佐久間まゆ「百合営業ですか?」 (36)

~響子の部屋~

五十嵐響子「百合って分かりますか?」

まゆ「お花の百合……ではなさそうですね」

響子「女の子同士の恋愛のことです」

響子「といってもアダルトな感じじゃなくて、友達以上恋人未満……くらいの」

まゆ「なんとなく分かりましたけど、営業ってどういうことです?」

響子「わざとイチャイチャして見せるんですよ」

響子「手を繋いだりとか、デートしましたって話すとか」

響子「すると男性ファンが喜びます」

まゆ「本当に?」

響子「……らしいです」

響子「そして、ここからが本当の狙いなんですが……」

響子「それぞれ担当プロデューサーと、堂々とお付き合いできるようになります」

まゆ「詳しく聞かせてください!」

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響子「まず前提として、私とまゆさんはそれぞれ担当プロデューサーを好きです」

響子「恋愛禁止というわけではないですが、素直にお付き合いしてくれそうにありません」

まゆ「そうですね……どうしても担当プロデューサーという立場を気にしてしまうようです」

響子「そこで百合営業なんですよ!」

響子「おそらく最初は、仲良いなぁ程度の認識だと思います」

響子「プロデューサーさんも、ファンの方たちも」

響子「でも何度も百合営業していると、心配するファンが現れます」

響子「もしかして男嫌いや男性恐怖症ではないか? って」

響子「そんな噂が広まると男性と共演するお仕事が減るかもしれません」

響子「むしろ積極的に断っていきます」

まゆ「……ああ、分かってきましたよ」

まゆ「男性恐怖症を克服しないとお仕事を続けられない」

まゆ「克服するためには男性とお付き合いするのが一番手っ取り早い、ということですね」

響子「そうです。そしてそこでも噂を利用できます」

響子「見ず知らずの人は怖いけど、よく知るプロデューサーさんなら……ね?」

まゆ「でも都合よくそんな噂が流れるかしら」

響子「噂が流れるように行動するんですよ」

響子「男性共演者さんを怖がったり」

響子「そんな噂が流れてるみたいで……とか話したり」

まゆ「まあ……! 響子ちゃんって意外と策士ですね、うふふ」

響子「ただ、一つ懸念があって」

まゆ「懸念?」

響子「言うだけでは弱いと思うので、実際に手を繋いだりデートしたり」

響子「まゆさん、そういうの嫌じゃないですか?」

まゆ「いいえ。響子ちゃんこそ、相手が私でいいんですか?」

響子「もちろんです!」

響子「もし私が男性だったらお付き合いしたいくらい、まゆさんは素敵だって思います」

まゆ「あら、そんな……同性に言われるとかえって照れますね///」

響子(可愛い)

