勇者「ちょっと、ねえ」
怪物「なんだよ」モッチャモッチャ
勇者「それ僕の身体でしょ」
怪物「死んでるじゃん」モッチャモッチャ
勇者「だからって勝手に食べちゃダメでしょ」
怪物「おお。てかなんで生き返ってんの」モッチャモッチャ
勇者「勇者だから」
怪物「わかんね」モッチャモッチャ
勇者「やめて。咀嚼すんの一旦やめて」
怪物「わったよ。で? んだよ」
勇者「ここ僕の街から隣町へ行く道なんだよ」
怪物「おお」
勇者「そこに僕の死体がさ、食い散らかされてるとさ、嫌じゃん」
怪物「わかんね」
勇者「弱った」
怪物「あと魔物じゃない。怪物」
勇者「ん?」
怪物「怪物だ」
勇者「どう違うの、魔物と」
怪物「見りゃわかるっしょ」
勇者「わかんないです」
怪物「まじかよ」モッチャモッチャ
勇者「箸止めてよ。そんなに美味しいの?」
怪物「んまい」
勇者「すっごく複雑だよ」
怪物「おお」
勇者「はあ、どうしよう……」
怪物「お前、なんでここで死んでんの」
勇者「えっ?」
怪物「いや、なんでこんなとこで死んでんのって」
勇者「いや……魔物に、やられて」
怪物「こんなとこで?」
勇者「なんだよ。怪物の分際で含みのある言い方すんなよ」
怪物「いや、別にどうでもいいんだけどさ。弱くね?」
勇者「……」
怪物「勇者なんだっけ」
勇者「なんだよ」
怪物「ええ。拗ねんなよそこで」
勇者「うるさいんだよ、なんなんだよ」
怪物「怪物」
勇者「それこそなんなんだよ……」
怪物「んー、まあいいけどさ。ひとついい?」
勇者「もういいよ、好きに言えよ」
怪物「いや、そういうことじゃないんだけどさ。手伝おうか?」
勇者「なにが」
怪物「勇者の仕事」
勇者「………」
怪物「いや、俺結構強いしさ。手貸そうかと思って」
勇者「なんで」
怪物「なんでって、なんで」
勇者「いや、だって、君得することある?」
怪物「もしもお前が死んだ時、お前のこと食わして貰えりゃそれでいい」
勇者「えぇ……」
怪物「いやか?」
勇者「いやでしょうよ」
怪物「んー、そうなのかね」
勇者「ともかくさ、ちゃっちゃと死体引き上げてよ。もうすぐ朝になって、人通りが増えるんだ」
怪物「ほーん。じゃあ、ささっと食っちゃえばいいか?」
勇者「え」
怪物「」モチャガキボリベロォ
勇者「」
怪物「んめえ」ゲプッ
勇者「」
怪物「……」
勇者「」
怪物「……ああ、なるほど。これは理解できんぞ。ショックだったんだな」
勇者「」
怪物「……………」
勇者「」
怪物「………やべ、んまそ」ジュル
・・・・・・・・・・・・・・・
勇者「僕の身体生きたまま食った感想はどう」
怪物「思い出してよだれ出そう」
勇者「ねえ、きったないしさここ」
怪物「すまん」
勇者「夜中に二度も起こすなって、神父に怒られたんだけど」
怪物「なんで」
勇者「いやでしょ」
