ウルトラマンXP (527)


・ウルトラマンX×アイドルマスターシンデレラガールズのSSです。

・初っ端からエックスがキャラ崩壊を起こしてます。ご注意ください。

・主な登場アイドル↓

島村卯月(17) 遊佐こずえ(11) 水本ゆかり(15)

渋谷凛(15)   脇山珠美(16)  新田美波(19)
本田未央(15) 星輝子(15)    堀裕子(16)

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第一話 『プロデュースX』


―――オペレーションベースX

 Xioの基地、オペレーションベースXの夜。
 ベッドに横になってうつらうつらしていた大地はエックスの鼻唄を耳にして身体を起こした。

エックス『~~♪』

大地「どうしたんだエックス?」

エックス『だ、大地起きてたのか!?』

大地「ああ……何、どうした?」

 そう言ってデバイスに手を伸ばしたが、

エックス『よ、よせ! 見るんじゃない!』

大地「は?」

 あまりにも必死なエックスの声に不審を覚えながら、大地はデバイスを取り上げた。

大地「……これは」

エックス『い、いや……これは』

 画面に表示されていたのは――


大地「『アイドルマスターシンデレラガールズ』……?」

 二次元美少女が所狭しと並んでいる絵だった。

大地「何だこれ、ゲーム?」

エックス『……はい』

大地「そういう趣味あったのかエックス」

エックス『い、いや、これは、地球人のことをもっと深く理解しようとした結果であり……』

大地「それで、地球人の作ったゲームをプレイしてたわけか」

エックス『……はい』

大地「ふーーーん……」

 流石に無理があったかとエックスが冷や汗ものの気分になっていると、

大地「エックス、そこまで地球人のことを……」

エックス『ん?』

大地「そうだよな。こういう形で相手を知ることもできる。そして相手を知ることで相互理解に繋がる」

エックス『あ、ああ……』


大地「ありがとうエックス。俺も怪獣のことをもっと別の切り口から見ることが必要なのかもしれない。そう気付かされたよ」

エックス『はい……』

大地「? さっきから思ってたんだけど、何で敬語?」

エックス『い、いや! 何でもないぞ! そう、こういうゲームには地球人の価値観が如実に表れていて実に興味深い!』

大地「そうか。あ、でも課金はしないでくれよ」

エックス『も、もちろん。君のお金を無断で使うことはしない』

大地「ならいいや。まぁ、あんまりのめり込み過ぎないようにね」

エックス『ああ』

大地「おやすみ~」

エックス『うむ。おやすみ』

 大地はデバイスをデスクに戻して、再びベッドに寝転がった。


エックス(ふう……こういう話の大地が天然なのが幸運だったな)

 エックスが言ったのは嘘ではない。確かに最初はそういう動機でゲームを始めた。
 しかしながら最近の主目的は変わってしまっており……。

卯月『プロデューサーさんも、手を繋ぎましょう♪ほら♪』

ゆかり『エックスさん…いつもそばにいてくれて…ありがとう…』

珠美『後ろにエックス殿がいるから、珠美は朗らかなのです!』

エックス(ふふふ)

 エックスは完全にアイドルにハマってしまっていたのである。


 しかもタチが悪いことに――

エックス(よしっ! 今日もサーバーに直接潜るぞ!)

 自身がデータ化されていることをいいことに、公式サーバーに直接潜って色々不正行為を働いたりもしていたのである。
 今夜もまた回線に入り、ネットの海をエックスは泳いでいく。そして目的地が見えてきたところで――

エックス(ん? 何だあの光は?)

 その辺りに妙な光が浮かんでいるのが見えた。しかもそれがどんどんこちらに近づいてきている。
 慌てて躱そうとしたが、光の塊はエックスを優に呑み込めるほど巨大だった。

エックス「う、うわあああああああああ!!!」

 エックスは逃げきれず、その光に捕らわれ――






















エックス(…………)

エックス(……はっ。ここは……?)

 気付くと、目の前に青空が広がっていた。

エックス(…………)

エックス『だ、大地ー?』

 しかし返答がない。空の他に店や街灯があり屋外にしか見えないが、いつの間に移動したのだろう。
 もしかして作戦中なのだろうか。だが大地が答えてくれないし、しかも置きっぱなしにされているようだ。

 更に不審な点は――

エックス(ここ……『アスファルトの上』だよな……)

 デバイスに伝わる温度と感触は間違いなく熱されたアスファルトのもの。
 つまり地面の上にほっぽりだされているのだ。もしかして不注意で道に落としてしまったのだろうか。


エックス『だ、大地ー! 近くにいないのかー?』

 しかし返事がない。まずいのは、この状態のエックスには何もできないことだ。
 ザイゴーグ戦のあと実体を取り戻したエックスだが、自分をデータ化すると再び変身しなければそれを維持できない。
 つまり自力で実体化ができないため、まさに手も足も出せない状況に置かれているのだ。

エックス『こ、これはまずいぞ。――いや、そうだ! 通信を送ればいいのか』

 デバイスの機能なら自分の意思で使うことができる。
 勇み込んでアスナのデバイスに通信を送ったエックスだったが――

エックス『……?』

 しかし中々繋がらない。神木隊長、橘副隊長と、別のデバイスに送っても駄目だった。

エックス『これはどういう……?』

 と、その時。


「あれ、これ何でしょう?」

 女の子の声が聞こえて、

「スマホ……にしては大きすぎだよね」

 続けて落ち着いた感じの、これまた少女の声が。

「落とし物かなー?」

 三人目の声がすると、デバイスが持ち上げられた。

エックス『助かった! 君たち、Xioの大空大地隊員に連絡を――』

 と言い掛けたところでエックスは固まった。
 なぜなら、デバイスの画面を覗き込んでいた三人の顔に見覚えがあったからだ。

 それは――


卯月「しゃ、しゃ、喋りましたよ!?」

凛「通話中だったんでしょ」

未央「というか、この声……」

 三人が顔を見合わせて、もう一度画面を覗き込む。
 間違いなく、アイドルマスターシンデレラガールズの登場人物、島村卯月・渋谷凛・本田未央の三人だった。

エックス『君たち……ニュージェネレーションズの……』

卯月「こ、声だけでわかっちゃいますか!?」

エックス『ち、違うんだ! 今私はこのデバイスの中にいて……』

凛「? でも、この声……」


未央「もしかして、プロデューサー……?」

卯月「えっ……? あっ、確かに言われてみれば……」

エックス『これは通話状態じゃない! 私の名はウルトラマンエックス、このデバイスの中にいるんだ』

凛「…………」

エックス『本当なんだ! 信じてくれ!』

卯月「プ、プロデューサーさん、この機械の中に閉じ込められちゃったってことですか?」

エックス『閉じ込められたというか自分から入ったというか……』

未央「これは……これは事件だ!!!」


―――事務所

未央「……ということで、プロデューサーがこんなのになっちゃいました」

 事務所にいるアイドルたちが一部除き揃って目を丸くしている。

エックス(ここにいるアイドルたち……私の所持カードのアイドルたちか……)

珠美「あ、あのー……珠美には状況がうまく呑み込めないのですが……」

美波「プロデューサーさんの悪ふざけとかじゃなくて……?」

 クールアイドルの脇山珠美と新田美波。

こずえ「でもぉー……ぷろでゅーさーのかお……ぴかぴかひかってるよぉ……?」

ゆかり「もしかして電池切れ……? バッテリーは大丈夫ですか? プロデューサー」

 キュートアイドルの遊佐こずえと水本ゆかり。


裕子「これは何者かの陰謀に巻き込まれたのでは……!? 私のサイキックパワーで何とかするしか!」

輝子「ヒャァーーハハハハハ!!! わけわかんねえぜえええええ!!!」

 パッションアイドルの堀裕子と星輝子。
 それにニュージェネレーションズの三人を加えた九人がエックスの部署に所属するアイドルだった。

凛「正直私はまだ手の込んだ悪戯だと思ってるんだけど」

美波「常識的に考えればねえ……」

エックス『気持ちは痛い程わかるが、これは嘘じゃない。私は今、このデバイスの中にいるんだ』

珠美「どうすれば出られるのでしょう?」

エックス『方法はあるんだが……』

 しかし、アスナたちと通信が繋がらなかったところを見ると、大地がこの世界にいない可能性は高い。
 ある程度周波数が合う人間でないとユナイトはできない。このままでは実体化はおろか変身すらできない。


エックス『だが、しかし……』

 そう、しかしそれより更に重大な問題があるのだ。
 一番の問題は「自分が何故シンデレラガールズの世界にいるのか」ということ。
 帰り方もわからないのでは、実体化しても意味がない。

エックス(あのとき見た光の塊……あれが私をここに導いたのか……?)

 気掛かりな点は多かったが、しかし――

エックス『…………』

裕子「むむんっ? どうしましたかプロデューサー?」

エックス『いや……』

ゆかり・輝子「「?」」

 皆の顔を見回す。ゲームの中にしかいなかったアイドルたちが今こうして目の前にいる。

エックス『みんな……可愛いなって……』


未央「なーに今更なこと言ってんの!」バシバシ

エックス『やめろ叩くな! 精密機械なんだから!!』

美波「それはともかく……お仕事は大丈夫なんですか?」

凛「それについては、ちひろさんに話は通してあって……」

 壁際で静観していた事務員の千川ちひろに目をやる。

ちひろ「はい。資料を全てデータ化してデバイスに送れば、何とかやれるそうです」

美波「じゃあ、一応は大丈夫ですね」

ちひろ「まぁ……一応は」

 そう言って向けてくる視線が痛い。余計な手間が増えるのだから当然だが……。

エックス(しかしこの反応を見るに、これまでは人間大の私がプロデューサー業をしていたということなのだろうか……謎だ)

 何はともあれ、こうしてアイドルとデバイスに入ったプロデューサーという奇妙な関係が始まったのだった。


―――三時間後

 ある野外ステージ。その上で歌うニュージェネレーションズの姿があった。

卯月「あーたらしいっ!」

凛「せーかいへとっ!」

未央「カーットインして~!」

三人「みーらいデビューだよ! よ・ろ・し・くっ! はぁいっ!」

 曲が終わると同時に会場が歓声に包まれる。
 汗を浮かべながらも三人は笑顔で客席向けて手を振った。

卯月「ありがとうございますー!」

凛「ありがとう!」

未央「ありがとー! また会おうねー!」

 ・
 ・
 ・


 会場を辞した未央たちは会場付近の公園に向かった。
 立ち並んでいる木々の中の一本。その枝にてるてる坊主のようにデバイスが吊るされていた。

卯月「プロデューサーさん、大丈夫ですか?」

エックス『少々鳥に突っ突かれはしたが……大丈夫だ。それにしても、いいステージだったぞ』

凛「ここから見えたの……?」

エックス『ウルトラマンの超視力を舐めてもらったら困るな』フフン

凛「何で得意気なの……」

未央「エスパーユッコ風に言うと、サイキック超視力?」ムムムン!

凛「こんなのに閉じ込められてなければ普通に近くで見れたのに。ま、いいや。帰ろ」

卯月「はいっ」

 ・
 ・
 ・


 三人は事務所に戻るため、夕暮れの街中、徒歩で駅に向かっていた。

未央「プロデューサーが万全なら車で戻れたのになー」

エックス『す、すまない……。というか、私は車に乗っていたのか……?』

凛「何言ってんの……。いっつも私たちを送り迎えしてくれたじゃん」

エックス(うーむ)

 ライブまでの時間、事務所で情報を収集した結果、エックスが宇宙人ということは周知の事実であることがわかった。
 しかもウルトラマンの外見のまま人間大になって仕事をしていたという。

エックス『君たちは私が宇宙人ということに抵抗はないのか?』

未央「どうしたの急に」

エックス『い、いや。何となく……』


凛「うーん。最初に会ったときはやっぱり驚いたけど」

卯月「私は自分がアイドルになれる喜びの方が大きかったです」

未央「私も驚きはしたけどまぁそういうのもありかなって思ったなぁ。こういう時代だしね」

エックス(どういう時代なんだ……いや、グルマン博士のような友好的な宇宙人がたくさんいるのか……?)

卯月「同じ事務所にウサミン星人もいますしね!」

凛「それはちょっと違う気が……」

エックス『あと聞きたいことがあるんだが、この世界には私の他にウルトラマンはいるのか?』

未央「それは聞いたことないなぁ。プロデューサーだけかな」

凛「私も聞いたことない」

卯月「私もです」

エックス『そうか……いや、一般的には知られてないだけで宇宙にはいるのかもしれないが……』


凛「そもそもウルトラマンって何なの? 普通の宇宙人にしか見えないんだけど」

エックス(巨大化した私の姿を見たことがないということか……?)

未央「デバイスに閉じ込められちゃうドジっ子だし、『ウルトラ』って感じしないよね」

エックス『うっ……これには色々事情があって……』

卯月「心当たりがあるんですか? ならそれをどうにかすれば!」

凛「そういえばさっき、元に戻る方法はあるって言ってたよね。できることなら協力するよ?」

未央「うんうん」

エックス『だが……』

未央「もう! 私たちとプロデューサーの仲じゃん! 遠慮しないでって!」

 未央の言葉に卯月と凛も笑顔で頷いている。

エックス『未央……卯月……凛……』

 エックスが自分の素性を明かそうとした、その時だった。


「ピギャァアアアアォォン!!!」

 頭上から甲高い叫び声が響いてきた。

卯月「えっ……」

未央「何!?」

 三人が揃って空を見上げる。
 日が暮れてきて黄昏色に染まった空に、黒い影が浮かんでいるのが見えた。

凛「あれ……何?」

エックス『まさか……!』

 黒い影はみるみるうちに大きくなっていく。
 数分も経たないうちにその大まかな姿が見て取れるようになった。


 岩石のようにごつごつとして刺々しい姿。
 尖った頭部にはオレンジ色の目が点々と並んでおり、背中には巻貝のような突起が四本突き出ている。

「ピギャァァァアアアアン!!!」

 叫び声は明らかにその影のものだった。呆然と眺めている間にも巨大化していく。
 そしてとうとう、黄昏の街に降り立った。静まり返った街の空気が地響きで震撼する。――そして。

「――きゃあああああああっ!!!」

 誰が発したのかわからない甲高い悲鳴。しかしそれによって皆が我に返ったように、

「うわあああああああーーー!!!」

「逃げろおおおおおおおお!!!」

 巣穴を壊された蟻のように逃げ出し始めた。


凛「な、何……? 何なの、あれ?!」

エックス『怪獣だ……』

凛「え……?」

エックス『この世界には怪獣はいなかったのか?』

未央「こんなの見たの初めてだよ!!」

エックス『……っ。ということはやはりXioも存在しないのか……』

卯月「どういうことなんですか、プロデューサーさん!」

凛「プロデューサーは何か知ってるの!?」

エックス『あれは“超合成獣”サンダーダランビア。宇宙怪獣だ』

未央「宇宙……怪獣……」


エックス『君たちも早く逃げろ!』

 既に逃げ惑う人の波はエックスたちの元まで迫っていた。
 ビルとビルの間に怪獣の巨体が垣間見える。

凛「と、とにかく今は逃げるしか――」

 その時だった。

Tダランビア「ピギャァァァァアオオオン!!!」

 サンダーダランビアが叫ぶと、背中の突起から青白い電撃が放たれた。
 手近のビルに直撃し、爆発が起こる。その轟音は凛たちのところにも響き、耳をつんざいた。

卯月「あ……あぁ……」

 爆発が起こったところより上の部分が崩れ、地上に落下する。
 コンクリート、アスファルト、ガラス……あらゆるものが壊れ砕け破れる音がないまぜになり、爆風と共に押し寄せてくる。


凛「う、卯月! 早く!」

卯月「ま、まって……こ、腰が……抜けて……」

凛「卯月っ!」

 凛が卯月の腕を取るが、崩れたビルの上部に現れた怪獣の上半身を見て動きが止まった。

未央「しぶりん! しまむー! 早くっ!!」

エックス『……っ!』

Tダランビア「ピギャアアアアアアア!!!」

 電撃が乱れ飛び、ビルを、地上を襲っていく。
 街灯は折れて倒れ、街路樹は燃え上がり、怪獣の歩む道はその重量で砕けて沈んだ。


未央「しぶりん、しまむー!」

エックス『おい、未央!!』

 未央が二人の元に駆け寄る。凛の背中を叩くと、我に返ったように振り返った。

未央「何してんの! 早く逃げなきゃ!」

凛「でも、卯月が!」

未央「しまむーも、ほら! 立って!」

卯月「は、はい……っ!」

 二人で腕を取って立ち上がらせる。しかしそうしている間にも怪獣の巨躯は迫っていた。
 突然、三人が影に包まれた。凛が首を捻って後ろを見ると、そこには太陽を背にした怪獣の黒々しい姿が。
 逆光の中、ギラギラ光るその目が、自分を見ているような気がして――


 がくっと、卯月のバランスが崩れる。左肩を支えていた凛が崩れ落ちたからだ。

卯月「凛ちゃん!?」

凛「…………」

 凛は全身が勝手に震えて、もう自力では動かせなかった。
 動け動けと命令しても、指先ひとつ動かせない。背筋に冷たい汗が一筋、流れ落ちた。

未央「……っ」

凛「も、いいから……未央……卯月だけでも……」

卯月「そんなこと……っ」

未央「そんなことできるわけない!!」

 そう叫んで、未央が二人の前に立つ。


凛「未央……っ」

卯月「未央ちゃん、だめ……」

 降り注いだ雷撃が爆風を巻き起こし、その乾いた熱風が未央の頬に吹きつけ、髪を靡かせる。

未央「私がニュージェネのリーダーだから……私が二人を……」

凛「未央っ!!」

卯月「未央ちゃんっ!!」

未央「私が……! 私が二人を守る……っ!!」

エックス『――!!』

 その時だった。エックスは胸の奥から湧きあがってくる感情に気付いた。
 共鳴する周波数。共振する個性。それだけでは言い表し切れない何かを、エックスは未央に感じた。


エックス『未央、私とユナイトするんだ!』

未央「えっ……?」

エックス『それしか方法はない! いいか、言われた通りにして、私の名を叫ぶんだ!』

 エックスが説明する間にも怪獣の影は迫ってくる。もうあと百メートルもない。

未央「わ、分かった! 行くよ、プロデューサー――いや」

 深呼吸して、未央が言い放つ。

未央「――ウルトラマンエックス!!」

エックス『よし、行くぞっ!』


 未央がデバイスを突き出し、Xモードに変形させる。
 出現したスパークドールズを掴み、デバイスにリードすると、青白い電光が放射状に飛んだ。

『ウルトラマンエックスと ユナイトします』

未央「――っ!」

 そしてデバイスを掲げ上げ、高らかにその名を叫んだ。

未央「――エックスーーーーーっ!!!」

 Xの字を象った光が放たれ、巨大化し、未央の全身を包んでいく。
 辺りを閃光が包む。それを突き破るようにして、巨大な銀色の体躯が姿を現す。

エックス「――イーーッ、サァーーッ!!!」

『エックス ユナイテッド!』


エックス「――Xクロスキック!!」

Tダランビア「ピギャァァァァアアア!!??」

 電光を纏い、きりもみ回転しながらの蹴りを受け、サンダーダランビアが吹っ飛ばされる。
 エックスはそのまま空中に舞い上がり、そして地上に降り立った。

 地面が揺れ、破片が巻き上げられる。夕焼けの薄明りの中、青白い光が周囲を飛び交う。
 それら全てを巻き込んだ旋風が吹き荒れ、呆然と見守る凛と卯月の長髪を乱した。

エックス「…………」

 黄昏の空を背景に、降り立った巨躯がゆっくりと立ち上がる。風が止み、辺りが静穏に満ちた。
 50メートル近くありそうな巨大な人型。銀を基調に赤と黒が交じり、胸にはX字のカラータイマーが青く光っている。

凛「プロデューサー……?」

卯月「ぷ、プロデューサーさんが、おっきくなっちゃいました!?」

凛「……未央は!? 未央はどこに!?」


 一方、エックスの意識内部では――

未央『…………』

エックス『……未央! 未央!』

未央『……っ! ぷ、プロデューサー!?』

エックス『よかった、ユナイトは成功だ。プレイ時間300時間の絆は伊達じゃなかったな!』

 未央は周囲を見回して、それが人間の視点でないことを確認した。

未央『私、巨大化しちゃったの……?』

エックス『外見は私だから心配するな』

未央『別にそういう心配じゃなくて』

エックス『! 来るぞ!』

 ハッと我に返る。目の前にサンダーダランビアが迫っていた。


エックス「セエヤッ!」

 その突進を抑え込む。後ろには卯月たちがいる。ここを通すわけにはいかない。

エックス「テアーッ!!」

 怪獣の身体を押し返す。十分離れたところまで来ると、身体を反転させ、背負い投げする。

Tダランビア「ピギャァァァァ……」

エックス「ハ――ァッ!」

 起き上がるサンダーダランビアに対峙してファイティングポーズを取る。
 放たれた電撃に反応して、側転しながらそれを避けた。

Tダランビア「ピギャァァァァァ!!」

 しかし避ければ避けるほど電撃による被害が広がってしまう。
 そう気付いたエックス=未央は立ち止まって、両腕をクロスさせてそれを受け止めた。


エックス「グウウッ……!!」

Tダランビア「ピギャァァアアアア……!!!」

エックス「ッ! ――グアアアッ!!」

 しかしサンダーダランビアが出力を強めたため、受け切ることができなかった。

エックス「グッ……ハアァッ」

 背後に倒れ込むも、起き上がろうとするエックス。
 するとサンダーダランビアの手のひらから触手が飛び出してきた。エックスの首に巻き付き、電撃を流し込む。

エックス「デアアアッ!!」

Tダランビア「ピギャァォオオオオン!!!」


未央『ぐっ……くぅ……っ!』

エックス『未央、大丈夫か!?』

未央『へ、平気……! 変身してるせいか、思ったより痛くないから……!』

エックス『よし。心を合わせるんだ。そうすればどんな相手とだって私たちは戦えるようになる!』

未央『うん……!』

 その時、地上から声が聞こえてきた。

卯月「プロデューサーさん! 頑張って!!」

凛「負けないでーー!!」

未央『二人とも……!』


未央『……私への応援は!?』

エックス『そっちか!? いや、事態が飲み込めてないんだろう……無茶を言ってやるな』

未央『むむ……こんなに身体を張って頑張ってるのに』

エックス『というかさっきからずっと電撃受けてるのに案外余裕だな未央』

未央『なん……かさ。だんだん……癖になってきたというか……』

エックス『不安になるようなこと言わないでくれないか!?』

未央『じょーだんじょーだん♪ さて、二人を守るためにも頑張んなきゃね!』

エックス『ああ! 未央、このカードを使うんだ!』

 デバイザーの上に一枚のカードが転送されてくる。

未央『! オッケー、わかった!』


『ウルティメイトゼロ ロードします』

 そのカードをロードすると、エックスの上半身に白銀のアーマーが装着されていく。
 中央に青い宝玉が埋め込まれたV字型の鎧。右腕には手甲と一体化したような剣が装備された。

『ウルティメイトゼロアーマー アクティブ!』


エックス「テヤアァァッ!!」

 右腕の剣で触手を断ち切る。

Tダランビア「ピギャァァァアアアッッ!!!」

 首に絡まった残骸を勢いよく投げ捨て、怪獣に向かって走る。

エックス「デアァッ!」

 回復の間を与えず、たじろぐサンダーダランビアの横っ面を蹴りつける。
 その勢いで怪獣の背中がこちらに向く。その突起にエックスは斬りかかった。


エックス「ハァッ! セヤァッ! テイヤッ!」

Tダランビア「ピギャァァァアア……!!」

 四本の突起すべてが斬り払われ、サンダーダランビアは更に悶える。
 一方でエックスは少し離れ、アーマーを解いていた。金色に光るカラータイマーに腕を翳し、右上に掲げ上げる。

エックス『行くぞ、未央!』

未央『うん!』

 次に、右足を軸に全身ごと左足を回転させる。その軌跡に青白い光が走り、エックスの背後に向かって伸びていく。
 そして最後に、後ろに回していた両腕を身体の前で交差させる。両腕にエネルギーが漲り、光線が発射された。


エックス「「――ザナディウム光線!!!」」


 敵向けて放たれた光線は次の瞬間、激突していた。

Tダランビア「ピギャァァァアアオオン……!!」

 サンダーダランビアの巨体が力なく崩れ落ち、爆発が巻き起こる。
 その中心に青白い光が集っていく。怪獣が光線の力でスパークドールズに圧縮されているのだ。

 それを見詰めながら、エックスはユナイトを解いた。


凛「――未央!」

 白煙の中から現れた未央に凛は真っ先に気付いた。

卯月「未央ちゃん! 無事だったんですね……!」

 言い終わらない内に卯月が泣き出す。

卯月「もう……もう、どうしようって……私……」

未央「あ、あはは。プロデューサーと合体して戦ってたんだ」

凛「プロデューサーと……? そういえばさっきのは……」

エックス『あれが私の本来の姿なんだ』

卯月「すごかったです! まさに『ウルトラマン』って感じで!」


凛「で、本来の姿になれたのに、デバイスに閉じこもったままなの?」

エックス『別に閉じこもっているわけでは……』

 そうだ。未央とユナイトすることはできたが、まだ元の世界への戻り方がわかっていない。
 それがわからなければ結局のところ実体化できても意味はないのだ。

卯月「とにかく、後で詳しいお話聞かせてくださいね!」

未央「うん。……でも今はちょっと疲れたかな。早く帰りたいかも」

卯月「あ、は、はいっ! そうですよね! 早いところ帰りましょう」

凛「でもこの被害で電車は動いてないだろうね……ちひろさんに迎えに来てもらうしかないかな……」

 その言葉でエックスは思い出したように言った。

エックス『……なあ、みんな』


エックス『このことは、ちひろさんには黙っててもらえないだろうか……』

凛「何で?」

エックス『今余計な負担を増やしてしまっているのに、更に君たちのような女の子を戦いに巻き込んだと知られたら……』

未央「怒られるから?」

エックス『……ああ……』

卯月「くすっ。でも同じ部署のみんなには構いませんよね? プロデューサーさんの力を貸してもらわなきゃいけない時がまた来るかもしれませんし」

エックス『確かにそうだな……でもちひろさんには』

卯月「わかってます♪」

 この場はそういう取り決めとなり、事務所に戻ってから解散となった。


―――事務所

 皆が帰り、静まり返った夜の事務所。
 ちひろやアイドルたちは持って帰ろうかと言ってくれたが、流石にそれは辞した。エックスは紳士なのである。

エックス(この世界もいいところだが……一刻も早く帰らねば)

エックス(だが、私が帰ったあと、この世界はどうなるのだろうか……この世界の装備だけで怪獣たちを倒せるのか?)

エックス(いや、怪獣が出るのは初めてだと言っていた。私がイレギュラーとしてこの世界に来てしまったために怪獣も現れるようになったのだとしたら……)

エックス(…………)

エックス(……少し疲れたな。続きはまた明日考えよう……)

 そう思い、意識を遮断する。
 うとうとと眠りに落ちたエックスは――


「………………………………」


「……エ………………ス……」


「………………ク……ス……」


エックス(なんだ……?)


「―――――ス!」

「――エックス!」

「エックス! 返事してくれ!」


エックス(っ!?)

 意識を開くとそこには――

エックス「大地!?」

大地「まさか寝てたのか!? 今大変なことになってるんだ! 早くユナイトを!」

エックス「あ、ああっ!」

 こうしてわけもわからぬうちにエックスは元の世界に戻ることができた。
 そしてそれからというもの、彼は眠るたびに連続した夢を見るようになる。

 プロデューサーとなり、アイドルに囲まれる自分の夢を……。


第一話 おわり


≪アイドルの怪獣ラボ≫

未央・エックス「「未央の怪獣ラボ!」」

未央「今回の怪獣は、これだ!」

『サンダーダランビア 解析中...』


http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira106396.jpg


エックス『“超合成獣”サンダーダランビア! ネオダランビアの亜種だ!』

エックス『手のひらから伸ばす触手や、背中の突起からの電撃が強力だぞ!』

未央「ま、私たちにかかれば電流マッサージレベルだけどね!」

エックス『電流マッサージ……そんなものもあるのか。人間世界は奥が深い……』フムフム

未央「元は『ウルトラマンギンガ』第1話の怪獣。ブラックキングは追い詰めたけどギンガには圧倒されたね♪」

未央・エックス「「次回も、お楽しみに!」」


≪次回予告≫

こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!

《蒼ノ楽団》のPV撮影のために獅子鼻樹海に向かった凛ちゃんと美波ちゃん。

でも妙な虹をくぐり抜けると、そこから先は未知の異次元空間に……。

そして姿を現す樹海の主! さあプロデューサーさん出番ですよ……って、プロデューサーさんどこですかー!?

次回、ウルトラマンXP第二話! 『美しき静寂』 プロデューサーさーん! どこですかー!?


第二話 『美しき静寂』


―――車中

凛「でーきたてえーぼりゅーれーぼりゅー……」

李衣菜「巧く歌うんじゃなくて♪ 心を込めて歌うよ~♪」

蘭子「沈黙の戒律は、抑え切れぬ感情に破られた。其の贖いに煉獄を渡れと命じるなら――」

P「あーもううるさい!! 歌うならどれかひとつにしろ!!」

美波「あ、あはは……」

楓「ハモりながら車は森を走ります……ふふっ」

 とある春の日。
 凛と美波は所属ユニット《蒼ノ楽団》(アズール・ムジカ)のPV撮影のため、楓たちのプロデューサーのワゴンに乗って移動していた。

エックス『凛も案外お茶目なところあるんだな』

凛「いや、何か別の曲歌う流れかなって」

エックス『むしろ君がそれにノった方が驚きだが!?』

 ……そして何故かエックスも(デバイスとして)同乗していた。
 それと言うのも――


美波「そろそろ獅子鼻樹海でしょうか?」

P「はい。日本のバミューダトライアングルと呼ばれるミステリースポットですよ~」

 Pがおどろおどろしい喋り方をするので、後部座席の蘭子の顔が引き攣った。

凛「本当にそんなとこ入って大丈夫なの?」

李衣菜「いやいや、知っていてあえて赴くのがロックってもんでしょ!」

蘭子「フ、フフ……我が闇の力さえあれば、如何なる魔境が待ち構えていようと――」

 その時、突然車窓の外でカラスが鳴いた。

蘭子「ひゃううぅっ!?」

凛「うわっ! ……もう、急に飛びつかないでよ……」

蘭子「ご、ごめんなさいぃ~~っ」

凛(あれ、喋り方……)

楓「ふふっ、樹海のカラス……迷い込んだ人の肉を啄んでいるのかもしれませんね」

 後部座席を振り返りながら楓が言う。そのオッドアイは少女のようにキラキラ光っていた。


蘭子「ま、迷い込んだ……啄む……」

楓「案外、悪魔の使いだったりして? ここはもう既に魔界の中――」

蘭子「あ、悪魔……魔界……」

 蘭子はもう顔面蒼白である。

美波「か、楓さん……そこまでにしてあげてください……」

楓「ふふっ。でも蘭子ちゃんがいるから心配ないわよね?」

蘭子「……む、無論っ! 我が真結界によって貴殿ら乙女の無事も保障し――」

 すると今度は、バサバサッ! というカラスの羽音が響いた。

蘭子「ひぅぅぅううっ……!!」

李衣菜「ほんと空気読まないなー、このカラス……」

 何はともあれ、撮影のために赴いたこの獅子鼻樹海。
 魔境と呼ばれており様々な不可思議現象が発生している場所のため、エックスも念のためについてきたのだった。


美波「えーっと、スタッフさんたちは先に到着してるんでしたっけ?」

P「はい。先に現場で待っているはずです」

楓「――あっ」

 急に楓が声を上げる。

P「どうしました?」

楓「虹……」

美波「えっ?」

 楓が指さしたフロントガラスの向こう側。
 薄い青空に綺麗なアーチ状の虹が掛かっていた。

李衣菜「あ、ホントだ。きれい~」

蘭子「ふふ……天が授けし我らへの祝福か……」

凛「……ん?」


 そうこうしている内にワゴンは虹に近づいていって、通り抜けた。
 凛は慌てて背後を振り向く。

凛「虹、まだある……」

エックス『妙だな……』

凛「プロデューサーもそう思った?」

エックス『ああ』

李衣菜「え、何? どういうこと?」

凛「虹っていうのは簡単に言うと太陽光を水滴が反射して起こる現象なんだけど」

エックス『今の太陽の位置を考えると「振り返ってもまだ虹がある」というのはおかしい』

凛「それに、さっき私たち虹を『通り抜けた』よね。あれも絶対にありえない」

李衣菜「え……じゃあ何? さっきのは虹じゃなかったってこと?」

凛「たぶん、そういうことになるんだろうけど――」

 そう言って振り返った凛は目をぱちくりさせた。
 もうそこに虹がなかったからだ。


凛「あれ……?」

美波「見間違いだったんじゃない?」

凛「そんなはず……」

 首を傾げながらも凛は不承不承自分を納得させた。
 車はそのまますいすいと道を走っていく。次第に両脇に並ぶ木々も密度を増してきた。

P「…………」

楓「…………」

美波「…………」

李衣菜「…………」

蘭子「…………」

凛「…………」


 さっきまでの晴天はどこへやら、森が深くなるにつれ空も暗くなる。
 段々と不安になってきたアイドルたちは口々にプロデューサーに訊ねる。

美波「あ、あの。まだですか?」

李衣菜「もうけっこう走ってる気がするんですけど……」

凛「そんなに深いところで撮影する気だったの?」

P「い、いや……。一本道を走ってたらすぐ見えるはずって聞いてたんだけど」

エックス『虹を通り抜けてから、32分46秒。おかしいな』

P「いったん電話してみます」


 車を停め、携帯を取り出しながら外へ出るプロデューサー。
 車内は沈鬱としたムードに満ちていたが、

楓「ほらほらみんな。そんな暗い顔してたら、撮影も上手くできなくなりますよ」

凛「でも、こんな状況……」

 まだ誰も口に出していないだけで、全員に共通認識があった。
 私たちは遭難して、もう帰れないのではないかと。

楓「幸子ちゃんなんてよくこういう目に遭ってるじゃないですか」

凛「それはそうだけど……」

楓「おんなじ目に遭ってるのに私たちだけ音を上げてたら、『メッ!』って叱られちゃいますよ。……ふふっ」

 つまらない駄洒落に車内の空気が少し和らいだ。
 するとプロデューサーが早足で戻ってきて運転席に乗り込んだ。


美波「ど、どうでした?」

P「圏外で駄目かと思いましたけど、ちょうどそこでスタッフさんと鉢合わせして」

 車内の雰囲気がぱっと明るくなる。

P「すぐそこにスタンバイしてるそうです。行きましょう」

李衣菜「よかったぁ~」

 溜め息を吐きながら背もたれに倒れる李衣菜。他のメンバーもほっと胸をなでおろしたようだった。

エックス『…………』

 だがエックスだけは、不審そうに何かを考え続けていた。


―――廃墟

美波「ここ……何ですか?」

凛「廃墟……だよね」

P「監督、これは」

監督「いやー最初は別のところで撮る予定だったんだけどね、もっと良いところ見つけちゃったから」

蘭子「空洞の祭壇……心揺さぶられるわ」

李衣菜「廃墟は大丈夫なんだ」

 李衣菜がちょっと呆れたふうに言う。

李衣菜「でも何で樹海に廃墟が? 誰か住んでたのかな……」

 中に踏み込んでみる。打ちっ放しのコンクリートが剥き出しになっており、ところどころ崩れて外の木々が覗いている。
 あらかたの清掃は終わっていたようだったが、やはり染みついた汚れは残っていた。

楓「廃墟は異境……うーん」

李衣菜「せめて黙って考えてください」


凛「で、着替えは?」

P「そこに仮設テント立ててるからその中で着替えてくれって。衣装はもう用意してくれてる」

凛「ふーん。じゃ、みんな。行こうか」

李衣菜「凛ちゃんは動じないね……」

楓「凛ちゃんのクールさが心に来ーる……ふふっ」

李衣菜「無理矢理過ぎじゃないですか?」

美波「あっそうだ。凛ちゃん、プロデューサーさんはどうしよう」

 凛がベルトにぶら下げていたデバイスを取り上げる。

凛「そういえばそうだった。外に置いとくのも心配だけど、着替え見られるのは嫌だし……」

エックス『いや、裏返して置いてもらえば何も見えなくなるから心配ないぞ』

美波「そうなんですか? じゃあそうしましょうか」


エックス『聴力は生きてるから、何かあった時にはすぐに知らせられるしな!』

美波「頼もしいです!」

凛「……待って。どの程度なら聞こえるの」

エックス『そうだな……。テントの外からでも衣ずれの音が聞こえる程度には耳が利くぞ!』

凛・美波「「…………」」


エックス『……何故だ……?』

 エックスは美波のバッグの中に入れた凛のバッグに放り込まれた挙句テントからも追い出されていた。


P「あれ、何でこんなところにバッグが? 誰のだろ」

 しかも置き去りにされていたのは廃墟の壁のそばであったため――

P「こんなところに置いてたら撮影の邪魔だろ……」

 不幸にもプロデューサーの手によって運び出されてしまった。


P「さてと……ところで監督」

監督「うん?」

P「ここまで来る最中に変な虹を見ませんでしたか?」

監督「ああ……確かに見たね。それから何か道に迷った感じになって……」

P「迷ったんですか!?」

監督「うん。彷徨ってたらここ見つけたんだけど」

P「ってことは、帰り方がわからないってことじゃ……」

監督「まぁそうなんだけど」

P「のんきですね……やばいですよこれ」

監督「いやでもね、こんな良い場所を見つけたら撮ってみたくなるってのがサガってもんでしょ――」

 そう言ったときだった。
 ごうっと風が吹いて森がざわめいた。


P「…………」

 長い長い風だった。
 森がどよめく。まるで、何らかの脅威に怯えているように――

監督「はは、こんな雰囲気がまさにミステリアスな《蒼ノ楽団》にピッタリ――」

 その時――

「キシャアアアアアアア!!!」

 プロデューサーと監督が同時に押し黙る。
 木々の梢がざあっと揺れる。静寂に戻ったかと思うと、ドン、ドン、という音が響いてきた。

P「何だ、この音……」

 その音はどんどん大きくなっていく。
 ――近づいてくる。その主が。この樹海の主が。


「キシャァァァァアアアオン!!!」

 再びその雄叫びが上げられたかと思うと、森の上にその姿はぬっ、と現れた。
 銀色の皮膚に覆われた頭部。鋭く光る瞳は金で、頭の両側に山羊のような角が大きく捻れている。

監督「うわああああああーーー!!!」

スタッフ「怪獣だあああああああ!!!」

 機材を捨てて逃げだすスタッフたち。
 プロデューサーは慌ててテントのアイドルたちの元に向かった。

P「みんな、大変だ! 怪獣が出た!!」

美波「ええっ!?」

 みな着替えが済んでいることを確認して美波が入口を開ける。

美波「本当なんですか!?」

P「は、はい。きっとこの樹海の主だと思います。早く逃げないと!」


美波「みんな!」

 みな頷いて着の身着のままテントを飛び出した。

P「車で逃げましょう!」

 停めてある車まで向かおうとするプロデューサー。しかし――

美波「すみません、荷物を!」

P「荷物なんて取りに行ってる場合じゃ――」

「シャオオオオオオオン!!!」

美波・P「「!」」

 全員が揃って声の方向に目を向ける。銀色の怪獣の巨躯がそこにはあった。
 咄嗟に木の影に身を潜める。しかし、かなり近い。100メートル程度しか離れていない。このままでは見つかるのも時間の問題だ。


李衣菜「ま、まずいって……!」

蘭子「あ、あわわわわわわ……!」

楓「二人とも落ち着いて。プロデューサーさん、二人を連れて先に逃げてください」

 楓が毅然とした態度で言う。

P「でも!」

美波「あの中には私たちのプロデューサーさんがいるんです! 置いてなんかいけません!」

楓「私も一緒に探します。プロデューサーさんは二人を」

P「わ……わかりました。でも無茶は絶対しないでください。必ず後で助けに行きますから」

楓「はい。――行きましょう」

 美波と凛の方を振り向き、身を屈めながら一緒に走り出す。
 李衣菜と蘭子はプロデューサーに連れられて車に向かって行った。

凛「美波、あのバッグどこに置いたの?!」

美波「あの廃墟のそば! すぐ見つかると思う!」


―――車中

李衣菜「プ、プロデューサー! 早くっ!」

P「わかってる!」

 乗り込むや否やプロデューサーはワゴンを出発させた。
 李衣菜と蘭子はリヤガラスから背後の様子を探る。

蘭子「こ、こここ、こっち来てるぅっ!!」

怪獣「シャオオオオオオオン!!!」

 怪獣は明らかにワゴンの方に視線を向けていた。
 重い足音を鳴らしながら歩いてくる。

李衣菜「スピード! もっと出ないの!?」

P「くっそ!」

 アクセルを踏み速度を上げる。しかし二人の目に映る怪獣は――

怪獣「キシャァァァァァオオン!!!」

 まるでこのスピードアップを挑発と受け取ったかのように進攻に勢いが加わった。


蘭子「もうダメぇ……っ!」

 リヤガラスから顔を背け、頭を抱えて蹲ってしまう蘭子。
 しかしその時、何かに気付いた。車の床、エンジン音とは違う、何か異質な音が聞こえる。

蘭子「……?」

 涙が浮かぶ目でその方向を見やると、水色のスポーツバッグがあった。確か美波のものだ。
 その中から微かに、振動音が聞こえる。同時に、男の人のくぐもった声――

蘭子「……っ!」

 蘭子は少し迷いながらも美波のバッグのジッパーを引いた。
 振動音と声が心なし大きくなる。

 中を覗いてみると、次は凛のショルダーバッグがかなり窮屈そうに詰め込まれていた。
 それも開けると――


エックス『どうした! 何かあったのか!?』

 エックスの声が聞こえて、蘭子は中からデバイスを取り出した。

エックス『うおっ、眩しっ!? ……あ、蘭子か! いったいどうしたんだ!?』

李衣菜「え、美波さんたちのプロデューサーさん? 何でこんなところに?」

蘭子「蒼き乙女のパンドラの箱の中に……」

P「あ、それ、廃墟の隣に放り出されてたから、邪魔だと思って俺が車に運んどいたんだった」

李衣菜「なるほど……でも今はそれどころじゃなくて……!」

 李衣菜はデバイスを持ち上げてリヤガラスに向けた。


エックス『あれは……シルバゴンか……?』

李衣菜「知ってるんですか?!」

エックス『私も詳しくは知らない。だがこの妙な空間は異次元になのではないかと疑っていた。そして奴は異次元を生息地にする怪獣だ』

 エックスが悔しそうな声を出す。

エックス『私がもっと警戒していれば……。そういえば、凛と美波は?』

P「あーーーーっ!!!」

 突然プロデューサーが大声を出す。

李衣菜「な、何ですか急に」

P「美波さんたち、プロデューサーを捜すって……!」

エックス『何!?』


―――廃墟

 一方、美波たちは廃墟に到着していたが――

美波「ど、どうして!? 確かにここに置いてたはずなのに!」

凛「もしかして、誰かが持って行った……?!」

楓「手分けして探しましょう!」


―――車中

エックス『ということは、美波と凛と楓はまだ残っているということか!?』

P「怪獣はこっち狙ってるから三人は無事だと思う!」

エックス『確かにそうか……だが……』

 エックスは黙り込んで二人を見た。多田李衣菜と神崎蘭子。
 確かに知った顔だが、所属アイドルでもない彼女たちと果たしてユナイトができるだろうか。


エックス『……っ。頼む、私を美波か凛の元に連れて行ってくれ!』

李衣菜「な、何で!?」

エックス『そうするしかこの窮地を抜け出す方法はない! 私を信じてくれ!』

 李衣菜と蘭子は数秒顔を見合わせてから、力強く頷いた。

李衣菜「わかりました。私たちが二人の元に連れて行きます!」

P「お、おい! 俺は!?」

李衣菜「事の発端の罰として車で怪獣をおびき寄せて!」

P「酷い!」

蘭子「安心しろ、瞳を持つ者よ! 我が翼の加護で汝は守られる!」

P「……わ、わかった」

李衣菜「プロデューサー……必ず生きてまた会いましょう!」

P「フラグ立てんなあああああああああ!!!」

 急ブレーキをかけたワゴンから二人は飛び出すと、デバイスを手に走り出した。


―――森

美波「どうしよう、どこにいるのプロデューサーさん……」

 鬱蒼とした森の中。未だに足音はやまない。
 ずぅぅぅん……という重低音が下腹部を震わせて背筋に冷たい汗を流していく。

美波(ダメよ美波、弱気になっちゃ! そもそもプロデューサーさんをバッグに入れちゃったのは私。その責任はきちんと果たさなきゃ!)

