咲「牌には牌でカンし合おうよ」 久「ひとり咲」 (60)


●SAY YES●


~~長野4校合宿~~


久「チー」

咲(部長はまた順子場狙いかな)

純「カン」

咲(井上さんも私の嶺上潰しに来てる感じ)

桃子「……リーチ」

咲(東横さんはだんだん意識から外れそうになるし、負けてられないよ)

咲「カン。もいっこカン」

咲(よし、テンパイ。しかも三暗刻に持って行けた。手変わりできそうな気配濃厚だったんだよね)

咲「リーチ」

咲(あとは東横さんが消えないよう意識を集中……!)

桃子(掴まされたっすね)

咲「ロン。リーチ・一発・三暗刻。8000です」


♪ 牌には牌でカンし合おうよ 濃いの手変わり 消えないように

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1460370207


桃子「まだ見えるっすか」

咲「ちょっと危なかったけど」

久「不思議よねえ、そんな主張たっぷりの体型なのに」

桃子「こんなのあっても邪魔なだけっすよ」

咲(余計な胸などないよね)

純「あーあ、清澄の連中はホント厄介だわ。早いし打点もあるしよ。
  オレなんか1個も勝てるとこないんじゃないの」

咲「いえ、そんな……」

久「そうよ。井上さんには私たちが持ってないものあるじゃない」

純「そう? 流れを読めるとか?」

桃子「どうせくだらないこと考えてるっすよ」

久「そんなことないってば」

桃子「じゃあ言ってみてください」

咲(……身長高いって麻雀関係ないよね)

久(……誰よりたくさん食べるじゃない、なんて言ったら怒りそうね)

咲(背)

久(胃)

桃子「言えっす」


●YAH YAH YAH●


~~有珠山高校~~


由暉子(張れた。タンヤオ・赤1……リーチで7700、これを和了って爽先輩との差をつめておきたい)

由暉子「リーチ」

成香「親リー怖いです……」

揺杏「げっろ」

爽「んー……」

由暉子(一発は――ならず。4枚目の三萬……捨てても大丈夫だとは思うけど、ここは――)

由暉子「カン」

成香(あ、枯れちゃいました……)

由暉子(成香先輩はおそらく萬子の一気通貫だから、これで和了り目なし。
    やった、ドラが乗った。これなら誰から出ても爽先輩をまくれる……!)


♪ 今枯らそうイッツーを これ枯らそうイッツーを まくりに行こうか


揺杏(あ、張った。親に振って満貫以上ならトビもあるけど……もう南3局だしなぁ。
   3900しかないけど二萬切って追っかけるかな)

揺杏(三萬をカンしたってことは、二萬単騎はありえない。待ちが変わっちゃうからね。
   シャボならありえるけど、まあ通るだろ。今からユキに殴り込み、行っちゃっていいっしょ)

揺杏「うしっ、リーチっと!」


♪ 今からいいっしょ、二 これからいいっしょ、二 殴りに行こうか


爽(あーあ、三色・一盃口のきれいな手だったんだけど、5筒は切れないなぁ。
  無理してトップ譲ることはない。ここはオリつつあと2つダブらせて七対子狙いだな。
  一盃口は七対子に手変わりしやすい。前向きに考えていこうか)


♪ 今から対子を これから対子を ダブりに行こうか


成香(4巡は頑張ったけど、もう安牌ないしどれも当たる気がします……
   せめて親のユキちゃんじゃなければいいんだけど……)

由暉子「ロン」

成香「あぁ……」

揺杏「あれ、ダブロンってどういう扱いだっけ?」

爽「今はダブロンありルールだよ。ちなみにトリロンもな」

成香「え、まさか……」

揺杏「やあ」←リーピン赤1裏1

爽「やあ」←タンヤオ七対子ドラドラ

成香「いやあぁぁぁぁ!」



※だいたいの曲は公式がYoutubeに上げてるので、聴くと空耳を味わえるかも


●太陽と埃の中で●


~~全国2回戦~~


恭子「リーチ」

豊音「おっかけるけどー。とおらばリーチ」

恭子(またや……)

豊音「ロン」

恭子(4回も振ってしもた……もう鬱になるわ)

恭子(――リーチやめてからも裸単騎やら絶一門やら。
   大人しくしとった宮永まで嶺上開花やりたい放題……普通の麻雀させてーな)

恭子(窮鼠猫を噛むって言うけど、こいつら猫やない。化け物や。物の怪や)


♪ 追い駆けて 追い駆けて もう鬱 噛めない物ばかりさ


恭子(けどギリギリでメゲずに済んでるのはいろんな人に支えられてるから――
   特にあいつらのおかげやな)

恭子(洋榎はでかい口叩くだけの実力と大海原のような器で引っ張ってくれた。
   由子は苦しいときにも持ち前の優しさで和ませてくれた)

恭子「――ツモ! 4000・8000!」

恭子(そうや、私は2年半の間ずっと支えられてきたんや。
   大洋とほっこりの中で)


●no no darlin'●


~~全国個人戦~~


小蒔「……はっ! ごめんなさい、少し寝てました」

洋榎「おうおう、対局中にのうのうと寝とるんかい。ナメられたもんやな」

小蒔「すみません……眠気覚ましのハッカ飴があったんですけど、
   段差につまずいた拍子に飲み込んじゃって……」

洋榎「あんたもう高校2年やろ。天然さんか?」

やえ「まあ、昨日は緊張で眠れなかったのだろう。相手が奈良1位のこの私となれば仕方ない」

洋榎「ほーん、激戦区南大阪代表相手に大口叩くやないか」

咲(すごい自信……私は口は苦手だから、自分の麻雀をしよう。
  関係ない話に花を咲かせるより、嶺の上に花を咲かせる方が簡単だしね)

