こめっこ「たべものがほしい」
カルナ「――承知した。釣りにでも行くか」
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カルナ「……」
こめっこ「……」
カルナ「……」
こめっこ「……」
カルナ「……」
こめっこ「……つれない」
カルナ「釣れないな」
緩やかな流れの川を前に、幼い少女と細身の男の二人組。
男がその身に纏うのは、太陽の輝きを想起させる黄金の鎧。
その手に持つのは、伝説の武器――などではなく、ボロのつりざお。
水面に垂らされた釣り糸は一向に獲物がかかる気配はなく、少女は焦ったそうに足をジタバタさせる。
こめっこ「むー……」
カルナ「少しじっとしていろ。魚が逃げる」
こめっこ「ごはん……」
カルナ「……仕方あるまい。夕飯にはまだ早く、持ち合わせもない。短期の労働で賃金を稼ぐにも、ひょいざぶろーたちからお前を任されている以上は、お前から目を離すこともできん」
こめっこ「むー……」
カルナ「頬を膨らませるのはいいが、腹は膨れんぞ」
穏やかな昼下がり。
爽やかな風が、カルナとこめっこの頬を撫でる。
時折釣り糸が揺れるものの、風によるもので魚がヒットしたからではない。
釣竿が揺れる度に期待に瞳を輝かせるこめっこだが、残念ながら悉く外れている。
こめっこ「……カルナ、釣り下手だね」
カルナ「…………そうか」
こめっこ「…………夜になっちゃいそう」
カルナ「………………そう、だな」
このまま何事もなく時間が過ぎれば、お腹を空かしたままこめっこは帰宅し、しゃばしゃばしたお粥の様な夕飯を食べる事になる。
幼少のこめっこにそれはつらいだろうと、カルナは思う。
が、現実として釣り糸に反応は無く。
こめっこ「……ごはん……」
カルナ「……」
釣りは諦めて、木の実でも集めるか?とカルナは思案する。
できれば、そういったものより腹に溜まるものの方が良いのだが――
カルナ「――む」
突然、カルナが釣竿を脇に置いて立ち上がる。
前触れもない保護者の行動に、こめっこは目をパチクリさせた。
こめっこ「どうしたの?」
カルナ「じっとしていろ……どうやら、オレたちが釣り餌となってしまったようだ」
こめっこを庇うように前に立ち、空を見上げるカルナ。
釣られてこめっこも顔を上げると――数体の、翼を持った魔物がこちらへと向かって来ている。
魔物A「紅魔族のガキだ! 引っ捕まえて人質にすんぞ!」
魔物B「でも、隣のヤツ……」
魔物C「へ、どうせ大したことねえよ。あんなもやしヤロウ」
魔物D「鎧は何か凄そうだが……」
魔物E「丸腰だし、こっちは五人だ。ガキを狙えば何とかなんだろ」
散々な言われようだが、カルナは眉ひとつ動かさない。
侮辱も初見で認められない実力も、彼にとっては当たり前のことだ。
こめっこ「カルナ……」
カルナ「心配は不要だ。お前はただ、釣竿を握っていればいい」
魔物A「へへ――くたばりやがれっ!」
五体のうち一体が、翼をはためかせ急降下する。
狙いはカルナの首。
カルナを殺し、凄そうな鎧を奪い取り、その後でこめっこを紅魔族への人質にする算段だ。
丸腰の男に、対抗策などある筈もないと高を括っての行動だが――
カルナ「武具など不要」
魔物A「――あん?」
――真の英雄は、眼で殺す。
突撃してきた魔物は、何も理解できず。
ただ一瞬のうちに全身を焼き尽くされる痛みを味わい、絶命した。
魔物「……」
こめっこ「かっこいい……!」
魔物たちは沈黙し、こめっこは瞳を興奮に輝かせる。
まさか丸腰の男の片目から、炎熱がビームとなって放たれるなど、誰も思いはしなかった。
カルナ「……さて」
そんな周囲の反応に興味を示さず、カルナ黒こげの死体となった魔物から視線を外す。
当然、次に見据えるは未だに宙を漂う魔物の集団。
次は自分たちがああなる番だ、と理解した魔物たちの行動は迅速だ。
「た、助けてーっ!?」
「み、見逃してくれっ!!」
「お、俺たちが悪かったーっ!!」
「ま、待ってくれー!!」
全力での命乞い、からの返答を待たずしての逃亡。
凄まじい敏捷性で、彼らは二人の前から離脱した。
カルナ「逃亡か……当然ではあるな」
彼らも同じようにトドメを刺すのは容易いが、カルナはあえて見逃した。
