月「ニア達が苦しみだしてから勝ちを宣言しよう」 (105)

月(ニアは自分達が死なず勝利すると信じている。だが、書き終わって40秒で死ぬ)

月(それまで真実をバラしてはまずい……撃ち殺され、相撃ちという事もまだ……)

月(いや……35秒、35秒で勝ちを宣言――――)

月(……いや、待てよ)

月(心臓麻痺を起こしたからといって、すぐに死ぬわけではない)

月(訓練を受けた捜査官なら、苦しみながらでも銃くらい撃ってくる可能性も……)

月(……よし)

月(ニア達が苦しみだしてから勝ちを宣言しよう)

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月「一人目の名前を書いてから何秒ですか?」

魅上「……35、36、37、38、39……」

魅上「40」



松田「し……死なない……一分は経った……」

魅上「な、何故……何故死なない……」

ニア「だから死にませんと何度も言ったはずです」

月(っっっぶねええええっ!!!!)

月(すっごい凡ミスで負けるとこだった!!)

月(いや、落ち着け。最悪の事態は免れたが、状況は決して良くない)

魅上「か……神……私は仰せの通りに……」

月(くっ……馬鹿が! 更に状況が悪くなるような事を……!)

ニア「レスター、ジェバンニ、魅上を」

月(本物のノートもすり替えられていた……それも魅上が気付かないほど精巧な偽物に)

月(考え難いが……だが、それしかあり得ない)

ニア「ノートに書かれている最初の四人は我々SPKの本名に間違いありません」

ニア「そして、ここに居て唯一名前がないのが夜神月」

ニア「魅上はあなたを神と呼び、言われた通りにしたと言った……決まりです」

月(Nate River……Anthony Carter……Stephen Loud……Halle Bullook……)

月(これがSPKの奴等の本名……!)

月(まだだ……まだ終わってはいない……!)

月「確かにニアの言う通り、そのノートには僕の名前だけが書いていない」

月「だが、だからといって僕がキラだという証拠にはならないんじゃないか?」

ニア「?」

相沢「月君、もう悪足掻きは……」

月「相沢さんこそ落ち着いてください」

月「先入観に囚われてしまっては、それこそキラの思う壺です」

松田「ど、どういう事だい月君」

月「僕にキラの罪を着せる事……それこそがキラの狙い」

ニア(……なるほど、そうくるか)

ニア「何を言い出すかと思えば……それは、つまり……」

月「ああ、お前がキラなんだろう? ……ニア」

相沢「!!」

松田「ニ、ニアが……キラ……!?」

レスター「馬鹿な!」

ニア「取り合わないでください、レスター。ただの苦し紛れです」

月「そうでしょうか。そう考えれば納得がいく事も多いのでは?」

月「例えば、そこにいる魅上照」

月「彼はニアの呼び掛けに応え、馬鹿正直にノートを持ったまま倉庫内へ入り、僕を神と呼んだ」

ニア「魅上はむしろあなたの呼び掛けに応じたように見えましたが」

月「ああ、確かに僕も彼に中に入るよう言った。僕はキラじゃないからね」

月「キラならば名前を書いたノートが敵の手に渡る事態は絶対に避けたいはず」

月「こういう考え方はしたくないが……僕がキラなら、魅上には絶対に倉庫には入らないよう指示を出す」

月「そして、そのくらいの事は仮に指示がなくても、誰にだって少し考えれば分かる事だ」

月「誰かが僕を陥れる為に、魅上にそういう行動をとるよう指示をしていたなら話は別ですが」

ニア「それは単純にあなたと魅上が勝利を確信していたからというだけでしょう」

ニア「我々の前で勝利宣言でもしたかったのではないですか?」

月(くそっ……思ったより読まれている……!)

相沢「……確かに前のLもキラは幼稚で負けず嫌いだと」

月(相沢、こいつまで余計な事を……! やはりこのくらいでは、まだ……)

月(しかし、少なくとも僕が話している間は取り押さえられる事はない。今はとにかく時間を稼ぐんだ……)

月「そもそもニアはノートのページを差し替えたと言っていますが、そう簡単に出来る事なのでしょうか?」

月「僕がキラならばそれは最も警戒すべき点」

月「それがいとも簡単に成功している。それが逆におかしいのでは?」

ニア「もちろんノートへの細工は容易な事ではありませんでした。これを見てください」

月(魅上の持っていた偽のノート……あそこに書かれているのは……?)