洋榎(よーし、嵌張ずっぽしや)

やえ(一切無駄ヅモ無し。これが王者の打ち筋だ)

咲(2人とも調子よさそうだなぁ。このままだと先を越されちゃうかな。じゃあ……)

咲「チー」

小蒔(あ、鳴きが入ったおかげで暗刻ができた)

咲「カン」

小蒔(大明槓……? あ、今度は順子ができた、これでテンパイ。
   しかも新ドラが乗ったおかげで4飜の手ができた。鳴きのホンイツ・イッツーだけど、
   九萬の暗刻と白の雀頭に辺張待ちで32符――符上がりに足りてる)


♪ のうのう惰眠 飴飲む高二 広がるドラを イッツーも符足りて 四できたじゃない


洋榎(神代が張ったか。ここはオリやな)

やえ(王者は引き際も心得ているものだよ)

咲(よし、あとはじっくり手を育てて……)

咲「カン。ツモ。2000・4000です」

洋榎「まあそこやろな~」

やえ「ふっ、元気のいい新参だね」

咲(……神代さんは場に勢いづいてる人がいると強くなるみたいだし、
  この2人には大人しくしていてもらおうかな)

咲(確か野球でノーヒットノーランをノーノーって言うんだよね。
じゃあ焼き鳥もノーツモノーロンだからノーノーって言おう)

咲(うん、そういう舵取りしよう。私は船のあのかっこいい輪っかになるんだ)


♪ ノーノー舵輪 言葉よりも易しいお花を 良いツモ振ったりで育てて行こうよ


●僕はこの瞳で嘘をつく●


~~龍門渕高校~~


一「チー」

透華「もう二副露ですの!?」

智紀(さすがに張ってそう……)

一(ボクの親番はもう残ってない。でも残りの子で逆転の目はある。
  条件は厳しいけどトップの透華から直撃を取れば……)

純(見え見えの筒子染めだな)

一(――って思ってるだろうな。でもそれじゃ和了れる気がしないんだ。
  モロ引っかけになっちゃうけど……)

透華(筒子は切れない、安牌もない――となれば2索も8索も出てる今、
   これを切るべきですわね……ただ、なにか臭いますわ)

一(もしかしたら染め手アピールのための鳴きを疑ってくるかもしれない。
  でも、透華ならそれを考慮しても筒子で振る危険性と打点の高さを回避する方を選ぶはず)

透華「……これで」

一「ロン! 南・ドラ3――8000」


純「筒子のホンイツじゃねーのかよ」

智紀「鶴賀の大将みたいな打ち方」

透華「筒子待ちにしたら引いて来られないとわかっていましたの?」

一「まさか。それはわからないけど、そうじゃないかなって感じただけだよ」

一(衣や宮永さんじゃあるまいし、ボクにはそこまで見通す力はないよ。
  牌山を先にめくっていいんなら、衣みたいに海底狙えるだろうけど)

一(そう、推理小説を最後からめくれるような筈はないんだ――)

智紀「一がまた哀愁漂う目をしてる」

純「ポエム世界に入ったんだろ」


♪ どんなに君の瞳がボクを疑っても ボクは子の目で五索を突く


●めぐり逢い●


~~有珠山高校~~


成香「リーチです!」

誓子「来たかぁ……私もリーチ」

揺杏「わぉ」

爽(んー、この局は和了りには向かえないな。親のチカが高そうだし、
  できれば揺杏に和了ってほしいところだ。これだな)

揺杏「チー」

爽(よしよし。あとは……ここか)

揺杏「ポン」

成香「怖いです……」

揺杏「ロン! 5200ね」

爽「いいねいいね」


誓子「むー。また指ローズ使ったでしょ」

爽「まあね。差し出す指に君は」

揺杏「指で返した」

成香「ぜんぜん気づきませんでした」

爽「チカがやれって言ったんだろ」

揺杏「ツモを2人で振り分けるみたいなもんだし、そりゃ勝つって。
   そろそろ普通に打たない?」

誓子「だめ。絶対見破ってやるんだから」

爽「児童館でも1回もバレたことないし、諦めろって」

誓子「悔しい……」

爽「そうカリカリすんなよ。めくり合いじゃ勝てなかったけど、めぐり逢いじゃ勝ち組だろ?
  10年越しで私という当たり牌を引いたんだからな」

揺杏「私もね~」

誓子「……どうかな。超危険な輩であることは間違いないけど」


♪ 故意で鳴かした人と 故意で鳴かされた人 同じツモを振り分けても いいねいいね


●万里の河●


~~全国決勝~~


淡(ダブリーはできる。でも本来和了れるはずのここで……またダメだ!)

ネリー(この局はネリーの流れじゃない。宮永もここはオリてる。
    大星と高鴨の一騎打ちになるね)

穏乃(大星さんの支配からは逃れられてるけど、他の2人の影響もあるからなぁ。
   私にもこの先どうなるかわからない)

咲(和了れないけどカンできたらして、とりあえず場を荒らしておこう)

淡(ラスヅモ――ダメか。この局も和了りに届かなかった)

淡「テンパイ」

穏乃「テンパイ」

ネリー「ノーテン」

咲「ノーテン」

淡(私だって準決勝で屈辱味わってパワーアップしたのに……!)


