ペリーヌ「Dazzling Dawn」 (35)




今回はかなり地の文が入っているので苦手な方はブラウザバックして下さい。
ペリーヌ「高秋のフォーマルハウト」の続きです。
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「んー、良い時間だなー。……そろそろ行くか」

駅近くのデパート、屋外噴水に設置されたベンチに座る私は冷え切った紅茶を飲み、隣に座る彼女はこんな寒空の中、コーラを飲んでいた。
最後までストローを吸いきると、近くにあったゴミ箱へカップを投げて立ち上がりながら私に声をかける。

「結構買ったなぁペリーヌ。もう買い忘れは無いか?」

もう、とは私が後から後から何度も買い忘れを提案したからだ。
そう、提案。
元々買う予定なんか無かった雑貨を大量に買ってしまった。
所謂無駄遣い、というやつなのだろう。
アレもコレも見たいとせがむと彼女は文句の一つも言わずに来てくれた。

そうでもしないと、彼女はすぐに行ってしまうから。




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「じゃあ、私はここで。まだ今年中は会うだろうから、またな」

「ここで? その……エイラさんの家で遊ぶのではなくて?」

「あぁ、先に映画を観ることになったんだ。だからそこで待ち合わせしてるんだ」

「そうでしたの……。えぇ、では……さようなら」

「気をつけて帰れよペリーヌ。今日は楽しかったぞ、じゃあなー」

クリスマスのイルミネーションの中、私に手を振りながら待ち合わせ場所に向かう彼女はさながらCMの主人公のようだ。
5秒もすると、彼女は行き交う人々に混じって消えた。

「私も……とても楽しかったですわ」

もう見えなくなった彼女に向けて呟いた言葉は、無残にも冬の北風に晒されて砕け散った。






行かないで、とは言えなかった。

だって私は夏の日にもうフラれていて。

このクリスマスの買い物は、どうしたかってデートなんかに昇華するはずも無くて。

買い物に付き合ってくれたのだって、友人でクラスメイトでただ時間があったからに過ぎない。



彼女が恋人の元へと向かうのを止めることは出来なかったから、私は苦し紛れの行動で時間を先延ばししたけれど。

結局、それはもっと苦しみを味わう一つの間違いだったのだと気づくのは、まだ先のコトだった。






別れた噴水の広場でぼーっと立ち尽くす。
私を取り囲む人々は皆楽しそうに誰かと話しながら歩いている。
様々な色の光が彩る中、その誰もが楽しい一瞬を共有しながら。

誰も、私を見てくれはしなかった。
気にも留めない。
まるで外界と遮断されたかのように襲う疎外感。
孤独の文字は、この場では私にしか似合わなかった。

こんなことなら、リーネさん達の誘いを受ければ良かったと少し後悔する。
今頃、ご学友と楽しいひとときを送っているのではないだろうか。
そこに私がいるイメージを思い浮かべる。

……ダメ、合わない。
楽しいのかもしれないけれど、きっと考えてしまうから。
あの人が……エイラさんが、恋人と部屋で二人きりで一緒に過ごしている。
その事実は、私にはどうすることも出来ないが、ただ黙って認めることも、もう出来ない。






お零れ。
それでいい、今日半日一緒に過ごせただけ良かった。
だから後悔してはいけない。

これで良い。

これで良かった。

―――本当に?

言い聞かせようとすればするほど、求めずにはいられない。
もっと、もう少し、あと少しだけ。

「エイラさん……」






瞬間、耳をつく鐘が聞こえた。
ゴーンと、荘厳な音を発する時計台を見ると、時刻は17時を迎えたところだった。

気づけば、回りを囲む人々は多くなってきた。
一人ぼっちは、やっぱり私だけ。
夢の名残を詰めた紙袋は今の気分の重さと同じくらい。

帰ろうかしら。
特にすることもない。
もう、今日の予定は終わってしまったのだから。

首に巻いたマフラーを締め直し、孤独の帰路に着いた。






年末の予定について考えながら舗装されたアスファルトを、人の波を避けながら往く。
宿題に予習、ミュージカルにも連れて行って欲しい、あぁどこかに旅行に行くと言っていたかしら。
なんて考えながら歩いていると、映画館が視界に入ってきた。
あぁ、エイラさんはここのコトを言っていたのか。

