八幡「8年越しの依頼」 (25)
うひょひょひょひょりぶーとひょひょひょ
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カランコロン
店主「いらっしゃい」
男「どうも」
店主「お好きなところに座って。あいにく、客はお兄さん一人だけだから」
男「あ、はい……じゃあここで」スッ
店主「ほい、これがメニュー。決まったら教えてね」
男「わかりました。えーっと、じゃあステーキセットと飲み物は赤ワインで」
店主「はいよ。って、決めるの早いね。まあいいけどさ」
『――続いてのニュースです』
男「ん……」
『先日、日本の大手企業である雪ノ下グループが発表した、自身の深層意識に潜り込むことのできる装置、通称マインド・ヴィアトール(MV)の公開を……』
男「……」
スタスタ
店主「――っと。はい、お待ちどーさま」コトッ
男「ありがとうございます。……っ」チラッ
店主「ん? ああ、マインド・ヴィアトール(MV)ね」
男「ご存知で?」
店主「そりゃーね。最近のニュースって言えば、こればっかりだから」
男「へぇ……」
店主「あれでしょ? 確か、もう一度自分の記憶を見たり、体験したりできるんでしょ?」
男「みたいですね」
店主「すごいよね、過去に戻れるなんて。『あの人誰だっけ?』ってのも、なくなるわけか」
男「ですね」
店主「まあ多少はリスクがあると思うけど……。だってまさか、ただで自分の記憶を遡れるってわけじゃないでしょ、普通」
男「……」
店主「あっ、ごめんねペラペラと。うち、ただでさえお客さん少ないからさ、その分いつもより舌が回っちゃって」
男「いえ、面白いですよ、あなたの考え」
店主「そ、そう?」
男「で、そのリスクとは?」
店主「え? うーん、そうだな……例えば、体に負担がかかるとか?」
男「体?」
店主「うん。私、日本の漫画とかアニメが好きでさ、よく見るんだけど……そういう設定ってありがちなんだよね」
男「へぇー……」
店主「まあ、あくまでも架空の話だから。それにリスクっていうのも、私が勝手にそう言っただけだし……」
男「……」
店主「そうだ。ねえお兄さん」
男「あ、はい」モグモグ
店主「お仕事は何してるの?」
男「仕事?」
店主「うん。ビシッとスーツできめてるわけだから、どっか有名ま会社にでも勤めてるんでしょ?」
男「いえ、そういうわけでは」
店主「え、働いてないの?」
男「働いてはいます。ただ、会社には勤めていません」
店主「というと、私みたいな個人経営?」
男「まあそんな感じです。人の悩みや依頼を聞いて、それを解決するお手伝いをする仕事、と言ったらいいでしょうか」
店主「何それ、セラピスト?」
男「似たような感じですね」
店主「ふーん……じゃあ、今日はどんな悩みを解決したの?」
男「いえ、解決はしていません。解決までのお手伝いをしただけです」
店主「それって同じことじゃない?」
男「いいえ、違いますよ。解決するのはあくまでも本人であって、私はそれを手伝うだけです」
店主「へー、なんか変なの〜」
男「まあ単純な話、お金が欲しいという方にお金をあげるのではなく、お金の稼ぎ方を教える職業です」
店主「うーん……なんとくなくわかったけど、でもそれってなんていう職業なの? 少なくとも、ボランティアではないんでしょ?」
男「ええ、ボランティアではないです。そういえば、名前を考えたことはありませんね」
店主「なにそれー」
男「まあそんな感じの職業だと思ってくれれば、差し支えありませんよ」
店主「でさ、今日はどんなことをしたの?」
男「興味あるんですか?」
店主「まあね。だってお兄さんのお仕事、変じゃん」
男「変って……そうですね、今日は一人の男の子の悩みを、解決するお手伝いをしました」
店主「悩み?」
男「はい。その子の悩みは、過去の全てが思い出せないということでした」
店主「ヘぇ〜……って、それまさか、記憶喪失?」
男「そうとも言いますね」
店主「えっ、どういうこと?」
男「どうって、そのままの意味ですよ」
店主「……それで、悩みは解決したの?」
男「はい。無事、男の子は記憶を取り戻しました」
店主「……」
男「どうかしましたか?」
店主「冗談?」
男「冗談でそんなこといいませんよ」
店主「じゃあお兄さんって、お医者さんか何か?」
男「いえ、ですから私は――」