♪ どれだけ待てばいいのですか ああ 届かぬ牌を


淡(――とりあえず親は続いてるけど和了れてない。優勝は私の夢でもあるし、
  白糸台の3連覇はみんなの夢……負けるわけにはいかないんだ)

淡「カン」

淡(ここまでは来た。問題はここから……)


咲(膠着状態が続いてるね)

ネリー(大星が待ち牌を掴むのが先か、高鴨が親を流すのが先か。
    この世界、というか局では2人の運命の奏者になるのはネリーじゃない)

淡(ツモは――ダメだ……みんなの夢を乗せた牌が河に……)

穏乃(思い通りに和了られることはないけど、常にアタる危険があることに変わりはないんだよな。
   なんとかテンパイにはこぎつけた。でもこのままだとまた流局か……だったら――)

穏乃「リーチ!」

咲「うわわ」

淡(なんで!? 私が待ちを引いて来れないのわかってるから、
  出和了りされないようにダマで逃げ道用意してたんじゃないの?)

穏乃(長期戦は私にとっては願ってもないことだけど、それは他の2人にも同じこと。
   先生の見立てだと、宮永さんとネリーさんの支配力は後半になるほど強くなる。
   ただしそれは局の後半って意味じゃなく、スロースターターってことみたいだ)

穏乃(長引けば長引くほど後でその分爆発する――としたら、私のテリトリーも破られるかもしれない。
   だからここで和了る! そのためには大星さんを覚悟で上回るしかない!)

ネリー(防御なしの撃ち合いを選んだか。まるでロシアンルーレットだね)

咲(高鴨さん度胸あるなあ、自分から飛び込んでいったよ。バンジージャンプみたい。
  どっちのアタリ牌が先に河に落ちるか……バンジーの河だね)


♪ 二人の運命知らぬ河は 淡、夢をのせて 流れて行くようで


●On Your Mark●


~~プロ大会準決勝~~


靖子(やはり瑞原プロは強い……だがまだチャンスはあるはずだ。
   トイトイ・赤で二向聴。発が来れば満貫までいく。お、来た)

靖子「ポン!」

靖子(これで一向聴。他の三元牌が切れてるから向こうは役牌で走れないだろ)

はやり「……う~ん」

靖子(怖いのはダブ南だけど、この巡目じゃ誰も出さないだろうし。
   お、下家の索子が見えてきたな。張ったかな)

はやり「ロン」

靖子(うっ!?)

はやり「2000です」

靖子(ダブ南――暗刻だったのか。これで瑞原プロの親だ。
   ここで直撃か親かぶりで差をつめないと、いくら私がラス親でも逆転は厳しいな)


靖子(ん、嵌張入って一向聴……ドラもあるし喰いタンで走ってやるか、よし)

靖子「チー」

靖子(1枚切れの東切りで張った!)

はやり「ロン。5800です」

靖子「……はい」

靖子(さすがだな、大事なときに自風持ってるなんてな。
   よーいドンのスタートダッシュの差じゃなく“位置について”から差がある感じだ)


♪ On Your Mark いつも 走り出せば はやりの風にやられた


靖子「もう勝ち抜け決まったようなもんですね。ちょっと見せ場もらえませんか?」

はやり「はややっ、それはできないかな」

靖子「ですよね」

はやり(でもまあ、ちょっと貯金もできたし発声は余裕が出るかもしれないね。
    1位に居着いて、ロン言う甘~く)


●LOVE SONG●


~~学生議会~~


一太「会長、仕事中にテレビは……」

久「まあまあ、一段落したんだし」

一太「あ、プロ麻雀ですか」

久「日本一を決める大会よ」

一太「プロの知り合いがいるんでしたっけ」

久「うん。でも靖子は準決勝で負けちゃった。
  今日は決勝の最終日なのよ。まあ結果はわかりきってるけど」


  健夜『ロン。8000』

  ――これで3連続の和了り、小鍛治プロの独走だぁー!


久「あー、はやりんも勝負手だったのに。今のはだいぶ精神的に効いたっぽいわね」

一太「あれ……瑞原プロ、ちょっとやつれてませんか」

久「決勝は3日がかりだからね。一昨日、昨日と小鍛治プロにやられっぱなしだし。
  野依プロも三尋木プロもかなりキテると思うわよ。
  そういえばあなたプロ雀士だったら誰が好き?」

一太「僕は三尋木プロですね」


久「そうなの。じゃあ応援しなきゃね。現状ラスだから……
  三尋木プロは準決で戒能プロと死闘やった後で、だいぶ消耗してるんじゃないの」

一太(――はっ! 瑞原プロに気を取られてたけど、
   よく見たら僕の敬愛する咏さんが一段と細くなってる!)


♪ 効いた風なはやりにまぎれて 僕の咏がやせつづけている


一太(そんな……)

久「……あー、今日は暑いわね」

一太「そうですね――って、何シャツ脱ごうとしてるんですか!」

久「いや、暑いしついでに三尋木プロが負けててかわいそうだから
  サービスしてあげようかと思って」

一太「いりません! ちゃんと着てください!」

久「元気出ない?」

一太「裸になれば誰もが喜ぶなんて思い上がりです。愚かな行為です。
   裸・不遜・愚。OK?」

久「裸・不遜・愚。OK」

一太「まったく、会長もいつまでも子供じゃないんですから自覚を――」

久(子供じゃないって認めてる同学年女子の裸に興味を示さないなんて、やっぱり内木君って……)


●Not at all●


~~プロ大会決勝~~


健夜「……2本場」

はやり(止まらない……)

理沙(まだ力の差が大きいってこの場に立ってみてわかった……
   去年MVP取れたから今年こそ直接対決で勝って優勝なんて夢見てた私のバカ!)