怪物「いや、夜中に起こされるのいやなのはわかるけど」
勇者「……あー、えと。僕を生き返らせてくれるの、神父だから」
怪物「あー……なんか、聞いたことあんなそれ」
勇者「ともかくさ、反省してよちょっとは」
怪物「……お前、変だよな」
勇者「なにが」
怪物「明らか俺のが強いってわかってながら、説教してる」
勇者「……」
怪物「落ち込んでんの」
勇者「いや、なんというか、相手がやばいってこと忘れてた」
怪物「変だよな、お前」
勇者「うっさい」
怪物「仲間にする?」
勇者「しない」
怪物「ええー」
勇者「してどうするのさ。まず君を連れて街なんか歩けないよ」
怪物「ん、あー……その辺りは、なんとかできる」
勇者「どうやって」
怪物「」ポンッ
勇者「へ」
怪物「人間になれる」
勇者「あ、うん………」
怪物「んだよ」
勇者「え、メス?」
怪物「女だ」
勇者「そここだわるんだ」
怪物「こだわらない理由がない」
勇者「あんな食べ方汚いのに」
怪物「人肉食う女は初めてか。力抜けよ」
勇者「まずそもそも女と認識してなかった」
怪物「……まあ、生殖機能ないしな」
勇者「へこんでる?」
怪物「うるせえ連れてけ」
勇者「いや、まだいくつか障害があるよ。君は死んでから僕のことを食べるつもりなんでしょ」
怪物「おお」
勇者「でも君は強いからという理由で仲間にしてもらうつもりだよね」
怪物「おお」
勇者「……仲間の君が強いなら、僕そう簡単に死なないよね」
怪物「………おお!」
勇者「得心いったね、今ね」
怪物「いや、でもさ。俺実は食ってからのが強いんだよ」
勇者「はあ」
怪物「だからさだからさ、保険として俺のこと連れといてさ」
勇者「うん」
怪物「もしお前がどうにもならないと思った時にさ、俺に振ってくれればさ、その敵を倒すよ」
勇者「食ってから?」
怪物「食ってから」
勇者「生きたまま?」
怪物「止むを得ん」
勇者「得るよ。やめろよ」
怪物「うーむ」
勇者「しかもそれ、君を養う費用とか考えると割に合わないよね」
怪物「宿とか飯とかは元の姿に戻ってそこらで隠れとけばいいだろ。不味いけど鳥とか食いながら、不味いけど」
勇者「…………うーん」
怪物「どうよ」
勇者「どうよと言われても」
怪物「悪くないだろ?」
勇者「悪い気がしてならないんだよ」
怪物「ほー」
勇者「一度社に持ち帰って、検討します」
怪物「それは良いけど、持ち帰れるか?」
勇者「それ、どういう」
トントン
勇者「誰」
巨人「」<•>
勇者「」
怪物「一名様テイクアウトです」
巨人「」<^>
勇者「」
怪物「振り向いて剣抜こうとしたポーズのまま放心ってどうよ」
勇者「……ね、ねえ、怪物」
怪物「お、意外。どした」
勇者「さっきの話、受けるよ」
怪物「おう、だろうな」
勇者「でもね」シャキン
怪物「ん?」
勇者「そう簡単に僕の死体に」ダッ
怪物「お」
巨人「」<•>?