 頬をぱちんと叩いて自分を奮い立たせる。
 露出した脚が下生えに傷つけられながらも美波は走った。――すると。

美波「きゃあっ!?」

 足首に何かが絡まり、盛大にこけた。

美波「いったた……なに……?」

 樹木の根か何かかと思って振り返るが、それが目に入った瞬間、ぞわっと全身が粟立った。

美波「きゃあああああああーーーーーっ!!!」


―――李衣菜・蘭子サイド

李衣菜・蘭子「「!」」

エックス『美波の声だ!』

李衣菜「ど、どっちから!?」

エックス『あっちだ!』

 そう言われてもわからない。

李衣菜「どっち!」

エックス『だから――って、ああ! えっと、今の君の右前方48度の方向だ!』

蘭子「すご……」

李衣菜「急ごう!」


―――美波サイド

美波「い、嫌ぁっ! なにこれぇっ!」

「美波さーーん!!」

「青き女神よー! いずこにー!?」

美波「あ……李衣菜ちゃんと蘭子ちゃんの声……」

 胸に希望が湧きあがってくる。

美波「ここ! 助けてえええ!!」

「今行きますーー!!」

美波「……!」

 その言葉に美波はハッとなった。


美波「だ、ダメ! 来ちゃダメ!!」

 しかし幾らも経たない内に二人が木々の間から飛び出してきた。

李衣菜「美波さんっ!」

蘭子「こ、これは!?」

 二人の目の前には――

李衣菜「な、何これ!?」

 くすんだピンク色の触手がお腹に巻き付いている美波の姿があった。
 強い力で引っ張られているようで、木の幹を必死に掴んで持ちこたえている。

美波「ダメ……二人まで巻き込まれちゃう! 逃げて!」


エックス『美波、落ち着け!』

美波「プ、プロデューサーさん!? どうして李衣菜ちゃんたちのとこに――」

エックス『話は後だ! 二人とも、美波の救出を!』

 その触手のおぞましさに一瞬躊躇う二人だったが、意を決して踏みつけ始めた。
 だが一向に解かれる気配がない。

美波「くぅぅぅ……っ!」

 むしろ締め付けがきつくなって美波が苦しむ始末だった。

李衣菜「これっぽっちの刺激じゃダメージにならないみたい」

蘭子「だけど、私たちに武器なんてないし……っ!」

 おろおろする蘭子だったが、ふと自分が持っているものに気が付いた。


エックス『……おい、まさか』

蘭子「闇にぃぃぃ―――」

エックス『ちょっと待ってくれええええ!!!』

蘭子「飲まれよーーーーーーっ!!!!」

 デバイスを大きく振りかぶり、触手向けて思いっきり投げつけた。
 勢い付けた鈍器での一撃は流石に応えたのか、美波を解放してするすると引き下がっていく。

蘭子「ぜーー……はーー……」

李衣菜「や、やった……」

エックス『だ、だがもう二度とやらないでくれ……精密機械なんだから……』

 しかし安心したのも束の間、地面が揺れ始めた。

美波「な、何……!?」


「ピシャァアアアアアッッ!!!」

 地中から怪獣が姿を現す。そう遠くない場所だった。
 頭部には一本角が生え、両手が二本の巨大な爪とその間から伸びる触手でできている怪獣だった。

エックス『あれは……“バリヤー怪獣”ガギか。こいつもこの異次元空間に住んでいたんだな』

李衣菜「ど、どうしましょう……」

エックス『ここは私と美波が食い止める。君たちは逃げろ!』

李衣菜「食い止めるって……!」

蘭子「む、無茶ですよ~っ!」

 しかし、美波はそんな二人を真正面から見据えて言った。


美波「大丈夫」

 そして、有無を言わさぬ口調で続ける。

美波「《蒼ノ楽団》、コンダクターとしての命令よ。二人は逃げて」

蘭子「……!」

李衣菜「で、でも……!」

 李衣菜が変わらず不安そうにする一方、蘭子は何かを感じ取ったようだった。
 李衣菜の腕を取り、催促する。

李衣菜「蘭子ちゃん!?」

蘭子「此れは契りぞ。再臨が果たされなければ、貴殿の魂は彼岸でも永劫に報われぬと知れ!」

美波「ええ。必ず戻るわ」

李衣菜「だからそれ死亡フラグって――ああ、もう蘭子ちゃんーーっ!」

 李衣菜はわけもわからぬまま蘭子に引っ張られていった。


エックス『すまない……。君に戦いを強いることになった』

美波「不安がないと言ったら嘘になりますけど……プロデューサーさんとだから、平気です」

 そう言って、笑みを作る。

美波「あ……でも私……こういうの初めてだから、上手くできるかわかんないですけど……」

エックス『心配するな! プレイ時間300時間の私たちの絆を信じろ!』

美波「……??」

エックス『美波、ユナイトだ!』

美波「はっ、はいっ!」

 ひとつ深呼吸して、美波は口に出した。

美波「――美波、いきますっ!」

エックス『よし、行くぞっ!』


 エクスデバイザーをXモードに変形させる。
 出現したスパークドールズを掴み、デバイスにリードする。

『ウルトラマンエックスと ユナイトします』

 すべてのセッティングが完了したデバイスを掲げ上げ、美波はその名を叫んだ。

美波「――エックスーーーーーっ!!!」

 放たれたX字の光に美波の身体は包まれ、そして――

エックス「――イーーッ、サァーーッ!!!」

『エックス ユナイテッド!』

 エックスの巨躯もまた、森の中に姿を現した。


蘭子「あ、あれ……」

李衣菜「美波さんたちのプロデューサーさん……?」

 一方、別の場所にいた凛からもその雄姿は確認できた。

凛「プロデューサー……? 今度は美波とユナイトしたんだ……」


ガギ「ピシャァァアアアアッ!!」

シルバゴン「キシャァァァァァオオン!!」

エックス『くっ……初めての相手がいきなり二体だなんてきついだろうが……頑張ってくれ……!』

美波『が、頑張りますっ! ……って、卯月ちゃんみたい……あはは』

 自分で自分を和ませようと努めながら、美波=エックスは慣れないファイティングポーズを取った。


エックス「イィ――サァッ!」

 それに煽られたようにガギが最初に突っ込んでくる。

ガギ「ピシャァァァアアア!!」

エックス「テヤッ!」

 挟み込むようにして振るわれた両爪を両腕でそれぞれ防ぎ、空いた腹部に膝蹴りを入れる。
 ダメージが入った反応を見て、そのまま腹を蹴りつけた。

ガギ「ピシャァァァァ……」

シルバゴン「グルルルッ!! キシャァァアァオオン!!!」

 続いてシルバゴンも向かってきて、その短い腕をエックスに叩きつけようとする。
 彼はガギにしたように腕で受け止めようとしたが――


エックス「――デアァッ!?」

 その力は予想以上で、エックスは跳ね飛ばされてしまった。

美波『――くぅっ!』

エックス『大丈夫か、美波!? 痛くないか!?』

美波『は、はい……プロデューサーさんの身体、たくましいから……思ったより痛くないです……』

エックス『そうか。案外相性いいのかもしれないな、私たち』

 などとやり取りしている間にもシルバゴンは迫ってくる。


エックス「――Xダブルスラッシュ!」

 両腕でX字を描くように振り下ろすと光刃が二発翔んだ。

シルバゴン「シャァァァァ……!!」

エックス「……!」

 しかし命中したにもかかわらず全く応える様子がない。

ガギ「ピシャァァァァァ!!!」

 すると突然、ガギが横からシルバゴンに襲い掛かった。
 体当たりしてよろめかせ、自慢の爪を振り下ろす。だが――


ガギ「ピシャァァァァァ!!?!?」

エックス「!」

 なんと逆にガギの爪が途中で折れ、弾き飛んだのだ。

美波『あの銀色の皮膚……すごく硬くなってるみたい……!』

エックス『力だけでなく防御にも優れているとは……!』

シルバゴン「キシャァァアァオオン!!!」

 シルバゴンの剛腕がガギの横っ面を殴りつける。

ガギ「ピシャァァァァ……」

シルバゴン「グルルルルッ!!」

 次の瞬間――


美波『――きゃあああーーっ!!??』

 美波が悲鳴を上げるのも無理はなかった。
 シルバゴンの牙がガギの首を突き刺したからだ。

シルバゴン「キシャァァァァ……オオンッ!!」

 そして強引に首の肉を噛みちぎる。大きく窪んだ赤い傷跡から大量の血が噴き出す。

エックス「――ッ!」

 あまりのショッキングな光景にエックス=美波が呆然とへたり込んでしまう。

ガギ「…………」

 ガギはそのまま斃れた。口の中の肉片を咀嚼し飲み込むと、シルバゴンはエックスの方を振り返る。


美波『や……やだ……嫌ぁ、来ないでぇ……』

エックス『美波、落ち着くんだ!』

美波『いやああああああっ!!』

 頭を抱えて蹲ってしまう美波=エックス。その耳の奥にシルバゴンの雄叫びが響いて――

シルバゴン「――キシャァァァァアアアッッ!!!」

美波『……っ!!』

 目元に涙を浮かべながら衝撃に備えようとする美波。だが……。

美波『……?』

エックス『ん……?』


 どういうことか、シルバゴンは何もしてこなかった。

シルバゴン「グルルルル……?」

 首をちょこんと傾げ、辺りをきょろきょろと見回す。
 まるで、目の前にいるエックスを見失ったかのように。

エックス「……?」

 不思議に思いながらエックスが立ち上がる。すると――

シルバゴン「! キシャァァァァ!!」

 シルバゴンが襲い掛かってきた。不意を突かれてまともにダメージを受けてしまう。

エックス「グアァ……ッ!」

シルバゴン「キシャァァァァァオオン!!!」


 後方に転がって、再びダンゴムシのように丸くなるエックス。
 すると今度もシルバゴンが攻撃をやめたのだった。唸り声を上げながら辺りを見回している。

美波『……もしかして』

エックス『こいつ、動いているものしか見えないのか……?』

 試しに、シルバゴンが背を向けた瞬間、飛びかかってキックを入れてみる。

エックス「デヤッ!」

シルバゴン「!」

 そして振り向いた瞬間、動きを止める。シルバゴンが再び辺りを見回す。
 予想通り、シルバゴンは今のエックスを視認できていないらしかった。

エックス『これは大発見だぞ、美波! これでこの怪獣を攻略できる!』

美波『わ……わかりました。やってみます!』


エックス「――テェイヤッ!!」

 隙を突いて腹を蹴り飛ばす。

シルバゴン「キシャァァァァアアアオン!!!」

 その体勢のままエックスは静止する。シルバゴンは見失う。

エックス「…………」

シルバゴン「グルルルル……」

 見えていないはずだがシルバゴンの金色の瞳がエックスを捉えている。

美波『…………』

 唾を呑み込む。背筋に冷や汗が落ちるようだった。
 次第に体勢が維持できなくなって、ぷるぷると身体が震え出す。


シルバゴン「! キシャアアアアアアアッ!!」

エックス「グアアッ!!」

 それによって感知されたエックスはシルバゴンに蹴飛ばされた。

エックス「グ……ッ」

 再び静止しようとする。しかし嫌でも脳裏にガギの最期が過ぎってしまう。
 弱点なんて勘違いで、今にも怪獣の牙が私の首に噛みついてくるのでは――そんな妄想が離れない。

シルバゴン「キシャアアアアアアアオオオン!!!」

エックス「デアアッ……!」

 またしても集中が途切れて攻撃を受けてしまうエックス。
 そのカラータイマーが赤く点滅し始めた。


エックス『くっ……美波、集中するんだ!』

美波『で、でもぉ……!』

 美波の様子にエックスは考え直す。如何に大人びているといえどまだ19歳の少女なのだ。
 ユナイトする前の態度だって気丈に振る舞っていたに過ぎない。

 戦闘においては、美波は初期の大地以上に素人だ。
 その方向の期待を持つのは酷というものだろう。ならば――

エックス『――美波。なら、君の一番集中できるポーズをするんだ!』

美波『一番集中できるポーズ……?』

エックス『そうだ。ひとつくらいあるだろう? なんたってグラビア雑誌に引っ張りだこの君なんだから』

美波『も、もう~っ! ちょっと恥ずかしいんですよ、あれ……』

エックス『少しくらいなら私も我慢する! みんなを守るためだ!』


美波『――! みんなを……守るため……』

 その一言に美波は覚悟を決めた。

美波『二度目ですけど――美波、いきますっ!!』


シルバゴン「キシャァァァァアアアオン!!!」

 蹴り飛ばそうとするシルバゴンの足を転がって避け、怪獣の側面に移動する。
 咄嗟に振り向いたシルバゴンだが――

シルバゴン「……?」

 エックスの完璧な静止によって完全に見失ってしまった。

凛「……何、あれ……」

 美波の得意なポーズ――セクシーポーズでの静止によって。


エックス『み……美波……これは……』

美波『やれって言ったのはプロデューサーさんですよっ! このままいきますからね!!』

エックス『ちょ、ちょっと!!』

 シルバゴンが向こうを向いたと同時に動く。
 動く気配を察知してかシルバゴンがばっと振り向く。しかし既にエックスはセクシーポーズを取っていた。

 頭の後ろに右手をやり、左手をくびれに、そして腰をくねらす例のポーズである。

シルバゴン「グルル……?」

 そんなシュールな絵面もシルバゴンの目には映らない。
 再び隙を突いて飛びかかる。胸に肘を打ち込み、顎の下から裏拳を叩き込む。

シルバゴン「キシャアアアアアアア……!!」


エックス「エェーーックス!!」

 その場でジャンプして、落下の勢いと共に頭頂にチョップを叩きつける。

シルバゴン「キシャァァァァオン……!!」

 足をぺたんと地面につけ、太腿の間に両手を突くエックスを見失う。
 足を組ませながら寝そべるエックスを見失う。
 両腕を頭の後ろにやって胸を反らせるエックスを見失う。

 次第に苛ついてきたのかなりふり構わず攻撃をし始めるが、全て空を切る。
 しかしそれは逆に隙を増やしてしまうのだった。段々と美波に余裕が戻り始める。

美波『プロデューサーさん、そろそろキメましょう!』

エックス『わ……わかった……』

 対照的にエックスの声は疲労困憊していた。


エックス『この……カードを……』

美波『はいっ!』

『サイバーゴモラ ロードします』

 サイバーカードをロードすると、エックスの上半身に青いアーマーが装着された。

『サイバーゴモラアーマー アクティブ!』


シルバゴン「キシャアアアアアアア!」

 突然エックスの姿が変わったことに驚いたのか、シルバゴンも同じように装着ポーズを取った。
 しかし自分の身体には変化がないと知ると短い腕を振り回しながら地団太を踏み始める。


美波『ふふっ、聞き分けない子みたいでちょっと可愛いかも……♪』

エックス『そうかな……』

美波『行きますよ、プロデューサーさんっ!』

エックス『おう……』

 アームアーマーの巨大な爪を鈍く光らせ、エックスが走る。
 振り回されたシルバゴンの尻尾を受け止め、こちらに向けられた背中に左の爪を振り下ろす。

シルバゴン「キシャァァァオオン……!!」

エックス「ジュアッ!!」

 こちらに振り向こうとした顔を返す刀で斬りつける。
 火花が飛び散り、怪獣はよたよたと後ずさりした。


エックス「オオオオオオオ……!!!」

 それを見てエックスがアーマーの力を解放していく。
 青白いスパークが帯びるアームをシルバゴンの身体に向ける。

美波『――ゴモラ振動波!!』

エックス「――イィッ、サアァーーッ!!!」

 突き出された両アームから青い波動が放たれシルバゴンを襲う。
 怪獣の身体はしばらくびくびくと痙攣していたが、やがてそれも絶え、

シルバゴン「シャォォォォグルルルルル……」

 断末魔と共に倒れ、爆発が巻き起こった。

凛「やった!」

李衣菜「やったぁーーっ!!」

蘭子「やった! やった!!」

 その煙の中に青い光が集っていくのを眺めている凛と、抱き合いながら歓喜する李衣菜と蘭子なのだった。


 ・
 ・
 ・

―――車中

P「いやー、一時はどうなることかと思いましたよ」

 帰りの車中。先に逃げ出したスタッフたちが『出口の虹』を発見しており、それを伝えてくれたため皆は無事元の世界に戻る事ができていた。

李衣菜「死亡フラグを覆すなんて……まさにロック!」

P「わけがわからない……」

 そんなふうに、車内に安堵と和やかなムードが満ちている一方で……。

エックス『…………』

 一方で、エックスは類を見ない落ち込み方をしていた。

凛「そんなに落ち込まないでよ。『あれ』はここだけの話にしておいてあげるから」

蘭子「心の箱舟に乗せ、来世の時まで口を噤んでいようぞ」

李衣菜「そうそう。それにウルトラマンがあんなことするなんて、逆にロックじゃない?」

楓「ロックと言えば、お酒が欲しくなりましたね~」

P「強引過ぎじゃないですか……?」


美波「…………」

凛「ん? どうしたの、美波」

美波「え、えっと……その……」

 さっきから黙り込んでいた美波は何故か火が出るほど真っ赤になって両頬に手を当てている。

美波(わ、私……プロデューサーさんと……)

エックス『――美波』

美波「ひゃ、ひゃいっ!?」

エックス『まぁ……色々あったが、よく戦ってくれた。感謝している』

美波「は、はぁ」

エックス『最高のユナイトだった』

美波「は、恥ずかしいこと言わないでください~~っ!!」

エックス『え、何がだ!? 何が恥ずかしいんだ!?』

 それから帰りの道中は(主に楓から)散々はやしたてられる美波とエックスなのだった……。


第二話 おわり


≪アイドルの怪獣ラボ≫

美波・エックス「「美波の怪獣ラボ!」」

美波「今回の怪獣は……これだぁっ!」

『シルバゴン 解析中...』


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エックス『“剛力怪獣”シルバゴン。その名のとおり銀色の皮膚が特徴的な怪獣だ!』

美波「硬くて大きくて強い……三拍子揃ったまさにシンプルイズザベストの正統派怪獣ですね!」

エックス『しかし動いている物しか見えないという致命的な弱点があるぞ!』

美波「みんなはシルバゴンに遭遇したら死んだふりしようね♪」

エックス『そんな、熊みたいな……』

美波「元は『ウルトラマンティガ』第26話の怪獣。ガギⅡを圧倒し、ティガのパワータイプにも負けない怪力を発揮しました!」

美波・エックス「「次回も、お楽しみに!」」


≪次回予告≫

こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!

美城プロの楽器系アイドルが集まる「アイドルムジークフェスタ」が開幕! うちの部署からはゆかりちゃんが参加します!

と、そんなとき怪獣が飛来! ゆかりちゃん、ここは私に任せて存分に演奏してください!

ってあの怪獣、急に敵前逃亡し始めましたよ!? 何で!?

次回、ウルトラマンXP第三話! 『純粋奏者』 奏でろ、勝利のメロディー!


第三話 『純粋奏者』


―――クラシックホール

スタッフ「はい、オッケーでーす!」

 演奏が終わると、スタッフの声が飛んだ。
 クラシックホールのステージ、リハーサル終了である。

星花「お二人とも、素晴らしい演奏でしたわ!」

ゆかり「星花さんこそ。本番もばっちりですね」

音葉「私たちの三重奏……皆さんの心に暖かな風を吹き込むような……そんな演奏にしましょう」

ゆかり「はいっ」

 この日、このホールでは346プロ主催のアイドルムジークフェスタが開かれることになっていた。
 楽器を趣味にするアイドルたちを集め、ユニットを組ませたりソロで参加したりしての演奏会だ。

 ゆかりはフルート担当としてピアノの梅木音葉、ヴァイオリンの涼宮星花とトリオを組んで三重奏を披露することになっていた。
 他の参加アイドルにはギターの木村夏樹、サックスの東郷あいなどがおり、それぞれ順番にリハーサルをこなしていた。


―――事務所

卯月「おはようございまーす」

エックス『おっ。おはよう卯月。もうお昼だが』

卯月「そっかぁ……じゃあ『こんにちは』ですかね……。こんにちはです……? こんにちはます……?」

美波「普通に『おはよう』でいいんじゃないかしら……」

卯月「うーん……日本語の挨拶は奥深いですね……」

凛「外国人みたいなこと言わないの」

卯月「えへへ……。未央ちゃんは? まだですか?」

 事務所をぐるりを見回す卯月。ソファには美波と、その肩に寄りかかって昼寝しているこずえ。
 凛はプロデューサーのデスクの近くで資料を捲っており、卯月の位置からは見えなかったが机の下に輝子が潜っていた。


凛「もうじき来ると思うけど」

卯月「珠美ちゃんと裕子ちゃんはお仕事でしたっけ。あとはゆかりちゃん……」

凛「ゆかりも仕事だよ。アイドルムジークフェスタ。リハがあるからもう会場入りしてる」

卯月「ああ……。ゆかりちゃん一生懸命練習してましたよね。私も聴きに行きたかったです」

凛「私たちも仕事だけどね」

卯月「そうでしたぁ~……」

 オーバーリアクション気味にがっくりと肩を落とす卯月を凛は微笑ましげに見ていた。


―――コンサートホール・楽屋

 ゆかりは楽器の調整や楽譜の再確認をしていたが、ふと思い出して音葉に声を掛けた。

ゆかり「そういえば音葉さん、お聞きしたいことがあるのですが」

音葉「何ですか?」

ゆかり「音葉さんってよく音を独特な言い回しで表現しますよね。温度とか色とか……」

音葉「そうですね……私にはそう感じ取れるので」

ゆかり「では、私のフルートはどういうふうに感じられますか? 少し気になったもので」

音葉「そうですね……ゆかりさんのフルートの音色は『冷たい』ように感じられます」

 ゆかりはちょっと意外そうな顔をした。


ゆかり「冷たい……ですか。私の演奏は」

音葉「……あぁ」

 取り直すように音葉は首を横に振った。

音葉「語弊のある言い方をしてしまいましたね……冷酷とか冷徹とか、そういうマイナスイメージの意味ではなくて……」

 そう言うと音葉は言葉を探すように考え込んでいたが、星花の顔に視線が止まると急に思い出したふうに、

音葉「――あ。そうです、『涼しい』という言い方のほうが良かったですね」

 そう言って、おっとりと微笑んだ。

星花「あ、私の苗字が『涼宮』だからでしょうか?」

音葉「はい。それで思い出させてもらいました」

 ささやかに笑い合う二人だったが、ゆかりの方は首を傾げていた。


ゆかり「涼しい……ですか。それは心地よいとか、爽やかとか、そういうことですか?」

 音葉は頷く。

音葉「何と言うのでしょうね……熱く昂ぶりすぎた心を鎮めるような……そんな印象を受けます」

星花「確かにゆかりさんのフルートを聴くと心が癒されますわね」

ゆかり「なるほど……そう言ってもらえると嬉しいです」

 と、納得しかけたゆかりだったが、

音葉「ですが――」

 突然逆接の言葉が出てくるものだから更に戸惑うはめになった。

ゆかり「で、ですが何でしょう?」


音葉「その一方で、暖かみも感じられます。これは私の感覚ではなくて、文字通りの意味なのですが」

ゆかり「……?」

音葉「私の知覚で言うとゆかりさんのフルートは『涼しい』です。ですが、それは同時に『暖かみ』という効果もある……ということです。わかりますか……?」

ゆかり「音自体は涼しいけれど、暖かい音と同じような効果もある……ということですか……?」

音葉「そう、その通りです。さっき星花さんも仰いましたが……殺伐とした心を『癒す』ような……そんな暖かさがあると私は思います」

ゆかり「難しいですね……」

星花「それだけゆかりさんのフルートが魅力的なんですよ。ねえ、音葉さん?」

音葉「はい。それは間違いありません」

 そう言って音葉はそよ風のように笑んだ。


―――撮影スタジオ

カメラマン「はーい、いいよー! 凛ちゃん、卯月ちゃんの方にもっと寄って寄ってー!」

凛「は、はいっ」

 ニュージェネレーションズの三人は社内のスタジオでピンナップの撮影をしていた。
 卯月が撮影の合間にちらと壁時計を見ると、午後五時二十五分だった。

卯月(そろそろ開演でしょうか……頑張ってくださいね、ゆかりちゃん……!)

 フラッシュを瞬かせながらシャッター音を連続させる一眼レフのカメラ。
 三人は集中しながら笑顔を浮かべ、ポーズを取り、写真を撮られていたが、

凛(……ん?)

卯月(あれ?)


未央(カメラの故障……?)

 気付くと、いつの間にかシャッター音が立たなくなっていたのだ。
 確かに設定変更をすれば消せるだろうが、カメラマンにそういう素振りは全く見られなかった。

カメラマン「んん?」

 カメラマンも不審に思ったのだろう、手持ちのカメラを検め始めた。

未央「ね、どうしたんだろう?」

凛「カメラ、故障したのかな」

 スタジオ内が妙な空気に包まれた、その時――
 突然、場内スピーカーから鬼気迫った声が流れ出した。


アナウンス『お知らせします! 東京渋谷区に怪獣が出現! 直ちに避難してください!』

 スタジオに動揺が走り、スタッフたちがざわめき出す。
 渋谷区といえば346プロがあるこの場所だ。

アナウンス『これは訓練でも何でもありません! 直ちに避難してください!! 繰り返します――』

凛「卯月、未央!」

卯月「は、はいっ!」

未央「うん!」

 ニュージェネレーションズの三人は顔を見合わせて、スタジオを飛び出した。


 廊下を走りながら凛がスマホでネットを立ち上げる。

凛「宇宙から飛来した怪獣……現在渋谷区五丁目を移動中……って、すぐそこ!?」

未央「嘘ぉ!?」

凛「半径3㎞に緊急避難指示を発令、5㎞に注意報を発令……ってことは」

卯月「文化会館のゆかりちゃんたちは大丈夫みたいですね。良かった……」

未央「ふ、二人とも! あれ!」

 突然未央が窓の外を指さす。夕焼け空の下、割合近くに怪獣の姿が認められた。

 黒い二足歩行の怪獣。恐竜のような頭部の両側には翼のようなヒレが広がっている。
 背中と腰からはナイフのような細い翼が一対ずつ生えていた。

怪獣「グギャアアアアアアオン!!!」

 怪獣の雄叫びにびくっと身体を震わせながらも、三人は事務室まで急いだ。


―――事務室

卯月「プロデューサーさんっ!」

エックス『来てくれたか!』

未央「もちろん! さてどうする?」

卯月「こ、今回は私に行かせてください!」

凛「卯月……」

卯月「大丈夫です! 私、二人よりお姉さんですし!」

未央「わかった。頼んだよ、しまむー!」

凛「プロデューサー、絶対に怪我させないでよ」

エックス『わかってる!』


 卯月は事務所から出ると、デバイスをXモードに変形させた。

卯月「島村卯月、頑張りますっ!」

エックス『よし、行くぞっ!』

 出現したスパークドールズを掴み、デバイスにリードする。

『ウルトラマンエックスと ユナイトします』

卯月「――エックスーーーーーっ!!!」

エックス「――イーーッ、サァーーッ!!!」

『エックス ユナイテッド!』


怪獣「グギャアアアアアアオン!!」

エックス「ハァ――セアァッ!」

 怪獣とエックスが対峙する。じりじりとビル群を縫うように移動しながら間合いを計る。

怪獣「ギーギャォオオオオン!!」

 怪獣が咆哮したのを機としてエックスが駆け出した。しかし――

エックス「……デアッ?!」

 ある違和感を覚えたエックスは立ち止まった。すると怪獣の方から突っ込んでくる。

怪獣「グギャァァアアアアアアオン!!」

エックス「! ハァッ!」


 ドスンドスンと地響きを立てて迫ってくる怪獣。
 対して再び走り出すエックスの足音は、そこだけ抜け落ちてしまったかのように全くの無音だった。

エックス「……!?」

怪獣「ギャアアアーーーオオオン!!」

 狼狽えているところに腕を叩きつけられ、体勢が崩れる。

エックス「グッ」

怪獣「ギアアアアアオオン!!」

 怪獣の巨体が迫り、再び腕を叩きつけようとしたが、しゃがんで躱す。

エックス「テェヤッ!」

 そして、すかさず蹴りを入れる。怪獣もよろめいて、後ずさった。


エックス『そうか……思い出したぞ。この怪獣、ノイズラーだな』

卯月『知ってるんですか?』

エックス『ああ。音を食べてしまう怪獣だ』

卯月『音を……食べる……?』

エックス『食べられた音は聞こえなくなってしまう。だから私の足音もなくなってしまったんだ』

卯月『ああ……! それであの時……』

 撮影スタジオの時も。シャッター音だけ消えていたのはノイズラーに食べられたせいだったのだ。

卯月『それにしても……おいしいんですかね……? 音って……』

エックス『……。さあ……』


ノイズラー「グギャアアアアアアオン!!」

 ノイズラーの頭部のヒレが黄色い光を帯びると当時に、目から光線が発射された。

エックス「! グアアッ……!」

 命中して、後方に吹っ飛ばされるエックス。
 よろよろと起き上がると再び頭部のヒレが光っていた。

エックス「デアァッ!」

 横っ飛びして光線を躱すと同時にXスラッシュを放つ。
 怪獣も軽やかな動きでそれを回避した。

エックス「ハァッ、デアッ!」

 起き上がったエックスが再びファイティングポーズを取る。
 ノイズラーも好戦的に構えを取った。

ノイズラー「ギーギャォオオオオン!!」


―――コンサートホール・楽屋

 一方、コンサートホール。
 避難指示は発令されていなかったが、怪獣出現のニュース自体は伝えられていた。

ゆかり「……皆さん、大丈夫でしょうか……」

音葉「ゆかりさん。気持ちは分かりますが、音を乱してはいけませんよ」

ゆかり「は……はい。大丈夫です。練習したとおりに……」

 楽屋のモニターを見ると、ステージには夏樹がギターを引っ提げて登場したところだった。
 やがて演奏が始まり、激しいギターサウンドがかき鳴らされる。

星花「夏樹さんのギターは熱い……でしょうか?」

 星花が音葉を振り返ってそう言う。

音葉「そうですね。ゆかりさんとは逆に、感情を昂ぶらせる……そんな熱いものを感じます……」

 と、その時。三人は同時にドアが乱暴に開かれる音を耳にした。


―――渋谷区

 時は少し遡って、渋谷区。

ノイズラー「――!」

 ノイズラーの耳がぴょこぴょこ動いたと思うと、突然エックスを無視して明後日の方向に顔を向け始めた。

エックス『どうしたんだ、こいつ……?』

ノイズラー「ギーギャォオオオオン!!!」

エックス「!」

 エックスが驚く。ノイズラーがいきなり飛び上がり、逃げ始めたのだ。


卯月『こ、これ、逃がしちゃっていいんでしょうか!?』

エックス『宇宙に帰るつもりではないようだ。逃がすわけにはいかない!』

 卯月が持つデバイスにカードが転送されてくる。

エックス『卯月、それを使え!』

卯月『わ、わかりました!』

『サイバーエレキング ロードします』

 サイバーカードをロードするとエックスの上半身にアーマーが纏われていく。
 右腕にはキャノン砲、左肩にはエレキングの頭部を模したパーツが装着された。

『サイバーエレキングアーマー アクティブ!』


卯月『――エレキング電撃波!!』

エックス「イィッ、サァァーーッ!!」

 エックスが砲身を突き出す。空を行くノイズラーの頭部のヒレがぴくっと動いた。
 猛スピードで襲い掛かる青・黄・緑の三色を交えた光線。しかし激突するかと思われた寸前、ノイズラーがさっと横に躱した。

エックス「!」

 虚空へ消えて行ってしまう電撃波。こうしている間にもノイズラーの影は遠くなっていく。

エックス「――ジュワッ!」

 エックスもまた飛び上がり、ノイズラーの追跡を始めた。
 その背中に向けて電撃波や光のロープを放つが、ノイズラーは背を向けているにもかかわらずそれら全てをことごとく躱していく。