理沙(でも、それも含めた今の自分の実力で闘うしかない……
   それを認めたらなんだか手が軽くなって見える!)

理沙(特急券は――ある!)

はやり(……自分が和了れないなら、子のアシストが最善手)

理沙「ポン!」

健夜「ん……」

理沙(まずはこの親を――蹴る!)

理沙「ツモ! 500・700!」


♪ そこに立ってそのときわかること バカ理沙 それが自分と思えたら 軽くなる ある 蹴る


健夜(流されちゃったか。はやりちゃんも息を吹き返しちゃったかな。
   みんな一度流れを掴むと乗ってくるから、それをさせないためにも今のうちに――)

理沙(この人の強さの源、常勝無敗の自信。その鼻を――)

健夜(もっと圧倒)

理沙(折る!)


●PRIDE●


理沙「ロン! 3900!」

はやり「ツモ。1000・2000です」

健夜「ツモ。1300・2600」

咏(あー和了れねー。思うようにはいかないもんだな~ってか。
  そりゃあ小鍛治さんに勝つには早和了りしかないだろうし、
  小鍛治さんもそれに対抗するスキルがあるけど……)

咏(私の場合この人らに早さで対抗しても結果は目に見えてるんだよねぃ。
  ま、それに自分の打ち方を曲げて牌が応える気がしないし、知らんけど)

健夜(この局は様子見かな)

はやり(ちょっと手が重いな)

理沙(走れない……!)

咏(わっかんねー、なんでこうタイミング良くイイ手が来るかね。
  でも先輩方好き勝手やってるんだし、たまには私に譲ってよ。
  こっちにも譲れないものがあるんだよ――)

咏「ツモ! 6000・12000!」

健夜「やられたかぁ」

咏(解説には笑われてるかな。重い手ばっかり狙ってるって。
  1回ぐらい高打点で和了っても付け焼き刃だって。でも、私にも誇りがあるんだよ)


♪ 重い和了りと笑われても 譲れないものがある


咏(これで今日の収支だけならかろうじてプラス。マイナスからプラ移動だねぃ)


●WALK●


~~阿知賀女子学院~~


宥「遅くなっちゃった……こんにちは」

灼「あ、宥さん。まだ穏乃と憧が来てないから平気」

晴絵「そうそう。練習前に談笑してたとこ。
   それで玄。離れていっちゃったらどんな気持ち?」

宥「え、なんの話?」

晴絵「玄のパートナーの話」

宥「え!?」

玄「そうなったら……すっごく悲しくなって、しばらく手が止まって……
  そんなのは無理なのかもしれないけど、これからもずっと側にいてほしいのです」

灼「愛がすごい」

晴絵「ほんと拠り所なんだな」

宥「……そうなんだ……玄ちゃん恋人いたんだね……」

玄「え?」

宥「……そっか……なんで言ってくれなかったの?
  ううん、そうだよね、こんなダメなおねーちゃん紹介するの恥ずかしいよね……」

灼「いや」

宥「ごめんね、ずっと言えなかったんだよね。それとも私が知っちゃったら取り乱すと思った?
  大丈夫だよ。ちょっと寂しい、けど、ちゃんと、応援、する、から…………」

玄「ちがうよ! ドラの話だよ!」


宥「え?」

灼「ドラを切ってしばらく離れたら悲しいし手が進まなくなるってこと」

宥「…………なんだ~びっくりしたぁ~」

晴絵「気づけって。まあとにかく、相手が強くなってくれば玄も自由に打てなくなる。
   この先あえてドラを切ることも戦術として考えていかないとな」

玄「でも……」

晴絵「そうだな……冬の木は葉を落としてまっさらになるだろ?
   でもまた春が来ると葉は茂り花が咲く。そういうことだよ」

玄「……はい。その時が来たらそう思うことにします」


♪ 君を失う冬木の術 手は止まる いつも側に居て 宥、気づけって


晴絵「2人まだ来ないな。私も入るから打ってようか」

灼「そうだね」

宥「玄ちゃん、ドラを大事にするの無理してやめなくてもいいんだからね」

玄「うん……ちょっとずつ、一歩一歩進めるようにがんばるのです」

晴絵「そうそう。若いんだから元気に歩いて――」

灼「ハルちゃん起家だよ。振って」

晴絵「ん、悪い悪い。サイは――ウォーク、じゃない、右6」

灼「……それはさすがに無理があるとおも……」

晴絵「ちがう! ほんとに噛んだだけなんだよ!」


●BIG TREE●


~~鶴賀学園~~


智美「これは佳織が麻雀部に来てしばらくしてからのこと」

  ゆみ『リーチ』

  智美(あの配牌から純チャンを仕上げたのかー。
     相変わらずスケールの大きい打ち方するなあユミちんは)

智美「私は抜け番で佳織にアドバイスしたりみんなの打ち筋を見たりしていた」

  桃子『ツモ。3000・6000っす』

  智美『おお、高目引いたかー』

智美「いつもどおりユミちんとモモが優勢で回っていった」

  睦月『ポン』

  智美(今度はむっきーが東ドラ3か。序盤でこれは大きいな)

智美「佳織は滅多に和了ることはできず、チョンボも多かった」


  佳織『どうしよう……えっと、ドラをポンってことは最低でも満貫だから……
     みんな大っきな手作るの上手いよ……』

  智美『親の高い手には基本はオリだなー。役牌とかで早和了りできそうとか、
     不要牌が安牌とかなら目指すのも手だけどな』

  佳織『そっか……あ、ポン!』

  智美(白で親流し狙いにいったか――)

