*モバマス、友紀、ありす
*捏造多数
*苗字呼び
*ありす:非寮設定
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ノリさーん
ノリちゃん!
ーーーあたしの名前、『ユキ』だよ
離婚したんだって、トモノリ
ノリカとトモノリが離婚だって
1人で離婚してんだなノリ
ーーーねぇ、『ユキ』って呼んでよ
なんであたしの名前を呼んでくれないの
☆
物心ついた時から、ずっと苦手だった
外国の御伽話に出てくるようなこの名は、他の人から呼ばれるたびに心がざわざわするのが困りもので
好きになろう、好きになろうと努めても好きになれなくて、どうしようもなかった
アイドルとなった今でも私は自分の名前が苦手である
名を呼ばれ、それに対して定型的な返答をすることは慣れたものとはいえ、時々どうしようもなく胸が苦しくなるのだ
『ありすちゃん』
……橘ありす、私の名前だ
大人になれば、名前で呼ばれなくなるのだろうか
一人前として扱われるのだろうか
それならば私は大人になりたい
明日の朝起きたときには、身体がベッドからはみ出すほどに大きくなってしまえばいいのに
そう思っていても、この世界は『不思議の国』になるはずもない
大人になりたい、大人になりたい
繰り返すたび、膨らんでいく
私は、大人になりたい子供だった
あなたに出会ったのは、そんな時
苦しみをひたすらに隠していた私の前に、子供をそのまま大きくしたような、あなたが現れた
『橘ちゃん、よろしく!』
姫川友紀ーーー
彼女は子供のような大人だった
☆
午後のレッスンの後……今日は、早めに終わったと気を抜いたのがいけなかったのだろうか。ぽわん、と眠くなって、事務所のソファを眼前に置いて私の意識は宙に浮かぶ
脳内にて一瞬の時間が経過した後、輪郭がぼんやりした窓を見た
……しまった。一時間近く寝てしまっていたようだ。すっかり風景は茜色となり、もうすぐ日が暮れる合図を送ってくれている
あやふやな意識を手繰り寄せ体を起こそうとしたら、にゅうっと何処からか二本の腕が伸びてきて、その腕のなすがままに私の背中は再びソファに接触した
覚醒したばかりで未だに言うことを聞かない瞳は、この二本の腕が何者であるかを捉えきれていない。しかし、次の瞬間聞こえた陽気な声によって、私を押さえている人物を特定することが出来た
「橘ちゃん、おっはよう!」
「……姫川さん。何をしているんですか」
「レッスンでお疲れかな〜と思って。友紀の膝の上はよく眠れるって評判なんだよー」
「っ!?……評判って、誰から」
「早苗さんや、心さんや菜々さん……えへへ、あたしホラ、飲むメンツでは最年少だからさぁ。ピチピチしてハリがあって気持ちいいんだって」
「……」
「さしずめ酔いどれお姉さん達を癒す膝枕の……って、あー、もしかして橘ちゃん、今変な想像したでしょ。ませてるぅ〜」
「……一人で完結して勝手な妄想をしないでください」
「アッハッハ、照れるな照れるな〜」ウリウリ
「ちょっ……頬を突かないで下さい!」
「おおっ!?超ぷにぷに!超ぷにぷにしてるよ橘ちゃん!あたしの膝なんかよりずっとハリがあるよ!!」ウリウリ
「もうっ、やめて下さい!」
……この人の考えは、さっぱり分からない
よく一緒に苺パスタを食べる巴さんに、簡単に姫川さんのことを教えてもらったことがある
『キャッツが広島と戦うたびに抗争になる』だとか
『小学生以下の精神』だとか
流石に冗談だろう、と思った
しかし、野球関連以外のことは巴さんの指摘は中々に的を射ていたようで、姫川さんは私と同レベルの子供だった
子供のように、見えた
だからこそ、初対面時の不思議な出来事が大きな大きな疑問となる
何故、姫川さんは私を『橘ちゃん』と呼んだのだろう
初めて会った時から、姫川さんが私を呼ぶときは『橘ちゃん』だった
それから現在まで、『ありす』の文字を口に出したことは一度もなかった
「……ちょっと、橘ちゃん。反応してくれないと面白くないよー。何か考え事?」ウリウリ
「……はい。姫川さんは、よく分からない人だなって、思ってました」
「へぇ。あたし、自分では単純な人間だと思うけれど」
「自分のことは自分では分からない……当たり前のことだと思いますよ」
「……そっか」
室内を燃やすように、西日が射してくる
下から見る姫川さんの笑顔からは、何も読み取れなかった
窓から入る光がいよいよ真っ赤に染まりはじめ、姫川さんに集中していた意識が現実へと結ばれていく
この時間だと、もう家に連絡しないと心配されてしまう。今日の宿題は軽いものが一つだけだったっけ