ザクッ
勇者「―――ありつけると、思わない方がいいよ」
ドサッ
・・・・・・・・・・・・・・・
怪物「よっっっっっわ」モッチャモッチャ
勇者「」
怪物「一突きじゃん。瞬殺だったじゃん。なんて言ったの、さっき」
勇者「いやいい」
怪物「笑わないだけ感謝しろや。あと倒してやったことも」
勇者「それは感情顔に出ないだけだよね怪物だから」
怪物「恥ずかしくて早口になってんぞ」
勇者「む、か、つ、く」
怪物「おもろ。んで、結局どうすんの」
勇者「ともかく、もうこれ以上死んだら教会出禁になるから、まあ道中は付き合ってくれってことで」
怪物「おお………ん?」
勇者「なに?」
怪物「死ぬのを防ぐ為じゃ俺は働けないぞ」
勇者「ああ、それはいいよ」
怪物「良くないんだが」
勇者「僕が瀕死の時に戦ってよ。で、相手を倒した後に……まあ、食べていいよ」
怪物「はあ」
勇者「これ以上の譲歩は無理だよ」
怪物「いや、それはいいが……意外と根性あるのなお前」
勇者「魔物に殺されるより怪物に食われた方がマシなだけだよ」
怪物「なるほど。変わってるだけか」
勇者「普通だよ」
怪物「まあいいよ。それで、どうするんだ」
勇者「この先の話?」
怪物「おお」
勇者「まずは……城かな。君を勇者の仲間として認証して貰わなきゃ」
怪物「認証?」
勇者「うん。じゃないと、街で勇者一行としてのサービスを受けられなくなる」
怪物「………はあ」
勇者「ピンと来ないか。まあ、城に行けばなんとなく分かるよ」
怪物「おお」
・・・・・・・・・・・・・・・
怪物「でかっ」
勇者「田舎者みたいで恥ずかしいからやめて」
門番「………」
勇者「すみません、勇者の街の勇者です」
門番「……認定証は」
勇者「こちらに」
怪物「………」
門番「………承りました。本日はどのようなご用件で」
勇者「私の仲間を勇者一行の一員と、陛下に認定していただこうかと」
門番「……仲間?」
勇者「はい」
門番「………その、狼……?みたいな、子ですか」
勇者「あ」
怪物「あ」
門番「……今、『あ』って」
勇者「芸を、芸を、しこみまして。路銀を、稼いだり、なんなりと」
怪物「」ムカッ
門番「………“曲がりなりにも”勇者の称号を陛下がお与えです。我が国の名を貶めることの」
勇者「ないですないです」
怪物「がうがうー」
勇者「こいつもそう言っています」
怪物「あとでくうぞ」
勇者「ふぁ」
門番「……今」
勇者「先を急ぐのでこれにてっ」スタスタ
怪物「がるるるる」
門番「…………」
・・・・・・・・・・・・・・・
怪物「片腕置いてけや」
勇者「謝りたい気持ちもある」
怪物「他なにがあんだ言ってみろや」
勇者「謝罪より優先したいこと」
怪物「残り三本も食って不具にする」
勇者「そもそもなんで変身してなかったんだよ」
怪物「んなこと言われてないんだわこっち」
勇者「わかるでしょ調教済のいい子なら」
怪物「本当に死にたいらしいな」
勇者「えっ。いや、待って今死んだらまた街に」
ガブッ
・・・・・・・・・・・・・・・
怪物「おかえり」
勇者「死ぬかと思った」
怪物「思ってたら死んだらしい」
勇者「それより待って怪物。君なにそのかっこ」
怪物「金と勇者の認定証みたいなの置いてったろ」
勇者「うん」
怪物「服買った」
勇者「うん」
怪物「………」
勇者「うん」
怪物「………だめ?」
勇者「だめだよ」
怪物「ちっ」
勇者「せっかく勝手に所持金半分にされずに済んだと思ったのに」
怪物「誰に」
勇者「神父」
怪物「クソだ」
勇者「まごうことないね」
怪物「服に全部スった怪物はどうよ」
勇者「防御力とかは」
怪物「かっこよさに極振り」
勇者「肥溜めにも及ばない」
怪物「これはだいぶん頭に来てますわ」