あの様子では報復など考えることはないだろう。
それに、マスターであるこめっこの体調は万全とは言い難い。
全力で手加減をしたとしても、万が一があってはひょいざぶろー達に顔向けが出来ない。
こめっこ「真のえいゆーは、眼でころす……!」
当の本人は、無邪気にはしゃぐばかりであるが。
腹を空かせているこめっこには悪いが、これ以上騒ぎが起きる前に帰るべきだろう。
そう判断してこめっこの手を取るカルナ。
カルナ「帰るぞこめっこ。また事が起きては厄介だ」
こめっこ「えー……」
カルナ「ダメなものは――む?」
駄々をこねる前に、こめっこを立ち上がらせた時、カルナの目があるものを捉えた。
ちょうど、魔物たちがいたところの真下あたり。
銀貨が詰まった、皮袋のようなものが落ちている。
カルナ「……ふむ」
こめっこ「わぁ……!」
少し遅れて、こめっこもそれに気付いたようだ。
カルナは片手を顎に当てて、少し思案する。
カルナ「これは、お前が使うといい」
カルナは皮袋を拾い上げると、こめっこの手に握らせた。
こめっこ「いいの!?」
カルナ「ああ。コレは、彼らが命の対価として置いて行ったもの。そして、俺には不要なもの――ならば、マスターであるお前が貰うのが道理だろう」
満面の笑みで、こめっこは皮袋をポケットに仕舞う。
口の端から涎が垂れているあたり、この臨時収入でおやつをいっぱい買い込むつもりなのだろう。
こめっこ「ありがとー!!」
カルナ「当然のことをしたまで……だが、その言葉は受け取ろう」
手を繋いで、二人は紅魔族の里へと帰る。
その足取りに、先ほどまでの沈んだ雰囲気は感じられなかった。
ちなみに。
こめっこ「びぇーっ!!」
めぐみん「カルナ、あなたがついていながら!!」
カルナ「……すまない」
勢いのままにおやつを食べ過ぎたこめっこが、夕飯を食べられずにわんわん泣くことになり。
姉であるめぐみんに叱られて、ションボリと正座する施しの英雄が、その日の晩に見られたという。
【クラス】ランサー
【マスター】 こめっこ
【真名】カルナ
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷A 魔翌力B 幸運EX(自己申告) 宝具EX
【スキル】
無冠の武芸:-
様々な理由から他者に認められなかった武具の技量。
相手からは剣、槍、弓、騎乗、神性のランクが実際のものより一段階低く見える。
この世界においては、
『ギルドに登録に行くとゴロツキ冒険者に舐められて絡まれる』展開や、
冒頭のような『明らかに凄まじい装備なのに舐められて挑発される』展開を引き寄せる。
残念ながら彼の側にいる女子は幼女であるこめっこのみであり、テンプレ的ハーレム展開は引き寄せられない。
【宝具】
『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』
カルナがバラモンのパラシュラーマから授けられた対軍、対国宝具。
目からビームとその口上は紅魔族の心もガッチリ掴んだ。
【施しの英雄】
マハーバーラタの大英雄。
何の因果か此度の現界は、異世界の――それも、十にも満たない少女をマスターとして召喚された。
とはいえ彼のする事は変わらない。
あるがままに、なすべき事をなす。
幸運については『オレは恵まれている。何度も必要とされ、こうして槍を振るう機会を与えられるとは――最早、単純な数値ではオレの幸運は計り知れまい』とのこと。
【こめっこ】
紅魔族随一の魔性の妹。
何やかんやでカルナのマスターになる。
いつもハラペコ。
なんだかんだでカルナには甘やかされている。
【めぐみん】
こめっこの姉。
カルナについてはカッコいいと思うが、小言がチクチクと刺さる。
爆裂魔法を極める事を目標とし、ないすばでぃーに憧れを抱く。
『手羽先が七面鳥になる事はない。残念だが……』とのたまうカルナをいつか見返す予定。
というわけでこのすば×Fate二次です
多分続きます
こめっこ「真のえいゆーは、眼でころす………!」
くわっと片目を見開き、高らかに叫ぶ。
無論、それだけで目からビームなど出るはずもなく。
むしろ、勢いよく目にゴミが入ったことでこめっこは涙目になった。
こめっこ「いたいよぉ……」