智美「そこではたと気づいたんだ。佳織の手の中に発の暗刻と中の対子があることに」

  佳織(佳織……いくらみんなデカい手作るの上手いっていっても、
     役満張れるのなんておまえぐらいだぞ、ワハハ……)


♪ 大きなゆみと 大きな和了(ホーラ)と 大きいな はたと 君だけのBIG THREE


智美「ちなみに大三元を英語で言うならホントはBig Dragonsだぞー」


●C-46●


~~清澄高校~~


京太郎(おお……白・発・小三元・ホンイツ・ドラ2、これは和了りたい!
    中が2枚切れてるのは痛いけど、倍満で十分。あとは萬子の一三四五どれか鳴ければ……)

まこ「むぅ……」

京太郎(二萬! 惜しい!)

和「……須賀君、相手の捨て牌に反応して天を仰ぐのやめた方がいいですよ」

京太郎「え、俺そんなことしてたか?」

優希「思いっきりやってたじぇ」

京太郎「マジか……無意識に出ちまってたんだな」

まこ「ほうじゃの。それで待ちがバレる。もし全然違うところをブラフでやってても、
   場合によってはトラブルの元じゃ」

京太郎「気をつけます……和も最初はそういうのあったのか?」

和「……そうですね、今よりは感情を表に出していたと思いますよ」

京太郎「そっか。じゃあ俺もそのうち和みたいに終始クールに打てるようになるか」


♪ 近くを通ると いつだって見上げてしまう 君もこんなふうに 重い手を仕上げたかい


京太郎(おお、一萬引いてテンパイしちまった)

和(言ってるそばからニヤニヤしてる……)

まこ「和のレベルまで行くには先は長いじゃろうな……」


京太郎(珍しくトップで南入できてるし、これツモるか優希から直撃取れれば
トバしてトップ終了だ。さあツモを――)

優希「ポン」

京太郎(うっ、ツモ順飛ばされた。優希のやつ攻めるな。和に危ないところを)

和「……」

京太郎(よかった、スルーか。これ流されたら泣くぜ。染谷先輩もオリたみたいだし、今度こそ――
    くそっ、引けねえ。まあ優希が切ってるから安心だけどな)

和「ロン。8000です」

京太郎「あぁー! なんで、優希が切ったばっかなのに」

まこ「トップ狙いで山越しはあることじゃ。それにトビ賞もない1局単位の対局で、
   トバして3着確定なんてたわけたマネを和がするか」

和「トップや高い手を張った親なんかは、一時的に他家が協力状態になるのも必然ですよ」

優希「そうだじょ。だから私が邪魔ポンするのも染谷先輩が私の鳴けるところを切るのも、
   それもまた必然なんだじぇ。残念だったな小僧」

京太郎「みんな狙ってやってたのか……三重苦かよ」

和「それより七萬を残しておけば八萬がくっついて六九萬待ちにできましたよね」

京太郎「いや、なんか嵌張よりシャボの方が来る気がして」

和「思いつきで打ってるから効率が悪くて和了りを逃んですよ」

まこ「ポーカーフェイスできない自分もまた敵になっとるから――
   恣意・四重の苦じゃな」


●You are free●


京太郎(南場も終盤、結局3位まで後退しちまった。ここで取り返したいところだけど……
    お、配牌からチャンタ系の牌ばっかり揃ってる。ドラも1枚あるな)

京太郎(良いツモ……来い!)

【九九②⑦⑨⑨⑨1899北北】六 ドラ⑦


京太郎(それじゃねえよ! でもまあ、チャンタで決め打つか。
    初っ端に六萬から切ったらさすがにバレバレか……?)

まこ(良い手が入ってそうじゃの。でもこっちは手が重い……優希と和にお任せじゃ)

和(また表情が緩んでる……とはいえ役牌もなく速攻で行くのは難しいですね)

優希(緊張が伝わってくるじぇ……けど配牌がイマイチだ。
   東場は珍しく京太郎がバカヅキだったのと、のどちゃんの速攻にやられたし、
   今回は良いとこなしだな)


京太郎(よし、張った! チャンタどころかもっと豪華になったぞ。
    これ九萬鳴いてなかったら四暗刻いけたんじゃねえか?
    いや、鳴いたから北が暗刻になったんだし……間違いじゃないよな)

【⑦⑨⑨⑨999北北北(九九九)】 ドラ⑦


京太郎(現状でトイトイ・三暗刻・三色同刻・⑦筒出たらドラ2で倍満確定。
    けどドラなんか出さないだろうし、ヤオ九牌引いてきたらそっちで待つか。
    ドラはなくなるけど混老頭ついて飜数は変わらないはず)

まこ(高いの張っとるな。この局は京太郎にやられたかの)

京太郎(来い、ヤオ九牌か⑦筒――隣だけどそれじゃねえよ! ん……?)

京太郎「あ……ツモった……」

【999⑦⑨⑨⑨北北北(九九九)】⑧ ドラ⑦


京太郎「これだと……チャンタドラ1。700・1300か……」

和「それだと50符ありますから800・1600ですね」

京太郎「……マジかよ。トイトイも三暗刻も三色同刻も消えちまった……
    16000確定だったのにこんな小粒な役に……」

まこ「まあ、欲張って他家に和了られるより良い選択じゃろ。和了って腐すのはタブーじゃ」

優希「そうだじょ。心中を悟らせないのは勝負の鉄則だ。
   “言うは不利”ってことだじぇ」


♪ “それじゃねえ”と六から切り出す “それじゃねえ”小粒役


●Girl●


~~霧島神鏡~~


霞(さて張ったけれど、この子の前でリーチは禁物なのよね。
  でも、末原さんのあの表情……どんな感じなのか1度は試してみたいわ。
  流すのが得意な春ちゃんもいることだし……)

霞「リーチ、いかせてもらうわね」

豊音「いいのかなー? リーチ!」

春「……ポン」

エイスリン「チー」

霞(2回も鳴きが入った。これなら――背中がぞくぞくする……!?)