勇者「急いで謁見に向かおう」
怪物「半日かかったからな、時間無駄にしまくりだ」
勇者「なんでだろうね」
怪物「お前の戦闘力がゴミ虫だから」
勇者「違うよね。君が僕食っちゃったせいだよね」
怪物「なんか家の裏に血溜まりができてて騒動になったそうな」
勇者「君ね」
怪物「しかもそこに褐色肌のかわいいかわいい女の子が居たそうな」
勇者「ねえ君ね」
怪物「大丈夫、マグロ捌いてたって言ったら納得してもろた」
勇者「君って人はね」
怪物「その後の問いただしとかも難なくクリア」
勇者「どうやって」
怪物「実際にマグロ捌いてみせたり『じゃあ捌いたマグロはどこ』って言われてそのまま丸呑みしてみせたり」
勇者「難しかないよ。それ君バケモノだよ」
怪物「惜しい。怪物なんだわ」
勇者「惜しくないよ合ってるよ」
怪物「まあ実際居辛いから早く用事済まそうや」
勇者「拗れて捻れて擦り切れたからね、話が」
怪物「よせやい」
勇者「罪の意識を持ちなさい」
・・・・・・・・・・・・・・・
怪物「王居なかったじゃないかよ」
勇者「こればっかりは予想できなんだ」
怪物「何つってたあの腰巾着」
勇者「北の軍国の方に出向いてるんだと」
怪物「なんで」
勇者「知らないよ」
怪物「お前、勇者なんだろ。もう少し気にかけられないの普通」
勇者「………君ねえ」
怪物「なんだよ」
勇者「………期待されていないんだよ」
怪物「はあ」
勇者「僕は“勇者の血を引いている者”としてこの国の勇者になった。でも他の三国は違う。他の皆は志願して、実力でこの座についた“真の勇者”なんだ」
怪物「………」
勇者「諦めてるんだよ。うちの国のポンコツじゃ敵わないって知ってる。だからこれだけ余計な手続きとかも踏まされて」
怪物「ちょっと待て」
勇者「………なに。今ノリノリでネガってたのに」
怪物「今って、勇者が複数居るのか」
勇者「そうだよ」
怪物「前は、ひとりだったよな」
勇者「それが歴史的事実になってるね。僕のひいひいおじいちゃんの代だから確かだとは」
怪物「………」
勇者「なに」
怪物「いや、いい」
勇者「……そう」
怪物「決めた」
勇者「なにを」
怪物「お前に魔王を倒させる」
勇者「………倒させる?」
怪物「倒させる」
勇者「倒すんじゃないの」
怪物「おお」
勇者「………さすが怪物。馬鹿げたことを言うね」
怪物「わりと本気だけど」
勇者「………」
怪物「………」
勇者「……まじまじ見るねえ」
怪物「おお」
勇者「困るよ。そんなこと急に言ったって、一朝一夕で強くなれない」
怪物「誰だって、というか勇者はそうだろ」
勇者「どういうこと」
怪物「初めから強ければ、直で魔王殺しちゃえばいい。でもそうじゃない。強くないから勇者は世界を旅するんだ」
勇者「どうして」
怪物「人々の心を知るんだ。そこに迫る魔の手を知るんだ。そうして、勇者は守りたいと思う世界を知るんだ」
勇者「…………」
怪物「引くなよ」
勇者「いや、引くでしょ。というか、驚くよ」
怪物「自分でもびっくりだわ。なに、自分でも知らない勇者マニアなのかよ」
勇者「まあ、勇者食嗜好ではあるし」
怪物「なんだろう。物凄く恥ずかしくなってきた」
勇者「………」
怪物「やっぱいいわ。俺に芸仕込んでおひねりで細々暮らそうや」
勇者「いや、やるけど」
怪物「………ええー」
勇者「そっちで引かれたら、押すしかなくなるんだ」
怪物「そういうのいいから」
勇者「君をからかってるんじゃない。というか、君が俺をからかってるんだと思ってた」
怪物「もういいっつの」
勇者「でも、なんかいろいろ、こう、嫌になった」
怪物「…………はあ」
勇者「生まれた時から周りから期待されて、それなりに頑張ってたけどさ。……どこかで、凡才だった自分の、底を知るのが怖くなった」
