「ケルケルここの清掃員だから! それで、オトコ達はここに居ると思うよ」
女「な、なるほど。こっ、この部屋にお姉ちゃんとアイツが…」ゴクリ
清掃「さっそく乗り込むワケですかボス?」キラキラ
女「まずは聞き耳よ! 中でどうなってるか確認しないとマズイ気がする…!」ソソソ
『──先生、覚悟は決まりましたか?』
女「こ、これって…あわわわ…」
清掃「もう始まっちゃってた?」
女「まだ…決定的な単語を聞くまではまだ…っ」ブルブル
『──ま、待って…少し準備させて、シャワーの方だってまだ…』
女「ひゃわー!?」
清掃「オトコってばせっかちさんね」ニコニコ
女「せっかちひゃん!?」
室内
男「いい加減覚悟決めて目を開けてくださいよ、先生」
女姉「いやよ…この部屋はトラウマなの、もう二度と訪れないと心誓ったのよ…」ブンブンブン
男「気持ちはわかりますが、さっさと終わらせたいのなら手短に済ませたほうが…」
女姉「うん…わかってる、わかってるのよ…!」ギュウウ
男「手洗い場だけじゃなく、シャワールームにだって超常現象起こるんですからね」ガチャ
女姉「ひっ!? ど、どこにいるの男君!? そばにいて頂戴…!」オロオロ
男「はいはい、ここですよ先生」ギュッ
女姉「うん…」ギュッ
男(なんだこの状況…)ポリポリ
女「手を握ってとか! そばにいて頂戴とか!」ボッ
清掃「意外とラブラブ? ケルケル勘違いしてた?」
女「そ、そんなしおらしいコトいうお姉ちゃんじゃない…! きっと脅されて、そうアイツに弱み握られてるんだわ…!」
清掃「オッケ! じゃあ開けて確認しちゃおう!」ガチャ
女「待って何、その突然の決断力!? もしお姉ちゃんが恥ずかしい格好だったらどうするつもりよ!?」
清掃「大丈夫。ボク、小さいお胸興味ないから」ケラケラー
女「お姉ちゃんがどう思うかの話してんのよコッチは!」
女(でも、このままじゃ埒が明かない…強行突破もやむなしかしら…!?)
『──俺は何処にも行きませんよ、側に居ますから』
『男くん…』
女(っ! お姉ちゃん騙されちゃダメ──)
『うん、今だけは貴方に素直な気持ちで告白するわ…』
女「──…!」
〈自分も委員長に立候補します〉
〈? なにしてるの? 早く一緒に帰ろう、確か同じ方向の駅だったよね〉
女(…なによ、それ)
女(誰にだって言うんじゃない。誰でも、アンタにとっちゃ【そーなのね】)
女(ふん、どーせそういうことだろうと思ったわよ。私みたいなやけっぱちな人間なんて、)
〈──良い、クラスメイトが居たのね〉
女(…誰からの評価も、得られないんだって)クル
清掃「ボス?」
女「いいの、もう。だってわかっちゃったから、私が頑なに認めたくなかっただけ」
女「二人は何処か遠くまでとってもとっても仲良くなってたの。…私が知らないうちに」
スタスタ
女(私はただ認めてほしかっただけ。ただ憧れの人に「頑張ったね」と言ってほしかっただけ)
女(なのに私はひとりぼっち)グス
女(お姉ちゃんも、貴方も。二人だけでどこか遠くにいってしまった)ゴシゴシ
女「…結局何がしたかったのかしらね、私ってば」
清掃「……」
女「もう帰る。あとお願い、駅まで送ってくれる?」ニコ
清掃「オトコは本当にサイテーだ」
女「うん? その話はもう…」
清掃「違うよ。ボスは今、オトコのせいで泣いてる。ケルケルそれがわかっちゃう」
女「えっ?」
清掃「はっきりとボクはオトコがサイテーだって思った。ケルケルはきっとそんなオトコを困らせたい!」
女「こ、困らせたい? 一体何を言ってるの?」
清掃「オトコ好きなんでしょ?」
女「ぶぅぅぅぅッ! ゲホゴホッ、急になに言い出した!?」
清掃「なら立ち向かう! 諦めちゃそこで試合終了だよーーー!」ダダァッ!
女「えっ、ちょまっ、引っ張らないでやあああああああ!!」ズルルルルルッ
ガチャッ!!
女「待って、いや! ごめんなさいッ──」ギュウウ
男「ナマイダブナンマイダブ…」ブツブツ…
女姉「ドーマンセーマン、ナンミョウホウレンゲッキョウ…」シャラン…シャラン…
女「…………、なにやってんのお姉ちゃん達」ドンビキ
女姉「え? きゃあ!? な、なぜ貴女がここまで来てっ!?」
男「一体どうやって…!?」
清掃「それはケルケルだよ~」フリフリ
男「余計に意味不明なったよケル君?!」
女「待ってお姉ちゃん、何、さっきの『ここまで来て』って…」ハッ
女「──私が追ってきてたの知ってて、ここまで来たの?」
男「え、そうだったんですか?」
女姉「かっ、勘違いされると思ったからよ! だって、二人でこんな繁華街に居たら絶対に貴女勘違いするでしょう…!?」
女「その妙な様子じゃ違う目的だったみたいだけど、じゃあどうして逃げたの…?」ブルブル
女姉(私がやらしい勘違いしてたなんて説明できるわけ無いじゃないッ!)
女「説明してくれれば良かったじゃない…やっぱり期待、とか嘘だったんだ…」ポロポロ
女姉「な、泣かないでっ?」
女「だから誤解よ、ここに来たのは初めてだもの。だからそんなワケない、私はちゃんと貴女のことを思って…」
女「本当に…? 嘘ついてない…? ぐすっ」
女姉「そのとおりよ、私は変わったの。他意無く素直に向かうって心に誓ったのよ…」
女「お姉ちゃん…」
男(いい話だけど全然ラブホテルでやる内容じゃない…)
受付「ねえねえ聞いてー! 霊の人を外で見つけたんだけどー!」ガチャア
受付「──さっき男君に路上チュー迫ってるの見ちゃったけどアレなに、…ん?」キョロ
受付「あれ? 居るじゃん、霊の人!」ビシッ
女姉「え? 私?」
女「例の人って、どういうことお姉ちゃん…? そう呼ばれるぐらい、ここに通ってたの…?」
女姉「えっ!? 私っ!?」
女「しかも路上チューって…それっ…もう、もうっ…!」
女姉「知らない全く知らない! 例の人って呼ばれるの今日が初めてだけど!?」
清掃「ワオ! よく見ると本当に霊の人だァー!」ガー!
女「ほら従業員の人まで呼んじゃった! うそつき! お姉ちゃんのうそつき! 生徒に手を出しまくる変態教師ぃー!」
女姉「誤解よ全くの誤解よ!」ブンブンブンブン
女姉「違うったら違うの! き、君からも説明して頂戴…!」
男「……俺がどう、貴女が勘違いしてここまできたか説明しろと……?」
女姉「あ、うん…それはちょっと肩の荷が重すぎる、かな…」ズーン
女「なによ二人して分かりあった雰囲気出しちゃって! もう、もういいわ! おめでとう! 結婚式にはちゃんと呼んでよね!」ダダッ
女姉「ま、待ちなさい妹! 貴女はとんでもない勘違いをしてるのー!」
ガシッ
女「…っ…!」バッ
男「待ってくれ! 先生の誤解はともかく、俺からはちゃんとした説明はできるっ」
女「な、なによ…アンタだって私をダシにしてお姉ちゃんに近づいただけでしょ…っ」キッ
男「とんでもねえ誤解されてるね! 違うっ、それは違うんだよ女さん…!」
男(みんな騒いでて気づいてないが、俺達の後ろでは凄いことが起こってる……!)
ぼごぉん ボゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ
男(お風呂場から凄まじい水漏れ音、やはり女姉先生の戸惑いがリンクしてるんだ…!)
男「これを見てくれ。見てくれれば一発で分る、今の不思議な状況がね」スッ
女「どういうことよ…っ?」
男「あ、開けるよっ? どんな状態なのか俺に教えてくれればいい、それだけだ」ガチャ
女「……?」チラ
男「行くよ──」ガッパァアア
女「……!」
ほかほか ほかほか ほわわん
男「………」
女「……お言葉に甘えて、言わせてもらうけど……」
女「──超準備万端じゃないッ!!!」カッッ
叔母「もう用事済んだ?」ヒョコ
男(タイミング考えて叔母さァーーーーーんッッ!)
女姉「」ちーん
受付「あ。ピンと来た、幽霊的なの今抜けてったな」
清掃「わーい!」
【誤解はすぐに解けました。】
【オマケ:ケル君と男で女を駅まで見送り中】
女「とんでもない日だったわ…お姉ちゃんのこと、あと宜しくね…」スタスタ
男「叔母さんと受付さんが責任持って朝まで飲み付き合うってさ…」スタスタ
清掃「にしてもボス、今日は頑張りましたデスネ!」
女「ふ、ふふん。そうよ? これも貴方が誤解を招くようなことをするからよ…!」
男「そうであっても、よくここまでこれたもんだ。怖くなかった?」
清掃「トモダチだからだよ、心配だからきっと追いかけてきたと思う」
男「トモダチ…?」トクン
女「ばっ!? 違う違う違う、ライバルよライバル! 友達はちょっと…私達的に見合わないじゃない…?」チラチラ
男「ま、まあ、そうだね。だから友達どころか親しい人間かも怪しいよ、ケル君」
女「…そう?」ズキン
女(なによ、そうまで言い切らなくても良いじゃない…これでも私だって少しは貴方のこと…)
男「だってキスしなきゃいけないんだよ? 友達同士で」
清掃「エッ…!」
女「一瞬たりとも認めたことないわ! [ピーーー]変態ッ!」
ちょっと過ぎてすんませんした
気まぐれに更新ノシ
男(あ。シャンプー切れてる)シャコ シャコ
男「まあ一日ぐらい洗わなくても気にしないけど…」ギトギト
男「………、うん! 無理だな!」
~~
男(そういや今日、女さんの校外掃除手伝ったせいで汗かいたんだった)スタスタ
受付「おんやー? こんな時間からお出かけかね青少年?」ヒョコ
男「ええ、実はシャンプーが切れたのに気づいてしまって」
受付「ありゃりゃ、ならホテルの据え置き使いなよ。沢山あるから使ってもバレやしないし」
受付「それにボディソープから石けんまで完備してるよー? げへへ、ご輿望あればヌゥルンヌルンのローションもあるけど?」
男「………」ボーゼン
受付「なにかねその顔は?」
男「まさか受付さん…金がもったいないからと、ここのホテルのシャンプー使用してないですよね…?」
受付「普通にやるけど」
男「いやぁーーーーーーーーーーー!!!」ギャー
受付「わ! 出た出た、君がたまに見せる乙女系反応だ」
男「信っっっじられないです! 不可解です! どうして使うんですか、意味不明過ぎてもうもうっ」
受付「突如どうしたのさ、急に」
男「あのですね!? 安価なシャンプーは逆に汚れるどころか髪を傷めるんですよ…!?」
受付「ふーん」
男「ふーん!?!?! なんだその興味ない反応、本当に女性ですか貴女…!?」
受付「気にし過ぎだってば。別に髪傷んでないしいい匂いするよ、ほれほれ」コショコショ
男「へっぷし! やめてください! 匂いが移る!」ぺしっ
受付「匂いが移る!?」
男「まったく、じゃあ安くて良いシャンプー選んであげますから、今度一緒に買いに行きましょうよ…」
受付「あれれ? お姉さんもしやデート誘われちゃったカナ?」ニママ
男「一分そこらの周辺店舗で売ってますけど? 舐めるな市販品を」
受付「なーんだツマンナイのっ! ふーんだ、どーせお姉さんはお酒臭いラブホ従業員ですよーだ」
男「色々きにしてるなら気を使ったら良いじゃないですか…」
受付「自分が気にしたって、気にしてくれる人が居なきゃ意味ねーでしょうが」ブーブー
男「身だしなみ人のせいにする人初めて見た…」
受付「あ、そうだった忘れる所だった」ポン
受付「男くん。これから大人の女性的なエチケットタイムなので、そろそろ出かけたらどうデショ?」
受付「まあ見たいのなら見ていっても良いのよ、うふ」
男「た、頼まれたって見ませんよっ」
男(俺も悠長に話してる暇なんて無いんだ。店が閉まる前に買い物済ませないと)
シュッシュッ
男(ん…? 何だこの音、それに匂いは…)チラ
受付「~♪」シュッシュッ
男(ファ!? ファブリーズ!? 己の身体にファブリーズ!?!)ズガァーン
受付「ふんふーん♪」ゴシゴシ
男(お、おおおしおしおしっおしぼりででででっ身体をふいッ…拭いてっ!?)ガクガクガクガク
受付「よしっと。あ…ヤダッ! 何見てるの男君ってば! えっち!」キャー
男「………」
男「黙れ馬鹿野郎」
受付「考えた上での返答が罵倒だなんて!」
男「アンタ本当に…っ…なんでそうなっちゃったんですか…ッ! 俺なんか悲しくなってきましたよ…っ!」
受付「まあまあ落ち着いて。事情があって仕方なくよ、普段はちゃんと一式用意してるから」
男「本当にですか…?」チラ
男(……なぜスタッフルームに寝袋や食い散らかったカップラーメンの空容器があるのだろう……?)
男「どういう状況なんですか、コレ」ドンビキ
受付「そろそろ帰らないと駄目だよね。オーナーにバレたらどやされちゃう」キャピ
男「何か帰れない理由でも…?」
受付「え、面倒だから?」
男「さっさと帰れ!」
~~~
男(まさかここまでとは思ってもなかった。だらしない人だとは分かってたつもりだったけど)
カチャカチャ じゅわわ~
男「…むしろ普段、なにしてるんだろあの人」
叔母「私はゲームだよ」もぐもぐ
清掃「ボクもゲームだよっ!」もぐもぐ
男「うん。だいたい知ってます、貴方達のことは」
叔母「まあ全てケルケルくんのおすすめばかりだけど」
清掃「ownerのみこみ早くて助かるですよ? ゲー友としてバッチリ!」ニコニコ
叔母「折角やるなら一番目指さないと」
清掃「ほわあ~…かっこよすですなあ~…」キラキラ
男(この人達もブレないな…私生活が目に見える…)
男「ケル君おかわりいる?」
清掃「たべるよー! さっきのヒトリゴト、フォクシーのこと言ってた?」コテン
男「了解。そうそう、受付さんって普段なにしてるんだろーって思ってさ」
叔母「…」
清掃「…」
男「な、なんですか二人変な顔して…」
叔母「変なこと気にするんだね、君」
清掃「と、トモダチになるつもりなの…っ? フォクシィ狙ってるのっ?」ドキドキ
男「いやっ、だって、知ってるようで全然知らないのが不思議だなあって…!」
叔母「ふーん。とりあえず部屋がきたなそう」モグモグ
男「俺もそう思いますけど、貴女が言える立場じゃないのわかってます?」
男「じゃあケルくんは何かしらない?」
清掃「……、ボク知らない」プイ
男「え? そ、そうなの?」
清掃「……」じぃー
男「? っ??」
清掃「せっかちでせっそうないオトコきらいだもん」
男「本当に待って、何を言ってるのケル君?」
清掃「ウソついたってボクにはわかるよーッ!」プンスカプン
叔母「ケルケル君。彼はね、胸の小さい女性に興味がないんだ」
清掃「そうなの?」
男「ちょっと黙っててもらえます!?」
清掃「なーんだ、だったらイイヨ! 気になるならココに言ってみればおけーよ!」ピッピッ
男「どれどれ、…あ、そうか」
神社
男(繁華街の近くに神社があったなんて…)キョロキョロ
男(44号室の幽霊騒動の時も、現職巫女さんだって言ってたし、確かにココに来れば…)
男「……。今更だけど、なんでラブホで受付やってんだあの人」
巫女「お参りですか?」
男「ひゃいっ!? え、あっ、はいっ!」
巫女「でしたらこのまま真っ直ぐ向かって本堂の方へ」
巫女「くじを引かられるのなら本堂手前で販売しております」
男「ど、どうも…」ペコリ
巫女「いえ」スタスタ
男(びっくりしたぁー、まったく気配が感じなかった)
男「そりゃそうだよな、受付さん意外にも巫女さんはいるか」スタスタ
男(今日が休みとかじゃなかったら良いんだけど、無事に会えるかな)
クジ売り場
受付「くじは一回百円になります。…お」
男「あ!」
受付「なになに、その行動力は。まさか君が来るなんてさ。オーナーに頼まれて監視にでも来たの?」
男「受付さん…! その格好…!」
受付「おや? もしかしてぇ? お姉さんの巫女姿見に来ちゃった感じ?」ウフ
男「本当に巫女の格好してる…! おしぼりで身体拭いてた人が…!」ワナワナ
受付「君、本当になにしに来たの」
男「ご、ごめんなさい衝撃が凄くて…少し落ち着きます…」
受付「まあこの時期なら人いないし別いいけどね。今日は単なるお参り?」
男「え? いや、その…」
受付「だったら本堂でお金ポーンしてきちゃいな。縁ありで五円とかなしで千円ぐらい」
男「んな余裕あるわけないでしょう! こっちも切り詰めて日々過ごしてるんですから」
受付「くふふ。お家お金持ちのクセしてね、そーゆうところ好印象よ? お姉さん的に」
男「物は言いようですね…自分でもけち臭いって思ってますよ…」
受付「あ、そうだ。参拝の仕方わかる? 教えてあげよっか?」
男「うっ、実はちょっと不安があって。でも仕事中なんじゃ無いんですか?」
受付「巫女だぞ巫女! 参拝者に説法説いて何が悪いのかね?」
~~
受付「御手洗で手を洗ってね。あ、口はゆすがなくていいよばっちいから」
男「えらくぶっちゃけますね…」
受付「手を洗うだけでも意味あるし、最近はなしの方向も全然ありだよ」
受付「んでもって本題の参拝方法だ。まずは一礼」スッ
男「は、はい!」スッ
受付「次にお賽銭ぶっこんで、鈴を鳴らす。そして二礼二拍一礼、この時に願い事!」ムムム
男(願い事…! なんだっ、覚悟せず来たから願い事考えてなかった! どうしよう!?)
受付「──なんでもいいよ。君が思ったように、好きに願えばいいから」
男(なんでも、良い。俺が叶えて欲しい、いや…)
男「──……」スッ
受付「終わった?」じー
男「うぇっ? あ、はい…!」
受付「ずいぶんと真剣に願ってたから、お姉さんじっくり観察しちゃったよ」
男「…た、大したこと願ってませんよ別に…」フィ
男(少しびっくりした。受付さんの雰囲気、がらりと変わったような気がする)
男(参拝の教え方はざっくばらんだったけど、きちんと教えてくれたし。普段からこうだったら良いのに)
受付「じゃあ最後に小さく一礼して、はい、これで参拝方法しゅうりょー」ワー
男「なんだか凄い緊張しました…! ヘンですよね、日本人なら手慣れてきゃいけないのに」
受付「いや普通知らないデショ。知ってても忘れるし。行く度にケータイで調べ直してるんじゃない?」
男「そ、そういうモンなんですかね?」
受付「だって私がそうだもの。ウィキペディアって便利よね」ピッ
男「今のところ見た目だけっすね、巫女さん要素」
受付「にしてもびっくりした、急にくるんだもん。前もって言ってくれれば色々用意したのに」
男「いやいや、参拝客に何を用意するんですか」
受付「定番なのは甘酒とか? あとはーそうそう! 特別に大吉引かせてあげたりとか!」
男「有り難み一切無し!」
受付「Twitterで拡散していいよ? ここの神社は大吉超当たるって」ケラケラー
男(まったくもって巫女さんがいうことじゃない…)
受付「あ。そうだそうだ」ポン
受付「そろそろお姉さんも仕事終わりだし、帰りに商店街に寄ってシャンプー買っちゃおっか」
男「え、憶えてたんですか? 俺の約束…」
受付「君、たまに本気でお姉さん事アホだと思ってない?」
男「ち、違いますよ! どーでもいいことだと思われたかなって!」
「──受付さん…」カタン
受付「む?」
巫女「………」ワナワナ
受付「なんだミコ。変な顔して」
男「あ。さきほどはどうも…」ペコリ
巫女「……。これは、どういうことなのです、か?」
受付「どーもこーも巫女として仕事全うしただけじゃんか、何か問題あった?」
巫女「……」ちょいちょい
受付「? どったの?」スタスタ
ガシィイイイイ!!
受付「ごぇっ!?」
巫女(いつの間に年場もいかない子供に手を? なぜそれを私に黙って?)
受付(ちょ、タンマタンマ閉まってるから首…ッ!)
巫女(ああ…っ)ぱっ
巫女(なんとうことでしょう。私という友人を持っていながらなんたる意地悪)ヨヨヨ
巫女(しゃんぷーを買いに手を繋いで仲良くお帰りデートなんて、なんてもう羨ましい)
受付「うん、アンタがウチらの会話聞いてないのよくわかった」
巫女(これは罰としてお聞かせ願わないと駄目でしょう)
巫女(──やはり、性を知ったばかりの少年は毎夜毎夜と求められますか? 一夜で何回ほど…?)キラキラ
受付「口閉じろ変態巫女。今から紹介するから」
~~~
巫女「はじめまして。わたくしこの神社の巫女を務めさせて頂いております」
男「はじめまして! その、俺は男といいます…!」ペコペコ
受付「あとバイト先のオーナーの甥っ子ね」
巫女「まああの方の甥っ子…」
男(なにげに有名だな、叔母さん)
巫女「それはそれはあの方に似て聡明なのでしょうね、何処か雰囲気も似てらっしゃる」
男「そうでしょうかっ?」テレ
巫女「…ところで、今年でお幾つで?」
男「こ、高校一年になります!」
巫女「まあ。見た目以上に大人なのですね、すみません。勝手に中学生辺りかと…」
男「あはは。よく言われます、はやく立派な雰囲気を持ちたいですけどね」
巫女「……もったいないこと仰る……」ボソリ
男「はい?」
巫女「いえ。独り言です、お気になさらず」
巫女「では。唐突で恐縮なのですが、よろしければライン交換などしませんか?」スッ カチャアアッ
受付「はいはーい! じゃ紹介は済ませたから帰ろっか男くん!」バッ
男「でも巫女さんが何か今…」
巫女「受付さん」
受付「な、なによ?」
巫女「………」じぃー
男「っ? …っ??」テレテレ
巫女「……むしろ美味しい時期、でしょうか……」ホウ…
受付「うん。すまんかったよ、出来れば早急に写メ等送るべきだった。唐突な出会いにタガ外れてるね?」
巫女「ええ、あなたの言う通り貴女とは親密関係ではないご様子。むしろ経験すら感じられない無垢さ加減――」
巫女「──もしや我が神社への貢物ですか?」ハッ
受付「その突発具合、嫌いじゃないがどうにかならないかなあ!? あと会話全然繋がってない!」
男「あ、あのさっきからなんのお話を…?」
巫女「失礼しました。わたくし、受付さんとは大学生からの付き合いなのですよ」
受付「そうそう、だからたまーに二人の世界に入っちゃんだよねー!」
男「え、あっ、なるほど…大学生からの友達の方でしたか…」
巫女「? なにか?」
男「あ、いえ! すると巫女さんからの紹介でここで働いてる感じ何ですか?」
受付「えらい詮索するね、お姉さんのこと」キョトン
男「いえ別にぃ!?」
巫女「すみません、わたくしのことは『巫女おねえちゃん』と呼んでくださいませんか?」
受付「突然なに言い出したこの娘!?」
男「えっ、あ~~…巫女おねえちゃん…?」
受付「君も人当たりの良さ加減考えたらどうかなあ!?」
巫女「……なんて尊い……」フルフル
受付「待って、本当にこのまま私が突っ込み続けるの!?」
~~~
巫女「こちらが我が神社のご神木になります。樹齢百年以上、正確な数字は分かっておりません」
男「へえ…」
受付「君も物好きだね、ほんっと。わざわざ付き合わなくてもいいのに、こんなの興味ないデショ」
男「そん、なことありませんよ!」
巫女「申し訳ありません。刺激満たす程の派手なものなど無い殺風景な神社でして」
男「文句なんてこれっぽっちも! 全然かまいませんよ俺!」
巫女「まあ…」
巫女「ならば本堂の裏手にこぢんまりとした畳部屋がありまして、そこをご見学されては如何でしょう」
男「そこには何があるんですか?」
巫女「もちろん楽しいひと時を過ごせるものが…貴方はなにもしなくてもよいのです…全てお姉ちゃんにおまかせを…」ススス
受付「がっつき過ぎだからね、アンタ」グイッ
巫女「妬かなくても参加ご自由なのですが?」
受付「それが何の言い訳になるとお思いなのかな?」
男「あはは。仲いいですねお二人とも」
受付「普段のキレのいい察しの良さはどこ行った!」
男「え? ええ?」キョトン
受付(この子本当にわかってないのか。こいつのヤバさを…)チラ
巫女「フーッ フーッ」キラキラ
受付(あんなんだけど、見た目と雰囲気はお上品だからなあ。それに知り合いじゃないと深くつっこめないか)
受付(ここはいっちょ知り合いとして頑張るか)グイッ
男「うわっとと!」
受付「ごめん、ミコ。ああはいったけどこの子、ウチがツバつけてるから」
男「は? ちょっとやめてもらいます? そういう冗談好きじゃないんで」
受付「逆に知り合いだと容赦ないね君!」
巫女「やはり手を出してたのですね…」
受付「アンタも一切疑わないのもどうなの?!」
巫女「しかし受付さん。私は思うのです」
受付「な、なにがどうしたって?」
巫女「それは…それで…良くも悪くもあり…多数でも案外イケるかなって」
受付「守備範囲おっそろしいなあお前っ!?」
巫女「先ほどの招待、ご冗談だと思ってました? 友の痴態を知っておきたい。友ならば当然の帰結では? ねえ?」
男「エッ…!」
受付「この子に振るなよ馬鹿か!」バッ
巫女「ふふ…年上女性が高校生男子を庇う姿…ふふふ…」
受付(し、しまった! コイツ他人のシチュでイケる口だった! いかがわしい妄想の肥やしにされる…!)
