少女 「夢の世界へようこそ」 (16)

書き溜め不十分ながらあり



少女 「……とんでもない大仕事が降って来ましたね」

男 「別に気にせず作業していいよ、俺は君を眺めてるだけで十分だから」

少女 「嫌ですよ、見られてるってなんか落ち着かないでしょう? それに大仕事の原因は貴方です」

男 「俺はそう思わないけど」

少女 「私がそう思うんです」

男 「……しっかし、明晰夢って本当にあるんだな」

少女 「そんなちゃちなものと一緒にしないで下さいよ、貴方が今いるのは真の夢の世界なんです」

男 「……夢なのに真とか言われてもどういうことなのかさっぱりなんだけど」

少女 「要するに、あなたは異次元に足を踏み入れてるんですよ」

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男 「ヤバい?」

少女 「ヤバいなんてもんじゃないでしょう……全く、こちらは大騒ぎだっていうのに暢気なものですね」

男 「そんなに珍しいのか?」

少女 「稀も稀、以前『現』の人間がここへ来たのは五百年前ですね」

男 「……もしかして君相当長生き?」

少女 「馬鹿なことを言わないで下さい、その頃の記録に決まってるじゃないですか」

少女 「……というかどうやってここに来たんですか」

男 「刺激的な夢を見たいと思ったら来れた」

少女 「ムチャクチャですね……」

男 「……っと、そろそろ起きないと。 それじゃあまた」

男 「……次があればだけど」


少女 「次、ありましたね」

男 「どうやら来ようと思えば来れるみたいだ」

少女 「何も夜来なくてもいいじゃないですか」

男 「夜以外のいつ行くんだよ」

少女 「『現』の人間なら昼寝とかあるでしょう」

男 「……昼寝できる暇があればいいけどな」

少女 「忙しいのはお互い様ですか」

男 「なんか悪いね、そろそろ戻るよ」

少女 「別に構いませんよ、息抜きもしたいですし」

男 「寝ればいいじゃん」

少女 「私達は眠る必要がないのですよ」

男 「寝顔は拝めないのか……」

少女 「眠れても貴方の前では決して眠らないでしょうね」

男 「冷たいなぁ」

男 「やっほー、こんばんは」

少女 「……こんばんは、一週間続けてやって来るとは思いませんでしたよ」

少女 「毎晩ここへ来て大丈夫なんですか? 身体は眠ってるとはいえ影響がない訳ではないでしょう?」

男 「……確かに疲れが残ってると感じることもあるな」

少女 「…じゃあなんで」

男 「……それでも俺はここに居たいんだ」

男 「君と、話していたい」

男 「君だけが、退屈な俺の生活の癒しになってたんだ」

少女 「……分かりましたよ、でもたまにはしっかりと眠って下さいね、睡眠不足が祟って死なれでもしたら寝覚めが悪いですから」

少女 「私は元々起きてますが」

男 「ありがとう、それじゃあもう行くよ」

少女 「はい」

男 「そういえば、こっちの世界はここ以外にも何かあるのか?」

少女 「当然でしょう、ここは窓口みたいなものです」

少女 「これといって何か仕事があった訳ではないのですが」

男 「どこか行けたりする?」

少女 「出来ます……が、戻れなくなるので許可できません」

少女 「退屈でしょうがここで我慢して下さい」

男 「ちょっと気になっただけさ、退屈だなんてとんでもない」

少女 「だといいのですが」

男 「気を遣ってくれてる?」

少女 「窓口閉めますよ」

男 「閉められたら俺ここに来れなくなる感じ?」

少女 「そうですね」

男 「ごめんなさい」

少女 「それでいいです」

男 「最近怖い」

少女 「明日きっといいことありますよ」

男 「今日いいことあるんだよね?」

少女 「え、それ私がなんかしなくちゃいけない奴ですか」

男 「1日何もなかったし」

少女 「運がなかったという事で」

男 「……」

少女 「……」

少女 「……はぁ」

男 「……!!」

少女 「まだ何も言ってませんよ」

男 「……」

少女 「……」

少女 「……ち、ちちんぷいぷいのぷいっ」

男 「……今のは」

少女 「よ、夜ぐっすり眠れるようになるおまじないですっ」

男 「もう一回お願いします」

少女 「断固拒否します」

男 「何故」

少女 「恥ずかしいじゃないですか」

男 「そんなことないよ」

少女 「……もう2度としませんから」

男 「ちちんぷいぷい……」

少女 「あー!!あー!!」

男 「おーい」

少女 「……」

男 「昨日はごめんって」

少女 「……」

男 「何も覚えてないから」

少女 「……嘘でしょう」

男 「……嘘だね」

少女 「やっぱり」