この場所で上映される映画はどれも芸術的で素晴らしいと聞く。
そんなところでクリスマスに二人で映画。
なんて、羨ましいのかしら。

大理石の壁にかかるポスターはどれも魅力的で、引き込まれる何かがあった。
アクション、ラブロマンス、きっとヒューマンドラマ。
ポップコーンを座席の真ん中に置き、互いに手を重ね、鑑賞している二人は……悲しいけれど容易に想像が出来る。

結局、そこから離れることも出来ず、映画館の看板を眺めていた。
その間あまりにも寒くてピンクの手袋を着けた。
帰ればいいのに、なんて思考は何度も浮かび、その都度悲しみの海に沈んでいった。
こうして何かを待っていても、誰が来るワケではないのに。






そうこうしているうちに、ちょうど映画が終わった頃だろうか、人が溢れ出てきた。

皆口を揃えて、今し方観終えた映画について議論を交わしている。

「お約束のシーン、あったな……」

「言うな」

「最後も、熱いキスを……」

「言うなっ」

カーキのコートに身を包んだ女性と、赤いトレンチコートを着た女性の会話が聞こえてきた。
楽しそう。素直に感心……いや羨ましく思った。
私も、あんな関係になれればどんなに良かったことか、と。






あぁ……そういえば。
この映画館は一つのスクリーンでしか上映しない。
つまり、彼女達が観ていた映画もコレだろう。
その映画を観終えた人が出てきているということは、彼女達と鉢合わせしてしまうということだ。

私はその事実に気づくと、それまで動かなかった足は軽く、出来る限り悠然とその場を立ち去った。

「……何しているの?」

映画館を尻目に、呟く。
そう、何をしているのだろう。
映画が1本終わるまでこんな……はっきり言ってしまえば未練がましい、ストーカーじみたこと。
私は何度この言葉を自己嫌悪に選べばいいのだろう。






駅に着き、電車に揺られ、地元で降り、フラフラと一言も発さず家へと向かう。
腕時計の針は19時30分を教えてくれる。
けれどこんな二人も、あと30分もすれば出会うことが出来る。
そんな下らない嫉妬をしてしまった私は、次どんな顔をしてエイラさんに会えばいいのだろう。

目の前の学園で、あと2週間もすればまたここであの二人を見せ付けられなければならない。
憂鬱な気分で校門のある大通りは、歩けない。
今の気分は……そう、この細い道の暗めな街灯がちょうどいい。

数分と歩かないうちに、視界の隅でささやかな光を放つ喫茶店を見つける。
しかしココロもカラダも冷え切ってしまっている私には、あの光は眩し過ぎる。
それでも、私はカラダだけでも暖めようと、誘蛾灯のような喫茶店の淡い緑のドアを引く。

ちりんと、鈴の音が来客を告げる。
店内に入った瞬間、私を暖かい空気が迎え入れてくれた。
かなり混んでいて、しかし静かに賑やいでいる。






「一人?」

およそウェイトレスの振る舞いではないような声が聞こえる。
視線を移すと私と同じくらい背丈でショートカットの女の子が私に歩み寄ってきた。

「よかったね、最後の席だよ。少し寒いかもしれないけど、その窓際のテーブルが開いてる。今水を持っていくから待っててね」

彼女はそれだけ言うとカウンターに消えた。
空いているという席は、なるほど、確かに少し肌寒い。
テラスへと続く窓際、誰も寄り付かないワケだ。
しかし文句も言ってられない。
せっかく案内してくれたのだから。






「はい、お水と……ブランケット。決まったら呼んでね」

棚に重ねてあったブランケットを手渡される。
うん、これで少しは寒さが和らぐかもしれない。

「……ありがとうございますわ」

「ううん、寒いもんね、この席。……ねぇ、そこの子?」

そこ、と指したのは目の前の学園。
私は頷きだけで返すと、彼女の笑顔は、更に明るさを増した。

「なんか見たことあると思ったんだよねー。あ、私もだよ。高等部だけどね」

「……私は中等部ですわ」

「後輩かー。……ふふっ、そっか……。いいよ、ケーキ一つまでだったら奢ってあげる」






「……?」

「クリスマスだよ!? なのに私はアルバイトだなんて……それにトゥルーデは私をほったらかして、
よりにもよってシャーリーと映画観に行っちゃうし……寮に帰ってきたら……あぁー、もうやだやだ……」