受付「おい、ミコ。煩悩塗れやがって、神様に使える身として恥ずかしくないのっ?」
巫女「姿とはまさに一見の美。体裁のみ整えれば、煩悩など些細な誤差ですよ」
受付(ぐ…! 中身が変態クセして完璧主義者だったなそういや…! 自堕落な私じゃ言い分に欠ける…っ)
男「う、受付さん! もしかしてあの人って…」
受付「っ! 気づいた男くん!? そう言ってやってよズッバりと! 何時ものように切れ味ある突っ込みでさ!」
男「ええっでも、いいんですか? こんな事を言ったら失礼になるんじゃ」
巫女「私に不備はありません、完璧なのです、だからこそ好きなものを好きといえるのです!」ぺかー
受付「変態なのにぃ…変態なのに神々しさでそうは見えないぃ~…っ!」
男「言ってる意味まったくわかりませんが覚悟を決めました!」ビシッ
巫女「ふふふ。貴方のような少年に何がわかるとでも?」
男「せ、世間知らずの俺だって間違ってることぐらいわかってるんですよ―――」
受付(一体どんな言葉で突っ込みするつもり…っ!?)ゴクリ
男「――貴女が着ている巫女服、襟が左右反対だって!」
巫女「……」チラ
巫女「……お見事……」ガッ
受付「真正面から正当に心をブチ折ったァー!」
男「巫女さん!? 急に座り込んでいったい…!?」
巫女「完敗ですわ…知らぬうちにわたくしは身も心も煩悩塗れとなっていたのですね…」
受付「いや、全然いつもどおりだったから」
巫女「有り難うございます。貴方の言葉で無事、元のわたくしへと戻るきっかけを得ることができました」
男「感謝なんてそんな…」
巫女「このご恩は生涯忘れません…ところでこのご恩をお返ししたいのですが、現住所はどちらに…?」ワクワク
受付「復活はえーなアンタ、口閉じてなさい」
男「その先を真っすぐ行って、繁華街辺りの…」
受付「君もだよお人好し小僧!」
~~~
男「なんだか面白い方でしたね」
受付「疲れたよ…君はもう今後、ここには来ない方が身のためだよきっと…」
男「やっぱりお邪魔でしたか…?」
受付「あん? いや、別に邪魔だとは言わないよ。ただ君の貞操がヤバイって話で…」
受付(人生経験としては重要か? いやでもなあ、うーん、まあラブホに住んでる時点で経験値ヤバそうだけど)
男「今日は来れてよかったです」
受付「……。まあ顔だけは良いしね、アイツ」
男「え? いやいや、そうじゃなくて…」スッ
受付「ん? わたし?」
男「言い忘れてましたけど、今日ここに来たのって受付さんに会う為なんです」
男「ほら、ホテルじゃよく会うのに普段の姿見たことないなぁーっと、ふと思いまして」
受付「変なこと考えるのね、君」
男「あはは。叔母さんとケル君にも言われましたよ、それ」
受付(でも会いに来たんだ、わざわざ)
男「俺思うんです。知らない方が良いことが多い、でも、知ってる方がもっと楽しくなるんだって」
男「受付さん。そーいうの共感できません?」
受付「……、わかるけど、そーゆうことはお姉さん相手にすることじゃないと思う」
男「? どうしてですか?」
受付「はぁ~、君がたまにみせるそーゆうユルいところ。一体誰に似たんだろうね、まったく」ガシガシ
男「?」
受付「取り敢えずシャンプー、買いに行こっか」
男「え、あ、はい! 行きましょうか!」
受付(……こわいなあ、この子。家族でもない奴にそこまで近づこうとしてさ)
受付(ラブホテルで寝泊まりなんてどうかと思ってたけど、案外、知り合いに囲まれた生活が嵌ってるのかも)
受付「でもその知り合いがお姉さんだよ君、アハハ」
『言い忘れてましたけど、今日ここに来たのって受付さんに会う為なんです』
受付「……そんなん言われたの初めてだよ」クス
男「受付さーん!」
受付「はいはーい、今すぐ行くってば」
受付(ま。そこまで私はやさしーお姉さんじゃないけどねー)
後日談 神社
巫女「最近、私のおとうとくんから世話を焼かれる? 自慢ですか?」サッサッ
受付「受け取り方やべーなアンタ。ていうか勝手に彼を血縁関係にすんな」サッサッ
巫女「懐かれたのでは? 羨ましくて腹たちますけど、応援しますよ」ハフゥ…
受付「嫌だよ面倒くさーい。私的には自由を束縛されたくないの」グテー
ピロローン
受付「噂をすれば彼から電話だ、もしもーし」
巫女「まあ。後でわたくしにも変わって下さい」
『ちょっと受付さんッ!? なんで俺の洗濯かごに下着入れてるんですか!?』
巫女「ちょっと引きました私」
受付「はぁ? そんなことするわけないじゃん、誰かのと間違えてない?」
『ああ確かに…こんなド派手なの持ってませんもんね』
巫女「ん?」
受付「失礼なッ! 君に見せてない超ド派手な奴もあるわッ!」
巫女「待ってくれませんちょっと?」
【叔母の下着でした。】
第六話 終
三日後ノシ
あと五話です
『《――ケルディ、聞いてるのか?》』
清掃「《聞いてるってば、お父さん》」
『《大事な話をしてるんだ。家族にとって重要なことなんだよ》』
清掃「《……》」
『《今すぐ決めてくれとは言わない。ただ…》』
「《…父さんはもう、心に決めてるつもりだ》」
清掃「《ボクは…》」
「《良い返事をまってる》」
プツン
清掃「…」パタン
「……あたらしい、お母さん。か…」
~~~
ウィーン ガチャン
男「疲れたな今日も…」ポチ
男(冷蔵庫に食材の買い置きあるし、今日はケル君から借りた漫画でものんびり読もうかな)
ウィーン
男「ふんふーん」スタスタ…
清掃(女装)「ヤッホ! お帰りオトコ!」シュビッ
男「やあケルケル君。今日もお疲れ様」
清掃(女装)「オッツ! カツカレーご飯大盛り!」たたっ
すたすた
男(フフ…また新しい挨拶思いついたんだな…)
男「って、ええッ!? 待ッ、ちょっとケル君ッ!?」ババッ!
清掃「ホワイ?」クル
男「その格好どういうこと!? じょ、女性みたいなカツラかぶって、というかっ、そのメイド服は!?」
清掃「なにか問題です?」キョトン
男「一方的に戸惑われた?! わけがわからないのは俺のほうなのにッ!」
清掃「もぉーオトコってば静かによ? 大きな声禁止、メッ! だからね?」ピッ
男「うぉおぉおぉっ?」パクパクパク
清掃「じゃケルケルまだ仕事あるから、あとでコミック感想プリーズねー! バーイ!」ブンブン
男「……あ、ハイ」
44号室
男(あ、あれは一体どういうことなんだ…)ドサ
男(彼の趣味…仕事中にあんなふざけた格好許される、かもなあ…叔母さんだしなあ…)
男「――イヤイヤイヤ…! とにかくケル君にあんな趣味とか、無い無いッ、きっと無い!」
男(きっと理由があって、あのような格好をせざるを得なかったのだろう…!)
男「……。にしても、一瞬見逃すぐらい違和感無かったなメイド服…」
こんこん
男「ひゃあいっ!?」ビックーン
「オトコー? いるー?」
男「居ますがぁ!? なんのご用でしょう!?」
「なぜに他人行儀なのオトコー?」
男「ごほんっ! き、気にしないで! 鍵かかってないから入れるよ!」
清掃「あ。本当だ、ヤホー! …着ちゃったっ」テヘ
男「………、もしかしてわざとやってる?」
清掃「なんのこと?」ニコニコ
男「その格好のことだってば…実は受付さんが隠し撮りしてて、ドッキリ企ててたりとか…」バッ
男「あれ、居ない?」
清掃「ねえねえオトコ」ちょんちょん
男「うッ!? ど、どうしたの…?」ソロー
清掃「そんなメイドめずらし?」
男「え? いや、実家にも家政婦さん何人か居たし…でも、君が、」チラ
清掃「ウン?」キラキラキラ
男「…笑えるぐらい似合ってるね、メイド服…」
清掃「ワオ! 今のケルケルはオモシロイ!? だからオトコはイヤ?」
男「う、うーん、待ってケル君。ここはハッキリしとこうと思う。だから言っておくよ」スッ
清掃「?」ポン
男「――その格好はなに? 急にメイド服やらカツラなんて、どうしたのさっ?」
清掃「………」じぃー
男(候補として受付さん悪ふざけ、叔母さんの趣味、ケル君の漫画やゲームのイベントやらでコスプレと見たが、一体どれだ!?)
清掃「ねえ、オトコ」スッ
男「う、うん?」
清掃「えへへー」ぎゅぅ~~
男「―――」(抱きつかれ思考停止中)
清掃「オトコは身体おおきいね。同じぐらいなのに、ボクより頭いっこ分おおきい」クスクス
清掃「普段なにイートしてるです? ケルケルに教えてくれたら好き!」
清掃「あ! でも最近ボクも一緒のゴハン食べてない!?」ハッ!
清掃「ならいつの日か、ケルケルもオトコと一緒の景色みられるね。とても楽しみっ」
男(―――ハッッ!!??!)ビクンッッッ
男(なんっ、だ? 数秒の記憶が無い! なにがあった!? とても許容しきれない現実だった気がす、)チラ
清掃「オトコ…」ぎゅう
男「どぅわああああーーーーーーーー!!!」ズサササーァッ!
清掃「わお!」パッ
男「はっ…はっ…! (ケル君フルネーム)!!」
清掃「なぜ貴様がその名を!?」ハッ!
男「そういうの今は無理! 無視します! もうもう何なんだよーッ! それはーッ! わけがわかんないよーッ!」
清掃「一体どうしたのオトコ?」キョトン
男「こっちのセリフだよまったくもってさぁ!?」
受付「って見つけたーッ! やっぱ男くんの部屋来てたな!? 容疑者ケルケルー!」
清掃「ムッ」ババッ
受付「もう逃げ場なし観念おしッ! 大人しく投降しなさい! いや、その超越ミニスカ逃亡劇は非常に眼福だったけどネ!」
受付「しかァーしッ! 私が一介のラブホ従業員である限り、貴殿の狙い撃ちフェチズムテロは見逃せんッ! いざお縄に頂戴!」
清掃「くッ、ケルケルもここまでか…っ」
清掃「だが! ボクには最愛の友! マクリマルゥ・オトコ・デラックスが居ますカラ!」ササッ
男「オトコデラックス!?」
受付「なぬッ!? 既にソッチ趣向に開拓されてしまったというの!? ほんの数分目を離した隙に、なんてテクニシャン!」
男「誰か助けてくれーーッ! この状況から誰か救い出してくれーーー!!」
数十分後
男「よ、酔ってるんですか? ケル君が?」
叔母「そう。酒のんでスタッフルームから飛び出したらしい、以前から酒癖悪いとは聞いてたけど」
叔母「…よほどテンションが上がったんだろうね、ここまで派手に騒動になったのは初めて見る」
男「え、えーっと、じゃあ何故メイド服を着てたんですか…?」
叔母「ん? ああ、あれは単なる趣味だよ、何かのイベントで着る機会があったらしい」フゥー
男「………」
叔母「……、ちなみに」グリグリ
叔母「酒癖の悪さは彼自身、悩んでる――ところは一切見てないが、わざとじゃないのは確か」
男「! すみません、変な表情してましたかね、俺…」
叔母「いいや。ただ、雰囲気が少し思い悩んでた気がして」
男(うぐッ、ちょっと引いてたの気づかれてる…)
叔母「君に害があったなら怒れば良いし、特に気にしないなら笑って冗談で済ませばいい」チラ
受付「」ちーん
叔母「この馬鹿のように、馬鹿騒ぎして、馬鹿みたいにホテル内で、馬鹿に遊ぶのも馬鹿っぽいけどいい手だとは思う」
受付「…そんなにバカバカ言われちゃ本当に馬鹿になっちゃぅぅ…」
叔母「もう手遅れだろ」シュボッ
男「そ、それでケル君は?」
叔母「受け付け横のスタッフルーム」
受付「男くぅ~ん…今のケルケル君、多分、素面になって落ち込んでるから慰めてやっておくれ~…」
男「ええっ? お、俺がですか? ケル君も会いにくいんじゃ…」
受付「うんにゃ、酒の過ち程度でケルケル君はへこたれないって。よっと!」シュタ
受付「なにやら悩み事があるらしいのよ、それでヤケ酒したっぽいのよね…」
男「悩み事?」
叔母「ん。実は私からも頼みたい」
叔母「天真爛漫な彼がここまで大荒れしたんだ。我々年上より、年の近い君の方が話しやすいだろう」
受付「んだからお願い! 今度なにかおごってあげるから! これでケルケル君に辞められたらシフト増えちゃう! そんなのヤダーッ!」
男「優しいのか身勝手なのかハッキリして下さいよ…」
男(でも、俺自身も気になってるのは事実だし…)
~~~
清掃「……………」ズゥウウウン…
男(しゃれにならないぐらい落ち込んでる…まるで見たこと無い表情をして…)
清掃「ぁ…オトコ…」ビクッ
清掃「ごっ、ごめんね! 本当にごめんなさいです!」ペコペコ
男「いや、うん、叔母さんから話は聞いたし、俺としては全然平気だから…」
清掃「………」ギュッ
男「あ、あのさ、ケル君?」
清掃「ハイッ!」バッ
男「………」ピク
清掃「…っ…っ…」
男「ゲーム、しよっか?」
清掃「エ?」
男「最近ハマってる奴ある? 俺、ゲーム苦手だけどケル君がやってるの見てるだけで楽しいんだよね」
男「どう? やる? 疲れてるなら、今日はもうやめとく?」
清掃「……………」ぽけー
男「うん?」ニコ
清掃「……や、やるです……」コクコク
男「よっしゃ。じゃあ俺の部屋に行こうか、…待って、その姿のままじゃ駄目! ちゃんと着替えてからだよッ!?」
~~~
清掃「あ。それさっきやったよ」ドゴォーン!
男「動き読まれたー!? つ、強すぎる…!? つか、俺のキャラと全く違う動きしてるんだけど!?」
清掃「エヘヘー」ニッコニコ
男「このゲームならケル君相手でも食い下がれると思ったのに…修行が足りなかった…」
清掃「でもオトコすごい。キャラの特徴いっぱい把握してるし、記憶力イイのね!」
男「えっ? ま、まあ…それだけ…それだけが俺の取り柄だしね」テレテレ
清掃「でも探求力ナッシングよ? キャラ把握だけじゃダメ、プレイヤースキルもっと学習!」
男「肝に銘じます…し、しかし趣味を何処まで極めるか判断付きにくいというか…」ムムム
清掃「………」
清掃「…あ、あの、オトコ」くいくいっ
男「ん、どうした?」
清掃「その、…ありがと…です、よ?」
男「えっ? な、なにがかな?」
清掃「きぃ使ってくれて嬉しい…ケルケル、色々あって落ち込んでたから…」
清掃「オトコが一緒ゲームしてくれて、とっても楽しかった、ううん、ちがう、そうじゃなくて…」
男「うん」
清掃「………」じぃー
清掃「オトコ。…質問あるの、聞いてくれる?」
男「もちろん。良いよ、なんだってきいて良いから」
清掃「…ありがと」
【それは彼の家族の問題だった】
清掃「新しいお母さん出来るらしいの」
【遠い故郷の出来事で。彼には電話一本でしか伝えられなかった】
清掃「おとうさんは決めてた。もうボクに聞くまえに、とっくに決めてた」
【――彼はここでの収入の殆どを実家へ仕送りしていて】
【例え、趣味で故郷の国を離れたとしても、彼は一人の家族としてみんなを想っていたのに】
清掃「…すごく、いっぱい、たくさん悲しかった」
清掃「もう家族じゃ無いって、勝手に一人で頑張れって、そう言われちゃった気がした」
男「それは…」
清掃「ウン。大丈夫、ケルケルの考えすぎだって、ちゃんとわかってる」
【でも彼はお酒に頼るほど思い悩んだのを、俺は知っている】
清掃「遠いんだもん。伝えたかったとしてもいっぱいお金払わなくちゃダメだし、電話だってたくさんお金がかかっちゃう」
男「……うん」
清掃「でも、ね」ギュッ
清掃「―――会いたかった、ちゃんと顔を見て、お話ししたかったよ…」
【でも、でも、でも、と】
【彼の中ではあり得た可能性が何度も呟かれてるようだった】
【現実的に見ようとする自分と、希望に縋ろうとする自分が鬩ぎ合っている】
男(ああ、…わからない、わけがない)
【彼の悩みは自分自身、結構身に染みた話題だった。離婚調停中の親を持つ身だったから】
男(…だから一つだけ、こんな可能性もあると言ってみたい)
男「ケル君」
清掃「あ…ご、ごめんね! 変なこと言っちゃって、だからソノ、質問ってのは…っ」
男「唐突にごめん。実は俺の親、近々に離婚するんだ」
清掃「えっ、あっ! う、う~…」
男「ああ、もしかしてもう叔母さんから聞いてた?」
清掃「…う、うん」コクコク
男「そっか。でもね、そんなに悲しくないんだ、俺個人としてはさ」
清掃「どうして?! 大事な家族がばらばらになっちゃうんだよ!?」ガタッ
男「おぉう!? ――そうだね、でも悲しくなんかない、これっぽっちも」
男「悲しくなんて、なってやらないんだ」
清掃「……?」
男「子が親をわかったように言うのも気分が悪いけど、この際ハッキリぶっちゃけるけども」
男「――――笑っちゃうぐらい、ほんっっと身勝手な人たち過ぎるんだよなァ…!?」ギラァッ
清掃(ヤダ! 普段オトコがしたこと無い顔よ! こわい!)ガクガクガク
男「両親共働きでろくに朝昼晩と一緒に飯喰ったことないし、まあそれは良いよ。こっちの我が儘だ」
男「でも、子供がせっせと努力を重ねて勝ち取った学年一位と最優秀生徒やら何やら!」
男「普段あっちがブツクサと人の上立てと要求する癖に、いざ取ったら取ったでまったくの無関心!」
男「かァーッ! ほんっとマジで子供のこと単なる跡継ぎでしか想ってないんじゃ無いの!?」
男「と、中学の頃は本気でそう思ってました」スッキリ
清掃「ハ、ハイ」
男「……。でもね、最近は違うんだ、そうとも思えなくなってきてる」
清掃「? どうして?」
男「…離婚の話がちらほら見え始めたとき、珍しく両親が家で揃ったんだ」
男「あれは中学卒業の…半年前かな、もうとっくに互いに愛想を尽かしてたんだろうけど」
【その日。生まれて初めて両親の夫婦喧嘩を見た】
【熱くて、目を開けてられないぐらいのドロドロとした、異様な光景】
【それをドアの隙間から覗いていた俺は、驚いたと同時に、ただ一つだけ思ったんだ】
男「どうして【今まで誰にも言わなかったんだろう?】 いつから誰一人信頼せず独り抱え込んで来たんだろうって」
男「…それぐらいしょーもない喧嘩内容だったから」
男(でも、それが普通なんだと今では分かる。両親は一般人と変わらない、ただの人間だと)
男「ただただ、俺の両親の周りは、本音を言えない人たちばっかりだったんだなぁっと…」
男「もうちょっと自分らしく居られる場所があれば…きっと…」ハッ
清掃「………」ジッ
男「ご、ごめん。話が少し断線してた、うん、ごめん」ポリポリ
清掃「いいよ。聞いてる、ケルケル聞いてるから」クイッ
清掃「ラストまで話して、オトコ」
男「あ、ありがと」テレ
男「だからね、ケル君。離婚で悲しい思いなんて絶対しない。そんなの自業自得だってさ」
男「あの人たちは他人に、近しい人に、自分の想いを伝えることを怠った」
男「…自分の悩みを家族に言わなかった、独り抱えて黙ってた。それは駄目だと…」チラ
清掃「!」
男「そうだよ、ケル君が俺に言ってくれただろ? バイク二人乗りの時にさ」ニコ
清掃「…うん、言った…言ってたよケルケル…っ」ギュッ
男「相手を深く知らずいるのは楽だし、一人で生きた方がきっと穏やかだろうね」
男「…でも」
『おかえり』
『…た、ただいま』
男「―――素直に言葉を言ったり言われたりとか、そっちのほうが凄く楽しいじゃん?」
清掃「そう、そうだよオトコ! ボクも素直に言ったほうが好き!」フンスーッ
男「そうそう。だから君のお父さんにもハッキリ言った方が良い、じゃないかな…」
男「じゃなかったら、ケル君に電話なんてしないよ。否定される可能性を敢えてやってるんだからさ」
清掃「ザッツライ! ダディって小心者? みたいなけつ穴ちいせぇー男だもん!」フンフンッ
男「うん。あとでその言葉教えたであろう受付さん怒っておくね」
清掃「な、なんだか…なんだかケルケル超元気でてきたんですけど!? ナニコレ!? why!?」
男「おお…! 確かに、何時ものパワフルなケル君に見えなくもない…!」
清掃「Powerfulkerukeru!? なにそれテラつよそう! ふんぬぅうぅぅうぅぅ~~っ!!」グググ
パァンッ!
清掃「決めた! 今からダディに電話する! やっぱいっぱい怒る! 直接こいって文句いう!」
男「おう! 行ってこいケル君!」ニッ
清掃「ありがとオトコ! もう、なんだろっ、愛してる! ラブユーチュッチュ!」シュバァッ!
