淫魔「コタツ出さないんですか」 (502)
男「うん………まだ早いだろ」
淫魔「なんでですか」
男「なんでですかって言われても………あれ、出すの結構面倒なんだよ、クローゼットの上の方に」
淫魔「………布団借りていいですか」
男「………いいけどさ」
淫魔「今、図々しいやつだと思いましたね」
男「いやいや………」
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淫魔「いや、たしかにそう思われるかもしれませんが………淫魔が寝床にいて何が悪いの
かという話です」
男「うーん」
淫魔「むしろ寝床にいない淫魔が悪いのです。 っていうか私、結構薄着ですから」
男「確かにな………まさに淫魔です。っていう感じの」
淫魔「格好でしょう? 良かったー! これでよかったんだー」
男「………」
淫魔「だから寒いんです。布団借ります。 スウェットとか余ってません?」
男「すげえなこいつ………まあ、いいけど寒いんなら」
淫魔「もしかしたらご主人様は………私のことをものすごく図々しいやつだ、と思ってい
るのかもしれませんが」
男「うん、思ったよ」
淫魔「いえ、これはアレです。 かのトヨトミ・ヒデヨシがオダさんに対して、オダさん
の草履を懐に入れて温めておいた、というエピソードを思い出してですね」
男「オダさんって言うと普通に知り合いにいそうだな」
淫魔「トヨトミさんと同じくらいの器量を持っているわけですよ、私は」
男「そうかい」
淫魔「すごいでしょう?」
男「………お、おう」
淫魔「合ってました?」
男「うん?」
淫魔「いえ、トヨトミさん、トミタケさんでしたっけ。人間界の知識はある程度勉強しましたが」
男「漢字になってない。うろ覚えじゃねえか。まあ、よく知っている方なのか。 淫魔にしては」
淫魔「超博識ですよぉ、私」
男「………」
淫魔「っていうか、織田って言ったら真っ先に織田裕二が出てきますよね」
男「それ俺の方が言うセリフじゃないか!?」
淫魔「ふふん、博識だって言ったじゃないですか、だから」
男「わからん、淫魔がどの程度の知識を披露した時に褒めればいいかわからん………大し
て知識があるわけでもなさそうだけど淫魔の中では物知りな方なのか」
淫魔「褒めて褒めてー。エアコンも入れてーー」
男「エアコン?」(まあ節約は一人でいるときだけでいいか………) ピッ
淫魔「おおっ」
淫魔「おおっ!」
男「22度でいいか………去年はどうしてたっけ。 地球に優しく、といきたいところだが」
淫魔「おおぉぉ………!」
男「え、何だ、そんなに喜ぶことは………たしかにこの部屋寒かったけどさ」
淫魔「う、動いてる! すごい!」
男「?」
淫魔「こ、これはアレですか、『電気の力』で!?」
男「………………………お前、」
淫魔「は、はい」
男「エアコンを、見たのは初めて?」
淫魔「初めてです!」
男「そ、そうなのか。 なるほどだったらまあ、そのテンションも頷けるが」
淫魔「かがくの ちからって スゲー!」
男「やっぱりお前詳しくないか人間界に!?」
淫魔「いえいえ、私はものすごい知識があるだけで、スーパーコンピューター天河2号並みの知識があるだけで、
こういった初見殺しにはあっさりやられますよぉ」
男「初見殺しでもなんでもないと思うんだが、とにかくお前のそのテンションには、納得がいったよ」
淫魔「えッ! もっと上げたほうがいいですか、テンション」
男「下げなさい」
男「テンション下げてね」
淫魔「善処します!」
男「うん。 ていうか、君さ」
淫魔「『淫魔』でいいです。 雌豚、と呼ぶのも可です。 まあ流石に、肉便器はひどい
かな、と個人的には考えているんですが、ご主人様に仕える身としては」
男「淫魔って呼ばせてもらうよ。 淫魔だよね、サキュバスだよね君」
淫魔「はい」
淫魔「睡眠中の男性の寝所に現れ、誘惑して精を奪う悪魔です」
男「うん」
淫魔「………その、エロい悪魔です///」
男「うん。 あのね、淫魔さん」
淫魔「はいっ」
男「ちょっとぶっちゃけたことを言うけど………今から」
淫魔「ぶっちゃけたこと?」
男「うん………君さ」
淫魔「………」
男「あまりエロくない」
淫魔「なっ」
淫魔「いや、ワタシ淫魔ですよ」
男「うん、だけどエロくない」
淫魔「ひ、ひどい!」
男「………あれ、ひどいのか、『エロくない』ってひどい言葉か?」
淫魔「くふぅ………私が、この私が………官能的ではないと………うぐぅっ」
淫魔「私が今、どんな気持ちかわかりますか!」
男「………いや、あまり」
淫魔「筆舌に尽くしがたい………かろうじて、強いて、言うならば………」
男「いや言いたくないなら、別に言わなく」
淫魔「『お前は犬じゃない』って言われた犬のような気持ちですよ!」
男「………う、うん、うん?」
淫魔「傷心………。 旅に出ます、私」 ガタッ
男「あ、おいっ………」
淫魔「引き止めないでください! 修行してきます!」
男「しゅぎょ? えっ、ちょっとどこ行くんだ、待っ、」
ガチャ ガチャ ガチャ
ばたーん!
男「うわあ、行っちまった………修行?」
男(どうしよう………追いかけたほうがいいのだろうな、こういう時、男側が。
………いや、そもそもあいつ女なのか、まあ身体は女みたいだけど。
しかも結構いい感じの………いやいや)
男「知り合いですらないような感じだけど、ええい、これも
何かの縁だ。とりあえず追いかけよう」 ガタッ
ガチャ ガチャ ガチャッ!
男「うおっ!?」
ばたーん
淫魔「はぁ、はぁ、はぁ………」
男「………戻ってきたのか、お前。 あれ? 肩で息をして………あれ?」
淫魔「さ、」
男「さ?」
淫魔「寒いです! 布団に入れてください!」
男「………コタツ布団、そろそろ出すか」
男「今日はここまで、らしい」
淫魔「あと、パンツは脱いで待機したほうがいいですよ。
私ってほら、エロいですから」
男「よいしょ」
淫魔「おお、布団がまた出てきましたね」
男「これをコタツに乗せて………と、ああ、その前に敷布団敷かないと」
淫魔「おお、まさに冬って感じですね。 ………敷布団を敷く?」
男「日本語としてはミスだな………うん?でも敷布団っていう、のかこれ
コタツ布団?」
淫魔「私に聞かれましても」
男「いや、あまり頼りにはしてないけど………」
淫魔「頼りになる女ですよ私は」
男「その発言がもう残念さがマッハだなお前は」
淫魔「絶対コタツで居眠りする快楽に負けたりしない!」 キッ
淫魔「……zzz」
男「よっし、出来た。 コンセントを入れて………と」
淫魔「おお! 入りますよ! 入っていいですよね! 許可を!」
男「オッケー許可する」
ピーーーーー………!
淫魔「あれ、どこから………これ何の音です?」
男「ああ、沸いた。 ヤカンの音だ、はいはい止めますよ今ー」 トタトタ
ピー―――ー、ぴっ。
男「コーヒー入れるか」
淫魔「ご主人様ー、このコタツ温かくないー!」
男「温まるまで待ちなさい」
淫魔「おお、温かくなってきましたよ、ご主人様!」
男「ほら、温かいコーヒーだぞー」
淫魔「おお、何かを持ってきましたよ、ご主人様!」
男「そのご主人様って言い方はやめてくんないかな………」
淫魔「お館様」
男「普通でいいよ、男で」
淫魔「すると私は、私のネームは、さしずめ淫乱な雌豚といったところでしょうか………」
男「でしょうかじゃないよ、どうしてさしずめそういうことになるんだよ、淫魔」
淫魔「ああ、普通に名前を読んでくださるなんて………私ったら、首輪とかつけられる前提で来て いるんですけど」
男「そんなもん持ってないよ………いや、首輪があったらそのまま犬小屋に入れておきたいところだよ君を」
淫魔「な、中々にひどい発想です………男さん鬼畜です」
男「………はいコーヒー」
淫魔「ありがとうございます」
淫魔「あついです」
男「ゆっくり飲めばいいよ………それでお前、どこから来たの」
淫魔「魔界ですが」
男「ですが、って………本当なのか?」
淫魔「魔界………あっ、失楽園、オルクスのミル3丁目、103番地ですが」
男「いや住所はいいよ」
淫魔「はっ………これはマズイです」
男「不味い?コーヒーが?ごめん結構安物………」
淫魔「ではなくて! くつろいでいるけれど私、悪魔ですよ!」
男「そうだな。 コタツに入ってるけどな」
淫魔「悪魔ですよ! 襲いますよ人間を!」
男「………頑張ってね?」
淫魔「まあ、温まってからでいいでしょう」
男「そうしなさい。寒いからね」
淫魔「この飲み物」
男「ん?」
淫魔「苦いですね」
男「うん………一応砂糖は入れたんだけどな」
淫魔「けど温かいです………これ、あっ、コーラ?」
男「コーヒーだ」
淫魔「こーひー」
淫魔「ふうむ、流石はコーヒー、香りが違う………」
男「………違いがわからない感じがよく伝わってくるよ」
淫魔「あれ、男さん、こぼしてません?」
男「ごめんお前のせいで吹き出した」
男「少し服にこぼした………何か拭くもの取ってくるわ」
淫魔「私が吸いましょうか?」
男「吸わないでくれ」
淫魔「私の服を貸しましょうか」
男「いや、色々絵的にダメだからパス」
淫魔「遠慮しなくてもいいですよ」
男「いや、ここ俺のアパートだし、いくらでもあるから」
淫魔「むむう、つまらない展開です」
男「………あれ、お前着替えとかあんの?」
淫魔「何ですか男さん、何も着るなと、そういう命令を出すんですか」
男「出さないよ」
淫魔「もしも夏場であったのなら、望むところです」
男「遠慮するよ」
淫魔「ふう、男さん、コーヒーごちそうさま」
男「うん? おお」
淫魔「次は甘いものをお願いします」
男「………」
男「甘いもの………コーヒーシュガーがある。 噛じれ」
淫魔「よくわからないけれど、すごくひどい扱いを受けている! ドSですね男さん!」
男「なんだお前、腹ペコキャラなのか、それとも単に話題がないだけなのか」
淫魔「ぎくっ」
男「古い! 反応が!」
淫魔「いや私、ホラお腹がすいているのはもちろんのこと………」
男「もちろんなのか」
淫魔「魔界から来たって言ったじゃないですかー」
男「それ何回も聞いた気がするが」
淫魔「長旅でした」
男「………ああ、そういうこと」
淫魔「休憩できるところで助かりました」
男「疲れているんならまあ、いくらでもおかわりしていってくれ」
淫魔「男さん………! あなたという人はっ」
淫魔「あなたは」 うるうる
男「俺もコーヒーおかわり。 さて、甘いものはあったかな」
淫魔「あなたは、優しいドSだ!」
男「………………ここにラー油がある。ひとり暮らしでは使い切りにくいアイテムだが、
これをコーヒーに入れるという手がある」
淫魔「や、やめてください! 赤くて辛そうな液体は!」
男「俺はドSではない、復唱して」
淫魔「男さんは、どエス、ではナイ」
男「………はいコーヒー」 コトッ
淫魔「ありがたい」
男「そして冷凍庫にあった甘いもの」
淫魔「………?」
男「アイスだ」
男「確か夏に買ったんだけど、まあ、なんだかんだで余っていた」
淫魔「つ、冷たい!」
男「コーヒーがあればいくらでもいける」
淫魔「冷たいけど、いい! おいひぃ!」
男「コタツでアイス、贅沢の代名詞だ」
淫魔「貧乏なりに頑張ってるんですね!」
男「贅沢は敵………」
淫魔「いや、叩かないでくださ………って、アレ?」
男「叩かないよ」
男「アイスうめえ」
淫魔「そんな………私、叩かれることに興奮を覚え始めていたのに」
男「正解だったようだな、叩かなくて」
淫魔「あっ、キーンとしてきた、口が」
男「醍醐味だなー、アイスの」
淫魔「でもこうなると、コーヒーよりもエスプレッソの方が合いそうですよね」
男「お前の知識がよくわからんのだが、偏り方がおかしくないか」
淫魔「勉強してから来ました。 人間界の」
男「うーん、いや、たしかに無勉でテストに望むとかよりはマトモだけど」
淫魔「私全然勉強してないしー、って友達に言いふらしてから来ました」
男「ホントにテストみたいだな」
淫魔「日本語難しいです」
男「うん、その割にはさっきから、俺を煽るのが上手いね」
淫魔「………」
男「………疲れた」
淫魔「休憩?」
男「うん、さーてとパソコンつけっかぁ、課題はやったし」
淫魔「むむ、その映像は、エロい動画ですか?」
男「そこまでの度胸はないよ」
男「横に女子がいて平然とエロ動画を見出す度胸はないよ」
淫魔「動画ではない………では画像ですか」
男「溜まってたアニメを消化する作業」
淫魔「………アニメ、オタクさんですか」
男「そこそこには」
男「夜型生活だ」
淫魔「おお、私の仲間ですね」
男「お前と一緒にされるといろいろと誤解を生みそうだが」
淫魔「………面白いんです?」
男「………さあ、もう習慣と化しているから、なんとなくやめられない」
淫魔「面白いの教えてくださいよー」
男「えー」
男「えー………」
淫魔「い、嫌がらないでくださいよぉ」
男「いや、なんていうか………難しいなあ、面白いやつかあ」
淫魔「私は別に、アニメオタクをアニメオタクだからという理由で軽蔑したりしませんよ。
私は心が広くてエロい、普通の淫魔ですよ」
男「なんていうか、お前が普通の淫魔だったら嫌だな」
淫魔「ひどいです………」
男「うーん、今期ではそうだな、キルラキルはすごいな、評判も」
淫魔「コンキ? キルラ?」
男「とりあえず見てみよう」
淫魔「まあ、男さんがオススメするもので、はい」
30分後
淫魔「こ、このアニメは………痴女ですね!」
男「まあ、痴女だな」
男「キルラキルはすごいって言う人、結構いるなあ」
淫魔「このアニメは、痴女が出てきましたけど、でも………」
男「でも?」
淫魔「あんまりエロくないですね!」
男「………まあ、な」
淫魔「このアニメすごいですね。 男さんもすごいですね」
男「うん。 うん?」
淫魔「痴女を目指すならこういうものを目指せという、指針を示してくれたわけですね」
男「いや、そうではないが………」
淫魔「そうではないならどのような意味が」
男「ルーチンワークを消化しただけというか」
淫魔「お客様が来てるのに?」
男「自分でお客様って言い切るところもそうだが………なんかお前が来たせいで習慣が崩れると癪なんだよなあ」
淫魔「ああ、文化的にっていうことですね、日本人だからですね、いや馬鹿にしてはいませんよ」
男「お前から馬鹿にされるのは流石に勘弁なんだが、日本人だからとは?」
淫魔「日本人はアニメ好きです」
男「まあ人によるけれどな」
淫魔「お客さんが来たらアニメ鑑賞会をはじめるくらいの」
男「俺は結構異端だからな」
淫魔「日本に来る子はあまり多くないんです」
男「そうなのか」
淫魔「英語の方が簡単で」
男「えー………俺は英語はさっぱりだけどな」
淫魔「日本語はひらがなとカタカナ、それに漢字も使います」
男「うん、そうだけど」
淫魔「覚えることが多いです。 英語はアルファベットが24種類だけ」
男「そう言われると簡単そうに聞こえるな………」
男「うん? 24文字だったっけ? 26じゃなかったか」
淫魔「すいません、私英語苦手です………」
男「いやあ、そこは得意とか苦手の問題ではない気もするが………」
淫魔「教科書が難しすぎて」
男「教科書? ニューホライズン? クラウン?」
淫魔「なんですかそれ」
男「いや、まあ俺と同じじゃないよな、そりゃそうだ」
男「なに?教科書持ってきてるの?」
淫魔「荷物に入ってました」
男「うおお、魔界の本か、すごいテンション上がるんだけど」
淫魔「私より上げないでくださいね、テンション」
男「え、なんだその心配。 テンションで勝負してたの?」
淫魔「なんだか悔しくなるので」
淫魔「その教科書、英語のなので、男くんにも読もうと思えば読めるはずですが………」
男「ふむふむ、ザ………The younger sister said then.