まゆ「でも、二人とも今まで男性恐怖症だったわけではないですよね」

まゆ「急に変わったら怪しまれるんじゃないでしょうか」

響子「あ、そっか……そこは考えてませんでした。どうしよう……」

まゆ「なにか嫌なことがあった、ということにしておきましょう」

響子「嫌なことって?」

まゆ「なんでも良いんですよ。とにかく話したくない嫌な思い出、という感じを出せば」

まゆ「詳しく訊かれてボロを出すこともないでしょう」

響子「なるほど! さすがまゆさん、頼りになります」

まゆ「一応設定だけは決めておいたほうが良いかもしれませんね」

まゆ「そうだ。今後の細かい打ち合わせも兼ねて、お泊りしてもいいですか?」

響子「私の部屋に?」

まゆ「ええ。どうせ女子寮だから外泊申請とかいらないですし」

まゆ「響子ちゃんの手料理も食べてみたくて」

響子「分かりました、腕をふるいますね!」

響子「はい、召し上がれ」

まゆ「わあ……焦げ目ひとつない綺麗なオムライス」

まゆ「それにケチャップのウサギも可愛い」

響子「あ、あの……それ、まゆさん、なんです……」

まゆ「えっ、だってこれウサミミ……」

響子「カチューシャのリボン……のつもりで」

まゆ「あ……ごめんなさい、せっかく描いてくれたのに……!」

響子「いえっ、良いんですよ。下手なの自覚してますから」

響子「それより……どうぞ。ほら、あーん」

まゆ「あー……ん。うん、おいしい」

まゆ「それじゃあお返しに響子ちゃんも……あーん」

響子「あーん。……なんか照れます///」

まゆ「そう……ですね///」

響子「でもちょっと楽しい……今度はまゆさんの手料理も食べさせてくださいね」

まゆ「ええ、必ず。うふふ」

~デート テーマパーク~

響子「そろそろお腹空きましたね……レストラン入りましょうか」

まゆ「でも混んでますねぇ。空いてる所ないかしら」

響子「うーん……休日だし、どこも似たような感じじゃないですか?」

響子「適当に並んじゃいましょうよ」

まゆ「なんだか怖そうなお店ですね……」

響子「まるでお化け屋敷みたい」





まゆ「今気づいたんですけど」

響子「はい」

まゆ「これ本当にお化け屋敷ですよね」

響子「はい……」

まゆ「得意ですか?」

響子「苦手です」

まゆ「私も」

響子「列から抜けましょうか」

まゆ「でも、すごく混んでて……ここから抜けるのも簡単には出来そうにないですよ」

響子「ううう……もうすぐ私達の番みたいだし、さくっと終わらせましょう」

響子「小さい子も並んでるし、そんなに怖くないですよ、きっと」

まゆ「ですよね、きっと!」





響子「きゃあああああ!!」

まゆ「いやああああああああ!!!!」

まゆ「ふええ、もうやだぁ~。まゆおうちかえるー」メソメソ

まゆ「きょうこちゃん、ぎゅってしてぇ~」

響子(あまりの怖さにまゆさんが幼児退行してる……)ギュー

響子(私も怖かったはずだけどなぁ……)ナデナデ

響子(まゆさんを守れるのは私しかいないって思ったら、なんだか勇気が出たみたい)ヨシヨシ

響子「まゆさん、もう大丈夫ですよ。お化けいませんよ」

まゆ「ほんとぉ?」

響子(ああ、もうっ……これが愛され系アイドルの底力!? 涙目がまた可愛い!)

~まゆの部屋~

響子「あのときの様子を写真に撮られてたなんて想定外です……」

響子「変装も甘かったですね。トレンド入りまでするなんて」

まゆ「私はそういうこともあるかなって、ちょっと期待してましたよ」

まゆ「自分達で百合営業するだけより、ファンの口コミも利用したほうが効果は高いですからね」

まゆ「もっとも、あのときはそんなこと完全に忘れてましたけど……」

響子「とりあえず百合営業第一弾、テーマパークで思い出作りはファンのツイートもあって大成功ですね」

まゆ「次はどうしましょうか」

響子「うーん……あ、この肉じゃがよく味がしみてて美味しい」

まゆ「うふふ、ありがとう」

響子「次というか、なるべく一緒にいるのは継続すべきと思います」

響子「第二弾としては……服をおそろいにするとかどうですか?」

まゆ「おそろいにするならアクセサリーの方がいいですね」

まゆ「毎日ペアルックにしようと思ったら何着か必要だけど」

まゆ「アクセサリーなら毎日同じでもそれほど変じゃないから」

響子「なるほど~。あっ、それならアレがいいかも」

まゆ「アレって?」

響子「合体させるとハートになるペアネックレスです。ただ、どこで見たのか覚えてなくて……」

まゆ「探せばいろいろあると思いますよ」

まゆ「記憶にあるそのデザインじゃないとダメなら話は違ってきますけど」

響子「いえ、特にそういうわけではないので……じゃあ今度一緒にお買い物に行きましょう」

まゆ「でもペアネックレスって……本当に恋人みたいですね///」

響子「言われると意識しちゃうじゃないですか///」

~レッスンスタジオ~

まゆ「ふっ……」

響子「んんっ」

輿水幸子(当たり前のようにペアを組んで柔軟してる)





まゆ「そこの振付は、こうして……こう……」

響子「ああ、なるほど~」

幸子(今の、わざわざスキンシップする必要ないですよね?)





響子「はい」 つペットボトル

まゆ「ありがとう」

幸子(回し飲み……もはや間接キスとか気にしない間柄)

