少女「私らしいってなんだろう」 (135)

このSSは、

少女「今日もハミパンしちゃった……」
ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1460/14602/1460236438.html

の続編となっています

近いうち…と言いながら、ひと月近く経ってしまいました。ごめんなさい

途中微エロ表現あります。気になる人は注意してください

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1462636654


前のスレなんか読んでらんねーよという方へ…

【あらすじ】

ひと昔まで女子生徒の体操着として採用されていたブルマ。
そこから下着をはみ出す「ハミパン」と呼ばれる現象に、多くの男子生徒は興味と関心を持ち、ロマンを抱いていた。
そんな男子のひとり、小学五年生の少年(トシオ)は、クラスメイトで同じ体育係の少女(ジュン)の事が気になっていた。
少女はボーイッシュないで立ちで運動神経は抜群、勉強も良くできたが、なにより体育になるとつねにハミパンしていたのだ。

ある体育の授業後、少年が少女のハミパンを指摘したことをきっかけに、2人は友達として交流し始める。
夏休みに入ったある日、少年の友人で口達者な友(トモキ)、少女の友人ですこし無遠慮なツインテ(ミカ)とともに、プールや街中に遊びに出かけることになった。
しかし、以前から少女が貧乏ではないのかと疑っていた友とツインテは、少女のふるまいからそれを確信する。
別れ際に少女は、友とツインテが自分の貧乏を知って気を遣っていることを見抜き、口論となってしまった。

二学期に入り、毎日運動会の練習をする中で、それまで少女の事情に割合無頓着だった少年も、汚れていく体操着を見てだんだんと気付くようになった。
ひと月ののちに運動会が行われ、順調にプログラムは進んでいった。
しかし、最終種目であるクラス対抗リレーのアンカーを任されていた少女は、少女趣味のカメラマンに気を取られてゴール直前で派手に転んでしまう。
そのとき着用していたブルマを破いてしまったことにひどくショックを受け、少女は付き添っていた少年の目の前で泣き叫んだ。
捻挫をした少女は妹とともにタクシーで帰ることになったが、ついに最後まで親の姿が現れることはなかった。
去り際に笑顔で手を振る少女の顔に、少年はほんの少しの不安を抱えながら帰宅した。

次の登校日、少女は学校に現れなかった……。

-----

少年(運動会から2日経った)

少年(その日は運動会が終わって、はじめての登校日だった)

少年(朝の会で先生からジュンの欠席が知らされた)

少年(ネンザしていたので、まだ安静にしてるんだろうなと思った)

少年(ただ、ジュンはそれまで一度も欠席していなかったので、すこし意外に思った)

少年(……)

少年(次の日もその次の日も、ジュンは学校に来なかった)

少年(ジュンが休み始めて、今日で1週間になった)


----教室

少年「ジュンがいないと、なんとなく教室が静かだな」

友「本当にどうしたんだろうな」

少年「入院したとか?」

友「そうしたら先生は入院したって言うだろ」

ツインテ「お見舞いに行きたいけど、住所も分からないし……」


先生「トシくんいる?」ガラガラ

少年「はい?」

先生「よかった。ちょっと職員室来てくれない?」

少年「行ってくるぜ」

ツインテ「ジュンちゃんのことだったら、教えなさいね」


----職員室

バサッ

先生「これ、授業のプリントとか連絡事項とか」

少年「これ全部もらったヤツなんだけど?」

先生「ジュンちゃんの家に、これを届けてあげて」

少年「俺が?」

先生「同じ体育係として、一番任せられると思ったんだけど……」

先生「嫌?」

少年「嫌じゃない……」

先生「ハッキリしなさいよ。行きたいって」クスクス


少年「先生、ジュンのこと何か知ってるの?」

先生「この前ね、学校に電話がかかってきたの」

先生「『体調が悪いからしばらく行けません、ごめんなさい』って」

少年「アイツ本人が?」

先生「そう。ジュンちゃんはいままで休んだこともなかったのに、不思議よね?」

少年「……」

少年「先生はジュンの住んでるとこ知ってるの?」

先生「それは先生だからもちろん」

少年「ジュンの家って、その、ワケアリってやつなんだろ」

先生「うーん……」

先生「……先生の口からはあまり言っちゃいけない事なんだけど」

先生「正直、かなり難しい家だと思うわ」ヒソヒソ


先生「運動会の後、トシくんのお母さんがここに来て、すこし話したのよ」

先生「私としても、早くなんとかしてあげないとって思って、いろいろやってみてるの」

先生「でもね。やっぱりあそこは、難しい……」

少年「……そうなんだ」

先生「トシくん。このプリント、お願いできるかな」

先生「これはね、トシくんにしかできないことなの」

少年「わかった。今日行って来る」

先生「あら頼もしい。かっこいいよトシくん」ナデナデ

少年(先生やっぱりおっぱいデカいなあ)


----教室

ツインテ「ジュンちゃんの住所、分かったの!?」

友「あんまり大声出すなって」

ツインテ「あたし……今日一緒に行く! トシくんいいでしょ?」

少年「ごめん。先生は俺一人で行ってほしいみたいなんだ」

友「先生が?」

少年「まあ、なんか考えてるんだろ。だから今日はごめん」

ツインテ「……明日、ジュンちゃんどうだったか絶対教えてね」

ツインテ「絶・対・よ!!」グイ

少年「ミカって、そこにほくろあったんだ」

ツインテ「バカ!」ベシ

少年「うげ」

ツインテ「……そうだ」クルッ

ツインテ「それなら、あたしも後でトシくんに渡したいものがあるの」


----

少年「……」ザッ

少年「この辺り、滅多に来ねえなあ」

少年「砂利道だし、ボロい建物だらけ……」

少年「えーと8号棟8号棟……え、これ?」

少年(めっちゃボロい、一階建てのアパートだ)

少年「ここの、2号室。トオシマ……あっ」

少年(マジでここに住んでるのか)

少年(呼び鈴を……)スカッ スカッ

少年「呼び鈴壊れてんじゃん……」


----部屋

少女「…………」

少女妹「ねえおねえちゃん」

少女妹「今日もおふとんから出ないの?」

少女「…………」

少女妹「電気くらいつけようよ」

少女「……暗い方がいい」

少女妹「おなかすいた」

少女「流し台に……おむすび沢山作ってあるでしょ」

少女妹「お外で遊びたい」

少女「ダメっ!」ギュッ

少女妹「わっ」


少女「キヨは、ずっと私と一緒にいるの」

少女「どこにもいっちゃダメ……お願いだから」ギュゥ

少女妹「おねえちゃん……」


少女妹「くさい」パッ

少女妹「ずっとおフロはいってないよね。くさいよ」

少女「水道って、まだ止められてないっけ……」

少女妹「つかえるよ。わたし、ひとりで入ってるもん」

少女「一人でお風呂入れるようになったんだ。えらいね……」ナデナデ

少女「私なんか、一人で学校も行けなくなっちゃった」


少女妹「……!」

少女妹「ねえおねえちゃん、だれか外にいるよ」

少女「こっち来なさい」ガシッ

少女「私の後ろに隠れて、絶対にしゃべっちゃダメだからね……」

少女妹「……」


(ヨビリン コワレテンジャン…

少女「!?」

少女(なんでトシくんが……)

少女(あ、先生が教えたのか……)

少女(教えないでって言ったのにな……)


少女妹「あれ、おべんとうのお兄ちゃん?」

少女「しー!!」

(ン? キヨチャンノコエカ?

ドンドンドン

(オーイ ジュンイルノカー?

少女「…………」


少年「へんじがない、ただのしかばねのようだ」

少年「いやいや、いるだろ!」


少年「ジュンー! 黙ってないで何か言えー!」ドンドンドン

(……

少年「トモキも、ミカも、お前来るの待ってるんだぞ!」

少年「俺の母ちゃんだって心配してるんだぞ!」

(……

少年「ふん、持久戦のつもりか?」

少年「あいにくだな! 俺はしつこいことで有名なんだ!」

少年「ここで待たせてもらう」ドカッ



----30分後

少年「なあジュン、お前本当にどうしちまったんだ?」

少年「ブルマ破れたことがそんなに恥ずかしいのか?」

(……


少年「よし、お前の恥ずかしいこと大声で叫んでやる!」


少年「トオシマジュンちゃんはー、白いパンツしかはいてませーん!」

少年「なぜなら毎日ー、ブルマからハミパンしたりー、スカートから見せているからでーす!」
 
少年「あんまり白いパンツを見せるので、みんなにシロパンマンって呼ばれてまーす!」

少年「でも、聞かれると怒ってパンチをしてくるので、みんなこっそり言ってまーす!」

少年「給食でジュンちゃんの好きな物はオレンジゼリー、嫌いな物はグリーンピースでーす!」

少女「ふーっ、ふーっ……」ブルブルブル

少女(ガマンガマンガマン)



----1時間後

少年「転んだとき、とうとうジュンちゃんのブルマはー!」

少年「ビリビリにやぶけてしまってー!」

少年「プリプリのおしりが見えちゃうのでしたー!」ジャジャーン

隣人「うっせえよガキ!」ガラッ!