カルナ「擦るな。水道に行くぞ」
こめっこ「どうやったら、カルナみたいになれるの?」
カルナ「オレのように――か」
少女の幼気な視線に、カルナは瞑目する。
憧れのこめられた瞳など生前は一度も向けられたことはなく、これまでの召喚でも記録にはない。
『あなたみたいになりたい』と言われたのはまさに初めてで、戸惑っていた。
こめっこ「わくわく」
カルナ「……そうだな」
ゆっくりと、カルナは口を開く。
少し迷ったから、今までのこと――生前の内容を、ありのままに伝える事にした。
言葉が少なくならないように、慎重に。
カルナ「太陽を父とするが、母に捨てられ。武芸を磨くが、それを披露する資格はなく。師に教わった奥義は呪いによって封じられ、生まれ持った鎧はバラモンに肉身ごと捧げ――」
カルナは語る、己の生前を。
生憎と彼に詩人の才能はないために、ありのままを。
少女へ語るにしては難しい言葉も所々に混ざるが、言葉を選ぶような教養もない。
結果として、カルナの語る内容は――
こめっこ「よくわかんない……」
めぐみん「人の妹に何を聞かせてますか、あなたは」
メインの聞き手には伝わらず、いつの間に増えていた少女にはドン引きされていた。
カルナ「どうすればオレのようになれるか、と聞かれたからな。オレがどのように生きていたかを伝えたのだが」
めぐみん「この子にあんな生き方をさせるつもりですか、あなたは」
カルナ「む……そうではないが。なるべく言葉が足りない事のないように語ったつもりだ」
めぐみん「十分過ぎますから……まったく」
この男に妹を任せるのは少し危ないのではないだろうか、とめぐみんは思う。
身の安全という意味ではこの上ないが、情操教育の面で見ると不安である。
こめっこ「もぐもぐ」
そんな二人のやり取りをよそに、こめっこは口一杯にみかんを頬張る。
二人が話している間にそこら辺を歩いていた青年にねだった物であり、魔性の妹っぷりを短い間に存分に発揮していた。
カルナ「大したものだ。将来はクンティーのようになるかもな」
めぐみん「ちょ、それは」
カルナの生みの親の名前にて、カルナを捨てた張本人。
カルナの口振りからするとそこまで悪人ではないようだが、割と悪女っぽい人。
さすがに妹がそんな人物になるのは――
カルナ「まあ冗談だが。どうだ?」
めぐみん「……笑えな過ぎです。ジョークの才能もないですね」
カルナ「…………そうか」
こめっこ「もぐもぐ」
紅魔族随一の魔性の妹――その二つ名に恥じぬ甘やかされっぷりであるが、魔法の才能も大したものである。
カルナというある程度魔法に詳しければ一目見て高位であると分かる存在を、召喚して使役している。
……まぁ、使役というよりはカルナが付き合ってやっている感が強いが。
そんなこんなで、めぐみんとしては妹がヘンな方向に成長しては困るのである。
タダでさえ好奇心旺盛なのに、手がつけられなくなってしまう。
カルナ「これはオレの前のマスターが使っていた挨拶でな。へいよーかるでら――」
めぐみん「言ってるそばから変なこと教えるな!」
――で。
こめっこ「すー……zzz……すー……zzz……」
めぐみん「この子ったら……夜寝れなくなっちゃうのに」
カルナ「子供とはそういうものだ」
里の中を駆け回り、日も暮れた頃になるとすっかり疲れて果てて眠るこめっこ。
ヨダレを垂らしながら無防備な寝顔を晒すマスターを抱き抱えるカルナ。
そんな二人に、苦笑するめぐみん。
カルナの格好を除けば、兄妹のように見えなくもない。
そんな光景だった。
カルナ「しかし……幼い身でありながら、サーヴァントの依り代となれるとはな。確かに、大した才能だ」
めぐみん「えぇ……まぁ、何だかんだ言って将来が楽しみなところですね」
ま、爆裂魔法においては一生私に敵うことはないでしょうが。
そう付け加えて、めぐみんは薄い胸を張った。
カルナ「そうだな。もとよりお前はオンリーワン寄りのアークウィザード。爆裂道は狭過ぎる道だ」
めぐみん「……素直に褒められてる気がしないのですが」
カルナ「威力は高いが、高過ぎて使い道が限定的過ぎる。放てば敵は消えるが魔力も失う一撃必殺魔法――それに人生を捧げるのは、後にも先にもお前ぐらいのものだろうよ」