早めに帰れる日になるかと思ったのに、随分と不思議な夕方になってしまった
「……あの、そろそろ」
「……ん、もうこんな時間だね。ごめんごめん」
低い空で輝いているあの太陽のような、あたたかな膝の上から離れ難いと思ったのはきっと錯覚だろう
レッスンから戻った時、自分が荷物を置いた場所を思い出してみる
……そうそう、テレビの前だった。タブレットを取り出して、まずは連絡を……
「ね、橘ちゃん」
「……何ですか?」
「テレビの前まで行くなら、リモコン取ってテレビ付けといてよ」
「どこを見るんですか?」
「今日は地上波でキャッツ戦やるんだ!サカモトが最近調子良くってさぁーーー」
……あぁ、また始まった
今、チャンネルがどこか、と聞いたはずだけれど、姫川さんは何故かご満悦顔でキャッツの選手について話している
やっぱり、よく分からない人だ
中断
超短編ですので、数日で終わる予定です
酉テスト
保守ありがとうございました
自分でも何が書きたいのか分からなくなりまってしまいました。>>24で終わりでイイと思います
支離滅裂、矛盾だらけの雑な文ですが一応最後まで……
☆
兄貴の影響で野球を始めて、中学になっても男子に混じって野球を続けてた
当時……活躍していた野球選手と同じ名前、または漢字を持つ人は、その野球選手のあだ名で呼ばれるのが流行ったんだけれど、当然あたしは『ノリさん』になった
これだけなら……まだいい。問題なのはこのあだ名のその後の派生だ
とあるお笑いタレントと、とある女優が結婚しさらに離婚するという衝撃の数年間の間、あたしは結構な頻度でこのネタを振られ続け、あだ名は『トモノリ』になった
……まぁ、『ノリカ』も一時期あったけど……漢字以外何にもかかってなかったのですぐに消えていった
野球ネタなら食いつくが、何の興味もない芸能界の音沙汰はあたしにとっては……正直、煩わしいものでしかなかった
毎日毎日呼ばれ続けて『なんで何も関係ないあたしが』と思い続け、その思考の矛先は結局クラスメートではなく親に向けてしまった。『こんな漢字を名前に使わなければ良かったんだ』とまでは言ったことはなかったけど……
そうこうしているうちにあたしは大人になった
ビールを飲んで、野球を見て、ちょっと気合を入れてアイドル業を頑張る
そんな生活が続いて、あの頃のことはすっかり思い出になった
なったはずだった
気を抜いていたあたしのところに飛び込んできた危険球
それが彼女、橘ありすだ
何よりもあたしにとって衝撃だったのが、彼女は『自身の名前が好きではない』ってこと
学生時代のあたしよりもずっと大きな爆弾を、この小さな子供が抱えてしまっているのだ
彼女との共同の仕事が入った時は、最初は辞退しようかと思ったほどだ
最初、彼女を苗字で呼んだ。『橘です』という恒例のやりとりを避けた。その後も決して名前で呼ばないように気をつけた
彼女が何を考えているか……一切知ろうとせずに、名前の話題に触れることから逃げ続けた
心の中では、当然、彼女を理解してあげたいという欲求があった。そもそもそんな考えがあったからこそ最初から苗字で呼んでしまったのかもしれない
けれど……
あたしは、彼女の悩みを理解することができるか?
できないと思った。あたしと彼女では、経験していることが全く別のように感じられたから
彼女はあたしを自分と重ねているのかもしれないが、
『あたしの時よりも、ずうっと辛い思いをしている彼女に対して、どんな言葉がかけられるだろう』
こっちがこう思っているうちは、共感なんて絶対に生まれるはずがない
あたしが抱いた感情は、頼られることに対する恐怖と、同情だけ
それも、とても自分勝手で、彼女を惑わせてしまうような悪質なものだ
☆
先程の会話で、何かおかしい部分は無かったかと思い出してみる
こんなことをしているとどうも自分が演技をしているようで、彼女といるあたしは好きになれない
……いや、実際、あたしは演技をしているのだ
……特に……問題になる部分は無かった……と思う。呼びかけは全て苗字だし、名前を連想させるような発言も無かった
名前……か
イヤだなぁ、こういうことするの。どうしてこうなっちゃったんだろう
ずっしりと重い気持ちになりながら、本来の目的だった野球に意識を向ける
先ほどまでの緊張を思い出すと、イマイチ野球に集中できなそうだけれど……
……さて、試合はどうなっているだろうか
『今のリードはどうでしょうね、このコースは打者の好みだったはずなんですが……』
……うん?見てなかったけどまた何かアイカワがやったの?