少年「おじいさん、拍手!」

隣人「チッ……度胸がある」パチパチ

隣人「続けろ。俺がその話評価してやる」


少女妹「おしりは出てなかったよね。パンツだったよね」ヒソヒソ

少女「うっさい……///」

少女(サイアクだ……)


少年「続いてー、トオシマジュンちゃんは―!」


----3時間後

少年「声ガラガラになっちまった」

少年(あと、なぜかおじいさんからお小遣いを貰えた)

少年「……なあ、いまジュンとキヨちゃんしかいないんだろ?」

少年「俺はこのまま夜になっても待ってるんだぞ」

少年「実はさっきから、俺の母ちゃんがすぐそこまで車で来て、待ってくれてるんだ」

少年「渡すまで戻って来るなって言われてるんだよなあ」

少年「俺だけじゃなくて、母ちゃんまで待たせるの?」

少女(うぅ……)

少年「この紙袋を受け取るだけじゃんか」

少年「もし、今夜お前の親がここに帰って来るんなら……」

少年「俺の親もいるから、けっこう面倒くさいことになるんじゃないか?」

少女(!!)


パッ…

少年(あ、灯りがついた)

少年「……」

ギィ…

少年「お! キヨちゃん、こんばんは」

少女妹「……こんばんは、おべんとうのお兄ちゃん」

少年「俺、トシオって名前があるんだよ」

少女妹「トシお兄ちゃん……」

少年「そうそう。お姉ちゃんいるだろ? 渡したいもんがあるんだ」

少女妹「ううん、わたしがうけとる」スッ

少年「……そうきたか」チラッ

少年母『それでいい』ジェスチャー


少年「じゃあ、これ。学校のプリントだってお姉ちゃんに言っといて」

少女妹「わかった」ガサ

少年「また来るからね」

少年「おーいジュン! 奥でダンゴムシになってるお前より、キヨちゃんのほうがずっと立派だぞー!」

(……

少年「キヨちゃん、おやすみ」

少女妹「……あの」ヒソ

少年「ん?」

少女妹「おねえちゃんを、たすけて……」ヒソヒソ

少年「任せろ」フンス

少女妹「……」ニコリ

バタン


少女妹「……はい、これ」

少女「ありがとう」ガサガサ

少女(……プリント以外にもなんかいろいろある)

少女(手紙と、封筒と……なにかの包み?」

少女「封筒から開けてみよ……」ビリビリ

少女妹「えっ!?」

少女「じゅ、10万円……」クラッ

少女(一緒にメモが)


『あなたとキヨさんのために使ってください。
お金は見つからない場所に隠しておくこと トシの母より』


少女「……」


少女「この包みは……ひょっとして」

少女「近所の服屋さんのやつだ……」

少女妹「あけていい?」

少女「いいよ」ガサガサ

少女妹「わー! かわいいー!!」

少女「色違いの下着と、靴下だ……」

少女「私のが水色で、キヨのがオレンジ、なのかな?」

少女妹「おねえちゃんのと違う色だ! やったー!」

少女妹「すごい! フリフリがあるよ! フリフリ!」キャッキャッ


少女(なんで……なんで私に……)

少女(私なんかにそこまでしてくれるの?)ジワ…


少女(だめだめ、泣いてちゃ)

少女「手紙、見よう」ガサ

少女妹「だれのてがみ?」

少女「ミカちゃんからだ……」

少女妹「まるっこい字だねー」

少女「ミカちゃん、変わった字で書くからね」

少女「ずいぶん長いね……」

パラ


『十島 潤ちゃんへ

体は大丈夫ですか。1週間も学校に来ないので、私はとっても心配しています。
私だけじゃなくて、もちろんトモキも、ついでにトシくんも心配しています。
いつまで心配かけるつもりですか? はやく元気な顔を見せてください。

夏休みに遊んだとき、私たちはけんかしてしまいましたね。
そのとき、ちゃんと仲なおりしていなかったので、ここで書きます。
ジュンちゃんがびんぼうだってことは、かなり前から私は分かっていました。
でも、私はジュンちゃんが傷つかないように、それをかくしながら友だちでいようとしました。
その事が、もっとジュンちゃんを傷つけていたんだな、と、今は思います。
だから、ごめんなさい。私はジュンちゃんの友だちとして、まちがっていました。

けんかしたとき、私の気持ちなんてわからない、とジュンちゃんは言いました。住む世界が違う、とも言いました。
私はとても悲しかったです。ゼッコーだよ、と言われたような気分になりました。
でも、今ではたしかに、その通りだな、と思うようになりました。
私の家はびんぼうじゃないし、おしゃれできるし、いろいろな物も食べられます。(ハミパンも、たまにしかしません!)
たしかに世界が違うのだから、私には同じ気持ちなんてできません。

でも、だから、私に教えてほしいのです。
私の知らないジュンちゃんの世界を、もっと教えてほしいのです。
ジュンちゃんの楽しいことも、辛いことも、全部知りたいです。
私からも、私の世界をもっとジュンちゃんに教えたい。
もっと遊びたい。もっともっと一緒にいたい。
私はずっと、待っています。

ついしん:私にこれだけ長い手紙書かせたんだから、ぜったい返事しなさいよね!

国母 美佳より』


少女(……)

少女(あ、だめだ……)ポロ

少女「ミカちゃん……」ポロポロ

少女妹「ミカおねえちゃん、なにかいてたの?」

少女「えへへ……」クスン

少女「とってもいいこと」ニコニコ

少女妹「……そっか」

少女妹(おねえちゃん、泣いてるけど、うれしそう)

少女「よしっ。それじゃ、お金は隠して、スーパー行こうか」ゴシゴシ

少女妹「あのパンツはいていい?」

少女「いいよ。じゃあ、私も……」


少女「どう? かわいい?」

少女妹「うん! わたしは?」

少女「えへへへ♪」ニコニコ

少女妹「わたしかわいい♪」クルクル


<パンツ一丁で踊り回る姉妹の図>



ザッ

「…………」


ダンダンダン!!!

姉妹「「!!」」ビクゥ!!


<アケロー!!


少女妹「お、おとうさんだ……」ビクビク

少女「キヨ、その紙袋ごと、ヒミツの場所に!」

少女妹「うん……」テテテテ

少女「はやく服着て、はやくっ!」


ドカッ ドカッ

<オマエラ!! ナニヤッテンダ!!!


少女「……」

少女妹「……」

少女「鍵……開けるよ」


ガチャ バンッ!!


少女「……お帰りなさい」

少女父「…………」

少女「冷えるので、ドアを閉めてください」

バタンッ!!


少女父「お前何様なんだよ、あ?」

少女「……」

少女父「父親をなぁ、ドアの前でなぁ、こんだけ待たせる娘が……」

少女父「いるかっつってんだよぉ!?」ドンッ

少女「ぐ……」

少女妹「……」フルフル


少女父「ん? どうした? いいんだぜ俺は」

少女父「お前を苦しめる方法、たくさん知ってんだからよ」

少女「ごめんなさいお父さん。私が待たせてしまいました」ドゲザ

少女父「脱げよ」

少女「……」

少女父「謝るのにもさあ、カタチってのがあるだろ?」

少女「はい」スルスル

少女父「なに突っ立ってんだよ。お前もだよ」クイ

少女妹「はい……」スルスル

少女父「……」


少女父「は? はぁ!?」


少女父「俺いつ、お前らにそんなパンツ買わせる金渡したっけ?」

少女「……」

少女父「……お前ら、チクったんだろ」

少女父「チクって、同情誘って、そんなもの貰ったんだろ」

少女「……」

少女父「ダンマリか。ま、どうなるかくらい分かってるよな。娘だしな」

少女父「抵抗すんなよ」ガシッ

少女父「ふんっ!」グッ グッ グッ

少女「……んっ」

ミリ…ビリッ…


少女(私は、いま、お父さんに)

少女(力任せに、はいたままのパンツを破られています)

少女(腰の部分を乱暴につかんで、力いっぱい上と横に伸ばしています)

少女(お股に食い込んですごく痛いですが、何も言いません)

ビリ…ビリィッ…

少女(フリフリのレースがついて、可愛い星の刺繍があしらわれた私の水色のパンツ)

少女(いま、レースが引きちぎられて、星が崩れました)

ビビビビビッ バツンッ

少女(私の3年ぶりの色つきパンツは、たった1時間で布切れになりました)



少女「……」

少女父「やっと、謝る恰好になれたな」

少女「申し訳ありませんでした」ドゲザ


少女父「ホントはなぁ、今日にでもお前にぶち込みたいんだけど」

少女父「お前、まだ一度も生理来てねえの?」

少女「……まだ来ていません」

少女父「お前チビだから来ねえんだな。来てない奴とやっても面白くない」

少女父「来たらすぐに言うんだぞ。いち早く、お前をメスにしてやりたいんだ」

少女「……」

少女父「お前のあそこはキッツキツだろうからな。どんなこと叫ぶのか楽しみだ」

少女「……」


少女(この人が、私の、ただひとりの親です)

少女(1週間に一度ほど、こうしてやってきて、私たちをいじめます)

少女(なぜか米の袋と、いくらかの小銭だけ置いて、翌朝帰っていくのです)

少女(でもこの人は、たった4年前から私のお父さんになった人)

少女(これまでも、これからも、一生他人のままです)


----

少年(その次の日、期待はしていたけれどやっぱりだめだった)

少年(ミカは、あれだけ沢山書いたのにと怒っていたが、それよりも悲しそうだった)

少年(母ちゃんは、そうとうなずいただけで、特になにも言わなかった)

少年(それからさらに、1週間経った)