怪物「………」
勇者「他人に底を見破られるのも嫌だった。から、どっからか手を抜いてた。そしたら、いつの間にか底も浅くなってた」
怪物「………」
勇者「僕、勇者やるよ」
怪物「えっ」
勇者「えっ」
怪物「早くね」
勇者「いや、もういい」
怪物「もう少し続けるのかと思ってた」
勇者「いや、やっぱさ、恥ずかしいよね」
怪物「あーわかるー」
勇者「………」
怪物「…………」
勇者「………ねえ」
怪物「勇者は勇者になる為に生まれてきてない」
勇者「……どういうこと」
怪物「勇者の条件が“勇者の血を引く者”だったら、最初の勇者は誰の血を引いてるんだ、ってなるだろ」
勇者「うん」
怪物「だから、たまたま魔王を倒したのが後から勇者と呼ばれるってだけだ。家業じゃない」
勇者「うん」
怪物「お前には才能がない。だから勇者にならなくていい」
勇者「………うん」
怪物「でも、勇者になってもいい」
勇者「………何が言いたいの」
怪物「わかんね」
勇者「慰めてた?」
怪物「んなわけあるかい」
勇者「だよね」
怪物「ほら、もう認証とかどうでもいいだろ。行くぞ」
勇者「………うん」
門番「………あの」
勇者・怪物「「はい」」
門番「……すみません、盗み聞くつもりはなかったのですが、任務の為に正門の番をせねばならず」
門番「………私事ながら、とても感動しました。先刻のご無礼をお許しください。勇者様は紛れのう、ご立派な勇者でございます」
門番「…………また国にお立ち寄りの際は、どうか私にお声かけを。是非お二人のお力になれるようこ、の………」
門番「……………行ってしまわれたか」
・・・・・・・・・・・・・・・
勇者「無理無理無理無理無理無理無理」
怪物「やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい」
勇者「やったやったあーやっちまったまさか人居るとかまじ無理」
怪物「やばいほんとやばいどうするよもう二度と王国来れねえじゃん」
勇者「いやもう知らないよそんなもんとりあえずこの気持ちどう沈めるよこれ」
怪物「あれだ野っ原にゴロゴロしようベッドとかでやるやつみたいに」
勇者「うわあああああああやったあああああああ」ゴロゴロ
怪物「いやああああああああはずかしいいいいいいいい」ゴロゴロ
勇者・怪物「あああああああああああああ」ゴロゴロ
怪物「勇者」
勇者「なに」
怪物「暑いな」
勇者「暑いよ」
怪物「水は」
勇者「君の持ってる分で最後だよ」
怪物「積んでんな」
勇者「だね」
怪物「勇者なら勇者らしくオアシスに出会ってみたらどうだ」
勇者「勇者パワー発揮できても、水を飲ませてくれるかは別だよ」
怪物「どうして」
勇者「往々にして砂漠地帯はオアシスの周りに集落ができる。そしてそこが、砂漠歩いてきた変な二人組に貴重な水源を使わせてくれるかはわからない」
怪物「頭いいな」
勇者「まあ、怪物にはわからないよね」
怪物「なにおう」
勇者「怒りに勢いがないね」
怪物「キレ芸にキレがないと」
勇者「洒落もからっからだ」
怪物「しかしお前意外とへばらないんだな」
勇者「苦痛には慣れたよ。この強行軍のせいでちょっと強くなったし」
怪物「そういえば、まだ一度も死んでないのか」
勇者「うちの周りが魔物繁栄し過ぎってこともある」
怪物「抑止力これだもんな」
勇者「人に指差すなよ」
怪物「食糧だ」
勇者「人だ」
怪物「食われたいか」
勇者「やろうか」
怪物「やってみろや」
勇者「…………タンマ」
怪物「んだよ」
勇者「いやほんとにタンマ。歯ガチガチさせないで」
怪物「暑くてむしゃくしゃして腹減ってんだよ」