"If………」
淫魔「おお、発音いいですね」
男「これ、普通に読んでも大丈夫なのか? 呪文とかじゃない? ザケルとか出ない?」
淫魔「滅多なことは起きないと思いますけど。 男くんにそういう魔翌力があるのなら、あるいは」
男「じゃあ大丈夫か。 しかし日本語訳があれば助かるが」
淫魔「和訳って、えー、男くんカンニングしたいんですか」
男「か、カンニングじゃないよ。 なんだよ、授業じゃないんだから、いいだろ」
淫魔「うーん、ここに別冊の日本語訳があるけれど、うぅーん、どうしよっかなーァ」
男「うぜえ………」
その時、妹は言った。
「お兄ちゃん、あんな下水道みたいな女と一緒にいたら、お兄ちゃんまでドブネズミみたいになっちゃうよ。
さあ、私とお風呂入ろう」
そんな、少しばかりユニークな妹だった。
そこで僕はこう言い返したんだ。
「いや、でも知っているか、宮本武蔵って風呂が大嫌いだったらしいぞ」
「うん、なあに、それって関係あるの?」
「宮本武蔵って格好良いじゃん」
「お兄ちゃんはもう格好良いよ。
さあ、一緒にお風呂入ろうね。
あの女は私が明日切り刻んでおくから。
二刀流でね」
「HAHAHA」
淫魔「………と、いうのがレッスン3、japanese yandere girlの和訳です」
男「レッスン3でこの内容………、色々とハイレベルだな………」
今日はここまで
※参考:エキサイト翻訳
The younger sister said then.
"If it is together with an elder brother and such a woman
like a sewer, even an elder brother will become like a brown rat.
Now, me and bath ON wax"
She was such a somewhat unique younger sister.
Then, I retorted like this.
seemingly,
"disagreeableness and a man it knows but or is called Musashi Miyamoto abhorred the bath"
-- "-- it does not obtain -- he is famous Japanese sum rye.
It "is smart" but with regards to us."
"An elder brother is already smart.
Now, it is bath ON wax to one clue.
Because I
will chop up that woman tomorrow.
With a 2 sword style"
"HAHAHA"
淫魔「まだかマギカと言われた時に現れる。 それがワタクシ、淫魔です」
男「ふう、さてと、アニメも消化したし」
淫魔「うん?」
男「寝るか」
淫魔「えっ!」
男「シャワー先使っていいよ」
淫魔「えええっ!」
男「お客さん用の布団もあるから心配すんな」
淫魔「ええっ………イヤそこは、一緒のベッドで」
男「布団があるから心配すんな」
淫魔「男さん」
男「うん?」
淫魔「私、淫魔ですよ」
男「うん」
淫魔「すごくエロいんですよ」
男「う、うん………」
淫魔「深夜ですよ。何か言うことはないんですか」
男「いや、特には」
淫魔「何かやることはないんですか」
淫魔「男さんは男として、何かやることがあるんじゃないですか。
やらなければならないことがあるんじゃないんですか。
それとも男さんは男じゃないんですか。
そもそも男じゃないんですか」
男「………寝る、というワードに反応してくることは予想できたが、ものすごいテンションで食いついてくることも予想できたが、これはこれできついな。
陰湿というか………ネチネチとした言葉責めが」
淫魔「不愉快です。シャワー浴びてきます。お借りしてもよろしいですか」
男「あ、ああ………どうぞどうぞ」
淫魔「あとで抱いてくださいね………」
男「あ、ああ………あ、いや、」
淫魔「やった、許可もらった」
男「キャンセル、今の無しで!」
男「………というわけで、いや、どういうわけで、出会ったばかりの女子がシャワーを浴びている」
男「俺のアパートで、だ」
男「なんだかなあ、そういう雰囲気は苦手だ。 得意な奴がいるならアドバイスを願いたい………
いや、そういうシチュエーションが得意な男がいたらまず、友達にはなれないだろうが」
男「苦手だ。 だからアニメの話で、そういう話題から逸らそうとしたのかな、俺。
そんな気がする」
ガラッ、と、扉が開く。
台所やバスルームがある方と、部屋とを分ける扉である。
淫魔「男さん」
男「な、なんすか………」
淫魔は身体にバスタオルを巻いていた。
バスタオルしか巻いていなかった。
淫魔「シャンプー忘れました。取っていいですか」
淫魔の口ぶりでは、どうやら魔界から持ってきていたらしい。
カバンに入っているらしいが、しかし俺は。
男「シャンプー?シャンプーってなんだっけ?
それは忘れたって、忘れるもの?鍵か何かか?」
目が泳ぐ。
合わせて記憶も泳ぐ。
シャンプーが何なのか、とっさに思い出せない。
シャンプーってなんだっけ。
淫魔「やっぱり急に違うシャンプーに変えるのは抵抗がありますし………あ、でも男さんのいつも使っているものがいいんですか?」
男「へ、へえっ? 俺がいつも使っている?
俺は一度もシャンプーなんて使ったことがないぞ?」
無茶苦茶なことを言ってから、ようやくいつも使っているシャンプーを思い出してきた。
淫魔「男さんと同じ香りのシャンプーでいいです?
その方が興奮します?」
男「い、いやあ、どうだろう………」
男「俺にはよくわからんが、好きなようにすればいいんじゃないかな?」
淫魔「いえいえ、私が思うに、人間界のルールに従ったほうが、男さんの意見を聞いたほうがいいと
、そういうことで」
男「あー、わかるわかる。 郷に入っては郷に従えだっけ? 俺もよくある。 よく言われる」
会話中、ほとんど淫魔を見ていない。
記憶にも向き合えていないので、何を言うかわからない状況だ。
淫魔「私も我が儘はそろそろやめてみようかなあって。泊めてもらう身ですし、男さんの命令には従
う心構えですよ」
男「と、とりあえずシャンプー取って、早く風呂場に行くべきだと思うなー」
割と本気で言う。
早くこの状況が過ぎ去るといいなあ。
淫魔「男さんがそう言うのなら」
男「………」
淫魔が隣でカバンを………カバン?
魔界から持ってきたものだけあって、かなり存在感があるものだった。
どことなく、生き物のようでもある。
それの中を探っているようだ。
目を逸らす。
淫魔「じゃあ、お風呂また借ります。 ああ、私のシャンプーは使わないでくださいね。
人間が使ったら、何かあるかもしれませんから」
男「お、おう」
という、とにかく挙動不審になっていただけの会話、シーンだったとさ。
今日はここまで
と、そんなくだらない話をしていると。
女「―――あ」
男「あっ………」
淫魔「?」
クラスメイトの女さんと鉢合わせした。
女「こ、こんにちは」
男「こんにちわ―――ホラお前も」
淫魔「はじめまして」
淫魔「って、男さん、かしこまり過ぎではありませんか?
年上、先輩さんでしょうか」
女「同じクラス、だよね男くん」
他人行儀だったような、そういう振る舞いをしたつもりはないが、女さんの目の細め方は
あまり心地よいものではなかった。
男「え、あ、ああ―――そうだな」
女「男くんもお買い物?
ここ、女物のなんだけれど」
男「そ、そうだな、はは………えと、ごめんなさい」
淫魔「男くんは」
淫魔「男くんには、私の服を選ぶ手伝いをお願いしたんです」
男(………)
女「………」
え、何この空気
女「―――そう、ならいいけど」
金髪男「女………早く来ないか」
女「あっ………」
男「え」
淫魔「………」
また違う人物が現れた―――が、知らない男子だった。
そいつは俺と淫魔を見て、少し戸惑う。
金髪男「………知り合いか、女」
女「えっと―――う、うん」
少し変わった喋り方だった。
金髪だが、最近のチャラチャラした男っていうのは、こういうものなのか?