めぐみん「ええ分かりました。つまり我が爆裂魔法をその身に受けたいと――」
カルナ「……だが。その姿は一途だな。理解はできんが、その姿勢こそを尊いとオレは思うぞ」
めぐみん「……」
めぐみん「……あ、ありがとうございます」
一言多いようで――遅れたように、良い感じの一言を付け加えてくる男。
怒るべきなのか照れるべきなのか何とも言いがたく、めぐみんは帽子を深く被った。
めぐみん「……まぁ、とにかく。こめっこのことは頼みましたよ?」
カルナ「任せておけ。必要とされる限りは彼女の傷はオレが受け持つ。我が槍は爆裂魔法すら斬り払うぞ」
めぐみん「あ、言いましたね!」
こめっこ「zzz……ぜつめつとは……これこのひとさしー……zzz……」
【スキル】
貧者の見識:A
相手の性格・属性を見抜く眼力。
言葉による弁明、欺瞞に騙されない。
天涯孤独の身から弱きものの生と価値を問う機会に恵まれたカルナが持つ、相手の本質を掴む力を表す。
突き抜けた中二っぷり(厨ニに非ず)の紅魔族との相性は意外と悪くない。
彼らの性質は生まれついてのものであり、今更他人にズバズバ言われたところで微塵も気にすることはないのである。
……が、ぶっころりー達『自称魔王軍襲撃部隊』からは少し煙たがられている。
「優れた能力を持ちながら、職に就こうとしない。持て余した魔力と暇をこういう風に使うのは、後にも先にもお前達くらいだろうな」
「だが、その行いに救われている者もいるだろう。無様ではあるが無為ではない……お前達にとっても、他人にとっても」
「……そうだな。案外、お前達のようなものこそ英雄と呼べるのかもしれん」
間の悪いことに、後半の感想は伝えられていない。
【こめっこ】
紅魔族随一の魔性の妹。
目指すは目からブラフマーストラ。
色んな意味で将来は大物になる。
【めぐみん】
こめっこの姉。
レッツ爆裂一発芸。
【魔王軍襲撃部隊】
ぶっころりーを始めとするニート四人組。
カルナを苦手としているもののビジュアル系の外見には心惹かれまくりである。
今日はここまで
父親は偉大なる太陽神。
だが、生前にその顔を知ることはなく。
母親は王の妃。
だが、幼い彼に愛情を注ぐことはなく。
――オレは、恵まれている。
優れた武芸の腕前は、全力で振るう機会に恵まれず。
他者へ差し伸べた手に、見返りはない。
――他人より、多くのものを戴いてをもって産まれてきた。
その生涯は、決して恵まれたものではない。
親の愛情を知らず、それでも太陽神の威光を受け継いだカルナは、その事実を誇りにして生きて行く。
――ならば、他人より優れたものを残さねば。彼らが報われない。
己の境遇を一度たりとも恨むことはなく――施しの英雄として。
鶏が鳴く前にこめっこは目を覚ました。
丸い目をパチパチさせて、何となしにボーッと宙を見つめる。
……何だか、不思議な夢を見たような。
こめっこ「……」
こてん、と首を傾げて。
くぅ、とヘソのあたりから音が聞こえて。
こめっこ「……おなかすいた……」
彼女は、さっきまで見ていた夢の内容を彼方へ押しやった。
曖昧な夢より、確かな空腹の方が優先すべし。
宝具。ノーブル・ファンタズム。
英霊――サーヴァントの切り札。
アーサー王ならエクスカリバー、ヘラクレスなら武勇譚。
その英雄を象徴するモノであり、生前から持っていたものもあれば逸話がカタチになったものもある。
当然ながらカルナも保有しており――その数は三つ。
神槍と黄金の鎧、そして弓術の奥義。
そのどれもが超級にして、国を傾ける価値を持つ。
深い知識がなくとも、魔術的な素質があればその価値は一目見ただけで理解できる――の、だが。
ゆんゆん「……あ、あの……」
カルナ「なんだ?」
ゆんゆん「なにを、してるんですか?」
カルナ「鳥の丸焼きだが」
ゆんゆん「……」
カルナ「……」
ゆんゆん「……あの」
カルナ「なんだ?」
ゆんゆん「見間違えでなければ、そのお肉を串刺しにしてるのは」
カルナ「オレの槍だな。ちょうど良いから使えと言われた」
ゆんゆん「……」
カルナ「……」
ゆんゆん「……いいんですか、それ」
カルナ「衛生的な問題は無いはずだが」
ゆんゆん「そういうことじゃなくて……もう」
厳かな、神性すら感じさせる槍。