男「………」フリフリ
パタン
男(なんて、わかったような事をよくもまあ言えるな、俺も)スッ…
【壊れていく家族をそのままに、本音を語れなかったのは俺自身なのに】
【子供に何が出来る。離婚を引き留めるなど無理だ。そんな力は俺には無いと】
男(だって、最初から期待されてないんじゃどうしようもないだろ)
男(…ああ、寒気がする。頭が痛い。数十分間の俺を消し去りたい、嫌だ、もう嫌だ)
【何を努力しても、想像しても、他人から期待される人間になんてなれやしないのに】
男(浮かれるな。偶然上手くいっただけ。何度も続かない。自信をつけるな)
男(お前は人の悩みを聞ける大した人間か? 違う、その逆だ。教養の無いちっぽけな人間だろ)
男(ああ、恥ずかしい。自分を殴りたい。もう二度と自分を期待するな…次はきっと大失敗するんじゃないか――)
「ありがとう、男君」
男「――えっ?」バッ
叔母「ん? だから、ありがとうと言ったんだけど…?」
男「………」ボーゼン
叔母「……」キョトン
男「…なぜ、叔母さんがここに…?」ダラダラダラダラ
叔母「え? さっきから居たんだが、…もしかしてずっと無視されてた?」
男(ええッッ!? 完ッ全ッに自分の世界入ってた…!? こりゃ恥っずぅーーー!!)カァァァァ
叔母「…じゃあ出直すか」スタ
男「いや良いですってば!? 全然ここ居てくださいよ!!」
叔母「本当に?」チラ
男「まったくもってかまいません! それでッ!? ありがとうとはどういったことで!?」
叔母「う、うん。ケルケル君のことだよ、さっき廊下で元気に走り抜けていく姿を見たから」
叔母「ああ、君が上手くやってくれたんだなと。だからお礼。ありがとうって、君にね」
男「お、俺はそんな大したことなんて…単に話を聞いて、思ったことを言っただけで…」
叔母「……、煙草すう? 最後の一本だけど…」ヒョイ
男「は、はい?」
叔母「やっぱり吸わないか。いやなんとなく君らしくないなぁと、ふと思ったから」シュボッ
男「………」
叔母「ほら君らしくない。君の部屋で煙草吸ってることに何も言わない」グリグリ
シュウウウ…
男「…俺らしさって、なんですか」ボソリ
叔母「ん。そうだなあ、私が知っている男くんはとにかく…うん…とにかく小姑っぽい?」
男「………」ズーン
叔母「ほ、褒めてるからっ。でもごめん! 気に障ったのなら謝るから!」
男「い、いえ、別に…」
叔母「うーん…」ポリポリ
叔母「…君は年齢しては落ち着きもあるし、よく考えて行動してるから偉いと思う」
叔母「私よりもきっと大人に近い大人なんだろうと、常々思うんだ」
男「は、はあ…ありがとうございます…」
叔母「でも子供だろ?」スッパリ
男「…………」ピク
叔母「君はまだ成人もしてない。大人っぽいけど大人じゃない、だから…」
叔母「人から期待されて、それを達成できたら嬉しがらないとダメだってば」
男「喜ばないと、ダメ?」
叔母「期待されたら喜ばないとね」
男「そっ、そんな期待されて喜ぶ人間ですかね俺…!?」
叔母「料理を作る君は凄く楽しそう見えるけど」
男「うぐッ」
叔母「ケルケル君だって受付だって、君の世話焼きっぷりには凄く期待してる。だからケルケル君も、素直に悩みを打ち明けるんだと思う」
叔母「それに、私も」スッ
ぽんぽん
叔母「もう一度言うよ。――ありがとう、君は本当に凄い、私の自慢の甥っ子だ」ナデナデ
男「……」
ぶるっ
叔母「それが君に対する私の素直な感想だよ」
男(あぁ…この人は、本当に…)ギュッ
【どうして何時も、こんな恥ずかしい言葉をさらっと言うのだろう】
【どうして何時も、こんなにも欲しかった言葉を言ってくれるのだろう】
【………。やだ! 泣きそう! やだやだ待て待て待てッ! 堪えろ俺ぇーッ!】
男「…叔母さん」
叔母「ん?」
男「煙草、買ってきますから…お金ください…今から行ってきますから…」
叔母「ん。そっか」
叔母「ありがと」ニッ
男「はい…っ!」ニッ
~~~
受付「へっ?」
男「えっ?」
叔母「………」ポトリ
清掃「エ? 言った、よね? 新しいお母さん、は【ダディがなるマミィだって】」
男「ちょッ、ちょっと待って! えっ、なにっ、お父さんがお母さんてどいうことッ!?」
受付「あぁ~~~なる、ほど~~~……」
叔母「世界は広いな…」しんみり
男「俺だけ理解置いてかれてる! わかんないわかんない! 理屈意味不明ですけど!」
受付「ウン。つまり、ケルケル君のお父さんは…」
叔母「性転換手術でお母さんになる、と」フゥー
清掃「ダディ悩んでたのケルケルもう知ってたけどタイヘンな手術なのに一人で決めてー!」プンプン
男「……………………」(思考停止)
受付「ありゃ、キャパ超えちゃったか。言うてもここのラブホの客にだって居るよ?」
叔母「ああ、彼らンンッ! 彼女らは、非常に清潔に部屋を使ってくれる上客だ」
受付「もしかして酔っ払ったとき、メイド服だったのもアレ?」
清掃「ザッツライ! どんな気持ちか確かめたかったの!」
叔母「それで? 少しは分かった?」
清掃「ウーン……ケルケルおっぱい大きい人好きだから……うーん……」
受付「やっぱそうだよネ! んな簡単にセクシャリティ変わっちゃ全国の男みんなホモだ!」スタスタ
叔母「しかしそれじゃお前は一生モテないな…」スタスタ
受付「唐突に暴言吐かれて戸惑う私なんですけど!?」
叔母「ケルケル君に酒飲ませたのお前だろ。しかも部屋のビールという話を聞いた」
受付「巫女さんの仕事いってきまぁーーががががががが!?」
男「………」チーン
「オトコ、オトコ」つんつん
男「はっっっ!??!」
清掃「大丈夫? ヘイキ? 気分悪い?」
男「えっ!? いやっ、うん! 大丈夫だよ…全然…ちょっと気を失ってただけだから…」
清掃「そんなにショックだった? ケルケルのダディ、女の人になるの?」
男「ちょ、ちょっとね…衝撃が凄いというか…ケルケル君はヘイキなの…?」
清掃「タイの友達にいるから! えーとえと、ひぃふぅ…みぃ…? たくさん!」ニッコニコ
男(なんたる…これがカルチャーショック…)
清掃「…ダディ、やさしい人よ? 嫌いならないでほしいよ…」シュン
男「も、もちろん! ケル君の家族が悪い人なわけがない! でしょ!?」
清掃「うん!」ニコ
男「あ、あと…それと、おめでとう。ちゃんと話できたみたいで、こっちも嬉しいよ」
清掃「………」じぃー
男「ケル君?」
清掃「ケルケルね、本当はダディの手術反対するつもりだったの」
『《すっ、好きな人できちゃったんだよなぁ!? こんな話ケルディにしか出来ないよ!》』
『《反対なら言ってくれ…でも、パパ…この年で恋しちゃってぇ…えへへ…ムゴォホン! だから!》』
『《好きな人の為に、素直な自分を出すために、…まずお前に一番相談したかったんだよォ…っ》』
清掃「だってさ! ケラケラケラ! ほんとダディちっさいよねー!」ケタケタ
男(ほんっと凄いなケル君の懐の深さは…)
清掃「そうまで言われたらケルケルも認めなきゃ。マミィも居なくなってたくさん時間たったし」
清掃「オトコが言ってくれた、素直に、我慢しない。そう言ってくれたから、もういいの」ニコ
男「…そっか」
清掃「うん! あのねあのね、そういえばケルケルの質問してないの覚えてる?」
男「え? ああ、確かに。俺の話で終わっちゃってたな、そういや…」
清掃「なら今してもオッケ?」キラキラキラ
男「今に?! ま、まあ別にかまわないけど…」
清掃「わー! よかった、じゃあ今からするね!」スッ
男(一体どんな質問を…)ドキドキ
ぎゅっ
男「………えっ?」
清掃「んん~~~」ぎゅううっ
男「ケル君!? これは何っ!? 一体…!?」
清掃「どお? なにか感じる? ハグって恥ずかしい? 特別なキモチ沸いちゃう?」
男「わっ沸かないよ全然!? それが聞きたいことなの!?」
清掃「そうよ!」ニッ
清掃「ありとあらゆる方法でダディの気持ち知る為よ! 情け容赦ないね、ケルケルは!」
男「…ほんっとケル君は凄いよ…」トホホ
清掃「よっと。ありがとねオトコ! そのオトコらしさに完敗よ!」パッ
男「そう、お役に立てたようで…それで、お父さんの気持ちって理解できた…?」
清掃「んーーー…」
清掃「ちょっぴりだけ!」ビシッ
男「そっか。なら良かった、……ん?」
清掃「んじゃケルケル仕事あるからバーイ! 漫画の感想あとでねー!」
男「あ、うん! あとでまた…!」
ポツーン
男「り、理解できたって話だよな、うん。それだけって話だろう…」
清掃「♪」ヒョコ
男「うおっ?」びくっ
清掃「んふふーオットコ~! またねー!」フリフリ
ヒョイ
男「…多分…そう、だよね…?」
第七話 終
一週間以内に… 次は叔母さんメインで
ではではノシ
男「――え、手紙?」
『とっくの前に届いてるハズなんだが? 読んでねーの?』
男「んー…いやまったく…」
『確かに送ったんだがなあ…あのクソからの手紙だし、忘れるわけないし』
男(なるほど。パ、ンンッ! 親父からの手紙か)
男「あ。もしかして叔母さんのところ送った?」
『たりめーだろ。ラブホの住所に生々しい手紙届けに行く郵便屋がかわいそーだわ』
男「全くその通りだ…」
『そっちあんのか? なら確かめに行ってこいよ。アホからの電話超うるせえから、読んだら折返しあっち電話しろ』
男「はいはい、了解。…んで、近状は?」
『はあ? 阿呆か、大人がやることに探り入れんじゃねーよ。ガキは勝手に青春謳歌しとけっつーの』
男「…………」
『聞こえてんのかー?』
男「…聞こえてるって」
『なら返事しろ。――まったく、いちいち似てきやがったな、アイツと』
男「アイツ?」
『テメーの父親だよ、さっきの無言っぷりが腹立つぐらい似てたわ』
男「……。それは、」
男「それは叔母さんとも、似てるってこと?」
『……………』
男「………? もしもし? ちゃんと聞こえてんの?」
『あれ? あれあれあれ? あっれ~~~~~??』
『なに? なんなの? それどういう意味での質問?』
男「えっ!? べ、別に、とくに深い意味は…」
『お前もしかして親父の妹と、寝た?』
男「……………は?」
『ウッソ~~~!! お前って奴はほんっと私の息子だって今更! 確信! した、スゲーなオイ!』
男「ちょ、待て待て待て待て…ッッ…アンタなに言ってんだマジでよ…っ!?」
『愛しい我が子を褒めてる』
男「褒めてねーよ! つか、やめろよォ…! 例え冗談でも、親とそういった話これっぽっちもしたくねェ! 実の子供に下ネタNGだろ!」
『なんだ違うのか。…ま! んな度胸ねえよな! 知ってた!』
男「なら息子に下ネタ振るなと知っててくれ…」
『不思議なこと言い出すもんだから疑いもするわ。…お前らしくもない』
男「…俺らしくない?」
『良いか? 親らしいこと殆どやってない私もテメーの母親だ。一応、言っとくぞ』
『――あんま馴染みすぎると、後が辛いぞ。ほどほどにしとけ』
男「なん、だよ……それどういう意味、」
『仕事が残ってる、もう切るぞ。手紙の件忘れるなよ』
男「あッ!? オイって!」
ピッ ツーツー…
男「どいうことだよ、まったく」ピッ
男(俺らしくない? アンタが俺の何を知ってるってんだ、ふん!)ポイッ
男(それに、あとが辛いとか……意味分かんねーよ)
次の日 44号室
男「…はぁ」トントントン…
受付「あ。ため息だ」
清掃「ケルケル数えてたけど十回以上で諦めたよ?」
叔母「今のは29回目」
清掃「数えてた! ほわぁ~…ownerすごかですなぁ~…!キラキラキラ
受付「え…きっちり数えてたんスか…ちょっとキモいっすね、オーナー」
叔母「ご飯できるまで暇だったから」ぐー
受付「なら手伝えば良いのにネ☆ っていう私も手伝う気ゼロッスけど!」ニパー
男「別に良いですって、むしろそこで大人しくしてて欲しいぐらいですから」コトコト
清掃「前にケルケルたちお手伝いしたら凄かったネ! 戦場だった!」
男「惨状って言いたい感じ? …いや、戦場でも間違ってなかったなあ…」
受付「ここ火災保険下りるんスか?」
叔母「原因による。先日のアレだったなら確実に下りない。100パーセント」
受付「んじゃダメだ! 頑張れファイトだよ男くーん!」ブンブン
男「はいはい。言われなくても美味しい晩飯用意しますって」
トントントン カチャカチャ…
受付「にしても…」
受付(――なんか雰囲気おかしいよね、彼。どーおもうケルケルくん)ヒソヒソ
清掃(ため息は幸せ逃げちゃうよ! デイオフよ!)
受付(幸福にも休暇が存在していた…!? すなわち、お姉さんが幸せになるため有給残数を増やすべきッスねオーナー!)
叔母(永久に休みたいなら飛ばすが、その首)
受付(ひぇぇッ)
清掃(でもでもどうしたんだろ? オトコ、確かにゲンキないよ?)
叔母(そうだね。手際の良い彼なのに、ここまで時間がかかるのは初めて見るよ)
受付(むむむ~…)ジィー
男「…はぁ…」
受付(む! わかった! こりゃ恋のお悩みッショ!)ピコーン
叔母&清掃(コイ?)キョトン
受付(恋ッス! 恋愛絡みの悩み事! くんずほぐれず酒池肉林、魔の密林真っくろくろの人間関係図が高校生ではお約束!)
清掃(な、なんだか凄いの…そんなところオトコ毎日通ってるの…っ?)ガクガク
叔母(彼に彼女が? …ならなぜ私が知らないんだ)ムス
受付(何気に構いたがりッスよねオーナー、知ってたけど)ムホホ
叔母(か、彼の監督役としては知っておくべきだろっ?)
受付(まあそれに、彼女が居るって決まったわけじゃないデショ? 片思いやら度胸が無い、はたまた―――)
受付(――世間から認められない相手って可能性のあり得るし)
清掃「…認められない…」
叔母「相手……?」
受付(ん? んー? なんだか二人とも真に受けてちゃってる感じッスけど、単なるウチの勘っすよー?)
清掃(オトコがもしかしたら…そんなっ…でもでも…)モジモジ
叔母(叔母として、彼にはきちんとした高校生活を送らせると誓ったからには…っ)
受付(ちょっとー?)チョンチョン
清掃&叔母「――こうしちゃ居られないッッ!!」ガタタンッッ!!
男「どぅあッ!?」ビク
受付「お、おお…!? ふ、二人ともまずは落ち着い、」
清掃「イロイロ準備するよ! ケルケル行ってくるー!」ダダァッ
男「ケル君どこいくの!?」
叔母「……覚悟を、責任者として覚悟が足りなかったんだ……」ユラァ スタ…スタ…
男「お、叔母さんもっ?」
キィ パタン…
男「一体どうしたんですかアレは…」
受付(そんなのウチが知りたいんだけど…)
受付「…あのさ。男くん」
男「は、はい?」
受付「もしかして恋しちゃったりしてる? それに悩んでたり?」
男「は? 恋? …そんな余裕あるわけないでしょ」
受付「わぁ~まったくもって高校生っぽくない発言だぁ~」
男「……高校生は恋愛で悩まなくちゃダメなんですか……?」
受付「いいや、君らしくて良いとお姉さん的には高評価かも?」
男「そ、そうですか?」
受付「うん。でもそーいうの考えないとあとで人生苦労するよ、恋愛下手になるから」
男「肝に銘じます…」ションボリ
受付(うむ。この子は自分から恋愛しないタイプだ。なら勘違いか)
受付(はてさて、まったく。あの二人はどー動くのやら…厄介なことにならないとイイケド…)ウーン…
男「できましたよ、二人の分もったいないから俺らで食べちゃいましょうか」
受付「わー! やったー!」ケロッ
~~~
男(何か…)ガサゴソガサ
清掃「……」サッサッ
叔母「……」キュキュッ
男(何か凄く、見られてるというか。あの二人から視線をもらってるというか…)
男(なんだろう。何かしてしまったか? 俺、二人に変なところ見せてしまった?)
清掃「オーナー、窓拭き終わり?」
叔母「大体は」キュッキュッ
男「あ、こっちのゴミの分別も終わりました。ケル君、資源ゴミって何曜日だっけ?」
清掃「………」じぃー
叔母「………」じぃー
男「……あ、あの…二人とも……?」ダラダラ
清掃「水曜日よ! んじゃケルケルあっち掃除してくるね!」
叔母「引き続き分別頼むよ。それじゃ私はあっち行ってくる」
スタスタ スタスタ
男「あっ、はい…」
ぽつーん
男(やっぱり何か変だ。どう見たって二人して俺に余所余所しい)
男(急にどうしたって言うんだ。原因なんて思い当たらない…)
男(早く叔母さんに手紙のこと、聞かなくちゃいけないのに。タイミングが図りづらい…図りづらい…?)
『――あんま馴染みすぎると、後が辛いぞ。ほどほどにしとけ』
男「………」
受付「オーナー居なくなった?」ヒョッコリ
男「……あなた本当に自由な人っすね、マジで」
受付「あっははー、だって月一度の大掃除なんてやってらんないじゃーん」
男「いつか本当にクビになりますよ…?」
受付「またまた冗談いわないでよ~! …冗談だよね?」
男「知りません。でも、クビになってもご飯ぐらい作ってあげなくもないです」スタスタ
受付「ほんとぉ~! やったー!」ワーイ
男(…そうだ、悩んでたって仕方ない。行動だ、自分から動いてみるべきだ)
~~~
男「って、叔母さん何処まで行ったんだ? この階じゃ無いなら、上か?」
男(階段で上がろう。ん、縛った雑誌が踊り場に置きっ放しだ。回収忘れかな)ヒョイ
『男の娘特集! ~見つけられる? ボクのスカートの中の織田財宝~』
男「う、う~んッ? なんだろう、このっ、……うーん…ッ?」
清掃「ずいぶんマニアックね!」
男「だァいッッ!? け、ケル君がなぜここに!?」ビッックーンッッ!
清掃「掃除中よ?」キョトン
男「し、知ってるよ! だからって急に背後に居ないで、心臓に悪いから…!」
清掃「ソーリ! ごめんね! でもでもぉ、オトコってばぁ~」キラリン
清掃「――ゴミの中からソッチ系雑誌かくして持って行くなんてえっちね!」
男「待って、その勘違い待って、凄すぎてまったく言葉出てこない!」
清掃「チガウノ?」コテン
男「違うよ!? これだけ踊り場に放置してあったから回収しようとしただけ!」
清掃「ふーん、そうなんだ。ケルケルわかるよ、大丈夫! バッチシね!」グッ
男「いらぬ優しさ発揮しないッ!」
清掃「頑なねオトコ…そういうのキライ? あっ、フゼンってやつなの…?」サー…
男「ち、違うってば…! こういった本はっ、別にキライじゃ無いし…高校生として普通に興味あるし…」モゴモゴ
清掃「ウンウン」キラキラ
男「……。ちょっと待って、雑誌系の回収ってケル君が担当だったよね?」
清掃「エッ!」
男「既にこの階は終わった、と俺は認識してたんだけど。…これは?」スッ
清掃「……ンン~♪」ダラダラダラ
男「俺以上にうそヘタクソだねケル君…」
清掃「ゴメンナサイ…そうですボク、忘れてたみたい…」
男「いや、良いよ。後で俺が持って行くから、ケル君は上の階の掃除に向かって」
清掃「………」じぃー
男「うん。ちゃんとゴミ捨て場に! 持って行くから、そんな目で見ない!」
清掃「そ、そう? エート、その、オトコ…」
男「な、なに? まだなにか用?」
清掃「んん。オトコはそーいうの興味ナシ? 全然気にならない?」
男「…こういう雑誌には興味あるが、この特集にはいまいちピンと来ないな…」
清掃「どうして?」じぃー
男「ええっ? だってこれはいわゆる…特殊な性癖というか、一般的に公言できないような方向性であって…」
清掃「ウンウン」
男「あっ、でも――別にそういった人たちを軽視してるわけじゃ無いよ? ただ、自分の趣向に向かないって話で…」
清掃「そか。オトコは認められないのね、そっち系は」
男「まあ簡潔に言えば…」
清掃「でもね、オトコ」ずいっ
男「はいッ?」
清掃「世の中いっぱい愛の種類ある。たとえ認められなくっても、愛があればイチコロ。ケルケルの友達にだっていっぱいたよ!」
男「け、ケル君…?」
清掃「こーだからこーだと頑なダメ! オトコそーいう所あるとケルケル思う!」
男「は、はい! ごめんなさい…っ?」
清掃「わかってくれた? ケルケルの思い、知ってくれた?」
男「う、うん…なんとなくだけど、ケル君が言いたいことは理解できたと思う…」
清掃「ならイイヨ! ケルケル満足!」ニコニコ
男「…でも急にこんなこと聞いてどうしたっていうのさ、ケル君」
清掃「ウン? ケルケル心配だったから、オトコ最近悩んでる感じだったし!」
男「えっ?」
清掃「もしかしたらオトコがオトコ好きになった可能性考えてた」
男「予想以上にブッ飛んだこと考えてたねッ!」
清掃「そお? ガンコなオトコなら悩むと思ってた」
清掃「だからケルケル、ちゃんと友達としてオトコの恋応援したい。悩んでるなら、相談して欲しい。ケルケルできることやってあげたい」
清掃「――オトコが好きになった相手なら、絶対良い子のハズだし! 是非あってみたいし!」
男「ケル君…も、もしやこの雑誌もケル君がわざと放置して…?」
清掃「イエス! アキバでこの前かってきました!」ビシッ
清掃「とにかくそう言いたかった。理解してもらえてよかったよ、一息付けた」ふぃー
男「と、とりあえず納得してもらえたようで。それに、別に誰を好きになったとか、そういう悩みじゃ無いんだけどね…」
清掃「エッ! そうだったのー!?」
男「うん。でもありがとう、ケル君が一生懸命考えてくれたことは素直に嬉しい」
清掃「で、でも…ならケルケルやったことオトコに迷惑だったよね…ごめん…」
男「そうでもないよ? いっぱしに恋愛してない俺が言うのもアレだけど、うん、愛に境目なんて無いって、俺なりに理解できたつもり」
清掃「う、うん」シュン
男「そうだなぁ、もし仮に将来そういった関係ができるなら―――」
男「―――ケル君みたいな話しやすい人が良いな、俺的に」(悪意0)
清掃「………………………」
男「なーんて、あっ! 気に障ったらゴメン! へ、変なこと言った…?」
清掃「ううん。そーでもないよ、オトコがそーーだってケルケル知ってるし」
男「えっ、あ、うん?」
清掃「オトコ約束して」
男「約束?」
清掃「今後ゼッタイそーいうの言わない、ケルケル以外に言っちゃダメ。わかった?」
男「…ちょっとケル君怒ってる?」
清掃「ヤクソク!」
男「はい! 約束ねッ!」ビクン
清掃「ウム。じゃあケルケル掃除始めるから、オトコもフォクシィみたいにサボらないように」
男「い、いえっさー…」
清掃「…………」じぃー
清掃「ケルケル。違うこと心配なってきたよ、放っておけないねオトコは」ハフゥ
男「ど、どういうこと?」
清掃「ヒミツ」ベー
たたっ
男「…何故に彼はああいった行為が似合うのだろう、不思議だ…」ボンヤリ
男(って、ぼーっとしてる暇ない! 叔母さん探さないと!)