豊音「ロン、2600。一発は消されちゃったよー」

霞「……はい。まいったわね、それでも掴まされるのね」


♪ こんなに鳴きあっても 背中は寒いね


エイスリン「ツモ。2000・3900」

豊音「あー、まくられちゃったよー」

霞「宮守の子はみんな安定して強いのねぇ」

豊音「永水のみんなも本気になったらすごいよねっ」

春「私はダンラス……」

エイスリン「ガール、マケルコトニモイミガアル!」

霞「ガール……意味がある……ぷっ……くくく……あはははは!」

豊音「エイスリンさんちょーウケるよー!」

エイスリン「Why?」

春「ちょっと人とツボが違うだけ……」


●パラシュートの部屋で●


胡桃「ツモッ! 1000・2000!」

初美「あぁ、また先を越されましたー。さっきから安手で流されてばっかりですよー。
   もう、宮守の人たちは意地悪です。血も涙もないなまはげです」

塞「それは秋田ね」

巴「はっちゃん、牌の扱いが雑になってる。ほら、得意な北家だから」

初美「どうせ結託して妨害してくるに決まってますよー」

塞「いやあ、薄墨さんおっかないもん」

塞(とは言っても親睦麻雀で疲労抱えて明日泳げなくなるのは嫌だし……
  東と北鳴かれてからでいいかな)

胡桃(――もう12巡目なのに風牌が1枚も見えてない……きもちわるい……!)

初美「カン。もいっこカンですよー」

塞(はぁ!? 東と北を連続で晒した……しかも捨て牌が西。もう揃ってるってこと?
  なんか表情柔らかくなって雑さもなくなってるし……怖っ)


♪ ねえ君がゆっくりと丁寧に西場に出す時は 危険なムードが漂うんだよ


初美「結局鹿倉さんの闇テンに刺さっちゃいましたー」

塞「ただいま」

白望「あ、終わった?」

胡桃「よそ様の家でだらけない!」

巴「いいんですよ。元は宗徒しか入れない特別な間でしたけど、
  今では談話室兼姫様の昼寝部屋になってますからね」

霞「あと打ってないのは小瀬川さんだけね。じゃあ行きましょうか」

白望「神代さんはいいの……?」

霞「いいのよ。泳ぎ疲れて寝ちゃってるもの」

巴(ローテーションが狂っても困りますし)

白望「面子は……」

霞「春ちゃんと私で。もう1人は宮守の誰かに入ってもらいましょう」

豊音「どうするー? 私やりたいなー」

エイスリン「ウチタイ!」

胡桃「私も。じゃんけんで決めよっか。塞は?」

塞「私はパス。ちょっと疲れた」

白望「じゃあ塞は寝てたら? 私もさっきまで寝てたし」

塞「……ここで? 畳で?」

白望「そう。パーラー“宗徒の部屋”で」


●もうすぐだ●


~~全国準決勝~~


浩子「園城寺先輩、だいぶムチャしてますね」

セーラ「宮永が連続で和了るときの早さは驚異的や。先読み先読みで走るしかないやろな」

竜華「けど怜の体力持つ時間は短いから……」

泉「もうオーラス、ここを超えれば……あっ!」

竜華「怜が振り込んだ……!?」

浩子「今牌をまともに掴めてなかったような……」

泉「ひとつひとつ掴んで見る、確かめてみる。
  そんなことが出来ないくらい弱っていたってことですか」

セーラ「やっぱ親続行か。ヤバイな」

竜華「――ああまたチャンピオンのリーチ……!」

浩子「……あ、阿知賀がドラを……」

泉「切りましたね」

セーラ「四七萬待ちか。これならいけるかもな」

竜華「うちも玄ちゃんに希望を託すわ」


♪ 走れ走れ 怜は短い 希望の四七を


怜(――あれ、ここどこ……? 宙に浮いて……臨死体験してる!?
  ぜんぜん知らない場所やな。知らない子がいるなぁ。中学生ぐらいか)

  マホ『パソコンから先輩に応援メール送ったら文まちがえちゃいました……』

  裕子『だからいつも送る前に文面チェックしろって言ってるだろ』

怜(――また違う場所……今度はどこやろか。ん、あれは清澄の選手やな)

  優希『マホからメール来たんだけど“準決勝は明日、あと半日も経てばもうヤケですね”
     なんて失礼な後輩だじぇ』

  和『……きっとYOAKEのOが抜けてしまったんですね』


♪ ここは夢乃 ここは何処か 夜明けO抜けて


怜「……ん、夢か。そっか、終わったんやったな」

セーラ「おぉ怜起きたか、改めてお疲れさん。大変やったな」

怜「試合はテレビで見てた。お疲れはお互い様やな……まあ5位決定戦に切り替えてこか。
  あ、私の試合最後どうなったっけ? 記憶が曖昧でなぁ」

セーラ「阿知賀がチャンピオンに直撃してなんとか切り抜けた感じやった」

竜華「玄ちゃんのあのドラ切り、最高やったで!
   猛烈に素敵なぐうの音も出ないほどの一打、略して……」

竜華「猛素ぐう打!」


●NO PAIN NO GAIN●


~~臨海女子高校~~


ダヴァン(ヨシ! なんとか張り直しまシタ。待ちが枯れたときは焦ったケド、
     形テンに取らないで攻めた甲斐がありまシタ。待ち動かして正解でしタネ)