それが今や、肉を焼くのに使われている。
女神が見たら卒倒するような光景だ。
ゆんゆんはこめかみの辺りに手を当てて、溜息を吐いた。
ゆんゆん「まず、この鶏肉はどこで? 大分立派で、大きいような」
カルナ「夜のうちに森で狩って来た。こめっこが寝ている間にな」
ゆんゆん「狩り……? って、この鳥もしかして」
カルナ「ああ。バジリスク――と、肉屋は呼んでいたな」
ゆんゆん「バ、バジリスク……!?」
バジリスク。
鶏の身体に、蛇の尾を持つ魔物。
鋭い爪には毒があり、視たものを縛り付ける邪視の能力を持つ危険な魔物だ。
ゆんゆん「なんでまた、急に……」
カルナ「『大きなお肉を食べたい』と、我が主の希望でな」
ゆんゆん「そんなお使いに行くようなノリで、ですか」
カルナ「……彼女は子どもらしく強欲だ。ならば、その腹を満たすにはこの程度のサイズは必要だろう」
ゆんゆん「……」
こめっこ「あー!」
食欲に釣られてか、家から出て来たこめっこが大声をあげる。
輝く瞳の向く先は、勿論バジリスクの丸焼き。
こめっこ「大きな、お肉!」
カルナ「もう少し待て。今はまだ食えん」
こめっこ「うん!」
ほっとけば自分から火の中に飛び込んで肉に被りつきそうなこめっこを、カルナは手で制止する。
幼い妹を見守る兄のような――そんな光景を側で見ながら、ゆんゆんはポカンと開いた口が塞がらなかった。
間違いなく、カルナは規格外の存在だ。
武具も武芸も、最高ランク。
魔王すら単独で倒せるのではないか――そんな感想さえ抱く。
その力を、お使いに行くようなノリで行使するカルナと。
その価値を、まったく理解していないであろうこめっこ。
あまりにも勿体ないような――でも当人たちは納得してるわけだし――と、ゆんゆんは一人葛藤する。
当然ながら、答えなど出る筈もなく。
カルナ「そろそろ充分か。ゆんゆん、お前も食べるか?」
ゆんゆん「あ、ハイ」
とりあえずは食欲に従って、差し出された皿を受け取った。
【おまけ】
「我が名はねりまき! 紅魔族随一の酒屋の娘にして、居酒屋の女将を目指すもの!」
「我が名はそけっと! 紅魔族随一の……えっと……」
「我が名はちぇけら! 紅魔族随一の服屋の店主! やがてはこの里のファッションリーダーとなる予定の者……!」
「我が名はぶっころりー。紅魔族随一の靴屋のせがれ。やがては紅魔族の靴屋となる者……!」
カルナ「その名乗りに、意味はあるのか?」
「……」
「……」
「……」
「……」
カルナ「だが、郷には従おう……我が名はカルナ。此度はランサーのサーヴァントとして現界し、マスターを守護する者だ」
「「「「おおおおーっ!」」」」
「素晴らしい! やっぱり見た目通りだこの人!」
「中々やるようね!」
「うん、うん!」
「いやあ、気持ちがいいなぁ!」
大はしゃぎする彼らを、カルナは平たい目で見つめる。
名乗りを上げただけでここまで喜ばれる理由がわからないが、まぁ彼らが良いならそれで良いのだろう。
「……ふぅ、それじゃあまたね」
「御機嫌よう! ランサーのサーヴァント!」
一通りはしゃいだ後、彼らはローブを翻し姿を消した。
この場にはカルナのみが残され、端から見れば紅魔族のグループが瞬間移動したように見えるだろう。
カルナ「なるほど。大した魔術の腕前だな」
……が。
カルナ「しかし、今ここで姿を消す魔術を使う意味はあったのか?」
「「「「っ!?」」」」
テレポートは消費魔力の大きな魔法。
自己紹介の後でホイホイと唱えるような者ではない。
つまり、彼らは瞬間移動などしていない。
見栄のために、光魔法で姿を消しただけだ。
「……」
「……」
そして、相手は神の子にして大英雄。
姿を隠す程度で、彼の目を誤魔化すなぞ到底不可能な話である。
「……」
「……」
カルナは口を開かず、ただじっと彼らのいる場所を見つめている。
紅魔族たちは、気まずさから何となく動けない。
結果として、互いに動かず――紅魔族の彼らにとって、ただ気まずい空間が形成されたのであった。
【宝具】
日輪よ、死に従え(ヴァサヴィ・シャクティ)
ランク:EX 種別:対神宝具
インドラより授かりし神槍。
己の肉身であった黄金の鎧の対価として受け渡された。
ひとたび真名を解放すれば、前に立つもの全てを焼き尽くす――が、今のところ出番はない。