~~~
男(スィートランドホテルにはケル君と、タンコブ出来た受付さんだけだった)
男「すると、居るのはここだよな…」スッ
ぴんぽーん
叔母「はい」ガチャ
男「…敢えて言いますけど、まずインターフォンで相手を確認しドア開けてください。不用心ですよ」
叔母「お、男くんっ? なぜここに…! あっ! 一緒に住むの…?」
男「違います。探してここまで来たんですよ、叔母さんに用事があって」
叔母「…………………」
男「上がってもいいですか?」
叔母「え? あ、うん、いや! 待って、五時間後になら…」
男「五時間後!?」
叔母「三時間後?」
男「たいして変わらない! なんでそんな時間を、あっ!? まさか、嘘、また…!?」
叔母「えぇえ~…? なんのコトだろう~…?」ソローリ
男「そっとドアを閉じようとするなーッ! アンタっ、部屋がまた汚くなってるんでしょうが…!?」ガッ
叔母「暴れるとご近所に迷惑だから…顔を覚えられたら今後一緒に住みにくくなっちゃうから…っ」ギリギリギリ
男「先の心配より今の心配でしょうが! 大家にバレたら叔母さんが住めなくなるんですけど!?」
室内
ゴチャーッ
男「……なんたる、惨状……」ゴゴゴゴゴ
叔母「言うほど汚れてないと思うけど…」
男「片付けた以前ぐらい元通りなんですけど…!?」
叔母「スミマセン」
男「ハァ~…ホテル掃除の前に、ここを片付けなきゃダメじゃ無いですか…」
叔母「そう、思ったから一人でやってたんだ」スッ
男「え? あ、ゴミ袋に…金鋏? 金鋏!?」
叔母「ああ。キッチン用」ガッチンガッチン
男「イヤァッ! 聞きたくなァいッ! 水場周りで金鋏を使用しなきゃ駄目な状況なんて聞きたくなァい!」
叔母(これが受付が言ってた乙女系反応…)ぽやぽや
男「うぐぐッ、こうだと知ってれば除菌殺菌抗菌道具一式持ってくれば良かった…っ」
叔母「それで用事って何?」
男「当の本人がこれだもんなァ…! くッ、良いですよ! 掃除は今度にします、先に用事を済ませてたいですし!」
男「――はぁ、それで質問があるんですよ。叔母さんに」ジッ
叔母「質問?」
男「…………、なんで最近俺のことみてるんですか?」
叔母「ミテナイヨ」
男「やっぱ血筋って重要ですね。下手くそすぎますよ、嘘が」
叔母「うっ…」
男「教えてください。なにか、俺しましたか? 問題あるならちゃんと聞きますから、きちんと言ってください」
叔母「………」ダラダラ
男「言い辛い、ことなんですか?」
叔母「少し、そうかも」
男「……」
男「そう、なんですか。なら別に、無理して言わなくて良いです」フィ
叔母「あ…」
男「すみません。なら用事は終わりです、もう帰りますね、俺」
叔母「ま、待って。そうじゃない、違うんだよ男くん!」
男「……」
叔母「違う…と言っても…本当にただ、私から言っていいものなのかわからなくて…」
男「俺、信用できませんか。叔母さんにとって、信頼できないですか」
叔母「…っ」
男「前にじ、自慢の甥っ子だって言ってくれたこと、凄く嬉しかった。だから…」
男「……やっぱり忘れてください。変なこといってすみません、俺もう帰ります」
がしっ ぐいー!
男「わあっ!?」
叔母「わ、私にとって君は大事な家族だと…! 大切に思ってることは事実だから!」
男「えっ? あっ、ハイ…!!」
叔母「勘違いしないで、君は大切な家族だということ。預かった時から心に決めてるし、三年間責任もって見届けようと思ってる」
男「あ、ありがとうございます…!」
叔母「でも」
男(でも?)
叔母「――君がっ、私のことを家族としてみてないじゃないか…!!」くっ…
男「……」
男(んーっ?)
叔母「悩んでいるんだろう…私としたことが、責任者として十代の性欲を軽んじたばかりに…無防備な姿をさらし続けた…」
男「待って、オイ、待て」
叔母「良いんだ、嘘をつかなくても私は知ってるから。君がちくいち胸を見てるって」
男「それはちょっと否定できませんけど本当に待って!?」
叔母「認められない相手を好きになるぐらい…君のセクシャリティを歪ませた叔母を許してくれ…」サメザメ
男「ラブホテルに住まわせてる人のセリフじゃ無いなあ!?」
男「叔母さん本気でなに言ってるんです!? お、俺が貴女を家族としてみてないって…一体どういう…!?」
叔母「えっ? 毎夜と私でこう…」シュッシュッ
男「してないわッ!!!」
叔母「え、嘘、じゃあネタはなに?」キョトン
男「今話すことでもないッ! 叔母さん、そっちこそ勘違いしないで下さいよ!?」
男「俺はまったく貴女を家族以外で見たことありません! さっき言ってくれた、そのっ、大切な家族…的な…感じですから!」
叔母「だからこそ燃える的な…」
男「まったく隙がねえ勘違いだよ!」
叔母「え、え、じゃあ違う? 私の勘違い? 全然いっしょ住めるぐらい普通?」
男「標準が分かりづらいですけど、まあ、余裕で住めるでしょうね…」
叔母「―――………」
男「お、叔母さん? わかってくれましたか?」
叔母「…ああ、そう。うん、わかった」
男「本当ですか? まったくも~突然変なこと言わないで下さいよ、びっくりした」
叔母「そう、か。ごめん、君によからぬ疑惑を抱いてしまって。すっごい胸見るからもう我慢の限界だと思ってて…」
男「それはもう今後気をつけますッ!」
叔母「うん。そういうことなら素直に言えるね、ごめんね。でも…」
叔母「…良かった、君が家族のままで」
男「………」チク
男(ん? あれ? なんだ今、一瞬…変な感じが…)サワサワ
叔母「どうして乳首触ってるの?」
男「触るかばっきゃろいッッ!」
叔母(ばっきゃろい……)
男「ご、ごほん。しかし誤解が解けたようでなによりです! …あ、でも、そういやケル君も変な誤解してたけど…」
男「どうして俺が『認められない相手』が居ると勘違いを?」
叔母「ん。その言葉で全て納得がいった、もうクビにするか」
男「……その言葉で俺も全ての原因を察したんですが、待って下さい、勘違いしたのは叔母さん達ですし」
叔母「でも君に迷惑が…」
男「い、いやいや。誤解が解けたなら問題なしですって!」
叔母「そう。君がそういうのなら」
男「………」
叔母「………」
シーン
男「あ、えーっと! あはは、じゃあ俺はそろそろ…!」
叔母「帰るの?」
男「え、ええ、晩ご飯の準備もありますし、だから、そのっ、えっとー…」
叔母「ん」
男「…腕を放してもらえないと、帰られないんですけど…?」
叔母「………」ぱっ
男「あ、ありがとうございます」
男「うっ、それと叔母さんの分も用意してますから、後で食べに来て下さいね…! 受付さんのこと怒りすぎないように、あとそれとっ、」
叔母「男くん」スッ
男「掃除もあとでやりにきま―――」グイッ
ぎゅっ
男「――え?」
叔母「………」ぎゅうう
男「なんっ、ですか、コレ急に…?」
叔母「黙ってて」
男「は、はひっ!」
叔母「…………」ぎゅっ
チッチッチッチッチッ… カチン チッチッチッチッ…
叔母「ん」スッ
男「…今の、なんですか…?」
叔母「え、ハグ? 知らない?」シュボッ
男「ご存じですけど…」
叔母「親愛を込めてハグらせてもらった。君が嫌がるか、性癖歪ませちゃうかもと、今までやらなかったんだ」
男「もっと他の躊躇う理由ありませんでした?」
叔母「今ではどうでもいい。…見た感じ、悪い気はしてなさそうだから」ニッ
男「うッ!? 嫌がるなんて、別に、俺は特になにも…」フィッ
叔母「嬉しかったよ」フゥー
男「えっ?」
叔母「君が『大切な家族』だって、私のことを言ってくれて。私は本当に嬉しかった」
男「……じ、事実ですからっ」
叔母「ん。だからハグした、これからもして良い?」
男「えっ!?」
叔母「了承得られなくてもするけど。私はよく兄貴にしてたよ、クッソ嫌がられてたけど無理矢理してた」
男「ぜ、全然想像できない…あの親父が…」
叔母「くっく。それにもう一人のほうも、」
男「もう一人?」
叔母「……。いや、なんでもない」
叔母「さて。そろそろ日も暮れるし、帰った方が良いよ。それともやっぱりここに居る?」
男「か、帰りますって。あとでご飯食べに来て下さいね、…あ!!!!」
叔母「わ! どうしたの?」
男「叔母さんが兄貴って言って思い出しました…!」
男「――て、手紙ですよ手紙! 俺の親父から手紙届いてませんか!?」
叔母「兄貴から? え、えっと、来てたかな…?」クル
ゴチャーッ
叔母「来てると思う?」
男「もういいです…今度と言いましたけど、今から掃除しましょうか…」トホホ
叔母「お礼にハグするから」スッ
男「お礼も何も挨拶代わりしようと考えてるでしょうが…!」ググググ
叔母「おー、その嫌がり方すごく兄貴に似てる」マジマジ
男「と、とっとと探しますよ!!」
~~~
手紙は案外、すぐに見つかった。
底の見えぬ汚部屋で絶望に染まった俺と叔母さんだったのだが、
途中で参加した受付さんとケル君のお陰で迅速に片付いたのだ。
男「えっと、なになに?」ガサガサ
見慣れたシンプルな封筒を開封し、これまた質素な手紙を取り出す。
合理的な性格の親父らしいと、半ば懐かしく思いながら文面に目を通していく。
叔母「なんて書いてあった?」
しばし斜め読みを続けたところで、ふと、気になる単語に目がとまった。
堅苦しい几帳面な筆質に埋もれた一つの言葉。
なかば理解できず、何度も何度も、視線を往復さえ脳が把握するのを促すが――
清掃「オトコ?」
受付「どったの?」
――ついぞ手紙の意味を理解し終わっても、俺の口は開かなかった。
そんな俺の頭の中では彼女の、俺の母親である親の言葉が回り続けていた。
『――あんま馴染みすぎると、後が辛いぞ。ほどほどにしとけ』
この助言を今になって痛感する。
俺はきっと優しくなりすぎた。だからこんなにも苦しくなっている。
分かっていたのに、こんなこと嫌だって知っていたのに。
『この手紙が届いた一週間後、離婚調停が済む。アメリカに来い』
もはや俺には辛いことしか残っていない。
第八話 終
できるだけ早く来ます ノシ
『――してやられた』
『私が有利だと高をくくってた。まさか、ババアの遺言を引っ張ってくるとは』
叔母「遺言?」
『そう。私の母親のやつ』
『目敏いったらありゃしない、ふつうそんなの把握してるか? …するか、アイツなら』
叔母「義姉さん。要約すると、つまり…」
『ああ、アメリカで愛人と住んでる馬鹿に親権取られた。『婿養子が育て親に」ってチンケな遺言程度で』
叔母「親からの信頼度なさ過ぎませんか…」
『親の会社を独断で奪った時点で見限られてるよ。んで期限はどれくらいよ、妹ちゃん』
叔母「……、四日です」
『は~あ、うん。なるほど、手早く引っ張り込みてーようで』
叔母「せっかちな兄貴らしい魂胆ですね」
『そいでアイツは受け止め切れてんの?』
叔母「私が見る限りでは。彼は問題なく準備を進めてるようです」
『カカッ! そうかい、最近ふぬけたとばっかり思ったけどよ。なら安心だ』
叔母「………」
『じゃあさ、こっちの国で最後のアイツを見届けてやってよ、妹ちゃん』
叔母「見送りには来ないんですか?」
『雰囲気しらけちゃう気がするし、仕事でもやって慰謝料頑張って稼いどく』
叔母「…そうですか」
叔母「……」
叔母「その、ちなみになんですか。差し支えなければお聞きしたいのですが」
『あん?』
叔母「今まで知り得なかったので興味本位程度なんですが、今回の離婚の直接的な原因とは?」
『私の浮気だけど?』
叔母「ぇぇ…」
『んだよ、テメーかまととぶりやがって。浮気ぐらいするわ、数年前から夫婦観乾ききってたわ、若い男囲いたかったんだわ』
叔母「…敢えて聞きますけど、何故、兄貴と結婚されたんです?」
『金』
叔母「身もふたもない理由ですね」
『ハン。妹ちゃん、アンタも意外とミーハー思考なんだなぁ。他人のゴシップ気にするタイプとはお姉ちゃん思わなかったよ』
『――理由なんて、なんだって良いんだ。離婚する、ただそれだけが現実であって、理由や原因なんて他人が求めるちっこい正当性だろ?』
叔母「つまり?」
『藪を突くな。蛇どころか鬼以上の厄介ごとが飛び出すってぇこと』
叔母「……肝に銘じます」
~数十分後~
『じゃ、あと頼んだぜ。書類等は四日後の朝には済ませるって、息子に伝えといて』
叔母「わかりました。では」
『ほいよ』ピッ
叔母(相変わらずサバサバしてるな、義姉さんは。実に普段通りだった)
叔母「…こういった所は彼に似てる、とも取れるのかな」
叔母(…実際のことろ。彼を引き取って、彼に何かしてあげられたとは思えない)
叔母(でも、やれることはやろう。最後の最後まで、叔母としてやりとおそうと思う)
チッチッチッチッ…
叔母「…試しに手料理とかやってみようかな」グッ
学校 放課後の教室
男「………」ボー
女「であるからしてねぇ~! 私の班では汚水を如何なる過程で川に放出するかまとめたワケなの!」
男「はぁ~…」
女「つ・ま・り! …ちょっと、なによため息なんて」
男「え?」
女「つ、つまらなかったのかしら…? 私の話、っていうか今度発表する社会見学のレポート……」
男「ち、違う違うってば。俺の方がきちんと聞いてなかっただけ」
女「へーめずらし、もしかして寝不足?」
男「いや、睡眠はちゃんと取ってる。色々と考え事をしてただけ、別に手を抜いてるわけじゃ無いよ」
女「そりゃそーよ! 私の班と、貴方の班! どっちが優秀かどうかちゃーーんと優劣決める為やることやってもらわないと!」
男「うん。頑張ってるから安心して、負ける気なんてこれっぽっちも無いから」
女「フン! 分かってるなら良いわ。これでもしふ抜けた発表でもされたら、今後の私の士気に影響出るんだから本気でやること!」
男「最初からそう言ってるから安心してください」セイセイ
女「なによ大人ぶっちゃって。もっとがっつきなさいよ、食らいつきなさいよ、本番は三日後なのにそれで大丈夫なワケ!?」
男「相変わらず勝手にヒートアップする癖治らないなあ! 声が大きいから、もっと小さくして、じゃないとまた誰かに怒られ…」
ガラリ
女姉「…………」ジィー
女「ヒィッ!? おっ、お姉ちゃ!?」ビクーン
男「あ。どうも先生」ペコ
女姉「精が出るわね、社会科見学発表の予行練習?」チラ
女姉「校内で必要以上に大声出す生徒さえいなければ、私も、他の職務を全うするのだけれども」ヂラ
女「スミマセンデシタ…」
女姉「はぁ、もういいわよ。貴女のそういった所はもう諦めましたから」
女「諦めましたから!?」
女姉「……だから貴女が自覚を持ち自制を効かせるよう見守ろうということなのよ……」ジロー
女「ウッス…」
男「そ、それで先生? もしかして、その本ってあれですか?」
女姉「ん? ああ、ちょうど良いわ。はい、コレが約束してたモノよ」スッ
男「わ~…! わざわざありがとうございます!」ペコ
女「ヤクソク?」
女姉「英会話の本。オススメがあるから幾つか貸してあげると約束してたの」
女「ふーん…」
男「お。これなんて良さそうだ」ヒョイ
女姉「お目が高いじゃない。お決まりな会話から砕けたフランクな会話まで書かれてるの」
男「なるほど。…詠み込み度合いが凄い窺える、大量の蛍光ペンの後が」
女姉「ふふ。余白にイントネーションの違い、あったりしない?」スッ
男「本当だ! これ凄いですね! 一般の教材なんて目じゃないぐらいだ…!」
女姉「気に入った? なら持って行っても良いから。本場じゃ付け焼き刃じゃ厳しいでしょうし」
女姉「クローゼットにしまっておくよりはマシよ。ちゃんと大切にしてくれれば、私も嬉しい限り」ニコ
女「ちょっとまったぁー!!!」バァンッ
男「わぁッッ!?」ビクーーーン
女姉「…貴女ねぇ…」ピクピク…
女「お、怒るのはあとにしてお姉ちゃん! その前に、聞き逃せない単語が幾つかあったんだけど! どういうこと!?」
男「ナンノコトカナ?」
女姉「お姉ちゃんはやめなさいと言ったわよね?」
女「嘘ヘタクソ! ごめんなさい先生! …じゃなくて! あっちとか本場とか英会話の本とか!」
女姉「はあ? 彼があっちじゃ大変だろうと用意して――え? 言ってないの?」
男「え、えっとぉー…」
女姉「呆れた。君って他人には隠し事するなと言う癖に、自分だけは飄々と嘘をつくのね」ジィー
男「おぐッ!」
女「お姉ちゃんに隠し事するなって言ったのアンタ!? す、凄いわね…!」ワナワナ
男「そ、その話はややこしくなるから今は無しで!」
女姉「教師にとって、生徒の家庭的情報漏洩は御法度。私から女さんに事実を伝えることは無理なの」
男(ぐ…俺の淡い期待がバレてる…!)
女姉「甘い展開を私に抱かないこと。自分の口できちんと伝えなさい、良いわね?」
男「…はい、先生」
女姉「よろしい。あと女さん」
女「は、はい?」
女姉「何があっても騒がないこと。…これは教師では無く姉としてのアドバイスよ」
スタスタ ガラリ パタン
女「…。今のお姉ちゃんが一番恐かったんだけど、貴方なに隠してんのよ?」
男「………」
女「言えないの? だったらまあ、無理しなくても良いけどね」
男「…怒らないのか?」
女「誰にだって秘密はあるじゃない。無理して語られてもこっちが困るだけだわ、そんなの」
女「でも…」
女「秘密にしたせいで、後でもっと困るのなら。ちゃんと伝えて欲しい」
女「あとに残る嘘は嫌い。今だけ何とかしたいって気分でつく嘘が一番イヤよ」
男「……」
男「うん、そうだろうな。俺も、そう思う」
女「フン。で? 言ってくれるの?」
男「うん。言うよ、ちゃんと女さんに事実を言うよ」
女「そ。…じゃあさ、それってやっぱりさ、おっ、お姉ちゃんと隠れて付き合ってるとかー!?」ドキドキ
女姉「どーして何時も何時もそうなるのよ貴女はッ!!」バァーーン!!
女「わぁーー!?」
男「先生!?」
女姉「今回ばっかりは我慢の限界です! すぐ勘違いを押し通すから相手も言い出し辛くなるんでしょうが!」
男「先生! 大変有り難いですが声が大きすぎます!」
女「思ってたとおりだわ…! お姉ちゃん、すぐ男のことになるとムキになるもの! まさか本当に貴方とお姉ちゃんって…」
女姉「ち、ちがッ! 茶化す空気じゃ無いと大人としての助言しようとしただけ!」
女「茶化す…? 待って、私は何時だって本気なのよお姉ちゃん!? 本気で生徒と付き合ってないか心配してるの!」
女姉「それが余計な世話だって言ってるんでしょーが!!」ムキーッ
女「余計なお世話!?」
女「ふっ、ふーんだ! だったらキャッキャウフフと教材眺めてた二人をどう周りは思うかしら!?」
女姉「え…? キャッキャウフフ…?」
女「してたよ! あんな好き好きオーラダダ漏れじゃ余計お世話なんて言われる筋はこれっぽっちもありませーーん!!」
女姉「なっ!? い、いっぱしに恋愛したことない子供がよくもまあ…姉に言えたモノね…ッ」
女「うるさいうるさい! 否定できるものなら否定してみればぁ!?」
女「最後までちゃんと聞いててあげるわ! どれだけ男のこと好きなのか見破って…あれ…?」ポロ
パタタ… ポロポロ…
女「……どうして泣いてるんだろう、私……?」
男&姉女「わーーーー!!!??」
女「ぐすっ」ゴシゴシ
男「本当に落ち着いて!? ちょ、泣かないで…! ハンカチで拭いて、ほら! ねっ?」
姉女「ちょっとは落ち着きなさい! ほら、珈琲かってきてあげるから! もうもう嫌な勘違いしないでよバカね…!」
女「うう…じゃあ違うの…? 本当に、付き合ってない…?」
女姉「教師と生徒! い、色々と過去にあって知りすぎてるのもあるけど…!」
男「女さんが勘違いしてることは絶対に無いから…!」
女「うん…うん…」コクコク
女姉「ちょ、ちょっと、私今から自販機で飲み物買ってくるわ。しばらく相手してて」スッ
男「は、はい!」
女姉「…次は一緒に居て話聞いてあげる。その方が妹も貴方も、落ち着いて会話できるでしょうから」
男「あり、がとうございます」
女「ぐす…」
女姉「……。まったく、今ここで本当に泣きたいのは、一体誰なのかしらね」パタン
男「………」
~~~
ジュゥウウ
叔母「おかしい…おかしいな…フライパンで卵を焼いてるだけなのに…」
叔母「どうしてフライパンから卵が戻ってこないんだ?」クル ブンブン!