勇者「ほらだから、ほら」
怪物「指差すな!」
勇者「うしろ! 陽炎の向こうなんか見えない!?」
怪物「………お?」
・・・・・・・・・・・・・・・
勇者「うーん、この大きさじゃあ西の皇国じゃないか」
怪物「めし。みず。ふく」
勇者「最後以外は用意するから。まずは現在位置を確認しないと」
怪物「ふくーーーーー」
勇者「どうせまた血で汚れるんだから」
怪物「うるせえ汚したくてしてんじゃねえ」
勇者「はいはい。たのもー」
・・・・・・・・・・・・・・・
怪物「どこにも誰もいないじゃん」
勇者「………」
怪物「なあ、棚のこれ喰っていいかな。たぶん果物っぽいけど」
勇者「………」
怪物「お、かわいくねこれ。こっちの地方はこういう服なんだなあ」
勇者「………」
怪物「なあ」
勇者「なんでそんなに平然としてるのきみ」
怪物「お?」
勇者「おかしいでしょ。皇国より小さいとはいえ、それなりの街だ。いくらも、それも生物が残ってる」
怪物「うん」
勇者「なのになんで、
―――なんで誰もいないんだ?」
怪物「さあ?」
勇者「さあじゃなくて」
怪物「むしゃむしゃ」
勇者「雑食なんだね」
怪物「甘い物は苦手だけどフルーツは別」
勇者「いつこっちの冷たい視線に気付いてくれるの」
怪物「気付いてるよ。誰もいない話だろ?」
怪物「んー。……まずよ、ここへの連絡ってさ、俺らの通った砂漠からして厳しいくね」
勇者「まあ、そうだね。あの砂漠を超えるのは皇国の人間でも難しいんだろうね。道中に関所もないくらいだし」
勇者「でもだからといって、流石に『ひとつの街の全ての人間が消えた』ってなったら本国にも1週間は経たずに情報が届くはずじゃない?」
怪物「そりゃどうだろなー。こっちはここから本国への距離も行き方も知らないしよ」
勇者「……どうする?」
怪物「先に進むのもありだが、……もうそろそろ、来てもおかしくないんだけどよ」
勇者「来る?」
「おーーーーーーーい」
怪物「流石に、誰も街の外に出てねえってこたないだろう……ってな」
勇者「見越してたんだ」
怪物「いやあ? 1日ぐらいは待とうかと思ってたしよ」
「話を聞けよ!」
勇者「でもこれ、当たりかな?」
怪物「ハズレアだろ」
「揃いも揃って失礼だな」
勇者「だって」
怪物「子どもじゃん」
「18じゃボケ」
勇者「またまた」
怪物「子どもじゃねえか」
勇者「僕18だよ」
怪物「えっ」
勇者「……いくつ」
怪物「言わない」
「いくつだババア」
怪物「この小人は喰ったってもええんか」
勇者「じゃあ何の為に人を待ってたんだババア」
怪物「お前は食うからな」
勇者「いやいやダメでしょ今喰ったらまた最初の教会からやりな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はやっ」
怪物「うそだろ」
勇者「ぜえ……ぜえ……」プルヒヒーン
「この砂漠馬はどこで拾ったの」
勇者「まんまのネーミングなんだねこの馬……砂漠の真ん中で倒れてるとこに水をやったんだ」
怪物「鞍までついてんじゃん。盗品じゃね?」
「うちの街のだよ。まあ、緊急時だからいいでしょ。しかもこの子遭難してたんだし、助けてくれたんだから」
勇者「余計な口利きやがって」
怪物「また三時間やり直すか」
「ほんとに話進まねえなお前ら」
勇者「そういえば、結局君は誰」
怪物「ここの店主の娘だってよ」
商人「商人でさあ」
勇者「娘さんこいつバカみたいにお店の果物食ってましたよ」
怪物「は」
商人「いいよ緊急時なんだから。てか早くなんとかしてよ勇者」
勇者「ああ、全部話したの?」
怪物「だいたいは」
商人「あたしも2時間くらい?しか街の外に出てない筈なんだって話をね」