私が余程怪訝な顔つきだったのか、彼女は慌てて手を振ると、笑顔でこう続けた。

「もうサンタさんの気分でやらなきゃやってられないよ! だーかーらー、ケーキ一個プレゼントしたげる。
というか受け取って。私今日はサンタさんだからさっ!」

「でも……」

「私を助けると思ってさ。私サンタさんなの。みんなにプレゼントを届けるために今日はここで働くんだ。
まぁ、そのプレゼントも君にしかあげられないけど。この間さー、クラスのみんなにケーキあげてたら給料から引かれてさー……」

おしゃべりさんなのだろうか、彼女はよく喋る。
一刻も早く温まりたい私は、メニューを広げると逡巡することなく注文をする。

「分かりましたわ……えーっとじゃあダージリンと……このオレンジとひまわりのミックスパイを」

「ん……はーい。ちょっと待っててねー」

エーリカと書かれたネームプレートの彼女はカウンターに戻っていった。






注文したモノが来るまで、紙ナプキンが入った三角の置物を指でなぞりながら年内はどうしようか、とさっきの続きを考える。
それでも、家族以外との予定は無く、冬休みの予定はまったく無いのだが。

元々私にはあまり友達がいない……はっきり言ってしまえば少し浮いている。
対して、クリスマスパーティーに誘ってくれたリーネさんは、あまり目立たないおとなしい子だがクラスでは評判が良い。
その柔らかな物腰と、友達想いの人柄は好かれるには充分な要素だから。
別に、人気を羨むことはない。
ただ、寂しいと感じることは多々ある。
それだけのこと。

あの人は……エイラさんには友人が多い。
元々運動神経がいいこともあって陸上部にもよく顔を出しているらしい。
やっぱり、羨ましいのかもしれない。
そうして私の手の届かないところで……好きな人が出来て、今は二人きり……。

「嫌……」






そのとき、あのベルが鳴ると同時に、冷たい風を感じた。
ここからでは誰が入ってきたかは見えないが、私には何も問題はない。
視線は相変わらず、おいしそうなメニュー表の上だ。

コツコツと足音が聞こえる

「ねぇ、待ち合わせとかってしてない?」

先ほどのウェイトレス……エーリカさんが話しかけてくる。
待ち合わせ……あぁ、一人だ。
間違いなく、問題なく、一人だ。

「あのさ……相席って大丈夫?」

「……えぇ、構いませんわ」

「そう、ありがとう。……では王子様、こちらへ」

日常会話では聞き慣れない単語が聞こえてくる。
おうじさま?

「止めてくれ、まったく。あれはもう2ヶ月も前のことじゃないか」

顔を上げれば、一瞬で合点がいった。






目の前に立っているのは、学園の有名人。
この間の文化祭での演劇の主役で、元々高かった人気が急上昇。
その端正な顔立ちと抜群の運動神経とテスト毎に上位成績を収めるほどの学力、女生徒の心を鷲掴みとは頷ける。
私は会話こそしたことは無いが、そんな私でもコレだけ知っているということは、やはり学園一の人気者は伊達ではないのだろう。
彼女こそ学園一の憧れの的、剣道部主将であり高等部3年の坂本美緒先輩だ。

「何にする?」

「そうだな……いつもので頼む。あぁ、今日はミルクを一つ付けてくれ」

「はーい。あ、そうそう……その子、私たちと同じ学園の中等部だってさー。……じゃあちょっと待っててね」

それだけ言うとエーリカさんは、またカウンターへと戻っていった。
とても忙しそうだ。

「すまんな。約束までの時間潰しで来たつもりが、まさかこんなに混んでるとは思わなくて。いや、参ったなぁ、はっはっは」

「いいえ、気にしないでくださいまし」

初めて会話する。
私は他の皆と違ってこの人に興味は持たない。
そんなミーハーな神経の持ち主でもない。

まぁでも、この人と話していると恨みを持たれる、なんてうわさが立つくらいの人だ。






「名前は? あぁ、いや名乗るなら私からか、私は」

「存知上げておりますわ、坂本美緒先輩」

「ん? あぁ、そうか。噂と名前が一人歩きしていて困ったモノだよ、まったく……。ところで、見ない顔だが」

「はい、ここには初めてで……」

「そうか、良い店を選んだな。何を頼んだ?」

「オレンジとヒマワリのミックスパイと紅茶を……」

「ふむ、この店一番のオススメだ、味は私が保証しよう」

「あら、そうでしたの?」

「と言ってもどれもおいしいんだがな、甘さ控えめで私にはちょうどいいんだ」

それから私はパイと紅茶を囲み、剣道部の練習、高等部の様子、文化祭での演劇について聞かされた。
そのどれもが私の生活に無かった新鮮さがあり、目の前の人が人気の理由も納得ができた。
決して鼻にかけることもせず、誰かを貶めることも言わない、まだ18歳だなんて信じられないくらい大人の包容力がそこにはあった。