ガリガリボソボソ
叔母「不思議だ…フライパンを買い直した方が良いのかも知れない…」
ぴんぽーん
叔母「ん? …男君の書類でも来たかな」ガタン
がちゃり
受付「ウィッス~! オーナ~! 送別会の準備的な話しをしに――クッッサ!!??!」
叔母「唐突に失礼な奴だな」
受付「えッ!!? ちょ、なんスかこの匂い!? 焦げてる? これ火事的な臭さッスよ絶対!!」
叔母「そんなに臭う?」
受付「そりゃもうドアの隙間からモックモックと!」
叔母「ああ。なら多分、私が作ってる卵焼きのせいだ。別に気にしなくて良い」フリフリ
受付「いや気にしますけど…卵焼きでプラスチック燃えてる匂いが産まれる理由が…」
叔母「私も知りたいんだ。理由としてはフライパンが悪いんじゃ無いかと思う」
受付「……。大丈夫なんスか?」
叔母「買い換えるから大丈夫」
受付「違う違う。アンタ、鼻敏感なのに気づかないとかおかしいデショ」
叔母「……。言われてみれば確かに」クンクン
受付「体調でも悪いんスか? だったら無理せず出前でも取りましょーよ」パタン
叔母「いや、別に腹が減ってるわけじゃ…」
受付「ん? あぁ~! なるなるー?」キラリン
受付「もしや彼の為に手料理作ってた、ってな若々しい魂胆抱えて頑張った感じッスかぁ?」ニマニマ
叔母「む」
受付「クケケ! オーナーにも可愛らしい部分残ってたんスね、って…わぁお…なんだこの物体X…」
叔母「卵焼き」
受付「…これを卵焼きと認めるには、例え料理上手くないウチでも躊躇うわ…」
叔母「食べてみるか?」
受付「食べれるんスかコレ」
叔母「私は喰わないけど」
受付「じゃ、この話おしまいッスね。本題に移る前に窓開けますよ」ガララー
ヒュウウ~~
受付「……。最近ラブホの仕事無いから会えてないですけど、彼は元気なんスか」
叔母「普段通りすぎてなにも」
受付「あっはは。いやあ素晴らしい、もはやそこまで分別効くなら菩薩級だわ」ケタケタ
叔母「どうだろうな。我々が察せられてないだけで、彼だけは思い悩んでるかも知れない」
受付「まるで他人事みたいッスね、今のセリフ」
叔母「じゃあ私に何か出来るとでも?」
受付「そうっすねー出来れば話は早いっすよねー」
叔母「だな」シュボッ
受付「まあ、そりゃ血が繋がってても他人は他人。よそはよそ。家族じゃ無いからなあ」
受付「かわいそうに。これからずっと、彼の自由はあの両親に弄ばれ続けるわけだ」
叔母「そうかもな。なら、お前が男君と一緒に駆け落ちでもするか?」
受付「イイっすね~それ! 原付で全国津々浦々、月替わりには絵はがき送りますよ?」
叔母「くっく。そりゃ楽しみだ」
受付「ふむ。それよかケルケル君の実家に住むってのはどうデショ」
叔母「ほぉう」
受付「同じ外国住みなのに、この安心度の違い! 結局はソコなんスよねー」
叔母「……」フゥー…
受付「…どうにか出来ないんですか、ほら、今からぶん殴りに行くとかは?」
叔母「殴って解決できるのなら」
受付「じゃあウチらはせいぜい、華々しく彼を送り届けるだけッスか」
叔母「……。さて、送別会とやらの話だったか」グリグリ
受付「ケルケル君がノリノリで準備してるんで便乗するカタチでー」
受付「あとでここにきてパーティの内容を話してくれるッス」
叔母「楽でいい」
受付「いや、ここは楽すべき所じゃないデショ…」
叔母「? どうして、別れる準備まで苦労しなきゃならないんだ?」
受付「カ~ッ! 妙にかっこいいセリフ頂きましたー!」
受付「…という冗談は今回は無しで、ここはひとまず頑張りましょうよオーナー」
受付「――我々が彼にできることなんて、今はこれだけなんですから」
~~~
女「遊ぶわよ」
男「は?」
女「良いから準備しなさい。早く荷物を持って、財布にお金は? 無ければ貸すけど、転校する前に帰しなさいよね」
男「ちょ、ちょっと待って!」
女「なによ。家の門限でもあるの? ら、ラブホに住んでるクセに?」
男「違う、そうじゃなくて……あの、転校に対する感想は…?」
女「無い」
女姉「…………」
男「えぇッ!? 無いの!?」
女「無いわよ。転校するんでしょ、遠い外国に行っちゃうんでしょ、それで何?」
女「――別に会えなくなるわけじゃないでしょ? あほらしいったらありゃしないわ」
男「…女さん…」
女「ケッ! この私に心配でも為て欲しかった? 行かないでって引き留めて欲しかったワケ?」
女「あっりえないわよバーーカ!! 二度と意味不明な勘ぐり為ないでよね!」
男「正直に言いますと、私との勝負から逃げるのか! と怒られると思ってました…」
女姉(私も同意見だった……)
女「それも有り得ないわ。貴方と私の優劣を決める勝負、たかが国境程度で終わりなんてわ・た・し、が認めない!」
女「私は諦めないの。外国でも宇宙でも地底でも深海でも、貴方が何処に行ったって諦めない!」
女「私が貴方から受けた屈辱はどの広さも深さも遠さでさえも、計り知れない程にでっかいんだから!!」
男「…………」ドキ
女「わかった? わかったなら頷きなさい、そして認めなさい! 私との勝負の続行を!」
男「…うん」ギュッ
男「わかり、ました。もう君との勝負を俺は二度と、諦めた風に言ったりしない」
女「上等よ、受けて立つわ」ニッ
男「うん」ニッ
女姉(……驚いたわ、素直に)
女姉(そっか。もう私の妹は既に成長してるんだ。私が知っている以上に、彼女は立派に大人となってきてるんだ)
女姉(でも、勝負って貴女ね。これじゃあ大人とは少し言い辛いかしら)クス
女姉(……けれど)
ただしい大人の対応なんて、私には理解できているのだろうか。
女姉(あーあ、先輩と飲んで話したい。今度、誘ったら来てくれるかなぁ)
女「? どこいこうっての先生?」
女姉「え?」
女「先生も来るのよ、遊びに行くの。教師の仕事って何時に終わるの? 早めに切り上げられないモノなの?」
女姉「はっ? いや、待ちなさい。どうして私まで一緒にっ?」
女「むしろ何故行かないと思ってるの……?」
女姉(こ、このバカ妹は! まさか本気で単に遊び感覚で誘ってるの…!?)
男「…ぇ、ぇと…」キョロキョロ
女姉(ホラ! まさかの展開に当の本人が気まずがってるじゃない!)
女「別に先生が居たって構わないわよね? ねえ?」クル
男「エッ! あ、ハイ…俺は断れるような立場じゃ無いというか…」チ、チラ
女姉(断りなさいよ! このいくじなし! 二人で行きたいって言いなさいよ!)
男(睨まれてる…すっごい睨まれてるよ…)ドッドッドッ…
女「もーう、素直じゃないんだから。こんな参考書じゃなくて、ちゃーんと一緒に送別会って奴をやりましょ!」
ぐいっ
女姉「…貴女ねえ…!」
女「来て。お姉ちゃん」ボソ
女姉「…え?」
ブルル…ブルッ…
女姉(この子、震えてる?)
女「――お願い、来て…ください…」
女姉「……。バカね、本当に」ギュッ
男「? あのー…?」
女姉「良いわ。じゃあ行ってあげるけれど、必ず九時前には帰宅させる。姉では無く教師として付き添ってあげるわ」
女「来てくれるの?」パァァ
女姉「もちろん。そして貴方も、今回だけ私が急遽時間を作ってあげたのですから――」
女姉「――一人の男子生徒として、立派に最後まで突き通しなさい」
男「わ、わかってますとも! ええ、心からやり遂げるつもりです!」
女姉「……いくじなし」ボソッ
男「うッ」
女「? じゃあ早速行こうじゃない! どうする? カラオケでも行く?」ワクワク
男「そうだなぁ。そういや、前に点数負けしたままだったっけ」
女「ほほう。……上等ッ! 勝負ってワケね受けて立つわッ!」
女姉(…しょうがない子ね、まったく)
女姉(こうなれば仕方ない。ここは大人として、姉として、一人の女として)
女姉(影ながらフォローしてあげましょう。ふふん、任せなさい…)
~ラブホテル・スタッフルーム~
『明日の天気は晴れ、のちに雨が降るでしょう』
叔母「…おっと」ピク
叔母(もう九時か。今日は客がやけに少なくて暇だった)シュボッ
叔母(ん? そういえばまだ帰ってきてないような…)
フゥー…
叔母「………」チラ
叔母「まあチンすれば食べれる、と思う。多分」
『取りあえず卵焼きぐらいフツーに作ろうッス』
『きっとオトコもよろこぶですよ! キットキット!』
叔母「ハッ」
叔母(私も随分とほだされた。義姉さんにもそう言われても仕方ない)
叔母「……藪を突くな、か…」
prrrrrrrr
叔母「はい。もしもし?」ガチャ
『あ! 良かった叔母さんでしたか、男です! すみません!』
叔母「? 唐突に謝ってどうしたの?」
『こんな時間まで連絡無しだったので…』
叔母「いや構わないよ。高校生らしくて素晴らしいじゃないか」グリグリ
『そう、ですかね。えっと! それでですね、実は――』
『うぇぇぇ! せんぱぃー! わたひっ、わたしぃいいいい~~~…っ!』
叔母「この声って…」
『お、落ち着いて下さい先せエムホォン! お姉さん! こんなところで騒いだらダメです!』
叔母「状況がよくわからないんだが…」
『じ、実はですね! 今はファミレスなんですが、店員の間違いでワインを飲んでしまって…!』
叔母「なにやってんだアイツは…」ガタリ
『あ! だ、大丈夫ですよ! 偶然にも受付さんが近くに居て、こっちでなんとかできますから!』
叔母「そ、そうなの?」
『ええ、なのでまだ少し帰るのが遅れるかも知れません。だからその後報告をしようと思って』
叔母「そっか。…気をつけるんだよ」
『…はい、その、ありがとうございます』
叔母「ん? 感謝することあった?」
『いえ、個人的に。…心配されるの、あんまり慣れてないんで』
叔母「……」
叔母「ちなみに気をつけてとは、酔っ払うと後輩はキス魔になるから気をつけて、という意味」
『お姉ちゃん大丈――ふむぐゅううううううううう!??!!』
『うわぁあああ!!?? と、止めてきます! じゃあまた後で! また!』ピッ
叔母「…まあ受付がいるらしいし、大丈夫か」
カタン
叔母「……」カパリ
叔母「もぐ、もぐもぐ…」
「……しょっぱ」
【オマケ・ファミレス帰り】
受付「セイセイ。何をそこまで荒れる必要あるってんだい、先生や」
女姉「うぅうーっ…だってだって…妹ばっかりたのしそーな青春おくっててぇ~…」エグエグ
受付「そっかー爆発しちゃったかー、うん。男くんはソッコー彼女の耳ふさいで」
男「えっ? あ、はい!」ササッ
女「?」
受付「ねえ先生? 貴女は超立派よ、多くの生徒を正しく教育していく職業に努めてる、心から尊敬しちゃうワ」
女姉「うん…」
受付「でも人間はずっと完璧で居続けるのはムリ。何処かでボロは出るし、たまにの息抜きは必ず必要なの」
女姉「つまり…?」グス
受付「飲み行こう! 貴女のグチ、その最後の最後の一滴残らず絞り聞き取ってあげる!」グッ
女姉「お、おおっ、受付さぁああ~~~ん!!」ガバァッ
受付「ガハハ! まかせなさい! ドンときなさい!」
男(奢らせるんだろうなあ…)
女「ね、ねえ、ちょっと、もうっ、コラ! 離しなさいよ!」バシッ
男「ご、ごめん。えっと、何も聞こえてなかったよね?」
女「何も聞こえなかったわよ! ったく、お姉ちゃんどっかいっちゃったじゃない!」
男「そ、そうだね。じゃあもう良い時間だし、そろそろ俺らも…」
女「え? 帰るの?」
男「え?」
女「……。まだ、私は帰りたくない、ケド…」モジッ
男「………。え?」
第九話 終
残り三話よろしくお願いします ノシ
男「………」
女「…ちょっと、黙ってないで何か喋りなさいよ」
男「いや、だって、あのさ本当に、来るつもり? 俺の部屋に、というかアソコに」スッ
女「……」ウッ
男「べ、別に今から帰りたいっていうのなら送るけど…」
女「…いくわよ」
男「えぇ~…」
女「いくったら行くのよ!」
男「や、やけっぱちになってない?」
女「違う! てか、こんな時間に出歩いてたら補導されるし、都合がいい場所ったら貴方の家ぐらいしかないし!」
男(カラオケとかあるじゃん…漫喫でもいいし…でも流石にここは…)
【ラブホテル・スィートランド】
男(凄い、嫌な予感しかしない)
女「さっさと行くわよホラ!! 躊躇ってる方がなんだか恥ずかしいでしょうが!!」
ラブホテル・勝手口
男「こっちだよ。正面からはお客さんの邪魔になるから」
女「そうなの? な、なんだか普通っぽくなくてドキドキする…」ドキドキ
男(クラスメイトと一緒にラブホテル来てる時点で全然普通じゃないけど…)ガチャ
キィ…
女「暗いわね…」
男「普段は掃除道具入れに使ってる区間だしな」パタン
女「ふーん…」キョロキョロ
女「そういえば清掃さん? だっけ? あの人は今日は居ないの?」
男「ケル君は居ない。今日の担当は臨時の清掃員さんと、受付もバイトさんがやってる」
スタスタ
女「……ふーん、そなんだ」
男「うん」ガチャ
女「じゃ、誰も居ないのね。あたしが知ってる人、この建物内に」
男「うん? まあそうなるね、多分だけど」
女「だったら、二人っきりってワケだ。あたしたち」クル
男「えっ、あ、うん? そういったことになる、かな」
女「………」じぃー
男「な、なに? 急にどうしたっていうのさ?」
女「べつに」フィ
スタスタ
女(なんだ、じゃあ来た意味ないかも)フゥ
女(それとなく周りに人たちに、貴方の詳しい転校理由とか訊きたかったのに)
44号室
女「……」チョコン
女(この前、乗り込んだ時ちゃんと見れてなかったけど)チ、チラ
女(……うん、フツーにら、ラララ! ラブホテルじゃない…)
男「どうぞお茶です…」コトリ
女「あ、ありがとう」
男「で、一体なにをするつもりなんだ。俺の部屋でさ」
女「……………」
男「あ~~、うん。何も考えてないワケね…」
女「う、うるさいわね」キッ
男「せいせい。なら定番に卒業アルバムでも見る? この前の荷物整理で出てきたんだけど」
女「え! みるみる! 見たい見たい!」キラキラ
男(釣れた…受付さんのアドバイス通りだな…)
受付『もしクラスメイトを部屋に連れてきたら?』
受付『ハァン、んなの卒アル見せて、さっさとしっぽりいけば良し!』グッ
男(ようは捉えようなのだろう。間違ってはない、捉え方次第だ)
女「貴方はどこに写ってるの?」パラパラ
男「俺? あぁ、それならココかな」
女「ほぅ、……まったく変わってないわね、今と」
男「一年ぐらいで変わるほうがおかしいじゃないか」
女「そう? 学生なんて二週間あれば性格も変わるモンだけどね」
男「…そうなの?」
女「そうなの! んー、あたしが中学の頃に仲良かった娘が居たんだけど…」
女「夏休みは親戚のところで過ごすって聞いてて、まったく会えなかったのね」
男「う、うん」
女「それで二学期明け、その娘を教室で探したら───」
女「───親戚の人と駆け落ち同然で飛び出したって噂を聞いたの…」
男「えぇっ!?」
女「うん。当時はびっくりした、すぐに見つかってこっぴどく叱られて学校戻ってきたけどね」
男「信じて欲しい…俺はきっと外国に行っても、そんな無茶はしないと思う…」
女「もしなったら意地でも探し出しに向かうわよ、貴方の元へ」
男「よ、よろしく頼む。俺はノリで飛び出したものの、きっと近場の駅で蹲ってると思うから」
女「ヘタレ」
男「そこで文句言う? …まあ、言われ慣れてるよ。ヘタレなんて」
女「へぇ~~、誰に?」
男「母親。そんな人なんだ、はっきり物を息子にも言う人」スッ
コポコポ…
女「…突然の転校も、親のせい?」
男「うん? 母親じゃないよ、父親の方。外国に住んでて、こっちにこいってさ」
女「……。どっちにしろ親のせいなのね」
男「あー、まあ。そうなるね、うん」
女「文句いわないの?」
男「まさか。言ってどうするんだ、なにも変わらない。……きっと変わらない」
女「ヘタレ」
男「うーーーん、ヘタレって思う? だって親だよ? 育てられてる俺が言えるわけがないじゃんか」
女「言えるわよ。文句言わないほうが、もっと不自然」
女「……特に貴方みたいな人が言わないほうが、あたしには不思議でたまらない」
男「えっと、どういう意味?」
女「……あたしみたいなのと、フツーに接してられるじゃない」
男「根拠が不十分です」
女「ぐっ!! そっ、そーーいうところよ! あ、あたしが怒るってわかる癖にどうどうと言ってくるトコロ!!」ビシッビシッ
男「痛い痛い! 座布団で殴らないで!」
女「なによ! そんな貴方は素じゃないって言いたいワケ!?」ブンブン
男「い、いや全然普通にしてるつもりだけど…」サッサッ
女「じゃああ文句いいなさいよ!? 親にだって誰にだって面倒背負わせるなやめろ! って!」ガーッ
男「横暴過ぎる……」
女「横暴なのはどっちよ!? 急に転校させられて、それも外国で、まったく会話が成り立たない場所で!」
女「───そんなのあたしが、経験した以上につらいことじゃない……」スッ
男「……、」
女「やりたくないことなら、きっと子供だって言っていいのよ…絶対に…っ」
男「女さん…」
男「そうなると、俺も女さんと会話しなくていいことになる?」
女「あたしの立場そんな感じだったの!?」
男「いや、要点を捉えるとそうなるのかなと」
女「ここは要点じゃないでしょがぁああああ! 気持ちを! あたしの! 想いを察しなさいよおおお!!」
男「ひぃいいい!!」
ドッタンバッタン
男「だ、だって! 別にかまわないって言ったじゃないか! 転校しても構わないって!」
女「つ、強がりに決まってるじゃにゃい!! あたしが本当にそお言ってると思ってたの!?」
男「思ってたよ!!」
女「思うなアホぉーーーー!!!!」
男「……! 人ってのは正直に言われないと駄目なときもあるんだよ!」
女「にゃにおー!?」キッ
男「察し、察せ、こう思えなんて! …俺には高等技術過ぎる、出来ることなんてちっぽけだ!」バッ
男「俺はもう数日後には転校するんだよ! なのにっ、君の何を察せと言うんだ…!」
女「っ~~~!!? 心配してるんじゃない!!」
男「……え?」
女「貴方が全然知らない場所に行って、誰も知り合いが居ない学校で、ちゃんと生きてられるのか…」
女「───貴方が! 全然気にしてないから、あたしは心配してんのよ! こっちは!!」
男「……俺が、気にしてないなら心配しなくていいじゃないか!!」
女「テ、テメー……乙女心なんもわかっちゃいないなんっとによォ…!?」
男「うるさいうるさい! 俺は君のペットかなにかか!? まったく余計なお世話だ!!」
女「………」しーん
男「……女さん?」
女「だァーーーー!!」ギシャー!
男「うわぁあああああ!?」
女「余計なお世話だとぉおお!? よく言ったその口よこせ! 真横に引き裂いてくれる!」ダダダダ
男「ひぃいいい!? な、なんだよ本当に!? 今日の女さんすっごく変なんだけど!?」ダダダダダ
───ドンドンドンドン!!!
男&女「っっっ!?」
女「…今の、なに…?」ドキドキ
男「と、隣の部屋からだ…騒ぎすぎてうるさかったのかもしれない…」
しーん
女「……ごめん、騒ぎすぎた。謝るわ、本当に」ストン
男「あ、うん…別にいいけど…」ストン
女「……」
男「……心配、してくれたの?」
女「す、するわよ。…一応、あたしでも心配してる…想像したら怖いじゃない…そんなの…」
女「…例え片親が居たとしても、見知らぬ土地に行くなんて、あたしだったら耐えられない…」
男「でも、俺は平気だよ?」
女「それ、それ【が】一番こわい」
男(それが一番…?)
女「貴方は今、そう思えてるかもしれない。今、だけはきっと大丈夫かもしれない」
女「でも、あっちじゃダメかもしれない。今まではよくても、これからはダメかもしれない」
女「……それを怖がってない貴方が、一番、怖い」ギュッ
男「…ごめん」
女「わかってないクセに謝るなっ!」
男「クス。君も随分と俺のこと、知ってるね。本当に」
女「あっ、あったりまえよ! ライバルよライバル! 腹立つコトぐらい分かってて当然よ!」
男「…うん、確かに。俺はなんとも楽観的だと思う」
女「そうよ……こ、こんな所に平然と住めてる時点で頭イッてるわよ……」
男「だね。実にそう思う」スッ
男「───文句か、考えたこともなかったな」
女「……」チラ
男「俺としては、親の言うことに従うのは普通のことだったからなぁ。凄く新鮮だ、うん」
女「…だから友達できないのよ」ぼそり
男「………………待ってくれ、なんだって?」
女「んでもない」ぷいっ
男「いや、なんでもなくない。なんだって?」ずいっ
女「ひゃい!? なっ、なによ急に顔を近づけて!?」
男「君は凄く聞き逃せないことをさらりと言ってのけた。なんだって? もう一度、頼む」
女「だっ、だから、えっ!? 今のもっかい、言うの…? その、友達が出来ないというか…」
男「………」
女「前から普通に喋ってるの、クラスであたしだけって思う、から…」
男「───………」ガク …ストン
女(膝から崩れ落ちた………)
男「なんたる…」
女「え、え、えっ? なに、あたし変なこといった…!?」
男「わかったよ。ああ、随分と深い衝撃を持ってして理解したよ…」スッ
男「俺は友達がいない!!!」カッ
女「し、知ってるけど」
男「…………」ヒョロロロ…
女「ちょっと! 気をしっかりもって!」ガシ
男「なんたる…」
女「もうそれいいから! なによ、一体急にどうしちゃったのよ…!?」
男「…不安になった、外国に行くことに」
女「今更!?」
男「今更だよ、凄く今更だ…! なにせ女さんが余計なこと言ってくれたお陰でね…!」クッ
女「わっ、悪かったわよ! でもわざとだと思ってたの! こっちは!」
男「わざと…!? どうして意識的に友達を作らないなどと思うんだ…!?」
女「……だってラブホテル住んでるし……」プイ
男「じゃあ外国だったら友達作れるかな!?」パァアア
女「え? いや、それは……」
男「え……なにその顔……」
女「ごめん! あたし咄嗟に嘘つけなくてごめん!」
男「なんて酷い事実を突きつけるんだ女さんは……」シクシク
女「とっくの昔から突きつけてるつもりだったけど!?」
男「友達…友達できるかな…俺…」
女「な、なによ…そんなことで自信なくしちゃうわけ…?」
男「失くすよ…知ってる通り、俺は友達が居ないんだ…一人も居ない…これから先も一人も居ない…」
女「…あたしは?」
男「ライバルだろ…?」
女「ぐっっ…! た、確かに! あたしが言ってたわ…!」
男「ライバルか…そうか、ライバル…あっちで沢山のライバルを作ることは可能性として…」ハッ
女「待って。あっちじゃ、ライバルのランク桁違いだとあたしは思う。命、危ないと思う」
男「命かけて出来るならやってみせようじゃないか…!」
女「トモダチでしょ!? 貴方が作りたいのはッ!」
男「……女さん、文通しよ?」
女「逃げるな逃げるな、こっちに」
男「話題作り大変なら…電話でもいいし…」
女「えぇいっ! なよなよすなっ!」ブゥーン!
男「うぐっ」ドタリ
女「みっともない! みみっちい! ダチの一人ぐらい己一人努力でつくれ!」
男「……無理だよッッ!!」
女「な、情けないことを堂々と…!」
男「俺には無理だ…きっと…無理なんだ…」
女(急にどうしちゃったってのよ…?)