金髪男「挨拶するのは構わないが―――ああ、『構わないけれど』、吾輩は
無断で待たされたのは初めてだ」
男(吾輩? ワガハイっつったか、こいつ今。)
女「ご、ごめんねっ………あ、あの、そういうことで」
女さんはひどく慌てた様子で小走りし、金髪男の方に駆け寄る。
女さん「ま、またね男くん」
男「え、あ、ああ―――また会いましょう、はい」
女さんと金髪男は店の外に出ていく。
なんだったんだ。
二人が行った後―――ほとんどくっつくような距離で何事かを言い争いながら
店を出て言った後―――俺と淫魔は黙って立ち尽くしていた。
淫魔「付き合ってるんですかね、あの二人」
と、そんなことを言い出しやがった。
淫魔「男さん、あの女さんのこと、知り合いなんです?」
男「………」
淫魔「ああ、クラスメイト、でしたっけ」
男「そうだよ」
淫魔「ふうん」
淫魔「さあて、なんと言えばいいでしょう………ううん。
いや、これほどわかりやすい状況も珍しいです。
どこにでも似たようなカップルっているんですね―――そういうことです」
そんなことを言いながら擦り寄ってくる淫魔。
うるせーな。
男「女さん、付き合ってるやついたんだ」
淫魔「残念ですか?」
男「………まあ」
淫魔「おや」
男「お前にだから言うけどよ………人間じゃない、お前にだからヒョイっと言えるけど」
淫魔「まあ綺麗な方でしたね―――まあ私よりエロそうか、という点に関しては、微妙ですけれど」
男「そこはお前がダントツだよ、エロさに関しては」
淫魔「わーい、やったあ」
男「静かにしてくれ………」
淫魔「あら、そんなこと言われましても、私、この国では男さん意外と話せないからさみしいですよ」
男「………」
男「なんでも好きな服買ってやるよ」
淫魔「―――ええと、なんの憂さ晴らしか知りませんけれど、ちょっと気持ち悪いですよ」
男「どうせ俺は、普段服屋になんて来ないキモ男だよ………」
淫魔「下を向いたまま歩かないでください、危ないですよ」
男「ここの服が嫌なら違う階に行こうぜ」
淫魔「放浪癖があるんですか、男さんって」
男「放浪癖―――そうだな、ちょっとわかるかもしれない。
誰もいないところにいきたい。
誰も知らない町に行って、ひたすら歩き回りたい―――」
淫魔「やめてくださいよ、男さん。
男さんがそんなことになったら、誰が私のボケに突っ込んでくれるんですか」
男「誰にでも突っ込まれればいいじゃねえかよ………いいよもう」
淫魔「なんていうか―――暗いっていうか女々しいですね
魔界よりも暗黒に近いですよ、男さんって」
男「え? ああ―――そうなの?」
エレベーターに乗って違う階に移動しながら、呟く。
男「―――外人、かなあ」
淫魔「え?」
男「さっきの金髪男………」
金髪の男、というと、髪を染めた不良みたいなイメージがあるが。
思い出してみると、どうもそんな雰囲気ではなかったように思われる。
喋り方、日本語はややおかしかったが、外見上は―――外見は。
圧倒されるような気品が感じられた。
金髪も、似合っていた。
男「染めたって感じでもないんだよなあ―――目を引くぜ、ありゃあ」
淫魔「………私はどうです? 他の子より可愛いと思いますか?」
男「………」
男「お前はいいよなあ」
淫魔「―――はい?」
男「………」
淫魔「え、ごめんなさい、よくわかんないです。、 笑うところだったら言ってください」
男「………」
淫魔「っていうかもっと笑える話ばかりしましょうよ」
男「………」
淫魔「こんな雰囲気、男さんがそんなので………どこに需要があるんですか」
男「淫魔―――俺はまだ若造だから、初心者だから、クズ男だから自覚してなかったけどな」
淫魔「男さんがネガティブになると私も困るんですけど………」
男「笑える話ばっかじゃないんだよ、当然の如く」
淫魔「それはまあ、そうでしょう。
でも笑っていられる時を作っていきましょうよ」
男「いや、それは違うんだ。まやかしだ」
淫魔「元気を出してくれるには………男さんが元気になるにはどうすればいいですか?
私が脱げばいいですか」
男「それはやめてくれ………警察とかが来る」
淫魔「いえ、私はやりますよ。
だって私ってアレじゃないですか。
私ってホラ………エロいですからっ」
男「今警察のお世話になったら流石に立ち直れねえよ」
淫魔「立ち直れないなら私が勃たせますよ」
男「字が違ぇえ………」
淫魔「男くん、男くんが失恋して未練たらしくメソメソしているのは百歩譲っていいとしますが」
男「何気に非道いよなお前………」
淫魔「男くんは安易にヘコみ過ぎな気もしますね」
男「そう、かな」
淫魔「そうですよ」
淫魔「可愛い女の子は他にもいますよ」
男「そう、かなあ」
淫魔「そうですよ」
男「………まあ、探せば、いるのかもしれんが」
淫魔「しかも意外と男さんの近くにいるんですよ」
男「いるかあ?」
淫魔「可愛い子です、しかもエロいんです」
男「いるわけないよ………」
淫魔「腹を、殴りますよ」
男「………ごめん」
淫魔「それとですね」
男「あと、なんかあるのか」
淫魔「ええ、まあ―――あの金髪の、どことなく高貴な男性についてですが」
男「あいつが………何か?」
淫魔「あの人―――人間じゃないですよ」
男「………………は、はあ?」
淫魔「ふふ、『あの人』という呼び方も、こうなると間違いかもしれないですけれど」
………え、何それ。
金髪男「つまり総理大臣がこの国のトップと考えて間違いないのだな」
そんなことを言いながら、この鮮やかな金髪の男は、繁華街を歩く。
私と、二人並んで。
女「まあ、トップなのはそう、間違いないと思うけど―――」
そんな私は、さっきから人目が気になって仕方がない。
金髪男「ではそのアベッシュ・ショウという男と会談をすれば、我輩の王家も人間界と交流を持てると」
女「………アベ・シュショウ」
金髪男「む………『アヴェ・シュ・ショウ』」
女「発音いいなあ―――いや、間違ってるんだけどね」
ええと、ここからは私視点でしばらくお送りいたします―――。
すごく頭が痛いけれど。
金髪男「女よ―――どうして頭に手を当てている、頭痛か?」
女「………うん」
主にこの金髪のせいで。
ええと、説明を、解説をすると………私もまだ、あまり状況がわかっていないんだけれど。
この人、魔界から来たらしいです。
少し回想です。
あれは数日前、一人暮らしをしていた私の家、というか私のアパート。
そこに突然この男が現れた時のことです。
確か私は、洗濯物を取り込むとか―――そういったことをしていたと思います。
女「きゃあああっ! だ、誰あなた! どこから入って来て―――け、けけ、警察、」
金髪男「む、界空移動に成功―――やはり我が王家の術者に間違いなし―――やはり
魔道士は一流揃いということか―――いや、当然のことだが」
女「け、けけけ―――携帯―――警察にデンワ、しないと、けいさ、」
金髪男「む、現地人か」
女「だ、誰なのあんた―――し、下着ドロ!? 泥棒?」
金髪男「現地の住人よ―――私は怪しいものではない。
訳あって身分をすべては明かせないものの、由緒正しき王族の家系である」
女「は、はあっ………!? 何言ってるの、あんた、来ないで!」
金髪男「そう恐れずとも良い―――むむ、その手に持っている薄い布は何じゃ。
これ、やめないか。
そんなに振り回して………ははあ、我が輩へ献上しようというのか?」
その金髪男―――魔界のいいところの王子様だと、私は後になって知ったのですが。
金髪男は私の取り込んでいた途中の洗濯物を、手で掴んできたのです。
私は、金髪男のボディに蹴りを叩き込みました。
金髪男「おごほぉっ!? ………おえっおっ!? おおおえ!!!?!??!!」
女「な―――ななな何してるのよあんた! 本当に何してんの! 馬鹿じゃないの! この、このぉ!」
うめき声を上げて前屈姿勢の金髪男の頭部を何回か踏みつけました。
金髪男「おご………い、痛いぃ 痛あぃ! や、やめんか、こら!」
女「変態にしても直接的すぎるでしょ、やることが、あんた! この、このぉ!」
金髪男「や、やめ………いたぁい! 爺や!
爺や、話が違うよ!
話が違う―――平和な国だって言ってたじゃん!
だから我が輩行くって決めたのに!
おごっ、ごっはあ」
女「えいっ えいっ」
―――私も、後になってあれはちょっとやりすぎたかな、と今では思っています。
いえ、でも私は必死でした。
一通り気が済むまで蹴り終わった後、私はその魔界の王子さん―――?
の、両手を縛って正座させてから、話を聞いたのです。
聞き出した、みたいな、そんな拷問的なものではありません。
ちゃんとしたお話です。
本当です。
女「ま、魔界から来た………? 魔界って、あの魔界? 魔物とか、怪物とかの―――」
金髪男「左様………」
カシコ
畏まった口調の彼ではありますが、涙目でした。
たんこぶとか、結構出来てて昔のアニメとかでよくある、たんこぶが二段、三段と
積み重なっているアレ―――雪ダルマっていうか。
サーティーワンのアイスクリームみたいな様になっていました。
女「嘘よ!」
金髪男「いや、我輩はつまらぬ嘘をつくような男ではない―――というか
もう嘘をつく気力などない………信じてくれないだろうか」
落ち着いて考えてみると、その金髪男は、単なる下着泥棒の変態には見えない風貌だった。
というのも、染めたふうではない、日本人離れした金色の髪………。
眩しいけれど、まるで動物の毛皮のような自然さが感じられた。
髪がめちゃくちゃに乱れていたけれど。
金髪男「髪が乱れているのは其の方が蹴りまくったからであろう」
女「う―――な、何か証拠とかないの?」
金髪男「証拠―――証拠、か」
金髪男は随分長い間、悩みました。
悩みぬいて、唸っていました。
金髪男「………」
女「ねえ、いい加減何か、魔界の何かを見せてよ」
私はそんな風に言ったものの、半分惰性、繰り返し作業のように言ってみたものの、
その頃には頭も冷えて、男の服装、装飾品の類を見て―――、
何よりも彼自身が持つ雰囲気から、普通の人間とは違うものを
たくさん感じていたのでした。
その男の身につけた装飾品―――は。
母が身につけている婚約指輪とは随分、趣が異なります。
百貨店の貴金属売り場に、ショウケースの中でしか並んでいないようなもの、とも
似通ってはいませんでした。
彼の五本の指に、それぞれ輝いていて。
静かに輝く金色。
静かに―――しかし、その指輪は動いているようでした。
表面に刻印された文字が、
女「―――書き変わってる………!」
知らない文字で構成されていて、見ているだけで不安になるような
力が発せられているかのよう―――眩しい。
眩しかったというか、じっと見つめていると目がおかしくなってしまいそうな感覚がありました。
もしも魔界の人間ではないにしろ只者ではない―――それだけは確実。
だから、彼が―――金髪男が言うまでもなく。
私は彼のことを、多く知ったような、知ってしまったような気になったのです。
金髪男「―――今、証拠を見せる。
証拠を―――作った。
後ろを、振り向いてくれ」
………後ろを?
もう一度言っておきますが、確認しますが、金髪男の両手は私が縛っておきました。
だから身動きはできなかったはずです。
しかし。 ダンス
私の部屋の衣装箪笥が宙に浮いていました。
女「………!」
金髪男「………魔力は、できるだけこの世界では使うなと、最低限にしろと
そう、爺やに言われていた―――我が輩も、可能なら話し合いのみで
事を、進めたかった―――。 が、」
手も何も使っていない。
この金髪男―――まさか、まさか。
女「奇術師の人!?」
私は疑り深い性格でした。
女「あなた、さてはマギー司郎!」
もしくは………。
女「もしくは、なんだっけ、あの、中国………?の、ホラ、あの煌びやかな衣装の―――
て、天功!
プリンセス天功!
魔術師にしてアーティスト!
それの弟子か何かね!
完全に理解したわ!」
金髪男「いや、あ、あの………」
女「何よ、それとも他のマジシャン?