卯月『ぜ、全然当たりませんよ!?』

エックス『こちらが攻撃を放つ寸前、耳が動いてるな』

卯月『耳ってあの頭のヒレのことですか? た、確かに……そうですね』

エックス『恐らく私たちの動きによって生じる微かな音を感じ取れるのだろう。だから見えていなくても攻撃を察知して躱せるというわけだ』

卯月『……! いったいどうすれば……!』

 追跡劇を繰り広げている間に怪獣とエックスは渋谷区を越えて東の港区へ入っていた。
 凄まじい速度で飛行する両者は首都高速3号に沿うように港区を北上し、千代田区へ。

 国の中枢であり、怪獣の脅威にてんやわんやする霞が関をスルーして、更に北東へ――
 瞬く間に変化する避難区域に台東区が含まれたのも、この時だった。

 そう。今まさに夏樹がギターを奏でているステージがある、台東区に……。


―――コンサートホール・楽屋

 乱暴に開かれたドアを振り返ると、息を切らしたスタッフが駆け込んでくるところだった。

スタッフ「た、大変です。避難指示がここにも来ました。怪獣がこっちに向かってるそうです!」

三人「!」

 間を置かずアナウンスが鳴って、会場中にそれが知らされた。
 モニターを見ると演奏は中止になり、観客は恐慌状態になっている。だが――

 突然かき鳴らされたギターの旋律に皆が静まった。
 注目の的になった夏樹がマイクを手に取り、客席に訴える。

夏樹『みんな! パニックになって逃げだしたら怪我人が出るかもしれない! 後ろの席の人から落ち着いて避難して!』

ゆかり「夏樹さん……」

星花「夏樹さんは強い御人ですわね……」

音葉「私たちも避難しましょう」

 頷いて部屋を出る。その際にゆかりがモニターを振り返ると、夏樹はまだステージに立っていた。
 みんなを落ち着かせるためか、静かなメロディーを一人で奏でていた。


―――台東区上空

 台東区に入って少しするとノイズラーが下降を始めた。
 この状態で攻撃すると地上に被害が出てしまいかねない。一旦攻撃をやめ、エックスもまた降下し始めた。

ノイズラー「ギアアアアアオオン!!!」

卯月『ここって……!』

 東京文化会館。アイドルムジークフェスタの会場だ。

卯月『音を食べる怪獣……そっか! 美味しい音を食べたくてここまで来たんですね!』

 ひとりで納得する卯月だったが、ユナイトはそろそろ限界に近付いていた。
 カラータイマーが点滅し始める。


エックス『まずいな、時間がない!』

卯月『早めに片付けちゃいましょう――きゃあっ!?』

 卯月が悲鳴を上げる。
 ノイズラーの光線がエックスの身体を襲ったのだ。

エックス「デヤァ……ッ!」

 膝を突くエックス。カラータイマーは絶えず鳴り響いている。

ノイズラー「グギャアアアアアアアアアアオン!!!」

 まるで怒り狂っているかのようにノイズラーが猛烈な勢いで突進してくる。
 何とか抑えつけるも、ノイズラーはすぐさま頭突きを繰り出してきた。

エックス「グアアアッ!!」


卯月『も、もしかして、このカラータイマーが気に入らないんですかぁ!?』

エックス『くっ……卯月、一旦ユナイトを解除するぞ! これ以上続けたら君まで危ない!』

卯月『で、でも!』

エックス「ハアアッ!」

 卯月の反論は聞かず、エックスがユナイトを解除した。
 怪獣からは少し離れた場所に卯月の身体が解放される。

卯月「ぷ、プロデューサーさん!?」

エックス『大丈夫だ、ここにいる』

 デバイスの画面を見るとエックスの顔が映っていて卯月は安堵した。
 しかし怪獣はまだ健在だ。絶望的な気分で見上げると――


卯月「……あれ?」

ノイズラー「……グギャアァァァオン……?」

 カラータイマーの音が消えたからだろうか、ノイズラーは一転大人しくなっていた。
 そして辺りをきょろきょろと見回している。まるで、何かを探しているかのように。

卯月「な……何してるんでしょう……?」

エックス『演奏の音を探しているのか……?』

卯月「あ……そっか……。みんな避難しちゃって演奏が終わっちゃったから……」

ノイズラー「グギャアァァァオン……!」

 するとノイズラーはその場で地団太を踏み――


ノイズラー「ギャアアアーーーオオオン!!!」

 近くにあった建物を蹴り飛ばした。

エックス『!』

卯月「ぷ、プロデューサーさん……! もう一度ユナイトしましょう……!」

エックス『無理だ! 今の君のダメージを考えたら、ユナイトしたってまともには戦えない!』

卯月「でも……!」

 その時――

ゆかり「卯月さーん!」

 ドレス姿のゆかりが卯月の元まで走ってきた。


卯月「ゆかりちゃん! ここは危険ですから、早く――」

ゆかり「いいえ。私もみんなを助けるために戦います!」

 そう言い放つゆかりの脳裏には先程の夏樹の姿が残っていた。
 ファンの前では決して動揺せず、皆を安心させて避難させた、あの毅然とした姿が。

ゆかり「あの怪獣……もしかして演奏を聴きにここまで来たのではありませんか?」

卯月「あ……はい。たぶんそうかなって」

エックス『だが妙なのはタイミングだ。演奏が聴きたいだけならそもそも最初からこの場所に来ればよかったのに……』

ゆかり「……もしかして、音に好き嫌いがあるとか?」

卯月「あっ……確かに、カラータイマーの音は嫌いなようでした……」


ゆかり「つまり、好きな音楽が演奏されたからそれを聞きつけてこの場所まで来た……そういうことですね」

エックス『その音楽が何かわからないか?』

ゆかり「タイミング的に考えると、ギターのものだと思います。夏樹さんが演奏を始めたばかりでしたから」

卯月「ギター……ですか」

ゆかり「プロデューサー」

 ゆかりが卯月の手からそっとデバイスを取り上げる。

ゆかり「私とプロデューサーの力を合わせれば、あの怪獣を大人しくさせられます」

エックス『……ああ。わかった、行こう!』

 ゆかりは頷くと、卯月の方を振り向いて言った。


ゆかり「ごめんなさい。ちょっとプロデューサー、お借りしますね」

卯月「はっ……はい。頑張ってください!」

ゆかり「はい。――行きましょう!」

 ゆかりがデバイスをXモードに変形させると、エックスのスパークドールズが出現した。
 それを包み込むように優しく掴み、デバイスにリードする。

『ウルトラマンエックスと ユナイトします』

 すうっと息を吸って、ゆかりが叫ぶ。

ゆかり「――エックスーーーーーっ!!!」

 掲げ上げたデバイスからX字の光が放たれ、彼女を包み込み――

エックス「――イーーッ、サァーーッ!!!」

 その中から現れたエックスが、電光を撒き散らしながら地上に降り立った。

『エックス ユナイテッド!』


ノイズラー「ギーギャォオオオオン!!」

 再び現れたエックスにノイズラーがファイティングポーズをとる。

ゆかり『プロデューサー、行きますよ――』

 しかしゆかりはそれに取り合わず、転送されたサイバーカードを受け取った。

『ウルトラマンビクトリーナイト ロードします』

 それをロードすると、突き出されたエックスの手のひらの中に青い笛のようなものが出現した。
 “ナイトティンバー”。ビクトリーナイトが持つ神秘の剣で、今はティンバーモードという横笛の形態をとっている。

エックス「!」

 エックスはその唄口に口を近づけて、演奏を始めた。

ノイズラー「ギーギャォオオオオン!!!」

 その音が耳に入るや否やノイズラーが激昂し始めた。


ゆかり(大丈夫……)

 音葉の言葉を思い出す。

『何と言うのでしょうね……熱く昂ぶりすぎた心を鎮めるような……そんな印象を受けます』
『殺伐とした心を「癒す」ような……そんな暖かさがあると私は思います』

 彼女はゆかりのフルートをそう評価した。
 そしてノイズラーが好む夏樹のギターの音は、

『ゆかりさんとは逆に、感情を昂ぶらせる……そんな熱いものを感じます……』

 正反対の音なのだからノイズラーが気に入らないのは仕方がない。
 だが「癒し」の力はきちんとあるはずだ。これは楽器が違っても、ゆかりの心の表出なのだからぶれることはないだろう。

ゆかり(あとは、怪獣さんに私の演奏を気に入ってもらうだけ――)

 今にも襲い掛かろうとするノイズラーを前にゆかりは冷静だった。
 ナイトティンバーのあるキーに指を掛ける。すると――


ノイズラー「!」

 出された音にノイズラーが反応し、ぴたりと動きを止めた。
 ナイトティンバーは神秘の楽器。笛の音の他、ギターやドラムに似た音も出すことができるのだ。

ノイズラー「グギャアァァァオン……!!」

 ギターサウンドに歓喜しているのか、踊るような挙動を見せるノイズラー。
 目の前でそんな反応を見せられたらゆかりの方も楽しくなる。演奏が波に乗る。

ノイズラー「ギーギャォオオオオン……」

 しばらくするとノイズラーが大人しくなった。もういいだろうと考えエックスが笛を下ろす。

ノイズラー「ギアアアアアオオン」

 ノイズラーはエックスに背を向け数歩進み、それから夕焼け空に飛び上がった。
 お腹いっぱい好物の音を食べたのだ。もう満足しただろう。エックスもそう考えた。


エックス『一件落着だな』

ゆかり『え? まだですよ』

エックス『えっ?』

 驚くエックスを尻目にゆかりはナイトティンバーをソードモードに変形させた。

『放て! 聖なる力!』

エックス『え……!? え!?』

ゆかり『だって、あの子のせいで色んな人が迷惑したでしょう?』

エックス『そ……それはそうだが、ノイズラーだって悪気があったわけじゃ』

ゆかり『宇宙からやって来てそれはないでしょう。こちらの都合もきちんと考えてもらわないと』

エックス『い……一理あるが……いや、でも……』

ゆかり『もういいでしょう。早くしないと届かなくなってしまいます』

エックス『う、うぅ……』


『スリー! ナイトビクトリウムシュート!!』

 三回のポンプアクションの後、剣の峰を左手でさっと払う。
 粒子が周囲に飛び、剣を立てるにつれその刀身に集っていき、青い輝きを纏わせていく。

エックス「「――ナイトビクトリウムシュート!!!」」

 剣と左腕を十字に組ませると同時に刀身から青白い破壊光線が放たれた。

ノイズラー「――!?」

 ノイズラーは自慢の耳でその音を捉えたが、腹いっぱいになった鈍重な身体で反応が一瞬遅れた。
 光線が怒涛の勢いで、暗くなってきた夕焼け空を切り裂く。背後からノイズラーの全身を包み込んだ。

ノイズラー「ギーギャォオオオオン……!?!!??」

 空中に爆煙が広がる。その中に青白い光が集っていくのを見ながらエックスは剣を下ろした。

エックス『許せ……ノイズラー……』

ゆかり『プロデューサーは優しいですね。そこも素敵ですよ』

エックス『うっ、ううっ……』


―――街中

卯月「あっ、見つけました!」

 戦闘終了後、ゆかりたちは落下したスパークドールズの回収作業にかかっていた。
 卯月が路地裏にそれを発見し、ゆかりとエックスの元に持ってくる。

エックス『おお。よくやったぞ、卯月』

卯月「えへへ」

ゆかり「ふふ……私たちの演奏会をめちゃくちゃにした罰、きちんと受けてもらいますよ……」

エックス『ちょ、ちょっとゆかり?』

ゆかり「どうしましたか? プロデューサー」

エックス『私は君を信用しているが、念のため聞いておく。ノイズラーを倒したのは「みんなに迷惑をかけたから」だよな? 決して私怨からではないよな?』

ゆかり「もちろんですよ。私『たち』の演奏会ですから……ふふっ♪」

エックス『…………』

 ゆかりの純粋な笑顔に何も言えなくなってしまうエックスなのだった……。


第三話 おわり


≪アイドルの怪獣ラボ≫

卯月「卯月と!」

ゆかり「ゆかりの!」

卯月・ゆかり「「怪獣ラボ!」」

卯月「今回の怪獣は、これですっ!」

『ノイズラー 解析中...』


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エックス『“騒音怪獣”ノイズラー。音を食べてしまう習性を持っているぞ!』

エックス『また、耳がかなり良く、音で攻撃を察知して素早い動きで躱してしまうんだ!』

ゆかり「元は『ウルトラマン80』第7話の怪獣。その子はカラータイマーの音を聞いただけでげんなりして帰ってしまったようですね」

卯月「こっちの子は暴れん坊だったんですね~」

卯月・ゆかり・エックス「「「次回も、お楽しみに!」」」


≪次回予告≫

こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!

突如飛来し東京を襲撃した“極悪宇宙人”テンペラ―星人!

何でも、プロデューサーさんを倒して宇宙一の称号を得たいらしいです。プロデューサーさん、そんなに凄い人だったんですね……。

それはともかく、立ち向かうのは凛ちゃん! 頑張ってください!

次回、ウルトラマンXP第四話! 『不可思議突入、五秒前!』 ふわぁ……ちょっとお昼寝です……。


第四話 『不可思議突入、五秒前!』


―――事務所

 それは、突然のことだった。

こずえ「ふわぁ……」

ゆかり「ふふっ。こずえちゃん、おねむですか?」

こずえ「……んー……こずえ……おひるねー……」

珠美「こ、こずえちゃん! まだ仕事が残っておりますぞ!」

こずえ「ふわぁ……ぷろでゅーさーがぁ……つれてってくれる……よねー……?」

エックス『えっ、いや……今の私には』

珠美「……あっ! そうです、今のエックス殿には無理ですから、ここは『大人のお姉さん』としてこの珠美が送っていってあげますよ!」

裕子「大人の……」

未央「お姉さん……?」

珠美「ちょっとそこぉー! 何で疑問形なんですか!」


 くすくすと笑いが起こる真昼の事務所。
 そんな、何気ない日常を破るようにして……。

凛「――!?」

 突然、雷鳴にも似た轟音が室内をどよもした。

珠美「な、ななな、何ですかぁっ!?」

 窓がびりびりと震える。事務所中の物がかたかたと震動し、デバイスがデスクから落っこちる。

エックス『あだっ!』

卯月「ぷ、プロデューサーさん! 大丈夫ですか!?」

エックス『だ、大丈夫だ……しかし一体何だったんだ?』


 揺れは収まっていた。しかしただの地震だとは到底思えない。
 窓際に寄っていたゆかりは、驚いた顔で部屋の方に振り返った。

ゆかり「み、皆さん! あれ……!」

 高層ビルの上階に位置するこの部屋からは街を一望することができた。
 ゆかりが指さす方向を見る。潰された商業ビルの上に、群青色をした人型が佇んでいた。

凛「あれ、何? 宇宙人?」

エックス『あれは……テンペラー星人だろうか。知っている個体と比べるとずいぶんスタイルが良いが……』

 エックスの超視力をもってすれば遠い宇宙人の姿もはっきりと視認できた。
 兜のような頭部、甲冑と金のマントを着込んだ胴体。両手は鋏になっており、全体的にすらりとした体形をしている。

テンペラー「――全地球人類に告ぐ!」

裕子「喋りましたよ!? あっ、もしかしてさいきっくテレパシー!?」

ゆかり「地球語練習したんでしょうか?」

凛「そういう問題じゃないと思うけど……」

 そんなことを言われているとは露知らず、テンペラー星人は続ける。


テンペラー「我が名はテンペラー星人! 要求はひとつ! ウルトラマンエックスを差し出せ!」

エックス『何……!?』

テンペラー「聞き入れられない場合、我らがテンペラー星の科学力をもってこの星を滅ぼす!」

エックス『……っ!』

凛「プロデューサー。駄目だよ、こんなの罠に決まってる」

エックス『だが……』

 この世界にはXioはいない。特殊な戦闘部隊がいなければテンペラー星人には敵わないだろう。

エックス『だが、行くしかない。この世界を守るためには戦う以外に道はないんだ』

凛「…………」

 凛はじっとエックスの顔を見詰めていたが、やがて諦めたように溜め息をついた。


凛「わかった。でも、私も一緒に行かせて」

エックス『凛……』

凛「どっちにしろプロデューサーには誰かがついてなきゃ駄目でしょ。今回はそれが私ってだけ」

エックス『わかった。頼むぞ凛!』

 頷いた凛は、デバイスを手に部屋を後にした。

卯月「凛ちゃん、大丈夫でしょうか……」

未央「大丈夫大丈夫。私だって勝てたんだから、しぶりんに勝てない道理はない!」

珠美「そうですね。凛殿なら必ずや勝利を手土産に凱旋してくれるはずです」

卯月「そう……そうですよね!」

 顔から心配そうな色を消し去り、窓に向き直る卯月。
 そんな彼女たちの様子を、こずえはソファにもたれながらぼうっと眺めていた。

こずえ「…………。ふわぁ……」


凛「プロデューサー、行くよ!」

エックス『ああ。ユナイトだ!』

 一方、外に出た凛はデバイスをXモードに変形させた。
 出現したスパークドールズを掴み、デバイスにリードする。

『ウルトラマンエックスと ユナイトします』

凛「――エックスーーーーーっ!!!」

エックス「――イーーッ、サァーーッ!!!」


テンペラー「!」

 テンペラーの目の前。着地の衝撃でアスファルトを砕き、その破片を散らしながらエックスが降り立った。

『エックス ユナイテッド!』


テンペラー「来たか……ウルトラマンエックス!」

エックス『テンペラー星人! 何が目的で私を呼び出した!』

テンペラー「フフハハハ! 無論、それは貴様を倒し、私が宇宙一の称号を得るためだ!」

凛『……そんなに凄い人だったんだ。プロデューサー』

エックス『いやぁ、それほどでも……』

テンペラー「――行くぞッ!!」

エックス「!」

 鋏を構え、テンペラー星人が突撃する。
 横に躱してそれを払い、空いたボディーにパンチを数発打ち込む。


エックス「ハァァ……!!」

テンペラー「グッ……」

 叩きつけようとする左鋏を右腕で受け止め、左手で更に拳を入れようとする。

テンペラー「フンッ!」

 しかしそれは星人の右鋏に止められた。下から叩き上げられ、すかさずがら空きになった脇に叩きつけられる。

エックス「グッ!」

 かなりの衝撃だった。細身に似合わず怪力らしい。
 続けざまに鋏が振るわれるが、バク転してそれを躱す。


エックス「デェアッ!」

テンペラー「デェェェイッ!!」

 距離を取ったうえでファイティングポーズをとるが、テンペラーが鋏から電撃鞭を繰り出した。

エックス「ジュアァ……ッ!」

 叩きつけられた勢いで一回転して、振り向いたところを返す刀でもう一撃。
 全身に痺れが走り、思わず膝を突いてしまう。

凛『く……っ。こいつ、強い……!』

エックス『大丈夫か、凛……!?』

凛『大丈夫。これくらい……!』


エックス「ハァァッ……!」

 力を振り絞り、エックスが立ち上がる。
 顔の前に交差させた腕を振り下ろすと、胸のカラータイマーが金色に輝いた。

エックス「ハァァ――!」

 カラータイマーに腕を翳してから全身を捻らす。エックスの後方に電子基板のような青白い電光が伸びていく。

テンペラー「ムンッ!」

 一方でテンペラー星人も必殺技の構えを取っていた。両手の鋏の中に青白いスパークが漲り――

エックス「「――ザナディウム光線!!!」」
テンペラー「――ウルトラ兄弟必殺光線!!!」

 両者同時に光線を発射した。

 両腕をクロスさせて放つエックスの青白い光の奔流、ザナディウム光線。
 両手の鋏に溜め込んだエネルギーを合わせて放出する、テンペラー星人のウルトラ兄弟必殺光線。

 青白い二つの光線がぶつかり合い、その衝撃で周囲の物を吹き飛ばしていく。


エックス「イィーーッ、サァーーッ!!」

テンペラー「デエアアアアアアア!!!」

 互いに譲らない。両者とも足元のアスファルトを反動で砕きながら耐え抜く。
 しかし決着は唐突に訪れた。両者のエネルギーが全く同時に尽きたのだ。

エックス「グッ……デアッ……!」

 肩で息をしながら膝を突くエックス。しかし――

テンペラー「ヌオオオオオッッ!!」

 執念はテンペラー星人の方が上だった。咄嗟に顔を上げると、マントを広げて低空飛行し迫り来る青い体躯が目の前に。
 躱すことすらできず激突する。テンペラーの鋏がエックスの首を絞め、地上を引きずり回す。

凛『ぐ……くっ、あぁっ!』

 ばたばたと手足を暴れさせると何がダメージになったのかわからないが星人が手を離した。
 しかし仰向けに倒れるエックスの目は捉えていた。上空に飛び上がり、旋回して地上向けて突撃してくる星人の影が。


テンペラー「ハァァァアアッ!!」

 次の瞬間、大地の揺れと共にビルの高さまで土埃が巻き上げられた。
 吹き飛ばされたアスファルトやコンクリートの破片が飛び、ビルの壁や路上の車と衝突して破壊音を立てる。

未央「……!!」

 事務所からそれを見ていた未央たちは目撃した。
 薄れてゆく土埃の中――首を掴まれ宙に持ち上げられる、エックスのぐったりとした姿を。

ゆかり「プロデューサー!」

卯月「凛ちゃん!」


凛『ぐ……っ! かはっ……』

 カラータイマーが甲高い音と共に赤く点滅し始める。
 エックスにはもう手足をじたばたさせる体力すら残っていなかった。
 至近距離から叩きつけられる電撃の鞭を無抵抗に受け続ける。

エックス「グッ……グアァッ……!」

テンペラー「フンッ!!」

エックス「デアァッ……!」

 テンペラーがエックスを放り投げる。
 地面に這いつくばるその身体に向けてトドメの攻撃を浴びせようとしていた。

テンペラー「これで終わりだ……!!」

 テンペラー星人の鋏にエネルギーが漲っていく。


凛『ぐ……うぅっ!』

 歯を食いしばり、最後の力を振り絞る。凛がサイバーカードをデバイスにセットする。

『サイバーベムスター ロードします』

 サイバーカードをロードするとエックスの上半身に紫色のアーマーが装着されていく。
 胸にはベムスターの嘴を、肩にはその爪を模したようなパーツが、そして左腕には腹部の吸引口の力を備えた盾が取り付けられた。

『サイバーベムスターアーマー アクティブ!』

テンペラー「――ウルトラ兄弟必殺光線!!」

 テンペラー星人の光線が発射されるのとエックスが体勢を整えたのが同時だった。
 その電流のような光の奔流は、構えられた盾の吸引口に吸い込まれていく。


テンペラー「何ッ?!」

凛『ベムスター……スパウトっ!!』

エックス「――デェヤッ!!」

 エックスが盾を地面に突き刺すと、蓄えられたエネルギーが逆流して星人を襲った。

テンペラー「グオオオオオオッッ!!」

 ウルトラ兄弟必殺光線はウルトラマンに対してのみ絶大な威力を発揮する光線だ。ダメージは薄い。

エックス「イィッサァッ!!」

 間を与えず、エックスは盾を外して投擲した。円盤のように回転するそれはよろめくテンペラー星人への決定打となった。
 しかしエックスもこの一撃が限界だった。だが相手にそれを悟られぬよう、足腰に力を込めて踏ん張る。


凛『……はぁっ、はぁっ……』

 凛の視界はもう霞んでいた。今にも倒れそうになっていた彼女の目が最後に捉えたのは――

テンペラー「グ……。フフッ……愉しませてくれる……」

 そう言って立ち上がるテンペラ―星人の姿だった。

テンペラー「良いだろう……この勝負は引き分けということにしておいてやる……」

 その言葉に嘘はないのだろう、星人の声も憔悴の色が隠せないでいた。


テンペラー「だが、明日の昼……今日と同じ時間。今度こそ貴様と決着をつけに再び地球に降り立つ」

凛『……はぁ、はぁ……』

テンペラー「その時こそ貴様の最期であり、私が宇宙一の称号を得る時だ! 覚悟しておけ……フハハハハハ!!」

 そう捨て置くと、テンペラー星人はマントを広げて空の向こうに飛び去って行った。

凛『……はぁ……はぁ……』

エックス『り……凛……しっかりするんだ……!』

凛『だい……じょう……』

 言い終える前に、エックスの身体が崩れ落ち――


 ・
 ・
 ・

「………………ん! …………ちゃん!」

「……きて……さい……! め…………けて…………さい!」

凛(……卯月……?)

「――凛ちゃんっ!!」

 その悲鳴じみた声に、凛は目を覚ました。


卯月「凛ちゃん……っ!」

 目の前には、目元を赤く腫らした卯月の顔が。

凛「う……づき……?」

卯月「凛ちゃん! 気が付いたんですね!?」

凛「うん……。っ!?」

 起き上がろうとしたその時、全身に痛みが走った。

卯月「あっ、まだ起きちゃダメです! 安静にしててください」

凛「ごめん……」

 身体から力を抜いて状況を確認する。事務所の医務室のベッドの上のようだ。
 卯月の他にも未央やゆかり、珠美や裕子……仕事でいなかった美波、輝子も周りにいた。


凛「……あれ、こずえは?」

卯月「こずえちゃんなら……」

 と、備え付けのソファを指さす。こずえはその上ですうすう寝息を立てて眠っていた。

凛「……ふふっ。こずえらしい」

卯月「そうですね」

 卯月は微笑みながらそう返すが、凛はもっと重要なことを思い出した。

凛「――そうだ! プロデューサーは!?」

 戦闘に敗れたプロデューサーはいったいどうなったのか。
 もしかして――と最悪の可能性が頭をよぎるが、

未央「大丈夫。ここにいる」

 未央が見せてくれたデバイスの画面を見てほっと胸をなでおろした。


エックス『すまない凛。心配かけた』

凛「ううん。私こそごめん……」

エックス『何故君が謝る』

凛「私が上手く戦えなかったから……あいつを取り逃がしちゃった」

エックス『それは君が気に病むことじゃない。むしろ君を戦いに巻き込み、怪我をさせてしまった私が謝る立場だ。――すまなかった』

凛「そんな……私から望んだことだから……」

 しかし皆の雰囲気は沈痛に満ちていた。
 端正な凛の顔のあちこちにガーゼが当てられている。その痛々しい惨状を目にしてはそうならざるを得なかった。


美波「プロデューサーさん……」

エックス『どうした?』

美波「私、提案があるんです。プロデューサーさんのことを警察や自衛隊の方たちに託すのはどうかって……」

 みな少なからず驚いたようだったが、反論を挙げる者はいなかった。
 今まさに怪我を負っている凛を除いて。

凛「美波、それは……!」

美波「違うの。戦うのが怖くなったとかじゃなくて……」

 そこで言葉を切った美波は、弱々しい声で、

美波「ただ……戦いの素人である私たちより、もっと強い人とユナイトして戦った方がいいんじゃないかって……」

凛「それは……。確かに、一理あるけど……」

 凛の声も消え入るように小さかった。


エックス『美波。君の気持ちはわかった』

 エックスが真面目な声で応対する。

エックス『しかし、悪いがそれは無理なんだ』

美波「ど、どうしてですか?」

エックス『私とユナイトできるのはプレイ時間300時間の絆がある君たちだけだ。モブどころか存在すら知らない者とユナイトできるとは到底思えない』

美波「は……はあ。プレイ時間……?」

エックス『それどころか、恐らく私の部署に所属していないアイドルも不可能だ。つまりここにいる九人。私がユナイトして共に戦えるのは君たちだけなんだ』

美波「そう……なんですか……」

エックス『ああ。……すまない。本来なら――』

 と、エックスが続けようとした時。部屋のドアが開いた。

日本人「在日をいじめるのは差別wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww差別じゃなくて区別wwwwwwwwwwwwwwww在日という存在自体が害悪wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

日本人「日本は全ての国の中で一番先進国wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww(それは前の話)」

日本人「マスゴミ創価学会在日中国韓国反日朝日新聞ウジテレビ」ブツブツ


ジャアアアアアップwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


ちひろ「あっ、凛ちゃん起きられましたか? よかった」

エックス『…………』

 アイドルとユナイトして戦っていることはちひろには秘密だ。エックスが口を閉じる。

ちひろ「飛んできた瓦礫にぶつかって怪我しちゃうなんてほんと災難でしたね。でも逆に、これぐらいで済んで良かった」

 凛の枕元に寄ってちひろが言う。

ちひろ「お仕事、暫くはキャンセルしました。傷が癒えるまで安静にしていてくださいね」

凛「……はい……」

 部屋に沈黙が降りた。明日の昼、再びテンペラー星人が襲来する。
 その時、誰が戦いに行くのか。一介の少女である彼女たちの心は深く動揺していた。

 ――いや、一人を除いて。

 こずえは皆が重く暗い空気を出している間も、一人すやすやと眠りこけていた。























「……ここ……どこぉー……?」


「どりーむ……らんどぉー……? なにそれー……?」


「おっきい……にじ……きれー……」


「にじ……ねもと……しあわせ……?」


「ぷろでゅーさーもー……しあわせー……?」


「……………………」


「こずえが……しあわせに……してあげるー……」






















日本人「在日をいじめるのは差別wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww差別じゃなくて区別wwwwwwwwwwwwwwww在日という存在自体が害悪wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

日本人「日本は全ての国の中で一番先進国wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww(それは前の話)」

日本人「マスゴミ創価学会在日中国韓国反日朝日新聞ウジテレビ」ブツブツ


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―――翌日、正午

未央「――私が行く」

 テンペラー星人の襲撃時刻が近づいてきた頃、未央が立ち上がってそう言った。

美波「未央ちゃん……」

未央「大丈夫。私とプロデューサーは一度ユナイトしてるし。ねっ?」

美波「うん……」

未央「初めての子よりは上手く戦えると思う。それにこう見えても、結構体力には自信あるし!」

 そう言ってシャドーボクシングをし出す未央。
 おどけた様子だが、その言葉は嘘ではなかった。同じユニットの日野茜に振り回されて自然と鍛えられていたからだ。


未央「だからみんなは避難してて。大丈夫。絶対勝ってくるから!」

裕子「も、もしダメそうなら、このエスパーユッコにお任せくださいね! お力になります!」

未央「ありがとユッコ。よし、いつでもかかって来ーい! テンペラー星人!」

 すると、まるで示し合わせたように街に轟音が響いた。

未央「!!」ビクッ

ゆかり「来たみたいです……!」

テンペラー「ガハハハハ!! さぁ出てこいウルトラマンエックス!! 決着の時だ!!」

 窓からその姿を確認すると、未央はプロデューサーのデスクに向かった。

未央「プロデューサー! 行くよ!」

 しかし――


未央「あれ?」

裕子「どうしました?」

未央「ぷ……プロデューサー!? どこ!?」

 さっきまでそこに置いてあったはずのデバイスがいつの間にかなくなっていたのだ。
 部屋中大騒ぎになってあちこち探し始める。

珠美「い、いませんぞ!」

輝子「デ……デスクの下にも……いなかった……」

裕子「わ、私のさいきっくダウジングで!」

 ひっくり返したポケットからペンデュラムを取り出して念じてみる裕子だが、効果はなかった。


美波「……そういえばこずえちゃんは……?」

卯月「え? 凛ちゃんに付き添ってるんじゃ……」

美波「さっき医務室に行ったときには見なかったけど……」

ゆかり「まさか……」

 窓に寄って事務所の出入り口を見下ろしたゆかりは「あっ」と声を上げた。

ゆかり「み、皆さん! こずえちゃんが!」

 窓に寄った全員の顔からさあっと血の気が失せる。
 今まさにこずえらしき女の子が会社の門を出るところだった。その手には、デバイスらしき物体が見える。

美波「追いかけなきゃ!」

未央「やばいって……! プロデューサー何やってんの!」


 一方、こずえサイド。

エックス『こずえ! 止まれ! やめろ! 君に戦えるわけない!!』

こずえ「ぷろでゅーさー……こずえとのあいだに……きずな……ないー……?」

エックス『ある! あるが、君はまだ十一歳の女の子で――』

こずえ「じゃあー……ゆないとぉ……できるよー……」

エックス『話を聞いてくれ!!』

 みな避難したのか、東京とは思えないほど閑散としたビル街。
 こずえはやおら立ち止まって、デバイスに向けて微笑みかけた。

こずえ「ぷろでゅーさー……こずえと……ゆないと……しよー……しろー……」

エックス『ま、ま、待ってくれ! 話を――』


こずえ「ゆないとぉー」

 こずえがデバイスをXモードに変形させる。
 出現したスパークドールズを興味深そうにしげしげ眺めたうえ、それを掴んでリードした。

『ウルトラマンエックスと ユナイトします』

エックス『ちょ、ストップ! 「ユナイトします」じゃない!!』

 しかし聞く耳持たず、こずえがデバイスを掲げ上げる。

こずえ「えっくすぅーーー……」

 放たれたX字の光がこずえの小柄な身体を包み込み――

エックス「イーー……サーー……」

 ……そんな気の抜けるような掛け声を上げながらエックスが現れた。

『エックス ユナイテッド!』


美波「あぁ……」

 撒き散らされる電光を眩しそうに見ながら、美波は溜め息を漏らした。

未央「間に合わなかった……」

輝子「フ……フヒ……どうすんだこれ……」


エックス『ああ……私としたことが、こんな小さな子とユナイトしてしまうなんて……』

テンペラー「フハハ! やはり現れたな! 貴様は逃げるようなタマではないとわかっていたぞ!」

 テンペラー星人は嬉々としているが、エックスは完全に狼狽していた。


エックス『こずえ! ユナイトを解除するぞ!』

こずえ『なんでぇー……?』

エックス『何でって、君にまで危害を加えるわけには――』

こずえ『けどぉ……こずえとぷろでゅーさー……さらなるつよいちからで……ゆないと……できるよぉ……?』

エックス『えっ……?』

 身に覚えのある台詞が出てきてエックスが思いとどまった。

こずえ『これー……』

 こずえがどこからともなく取り出したのは――


エックス『なっ……何故君がそれを!?』

 青い短剣、エクスラッガーだった。

こずえ『ひろったー……』

エックス『どこで!?』

こずえ『ゆめ……』

エックス『ゆ、夢……!?』

こずえ『じゃあー……いくよー……?』

エックス『えっ、あっ、ええっ!?』

 完全に取り乱しているエックスを無視して、Xの字を描くようにエクスラッガーをぶんぶんと振り下ろす。


こずえ『えくしーどぉ……えっくすぅー』

 その虹色の軌跡がエックスと重なり合い、彼の姿を変貌させていく。
 全身を包み込んだ光が弾けると、そこにいたのは、今までとはかけ離れた姿のエックスだった。

未央「え……何? あれ……」

美波「虹色の……巨人……」

 銀色はそのままに、赤が消え、黒が多めとなった体躯。
 その中には七色の線が流れ、頭部には虹の象徴のようにエクスラッガーが収まっている。

 それこそエックスが虹の短剣の力で強化された姿――“エクシードエックス”。
 ……なのだが……。

エックス『な、何故だ!? 何故エクシードエックスになれたんだ!?』


エックス『そもそもどうしてエクスラッガーが!? 夢の中で拾った!?』

エックス『……ハッ、こずえとの親愛度がMAXだったから? いや、それなら別に他のアイドルで出来ていてもおかしくなかった……』

エックス『い、一体どういうことなんだ!?』

 ……当のエックスは完全にパニックを起こしていた。

テンペラー「姿を変えたか……だがこの私には通用せんっ!!」

 そんなことはお構いなしにテンペラー星人が突っ込んでくる。

エックス『ハッ! こずえ、危ないっ!!』


 星人の鋏が振り下ろされるが――

エックス「デヤー」

 エックスはひらりとそれを避けた。

テンペラー「ムンッ! デェイッ!!」

 攻撃の手を緩めず何度も何度も縦に横にと鋏を振り回すが、ことごとくエックスの脱力した動きに躱されていく。
 まるで風に揺れる柳のよう。攻撃をいくら繰り出しても暖簾に腕押しだった。

テンペラー「やるな……なるほど、特別な呼吸をして力を抜き、敵を翻弄するフォームということか……!」

エックス『違う!』

テンペラー「何が違う! ならばこれだ!!」


 テンペラーの鋏から電撃鞭が振るわれる。

エックス「ジュワー……デヤァー……セーイ……」

 超高速かつ不規則な動きで縦横無尽に空間を駆け回る鞭だが、何故かそれすらも当たらない。
 全て紙一重で、神がかった動きで回避されていく。

テンペラー「グッ……これならどうだ! ――ウルトラ兄弟必殺光線!!」

 鋏を構えてエネルギーを溜めようとするテンペラーだったが、そんな攻撃予期できていたとばかりにエックスがぴょんと跳びあがっていた。

テンペラー「何っ!?」

エックス「ドゥワァー……」

 テンペラーの肩を踏みつけ、飛び越える。


エックス「デイッ」

 振り向きざま、力が抜けに抜けた腕がぶんと空を切る。
 それに伴って発射された光刃が、振り返ったテンペラー星人の顔に直撃した。

テンペラー「グオオッ!!」

こずえ『えへー……なんか……でたぁー』

 そしてぴょこぴょことダンスするような動作でエックスが動く。
 腕が振るわれた拍子に発射される光刃は示し合わされたように全弾テンペラー星人の顔面を襲った。

テンペラー「グ、ヌヌゥ……!!」

 ばさっとマントを広げ、飛翔するテンペラー。
 加速しながら空中で旋回し、勢いを加え、真正面から猛スピードでエックスに突進してくる。

エックス『こずえ、危ない!』

こずえ『うんー……あぶないー……』

エックス『言ってる場合か!!』


テンペラー「ハアアアアアアア!!!」

 そうこうしている間にテンペラーが目前に迫っていた。
 防御姿勢すら取らず棒立ちのエックス。次の瞬間、テンペラーが突き出した鋏がエックスに襲い掛かった――

エックス『!?』

 ――と思われたが、またもや回避は成功していた。

エックス『な、何が起きたんだ……!? 自分でもわからない……!』

 狼狽えるエックスの右手にはいつの間にかエクスラッガーが握られていた。

エックス『……!?』


 エックスが振り返ると、テンペラー星人が地上に墜落したところだった。
 両者の間にばらばらと金色をした何かが落ちてくる。破られたマントのようだった。

エックス『こ、こずえ……あの一瞬で攻撃を躱し、更にエクスラッガーを抜き、その上マントを叩き斬ったのか……!?』

こずえ『……うーん……こずえ……よくわかんない……』

エックス『そ、そうか……』

こずえ『ふわぁ……ぷろでゅーさー……そろそろ……おひるねー……』

エックス『あ、ああ……』

 エクスラッガーを額に戻し、右手を添えながら左手を滑らせる。
 その手を上から下へとなぞらせると、黄・赤・紫・青の光が上から順に灯っていく。


テンペラー「グ、グウウ……ッ!」

 テンペラー星人も立ち上がり、光線のエネルギーを鋏に蓄える。

テンペラー「――ウルトラ兄弟必殺光線!!」

 そして放たれた必殺光線と同じタイミングで、エックスの額からも破壊光線が放出された。

こずえ『えくすらっがーしょっとぉー』

エックス「デュワー」

 そんな緩い掛け声とは裏腹に、発射された光線は怒涛の勢いでテンペラーの光線を押し返す。

テンペラー「グ……! グアアアアアアアーーーーッ!!!」

 遂にはその身体を呑み込み、虹色の光の中に爆散させた。

エックス『……あー……えっと……よく……やったぞ……??』

こずえ『ぷろでゅーさーに……ほめられたー……えへへー……』

 エックスはわけがわからないままユナイトを解除するのだった。


―――後日、事務所

凛「あっ、テレビにプロデューサー出てるよ」

エックス『えっ?』

 数日後、凛もすっかり回復し、明るい雰囲気が戻った事務所。
 エックスの戦いを紹介している番組を偶然発見した凛はデバイスの画面をテレビに向けた。

アナウンサー『先日の戦いではウルトラマンが姿を変え、侵略宇宙人を圧倒しました』

アナウンサー『その際、戦闘スタイルが大幅に変わっていることが大きく注目されているのですが……武道に造詣が深い中野さん、どうでしょう?』

有香『はい! 中国の酔拳にも似ている独特な動きでしたね』

 戦闘の映像が流れ出す。まるでグリーザ第二形態のような奇妙な動きをエックスがしている。


有香『恐らくあの姿になることによってこのような拳法が使えるようになるのだと思われます』

アナウンサー『酔拳のような……ですか』

有香『はい。全身から力を抜き、独特な動きで相手を翻弄する……興味深いですね!』

アナウンサー『そうですね~。ウルトラマンもあんな変な動きするんですもんね~』

 笑い声が響くスタジオに、居ても立ってもいられなくなったエックスが声を張り上げた。

エックス『違うんだ!! エクシードエックスはそういう形態じゃないんだぁああああ!!!』

こずえ「……すう……すう……」

 エックスが悲愴な様子で取り乱す一方、こずえはいつも通りすやすやと眠っているのだった。


第四話 おわり


≪アイドルの怪獣ラボ≫

凛「凛と!」

こずえ「こずえのー……」

凛「怪獣ラボ!」
こずえ「かいじゅうらぼー……」

凛「今回の怪獣はこれだね。怪獣じゃないけど」

『テンペラー星人 解析中...』


http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira107209.jpg


エックス『“極悪宇宙人”テンペラ―星人! 打倒ウルトラマンに燃える宇宙人だ!』

エックス『両手の鋏から伸ばす電撃鞭、そして対ウルトラマンの必殺技「ウルトラ兄弟必殺光線」を武器とするぞ!』

こずえ「もとはー……『うるとらまんたろう』の……」

凛「第33、34話に登場した宇宙人。ウルトラ六兄弟に倒されたんだ」

凛「ちなみにこのリメイクは映画『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』に登場」

凛「メビウスは危なげなく一人で倒したね。……私たちも、負けてられない」

エックス『そうだな!』

凛・エックス「「次回も、お楽しみに!」」

こずえ「おたのしみにー……」


≪次回予告≫

こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!