はー、コバヤシ早く戻ってきてくれないかな
「アイカワもおかしいよやっぱり……コバヤシ、早く戻ってきてよー」
「苗字で、呼ぶんですね」
「え?」
彼女が、いつの間にかテレビの横にいた。連絡はもう終わったのだろうか。親に心配されたり……
いや、違う。そんなこと考えている場合じゃない
ーーー苗字で、呼ぶ……って、それは
どちらのことを、言っているの?
「姫川さん、他の人は名前で呼んでいるみたいですけど」
野球のことだろう、いや、野球のことにしなければいけない
「あ……あたしは……」
声が……出ない
まずい、こんなところで詰まったら……
まるで、あたしが……
「私の質問は、そんなに難しいものでしたか?」
「『実況では苗字で呼ばれるから、そっちの方が自然に感じる』……とか、そういう風に適当な答えを言ってくれたなら、私はこのまま帰っていたと思います」
……遅かった
「でも……姫川さんは、別の答えが浮かんだんですよね」
「……それは……」
「教えてくれませんか、姫川さんが考えていることを」
彼女の瞳はまっすぐ私を捉えていて、そこにはあたしに対するかすかな希望が見え隠れしていた
あぁ、やっぱり勘違いさせてしまったんだ
あたしに、彼女を名前で呼ぶ勇気がなかったから
……ごめんね
「……あたしが、橘ちゃんを、苗字で呼んだのは……」
「!……はい」
「橘ちゃんが、名前で呼ばれるのが嫌だって。他の人に聞いたからだよ」
「え……」
「……本当に、それだけなんですか?」
「それだけだよ」
「本当、に、それだけ……なんですか」
「ん。それだけ」
「……嘘、ですよね。だって、失礼ですけど、姫川さん、そういう気遣いをするような人では……」
「あたしだってたまにはこういう気遣いもするよー」
「っ……!!」
彼女は、目にうっすらと涙を浮かべて、その表情であたしを糾弾していた
なぜ、本当のことを話してくれないのかと
そんなことを言われてるようだった
「……姫川さんが、そう言うなら、こちらも言わせてもらいますけど」
「……うん」
「そんな……薄っぺらい気遣いなら、無い方がマシです……」
「!」
「どうぞ、ありすと呼んでください。私が『橘です』と答えますからっ……!!」
彼女の声色は、ぶるぶると揺れていた
彼女に無駄な期待を抱かせて、手酷く傷つけて
そこまでして、あたしを守っている
あたし、なんでこんなに臆病なんだろう
「姫川さんなら……話を聞いてくれると思っていたのに……駄目、なんですか」
か細い声で、発されたその一言に
「……ごめんね、橘ちゃんが、何を言っているのか……あたし、よく分かんないや……」
あたしはこう応えた
無慈悲なあたしの一言を最後に、後は彼女のすすり泣きが響くだけだった
泣き声が聞こえなくなって、どれだけ時間が経っただろうか
あぁ、野球中継……流れてたっけ。話している間、全然耳に入ってこなかったなぁ
……もうこんなに暗くなってる
「……橘ちゃん、そろそろ本当に帰らないとまずいんじゃない?」
平静な声を心掛けて、テレビの横に立ち尽くしたままの彼女に呼びかけた
室内の明かりはテレビ画面の光だけで、事務所内は闇に包まれていた。彼女の恨めしそうな表情もそろそろ見えなくなってしまうだろう
「……ね、家の人が心配しちゃうよ」
「それで、いいんですか。姫川さん……」
「あたし?」
「子供の私が、偉そうに言える事ではないです。でも、姫川さんはーーー」
「あたしは今のあたしで十分だよ」
「……そう、ですか」
「……色々と、酷いことを言ってごめんなさい。また次のレッスンで。さようなら」
そう言って、小さな足音があたしから離れていく
一方的な試合展開となった野球中継を写すテレビの音声が、煩く感じられた
☆
彼女が子供なら、あたしは何?
あたしより歳上の、本当の大人のお姉さんに囲まれた酒の席ならば、きっと安心して自分を曝け出すことができただろう
その場では酒の肴のネタ話でしかないし、あの人たちはあたしを子供扱いして、受け流してくれるはずだ
でも、彼女に対してそんなことはできない
真面目に、真剣に、真正面からぶつかってくる彼女を、ただ怖がるだけ
彼女を受け止めることなんて、できやしない
あたしは大人になれない大人なんだ
終了。
時間を空けて書き始めたらどんどん暗い話に。エタりかけた上に酷い文章、失礼しました
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