智葉「……」

ダヴァン(その上サトハの待ちは萬子の高目の気配濃厚、それを私が手の内に握ってるカラ、
     向こうは詰んでる気がしマス。とりあえずこの局は大丈夫でスネ)

ダヴァン(さあ来イ、二五萬! ――索子はいりまセン)

智葉「ロン」

ダヴァン「エ……!」

智葉「1000、タンヤオのみだ」

ダヴァン(ア……待ち変わってマス。やってしまいまシタ。
     それはそうですヨネ、こっちが親だからって日和っちゃくれませンネ)


♪ no pain no gain 詰み気のような子の待ちも動いている


ハオ「サトハのトップですね。安手でも放銃したらトップ陥落の場面でよくオリませんでしたね」

智葉「苦労なくして得るものなし、だ。おまえたちにわかりやすいのは
   “ノーペイン・ノーゲイン”か」


ネリー「ああ、わかる。ネリーの信条もそれに似てるよ。“ノーペイ・ノーゲイ”だから」

ダヴァン「ネリー、貴女……!」

智葉「おまえ、自分の体を粗末に扱うんじゃない!
   そこまで困っているなら力になるというのに……」

ダヴァン「そンナ……こんな見た目は小学生でも通用する少女がそんなヒワイなこトヲ……」

智葉「まあ、相手が女性でデキる危険がなかったのは不幸中の幸いか」

ミョンファ「おやぁ? 遅刻して来てみれば、猥談に花が咲いていますか」

ネリー「なに言ってるの!? そんなことしてないよ!」

ハオ「あの、“芸は身を助ける”の芸では?」

ネリー「そうだよ。報酬くれなきゃ試合しないよってこと」

智葉「……紛らわしいんだよ」

ダヴァン「英語と日本語のハイブリッドはやめてくれませンカ」

ネリー「サトハもメグも思考が汚れてるんだよ」

ハオ「一般的には男性に対する名称ですよね。一応女性にも使えるようですけど」

智葉「まあいい。じゃあメグが抜け番だな。ミョンファ、遅れてきた分打ってもらうぞ」

ミョンファ「あ、まだいいです。来る途中のコンビニでココナッツミルクタピオカを見かけて、
      思わず買ってしまいました。ゆっくり食べてからにします」

智葉「……おまえはほんとに自由だな。鎖で卓に縛りつけてやろうか」

ダヴァン「NO CHAIN NO REIN」


●Trip●


~~有珠山高校~~


誓子「……あ、動いたわ。やっと始められる」

由暉子「最近雀卓調子悪いですね」

爽「いいかげん修理出すかなぁ」

成香「じゃあ牌入れますね」

揺杏「あっ、そっちのセットじゃなくてこっちだよ」

成香「え?」

誓子「昨日また1枚裏が削れちゃって、予備の牌使い切っちゃったでしょ」

成香「そうでした……じゃあ1セットだけでやるんですか。1局ごとに洗牌を待つことになりますね」

揺杏「それって手積みでも大して時間変わんなくね?」

爽「……また卓止まっても困るし、手積みでやってみるか」

成香「あ、私積み方が……」

誓子「じゃあ最初はなるかが抜け番で。難しいことないから、何回か見てれば覚えるわ」

爽「よーし、じゃーらじゃーら」

揺杏「じゃーらじゃーら」

誓子「子供みたいなことして……」

由暉子(じゃーらじゃーら)


由暉子「――あ、袖が……すみません、せっかく作っていただいた服がほつれちゃいました」

揺杏「ありゃ、縫い付け甘かったか」

爽「洗牌なんてふだんしないからな。何局もやったから卓でこすれたんだろ」

揺杏「終わったらすぐ補修するから、今日のところは被害広がらないようにいたわっといて」

誓子「なんだかいろいろガタが来てるわね。そういう時期なのかしら」

爽「そんな流れには負けねーぞ。そうだ、ダメな方の牌セットさ、
  今までどおり予備のを入れれば、持ってるとバレちゃう牌1枚で済むだろ?
  バレる代わりに特別になんかメリットつけてバランス取ったらどうだ?」

誓子「ドラにするとか?」

由暉子「それはかなりバランス崩れるのでは」

揺杏「いくらメリットつけるっていっても中張牌何持ってるかバレるのはかなり痛いでしょ。
   裏削れの牌なにがあったっけ?」

成香「えっと、中張牌と……あとは1索ですね」

爽「1索か……そうだ、それ持って和了ると無条件で1符オマケってのどう?
  順子だろうが頭だろうが暗刻だろうがプラス1符」

揺杏「いいかも。それだとツモ平和が30符になるね。出和了りだと40符。
   これで平和の安さにげんなりしなくて済むね~」

誓子「ちょうど30符とかで損した気分になることもなくなるか」

由暉子「そのルールのありなしのゲームが交互に行われることになりますね」

揺杏「なんか名前つけとこうか。何ルール?」

爽「鳥1符!」


♪ じゃらじゃら牌さえ使い分けされて すり切れた糸を いたわりながらも


●HEART●


爽「ツモ! ホンイツ・南・三暗刻・ドラ3の4000・8000で逆転だな」

揺杏「げ、風牌独り占めじゃん」

誓子「あと自風があれば小四喜って……異常だわ」

爽(今のでフリカムイが帰ってしまったか。また週末に集めてくるかな)