バジリスクの丸焼きは結構美味しい。
日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)
ランク:A 種別:対人宝具
カルナが太陽神の息子である証。
肉体と一体化している黄金の鎧。
光そのものが形となり、常にカルナを守護している。
「売り飛ばせば、かなりの額になるのでは……」とひょいざぶろーは期待したが、残念ながら脱ぐ事は難しいため断念した。
今回はここまで
次回は多分キャスター編
サトウ・カズマ。16歳。
ある女の子を危機から救うべく、自らを犠牲にした少年。
そして死後の世界にて、魔王に脅かされるこの世界を救って欲しいと女神アクアの祈りを受け――
カズマ「っくしゅっ!」
――馬小屋にて、寝泊まりをしていた。
せっせこせっせこ、汗水垂らして働き。
労働の対価として賃金を得て。
貧しいながらも健康的で、充実的な日々。
カズマ「――おかしい、絶対に」
己が夢見た異世界とは。
ファンタジィなアレコレとは。
夜更かしして読んだなろう小説とは。
カズマ「こんなハズ、じゃ――」
アクア「なにブツブツいってんのよ、さっさと行くわよ」
――そうだ。
全ては、この駄女神のせいではないか。
何故、自分はこの駄女神を特典として選んでしまったのか。
アクア「もしもし? カズマー? カーズーマーさーんー?」
カズマ「アクア」
アクア「なによ」
カズマ「チェンジで」
アクア「はぁ!?」
アクア「なんなブツブツいってたら、いきなりなんなのよ!?」
カズマ「ぶっちゃけお前ホントにさ……女神なの?」
アクア「女神ですけど! どうしようもないクソニートを連れて来てあげた、正真正銘女神アクア様ですけどー!?」
カズマ「じゃあせめて、クーリングオフ的なアレを頼む」
アクア「さっきからなんなのよ、意味わかんないから!」
カズマ「いやだってお前、全然役に立たねえし女神っぽさがその……うん」
アクア「はああぁあああーっ!?」
――後に、カズマは語る。
カズマ「ならよー。女神っぽく何か出してくれよ。天使的なの。それで俺を楽させてくれ」
アクア「言うじゃない、この……!」
――あの時の俺は、疲れていた。
カズマ「なんだよ、どうせできないだろ?」
アクア「……いいわよ。やってやろうじゃない」
――もし。過去に戻れるなら。
アクア「出せばいいんでしょ、出してやるわよ天使くらい!!」
――俺は、あの時の俺を、全力で止める。
アクアが杖を振り翳し、真剣な表情で詠唱を始める。
同時に、杖先から迸る青白い光によって、宙に方陣が描かれていく。
濃密な魔力の気配。
空間が静寂に包まれ、アクアの詠唱のみが耳に入る。
魔術の素人であるカズマにも、なんとなくスゴイ事が起きていることは理解出来た。
カズマ(ここが馬小屋じゃなきゃ、なぁ……)
次第に、青白い光はその強さを増して行き――
アクア「呼んでやるわよ、『天使』をっ!!」
アクア「セイクリッド・サモン・サーヴァント――!!」
――馬小屋が、輝きに包まれた。
眩い輝きに、思わず目を手で覆うカズマ。
軽口からトンデモないことになったな――と、思いつつ。
『向こう側』から『何か』が来ているのを感じ取り、鳥肌が立つのを抑えきれなかった。
???「おや……ここは……」
カズマ「お……?」
アクア「あれ……?」
やがて、光が収まったころ。
アクアによって召喚された『彼女』が、辺りを見渡すと口を開く。
???「……なるほど。この環境は、劣悪ですね」
カズマ「おい、アクア。この人が天使……なんだよな?」
アクア「えっと、えーっと……なんかそれっぽいの呼んだつもりなんだけど――」
???「あなたが、私を呼んだのね」
カズマ「は、はい!」
二人の会話に、彼女が割り込む。
強い意志を感じさせる口調に、思わずカズマの背が伸びた。
???「そう。なら、安心なさい」
???「私が来たからには――このような衛生状況など、絶対に許しません」
赤い軍服と、束ねられた長い髪。
美しく整った顔立ちをしているが、意志の強そうな――つまり聞く耳持たなそうな眼差し。
どことなく嫌な予感がして、カズマは彼女に声をかける。
カズマ「あ、あのー。アンタは――」
一体、なんなのか?