松田「高田清美 焼身自殺 自分の身辺の燃やせる物全てを燃やし1月26日午後2時33分自殺……!?」

月(そういう事か……魅上め、余計な事はするなと指示しておいたというのに……)

ニア「あなたの言う通りです。魅上は細工を警戒し、普段は偽のノートを使っていました」

ニア「私達がそれに気付けたのは高田がさらわれた事で、魅上が銀行の貸金庫から本物のノートを取り出した時」

ニア「そこで私達は偽のノートだけでなく、本物のノートにも細工をした」

ニア「偽の方は一部分、本物の方は全てをすり替えました」

ニア「メロがいなければ、私はあなたに敗北していたかもしれません」

ジェバンニ「ニアがキラだとすれば、魅上にそんな行動をさせる必要がない。違うか?」

月「さあ……僕はキラではないので、キラの考えは分かりませんが」

月「あなた達SPKに僕がキラだと信じさせる為……と考えるのが妥当でしょうか」

月「僕も仮にもLを名乗っていた者です。あまりにキラが無策であるよりも、ある程度の小細工があった方がより夜神月がキラだと印象付ける事が出来る」

ニア「苦しい言い訳ですね」

月(くそっ、そんな事は僕も分かっている! 黙ってろ!)

月「それより、ニアの言う事が確かなら、あなた達が本物のノートの存在に気付いたのは26日」

月「パッと見ただけでも、そのノートにはかなりの枚数、そして各ページに空きがない程名前が書き込まれている」

月「そんな短期間でそこまで精巧な偽物を作る事が可能でしょうか?」

ニア「ええ、ジェバンニが一晩でやってくれました」

ニア「魅上の使ったペンと同じペン、魅上の筆跡まで完璧に真似し、外見に加え中身も全てそっくりに」

月(一晩だと? くそっ、ふざけている……いや、だがこれは使える)

月「ジェバンニというのはあなたですか?」

ジェバンニ「そうだが……」

月「それを一晩でやれと言われて、おかしいとは思いませんでしたか?」

ジェバンニ「何?」

月「普通に考えれば、とても一晩で出来るような事ではない」

月「いくらあなたが優秀でも、仮に偽物とバレれば全てが無駄となりここにいる皆が殺される」

月「キラを確実に捕まえたいのであれば、別の手を考えるのが普通では?」

松田「確かに、ニアなら28日に会うのはやめるとか言い出してもおかしくはないですよね」

月「ニアは知っていたのではないですか? 例え偽物の出来が悪くても、魅上が疑う事は絶対にないと」

月「それはニアと魅上が繋がっているから」

ジェバンニ「な……」

ニア「会うのをやめると言えば、あなたならこちらが策を変更せざるをえない何かがあった事に気付く」

ニア「そこから魅上が本物のノートを取り出した事に気付くかもしれない」

ニア「それを避けたかっただけです」

月「そもそも魅上照という人物」

月「我々日本捜査本部の捜査線上にはまるで浮かばなかった人物です」

月「あなた方SPKはどうやって彼にたどり着いたのですか?」

ニア「Xキラは高田がキラ崇拝者だと知っている高田に近しい人物」

ニア「そこで私は高田が出た番組を全てチェックし、高田の番組とキラ王国、両方に出演していた魅上に目を付けました」

月「その作業に関わったのは?」

レスター「それは、ニアが一人で……」

月「なるほど、ニアが一人で見つけ出したのですね」

レスター「……そうだ」

月(思った通りだ……ニアとSPKの間には決して強固な信頼関係があるわけではない)

月(おそらくニアはSPKをキラを追う為の駒程度にしか考えていない)

月(ならば……まだ付け入る隙はある)

