「綿飴、それからチョコミント」
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前スレ:エイラ「私と付き合ってくれないか」
エイラ「私と付き合ってくれないか」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1375103665/)
の続きです。
◆
「おまたせ。悪いなペリーヌ。時間かかっちゃった。ほら、今日付き合ってくれたお礼だ。私の驕りだぞ」
以前、どこかで聞いたようなフレーズを口にしながら私に差し出してくる綿飴。
私は受け取ると、彼女はイカ焼きを一口齧る。
「エイラさん……まだ食べる気ですの? まったく、口についてますわよ、はい……ハンカチを」
「いや、持ってるぞ。ありがとな」
そうして彼女はジーンズの後ろのポケットから水色のハンカチを取り出すと、一拭き。
夏休み本番、8月の初日。
私は彼女に連れられて、学校近くの公園で開かれた夏祭りに来ていた。
いいや、連れられて、は語弊があるかもしれない。
彼女は、手を繋いでくれはしないのだから。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1375452059
昨日、夏休みの宿題を終わらせるという名目の下、私の家を尋ねてきた彼女。
しかし私の部屋まで来ると、テーブルにノートも開かずにぼーっとしていた。
対面に座る彼女は、予想はしていたが私の宿題を写すつもりでいたのだろう。
「……なぁ。明日、暇か?」
私は一度ペンを止め、彼女を見ると、シャープペンシルについたアクセサリーを指で弄んでいた。
「これといって用事はありませんけど……どうして?」
「夏祭り、明日あるらしいんだけど……行かないか?」
「……いいですわよ。それなら、ほら、宿題終わらせましょう。……丸写しは許しませんわよ」
私はこの気持ちが顔に出ないように、あくまで平常心を保ちつつ承諾した。
しかし私は見てしまった。
彼女は、相変わらず私を見ていなかったし、とても……なんだか、申し訳なさそうな、悲しそうな……そんな顔をしていた。
「ペリーヌ……お前って浴衣、似合うんだな」
「そ、そうですか? まぁ、素直に受け取っておきますわ」
「細身だからな。色々と」
「エイラさん!! ちょっと、どういうことですの!」
くっくと笑う彼女。
私はピンクと白の浴衣を、彼女は……あの所謂ダサいTシャツにロールアップしたジーンズの出で立ちだった。
どうせなら、この間見てあげた服を着て欲しかったけれど、彼女はこういうところで鈍いのか、それとも。
貴女が、浴衣を着てくれ夏っぽいから。そんな理由で大変な思いまでして着付けをしたというのに。
屋台を冷やかしながら、私達は当てもなく歩き回る。
そうしてラムネを買おうとする彼女はこちらを振り向くが、私は首を横に振る。
氷水から引き上げられたラムネは水滴るまま彼女の手に渡る。
「座ろう。慣れないモノ履いて……足、疲れただろ」
中心から離れた人気の無いベンチまで、彼女の後ろ姿を見ながらついていく。
隣同士で座る。距離は……30cmほど。
彼女は後ろにもたれながら空を見上げる。
何を考えているんだろうか。
その横顔は、やはり少し悲しそうだった。
「私さ……フラれちゃった」
瞬間、合点がいく。
元気が無かったのも、夏祭りに行こうと言っていたのも、全て……。
相変わらず空を見上げる彼女はこちらを見ない。
私は綿飴の最後の一口を食べ終えると、一旦ベンチに割り箸を置く。
「じゃあ、もう諦めたんですの?」
私は核心をつく。嫌な子だったかもしれない。
好きな人の、恋路をそんな風に思ってはいけないのに。分かってはいるのに。
だから、そんな私にバチがあたったのだと思う。
「いいや。……諦めてないよ」
私は……絶望の淵に立たされた、そんな気分だ。
「なんとかできると思うんだ、うまく言えないけど……」
「どうして? またフラれるかもしれないんですわよ?」
「あぁ、そうかもな。でも、私は彼女が好きなんだ。なんとかしてあげたいって、思うんだ」
そんなことを言うもんだから。
私は堪えられなくなったから。
ついに、言ってしまうことにした。
何年も、積み重ねた想いを。
「私では、ダメなんですの?」
「え……?」
彼女は私を向く。今日初めて、目を合わせた。合わせてくれた。
「だから……私では、ダメなんですの?」
「ちょっ……ペリーヌ何言って、」
「もう、とぼけるのは止して。さすがに……今回ばかりは意味、分かるでしょう?」
私が近づくと、彼女はたじろぐ。
「私は……エイラさん、貴女のことが好きでしたわ。ずっと前から。貴女が、あの子に惹かれる前から……」
彼女が何も言わないから、私は続ける。
「だから、言うしかないじゃありませんの」
彼女はやはり黙っている。
そんな彼女を見て、言葉が堰を切って出てくる。
「私が貴女に惹かれたのはもうずっと前のことですわ。