プルルルルル
女「で、電話? ほら、貴方の携帯鳴ってるわよ…?」
男「……………」
女「今の時間帯にでないと、心配されるんじゃ…」
男「……出てくれ、すぐに出られる状態に戻すから」
女「あたしが!? あんたほんっとに突然にウザったくなったわね!?」
ピッ
女「もしもしっ?」
『──Why!? なにゆえボスがオトコの電話でる?』
女「この声……け、ケルケルさん?」
『イエスマム! ケルケルだよ~! …あ! しっぽり中?』
女「違うわよアホ!!」
『ケラケラ! うんうん、ジョーダンだヨ! 近くオトコいる?』
女「い、居るけど…その…」
『ウン?』
男「…………」ズーン
女「出られる状態じゃない、っていうか…」
『ジョータイ? 変なの、でも残念、お別れ会の予定言おう思ったのに』
女「お別れ会? 男のやつの?」
『イエス! 今度にownerとfoxeyとケルケルで、パーティするから!』
女「……それ、あたしも行っていい?」
『ボスも? 全然オッケー! きてきて! カモーンだよ!』ケラケラ
女「ありがと」
『いいのいいの。オトコは三人で良いって言うけど、沢山いたほうが楽しいよね!』
女「…うん」
女(誘ってくれてもいいのに、本当に冷たい奴。…じゃないのかな、それが普通だって思わなかっただけ?)チラ
女(変な奴。堂々とあたし話しかけるくせに、こんなトコロ住んでくる癖に、まるで…)
女(人から優しくされるのに慣れてない、みたいな……)
『ボスー? どしたのー?』
女「あ…なんでも…!」
男「…変わって、調子戻ったから」
女「あっ! うん、はい…!」バッ
男「もしもし? ケル君? はぁ…ぐすっ…はぁ…はぁ…」
『オトコ?』
男「うっ…うん、大丈夫、さっきまで調子が良くなくて…うん…ふぅ…」ズビビ
『ウ、ウン、オトコ無理しなくても別に…』
男「無理? 無理なんてしてないよ、全然!」
女「あっ! ちょっと(鼻水)垂れてきてるわよ…!」
『垂れて?』
男「い、いや別に!? 大丈夫大丈夫! なんにもないから」ゴシゴシ
女「ぎゃー! えんがちょね! ちゃんとテイッシュ使いなさいよもう!」シュッシュッ
『ソ、ソウネ…そういうのはちゃんと…』
男「平気だって! …なにやってるんだ、あっちに聞こえちゃうだろ…!」
女「貴方がばっちいことするからでしょ! 電話してて、やってあげるから…!」スッ
『…アノー…?』
男「や、やめっ…! ぐぁーーー!?」ズボァッ
女「あ! ご、ごめ…! (鼻に指)入っちゃった…! しかも(ティッシュ)無しで…!」
『えっ!!?』
男「うぐっ、ちょっと、早く抜いてくれ…! 痛い! キツイ!!」
女「ばっ、だったら動かないでよ! こっちだってそんな、んっ! あぁあっ…!?」
『…オ、オトコ……ボス……?』
男「どうしてガサツなのに無茶をするんだ…!? 無理に抜こうとすると、うっ!? あっ!?」
女「ガサツ!? よく言ったわねこの泣き虫! さっき情けなく崩れ落ちたの忘れてないんだから!」
『……technician…』
男「はががっ!? ぐぅううう!」
女「こうなったら(鼻の)形が変わるまでグリグリしちゃる! ……きゃっ!」
『………ちょ、ちょとボク、用事思い出したノデ、ソロソロ……』
男「あぐっ! おわぁっ!? へっ、へぁ…くっしょん!」
女「……よ、よくも顔にぶっかけてくれたわね……!」
『…bukkake…』
男「ずびび、いやいやいや! だって、ぐりぐりするほうが悪いだろう!?」
女「うるさいうるさい! ほら、責任持って拭きなさいよ! ほらほら!」
男「うぅ…なんでこんな目に…」
女「こっちのセリフよ…!」
『あ、アハハ、うん、ケルケル知ってるよ! これもきっとカンチガイってやつで…』
───ドンドンドンドン!!
『……ウン?』
男「…あ、また叩かれてしまった…」
女「うひっ! なんでここ壁が薄いのよ…! ラブホなんでしょう…!?」
男「いや、改装工事したらしいんだけど、44号室だけはやってないらしくて…」
『…アワワワ…』
女「そ、そうなの? じゃあはじめに言ってよ…」
『ふ、フツーなら怒られないケド…一体どんなプレイしてたの…?』
男「普段、俺は大きな声なんて出さないしね……さっきの女さんみたいに」
『そこ見栄はっちゃうオトコ!?』
女「あぁん!? 貴方の声も相当大きかったわよあんぽんたん!?」
『そ、そういうピロー……トーク、は後々に…』
男「そりゃそうだろう! 女さん、なんだか普段とは全然違う感じだったし!」
『どっちも良かったんだね! 盛り上がったんだね!』
女「それは!! だ、だって…心配だったし…」
『え、ボスはハジメテ…だったの? だったらオトコちゃんとリードしてあげた…?』
男「……俺はそんなの気にしない」
『キチク! オニ! オトコ見損なった!』
女「でも本当は、ちゃんと出来るか心配してたじゃない!!」
『……だよねッ!! オトコほんと紳士だもん! 知ってるケルケル知ってる! 素直じゃないだけ!』
男「だって…初めて、なんだよ…」
『…え…?』
男「俺は今まで誰一人とも、出来たことがないんだ…」
『オトコ……そっか、初めてで浮かれてた…わかるよ、ケルケルそのキモチ…』
男「──友達をどう作れるかって!!」
『セッ……セフ、セッ…クス…フレンド!?』
女「なによ…それ…」
『アワワワ…! お、怒るよゼッタイ! なんてこと言うの…!?』
女「──だったらあたしがなってやるわよ、友達に!」
『エェェエエエ!!?!!?』
男「えっ!? なんで、だって女さんは友達だなんて…」
『チョ、マッテ、リカイ、ケルケル追いついて…ッ』
男「き、キスもしてくれなかったのに…」
『ンンーーーーー!?』
女「そりゃもう忘れろ! いつまで引きずってんのよ!」
『オッホホホォーーーウ!?!!?』
男「う、うん…」
女「いい? 友達なんてぱっぱと作れる、心配するだけ意味がなし!」
男「…そうなの?」
女「そうなの! 万国共通よ!」
『』サラサラサラ…
男「………」コクリ
女「良いわ。そんなに心配なら、文通だって電話だってしてあげる」
女「──その代わり、ぜっっったいにあっちで友達つくりなさい。死ぬ気で、頑張りなさい」
女「友達の、このあたしが! 応援してあげるから!」
後日 朝方 女家
女「……」ズゥウウーン
女姉「朝からなんなの? その顔は」
女「余計なこと……言っちゃったなって、あたし……」ハハ…
女姉「余計なこと?」コトリ
女「…………、引き止めるつもりが応援しちゃった……」
女姉「…」ぽかーん
女姉「引き、止めたの? 貴女が?」
女「…うん…頑張ってあっちで友達作れ馬鹿って、言っちゃった…」
女姉「ま、まあ、今更止められても、彼の方も困るだろうし、良いと思うけれど」
女「…………」
女姉「…まだなにかあるの?」ズズッ
女「その場の勢い、っていうか。ノリで言っちゃった、というか」
女姉「うんうん」コクコク
女「………あたしが、一番最初の友だちになっちゃる、いっちゃった」
女姉「ぶふっ! ……あっ、ごめっ、今の笑ったわけじゃなく、」
女「………」ズーン
女姉「ちょっと聞いてる!? ねえ!?」
ラブホテル 今朝 スタッフルーム前
男(友達……応援までされたんだ、ちゃんと、頑張ろうじゃないか)
清掃「…ぁ…」ビクッ
男「あ。おはよう、ケル君。……昨日はごめんね、勝手に電話切れちゃって」
清掃「ウン…ベツ…イイケド…」フィ
男「それで昨日の電話ってなんだったの?」
清掃「………」じぃー
男「?」
清掃「…フォクシィーに訊いて、ケルケル、わかんないから」スタスタ
男「あ、うん……」
男(調子悪いのかな? …待てよ、そうだ、まずはケル君と…)
男「ケル君」
清掃「…ナニ?」じとー
男「その、あのさ…」テレテレ
清掃「………」
男「…俺たち、友達だよね?」
清掃「………………」ズキン
男「……………?」
清掃「トモダチなれば…オトコと今まで通り喋れるかな…?」ボロボロボロ
男「えぇっ!? なんで泣いちゃうの!? えっ!?」
【すごい追い詰めてたことを、改めて知って、心底謝りました】
第十話 終
今日中に現れますノシ
44号室
受付「ねーねー男くーん」パラリ
男「なんですかー?」ジュージュー
受付「前から気になってたんだけどさーこの際だから訊いちゃうけど~」ペラリ
男「なんです?」チラ
受付「オーナーのこと、性的な目で見過ぎじゃない?」
男「…………」ガチン
ジュゥウウウ
男「…何故、そう思うのか根拠を述べて欲しいのですが…」
受付「ん? だってホラ、あの人って年がら年中タンクトップでしょ」
受付「だからココがね、ぼんって、服越しにどぉぼおんっ! って見えるじゃない?」
男「ま、まあ…確かにそうですけど…」
受付「見てるよね、それ。めちゃエロい目で」
男「見てません」
受付「見てるよ?」
男「断言しない! その根拠を言って!」
受付「オーナーから相談されたから」
男「…ぉぉぉぅ…!」
受付「ま。わからんでもないよ、厳しいよね。年頃の男子じゃ、あの格好は」ケラケラ
男「そ、それでなんと言ってたんですか叔母さんは…?」
受付「んー? そういやなんて言ってたっけ…?」
男「…役立たず…」ボソリ
受付「サラッと暴言吐いたね、キミ」
男「と、というか、以前に俺言われましたから。叔母さんから直接、見すぎてるって」フィ
受付「なんと! そこでキミはどういう言い訳を?」
男「ラブホテルに住まわせてる人のセリフじゃない」カチャカチャ
受付「至極まっとうな切り返しだ…」
男「とにかく、俺の視線がどうであれ…あれから気にしてるんで…」
受付「そっかそっか。なら余計な心配だったね、ごめんごめん」ゴロロー
男「ええ、その通りです」ジュワワ…
受付「…いい匂い、卵焼き? オムライス?」
男「ビーフストロガノフ、オムライスです」チラ
受付「うへへ。凝った料理、お姉さん大好きだよ~」ぺしっぺしっ
男「脛叩かない。床に転がらない。掃除してますけど、この周り油飛び散ってて汚いですよ」
受付「ウチの部屋より綺麗だよ~」
男「……。それより、俺の方も前から言わせて貰いたいことあるんですが」
受付「あん?」
男「アンタの格好も相当露出度高いっすから」
受付「へ? そお?」(キャミ&ショートパンツ)
男「ええ、酷すぎますよね」
受付「どこらへんが? ここ? どこ?」キョロキョロ
男「全部だよ」
受付「ん~~~? でも、別にお姉さん相手じゃ欲情しないデショ?」
男「なんで基準が俺の価値観!? もっと自主性を持って!」
受付「キミが気にしないなら、あたしゃラフな格好で居たいよ。もう裸でも構わないし」ぺしぺし
男「女性としてどうなのか、と問うているんですけど。あと、邪魔です」
受付「じゃあウチを女として目覚めさせろよ!!」
男「なんでキレるんですか、そこで…」ドンヨリ
受付「やだやだー! お姉さんもいっぱしなオナゴとして認められたい~チヤホヤっとされたい~」バタバタ
男「わかりました」ジュゥウウ
受付「ほんとにっ?」キラキラ
男「じゃあ、受付さんの分だけ肉多めにしますよ」
受付「小学生かッ! でもありがと!」
男「……受付さん。俺、もう明後日には居なくなるんですよ。大丈夫なんですか」
受付「大丈夫とは?」
男「全部」
受付「さっきから一括りだねキミ! でぇーじょうぶだよ、ウチはよぉ」
男「…そう、ですか」
受付「これでも大人よ。つらーいことも、たのしーことも、好き勝手生きてやるさ」
男「………」
受付「がんばってね、男くん」
男「…はい」
受付「辛くなったら、沢山のお金持ってお姉さんのトコロ逃げ込んでおいで?」ンー
男「全財産持って転がり込みますよ、はいはい、危ないから抱きつかない!」
叔母「ただいまー」ガチャ
男「あ。おかえりなさい、叔母さん」
受付「おかえりっすー」
叔母「ん」コク
ヌギヌギ パサリ
叔母「ここ、熱いな。どうして冷房つけないんだ」
受付「ブレーカー脆弱なんで、料理中だと落ちちゃうんスよ」
叔母「なるほどな」ヌギッ パサリ
受付「景気付けに一杯イッちゃいます?」
叔母「金払え。今度やったらクビな」
受付「やだもぉ~ウフフ~オーナーったら~」
叔母「…………」
受付(あ。ヤバイ、マジの顔だコレ)
男「…あの」
叔母「男くん。あまりコイツ甘やかさないでいいよ」
受付「えぇ~そういうオーナーこそ男君を甘やかさ過ぎじゃないッスかぁ~」
カチャン!
男「あの!」
叔母&受付「?」
男「どーしてあなた達はすぐ俺の部屋でラフな格好になるんですか!?」
叔母「え?」
受付「まだ言ってるの? オーナーは何時だってタンクトップだし、ってぇええ!? アンタ…!?」
叔母「どうした?」
受付「びっくりした! パンツ一丁じゃないっすか! いつの間に!?」
叔母「ここ熱いから…」
受付「なんの説明にもなってない!!」
男「…こういうことですよ、受付さん」ドンヨリ
受付「えぇっ? な、なにがどうしたの…?」
男「最近、叔母さんは俺の部屋でタンクトップ&パンツ一丁で過ごすんですよ…」
受付「ウチ以上にヤバくない!?」
男「アンタ、自分もヤバイって分かってて止めなかったの?」
受付「ウチはまだいいじゃん! でも、オーナー! それじゃあ性的見られても文句言えないっしょ!」
叔母「待ち給え」
叔母「この格好について、私はきちんと了承を得たはずだよ、おとこ君」
受付「あるのッ!?」バッ
男「無いよッ! 当然のように言われてびっくりしてる!」
叔母「え、だって私のことは家族だって言ってくれたし…」オロオロ
男「あ、それか。いやでも、幾らなんでも限度ってものがありますよ…」ソワソワ
叔母「私は裸でもかまわないのに…」
男「善処してくれてたんですね! それでも!」
受付「じゃあ面倒だから、全員もう全裸っとく?」
男「おかしい! 急速に何かがおかしくなっていく!」
叔母「キミはきっと私が裸になっても気にしないだろう…?」キラキラ
男「え、いやっ! 想像しなくても状況的にヤバイと思うんですけど…!?」
受付「あっ! それならキミも裸になればいいじゃん!」
男「以毒制毒すぎるよ!?」
受付「ダメさ、こうなったオーナーは頑固。誰の注意も届かない」
受付「──なら、限りなく全裸に近く面積を抑えた格好をしてみよう!」
【水着に着替えました】
男「……どうぞ」コトリ
叔母「いただきます」
受付「いただきまーす」パシッ
男「お代わり自由ですからね。どうぞ、頂いて下さい」
受付「もぐもぐ。うめーなぁ、うんうん」
叔母「美味い」
男(平然と食べてる…ビキニスタイルで、二人共さも当然と…)
受付「なんか、海辺で食べるカレーの気分ッスね、コレ」
叔母「ここ数年行ってないな、海」
受付「ああ、まあ、うん、年取ると行き辛くなにますよね、海…」
叔母「だな…」
受付「近くの小さいプールとか…ほら、まだハードル低い場所ありますし…」
叔母「うん…でも物が食べれないしな…」
受付「…ッスね…」モグモグ
叔母「…ん…」モグモグ
男(重い…! 見た目は開放的なのに空気が閉じていく…!)
男「あ、あの! 二人とも全然見た目、若いですよっ? 普通に海なんて行けるかと…!」
受付「じゃあナンパされると思う?」
男「も、勿論です! おっ、俺だったら見逃さないなぁ~っ……!」チ、チラ
受付「ですってオーナー、良かったッスね!」ニコニコ
叔母「……やはり性的な目で私を……?」ササッ
男(余計なこと言っちゃった!!)
受付「違いますよ。彼は男性代表としての意見を言ってくれただけッス」セイセイ
男(う、受付さん…!)キラキラ
受付「──だからこの際、思い切って男目線で評価をゲロってもらいましょう」スッ…
男(!!?)
叔母「彼にか?」モグ
受付「ええ、男っ気ないウチらですし、良い機会だと思って」ヘヘッ
男「なん、なにをっ、突然言い出して…!? 一体俺に何を求めると…!?」
受付「どーもなにも、ウチらの水着姿見て良いかどうか答えるだけじゃんか」
男「さっき答えたじゃないですか!?」
受付「じゃ、それ続けて?」ニコ
男「なんっ…!」
叔母「先に失礼して」スクッ
男「──……ッ!!? 叔母さん、から…!?」
叔母「……どお?」テレ
男「どおって、言われましてもっ! それはっ、すごく、良い水着だと…!」
受付「水着はいいですって~! み・ず・ぎ、は!」
叔母「そっか……」
男「余計なこと付け加えないで! だぁっもぉう! 似合ってます、凄く扇情的で素晴らしいです…!」
叔母「…ん…」コク
男(なんてこと言わせるんだ全く…)カァァ
受付「なーんだ、やっぱりエロい目で見てたんだネ! 親族のこと!」
叔母「エッ…!」ササッ
男「おかしいですよね!? これ男性目線の話ですよね!?」
受付「うんうん。わかってるわかってる、じゃ次はウチだよ~」スクッ
受付「──どお? ウフッ!」キャピ☆
男「え? ああ、似合ってますよ。うん」
受付「感想薄っすッ!?」
男「いや普通に似合ってるから…とくに感想も無いっていうか…」ポリポリ
受付「ヤダー! もっと頂戴よエロい目線の感想! 欲情するぐらいいってよー!」
男「あ。水着にソースかかってますよ、染みつく前に拭いてくださいね」ニコ
受付「親かキミはッ!!」
男「え、親…それよか兄貴って気分ですね、この感じ…」
受付「はなからウチはオーナーより親族扱い……!!」
叔母「飯中に騒ぐなよ」モグモグ
受付「だってぇ…だって納得行かないんだもん! お姉さんこれじゃあ納得行かないんだもん!」
男「ちゃんと褒めたじゃないですか…」
受付「義務的過ぎる! もっともっと感情込めて褒めて…!」
男「えぇ~…嫌だなぁ…」
受付「嫌だなあ!?」ガーン
男「やっ、違っ!? 無理して褒めるのは違う気がして、その、だから…」
受付「んもーいいよもお! 外国でパツキンチャンネーに骨抜きになってこいや!」プイッ
男「うぐっ……じゃ、じゃあ正直に言いますけど、いいですか?」
受付「えっ?」
男「あんまり言いたくないんですよ、言う方も恥ずかしいですし…」
受付(やだ照れてる…な、なにさ…そう前置きされるとお姉さんも恥ずかしく…)テレ
男「じゃあ、覚悟して聞いてくださいね」テレテレ
受付「う、うん…」ドキ
男「毛、見えてますよ、そこ」カァァ
受付「…………………」スッ
男「あぁもぉう! やだやだ! こういうの男性目線として正しい指摘ですよね!?」
叔母「私は傷つくかな」モグモグ
男「えっっっ!?!??」
受付「……」ドンヨリ
男「あれっ!!?」
受付「…チョット…イッテキマス…」トボトボ
男「いやだって!? 勝手に水着に着替えたほうが悪くありませんこーいうの!?」
叔母「フッ」
男「いっ、いやーーーー! そんな意味深な笑みを浮かべないで叔母さん!!」
~~~
受付「じゃ、気を取り直して」
叔母「うむ」
男「な、なんですか、まだなにか続けるんですか」
受付「なにいってんの。キミの水着姿を褒めてないじゃん」
叔母「さあ、立って立って」チョイチョイ
男「えぇっ!? い、いや俺は良いですよ! 二人みたいに見せびらかせられる身体じゃないし…」
叔母「気にしないで良いよ。個人的に見たいだけだから」
受付「キミ、さっき何故そう褒めなかったの? そこまでアレが気になってたの?」ジトー
男「ぐっ…な、なんだっていうんだ…高校生の身体見ても楽しくないだろうに…」スク
叔母「…おー」パチパチ
受付「…うーむ…」コクコク
男「な、なぜに感嘆の評価を…」
受付「以前、酔って身体触ったときも思ったけど、フツーに鍛えてるよね」
叔母「立派だよ。叔母さんは感動してる」ウムウム
受付「お坊ちゃんってジムに通うように教育されてるの?」
男「べ、別に何もしてないですけど…ううっ…ものすごい羞恥心…!」
叔母「これなら外国の女子たちにも馬鹿にされないな」
受付「奴らひょろっこいのダメなんですかね?」
叔母「弱そうより、強そうなのが良いだろう?」
受付「生存本能的な奴ッスかね? すごそうだもんなーあっちの人のせいよくぅー」
叔母「たまに客で来るが、まるでスポーツのようだったな」
受付「…覗いたの?」
叔母「扉が半開きだったから…」
男(ひ、人の体を眺めつつ、外国の人の性…事情を語り合う…)
男「もう、良いですかね!? 座っちゃっても…!」
叔母「いいよ。最後に触らせてくれたら、ね」スッ
男「もしや脅されてます今!?」
受付「良いじゃん触るぐらい。オナゴと比べ、見て楽しむトコロ少ないもんね男子ぃ」ススス
男「あっ、ちょ、こっち近付かないで下さいよ…!?」
叔母「捕まえた」がしっ
もにゅもっ!
男「ひぁああああ!?」
叔母「…なにも悲鳴あげなくても…」
男「違います違います! 面積、状態、色々と考えて下さい! 背中に、思いっきり…!」
叔母「胸ぐらい気にしないよ?」
男「気に触って!!」
叔母「クスクス、家族なんだから別に平気」フフフ
男「家族でもアウトだよこの絵面!」
受付「では失敬して…」サワリ
男「あふぃっ!?」ビクン
受付「へ、変な声上げるでないぞ! やらしい気分みたいじゃろうに!」
男「さっきからアウトだっつってんでしょ?!」ガーッ
叔母「どうだ?」
受付「んーむー、非常に素晴らしい4つ割れッスかね。お見事」
叔母「じゃあ交代で」スッ
受付「どうぞどうぞ」スッ がしっ
男「さも当然のごとく…!!」カァァ
受付「あれ? ウチには抵抗ないの?」ウフ
男「え? まあ別に…」
受付「言うと思った! オラオラぁー!!」グリグリィ!
男「ちょほおおおおお!?」
受付「んっふふー! 押し付ければ関係ないもんネー! どうだ男子高校生、嫌でも意識されちゃうだろ!」ニカッ
男「………」
叔母「受付…」スッ
受付「あ、あれ? 男くん? オーナー? どったんスか?」
叔母「少し、時間を置こう」
受付「え? なぜゆえに?」キョトン
男「………」ストン
叔母「戯れが過ぎた、私としても後悔してる」
受付「急にどうしちゃったんスか、ねえ男くん? ちょっと…」チラ
受付「あ……えっと、あはは~……そ、そっか~…」
男「……」
叔母「煙草吸ってくる」パタン
受付「えっとぉ、お姉ちゃんも久しぶりにぃ? 男性と触れ合ったから、ソーイウの忘れっちゃってたってかー」
男「……」
受付「……」
受付「───ごめんネ! お詫びにオカズにしていいよ、さっきの感触!」くるっ ダダッ!!
