ミサト「発想を逆転させるのよ!」シンジ「!」 (84)

逆裁×エヴァです



???「……はあ、はあ」

???「な、なんだよ」

???「なんだよこれ……」

???「俺が……俺がやったのか?」

???「……俺が殺したのか!?」



5月26日 9:22 地方裁判所 被告人控え室

シンジ「……うう~、もうすぐか。キンチョーするなぁ」

ミサト「シンジ君、グッモーニン!」

シンジ「あ、み、ミサトさん。ぐ、ぐっもーにん……」

ミサト「あらーなによ、ずいぶん具合悪そうな顔ね。だいじょぶ?」

シンジ「あまり大丈夫ではないような……」



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ミサト「ま、無理もないか。何せはじめての法廷が殺人事件の弁護だなんてねぇ」

シンジ「は、はあ……」

シンジ(……)

シンジ(僕は碇シンジ。今日、初めての裁判を迎える新米弁護士だ)

シンジ(そして目の前に立っているのが葛城ミサトさん。僕の先輩で腕利きの弁護士)

シンジ(今日の事件は、ミサトさんのお世話になることになりそう……)

ミサト「ま、あんまりキンチョーしすぎないことね。肩の力をほぐして、おいっちに、おいっちに」

ミサト「それで、今回の依頼人君はどんな調子なの?」

シンジ「そ、それが……」チラ

トウジ「うう、センセェ……」オロオロ

ミサト「確か、シンジ君のお友達だったかしら?」

シンジ「はい。この事件を引き受けたのもそれが理由なんですけど……」

トウジ「センセ、ワシ、ワシ、やってしもた……」

シンジ「や、やった?」

トウジ「ワシの人生、もう終わってしもたああああああああ!!」

シンジ「え、ええ!?いやいや!!」

シンジ「殺したのはトウジじゃないでしょ!だから僕が弁護するんじゃないか!」

トウジ「でも、でもワシぃ……。もうどうしたらええんか……」

トウジ「ワシ、あいつがいない人生なら死んだ方がマシやから!」

トウジ「よし、こうなったらもう有罪になってやる!!」

トウジ「有罪になって死刑を食らってやるんや!!」

シンジ(うう、アタマが痛くなってきたぞ……)

ミサト「あらあら、随分ナイーブな依頼人さんね」

トウジ「……!」

ミサト「はじめまして、あたしは葛城ミサト。シンジ君の先輩の弁護士よ。よろしく」

トウジ「ふ、ふぁい!」

シンジ「ふぁい?」

トウジ「わ、ワシ、トウジ、鈴原トウジっていいます!」

ミサト「ふふ、そう。じゃあ鈴原君、心配になる気持ちは分かるけど、最後まで諦めちゃダメよ?」

ミサト「そうだ、この法廷が終わったら鈴原君の好きなもの、お祝いに食べに行こうかしら」

シンジ「トウジの好きなもの……すき焼きか!いいですね!」

トウジ「ふぁい!!」

シンジ「と、トウジ……?」

トウジ「あ、あの、ミサトさん!」

ミサト「?」

トウジ「わ、ワシ、頑張りますんで!」バシ

シンジ(いや、頑張るのは僕だろ!!)

ミサト「ふふ、頑張りなさい。二人ともね」

ミサト「さて、そろそろ時間ね。シンジ君、行きましょうか」

シンジ「は、はい!じゃあ、トウジまた……」

トウジ「ふにゃら」

同日10:00 地方裁判所 法廷

裁判長「ではこれより鈴原トウジの法廷を開廷します」

サキエル「検察側、準備完了しております」

人物ファイル
『咲江 リュウ(サキエ リュウ)(42):ベテラン検察官。姿勢が悪いためかいつも肩パッドを入れているらしい』

シンジ「……」

裁判長「……」

シンジ「…………」

裁判長「…………」

シンジ「…………?」

裁判長「いや、『…………?』ではないでしょう!弁護側はどうなのですか」

シンジ「は、はぁ。どうなのかと言われると……」

シンジ「どうなんでしょう?」

裁判長「質問しているのは私ですぞ!」

シンジ「あ、いや、あの!じ、準備、その」

ミサト「ちょっと、シンジ君!焦りすぎよ!」

ミサト「不安があるなら一度、事件ファイルで事件をおさらいしておきましょう」

シンジ(……!そ、そうだ、事件ファイルだ)

事件ファイル
『事件内容:被害者は洞木ヒカリ。死因は失血死。凶器は現場に落ちていた包丁。一刺しで絶命』

シンジ(殺人事件か……改めて見ると体がスクむなぁ)

裁判長「弁護人!一人で落ち着かないように!」

シンジ「あ、は、はい!弁護側、準備完了しております!」

サキエル「くっくっく。全く、法廷の準備もろくに終わらせられないような新人相手とは、張合いがありませんな」

裁判長「次からは開廷前に終わらせておきなさい」

シンジ(うぅ……言われたい放題だぞ……)

ミサト「シンジ君、気落ちしてる暇はないわよ」

裁判長「では検察側、冒頭弁論をお願いします」

サキエル「はい」

サキエル「今回取り扱うのは、市内に住んでいた若き女性、洞木ヒカリさんが殺害されたインザンなる事件です。凶器は現場に落ちていた包丁と思われます」

サキエル「ちなみに犯人は凶器を処分しようとしたらしく、この包丁は被害者宅のゴミ箱の中にありました」

裁判長「ふむぅ、なるほど。重要な証拠品のようですね、受理します」

事件ファイル
『包丁:現場のゴミ箱にあった包丁。被害者の血の痕がベットリと残っている』

シンジ(証拠品……か。あとあと大事になってきそうだな)

裁判長「そしてその事件を犯したと思われるのが……」

サキエル「左様、被告人の鈴原トウジというわけですな」

サキエル「そこで検察側は証人として事件の捜査を担当した絵馬刑事に事件概要を証言して頂こうと思います」

裁判長「なるほど、分かりました。では、絵馬刑事をここに」

…………

絵馬「…………」

サキエル「証人、名前と職業を」

絵馬「は!自分は絵馬 ゲリオ!刑事をやっていますから!」

人物ファイル
『絵馬 ゲリオ(エバ ゲリオ)(29):現職の刑事さん。やけに背が高い』

シンジ(なんだかお腹がユルそうな名前だな)

エバ「あ、あの、本官の仕事は!本官の仕事は、犯人を捕まえることでありますから!」ジャキン

エバ「今すぐに犯人を逮捕いたしますから!」ジャキン

シンジ「うわっ!」

裁判長「ひぃ!なんですかなそれは!」

サキエル「し、証人!法廷でパレットガンを構えないように!」

エバ「し、しかし本官の仕事は!」

サキエル「あ、あなたの今の仕事は事件の証言をすることですぞ!」

エバ「む、それは……!」

エバ「……失礼しましたから。つい熱が入りすぎてしまい」ガチャリ

裁判長「ふむぅ、仕事熱心なのですね」

シンジ(そういうモンダイじゃないぞ!!)