そんな曖昧な問いかけに、彼女は自らの名前を名乗った。
カズマは、まだ知らない。
ナイチンゲール「ナイチンゲール。フローレンス・ナイチンゲール」
ナイチンゲール「あなたたちの召喚に応じた――」
これが、さらなる苦難の始まりであることを。
ナイチンゲール「バーサーカーの、サーヴァントです」
キャスター編と言ったな……すまん、ありゃウソだった
ちなみにブリュンヒルデときよひーとナイチンゲールで迷いました
遅くてすまない……多分もう少しで書ける……
こめっこ「真のえいゆーは、めで……!」
くわっと目を見開き、気合を入れてポーズを取る。
……が、見よう見まねで弓術の奥義が具現化できるワケがない。
目からビームは出ず、変わりに小さなお腹がくぅくぅと鳴った。
こめっこ「でない……」
カルナ「……こめっこよ」
近くで腕を組んで見守っていたカルナが口を開く。
幼いマスターに彼がかける言葉は――
カルナ「今は時間の無駄だな。やめておけ」
こめっこ「え……」
ゆんゆん「えっと……」
子どもの夢をぶち壊すような発言。
そしてそれ以上の言葉はなく、微妙な空気が流れる二人の間にゆんゆんが割って入る。
ゆんゆん「お昼ご飯が出来たから、冷める前に食べようってことですか?」
カルナ「ああ」
こめっこ「ごはん!」
花より団子、ブラフマーよりお昼ごはん。
ゆんゆんの言葉に今までの事をあっさりと放り投げ、こめっこは自宅へと駆け出した。
めぐみん「……」
その様子を物陰で見ていた少女が一人。
考えるように顎に手を添えて、ポツリと呟く。
めぐみん「……コミュ障同士、伝わり合うものがあるのでしょうか……」
その言葉は、わりと真実であった。
短くて申し訳ないが今はこれだけで
次は土曜日か金曜日あたりにバーサーカー編かキャスター編で
ナイチンゲール「殺菌!」
白い手袋をはめた指がジャイアントトードの舌を引っこ抜く!
ナイチンゲール「清潔!」
放たれた弾丸がジャイアントトードの目を撃ち抜く!
ナイチンゲール「消毒!」
軍靴のサマーソルトキックがジャイアントトードの脳天を砕く!
……と、まさに無双と呼べる活躍を眺めながらカズマは思う。
カズマ「……治療ってなんだっけ……」
――フローレンス・ナイチンゲール。
クリミアの天使と呼ばれた看護婦。
現代日本においては一般教養レベルで知れ渡った名前であり、引きニートでも覚えがある。
何をしたかは知らずとも、何かスゴイ事した偉い看護婦さん――とまぁ、カズマもそんな認識である。
「女神の使役する天使」や「剣と魔法のファンタジー」とは懸け離れた存在であるようにも思えた。
が。
カズマ「……昔の人ってスゴイなー……」
現実逃避気味にカズマは呟く。
筋力:B+ 耐久:A+ 敏捷:B+ 魔力:D+ 幸運:A+
白衣の天使は思ったより肉体派だった。
カズマが彼女に勝るものは幸運くらいで、他のステータスは完敗。
異世界転生とは。チートとは。
アクア「ふあぁ……」
何となく溜息を吐いたカズマの隣で、ナイチンゲールの召喚者であるアクアは呑気に欠伸をしていた。
カズマ「なぁ」
アクア「んー、なにー?」
目尻に浮かべた涙を擦って払うアクアの姿はとても女神とは呼べない。
そんな失礼な考えを浮かべながら、カズマは問いかける。
カズマ「この世界って俺の他にも日本から来た奴がいるんだよな?」
アクア「ええ、そうよ。この辺にはいないみたいだけど」
カズマ「そいつらってみんなあの人くらい強いのか……あの人に勝てそうか?」
カズマが指差す先は勿論ナイチンゲール。
魔物の群れをバッタバッタと薙ぎ倒す姿はまさに英雄。
相手がカエルでなければもっと様になるのだが。
アクア「んー……」
カズマ「……」
アクア「……無理じゃないかしら」
カズマ「……だよなぁ」
ナイチンゲールが倒れる姿……誰かに負けるというのが、どうにも想像できなかった。
……とまぁ、呑気していた二人は失念していた。
アクアが召喚したナイチンゲールは確かに強い、強いが。
「ゲコッ」
カズマ「あっ」
アクア「え」
二人が強くなった訳ではなく。
気を抜けば、わりとあっさりと――
ドブ川を薄めたような色の粘液塗れの女。
果たしてそれが、女神様だと気づくヤツはいるのだろうか。
この世のどこに、巨大カエルに食われかける女神がいるのだろうか。
しかも、わりと生臭い。
カズマ「えんがちょ」
アクア「あ、ああああんたねぇっ!!」
死すら覆す女神に対して恐れもへったくれもない対応である。