パタン
男「………ううっ…するかアホ……」シクシク
~~~
受付「ま。お姉さんもキミも恥かしい所を見られた、お相子ってことでね!」
男「モウイイデス。サキ、ハナシススメテクダサイ」
受付「うぐっ! オーナーどうかフォローを!」
叔母「予想以上に立派だった」コクコク
男「身体つきですか!? そういうことですよね!? あぁもう、ありがとうございました!」
叔母(感謝された…)ホワホワ
受付「取り敢えずごちそうさまでした、っと。美味しかったよー今日もー」
男「あれだけ騒いでて食べるもんは食べましたね…」カチャカチャ
受付「そりゃあ食べれる機会も相当無いだろうしさ」エヘヘー
男「味わって食べてくれましたか?」
受付「もちのロンよ~」フリフリ
男「…お粗末さまでした。叔母さんはおかわり入ります?」
叔母「いや、私もこれで」スッ
男「はい。わかりました」
カチャカチャ ジャー
叔母「……」
受付「……終わりッスね」
叔母「ん? ああ、そうだな」
受付「満足できたッスか?」
叔母「……。どう思うかは彼の方だろう、私は関係無い」
受付「本当にそう思います?」
叔母「……」
受付「ウチ思うんスよ。多分、彼って知り合い殆どに言われてるって」
受付「───本当に、それでいいのかって」
叔母「フン。お前もか?」
受付「ウチはほら~こんなんッスから、何をどう言っても響かないっていうか~」
受付「──でも、残念がってるのは見せましたよ、ちゃんと」ニッ
叔母「……」
受付「あーあ、誰だろうなぁー? 最後の最後まで、いい人ぶり醸し出してるのって~」ゴロン
叔母「…お前なぁ」
受付「良いじゃないッスか。ワガママ、意地っ張り、子供っぷり」
叔母「責任者として面倒を見る。私の立場はそこまでだ」
受付「誰に見せるんですか、それ」
叔母「誰にって…」
受付「誰に、大人ぶりを見せて満足できてるんですか?」
叔母「………」
受付「よいしょっと。ま! 部外者のウチがどーのこーの言ってもアレですしネ!」ピカリン☆
受付「結局はそう、誰だって我儘言ってから考え始めても間違いじゃないって、想いますよ?」クル
シャアアア キュッキュッ
男「…あれ? もう行くんですか?」
受付「アパート戻って寝るよー! じゃ、明日のお別れ会でね~」フリフリ
男「あ、はい。おやすみなさい、受付さん」
受付「おやすー」パタン
男「さて…」
叔母「……」
男「あの、まさかですけど、この部屋で寝るとか言い出しませんよね?」
叔母「ちゃんと帰るよ。キミも荷物整理あるだろうから」スッ
男「もう終わらせましたよ。後は調理器具等をダンボールに詰めるだけです」
叔母「…手早いね」
男「ええ、普段から気を配ってますし」フキフキ
叔母「普段から? 転校は多かったと耳にしてたけど、一度も住居は変わらなかったのに?」
男「変なこと知ってますね……まあ、親がコロコロと学校変えてましたけど…」
男「まあ。そういうこともあって、私物を持たないようにしてたんです」
叔母「───……」
男「余分でしょう? 必需品だけ持ってれば簡単に動けるし、手間がかからない」
男「いちいち手順が嵩むものは省いて来たんです。今まで、ずっと」ニコ
叔母「………」
男「だから、ここに着た時は、すごく新鮮だった」
趣味で日本に来た人。物を片付けられない人。私物が部屋にごった返す人。
男「…みんな自分のモノで溢れかえってた。まあ、整理整頓はやってほしいですけどね」
男「だけど、いい経験が出来たと思います。自分には無いものを、沢山知れました」
男「だから……」
ぎゅっ
男「おっふ!」
叔母「……」ギュッ
男「んっ、んぐっ、んもーまたですかっ? ハグする前に確認取って欲しいと…!」
男「ってか!? 水着のまんまでやらないでくださいよ!? 見た目やばいやばい!」
叔母「…男くん」
男「え、はい?」
叔母「キミをここに住まわせた理由、知りたいかい」
男「……え、なんですか、それ? 理由、あったんですか?」
叔母「ん」
男「単に煙草とお部屋のせいかと思ってたんですけど…」
叔母「違うよ。……私は以前から思っていたんだ」
叔母「──キミが、いつでも切り捨てられる部屋を与えたかったと」
男「……」ピク
叔母「そう。何時でも何処にでも飛び出せる、そんな環境を作りたかった」
男「…なぜ?」
叔母「ラブホテルはね、その場限りで楽しむ楽園地なんだよ」
叔母「旅館ともビジネスホテルとも違う。一晩だけ【楽しい記憶】を補助する場所」
叔母「それ故に、どう一夜過ごすとも誰も咎めやしない。自由な空間なんだ」
男「…随分と洒落た場所ですね、ここ」
叔母「勿論。私はそれに生き甲斐を感じてるところもある」
男(妙にカッコイイ理由だな……)
叔母「私はキミに、どんな理由があっても抜け出せるよう整えていたつもりだった」
叔母「そして、その機会がやっぱり訪れた。明日にはもう出ていこうとしている、君がいる」
男「……そう、ですけど」
叔母「………」ギュッ
男(叔母さん…?)チラ
叔母「だから、ラブホテルはキミにとって幸せだったろう? 居心地が良かっただろう?」
叔母「余計な思い出を残したくないキミにとって、住み心地が良かっただろう?」
男「………」
叔母「言わなくていい。けれど、私は同時に望んでいたんだ」
叔母「──ここに残りたいと、ここに、私の部屋で住みたいと、望むぐらいに」
男「…叔母さんの部屋に…?」
叔母「ん」ナデナデ
男「あの…部屋に……あはは、無いなぁそれは…」
叔母「汚いもんね」
男「そうですよ! だって、幾ら片付けても難度だって汚れるし…」ギュッ
男「……どんなに片付けても、俺が必要と、されちゃって……」
叔母「………」ナデナデ
男「俺なんて片付けとか料理とか、お節介ぐらいしか脳がないのに…」
男「沢山…沢山…色んな人から求められて、優しくされて、溢れかえってて……」
叔母「うん」
男「今まで、誰にだって褒められたこと無くて、俺、責任感とかまったくないのに…」
男「…凄く、居心地が良かったです。このラブホテル、…いつだって逃げられると思ったから」
男「そんないい人ばっかりの中から、そんな期待から、逃げられると思ったから」
叔母「そっか」
男「叔母さん。俺、なんでこうなんですかね? どうして、自分に自身がないんですかね…?」
男「…どれだけ頑張れ、言われても、全然思えないんです。俺なんて、とか思っちゃうんですよ…」
男「……俺のこと、誰一人、必要としてくれてなかったのに……」
男「──俺は、こんな一時的な楽しい記憶を残して、外国なんて行けない」
スッ トン
叔母「…………」パッ
男「ありがとうございます。今まで、いっぱいいっぱいの楽しい日々、感謝しています」
叔母「うん」
男「…怒りますか?」
叔母「まさか。怒らないよ、私こそなにも出来なかったんだ、キミにね」
男「それこそ、まさか。ですよ、叔母さんのお陰で楽しい数ヶ月でした」
叔母「本当に?」
男「本当です」
叔母「………」スッ
男「……」
シュボッ
叔母「すぅー…」
男「……………」
叔母「はぁ、…うん、そっか」フゥー
男「…はい」
叔母「なら、お別れだね」ポンポン
男「そうですね」ニコ
叔母「うん」ニッ
男「……。じゃ、着替えてくださいよ叔母さん。風引いちゃいますよ」
叔母「そうだね」ゴソゴソ スッ グリグリ
ジュウウウ…
叔母「それじゃ、さよなら」
男「ええ。さよなら」
第十一話 終
明日にノシ
44号室
叔母「それでは」
叔母「男くんの安泰な外国進出を願って、かんぱーい」
受付「かんぱーーーい!」
清掃「Cheers! カンパーイ!」
女「乾杯!」
女姉「…乾杯」
男「か、乾杯…」
ガヤガヤ ガヤガヤ
男(今日はいろんな人が集まったな…)チラ
女姉「ねえ」スッ
男「はいッ? あ、先生…今日はありがとうございます、来てくれて」
女姉「お礼なんて結構よ。先輩に無理やり連れてこられたようなものだし」
女姉「それより、気になってることがあるんだけど…」
男「はい?」
女姉「私だけ、どうしてジュースなの?」チャポ
男「……教師が酔っ払っては、体裁が悪いでしょうから」
女姉「な、なるほど…! 確かに…!」ハッ
男(ファミレスでのあの惨状を覚えていないのか……)
男「えーっと、その、仕事の方は大丈夫なんですか?」
女姉「もちろん。むしろ貴方がどうなのかしら。現状をきちんと把握できてる?」
男「え、ええ…まあある程度は…」フィ
女姉「あら。初めてみるわね、貴方の不安そうな顔」
男「転校に関して多少は自信があったんですが…つもり、のようだったようで…」
女姉「へえ…」マジマジ
男「な、なんです? そんな言うほど珍しいですか、俺の不安そうなトコロ」
女姉「そうね…」
女姉「国境を跨いで転校に教師として何も言えない……だから、私はきっと、貴方を信用しすぎてるのよ」
男「あの、結構意味が汲み取りにくいんですけど、つまりどういう…?」
女姉「ひっく」
男「───誰だァ! 先生に飲ませたのー!!」
女姉「えっ? ちょ、違う違う、今のただのしゃっくり…!」
受付「え、飲んだの? いつ!?」ビクッ
叔母「待ってろ後輩、一発でゲロってみせるから」スッ
女「いやぁー! もうあんなお姉ちゃん見たくないのにぃ!!」ササッ
男「とにかく俺の側から離してくれ! 誰か壁を! どうか壁役なってください!」ダッ
女姉「!?」
叔母「なんだ、ただのジュースじゃないか。びっくりした」ホッ
女姉「私は皆のリアクションに唖然としたままですけど……」ズーン
女「ち、違うのよお姉ちゃん? 私、ああでもきっと大好きだから!」
女姉「じゃあ私は一体貴女になにをしたのよ…?」チラ
女「ひっ! あ、ごめっ」ササッ
女姉「今、距離を取ったわよね? 怯えてたわよね? どういうことよー!!」
女「待って! 急に顔が近づいたからびっくりしちゃったというか!」
受付「待ち給え」スッ
女姉「う、受付さん…! 貴女ならきっと教えてくれますよね…!?」
受付「ウチと二人っきりのときならね?」ポン
女姉「やっ……ヤダー! そんなのヤダヤダ! なんで皆教えてくれないの!? なに!? 私なにしたの!?」
男「これはもう教えたほうが良いんじゃないんですか…」
叔母「言っても無駄だろう、あっちが信じない」
男「…そういや44号室の幽霊もそうでしたっけ」
叔母「ん。意固地というより、己の過ちを認めたくないんだろうね」
男(どっちにしろ意固地だ…)
叔母「おい、後輩。今日はお前の話をする為に呼んだんじゃないぞ」
女姉「わっ、わかってますって!」
受付「でもでも無礼講だよ? 愚痴悪口陰口、ビバ! カモーン! ネガティバー!」
男「祝いの席でとんでもないこといいますね、アンタ」ドンヨリ
受付「うえっへへー、なによー。かまととぶっちゃって!」
男「…なにが?」
受付「てめーも吐くんだよぉ! ホラホラ、あるでしょ? ゲロっちまえよぉ!」ぐりぐり
男「吐くもんないのにどうしろと…?」
女「あ。それ私も知りたい、貴方の愚痴って訊いたことないもの」
受付「ほうほう」コクコク
男「……トモダチ居ないこと愚痴ったよね俺……」
女「あれは愚痴じゃない。悩み、だから。もっと心の中の根本的な感情のコト!」
男「ちょっと待って。愚痴って考えて言い出すことなの? なんか違うよね!?」
受付「いーや! 良いこと言った女ちゅあん! だからブリバリ曝け出すのだ、青少年よ!」
清掃「──そこまでよ、ミンナ! フリーズよ!!」
女「清掃さん!? なぜ、貴方が止めるの…!?」
受付「ムム!」ババッ
清掃「フォクシィー、ボス……オトコの愚痴、聞き出しちゃダメ、ゼッタイ」
受付「根拠を言い給え、弁護人ケルドッグよ!」ガーッ
清掃「ワァオ! その名前久しぶり呼ばれたネ! へへっ」サスゥ…
男「ちょ、ちょっとケル君。その話続き気になるから、続けてくれない?」
清掃「オマカセ! …だってケルケル見たよ? 前にソーダンもらったとき、親のグチ言ったね?」
男「む」ピク
受付「へぇっ!? そうなんだ!?」キラキラキラ
女「本当に!? それ本当に!?」キラキラキラ
女姉(へ~…)チラ
叔母「………」ゴクゴク
男「何故に興味津々なんですか、二人共…」
女「ばっか、そりゃ気になるわよ! ですよね受付さん!?」バッ
受付「ねー! 普段良い子ちゃんぶってる奴の悪口きくの楽しいよねー!」
女「う、…うん! ですよねッ!」ニ、ニコ
男「バカな人に無理して合わせなくて良いよ!」
清掃「そのときボク思ったの……オトコの裏の一面、しっちゃったネって…」シュン
男「ええっ!? そんな変な感じだった…?」
清掃「そうよ! ギラギラしてた! もう目ン玉ぎょろぎょろ!」クワーッ
男「流石にそれは言い過ぎだって……ほら、他の人も引いちゃうし……」
女「見てみたい…」ホワホワ
受付「写メ撮りたい…巫女喜びそうだな…」ホワホワ
男「俺が変だったらアンタ等もうなんでも良いんだろ!?」
女「ち、違うの! 貴重性を言ってるだけで、馬鹿にしてるとかじゃなくて」
受付「貴重性そのとーり! だからシャツのボタン外せさせて?」ニパー
女「おっ、うっ!? そっのとーり…! とっととシャツ寄越しなさいよオラ!」ガーッ
男「それ追い剥ぎだからね!? た、助けてケル君!」
清掃「……ヒミツだったけど、ケルケルも第二ボタン欲しいのよ……」モジモジ
男「違うなあ!? 今そんな会話してなかったなあ!?」
ドッタンバッタン
女姉「こーなるんですね、結局は」
叔母「くっくっく」クスクス
女姉「楽しそうですね…えらく久しぶりに見ましたよ、その満面な笑顔」
叔母「そうか? ここ最近はよく笑うよ、確かに」
女姉「……羨ましいですね」
叔母「なぜ?」
女姉「そりゃそうでしょう。この歳なると、楽しいことも疲れるじゃないですか」
女姉「昔は当たり前にできたこと、そーいうのできないんです」スッ
コトリ
女姉「例え足元にソレが転がってても、拾って手に持つ気力すら減っていってる」
女姉「楽しいことをしたいのに、いつでも息抜きを考えているのに、いざ時間があっても手が出ない」
叔母「お前、彼氏できなさそうだな」
女姉「…わかってますよー、そんなことー」ブー
叔母「余裕がないんだろうな、もっと気楽に生きてみろ」
女姉「じゃあわたし、飲んでいいですか」
叔母「二人っきりのときなら」
女姉「……ありがとうございます、せんぱい」グス
叔母「どういたしまして」
女「きゃーー!?! 割れてる…! お腹が4つに割れてるわ…!」ババッ
清掃「わぉお……オトコ、鍛えてるのね…? 4つ、なのね…!?」ババッ
男「ひん剥いておいてまずそれなのか…っ」ズーン
受付「ぽこぽこだよね~」サスサス
男「ええいっ! 気安く触るな! 見せモンでも無い! さっさと返せ!」ブンッ
受付「きゃ☆」パッ
男「ったく…」バサァッ プチプチ…
男「ん?」チラ
女「…………な、なによ?」ドキドキ
男「な、なんで見てるの?」
女「いやっ、そのっ、別にぃ~……」じぃー
男「明らかに変な感じだったじゃんか…」
受付「わかるよ、キミ」ポン
女「ひゃいっ!?」ビックゥウン
受付「良いよね、シャツをバッサァ……って袖通す男子ね、エロいよね!」
女「んー!!??」
受付「お姉さんは分かってる。存分に語りなさい、つまり若い子の意見で後は語りなさい」シュピィーン
清掃(なぜかフォクシィーに後光がみえるよ……)
女「そんな、わたしっ、そんな変態的な目で見てたんじゃ…っ」ブンブン
受付「へそちら」
女「ほぐぅ……っ!?」ズキュン
受付「両袖ボタン留めの指の仕草」
女「むぐぐッ」ギュウウ
受付「ふふ、耐えるね。お姉さん気に入ったわ、貴女のこと……ね」ツツツー…
女「ちがいますちがいます! 私は全然ちがいます!」ピクピク
清掃「……オトコ凄いね」
男「なにが?」プチ
清掃「着替え姿にイロイロ言われてるのに動じてないのよ…」
男「もう慣れたよ」ニコ
清掃(グッドスマイル!)
女姉「受付さん…あんまり妹をいじらないであげて下さい…」
女「ネタクイ……? ゆるめ、て…え、え、そんなっ………眼鏡も欲しいよぅ」
女姉「けっこう乗り気ねアンタ!?」
受付「眼鏡、やはり若い…ふふ…さて可憐なオナゴから要望だよ、ジェントルメェン…」クル
男「誰がジェントルメンだよ」
受付「さぁウチの秘蔵な伊達メガネ、黒縁にノンフレ、なんでもこざれよ…」ジュラァア…
女「こんなに…こんなにたくさんあったら決められない!」ワッ!
女姉「気をしっかり持って! あほっぽいわよ今の発言!!」
受付「どお? 個人的に男君はド直球な黒縁でウブヤングハツをぶち抜いて欲しいな!」
男「俺、そんなミラクルな言葉初めて聞きましたよ」
受付「じゃ、つけないの?」ニッ
男「……はあ、別に何か減るわけじゃないし、それで」スッ
カチャ
男「──どう? 似合ってる、コレ?」クル
女「袖捲って…?」キラキラキラ
男(なんか更に要望されてるんですけど…!?)チ、チラ
受付「んぐらいやってあげなってばー!」ケラケラ
男「な、なんですかまったく…せっかく留めたのに、ほら、これでいいの?」グイッ
女「…っ…っ……っ…っ…っ!」コクコクコクコク…
清掃「すっごいウレシソウねボス!」
受付「これでズッキューン☆ 見事射止めたね、やるっ☆」コノコノ
男「すみません。さっきから俺、弄ばれているとしか感じてませんよ」キッパリ
清掃「アイアンマンねオトコ……!!」
女「──ハァ~~、なんかどっと疲れた…ちょっと横になる…」クテ…
女姉「はしゃぎすぎよ…」
女「うん…私も途中で気づいた…でもやめられなかったの、凄かったの…」ボソボソ
女姉「そ、そう…」ナデナデ
女「……自分だって見てたクセに」ボソリ
女姉「──……っ!?」ビクンッ
清掃「じゃ、オトコ。ボクで第2ボタンくれる?」パァァア
男「え”?」
清掃「大事なヒト、学生は学生にあげるって漫画にあったよ?」
男「それきちんと読み解いてる!? ち、違うよ、第2ボタンってのは…」オロオロ
受付「かんぱーい!」
叔母「乾杯」
男「…こういう時に限ってあん人はァ…!」
清掃「ダメ、なの?」シュン
男「そ、そうじゃないよ!? けど第2ボタンよりもっと違うものが良いなって…!」
清掃「違うもの?」
男「そうそう。もっとほしいもの、ないかな? ケル君にだったら俺、無理してでもあげるよ?」
清掃「ちがうものー……」ボー
男(って、少し言い過ぎたかな。逆に悩ませてしまったかも)
清掃「うん」コク
男「あれ? もう決まった?」
清掃「そうね、決まった。ケルケル、一番ほしいの言っていい?」ニパー
男「ど、どうぞ。が、頑張るから!」
清掃「ん!」ピッ
男「え、どれ? えっとどれのこと?」キョロキョロ
清掃「ケルケル欲しいの、オトコ!」ニコ
男「ぇ」
ぎゅっ
清掃「───オトコ、くれる?」じぃー
男「………はい?」
ざわ… ざわざわ…
男「ちょっと!? 皆もなぜそんな目で見るんですか!?」
叔母「やはり、か」
男「叔母さん!? やっぱりってなに!?」
受付「ぶっちゃけ惚れてるよね、ケルケル君」
男「WHY!? 言ってる意味、ワッカリマセーン!?」
女「……そっかぁ……」
男「そこ! そこ真面目に受け止めるな! ジョーダン、冗談だってば!」
女姉「外国はもっとオープンよ、なにせゲイ大国。頑張りなさい」ウンウン
男「なんだよもぉー!! 理解力ありすぎるよこの人達!?」
男「──ケル君!? ちょっとした冗談だってネタバラシよろしくッ!」バッ
清掃「…………」
男「ケル君…?」ドクン
清掃「冗談、思う?」
男「ぇ、だって、そんなっ! 俺たちトモダチ、だって…」
清掃「…………」
男「…………」ビク
受付「あぁ~えっと、ケルケル君? ちょっとお姉さん飲み物のお代わり欲しいなって~」
清掃「shut up」
受付「ウッス」
清掃「オトコ。本気よ、本気でケルケル欲しい思ってる」
男「……意味がわからない」
清掃「だめ?」
男「だめとかじゃない、そもそも! 君は何を言ってるのか俺には…!」
清掃「──だって!!」
男「っ…!」ビク
清掃「居て、欲しいよ…外国行ってほしくない、近くでトモダチで居たい…!」ポロポロ
男「──……」
清掃「ケルケルほしいよ…ずっとここにオトコいて欲しいよ…」グスッ
女「………」ギュッ
女姉「………」ナデナデ
男「…ぁ…」スッ
受付「はいはーい。落ち着こうねケルケル君、だーから止めたのに、言っちゃうんだもんな~」ポンポン
清掃「うぇ…っ…ひっぐ…」
受付「はい。一先ず席外させるから、みなさんはこの空気に負けずにファイトしてください!」グイグィ
男「受付さん…俺も…!」
受付「いいっていいって、気にすんなってば」シッシッ
受付「お姉ちゃんに任せとけ。君はなにも背負わなくていいから、ね?」ニッ
パタン
男「…………」
叔母「飲み物いる?」
男「いえ、いや! …その、大丈夫です」ストン
叔母「そっか」
女姉「えっと、その、取り敢えず、ケーキとか食べましょうか?」
叔母「私が切ろう」スッ
女姉「やめてくださいひとじにがでます」
叔母「大丈夫大丈夫」
女姉「そう言って過去どれだけの人を傷つけましたかね!?」
男「……ごめん」
女「なんで貴方が謝るの」ストン
男「………ごめん」
女「やめてよね。悪くないでしょ、誰も、清掃さんも貴方も」
男「……」
女「みみっちいわね。それが私のライバル? 笑わせないでよ、まったく」
男「…うん、そうだな、そうだよな」
女「そうだ、ねえ、最後に教えてくれない? ひとつだけ、貴方に質問したいんだ」
男「俺の、こと? 急にまたどうして…」
女「どうしても! ……いい?」
男「いいけど…」
女「じゃあ訊くわ、覚悟して答えなさいよ?」ぴっ
男「う、うっす」コクコク
女「好きです。付き合って下さい」
男「…………」
女「返事は?」
男「…ぇ、女姉「ええええええええええええ!?」
ガッチャバタゴーーーン!!!
男「うわっ!?」バッ
女「お姉ちゃん!?」
叔母「お前…! ちょっと、大丈夫なのか!?」
女姉「はっ…はっ…ははっ、びっくりしてコケちゃって…」
叔母「包丁を持ったまま転けるなよ…びっくりした…」ドキドキ
男「…怪我はない、みたいだな」
女「…みたいね…」
男「………」
女「…その、ごめんね、急に言っちゃって」
男「えっ? いや、えっと、待って、もっかい言ってくれない…?」
女「ハァ!? 今のもっかい言わせるの貴方は!?」カァァア
男「だってさ!? 衝撃的なことが続いちゃって、実感が全く湧いていこなくて…!」
女「ッ~~~!? なによッ、それッ! こっちは結構覚悟決めて告ったのに…!」
男「うーん、うんッ! 今、ちゃんと湧きました! 告白されましたね、俺!」コクコクコク
女「はががっ! ぐぅう~~! なによもう、全然それっぽくならなわよね本当に!」
男「ならもっと場所を考えてですね…」チ、チラ
叔母「……」ソワソワ
女姉「……」ソワソワ
女「あぁもう…そうよ、私はそんなやつよ、場の空気関係なくやっちゃう女よ…っ」
女「でもね! 意味が無かったわけじゃない! この告白はね!」バッ
男「ま、待って! 何を一人で盛り上がっているのですかね…!? 返事は!? したほうがいいよね!?」
女「…のよ…」
男「えっ?」
女「どーせ出来ないくせにしゃらくせーこと言うなって言ってんのよ!!!」
男「えぇええええっ!?」
女「もう分かってんの、貴方のこと。どうせ先延ばしにして外国いくつもりだった、違う?」ギロ
男「………………」
女「無言は肯定とみなす。以下、貴方に弁解の余地はなし!!」
男「ま、待て! 男として! 一人の男として語らせろ!」
女「却下」
男「圧政過ぎるだろ!」
叔母「…クックック…」
女姉「笑わない!」バシッ
男「なんなんだよ…全くなんなんだ! 俺は一体なにを求められてるんだ!?」
女「フッ、それはねアホタレ」
女「──一つでも貴方の心に、禍根を残すためよ。その為だけに告白させてもらったわ」
男「…は?」
女「さっきの清掃さんの告白。あれ、心に響いたの。行ってほしくないってキモチ、凄く伝わった」
女「それはきっと貴方も同じはずよ」
男「……」
女「だから増やす。もっと乗せる。歩き出せないぐらい、もっと負荷をかけてやる。グシャグシャにしてやる」
男「な、なんたる……」
女「もうそれやめろ! 逃げるな! いや逃げさせない! 私も逃げない! だから、重しになってやるわ!」ガーッ
女「心のなかに愚痴ってもんが湧いて出るぐらい、沢山の想いで繋いでやる!」
男「…繋いでやる?」
女「一瞬でも、歩くのが億劫になるぐらい、相当やばめの奴をね」ニヤリ
男「…女さん、俺は普通に返事をするよ?」
女「いいわよ。どっちにしろ、トモダチはオシマイね」
男「あ…!」
女「重大さに気づいたようね、間抜け。…私は不器用よ、なにをしても失敗だらけ」
女「でも、そんな私だから無茶ができる」
男「…女さん…」
女「せいぜいこの告白に悩み疲れ果てなさい、このモ、モテモテ!!」
男「…モテモテ…」
女「私は何時だって一発勝負なのよ。…けど、コロコロ意見変えて、ごめんね」フィ
スタスタ
男「どこいくんだ…?」
女「やることやったもの。私、帰るわ」
女姉「え、ちょっと、ケーキはどうするの…?」
女「……食べれるかバカ!」バァン!
