咲「黄薔薇革命?」 (18)


以前書いた、
透華「タイが曲がっていてよ」の直後で、
成香「マリア様が、見ています」より前の話です。

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咲「ハァ…、ハァ…!」

咲は焦っていた。


咲(まずい…っ!)


息を切らし、早歩きで生徒会室へと向かう。

今朝は始業の前に生徒会室に集まって、学園祭の反省会を行う予定なのである。



どんなに急いでいても、校内に入れば、みっともなく駆けたりは出来ないし、マリア様に祈りを捧げる事も欠かせない。

なにより生徒会に顔を出す事は、緊張こそするが、ここまで焦ることはない。


咲(まずいよ…っ!)


今朝、咲は寝坊をした。


咲「申し訳ありません!遅くなりました!」


扉を開くと同時に咲は頭を下げる。 

ちゃんと視認してはいないものの、おそらく皆集合しているようである。


透華「…今、何時だと思っていて?」

咲「えぇと…っ、」

咲は恐る恐る腕時計に目をやる。

咲「7時52分です、けど…」


透華「3年生のお姉様方より遅いなんて…」

透華「いったいどういう事?」


透華の冷たい口調に咲は身をこわばらせる。


爽「透華も偉くなったもんだ」


ねっ?という掛け声とともに、咲は背後から肩を組まれた。


咲「うぇっ?!」


爽は肩を組むついでに咲の身体を弄りながら話す。


爽「悪い悪いっ、すっかり忘れててさ。いつも通り来ちゃった」

爽「でも、8時集合だからギリギリセーフだよなっ?」


透華「えぇっ…。でも咲はっ、」


カランッ


爽「おぉっ?」


爽は弄んだ指先から聞こえた音を聞き逃さなかった。

すかさず、音源であろう咲の胸元の深くへ手を突っ込む。


咲「きゃあっ!!」

爽「あっれぇ~?」

爽「咲ちゃん、これなあにっ?」


得意気に引きぬいた爽の手には、ロザリオが握られていた。

爽「はっは~ん。何時の間にっ」

菫「おっ。…ふふっ」

久「やる時はやるのねぇ?」


そう言って、菫と久も咲へと詰め寄る。

あっという間に薔薇達に囲まれ、咲はたじろいでいた。


透華「…反省会の時間が無くなりましてよ?お姉様方」

爽「まあまあ。そう言わずに少しはサービスしなさいよっ」

爽「いったい何時、どこで儀式をしたんだ~?」

透華「…サービスですって?」

透華「どうして私が!お姉様方にサービスしなければならないのですっ?!」


その言葉に透華は声を荒げる。


久「あっそう。じゃあ咲に聞くわ」

久「咲は素直だから。教えてくれるわよね?」


咲「えっ!?えぇっと…?」


久に詰め寄られ困った咲は、思わず透華に目を向ける。


透華「…」

咲「うぅっ…」


透華の鋭い眼光に、咲は思わず声を漏らすと、薔薇達へ視線を戻す。


すると、薔薇達は皆、笑みを浮かべ咲の口が開くのを待っていた。


咲(どうしよう…?)

咲(…ぁっ!)


必死に思案していた咲は、お腹をさする。さらなる問題が生じた。


咲「っ!」


止むを得ず、ふいにその場を去ろうとした咲は、たちまち腕を掴まれた。

爽「おっと!」

咲「ひゃあっ!」


爽は逃がさなかった。


爽「なあに?そんな言いたくないのー?」

爽「言えない位、素敵な思い出なのかぁ~?」

咲「いえっ!…あのっ…」


咲(確かに言うのは恥ずかしいけど…!!)


咲「…あぁっ…!!」


ぐううぅ~!…。ギュルギュル


少しこもったような、大きな音が、咲の腹部から生徒会室に響き渡る。


爽の読みは外れた。

…。

生徒会室に沈黙が流れる。

皆がただ、咲を凝視する。


咲「…ぁっ!…ぅぅ…」


爽「…ぷふっ…あっはっは!!」


咲の顔はみるみる紅潮していき、周りは声をあげて笑う。

透華は一人、呆れた様子で片手で自分の顔を覆った。


爽「良いっ!!咲ちゃん最高!」バシバシ

爽「『透華お姉様』の危機を、どう乗り越えると思いきや!…ははッ!」


笑いが堪え切れぬ様子で、咲の肩を叩く。


菫「咲ちゃんの天然ボケに敬意を表して、この場は勘弁してやろうっ」フフッ


菫もまた、笑いを堪えつつ、続けた。


菫「さあっ、反省会を始めようっ」


菫「カップは全員に行き渡ったか?」


菫は紅茶が入ったカップを手に取り生徒会室を見渡す。

どうやら他の者も、準備が出来ているようだ。


菫「それでは乾杯しよう」

菫「まずは、学園祭の成功を祝って…」


菫がカップを持った手を前へ伸ばすと、皆も同様に乾杯の仕草を取る。

咲(はぁ…、朝から色々大変だよ…)

咲は一段落した様子を察して、誰よりも先に紅茶に口をつける。

とにかく喉が渇いていた。


菫「…それと、」

菫「晴れて透華が咲ちゃんをモノにした事を記念してっ」

咲「っ!」ブフォ!!


咲「ゴホッ!!ゴホッ!」

咲「…えぇっと…?ぁっ」

透華「口を閉じて、口の周りをお拭きなさい。みっともない」


不意打ちに怯む咲に、透華はすかさずハンカチを差し出す。


爽「あら~、直接拭いてあげないの?」

透華「…白薔薇様だったら、由暉子の口の周りの面倒まで見て差し上げるのかしら?」


爽が茶々を入れると、透華は分かりやすく苛立つ。

咲(うぅ…)

爽「由暉子にはしないけど、咲ちゃんだったら」

爽「是非、かまいたいなぁ~」


その様子は、とても微笑ましく思えた。


透華「…この際ですからハッキリ言わせて頂きますけれど!」

透華「私の妹を甘やかさないで下さい!!」


透華と咲以外には。




久「あ、そういえば誠子に話があるの」

そんなやりとりもお構いなしに、久は口を開く。

誠子「話?」

久「新聞部がさ。一両日中に、淡と誠子を取材したいんだって」

誠子「新聞部が私と淡に?」


咲(あれ…?)


その様子を見ていた咲は、ようやく気付く。


咲「そういえば、淡ちゃんは…?」


誠子「昨日から熱が下がらないんだ…」

咲「熱…?」


いまいち話を掴めない咲に、由暉子が説明する。


由暉子「淡さんは、御身体が弱くていらっしゃるの」


咲(確かにそんな感じかも…?)

咲(凄く可愛らしい、お人形さんのような容姿だったもんなぁ)


久「貴方と淡が新聞部の全校アンケートで、ベスト姉妹賞を取ったんだって」

久「正式依頼だし、断る理由は無いんだけど…」

誠子「でもお姉様、淡はいつ登校出来るかわからないので…」


暗い表情の誠子を見て、久は意を汲み取る。


久「そうね。じゃあ、とりあえずアンケートだけ答えて頂戴」

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