ミサト「あのエバー刑事さん、熱くなると止まらないみたいね」

シンジ「絵馬ですよミサトさん?」

ミサト「……エバー」

シンジ「ミサトさん?」

ミサト「…………」

サキエル「ではまず証人、事件の概要について詳しく証言して貰いましょう」

エバ「分かりました!ではまず事件当時の状況についてお話しますから!」

ー証言開始ー

エバ『事件は白昼に行われましたから』

エバ『市内に住む女性、洞木ヒカリさんがアパートの一室で殺害されたのです』

エバ『凶器に使われたのは現場に落ちていた包丁。遺体には少しフクザツな傷口がありました』

エバ『また事件当日は洞木さんの家の窓ガラスが割られていましたが』

エバ『どうやらアパートの裏の公園で野球をしていた少年達のボールが当たったようです』

エバ『割れた窓から人が出入り出来るほど大きな穴は開かなかったようですから』

裁判長「なるほど」

サキエル「これが事件当時の状況ですな」

エバ「ちなみに室内の割れた窓ガラスの破片というのがこちらです」

裁判長「ほほう、これは危ないですな」

サキエル「街中で野球をするなど言語道断。最近の若者はポリシーが欠けています」

裁判長「全くです。若い人たちには気をつけて欲しいものですね」

シンジ(……二人とも僕の方を見て言っているぞ)

裁判長「とにかく、こちらは証拠品として受理しましょう」

事件ファイル
『割れたガラス:事件当日、被害者宅に散乱していた』

ミサト「さあ、シンジ君。ここからが本番よ」

シンジ「本番?」

ミサト「ええ。これから証人にあなたが質問する尋問に入るわ」

シンジ「尋問……」

ミサト「そう。この裁判は被告人……つまりあそこの彼が事件の犯人ではないかと言う事を審議しているの。当然証人もそのことを証言するわ」

ミサト「でももしそれが間違っていたら」

シンジ「証言に事実との違い……ムジュンが生まれる、ですよね」

ミサト「そうよ。とは言っても今回の証人は警察だし、嘘をついたりするとも思えないわ」

シンジ「じゃあ、特にムジュンしたところはない……?」

ミサト「それはどうかしら。意図しないムジュンもあるのよ。とにかく、鈴原君が犯人じゃないとすれば必ずどこかにおかしなところがあるはず」

シンジ「なるほど」

ミサト「まずは揺さぶりをかけて情報を引き出しましょう!」

シンジ「分かりました」

ー尋問開始ー

エバ『事件は白昼に行われましたから』

エバ『市内に住む女性、洞木ヒカリさんがアパートの一室で殺害されたのです』

エバ『凶器に使われたのは現場に落ちていた包丁。遺体には少しフクザツな傷口がありました』

シンジ「待った!」

シンジ「フクザツな傷口、というとグタイ的にはどんな?」

エバ「はあ、なんと言いますか……複数回、同じ所を刺されたような」

シンジ「複数回同じ所を?」

エバ「はい。グサッとやった後に引き抜いて……もう一度、こう!」

裁判長「そ、それはそれは」

シンジ(えげつないな)

ミサト「……シンジ君。今の発言、証言に加えてもらったらどうかしら」

シンジ「え?じ、じゃあ……」

シンジ「絵馬刑事、今の内容を証言に入れてください」

エバ「はっ!了解しました!」

エバ『事件は白昼に行われました』

エバ『市内に住む女性、洞木ヒカリさんがアパートの一室で殺害されたのです』

エバ『凶器に使われたのは現場に落ちていた包丁。遺体には少しフクザツな傷口がありました』

エバ『グタイ的には、同じ所を二度刺されたようなものでした』

エバ『また事件当日は洞木さんの家の窓ガラスが割られていましたが』

エバ『どうやらアパートの裏の公園で野球をしていた少年達のボールが当たったようです』

エバ『割れた窓から人が出入り出来るほど大きな穴は開かなかったようです』

シンジ(……この中にムジュンがあるのか)

ミサト「真実と食い違うなら、必ず証拠品と異なる証言が出てくるはずよ」

シンジ「事件ファイルを確認してみよう」

エバ『事件は白昼に行われました』

エバ『市内に住む女性、洞木ヒカリさんがアパートの一室で殺害されたのです』

エバ『凶器に使われたのは現場に落ちていた包丁。遺体には少し複雑な傷口がありました』

エバ『具体的には、同じ所を二度刺されたようなものでした』

シンジ「異議あり!!」

裁判長「…………!」

サキエル「…………!」

ミサト「…………!」

エバ「…………!」

シンジ「…………」

シンジ「……………………」

シンジ「…………………………………………」

シンジ(……なんだ、このチンモクは?)

裁判長「べ、弁護人、固まらないで下さい!」

シンジ「え?あれ、どうかしました?」

裁判長「どうかしましたじゃありませんぞ!」

ミサト「シンジ君、あなたは今、証人の発言に異議を申し立てたのよ」

シンジ「え?い、異議?」

シンジ(そういえばなんだろうこの感じ。この頭の中に閃くような違和感)

シンジ(これが……ムジュン?)