ごめん、私あんまり詳しくなくて」
金髪男「くっう………も、もう限界………だ」
女「え?」
金髪男「魔力を………台にして、そこに乗せているが、しかし重い………」
女「重いに決まってるよ、衣装箪笥だし―――え、本当に一人で持ち上げてるの?」
金髪男「これ以上無駄遣いは―――できない!」
魔界の王子様は、衣装箪笥をゆっくり降ろしていきました。
女「えっ―――あっ!?」
これは完全に私の失敗ですが、見慣れない光景を意識して、
夢中になりすぎてしまった不注意ですが。
足元に置いてあった、その魔界王子の荷物。
いつの間に置いてあったのか知りませんが―――それに足を取られ、転倒してしまいます。
女「きゃっ!」
金髪男「わああっ!?」
女「い、痛たたた………!」
金髪男「無事か? 今のは危なかったぞ―――我が輩は今、身動きが取れん」
女「ご、ごめん―――なさい」
どすん、と―――衣装箪笥が、やや乱暴に着地した。
金髪男「………無事でよかった」
女「え、えと………」
あれ、なんだろこれ。
こいつ、不審者のくせに。
怪しい奴のくせに。
不審者で怪しい変人のくせに、でもなんだか………。
その時。
どさどさ、と―――何か重いものが落ちる音がした。
女「あ、箪笥の引き出し」
浮かせた箪笥、その引き出しがいくつか、着地の衝撃で落ちてしまっていた。
金髪男「む―――申し訳ない、言い訳はせん」
女「あっ、ちょっと」
言うが早いか、王子は引き出しを片付け始める。
私は、この時にはもう、この金髪男を、
勝手に部屋に侵入していた悪人だと―――そういうものだと思うのをやめていた。
未だに、正体はよくわからないけれど。
なんで私の部屋に来たのかはわからないけれど。
いろいろ事情があるのかもしれないけれど。
できることなら、こいつの力になってあげたいな、なんて
そんな感情が湧き始めていたのだった。
―――だから。
金髪男「むむ―――この家具、この世界の家具、なかなかに構造が厄介。
ただこの箱を押し込むだけでは駄目なのか―――奇々怪々なり」
女「ああ、それはね、ちょっと引き出しの取っ手を上の方にして―――」
女「こうやって、ほら」
金髪男「ああ、それだけで良いのか………この世界とは意外と単純なのだな」
女「そう、かもね………」
金髪男「おおっと、ところでお主」
女「名前でいいよ―――女、で」
金髪男「左様か。 では女よ―――この布は何処にしまえばいい」
女「………」
私の下着だった。
金髪男「これは―――こちらのこれ、
察するにこれは、この世界にのみ存在する貴重品と推測できる―――
何しろこのように、形が崩れない」
女「………」
金髪男「二つに分かれている―――ほほう、内部に針金、ワイヤーが仕込まれておる
形状を記憶するというわけだな」
女「………」
金髪男「何か二つのものを覆いかぶさるように―――、覆いかぶせるために
設計されたもののようだが、しかし妙だな。
私は魔界で、これに似たものを手にしたことがない―――実に興味深い。
女よ、これはなんというものなのだろう?」
できることなら、こいつの力になってあげたいな、なんて
そんな感情が湧き始めていたのだった。
―――だから、平手打ち一発で勘弁してあげた。
その頃。
同じ町の、別の場所にて。
淫魔「―――ふう」
男「どうしたんだ淫魔、ため息なんてついて」
淫魔「いえ、なんというか、なんといいますか―――男の人って大変だなあって」
男「はあ? え、俺のことかそれって、そりゃ俺にもいろいろあるが」
淫魔「いえ、まあ―――そうじゃないんですが、なんというか………」
男「なんだよ、煮え切らない返しだな」
淫魔「まあ、うまくいかないだろうけれど頑張れ、生きろ―――と。
そんなことを言いたくなっただけなんですよ」
男「………?」
今日はここまで。
淫魔「前向きなのはいいですね」
男「うん? うん―――まあ、な」
淫魔「人間界来てよかったー、正直、来るときは心配で心配で。
男さんって旅行とか好きですか?
ほら、例えば海外とかに行こうっていう気概はお持ちですか」
男「海外、はちょっとな………っていうか、さっきの話本当かよ」
淫魔「はい? さっきとは」
男「金髪が人間じゃないって話、間じか
淫魔「まじっす」
男「イヤ、ないだろう、確かにあの金髪男―――普通じゃない
どこか絵画の中から出てきたような妙な存在感を持ってたが………。
でも外人、英語圏の方だろうよ。
そういう線はないのか考えないのか?」
淫魔「いや、もう見れば―――見ただけで私はわかりましたけど。
その魔力がね、結構ばしばし、当てられましたよ。
なんと言いますか―――恐ろしく、しかし眩しいオーラです。
私もちょっと見とれちゃいました」
男「え? もしかして危険な奴なの?」
淫魔「まさか。
もしやと思いますが、チンピラのようなものだと考えてるんですか。
そんなことは絶対にしないでしょう。
高貴なお方だって言ったじゃないですか」
男「言ったっけ」
男「それにしても、魔界の男がなんで―――まさか淫魔。
お前を、監視しに来た?
そのためにこの辺りまで来て―――」
淫魔「あはははは! 爆笑したいですね。 せざるを得ませんね
ぷぷ、ぷぷぷぷぷ。 男さんバッカでー」
男「っ………晩飯抜きにするぞ」
淫魔「私はそこまでパパラッチされまくる身分ではありませんよ。
王族の方々のことは私、知ってますけれど向こうは私など気にも止めないでしょう。
魔界から人間界に来る魔族は私だけじゃない。
ただそれだけのことです」
男「はあ」
淫魔「あの女性、女さんの方は王子の付き人というわけでもなさそうですね。
普通の人間でしょう」
男「当たり前だ。そこは俺が保証するよ。同じクラスだし」
淫魔「綺麗な人ですねー、私の次に」
男「………」
淫魔「しかしエロさで言うと私が圧勝かな」
男「そこについては好き勝手言ってくれても構わんが」
淫魔「いや、しかしですね、ああいう普通の女子に限って意外とものすごく
淫乱だったりというパターンはアリですね。
萌えますね。 そう思っているんでしょう、男さん」
男「いや、別に」
淫魔「とか、そんなことはさて置き、男さん。
他のお店も見て回りましょうよ」
男「うん? ………うん、そうだな」
淫魔「男さんの方が人間界に詳しいんですから、エスコートエスコートっ」
男「………」
人間界の、観光。
そのエスコート―――とは言っても。
男「俺もよく知らないんだよ」
淫魔「またまたご冗談を―――私よりは知っているでしょう」
男「そりゃそうだけどさ。進学するまでロクに来たこともないような場所だったからなー」
いや、来ることももちろんあったか。
数少ない友人に連れてこられたんだった。
リア充寄りの野郎に
「お前もっといい服とか買ったらどうなんだよゲームばっかしてんなよ」
とか言われて、半分引きずられるようなカタチで連れてこられた時くらいで。
悪気とかはないんだろうが、どんな顔すりゃいいんだかわからないわ、わたし。
そもそも服屋なんて男物だけの店、女物だけの店とかはっきり区分されてることも多いからな。
今まで地元のユニクロとかしか行かなかったから知らなかったけれど。
男「だから女物の服屋とか全然無理だぜ俺、仮にもうちょっとオシャレに気を遣ってたとしても
女物に関してはからっきしだと思うぜ」
淫魔「そうですかーわかりました。 では今日は私がエスコートしましょう」
男「そうそう、もっとほかの場所、ゲーセンとか………って、ええ?」
そんなこんなで俺は今、下手したら一生入らなかったようなオシャレな店の奥に、
その一角に、一人で立っている。
女性店員はあからさまに視線を送ってきたりはしないものの
流石にそこまではしないものの
うーん、四面楚歌だ。
淫魔「もうちょっとで試着終わるんで待っててくださいね、男さん」
男「………」
淫魔「男さーん、いますー?」
男「いるよ」
淫魔は試着室の中だ。
淫魔「男さん、さっきからやけに静かですね。
まあ口数が多い男性というのも軽薄そうに見えてあれなのかも
良くないのかもしれませんが
何か面白いギャグとか言ったりしてくれてもいいですよ」
男「………お前今、俺を見てねーじゃん。
面白いことやっても見えないじゃん」
淫魔「まあそうなんですが………あっこれはもしかして
男さんは試着室の外から衣擦れの音を楽しむ感じのレジャーに夢中ですか?
ははあ、なるほど新しい。
斬新な楽しみ方をしているんですね」
男「いや、俺はそんなに心臓強くないし」
それくらい適応力があれば人生も変わるんだろうな
淫魔「楽しみ方は人それぞれですよ―――あっ、いま私、ブラを外しました」
男「報告せんでいい―――楽しみ方か、通報されない程度ならまあ
偏屈な楽しみかたをしてもいいと思うけどな」
淫魔「男さんはアレですもんね………。
ゲームですごくカジノに入り浸って………RPGでですよ?
ゴールド稼ぐことに夢中になって、クリアをしない感じの人でしょう、なかなか」
男「そんなことは―――あった、かも
よくわかったなお前」
ミニゲームとかすっげえやりこんだわ。
男「なんでだろうな、あれ、クリア後もやり込める」
淫魔「意味がないことの方が好きだったり?」
男「うーん、それはあるかもしれないな。
いや、スコア伸ばすのが目的ではあるんだが」
淫魔「気が楽なのかもしれませんね」
緊張感は持ってるぞそれなりに。
今の状況もだが
男「………まだか?着替え」
淫魔「まーだだよ」
男「もーいーかい。 ―――って、やらせんな」
淫魔「あはは、何年ぶりにやりましたか、それ」
男「小学生ぶりかな………」
そういえばお前、服を何種類か試着室に持ち込んだが
下着はなかったんだよな。
………あったら絶対目に焼きついてしまうだろうから間違いない。
いろいろ怖い。
あれ、でもじゃあ、ブラ外したって………
淫魔「ブラ外したって言いましたけど、アレも意味はありませんよ。
なんとなく外しました」
男「どうしてそういうことをするんだお前は」
淫魔「え、えっとぉ………男さんがびっくりするかなーって思って………」
試着室のカーテンが開く。
淫魔「男さん、付けましたよブラ」
男「登場のセリフとしてはひどい………な」
ゲームで登場時にそんなセリフを吐くボスがいたらすごく戦意を削がれるだろう。
しかし思いのほか気合の入った服装に見蕩れてしまった。
布の質がまず男物と違うよな。
元々が、出かけるときに羽織らせたものが半分俺のコートだったこともあり
差が激しい。
眩しいくらいだ。
冗談でも誇張でもなく、うおっ眩し―――といった感じだ。
俺だったらこんな人目を引くような格好はしない、できない。
淫魔「そもそも私も何も知りませんよ
人間界のことなんて知りませんってば、だから。
それに服装はそうやって選ぶものじゃありません」
男「………どうやって、選ぶの」
淫魔「そんなの―――
『わっ、これカワイイー(*´`)これいいかもー』
と、考えて選びます」
男「………えー」
なんか、がっかり
淫魔「その表情………女子力ないですねー男さん」
男「悪かったな」
淫魔「女子力というのは、果たしてなんなのか―――
スカウターで計測できるんですかね」
男「そのワードについては色々と
兼ねてから言いたいことは多かったが
………ちなみに俺は女子力どれくらい?」
淫魔「………女子力、たったの5か………ゴミめ」
男「言うと思った」
淫魔「『私の女子力は53万です』」
男「そのセリフも、予想済みだぜ………」
淫魔「で、どうなんですか男さん」
男「え?」
淫魔がまっすぐ見据えてきた。
あれ、真面目な表情だ。
男「え、なに?女子力が?」
淫魔「そうじゃなくて―――どうですか?」
と、立ち方をあらためて整える。
男「………ああ」
服が似合ってるかどうか、ね。
男「い、いいんじゃない?」
ど突かれた。
怒突かれた。
淫魔「なんですか、その―――『どうでもいいんじゃない?』という態度は」
男「いや、本当にいいと思うよ、可愛い気がする、うん―――眩しいくらいで」
淫魔「………ふむ」
思いのほか真面目な顔をし、淫魔は試着室に引っ込み
カーテンをざっと閉めた。
それからファッションショーというほどではないにせよ
よくもまあそんなに夢中になれるなといった勢いで淫魔は着替えた。
で、見せつけてきた。
感想を求めてきた。
感想文とか苦手なんだよ俺。
いや、苦手ってほどじゃないけどどこまで書き込めばいいのかわからん。
なんかああいうの、変なところに力入れてしまうよね。
………わからないか。
女子って真面目だなあと思いながら感心していると
途中、一回だけ上半身ブラのみ着用で登場した。
淫魔いわく、
「あ、ヤバいミスったゴメン」
とのことだったが確信犯だろこれ。
俺が直視を嫌がったあたりからファッションショーはお開きになり
一着、気に入ったらしいものを上下買って店を出た。
淫魔「やっぱり旅先では土産物ですよねー。
魔界から来た甲斐がありましたー」
男「………」
淫魔「私も選んであげましょうか、男さんの」
男「いや、俺はいいよ………」
淫魔「いえいえ、私だけそんな、お世話になるわけには。
お金も半分出してもらいましたし」
男「そこはお前………なんとなくだよ。
っていうかもうブラはやめろよ」
淫魔「ブラをやめろ?
それはつまり、男さんの前では、俺の前ではノーブラでいろと………うわぁ、
いえ、でもそこまで思い切って言われると男らしい、
いっそ清々しいくらいですが、だから惚れるっていうか照れますね」
男「違います」
さっきみたいに半裸で出てくるなって言いたいんだよ。
服の金出してやったのもそれが大きい。
しばらく同じ部屋で暮らさないといかんのだ。
男「俺の前ではちゃんと服を着ること。オーケー?」
淫魔「………男さぁん、私、淫魔なんですけど、サキュバスなんですけど」
男「それでも」
通りすがりの女さんを思い出す。
同じ学校の連中が―――まあそうそう会わないだろうが、それでも出くわすことはあるんだ。
保身のためでもあるが。
っていうかモロに保身か。
あんまり評判を悪くしたくないよー。
淫魔「なるほど………男さんは下手に脱いでいる女性よりも服を着ている女性に興奮すると
肌色よりも服の色だと。
布の色であると。
エロ漫画よりもジャンプで連載されていたIsやいちご100%の方がエロいと
そうおっしゃるんですね」
男「………それでいいよ、もう」
淫魔が例に出したその意見については、妙に納得しそうになった。
なるほどと思わされないでもない。
―――いや、待てよ?