覚えています? 2年前、貴女が私を助けてくれたこと」
彼女は、まだ何も言わない。
ただ、頷いた。
「だから私、貴女のお願いなら何だって聞きますわ。服だって見立ててあげるし、
宿題も手伝ってあげる、夏祭りだって行ってあげる、寂しい時は一緒にいます、
チョコミントだって、チョコミントだって! ……おいしく、食べられますわ」
彼女はずっと、黙っている。
「何とか言ったらどうなの、エイラさん……何か、言って……答えてくださいまし……」
「……ありがとう、ペリーヌ」
「私が聞きたいのは、そんなことではなくて、」
「……ダメだ」
彼女はこの日、二度私を墜とした。
「どうして。私、きっとあの子より……貴女を愛せるわ。だから、」
「違う。私は愛して欲しいんじゃない。愛したいんだ」
「どうして……私では」
「ペリーヌ、お前は……あの子じゃないからだ」
もう、私はむちゃくちゃになっていた。
だから。
そう言われて、私は最低な行為に出た。
彼女の唇を求めて、カラダを寄せる。
けれど、彼女は……無情にもカラダを引く。
カラン、と静寂を破る。
飲み干されたラムネが地面に落ちた。
「止めてくれ、ペリーヌ……私は……お前の友達でいたい」
「そんな……私は……私は!」
そこまで言って、涙が溢れる。
一度流れると、もう止まらなかった。
涙を流す時は、そのどれもが、心が震えた時だ。
こんなに好きなのに、どうして分かってくれないの。
そう、叫んでしまいたかった。
けれど、そんなこと、私に出来るはずが無かった。
「バカ……」
「あぁ、バカだな、きっと私はバカなんだ。でも……それでも。私はあの子が、好きなんだ」
「……そう」
「ごめん、」
私は彼女の唇に人差し指を置く。
「謝らないでくださいまし。……負けましたわ。私は、あの子ではないのですから……」
彼女はまた黙る。
私は涙を、浴衣の袖で拭う。
「はぁ……これでスッキリしました。応援していますわ。……上手くいくといいですわね」
「うん……ありがとう、ペリーヌ」
「えぇ……。では私……帰りますわ」
「ん、そうか……送るよ」
「いいえ、結構ですわ」
私はそのまま立ち上がり歩き始める。
何か捨て台詞でも吐こうと思ったけれど、私の口からはこんな言葉しか出てこなかった。
「あぁ、エイラさん、ちゃんと宿題しなさいな。手伝ってあげますから。けれど丸写しはさせませんわよ」
「うん、分かった」
「……それでは」
「じゃあな」
私は彼女に背を向けて再び歩き出す。
これ以上は、本当にダメだ。
声が震える。
目に涙が溜まっていく。
もう、彼女に涙を見せるなんて、できない。
決めたのだから。
私は公園を出ると、曲がり角までゆっくりと歩く。
その角を曲がった瞬間。
走り出していた。
夜の道をただひたすら。
誰もいない、この道を。
隣にもいてくれない、この道を。
浴衣が着崩れる、下駄が脱げる。
私はすぐさま拾い上げると、今度は裸足で駆ける。
声を上げて泣こうか。
いいや、今は疲れるまで走ろう。
私は、走る。
暗い夜の道を。
私は、走る。
涙を落としながら。
私は、走る。
彼女への想いを、捨てながら。
そうして、結局。
捨てられないことに気がついて。
どちらの痛みにも気がついて。
本当に好きだということに気がついて。
諦められないことに、気がついて。
「本当に、本当に……滑稽ね、私……」
家に着くと、浴衣を脱ぎ散らかしてシャワーを浴びる。
嗚咽を、消しながら。
ふと、私はよく聴いていた曲を思い出し、想いを馳せる。
冷蔵庫に残っているチョコミントのアイスを食べ終えたとき。
私の夏は、終わる。
◇
彼女が帰った後、私はすぐ帰る気にはなれず、ただぼーっとベンチで星を見ていた。
1時間程、夜空を見て、星を見て、月を見て。
私は決めた。
そろそろ帰るかと立ち上がると、置き去りにされた割り箸に気付いた。
「ごめんな……」
そう呟くと、ラムネと一緒に近くのゴミ箱にそっと入れた。
家路に着く。
私はお気に入りの曲を口ずさむ。
私は知りたいんだ。
心が傷つくとしても。
キミの真実を。
◆ ◇
―――(けれど)夏は、まだ始まったばかりだ。
テテテテンッ デデデンッ! つづく
オワリナンダナ
読んでくれた人ありがとう。
次回は智ビューなどです。
頂いたリクエストはちゃんと書きますので、少し待っていてください。
余談ですが、聴いていた曲のイメージです。
ペリーヌ『Heaven』ttp://www.nicovideo.jp/watch/nm12698711
エイラ『key plus words』ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm17638738
某まとめサイト様、並びに各所でコメントくださる方、いつもありがとうございます。
それでは、また。
ストパン3期アルマデ戦線ヲ維持シツツ別命アルマデ書キ続ケルンダナ
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