……え? 今回の予告、これを読むんですか? ……はい。わかりました……。

さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら

さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら――人類。

次回、ウルトラマンXP第五話! 『さらば友よ -Toadstool, forever-』 べ、べにてんぐだけーーーっ!!!


>>1です。
これまで三日に一度ペースで投下してましたが、最終回まで出来上がったので、次回からできる限り毎日更新で行きたいと思います。


第五話 『さらば友よ -Toadstool, forever-』


―――事務所

裕子「ムムムムム~~ン……っ!」

 人が出払った事務所。フリータイムの裕子はひとり超能力の特訓をしていた。
 ヒヨコの形をしたスポンジを握り込んで念じ、手を開くと増えているというものである。

裕子「どうだっ!」

 ばっと手を開く。しかし手のひらに乗っていたスポンジには何の変化もない。

裕子「むむ……」

 その後も同じ動作を繰り返すが、結局一度として成功しなかった。

裕子(はあ~……今日も成果はなしですかぁ)

 肩を落としながら事務所を出て行く裕子。
 しかし彼女は気付いていなかった。

 彼女が念じた何らかの力――それが、思わぬ方向にヒットしていたことに。

 そしてこの時は誰も気付いていなかった。

 それが、これから始まる惨劇の引き金となったことに――


―――???

輝子(…………。どこだ? ここ……)

 見覚えがあるような気がするのに、全然知らない場所。
 輝子は気が付くと、そんなところにひとり佇んでいた。

輝子(……あっ、もしかして事務所か……?)

 広々とした空間。見覚えのある間取り。いつも皆が腰掛けているソファと、プロデューサーのデスク。
 輝子はそのそばに歩いていき、下を覗き込んだ。

輝子「フ……フフ……元気してるか……」

 しかしそれが目に入った瞬間、輝子は目を見張った。
 机の下で栽培しているキノコ。それが前見た時より著しく成長していたのだ。

輝子「……?」

 それだけならまだ良かった。輝子にとってキノコは友達だ。友達の成長は嬉しい。
 だがその成長の結果が問題だった。――机の下のキノコ、それがまるで胎動するかのように脈を打っていたのだ。


輝子「ど、どうしたんだ……!?」

 慌てて机の下に潜る輝子。恐れはなかった。何故なら彼女にとってキノコは友達だったからだ。
 狭く薄暗い空間の中で今この瞬間も巨大化しているキノコ。傘の部分がぐぐっとデスクを持ち上げ――

 ――ガッシャアアアアン!!

 机がひっくり返ると共に置いてあった物がなだれ落ち、派手な衝撃音が響いた。

輝子「……!」

 輝子の目の前でみるみるうちに大きくなるキノコ。終いには天井を突き破り、柄の下からは蔦のような太い菌糸が伸長して床を這う。
 窓ガラスを突き破り、外壁を伝い、巨大な事務所そのものを包み込んでいく。

輝子「な、な、な……何が起きてるんだァァァアアアーーーーッ!!!」

 思わず例のテンションが表に出て狼狽える輝子だが、その時。


??「やあ、マイフレンド」

 マスクの下から発したようにくぐもった低い男の声が聞こえて、弾かれたように輝子は振り向いた。
 窓のそば、スーツに身を包んだ男が背を向けて立っていた。

輝子「お、お、お前は」

??「私の名は“フォーガス”」

輝子「……! それは……」

フォーガス「そう。君が丹精込めて育ててきたキノコの名だ」

 背中を向けていたフォーガスが振り向く。輝子は思わず息を呑んだ。
 その顔が人間のものでなく、まるで桑の実と蜂の顔が一体化したようなものだったからだ。


輝子「ふぉ、ふぉ、フォーガス……!? お前が……!?」

フォーガス「その通りだよマイフレンド」

輝子「ま、マイフレンドって……」

 すると、フォーガスはどこか沈んだような声を出す。

フォーガス「……やはりこんな恐ろしい見た目なら、フレンドとしては認めてくれないか」

輝子「そ……そんなことないぞ! 確かにちょっと驚いたけど……キ、キ、キノコはみんな……私のトモダチだ……」

フォーガス「ショウコ……。ありがとう、やはり君は選ばれた人間だ」

輝子「え……選ばれた……? どういうことだ……?」

 するとフォーガスは両手を広げ、滔々と語り出した。


フォーガス「人間の進化とは何故かくもノロいのかと思わないかね? ショウコ」

輝子「え……?」

フォーガス「私は思うのだ。菌糸を伸ばし更に巨大化できる我らキノコたちが、人間に代わってこの地球を支配すべきだと」

輝子「…………」

フォーガス「我らは今も猛スピードで成長し続けている。だが人間はどうだ? もう進化の袋小路に入り、行き詰ってしまっているのではないか?」

輝子「え、えと……」

フォーガス「――ああ。別に深く考えてもらわなくても構わない。ただ、ひとつ言っておきたいのは――」

 言葉を切ると、フォーガスは輝子に一歩近づき、右手を差し出した。

フォーガス「君だけは選ばれた人間だということだ。我らキノコを愛し、菌糸の世界で共に生きることのできる人間だ」

輝子「共に……生きる……」

フォーガス「ああ。共に行こう、ショウコ――」

 フォーガスの手が、輝子の手を取ろうとしたその時――


輝子「――っ!?」

 がばっと、輝子は眠りから覚めた。

輝子「はあっ、はあっ……」

 心臓がばくばくいっている。気付いていなかったが、かなり緊張していたらしい。
 脳裏に鮮明に再生される。巨大化するキノコ。フォーガスが伸ばした手。

輝子「ゆ、夢……? ホントに……?」

 ここはベッドの上だ。パジャマも着ている。部屋を見回してみても、寮はいつも通りの朝だ。
 だが夢とは思えないリアリティがあの映像にはあった。五感を震わせ、脳を揺さぶるような現実感が。

輝子「はあ……はあ……。すうーー……はあーー……」

 いったん深呼吸して、自室で栽培しているキノコに目を向ける。それらには何の異変も認められなかった。

輝子「だ、大丈夫……だよな……フヒ……」

 ほっとして額の汗を拭ったとき、遠慮がちなのが透けて見えるささやかなノック音がした。

小梅『輝子ちゃんー……? 起きてるー……?』

輝子「あ、ああ……! 今行く……」

 輝子はベッドを下り、いつも通り小梅と共に食堂へ向かった。


―――食堂

幸子「皆さん、おはようございます! カワイイボクの参上ですよ!」

 朝にもかかわらずいつも通りシャキッとした幸子がやって来て、輝子と小梅の近くに座った。

蘭子「煩わしい太陽ね……」

飛鳥「やあ。また太陽が一巡りしたね。今日もまたいい日になるといいけど」

乃々「お、おはようございますぅ~……」

 続いて蘭子、飛鳥、乃々も集まる。最近は歳がほぼ同じこのメンバーと一緒に食べることが多かった。

幸子「あ、そういえば蘭子さん、飛鳥さん。ダークイルミネイトのライブツアー決まったとお聞きしましたが?」

飛鳥「そうなんだよ。全く、採算が取れるのか甚だ疑問だね。まぁこの業界で金銭主義でない姿勢には好意を覚えるけど」


小梅「ふ、二人とも……すごく人気急上昇中って……聞いたよ……?」

蘭子「フ……我らが魅了の魔術に掛かれば造作もないこと……」

飛鳥「だけど、いったいその内の何人がボク達の『聲』を聴き取ってくれるのだろうね。――いや、少し天邪鬼すぎたかな。何にせよ、応援してくれるファンは大事にしないとね……」

幸子「そーですよ。バチが当たりますよ、そんなこと言ってたら!」

飛鳥「例えば?」

幸子「目を覚ましたら高度3000メートルのヘリの中にいるとか……無人島に置き去りにされてるとか……」

飛鳥「それは嫌だな……」

小梅「何か……言葉に重み……あるね……」

幸子「おかげでその対策に部屋にキャンプ用品がどっさりですよ……はぁ……」

 などと、大体この四人がよくわからない会話を繰り広げ、それを輝子と乃々が黙って聞いている感じである。
 だが今朝は、幸子の「目を覚ましたら」という言葉に輝子の脳が反応した。


輝子(あの夢……)

『君だけは選ばれた人間だということだ。我らキノコを愛し、菌糸の世界で共に生きることのできる人間だ』

輝子(フォーガスは……あんなこと言ってたけど……)

 ――いや、あれはただの夢だ。
 ぶんぶんとかぶりを振るが、耳の奥にあの声が蘇ってしまう。

『だが人間はどうだ? もう進化の袋小路に入り、行き詰ってしまっているのではないか?』

輝子(でも……)

小梅「頑張ってね、二人とも……」

幸子「そうですねえ。ライブツアーはボクもやったことがありますが、体力的にキツイところがありますから」

飛鳥「ああ、有難う」

蘭子「ふふ。其方等の言霊、しかと胸に刻み付け、流離の旅へ……」


幸子「はあ~。ボクも良いお仕事貰いたいですねえ。できればバラエティ以外で……」

小梅「でも……幸子ちゃんも……前よりいっぱいテレビ……出るようになったし……」

蘭子「斯く言う小梅も、闇夜の荒野……光輝の銀幕、種々なる舞台に出ておるではないか」

小梅「え、えへへ……」

幸子「何にせよ、これからみんなでステップアップしていきましょうね! カワイイボクがついてます!」

 そうだ。ダークイルミネイトの話にもあったように、彼女らも着実に進化を遂げている。
 行き詰っているなんて、そんなことはない。幸子ちゃんも小梅ちゃんも……と考えたところで声が挟まった。

乃々「も……もりくぼは今のままでもいいかも……」

輝子「ヒャァッハァーーーーーッッ!!!」

 余りにも唐突な発狂に皆が一斉に動きを止めた。

幸子「ど、どうしましたか輝子さん!?」

輝子「そんなネガティブ発言する奴ァキノコに食われっぞォォォ!! ボノノさァァァァン!!!」

乃々「えっ、えっ……はぁ……」

輝子「はぁ……はぁ……し、しまった……朝っぱらから」

 何事かと食堂中の視線が輝子たちのグループに向けられて、メンバーは苦笑するしかなかった。


―――事務所

輝子「お……おはよう……フヒ」

 おそるおそるドアを開けて中に入る。部屋もまたいつも通りで、輝子は安堵した。

エックス『輝子、おはよう! 今日は十三時からボイスレッスンだぞ』

輝子「う、うん……がんばる……」

 プロデューサーのデスクに寄って、一度深呼吸する。

エックス『? どうした、輝子?』

輝子「い……いや……」

 意を決してデスクの下を覗く。

輝子「……!」

 そこに置いてあったキノコたちは――


輝子「い、いっぱい育ってる……」

エックス『キノコの話か? よかったじゃないか』

輝子「う……うん……」

 確かに普通に嬉しいことだ。だが、あの夢のことが思い出されてしまう。
 ただの夢だということは重々承知しているが――

輝子「な、なあ……プロデューサー」

エックス『なんだ?』

輝子「宇宙人のプロデューサーから見て……その……地球人は、これ以上進化できると思うか……?」

エックス『? どうしたんだ? 突然』

輝子「い、いや……なんとなく……」


エックス『そうだな……私は人間の可能性は無限大だと思っている』

輝子「……」

エックス『どんな時でも諦めない強い意志。そして希望を持って未来を切り拓いていく意志。これらを備えた人間はきっとこれからも、無限に進化し続けていけると思う』

輝子「そっか……」

エックス『私自身、地球人には驚かされることばかりだ。君にしても同じことが言える』

輝子「私……?」

エックス『ああ。スカウトした当初は周囲にも馴染めていなかったのにな。今はあんなに多くの友達に囲まれ、立派にアイドルをやって……凄いぞ……偉いぞ輝子……』

輝子「そ……そういうの恥ずかしいから……やめてくれ……」

エックス『何が恥ずかしいことがあるんだ? もっと胸を張れ!』

輝子「い、いや……そうじゃなくて……」


エックス『輝子の良いところはもっとあるぞ? 例えばステージ上での変貌ぶりだ。あれにはファンでなかったものまで心を惹きつけられるインパクトが――』

輝子「ヒャァッッハァァァーーーーッッッ!!!」

エックス『!?』

輝子「ストォォォーーーップ!! ウェェェーーーイト!! 顔から火がバーニングしちまってもいいのかァァァアア!!!」

エックス『顔から火がバーニング……? ハッ、まさか輝子、君はグレンファイヤー族の一員……!?』

輝子「とりあえずレッスンしに行ってくるぜエエエエエ!!!」

エックス『あっ、ちょっと!』

 風のように事務所を出て行った輝子をエックスは不思議そうに見送っているのだった。


 ・
 ・
 ・


―――寮・輝子の部屋

輝子「うぅぅーーん……」

 その夜。寝床についた輝子はうなされていた。


輝子「……ここは……」

 彼女の見ている夢。
 昨日も見た、妙な雰囲気と違和感が漂う事務所。

「やあ、ショウコ」

輝子「!」

 そして、あの声。振り向くと、あの顔が窓際にあった。


輝子「フォーガス……」

フォーガス「気持ちは決まったかい?」

輝子「え……?」

フォーガス「おやおや、忘れているわけじゃないだろう。私たちと共に菌糸の世界で生きようという話だよ」

輝子「…………」

フォーガス「昨日も言ったとおり、君は選ばれた存在だ。さあ、共に行こう……」

 フォーガスが輝子の方に一歩近づく。釣られるようにして輝子は一歩退いた。

フォーガス「……そうか。まだ決心がつかないというのか」

輝子「……わ、私は……」

フォーガス「いいだろう……どうせすぐ、君の気も変わる」

輝子「……?」


フォーガス「起きてみると嫌でも気付くだろう。そこは既に君の元いた世界ではなく、我ら菌糸の世界に生まれ変わっているはずだ」

輝子「え……?」

フォーガス「いいか? 決して水道を使うんじゃないぞ。もしそうしてしまえば君もその姿を保ってはいられなくなる」

輝子「ど、どういうことだ……!?」

フォーガス「フフフ。目覚めればわかることさ。――グッバイショウコ。また後で会おう」

輝子「……!」

 すると夢の中の輝子の意識はふっと遠のき――


輝子「――っ!」

 現実の方の彼女の意識が浮上した。


輝子「はぁ、はぁ、はぁ……」

 カーテンがほんのりと明るい。もう朝のようだが、全然眠れた気がしなかった。
 喘鳴を繰り返しながら部屋を見渡す。夢の内容とは反して何も変わった様子はなかった。

輝子「ハ……ハハ……そうだよな……たかが夢だもんな……」

 笑ってごまかして、枕元のスマホを見る。七時二十二分。外の暗さを考えれば、もうそんな時間かといったところだった。
 ただ、そろそろ小梅が来てもおかしくない時間だ。

輝子(身支度澄ませとこう……)

 ベッドから降り、洗面所に入る。蛇口をひねる。水が流れ出し、くるくる渦を巻いて排水口へ吸い込まれていく。

輝子(…………)

 それを見詰めているうち、何とも名状しがたい不安感が胸に満ちてくるのを輝子は感じた。


『いいか? 決して水道を使うんじゃないぞ』
『もしそうしてしまえば君もその姿を保ってはいられなくなる』

輝子(た……ただの夢だろ……何ビビってんだ私……)

 その流水に手を入れようとした瞬間――
 突然ポケットの中でスマホが振動して、輝子は飛び上がるほど驚いた。

輝子「び、びっくりした……。ボノノさん……? も、もしもし……」

 受話口に耳を近づけると、微かに乃々の声が聞こえてきた。

乃々『キ、キノコさん~~……?』

輝子「あ、ああ……どうしたんだ……?」

乃々『どうしたって……キノコさんの方は……何ともないんですかぁ……』

輝子「何ともないって……?」


乃々『もりくぼの部屋の中……なんか……大変なことになってて……小梅さんたちには連絡つかないしぃ……』

輝子「大変なこと……?」

乃々『く、口で説明するの難しいんですけど……なんか……部屋の中に植物の蔦……? みたいなのがいっぱい生えてて……起きたら……』

輝子「こ、小梅ちゃんたちには連絡つかなかったんだな……?」

乃々『は、はい……』

輝子「わかった……」

『起きてみると嫌でも気付くだろう。そこは既に君の元いた世界ではなく、我ら菌糸の世界に生まれ変わっているはずだ』

輝子(まさか……)

 何か恐ろしい事態が進行している、そんな気がした。


 少し考えてから、輝子は乃々に言う。

輝子「じゃ、じゃあ。ボノノさんの部屋は蘭子ちゃんたちと近いから、確かめに行ってみてくれないか……?」

乃々『えぇー……そんなの……むーりぃー……』

輝子「私も、小梅ちゃんたちの様子を調べたらそっち行くから……な?」

乃々『うぅ……わかりましたけど……早く来てくださいね……』

輝子「う……うん。努力する……」

 乃々との通話を切ると今度は小梅に電話した。しかし一向に出る気配がない。電源を切っているわけでもなしにだ。
 小梅は諦め、次は蘭子へ。しかし彼女も同じで、それから飛鳥、まゆ、番号を知っている寮住まいの他のアイドルと、次々と掛けても同じことだった。

 輝子はごくりと唾を飲み込み、蛇口を閉めた。


 顔も洗っていないことは恥ずかしかったが、四の五の言っていられない。
 輝子は小梅の部屋に行くためドアを開けた。――すると。

輝子「……!?」

 目に飛び込んできた光景に輝子は目を丸くしたまま、玄関に立ち尽くした。
 廊下の壁、床、天井。乃々の言った通り、そこには練色をした、植物の蔦のようなものが這っていたのだ。

輝子「な……なんだこれ……」

 昨日まではこんなもの全くなかったのに。一晩でジャングルに生まれ変わってしまったかのようだった。
 蔦を這っているところを踏まないようにしておそるおそる廊下に出、小梅の部屋まで急ぐ。

輝子「こ、小梅ちゃん……起きてるかー……?」

 ドアを軽くノックしながら呼びかけるも、返事がない。


輝子「は……入るぞ……」

 預かっていたスペアキーを鍵穴に差し込む。ごくっと喉が鳴った。
 鍵を開け、ノブに手を掛けた時だった。突然ノブがひとりでに回った。

輝子「! こ……小梅ちゃん、いたのか!? よかった――」

 と思ったのも束の間だった。ドアが開き、姿を現した小梅を見た瞬間、輝子は絶叫して腰を抜かした。

小梅「…………」

輝子「こ、ここ、こ、小梅ちゃん……なのか……!?」

 小柄な体格、見覚えのある服装、それらは彼女が小梅であることを示していた。
 だが彼女の顔が――いや、その頭部全体が、巨大なキノコに変貌していたのだ。

小梅「…………」

 キノコと化した小梅は何も言わず、じりじりと輝子に近づいて来る。
 輝子は反射的に逃げ出した。すると廊下の曲がり角の奥から悲鳴が聞こえた。乃々の声だ。


輝子(ボノノさん……!)

輝子(ああもう、何が起きてるんだ一体……!!)

輝子(夢なら覚めてくれよぉ……!!)

 気を抜けば涙目になってしまいそうなのを懸命にこらえる。今は乃々の様子を見に行かなければならない。
 廊下の角で曲がると尻餅をついている乃々の姿が見えた。その前には、恐らく蘭子と思われるキノコ人間が。

乃々「ひ、ひぃぃぃ……!!」

輝子「ボノノさんっ!!」

乃々「き、キノコさぁん……っ!!」

 乃々の元に駆け寄り、手を引いて走り出す。

乃々「キノコさん、これどういうことなんですかぁ……!」

輝子「わ、私が知るわけないだろ……!」

 反射的にそう言ってしまったが、輝子は同時に夢の内容を思い出していた。


輝子「やっぱりフォーガスの仕業なのか……?」

乃々「え……? フォーガスって……」

「違うよショウコ」

輝子・乃々「「!」」

 二人同時に足を止める。誰の姿も見えないのに声が聞こえたからだ。
 足元の蔦が動き出す。二人の前の地点で集合し、人間の形に変形する。夢の中で会ったフォーガスだった。

輝子「フォーガス……!」

フォーガス「フフフ。忠告は聞き入れてくれたようだね。嬉しいよ、ショウコ」

乃々「え……、え……? ど、どういうこと……」

 輝子の背に隠れながら乃々が動揺を見せる。


フォーガス「この建物を支配しているのはこの私、フォーガスだ。この蔦のように見えるものは私の菌糸だ。今にこの街全体を飲み込むだろう」

輝子「街全体……?!」

フォーガス「だが住人をキノコにしているのは私ではなく“マシュラ”だよ」

輝子「マシュラって……!」

フォーガス「そう。これも君が手塩にかけて育ててきたキノコだ。フフフフフッ」

乃々「キ、キノコさん! どういうことなんですかぁ!」

輝子「そ、それは……」

 その時、またポケットの中で着信音が鳴った。画面を見ると、エックスからの電話だった。


輝子「ぷ、プロデューサー……!」

エックス『輝子! これは一体どういうことなんだ!?』

輝子「え……事務所の方でも……?」

エックス『まさか君の寮でもか!?』

輝子「あ……ああ……! それで今――」

 目の前のフォーガスに視線を向けた瞬間――

エックス『うわああああっ!?』

輝子「!? プロデューサー!? おい!」

 エックスの悲鳴がしたかと思えば、そのまま何も聞こえなくなってしまった。


輝子「ま、まさか……お前が……」

フォーガス「フッフッフ、その通りだよショウコ。彼はしばらく私たちで預からせてもらう」

輝子(プロデューサーが……)

 乃々と一緒に逃げながら輝子は秘かに考えていた。この事態を解決するにはプロデューサーの力を借りる以外ないと。
 しかしそのプロデューサーが相手の手に落ちてしまった。これではどうすることもできない……。

フォーガス「そして貴様もだ。下等生物には消えてもらおう」

乃々「――きゃあああああっ!?」

輝子「! ボノノさんっ!!」

 いつの間に背後から菌糸が乃々に近づいていた。彼女の足首を掴み、廊下の先にずるずると引っ張っていく。


乃々「いや! いやですぅ~~っ! ゆるしてぇ~~~っ!!」

 しかしそんな悲痛な叫びも聞き入れられない。
 床に這う菌糸を掴もうとするとすかさず別の菌糸が手首に絡まり自由を奪う。

乃々「――キノコさぁぁぁぁぁああん!!!」

 涙を流しながら輝子の方へ弱々しく手を伸ばそうとする乃々だが、もう既にどうしようもない距離だった。
 呆然とする輝子の目の前で乃々は何処かへ連れ去られ、フォーガスと二人残された。

輝子「ボ……ボノノ……さん……」

フォーガス「ハッハッハ。君の友達は既に全てキノコ人間となっている。彼女もじきにそうなるだろう」

輝子「そんな……」

フォーガス「――さあ、共に行こう。ショウコ……」

 そう言って、フォーガスが一歩近づいて来る。


輝子「い、嫌だ……」

フォーガス「安心したまえ。君は選ばれた存在と言ったはずだ。君だけはその姿のままいてもいいんだよ」

輝子「う、うぅ……」

 力が抜けてへたり込んでしまう輝子。そんな彼女の鼻先にフォーガスが手を差し出す。

フォーガス「さあ……」

輝子「うぅぅ……!」

 頭が混乱して、もう何も考えられない。
 過去の映像が走馬灯のように次々と去来し、いずれ自分の中が空っぽになってしまう気がする。

 そうなってしまえば、自分は間違いなくこの手を取ってしまうだろう。
 友達をみんな見捨てて、この化け物の手を取って、自分だけのうのうと生き抜こうとするだろう。

 そんな裏切り者の自分が間もなく現実になってしまう。涙が溢れ出し、頬を伝い落ちて行く。
 嗚咽が止まらなくなる。絶望に押し潰された胸から、言葉が零れ落ちようとした、その時――

エックス『――輝子!!』

輝子「!!」

 床に転がっていたスマホからエックスの声がした。


エックス『私は絶対に諦めない! だから君も――』

 慌ててフォーガスがそれを拾い上げるが、最後の言葉は輝子に届いていた。

エックス『――諦めるな!!!』

 次の瞬間、スマホは窓の外に放り捨てられていた。

輝子「プロデューサー……」

『そうだな……私は人間の可能性は無限大だと思っている』
『どんな時でも諦めない強い意志。そして希望を持って未来を切り拓いていく意志』
『これらを備えた人間はきっとこれからも、無限に進化し続けていけると思う』

輝子「……!」

 輝子はすっくと立ち上がり、フォーガスに背を向けて走り出した。

フォーガス「……! フフ……だが君に逃げ場はないぞ……」

フォーガス「この寮の人間は現在全て、マシュラの支配下にある……どこへ逃げようと無駄だ……!」


輝子「はっ、はっ、はっ……あっ、ここか!」

 輝子はある部屋の前で止まると、ドアを開けようとした。しかし鍵が閉まっていて開かない。

輝子「くっそ……助けてくれ! 頼む!! 開けてくれえっ!!」

 激しくドアを叩き続ける。するとしばらくして、内側から開錠音がした。
 ドアがゆっくり開く。そこに立っていたのはやはりキノコ頭の人間だったが――

輝子「幸子ちゃん、許せ!!」

 輝子はその腹に思いっきり頭突きをかました。
 どさりと倒れる元幸子のキノコ人間。ここは幸子の部屋だったのである。

輝子「確か……!」

『おかげでその対策に部屋にキャンプ用品がどっさりですよ……はぁ……』

 その言葉を思い出しながら輝子は部屋中を探し回る。


輝子「――あった!!」

 それを手に部屋を後にする。同時に、目の前にフォーガスが現れた。

フォーガス「無駄な抵抗はよせ。大人しく我々の世界に――」

輝子「こ……こ、こ……!!」

 輝子は手にしたそれをフォーガスの顔に向けた。

輝子「これでも喰らええええええええっっ!!!」

フォーガス「グオオオオオオッッ!!!???」

 先端から青い炎を吐き出すそれは――キャンプ用のガスバーナーだった。

フォーガス「グ、グウウウウウオオオオ……!!! ショウコオオオオオオ!!!」

 身体が燃え尽きる前にフォーガスが退散する。


輝子「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……ふふっ、フヒヒヒヒッ……フゥハハハハハハハッ!!!」

 まるで魔王のような高笑いを上げながら輝子が叫ぶ。
 彼女を囲もうとしていたキノコ人間に対して宣戦布告を言い放つ。

輝子「おいよォォォォ!! ゴートゥーヘル希望の奴は前に出なァ!!!」

 後ずさるキノコ人間たち。輝子は噴出孔を向けて威嚇しながらその場を脱出した。
 しかし一か八かの賭けだった。今はキノコ人間となってしまったとはいえ同僚を焼き殺すなんて輝子にできるわけはなかったからだ。

輝子(早く、プロデューサーのとこに……!!)

 寮を飛び出す輝子。しかしその時、空が暗いことに気が付いた。
 思わず仰ぐ。するとそこにあったのは曇り空ではなく――

輝子「え……」

 練色をし、波が打つように無数の皺が刻まれている空だった。
 首を回して360度確かめてみると、事務所の方角に見慣れない建物が映った。

 ――いや、あれは人工的な建物などではない。
 生々しい質感を持った白い塔。その頂点が皺の空に突き刺さっている。

 それはさながら、キノコの柄と、傘の裏側のヒダのように見えた。


―――エクスデバイザー内部

フォーガス「シャアアアアオオオ!!!」

エックス「くっ……何なんだこいつら……!?」

 エクスデバイザーの電脳空間。
 その中に侵入したフォーガスの怪獣態にエックスは襲われていた。

エックス「――ザナディウム光線!」

 ザナディウム光線を放ちフォーガスを爆散させる。
 しかし次の瞬間、エックスも気付かぬうちに背後から触手が迫り、その首に巻きついた。

エックス「何っ!?」

フォーガス「シャアアアアオオ!!」

 倒したはずなのに、既に背後に回られていた。かと思うと今度は左右からの触手がエックスの腕を絡めとった。
 いつの間にか二体目、三体目のフォーガスが出現しており、取り囲まれていたのだ。

エックス「グッ……!!」


―――輝子サイド

輝子「どけどけどけエエエエエエエエエエ!!!」

 街の住民は皆キノコ人間にされてしまっていたようで、輝子の行く手を遮ろうとわらわらと湧いて出た。
 その度にガスバーナーの炎で威嚇し、がむしゃらに走り続け、ようやく事務所まで到着した。

輝子「はぁ、はぁ……。ここもキノコに侵食されてるのか……」

 壁面は例の蔦のようなものにびっしりと埋め尽くされている。
 それを見上げていると、屋上に人影らしきものがあるのに気付いた。
 黒いスーツで、頭部は赤い。――フォーガスか。

輝子「……!」

 その正体を悟ると同時に輝子は気付いた。フォーガスが自分に向けて何かを示していることに。

輝子「プロデューサー!?」

 遠すぎてわからない。だがそれは、エックスが入っているデバイスのように映った。
 フォーガスの姿が見えなくなる。屋上の縁から離れたのだろう。


輝子「っ!」

 輝子は事務所に飛び込んだ。
 行く手を遮る菌糸は全て燃やし尽くす。スプリンクラーが作動して濡れ鼠になるが、気にしている場合ではない。

 しかし超高層ビルである。エレベーターも使えない今、移動には骨が折れた。
 一時間ほどを要して屋上に出た時には足がパンパンに張って、もう動くこともままならなかった。

輝子「はぁ……はぁ……はぁ……。プ……プロデューサーは……」

フォーガス「ここだ」

輝子「!」

 殺風景な屋上の中央にフォーガスが立っていた。
 その手には、やはりエクスデバイザーが。その画面は暗く、何も映っていない。

輝子「プロデューサーを……返せ……」

フォーガス「いいだろう。ほら」

 意外にもフォーガスはデバイスを放って返した。
 慌てて受け止め、画面を見る。すると突然、画面に変化が訪れた。

 ある単語がひたすら打ち込まれる。それが画面をびっしりと埋めていく。


さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら
さよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよならさよなら


輝子「ひっ……!」

 埋め尽くされると今度は文字がところどころ抜け落ちていく。
 残された「さ」「よ」「な」「ら」の文字が二つの漢字を形作っていく。

 「人類」。――「さよなら人類」。

輝子「…………」

 輝子が絶句していると、デバイスが彼女の手を離れた。
 我に返る。フォーガスの菌糸がデバイスを奪い返していた。


フォーガス「わかっただろう?」

輝子「……」

フォーガス「この世界に君の味方はもう、私たち以外にいない」

輝子「……」

フォーガス「あれを見たまえ」

 フォーガスが白い塔を指さす。

フォーガス「君も気付いているだろうが、ここは今、ひとつの巨大キノコの傘の下だ。あれはその柄なのだよ」

輝子「あれがお前の本体なのか……? フォーガス……」

フォーガス「その通り。そして、私たちは更に進化する。いずれは地球全体に菌糸を伸ばし、我らは地上の支配者となる!」

輝子「…………」


フォーガス「我々を育ててくれたのは君だ。君は我らフォーガスの女神として共に生きるのだ。さあ……!」

 輝子がぶんぶんと首を横に振る。

フォーガス「何故だ? 人類にはもう進化の余地はない。我々と共に生きる方がよほど有意義だぞ」

輝子「ち……違う……」

フォーガス「君の友人の森久保乃々がその典型ではないか」

輝子「えっ……?」

 突然友人の名前が出てきて、はたと顔を上げた。
 それまで輝子はプロデューサーが言った「諦めるな」という言葉を思い返して、どうすればいいのか真剣に考えていた。だが――

フォーガス「いつも無理無理と言って逃げ出し、やる気もない。そんな愚かな姿は今の人類の象徴ではないかね?」

 ――その言葉で、ぷつんと何かが切れた。


輝子「……取り消せ……」

フォーガス「何?」

 かっと全身が熱くなって、勝手に肩が震え出す。

輝子「ボノノさんは普段はあんなでも、みんなについていけるよう練習がんばったり、最近は仕事だって前向きになってきてるんだぞ……! それを……!」

 ひとりでに言葉が口を衝いて溢れ出してくる。

輝子「それを愚かな姿なんて……! 知りもしない癖に、偉そうな口を利くな!!」

フォーガス「…………どうやら私の見込み違いだったようだね。君は」

輝子「ああ。私だってこれまでお前をトモダチと思ってたけど、トモダチをけなすような奴はもうトモダチでも何でもねえッ!!」

フォーガス「ならば君の最も信頼する『トモダチ』にも消えてもらおう!」

 そう言い放つと、フォーガスはデバイスを手摺の向こうに放り投げた。


輝子「!」

 即座に輝子が駆け出す。もう無意識の行動だった。
 手摺を乗り越え、屋上の縁から飛び出した。

輝子「プロデューサァァァァアアア!!!」

 しかし間に合うはずもないタイミングだった。輝子の身体は真っ逆さまに落ちていく。
 届かない距離にあるデバイスに腕を伸ばしながら、共に自由落下する。

輝子「プロデューサー……頼む……!!」

 迫り来る地表なんて目に入らない。彼女は必死にデバイスだけを見詰めながら叫んだ。

輝子「私と……ユナイトしてくれぇっ!!」


―――エクスデバイザー内部

エックス「……輝子……?」

 輝子の声が聞こえた気がして、エックスは辺りを見回した。
 しかし自分を拘束するフォーガスの触手しかない。そう思ったところに、頭上から光が降ってきた。

エックス「これは……!」

 虹色の輝きに縁どられたそれはエクスラッガーだった。
 すると突然それがひとりでに動き出し、エックスの四肢を縛っていた触手をたちまちのうちに全て断ち切った。

フォーガス「シャオオオオオオ……!!」

エックス「――ザナディウム光線!!!」

 右足を軸に回転しながらザナディウム光線を放ち、フォーガスを一掃する。
 エックスはエクスラッガーを掴み、飛び立った。


―――輝子サイド

輝子「プロデューサァァァァアアア!!!」

 もう何度目かの呼び掛けをした時だった。
 デバイスの画面にエックスの顔が映った。

輝子「プロデューサー!!」

エックス『輝子! 行くぞ、ユナイトだ!!』

輝子「ヒャッハーー!! 行くぜエエエエエ!!!」

 輝子が見詰める中、デバイスがXモードに変形する。
 放たれた金色の光に、輝子は手を伸ばす。

輝子「――エエエックスゥゥゥゥゥゥウウウウウウウ!!!!!!」

 指先がそれに触れる。すると、輝子の身体が光に包まれた。そして――

エックス「――イィィィィッッ!!! サァアアァァアアアアアアアーーーーーーッ!!!」

 もはや獣の咆哮のような掛け声を上げながらエックスが現れた。

『エックス ユナイテッド!』


エックス「デュゥゥワァァアアアッッ!!!」

 キノコに侵食された建物の間をエックスが飛ぶ。まずは傘の下から脱出しなければならない。
 しかしどこからともなく菌糸が伸び、エックスを絡めとろうとする。それを避けながら彼は宙を駆ける。

エックス「デァッ!?」

 すると今度は前方から菌糸が迫ってくるのが見えた。前後での挟み撃ちだ。

エックス「イィィッサアァッ!!!」

 すかさずXスラッシュを放って眼前のそれを切り捨てる。
 そんな攻防を繰り返しているうち、前方に傘の端が見えてきた。

エックス「――ハァァッ!!」

 一気に加速し、触手を振り切り、傘の下を抜ける。朝の陽射しと青空が眩しかった。

輝子『フ、フフ……私がお日様をありがたく思う時が来るなんてな……フヒ……』

エックス『……! 輝子、あれを!』

 エックスが空中で止まり、振り返る。
 街を覆っていたキノコは予想通り超弩級の大きさだった。スケール感がおかしくなってしまいそうだった。


「ンギュウィィイッ!! ピィイッ!!」

エックス「!」

 すると突然聞こえてきた怪獣の鳴き声があって、エックスは地上に視線を向けた。
 土色をした傘に青い斑点という、まさに毒茸然とした頭部を持った怪獣がエックスを見上げていた。

輝子『なるほどな……あれがマシュラか……フヒッ』

エックス『輝子、君は何か知ってるのか?』

輝子『あれは私が育ててたキノコなんだ。何かの原因であんなにデカくなったみたいで……』

エックス『やはりか。机の下のキノコが突然巨大化したから何事かと思った』

輝子『うん……。そしてあのバカでかいキノコがフォーガス。こいつも出自はおんなじだ』

エックス『覚悟はできてるな』

輝子『あ……当たり前だ……! ――行くぜエエエエエッッ!!!』

 と、突っ込みそうになると、


エックス『――あっ、ダメだっ!』

輝子『……っとっとっと……え、何で?』

エックス『あれを見ろ!』

 マシュラの足元。キノコ頭の人間たちが群がっていたのだ。

輝子『っ……!』

エックス『迂闊に攻撃すれば巻き添えにしてしまう……!』

『フフフフフ……』

 今度は怪獣態のフォーガスが街中に姿を現す。

フォーガス『ハハハハハ。君たちには何もできまい。このまま菌糸の世界に引き摺り込んでやる!』


エックス『いや……方法はひとつだけある』

輝子『えっ?』

エックス『輝子、このカードを使うんだ!』

 輝子の元に一枚のサイバーカードが転送されてくる。

輝子『! わかった……!』

『ウルトラマンネクサス ロードします』

 そのカードをロードすると、エックスの両腕にアームドネクサスが装着された。

エックス「フッ!」

 その二つを重ね合わせ、金色の軌跡を描きながら、半月状の弧を描くように腕を水平に回す。

エックス「ハァァァァ――デェヤッ!!」

 そして拳を空に向け突き上げた。光線が放たれると、到達した天頂からドーム状の空間が形成された。


フォーガス『な、何だこれは……!?』

 それは不連続時空間“メタフィールド”。
 これによって怪獣とウルトラマンは隔離され、元の場所に影響を与えずに戦闘することが可能となるのだ。

エックス『ここにはお前たちとあの巨大キノコだけを連れてきた』

輝子『思いっきり暴れてやるぜ……ヒャッハー!!』


フォーガス「キシャアアアアアアア!!!」

マシュラ「ンギュウィィイッ!!」

 地上に降り立ったエックスに二体のキノコ怪獣が突進していく。
 それを受けてエックスはファイティングポーズを取った。振るった腕から青白い電光が宙を飛ぶ。

エックス「――ジュァッ、デェヤァッ!!」


フォーガス「キシャアアアアア!!」

エックス「ハァッ!」

 フォーガスが鞭のように腕の菌糸を振るうのを屈んで躱す。
 即座に反撃に転じる。大地を蹴りつけ、怪獣の懐にタックルする。

フォーガス「キシャァァアアア!!」

エックス「――Xクロスチョップ!!」

 Xを書くように二度チョップを入れ、更に腹を蹴飛ばす。

マシュラ「ンギュウィィイッ!! ピィイッ!!」

 その隙に背後から奇襲しようとしたマシュラだったが、


エックス「――デェヤッ!!」

 すぐさま感付かれ、後ろ蹴りで牽制された。

マシュラ「ンギュウィィィィイ!!」

エックス「イィッサアッ!!」

 振り向くと同時に右手をアームドネクサスに当てる。
 突き出した指先から光刃“パーティクル・フェザー”が翔び、マシュラを怯ませる。

エックス「ハッ!」

 すかさず前転して距離を詰め、立ち上がると共にアッパーを叩き込む。

マシュラ「ピィィイイ!!」


エックス「テエヤァ……ッ!」

 その首を抱え込み、ダイナミックに投げ飛ばした。
 フォーガスと衝突し、二体が同時に倒れる。

エックス『行くぞ、輝子!』

輝子『決めるぜエエエエエ!!』

エックス「――ハッ!」

 アームドネクサスを金色に光るカラータイマーに翳し、斜め上に突き上げた。
 右足を軸に左足を回転させ、全身を捻らせる。エックスの足元から背後に向け青白い電光がメタフィールドの地面を這い進んでいく。