男「淫魔」
淫魔「………はい」
淫魔が何気なく口にした『いちご100%はエロ本よりエロい説』
を利用し、どうにか淫魔に服を着せようと考えて画策してた俺だったが。
ちゃんとしておかなければ、と。
こいつを、淫魔を人間界のルールをちゃんと守らせ
郷に入っては郷に従うことをさせようと
言おうとした。
自分でも気づかないうちに、なかなかに真面目な表情をしてしまったようだ。
その表情を見て淫魔は足を止める。
淫魔「えっ男さん………」
おっかなびっくりといった様子で。
淫魔「そんな顔をして―――告白?
私に、そんな、いえまさか―――指輪とか
渡されても私―――あの、嬉しいけれど、でもまだ、
男「そんなわけないから大丈夫だよ!」
何を考えてるんだ貴様は。
男「お前と俺、出会ってから何日たった?
まだ数日でしょう?」
淫魔「男さん、恋は時間じゃないんですよ」
男「それでも突飛すぎ」
淫魔「でも初投稿が去年の10月になってますよ、これは―――」
男「言うな、言うな」
男「次の店行こう」
淫魔「どこに?
いえ、どこでも新しいですけど、私にとっては」
男「どっか行こうぜ、とりあえず
昼間のうちに回れるだけ回って」
電車に比べてバスは結構時間食うんだ
のろのろしていて夜になると
淫魔のことだから「そういうお店行きましょうよ」みたいな雰囲気に持っていこうとするに
決まっている
明るいうちに何とかしましょう
そうしましょう
淫魔「ゲーセン行きましょうよ」
男「ゲーセン?」
淫魔「いや、私は知りませんけど………さっき男さんが言ってて
あれ?聞き間違いでした?」
男「いや、言ったわそういえば」
でもなーあそこ
一人で暇つぶす分には重宝すんだけど
っていうか俺みたいなのは町に出ると
服とか靴とか買わないで
ゲーセンか本屋かアニメイトに流れ着くんだよなー
淫魔「アニメイトでもいいですけど」
男「いいんだ………まあいまさら驚かねえけど」
淫魔「おおぅ………」
流石にそろそろ子供みたいにはしゃぎはしなくなったものの
淫魔は初めて訪れる人間界のゲームセンターを物珍しそうな目で観察する。
淫魔「すごい! ストツー………男さん、あれスト2でしょあれ!」
男「あれはストフォーだな。 ストリートファイターの4だな」
淫魔「えっ………ストツーはないんですか?」
男「まあ、もうないと思うけどな」
日本中探せば、稼働している店舗もあるのかもしれないが。
名作だし。
淫魔「そっかあ、道理で画質が変なわけだ」
男「画質が向上したと言ってくれよ」
淫魔「最近のゲームって、キャラクターが全員美形ですよねー」
男「それは俺も気になるが………ゲームにそういうのはあまり必要ない気がする」
淫魔「うーん」
男「でもストフォーはいいぞ。 ほらこれ、筆のタッチで書いた感じで力強さが出ててよー。
鉄拳もそういうところはあるけど」
淫魔「シリーズものって4からキャラのスタイルが劇的に変わりません?
ロックマンXシリーズとか」
男「確かに同じカプコンだけどな………」
こいつ人間界に来る前にどんだけ知識仕入れてきてんだよ。
淫魔「男さんは詳しくないんですか」
男「俺は周りからはよく言われるけど、
でも言われるほどゲーマーじゃないんだよ」
特定の何かにハマったらどっぷり浸かるタイプだけどな
とりあえずストフォーをやってみた。
バトルが始まると
対戦が始まると、すぐさま余裕がなくなった。
女子相手に戦うのなんて、最初はどうしたものかわからなかったが。
飛び跳ねながら強キックを繰り出しまくってくる。
淫魔「おらあっ! どうですかこれ! このぉ!」
男「くっ………!」
思いのほか強い。
女子じゃなくて魔界の者だってことを忘れてた。
それは関係ないかもしれないが。
俺はといえば、コマンドの入力が変なのか、いつまでたってもソニックブームが出ない。
昔はもっとうまかった………気がするのに
淫魔「ええいっ!………『ウメハラがあっ!』 『………近づいてえ!』」
男「それストリートファイターじゃなくてギルティギアだぜたぶん!」
淫魔「そうなの?」
男「いや、俺も全然、詳しくないけど!
ストリートファイターVSエックスメンならもう少し知ってる!」
淫魔「まあいいや! 私が新しい電波実況を作り出します!」
男「歴史を作る気か、くっそー」
淫魔「勝ちパターン。 しゃがんで強キック」
男「地味に嫌だ!」
レベルが低い戦いが勃発中だ。
リーチが長い蹴りに対して
飛び道具が上手く出せない俺は不利。
男「………とか、上ががら空きだぜっ」
淫魔「ぐわあっしまったあ」
とか、そんなやりとりをしつつ。
淫魔「思いのほかエキサイトしましたね」
男「マジになった」
冷や汗とかかいた。
淫魔「まるでリアルが充実しているようです」
男「あれがリア充なのだとしたら、馬鹿だな色々」
淫魔「いえいえー、面白いじゃないですか
サキュバス族とバトル展開になるなんて、私ですらちょっと予想してなかったです」
男「あれがバトル展開と言えるのかどうか」
淫魔「バトル展開はいいですよー。
アニメなんて、女の子が刀持って戦うのは当たり前じゃないですか」
男「まあ、絵的にはな」
淫魔「………私も持ってこればよかったな」
ぼそっと変なこと言わないでくれ。
刀を?
持ってくるのか。
誰を切る気なんだよ
淫魔「あれ………そういえば、アニメイトでしたっけ」
男「ああ、そういえばそうだった」
淫魔「どっちです?」
男「もう行くか」
淫魔「いえ、急かしているつもりはないんですが」
男「俺はもういいけどな」
あと得意なのといえばレースゲーぐらいである。
しかし最近のゲーセン、音ゲー増えたなー。
別世界になってきた。
男「ゲーセンはなー、これといって、ものすごく好きなわけじゃないんだよ」
淫魔「え、そうなんですか」
男「何となくふらっと入りたくなる」
淫魔「ううん、それって好きだということでは?」
まあ、変な話だが。
そもそも今の時代、家庭用ゲーム機が発達して、オンライン対戦も当たり前だ。
わざわざゲームセンターに足を運ぶ必要もない。
………とか、真面目に考えるとそうなる。
男「ただ………なあ、後ろから見てるのがなんか好きなんだよ」
淫魔「………あー、人がゲームしてるのを?」
男「いや、すごく説明しづらいな、おい。
これ需要あんのか。
俺の話面白い?」
淫魔「いいですよもう、そんなに気にしなくて」
男「嘘だ。どうせみんなエロい話以外待ってないぜ。
淫魔スレだとしか思ってないぜ
俺の独り語りなんて誰も見ないようなブログに書いてろとか、思ってるに決まってるぜ」
淫魔「思ったよりも卑屈な性格ですね男さん………
直したほうが、いいかと。
ここで私が『うわっキモッ、この人暗い!』って言ってあげたほうが
もしかしたら男さんのためになるのかも」
一種の魔物を見るような目で、淫魔は俺を見る。
男「いや、今から言うことに深い意味はないぞ。
ただ教室とかにいるより」
こう、薄暗くて騒々しい部屋で好きなことをやってる人たちを
傍から眺めていると、なんだか好きなことやってんなあ
難しいこと考えてなくていいなあ―――。
俺を意識せずに
ましてや気遣いなんてかけらもなくさらけ出しているところなんてたまらないなあ
―――とか。
ほら。
男「それだけだよ」
淫魔「なんかエロいですね」
男「そう?」
淫魔「ええ」
淫魔「エロい………」
淫魔は少し考え込む。
一瞬、室内の様々な筐体の音に飲み込まれ。
存在が薄れる。
淫魔「うん、やっぱりエロいです」
男「そうかあ?」
淫魔「出てきましたよ、ついに―――『私より男さんの方が変態説』」
男「出ないで、そんなの」
淫魔「いやあ、これは一本取られましたね。
まあ主人公よりも魅力的な敵キャラというのは
面白い話には不可欠なところがありますが。
まずいですね、自信を失う―――ですよ、これ、淫魔がエロさで負けるとは」
男「その言い方だと何か、お前主人公で俺は敵か?」
俺、倒されるの?
え、もしかして刀で?
淫魔「うっわあ負けた。
自分の浅はかなエロさを―――知った。
井の中の蛙ですね。
大海を知らず―――魔界育ちの私は人間界のことなど、まるで知らなかったと」
男「いや、俺エロくないよ?
お前が勝手に負けた気になってるだけ、だよ?」
淫魔「いえいえ、ちょっと気圧された気がします。
エロさメーターが思いのほか高数値を叩き出し―――女子力じゃあないですけど。
ちょっとびっくり。
スカウターの数値を見てビビりました。
故障かな?」
男「お前今スカウターなんかつけてないじゃん」
淫魔「人間は中々に―――」
男「次行こうぜ、次」
やっぱアパートに引きこもってたほうがよかったかな
ゲーセンなんて連れてこないで。
淫魔「寒いですね、外」
男「―――ああ」
淫魔「現世では記録的大雪だそうですよ、観測史上初の記録を―――」
男「ん、何言ってんの、今10月じゃん」
淫魔「………」
男「え?」
淫魔「なんでもないですよ」
男「どこ行くー?」
淫魔「え?メイトでしょ」
男「もう略してやがる………」
淫魔「さっき言ったじゃないですか」
男「ううん」
淫魔「人間界を見たいですね、もっと」
男「ううん、でもなあ」
淫魔「女子と二人ではいる場所でもないとか」
男「………」
淫魔「そういうのとか、いえいえ、どこかで恥を晒していくしかないでしょう、生きていくには」
男「そうかなあ」
淫魔「私も許可下ろすために、人間界に行くために割と試験、本気で頑張りましたよ」
男「………試験あるんだ」
淫魔「いやあ、かっこ悪かったですよ傍から見れば。
もちろん誰でもひょいひょいって来れるわけじゃないんですよ
来たら来たで制限はあるし―――でもまあ、あそこにいるよりはマシですね
何本気になっちゃってんのとか、人間界なんてよっぽどの変魔か物好きかしか
行きたがらねーよって
流石に石までは投げられませんでしたが………
試験はまだマシでしたよ
ですから男さん、居させてください」
男「………えっと」
淫魔「なんでもしますから」
男「………」
淫魔「って言うのが、最近のアニメではよくありますよね」
あるけどさあ。
淫魔「いやあ、マズイですね、今の発言は―――私の。
ちょっともう少し軽い女だったほうが良かったですよね
痴女的には」
男「いや、別にそんなことは」
淫魔「メイト行きましょう、それでなんか物語シリーズの新刊買って
なんか、ここでしか手に入らないもの散々見てから
なんで売ってるんだかよくわからない謎グッズを揃えて自慢話を考えて
魔界に帰ったらあらゆる魔物を見下してやるんです
そうですね―――それがいい」
男「ウチに来い」
淫魔「!」
と、思わず口走っては見たものの。
淫魔が黙ったせいで―――いや、こいつは悪くないけれど
なんだかシリアス方面に入ってきたぞおい
おやおやどうしたんだ
需要ないぞ
男「ま、まあ………すぐに帰れないって言うんなら、ほら」
泊めるのもいいかな、とは女子相手には言い出しづらかった。
いや。
でもまて、こいつ女子じゃなくて魔の者じゃないか。
事実だこれは。
男「ウチでしばらく寝泊まりしてけよ」
どうせ親も滅多に来ないし。
淫魔「―――よ」
男「よ?」
淫魔「嫁に来いと?」
男「流石にそこまでは………」
言ってないです。
今日はここまで
俺と淫魔は、一通り遊び呆けたあと帰宅。
さすがに疲れた。
足が棒のよう。
変な筋肉使った気がするぜ。
淫魔「やけに長かったですね」
男「ん? ―――ああ、いろいろあった気はするぞ」
淫魔「ええ、スレごと、ホームページ………サイトごと出かけていたような」
男「………うん」
淫魔「アクセスしにくい時がありましたが、ウチらの………魔族の攻撃か何かですかね」
男「メタい発言だなあ」
淫魔「いや、まあなんでもネタにしていきましょうよ」
男「うーん、笑い話になればいいのかもしれんが」
登場人物の立場としては死活問題だ。
俺、消えるのいやだよ
淫魔「っていうか、たくさん観光して楽しかったですし、寝ましょうか」
男「うん」
淫魔「シャワー浴びます。 覗かないでくださいよ」
男「うん………まあ」
淫魔「覗くなよ! 絶対覗かないでくださいよ!」
男「大丈夫だよそんなフラグ立てなくても」
こいつが人間じゃないという点を踏まえると、本当に幅広い知識量だな
風呂場から鼻歌が聞こえる。
ジャスラック的な圧力が怖くてアレなので、歌詞についての描写は避けたいが
生徒会役員共の二期オープニングだ。
………なんで今期のアニメの歌えるんだよ
空で歌えるんだよ
魔界で放送してるのか、今期アニメ
淫魔「ふんふふーん、ふーん
ちなみに二期ではなく生徒会役員共✽ですー
………男さーん、何かリクエストありますー!?」
男「………えー!?」
風呂場に聞こえるように声を出す。
アパートなのだが、おとなりさんが心配だが、たまにはいいだろう。
と、思いたい。
淫魔「歌うやつー!」
男「声低くしてー」
声を荒げるのもなんなので、風呂場の前まで行く。
男「そういうの、ええと、寝るときに聞いてあげるから、今は静かに」
言ってから、
ああ、俺もだいぶ影響受けてるなあ、と思った
毒されたな。
淫魔「男さん………今のセリフは、なかなかキマっていたというか、いいですね」
男「忘れろ、そういうんじゃない―――ええと、ニャル子のオープニングで」
淫魔「えっと、 一期? 二期?」
男「一期かなー」
淫魔「ところで男さん」
男「うーん?」
淫魔「今一番問題になっているというか、アツい話題ですけど
―――男さんが覗きにこないかなということについてです」
男「またそれかい。 俺ががっつかなくてもお前が積極的に肌見せに来るんだろ」
もうわかってんだよ、とまでは言わないが。
確実にニャル子ポジションである。
淫魔「ちょっとまずい展開ですね、パターンが読まれててだんだんエロくなくなってきてます」
別にエロくないならエロくないでも、俺は構わんのだが
淫魔「そうはいきませんよ、エロくなかったら私淫魔じゃないじゃんってことになります」
男「いや、別に」
淫魔「それにアレですね、お風呂の話に戻りますけど」
男「湯加減とか大丈夫か?」
魔界の奴らって、お湯とかどうなんだろう
淫魔「私はあんまり感じないんですけど
男さんは、自分の家の風呂場を覗くっていうのは
そうなるとなんだかエロさが消えますよね
温泉の女湯とかと違って」
男「うん? あー………」
たしかにそう………なのか?