裁判長「弁護人、これ以上黙っているようならば……」

シンジ「ま、待ってください!弁護側は異議を続けます」

シンジ「ただいまの証人の発言はこの証拠品と明らかにムジュンしています!」

事件ファイル
『事件概要』

シンジ「事件捜査を担当されたという絵馬刑事にお聞きしますが、この報告書、間違いないんですよね?」

エバ「は、そのはずですから」

シンジ「だとすると明らかにおかしい部分かあるんです」

エバ「おかしい部分?」

シンジ「そう。ここにはこう書かれている。『被害者は一刺しで絶命』」

シンジ「しかしあなたはたった今こう証言しました。『二度刺されたようなものでした』と」

シンジ「明らかにムジュンしてるじゃないですか!」

エバ「ぬぁっ!?」

裁判長「ほ、本当ですぞ!」

ザワザワザワザワ

ミサト「よくやったわ、シンジ君。ムジュンを見つけることが出来たわね」

シンジ「ふう、き、キンチョーしたぁ」

ミサト「これで更に情報が引き出せるわ。きっとまた新しい手がかりが見つかるはずよ」

お休みなさい

裁判長「これはどういうことですか!絵馬刑事!」

エバ「あ、いや、こ、これはですからね、そのつまり凶器が」

サキエル「お待ちください」

サキエル「この件については私から説明します」

サキエル「確かに洞木さんには同じ傷口を二度刺されたような痕がありました。しかしその包丁で2回刺された訳ではないのです」

シンジ「どういうことですか!」

サキエル「被害者の傷口を調べたところ、別の刃物による刺しキズがありました」

サキエル「しかしこちらはあまり深く刺さっておらず大した外傷にもなっていませんでした」

サキエル「つまりそのキズは被害者は致命傷や死因とは関係ないのです」

シンジ「そ、そんな!」

裁判長「それで、その刃物はどこに?」

サキエル「そ、それは現在捜索中ですが、被害者の傷の具合からしてそれほど大きなものではないようですのでこちらも既に処分されている可能性が高いです」

ミサト「……シンジ君、いくら大きなキズではなかったとしても、検察側の対応は不自然よ」

ミサト「きっとその謎の凶器の存在を後ろめたかった理由があるわ」

シンジ「……!」

シンジ(そんな、ジジツを隠そうしたのか…?)

ミサト「そこが検察側の大きな弱点なのかもしれないわね」

サキエル「しかし、他に被告人が犯人であるという決定的な証拠があるのです」

裁判長「ケッテイテキな証拠?」

サキエル「はい。そこで次は被告人、鈴原トウジが犯人であるという根拠について説明したいと思います」

サキエル「被告人に証言を求めます」

裁判長「なるほど、分かりました。では被告人を証言台に」

シンジ(今のトウジに証言させて大丈夫かな……)

トウジ「…………」

サキエル「証人、名前と職業を」

トウジ「あ、えーと。ワシ、鈴原トウジ言います。その、バスケットボールチームのコーチやっとります」

裁判長「いわゆる体育会系というやつですね」

サキエル「被告人は被害者である洞木ヒカリさんとはどういう関係だったのですか?」

トウジ「ど、どういう関係いわれても……。その、一応……」

サキエル「交際をしていた、と伺いましたが?」

トウジ「…………」

シンジ(トウジの奴、やっぱりショックが大きいんだな)

サキエル「聞いた話によると事件の前日、あなたは被害者の洞木ヒカリさんと喧嘩をしたとか」

トウジ「な、なんでそれを!?」

サキエル「彼女がお友達に話していたのですよ。随分こっぴどく言われたようですね」

トウジ「そ、それは……」

裁判長「ふむう、それがつまり殺害の動機と考えられると?」

サキエル「はい、その通りです」

トウジ「そんな!ワシがそんな理由でヒカリに手を上げるわけないやろ!!アホとちゃうんか!?」

トウジ「ワシとヒカリはアツアツや!ネバーラブカップルや!」

シンジ(それじゃあただの冷めきった男女だけど……ここは同意しておくか)

シンジ「僕も被告人の意見に同感です。少し酷いことを言われたくらいで人を殺す動機にはなりません!!」

サキエル「シンミツなカンケイだからこそ、ということもあります。若い男女などいつ熱くなるか分かったんものではありませんからな」

サキエル「とにかく、被告人には動機となり得る理由もあったのです。そしてもちろん、決定的な証拠も」

シンジ「……証拠、だって?」

サキエル「検察側の手元には被告人が今回の犯人であることを証明する動かぬ証拠が二つあるのです」

サキエル「一つは、被害者に致命傷を与えた凶器である包丁に、被告人鈴原トウジの指紋がベッタリついていたこと」

サキエル「そしてもう一つは……」

サキエル「事件当日、被告人が被害者の家にやってきていたのを目撃した人物がいることです!」

裁判長「!!」

ミサト「!!」

シンジ「…………」

シンジ「……え?」


シンジ「な、なんだってええええええええええええ!?」

事件ファイル
『包丁:現場のゴミ箱に落ちていた包丁。被害者の血の痕がベットリと残っている。トウジの指紋が検出された』

同日11:18分 地方裁判所 被告人控え室

シンジ「うぅ……なんだかお腹が痛くなってきた」

ミサト「随分大きな爆弾を落としてくれたわね、あの検事さん」

シンジ「ど、どうなってしまうんでしょうか……」

ミサト「彼の言う証拠と証人、その両方が確かだとしたら……まずいわね」

シンジ「そ、そんな……」

ミサト「でも逆に言えば、彼が無罪なのだとしたらどちらかが間違っているということよ」

ミサト「証拠品についてはなんとも言えないけど……可能性があるとしたら検察官が呼んでくる証人でしょうね」

シンジ「証人……どんな人なんでしょう」

ミサト「……とにかく、今あなたに出来るのは彼の無実を信じてあげることだけよ」

トウジ「…………」

シンジ「トウジ……」

トウジ「センセ、ワシは……」

シンジ「どうして言ってくれなかったんだよ。あの日、洞木さんの家に行ったの?」

トウジ「じ、実は」

トウジ「……前の日、ヒカリと喧嘩して。それで、謝りに行こ思って」

トウジ「けど留守だったんや。せやから、美味いもん作って機嫌直してもらお思て……」

シンジ「そこで家に上がって包丁に触ったってわけ?」

トウジ「すき焼き、作ろう思たんやけど肉がなかったみたいやからそのまま包丁ほったらかしにしてな」

シンジ「買いに行ったのか」

トウジ「ああ。それで戻ってきたら警察が……」

シンジ(なるほど。つまり現場では包丁は犯人のすぐ目のつく位置にあったわけか)