少女 「もう貴方とは話したくないです」

男 「窓口閉めれば良かったじゃん」

少女 「……うるさいです」

男 「ふーん?」

少女 「……閉め忘れてただけですから」

男 「ほんとにー?」

少女 「……勝手に閉めると上がうるさいんですよ」

男 「許可取れば閉めれるの?」

少女 「そりゃもちろん! 明日にだって閉めれますよ」

男 「……そっか」

少女 「な、なにもそんなに落ち込まなくても」

男 「……もう会えない?」

少女 「閉めませんから! 会えますから機嫌直して下さい!」

男 「計画通り」

少女 「あっ!? 貴方って人は!」

男 「意外とちょろいな」

少女 「3日は寝ててください!!」

少女 「まさかほんとに3日開けてくるとは……」

男 「寂しかった?」

少女 「仕事が捗りましたよ」

男 「冷たくない?」

少女 「貴方が悪いんですから」

男 「こっちは大変だったってのにこの仕打ち」

少女 「え、寝てるだけじゃないんですか」

男 「一昨日は忙しくてそうも行かなくてね、昨日はその疲れで来ようと思う間もなく寝たんだ……」

少女 「ええ!? じゃあなんでここいるんですか!? 寝てくださいよ!!」

男 「今も寝てるよ」

少女 「そうだけどそうじゃない!」

男 「昨日ぐっすり寝たからセーフ」

少女 「……疲れは」

男 「……」

少女 「……はぁ、ならここで寝てください。少しはマシになるはずです」

男 「布団あるのかここ……?」

少女 「ある訳ないでしょう」

男 「え?」

少女 「え?」

男 「俺にどうしろと?」

少女 「寝てください」

男 「床に?」

少女 「無理なんですか?」

男 「痛いだろ」

少女 「これだから『現』は」

男 「『現』代表として言わせてもらうけど布団ないほうがおかしいから」

少女 「じゃあどうしろって言うんですか」

男 「せめて枕ぐらい……あ」

少女 「?」

男 「膝枕があるじゃないか」

少女 「ええ!?」

男 「寝るためだ!頼む!」

少女 「そんな……私が、膝枕、なんて」

男 「すぐ寝るから!」

少女 「ほんと、ほんとですね?」



男 「……柔らかい」

少女 「もう! お願いだから早く寝てくださいよ!!」

少女 「ああもうほんとに駄目……恥ずかしい……」

男 「なんかいい香りがする……って痛い!! 膝引くな!」

少女 「じゃあもう黙って寝てくださいよ!!」

男 「仕方ないだろ! 興奮してるんだから!!」

少女 「だからなんでそんなストレートに言うんですか!! もっとオブラートに包んで下さいよ!!!」

男 「オブラートに包めばいいの?」

少女 「駄目ですよもう寝てよおおぉぉぉ!!!」

男 「そういえば名前お互いに知らなくないか?」

少女 「言われてみればですね」

男 「膝枕もした仲なのにな」

少女 「……あんなのノーカンですよノーカン」

男 「よく眠れたよ」

少女 「あーはいはい、良かったですね」

少女 「名前の話でしょう? 私は少女です」

男 「少女ね、OK。 俺は男だ」

少女 「貴方呼びに慣れてしまったせいで呼ばなさそうです」

男 「いやちゃんと呼んでくれよ少女」

少女 「急に言われたって……」

男 「少女少女ー」

少女 「そんな連呼しないで下さいよ、恥ずかしいですし」

男 「少女ー」

少女 「いや、やめて下さいって」

男 「少女も、呼んで」

少女 「……男…さん?」

男 「なんで疑問形なんだよ」

少女 「い、いつかはちゃんと呼びますから」

男 「……まぁいいか」

少女 「あの、大事な話をしたいんですが」

男 「……改まってどうした」

少女 「……『現』を離れたいと思うことはありますか?」

男 「……どうして?」

少女 「……」

男 「大丈夫か?」

少女 「……はい、ちょっと、ちょっと緊張してるだけですから」

少女 「もし、もしも『現』が退屈で、何の面白みもないなら」







少女 「夢の世界の住人となって私と暮らしませんか?」

男 「俺が? 少女と一緒に? どうするって?」

少女 「夢の世界で暮らすんです」

男 「マジで?」

少女 「本気ですよ」

男 「『現』には?」

少女 「……戻れません」

少女 「それでも……貴方が、男さんがいいのなら」

男 「……」


男 「……よし、分かった」

男 「少女、一緒に暮らそう」

少女 「……!!」


少女 「んん……ゴホン」




少女 「それじゃ、改めて男さん、夢の世界へようこそ!」

終わり

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