湯加減の話とか関係なかった。
でもそうだな
自分のアパートの中で覗きか
テンション上がりはしない、かな
淫魔「私はあんまり感じないんですけど
男さんは、自分の家の風呂場を覗くっていうのは
そうなるとなんだかエロさが消えますよね
温泉の女湯とかと違って」
男「うん? あー………」
たしかにそう………なのか?
湯加減の話とか関係なかった。
でもそうだな
自分のアパートの中で覗きか
テンション上がりはしない、かな
そんなこんなで淫魔が上がり、俺も軽く湯船で身体を解した。
淫魔「お風呂上がりましたかー」
男「おうおう、」
淫魔「寝ましょうよー」
男「布団敷いておいたぞ」
お客さん用の布団、稀に役立つ。
まあ片付けとか整理整頓のセオリー的には
こういう、たまにしか使わず、大きい荷物は一人暮らしには必要ないそうなのだ。
だから俺の部屋はお世辞にも綺麗とは言えない。
ううん、でも実際、今日は役立ったしなあ
こういうところが部屋の床を隠していく原因なのかもしれない。
淫魔「ご丁寧に、助かりました。 そこまでお気を回さずともよかったのにぃ。
わあ、布団が二つあるー。
しかも私の布団はあまり使っていないためか、シワもひとつもないんじゃないかっていう
綺麗さ………って、おい!」
男「なんだよ………」
淫魔「あの、これ………寝る場所、二つある!」
なんでちょっとカタコトなんだよ。
さらに言えばベッドと布団なので高低差もある。
男「うん、二人分。 広いほうがいいよな。
狭いアパートだけどよ」
明日も早い。
課題もやったし。
男「じゃ、おやすみ。 俺は明日7時起きだわ。 お前はゆっくりしていってね」
淫魔「待ちなさい」
すごく真面目な口調になった。
それは女教師が「廊下に立っていなさい」という時のような口調である。
そんな感じをイメージしていただきたい。
ここから先の会話は平行線というか、
まあ。
淫魔「いや、ただで男さんのお宅に泊めてもらうわけには」
男「いいって。友達が久々に来た、みたいな気分になったし」
こいつもいろいろ大変そうだしな。
すぐに追い出すほど、鬼じゃない。
………魔界の鬼、いるのかな。
見たことあるのかなあ、こいつは
淫魔「なんかエロいことしてもいいんですよ………」
すごく困った顔をしている。
なんだこいつ、見せ場、出番が奪われたという気分なのだろうか
若い芸人とかの心境かなあ
淫魔「あの、その―――か、風の噂で………」
風邪?
淫魔「風の噂で聞いたんですけれど、『ニャル子さん』の原作が完結したとか」
男「ああ、あれ? アニメ化してたよな、そうか完結しちゃったのか………」
めちゃくちゃ好きってわけじゃなかったが。
パロディに突き抜けた作風はまあ、迷いがないというか
行けるところまで行ってる感じがあった。
しかし、それがなにか関係あるのだろうか、話に。
淫魔「男さん、私はまだ、終わりたくない………」
男「………」
ライバルかなにかなのか。
ニャル子さんの。
淫魔「終わっちゃったら、終わるじゃないですか。
私はもっとこう………」
男「いや、別にそんなことないよ。 終わってる?
いや、何言ってんだ」
淫魔「私はエロいんです。 ほら私は、もっとエロくないと―――あの、」
淫魔はここで言葉を詰まらせる。
視線が宙をさまよった
男「………?」
淫魔「………いえ、やっぱり、なんでもないです」
男「まあ―――、今日は、寝ろよこの部屋で」
このセリフを言うだけで俺はもう手一杯だぜ
ドキドキなんだが。
急にしおらしくなった様子の淫魔。
まあ余計に声をかけるのもなんなので、蛍光灯を切って寝床に入る。
部屋の電気を消してからも、少し話した。
もちろん布団とベッドで分かれてるよ。
ちゃんと。
淫魔「………男さん、起きてます? まだ―――」
男「うん………」
淫魔「気分は? エロくなってきません?」
男「いや………」
だから真っ暗でお前の身体とかも見えないし。
淫魔「男さん………」
小さいけど、少し力が入った声。
暗闇に溶けないように、だろうか。
男「うんー?」
返事してわかった。
寝ながらだと、喋りづらいかもな、確かに。
外からは、ほとんど何も聞こえない。
ほかの音はといえば………。
部屋の隅、上から………
男「おっと、もう暖房、切るぞ」
淫魔「………はい」
淫魔「男さん、あれだったら、好きにしていいですよ―――疲れたでしょう、今日」
男「………疲れた、かあ」
疲れた、ねえ。
男「俺は久しぶりだ、こういうの」
淫魔「………ですよ、ね。 私が来て」
男「静かなところだろ、このアパート。 学校からも結構離れてて………」
学生も、ほとんど見かけない。
男「友達、全くいないわけじゃないんだけどな。
まあ、ここまで、この部屋まで遊びに来る奴はいなくてな。
俺がダチの家に上がらせてもらうのが多い、パターン………」
淫魔「そうですか………」
男「休みの日に、こう………こういうの、あまりなくて。
最近、『ああ、疲れた』って思ったことなかった気がする、課題以外で」
淫魔「男さん、行為に及ぶ前から疲れていては………駄目ですよ」
男「及ばないよ………」
昼間、お前のブラ姿見たろ。
男「あれで十分だよ」
淫魔「………えー………」
つまらなさそうに、口を尖らせた。
見えないけど。
淫魔「男さん、草食系って、ホラ―――流行ってるじゃないですか
草食系男子………」
男「流行ってるか、は知らないが」
淫魔「でも男さん、こういう時はちゃんと男っぽい行動に出ないといけませんよ」
男「俺は………いや、」
淫魔「………嫌ですか」
男「いや、そうじゃなくて。
その、エロいエロい言ってくるのもなあ、と」
ぶっちゃけ、こいつ見てるとそういう気にならないんだよな。
いや、話していると、か。
淫魔「そうですか、芸人枠ですね………」
男「それこそニャル子さんポジションだよ」
男「もっとエロくないほうがいい………」
淫魔「………え?」
男「あと、エロいだけの………ひたすらエロイだけの女とか、ぶっちゃけ、怖いわ」
淫魔「こ、怖いんですか」
男「いやあ、何かありそうでな………そんなうまい話があるわけねーよ、とか、思ってしまう」
何かの悪徳商法じゃあないけど。
淫魔「エロくないほうが、いい………?」
静かな口調は変わらないが、しかし緊張度が変わる。
こだわり持ってたんかなあ、こいつ
エロさに。
なんだか調子が狂う様子だ。
あれ、こんな感じだったっけ。
こんな感じもなにも、出会ったばかりだから(ということになってる。
4ヶ月経ったとかいうはツッコミはナシだよ)
こいつの性格なんて理解していないけど
男「夜だから………?」
淫魔「え?」
男「いや、なんでもない」
淫魔「どうしたんですか、男さ、ん。なんかおかしいんじゃ、ないですか、様子が………」
男「いや、なんか………暗い話でゴメンな」
妙に色っぽい?声を出す淫魔。
声というか、息?
様子が変、だと思う。
俺じゃなくて、淫魔の。
淫魔「いえいえ、まだ終わりませんよ、あと10年は戦えますよ」
男「そんな長期戦を宣言されても………」
淫魔「あああ、そうですよね、SSはもっと、なんでしょう………これ
とにかく楽にいったほうがいいですよねえ、10年続くSS………
何を言ってるんでしょう、私」
男「確かにそれはショートショートじゃあないな………」
淫魔「………あれ、ショート小説の略じゃない、ですか」
男「何の略か忘れた」
淫魔「ううん………ありますよね、そういうの、まあ、それでもいいんですかね
簡略化、削るのはいいことですもんねぇ」
磨り減ってる。
すり減るような息を重ねる淫魔。
掠れてる。
男「………」
男「………淫魔、目を瞑っておけ。しっかりと」
淫魔「………え? それは、えっと、どういう」
男「つけるぞ、電気」
ベッドから起き、立ち上がり、淫魔のいる布団を跨いでスイッチのある場所まで行く。
自分の部屋だから、慣れたもんだ。
と、部屋を明るくした。
淫魔の顔は、紅潮していた。
不自然に。
男「………お前、え、ちょっと」
淫魔「ど、どうしたんでしょう、目を瞑れって、これ、ああ、やっぱりアレですかね
きす、とかされちゃう流れ、なんれしょうか」
男「………」
淫魔の顔………目の上に手を置いてみた。
淫魔「ひゃぁ、」
男「………これ、熱があるんじゃ、ないか」
男「………お前、え、ちょっと」
淫魔「ど、どうしたんでしょう、目を瞑れって、これ、ああ、やっぱりアレですかね
きす、とかされちゃう流れ、なんれしょうか」
男「………」
淫魔の顔………目の上に手を置いてみた。
淫魔「ひゃぁ、」
男「………これ、熱があるんじゃ、ないか」
そんなこんなで、一晩明けた。
………まあ、いろいろ考えたが、こういう時はひたすら寝たほうがいいのだ。
魔界の者でも、休息は必要だろう。
―――エロい話?
ないよ。
その点に関して、淫魔はひどく悔しがっていたが。
翌朝のこと。
淫魔「ううう………体が熱くなっちゃって………火照っちゃいますぅ」
ピピピ。
と、電子音が鳴る。
男「―――39度7分。 淫魔、お前、平熱は?」
淫魔「ふぇ?」
男「ふぇえ、じゃないよ。 お前そのキャラはいくらなんでも―――変わりすぎだお前」
淫魔「え、でも萌えるし―――」
男「そんなこと言ってる場合でもないだろ。
普段、体温は?