----教室

少年「なんかアイツがいないのが、普通になってきてんな」

友「世の中薄情者ばっかりだ」

少年「なんか昔、ジュンに向かってそれ言ったような」

ツインテ「あの手紙、読んでないのかな……」

友「手紙に何書いたの?」

ツインテ「アンタ達は知らなくていい。でも、ホントの気持ちを書いたつもりなの」


先生「トシくん、ちょっと」クイクイ

友「またか」

少年「おう」ガタ


----職員室

先生「これ、よろしくね」

少年「はい」

先生「ごめんね……。安心させてあげられなくて」

少年「いや、先生は頑張ってると思う」

先生「ううん。先生空回りばっかりしてる」

少年「先生、教えて。ジュンになにがあったのか」

先生「……」

先生「……いま、近くに先生は……いない。よし」キョロキョロ

先生「トシくん、これから話すことは絶対秘密よ」ヒソヒソ

先生「バレたら先生学校辞めなきゃいけないかも」

少年「わかった」

先生「あと、かなりキツイ話になるけど、最後まで聞く覚悟はある?」

少年「はい」

先生「……一度しか言わないからね」


先生「ジュンちゃんは、虐待を受けている可能性が高い」

少年「ギャクタイ……」

先生「ジュンちゃんの母親は2年前に亡くなってるの。いまは妹と父親の3人暮らし」

先生「でも、その父親は母親の再婚相手で、ジュンちゃんと血は繋がってないの」

先生「親戚とはほとんど付き合いが無いみたいだから、ジュンちゃんにとっての保護者は父親だけ」

先生「で、その父親が虐待しているかもしれない人なのよ」

先生「内容はおもに育児放棄。親が子育てをしないってこと」

先生「さらに暴行も併せて考えられるけど、体に目立った傷は見られない」

先生「あとは……あの子体育の時、いつもブルマからパンツがはみでてたでしょ?」

先生「ちゃんとした大きさの体操着も満足に買ってもらえない……これも虐待のひとつなのよ」

先生「……トシくん、分かる?」

少年「まあ……半分くらい」

先生「十分よ。よくできました」


先生「私は、父親に面談を持ちかけたけど、全く取り合ってくれなかった」

先生「色々な所に掛け合ってみたけど、これもなかなか進まない」

先生「虐待をしたって絶対的な証拠さえあれば、話が進むんだけど……」

少年「話が進んだらどうなるの?」

先生「頼れる親戚がいない、となると……ジュンちゃんと妹さんは養護施設に行くことになる」

少年「養護施設では、好きな物を食べられるの?」

先生「毎日は無理でしょうけど、食べられることもあるでしょう」

少年「好きな服を着ることもできるの?」

先生「施設の人と一緒に、服のお買い物にも行くそうよ」

先生「ただね、施設に入ったら、ここの学校に通い続けることはできないかもしれない」

少年「……うん」


少年「このこと、俺の母ちゃんとトモキとミカにも話していい?」

先生「トシくんのお母様はもうご存知だからいいけど……」

先生「トモキくんとミカちゃんは、他の人に言わないって信じられるの?」

少年「トモキは、俺より全然物知りで大人だから。言っていいことと悪いことの区別はできる」

少年「ミカは、たしかに口が軽そうだけど、友だちのことは絶対に裏切らない」

少年「あいつらはジュンも、先生も悲しませることはしない。俺は信じてる」

先生「……じゃあ、先生はトシくんを信じます」


先生「今日は、3人で行くのね?」

少年「たぶん」

先生「これ、貸すから持っていきなさい」ゴト

少年「なにこれ。トランシーバー?」

先生「ううん、携帯電話っていうの」


少年「ケータイデンワ?」

先生「ほら、テレビのCMでやってるじゃない」

先生「持ち運べる電話って言えばいいかしら?」

先生「電話番号を押して、ここの通話ボタンを押せば電話できるわ」

少年「なんでこんなもの」

先生「まあ、非常用ってところ。何もないのにかけちゃダメよ、電話代高いんだから」

少年「それで、どこにかければいいの?」

先生「はいメモ。ここにかけたらすぐに繋がるわ」スッ

少年「わかった……」


先生「本当に気をつけてね。先生はなにか、嫌な予感がするの」

少年「先生の予感、当たったためしがないじゃん」

先生「ふふふ、そうね。そういや当たったことなかったわね」


----

少年「……ってことらしい」

ツインテ「ジュンちゃん……」

友「本当に虐待されてたとか、信じたくなかった……」

ツインテ「かわいそうとか軽々しく言えないけど……それでもひどいよ」

少年「……」

少年「でも、アイツはやっぱりすげえんだなって思った」

ツインテ「そうね。それだけのことみんな隠し続けて、しっかりやってきたんだものね」

友「俺だったら、絶対死にたくなるな」

ツインテ「……冗談でも怒るわよ」

友「ごめん……」


友「ジュンちゃんてさ、何やっても精一杯頑張る子じゃん?」

友「でもさ、あの子を見てて時々、危なさみたいなもの……感じたりしなかった?」

友「本当は辛いのに、それを誰にも見せないで、常に元気な女の子でありつづける」

友「あんまり長くやってると、それが自然に出来てしまうようになる」

友「でも本当は、心はすり減り続けている。そして、ある日限界を超えてしまうと」

ツインテ「……ほんのちょっとのキッカケで、全部崩れちゃう?」

少年「……」

ツインテ「崩れちゃったのが、いまのジュンちゃんだっていうの?」

友「俺はそう思うけど。トシは言ってる事、わかるか?」

少年「お前ら本当に小学生かよ……ごめん、何が何だか」

ツインテ「トシくんほど単純なのが、ときどき羨ましくなる」

少年「バカにしてんのか」


友「簡単に言うとな、いまジュンちゃんは危ないんだ」

少年「危ない?」

友「これ、俺の考えだけど、多分ブルマがそれに関係してる」

少年「何でそこでブルマが出てくんだよ」

友「ジュンちゃんのブルマは、他人が見れば汚い体操服なんだけど、あの子にとっては特別な何かなんだ」

ツインテ「だから、小さくなっても、穴が開いても、使い続けた……」

友「そう。そして運動会の日、完全に使えなくなってしまった」

友「なあトシ。ジュンちゃんさ、保健室で泣いてる時、なにか言ってなかったか?」

少年「……あ」

少年「俺が出てく直前、お母さん、とか言ってたような……?」

友「……そうか」


ツインテ「ジュンちゃんのお母さんは……その、2年前に死んじゃった」

友「あれが2年前、俺らが3年生のときのブルマだとすると、どうだ?」

少年「サイズが小さくなるのも、穴が開くのも……分かるな」


ツインテ「ジュンちゃん、きっとお母さんが大好きだったのよ」

ツインテ「あのブルマ、お母さんが買ってくれたものなんじゃないかしら」

ツインテ「だからあれは、ある意味お母さんの形見のようなもの……」

ツインテ「そしてその形見が、あの日破れてしまった」

ツインテ「それなら、あの子が大泣きするのも、分かる気がする……」

少年「……」

友「あの子を支えてたものが、ひとつなくなってしまったんだ」

友「いまのジュンちゃんは、だから、危ないんだよ」

友「俺たちがいま何かしないと、きっと最悪なことになっちまう」


少年「最悪って……」ゴク

ツインテ「……そうならない為に、あたし達ががんばらないと」

友「今日は何が何でもアイツと話をする!」

少年「……がんばろうな!」グッ

友「おう!」グッ

ツインテ「当然よ!」グッ


----

少年「あそこがアイツの家だ」

友「……団地か」

ツインテ「すごく……寂しい所ね」


コンコン

少年「おーい、ジュン。またきてやったぞー」

(……


少年「2人とも、ここの攻略は持久戦だ。覚悟してかかれよ」

友「なんだそりゃ」


ツインテ「ジュンちゃん久しぶり! あたしよ、ミカよ!」

(……

ツインテ「あたしの手紙、読んでくれた?」

ツインテ「言いたい事、そこに書いてあるんだけど……」

ツインテ「……読んでくれたなら、家の明かり、つけてくれないかな?」

(……

パッ

ツインテ「!!」

ツインテ「よかった……」ジワ

少年「おいミカ、もうオトされてんじゃねーよ」ヒソヒソ

少年「どんな感想だったか聞くんじゃねーの?」

ツインテ「……ううん」

ツインテ「ジュンちゃんが、あれを読んでくれたっていうのが、答えなの」

少年「そういうものなのか」

ツインテ「そういうものなの」ニコ


友「ジュンちゃん」

友「俺は、ジュンちゃんがどんな目に遭ってきたかは分からない」

友「話せる範囲で良い。それを俺に聞かせてくれないか」

友「話したところで変わらない、と思ってるかもしれない」

友「ところがどっこい、これが変わるんだ」

友「心の中を人に聞いてもらうってだけで、驚くほど変われるものなんだ」

友「カウンセラーだって占い師だって、その仕事で一番大事なのは聞き上手になることなんだぜ」

友「俺たちはカウンセラーじゃないけど、ジュンちゃんを友だちだと思ってる」

友「ジュンちゃんが、俺たちを友だちだと思ってるなら、家の明かりを消してくれ」

(……

フッ


友「やっぱりジュンちゃんは最高だよ」

ツインテ「なによそれ」

友「俺の考えだけどさ、いい友達は、お互いにいい聞き役なんじゃないかって」

友「頭ごなしに否定せず、考えなしに同調せず、高め合える関係が続く。最高じゃないか」

友「ジュンちゃんって、自分の為より人の為ってタイプだよな」

友「だから、これはジュンちゃんの為に言うんじゃない」

友「俺の為に、俺がもっといい友達になれるような、聞き役にさせてくれないか?」

(……

友「待ってるよ」


ドンドン

少年「という訳だ。聞いてたかジュン」

少年「すげえよなこいつら。よく難しい言葉がスラスラでてくるよな

少年「俺にはできない。隣でアホづらしかできなかったぜ」

少年「だから難しいことは言わない。ジュン、俺はな」




少年「俺は、お前が好きだ」


(……!