月「それだって本来ならば途方もない時間のかかる作業だ。それをニアが一人で見つけ出した」

月「ニアは初めから魅上の事を知っていたのではないですか?」

月「魅上の事を全て調べた上で、自分の代わりにキラとして動かしていた」

レスター「ま、まさか……」

松田「な、何か雲行が怪しくなってないですか……」

伊出「ああ……」

月「もちろん僕も魅上の行動だけでニアを怪しんでいるわけではありません」

月「まずあなた達が日本捜査本部内にキラがいると考えたのは、キラが初代Lを殺しているから」

月「初代Lの顔を見る機会があったのは我々しかいない……」

月「本当にそうでしょうか?」

ニア「…………」

月「Lの後継者として育てられた者ならば、Lの顔や名前を知っていてもおかしくはないのでは?」

ニア「私は直接Lに会った事はない……と言っても信じてはもらえないでしょうね」

月「そしてニア、あなたが我々に言った何故Lを殺したキラが我々を生かしているのかという疑問」

月「あなたがキラだとすれば、あの時点では日本捜査本部のメンバーを知るはずもない」

月「つまり、キラはL以外の者を殺そうにも殺せなかった」

月「いや、それだけじゃない」

月「僕達の中にキラがいれば、もっと怪しまれないやり方……例えば心臓麻痺以外の方法でLを殺す事も出来たはず」

月「それをしなかったのは、キラには捜査本部内の状況を知る術がなかったから」

月「というよりも、捜査本部内にキラがいると思わせる為、かな?」

レスター「なっ……」

月「SPKの皆さんはおかしいとは思いませんでしたか?」

月「ニアはかなり早い段階から、二代目Lがキラだと決めつけて動いていたように思える」

相沢(た、確かに……13日ルールが嘘だと分かる前からニアは我々を疑っていた、ような……)

月「初めから決まっていたのではないですか?」

月「本来なら自分の元へと転がり込んでくるはずだったLの座を奪った者に、キラの罪を全て被せてやろうと」

ニア「なるほど、面白い想像ですね」

ニア「しかし、Lが捜査を開始した段階でキラが日本の関東地区にいた事は間違いない」

月「それは最初のキラの話だろう?」

月「火口が死んだ後、しばらく裁きは止まった。すなわち最初のキラは活動を停止しているという事」

月「そして、その後再び現れたキラ……僕はそれがあなただと言っているだけですよ」

月(何を言っても無駄だ、ニア)

月(お前も分かっているはず。キラをキラだと証明するには実際に殺しをさせる以外にないと)

月(お前が僕に突き付けた証拠、それは魅上がキラだという証拠にしかならない)

月(こうなれば、お互いに相手がキラだという証明は不可能)

月(新たな証拠が出て来ない限りは……)

月(……そろそろか)

月「ところで……魅上のノートが偽物ならば、本物のノートはどこにあるのでしょうか」

月「ニアが持っている……違いますか?」

ニア「…………」

月「僕が動くわけにはいきませんので……相沢さん、チェックしてもらえますか?」

ニア「その必要はありません。確かに私が持っています」

月(やはり……そして、僕の考えが正しければ……)

月(ニア、お前はこれで終わりだ)

月「相沢さん、そしてSPKの方、ニアの持つノートの中身を確認してください」

相沢「ニア……失礼する」

ニア「…………」

レスター「こ、これは……!」

松田「な、何が書いてあったんですか?」

相沢「魅上照 ノートを偽物と疑う事も本物かどうか試す事もなく、2010年1月28日13時10分YB倉庫内にノートを持ち込み、その10日後発狂して死亡」

相沢「な、何だこれは……」

月(やはりあったか……読み通り)

月(こうすれば魅上がノートを偽物だと気付く事がないのは当然として……)

月(ニアの策は魅上のノートを押さえる事が出来なければ成立しない)

月(では仮に魅上が名前を書いた後でその場から逃げ出したら?)

月(国家の後ろ盾をなくし少数で動いているSPKに、逃亡する魅上を確実に捕まえるだけの余力はないはず)

月(仮に捕まえられたとしても、魅上の用心深い性格はニアも知っている。捕まえるまでにそのページを処分されていれば終わりだからな)

月(まあ僕ならば当然魅上の名を書いたページは処分しておくが……ニアはノートのルールを完全には把握出来ていない)

月(ノートを破る事で効果がなくなる可能性が1%でもあれば、処分する事は出来ない……だろ?)

月「SPKのメンバーも知らなかった……となれば、これはニアが単独で行ったという事ですね」

ニア「確かに……その通りです」

レスター「ニア!」

ニア「しかし……私がキラであれば、魅上を殺す必要も、このような死の状況を書く必要もない」

月(ああ、確かにお前の言う通りだ。これは逆にニアがキラではないという証拠にもなりえる)

月(しかし、お前がキラかもしれないという疑いを深め、SPKの不信感を高めた今であれば――――)

月「そうでしょうか?」

月「いくら魅上がキラに協力していると言っても、人間であるからには変心する事もありえる」

月「魅上には確実にここに来てもらわなければならない」

月「『本物かどうか試す事なく』という文言は、もし魅上が本物のノートを数枚隠し持っていた時の為」

月「魅上が今日ここに来る間にノートを使えば、ニアの推理と矛盾が生じるから」

月「そして本物のノートも回収し終えた今、用済みとなった魅上も始末する事が出来る……か」

月「なるほど、いい手だよ」

ニア「……そんなものはあなたの想像にすぎません」

月「確かに……あなたがキラだという決定的な証拠にはなりませんね」

月「しかし、あなたは相手が犯罪者であれば殺してもいいという、キラと同様の思考を持っている」

月「その証拠にはなるのではありませんか?」

レスター「…………」

ジェバンニ「…………」

リドナー「…………」

月(分かったか、ニア。どれだけお前が正論を吐こうと、もはやSPKはお前の味方ではない)

月(はは、いいザマだ。少しは僕の気持ちが分かったか?)