人間の平熱、っていうか常識はいまいち当てはまらないだろうし
お前魔族だろ」
淫魔「ああ、私ですか? 人間よりちょっと高いくらいですよ。
私はいつも37度くらいですが」
男「ふうむ」
よし。
風邪だな。
男「………じゃあ俺、学校行くから」
淫魔「私としたことが、一生の不覚です」
男「いや、休んどけ休んどけ」
淫魔「いや、だってエロいし………」
男「うん、エロいエロい、お前エロいから」
淫魔「私はこんな………一人で寝るためにやってきたわけではありません」
男「馬鹿言ってないで。 よくよく考えてみりゃ普通のことだ、慣れない土地に来てよ、
なんつーかお前、頑張りすぎ」
まあ頑張っているというのもおかしい表現だが。
こいつは頑張ってふざけている感があった、ように思う。
体調崩す原因になるかはわからないが。
しかしこういう時、何もできないのが悔しい。
いや、何もできなくはないが、なんだろう
自分が風邪ひいたら、それならまだいいとして
たとえばひとり暮らしの俺のアパートに友人が来て、そいつが一晩たったら風邪をひいている
なんてことになって薬の一つも渡せないようでは。
っていうかそんな状況、異常だろ。
男「薬………か」
戸棚を探すと、ひとつあった。
熱が下がるだろうか
しかし風邪って、薬使って治すもんでもないよな、やっぱ。
寝ればいい。
男「カゼコールド………2011年4月………配置期限………配置期限?」
淫魔「男さぁん、遅刻しちゃいますよお、学校」
男「うっ。 そ、そうか」
男「これ、風邪薬だ。 辛かったら飲め。
あと冷蔵庫にヨーグルトあるから、たぶん身体にいいだろう
行ってくる」
淫魔「うう、何から何まで、ご親切に
私―――この風邪を治したら………男さんと結婚するんだ」
男「気合で直せよ! 変なフラグ立ててないで」
淫魔「はぁい………」
そんなこんなで玄関を閉め、学校に向かう。
学校
男「ふぅ………」
男友「よお、男」
男「あ、ああ、おはよう」
男友「どしたのお前、なんかテンション低いな」
男「いや、別に………まあ、色々あってな」
まさか俺の家に淫魔がやってきた、なんてことは言えないだろう。
しかし話してもいい内容は、あるか。
男「………あのさ、風邪ひいた時にさ」
男友「うん?」
男「どうやって治す? 風邪薬とかお前は、飲んだりする派?」
男友「風邪かー、いいなあ、俺も学校休みてえ」
男「………」
男友「年に一回は休みたいよな」
男「お前に聞いた俺が馬鹿だったよ」
男友「いやあ、実際一日くらいいいじゃん―――馬鹿か。馬鹿だったら風邪は引けねえなぁ
うーん。 馬鹿だったら損するなあ。
休みたくても、休めないんだから」
男「………」
男友「で、なんなんだ、男、お前風邪ひいてるの? ひいちゃってるの?」
男「いや、そういうワケじゃないんだが―――」
男「ただ興味本位でさ―――あ、えっと親がさ、この前風邪ひいたらしくてさ
で、結構慌ててよ」
男友「ああ、そうなん? まあ寝ればいいんじゃね」
男「………そうなるよなあ。
―――あ、お粥だ
お粥作ればよかった」
男友「ああ、そうだねえお粥いいらしいなぁ。
アレあんまり栄養あるように見えねーけどな」
男「そこはお前………まあ、そうか。
梅干しとか入れてさ」
男友「梅干し、ねー」
男友「梅干しかー、うーん、最近コンビニおにぎりでしか食ってねーや
お前梅干しとか食べてんの?」
男「うん? うーん………」
ひとり暮らしで梅干し。
正直、食べない。
一人暮らしを始めた当初は、特に考えなしに買ったけど
冷蔵庫に長く入れっぱなしで。
毎日食べるもんでもない。
男「食べないよな………でもいいな。
二人なら、食べきれるものもあるしな」
男友「うん?」
男「いや、なんでも」
男友「そっかー、あのさ男、お………」
男「うん?」
男友「お………俺ん家で………いや、なんでもないっ」
男「? そうか?」
男友「うん、なんでもない。あとアレだ、果物とか、いいんでねーの?
風邪の時な」
男「! お、おお、そうか果物ね」
そんなこんなで学校終わり。
授業はあまり記憶に残らない。
淫魔のことが心配だ。
主に体調。
性格も心配だが。
うん、すべてが心配だ。
スーパーで買い物をする。
果物、果物ね。
野菜のコーナーの隣かな。
男「バナナは朝飯にもいいよなー、安いし」
女「あ、98円だ、今日」
男「お………、ああ、本当だ、こりゃいいや
………って、主婦みたいだな俺」
女「あはは、本当だね」
男「あ、………」
女「あ………」
女「………こんにちは」
男「ち、は………こんちは」
女「男くんも、お買い物?」
男「え、俺は別に………何も」
女「………いや、ここスーパーだから。 男くん、それってボケのつもりなの?」
男「………うん、買い物」
めっちゃキョドってしまった、俺。
男「バナナ買いに来た、俺」
女「そう」
男「うん」
女「………うん」
男「それだけ」
なんだこれ。
なんだこの空気。
女「………じゃあ、また学校で」
男「また、学校………明日に」
女「じゃあね」
男「あ、うん」
………そうだ、早く淫魔のところに帰らないと。
うん。
そうだ。
そのまま、なんだか空気の抜けたようなテンションでアパートに戻り。
鍵を開けると、淫魔がいた。
ベッドではなく、キッチンに立っていた。
エプロンで。
淫魔「………あ、男さん、おかえりなさい。
ご飯にする? お風呂にする? それとも、私?」
男「………」
淫魔「ああ、私ですよね」
淫魔「これはもう、完全に私のテンションですね。
私以外ありえないですよね
まあしかし、キッチンに立っていても、なんでしょう―――レトルトが多くて
料理するものなんてあまりなかったんですが」
男「お前風邪ひいてるんだろ!」
まだ顔が赤い。
いや―――青い?
淫魔「男さん、他に言うことあるんじゃないですか、もっと」
男「え? あ―――、ああ?バナナ買ってきた、ぞ」
淫魔「………………ああ! エロい意味の?」
男「普通の意味の!」
淫魔「ふうむ、果物ですか―――まあヨーグルトの件といい、エロいですね男さん」
別にそんな計算をしたつもりはない。
普通に身体にいいものを選んだまでである。
淫魔「それより、 ケホッ 言うこと………ないですか」
男「大丈夫かお前、布団に戻れ。今、お粥も作るから」
淫魔「げほ、げほ」
淫魔「ちょっと、離れて―――ください、おさわりは禁止です―――まだ」
焦点の合わない目。
それでも、頑張ってくるりと身体をターンさせる淫魔。
足がばたつくっていうか、もつれてる。
淫魔「ただのエプロンではありません―――裸エプロンです」
男「お前風邪ひいてるんだろ!?!?」
淫魔「わ、私って ケホッ、 ホラ………エロいですから………」 ガクッ
男「淫魔ーーーーっ!」
はい今日はここまで
淫魔「ふっふっふ………どうやら私は新しい属性を手に入れましたよ
そう、『病弱設定』です………
世の中の男子すべてを虜にするびょゴホッ
ゴホホッ
『病弱設定』………!
どうです………萌えるでしょう………
ど、ゴホです、男さん………!」
ベッドで横になり頭に氷枕を乗せて顔を真っ赤にしている淫魔は言う。
したり顔も体力が底をついていては台無しだ。
男「まってろ、いま栄養のあるものを作ってやる」
淫魔「栄養のある精液?」
男「違う。とにかくお前は休め」
淫魔「………駄目よ、7時半に空手の稽古があるの、付き合えないわ」
男「今日は休め」
このネタわかる人がどれくらいいるのやら。
男「なんか栄養のあるものをくれてやる。
作ってやるよ。バナナとあと、リンゴも買ってきた。
お前食べるよな。
リュークだってよく噛じってるし、平気だろう、淫魔なら」
淫魔「………」
男「腹減ってないか?」
淫魔「いえ、もらいます、すみません」
意識が朦朧としているようだ。
男「とりあえずリンゴ剥くから。 えーと、皮剥き………」
淫魔「………」(そこは包丁で器用に剥きましょうよ………)
淫魔「しかしベッドで寝込んでいる淫魔というのも、これは成功。
これはこれでアリというものです」
男「おとなしく待ってなさい。妙なことまたやるんじゃないよ」
淫魔「サキュバスで、しかも病弱な女の子ですよ………このハイブリットな属性。
私くらいなものですよ。貴重価値………!
ゲホ、貧乳はステータスだ、希少価値だ………!」
色々付け足して頑張ってる感はあるけどな。
うん。
ガムシャラになって色々間違った方向に進んでる感は否めない。
そしてお前は貧乳ではない。
淫魔「エロくて病弱な女の子………すごいですよ。
もうこれはですね、ラーメンとカレーとお寿司を同じ皿にのせたくらいの贅沢です………!
そうに違いありません」
男「同じ皿に入れちゃあいかんだろう」
淫魔「全部乗せですよね、時代は」
男「いや、頑張るのはいいことだがな………なんていうか、お前は、ご飯食べて寝ろ」
淫魔「男さんを食べてから」
男「馬鹿言ってないで」
淫魔「添い寝。 いいですね―――聞きましたか、せめて添い寝だそうですよ男さん。
それ添い寝。
ソレそっいっね!
あソレそっいっね!」
布団の中で手拍子を始める淫魔。
手をたたいているがあんまり音が出てない。
男「………」
淫魔の口にバナナを突っ込んだ。
淫魔「おごっ!?」
男「食べろ」
ベッドで横になっている淫魔の口に果物を押し込む。
フルーツは身体に優しいのだ。
淫魔「 」 も、もごぉー!