友「……切り札が出た」ニヤニヤ

ツインテ「タイミング、ここなんだ」ニヤニヤ


少年「好きなんだ。単純に顔が見たい」

少年「それじゃダメか?」

少年「なんで好きかって、それをここで大きな声で言う事もできるぞ」

少年「幸い、今日も聞いてる奴はいるからな」

少年「でもお前、これは相当恥ずかしいだろう」

少年「あと十秒で言うぞ。九、八、七……」


(……ルヨ

少年「え?」


(カギ……アイテルヨ


3人「「「おじゃましまーす」」」


ツインテ(……家の中、ぐちゃぐちゃに汚れてる)

友(しばらく掃除してないんだろうな)

少年「ジュン、どこにいるんだ?」

ツインテ「一番奥の部屋じゃない」

ガチャ


少女「……」

友「……いた」

少年「よ、よう。来たぞ」

少女「……歓迎はしてないよ」

ツインテ「…………」

ツインテ「会いたかった……!」ギュッ


ツインテ「会いたかったよ……」

ツインテ「もう……綺麗な髪がボサボサじゃない」

ツインテ「爪もこんなに伸びて……肌もガサガサで……」

ツインテ「ホントに……心配したんだから……」

少女「……」ギュッ

少女「手紙……読んだよ。読んだら泣いちゃった」

ツインテ「ありがとう……」

少女「そうだよね。私、あれから謝ってなかったんだよね。トモキくんにも」

少女「酷いこと言ってごめんなさい」ペコ

ツインテ「え? あ、うん……」

友「もう気にしてないよ」


少年「そうだ、妹……キヨちゃんは?」

少女「キヨはね、トシくんの家に預けてるの」

少年「はい?」

少女「今日は多分あの日なの。これ以上キヨを危ない目にあわせられないから」

ツインテ「あの日……?」

少女「女の子の日じゃないよ。血は出るだろうけどね、たぶん」

少女「トシくんを入れたのは、今日ご実家にお世話になっているから。ホントはそれ以外は入らないでほしかった」

少年「ちょ、ちょっとお前何言って」

少女「トシくん、今夜は妹がいてうるさいと思うけど、ごめんなさい」ペコ

少女「プリント届けてくれたんでしょ、ありがとう。これだよね」ガサ

少女「……用事は済んだよね。じゃあ、もういいよね」


少年「お、おい!」

少年「告白の答え、どうなんだよ!」ガタッ


少女「…………」

少女「……いまね、私、なんだかどうでもいいの」

少女「疲れてるの。早く出て行ってくれないかな」

少女「ほら」

少女「……」


少女「はやく出てって!!!」ダンッ

少年「……!」

友(……ここの戦いは、持久戦だ)

ツインテ(ここからが、勝負なのね……)



少女「出てけぇ!!!」ガシャーン


友「おい、物投げるな!!」

少女「はぁーっ、はぁーっ」

少女「うわぁあああああああっ!!」ブンッ ブンッ

ガシャーン パリーン グシャッ

ツインテ「きゃーっ!!」


友「くそ、トシ!」ガシッ

少年「この、落ち着け!」ハガイジメ

少女「はなせぇーっ!!」ジタバタ

友「うう、すげぇ力……」

少年「やめろ、やめてくれっ!」

ツインテ「……っ」スッ

ツインテ「ジュンちゃんごめん!!!」ボグッ


少女「ぅ……」ガクッ

友「み、ミカちゃん、みぞおちに一発で……」

少年「綺麗なストレート……」

ツインテ「……あたしの親戚に、護身術の先生がいるの」

ツインテ「女の子だからって色々教えてくれたんだけど……まさか」

ツインテ「友達に初めて使うだなんて……」ガックリ

少年「とにかく助かったぜ……」

友「本気でビビったよ……」

友「って、早くジュンちゃんどうにかしないと」

少年「ミカ、ロープ探してきてくれ! 俺たちは抑えてるから」

ツインテ「分かった!」タタタタ


少年「なあ……」

友「……ああ。ジュンちゃんの心はもう、ボロボロだ」

友「本当にギリギリのところだったな」

少年「性格まで変わってんじゃん……」

友「それだけ追い詰められてたってことだろ」


ツインテ「あったよ! お風呂場にゴムホースが!」タタタタ

少年「でかした! これでとりあえず縛っとこう」グルグル

友「ほどける様に縛っとけよ」

ツインテ「ゴムホースだってタダじゃないんだから」

少年「分かってるって」ギュッギュッ

友「……縛られてるジュンちゃんに、メチャクチャな部屋」

ツインテ「事件現場みたいね」


少女「……!」ハッ

少女「!?」ギチギチ

少女「これ、どういうつもりなの?」

友「ごめんなジュンちゃん、ちょっと危ないからそうしてもらったんだ」

少女「……ふぅん、あなた達は、友だちにこういうことするんだね」

ツインテ「……そろそろ教えてくれない? 家族のこと」

少女「お金持ちのお嬢さまには理解できないし、言いたくもない」プイ

ツインテ「……あの手紙、読んだんでしょ!?」ガタ

少年「怒るな……な?」ポン

ツインテ「……っ」

少女「じゃあね、私の本心、言ってあげようか」

少女「トモキくん、聞き役になりたいんでしょ? いくらでも言ってあげるから、しっかり聞いててね」

少女「そうだよね、トモキくん?」


友「ああ、望むところだ」

少女「私、あなた達のことは友だちだと思ってる。それは本当だよ」

少女「3人とも大好きだった。でも、同じようにね、3人とも大嫌いだったの」

少女「なんで大嫌いだったかっていうとね、一緒にいると辛くて悲しくなるから」

少年「……」

少女「ちょっと前トモキくんの家でさ、テレビゲームの分からない私にみんなが教えてくれた事、あったよね」

少女「私がちょっとおかしな動きすると、みんな笑ってたよね」

ツインテ「だってあれ、普通の人はあんな動きしないから、面白くて……」

少女「普通の人はあんな動きをしない?」

少女「私が普通じゃないから、みんな笑っていたってことだよね」

友「……」

少女「それでね、私、みじめになっちゃったの」

少女「ああ、私はテレビゲームも知らないんだ、ってね」

少女「家にテレビゲームがないから、なにもわからないから、普通の人にはなれないんだって」


少年「それ、お前が勝手にみじめに思ってるだけじゃん」

少女「解らないでしょ? テレビゲームを全く知らないなんてこと、みんなはなかったもんね」

友「……言いたいだけ言って、意見するとあなたには解らないで終わり?」

友「それはちょっと勝手なんじゃ……」

少女「聞き役に徹するんじゃないの? トモキくん」

友「……」

少女「じゃあ、私と生活交換してみようよ。3年ほどさ」

少女「そうすれば分かるよ。私が何を言ってるのか」


ツインテ「……ジュンちゃんは、私たちと一緒にいるとき、ずっと」

ツインテ「ずーっと、みじめに感じてたの?」

少女「いつもは感じないよ。ただ、そういう回数は増えたかなって」

少女「友だちのいなかった時よりはね」


ツインテ「……ジュンちゃん、前に『貧乏だってバレた途端みんな離れていった』って言ってたよね」

ツインテ「違うよ」

ツインテ「みんなが離れていったんじゃなくて、自分から離れていったんでしょ?」

ツインテ「あたし聞き役でもないから、いろいろ言わせてもらうけど」

ツインテ「怖かったんでしょ。みじめだと感じて、心が傷ついていくのが」 

ツインテ「だから自分から壁を作って、守っていたのね」

ツインテ「でも、私たちといて、ジュンちゃんよく笑ってたよね。あれは絶対に嘘だとは思えない」

ツインテ「友だちがいたことで、傷つくよりも沢山のものを得られたって気づかないの?」

少女「気づくのも気づかないのも私だよ」

少女「それに、沢山のものを得られるだなんて、よく勝手に言えるよね。他人なのに」

ツインテ「そう……他人なのね……」


少年「おいお前、それホンネなのか?」

少年「本当に、友だちなんていらないって思ってたのか?」

少年「お前は、友だち想いで優しい、ジュンじゃないのか?」


少女「……だからさぁ」

少女「みんな、私をなんだと思ってるの?」


少女「貧乏だけどそれを知られないように振る舞って、勉強も運動もできる完璧な女の子?」

少女「うっかりハミパンしちゃうような、ちょっとドジな女の子?」

少女「友だち思いで素直で優しく、自分より他人のことを考えてる女の子?」

少女「ふざけないでよ……」

少女「本当の私はもっとみにくいの。こんなふうに、嫌味しかいえないひねくれた性格なの」

少女「あなた達はおかしいと思わなかったの?」

少女「こんな貧乏でひどい目に遭い続けて、あんな良い子になれるわけないよね?」

少女「……お芝居に決まってるじゃない、ぜんぶ」

少女「ただ、普通の女の子になりたかっただけなのに」


友「それ、どこまでがお芝居なんだ?」

友「貧乏を隠してる部分まで?」

友「俺たちに見せてた、あの優しい性格まで?」

友「今のその言葉も全部?」

少女「…………」

少女「……」

ツインテ「……ジュンちゃん」


少女「分かんない」


少女「もう、自分でも分かんなくなっちゃったの」

少女「ずっとお芝居してたら、やろうと思ってなくてもできるようになってて」

少女「いまの私のほうが、お芝居じゃないかって思えちゃうんだ」

少年「……」

ツインテ「あたしにとっては、学校のジュンちゃんが本当のジュンちゃんだよ」

少女「私って……お芝居の才能だけはあるのかもね」

友「今のジュンちゃんがどう思おうと、俺にとってのジュンちゃんは学校にいるただ一人だ」

少女「惜しかったね。もうちょっとで完全に入れ替わることができたんだけど」

少女「……やっぱりこっちの私のほうが、本当なのかな」



ザッ…

少女「!!!」


少女(ウソでしょ……なんでこの時間に……)