トウジ「シンジ……ワシ、有罪になってもお前を恨んだりせんからな!」ビシッ

シンジ「え?」

トウジ「ヒカリのいない人生なら死んだ方がマシやし!」ビシッ

トウジ「どうせなら一層のこと、スッパリ有罪にしてくれや!」ビシッ

トウジ「大人しく死刑かっくらってくるから!」ビシッ

シンジ「い、いやいや!そうはいかないよ!」

トウジ「うぅ、死んでやる、死んでやるんやぁ……」

ミサト「……鈴原君」

トウジ「!」

ミサト「シンジ君は必ずあなたを無罪にするわ。だから、ね?その後で彼女のことはゆっくり考えましょう」

トウジ「……」

トウジ「なら、その、一つ頼みがあるんやけど」

シンジ「頼み?」

トウジ「ヒカリのバッグが欲しいんや」

シンジ「バッグって?」

トウジ「ワシがあいつの誕生日にプレゼントした、赤地に白で羽のマークがある……」

シンジ「ああ、それなら証拠品として保管されてるよ。確か現場で洞木さんの近くに落ちていたんだ」

トウジ「そ、そうなんか……じゃあ?」

シンジ「少なくとも事件が終わるまでは持ち出せないね。……それにしてもあれ、トウジがプレゼントしたものだったんだ」

トウジ「ああ。ヒカリのために特注で作ったんや。世界に1個しかない奴やで」

シンジ「へえ、素敵なプレゼントじゃない」

シンジ(……そうだ。これも一応証拠品じゃないか。どうせならファイルしておこうかな)

事件ファイル
『特注バッグ:トウジが被害者にプレゼントした世界に一つしかない買い物用バッグ。かなり血に濡れていたため、白のマークが赤に染まってしまっている』

シンジ(それにしてもこれ、模様があったのか。地の色がカゲキすぎて見分けがつかないぞ……)

ミサト「シンジ君、そろそろ休憩が終わるわ。大勝負の時間よ」

シンジ「はい。行きましょう、ミサトさん」

同日 11:40 地方裁判所 法廷

裁判長「それでは鈴原トウジの法廷を再開します」

裁判長「検察側、証人の準備は?」

サキエル「無論、完了しております」

裁判長「よろしい。では早速呼んでいただきましょう」

サキエル「では、事件現場で被告人を目撃したという張手 イエルさんをこちらに!」

ミサト「いよいよね」

シンジ「うう……大丈夫かなぁ」

ミサト「証拠品に間違いがない以上、鈴原君が無実ならば出てくる証人の証言にはかならずムジュンが含まれるはず」

ミサト「そこを叩くのよ」

シンジ「ムジュン、ですね。分かりました」

サキエル「証人、名前と職業を」

バルディ「わたくし、張手 イエルと申します。その、不動産のお仕事を少々」

人物ファイル
『張手 イエル(ハルテ イエル)(36):不動産を少々やっているらしい胡散臭い男。手に包帯を巻いている』

裁判長「少々、というとどのくらい?」

バルディ「いえ、ほんのささいな程度でございます」

裁判長「ははぁ、なるほど」

シンジ(納得のいく答えだったか……?)

サキエル「証人は他に手工芸も嗜んでいますが」

バルディ「この通り、先日少々手を怪我してしまいまして、今は休業中でございます」

サキエル「では証人、早速事件のことについて証言してもらえますかな?」

バルディ「かしこまりました」

ー証言開始ー

バルディ『わたくし、不動産関係の仕事で偶然、被害者様のアパートを訪れていたのでございます』

バルディ『するとちょうど、被害者様のお部屋を誰かが慌てた様子で足早に出ていくじゃございませんか』

バルディ『なんとなく怪しく思い、部屋の中を覗いてみたのです』

バルディ『すると、女の人が包丁を刺されて倒れていたのでございます!』

バルディ『わたくし一目散にその場から逃げ出してしまい。その後、警察に電話をしたのです』

裁判長「なるほど、これが間違いないとすれば……」

サキエル「包丁についていた被告人の指紋と合わせて決定的な証拠になります」

ミサト「シンジ君、分かってるわね?」

シンジ「はい、ムジュンですよね?頑張って見つけてみます」

裁判長「では弁護人、尋問をお願いします」

ー尋問開始ー

バルディ『わたくし、不動産関係の仕事で偶然、被害者様のアパートを訪れていたのでございます』

バルディ『するとちょうど、被害者様のお部屋を誰かが足早に出ていくじゃございませんか』

バルディ『なんとなく怪しく思い、部屋の中を覗いてみたのです』

バルディ『すると、女の人が包丁を刺されて倒れていたのでございます!』

シンジ「異議あり!」

事件ファイル
『包丁』

シンジ「女の人が包丁を刺されて倒れていた……ですか?」

バルディ「はあ、そうでございますが」

シンジ「それはおかしいですね」

サキエル「何がおかしいというのかね。被害者の死因は確かに包丁に刺されたことによる失血死ですぞ!」

シンジ「そう。だからこそおかしいんですよ」

シンジ「包丁は被害者の部屋のゴミ箱に捨てられていたはずだ!部屋を覗いただけのあなたがそのことを知っているはずがない!」

バルディ「ぎぇえっ!?」

シンジ「どうして被害者が包丁で刺されていると分かったんですか?」

バルディ「あ、いや、その、それは……」

サキエル「異議あり!」

サキエル「弁護人の言っていることは単なる言いがかりでありまして……」

裁判長「……」

裁判長「私にはそうは思えませんな。弁護人、続けなさい」

シンジ「はい。ここで張手さんが包丁の存在を知るには実際に部屋の中に入り込む必要があります」

シンジ「しかし血を流している死体が置かれてる部屋にわざわざ入り込むなんて有り得ません」

シンジ「張手さんの証言が本当ならば、凶器を目にする機会はなかったはずです!」

裁判長「なるほど、確かにそのとおりですね。張手さん、あなたはどうして凶器のことを?」

バルディ「ぐぬぬ……」

バルディ「……そ、そうだ。思い出したぞ!あ、いや、思い出しましてございます」

シンジ「?」

裁判長「思い出した?」

バルディ「ええ、ええ。ですから先程も申し上げました通り少し混乱しておりまして。ですからその、血を流しているというだけでてっきりお刺されになっているものとばかり……」