男「栄養があるぞ。素晴らしい食べ物なんだバナナは。
スポーツ選手も大好き、みんな大好きなバナナ」
淫魔「 」ほごぉー
涙目になってんぞ、淫魔。
お、それでも食べてる。
頑張って食べてる。
夕飯。
夕飯がバナナでは物足りない。
今からご飯炊いてお粥を作ろう。
男「まだまだ前菜だぜ、これは」
淫魔「………太くて硬かったです」
男「………硬いわけない」
バナナだぞ。
男「で―――いまご飯炊いてる。 お粥を作れるモードになってるから
これで大丈夫だと思う」
淫魔「だと思うんですか? え、作れないこともあるんですか?」
男「お粥作ったこと、実際一度もないからな………やってみるまでわからん」
淫魔「はあ」
男「あと、ぶっちゃけ俺の炊飯器は信用ならなくてな」
淫魔「信用ならない?」
淫魔「信用ならない炊飯器って………」
語尾が掠れてる。
あんまり喋らせるのは良くないだろう。
男「いや、ガタが来てるってだけだ。
古いわけじゃないんだけど、ちょっと壊しそうになってな………いや、完全に俺のせいなんだけど」
淫魔「はあ」
男「それよりお前だよ。お前の体調、大丈夫か、なんで崩したんだよそもそも」
淫魔「はあ………いえ、私にもよくわからないんですが」
淫魔「信用ならない炊飯器って………」
語尾が掠れてる。
あんまり喋らせるのは良くないだろう。
男「いや、ガタが来てるってだけだ。
古いわけじゃないんだけど、ちょっと壊しそうになってな………いや、完全に俺のせいなんだけど」
淫魔「はあ」
男「それよりお前だよ。お前の体調、大丈夫か、なんで崩したんだよそもそも」
淫魔「はあ………いえ、私にもよくわからないんですが」
言ってから気づいたが、言いながら気づいたが。
そもそも淫魔は最初から寒いって言ってた。
寒いっていうか薄着だったし。
そして来たばかりの町を、人間界の町を連れ回したのは俺だった。
男「これは責任を取るのは俺だな」
淫魔「え、結婚ですか」
男「ないけど。 それはないけど」
淫魔「なんだか、久しぶりに休んだ気がします」
布団の中でそう言う淫魔。
男「………うん?」
淫魔「ゲートの………あの、こっちに来る許可降りるまで勉強ばかりでしたから」
男「………」
淫魔「別に辛いわけじゃないですよ。
人間界楽しそうなので………来たかったので。
夜遅くまで勉強して」
男「そりゃあ大変だったな」
淫魔「実は魔界にいるときも友達に心配されたんです。
なんだかフラフラしている時があるらしくて」
男「そりゃあかん」
淫魔「勉強したあとはアニメ見て寝てました」
男「おい。それはオイ」
淫魔「心配しなくとも、人間界のアニメですよ。友達が特殊ルートで手に入れたのを貸してもらって。画質が荒かったですけれど嬉しくて何回も見て」
男「………え、それいつ寝てんのお前」
淫魔「さあ」
男「さあってお前………死ぬぞ」
淫魔「記憶があまり………
いやあ、人間界行けるようになればあとは休み放題だと思って、だから」
男「せっかく来たのに」
淫魔「でも好きなことは毎日やってたほうがいいですよ、できるだけ」
男「まあ、そりゃ少しはそういうもんっていうか、息抜きはいいけど。
いや、息抜けてない。
今日はちゃんと休んだんだろうな、お前。 あの裸エプロンはいつ思いついたんだ」
淫魔「暗くなって………まあ夕方くらいに帰ってくるだろうと踏んで、スタンバイしていました。
男さんが来る頃から」
男「へえ、じゃあ昼間はちゃんと寝てたんだ」
淫魔「いや、布団には入ってたんですけどNHK教育番組とか見てました。
将棋はよくわからなかったので、ざわざわ森のがんこちゃん見てましたよ」
男「風邪ひいた時の小学生みたいなやつだなお前」
日本人なんじゃねーのこいつ。
場所は変わって、男の友達の家。
その、男友の部屋―――。
男友「ううむ」
金髪妹「どうしたんです、男友さん」
男友「いや、どうしたものかと思って」
金髪妹「どうしようって、それは私の台詞です。 早くお兄ちゃんの様子を見に行かないと………。
もう、心配で心配で………」
金髪の女の子、小学生くらいに見える―――は落ち着かない様子で椅子に座っている。
男友「そんなに心配なのか………その、君のお兄さん」
金髪妹「ええ―――大きな声では言えませんが、ダメ男です」
男友「ダメ男なのか」
金髪妹「私がいないと、お兄ちゃんはこの世界ではやっていけません。
故郷、魔界ですら、お兄ちゃんは………ううん、名誉のために黙っておきますが
残念な兄とよくできた妹。
そう考えてもらって問題ありません」
男友「その言い方、もう名誉は崩れてる気がするけど………」
金髪妹「とにかく、この近くに反応があるので、あなたの近くのお宅に、お世話になっている
可能性が大です」
男友「はあ………とは言ってもなあ」
どうしよう。
最近、いきなり部屋に現れたこの金髪の少女。
本人は魔界から来たと言っているが、俺はどうすればいいかわからない。
どうも、兄を探すために………この子曰く残念な兄を探すために
親に黙って魔界とこの世界とを繋ぐゲートを通ってきたらしい。
昼間―――ああ、昼間に相談しておけばよかったかなあ、男に。
教室であった時。
あいつならなにか上手い手を考えてくれてたりしたかも………いや。
俺は馬鹿だから、たぶん説明できない。
誤解される。
かなりひどい誤解をされる。
突然、部屋に見知らぬ女の子が現れた。
しかも魔界から来たらしく
不思議な力も持っている―――なんて事を、あいつに言ったらなんて返してくるだろう。
馬鹿馬鹿しい。
そんなことあるはずない。
俺だって信じない。
いや、実際に証拠を、この子を見せればなんとかなるかも―――ううん、でもいけない。
それはそれでさらなる事態の悪化を招くことになる。
金髪の幼女を自室に囲っている男がいる。
という状況。
あいつはいつもと変わらない、寝てるんだか起きてるんだかわからないような表情で
携帯電話を取り出し、静かに『110』の数字を押し、繋がった先に状況を詳しく伝えるだろう。
そして赤いサイレンを回しながらやってきた監獄車は俺の家の前に停まるのである。
あいつは何気にやることが、すごいっていうか―――容赦ないところがあるのだ。
男友「………はやいところ、お兄さんを見つけたほうが、楽かもな」
金髪妹「はい、楽です。 わかってくれて助かります」
男友「いやいや、当たり前のことをしているまでだよ」
面倒事は避けたい。
当分、この子はうちの遠い親戚で外国人とのハーフ、ということにしよう。
いや、ハーフって、こんなに鮮やかな金髪をしているものなのか。
分からないが―――とにかくこれで男にも話してみよう。
と、考えている最中。
ガチャ、とドアが開いた。
友妹「お兄ちゃん、ちょっと宿題また聞きたいところがあるの―――」
友妹「お兄ちゃん、お兄ちゃんココ、この問題!」
男友「………お、おう、またか」
友妹「うん、今度こそラストだから」
男友「ああ………まあ、いいんだけど、全然。 また算数か」
友妹「うん、そうなの。 ここ! ほらコレ、どうやって答え出すの?」
男友「ここはな………あぁ、こりゃひどい」
友妹「えーっ、そんな言い方ないよー!」
男友「………で、こうなるんだ」
友妹「あー、なるほどなるほど完璧だね、これで私」
男友「主に俺のおかげでな」
友妹「………お兄ちゃん、さ」
男友「なんだー? 他に解けないやつあんの? 自分でやってみ」
友妹「シャンプー変えた?」
男友「………うん?」
男友「なんだそれ」
友妹「だってなんか―――やっぱいいや、ごめんね、いつもと違う気がしただけ」
男友「………」
友妹「じゃ、また面倒な問題あったら持ってくるから」
男友「………できるだけしつこく解説してやるわい」
友妹「じゃーねー、なんかごめんねー」
妹(普通の日本人)はそう言って、ドアを閉めた。
耳を澄まして。
階段を降りて下の階に行く音を聞いた。
男友「………もういいぞ」
そう言うと、ベッドの下から金髪の女の子が出てくる。
金髪妹「………ホコリが、多い」
男友「ごめんな、まあ………見つからなかったのが奇跡だ
うまくごまかせた、かな」
金髪妹「今のあの子は―――あなたの妹さんですか」
男友「うん、わかるのか?」
金髪妹「ええ、似ていらっしゃいましたし」
男友「………そんなことないよ」
金髪妹「似ていましたよ。 なんでそこを否定するんですか」
男友「いや………なんだか」
アレと似ているって思われるのはかなり抵抗がある。
家族なんて見飽きてて食傷。
あまり直視したいものではないんだ、これが。
男友「とにかく、あいつにはバレないようにしてほしい」
金髪妹「ええ、それはちゃんと頑張ります。 私の逃げ方は………回避スキルは中々だったでしょう」
男友「うん………あっという間にベッドしたにスライディングしてた、な………」
と、言ってるうちに。
床に膝をつけて座り込んでいるこの金髪の女の子の足元に、雑誌が
引っかかっていることに気づく。
ベッドの下から出てきたのだ。
男友はさりげなく金髪の女の子に近づき。
男友「ああ、そういえば………あの、妹だけどさ」
金髪妹「はい?」
話題を逸らし。
雑誌をつま先で蹴ってベッド下に送った。
あんなところにUFOが、とまるで変わらない手口。
金髪妹「あれ? 今なにか………」
男友「何もしてないよ? え?何かしました僕は。 何も………」
と、話題をそらし続けようとしていたら、突然。
それは突然。
金髪妹「―――っ き、ゃああああああああああッ キャ―――ッ!? 」
男友「!?!?」
金髪妹がタックル同然で抱きついてきた。
一応、受け止めたが。
な、何事?
金髪妹「あ、あああ、あれ、 アレ!」
男友「ん、うん?」
そのこと指指した先には、あの古い家屋に出現しがちな黒く素早い虫………によく似た、ホコリだった。
どうやらベッド下から出てきたらしい。
男友「………Gに見えるといえば、見えるな」
金髪妹「だ、ダメなのあれは………な、何とかして!」
男友「―――落ち着いて。あれは思ってるうようなもんじゃない、よく見てみろ、虫じゃないぞ」
金髪妹「ほ、本当に………?」
う、可愛い。
いや、可愛いというか―――珍しい。
日本では滅多に見かけないような白い肌だ。
ロシア人なんかだと、この子に近い顔立ちなのかもしれないが。
うっかり、その子の肌に見入ってしまった。
それは良かったのだが、悪くなかったのだが、問題はそのあと。
部屋の外で階段を上る音が聞こえたかと思うと、すぐにドアが開いた。
友妹「なに、今、悲鳴が………
お兄ちゃんどうしたの?
いま女の子の悲鳴が聞こえたけれど、つまりは正確には、私と同年代、小学校中学年の女子、
ううん―――『女子児童の悲鳴』が聞こえたけれど、お兄ちゃん、今のは一体―――!」
俺と、金髪のロリ少女が抱き合っているような絵面だった。
今日はここまで
待っていてくれた人がいた。
申し訳ないとは思っているよごめんなさい
淫魔「私以外にもたくさんいるという話です。なんでしょう………皆さんやることは同じといいますか、やはり一番乗り、というのは
簡単にはできないものですね。オリジナリティを出すのは難しいです」
男「お前みたいなやつはお前しかいないよ………そうか、たくさん来ているんだな。
思ったより、地球は侵略されつつあるみたいだ」
淫魔「それは、そうですね侵略ですか。ええ。手始めに男さんの下半身から侵略していきたいと思います」
男「侵略者がみんなお前みたいな馬鹿なら少しはマシなんだが………」
一方その頃。
女さん家。
女「ふう………やっぱり出歩いたのは行けなかったかなあ」
男くんに見つかってしまった。
金髪の魔人………魔人?で、いいのかな。
一緒にいたところを。
まいったなあ。
まいったのかなあ。
女「よくよく考えると、デートみたいに見えていた、かも」
金髪「おい、おうい女よ、ご飯はまだか」
女「………もう少しよ」
部屋からイントネーションが妙な日本語が聞こえる。
私はキッチンで一生懸命料理中だ。
料理。
一人暮らしをしているので自然と作る機会は多いけれど、上達しているとは言い難い。
今だって、作っている料理は鍋。
食材が多くて豪華な感じもするけれど、大雑把に野菜を切ってあとはガスコンロに頑張ってもらうだけのお手軽料理だ。
コタツにお鍋。
寒い季節はこれで耐える。
今までは食べきれないかもと思って控えていたんだけど、お客さんが来ているならちょうどいい。
女「もう一度聞くけれど、アンタさ、食べられないものとかある?
ていうか地球の食べ物大丈夫?」
金髪「ううん? もう一度、ゆっくり言ってもらえないか?
早口は聞こえにくい」
女「………」
どうも、日本語にはまだ慣れていないらしい。
魔界から来たばかりなので、普通のこと、ではあるのだろう。
金髪「お主の声は―――キンキンしていてうるさいのう」
女「そう?」
聞き取りやすいって言われたことは多いんだけどな。
友達いわく、早見沙織って人に似ているらしいんだけど。
私はあまり興味がない声優という分野なので、その時は首を傾げるだけだった。
金髪「いや、今はそうでもないのだが―――もう暴力での交渉はやめにしてくれ」
女「あの時は仕方がなかったのよ………突然部屋に現れたあんたが悪いんでしょ、正当防衛よ」
金髪「あれは痛かったが叫び声も相当であったぞ………」
淫魔「声優さんかぁ………」
男「ん?」
淫魔「声優さん、声優さんねえ」
男「どうかしたのか声優さんが。それとも西友の方か」
淫魔「ねえ男さん、私のCVは誰だと思いますか」
男「………いや、そんなこと言われても」
淫魔「私の声はどんな大御所声優さんがやってくれるのか、と聞いているんですキャラクターヴォイス、CV」
男「と、突然だなお前………なんだよ急に」
淫魔「いえ、この町のどこかで声優の話題が発生したような気がしましたので」
男「お前のよくわからないセンサーについてはわからんが………いや、どうでもいいのではないかと」
淫魔「どうでもいい!?」
男「あ、いや」
淫魔「男さんは声優は誰でもいいと!?誰がどんな声でも構わないと!」
男「そうは言ってないよ………」
めんどくさくなった。
こいつって急に面倒くさくなるなあ。
男「うん、声ね………わかったよ考えるよ。お前の声ね………」
下手なこと言ったらまたうるさくなるんだろうなー。
どうしようか。
ヒントが欲しいぜ。
男「………ちなみにお前はどんな感じの声を………その、目指してるんだ?意識してるっていうか」
淫魔「そんなもの決まっています、エロい声です」
男「………」
淫魔「エロい声、あ、いや………『一番エロい声を頼む』」
男「エルシャダイ風に言わなくても」
男「色気がある、ってことでいいのか?」
淫魔「ええ、そりゃあもう凄まじいくらいの色気です。覇王色の色気です」
男「はいはい………」
と、考え出してはみたものの、声優知識が半端な俺では思いつかなかった。
そういえば国民的アニメ『ルパン三世』の峰不二子役の声優が、世代交代で沢城みゆきさんになったらしい。
って、もう2、3年前の話か。
とりあえず純粋なお色気キャラという意味では峰不二子が浮かんだけど。
でもこいつは、淫魔はバラエティ枠だよなあ………
男「色気ねえ………」
思えば色気がある声、というのは少ない気もする。
いい声だなあ、可愛い声だなあと思う声優さんは増えてきているけれど。
淫魔「ゆかな」
男「ん?」
淫魔「CVゆかなって憧れますよね」
男「あー………セシリアだっけ?」
淫魔「アマガミの七咲ちゃん!」
このSSまとめへのコメント
続きを気長に待ってますぜ(๑╹ω╹๑ )
同じく
いいねぇ、こういう雰囲気、好きだよ。
のんびりと、続き待ってるぜ。