「おっと、もうこんな時間か……悪いな、私の話ばかりしてしまって。……そうだ、名前を聞いていいか?」

「……ペリーヌ・クロステルマン、ペリーヌで結構ですわ」

「ふむ、ペリーヌか……良い名前だ。さぁ、そろそろ帰った方がいい。もう21時になる、それとも……」


―――誰かを待っているのか?


「いいえ、誰かを待っているワケでも、誰かが待っているワケでもありませんわ……」

「ペリーヌ……?」

「坂本先輩は先ほど、約束があるとおっしゃっておりましたが……恋人ですの?」

「ん? いや、ミーナとはそういう関係ではないが……どうかしたか?」

暖かい空気に触れて、久しぶりに楽しい気持ちになれて、ココロが揺らいだ私は……。
自虐めいた口調で、顔で、打ち明けた。
こらえられない。
どうして、好きだったのに、私ではダメなのだろう。
ぜんぜん、関係がないのに。

目の前の人は、ただ黙って真剣に聞いてくれる。






「私にも待っている人がいたんですの。でも、その人は来ない。分かりきっていることですわ」

あぁ、私はこうやってエイラさん、貴方とお話していたかった。

「だって、もう夏の日にフラれているのですから……当たり前ですわよね……」

皮肉ですこと。

「そしてその人には好きな人が出来て、私の手の届かない遠くへ行ってしまった」

貴方のことで泣きながら相談しているのに。

「追いかけて、追いかけて。けれどちっとも距離は縮まりませんでした」

こうやって話をしているのが貴方だと良いのに……と願っているのだもの。

「きっと彼女の好きな子は一言交わすだけで二人の世界を築き上げてしまえる」

それまで一緒にいた私との長い時間をものともせずに。

「けれど私はあの人に1000回声を掛けようとも、それは叶わなかった」

最初から、私では無理だったのだ。

「ですから、私はもう諦めていて……その人を好きでも何でもありませんの」

そこで初めて、彼女は私の話に口を挟んだ。






「それなら……どうして、泣いているんだ?」

「……え?」

視界はぼやけている。
声も震えている。
今にも泣き声をあげてしまいそう。

「ほら、ハンカチだ」

「えっ……ウソ、あれ……どうして……どうして止まりませんの……?」

「ペリーヌ……お前は、本当は……どうしたかったんだ?」

「私は……私は……」


私は、―――。


「おぃ、ペリーヌ!!」

気づくと、椅子にかけたコートと肩掛けカバンを手にしていた。
坂本先輩の声を無視してご馳走様でしたと伝え、店を出ると、入店した時よりも更に暗くなった道を精一杯走る。






行き先?

もちろん、彼女の……エイラさんの家だ。

私も混ぜてもらおう。

エイラさんは少し困った顔をするだろう、けれど入れてくれるかもしれない。

あの子はきっとイヤな顔をするだろう、けれど迎えてくれるかもしれない。

私は、好き。

エイラさんが好き。

好きなのだ、どうしようもなく。

私がしたかったこと、それは彼女と一緒にいることだ。

どんなに不恰好だって、どんなにはしたなくたって、いい。

今、会えるなら私は、私は―――。






息は上がり、髪はぼさぼさになる。
まるで静電気を受けたみたい。

冷たい風が目にしみて、涙は止まらない。
痛い、痛い。
ココロまで、イタイ。

酸素を求めて呼吸する。
心臓がもっともっとと、要求する。

聖夜に独り、暗い道をひたすら私は走った。






そうして息も絶え絶え、目的地に辿り着くと膝に手をつき息を整える。
エイラさんの部屋には明かりがついていて、今にも談笑が聞こえてきそう。
そうして感じたのは……。

今まで経験したことが無いくらいの……孤独だった。

何をしているのだろう……さぁ、これは何度目の自問なのか。
だから、もう分かりきっていることなのに、同じことを繰り返す。
手は届くはずがないのに、伸ばさずにはいられない。

自分も混ざれると思った? 