鼻をつまみ、眉根を寄せて、しっしと手を振る。
あんまりにあんまりな対応に、アクアも思わず涙目である。
ナイチンゲール「消毒完了。ただいま戻り……ん?」
害獣駆除を終えた看護婦は、アクアの姿を見るなり動きを止めた。
じっと冷静(のように見える)にアクアを観察する彼女に小首を傾げながら、カズマは小さく頷いた。
カズマ「おー、お疲れさん。とりあえず帰ろうぜ」
アクア「そうね。はやく戻ってお風呂に……」
ナイチンゲール「……帰る」
カズマ「はい?」
ナイチンゲール「帰る、と言いましたか。今」
アクア「なに? クエストはこれで達成したでしょ? はやく町に戻って――」
バキュンッ、とアクアの足元が銃弾で抉られる。
突然の事態にフリーズするカズマとアクア。
唯一、銃を構えるナイチンゲールだけが変わらぬ調子で口を開いた。
ナイチンゲール「お待ちなさい。一歩でも動いたら撃ちます」
アクア「……撃ってから! 撃ってから言われたんですけど今っ!?」
ナイチンゲール「動きそうでした」
ナイチンゲール「とにかく。その大量の雑菌を町に持ち帰るなど論外です」
ナイチンゲール「不衛生など以ての外……疫病は根絶させなければ」
あわあわと慌てるばかりのアクア。
ゆっくりと、しかし力強い歩みでアクアへ近寄るナイチンゲール。
その瞳には、害獣のジャイアントトードだろうと女神だろうと等価値に映る。
雑菌のかたまり、疫病の温床――即ち、殺菌対象である。
――こいつ、ヤベェ。
この時、カズマとアクアの心は1つだった。
アクア「わ、わかったから! キレイにすればいいんでしょっ!?」
ナイチンゲール「ええ。今から処置を行います。動かないように」
アクア「洗うから! 洗い流すから!」
ナイチンゲール「素人の処置は危険です。黙って任せなさい」
聞く耳持たない天使を前に、テンパるアクアがロッドを構える。
仮にも水の女神のアクア。不浄を清める魔法くらいは使えても不思議ではない――が。
カズマ「お、おい。ちょっと待――」
アクア「セイクリッド・クリエイト・ウォーター!」
嫌な予感がしたカズマの言葉は、アクアが創り出した激流によって流された。
空中に展開された魔法陣から、大量の水が降り注ぐ。
局地的な洪水レベルのそれは、3人を容赦なく飲み込んだ。
カズマ「……お前なぁ……」
アクア「……だって。だってぇ……」
ぜいぜいと肩で息をするカズマと涙目のアクア。
変わらぬ様子で立つナイチンゲール。
全員、余すところなくびしょ濡れだ。
アクア「……で、でも。これで!」
文句ないでしょっ!?
そう言いたげに顔を上げたアクアは――自分に銃口を向けるナイチンゲールと、目があった。
ナイチンゲール「消毒開始」
アクア「へ」
冷静な一言と共に放たれた弾丸は、アクア――の背後にいたカエルの脳天を撃ち抜いた。
ボコボコと周囲の地面が盛り上がり、カエルたちが姿を表す。
クエストで指定された数のジャイアントトードは駆除した筈だが――どうやら、アクアの魔法のせいで眠っていたカエルたちが目を覚ましたようである。
「ゲコ」
「ゲコ」
「ゲコ」
野太い合唱を歌いながら迫りくるカエルたち。
駆除に走るナイチンゲール。
テンパって泣くアクア。
ままならぬ現状に、短剣を握りしめるカズマは、
カズマ「……チェンジでっ!!」
頭を抱えて、叫んだ。
【クラス】バーサーカー
【マスター】 アクア
【真名】ナイチンゲール
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力B+ 耐久A+ 敏捷B+ 魔力D+ 幸運A+ 宝具D
【スキル】
狂化:EX
バーサーカーのクラススキル。理性を失う代わりにステータスをアップする。
ランクが高ければ高いほどステータスが上がり理性を失うが――彼女の狂化ランクは分類・測定不能のEXランク。
考える知能を持ち、会話が可能であり、理性があるように感じられるが――絶対に意思を曲げない。
身も蓋もない言い方をすると聞く耳持たない人。
【装備】
拳銃。
彼女が生きていた時代の量産品。
神秘を持たないが、彼女の早撃ちによって強力な武器となる。
銃を構えて狙いを付けて撃つのが早いのではない。
引き金を引くと決めるまでが誰よりも早いのである。
【鋼鉄の看護婦】
ヒキニートのカズマも知ってる偉い人。
殺してでも 治療する。
今回はここまででー
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続き期待