月「そう、どのような言い訳を並べても、お前が魅上を殺そうとした事実は変わらない」

月「お前はLの後継者などではない。ただのイカれた殺人犯だ!」

魅上「な、なんだこのザマは……私はあんたの言う通りに動いたのに……」

魅上「あんたなんか神じゃない!!」

ニア(……! こいつ、私に向かって……)

月(そう、こうなってはどの道魅上は死ぬ。ならば、魅上が取るべき行動は一つしかない)

月(神である僕の敵の排除……よくやった、魅上)

伊出「な、何がどうなってるんだ……」

松田「こ、これもう確定じゃないですか? ニアがキラって事で……」

月「いや、まだ確実な証拠はないよ、松田さん」

松田「え? で、でも……」

月「ただ、ニアの言っていた『見せたいもの』を見せられなかった事も確かだ」

ニア「…………」

月「ここでこうしていても、これ以上の進展はないでしょう」

月「とはいえ、キラとして疑われている僕達がどうするかを決めるわけにもいかない」

月「皆さんで話し合って決めてください。ニア、お前もそれでいいな?」

ニア「……はい」

相沢「話し合いの結果、とりあえずこの場は解散する事となった」

相沢「二冊のノートは日本警察とSPKが一冊ずつ、月君とニアには知られないように保管する」

相沢「月君もそれでいいな?」

月「ええ、元より僕は全て受け入れるつもりです」

月「ああ、そうだ。ニアの持つノート、ページを切り取った痕跡はありませんでしたか?」

ニア「……!」

レスター「ああ、確かにあるが……」

月「僕は切り離したノートに名前を書いても人が殺せると考えています」

月「ニアのボディチェックは念入りにお願いします」

ニア「……私も同じ考えです。夜神月のボディチェックは念入りに」

月(フン、流石にその程度は気付いていたか)

月(どうせバレるのであれば、先に言う事で少しでも疑いを減らす方が得策)

月(それに、こいつらはヌルすぎる。ボディチェックをされても、時計の仕掛けがバレる事はまずありえない)

月(ここまでニアが怪しまれている状況では、四六時中僕に監視がつく事すらおそらくないだろう)

月(少なくとも、風呂やトイレにまで監視がつく事は絶対にない)

月(後は――――)

Nate River Anthony Carter Stephen Loud Halle Bullook 自殺
人に迷惑がかからぬ様、自分の考えられる最大限の遺体の発見されない
自殺の仕方だけを考え行動し、24時間以内に実行し死亡



月(ニア……少しは楽しめたよ)

月(お前の名前を知って、自分で殺せてよかった)

リューク「ククッ、やったなライト」

リューク「だが、よかったのか? これだとデスノートは戻ってこないぞ」

月「仕方ないさ。時計に仕込んだ切れ端に書けるのはこれが限界だ」

リューク「ふーん。捜査本部の奴等も殺してねーし……キラの裁きもこれで終わりか?」

月「ははっ、そうかもね。それでも、死ぬよりはマシさ」

リューク「つまんねーの……」

月(……僕が新世界の創世を諦めるだって?)

月(そんなわけがないだろう)

月(リュークの言う通りSPKの持つノートを持ち出させる事も考えたが、リスクが大きい上に実現不可能と見なされる可能性もある)

月(それならば……ノートはSPKのアジトにある方がいい。そうすれば偶然誰かに見つけられる事はまずない)

月(そしてリューク……奴は退屈を何よりも嫌う)

月(次の所有者が現れないと分かれば、いずれはそのノートを回収し、別の人間に渡すだろう)

月(捜査本部の者を生かしておいたのは、僕が二代目Lとして動きやすくする為にすぎない)

月(今はまだ警戒されているが、このまま裁きが起きなければ、いずれは自由に動けるようになる)

月(僕は二代目Lとしてノートの新たな所有者を捜し出し……再びノートを手にする)

月(そして始まる――――完全なるキラの世界が)






月(その時こそ、僕は――――新世界の神となる)




おしまい。

デスノ新作映画記念に原作読み返してたらついカッとなってやった。
読んでくれた人ありがとう。

ニアももっと活躍させたかったんだが、ニア視点でものを考えれんかった…

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