シンジ(随分無理やりだな)

ミサト「シンジ君、ナイスなツッコミよ。証人は焦っているわ。今なら証言にもっとボロが出るかもしれない」

裁判長「では証人。混乱していたことについて話してもらえますか?」

ー証言開始ー

バルディ『何分、死体なんていうものを見たのは初めてでございまして』

バルディ『それも血まみれの死体でございますでしょ?』

バルディ『もうわたくし、コンランしてしまいまして』

バルディ『それに、部屋の中も随分複雑な状況でございましたので』

バルディ『よくあるミステリードラマのようだと勝手にカン違いしてしまったのです。お騒がせいたしました』

裁判長「ふむう、なるほど」

サキエル「無理もありませんな。死体を見るなんて経験、滅多にするものではありませんから」

裁判長「ですが証言は正確に、慎重にお願いしたいものです」

シンジ(この証言は急ごしらえのその場しのぎだ。つつけばボロが出てくるはず)

シンジ(一気にたたみかけよう!)

ー尋問開始ー

バルディ『何分、死体なんていうものをみたのは初めてでございまして』

バルディ『それも血まみれの死体でございますでしょ?』

バルディ『もうわたくし、コンランしてしまいまして』

バルディ『それに、部屋の中も随分複雑な状況でございましたので』

シンジ「待った!」

シンジ「複雑な状況、というのは具体的にどういう?」

バルディ「散らかっていたと言いましょうか。野菜やらお肉やら、スーパーで買ったものと一緒にマイバッグのようなものが」

バルディ「赤地に白い羽のマークがついたものでございます」

バルディ「おそらく買い物帰りにお気の毒な目にあわれたのかと」

シンジ「なるほど、そういうことですか」

ミサト「……シンジ君、あたしは今の彼の発言、少し気になるわね」

シンジ「そ、そうですか?」

シンジ(どうせだから証言に付け加えてもらうか)

シンジ「あ、あの。じゃあ今の、証言に加えてもらえますか?」

バルディ「構いませんとも。ほほほ」

シンジ(ほほほ……ね)

バルディ『何分、死体なんていうものをみたのは初めてでございまして』

シンジ「待った!」

シンジ「その割には随分落ち着いているようですね」

バルディ「ようやっと気持ちの整理がついてきたもので。ミステリードラマとは比べ物にならないのでございますね」

シンジ(まあ、それはそうか)

バルディ『それも血まみれの死体でございますでしょ?』

シンジ「待った!」

シンジ「死体の出血の状況はかなりハゲしかったと?」

バルディ「それはもう、地獄絵図、とはあのことでございましょう」

サキエル「それはそれは。さぞかし動揺されたことでしょう」

バルディ「ええ、ですから……」

バルディ『もうわたくし、コンランしてしまいまして』

シンジ「待った!」

シンジ「コンランした、というと死体を見たショックでしょうか?」

バルディ「左様でございます」

シンジ「しかしあなたはミステリードラマを見るのが趣味だと言っていました。案外、もう慣れてしまっていたのでは?」

バルディ「まさか、それはテレビの見すぎというものでございます!現実とふぃくしょんの区別くらい心得ておりますので」

サキエル「弁護人にはテレビと現実の区別をしっかりとつけてもらいたいものですな」

裁判長「弁護人、テレビは一日二時間以内に控えるように!」

シンジ「は、はい……」(僕はムジツだぞ……)

バルディ『それに、部屋の中も随分複雑な状況でございましたので』

バルディ『散らかっていたと言いましょうか。野菜やらお肉やら、スーパーで買ったものと一緒にマイバッグのようなものが』

シンジ「待った!」

シンジ「マイバッグ……ですか?」

バルディ「ええ、ですから現場に落ちていた……」

バルディ『赤地に白い羽のマークがついたものでございます』

シンジ「待った!」

シンジ「それは確かにその模様だったのですか」

バルディ「それはもう。下地が妙にカゲキな色合いでしたからはっきりと印象に残っております」

シンジ(なるほど、そこの所の記憶ははっきりしているみたいだな)

バルディ『おそらく買い物帰りにお気の毒な目にあわれたのかと』

シンジ「待った!」

シンジ「何故、買い物帰りだと?」

バルディ「先程も申し上げました通り、スーパーで買ったと思われる肉やら野菜やら」

バルディ「お見受けしたところ女性のようでございましたので、恐らくは買い物帰りだったのだろうと」

バルディ『よくあるミステリードラマのようだと勝手にカン違いしてしまったのです。お騒がせいたしました』

シンジ「現実に人が死んでいるのに、ミステリードラマのようだと思ったんですか?」

バルディ「ほら、よくありますでしょ、ドアを開けたら人が倒れていたという……」

シンジ「よくある、とはどういう?」

バルディ「いやですね、テレビドラマの一つも見ないのですか」

サキエル「視野の狭い弁護人は証人の発言にいちいち突っかからないで欲しいものですな」

裁判長「弁護人はまだまだ若いのですから、ドラマの一つも見ておくように」

シンジ(り、リフジンだ……)


ミサト「慌てて組み上げられたこの証言は穴だらけなはずよ。きっとつつけば簡単にボロが出てくるわ」

シンジ(そうだ、ここで一気にたたみかけるんだ!)