幸子「お二人はいつの間にそんなに仲良くなったんです?」

まゆ「そんなに……って、普通ですよねぇ?」

幸子「仲が良いのは素晴らしいですけど、仲良過ぎな気もします」

幸子「さっき見てましたけど、ドリンクの回し飲みとか友達同士ではしないような」

まゆ「未央ちゃんがやってましたよ」

幸子「それは……あれですよ。未央さんはコミュ力高いから」

まゆ「じゃあ、お泊りは?」

幸子「うーん、お泊りは……微妙ですかねぇ」

響子「着替えを二泊分くらいお互いの部屋に置いておくのは?」

幸子「そんなことまで……というか同じ女子寮じゃないですか」

まゆ「あると便利なんです」

幸子「流石に普通はしませんって」

響子「でもこの前、唯さんが千夏さんの家に着替え置いてきたって」

幸子「唯さんならやりそうですね……」

幸子「でもそれは、その二人の距離感が特別近いだけですよ」

幸子「他にそんな人達いないでしょう?」

まゆ「美波さんとアーニャちゃん」

幸子「あっ」

響子「ありすちゃんと文香さん」

幸子「ううっ」

幸子「特別! その人達が特別仲良いだけです~!」

幸子「普通はそこまで……多分、きっと……おそらく」

まゆ「……あっ。響子ちゃん」ヒソヒソ

響子「え? …………ああ」

まゆ「幸子ちゃん、今度一緒にお泊まりします?」

幸子「良いんですか? でもどうして急に……はっ!?」

幸子「ち、違いますからね!? ちゃんと友達いますから!」

幸子「アイドル活動が忙しいのでそういうことをする機会が無いだけです!」

幸子「小梅さんの部屋にお泊りしたこともありますし!」

まゆ(ホラーDVD鑑賞会で朝まで気絶してたのはお泊りになるのかしら)

幸子「だからボクを哀れんだ目で見ないでください~!!」

~グラビア撮影~

カメラマン「五十嵐さん、下半身はそのままで上半身をこちらに向けて」

響子「はいっ」

カメラマン「あー、大体いいんですけどもっとこう……キュッと」

響子「キュッと……こ、こうですか?」

カメラマン「ああ、違うんですよ。それだとガッてなってるから」

カメラマン「ふわっとした中にキュッとした感じを出して欲しくてですね」

響子(ええぇ~……全然分からない)

まゆ「響子ちゃん、ちょっと良いですか。腕はこう……もう少し胸を張って」

まゆ「そう。視線をカメラに……ちょっと顎引いて」

カメラマン(二人羽織のように密着してアドバイスを……キマシタワー)

まゆ「これでどうですか?」

カメラマン(恍惚……)

まゆ「あの……?」

カメラマン「……ハッ! あ、良いですね。バッチリです」

カメラマン「五十嵐さんはそのままで。佐久間さん、適当に絡んでもらえますか?」

まゆ「適当に、ですか。じゃあこんなふうに……」

カメラマン「最高です!」

カシャカシャ カシャカシャ





カメラマン「撮影終了です。お疲れ様でした!」

『お疲れ様でした~』

響子「まゆさん、アドバイスありがとうございました」

まゆ「どういたしまして。あの指示じゃよく分からないですよねぇ」

響子「やっぱりそうですよね」

響子「なのにどうしてまゆさんは、何を求められてるか分かったんですか?」

まゆ「うーん……経験、かしら」

まゆ「この角度から撮影するとこのポーズが綺麗に見える、とか」

響子「はぁ~……そんなの分かるようになるんですか」

まゆ「なんとなくですけどね」

響子「モデル経験長いとみんな出来たりします?」

まゆ「ずっと続けている人は、そういう勘の良さはあるかもしれないですね」

響子(小さい子みたいに泣いたり、お仕事で頼りになったり)

響子(まゆさんにもいろんな一面があるんですね)

まゆ「ふふ、なぁに? じっと見つめて」

響子「いえ……あらためてまゆさんってとっても素敵だなって」

まゆ「もう、響子ちゃんったら///」

カメラマン(キマシタワー)