なんて浅はかで愚か。

情けなくて、惨めで、哀れで、侘びしく、気のどくで、悲惨で、あまりにも不憫で、傷ましく、惨憺たる結果だ。







これで、終わり。
私の長い恋は、今本当に終わりを迎えた。
完敗もいいとこだ。

気づけばボロボロな姿の私は、あの公園を通り抜けるところだった。
フラフラと敷地を通っていると、躓き反転する世界を見る。
抵抗する力も残っていない私は数秒の後、カラダ全体に衝撃が走り、膝に激痛を感じた。
履いていたレギンスの両膝部分は破れ、足からは血が出ているようだ。

寒くて、痛くて、惨めで、孤独で。

うつ伏せから起き上がると、あの時のベンチが目に入った。
私とエイラさんを幻視する。

もうやめて、やめて……やめて頂戴……。
忘れることなんて出来ないのだから、会えなくなってしまえば。
あぁ、そうだ……。

―――私なんて、消えてしまえばいいのに。






「ペリーヌ!!」

誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。
誰だろう、こんな時間に私を呼ぶ人がいるなんて。

「こんなところにいたのか、ほら忘れ物だ。探したぞ? 急に店を出て……おぃ……どうした、ペリーヌ!」

振り返ると束ねた髪を揺らしながら駆けつけてくる坂本先輩の姿が目に映った。

「血が出ているじゃないか。立てるか? 家はどこだ?」

「……大丈夫ですわ。すぐそこ……ですから……」

もう、放っておいてほしいのに。

「いいや。もう21時だ、送っていこう」

「……結構ですわ」

「私は先輩だぞ? 言うことを聞いてほしいな」

柔らかく諭し、膝裏と肩の下に両腕を滑り込ませると、坂本先輩はそのままカラダを持ち上げる。
ふわりと重力に逆らう感覚が私を襲う。






「うーむ、バランスが悪いな……首に手を回してくれないか。……あぁ、それでいい」

「ええと……あの……」

これは俗に言う、お姫様抱っこというヤツだろう。
この歳にもなってこんな姿を晒すなんて、夢にも思わなかった。

「ふむ、軽いな」

「……」

「あぁ……こういうことは言わないのが礼儀だったな。はっはっは。これじゃあまたミーナに怒られてしまう」

「ありがとうございます……」

「うむ。それで、家はどっちだ?」

方角を指差すと、坂本先輩はゆっくりと歩き出す。
私と、私の荷物と、彼女の荷物をたくさん抱えて。






……あぁ、温かい。
これは、あの時私を助けてくれて、手を引いてくれたエイラさんにそっくりだ。

エイラさんに恋をしたきっかけは覚えているけれど、当時の感覚はとっくに忘れていた。
そう、確か……こんな感じの気持ちだった。

この温かみに溺れたい。
私は、この人を好きになろうか。
今まで明確な理由が無くて、エイラさんを忘れることが出来なかった。
でも、コレなら……きっと、忘れられる。

この人への想いは報われることの無い恋だって分かっている。
でも、あんな苦い思いをするより、無理だと分かっている恋をして、彼女を忘れたい。

私は、この人を好きになる。
この人の温もりに抱かれて。
私は、この人に恋をする。










それはささやかだけれど、目もくらむような鮮烈な夜明け。



エイラさん……また、はありませんわ。

これからの私には、少なくとも。

―――ありがとう、そして……さようなら。










テテテテンッ デデデンッ!           つづく






オワリナンダナ
読んでくれた方、ありがとうございました。

前回のコメント、ありがとうございました。とても嬉しかったです。
エイラ好きの友人からは月の土地を貰いました。土地所有者には『EILA&SANYA』の文字が。
嬉しかったのでもうひとつSSを書きました。つまり、次回作戦予定時刻ハ本日フタヒトマルマル。

某まとめサイト様、並びに各所でコメントくださる方、いつもありがとうございます。
それでは、また。

ストパンO.V.A並ビニT.V.Aアルマデ戦線ヲ維持シツツ別命アルマデ書キ続ケルンダナ



このシリーズは現代が舞台なんですよね?

>>31さん
そのとおりです。
フミカネ氏の現代風ペリイラ絵を元にしているのですが、どの年代かは分からなかったので
今の段階ではスマホやらは出てこず、曖昧にしています。

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