少年「どうした、顔が青いぞ」

少女「逃げて!!」

ツインテ「い、いきなり何よ」

友「……まさか!」

少女「はやくここから逃げ……あっ」


ドンドンドン


少年「!」

ツインテ「ねえ、これって……」

少女「ミカちゃん、玄関のカギ閉めたよね」

ツインテ「あ、えーと……たぶん」


ガチャガチャガチャ


友「閉めてたみたいだな……」


少年「ホースほどくぞ」ギチギチ

少年「……あれ」ギチギチ

少年「ほどけない……」ギチギチ

友「マジで何やってんだよお前!」


ドカッ ドカッ


ツインテ「ひっ!」ビク

少女「私はいいから、みんな隠れて!」

友「隠れろって、どこに……」

少女「流しの下の戸棚、からっぽだから」

ツインテ「でもジュンちゃんは」

少女「もうドアが壊れる! はやく行って!!」

少年「……ジュン、ごめん!!」タタタ


ドカッ バキィ!!!


----戸棚

少年「……」

友「な、なんとか3人収まったな」ヒソヒソ

ツインテ「シッ! バレたらあたし達殺されるよ」ヒソヒソ

友「……ミカちゃん、そこから外見える?」ヒソヒソ

ツインテ「……ええ。あれが、ジュンちゃんの」ヒソヒソ

少年(ジュンの、父ちゃんなのか……)



少女父「……」

少女「……」

少女父「お前、何縛られてんだ?」

少女父「まあいいや。都合がいい」


少女父「お父ちゃんなぁ、ドア蹴飛ばしちまったよ」

少女父「お前が弁償しろよ」ギロ

少女「……」

少女父「ただ、さっき俺を待たせたことの罰はしないでやる」

少女父「俺はいま気分がいいからなぁ」ニタ

少女(酒臭い……)

少女父「今なら何でもできそうな気がする」フラッ

少女父「お前今週もまだなのか、生理」

少女「まだです」

少女父「実は女じゃねえんだろ、お前?」

少女「……女です」


ツインテ(アイツ、なんて事を……!!)


少女父「ふん、そんなら確かめてやる」シャキッ

友(ナイフ!?)

少女父「おら、股開け」ガバッ

少女父「う、小便臭ぇ。パンツにシミついてんじゃん」

少女父「いいか。動くとお前の大事なとこズタズタに切っちまうぞ~」ビリッ ビリッ

少女「……」


ツインテ(ひょっとして、あの子のパンツ切り裂いてるの……?)

友(これ、本当にやばいかもしれない……)


少女父「ふん、毛の一本も生えてないのかよ」ペロ

少女父「きれいな割れ目だな……ふふふふふふ」


ツインテ(どうしようどうしよう)オロオロ


少年(……!)

少年(そうだ、これがあった……)ゴソゴソ

少年(暗くてボタン見づれぇな……)ピッ ピッ

友「トシ、なにしてんだ?」ヒソヒソ

少年「助けを呼ぶんだよ……」ヒソヒソ

少年(通話っと)ポチ


プルルルル プルルルル

電話『はい、こちら○○市児童相談所』

少年「助けて下さい」ヒソヒソ

電話『……十島潤さんのお友だちですか?』

少年「はい」ヒソヒソ


友(こ、これ、むこうに聞こえてないよな……)


少女父「オレなあ、近々しょっ引かれそうなんだよなぁ」

少女父「誰がチクったのかは知らねえが、お前ともお別れになりそうなんだ」

ツインテ(……気づいてないみたい)

友(酔ってるから耳が遠くなってるのか……助かった)


電話『潤さんの家にいるのですね?』

少年「はい。いま隠れてて……」ヒソヒソ

電話『わかりました。今、どのような状況ですか?』

少年「……ジュンが父親に、襲われそうなところ、です」

電話『わかりました。すぐに人を向かわせます』

電話『電話を切らずに、床に置いてください』

少年「……」ゴト


少女父「だから、なにか餞別でもしてやろうと思ってなぁ」カチャカチャ

少女父「とびっきりのプレゼント、くれてやるよ」

少女父「ほら。これ、そのおクチで咥えてみろ」ボロン

少女「……」

少女父「咥えろっつってんだろぉ!!!」ズブリ

少女「ぅごっ……」

少女父「はははっはっははははっ。美味いか?」ガシッ ガシッ

少女「ぅげ、ぅえっ」ジュッポジュッポ


ツインテ「……」ポロポロ

少年「……」

友「よせ。耐えろ、耐えるんだ……」ヒソヒソ

友「アイツはナイフを持ってる。今出てくと、こっちまで……」ヒソヒソ


少女父「さあて、俺のここが濡れたところで……」

少女父「メインディッシュにいこうか」ニタァ

少女父「お前の初潮の日までぶち込むのは待ってたんだが、もうどうでもいい」

少女父「おい股閉じてるぞ、開け」ガバ

少女「やめて……」

少女父「お前のは濡れてねえなあ、ほらほら」クチュクチュ

少女「……んっ、んんっ」

少女父「へえ……、お前そんな色っぽい声出せたんだな」


少女「お父さん……やめて……」ボロボロ

少女父「俺を楽しませてくれよ……いくぞっ!」スッ


ガタガタッ!


少年「やめろォーーーっ!!!」ボコッ


少女父「おごっ……」

少女父「なんだテメエらぁ!!」ブンッ

少年「ふんっ」スカッ

友「許せないっ!!」ポコッ

少女父「なんだぁそのパンチは?」ボスッ

友「うっ!」


ツインテ「ジュンちゃん! こっち!」ガシッ

少女「……!」

ツインテ「足は動かせるね。お風呂場に逃げてて!」

少女「……」タタタタ


ツインテ「トモキ大丈夫?」

友「ははは、まだまだ」ハーハー

ツインテ「トモキはジュンちゃんについたげて。あたしが戦うから」

友「……ごめん、あと頼む」ヨタヨタ

友「彼氏失格だな俺……」トボトボ

ツインテ「後でたっぷりいじめてあげるから。ジュンちゃんをよろしく!」


少女父「なんだ、女がもう一人いたのか。お前は生理来てる?」

ツインテ「運がいいのね。こないだお赤飯を食べたところよ」スッ

少女父「ほーう」


ツインテ「死ねっ!!!」ゴス

少女父「……んぐ」フラ


少女父「見かけによらず……重いパンチ出すんだな」


ツインテ「うそっ!?」

少女父「ふん」シャッ

ツインテ「ひぃ!」バリッ

ツインテ(あぁ、お気に入りのジャンパーが……)


少年「いまだ!」ゴチン!

少女父「……」スリスリ

少女父「茶碗で頭を殴るたぁ、いい度胸じゃないか」

少女父「おらっ」シャッ

少年「……っと」ヒュン

少年「ジュンをあそこまで傷つけたお前は……」

少年「絶対に許さねえ!!」ボコッ


----

少女父「……終わりか?」

ツインテ「まだよ……まだ終わらせない」ボロボロ

少女父「そこのヒーローくんは、もう伸びてるようだけど?」

少年「」

ツインテ「あたしは……ジュンちゃんの親友なんだから……」

少女父「キーキーうっせえな」

少女父「くたばれ」ゴシャッ

ツインテ「んぐぅ……っ」ドサ


少女父「……ヤるならこの生意気なガキでもいいか」

少女父「あんなガリガリより肉付きがいいし、何よりちゃんと女の体になっている」

少女父「でもな……こいつのアソコを使えなくするってのもいいかもな……」ニヤリ

少女・友「……」

少女父「……ん、なんだお前ら、まだいたのか」クル


少女「ミカちゃんから手を離して」

少女父「なんだお前、もう縛られてねえのか」

友「俺のミカから手を離せ」

少女父「お前らにはもう興味ない。そこでおままごとでもしてろ」シッシッ

友「もう一度だけ言う。俺のミカから手を離せ」

少女父「……俺は人を殺したくないんだ」

友「今更何言ってるんだ。お前はもう、ジュンちゃんを一度殺してるじゃないか」

少女父「お前は言葉遊びが好きなんだ、なっ!」バキ

友「…………」


少女父「あームカついた。殺してやろう」チャキ

友「!」


ドカドカドカ


警官A「動くな!!」スチャッ

少女父「……」

警官A「ナイフを地面に置け!!」

少女父「……」コト

警官B「17時22分、殺人未遂の現行犯で逮捕する!」

少女父「…………」

少女父「うおおおおおおおおおお!!!!」ガシッ

友「んぎぎ……」グググググ

友(首、絞め、ら……)



少女「……」スッ

バ コ ー ン ッ ! ! !