エックス「「――ザナディウム光線!!!」」

 両手をクロスさせて放った光線が二体を捉え、その身体を爆炎の中に飲み込んだ。
 その中心に光が集っていく。


 ――しかし。

エックス「――グゥッ!?」

 背後から触手に首を絞められたのだ。
 振り返ってみると、もう一体のフォーガスが出現していた。

フォーガス「キシャアアアアアアア!!!」

エックス「グッ……デアァッ!!」

 触手を力任せに引きちぎる。しかしエックスの周囲にフォーガスが続々と出現しつつあった。

輝子『ど、どういうことだ……』

エックス『恐らく本体は別のところにあるのだろう。それを叩かない限り、こいつは永遠に出現し続ける』

輝子『――あの巨大キノコか!』

エックス『だろうな。あれを破壊するのは骨だが――』

輝子『チャ、チャンスは今しかない……と思う……』

エックス『そうだな。メタフィールドに閉じ込めている今が好機だ』


フォーガスA「キシャアアアアアアア!!!」

フォーガスB「キシャァァァアアッッ!!!」

フォーガスC「キシャアアアアアアッ!!!」

エックス「――デヤッ!」

 フォーガスが同時に触手を伸ばしてくるのを飛び上がって回避する。
 そのままエックスは赤い空をぐんぐん上昇した。巨大キノコの全景が見下ろせる高度まで来ると、その真上に移動する。

輝子『行くぜエエエエエエエエ!!!』

 エックスが身体を縮こめる。赤いエネルギーがその全身に溜め込まれ――


エックス「アタッカー……エーーーーーーックス!!!」

 全身でXのポーズを取ると同時にそれを全て放出した。
 X字の炎が巨大化しながら地上に向けて落ちていく。巨大キノコの傘に着弾し、炎で包み込んだ。

フォーガスA「キシャアアアアアアア……!!!」

フォーガスB「キシャァァァアア……ッッ!!!」

フォーガスC「キシャアアアアアア……ッ!!!」

 三体のフォーガスの身体が弾け飛ぶ。
 やがて巨大キノコは陥落し、地上でごうごうと燃え盛った。

フォーガス「ピィィィィィィ!!」

 すると、その火炎地獄の中からエイのような小柄な怪獣が飛び出してきた。


エックス『あれがフォーガスの本体か』

輝子『…………』

 空に逃げようとするが、ここはメタフィールドだ。逃げ場はない。
 エックスはじたばたするフォーガスを見詰めながら両腕を重ね合わせた。

エックス「ハァァ――……」

 それを胸の前で開くと、両腕を縛るようにその間に電撃が走る。

輝子『これで……終わりだ……っ!!』

 その縛りすら弾き飛ばすように両腕を上方に広げ、それからL字に組んだ。

エックス「「――オーバーレイ・シュトローーーーム!!!」」

 蒼白い光線が赤黒い空を駆け抜ける。
 フォーガスに命中すると、その身体を粒子に分解し、弾けさせた。


輝子『…………』

 その青い粒子がさらさらと舞って、消えていく。

 これで良かったのだ。トモダチを傷つけ、侮辱し、世界侵略までしようとした。
 そんな奴を放っておいたらどうなっていたかわからない。だから、これで……。

輝子『……うぅっ』

エックス『輝子?』

輝子『……うわああああああああああああああああっっ……!!!!』

 しかし、輝子は押し寄せてくる激情を堪える事が出来なかったのだった。


 ・
 ・
 ・


―――事務所・屋上

 メタフィールドを出て、ユナイトを解除すると、世界は日常に戻っていた。
 輝子は事務所の屋上で膝を抱えて、まだ肩を震わせていた。

エックス『輝子』

輝子「ん……」

エックス『袂を分かったり、裏切られたり……友達って難しいよな』

輝子「……そう……だな」

エックス『でも私は、絶対に君を裏切ったりはしない』

輝子「…………」

エックス『キノコとも友達になれる君なんだ。きっとこれからも、いい友達がたくさん持てるさ』

輝子「……エックス……」

エックス「何だ?」

輝子「……ありがとう……」

エックス「……ああ」


第五話 おわり


≪アイドルの怪獣ラボ≫

輝子・エックス「「輝子の怪獣ラボ!」」

輝子「今回の怪獣はこれだァ!! カモォォォォン!!!」

『フォーガス 解析中...』


http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira107288.jpg


エックス『“菌糸怪獣”フォーガス! ユッコのサイキックによって知性が超発達したキノコで、巨大キノコを拠点として世界を支配しようとしたんだ!』

輝子「本体は……フフ、ちっこかったけどな……」

エックス『しかしそれを見つけ出して叩かないと無限に怪獣を生み出し続けられるという難敵だったな!』

輝子「元は『ウルトラマンダイナ』第6話の怪獣。ミラクルタイプの透視能力で本体を見破られてしまったぞ……フヒ」

輝子・エックス「「次回も、お楽しみに!」」


≪次回予告≫

こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!

突如東京に飛来した謎の宇宙人“ザムシャー”!

え!? この星一番の剣士と決闘させろ? ……って珠美ちゃん、早まっちゃダメですよ~っ!

かくして始まってしまった決闘! 果たして珠美ちゃんとプロデューサーさんの運命や如何に……!?

次回、ウルトラマンXP第六話! 『心の剣』 いざ尋常に……勝負っ!!


第六話 『心の剣』


―――東京都・某高校体育館

珠美「……」

相手「……」

珠美「…………」

相手「…………」


卯月「…………」

凛「…………」

エックス『…………』


相手「…………」ジリッ

珠美「…………」ジリッジリッ

相手「…………」

珠美「…………」

相手「――ッ!」バッ

珠美「っ!」

相手「メーーーーン!!」

 バシィィッ!!

審判「勝負あり!」

珠美「……っ」


卯月「あぁ~……負けちゃいましたね、珠美ちゃん」

エックス『うむ……一瞬の迷いが勝敗を分かつ紙一重の勝負だった……』

凛「迷ってたの?」

エックス『私にはそう見えた』

凛「よくわかるね。面つけてて表情見えないのに」

エックス『仕草や呼吸もあるが、体温や脈拍の変化なども私にはわかるからな!』

凛「ふぅん……」

エックス『ちなみに凛のもわかるぞ。それによるとクールに振る舞ってはいるがけっこう試合に興奮していたことが』

凛「……」パタン

エックス『あ、おいっ! 裏返すな! 何も見えない!!』

卯月「あ、あはは……」


 ・
 ・
 ・

珠美「はぁーー……」トボトボ

卯月「珠美ちゃん!」

珠美「あっ、卯月ちゃん。凛殿とエックス殿もですか」

エックス『珠美。お疲れ』

凛「惜しかったね」

珠美「……どうでしょう。客席からはそう見えたかもしれませんが珠美的には完敗でした……」

凛「そう……」

卯月「……。一緒に帰りましょう! どこか寄っていきますか? お腹も空いたでしょうし――」

珠美「いえ……珠美は遠慮しておきます」

卯月「そうですか……?」

珠美「大丈夫です。お腹が空いた分、きちんと食べますから!」


 駅まで着いたところで珠美が卯月と凛に言った。

珠美「あの……エックス殿を御貸しいただけませんか?」

凛「プロデューサーを?」

 凛と卯月は顔を見合わせたが、何かを察したようにデバイスを渡した。

珠美「ありがとうございます!」

凛「ま、寮住みの珠美の方が事務所に近いし。送り届けるのは任せたよ」

珠美「はい。任されました!」

卯月「それじゃあ、私たちはお先に失礼しますね」

 ・
 ・
 ・


―――事務所

珠美「失礼しまーす……」

 事務所に着いた時にはもう日が沈んでいたが、ちひろがまだ事務所に残っていた。

ちひろ「あれ、珠美ちゃん? どうしたんですか? こんな時間に」

珠美「いえ。プロデューサーを届けに……」

ちひろ「あら。珠美ちゃんとデートでもしてたんですか」

エックス『違う。剣道の試合を見に行っていたんだ』

ちひろ「あぁ。どうでした?」

珠美「あ、あはは……完敗でした。エックス殿にはかっこ悪いところをお見せしてしまいまして」

ちひろ「そうですか……でも次がありますよ。頑張ってくださいね」

珠美「励ましの言葉、感謝します!」


エックス『そういえば何故ちひろさんまでいるんだ? 今日は休みだろう? 他のアイドルの仕事も入ってないし……』

ちひろ「……プロデューサーさん用に、資料をデータ化してたんですよ?」

 にっこりと笑う顔が怖い。エックスの声も細くなった。

エックス『お手数かけます……』

ちひろ「でも、私もそろそろ切り上げましょうか……珠美ちゃんは?」

珠美「珠美はエックス殿と少しお話したいことが……」

エックス『ん? 何だ?』

珠美「後で言いますから」

ちひろ「……じゃあ、戸締りはお願いしますね。お先に失礼します」

 そう言ってちひろが去ると、珠美はデバイスを持ったままソファに移動した。


エックス『何だ? 話って』

珠美「……」

 息をすうと吸って、珠美は切り出した。

珠美「エックス殿の目には今日の試合、どう映りましたか?」

エックス『迷ってたな』

珠美「やはりわかりますか」

エックス『ああ。攻撃のタイミングは何度も見えた。だが君は動くべきか迷い、逆に隙を作ってしまった』

珠美「敵いませんね、エックス殿には」

エックス『どうしてそんなに迷っていたんだ?』

珠美「実は……」


 それは二週間前の対外試合でのことだったという。
 背が低い珠美はこれまでリーチでの勝負は避け、瞬発力を生かして一気に距離を詰める戦法を得意としていた。しかし――

エックス『それが破られてしまった……そういうことか』

珠美「はい。飛び込んだ瞬間、相手の思う壺であったと悟りました。そのまま跳ね返されて珠美の負け」

 そう話す珠美の表情は苦々しかった。

珠美「その日から……相手の懐に飛び込むことに躊躇を覚えるようになりました。もし敵の策であればどうしようという恐怖が身体を縛るようになったのです」

エックス『……なるほどな』

珠美「そこで相談というのはこのことなのですが、百戦錬磨のエックス殿にご指導を賜りたいと思いまして」

珠美「どうやったら背の低い珠美でも高い相手と互角に渡り合えるようになるか……知恵を貸していただけないでしょうか」

エックス『わかった……だが、それは……』

 エックスが続けようとしたその時――


 ――窓の外から轟音がして、部屋が揺れた。

珠美「……っ!?」

エックス『怪獣か!?』

 珠美がデバイスを持って窓に寄る。
 自分の顔が反射して分かりづらかったが、エックスが先にそれを見つけ出した。

エックス『あれは……!』

 街中に佇む巨大な人影があった。夜の闇に紛れて分かりづらいが、群青色をした鎧を身に纏った宇宙人だ。
 顔にも仮面のようなものを付けており、覗き穴からは深紅色の左目が見えていた。右目には金の眼帯が覆われている。

ザムシャー「我が名はザムシャー」

 どこへともなく、その宇宙人は語り出す。


ザムシャー「此の星に来た理由は唯一つ。此の星最強の剣士よ、我と決闘せよ!」

珠美「!」

エックス『決闘……?』

ザムシャー「我は其れ以外には何も望まぬ。さあ、我こそはと思う者よ、我が前へ進みでよ!」

エックス『いやに上から目線だな……』

珠美「……エックス殿」

エックス『珠美?』

珠美「ここは珠美たちが行くしかありませんぞ!!」

 デバイスを覗き込む珠美の目はきらきらと輝いていた。


エックス『お、おい、珠美?』

珠美「あのサイズからして戦えるのはエックス殿だけです」

エックス『ま、まぁそうだろうな』

珠美「そしてそんなエックス殿と剣士の珠美がユナイトするのです! それは紛れもなく『この星最強の剣士』ではありませんかっ!?」

エックス『そうかな……』

珠美「行きますぞっ!!」

エックス『ちょ、ちょっと珠美!』


 聞く耳持たず珠美が事務所の外に出、デバイスを突き出す。
 Xモードに変形させるとスパークドールズが出現し、それをデバイスにリードした。

『ウルトラマンエックスと ユナイトします』

珠美「――エックスーーーーーっ!!!」

 掲げたデバイスからX字の光が夜の闇に解き放たれた。
 珠美の身体を包み込み、そして――

エックス「――イーーッ、サァーーーッ!!!」

 その閃光を突き破るようにして、エックスの巨躯が飛び立った。

『エックス ユナイテッド!』


ザムシャー「む……?」

 ザムシャーの目の前に光が駆け上る。
 薄れていったその跡に残された巨人に彼は問いかけた。

ザムシャー「貴様が此の星最強の剣士か?」

エックス『……さあ……』

珠美『エックス殿! そんな弱腰でどうするのです! 我々は最強! 行きますぞ!』

エックス『……だそうだ』

ザムシャー「…………まぁいい」

 言って、ザムシャーは背負っていた鞘から長剣――“星斬丸”をすらりと抜いた。

エックス『ま、待て。場所を変えるぞ』

ザムシャー「ふん。いいだろう」

 ここだと周囲に被害が出過ぎる。二人は都市部から遠く離れた山間部まで飛んだ。


ザムシャー「さて……」

 降り立つと同時にザムシャーが剣を構える。

ザムシャー「どうした? 貴様も剣を抜け」

珠美『……あっ! そういえば剣が……!!』

エックス『こ、このカードを!』

珠美『あ、そっか。流石ですエックス殿!』

 転送されたサイバーカードをデバイスにセットする。

『ウルティメイトゼロ ロードします』

 すると白銀の鎧がエックスの上半身に纏われた。

『ウルティメイトゼロアーマー アクティブ!』

珠美『この剣……竹刀とはずいぶん勝手が違いますが、やりますか!』

エックス『大丈夫なのか……?』


エックス「ハァァ――ッ!!」

 右腕全体を剣のようにしてエックスが中段に構える。
 そのまま両者は睨みあっていたが――

ザムシャー「テエエエエイ!!」

 先にザムシャーが動いた。地面を蹴って距離を詰め、剣を振り下ろす。

エックス「テアッ!」

 ゼロアーマーの剣でそれを受け止める。火花がぱっと飛ぶ。甲高い金属音が森閑とした山を震わせる。

ザムシャー「グゥゥゥゥ……!!」

 両者の力はしばらく拮抗していたが、

エックス「デ……アァッ!!」

 エックスがそれを押し返した。相手の胴が空く。一気に踏み込もうとするが――


エックス「……ッ!」

 一瞬だけ足が動かなかった。その一瞬の隙に、ザムシャーが剣を再度振り下ろす。

エックス「! ジュワッ!」

 横に転がってそれを回避する。顔を上げると目の前に剣の切っ先が迫っていた。

エックス「――ッ!」

 寸前で頭を横に逸らし、それを回避する。アーマーに刃が滑って耳障りな金属音が立つ。

ザムシャー「フンッ!」

 ザムシャーの剣が翻る。首が狙われるが、すかさず剣を挟み込んでそれを受け止める。
 立ち上がる勢いでそれを跳ね飛ばすが、今度は前のような隙は生じなかった。


ザムシャー「ハァァッ!!」

 それどころか、ザムシャーが浮いた剣をそのまま袈裟懸けに振り下ろした。
 アーマーが切り裂かれる。青白い光と変わり、暗夜に霧散した。

エックス「……!」

ザムシャー「どうした? 其れで終いか?」

珠美『まだまだ……!』

 次に転送されてきたカードをセットする。

『ウルトラマンビクトリーナイト ロードします』

 突き出したエックスの手の中に出現するナイトティンバー。それをソードモードに変形させた。

『放て! 聖なる力!』


ザムシャー「ほう」

珠美『……ナイトティンバーは手持ちの武器ですから珠美の感性に合ってますね。これなら……!』

 そう言い、珠美=エックスが再び中段に構える。

エックス『今度はこっちから行くぞ!』

珠美『はい!』

エックス「――テアッ!」

 一瞬の内に踏み込み、剣を突き出す。

ザムシャー「フンッ!」

 しかし横からの剣でいなされてしまう。互いに剣を立て、鍔迫り合いになる。


エックス「デアァ……!」

ザムシャー「ハァッ!」

 互いにぐいぐいと押し合いながら場所を移動する。

ザムシャー「ムンッ!!」

エックス「!」

 すると突然ザムシャーが力を強めた。エックスが後方に押される。
 このままだと山にぶつかる。剣を持つ手を少し緩めて攻撃を誘う。

ザムシャー「デエエエエイ!!!」

 案の定、ザムシャーが剣を振りかぶった。
 それを受け止めながらナイトティンバーを二回ポンプアクションする。


『ツー! ナイトビクトリウムブレイク!!』

 ナイトティンバーの刀身にエネルギーが集っていく。

ザムシャー「!」

エックス「「――ナイトビクトリウムブレイク!!」」

 そのままザムシャーの剣にエネルギーを伝導させる。

ザムシャー「ヌオオオオオオオッ!!!」

 しかしそう易々と破られる星斬丸ではなかった。
 ザムシャーが力を込めるとその刀身にも霊気が宿り、湯気のように立ち昇っていく。

エックス「……ッ!!」


ザムシャー「ハアアアアアアアッッ!!!」

 そしてとうとうナイトティンバーを跳ね飛ばしてしまった。
 第二撃を構えるザムシャー。エックスが咄嗟に受け太刀する。

ザムシャー「テアアッ!!」

 ナイトティンバーが真っ二つになる。地面に刺さった方も手に残った方も青白い光となって消えてしまう。

エックス「クッ……」


珠美『だったら次は……!』

『ウルトラマンマックス ロードします』

 今度はマックスのカード。掲げた右腕に“マックスギャラクシー”が装備された。


ザムシャー「今度はどんな手品を見せてくれる?」

珠美『……っ!』

 手品呼ばわりに唇を噛んだが、気にしないよう努めて攻撃態勢を整える。
 まず左足を下げてザムシャーに対して斜めに向き、右腕を腰のあたりに添える。ちょうど居合切りのような形になる。

ザムシャー「フン……小細工を」

珠美『…………』

 ザムシャーが位置を変えようと角度は維持されるようにする。
 好機は一瞬しかない。ごくりと唾を飲んだ。

ザムシャー「…………」

 すっと、ザムシャーが上段に剣を振り上げた。


エックス「――イィッサアッ!!」

 その瞬間、エックスが右腕を振るった。同時にマックスギャラクシーの先端から光が伸び、両者の距離を優に超える巨大な剣となる。

エックス「「――ギャラクシーソード!!」」

 しかし――

ザムシャー「ハァッ!!」

 まるでそれを予期できていたかのように、ザムシャーの身体は宙に舞っていた。

エックス「!」


ザムシャー「如何に長物であろうと、当たらなければ物干し竿も同じ!」

 迎撃は間に合うはずもなかった。右腕のマックスギャラクシーが叩き割られ、これもまた消滅する。

ザムシャー「ヌアッ!!」

 更に第二撃、第三撃と剣を振るうが、エックスはバク転してそれを躱し続けた。

ザムシャー「フン……」

エックス「……グッ」

ザムシャー「次の剣はどうした? もうこれで終わりか?」

珠美『エ、エックス殿!』

エックス『分かっている! 珠美、行くぞっ!』


『ウルトラマンエックス パワーアップ』

 出現したエクスラッガーを掴み、その軌道でXを描くように二度振り下ろした。

珠美・エックス「「エクシード――エーーーックス!!!」」

 エックスの全身が光に包まれ、虹色の巨人に生まれ変わる。
 額に手を当て、虹色の剣“エクスラッガー”を実体化させた。

珠美・エックス「「――エクスラッガー!!」」

 ……とまでは良かったものの。

珠美『――ってえ! こんな小さな剣じゃ当たりませんよ!!』

エックス『だが、残ってるのはこれしかないんだ!』

珠美『そんな! これじゃあいくら大きくなったって――』


ザムシャー「行くぞッ!!」

珠美『!』

 ザムシャーが駆け出す。振り下ろされた剣を短剣で受ける。

エックス「グッ……!」

ザムシャー「デイッ! ハァッ! セイヤッ!!」

 何度も何度も放たれる斬撃をその度に受け止める。しかしリーチが短すぎて反撃ができない。一方的にされるがままだ。

珠美『くっ……! エックス殿、このままだと……!』

エックス『珠美、よく聞くんだ』

珠美『えっ……?』


エックス『君が今スランプに陥っているのは、君の身長のせいじゃない』

珠美『……!』

エックス『それは君自身の心の中にある恐れから来るものだ。それを断ち切らない限り、どんなに策を弄したって勝てるようにはならない!』

珠美『でも!』

ザムシャー「――デエエエエイッ!!」

珠美『!』

 下から上へ振るわれた剣にエクスラッガーが跳ね飛ばされてしまう。
 くるくると宙を舞い、背後の山に突き刺さった。

ザムシャー「これで終わりか?」

珠美『く……』

ザムシャー「まだ闘志が残っているのなら拾いに行け」

珠美『っ!』

 エックスは山からエクスラッガーを引き抜き、再び構えた。


ザムシャー「それでいい」

 ザムシャーもまた剣を構える。

エックス『珠美。エクスラッガーには「想いを形にする力」があると私は思う』

珠美『想いを……?』

エックス『そうだ。だからどんなに短い剣であったって、君の強い想いを形にして勝利へと繋げてくれる』

珠美『珠美の……強い想い……』

エックス『そうだ。君が、自分の身長が低くて不利だからといって剣道をやめないのは、それが心の底から好きだからだろう?』

珠美『…………』

エックス『その想いを乗せるんだ。君の心の剣が折れない限り、エクスラッガーだって折れることはない!』

珠美『――はいっ!!』


エックス「セエヤッ!!」

ザムシャー「む……?」

 ザムシャーは敏感に、エックスの醸し出す雰囲気が一変したことに気付いた。
 先程までとはまるで違う。その剣には自信が漲り、静かな激情が乗せられている。

ザムシャー「フフ。面白くなってきたわ」

 わざと切っ先をくらっと揺らした、次の瞬間――

エックス「――デヤアァッ!!」

 まるで稲妻の如くエックスの巨躯が動いていた。


ザムシャー(速い――!)

 迷いなく懐に飛び込み、面を狙うエックス。
 それを間一髪で星斬丸が防ぐ。剣戟の音が木霊となって夜の山に反響する。

エックス「ジュアッ! デェイヤッ!!」

ザムシャー「フンッ! デイッ!!」

 目にも止まらぬスピードで両者が切り結ぶ。
 虹色の火花が剣戟の度に散り、闇の中にぱっと閃く。

エックス「ハッ!」

ザムシャー「フッ!」

 一旦、両者が飛び退く。しかし間を置かずエックスが再び飛び込んだ。


ザムシャー「デエエイッ!!」

 水平斬りでそれを迎え撃つ星斬丸。しゃがもうと跳ぼうと躱せない絶妙な軌道だ。
 エックスは突進しながらエクスラッガーをその軌道上に置く。激突の瞬間、身体を浮かせる。

ザムシャー「!」

 するとエックスの身体が宙に弾き飛ばされ、回転しながら舞ったのだ。
 星斬丸は振り切った直後、防御には戻れない。絶好の機会を逃さず、エックスは短剣を振り下ろした。

エックス「――デェヤァッ!!」

ザムシャー「グッ!!」

 続けざま、エクスラッガーのスライドパネルを二回なぞる。


エックス「「――エクシードスラーーーッシュ!!」」

 虹色の軌跡を無数に刻みながらエクスラッガーの連撃を叩き込む。
 最後の一撃の後、ザムシャーの身体は吹っ飛ばされて山の斜面に激突した。

ザムシャー「グゥオオオアアッ!!!」

珠美『はぁ、はぁ……やっと一撃……』

 カラータイマーが鳴り始める。起き上がったザムシャーはそれを見て言った。

ザムシャー「貴様も限界が近づいているか……次の一撃で幕だ」

 こくりと頷くとエックスは、ブーストスイッチを押してエクスラッガーを伸長させた。
 その刃を地面に突き立てる。すると背後から光のトンネルが形成され、エックスとザムシャーを包んでいく。


ザムシャー「ハァァァァ……!!」

 一方でザムシャーは剣に力を込めていた。
 刀身に光が集い、それが巨大化する。上段に振り上げ、構えた。



エックス「「エクシード――――エクスラッシュ!!!」」

ザムシャー「秘奥義――――銀河断!!!」



 エックスが飛び立ち、剣を手に突撃する。ザムシャーが星斬丸を振り下ろす。
 激突の音が天を衝くように響き渡り――


エックス「…………」

ザムシャー「…………」

 虫の声ひとつない静まり返った山間の地。エックスとザムシャーは背を向け合って立ち尽くしていた。

エックス「……デュアッ」

 唐突にエックスが振り返った。対してザムシャーは止まったままだ。
 月光を受けて妖しく輝いている星斬丸。――それに無数の亀裂が入っていた。

ザムシャー「…………」

 次の瞬間、ぼろぼろと零れ落ちる刀身。最後のひとひらが地面に落ちたのを見届けると、ザムシャーもまた振り向いた。


ザムシャー「貴様……名は」

エックス『ウルトラマンエックス。……そして』

珠美『……えっ、珠美もですか?』

エックス『当然だ。さあ』

珠美『あ……えっと、脇山珠美。16歳。346プロダクション所属のアイドルで……』

エックス『……そこまではいいから』

ザムシャー「フ……覚えておこう」

 そう言ってザムシャーは飛び立っていった。


エックス『……何とかなったな』

珠美『はい。……エックス殿。ありがとうございました』

エックス『何がだ?』

珠美『エックス殿のおかげで、珠美は大切なことを思い出すことができました』

エックス『そうか。だったらよかった』

珠美『はい! 今度一緒に鍛錬に励みましょう!』

エックス『ああ!』

 星空の下、二人はそう約束し合うのだった。


―――後日

エックス『あーあーそうじゃない! そこはもっと素早く前に!』

エックス『今だ! あぁ、今がチャンスだっただろ! しっかり!』

エックス『違う! そうじゃなくて……そこを、こう! もどかしいなぁ!』

エックス『あーもう! そんなだから先に打たれるんだ! もっと強気に!』

珠美「…………」プルプル

エックス『ん、どうした? もう練習は終わりか?』

珠美「エックス殿、うるさいですぞーーーー!!!!」


第六話 おわり


≪アイドルの怪獣ラボ≫

珠美・エックス「「珠美の怪獣ラボ!」」

珠美「今回の怪獣は、これですっ!」

『ザムシャー 解析中...』


http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira107364.jpg


エックス『“宇宙剣豪”ザムシャー! 愛刀“星斬丸”を携える孤高の剣士だ!』

珠美「太刀筋も気迫も直感も反応も鋭い強敵でしたね……」

エックス『だがエクスラッガーの力を使いこなした珠美の戦いも見事だったぞ!』

珠美「元は『ウルトラマンメビウス』第16話に登場した宇宙人。マグマ星人とバルキー星人を斬り捨て、地球に飛来しました!」

珠美・エックス「「次回も、お楽しみに!」」


≪次回予告≫

こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!

裕子ちゃんが通っている学校で連続生徒失踪事件が発生!

ここはエスパーユッコの出番ですねって……危ないですよ裕子ちゃん!

そして真相に行き着いた彼女を待っていたものとは……!?

次回、ウルトラマンXP第七話! 『魔力vs超能力』 以上、サイキック次回予告! でした!


第七話 『魔力vs超能力』


―――???

 雨音が響く暗い部屋の中――
 ぶつぶつと低い声が囁かれ続けている。

 部屋の中央に敷かれた赤い絨毯。その上には規則的に配置された蝋燭が十本。
 その間に立っている人影が四つあった。微かな炎の揺曳にその影も揺らめく。

 突然、カーテンに閃光が映り一瞬影を掻き消した。続けて轟く雷鳴が。
 しかし人影は一切動じることなく呟き続ける。人間世界のものとは思えない、不気味な呪詛を。

 カーペットの中央。蝋燭が描く幾何学模様の重心。人影が作り出す四角形の中心。
 そこに、一枚の写真が置かれてあった。

 薄緑襟のセーラー服を着た女子高生が映っている。
 撮影者には気付いていないようだ。友達らしき男子と仲良さげに喋っている、日常の何気ない一コマ。

 また、稲光。しかし一心不乱に呟かれる言葉には一糸の乱れすらない。
 その主――四人の人影。それが纏っている服もまた、薄緑襟のセーラー服だった。

 翌日、写真の女子高生が行方不明となることは、この四人以外誰も知らない。

 ――いや、もう一人いた。
 雨雲に覆われ稲妻が走る黒々しい暗夜の空――そこに浮かび上がる“怪物”が。


―――事務所

エックス『連続生徒失踪事件?』

裕子「そうなんですよ、プロデューサー!」

 夕方の事務所。セーラー服のまま事務所に駆け込んできた裕子はデバイスを取り上げるや否や切り出した。

未央「あ~それって、近頃世間を賑わしてるアレ?」

輝子「同じ高校の女子生徒が……次々に失踪するっていう……」

 ソファでくつろいでいた未央と輝子が聞きつけてデスクを振り返る。

エックス『ふむ……そんな事件があったのか』

裕子「それ、実は私の学校なんですよ!」

未央「ええ!? マジで!?」

裕子「はい! もう連日マスコミが押し寄せて来て……私のテレパシー回線がパンパンですよ」

エックス『それは辛いな』


裕子「今日もまた人がいなくなったみたいで。これで九人目ですよ」

輝子「そ……そんなにか……」

裕子「そんなになんですよ。これは流石にちょっとヤバい感じしませんか?」

エックス『ヤバいな』

裕子「でしょう?」

 しかし話している内容とは裏腹に裕子の声は弾んでいる。

エックス『警察は?』

裕子「何の手がかりも掴めてないんじゃないかって。友達に聞き取りを受けた子がいるんですけど、そういう印象を受けたって言ってました」

エックス『そうか……』


未央「怖いね。キノコちゃんも気を付けなきゃダメだよ~?」

輝子「う、うん……気を付ける……」

裕子「みんなそう言うんですよ……しかし為す術もなく姿を消していく……」

未央「ユッコ……」

 未央が呆れた顔をする。

未央「君ィ、ちょっとこの状況を楽しんでないかね?」

裕子「いえいえそんな訳ありません! ただ、このサイキック☆アイドル☆エスパー☆ユッコとしてはですね! 事件を早々に解決したいんですよ!」

輝子「で……できるのか……?」

裕子「フッフッフ……私のサイキックパワーに解けない謎はありません!」

未央「やっぱり楽しんでない……?」

エックス『で、解けたのか? 誰が犯人で、被害者はどういう手口でどこに消されたのか』

 エックスが何気なく口にすると、急に裕子が慌てたふうになった。


裕子「い、い、いえ、それはまだ……。何しろ物的証拠が足りていなくて」

未央「サイキックテレパシーで何とかならないの~?」

 意地悪な口ぶりで未央が訊ねる。裕子はひとつ大きな咳払いをした。

裕子「えー、えへん。私のテレパシーも実は万能ではなくてですねっ。だからその代わりにサイコメトリーで犯人を暴こうと思い至ったわけですよ!」

輝子「さ、さいこめとりー……? 何だ? それ……」

裕子「ふっふっふ……驚いちゃいけませんよ輝子ちゃん! サイコメトリーとは物体に残った残留思念を読み取る超能力のことです!」

未央「よくテレビでやってるね。大抵犯人はわからずじまいで番組終了するんだけど」

裕子「このエスパーユッコに限ってそんなヘマは致しません! というわけでプロデューサー! 行きましょう!」

エックス『えっ、私もか?』

裕子「当然です! サイキックアイドル×ウルトラマン……導き出される答えはズバリ! 解決の二文字以外ありません!」

エックス『なるほど、一理ある』

未央「えっ?」


裕子「では行きましょう!」

エックス『よし。じゃあ未央、輝子。後は任せた!』

輝子「え……?」

 目を丸くする未央と輝子を置いて二人は意気揚々と部屋を出て行った。

未央「……後は任せたって、どういう意味だろう……?」

輝子「……さあ……」

 すると今度はちひろが部屋に入ってきた。

ちひろ「おはようございます。ね、二人とも。さっき裕子ちゃんが慌てた様子で走っていったけど何かあったのかしら?」

未央「さあ……」


ちひろ「どうしたんでしょうね? ――さて。プロデューサーさん、来月の346プロオールスターステージのことですけど……」

 と、デスクに寄るがエックスがいない。

ちひろ「……ねえ二人とも。プロデューサーさんは?」

未央「さっきユッコと外に出たけど……」

 それを聞くなりちひろの表情がぴたりと凍った。
 しかし次の瞬間、背後に地獄の炎が見えるような良い笑顔を見せて自分のデスクに戻った。

未央「あぁ……ユッコ」

輝子「……エックスを隠してたから、慌ててたのか……」

 未央と輝子は二人して溜め息をつくのだった。


―――裕子サイド

エックス『ここは?』

 エックスは裕子に連れられてある住宅街に来ていた。

裕子「輝子ちゃんや未央ちゃんには言いませんでしたが、実は私の学校で事件についてのある噂があるんです」

エックス『噂?』

裕子「はい。これを見てください」

 裕子がデバイスを道路の横のコンクリートで舗装された斜面に向けた。

エックス『! これは……』

裕子「この傷が発見されたのは、この近くに住む三人目が失踪した翌日と言われてます」

 まるで巨大な怪鳥がその鉤爪で引っ掻いたように、水平方向に大きな傷が残っていたのだ。

裕子「つまり……失踪の原因と何らかの関わりがあるかもしれません」


エックス『サイコメトリーで何かわかるか?』

裕子「やってみます。ムムムムム~~ン……!」

 傷に手を当てて念じ始める裕子。五分ほどそうしていると、遠くからカラスの声が聞こえてきた。

裕子「むぅ……見えません」

エックス『そうか……ということは残留思念がない』

裕子「思念を残す暇さえ与えなかった……もしくは……」

エックス『――人ならざるものの仕業、か』

裕子「あり得ますね。最近では怪獣や宇宙人がよく出てきていますし……」


エックス『この他にも妙な噂はないか?』

裕子「あと一つだけ、変な傷が残っていると言われている場所があります。そこに行きますか?」

エックス『ああ。――いや、待て』

 裕子がぴたりと足を止める。彼女もそれに気付いたのだ。
 T字路になっている道の曲がり角。そこに立つカーブミラーが……。

裕子「あれも、関係してるんでしょうか……」

エックス『……さあ。だが、留意しておいた方がいいな』

 日が沈みかけている。二人は足早にその場を去った。
 静まり返った住宅街。残されたカーブミラーには蜘蛛の巣のような亀裂が入っていた。


 ・
 ・
 ・

裕子「ここが次の場所です」

 ところ変わって街の郊外。ガードレールがひしゃげて斜面側に倒れている。

エックス『塗料がついてるな。ということは、車が擦れたということか……』

裕子「確かに。そうすると、先程の傷も同じように車が……?」

エックス『可能性はあるな。しかしそれなら壊れた車が発見されてもおかしくはないはずだが……』

 そこらをうろうろと散策していた裕子は、突然声を上げて指を差した。

裕子「プロデューサー! あれを!」


エックス『あれは……』

 道路はガードレールの向こう側が斜面となっており、そこから生えた木が何本か枝を伸ばしていた。
 その枝の一本。その先に、何かが引っ掛かっていたのだ。

エックス『車のサイドミラー……のように見えるな』

裕子「サイドミラー……もしかして例の車の?」

エックス『しかし何故あんなところに……何かの拍子で飛んでいったとしても難しい方向と距離だ』

裕子「まるで、車が空を飛んでいったみたいですね……」

エックス『ユッコ。君のテレキネシスであれをこっちまで持ってくることはできるか?』

裕子「やってみます! ムムムムム~~ン……!!」

 こめかみに指を当てて念じ始める裕子。五分ほどした後、遠くの空でカラスが鳴いた。


裕子「だ……だめでした……」

エックス『そうか……しかし二回連続とは。もしかしたら何者かが君の超能力を妨害している……?』

裕子「あり得ますね。やはりあれが手掛かりということなんでしょうか」

エックス『可能性は高いな。――ユッコ、あれを!』

 エックスが声を上げる。「あれ」と言われてもよくわからないが、きょろきょろしていた裕子はやがてそれに気付いた。

裕子「またカーブミラーが……」

 道の脇に立っていたカーブミラーがまた割れていた。
 妙な符合に、背筋に冷水が流されたような悪寒を覚える。


裕子「どちらも、何かの拍子で壊れたんでしょうか?」

エックス『しかしカーブミラーの柱には何の異常も見当たらない。鏡だけが破壊されている……』

裕子「……誰かが、鏡だけを破壊した……」

エックス『何のために……?』

裕子「……鏡に自分の姿が映ったらバレちゃうから……とか……」

エックス『それはないな』

裕子「まぁないでしょうね」

エックス『だが、何かの手掛かりであることに変わりはない。ユッコ、君のクリアボヤンスで周囲に同じようなカーブミラーがないか調べてみてくれないか?』

 クリアボヤンスとは違う場所を見る超能力のことで、要するに千里眼のことである。

裕子「わかりました! ムムムムム~~ン……!!」

 両目を強く瞑って念じ始める裕子。五分ほどした後、背後の宵の空をカラスが鳴きながら通り過ぎて行った。


裕子「はぁ、はぁ……ダメでしたぁ~~……」

エックス『またしてもか……しかしクリアボヤンスまで妨害されるとは。もしやかなりの広範囲に渡って妨害が行われているのか?』

裕子「あり得ますね。大規模な計画が裏で進行してるかもしれません……」

エックス『何にしろ、早めに手を打っておく必要があるな。割れたカーブミラーの捜索を重点的にしてみよう』

裕子「了解です!」

 そうして裕子とエックスは調査を開始した。
 歩いては聞き込み、歩いては聞き込みを繰り返しながら目当てのものを探す。


裕子「あのすみません、この辺りに割れたカーブミラーを見たことありませんか?」

 時には近隣の住人に訊き……。

裕子「何のため? ええっと、えっと、あのっ……あ、そうです! 青少年の悪質なイタズラを研究している者なんですこう見えても私!」

 時には交番のお巡りさんに不審げな目を向けられながらも訊き……。

裕子「えっ、分かっちゃいますか? そう、私は美少女サイキックアイドル、エスパーユッコ――」

エックス『おい、ユッコ!』

裕子「あっ、すみませんつい!」

 時にはアイドル堀裕子ということに気付かれながらも……。

裕子「そうですか……ありがとうございました」

 そうして午後九時を回った辺りになると、目撃談もすっかりなくなってしまった。
 もう足が棒になるくらい歩き回った。裕子は近くの公園のベンチに腰を下ろしてそれまでの情報を整理した。


裕子「結局、見つかったのは七つだけでしたね」

エックス『だが、それだけあれば十分だ』

裕子「えっ?」

エックス『割れた鏡があった場所は必ずしも失踪した生徒の住んでいる場所とは一致していなかった。だが無関係と切り捨てるほど遠くもない』

裕子「確かに、ちょっと寄り道したとかこじつけられる程度ではありましたね」

エックス『そしてこの七つの地点を考えると、ある図形が導き出される』

裕子「え……?」

 デバイスに地図が映り、割れたカーブミラーを発見した地点のいくつかが線で結ばれる。

エックス『これだけでは完璧な図形にはならない。だが……』

 新たに三つの点が地図上に現れる。それも繋げると――


裕子「! ペンタグラム!」

 ――地図上に五芒星が現れた。

エックス『そう。悪魔の象徴の完成だ』

裕子「悪魔……。で、でも。残り三つの点は予想ですよね?」

エックス『ああ。だが、このうち二つは失踪者の家と限りなく近い場所だ。間違いないと思う』

裕子「最後の一つは……?」

エックス『……恐らく、これから事件が起こる場所だ』

裕子「――!」


―――???