バルディ『何分、死体なんていうものをみたのは初めてでございまして』

バルディ『それも血まみれの死体でございますでしょ?』

バルディ『もうわたくし、混乱してしまいまして』

バルディ『それに、部屋の中も随分複雑な状況でございましたので』

バルディ『散らかっていたと言いましょうか。野菜やらお肉やら、スーパーで買ったものと一緒にマイバッグのようなものが』

バルディ『赤地に白い羽のマークがついたものでございます』

シンジ「異議あり!」

事件ファイル
『特注バッグ』

シンジ「それはヘンですね」

バルディ「ヘン?」

シンジ「赤地に白い羽。そのマークがあなたに見えたはずがない」

シンジ「だってこのバッグは事件当時、被害者の血を吸って赤く染まっていたんですから!」

シンジ「混乱していたなら尚更、あなたにはこのバッグが、ただの赤いバッグに見えたはずだ!」

バルディ「!!?!?!!??」

裁判長「なんと、それは本当ですか!?」

シンジ「はい。こちらの写真を見てもわかる通り、濃い赤地を貴重としたこのバッグは、血を吸ってすっかり白のマークが見えなくなってしまっています!」

裁判長「ほほう、確かにこれでは色を見分けるのは大変そうですね」

バルディ「そ、それは……そうだ!」

バルディ「同じバッグを最近見かけて、色具合からてっきり……」

シンジ「残念ですがそれは有り得ないんですよ。このバッグは被告人が被害者のために作った特注品ですからね!」

バルディ「なっ!?と、特注品……でございますとぉ……!?」

シンジ「その通り、だからあなたがこのバッグの模様を知っていたはずがないのでございます!!」

裁判長「証人、これはどういうことですか!?」

シンジ「なぜ証人に白のマークが見えたか」

シンジ「簡単です。刺される直前に被害者が持っていた、『まだ血に濡れる前のバッグ』を見ていたからです」

シンジ「何らかのショックと一緒にそのバッグの派手な模様が記憶に染み付いてしまったのでしょう!」

シンジ「例えば人を刺してしまった拍子に……とかね」

ザワザワザワザワザワザワ

裁判長「カンカンカン!静粛に!」

シンジ「さあ、どうですか証人!」

バルディ「ぬ、ぬぐぐ……さっきから、いちいちつっかかりございましやがって……!」

バルディ「そこの男がやったんだ……!おれ……わたくしは確かに見たんだ!さっさと……死刑に……!」

バルディ「……あ!そ、そうだ!やっと本当のことを思い出しました!」

裁判長「一体いくつ本当のことがあるのですか!」

バルディ「こ、今度は間違いございません。確かに思い出したのでございます」

裁判長「法廷での発言は慎重にお願いしますよ。段々あなたという人間が信用ならなく思えてきました」

裁判長「言葉遣いなんか明らかに変ですしねぇ」

バルディ「むぉっ!?」

バルディ「あの、こ、今度こそ間違いなくございますので」

ミサト「いい調子よ、シンジ君!あと一歩の所まで来てるわ」

ミサト「あの証人をギャフンと言わせてやりましょう」

ー証言開始ー

バルディ『わたくし、少々混乱しておりましたが、その後我に帰ったのでございます』

バルディ『もしかしたらまだ被害者の方が助かるかもと思い恐る恐る中へ』

バルディ『室内を隅々まで歩き回り、その時にゴミ箱の中の包丁を発見いたしました』

バルディ『被害者の方の様子もしっかり確認し、バッグの模様もその時見分けたのでございます』

バルディ『流石に落ち着いて見れば染まっているというのはわかりますから』

シンジ「そんな!さっきあなたは人の死体を見るのははじめてで混乱していたと言ってたじゃないですか!」

バルディ「そ、それは、そうでございますが。わたくしミステリードラマを見るのが趣味でして」

バルディ「ああいった探偵ものに憧れてしまい、つい様子を……」

サキエル「勝手に現場に踏み入るのは感心出来ませんが、証人はまだ被害者が絶命しているとは知らなかったのです」

サキエル「人助けの一心があってのことでしょう」

裁判長「とにかく弁護人、尋問をお願いします」

シンジ「分かりました!」

シンジ(今までの証言が嘘だったのなら、この証言だって嘘に決まってる。つき崩すなら今しかない!)

ー尋問開始ー

バルディ『わたくし、少々混乱しておりましたが、その後我に帰ったのでございます』

バルディ『もしかしたらまだ被害者の方が助かるかもと思い恐る恐る中へ』

バルディ『室内を隅々まで歩き回り、その時にゴミ箱の中の包丁を発見いたしました』

シンジ「異議あり!」

事件ファイル
『割れたガラス』

シンジ「……張手さん。もう、嘘をつくのはやめにしたらどうですか?」

バルディ「う、嘘ですと?」

シンジ「こちらの写真を見てください。事件当時の被害者宅内の状況です」

サキエル「そ、それは先程絵馬刑事が提出した……」

サキエル「ああっ!!」

裁判長「ど、どういうことですか!私にもわかるように説明しなさい!」

シンジ「見たまんまですよ。室内には割れたガラスの破片が飛び散っていました」

シンジ「ガラスが散乱して、しかも死体のある部屋を落ち着いて隅々まで歩き回るなんておかしいでしょう!」

バルディ「ぎゃ、ぎゃふん!?」

バルディ「な、なんなんだテメェ、人の発言の揚げ足とってアレコレ探り入れやがって……!」

バルディ「さっきっから、なんなんだよあんた一体!?」

シンジ「質問に答えてください証人!どうしてガラスの散らかっている他人の室内を歩き回るなんて奇異な行為に出たんですか!?」

バルディ「ぐっ!!そ、それは……その……」

サキエル「異議あり!」

サキエル「さ、先程から弁護人は意味の無いことで証人を動揺させる物言いを多発しており……」

裁判長「意味のない……確かに、先程から弁護人の目的が的を得ません」

裁判長「弁護人はどうしたいのですか?これではまるで」

裁判長「証人を告発しているかのようですぞ!」

シンジ「……」

シンジ(そうだ、間違いない。ここで一気にたたみかけるんだ!!)

シンジ「……ええ」

シンジ「間違いありません、今回の被害者洞木ヒカリさんを刺したのは被告人ではなく、今そこに立っている証人、張手イエルさんだったんです!」

裁判長「なんと!」

サキエル「そ、そんな!?」

バルディ「な、なんだと!!」

ミサト「よく言ったわ、シンジ君」

バルディ「さ、さっきから勝手なことばかり言いやがって」

バルディ「お、俺が犯人だとか訳のわからねえことを……」

バルディ「そ、そうだ!なら、証拠はあるのか!?」

シンジ「し、証拠だって……?」

バルディ「俺が犯人だっていう証拠でもあるのか!?」

バルディ「ないなら俺のことを訴えるなんて出来ねえだろ!」

裁判長「……その通りですね。証拠がないのであれば証人を告発することは出来ません」

シンジ「そ、そんな……」

シンジ(くそ、証言は崩せたと思ったのに)

サキエル「そんな証拠あるはずがない!」

バルディ「へ、へっへへ、そうだよなぁ?証拠もないのに人を犯人扱いしやがって、全くひどいヤツだ」

裁判長「現在上がっているもの以上に説得力のある証拠がないのであれば、この場での君の発言は無力です」

シンジ(僕の手元に張手イエルが犯人の証拠なんて……あるはずがない)

シンジ(ムリ……だ)

裁判長「どうやら、提示できないようですね」

バルディ「へ、へっへっへ……残念だったな、弁護士さんよぉ」

シンジ(クソ!あと一歩のところだったのに!)