少女父「……」ガクッ

警官A「確保! 確保ぉ!!」

ドタドタドタ…


警官C「君達もう大丈夫だよ。怖かったね」

友「……はい」

少女「……」

警官A「ほら、歩け」スッ

少女父「……」スタスタ

少女「……」

少女「お父さん」

少女父「……」クルッ

少女「今までありがとうございました」ペコリ

少女父「……」


ファンファンファンファン


ツインテ「ん、んん……?」パチ

ツインテ「あれ、アイツは?」キョロキョロ

友「逮捕された」

ツインテ「…………はぁーっ」

ツインテ「終わったのね……」

少女「……ミカちゃん」

ツインテ「何も言わないで」ギュッ

少女「うん……」ギュッ

ツインテ「ジュンちゃん……」ギューッ

少女「ミカちゃん……」ギューッ

友(……)

友(ちょっと、外で風浴びよう)ガチャ


----家の外

先生「あ……」

友「先生」

先生「ご……ごめんなさい……」

先生「あなた達を……あんな、危ない目に……」ポロポロ

友「教え子の前で泣かないでよ……」

友「先生が携帯電話を渡してくれたんでしょ?」

友「先生のおかげで助かったんだよ。ありがとうございました」ペコ

先生「でも……でも……」ヒックヒック

友「……情けないなぁ。でもそんな先生にお願いがあります」

先生「はい……」グスグス

友「ちょっとの間でいいから、誰も家の中にいれないでほしいんだ」


----居間

少年「……」パチ

少年「……お前ら、なに抱き合ってんだ? そーいうシュミなの?」

少女「っ! トシくん……」バッ

ツインテ「せっかく良い所だったのに、ぶち壊さないでくれる?」

少年「あいつは……捕まったのか?」

ツインテ「そのようね」


少女「……」

少年「……良かったな、とは言えねえよな」

ツインテ「……」

友「お、トシ復活したのか」

少年「おう。やっと4人揃ったな」


少年「なあジュンさ」

少年「お前さっき、どっちが本当の自分か分からないって言ったよな」

少女「……うん」

少年「俺にとってはどっちも本物だよ。お芝居とか関係ねえ」

少年「学校での素直で優しいお前も本物だし、」

少年「良い子になろうと一生懸命芝居するお前も本物だよ」

少年「だってどっちも、根っこの考え方は一緒だろ?」

少女「貧乏はいやだ。普通の女の子になりたい……」

少年「ほら。モトのモトにその考えがあって、全部動いてたんだろ?」

少女「どっちも私……でも、いいの?」

少年「当たり前だろ」


少年「実は俺な、今日のお前を見てて、もちろん怒ってたんだけど……」

少年「ちょっとだけ嬉しかったんだ」

少年「お前、前まで自分の弱さを見せることを極端に嫌がってたよな。貧乏がばれることとか」

少年「それが今日、俺たちに思いっきり弱さを見せてくれた」

友「流石に物をぶん投げられるとは思わなかったけどね」

少女「ごめんね……」シュン

少年「ああ、オマエもただの小学生の女の子なんだって、ほっとした」

友「まあ、たしかに今までがあんまり完璧だったから、すこし怖いって思う事はあったかも」

ツインテ「スポーツ万能、成績優秀、友だち想いで礼儀正しい……」

少女「……正直やりすぎなのかなって、思ったりもしたよ」クスクス

ツインテ「『普通の女の子』は、あんなに良い子じゃないもんね」

友「でも、なんでそこまで徹底的に演技しようと思ったの?」

少女「……必死で何かをしていると、辛いことを忘れられたからだよ」


少女「マジメで優しくて友だち想いな性格は、残念だけどお芝居なの」

少女「でも、運動と勉強はお芝居なしのホンキでやってた……と思う」

少女「運動するときも勉強するときも、いつも必死にがんばった。そこには自信がある」

少女「そのおかげで、運動も勉強も他の子よりできるようになった。たくさんほめられたよ」

少女「そして、運動も勉強もしてないとき……他の人としゃべっているときは、良い子のお芝居をする」

少女「必死で良い子になりきるの。言葉とか顔とか、相手が喜ぶように考えてお芝居するの」

少女「本当は……心の中でよく相手に悪口を言ってたりしたよ」

少女「この子バカだなあ、とか、なんでこんな事も分からないの? とかね」

少女「とにかく、必死になんでもやる。その間は余計なことを考えなくてすむでしょ?」

少女「ちょっと気を抜くと、すぐにイヤな思い出がどんどん出てきて、落ち込んじゃうもの」


友「じゃあ、男とばっかり遊んでいたのも……」

少女「男の子と遊んでいると、頭の中からっぽにできるでしょ? 男の子ってみんなバカじゃない」

友「い、言うね……」

少女「女の子と遊ぶと、いろいろ考えるヒマがけっこうあるし、それにシットしちゃうから」

少女「ミカちゃんにも、何回もシットしてたんだよ。市民プール行ったときもね」

ツインテ「そう……やっぱりそうよね」

ツインテ「あ、じゃあ本をたくさん読んでいたのも」

少女「読んでるあいだは、お話に夢中になれるでしょ。でも、つまんない本の時はキツかったなあ……」


少年「ジュン、いつもそんな事をしてたんだな……」

少女「そう。でもね、気が付いたらボロボロになっちゃった」

少女「私、逃げてばっかりだったの」

少女「まっしろパンツしかはけない私、貧乏な私、虐待されてる私、普通の女の子になれない私……」

少女「たくさんの事から逃げてばっかりの、ダメダメな女の子なんだ」


少年「もっと自信を持とうぜ。やっぱりお前はすごいヤツだよ」

友「ジュンちゃんがやってるのは、ダメダメな子ができるような事じゃないぞ」

ツインテ「逃げたっていいじゃない。なんで辛いことばっかり考えなきゃいけないの?」

少年「それと、そんなダメダメな女の子が好きな俺がいるんだぞ」

少女「……あ」

少年「まだ答えを聞けてないんだけど」

少女「……」

少女「わたしはね……トシくんのことが」



少女「……好き……なのかな?」

少年「なんだよそのハッキリしないの」

少女「……だって」

少女「怖いの。私、トシくんと付き合ったら、もっと自分がみじめに感じちゃうんじゃないかって」

少年「なあジュン」


少年「みじめじゃない。お前はみじめどころか、みんなよりずーっとすげえ奴なんだ」

少年「俺の言う事が信じられないのか?」

少女「信じたい……信じたいよ。でも……」

少年「それじゃあ、お前がみじめに思ったら、俺に全部それを吐き出せ」

少年「とことん付き合ってやるから。底の底まで」

少女(……)