 ぶつぶつと呟かれる呪詛が満ちる部屋の中。
 薄緑襟のセーラー服の少女が四人、絨毯の中央に置かれた写真を取り囲んでいた。

 絨毯の上には十本の蝋燭が立っていた。それらもまた写真を囲みながら、ある幾何学模様を描いている。
 ――そう。ペンタグラムの模様を。

 写真にはある女子生徒の姿が、またも盗撮気味に映っている。
 それを見詰める四人の虚ろな瞳。機械的に動く彼女たちの唇。光源が蝋燭以外にない夜の狭い一室は重苦しいほど暗い。
 部屋を満たす呪詛の声がそれに拍車を掛けているようにも思えた。

「シジル様、シジル様……」

「おいでください、シジル様……」

「貴方の心臓に生贄を捧げます……」

「是非この世界に顕現し、悪しき者に裁きを……」

 部屋の空気が一層張り詰め、そして――


―――都内、某所

 バスから降りた少女がひとり、夜道を歩いていた。
 ひとけのない住宅街。不気味なほど静まり返り、まるで周囲の家にも人がいないように思われて仕方ない。

 最近、通っている高校を賑わせている事件の話。ひとりひとり生徒が失踪していくというものだ。
 それに関して彼女は知っていることがあった。失踪者の少女たちにひとつの共通点があったのだ。

 それは、かねてから生徒たちの間で悪い噂が絶えなかった、というものだった。
 ある者は別の女子と付き合っていた男子生徒を横取りした、またある者は教師に気に入られているのをいいことに告げ口をして他の生徒を貶めた……そんなふうに。

「…………」

 ならば自分は関係ない、と思う。
 確かに昔ちょっと人に対して良くない態度をとってしまったことがあったけど、些細なことだ。
 そんなことすら許されないのなら、もっと他に罰されるべき人間が大勢いるはずだ。
 それに、私が虐めたような、あんな大人しそうで弱い奴らが、報復に人を攫うなんてできっこない。
 ――だから、私は関係ない。少女は何度も口の中で呟き続け、足を速めた。――その時だった。


「ギィィィィヤァァァ!!!」

 背後から、そんな声が聞こえたのだ。
 しかし最初は聞き間違いだと思った。それは「声」というほど周りに響いていなかったのだ。
 周囲は閑静なままで、誰もそれに気付かない。だから、聞き間違いだと思った。

「ギィィィィィィィヤァァァァァアア!!!」

 更にボリュームアップした声が。
 おそるおそる首だけ後ろに向ける。
 街灯の向こう。住宅の向こう。そこに――赤い双眸を光らせる巨大な怪物がぬっと立っていた。

「…………」

 少女は絶句して、固まった。
 突然、そのままの体勢で宙に浮かび上がる。
 怪物が腕でジェスチャーをしている。「おいでおいで」と。
 それに抗うことができず、少女の身体は次第に怪物の元に近づいていく――


「きゃあああああああああああああーーーーーー!!!!」

 そこでやっと我に返って、少女は絶叫した。
 手足をばたつかせる。しかし俎板の鯉も同然だった。為す術もなく怪物の姿が迫ってくる。
 声にならない声を上げ続け、じたばたともがき続ける。しかし怪物は意に介さず、腕の動きをやめない。

「嫌あああああああああああああ!!!!」

「ギャァァァァオォォ!!!」

 自分の声を掻き消す怪物の大声。感情が読み取れない、生理的に不快感を催す、不気味な声だった。
 すると突然怪物の声がふっと止んだ。しかし口は開いたままだ。口をぽっかり開けたまま、少女を待ち構えている。

「やめて!! やめてええええええええええっっ!!!」

 私を食う気だ――そう悟った瞬間、じわりと目頭が熱くなって、涙がとめどなく溢れ出した。
 私はここで死ぬのか。何もわからぬまま、こんな醜悪な化け物に食われて。
 首が捻じ切られ、腕も脚もバラバラにされ、毛根一本残さず溶かされて死ぬのか。

 嫌だ。嫌だ。(――ふざけるな)嫌だ。こんな、絶対に。(――許さない)絶対に嫌だ。
 脳裏に数人の顔が過ぎる。少女が虐め、ある者は不登校に、ある者は引き籠りまで追い込んだ女子生徒たちの顔。

(――あいつらだ)

 私を食おうとしているこの醜悪な怪物は、まさにあいつらだ。あいつら以外にあり得ない。
 絶対に許さない。許さない、許さない、許さない――心を支配する呪詛が地獄の炎のように燃え盛る。

 そんなふうに少女の瞳が憎悪に染まるのを、怪物は嬉々として眺めていた。
 強い恐怖と憎悪と怨嗟と怒罵。それが怪物にとって最高の餌だったからだ。


 ――しかし。

「――デェヤッ!!」

 その勇ましい声と共に飛来した光刃に、怪物は悶え苦しんだ。

「きゃああああああああっっ!!!」

 支えがなくなったように少女の身体が真っ逆さまに落下する。
 しかし思ったよりも早く地面に激突した。いや、衝撃は殆どなかった。助かった。わけがわからない。

「…………!」

 視界に差し込んでくる柔らかな光。
 暗闇の中に光る楕円形の両目。銀色の肌。それは――

「ウルトラマン……エックス……」

 連日テレビを賑わしている未知の超人、ウルトラマンエックスだった。


 一方、エックスの意識内部。

裕子『ふぅ……間一髪でしたね』

エックス『ああ。何とか間に合ってよかった』

 最後の一点がこれから起こる事件の現場になる可能性を考えた二人はユナイトして急行した。
 するとちょうど怪物が女子生徒を攫おうとするところだったのだ。

 その少女を道路にそっと下ろすと、エックスは怪物の方を振り返った。
 しかし――

裕子『あれっ、もういない……。逃げたんですかね?』

エックス『いや。あれは恐らく幻像だ』

裕子『本体は別にいる?』

エックス『ああ。ユッコ、例のペンタグラムを覚えてるか?』

裕子『は、はい。現場を繋げるとペンタグラムになるっていうやつですよね?』


エックス『その中心には実は君の学校があるんだ』

裕子『えっ!?』

エックス『君の学校の生徒が失踪していることを考えると不思議でもないが、ペンタグラムの中心と考えると作為的なものを感じる』

裕子『そうですね……。黒幕はそこにいる……?』

エックス『行ってみよう!』

裕子『はいっ!』

エックス「ジュワッ!」

 地面を蹴り、エックスは飛び立っていった。


―――学校

裕子「来ましたね……夜の学校……。ふふ、実にミスティックかつミステリアスです……」

 二人は学校に到着し、ユナイトを解いていた。
 夜の中、六階建ての学校が屹立している。辺りにひとけが全くないせいか、どことなく禍々しい佇まいにも見える。

エックス『大丈夫かユッコ? 心拍数が上がってきているが……』

裕子「も、も、もちろん大丈夫ですよぉ!? さ、さ、さ、さぁ! 行きましょう!」

 意気揚々と校庭に忍び込む裕子。校舎の入口を探っていると、開いている裏口を見つけた。

裕子「……」

 唾を飲み、できるだけ音を立てないようにして扉を開ける。
 中に入ると、エックスがにわかに口を開いた。

エックス『……ユッコ。二階から声が聞こえる』

裕子「えっ……?」

エックス『何らかの儀式を執り行っているような……そんな呪文のような声だ』

裕子「……儀式……ですか」

エックス『もしかしたらもう一度あの怪物を呼ぼうとしているのかもしれない。急ごう』

裕子「は、はい!」

 とはいうもののそろそろとした足取りで階段を上り、裕子は二階に上がった。


―――???

 部屋中に呪詛が満ちていた。
 赤い絨毯とペンタグラムを描く十本の蝋燭。

「シジル様、シジル様……」

「おいでください、シジル様……」

「貴方の心臓に生贄を捧げます……」

「是非この世界に顕現し、悪しき者に裁きを……」

 その中心に置かれている写真。
 映っていたのは――


―――裕子サイド

裕子「…………」

 階段から廊下に出ると、真っ暗な中に僅かに光が漏れているドアがあった。

エックス『ユッコ。あの部屋は……?』

裕子「……校長室です」

エックス『……黒幕は校長か』

裕子「どうして自分の学校の生徒を消すような真似を……?」

エックス『校長があの怪物に乗っ取られている……ということかもしれないな』

裕子「それとも……」

 裕子はペンタグラムが悪魔の象徴であることを思い出していた。
 神話を真に受けるわけではないが、もしかしたら校長は悪魔に魂を売り渡してしまったのかもしれない。


裕子「……行きましょう」

エックス『……ああ』

 足音を忍ばせて部屋の前に来る裕子。
 冷たいノブを握ると、背筋にぞっと悪寒が走った。

裕子「……っ!」

 深呼吸をひとつすると、意を決してドアを開いた。

裕子「――校長先生! 突き止めましたよ、このエスパーユッコの超能力によって――」

 踏み込むや否やそう宣言する裕子だが、部屋の様子がおかしいことに気付いた。
 声が聞こえるはずなのに誰もいない。薄暗い部屋の中をよく見ると、壁際の蓄音機にセットされたレコードがくるくると回っていた。


エックス『――しまった!!』

 エックスが声を上げる。備え付けの鏡に蜘蛛の巣のような罅が入っていた。

エックス『ユッコ、逃げろ!』

裕子「っ!」

 誘い込まれたことを察して逃げ出そうとする裕子だが、ドアが開かない。
 ノブを乱暴に回すが、ドアは前にも後ろにも微動だにしなかった。

裕子「どうして……!?」

 いつの間にか部屋の中の空気が重くなっているような気がする。
 背中から肩にかけて何かがのしかかっているようだ。それが部屋中に満ちて、外の世界と隔絶させている。


??「無駄だ」

 部屋の奥から声がして、裕子は振り向いた。
 暗闇の中から彼女は現れた。まるで今までそれと同化していたかのように。

裕子「校長先生……!」

校長「ハハハ……死ぬ前に教えておいてやろう。俺の名は『ビシュメル』。お前たちが悪魔と呼ぶモノだ」

 校長の声は記憶にあるものではなかった。男声のように低く、くぐもっている。

エックス『答えろ! 何故少女たちを消すような真似をする!』

校長「理由などない。奴らの負のエネルギーは俺にとって最高の御馳走だからな! フハハハハ!!」

裕子「……負のエネルギー……」

校長「その通り。俺が力を与えてやった四人の人間も負の感情を以て更に負のエネルギーを増大させてくれた。虫けらだがその点においては俺の役に立ったと言えるな!」

裕子「力を与えた?」

校長「今に分かる……ハアアアッ!!」

 校長の顔が変貌していく。皮膚は黒く、眼は赤く、輪郭も変わり、頭の両側に角が生える。


裕子「……!」

校長「貴様が十人目の生贄だ! ギィィィィヤァァァ!!」

 ビシュメルが口を開くと、紫色の光線が裕子に向けて放たれた。

エックス『ユッコ!!』

 エクスデバイザーがXモードになる。
 しかし間に合わなかった。デバイスが光線に飲まれる。

エックス『ぐああああああっ!!!』

裕子「プロデューサー!」

エックス『ユ……ッコ……! 君を……信じている……!!』

 言い終えると共にデバイスからエックスの顔が消えた。
 光線がビシュメルの口に戻っていく。全身を震わせながらビシュメルはそれを飲み込んだ。


裕子「プロデューサー……!」

校長「フハハハハハハ……不味い味だな。貴様はもっと美味いんだろう?」

裕子「う……っ!」

校長「いい表情だ……お前のその恐怖が俺にとって最高のスパイスとなる……!」

 ビシュメルが口を開く。光線が放たれたかと思うと目の前に迫ってくる。
 もう駄目だ――顔を背けて、腕を顔の前に交差させた。

校長「グオオオオオッ!!??」

 しかし聞こえてきたのは、パンッ! という破裂音と、ビシュメルの悲鳴だった。

裕子「ふえ……?」

校長「な……何ィ……!?」

 尻餅をついていたビシュメルが起き上がり、裕子を睨みつけた。
 一方で裕子は周囲の雰囲気が一変したことを感じ取っていた。さっきまでの重苦しさが霧散している。


裕子「!」

 ドアに寄り、ノブを回す。それを引くと、すんなり開いた。
 裕子は即座に部屋を飛び出た。

校長「何……!? 俺の結界を……!」

 歯ぎしりするビシュメル。両手を広げ、叫び声を上げた。

校長「虫けら共!! 俺のための生贄となれぇぇっ!!」


―――???

「シジル様が生贄を求めていらっしゃる……」

「どうか私たちの心臓を食しください……」

「どうか私たちの……」

「どうか……」

 少女たちの身体がプラズマになり、カーテンを突き抜け窓をすり抜け、二階の校長室に飛んでいった。


ビシュメル「グオオォォォオン!!!」

裕子「!」

 廊下を走っていた裕子は窓の外にあの怪物を見た。
 あれが「本体」であり、ビシュメル――そう悟ると同時に我に返った。怪物の眼が裕子に向いていた。

裕子「うわわわわわわっ!!!」

 裕子が駆け出す。次の瞬間、背後で轟音がした。
 コンクリートの瓦礫が撒き散らされる。ビシュメルが校舎を攻撃したのだ。

裕子(ど、どどどどうすればっ!!)

裕子(プロデューサーがいない今、あんなのに勝てる気しません!)

裕子(い……いや! 私はエスパーユッコ! 自分のサイキックパワーを信じましょう!)

裕子(あ、そっか! さっきあのビームを跳ね返せたのも部屋から出られたのも私のサイキックのおかげか!)


 裕子はそこでさっきのビシュメルの言葉を思い出した。

『俺が力を与えてやった四人の人間も負の感情を以て更に負のエネルギーを増大させてくれた――』

裕子(あいつもサイキッカー……? いや、でも……)

裕子(サイキックパワーは人を幸せにするものです……! 負けるわけにはいきません!!)

 転がるようにして階段まで来る。一瞬下りに行こうとしたが、考え直した。
 この学校にペンタグラムの中心があるのは間違いない。そして「力を与えた四人の人間」。

 つまりこの学校には何かがあるのだ。あの悪魔を呼び出し、人を襲わせていた力の根源のようなものが。
 そして耳がいいプロデューサーが一階の時点でレコードのダミーに騙されたということは――

裕子(私が行くべきは……上!!)

 裕子は階段を駆け上がった。
 三階に上がると、校長室の真上に当たる部屋に微かな光が見えた。


裕子(やった! あれだ!)

 さっき罠に掛かったことも忘れて部屋に飛び込む。
 しかしすぐさま息を呑んだ。そこに広がっていた光景があまりにも禍々しいものであったからだ。

裕子「これは……」

 床に広がっているのはもはや赤い絨毯と蝋燭ではなかった。
 暗雲に包まれた魔法陣。疾風を吹き荒れさせ、裕子の前髪を捲り上げる。時々それに混じって稲光が上ってきた。

裕子「……さ、さいきっく……封印……」

 及び腰のまま念じ始める裕子。しかし一分も経たぬうちに稲光の音に怯んだ。

裕子「こ、ここで負けるわけには……!」

 ぶんぶんとかぶりを振って魔法陣に向き直る。


裕子「さいきっくぅ……封印っ! 封印! 封印っ!!」

 何度も何度も念じ続けるが全く効果がない。
 流石の裕子も冷や汗をかき始めたところ、窓の外から声が響いてきた。

ビシュメル「フハハハハハハ!! 虫けらの如き貴様の超能力などで俺の心臓は破られん!!」

裕子「あ、これあいつの心臓……? だったらこれを壊せば……!!」

 裕子は踵を返して部屋を出て行った。
 戻って来たときには息が上がっていたが、間を置かず、手に持っているものを大きく振りかぶった。

裕子「さいきっくぅ……投石ぃぃぃっっ!!!」

 二階の瓦礫のなるべく大きそうなものを選んでここまで運んできたのだ。
 しかし――

裕子「!」

 魔法陣に届く前にそれは粉々に砕けてしまった。


ビシュメル「フン、物理攻撃に出たか。だがその程度の衝撃で結界は破れんぞ!」

裕子「くっ……」

 一瞬絶望しかけるが、頭から振り払う。何か、何か方法があるはずだ。
 これまでのことを思い出す。きっとそこにヒントはある。この悪魔を攻略するヒントが――

裕子「……鏡」

 頭の中の暗雲がぱあっと晴れたようだった。そうだ。鏡。
 現場の鏡が全て割られていたのは、悪魔の弱点が鏡だからではないだろうか。

 裕子はすぐさまポーチを探った。ハンドミラーがあったはずだ。
 それはすぐ見つかった。しかし取り出してみて、裕子は今度こそ絶望した。

裕子「……そんな」

 へなへなと膝を突く。ハンドミラーは既に割れていた。
 一体どこで――そう考えると、ビシュメルの光線を跳ね返したことが頭をよぎった。
 あれはこのハンドミラーのおかげだったのか。その衝撃で壊れてしまったのか。


裕子「私のサイキックパワーのせいじゃなかった……」

 拳を握りしめて床を叩いた。
 自分への怒り、憤り、この状況への絶望感……それら全てがないまぜになったどす黒い感情が胸の中に立ち込めてくる。

ビシュメル「ハハハハハ!! わかるぞ、貴様の胸に負の感情が渦巻いていることが!!」

裕子「…………」

ビシュメル「さぞかし美味い味に仕上がっているだろうなぁ? 絶望の味は格別だからなぁ! ハハハハハハ!!」

裕子「……そうじゃ……ない」

ビシュメル「ん?」


 裕子は目元を拭って立ち上がった。
 ここで負けたら、プロデューサーが、ビシュメルに囚われている人間が一生救われない。

裕子「プロデューサーは……私を信じるって言ってくれた……!」

 思えば出会ったときからずっとそうだった。
 スーツを着た宇宙人という奇怪な風貌に最初は驚いたけれど、彼は裕子の超能力をずっと信じてくれた。
 だからこそ裕子もプロデューサーを信じてこれまでやってこられたのだ。

裕子「さいきっく……さいきっく……さいきっく……!」

 両手を前に突き出し、瞼をぎゅっと閉じて念じる。
 これまでで一番、必死に。これまでで一番、強い意志を以て。

裕子「さいきっく……何でもいいから、何とかしてーーーーーっ!!!!!」

 しかしその懸命な叫び声も空しく部屋に響くだけだった。


裕子「…………!」

 と、その時。頭の上に何かが落ちて来て、裕子は飛び上がった。

裕子「……砂?」

 払って手のひらを見てみるとそれは砂のようだった。しかし何故頭上から――
 そう思って天井を仰ぐと――

 そこに、小さな亀裂が入っていた。

裕子「……え……」

 そこから、ピシッ、ピシッと音を立てて、亀裂が広がっていく。

裕子「え……え……」

 罅割れた場所から砂が落ちてくる。地響きのような音がして、天井が僅かに沈んだ。

裕子「うわあああああああああ!?!?!?!?」

 裕子は慌てて逃げ出した。転がるように廊下を駆け、三・四段飛ばしで階段を駆け下りる。
 そして校舎を出た直後――


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

ビシュメル「な、何ぃ……!?」

 天変地異のような轟音と共に校舎が倒壊し始めた。

裕子「……えぇ……」

 グラウンドに出ていた裕子は呆気にとられながらそれを眺めていたが、

ビシュメル「グォオォオオオオオ……!!」

 ビシュメルの呻き声を上げたのに気付いてそちらに視線を向けた。

ビシュメル「グヌオオオオ……何故だ……何故こんな虫けらの小娘などに……!!」

 ビシュメルの身体から光が何条も飛び出し、夜空の向こうに飛んでいく。
 その内の一条がこちらに向かってくると思うと、ベルトに挟んでいたデバイスの画面に飛び込んだ。


裕子「! プロデューサー!」

エックス『ユッコ! 君ならやってくれると信じていたぞ!』

裕子「え、えへへ……!」

ビシュメル「貴様らアアアアアアア!!!」

裕子「!」

 ビシュメルが怒り狂って裕子の元に迫ってくる。

エックス『ユッコ! 行くぞっ!』

裕子「はい! サイキック――」

エックス『――ユナイト!!』


 デバイスをXモードに変形させる。
 出現したスパークドールズを掴み、それをデバイスにリードする。

『ウルトラマンエックスと ユナイトします』

裕子「――エックスーーーーーっ!!!」

 デバイスを掲げ上げ、裕子が叫ぶ。
 放たれたX字の閃光に包まれると、次の瞬間、その中から銀色の巨人が姿を現した。

エックス「――イーーッ、サァーーーッ!!!」

『エックス ユナイテッド!』


 夜の街に電光を撒き散らしながらエックスが降り立つ。

エックス「ハァ――セェヤッ!!」

ビシュメル「ギィィィヤァァァ!!」

 相対したビシュメルが突然、身体を震わせながら天を仰いだ。

エックス「ジュワッ……?」

 すると今まで晴れていた夜空にたちまちのうちに暗雲が立ち込めたのだ。
 ビシュメルが両腕を翳すと、その手のひらに稲妻が落ちてくる。

ビシュメル「ギャァァァァオォォ!!」

 そしてその稲妻を集め、エックスの方に放出した。


エックス「セヤァッ!」

 側転してそれを躱す。

ビシュメル「ギィィィヤァァァ!!」

 ビシュメルはエックスを追うように腕を動かしていたが、右手だけ先回りした地点に向けた。

エックス「! グワアアッ……」

 側転した場所にちょうど雷撃が放たれており、エックスに命中する。

裕子『くっ……この怪獣、天候まで操るなんて……凄いサイキックパワーです……!』

エックス『ここまで来ると超能力というよりは魔力だな……』


裕子『ん? ということは……魔力vs超能力! ……ふふ、燃えてきましたっ!』

エックス『そうだな。ユッコ、このカードを使え!』

裕子『了解ですっ!』

 転送されたサイバーカードをデバイスにセットする。

『サイバーゼットン ロードします』

 エックスの上半身にゼットンの体躯を模した黒いアーマーが装着された。

『サイバーゼットンアーマー アクティブ!』


ビシュメル「グオオォォォォン!!!」

 ビシュメルが再び雷撃を放つ。

裕子『同じ手は二度も食いませんよ! さいきっくぅ……テレポーーート!!』

エックス「デアッ!」

ビシュメル「!」

 思わずビシュメルがたじろぐ。エックスの姿が一瞬の内に消えたからだ。
 ゼットンアーマーはゼットンの力を備えている。そのうちのひとつ、瞬間移動を使ったのだ。

エックス「セェヤッ!」

 背後に回ったエックスが巨大なガントレットでビシュメルを殴りつけた。


ビシュメル「グオオォォオン……!」

エックス「デェアッ!」

 攻撃の手を休めないエックスと、それを必死に防御するビシュメル。
 しかしビシュメルはその間にも魔力を発揮していた。背後の道路の車がひしゃげながら宙に浮かび上がる。

ビシュメル「ギィィィヤァァァ!!」

 そしてそれがバラバラに分解され、鋭利な金属の槍に変形した。
 エックスの背後からそれらが、アーマーが纏われていない足元に突き刺さる。

エックス「デアッ!?」

ビシュメル「ギャァァァァオォォ!!」

 思わず尻餅をついたエックスの身体をビシュメルが蹴り飛ばす。


エックス「グッ……」

ビシュメル「グオォォォォォン……!!」

 ビシュメルが火炎を吐く。横に転がりながらそれを避け、立ち上がると同時にバリアを起動する。

裕子『さいきっくバリアー!!』

 琥珀色のゼットンシャッターは火炎を弾き飛ばした。
 ビシュメルは攻撃をやめ、もう一度魔力を発揮する。今度はガードレールが地面に沈んだ。

ビシュメル「ギィィィヤァァァ!!」

エックス「! デアッ、グアァァッ!!」

 するとゼットンシャッターが纏われていない足元の地面から槍が飛び出てきた。
 すぐさまシャッターを解除し、その場から逃げる。


ビシュメル「ギャァァァァオォォ!!!」

 ビシュメルが魔力で槍を操る。地中から飛び出た無数のそれらをエックスに向けて発射した。

エックス「――イィッ、サァッ!!」

 エックスが胸元に両手を構え、そして前に突き出した。
 形成されたゼットン火炎弾が金属槍を迎撃し、その高熱で全弾溶かし尽くした。

裕子『見ましたか! これがさいきっくパイロキネシスですよ!』

エックス『……水を差すようで悪いんだがユッコ』

裕子『はい?』


エックス『これは……超能力じゃなくて科学の力なんだ』

裕子『……え』

エックス『…………』

 両者の間に気まずい沈黙が流れた。

エックス『だから……すまないがこれは……』

裕子『……いえ……いいんです……』

エックス『ユッコ……』

裕子『つまりサイキックサイエンスってことですよね!!』

エックス『矛盾してないかそれ!?』


ビシュメル「ギィィィヤァァァ!!」

 ビシュメルが暗雲から稲妻を集め、エックスに向けて放った。

裕子『ふっ……これでも食らえー! さいきっくアブソーーーブ!!』

エックス「セァッ!」

 胸に両手を構えると、雷撃がその間に吸い込まれた。

ビシュメル「!」

エックス「エーーックス!!」

 そして突き出すと同時に吸収された雷撃が増幅されて発射された。

ビシュメル「グオォォォオォ……」

 流石に応えたのかグロッキーになるビシュメル。
 その隙を突いて裕子はアーマーの力を最大解放した。

エックス『一気に行くぞ! ユッコ!』

裕子『はい! ――さいきっくトルネーーーード!!!』


エックス「――デェアッ!!!」

 ゼットンシャッターを纏いながらその場で高速回転し、一気に飛び立つ。
 琥珀色の旋風を巻きつけながらエックスは宙を飛び、ビシュメルに向かって一直線に突撃する。

ビシュメル「ギィィィヤァァァ!!!」

 ビシュメルも最後の力を振り絞る。暗雲から雷撃をエックスに直接落とし、口からは火炎を吐き出す。

エックス「イィーーッ!! サァァーーーッ!!!」

 しかしその突撃を止めることはできなかった。
 雷撃は容易く弾かれ、火炎はいとも簡単に突き抜けられる。

ビシュメル「ギャァァァァオォォ……!!!」

 ビシュメルの断末魔が夜の街に響き渡る。
 その身体にはぽっかり穴が空き、エックスは突進の勢いで地面を抉りながら地面に降り立った。

 ようやくエックスが静止する。同時に、その背後で爆発の炎が立ち昇った。


裕子『いやぁ……サイキック万歳です……! プロデューサー、もう一生ユナイトしててくれませんか?』

エックス『えっ? でもユッコ、普通の状態でもサイキック使えるんだろう?』

裕子『えっ……あっ、そうですよ! さっき、私のサイキックでプロデューサーを助けたんですよ!』

エックス『ああ。どうやったんだ?』

裕子『それはですね、まず校舎を倒壊させて――』

エックス『……校舎を……倒壊……?』

裕子『あっ……』

エックス『ユッコ……』

裕子『ち、違うんですー! これにはやむにやまれぬ事情がー!!』

 それから活動限界時間がギリギリになるまでエックスは裕子の言い訳を延々と聞かされることになるのだった……。


 ・
 ・
 ・

―――事務所

裕子「……し、失礼しまーす……」

エックス『しっ、静かに!』

 真夜中の事務所。エックスは事務所に戻しに来てもらっていた。
 なにぶん片付けなければならない仕事をほっぽりだして出て来たのである。

裕子「…………」

 抜き足差し足でプロデューサーのデスクに向かう裕子。しかし――

ちひろ「ゆ・う・こ・ち・ゃ・ん?」

裕子「ヒィッ!?」


ちひろ「プロデューサーさん……?」

エックス『ぎくっ……』

ちひろ「二人して真夜中のお帰りなんて、スキャンダルになっちゃいますよぉ?」

エックス『こ、ここ、こ、これには、や、や、やむにやまれぬ事情がっ!!』

 さっきの裕子の言い訳を繰り返すエックスであったが、ちひろの前には無意味だった。

ちひろ「……仕事が終わるまでは寝かせませんからね?」

エックス『……はい……』


第七話 おわり


≪アイドルの怪獣ラボ≫

裕子・エックス「「ユッコの怪獣ラボ!」」

裕子「今回の怪獣は、これですっ!」

『ビシュメル 解析中...』


http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira107433.jpg


エックス『“大魔獣”ビシュメル! 強力な魔力を操る悪魔の化身だ!』

裕子「私とプロデューサーのサイキックパワーとの対決は見ものでしたね……勝ちましたけど!」

裕子「元は『ウルトラマンダイナ』第18話の怪獣! ダイナのミラクルタイプと激闘を繰り広げました!」

裕子・エックス「「次回も、お楽しみに!」」


≪次回予告≫

こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!

これまで色んなことがあって……色んな怪獣や宇宙人と戦ってきました。

それでも私たちはアイドルとして成長して、このステージに立つことになりました!

支えてくれた仲間と……ファンの皆さんの応援と、プロデューサーさんの想いと一緒に!

次回、ウルトラマンXP第八話! 『絶望のスターライト』

何故か平成三部作でダイナだけ見た記憶ないから今回の怪獣分からなかったけど、面白かったです!続き待ってます!

…ところで、クリアボヤンスじゃなくてクレアボヤンスじゃ?(スマブラでパルテナ様がそう言ってた様な…間違ってたらホントすみません)


>>1です。
今回から最終章に入りますが、オリジナル要素が多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
いい機会なのでこの場で申し上げますが、これまでご拝読や感想レスなどありがとうございました。
前述の通りやりたい放題な展開になりますが、どうか最後までお付き合いいただければ幸いです。

>>391
Wikiをパッと見て「クリアボヤンス」と書かれていたのでそのまま書いたのですが、他の場所には「クレア」と書かれていたり、
検索ヒット数が「クレア」の方が圧倒的に多かったりしたので、たぶん「クレア」の方が正しいと思います。
ちゃんと調べなきゃダメですね、と反省。ご指摘ありがとうございました。


第八話 『絶望のスターライト』


 暗闇の中に輝くステージ。
 その上に踊っている人影がひとつ――


  お願い! シンデレラ
  夢は夢で終われない
  叶えるよ 星に願いをかけたなら
  みつけよう! My Only Star
  探し続けていきたい

  涙のあとには
  また笑って
  スマートにね
  でも可愛く
  進もう!


 最後の一音が弾け、その人物の笑顔も最高潮に弾ける。
 止んだ音楽に代わって会場全体に渦巻く歓声、満天に瞬く星屑のように犇く無数のサイリウム――

「……?」

 首を傾げる。当然あるべきそれらが無かったからだ。
 先程まで大音量で響いていた音楽の代行を務めるものはなく、会場はしーんと静まり返っている。

「……え」

 そこでようやく気付いた。当然いるべきはずだと思っていたファンが誰一人としていない。
 客席は全くの空っぽで、どこまでも暗黒が渡っている。それが果てしなく続いている。

 ――まるで、世界にひとり取り残されたように。

「ええええええええーーーーっ!!??」


ちひろ「――っ!」

 ちひろはがばっと顔を上げた。

ちひろ「…………あれ、ここ……事務所……?」

 寝惚けまなこで辺りを見回すと、ブラインドが明るく光っていた。
 その隙間から日光が射し込んでいる。……朝だ。

ちひろ「……うぅーーん……っ!」

 どうやら残業をしていたらいつの間にか机の上で眠ってしまっていたらしい。
 身体の節々が凝り固まっていたので大きく伸びをする。その拍子に欠伸が漏れて、涙の雫が浮かんだ。

ちひろ「ふわぁ……6時15分……いったん家に帰る時間もないですね……」

 シャワーも浴びないままでみっともないと思ったが仕様がない。
 ちひろは近場のコンビニで適当に何か買ってこようと思い腰を上げた。が、ふと思い至ってプロデューサーのデスクに足を向けた。


ちひろ「プロデューサーさーん……?」

 デスクに置いてあるデバイス。呼びかけてみるが返事はなく、画面も真っ暗なままだった。

ちひろ「……ふふっ、まだ夢の中みたいですね」

 今の自分についても言えるが、無理もないと思う。

 346プロ最大のアイドルライブイベント「346プロオールスターステージ」が目前に迫っているのだ。
 アイドルもプロデューサーもその他のスタッフも、この時期はみんな忙しそうにしている。

ちひろ(ステージ……)

 何故かその言葉が頭に引っ掛かった。さっき見た夢に関連することのような気がする。
 だが思い出そうとしても叶わなかった。むしろそうするごとにどんどん記憶が消えていくようだ。

ちひろ(……ま、いいか)

 これ以上続けても無駄だと思い、ちひろは潔く考えを断ち切った。

ちひろ(プロデューサーさんも朝食要るでしょうか……というか、プロデューサーさんって何食べてるんでしたっけ……?)