~事務所~

響子「あの、プロデューサーさん。相談なんですが……」

響子P「うん、なにかな」

響子「私とまゆさん、男性恐怖症と思われてるみたいですけど大丈夫でしょうか」

響子「お仕事が減ったりとか……」

響子P「たしかに男性との共演は多少減ったけど、あまり気にしなくて良いよ」

響子P「新しく始まった(二人がひたすらイチャイチャする)ラジオとか好評だしね」

響子「で、でも、男性ファンが減ったり……」

響子P「いや、それが物凄い勢いで増えてる」

響子P「どうやら侵さざる神聖なものとして崇められてるらしい」

響子「男性恐怖症じゃないことをアピールしたり……とか…………」

響子P「必要ないよ。むしろそんなことしたらせっかく増えたファンが減るから」

響子「――って言われました……」

まゆ「あああぁ……おそらくこっちも…………」

まゆ「アピールのためにデートしてください、なんて絶対断られますね……」

響子「こんなはずじゃなかったのに……どうしましょう~」

まゆ「……」

響子「…………百合営業やめます?」

まゆ「私達の百合営業が売りのラジオ番組がある以上、急にやめることは出来ません」

まゆ「だって私達はプロのアイドルですから」

響子「そ、そうですよね……! さすがまゆさんです!」

まゆ「ラジオが早めに終了することを祈りつつ、他での百合営業を少しずつ減らしていきましょう」

響子「今尊敬しかけたのに……微妙にヘタレなこと言ってますよ」

~ラジオ ゲスト出演~

川島瑞樹「二人とも今日はおとなしいわねー。遠慮しないでいつもみたいにやっていいのよ?」

まゆ「いつもどおり……ですよ? ねえ、響子ちゃん」

響子「は、はい。何か変ですか?」

瑞樹「そう? まあいいわ。じゃあ曲紹介してもらえる?」

響子「それでは聞いてください。五十嵐響子で恋のHamburg♪」


キョク ハイリマシター


まゆ「瑞樹さん、曲終わったら少しだけお時間もらえませんか?」

瑞樹「どうして?」

まゆ「やっぱりさっきの良くないと思うので……リスナーさんに説明したいんです」

瑞樹「生放送でやらかしたら、プロデューサーくんの顔に泥を塗ることになるのよ?」

まゆ「大丈夫です、信じてください」

瑞樹「何分必要?」

まゆ「2~3分あれば」

瑞樹「分かったわ」

響子「まゆさん、百合営業のことばらすんですか?」ヒソヒソ

まゆ「いえ。でも今回は百合営業減らしすぎです」

まゆ「さっきのフォローするので適当に話合わせてください」

響子「分かりました」


キョク アケマース


まゆ「先ほどの私達の態度について、疑問を持たれた方もいるかと思います」

まゆ「お恥ずかしい話なんですが、収録前にちょっと喧嘩してしまいまして……」

瑞樹「あら、そうだったの。ここで話すってことは、原因を聞いても良いのかしら」

まゆ「ええ、じつは……」

瑞樹「あははははっ! そんなことで喧嘩してたの?」

瑞樹「もう、二人とも本当に可愛いわ~!!」

響子(おおぉ~……しっかりフォローできてる。まゆさんスゴイ)

瑞樹「響子ちゃん、まゆちゃんに惚れ直したって顔してるわよ?」

響子「ふえっ、そ、そんなことはっ」

瑞樹「隠さなくて良いのよ」

瑞樹「自分たちにとっては恥ずかしい話なのに、番組のことを考えてトークのネタにする」

瑞樹「なかなか出来ることじゃないわよね。うんうん、分かるわ」

まゆ(違和感ない程度に百合営業減らしていかないと……うう、難しい)

~その後~

まゆP「シンデレラガール、おめでとう」

まゆP「でも響子ちゃんと一緒じゃなくてよかったの?」

まゆ「こういうときくらい良いですよ」

まゆ「まゆをここまで連れて来てくれたのはプロデューサーさんですから」

まゆ「あちらはあちらで、二人でお祝いしてるでしょうし」

まゆ「それにしても驚きました。まさか響子ちゃんと得票数が同じだなんて」

響子「本来なら得票数が同じ場合、先に得票したほうが上位なんですよね?」

響子P「そうだね。でも得票数が同じだけでも奇跡みたいなものなのに」

響子P「それが響子とまゆちゃんとなると……」

響子P「この二人に優劣をつけるのはおかしいんじゃないか、って話になってね」

響子「それで史上初のダブル受賞、ですか」

響子P「二人が本当に仲良いのは皆知ってるからな。誰も文句言わなかったよ」

響子「あはは……私達、そこまで影響力があったんですね」

響子(今更本当のこと言えない……)

まゆP「……今だから言うけどさ」

まゆ「はい」

まゆP「まゆのこと、ずっと好きだったんだ」

まゆ「…………はい!?」

まゆP「まゆの気持ちは分かってたけど、立場とか気にしちゃってさ。何度か言ったと思うけど」

まゆP「でもいつか俺の方から告白しよう、何か良いきっかけがあったら……」

響子P「と思ってたら、まさか女の子にとられるとは思わなかった。あっはっは」

響子P「まゆちゃんといつまでも仲良くな」

響子「……」

響子P「……どうした?」





まゆ・響子『言うのが遅いですよぉ~~っ!!』

終わり

先走って妙なことされる前にはっきり気持ちを伝えておくべき、というお話でした

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