シーン
叔母「もっと他に引き止めるものがあったんじゃないか…?」
女姉「すみません…大人として無いと思ってます、テンパりすぎました…」ズーン
叔母「まあ。人生いろいろだ、男くん」
男「この一瞬で起こりすぎてませんか…」
女姉「外国に転校、同性から告白、同級生からも告白…波乱万丈ね、貴方」
男「ケルくんのは違ってたでしょう!?」
女姉「妹もよ。あんな宣言なんて、合ってないに等しいものじゃない」
男「うぐっ」
女姉「貴方が責められるのは違う、けれど、周りから『何かしてほしいと』願われる」
女姉「誰も、正解なんてわかってないのよ。きっと……」コク…
男「先生…」
女姉「ヒック。あ、やばっ、お酒飲んじゃったコレ?」
男「先生ッ!?」
女姉「うぁー」バタリ
男「先ッ、叔母さん…! 早く介抱して上げて下さい!」
叔母「やっと酒が回ったか……」フッ
男「叔母さァーん!? なにしでかしちゃったの!?」
叔母「そろそろ、お開きだろうと思ってな」
男「え…? お開きって、終わりってことですか?」
叔母「ん。時間的にも、雰囲気的にも、このまま終わらせたほうがいい」
男「あ……そ、そうですよね! みんな居なくなっちゃったし、だから……」
叔母「うん」
男(何がいいたいんだろう、俺)
叔母「コイツをスタッフルームに運んでくるよ。片付け、やっといて貰えるかな」
男「は、はい!」
叔母「じゃ、後はよろしく。置いてきたら戻ってくる」
男「…はい…」
パタン
男「………」ポツーン
男「あ…片付け、片付けっと…」ガサゴソ
カチャカチャ ゴソゴソ
男「………」
男(にゃお…)
男「にゃ、にゃっ、にゃにゃにゃにゃおーーーーー!!!」ドタン! ゴロロー!
男「なんなんだよォー! もおー! 告白とか、行かないでとか欲しいとかもうもうもう!!」ごろろろろー!
男「……っ…」ムクリ
男「……」ギュッ
男(期待とかやめろ、そんな無責任なことよくもまあ言えるだけ楽だよな! 俺がやることなのに!)
男「……やることなの、に……」ハッ
男「………………」
~~
叔母「ただいま、…あれ?」
叔母(男君が居ない、というか片付けが完璧になされてる…流石だな…)キョロキョロ
叔母「外のトイレかな、気にせず部屋の奴使っていいのに」クス
叔母「明日から居なくなるからって……」
シーン
叔母「………」スッ
叔母「IHヒーターがあった周り…凄いな、油汚れが綺麗にされてる…」キュキュッ
叔母「大変だったろうに。まるで新品の壁紙同様だ」
叔母(あ。ホワイトボードを止めてた画鋲の穴、なにかで塞がれてる)スッ
叔母「本当に気が利くな、あの子は」スリスリ
チッチッチッチッ…
叔母「……」クル
叔母「…まるで何もない」シュボッ
フゥー
叔母「まるで、彼なんて最初から居なかったみたいだ」スゥー
叔母「ハァー…遅いな、彼」
叔母「………………」ピク
叔母(──匂いが、しない、ちょっと待て)
叔母(やけに小奇麗だと思ったら、彼の手荷物すらなにも、残ってない?)キョロ
叔母「はは」ポロリ
叔母「もう、行ったのか? ……熱っつ!」ジュッ
コロロ… ヒョイ…
叔母「…火傷した…」ヂンヂン
叔母「…彼に限ってそんなこと…でも追い詰められると思ってもない行動を…」
『キミが、いつでも切り捨てられる部屋を与えたかったと』
叔母「……」
『何時でも何処にでも飛び出せる、そんな環境を作りたかった』
叔母「…ああ、そういや私が言ってたんだっけ」
叔母(なら彼らしい行動だ。私は保護者として彼の立場を肯定しなければね)
『誰に見せるんですか、それ』
『誰に、大人ぶりを見せて満足できてるんですか?』
叔母「……」スッ
ジュゥウウ… グリグリ…
ストン
叔母「…誰でもないよ、受付」
叔母「私は、きっといい子でありたかっただけなんだ…」
叔母(彼の前でしっかりとした大人に、そんな自分に酔いたかっただけなんだ)スッ
【男の財布】ソッ…
叔母「…………………」
受付「うっすー、飲みなおしに着ましたっと。ってあれェ!? もう片付けてる!?」
叔母「あ………」
受付「オーナー!? そりゃないでしょおー!? 一言言ってくれても良かったんじゃ…」
受付「どうしたんスか、黙りこくって」
叔母「か、可能性として…彼が我々に黙って、空港に向かったとしよう…!」
受付「は、はあ…それで…?」
叔母「移動費はカードで支払うよう、彼は計画を立てていたよな?」
受付「ええ、まあ、財布に入れたらスられるかもって首から下げてましたね?」
叔母「……じゃ、あれはなんだろう……?」スッ
受付「財布っすね」
叔母「………」
受付「は? え、そういや荷物がないッスね、えっ? 行っちゃった、の? 既に? もうっ!?」
叔母「どうしよう……」
受付「ハァアアアア!? あんにゃろ、勝手に暴走して突っ走りやがってー!」
受付「……ま、そんなお別れもありっちゃアリか」ポリポリ
叔母「は?」
受付「人生イロイロ。やって後悔もまた経験、最後に彼が見せた子供じみた意地っ張りデショ?」
受付「んなら大人として見送りましょーよ。叱るでも電話でも手紙でも出来るし」
叔母「お前…じゃあ財布はどうするんだ…?」
受付「送りゃいいでしょ。どうせあのプラチナ、上限もハンパないでしょうし」
叔母「…………」ボーゼン
受付「何ショック受けてるんスか。望んだの、アンタなのに」
叔母「あ、ああ…そう、だよな…」
受付「その通り。こうなる可能性を知ってやってたのは、オーナーっすよ」スタスタ
カシュッ
受付「ぷはぁー! あぁ、不味い、やっぱこの酒は」
叔母「…………」
受付「で? どーするんスか、オーナー」
叔母「えっ?」
受付「理由。できちゃいましたね、彼を今から追いかける」ジッ
受付「───その財布、お金よりきっと大切にしたいモノ、入ってますからソレ」
~~~~
叔母「はっ……はっ…!」タッタッタッ
ズサッ
叔母(何処に、行った? 既にタクシーを拾われてたら、到底追いつけない)スッ
叔母(酒飲んでるから一気に具合が…うぐっ…久しぶりに気持ち悪くなってきた…)
カァーカァー
叔母「……そもそも飛行場近くのホテルを取ってる可能性も?」
叔母「なら、別に無理して追いかけなくても…」
「よぉ、スィートホテルの嬢ちゃんじゃねえか」
叔母「あ…商店街の…」
「あん? 顔が真っ青じゃねーか、ちゃんとdhc取ってんのか? おっ?」
叔母「そりゃ頭良くなる役割りだろ…」ハァハァ
「減らねえ口だまったく、んで、どした? 探しモンか?」
叔母「…まあね」フィ
「んだらよォ、あの坊主にも伝えておいてやるよ。で、何探してんだよ」
叔母「彼を知ってるのかおっさん!?」ガシッ
「ぐぁああッ!? お前煙草クサッ!? てめー魚屋に変な匂い擦り付けんなやッ!!」
叔母「い、良いから教えろ! 何処で見たんだ!?」ブンブン
「おぉうおうっ!? そ、そりゃ商店街にきまってらァ…!?」
叔母「商店街…!」バッ
ダダダダダッ
「…なんだい、探しモンは坊主かよ。あんな必死な顔で、くっく」
~商店街~
叔母「ハァ…ハァッ…!?」バッバッ
「あら。嬢ちゃん、どうしたの汗だくで…」
「今日もデケェなオイ! つか、寒くないかそのカッコ…?」
叔母「な、なあ、その彼は…男君は見なかったか…?」
「坊主か? そりゃ商店街の先の方で…」
叔母「ありがと!」ダダッ
「…途中で行っちまいやがった」
「恋よ、恋」
「恋ってなぁ…相手が小僧だぞ、犯罪じゃねえか…」
~~~
何がここまで私を焚き付けるのか。
たかが財布の一つ、受付の言うとおり送ってしまえばいい話。
叔母「はぁっ…はぁっ…!」
頭では分かってる、でも心が理解しない。
叔母「…男くん…っ」
何もしない自分も、走り出した自分も、どっちも納得できない。
叔母「───男くん!!」
私は、なんてわがままな人間なのだろう。
男「わっ!」
叔母「…見つけた…っ」
男「お、叔母さん? どうしてここに…」
叔母「どうして、ここに、じゃないっ!」ダダッ
ぎゅうううう
男「うぉぷっ!」ムギュ
叔母「探したんだぞ…! どうして居なくなったんだ。私はとっても心配していたんだ…!」
叔母「なぜ誰にも言わないで居なくなったりしたんだ…!!」
男「え、えと、何を言ってるんでしょうか?」
叔母「勝手に一人で外国に行こうとしていただろう!」
男「叔母さんの中の俺、薄情すぎません!?」
叔母「バカ言わないでくれ…君ならしかねない…はぁ、ふぅ…」
男「それでわざわざ走って探しに…なんかすみません…」
叔母「そして財布も…」
男「財布…あぁ、なるほどそれで追いかけてきてくれたんですか…」
叔母「………」
素直に頷けなかった。そりゃ当たり前だ。
そんな建前なんてすでに消えてしまっている。
叔母「…私は君を応援していたよね」
男「へ? あ、ハイ」
叔母「その気持は今も変わってない。是非とも、君の未来を見届けたい…と思ってる」
男「………」
叔母「一度聞いてみたかったんだ。そんな私を、君は嫌いになったかい?」
男「いいえ」
男「叔母さんは立派な人です。俺にとって、尊敬できる一人の大人ですよ」
叔母「………」
ちくり、と胸が傷んだ。
叔母「…私はね、君に謝らなければならない」
男「え? な、なぜ?」
叔母「今までもそうだったけれど、これからのことを考えると……謝罪しないとダメなんだ」
男「……?」
元からダメな私は、立派な大人とは程遠い人間だ。
煙草は吸う。部屋は片付けられない。人間関係も上手く築けない。
けれど、私を見てくれる偉い子が居た。
私は、彼の前だけは偉い子でいようと思った。
そのためになんだってしてあげようと、思っていた、のに。
叔母「…私は、きみに…」
私の正解はどこだ。
私の立場としての、在り方はどれだ。
叔母「……」
男「叔母さん……?」
ああ、そんなモノは結局。
―――元より、彼に求めていたんだっけ。
叔母「……行ってほしくない……」ボソ
叔母「――ごめん! 行ってほしくないんだ! 私は! そう君に言いたい!」バッ
男「………」ポカーン
叔母「あれだけ言っておいて…ここまできて変なこと言って申し訳ない…と思う…」
叔母「ですがッ! やっぱり叔母さんは反対です!」
男「い、今更ですね、本当に…」クス
叔母「わ、笑い事じゃないんだよ!? 全然まったくもって! 色々と!」カァァ
男「すみません…」クスクス
叔母「笑いことじゃ無いんだってば! 私は保護者失格なんだ…最後の最後で君にまた…」
男「俺に?」
叔母「……わがままをいってしまった……」
男「………」
男「――うん、今のでやっと決心がつきました」グッ
叔母「え…? 決心…?」
男「はい。ここに一人で来た理由って、実は誰にも聞かれないようするためだったんです」スッ
叔母(携帯…?)
男「けれど…」ピッピッ
男「ここで、自分が今からなにをするのか……最後の最後で決心が鈍ってしまった」
prrrrrrr
男「けれど、今、ここに叔母さんがいてくれる。それが一番の後押しになってくれたんです」
叔母「お、男くん…?」
男「叔母さん。どうか貴女には聞いてて貰いたい」
カチャ
男「…もしもし」クル
男「今は黙って聞いてて、最後まで俺の話を聞いてて、パパ」
男「俺、そっちに行かない。叔母さんのところで引き続きお世話になるよ」
叔母「―――………」
男「うん、うん、そうだね。パパならそういうだろうね」
叔母「お、男くん……!」
男「シッ」ピト
叔母「むぐっ」
男「ははは。面白いことをいうなあ。でも俺知ってるよ? 今回の離婚裁判で起点に置かれてる―――」
男「―――早期浮気疑惑、あれってパパのほうが早く浮気してたよね?」ニッコォー!
叔母(………ぇぇぇ………)
男「根拠を言えって? らしくないなぁ、貴方ならまず俺の意見を論理的に崩すハズだ」
男「焦ってるの? なにに? 何かを隠していることを今自覚したの? 一体それは何?」
男「答えは、SNSの通知記録だよ。パパの愛人さんのほう、そういや履歴抹消に手こずってたよね……」
男「……それね、俺が携帯を盗んで内容保存してたからだよ」
叔母(……ぉぉぉぅ……)
男「その通り。違法な証拠入手は裁判で武器にならない、勿論知ってるよ」
男「あっれー? でもおっかしぃーなあww 俺、裁判所に出すっていったっけ?」
男「……お袋に、全部教えるぞ」
シィーン
叔母(あ、兄貴が絶句している姿が思い浮かぶ……)ダラダラダラ
男「許してもらえるかなぁ…互いの会社名を出し合った社会的地位そっちのけ離婚裁判…」
男「離婚届を出す以前に色々と準備を整えたからこその圧倒的優位で勝利だったのに…」
男「こんなの差し出されたらもう高笑いして飛びつくだろうねぇ…お袋の悪魔の笑顔が浮かぶよ…」
男「……ね、パパ……?」クス
叔母(悪魔! ここに小悪魔がいる!)
男「―――てーことで、転校しませんので宜しくお願いします」
ピッ
男「………………………………………」スッ
叔母「ん! お、男くん?」
男「やり過ぎました」
叔母「う、うん…! かも、しれないかな…!」
男「俺! 実の父親を脅してしまいました! これでもかってぐらいにぃ!」ダバァー
叔母「うんうん…脅してた…すっごい脅してた…」ブルブル
男「叔母さん…」
叔母「ハイッ!」ビックゥウウ
男「―――それでも俺は叔母さんのところに居たかったんです…」グス
叔母「………」キュン
男「すみません…なんでこうなんだろ俺っ…もっとうまくやれたはずなのに…」ゴシゴシ
叔母「い、いや…これでもかってぐらいに上手くやれてたよ君は…」
男「…許してくれますか?」チラ
叔母「えぇっ!? う、うん! まぁー……言っちゃったモンは、仕方ないし…」オドオド
男「? どうして俺の顔を見てくれないんですか…?」
ズィ
叔母「え、えと…」ドキドキ
男「やっぱり嫌いになりましたか!? そ、そうですよねー…最低ですもんね、俺……」ズーン
叔母「っ…っ……ああもう!」パッ
ギュウウウウウ
男「むぐはっ!」パフッ
叔母「よくやったよ! 君は頑張った…! 悪い子だけど、叔母さんは認めてあげる!」ぎゅっ
男「おひょろふぇれふふぁ…?」モゴモゴ
叔母「なんて!?」バッ
男「ぷはぁ! 失礼――コホン、それは本当ですかっ?」
叔母「もちろん。それに君が、一度決めたら諦めない子だって知ってたし!」
男「なにからなにまで俺のことを…?」
叔母「ごめん! さっきの君は正直なところ恐かった!」
男「…ハイ…」
叔母「でも! でも、だよ……」ぐっ
叔母「私は、君がそう決めてくれて……心から嬉しいと思ってる…」
男「―――……」
男「はい、ありがとうございます」ニコ
叔母「う、うん!」コクコク
男「頑張った甲斐がありました。俺、やっとやれたんです」
男「自分がやれるやつだって。そう思うこと、やっとやれたんですよ…」
叔母「…そうだね」
男「コレも全部全部、みんなのお陰だ…」
男「言いたいこといってやった。それは嫌なんだ! って、言えることが出来たんだ…」
男「……俺、頑張ったんです、叔母さん……」ギュッ
叔母「…………」
ああ、褒めたい。抱きしめたい。この子がこの子なりに頑張った努力を、
私に出来る限りを持ってして、最高に褒めあげてしまいたい。
叔母「――男くん」スッ
男「あ、はい? なんです――」
ちゅっ
男「―――……ハァッッッ!!??」
叔母「わ。そんな反応されるとは…」
男「なんっ、ハァッ!? 今なにし、ハァアアアアアッッ!?」ズッサァーーッ
叔母「食べないよー逃げないで戻っておいでー」クイクイ
男「やりやがりましたね!? ハグだけだと思ってたらアンタ!?」ゴシゴシゴシゴシ
叔母「いくら叔母さんでもその反応は傷ついちゃうよー」
男「傷つけバカタレ! ホントになにしてくれちゃってんですか…!?」
叔母「つい褒めたくて…」
男「褒め下手過ぎる…! 俺、初めて言いましたよ褒め下手って!」
叔母「き、キスも案外ふつうだよ…?」アセアセ
男「ハグ強制した話より説得力が皆無…!!」
叔母「…ごめん、キスしたかったから、した」
男「ぶっ、ぶっちゃけられても困るんですケド…!」カァァ
叔母「…ごめん」
男「はぁ~……いいです、もう、そんな人だって俺はもう知ってますから…」
叔母「男くん…」
男「我慢です、我慢。はてさて、さあ帰りましょう? 叔母さん、あそこへ」グイッ
男「―――スィートランド、ラブホテルへ!」ニッ
叔母「………うん」ニッ
男「さーて問題は山積みだぞ。まずはこっちの学校に問い合わせして―――」
「みぃいいいいつぅううけええええええタァアアアアアアアア!!!!」ダダダダダ
男「うん?」チラ
「まず一言目ェ! ――普通テメーこっち探しにくるモンじゃろがァアアアッッッ!!!」ダダンッ!
女「オラァッッ!!!」ズバァッ!
男「ぶっっっっはぁッ!?」ズッッシャァアアア…
ジャルルルリリリリ……ピタ…
女「――うん。すっきり」シュタ!
清掃「わぉお! ボスボス! 今のチョーかっこいいね!」キラキラキラ
女「フフン。見習いなさい、これが女の底力って奴よ!」
清掃「ウン! ケルケルもボスみたいにかっこいいガールなるね!」コクコク
女「なりなさい存分になりなさい! ……待って、ガールはおかしくないですか?」
清掃「オトコー♪ ケガ無い? ヘイキ?」トテテテ
女「しかもちゃっかりですね清掃さん!?」
受付「若いっていいにゃー」スタスタ
叔母「…受付」
受付「おやおやぁ? なーんです? スッキリした顔して、んっふふー?」ニヤニヤ
叔母「…うるさいな」シュボッ
受付「まあまあ。それで? どんな感じになりました?」
叔母「無しになったよ、転校。ありゃ兄貴も再起不能だろうね、コテンパンにされてた」スゥ
受付「ものの数分の間にどう転がったんだ展開…」
叔母「兄姉として秘密にしときたい。ただ、まあ、私もびっくりしてるよ…」フゥー
受付「そっすか…ま! ウチはきっとこうなるって信じてましたけどね!」ニシシ
叔母「…強いよ、お前は」クス
受付「イシシ」
受付「―――ま、でもオーナーが男君を抱きしめてキスしたの見てましたからね、ウチ」
叔母「…………なんのことかな…………」ダラダラダラダラ
受付「普段の塩対応っぷり見せてますけど、ウチ、見てますからね男君ときすしてるの」ジィー
叔母「あーあーきーこーえーなーいー」パンパン
受付「このエロボディのむっつりすけべ! ヘンタイ叔母! キス魔!」
叔母「キス魔は後輩だろ! …って、後輩はどうした?」
受付「え? あぁそういや後ろから付いてきてたような…」チラ
女姉「ケロケロケロ……」キラキラキラ
受付「わー! センセェが路上でオェーはダメェー!」ダダッ
叔母「まったく…」チラ
女「で、結局どーしたのよ」ムッスリ
清掃「オトコやっぱり居なくなる…?」
男「……俺、転校やめたよ」スッ
女「…………」
女「うそ」
男「本当だよ。ありがとう、きっと女さんが…あんなこと言ってくれたお陰なんだ」
男「覚悟、決めたよ。俺はちゃんとこっちにいて、君の想いを受け止める」
男「だから…」
女「っ~~~~!!!」バッ ぎゅうううう
男「おわぁ!?」
清掃「オトコー!!」ぎゅううう
男「ケル君まで!?」
女「ばかっ…なにやってんのよ、ばかじゃないの…もうもうもう…っ」ポロポロ
男「…うん、馬鹿だよ俺…」
女「やりきったんでしょうね…!? 手を抜かずきっちりやったんでしょうね!?」キッ
男「おうとも。浮気問題引っ張り出して父親を脅迫してやった!」
女「…うぅん…」
清掃「…オトコ…」
男「わかる! その視線凄くわかる! うん、引くよね!」
女「……っ」ブルッ
女「―――良かったじゃない、本当に良かったじゃないの、こんちくしょー…」ギュッ
男「…ありがと、女さんが居てくれたお陰だ」ポンポン
清掃「………」
男「ケル君。どうやら俺、君の願いを叶えられそうだよ」ニッ
清掃「……うん、ケルケル、とってもハッピーよ」
男「今後ともよろしくね、ケル君」
清掃「……」きゅーーん
清掃「うん! ケルケル、オトコだーいすき!」ニコニコ
女「……たらし……」ボソリ
男「今のネタだからね!? ポニョだから! ねっ? ケル君!?」
清掃「らぶゆーちゅっちゅっ」
女「本気じゃあないのッ!」
男「これ俺が責められるのおかしくないか!?」チラ
男「…ぁ…」
叔母「…む…」
男「……ただいま、です」
叔母「くす。――ああ、おかえり」
オマケ
受付「じゃ、とるよー」
清掃「ケルケルはオトコのとなりー♪」
女「…こっちでしょ」グイ
男「え、いや何処でもいいじゃないか…」
女&清掃「ソレハナイ!」
男「ぉぉう…」
叔母「じゃ、私が失礼」スッ
女姉「大人げないこと為ないで下さいよ…」
受付「撮るっつてんでしょーが! わちゃわちゃするでない!」
男「受付さんも入りましょうよ、こっちにきて!」
受付「えぇ…写真撮られるの好きじゃ無いんだけどなぁ…ま、イイケドさ」スタスタ
ジジジジ…
男「………」ドキドキ
叔母「…これで財布に入れる私以外の写真が増えるね」クス
男「えぇっ!? 何故それ知ってるの!?」
女「ハァ!? 叔母さんの写真財布にいれてんの…? 私のいれないさいよ! どういうことよ!」
清掃「じぇらしぃかわいいね~」ホクホク
受付「くすくす…」
女姉「あ、ちょッ、押さないで転けちゃう…きゃー!?」
男「うわぁ!? 押さないで、ちょむぎゅっ!?」ぱふっ
叔母「おっと」
パシャ
【俺はこっちで元気でやってます。男より】
第十二話 終
ご支援等感想等ありがとう嬉しかったです
機会があればまた次回
ではではノシ
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続き頑張ってください
充実した時間をありがとう。
元スレに続編の兆しが…