 首を傾げながらちひろは部屋を後にした。


 ・
 ・
 ・

卯月「おはようございまーす」

未央「おっはよー!」

凛「おはよう」

エックス『ニュージェネか。おはよう』

卯月「プロデューサーさん、あと一週間ですね! オールスターステージ!」

凛「もう。毎日言ってるでしょ、それ」

卯月「えへへ……楽しみで……」

未央「わかるぞしまむー。湧きあがる熱い想いを抑えきれないよな~!」

凛「何そのノリ……まぁ気持ちはわからなくもないけど」


エックス『ニュージェネも立派になったものだな』

未央「でしょー? ……いや、冗談抜きに、去年の私たちにとってはオールスターステージなんてまさに夢の舞台って感じだったもんね」

卯月「そうですね~……まさかあのライブに参加できるなんて……本当に夢みたいです!」

エックス『ひとえに君たちの努力の賜物だ。レッスンから小さなライブ、色んなところで頑張ってきたからな』

凛「……プロデューサーのおかげでもあるよ」

未央「うん。それは間違いない」

エックス『そ、そうか?』

卯月「そうですよ! 私たち、プロデューサーさんがいたからこそここまでやってこられたんですから!」

エックス『そうか……ありがとう、三人とも』

凛「何でプロデューサーが礼を言うの……普通私たちの方でしょ」

エックス『凛も感謝してくれるのか?』

凛「そ……そりゃあ多少は。……ありがとう」


未央「しぶり~ん、ツンデレみたいになってるぞー?」

凛「う、うるさいな。普段から感謝してるって」

卯月「ツンデレ凛ちゃん、かわいいです!」

凛「卯月まで……だからそんなんじゃ――」

エックス『フフッ。ニュージェネは永遠に不滅だな』

凛「なに急に……」

未央「そりゃーもちろん! この三人の絆はどこまでも続くさー!」

卯月「はい! どこまでも一緒に!」

凛「……。上っていこう……?」

未央・卯月「「いえーーい!!」」

凛「だから何なのそのノリ……」

エックス『キュート、クール、パッションが見事に融合した最高のユニットだ……流石だぞニュージェネ……!』

凛「だからプロデューサーまで何言ってんの……」


 ・
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美波「おはようございます!」

エックス『美波か。おはよう』

美波「……あと六日ですね。オールスターステージ」

エックス『ああ。準備はできてるか?』

美波「はい。……といっても、ステージでも同じようにできるかは、今でもまだ不安ですけど……」

エックス『美波なら大丈夫だ。いつもちゃんと成功させてるじゃないか』

美波「そ、それは……プロデューサーさんが声を掛けてくれるから……」

エックス『ん? 私の声には美波の緊張を和らげる作用があるのか……?』

美波「……そうですね。そんな感じです」

エックス『よし。ならこれからもステージ前は声を掛けるようにしよう。それが君のためになるなら』

美波「ふふっ。お願いしますね」


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ゆかり「おはようございます」

エックス『ゆかりか。おはよう』

ゆかり「とうとう五日後ですね……オールスターステージ」

エックス『ああ。どうだ? ユニットの方は』

ゆかり「メロウ・イエローも演奏会ユニットもいい調子です」

エックス『だったらよかった。ゆかりは楽器の演奏まであるから大変だろうが頑張ってくれ』

ゆかり「大丈夫ですよ。むしろフルートの演奏は今楽しくてしょうがないんです」

エックス『そうなのか?』

ゆかり「はい。プロデューサーとユナイトして演奏したことを思い出すので」

エックス『ああ……怪獣をも宥める良い演奏だったな』

ゆかり「いつかナイトティンバーもライブで披露したいですね……」

エックス『そうなると会場のサイズが問題だな……いっそ野外でやるか……』

ゆかり「ふふっ。楽しみにしてますよ。プロデューサー」


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こずえ「ふわぁ……おはよー……」

エックス『こずえか。おはよう!』

こずえ「ふわぁ……」

エックス『まだ眠たいか? だがそろそろレッスンだ、しっかりしてくれよ?』

こずえ「うんー……こずえ……しっかりするー……」

エックス『その調子だ。オールスターステージも四日後に控えているしな』

こずえ「おーるすたー……って……うちゅうのことー……?」

エックス『ん?』

こずえ「じゃあー……おーるすたー……こずえのおうち……」

エックス『うん?』

こずえ「まま……ぱぱ……みにきてくれる……かなぁー……?」

エックス『うん??』


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輝子「お、おはよう……フヒ」

エックス『輝子か。おはよう』

輝子「…………」

エックス『キノコの方はどうだ?』

輝子「ぼ、ぼちぼち……育ってる……」

エックス『そうか。……輝子』

輝子「うん……オールスターステージ……三日後だな」

エックス『大丈夫か?』

輝子「あ、ああ。……さ……支えてくれるトモダチが……いるからな」

エックス『そうか。……うむ。心配はいらない。いつも通りの君を出していけば必ず会場中を虜にできる!』

輝子「そ……そういうの、恥ずかしいから……」

エックス『何を恥ずかしがることがある! 君のデスボイスには実はメタル界からの注目もあるんだぞ!』

輝子「だ、だから……」

エックス『君のいいところは他にもあるぞ。ライブパフォーマンスとは裏腹にかわいい系の衣装もしっかり着こなせるところとか――』

輝子「ヒャッハァーーーー!!! だからやめろって言ってんだろうがァァァァ!!!」

エックス『な、何だ突然!?』


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珠美「おはようございますっ!」

エックス『珠美か。おはよう!』

珠美「決戦の日は二日後……ですね。エックス殿」

エックス『そうだな……緊張してるか?』

珠美「何、剣道の試合と同じです。平生の状態で挑み、いつもの自分の力を発揮するだけです!」

エックス『流石だな。この前の試合も勝ったんだって?』

珠美「は、はい……えへへ」

エックス『機会があればまた見に行きたいな。剣道をしている君は誰よりもかっこいい』

珠美「か……かっこいいですか! 珠美が!」

エックス『ああ。かっこいいぞ』

珠美「えへへ……かっこいい……かっこいい大人の女性ですね……えへへ……」

エックス『こういうところは子供っぽいけどな』

珠美「えっ」


 ・
 ・
 ・

裕子「さいきっくぅ……おはようございます!」

エックス『ユッコか。おはよう』

裕子「ムムムン! エスパーユッコの予知能力によると……」

エックス『ん?』

裕子「オールスターステージ、ついに明日ですねっ!」

エックス『そうだな』

裕子「っとと……もうちょっと驚いてくれてもいいじゃないですか~」

エックス『カレンダーに書いてるし……。ところでサイキックパワーの状態は良好か?』

裕子「はい! さいきっく調整で明日が最高潮になるようにしましたからね! 抜かりはありませんよ!」

エックス『よし。超満員の客に君のサイキックパワーを見せてやるんだ!』

裕子「腕が鳴りますね……!」


 ・
 ・
 ・

ちひろ「おはようございます」

エックス『ちひろさんか。おはようございます』

ちひろ「……いよいよですね」

エックス『はい……みんなの今までの努力が結晶する日です』

ちひろ「……なんだか、感無量ですね。今から」

エックス『そうですね……』

ちひろ「……プロデューサーさん」

エックス『ん?』

ちひろ「ちょうどいい区切りですし、私への丁寧口調やめませんか?」

エックス『いいんですか?』

ちひろ「はい。どうせプロデューサーさんの方が歳は上ですし」

エックス『それはそうです……じゃなくて、それはそうだ。うむ』

ちひろ「ふふっ。それじゃあ、会場に向かいますか」

エックス『ああ!』


 ・
 ・
 ・

―――午後七時、会場

 無数の人の群れが犇きあう広大な会場。
 急に光源が落とされ、ざわめきの声が立つ。と、次の瞬間、それが歓声に変わる。ステージ上に光が灯ったからだ。

 ゆっくりと幕が上がっていく。姿を現したアイドルたちに観客は口々に声援を叫ぶ。
 曲のイントロが鳴り出すとそれが静まっていく。しかし――

卯月「みなさーーん! こんにちはーー!!」

 卯月の一声によって再び沸き返った。
 その声の大きさに負けないように未央と凛が声を張り上げる。

未央「今日は『346プロオールスターステージ』に来てくれてありがとー!」

凛「私たちも頑張るから、みんなも、楽しんでいってねー!」

 更にボルテージが上がり、たちまちのうちに熱気に満ちる客席。
 ステージ上では幕が上がり切り、揃いのドレスを纏った九人の姿があらわになっていた。


美波「トップバッターは私たち――」

珠美「『United 9』です!」

こずえ「そしてぇー……曲はー……」

ゆかり「『Absolute NIne』!」

裕子「心の準備はできましたかー!?」

輝子「行くぜエエエエエエエ!!!」


  未来に響かせて
  勝ち取るの この歌で 絶対
  掴め starry star


 歌と共に九人が踊り始める。
 スポットライトが瞬き、時にはスモークを切り抜いて飛び回り、ステージを華やかに彩っていった。


 同時間、舞台裏。
 ステージ上の様子を映したモニターを見ながらちひろがエックスに小声で喋りかけた。

ちひろ「みんな、大丈夫そうですね」

エックス『ああ。練習通り……いや、それ以上のパフォーマンスができている』

ちひろ「憧れの舞台でしたもんね」

エックス『そうだな……ひときわ強い想いがあるんだろう』

ちひろ「はい……」

 それからは二人とも黙って、アイドルの舞台を静観していた。


 曲が終わりに差し掛かっていく。汗を散らしても皆の顔から笑顔は絶えない。
 生き生きとした表情を更に輝かせながらステージ上を駆け回る。


  孤独が疼きだして 体を蝕んでも
  前を見る強さを
  一歩ずつ 確実に 絶対
  言葉が歪み始め
  イメージが加速する
  世界に響かせて
  勝ち取るの この歌で 絶対
  光れ starry star


 曲が終奏に入る。各々のタイミングでステージの中央に集い、終わりと同時にポーズを決める。
 ――そのはずだった。


卯月「……!?」

 突然のことだった。足元が大きく揺れ、卯月は体勢を崩して倒れてしまった。
 咄嗟に立ち直ろうとするが、客席の方にも動揺が広がっていた。それほど大きな揺れだった。

 それでもなんとか最後の音までに間に合わせてポーズを取る。
 揺れは収まっていた。しかし、客席は未だざわめいている。

凛「……い、行こう」

卯月「はい……」

 戸惑いつつもとりあえず引き上げようとしたが――

美波「きゃぁっ!?」

裕子「わあああああっ!?」

 再び揺れが。火がついたように混乱する客席。


ゆかり「ま、待ってください! 落ち着いて――」

 ゆかりはマイクを取って訴えかけようとするが――
 彼女は気付いていなかった。頭上のスポットライトの支柱が揺れの影響で壊れかけていたことに。

 もう一度揺れる。もう立っていられなくて、ステージも客席も逃げ出そうとする者も全員腰を落とす。
 その時だった。ゆかりの頭上からスポットライトが落下してきたのは。

美波「――っ!」

 美波がいち早くそれに気付く。ゆかりは気付いていない。
 声を掛けようと思う間もなく、それが落ちてきて――

 ――ガッシャアアアアアン!!!

卯月「!」

 凄絶な破壊音。ゆかりのいた場所に大型のスポットライトが落下し、見るも無惨に破壊されていた。


ゆかり「……!」

輝子「だ……大丈夫か……」

 ゆかりは蒼ざめた顔で足元のそれを見詰めていた。
 彼女の腹に抱きつくような形で覆い被さっているのは輝子。彼女がゆかりを押し倒したため、間一髪で直撃を避けられたのだった。

未央「どういうこと……? 何が起こってるの……?!」

 一瞬静まり返っていた会場はすぐ阿鼻叫喚の騒ぎに戻り、みな我先にと逃げ出していた。
 そんな中、スピーカーから場内アナウンサーの声がした。

『会場の皆さん、落ち着いて聞いてください! 東京都千代田区北の丸公園にて怪獣が出現!』

 アイドルたちが揃って息を呑む。北の丸公園とは、この会場がある場所である。

『現在、科学技術館に向かって進行中。皆さん、第三出入口から速やかに公園外に避難してください!』

未央「……っ!!」

凛「! 未央っ!」


 ステージから駆け出した未央は拳を痛いほどに握りしめていた。
 舞台裏に回るとちひろの姿を探す。こちらの姿を認めた彼女の方から寄ってきてくれた。

ちひろ「未央ちゃん! 早く避難しないと――」

未央「ちひろさん、プロデューサー借ります!」

ちひろ「えっ――」

 驚いている間に未央はちひろの手からデバイスを取って走り出していた。

凛「未央っ!」

卯月「未央ちゃん!」

 するとステージの方から凛と卯月、続いて他の六人も入ってきた。
 呆然とするちひろを尻目に未央の後を追っていく。関係者出入口の方に向かってだ。

ちひろ「み、みんな! 待ってください、そっちは――」

 関係者出入口はちょうど科学技術館の方向だ。そちらから逃げても怪獣に出くわすだけ。
 少しの間迷ったが、彼女も皆の後を追った。大人として彼女たちをきちんと避難させなければならない。


未央「プロデューサー、どうなってるの!?」

 一方、未央は走りながらデバイスに向かって問い掛けていた。

エックス『わからない。だが恐らくは近くの建物を破壊したせいでこちらにまで衝撃が来たんだろう』

未央「……みんなのステージをめちゃくちゃにするなんて……!!」

 未央が歯ぎしりする。このオールスターステージは自分たちだけのものではない。
 他にも346プロに所属するアイドルたちが大勢参加するイベントだ。彼女たちもファンも、みな心から楽しみにしていた。それなのに――

未央「絶対に許さない……!!」

 関係者出入口から飛び出す。そこは地上から見れば高台になっており、眼下に森が見渡せる。その中に巨大怪獣の後ろ姿があった。
 ほぼ三角形の翼が一対と、青い棘が数本突き出ている赤い背中。それが公園の森の中を我が物顔で闊歩している。

未央「プロデューサー!」

エックス『よし、行くぞっ!』


 エクスデバイザーを突き出し、Xモードに変形させる。
 出現したスパークドールズをリードしたデバイスを掲げ上げ、未央は叫んだ。

未央「――エックスーーーーーっ!!!」

エックス「――イーーッ、サァーーーッ!!!」

 放たれた閃光の中から銀色の巨人が飛び立った。
 そのまま空中から角度をつけて怪獣に一直線に向かっていく。

エックス「――Xクロスキック!!」

怪獣「グオオオオオオオン!!」

 その衝撃で怪獣はよろめいたが、倒れはしなかった。すぐさま振り返る。
 一方エックスは反動を利用してバク宙し、地響きを立てながら着地した。土埃が立ち、夜空に電光が放散される。

『エックス ユナイテッド!』


未央『……っ!』

 怪獣を正面から見て、未央はそのおぞましい姿に戦慄した。

 頭部はぶつぶつと細かい孔が空いた、蜥蜴に似た形で、しかし鋭い眼は青く光り、確然たる差異を示している。
 そして頭部に被さる兜のような形状のものには青い一対の眼が光っていた。
 左腕は巨大な血走った眼球のようにしか見えず、青い瞳がまるで生きているかのように光っている。
 右腕は赤い鋏。甲殻類のような硬さが見ただけで分かり、蟹のような突き出た眼が青く光っている。
 更に、腹部にもまた顔のようなものが埋め込まれているのだった。これまた青い眼が一対ギラリと光っている。

エックス『なんだこいつは……!』

未央『プロデューサーも知らない?』

エックス『……いや、見覚えがある。だがそれは個々の部位においてだ』

未央『つまり……』

エックス『こいつは、合体怪獣……!』


卯月「未央ちゃん……」

 卯月たちが会場から出るとちょうど未央が変身していたところだった。
 怪獣と対峙するエックスを不安そうに見守る。そこへ――

ちひろ「みんな! 早く避難しないと!」

 ちひろが息を切らしながらやってきた。

珠美「で、ですが……」

ちひろ「! プロデューサーさん、怪獣と戦うんですね……」

 巨大化したプロデューサーの姿を認めてちひろはそう言った。
 しかしそれとこれとは別だ。戦闘の煽りを食わないように避難させなければ。そう思い、皆に告げようとした時だった。


ちひろ「……未央ちゃんは……?」

卯月「あっ……」

ちひろ「…………」

 皆の顔を見渡すが、不思議そうにしているこずえ以外はみな俯いて口を開かない。
 その時不意にちひろの脳裏に蘇る記憶があった。テンペラー星人が東京に飛来した時のことだ。

 ボロボロになっているのを医務室に運び込まれた凛。
 それは飛んできた瓦礫に襲われたとのことだったが、あの冷静沈着な凛が戦闘現場にのこのこ出るなんてあり得るだろうか。

 また、裕子の時もそうだ。
 彼女の学校で起こっていた事件に巻き込まれたと説明されたが、あんな深夜に一緒に帰ってきたのは――

ちひろ「もしかして――」

 目を見開いてエックスの背中に目を向ける。

ちひろ「まさか……」


怪獣「――グオオオオオン!!!」

エックス「!」

 怪獣が雄叫びを上げ、こちらに歩んでくる。
 一歩一歩が重く、大地を鳴動させる。既にへし折られた木々を粉々に踏み砕いていく。

エックス「ハァァ――セヤァッ!!」

 エックスがファイティングポーズを取り、怪獣に向かっていく。

エックス「デェヤッ!」

 勢いをつけて胸にパンチする。
 しかし怪獣は全く怯む様子を見せなかった。右手の鋏を振り回す。


エックス「ハッ! ――セヤァッ!」

 それを屈んで躱し、今度は組んだ両手をハンマーのように叩きつける。

怪獣「ギャォォォォン!!!」

 しかしそれでも怪獣は応えなかった。返す刀で鋏がエックスの首に叩きつけられる。

エックス「デアア……ッ!」

 横方向に吹っ飛ばされるエックス。
 首を振りながら立ち上がろうとする。視界に入った怪獣、その頭部の二対の眼が爛々と輝いていた。

エックス「!」

怪獣「ピギャァァァオオン!!」

 兜と顔の間、額に当たる場所から金色の太い光線が放たれる。
 咄嗟にエックスは両腕を身体の前に構えた。青白いバリアが形成され、光線がそれに激突する。


怪獣「グオオオオオオン!!!」

エックス「グッ……!!」

怪獣「ピギャグァァオオオァオオン!!!」

 怪獣の声量が高まると同時に光線の勢いが強まる。
 バリアに罅が入る。ひとたび亀裂が入れば後は早かった。光線が一気にバリアを突き破り、エックスの身体を襲った。

エックス「デアアアッ!!」

 エックスの身体が後方に吹っ飛ばされる。

怪獣「グオオオオオオン……」

 光線が炸裂した胸部を中心として全身が痛むが、迫ってくる怪獣の低い唸り声を耳にしてエックスは身体を起こした。


エックス「――ハァァッ!!」

 一度地面をドン、と叩き、怪獣に突進する。
 その足元に怪獣は鋏を開いて向けた。

怪獣「ギャォォォォン!!」

 するとその間から白い煙のようなものが噴き出た。

エックス「グッ――!?」

 突然足が動かなくなって、エックスがつんのめる。咄嗟に出した右手で身体を支えるが、左足は変わらず動かない。
 見ると、足が凍って地面と接着していた。

怪獣「アオオオオオン!!」

 怪獣が両手を広げ、腹部を開示する。そこに埋め込まれた顔から今度は光弾が乱射された。


エックス「デェヤッ!」

 すぐさまバリアを展開するが、数発はその外側から急カーブを描いてエックスを襲った。
 集中が途切れ、バリアが消える。放たれた全弾が動けないエックスの身体に命中する。

未央『く……うぅぅ……っ!!』

 歯を食いしばり、未央がデバイスにカードをセットする。

『サイバーゼットン ロードします』

 ゼットンの体躯を模し、黒を基調としたアーマーがエックスの上半身に纏われていく。

『サイバーゼットンアーマー アクティブ!』


エックス「セェヤッ!」

 エックスはすぐさまゼットンシャッターを使い、どの方向からの光弾も全て遮断した。
 そしてそのバリアを纏ったまま回転を始める。その勢いで足元の氷が砕け、足が自由になる。

未央『――ゼットントルネーーーード!!!』

エックス「イィッ、サァーーッ!!!」

 飛び上がったエックスが旋風を纏いながら怪獣に突撃する。しかし――

怪獣「ピギャァァァオオン!!」

 怪獣が翼を大きく広げた。地面を蹴り、素早く飛び立つ。エックスの突撃が躱されてしまう。

エックス「――ハァァッ!」

 しかしエックスも黙ってはいない。旋回して方向転換し、怪獣を追尾する。
 すると怪獣もまた旋回した。両者が共に相手目掛けて空中を突き進んでいく。


怪獣「ピギャグァァオオオァオオン!!!」

 突進しながら怪獣が光線を放つ。しかしゼットントルネードはそれを裂いた。
 両者止まらず、遂に激突する。凄まじい衝撃が地上にまで押し寄せ、突風が吹き荒れ、森をざわめかせる。

美波「っ……」

 目を開けていられないどころか立っていることすらままならなかった。
 美波はこずえを抱き締めながらしゃがみ込む。他のみなも同じようにして風を耐えた。

 しばらくするとようやく風が収まった。すぐさま立ち上がって空を見上げるが、そこにはもう何もない。
 と、その時。ドオオオオン!! という轟音と共に地面が大きく揺れた。

裕子「な、何が……っ!」

ゆかり「――プロデューサー!」


輝子「うっ……」

 輝子が思わず息を呑む。エックスが地面に倒れていた。
 その上からバラバラになったアーマーが落ち、地面に到着する前に粒子になって消滅した。

 怪獣との激突に敗れたのはエックスの方だった。
 激突の寸前に放たれた光線。エックスは確かにそれを弾き飛ばしたが、それによって突進の勢いが削がれてしまっていたのだ。

卯月「――未央ちゃんっ!!」

 卯月が叫ぶのを聞いて、ちひろは全身がぞっとすると同時に、腑に落ちた。

ちひろ(やっぱり……未央ちゃんが戦ってるのね……。プロデューサーさんと一緒に……)

 ちひろの視界に映るエックスの背中。
 よろよろと立ち上がって怪獣に対峙する様は痛々しく、追い打ちをかけるようにカラータイマーが鳴り始めた。


未央『はぁ、はぁ……』

エックス『未央……大丈夫か……』

未央『ぜ……全然へーき……』

エックス『…………』

 しかしその声は憔悴しきっていた。エックスも苦悩する。この怪獣は今までの敵とは比べ物にならない。
 このままだと未央の身が危ない。どうすれば倒せる――そう考えていたところだった。

エックス「! グアアアッ!?」

 突然背中に衝撃が走った。振り向くと、それは怪獣の方へ飛んでいく。
 もう一度怪獣に顔を向ける。その巨体の周りに小さな目玉のようなものが四つ、ふわふわと浮かんでいた。

未央『なに……?!』


目玉「ケケケケケケ!!」

 けたけたと笑いながら目玉が再び飛んでくる。それぞれが放った紫色の怪光線がエックスの全身を覆った。

未央『――うああああああああっっ!!??』

 頭の中に謎の呪詛が流れてくる。様々な言語や言葉が混じり合い、聞き取れそうで聞き取れず、神経を逆撫でする呪詛。
 未央=エックスは耳を塞ぐも、それは絶えず聞こえてくる。音量も変わらない。むしろ増しているようにすら聞こえた。

エックス「グ……ッ!! グアアアアッ……!!」

怪獣「ギャォォォォン!!」

 怪獣が右手の鋏を突き出すと、その間から火炎弾が連発された。
 悶え苦しむエックスに肉体的苦痛が加わる。火の粉が飛び散り、辺りの木々を炎上させていく。


未央『がっ……あ、あぁぁ……! こ、こんのぉ……っ!!』

 震える手でサイバーカードをセットする。
 右腕に砲身を備えたサイバーエレキングアーマーがエックスの身体に装着された。

『サイバーエレキングアーマー アクティブ!』

エックス「テェヤッ!!」

 宙に浮かぶ目玉を砲身から伸ばした電撃鞭で薙ぎ払う。
 怪光線から解放されたエックスは疲弊した身体で砲身を構え、アーマーの力を解放した。

エックス「「――エレキング電撃波!!」」

怪獣「グオオオオオオオオン!!!」

 怪獣の額から光線が発射され、電撃波と激突する。
 だがカラータイマーも点滅している現状では押し勝つことなど不可能だった。途中で電撃波の線が細くなり、糸のようにぷつんと途切れた。


エックス「ハァァ……ッ」

 怪獣の光線を砲身で受け止め、振り払う。同時にアーマーの限界が訪れ、光と共に霧散した。

未央『光線がダメなら……!』

『サイバーゴモラ ロードします』

 今度は青いアーマーが装着される。
 両腕に「G」の文字があしらわれたゴモラアーマー。厚い装甲を持ったこのアーマーで接近戦に持ち込む作戦だった。

『サイバーゴモラアーマー アクティブ!』

エックス「デェヤッ!!」

 夜の森に揺らめく炎に巨大な爪を光らせ、エックスが突進する。


怪獣「ギャォォォン!!」

 振り回された鋏を左のアームアーマーで受け止める。
 その場でジャンプし、落下の勢いと共に爪を頭部に振り下ろす。

怪獣「ピギャァァァオオン……」

 流石にこれは応えたようで、怪獣が二、三歩後ずさりする。
 いける――そう思った瞬間。

怪獣「アオオオオオオオン!!!」

 腹部の顔から光弾が放たれたのだ。
 ちょうどアーマーの胸部が防御してくれたが、その衝撃でこちらも後ずさりを余儀なくされる。

怪獣「ギャォォォォォォン!!!」

 その隙を狙って鋏の間から青白いビームを放つ。エックスの身体が更に押される。


怪獣「ピギャグァァオオオァオオン!!!」

 額からの光線がトドメとなった。アーマーが粉砕され、エックスの身体が後方に押される。

未央『くっ……!』

 このままだとまずいのは火を見るより明らかだった。
 未央がサイバーカードをセットすると、紫色の鋭利な形状をしたアーマーが装着された。

『サイバーベムスターアーマー アクティブ!』

エックス「イィッサァッ!!」

 身体を押す光線を盾で受け止め、吸引口に吸収する。
 光線が収まったところで盾を翻し、地面に突き立てた。

エックス「「――ベムスタースパウト!!」」

 逆流する光線。それが怪獣を襲おうとしたその時――


怪獣「ケケケケケケ!!」

 怪獣が左腕の目玉を盾にした。すると、光線がエネルギーになり、その上にくるくると回転し始めた。

エックス「!」

怪獣「グォケケォケケォケケォケケ!!」

 けたたましい笑い声と低い唸り声が混ざったような雄叫びを上げながら怪獣がそれを突き出す。
 再びエネルギーが光線に変わり、エックスに向かった。ベムスターアーマーの盾を身体の前に翳す。

エックス「ハァァ――ッ!!」

 またしても光線を吸い込もうとするが、怪獣には読めていた。
 左腕のところどころに埋め込まれた目玉。それらが飛び出し、エックスに体当たりしたのだ。

エックス「グッ――」

 腕に攻撃を受けて盾が光線の射線から外れる。光線は放たれたままだ。エックスに直撃し、その全身を呑み込んだ――


 ――そう思われた、次の瞬間。虹色の光芒が一閃したかと思うと、光線が真っ二つに斬り裂かれた。

エックス「デエヤッ!!」

 勇猛な声が響く。弾き飛ばされた光線が背後に着弾し、巨大な爆炎となって立ち昇る。
 逆光となったエックスの体躯。虹色のラインが全身に入る、エクシードエックスに変貌していた。

未央『はぁ……はぁ……』

エックス『行くぞ……未央……!』

未央『うん……!』

 手にしていたエクスラッガーを逆手に持ち、ブーストスイッチで伸長させ、地面に突き立てる。
 虹色のトンネルが形成され、エックスと怪獣を包み込む。

エックス「「エクシード――――エクスラッシュ!!!」」

 エクスラッガーを抜いて飛び立ち、それを構えて突撃する。


怪獣「ピギャァァァオオン!!」

 怪獣が額から光線を放つ。エックスと激突する。
 エクスラッガーが光線を斬り裂いていく。段々と勢いを落とされつつも、着実に怪獣の元に近づいていく。

エックス「――デアアアアアッ!!!」

 あと少し。あと、数十メートル。もう少しで剣が届く。
 しかしエックスの勢いが止まる。光線の勢いと、完全に拮抗する。

未央『――ああああああああっっ!!!』

 最後の力を振り絞る。反重力を形成する足裏で宙を蹴りつける。
 剣の柄を握る手を強くする。身体がバラバラになってしまいそうだ。歯を食いしばってそれに耐える。


エックス「ジュアアアアアアア……ッッ!!!」

 じりじりと前進する。引き裂かれた光線の衝撃波が肌を切りつける。
 全ての痛みと、苦しみに耐える。諦めかける心に鞭を打つ。

未央『――届けえええええええええっっ!!!』

 エクスラッガーの刀身が輝きを増す。
 想いを形にする剣。未央の心の強さが剣を強くする。

エックス「イィ――――サァァァァッ!!!」

 手応えがあった。剣がぐいっと前に出る。抵抗が緩まる。
 ――届く。行ける。このまま――このまま、突き進める――!


 ――その時だった。

怪獣「ケケケケケケ!!」

 そんな、嘲笑うかのような声がしたかと思うと。
 剣にかかる抵抗が、盛り返した。

未央『えっ――』

 剣が前に進まない。肌に当たる衝撃が不自然に苛烈になる。光線が、勢いを増している。

未央『何で――』

 剣が押され始める。体勢が崩れる。

未央『何で――!』

 次の瞬間、光線がエックスの身体を呑み込んだ。

未央『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーっ!!!!』

 未央の目に映った最後の光景――

 手にしたエクスラッガーの刃が、ぼろぼろと毀れていく。
 虹色の光が閃き、やがて、風に流される砂のように、どこへともなく消えていった。


 一方、ちひろたちの視点からは――

ちひろ「…………!!」

 一際太い光線が虚空を切り裂いていった。
 辺りが静穏に満ちる。パチパチという木の燃える音が、微かに聞こえるのみ。

 光線が消えたあとに、エックスの姿はなかった。

 呆然として、首も動かせなくて、目だけで辺りを見回すが、どこにもその存在が見えない。
 誰しもが言葉を失って、息を詰めて、目の前の光景と対峙していた。

怪獣「グオオオオオオン!!」

 怪獣の雄叫びが森を騒然とさせ、空気を震撼させる。
 くるっと背を向け、再び元の進行方向へ戻った。


 その足元――

 炎に包まれた森の中に、ドレス姿の少女が倒れていた。
 ぴくりとも動かない指。目は深く閉じられ、顔面は土色、僅かに空いた口が行う呼吸も微弱――

 そのそばに、デバイスが転がっていた。

エックス『み、未央……』

 ノイズが混じった声。

エックス『しっかりしろ……目を覚ませ……!』

 だが、その言葉に少女は答えない。
 やがて、デバイスからの呼び掛けも途絶えた。

 森は再び、崩れゆく木々の音に支配された。


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 科学技術館、江戸城を破壊した後、怪獣は都内において五時間もの間、暴虐の限りを尽くした。

 国会議事堂、国立国会図書館、国立競技場、明治神宮、346プロ本社。
 日本銀行本店、東京証券取引所、東京タワー、諸大学施設、レインボーブリッジ、スカイツリー。
 雷門、東京ビッグサイト、秋葉原電気街、上野動物園――数え切れないほどの施設を破壊し尽くした。

 だがここに挙げられているのはほんの一握りだ。
 怪獣はその飛行能力と無尽蔵のエネルギーを以てして、降り立った千代田区から半径10㎞余りを蹂躙した。
 当然、都市機能はストップ。政治・経済両面において深刻なダメージが日本を襲うことが確実視された。

 日付が変わる頃、怪獣は北の丸公園に戻り、突如として次のような宣言をした。

『私の名はチブル星人「ウィジュー」。この怪獣「ファイブキング」と一体化した宇宙船の中にいます』

『今夜の襲撃はほんの余興に過ぎません。本気を出せば、日本はおろか地球上の全ての人類を消し去ることもできるでしょう』

『しかしそんな野蛮で愚劣な侵略はしない主義です。これより三時間の間に私に降伏し、地球の全支配権を渡すと約束すれば命は助けてあげましょう』

『それでは御機嫌よう。いい返事を期待していますよ』

 そして再び空の彼方に飛び立っていった。


 怪獣が通った場所は例外なく火の海となったが、ひとたび重低音の叫びを響かせると蝋燭の火の如くあえなく鎮火し、街は原始時代の夜に回帰した。
 皮肉にもそれによって満天の星空は澄み切った上空に出現し、煌々と輝き、地上に光をもたらした。

 だがそれを見上げる者は誰もいない。
 地下の避難シェルターに身を潜め、面を下げ、懊悩と沈痛に満ちた表情を湛えるのみ。

 ある者はこの先に待ち受ける絶望的な未来に、ある者は家族を、友人を、恋人を喪った悲しみに、或いはそれら全てがないまぜとなった悲痛に身を浸していた。
 そう、この襲撃によって夥しい数の命が奪われた。自殺者や迎撃に出た陸自・空自の戦死者を含め死者は優に1万人を超えると見られ、負傷者多数。なお、両方とも正確な数は未だ不明である。

 幸いと言っていいのか、346プロのアイドルたちに死者はいなかった。
 重軽傷者合わせて26名。――そして。

 今なお意識不明の重体者、1名。――本田未央。


第八話 おわり


≪次回予告≫


「ウルトラマンも、独りじゃ戦えないんですよ」


「下を向いてたら、どんな可能性も見えてこないんです!」


「今こそ、大人の責任を果たすときです」


「プロデューサーさん……。私、夢を見たんです……」


「共に行こう! ――みんなでユナイトだ!!」


「――エックスーーーーーーーっ!!!!」


次回、ウルトラマンXP最終話 『君と僕の絆』

>>392
今気付いたんですが、「ご拝読ありがとうございました」って何だ……素で間違えてました。
「お読みくださりありがとうございました」と言いたかったんだと思います。
「ちゃんと調べなきゃダメですね!」とか言ってるそばからこれだ……すみません。


最終話 『君と僕の絆』


―――病院

 二時間前のファイブキングの襲撃で怪我人がごった返す病院。
 未央はそこの集中治療室に搬送されていた。

未央「…… …… ……」

 酸素マスクを取り付けられ、腕からはそばの機械に何本かケーブルが伸びている。

ちひろ「…………」

 ガラス越しにそれを見ていたちひろの表情は暗いものだった。
 しかし働かない者がいつまでも突っ立っていると邪魔になる。それほど病院は今てんやわんやの状況なのだ。

ちひろ「……また来ますね。未央ちゃん」

 病院を出るちひろ。原始時代の闇に沈んだ夜の街は静まり返り、猫の子一匹いない。
 そんな風景を見てちひろは嘆息せずにはいられなかった。街と言っても、もう原型すらないのだ。


 どこを見渡しても崩れた瓦礫だけ。大量のそれが堆く積み上がり、電柱や信号は折れ、車は押し潰されてひっくり返っている。
 そんな夜道を歩きながらちひろは空を見上げた。砕いたダイヤモンドをばら撒いたような満天の星空が天高く広がっている。

 南天にうっすら見えるアンドロメダ銀河。
 西に目を移すとアルタイル、デネブ、ベガが夏の大三角を描いている。

ちひろ「……綺麗だなぁ……」

 この状況でそんな感慨を持つのは甚だ奇妙なものだと思う。
 だけどどこかしら悟ってしまったのか、感覚が麻痺しているのか、ちひろはそう思った。

ちひろ「でも、誰も見ないんでしょうね……」

 こんなにも綺麗な星が、確かにそこにはあるのに。
 絶望に沈んだこの街の人々は誰もそれを見ようとはしないだろう。


ちひろ「……ね、プロデューサーさん」

 ふとそう言ったが、腰に下げたデバイスから返事はなかった。
 あの戦いの後、エックスは画面に姿を現さない。この中がどうなっているのかわからないためどうとも言えないが、恐らくは甚大なダメージが彼にも影響を与えているのだろう。

ちひろ「…………」

 いや、それすら希望的観測だ。
 あれきりエックスからは何の音沙汰もない。普通に考えれば――そこまで考えて、ちひろはかぶりを振った。

ちひろ(……帰りましょうか)

 無論、自分の家にではない。地下納骨堂のような重く暗い雰囲気に沈んだ――避難シェルターにだ。


―――地下・避難シェルター

凛「ちひろさん」

 シェルターに戻ってきたちひろの姿を認めて、凛が駆け寄ってきた。
 ステージからそのまま避難したので純白のドレス姿のままだ。

凛「未央は?」

 冷静そうに振る舞ってはいるが、声は微かに震えていた。
 安心させられるように、優しい声でちひろは答える。

ちひろ「まだ目は覚めてません。でも小康状態に入って、落ち着いているみたいですよ」

凛「そっか……。プロデューサーは?」

 苦笑を浮かべながら、首を振る。


ちひろ「まだお疲れみたいです」

凛「……うん。そうだよね」

 凛もまた苦笑を返す。彼女もわかっているのだとちひろは悟った。
 それでいて、自分を保つために希望的観測を信じている。

 それが良いことかどうかは分からない。現実から目を逸らしているだけかもしれない。
 でも、シェルターに満ちる負の空気を吸うと、彼女のような姿勢の方が好ましく感じられるのだった。

 希望はきっとある。ただ、それを見ようとしていないだけで。
 ちょうど、美しく輝く星々に誰も目を向けないように。


ちひろ「みんなはどうしてますか?」

凛「配給の手伝いをしてる。私も戻ろうかな」

ちひろ「偉いですね。感謝されてるんじゃないですか?」

 それにも凛は苦笑で返した。

凛「ファンの人もいて、そういう人から感謝はされたけど」

 凛はそこで言葉を切って、首を振った。
 媚びを売っているとでも言われたのだろうか。アイドルをそういう目で見る人も少なからず存在する。


ちひろ「……状況が状況ですから、仕方ないですよ」

凛「そうだね。……じゃあ私は戻るから」

ちひろ「はい。頑張ってくださいね」

凛「ちひろさんは?」

ちひろ「私は他部署のプロデューサーさんたちに会って話をしてこようと思います」

凛「うん、わかった。みんなにもそう言っとく」

 別れようとした時、女の子の泣き声が聞こえてきた。
 何かに気付いたらしく、凛が駆け足でその方向へ行く。少し迷ったがちひろもその後を追った。


母親「ねえ、これだけしかないの?」

卯月「ごめんなさい。他の方の分もあるので、これで我慢してくれませんか?」

 二人が着くと、親子連れが配給の列に並んでいるところだった。
 小学生の低学年くらいだろうか、娘の方がわんわんと泣き声を上げている。

娘「うちに帰りたいよぉ……」

母親「泣かないの。仕方ないでしょう?」

娘「ねえ、何でウルトラマンは来てくれないの?」

 会話を聞いていた凛や、目の前にいた卯月や、そばのアイドルたちが表情を強張らせた。
 そんなことも知らず、母親が無神経に答える。

母親「来たわよ。それで負けたんだって、ラジオで言ってたわ」

娘「ウルトラマン、死んじゃったの……?」

母親「……さあ。でも、もしかしたら――」

 続く言葉を、卯月の声が遮った。


卯月「大丈夫ですよ」

 少女の顔を覗き込んで、にっこりと笑いながら、彼女は言った。

卯月「ウルトラマンは、また来てくれます。そして、今度は勝ってくれます」

娘「ほんと?」

卯月「はい」

 少女に笑顔が戻ろうとしたが、そこへ不機嫌そうな声が挟まった。

母親「どうだか……」

卯月「え?」


母親「どうせまた出て来ても負けちゃうんじゃないの? まるで歯が立たなかったって聞いたけど」

卯月「そんな――」

母親「いい? あの怪獣がまた来るのにもう一時間もないの。あんまり無責任なことばかり言わないで」

 卯月が息を呑む。凛とちひろは不安そうにその光景を眺めていた。
 少女を含む列の前後の人間もそうだ。その言葉を聞いて、より一層表情の影を濃くする。

卯月「…………」

 卯月は一度目を閉じてから、また開いて、母親の顔をきっと見据えた。

卯月「――ウルトラマンも、独りじゃ戦えないんですよ」

母親「は……?」


卯月「……私たちアイドルがファンの皆さんに力を貰っているように、人と人は繋がって生きてます」

 ぎゅっと胸の前で拳を握り、卯月は瞼を下ろした。

卯月「それはウルトラマンだって同じです。誰もが諦めて下を向いてたら、ウルトラマンだって戦えない」

凛「……卯月」

卯月「だから――私たちは上を向かなきゃいけないんです。それがきっと――」

母親「ふざけないで!」

 弾かれたように、卯月が目を見開く。

母親「あなたに何がわかるの!? こんな状況で、そんな綺麗ごとばかり言って!」

「……そうだよ。俺たちが何をしたって……」

「あと数十分で怪獣が再来して、俺たちもいぶり出して、それで――」

 周りの人間たちも口々と重い口を開く。中には八つ当たり気味に卯月を責める声も混じった。
 ちひろの足が自然と一歩前に出た時、


卯月「――わかります!」

 卯月の声が響いて、周囲のざわめきが静まった。
 たじろぎながら母親が言う。

母親「わかるって……何が」

卯月「ウルトラマンは……ウルトラマンエックスは、私たちのプロデューサーです」

 周囲が再びざわめき出す。少し驚いたようだったが、母親は声を荒げて反論する。

母親「だから何! それで何がわかるの!」

 卯月は少し口籠ったが、言葉を続けた。毅然とした口調だった。

卯月「プロデューサーさんが巨人の姿になって戦うために、私たちは身体を貸して変身していました」

 人の群れに動揺が走る。母親も流石にそれには面食らったようで、呆然としている。


卯月「だから、わかるんです。ウルトラマンも万能じゃない……心を持った命なんだって」

凛「時には失敗もするし――」

 ちひろが気付くと、凛が前に進んでいた。
 卯月の隣には他のアイドルたちが集まってきている。

美波「戦闘中でも慌てたり、ちょっと間の抜けたことをしちゃったりもしますし――」

ゆかり「でも、誰よりも優しくて――」

輝子「誰よりも強くて……」

珠美「――こちらの方が支えられたりもしました」

裕子「卯月ちゃんの言う通りです。だからこそ、私たちが諦めちゃダメなんです!」

卯月「私たちにできることは限られてるかもしれません。でも、それでも上を向かなきゃ何も始まらない」

 卯月が顔を上げる。薄暗い電灯の下、濡れた瞳を、まるで星空を宿したように輝かせながら――

卯月「たとえ絶望的な未来が見えているとしたって――下を向いてたら、どんな可能性も見えてこないんです!」


ちひろ「…………」

 ちひろは人の輪の外から、その光景を眺めていた。
 同時に気付いた。やはり彼女たちはアイドルだ。人の心を揺り動かし、惹きつける力を持ったアイドルなのだと。

 この場の空気が変わったことをちひろは感じ取っていた。
 絶望的な状況は何も変わっていない。確かに自分たちにできることなんて何もないかもしれない。
 それでも、下を向いていたら何も始まらない。卯月の言葉は確かに皆の心に響いていた。

ちひろ「……?」

 その時だった。腰に下げていたデバイスの画面がぼんやり光っていることにちひろは気付いた。
 慌ててデバイスを取り上げる。画面に虹色の光が満ち、それがひとつの形を作っていく。

ちひろ「……プロデューサー……さん……」

 それは、エックスの顔だった。


エックス『……ちひろさん……なのか……?』

ちひろ「プロデューサーさん。戻ってきてくれたんですね……!」

エックス『……あの時か』

ちひろ「え?」

 エックスは先の戦闘のことを思い出していた。
 エクシードエクスラッシュが敗れ、エクスラッガーが砕け散った時だ。
 粉々になり、どこかへ消えた粒子。それがエックスの体内に取り込まれていたのだ。

エックス『だから、皆の希望の力が形となって、私を呼び戻してくれた』

ちひろ「……プロデューサーさん」

 ちひろは反転して、その場を去った。
 そのままずんずんとシェルターの出口に向かう。


エックス『ちひろさん?』

ちひろ「聞きたいことは山ほどあります。どうしてみんなの身体を借りていたことを私に内緒にしていたのか、とか」

エックス『うっ……それは……』

ちひろ「ですけど、話は後です」

 シェルターを後にし、地上に出る。
 まだ暗い夜空。無数の星たちのちらちらとした瞬きが降り注いでいた。

ちひろ「私にも責任があります。本来、みんなを守らなきゃいけない立場なのに、ひとり安全な場所でのうのうとそれを眺めていたんです」

エックス『だが、それは……』

ちひろ「――今こそ、大人の責任を果たすときです」

 腕時計に目を落とす。夜光針が午前三時を指していた。
 それほど遠くない空、星を塗り潰すようなどす黒い影が浮かんでいるのが見える。それが急速に巨大化するのがわかる。