シンジ(ダメ……なのか……)

バルディ「あんたのせいで気分が悪くなったぜ。そろそろ俺はここいらで……」


ミサト「待ちなさい!!」

裁判長「!!」

サキエル「!!」

シンジ「!!」

ミサト「シンジ君、ここまで来たのよ!諦めてはダメ」

シンジ「で、でもそんな事言ったって……」

ミサト「今分かっている証拠で彼を追い詰められないなら、新しい証拠を見つけ出すしかないわ」

シンジ「新しい証拠……この場で?」

ミサト「そうよ。もう1度考えてみて。今一つだけ謎に包まれているものがあるでしょう?」

シンジ「謎に包まれているもの?」

シンジ「……そうだ、一つ目の刃物」

ミサト「そう。考えてみるの、事件現場にあの包丁の他に凶器になり得たものを」

シンジ「凶器になり得たもの……」

ミサト「ええ。その近道は、発想を逆転させることよ」

ミサト「そもそも『犯人が何故二度刺したか』『何故別の凶器を使ったか』なんて考えても分からないなら」

ミサト「いっそのこと、『その凶器を使ってどうなったのか』を考えるの」

シンジ「その凶器を使ってどうなったか……」

シンジ「もう一つの凶器を使って、犯人は何か……」

シンジ「そういえば、張手さんは最近手を怪我したって……」

シンジ(これはグウゼンなのか……?)

シンジ(思い出すんだ、当時の状況は……)


シンジ「……ああ!!そうか!!」

ミサト「見えたかしら、真実が?」

シンジ「はい、ようやっと分かりました。……この事件の真相が」

シンジ「弁護側には証拠提出の用意があります」

サキエル「なんと!?」

バルディ「な、ナニィ……!」

シンジ(よし、これが最後の証拠品だ!)

シンジ「くらえ!」

事件ファイル
『割れたガラス』

裁判長「それは……先程の写真、ですか?」

シンジ「はい。やっとわかりました。謎に包まれていたもう一つの凶器」

シンジ「被害者を最初に傷つけたものはなんだったのかが」

シンジ「張手さん、あなたは確か最近手を怪我されたそうですね」

バルディ「な、そ、それがどうかしたのか、でございます」

シンジ「事件当時現場に存在したあの包丁の他に凶器になり得たもの。包丁より小さくて、咄嗟に人を傷つけられるもの」

シンジ「それがこちらなんです」

裁判長「……ガラス片、ということですか?」

バルディ「!!」

シンジ「そうです。張手さんはこのガラス片を掴んで洞木さんを刺した」

シンジ「ギュッと握りしめてね」

サキエル「な、そ、そんなことをすれば……」

シンジ「そう、手が傷だらけになってしまう」

シンジ「ちょうど今の張手さんのようにね」

バルディ「こ、これは、その……!」

シンジ「……咄嗟に相手を刺してしまった張手さんは驚きました。そして、このままでは凶器であるガラスに証拠が残ってしまうと思い」

シンジ「慌てて指紋が残らない方法で、目に入った包丁を使い、相手を刺し直して凶器をカクランしようとしたのでしょう」

シンジ(ここでやめておけば、被害者は亡くならなかったわけだよな……)

シンジ「それからガラスについた指紋を拭き取り、被害者の血が溜まった床に置いて誤魔化せば目立たない」

シンジ「大方そんなことを考えていたのでしょう」

シンジ「そして、後は自分が目撃者になったフリをして被告人に罪を着せようとしたのです」

シンジ(偶然、トウジの指紋が包丁に残ってしまってたのは不運だったけど)

シンジ「ですが、調べれば被害者の衣服や現場からあなたの血液が微量に検出されるはずだ!」

シンジ「ガラスを握りしめた時に出血した血痕を完全に消し去ることなんて出来ない!まだ残っているはずなんだ!現場に残るはずのないあなたの痕跡がね!」

シンジ「さあ、今度こそ言い逃れできるものならしてみて下さい!!」

バルディ「な、な、な……」

バルディ「ぐ、ぐぐぐぐぐ」

バルディ「ぐおおおおおおああああああああえええええええええ!!!!」

バルディ「ええええええええいいいいいいいいいいいいい!!」

バルディ「いいいうううううう…………」ドサッ

…………

裁判長「……それで、張手イエルは?」

サキエル「さ、先程犯行を自白しましたので緊急逮捕いたしました」

サキエル「その、彼の手の傷も確かに現場に落ちていたガラス片による切り口と一致したようで」

裁判長「ふむ、なるほど分かりました」

裁判長「弁護人……いや、確か碇君でしたかな?」

裁判長「どうやら君の名前を覚えることになりそうですぞ」

シンジ「い、いやぁ。はは……」

裁判長「まさか依頼人を救い出しただけでなく、真犯人を見つけてしまうとは」

シンジ「こ、光栄です」

裁判長「では、今さらになってしまいましたが、被告人には判決を言い渡しましょう」

無 罪

ヒューヒュー


シンジ(張手 イエルは不動産と偽った空き巣や不法侵入の常習犯だったらしい)

シンジ(トウジの外出を目にした張手は洞木さんの部屋に侵入、そこへ買い物を終えた洞木さんが帰ってきた)

シンジ(逆上した彼は目に入ったガラス片で彼女を刺したものの致命傷には至らず、証拠隠滅のため、ハンカチの上から目についた包丁を咄嗟に手に取り洞木さんを再び刺した)

シンジ(……ということらしかった)

同日 14:20分 地方裁判所 被告人控え室

ミサト「いやーお見事だったわ、シンジ君!」

ミサト「まさか初の法廷でここまでやってくれるなんて!」

シンジ「は、ははは」

シンジ(ミサトさんまで、まるで僕のことみたいに喜んでくれる)