少女「……ちょっと気持ち、整理したいかな。やっぱりあとででもいい?」

少年「いつでもいいけど、答えは出してくれよ?」

ツインテ「こんなときだけカッコつけちゃって、あーやだやだ」ヤレヤレ

少女「ミカちゃん、トシくんは本気だよ……」

友「先生外で待たせてるから呼んでくる」


----家の外

友「先生おまたせ」

先生「全然ちょっとじゃなかったじゃない……」

友「あ……ごめんなさい」

先生「警察の方とか、児童相談所の方とか、色々来られて大変だったんだから」

先生「……私が頼み込んで、1時間先延ばしにしてもらったけど」

友「無理いってごめんね」

先生「私ってつくづく悪い先生ね……」

先生「もう入っていいのね?」

友「はい」

先生「このドア、どうしたらこんな壊れ方するのよ……」


----居間

先生「みんな……!」

ツインテ「あー、先生!」ギュッ

先生「ミカちゃん! なに、怪我してるじゃない! 服もボロボロ!」

ツインテ「『名誉の負傷』っていうんでしょ? こういうの」

ツインテ「先生、カッコいいでしょ今のあたし!」フフン

先生「……ええ! いまのミカちゃん、凄くカッコいいわよ!」


少年「先生コレ、助かったよ」スッ

先生「予感……当たっちゃったね」

少年「電話代すごいことになってると思うけど」

先生「……いいのよ! みんな無事だったんだから、それより価値のあることなんてないのよ!」ピッ


少女「……」

先生「ジュンちゃん。先生はまず、謝らなければいけません」

先生「こんなになるまで何もできないでいて、ごめんなさい」ペコリ

少女「……先生、頭を上げて」

少女「謝るのは、私の方なんです」

少女「先生の気持ちをムダにしてしまって……ごめんなさい」ペコリ

先生「え……」

少女「前に先生、私にもっと頼ってほしいって言ってましたよね」

先生「ええ、だいぶ前だけどね」

少女「でも、私は先生に、ぜんぜん相談をしなかった……」

少女「私の問題だから、私ひとりで全部どうにかできると思っていました」

少女「先生に迷惑をかけられない、って思っていました」


少女「先生がいろいろして下さっていたのは、知っていました」

少女「でも、先生がどれだけ私の事を考えてくれていたのかは、全然知らなかった……」

少女「私がもっと早く先生に甘えていれば……こんなことにはならなかったのに」

少女「だから、ごめんなさい」ペコリ

先生「もう……ジュンちゃん、大人っぽくなりすぎなのよ」ナデナデ

先生「ジュンちゃんはまだ子どもなんだから、間違うのは当然のこと」

先生「大切なのは、間違ったときにちゃんと謝れることなの」ニコ

先生「こうなってしまったのは残念だけれど、大事なのはこれから、でしょう?」

少女「先生……」

先生「これからは、今までの分までいっぱい頼りなさい!」

先生「ジュンちゃんはお姉さんだから、先生からも頼っちゃうけどね」ナデナデ

少女「先生、ありがとう……」グスッ



友「……なあミカちゃん。あれ、演技だと思う?」ヒソヒソ

ツインテ「あれが本音かそうじゃないかってことなら、たぶん本音でしょ」ヒソヒソ

友「だよなあ……やっぱりジュンちゃんってさ」

ツインテ「うん。やっぱり良い子よね」


先生「あ、そうそう。ほかにもジュンちゃんに会いたいって人がいるの」

先生「入ってらっしゃい、キヨちゃん」

少女妹「……」トトトト

少女「キヨ! どうして?」

先生「トシくんのお母様が車で来られてね」

先生「キヨちゃん、お姉ちゃんの事が心配で仕方なかったみたい」

少女妹「よかった……」ギュ

少女「……キヨ。大切なお話があるの」

少女妹「なあに?」


ツインテ「……みんな!」スック

友「ほい」スック

先生「しっかりね」スック

少年「……また後でな」スック


バタン


少女「……」

少女妹「……どうしたの?」

少女「あ、あのね……」

少女妹「……」

少女妹「おとうさん、だよね」

少女「……そ、そう」

少女妹「おとうさん、どうしたの?」

少女「……」


少女「お父さん、いなく、なっちゃった」


少女妹「いなくなっちゃった……?」

少女妹「どこにいったの?」

少女「遠いところに……」

少女妹「どのくらいとおい?」

少女「うんと、うーんと、遠いところに……」

少女妹「……」

少女「私たち、2人だけになっちゃった」

少女「もう、お父さんもお母さんも誰もいないんだ」

少女妹「……」

少女「わたしと、キヨだけ」ジワッ

少女「2人ぼっちなの……これから、ずっと……」ポロ


少女妹「……」ナデナデ

少女「どうすれば、いいのかなぁ……」ポロポロ

少女妹「なかないで……」ナデナデ

少女「分からない……分がらないよぉ……」ポロポロ

少女妹「……」ナデナデ

少女「うっ、うぁ、ひぐっ……ううっ!」

少女「うあぅぅあーーーーーっ!!!」




----家の外

(ウワーーーン!!!

4人「…………」

ツインテ(……)ポロポロ

友(キツい……)

先生(ジュンちゃん、もっと泣きなさい)

少年(ジュン……)


----居間

少女「……ひっぐ」グスグス

少女妹「おちついた?」ナデナデ

少女「ん……だいぶ」グスッ

少女「なでてくれて、ありがと」

少女妹「よかった……」

少女「えへへ、これじゃどっちがお姉ちゃんか分からないね」グスッ

少女妹「おねえちゃんは、おねえちゃんだよ」

少女「……そうだね。私はお姉ちゃんだ」

少女「こうしちゃいられない……よし!」スクッ

少女「キヨ。おうち、なんかグチャグチャになっちゃったね」

少女妹「おそうじ、しようよ」

少女「うん! じゃあまずは、割れたものから片付けよっか!」


----家の外

友「……ひとまず、大丈夫そうだね」

ツインテ「でももうちょっと、入るのは待ちましょ?」

少年「そうだな」

先生「先生、これからちょっと行くところがあるから、今日はこれで失礼するわ」

先生「もうちょっとしたら警察の方々がいらっしゃるから、ちゃんと言う事に従うのよ?」

3人「はーい」

先生「はいは伸ばさない……ジュンちゃんによろしく伝えといてね」

先生「また学校でね」カツカツ


ツインテ「……」

少年「……なあ」

友「なんだよ」

少年「ジュンって、キヨちゃんにだけ見せる表情あるよな」

ツインテ「そりゃ、たった一人の家族なんだしね」

友「ジュンちゃんにとって、キヨちゃんの存在は大きかっただろうな」

友「他人につねに芝居しつづける中でただ一人、素直に接する事の出来る相手だったんだ」

ツインテ「キヨちゃんがいなかったら、ホントにどうなってたか……」


警官C「あー君たちもいたか。よかったよかった」

友「ジュンちゃんなら中にいますよ」

警官C「そうか。あの子とはちゃんとお話ししないとな」

警官C「君たちからもお話を聞きたいから、私についてきてくれるかい?」


----

少年(あの後俺たちは警察署に行き、一人ひとり長いこと話をさせられた)

少年(ジュンは別の部屋で話をしていたそうで、その日はもう会えなかった)

少年(母ちゃんからは怒られると思ったけど、ただ笑顔で頭をなでられただけだった)



少年(次の日の朝、学校にジュンは来ていなかった)

少年(残念だったけど、正直そりゃそうだよな、とも思った)

少年(3時間目は体育だった。誰もハミパンする女子はいなかった)

少年(女子の間で、ジュンのことがよっぽど噂になったのか……)

少年(そうして昼になり、給食が終わって昼休みに入った)

少年(俺は校庭で遊ぶ気にもならず、ぼんやり窓の外を眺めていた)

少年(校内のスピーカーからは『ZARD』の曲がかかっていた)


----教室

ガラガラ

少女「……」

少年「……!!」

(ザワザワ ジュンチャン!?


少年「ジュン……来たのか」

少女「遅刻しちゃった」

少年「遅えよ。二週間以上の遅刻だ」

少年「もう一生来ねえかと思った」

少女「来るよ。学校楽しいもの」

少年「こうして見ると、お前ずいぶん髪伸びたな」

少女「ずっと切ってなかったからね」

少年「俺、待ってたんだぞ」

少女「……知ってる」


(ジュンチャン ダイジョウブ?

(ナンカ タイヘンダッタンデショ?

少女「まあね。結構大変なことがあってね」

少女「最近ちょっと辛かったんだけど、もう平気だよ」アハハ

少年(……)

(ヨカッター

(ジュンチャンイナクテ サミシカッタヨー


ツインテ「あっ! ジュンちゃん!」ガラガラ

友「来られたんだ。よかったなあ」

少女「2人とも、心配かけてごめんね」

ツインテ「やっぱり学校のジュンちゃんが一番いいー」ムギュ

少女「ミカちゃん……汗臭い」グイ

ツインテ「えっ……」ガーン


----放課後

先生「みんな、道草はバレないようにね~」バイバイ

友「なあ、駄菓子屋いかね?」

少年「俺お金持ってねえけど」

ツインテ「あたしも」

友「じゃあ、一旦帰って駄菓子屋に集合でどうだ?」

少年「それなら行く」

ツインテ「またあとでね」テクテク

友「お金忘れんなよ」テクテク

少年「おうよ」


少女「……」

少年「あれ、お前家こっちだっけ?」


----少年宅

少年「……」

少女妹「おねえちゃんおかえりー」

少女「ただいま、キヨ」ニコ

少年母「トシオ、ジュンちゃん、おかえりなさい」

少女「お母様……ただいま」ペコ

少年「おい、母ちゃんおい」

少年母「びっくりした?」

少年「なんでこいつらが」

少年母「あら、嬉しくないの?」

少年「……」


少年母「ジュンちゃんとキヨちゃんは施設に入ることになったの」

少年母「でも、いきなりって訳にはいかないから、それまでの間は……」

少年母「ウチの娘として預かることにしました」

少年「と、父ちゃんはなんて言ってんだよ」

少年母「娘が欲しかったんだって喜んでいたわ」

少年「俺の意見はどうなるんだよ……」

少年母「そうね、何も聞いてなかったわね。で、どうなの?」

少女「……」ジー
少女妹「……」ジー

少年「ヒキョウだぞ……」

少年「ま、まあ、少しの間ってなら……いてもいいけど」


少女「よろしくね、トシくん」ニコ

少女妹「よろしくね、おにいちゃん」ニコ

少年「うぐ、姉妹そろってこっち向くな」

少年母「よかったわねトシオ、妹が二人できたね」

少年「母ちゃん、こいつらの部屋はどうすんだよ」

少年母「ウチも狭いからねえ。トシオの部屋ぐらいしかないんだけど、いいわよね?」

少女「はい」ニコ

少女妹「おにいちゃんのへや、テレビがあった!」

少年「うん……そうなるよな」ガックリ


少年(クラスの女の子と同じ部屋で暮らすとか……ヤバい)

少年(まあ、少しの辛抱だ……そう辛抱)


----子ども部屋

少年「お前、荷物これだけなの?」

少女「お着替えとか、詰め込んでもこれしかなかったの」

少年「まあ、きっと母ちゃんが色々買い物に連れてくしな……」

少年「でもお前、ウチみたいなところでいいのか?」

少女「昨日私のところにお母様がいらしてね、施設に入るまでの間は家に来なさいって言われて」

少女「はじめは断ったんだけど……来ちゃった」

少女「人に甘えたくなっちゃったのかな」

少年「はぁ……お前、やっと素直になれたのか」

少女「私、前から素直だったと思うけど」

少年「お前とんでもなくひねくれてたじゃねえかよ」クスクス

少女「あはは、そういえばそうだったね」クスクス

少女(……トシくんの家だから、私来ようと思ったんだよ)


少女「そうだ。トシくんにこれ、見てほしくて」ゴソゴソ

少年「これって……」

少女「そう。私のブルマ。泥は落としたけど、もうボロボロで使えない」

少年「……すごく大切なものなんだよな」

少女「うん。もうただのゴミって分かってても、捨てられなかった」

少女「これね、私のお母さんが死ぬ前に買ってくれたものなの」

少年(あいつら、見事に当てやがった)