エックス『……私とユナイトして戦うつもりなのか』

ちひろ「私とも絆はあるでしょう?」

エックス『……ああ。ちひろさんとは、他のみんなとは少し違った形だが――確かに存在している』

ちひろ「――ちひろ」

エックス『えっ?』

ちひろ「今から一緒に戦う仲になるんです。呼び捨てでお願いします」

エックス『……ち、ちひろ……』

ちひろ「はい」

 ちひろは満足げに笑った。


ファイブキング「グオオオオオオオオオオン!!!」

 ファイブキングの雄叫びが夜空に響き渡る。大気がびりびりと震撼し、この場まで伝わってくる。
 着地と共に地響きが鳴る。盛大に土埃が立ち上がり、吹き荒れる突風に飛ばされ流される。

 その風はちひろの元まで届き、その頬を辻斬りし、前髪を、三つ編みのおさげを乱した。
 しかし顔は決して逸らさない。デバイスを手に、怪獣を真っ直ぐに見据える。

ちひろ「行きましょう。プロデューサーさん」

エックス『――よし。行くぞ、ちひろっ!!』

 ちひろがデバイスをXモードに変形させる。
 出現したスパークドールズを勢いよく掴み、デバイスにリードする。

『ウルトラマンエックスと ユナイトします』

 デバイスから青白い電光が周囲に放散される。
 かっと目を見開き、すうっと息を吸って、突風の音に負けない声でちひろは叫んだ。

ちひろ「――エックスーーーーーっ!!!」

 掲げ上げたデバイスからX字の光が放たれる。彼女の身体を包み込み、その姿を生まれ変わらせる。
 銀色の巨人。眩き閃光を切り裂きながら、腕を突き出し現れる。

エックス「――イーーーッ、サァーーーーッ!!!!」

『エックス ユナイテッド!』


 進攻を始めようとしていた怪獣の前。瓦礫の山を踏み砕きながらエックスが降り立った。
 巻きつけられた旋風が辺りに吹き荒れる。青白い電光が撒き散らされ、漆黒の虚空に溶け消える。

エックス「ハァァ――――」

 エックスが立ち上がる。ゆっくりと腕を構え――

エックス「――――セェヤァッ!!」

 掛け声と共に、決戦の火蓋を切った。

ファイブキング「グオオオオオオオオン!!!」

 ファイブキングの額から光線が放たれる。エックスは横っ飛びでそれを躱しざま、Xダブルスラッシュを放つ。

ファイブキング「アオオオオオオオン!!」

 しかし腹部から乱射された光弾に相殺された。どころか、残りの光弾が大量に飛んでくる。


エックス「テヤァッ!」

 手刀で最初の一発を叩き落とす。

エックス「ハァッ! セヤァッ、デェアッ!!」

 肘で、拳で、足で、光弾をはたき落とす。
 その間にファイブキングは攻撃の態勢を整えていた。額に溜めたエネルギーを光線として発射する。

エックス「――イィッサァッ!」

 バリアを張ってそれを防ぐ。しかし防ぎきれないということは先の戦いでわかっていた。
 右手でバリアを支えながら、左手を胸に翳し、振り下ろす。

 エックスの全身に虹色の光が纏い、それが弾けると共にエクシードエックスの姿となった。


エックス「ハアア――!!」

 左手を額に収まったエクスラッガーに滑らせる。
 バリアが割られる。同時に、エックスの額からも光線が発射された。

ちひろ『――エクスラッガーショット!!』

エックス「――デエヤァッ!!」

 虹色に輝く光の奔流がファイブキングの光線を押し返す。

ファイブキング「ピギャグオオオァァオオオァァオン!!!」

 ファイブキングが光線の勢いを強める。しかし、エクスラッガーショットは止まらない。
 とうとう怪獣の頭部に炸裂した。爆発が起こり、その熱量によって額が抉れた。

ファイブキング「ピギャァァァァァグオオオオオオオン……!!!」


―――避難シェルター

 一方、避難シェルター。
 配給所には未だに人が大勢集まっていた。そこへ――

「エックスが来たらしいぞ!!」

 男の声が響いた。耳にはイヤホンが差さっている。
 命知らずの物好きが外へ出てエックスの戦いを実況し、それをラジオに乗せていた。それを聞いているのだ。

「戦況は!?」

「今のところエックスが押してるらしい! 怪獣の頭にダメージを負わせたって!!」

 人々が一斉に興奮に沸く。
 アイドルたちも例外ではなかったが、その一方で首を傾げていた。


美波「みんな……いるわよね」

 卯月、凛、こずえ、ゆかり、珠美、美波、輝子、裕子。
 入院中の未央以外の『United 9』メンバーは全員この場にいる。

 ならば、いったい誰がプロデューサーとユナイトしているというのか――
 凛がいち早くある可能性に思い至って、背後を振り返った。

凛「まさか……ちひろさん……!?」

 どこに視線を送ってもちひろの姿がない。
 あまりに予想外のことだったが、

卯月「きっとそうです!」

 両手をぱちんと合わせて卯月が言った。

卯月「ちひろさんも、ずっと私たちと一緒にいた仲間ですから……!」

 その言葉に、凛も納得の表情で頷いた。

珠美「ちひろさん……必ずや勝利を……!」


―――千代田区三番町

ファイブキング「ギャォォォォン!!」

 エックスとファイブキングの戦いは接近戦に突入していた。
 振るわれた鋏を何とか抑え込むが、腹部の顔が光っているのを察知して死角に回ろうとする。

ファイブキング「グオオオオオオン!!」

 するとファイブキングが回転した。尻尾がエックスの胸部に叩きつけられ、跳ね飛ばされる。
 地面に倒れると同時にすぐさま後転する。顔を上げると、腹部からの光弾が迫っていた。

エックス「ハアアア――セェヤッ!!」

 立ち上がりながらエックスもまた素早い動きで光刃を連射する。
 精密なコントロールで放たれたそれらは光弾と相殺した。


ファイブキング「グオオオオオオオン!!!」

 怒りに全身を震わせるファイブキング。

ちひろ『……っ!』

 ちひろが改めて気を引き締めた時だった。

ちひろ『……! これは……?』

 突然、宙にサイバーカードが出現したのだ。
 赤く光る「ウルトラマン」。青く輝く「ウルトラマンティガ」。その二枚が。


エックス『ちひろ。君の戦いが皆に希望を与えているんだ。これは、その結晶だ!』

ちひろ『私が……』

エックス『行くぞ、ちひろ!』

ちひろ『――はい!』

 そのサイバーカードを手に取り、デバイスにロードする。

『ウルトラマン ロードします』
『ウルトラマンティガ ロードします』

 すると、デバイスの中から赤い光りと青い輝きが塊となって浮かび上がってきた。
 それぞれが形を変えていく。神秘のアイテム――エクスベータカプセルとエクスパークレンスの形に。


ちひろ『っ!』

 それらを握りしめ、エクスパークレンスにエクスベータカプセルを挿し込んだ。

 エックスの左肩に、ティガの胸の模様を象ったアーマーパーツが。
 右肩にはウルトラマンのそれを象ったパーツが装着される。

 それぞれの中央にはティガとウルトラマンのカラータイマーの形をした発光体が嵌め込まれている。
 同様に、胸を覆うパーツの中央には青く輝く宝玉の如きXの発光体が。

 腕には手甲、足にはミリタリーブーツのようなパーツが纏う。
 最後に、手中にベータスパークソードを握りしめた。

 銀と金の輝きを放つ宇宙最強最高究極装甲。神秘かつ荘厳なる、その鎧の名は――!

ちひろ・エックス『『――ベータスパークアーマー、アクティブ!!』』


エックス「…………」

ファイブキング「グオオオオオン……!!」

 エックスの姿が変貌したことにファイブキングが驚くような素振りを見せる。
 が、すぐさま攻撃態勢に戻った。両腕を広げ、腹の顔から光弾を乱射する。

ファイブキング「アオオオオオオオン!!!」

エックス「「――ベータスパークソード!!」」

 手にした剣をエックスが水平に振るう。
 その一閃は襲い来る数発を切り裂き、その衝撃が空中に乱れ飛ぶ残り全ての光弾を破裂させた。

 漆黒の宙にパッ、パッと、花火のような光が散る。
 その奥より――


エックス「――エーーックス!!」

 エックスが剣を上段に構え、跳躍していた。
 降下と共に剣を振り下ろす。ファイブキングの頭部を叩き、紅き電撃を走らせる。

ファイブキング「ピギャァァァオオン……!!」

エックス「セエヤッ!」

 切っ先を翻し、今度は下から顎を叩き上げる。
 ファイブキングの頭が大きく仰け反った。

ファイブキング「ギャォォォォン……!!」

エックス「テヤッ!」

 振り回された鋏を左腕のアーマーで受け止め、力任せに振り落とす。
 再び剣を両手に構え、怪獣の胸を斜め上に向けて切り裂いた。


ファイブキング「グオオ、グゥゥゥゥウ……!!」

 ファイブキングが怯む。エックスは攻撃の手を緩めない。

エックス「イィッ――!!」

 切り上げた勢いのまま、右足を軸にスピンする。
 そして一回転と同時に剣を袈裟懸けに振り下ろした。ちょうど第一撃と合わせてXの字を描くように。

エックス「――サァァッ!!」

 その一撃一撃が怪獣の全身に凄まじい衝撃を走らせる。
 怪獣が後ずさりする。それは斬撃のダメージからでもあったが、それ以上に――

ウィジュー『な……何なんだこの力は……!?』

 ファイブキングと同化している宇宙船の中。
 チブル星人ウィジューは余りの事態に動揺を隠せなかった。


ウィジュー『くっ……ここは……!』

ファイブキング「ピギャァァァオオン!!」

エックス「!」

 ファイブキングの翼が大きく開いた。
 空中に浮かび上がり、飛び去っていく。

ちひろ『――逃がしません!!』

エックス「デエヤッ!」

 エックスもまた地面を蹴り、ファイブキングを追った。


―――避難シェルター

 シェルター内は歓声に満ちていた。
 男がイヤホンを外し、実況を周囲の皆に聞かせている。

 見たこともないアーマーを纏ったエックスが敵を圧倒している――
 その情報が皆の希望を更に激しく燃え盛らせていく。

こずえ「ゆっこー……」

 そんな中。周りと同じように手に汗握って実況を聞いていた裕子はこずえにドレスの裾を引っ張られた。

裕子「どうしました?」

こずえ「さいきっくてれぱしー……おくってー……おくれー……」

裕子「て、テレパシー? 送れって、誰に?」

こずえ「ちひろさんとぉ……ぷろでゅーさー」

 得心した裕子は力強く頷き、念じ始めた。その間もこずえは彼女のドレスを離さなかった。


裕子「ムムムム~~ン……! ちひろさん……プロデューサー……聞こえますか……?」

『……えっ!? 裕子ちゃん!?』

裕子「へっ?」

 すると、頭の中にちひろの声が響いたのだ。

ちひろ『ど、どうして?』

裕子「え、あぁ……あのっ! 今さいきっくテレパシーでちひろさんの脳内に呼び掛けてるんです!」

ちひろ『裕子ちゃん本当にサイキッカーだったの!?』

裕子「エスパーユッコは本当にサイキッカーですってー! いや、今はそうじゃなくて――」

 裕子が押し黙る。周囲の歓声をちひろの元に届ける。

ちひろ『……!』

裕子「ちひろさん。聞こえましたか?!」

ちひろ『ええ……』

裕子「みんな応援してます! 頑張ってください! プロデューサーも!」

エックス『ああ。君たちの希望の力がある限り、ウルトラマンは決して負けない!』


―――千代田区上空

 エックスはファイブキングを追跡していたが、その飛行能力は予想以上のものだった。
 アーマーの重量のせいか、エックスの方のスピードは中々上がらない。

ちひろ『プロデューサーさん……』

 裕子からのテレパシーで皆の声を聴き、ちひろはあることを思い出していた。
 一週間ほど前のことだったろうか。残業の疲れから、事務所で一夜を過ごしてしまったときのことだ。

ちひろ『私、夢を見たんです……』

 ステージに上がる自分の夢。歌って踊って、スポットライトを一身に浴びる自分の夢。

ちひろ『でも、その会場には私以外誰もいなくて――』

 星空のように広がっているサイリウムの群れはなく、客席は真っ暗闇に満ちていた。

ちひろ『私は……キラキラ輝いてるみんなに少し憧れていたのかも……』

 事務所では普通の女の子だと、近くにいるから分かっているのに。
 ひとたびステージに上がれば皆の心を動かし、歓声を受け、燦然と輝く彼女たちに。


ちひろ『でも今、こんなに……』

 皆の想いが、自分の背中を押してくれている。

ちひろ『私、今、背中に翼が生えたみたいに……どこまでも飛べそうな気がします!』

エックス『……ああ。行こう! 君と私と――みんなと一緒に!』

ちひろ『はいっ!!』

 送信されてきたサイバーカードを全てデバイスにセットする。
 その一枚一枚ごとが、エックスの脳裏にこれまでの思い出を蘇らせた。


『ウルティメイトゼロ ロードします』

 この世界にやって来た日の、未央との初陣。

『サイバーゴモラ ロードします』

 美波との獅子鼻樹海での戦い。

『サイバーエレキング ロードします』

 卯月と一緒に飛んだ夕焼け空。

『ウルトラマンビクトリーナイト ロードします』

 ゆかりと共に演奏をしたあの日。

『サイバーベムスター ロードします』

 凛の強い意志を感じた闘い。
 ……そして、こずえが繰り広げた不可思議な戦闘。

『ウルトラマンネクサス ロードします』

 輝子の決意と勇気が伝わったあの決戦。

『ウルトラマンマックス ロードします』

 珠美との、少し苦心も味わった決闘。

『サイバーゼットン ロードします』

 裕子のサイキックパワーに救われた一夜。

『ウルトラマンギンガ ロードします』

 そして――今日のちひろ。
 夜空を上昇する視界中に美しい星空が広がっている。まるで、皆の希望の煌めきが集ったかのように。

 膨大な星、その希望、それらが渦巻く銀河。
 今、その狂騒の真ん中にいるのは、紛れもなくちひろとエックスの二人だった。


ちひろ『――サイバーカード、リミッター解除!!』

『リミッター 解除します』

 サイバーカードが宿す、アーマーを構成する電子情報、そのエレクトロ粒子、ウルトラマンの光線マトリックス。
 それら全てを破棄し、エックスのエネルギーに変換する。

 エックスの背から光が伸びた。
 刃の如き鋭利な十対の輝かしき翼――“サイバーウィング”が彼の背に展開される。

エックス「――イィーーッ、サァーーーッ!!!」

 それを羽ばたかせ、エックスは夜空を突き進んだ。


 一方、チブル星人ウィジューの方では。

ウィジュー『馬鹿な馬鹿な馬鹿な……! あんな虫けらごときにこのファイブキングが……!!』

ウィジュー『これは逃走ではない……! 戦略的撤退だ……! もう一度立て直し、ファイブキングを最強獣へ強化させる……!』

ウィジュー『そうすればあんな虫けらごとき……一瞬で捻り潰してくれる……!』

ウィジュー『その暁には……フフ、征服などみみっちいことは言わず、地球人類全てを葬り去ってやる……!』

ウィジュー『フフ、フハハハハハ!!』

 高笑いを上げるウィジュー。しかし――

ウィジュー『……ん?』

 目の前に一際大きい星があった。太陽では勿論ないし、月でもない。
 ハレーションのように放射状に光を伸ばす巨大な星。近づくにつれ、その姿が見て取れるようになり――


ウィジュー『――馬鹿なぁぁぁあああっ!!??』

 ウィジューは叫んだ。背後を振り返る。追尾していたはずのエックスの姿がない。
 もう一度上方を仰ぐ。青い刀身の剣を引っ提げたエックスが、十対の光翼を広げながら虚空に佇んでいた。

ウィジュー『ぐっ……!!』

 ファイブキングが止まる。エックスは静かにそれを見下ろしていたが――

エックス「ジュアッ!!」

 突然ファイブキング向けて突進してきた。剣が構えられている。――翼を斬る気だ。

ファイブキング「ギャォォォォン!!」

 それを察知したファイブキングが鋏の間から光線を放つ。
 エックスが横に方向転換してそれを避ける。光線を縦横無尽に振るってエックスを捕えようとする。

エックス「ハァァッ! ――デエヤッ!」

 しかしエックスは捕まらない。身を翻し、翼をはためかせ、悉くそれを躱していく。


ファイブキング「ケケケケケケ!!」

 ファイブキングの左腕から目玉が四つ飛び出し、エックスを追う。

エックス「!」

目玉「ケケケケケケ!!」

 背後から怪光線を放つが、上に、下に、はたまた左右に、間一髪で躱されていく。
 しかしそれに気を取られると鋏からの光線に対する注意が緩まる。回避に余裕がなくなっていく。

ファイブキング「アオオオオオン!!」

 今度は腹部から光弾を放っていく。幾つかは目玉を破壊してしまうが、その度に新たな目玉を飛ばす。
 目玉からの怪光線、腹部からの光弾、鋏からの光線。じわじわとエックスを追い詰めていく。

エックス「――フッ!」

 エックスは飛行しながら左手を額に翳した。その手中にエクスラッガーが出現する。

ちひろ『っ!』

 そしてエクスラッガーのスライドパネルを三回なぞった。


エックス「「――エクシードイリュージョン!!」」

 突然、エックスの身体が黄・赤・紫・青の光に包まれた四つに分裂する。

ファイブキング「グオオオッ!?」

エックス「――テエヤッ!」

 身を翻し、光線と光弾の雨に突っ込む四人のエックス。
 それぞれの持つベータスパークソードとエクスラッガーで防いでいくが、紫と黄は消滅してしまう。

エックス「イィッサァッ!!」

 しかし赤と青は健在だった。ファイブキングが振り向く間もなく、背後から翼の付け根に斬りかかった。

ファイブキング「ピギャァァァオオン!!」

 両翼が切断される。甲高い悲鳴を上げながらファイブキングが落下していく。
 同時に二色のエックスが重なり、元の一体に戻っていた。墜ちていく怪獣に照準を定め、二本の剣を逆手に構える。


エックス「ハァァァァァ――!!」

 サイバーウィングをピンと張り詰めさせ、エックスが突撃する。

ファイブキング「ピアギャケァオグァオケァオオケオン!!!」

 全部位の声がないまぜになった悲鳴を上げるファイブキング。
 その視界には迫り来るエックスの姿があった。その翼の輝きで逆光になった影が加速度的に巨大化していく。


エックス「「エクシード――――エクスラーーーッシュ!!!」」


 その叫びと共に、エクスラッガーが怪獣を斬り裂いた。
 すぐさま身を翻して上昇する。ベータスパークソードでもう一撃。エックスが振り返ると、怪獣が地面に激突するところだった。

 天が割れそうな凄まじい激突音。大気が破裂してしまいそうな衝撃波。
 500mは立ち昇ったかと思われる土埃が大量に落ちてくる。


 一方でエックスは静かに降りてきた。光翼を背に収めながら、風ひとつ立たさず、粛々と。

ファイブキング「グオ……オオオオ……」

 よろめきながら立ち上がるファイブキング。
 無惨な翼の付け根にベータスパークソードの切っ先を向け、ちひろは静かに言う。

ちひろ『――それは、未央ちゃんの分』

 エックスが駆け出す。咄嗟に構えられた鋏をエクスラッガーで払う。

ちひろ『そしてこれが――』

 右手の関節向けてベータスパークソードを振り下ろしながら、ちひろは叫んだ。

ちひろ『――無駄になった会場費の分!!』

エックス『え?』


ファイブキング「ギャォォォォン……!!」

 ぼとりと鋏が落ち、ファイブキングが悶える。
 腹部の顔が光るのを見て、ちひろはスライドパネルを二回なぞった。

ファイブキング「アオオオオオオオオオン!!!!」

 ファイブキングが必死に光弾を連射する。しかし双剣の連撃によってそれは全て叩き落とされ――

エックス「「――エクシードスラーーーッシュ!!!」」

 続けて腹部をもずたずたに切り裂かれた。顔はあえなく削り取られてしまう。

ファイブキング「グオオオオオオ……ッ!!」

ちひろ『これは、チケット払戻金の分!!』

ウィジュー『馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なぁぁぁあああっっ!!!』


ファイブキング「イイイイイイ!!」

 遮二無二振るわれた左手の目玉を回し蹴りする。
 ベータスパークソードを上段に構え、一気に振り下ろす。

ちひろ『これは――!』

エックス『ちょ、ちょっと、ちひろ?』

ちひろ『消えた興行収入の分っ!!』

ファイブキング「グオオオオオオオオッッ!!!」

 目玉も切り落とされる。全ての武器を失い怪獣が錯乱する。
 その胸を蹴り飛ばし、エックスもまた一歩飛び退く。


ちひろ『そしてこれが――』

 ベータスパークソードを組み換え、弓矢の形に変形する。
 その弓にエクスラッガーをつがえ、引き絞る。エクスラッガーが七色に光る一本の矢に姿を変える。

ちひろ『――あなたに奪われた全ての笑顔と、命の分ですっ!!』


エックス「「ベータスパーク――――エクシードアローーーーー!!!!」」


 放たれた虹色の矢が一瞬の内に虚空を裂いた。
 怪獣の胸を突き抜け、Xの形にぽっかりと虚を空ける。そこから全身に電撃が走り――

ファイブキング「――――」

 声もなく、ファイブキングが崩れ落ちた。
 爆炎が立ち昇る。爆音が轟く。大地と大気が、同時に震撼した。


ちひろ『やった……』

裕子『――ちひろさんっ!!』

 弓を下ろしたところで裕子からのテレパシーを受信した。

ちひろ『裕子ちゃん?』

裕子『ど、どうなりましたか? 実況してる人の機械がおかしくなっちゃったみたいで全然わかんなくて!』

エックス『勝ったぞ』

裕子『え……』


ちひろ『……勝ちましたよ』

裕子『――っ!!』

 そこで一瞬テレパシーが途切れると、

『やったぁあああああーーー!!!』

『やった!! やった!!!』

『エックスーーー!! ありがとうーーー!!!』

 そんな歓声が、ちひろの耳では聞き分けられないくらいの大人数の言葉が頭に響いてきた。

裕子『ちひろさぁん……! プロデューサぁ……!』

エックス『泣くことないだろ? 私だって本気を出せばこれくらい――』


 エックスが軽口を叩こうとした、その時だった。

『モンスライブ! ジャンボキング!!』

 ウィジューの声が聞こえて、エックスとちひろはハッとなった。

『モンスライブ! キングオブモンス!!』

 今なお濃い煙の中、蜘蛛の巣のような紫電が広がる。

『モンスライブ! キングダイナス!!』

エックス『いったい、何が……』

『モンスライブ! スーパーグランドキング!!』

ちひろ『……!』

『モンスライブ! ファイブキング!!』

 広がっていた紫電が中心に集約し、次の瞬間、眩い光となって迸った。
 思わず目を背ける。しかし、続く声は確かに届いていた。

『 超 合 体 ! 』

『 グ ラ ン ド フ ァ イ ブ キ ン グ ! 』


卯月「え……?」

凛「何……?」

 怪獣を倒したと聞いて地上に飛び出した避難民たちにざわめきが走った。
 突風が吹き荒れ、爆煙が吹き飛ぶ。露になった異形の怪獣を、全員が目にしたからだ。

 破壊される前に戻ったファイブキングの頭部。
 右手に鋏、左手に巨爪というスーパーグランドキングの両腕。
 腹部には赤い蛇腹と立ち並ぶ鋭い牙。背の翼と足もまたキングオブモンスのものだ。
 そして、ケンタウロスのように後方に伸びたキングダイナスの胴体。
 その最後尾は盛り上がり、ジャンボキングの尻尾が伸び、その後足が地面を踏みしめている。

 そして何より目を引いたのはその大きさだった。
 ファイブキングのように五体の怪獣を精緻に纏めたのではない。
 即席の合体によってこの怪獣は元となった五体の全ての質量を持つ超合体怪獣となったのだ。

 約50メートルのエックスの三倍はあるかと思われる巨体。前後のサイズで言えばもう何倍になるのかわからない。
 その圧倒的な佇まいに、エックスやちひろはおろか、先程まで歓喜していた群衆すら言葉を失った。


Gファイブキング「――グオオオオアアアアアアオオオオオッッ!!!」

エックス「ッ!」

 急いでベータスパークアローを剣の形態に組み換える。
 エクスラッガーは矢として飛ばしてしまったため、手元にない。剣の柄を両手で握りしめ、怪獣に突進する。

エックス「――テエヤッ!!」

 しかし――

エックス「――ッ!!」

 腹部に激烈な痛みが走った。
 グランドファイブキングの足がエックスを蹴り飛ばしたのだ。


エックス「グアアッ!!」

 飛んでいきそうになったエックスの身体が急に止まる。
 グランドファイブキングが右手の鋏でエックスを掴んでいた。

エックス「ハァッ、グッ!」

 何とか抜け出そうとするが敵わない。胴体が圧迫され、全身に電撃のような痛みが走る。

エックス「――デアッ!?」

 かと思うとエックスの身体が放り出された。と同時に左手の爪が振るわれる。

エックス「デアアアアアア……ッ!!」

 それに弾かれ、エックスが飛んでいく。止めようとしても慣性に身体の自由が利かない。
 歯を食いしばりながら見た光景――怪獣の額にエネルギーが溜められていた。

ちひろ『……!』

 次の瞬間、視界が真っ白になった。
 光線がエックスを呑み込む。咄嗟に構えた剣も何の用もなさず、エネルギーの奔流はエックスを襲った。


エックス「……」

 翼をもがれた鳥のように地面に墜ちるエックス。呆然としている群衆。
 怪獣は彼らの前で、無慈悲にもエックスを踏み潰した。

「そんな……」

 再び皆の心が絶望に支配されそうになったその時――

エックス「――デエヤァッ!!」

 怪獣の足が突然持ち上がって、その下からエックスが飛び出してきた。
 宙に浮かびながら肩で息をするエックス。纏われていたアーマーには罅が入り、今にも崩れ落ちてしまいそうになっている。

エックス「ハァァ――セエヤッ!!」

 しかしエックスは勇ましい掛け声を上げ、剣を構えた。

ちひろ『絶対に……諦めません……!』


こずえ「……みなみぃ……ねえー……」

美波「こずえちゃん?」

 戦闘に目を奪われていた美波はこずえにドレスの裾を引っ張られて気が付いた。

美波「どうしたの?」

こずえ「みおのとこ……いこー……」

美波「未央ちゃんのところ……病院? どうして?」

こずえ「とどけるの……えくすらっがー……ぷろでゅーさーに……」

美波「えっ……?」

こずえ「みんなも……いっしょにいこー……いけー」

美波「ちょ、ちょっと?」

裕子「こずえちゃん!?」

 とてとてと走り出したこずえの後をアイドルたちは追い始めた。


―――病院

 一方その頃――

医者「信じられないことですが、あなたの体はもう健康体に近づいています」

 集中医療室で、医師がそう言っていた。

医者「医者としてどういうことなのか調べなければならない気持ちはあります。ですが、状況が状況で……」

未央「……わかりました」

 語っている相手は未央だった。
 数十分前までの大怪我が嘘だったように肌の血色もよく、全身の傷すらも塞がっている。

未央「私は行きます。このベッドは他の患者さんに使ってあげてください」

医者「感謝します。……しかし、何か異常があったらすぐに来てください。いいですね」

未央「はい」

 頷きつつも未央は内心不審がっていた。
 あの時、自分は怪獣との戦いに負けた。どうしてこんなにも早く回復することが出来たのだろう――


 そして、プロデューサーは。あの怪獣は。みんなは。今どうなっているのか。
 未央はベッドを下りると、病衣を脱いでドレスに着替え、足早に病院を出た。すると――

卯月「未央ちゃん!?」

 夜道の向こうから駆けてくる姿があった。
 こずえと、卯月と凛と――自分以外の『United 9』のアイドルたち全員が。

卯月「も、もう身体は大丈夫なんですか?」

未央「うん……自分でもよくわかんないんだけど」

凛「よかった……」

未央「そっちこそ、無事でよかったよ。プロデューサーは?」

美波「今、ちひろさんとユナイトして戦ってる」

未央「ちひろさんと? そ、それでどうなってるの?」

珠美「……戦況は、悪いと言わざるを得ません。ですが――」

 珠美が続けようとすると、


こずえ「まってー……」

 こずえの声がそれを遮った。みな驚いて彼女の顔を見る。

こずえ「みおのからだ……えくすらっがー……のこってる……」

未央「えっ……?」

 自分の胸に手を当てる未央。

未央(あの時……エクスラッガーが砕けた時、自分の身体の中に……?)

 だから回復が早まったのだろうか。そんなことを考えていると、またしてもこずえが言った。

こずえ「あのね……だから、これからみんなで……ゆないとしよ……?」

ゆかり「みんなで……?」

 こずえがこくんと頷く。すると珠美が思い出したように声を上げた。


珠美「エックス殿はエクスラッガーのことを『想いを形にする剣』って言っていました!」

輝子「そ、それが……未央ちゃんの中にあるなら……」

裕子「私たちの想いを、形にできる……?」

美波「みんなでユナイト――」

卯月「やりましょう! みんなで!」

凛「うん。私たちの想いを力にして、プロデューサーとちひろさんに届ける……!」

未央「で、でもどうやって!?」

こずえ「こうするのー……」

 こずえが腕を出した。未央は唇を結んで頷いた。その手の甲に自らの手のひらを重ねる。
 他の皆も頷いた。卯月が、凛が、ゆかりが、美波が、珠美が、輝子が、裕子が、一緒に手を重ねる。
 まるで皆の胸の高鳴りが伝わって、ひとつになるようだった。


裕子「プロデューサー、ちひろさん、聞こえますか?」

ちひろ『ゆ……裕子ちゃん……?』

 戦況は思わしくないのだろう、ちひろの声は憔悴している。
 その声は重なった手のひらから皆に伝わっていた。皆の表情に決意が漲る。

裕子「今から、エクスラッガーの力でそっちに行きます。――みんなで!」

エックス『え……?』

 エックスは困惑したような声を出したが、次には力強い口調でこう言った。

エックス『わかった。共に行こう! ――みんなでユナイトだ!!』

九人「はいっ!!」

 皆が声と声を重ねる。目と目を合わせる。
 その時、未央の胸から虹色の光が零れだしてきた。それが、輪になった九人を包んでいく。

未央「行こう!」

 重ねた手を押し込み、高々と掲げ上げる。そして叫んだ。星空の彼方に、舞い上がらせるように!

「――エックスーーーーーーーっ!!!!」


―――千代田区三番町

エックス「グッ……」

 エックスが膝を突いた。アーマーは既に崩れ落ちており、エクシードエックスの状態も解除されている。
 それでもなお力を込めて立ち上がった。希望を持ち、応援してくれる声があるから。

「頑張れーー!!」

「負けるな! エックスーー!!」

「勝ってーーー!!」

「諦めるなああああああ!!!」

Gファイブキング「グオオオオアアアアアオオオオオッッ!!!」

 立ちはだかるは圧倒的に巨大な敵。それでも諦めるわけにはいかない。
 人々の希望を繋げ、形にする――それが光の巨人、ウルトラマンなのだから。

エックス「ハァァ――セエアッ!」

 闘志を呼び起こし、再びファイティングポーズを取るエックス。その時だった。


ちひろ『……あれは!』

エックス『来たか!』

 視界の彼方に光が見えた。それは弧を描き、その軌跡を空に残しながらこちらに向かってくる。
 それはあたかも、夜空にかかった虹だった。

ちひろ『っ……!』

 その虹がエックスの点滅するカラータイマーに飛び込む。
 衝撃が胸に突き刺さったかと思うと――

ちひろ『……みんな……』

 今まで一人だけだったエックスの中の意識空間。
 そこに、「United 9」の九人が揃っていた。――その中には、未央も。

ちひろ『未央ちゃん……!』

未央『すみません! 本田未央、ただ今復帰しましたっ!』

 いつもの笑顔でびしっと敬礼する未央。その姿を見てちひろは涙を抑えきれなかった。


ちひろ『ぐすっ……これで、「United 9」勢ぞろいですね』

 ぐしゃぐしゃになった笑顔でちひろが言う。
 すると予想外の反応が返ってきた。みんな、首を横に振ったのだ。

ちひろ『え……?』

卯月『ちひろさんも合わせて、「United 10」ですよ!』

凛『――あ。それよりも良い名前がある』

 凛が皆に目配せする。皆、笑顔で頷く。こずえだけ不思議そうに首を傾げたのでゆかりが耳打ちした。

こずえ『わかったぁ……いいなまえー……』

ちひろ『……あ。そっか』

 ちひろも気付いて笑った。そして、みんなで声を合わせた。

      Ⅹ      United
『――エックス、ユナイテッド!』


エックス『……な、なあ……』

卯月『? どうかしましたか?』

エックス『……私も含めて11人じゃないのか……?』

みんな『…………』

エックス『…………』

みんな『…………』

エックス『何だ!? その沈黙は!?』

凛『プロデューサー……』

こずえ『くうきよもー……よめー……』

エックス『ええ!?』


ウィジュー『何をごちゃごちゃとやっている!!』

 そこへウィジューの怒声が聞こえてきた。
 だが誰も笑顔は絶やさない。不安も絶望も、ここにいる者の心には一切なかった。

エックス『まぁいいか……行こう、みんな!』

ちひろ『はいっ!』

未央『私たちの全力、みんな重ねて!』

凛『あの怪獣を倒して――』

卯月『みんなの笑顔を取り戻しましょう!』


エックス「――フッ!」

 エックスの全身は淡い虹色の光に包まれていた。
 その中で胸のカラータイマーが金色に光っている。そこへ右腕を翳し、そして斜め上に掲げ上げた。

エックス「ハァァ――――!!」

 右足を軸に左足を回転させ、両腕と共に上体を捻る。
 足元から後方へ、虹色の光が、電子基板のような形を描きながら這い進んでいく。

 そしてエックスは両手を交差させた。
 両腕が虹色の光を纏う。漲ったエネルギーが、怒涛の奔流となって放たれる――!


エックス「ウルティメイト――――ザナディウム光線!!!!」


 重なり合った十一人の声と共に七つの色が複雑に入り混じった光線が発射された。
 グランドファイブキングが放った光線と激突する。


エックス「ハァァァァァ――!!!」

 しかし、負けるわけがなかった。ここにいる十一人だけではない。全世界の希望を乗せた光線。
 何体怪獣を合体させようと、この力に勝るものは全宇宙、どこを探しても存在しない。

Gファイブキング「グオオオオオアアアアアオオオオオン!!!!」

 グランドファイブキングが光線を強める。しかしザナディウム光線は止まらない。
 足元のアスファルトを踏み砕いた。その亀裂から、電光が溢れ出してくる。

エックス「――イィッ、サァーーーーーッ!!!」

 勇壮な掛け声を上げた、次の瞬間――

Gファイブキング「グオオオオオオオアアアアアアアオオオオオオオン……!!!!」

 虹色の光が怪獣の頭部を直撃した。その部位に爆発が起こる。
 エックスはそのまま腕を下げた。今度は腹部に炸裂し、爆発する。


 やがて――

Gファイブキング「………… ………… …………」

 光線の熱量によって怪獣の身体が膨張し――

ウィジュー『何故だ……! 馬鹿な……! 馬鹿なぁぁぁあああ……!!!』

 ウィジューの断末魔と共に、怪獣は木っ端微塵に砕け散った。
 地上に歓声が満ちる。涙を流し、抱き合い、輪を作って喜んでいた。

ちひろ『やりましたね……』

エックス『ああ……』

 エックスはピュリファイウェーブで爆炎を鎮めた。
 そして、静かになった夜空を見上げ、皆と共に満天の星空を見詰めているのだった。











 一か月後――


  孤独が疼きだして 体を蝕んでも
  前を見る強さを
  一歩ずつ 確実に 絶対
  言葉が歪み始め
  イメージが加速する
  世界に響かせて
  勝ち取るの この歌で 絶対
  光れ starry star


 大阪のとある大型ライブハウス。
 ステージ上にポーズを決める九人のアイドルたちと、彼女たちに歓声を送るファンの姿があった。

卯月「ありがとうございましたー!」

 彼女たち「United 9」は先の怪獣災害の復興支援としてチャリティーライブを行い、全国を巡っている最中なのだった。


未央「ね、記念撮影しようよ! みんなで!」

裕子「いいですね!」

 ライブ終了後、舞台裏でそのような提案があったため、ちひろがカメラを構えた。
 が、未央は口を尖らせて言った。

未央「ちひろさんも! プロデューサーも一緒に!」

ちひろ「えっ?」

エックス『いいのか? よし、行こう! ちひろ!』

ちひろ「え、ええ~? もう……じゃ、すみません、これお願いします」

 近くにいたスタッフにカメラを渡して、デバイスと一緒に枠に入るちひろ。

「はい、チーズ!」

 シャッター音と共にフラッシュが瞬いて――










エックス『――ハッ!』

 エックスは、夢から覚めた。















 ――それからエックスは、その世界の夢を見なくなった。















―――オペレーションベースX

エックス『――大地』

大地「ん?」

 オペレーションベースXのラボでのこと。
 エックスは大地にこう切り出した。

エックス『そろそろ私も、再び宇宙に帰らなくてはならない』

大地「……そっか。わかった」

 大地は笑って答える。

大地「こっちのことは心配しないで。俺たちだけでやっていける」

エックス『ああ。だがもしこれまで以上の脅威が迫った時は――』

大地「わかってるよ。その時はまた会おう。エックス」

エックス『ああ』


 大地はすると、ふと思い出したように、

大地「あ、でもデバイスから出たらゲームができなくなるな」

エックス『あ、ああ……そうだな』

大地「いいのか? 別に引き留めてるわけじゃないけど」

エックス『そうだな……』

 エックスはちょっとした寂寥を胸に覚えた。

 ファイブキングとの戦いが終わり、復興ライブをした後、エックスはあの世界の夢を見なくなった。
 アイドルたちと会うことはできなくなり、それまで通りゲームをプレイするだけに戻った。

 満足できなくなったというわけではない。
 それでもどこか寂しくなって、エックスはゲームから遠ざかってしまっていたのだった。


エックス『まぁ……構わない』

大地「ふぅん。――あ、そういえば、あのゲームのことなんだけど」

エックス『ん?』

大地「この前デバイスにこんな写真が入ってるのを見つけたんだけど、これ、エックスが作った合成写真?」

 そう言ってデバイスを操作し始めた。表示された画像を確認してみてエックスは驚いた。
 そして……懐かしむような声で、こう言ったのだった。

エックス『いや……そうじゃない』

大地「え?」

エックス『これは――確かに存在した、彼女たちとの絆の証だ』

 そこには、ライブを終えた笑顔のアイドルたちと、事務員と、デバイスの中のエックスが映っていたのだった。


ウルトラマンXP 完

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