トウジ「うぅ」

シンジ「と、トウジ?」

トウジ「シンジ、ワシ、死ぬから!」

シンジ「い、いやいや、トウジは無罪になったじゃないか!」

トウジ「でもワシ、ヒカリのいない人生なんて、もう……」

シンジ「トウジ……」

トウジ「ワシな、あの日の前にヒカリと喧嘩したやろ?」

トウジ「それであの時謝りに行ってな、でも結局伝えられずにヒカリは……」

トウジ「ヒカリはどう思ってたんやろな。「すまん」の一時も言えず、もしヒカリがショックを受けたまま死んでしもたんやとしたら、ワシは……」

トウジ「なあ、シンジ。ヒカリはワシのこと恨んでるやろか?」

ミサト「あたしはそうは思わないわね」

トウジ「へ?」

ミサト「ねえ、そうでしょシンジ君?証拠、見せてあげたら?」

シンジ「あ、は、はい!」

シンジ「あの、トウジ、これなんだけど」

事件ファイル
『特注バッグ』

トウジ「ワシがプレゼントしたバッグ、か?」

シンジ「うん。洞木さん、あの日もこれを持って買い物にいってたんだよ」

シンジ「きっとトウジとひどい喧嘩をしたって気にせず使えるくらい、このバッグいつも持ち歩いてたんじゃないかな?」

トウジ「……」

シンジ「あの日も多分同じだったんだよ。そんなのなんとでも言えるけど、トウジは洞木さんが恨んでるって思う?」

トウジ「……センセ」

トウジ「ワシ、今回のことお前に頼んで……良かったわ」

トウジ「ありがとな」

シンジ「うん。トウジの力になれて良かったよ」

トウジ「ワシも、頑張らんとな……」

ミサト(シンジ君、証拠品ってこういうものよ)

ミサト(人間と同じで、見方によっていくつもの意味があるの)

ミサト(強くなりなさい。弁護士として、人として)

トウジ「じゃあその、これ。一応依頼料な」

シンジ「あ、そっか、ありがとう。なんか変な感じだね」

ミサト「ふふっ、シンジ君の初ものね。じゃああたしもお祝いよ」

ミサト「これを渡しておくわね」

シンジ「……え、これ、十字架の首飾り?」

シンジ「確かミサトさんの大事なものなんじゃ」

ミサト「そうよ。だから今、あなたに預けておくの」

ミサト「いつか一人前の立派な弁護士になったら、あたしに返しなさい」

シンジ「ミサトさん……」

シンジ「……分かりました。必ず返しに行きますよ!」

ミサト「ん。それにしても最初の事件に殺人事件を選ぶなんて驚きだったわよ」

シンジ「僕もですよ。でも、トウジの力になりたかったんです」

ミサト「鈴原君の?」

シンジ「はい。僕がこうして弁護士になったのも、トウジのお陰、みたいなところありますから」

ミサト「……へえ、なんか面白そうな話ね!」

ミサト「いい話なら今度聞かせてもらおうかな。お酒のおつまみにね!」

シンジ「は、はは……」

ミサト「……じゃあ、そろそろ行きましょうか。今日はシンジ君のデビュー記念だし、パーっと飲むわよ!」

シンジ「ほ、ほどほどにしておいてくださいよ!また事務所で暴れられても困りますから!」

ミサト「はいはーい、善は急げってね!!」タッタッタ

シンジ「まったくもう……」


シンジ(こうして僕の初めての裁判は終わった)

シンジ(心臓が止まるかと思ったけれど、なんとか僕は親友を助けることができた)

シンジ(この裁判の記憶は、ミサトさんがくれた十字架の首飾りと共に僕の中に残り続けるだろう)

シンジ(ただしそれは、「この首飾りをミサトさんに返す」という約束を永遠に果たせなくなってしまう、あの辛い事件と共に、という意味なのだけれど)

プルルルルル ピッ

???『はい?』

ミサト「久しぶりね、元気してたかしら?」

???『葛城さん!もう、最近全然連絡くれなかったじゃないですか!』

ミサト「ごみんごみん、ちょっち今取り扱ってる事件のことで立て込んでてね」

???『それで、またうちに頼みですか?』

ミサト「うん、悪いわね。お世話になっちゃって」

???『はぁ、もうほんと勘弁してほしいわ……』

ミサト「ふふふ、じゃあ明日の夜、こっちで待ってるわね」

???『また何か美味しいものごちそうしてくださいよ』

ミサト「そうねぇ、じゃあステーキ……いや、ラーメンなんてどうかしら?」

???『わー、ごちそうになります!じゃあ明日の夜でいいんですよね!』

ミサト「ん。あと、そうそう」

???『?』

ミサト「聞いたかしら、あなたのお兄さんのこと?」

???『ああ、はい。なんでも友達の弁護士さんに弁護してもらったとか。うち、直接は見に行けなかったんですけど』

ミサト「ふふふ、実はその弁護士ね、うちの子なのよ」

???『ええ!そうやったんですか!?』

ミサト「ええ、そうよ。最初の法廷で殺人事件をひっくり返してしまうなんて、彼は天才ね。間違いないわ。まるで成歩堂リュウイチみたいだったわ」

???『へぇ、じゃあうちも困ったことがあったらその弁護士さんに弁護にきてもらおうかな』

ミサト「おっと、ダメダメ。命が惜しかったら、彼に弁護を依頼するのはあと十四年待ちなさい」

ミサト「今日だってあたし内心、心臓が止まるかとおもったんだから」

???『わ、手のかかる部下なんですね』

ミサト「ふふ、間違ってないわ。それじゃ、明日よろしくね?」

???『わかりました、なんでもお伺いしますよ』

ミサト「センキュー!じゃ、またね、サクラ」

『逆転、襲来 完』

ミサト「人生で初めての裁判を見事に乗り切った碇シンジ」

ミサト「しかし運命は彼に喜びの時を与えなかった」

ミサト「倒れるミサト、疑われる少女、そして彼女の弁護を決意するシンジ」

ミサト「鈴原サクラと名乗る少女。綾波レイと名乗る弁護士。真希波マリと名乗る刑事」

ミサト「そして、海外からやって来た無敗の天才検事が彼の前に立ちふさがるのだった」

ミサト「次回新世紀逆転裁判『逆転チルドレン』。お楽しみにね!」

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