勇者「有益な情報、だったのになあ」
怪物「なんだよ喰ったのが悪いのか」
商人「ちなみに、あたしは喰われたらそれっきりだから食われるこたないと思って落ち着いてたのさ」
勇者「強い」
怪物「飲み込みが早過ぎる」
勇者「それでちょっと街の周りを見てきたんだけど」
怪物「お前馬乗れたの?」
勇者「まあ勇者だし」
商人「こいつ他人を乗せるなんてこと今までしたかなあ」
勇者「まあ勇者だし」
怪物「きもい」
勇者「話の腰を折らないで」
商人「街の周りで?」
勇者「うん。ほんのり、魔力の残滓を感じた」
怪物「ああ、そういう」
商人「魔法関連なの」
怪物「あったんだろ、魔法陣」
勇者「うん、馬の蹄で掻いた砂に、白いのが混じってた」
商人「白いの?」
怪物「灰か?」
勇者「たぶん石灰だと思う。灰より色がハッキリしてるから魔法陣に使いやすいし、夜風が吹けば2、3日で埋もれる」
商人「それまで人が寄り付かなきゃ、だったんだね」
怪物「そんな大掛かりなのやったのか」
勇者「しかも素早くね。この街は交易地だし、一晩のうちに用意しなきゃすぐバレるから」
商人「どうやって」
勇者「それは……」
怪物「わかんねえのかよ」
勇者「うっさい」
商人「で、魔力の残滓ってどこに伸びてんの」
怪物「いや、追えないだろ。転移魔法なんだし」
商人「いや知らないしあたし商人だし」
勇者「たぶん追えるよ」
怪物「は?」
勇者「魔法陣に使った石灰が残ってるんだ。大体の位置は掴めるよ」
商人「あれ?」
怪物「おい、お前魔法できんのか」
勇者「いや? 初等のものだけだけど」
商人「なんでわかんの」
勇者「使えないけど感じるくらいはできるって」
怪物「そんなもんか?」
勇者「知らないよ。でもまあ、位置がわかっても僕転移魔法とか使えないしね」
商人「おいこらここまできて無責任か」
怪物「方角はわかるんだろ?」
勇者「ん? うん」
怪物「空とか地下じゃねえんだろ?」
勇者「………うん、高地にはあるっぽいけど、空ではない」
怪物「うし、んじゃやっか」ガチガチ
商人「こわっ」
勇者「ちょっと、なに歯鳴らしてんの」
怪物「決まってんだろ、力足んねえんだよ」
勇者「食べますか」
怪物「食べますよ」
商人「事務的だ」
勇者「しょ、商人さん。その、この街教会とかって、どこですかね」
商人「中央。西の皇国中でも群を抜いて大きいよ」
勇者「神父は?」
商人「例の通り、いません」
勇者「自力で書くかな……。もう王国に戻るのは嫌だ……」
怪物「三分間だけ待ってやる」
勇者「ちょっと。あれ書くの神父でも時間かかってたのに」
怪物「はよせい、腹減ったんじゃ」
商人「私利私欲やん」
勇者「しかも逆らえないんだよこれが」
怪物「ごちゃごちゃうっさいそこのチビから食うぞ」
商人「ひえええええ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
商人「はやっ。でかっ」
勇者「最初からこれで移動できればなあ」
怪物《うるせえ振り落とすぞ》ガルルル
勇者「僕のエネルギーで走ってるくせに。でも、こんなに大きくなれるなんて予想外だったけどね」
怪物《わりと奥の手ではあるからな》ガルルル
商人「しかしこの黒毛、堅いと思ったら意外と軟毛なのね」
勇者「商品価値見出して剥いじゃダメだよ」
怪物《お前らマジで落として踏むぞ》ガルルル
商人「なんとかこう、肉球でぷにっと……ん?」
勇者「あ」
怪物《あれか?》ガルッ
商人「いかにも小悪党のいそうな洞窟」
勇者「表札とかついてそうだね。『おれらのアジト』みたいな」
商人「仕掛けて、みる?」
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