店主「そういう医学に詳しいとか?」
男「いいえ、特にそういうわけでは」
店主「……なら、どうやってその男の子の記憶を取り戻したの?」
男「具体的に説明することはできませんが……一緒に記憶を整理した、と言えば正しいでしょうか」
店主「一緒に記憶を整理? どうやって?」
男「ですから、それを説明することはできません。まあ、パズルを埋めていくような感じです」
店主「ふ、ふーん……パズル、か」
男「……」
店主「冗談じゃ――ないんだよね……」
男「ええ。決してそのようなものじゃ」
店主「そっか……」
男「ご馳走さまでした」
店主「毎度っ。ねえお兄さん、また来てくれる?」
男「え?」
店主「いやさ、お兄さんの話、面白かったから。また聞きたいなーと思って」
男「……すみません。実は他の依頼がありまして」
店主「ここを離れるの?」
男「はい」
店主「そっか……じゃあそれが終わってからでいいからさ、また来てよ」
男「わかりました。その時には寄らせていただきます」
店主「うん、待ってるよ」
男「では――」
店主「あ、待ってお兄さん!」
男「はい」
店主「お兄さんの名前、教えてくれない?」
男「私の、ですか?」
店主「うん」
男「……そうですね。好きに呼んでもらって構いませんよ」
店主「えっ、どういうこと?」
男「昔は私にも名前があったのですが、今はないんです」
店主「名前がないって……じゃあ、昔の名前は? お兄さん、少なくともこっちの人間じゃないよね」
男「はい、生まれは日本です」
店主「日本!?」
男「ええ。で、名前は確か――」
「■■■■■」
――日本――
結衣「久しぶり〜! 小町ちゃん、元気だった?」
小町「本日は兄のため、わざわざ遠いところからはるばるお越しくださり、誠にありがとうございます」
結衣「ちょっ、やめてよ〜! 他人行儀だなー。それにそこまで遠くないしー!」
小町「えっへへ、一度やってみたかったもので……。――お久しぶりです。結衣さんも、お元気そうで何よりで」
結衣「うんっ、元気だよ〜。そうだ小町ちゃん、無事就職できたんだって? おめでと〜!」
小町「ありがとうございます。これでやっと小町も社会人ですよ〜」
結衣「うんうん、これから色々大変だと思うけど、頑張ってね!」
小町「はいっ。汗水垂らして働いちゃいます!」
結衣「その意気だよ〜。――そうだ。いろはちゃんとのルームシェアはまだ続けてるの?」
小町「はい、続けてますよ。もうかれこれ3年目に入りますね」
結衣「へぇー、なんかいいな〜そういうの」
小町「案外、というか、かなり楽です。お互いちゃんとした彼氏ができるまで〜って、そういう約束だったんですが、慣れたらあまりにも快適すぎて……」
結衣「小町ちゃん、彼氏とかいないの?」
小町「いませんよ。募集中ってわけでもないですね」
結衣「えー、なんで? 結構モテると思うけどな〜」
小町「うーん……面倒臭い、からですかね」
結衣 (さ、さすがヒッキーの妹)
結衣「じゃ、じゃあいろはちゃんは? 今は難しいと思うけど、大学の頃は結構モテたんじゃない?」
小町「そうですね……確かに男の方が付き合いは多かったです。でも、別に交際してるわけじゃなかったみたいですよ?」
結衣「へぇー、なんか意外」
小町「まあ、いろは先輩もなんだかんだ言って、そういう面だけはちゃんとしてますからねー」
結衣「そっか〜。あ、今日は来れないんだよね」
小町「はい、忙しいみたいです。朝から晩まで引っ張りだこですから」
結衣「さっすが人気アナウンサー。テレビで見かけない日なんてないもん」
小町「ですよねー。でもああ見えて、OFFの日はダラダラしてるんですよ〜、これが」
結衣「うっそ〜。テレビではシャキッとしてて、ちょー元気って感じじゃん」
小町「あれは建前ですね。実際はかなりグータラです。寝っ転がってビール飲んでます。しかも昼間っから」
結衣「あははは……なんというか、ファンが知ったら大変だね〜」
小町「はい。お兄ちゃんが大人になったら、たぶんあんな感じだったんじゃないかな、と思います」
結衣「ま、まさかのヒッキー似……」
小町「こんど写真撮って、SNSにでも投稿しますよ。保存しといて下さいね」
結衣「そ、それは大変な騒ぎになるからやめてあげて〜!」
今日はここまで
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