少女「それでね、ここ……ほら」

少年「なんか縫い付けてあるな」

少年(やっぱりボロボロで、これがなんだかさっぱり分からないけど)

少女「ここね、水色の刺繍が入ってたの。お母さんが入れてくれたんだ」

少女「『JUN』って書いてあったの」


少年「ジュンのお母さんって、その……」

少女「病気でだよ。それまではね、お父さんもまだ良い人だった」

少女「でも……お母さんが死んじゃったら、お父さん、すっかり変わっちゃって」

少女「お母さんの思い出のものはね、お父さんにほとんど捨てられた」

少女「このブルマくらいしか、もう残ってないんだ」

少年「……」

少女「これをはいてると、お母さんと一緒にいられる気がして」

少女「だから、運動会で破れたときは悲しかったな」

少女「いつかこうなるってわかってたけど……やっぱり、ね」

少女「でも、これじゃいけないよね。もう捨てようと思うんだ」


少年「あー、言われてみればたしかに……JUNって書いてある気がする」

少女「トシくん?」

少年「待ってろ」ダッ


少女「何持ってきたの?」

少年「そのブルマ、貸せよ」

少女「は、はい」

少年「もう捨てる、ってことでいいんだよな?」

少女「……うん」

少年「よし、じゃあいいな」ジョキ

少女「!!」

少年「それ、それ、それ」ジョキジョキ


少年「できた」

少女「……これ」

少年「上手く出来ただろ? 刺繍のとこだけ切り取るの」

少年「その部分、新しいブルマに縫い付けろよ」

少女「……」

少年「……ごめん。違うよな」

少女「……ううん、そうさせてもらおうかな」

少女「ありがとう」

少年「お……おうよっ」

少年「あ、でも新しいブルマって……」

少女「それならね」ゴソゴソ


少女「じゃーんっ」

少年「お、新品じゃん。しかも上下セット」

少女「これもお母様に頂いたの」

少女「娘の体操着くらい買うのは当たり前でしょ、って言われちゃった」

少年「母ちゃん、すっかりその気だな……」

少女「お母様に縫いつけていただこうかな?」

少年「ムズムズするからそのお母様ってのやめろよ。敬語も」

少年「ウチにいる間は、母ちゃんと呼べよ」

少年「あ、俺のことは兄ちゃんな。ビミョーに年上だし」

少女「……ごめん、それは無理かな」クスクス

少女「ね、そろそろ駄菓子屋行かないと」

少年「あ。忘れるとこだった」


----駄菓子屋

ツインテ「2人とも遅い」ピコピコ

友「ま、ずっと店の前でゲームしてただけなんだけど」

少女「なんのゲームしてたの?」

ツインテ「『カエルの為に鐘は鳴る』ってやつ。音楽が好きなの」ピコピコ

友「ゲームボーイだよ。ミカちゃんこの前買ったんだ」

少年「ミカ~。あんまりトモキについてくと、ゲームバカになっちまうぞ」

ツインテ「あ、変身し忘れた」ピコピコ

少年「こいつ聞いてねえ……」

友「将来有望だな」

少女「トモキくんトモキくん」

少女「トモキくんは正直どうなってもいいけど、ミカちゃんの人生までめちゃくちゃにしないでね」

友「ジュンちゃん、なんか俺にだけキツくない?」


少年「俺、ポテトスナックー」ヒョイ

少女「トシくんスナック菓子好きだよね」

少年「俺の体はスナックで出来ているのさ」フフ

少女「じゃあ私ね、りんご飴がいいな」ヒョイ

少年「え、お前、お金持ってんのか?」

少女「え? わたし、トシくんの妹だよね?」

少年「……何が言いたい」

少女「お兄ちゃんだったら、それらしい所見せてほしいなぁ。ね、お兄ちゃん?」ニコ

少年「だ、出せってのか……」

少女「えへへ、ありがとう♪」


ツインテ「あー、やられちゃった。もういいや」プチ

ツインテ「ん? トモキどうしたの、そんなとこ突っ立って」

友「……ミカちゃん、あれ」クイ

少年・少女「」ワーワーキャーキャー


友「ジュンちゃん、いきなり変わりすぎじゃない?」

ツインテ「……そうかもね」

ツインテ「でも、こっちのほうが自然だと思う」

友「まあ、お互い変に気を遣うよりは、ずっといいよな」

ツインテ「でしょ?」

友「あ、これ紅茶買ってきたんだけど、半分飲む?」スッ

ツインテ「なに、間接キスでもしたいの? それなら直接しようよ」

友「あ、あのそれは、ちょっと……」

ツインテ「ぷっ。知ってるわよヘタレ」


少女「へえ、ポテトスナックってこんな味なんだ」サクサク

少年「な、うまいだろ?」

少女「おいしいけど、ちょっと油っぽすぎないかな」

少年「分かってねぇな。駄菓子はこれだからいいんだよ」

ツインテ「デート中のところ失礼するよ」

少女「デートって……。どうしたのミカちゃん」

ツインテ「ここさ、文房具も売ってるじゃない」

少女「そうだね。色々売ってるね」

ツインテ「あたし筆箱が欲しいんだ。ジュンちゃん選んでくれない?」

少女「私なんかが選んでいいの?」

ツインテ「お願い。ほら、トシくんしっしっ」

少年「なんなんだよ……」


少女「あ、これ可愛い!」

ツインテ「お、なかなかセンスあるわね。いいじゃない」

少女「でもミカちゃん、ピンクとかオレンジのほうが似合うかなあ」

ツインテ「あたし、水色も好きよ」

少女「うーん、じゃあこれにしようかな」

ツインテ「選んでくれてありがとね。買ってくる」

(マイド-


ツインテ「さ、店出ようか。男子待たせてるし」

少女「うん」


----公園

友「最近、ずいぶん日が短くなったよな」

ツインテ「ねえ、みんな。あそこに行かない?」

少年「展望台? あそこベンチしかないじゃん」

少女「眺めはいいけど、ほとんど行かないよね」

ツインテ「いいからいいから」


少年「おー、夕焼けだなー」

少女「遠くの山まではっきりみえるね。川もキラキラしてる……」

友「ミカちゃん、これを見せたかったの?」

ツインテ「それもあるけど……」

ツインテ「はい、ジュンちゃんにプレゼント」スッ

少女「え、これってさっきの……」

ツインテ「こういうのさ、雰囲気って大事じゃない?」


ツインテ「実はね、あたしのも買ったの。お揃いでね」

ツインテ「2つもいらないから、もらってくれないかしら」

少女「ありがとう。私、大事にするね」

少女「でもなんで?」

ツインテ「ジュンちゃんへのお祝いよ」

少女「お祝い?」

ツインテ「新しい生活がはじまるジュンちゃんへのお祝い」

少女「ミカちゃん……」


ツインテ「……ねえ、これでも、みじめになっちゃう?」

少女「……」


少女「……ほんのちょっぴりね」

少女「でも、それ以上にうれしいな」

少女「私、ミカちゃんと友だちでよかった。本当によかった」

ツインテ「あたしもジュンちゃんが友だちで良かったよ……ってこれ照れるなあ」

少女「もちろんトモキくんもね」

友「ついでみたいな言い方やめてくれよ」

少女「トシくんは……お兄ちゃんだし」

少年「……おう」


少女「そうだ」ゴソゴソ

少女「これ、やっと貼れそうなものができたな」

ツインテ「それ、夏休みにゲームセンターで撮った……」

少女「うん。大事なものにしか、貼りたくなかったの」


少女「ここがいいかな?」ペタ

少女「ちょっとななめになっちゃった」

ツインテ「ふふっ……ジュンちゃんらしいね」クスクス

少女「もう、それやめてってば」クスクス

友「これからも沢山遊ぼうな」

少女「うん! もっと遊びたいな」

ツインテ「あたしはちょっと忙しくなりそうだけどね……」

友「中学受験、あと1年半だもんな」

ツインテ「でも、できるだけみんなと遊べるように頑張るから」

少女「ミカちゃん、ファイト!」

友「勉強だったら、ジュンちゃんのほうがずっと出来るからな……」

ツインテ「ホントよ……毎日ジュンちゃんに教わりに行こうかしら」


少年「見ろよ。夕日が沈む」

少女「きれい……」

ツインテ「あまり遅くなると、みんな怒られちゃうでしょ」

友「そうだな。帰ろうか」


少女「……ちょっと待って」

少年「どうした?」

少女「トシくんこっち向いて」

少年「?」クルッ




チュッ


ツインテ・友「!!」


少年「」

少女「えへへ……///」



少女「さ、帰ろ? ミカちゃん、トモキくん」

友「……おめでとう」

ツインテ「ジュンちゃん、なんの少女漫画読んだの?」

少女「ん? なんのこと?」

ツインテ「まあいいや……次の日曜お洋服買いに行かない?」

少女「行こう行こう! 女の子だけで!」

友「仲間はずれは慣れているのさ……」


少年「」

少年「」

少年「!」ハッ

少年「あれ、お前ら、どこいった!?」キョロキョロ




少女「トシくーん! ここだよー!」フリフリ


<おわり>


完結です

長々と書きたがる悪い癖のおかげで、テンポが悪くなってしまいました
次回作をもし書くことがあるなら、気を付けていきたいです
お付き合いありがとうございました


ブルマは滅びようとも、永遠に男のロマン。それだけは伝えたかった!!

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