誓子「――よし、今日の活動は終わりね。ねえ爽、今度の土日ヒマだったら牌見に行かない?
   ずっとボロのままじゃ打ちにくいから、手頃なのあったら新しい牌セット買おうよ」

爽「あーごめん、買うのはいいけど今週末は出かけるから無理だなー」

揺杏「なに、どこ行くの」

爽「ちょっと遠出しに……十勝方面とか」

誓子「何の用があるの」

爽「ヤボ用だよ」

由暉子「十勝ですか……あの、もし上空になにかいたら写真を撮ってきてもらえませんか?」

成香「UFOですか?」

由暉子「飛行物体ではなく飛行生物です。十勝に巨鳥のUMAの目撃情報があるんですよ」


爽「……なにそれ、どこ情報だよ」

由暉子「雑誌に載ってました」

誓子「あのオカルト誌ね」

爽「おまえも好きだね。まあいいよ、いたらな」

爽(写るようなもんじゃないんだけどな。ユキには悪いけど、
  そんな雑誌に頼らなくても会える奴は会えちゃうんだよなぁ)


♪ フリ『ムー』がなくても 何処か出会いしていたはずさ


揺杏「爽ならすぐ遭遇するかもね。悪運強いから」

誓子「それは言える。それも麻雀の強さの秘訣なのかな」

成香「爽さんは精神力もすごいですよ。折れないハートっていうか」

爽「そんな大層なもんじゃないよ」

由暉子「でもただの強運じゃ説明がつかないほどの何かがありますよね。
    今日の最後の逆転劇にしても」

爽「んー、強いて言うならハートというより――」

揺杏「ハートというより?」

爽「バード」


●NとLの野球帽●


~~全国開会式後~~


煌「あれ……向こうのベンチの人もインハイの選手かな?」

姫子「阿知賀の先鋒やったはず」

煌「すばらっ。よく知ってたね」

姫子「全国常連の晩成ば倒した高校やけん、印象に残っと」

煌「初日は開会式が終わればどこの高校も試合はないから、
  私たちと同じく初戦に備えてオフを満喫してるのかな」

姫子「ただ休んでるわけやなかよ。ここならパブリックビューイングで
   全国の地区予選ダイジェスト見られる」

煌「卓上の動きまでははっきり見えないけど」

姫子「初顔合わせでも映像で見とけばちょっとは心の準備できるけん」

煌「なるほど。これは……岡山大会決勝ですか。今親ッパネ和了った新免さんの高校が代表だね。
  しかしなんというか、日本刀なのに制服は洋風でアンバランスな……」

姫子「トーナメント表見れる?」

煌「うん――あ、1回戦で阿知賀と当たるみたい。阿知賀さんも食い入るように画面見てるね」

姫子「新免那岐はエースで部長、厳しい相手やけんね」

煌(あれ、でも微妙に視点がズレてるような……)

玄(新免さんの対面の高校、さっきちょっと見えた感じGはある……!
  今のアングルだと背中しか見えない……もうちょっと横からのアングルになってくれないかなぁ)


♪ 武器洋装な親 Gの背中を オフ玄が見ていた


煌「あ、これは私にもわかる。白糸台高校の宮永さんだね」

姫子「勝ち上がるつもりでいる高校ん先鋒なら見て見すぎることはなか」

煌「当たったら私が対局するんだよね。高校チャンピオンと私が……
  逃げるつもりはまったくないけど、ちょっと震えてくるなぁ。武者震いかな」

姫子「……花田にはキツい役割させて申し訳なかよ」

煌「いいってことですよ。直接勝敗を決める大将の姫子の方がキツいでしょうに。
  他の3年生みんなの運命を背負うんだから」

姫子「……ん、お互い頑張ろうな」

煌「うん。私も阿知賀さんに負けないぐらいチャンピオンを目に焼き付けて――」

玄(チャンピオンか……赤土先生が用意してくれた映像散々見たしなぁ……
  いいや、次の地区の大会に変わるまで寝よ。もうこれ以上――)

姫子(え、ぬっと!?)

玄(得るの嫌、窮乏)


●熱風●


~~蒲原祖母宅~~


宥「あの、天江さんの番だよ」

衣「あ、うん……」

睦月「大丈夫?」

智紀(インハイ団体戦が終わって、蒲原さんのお祖母さんの家で祝賀会をやることになった。
   長野の4校に、阿知賀も帰るのは明日ということで合流した)

智紀(2卓で親睦麻雀なんて衣は喜びそうなものだけど、どうも集中できてない。
   もう1つの卓の方が気になってる……? なんでだろう。
   あっちは松実さんのリクエストで集まった人だけど……)

佳織「来るとき大変でしたよね。ごめんなさい、智美ちゃん運転荒くて……」

桃子「キャンプに行ったときなんか山道は通らないようにルートを選んだのに、
   天井に頭ぶつけちゃったっすよ」

和「そんな丘ルートありえません」

玄「和ちゃんは相変わらずだね~」

智紀(あっ……よく見たらみんな発育が良い。こっちの卓もお姉さんの方の松実さんと私がいる。
   自分で言うのもなんだけど。体が小さいのを気にしてる衣には酷な光景かもしれない。
   申し訳ないけど津山さんに防波堤の役目を期待するしかない)


衣(おかしいぞ。これは親睦会のはずなのに、衣への当てつけにしか思えない。
  智紀もいるしそんなはずないってわかってるけど、妖異幻怪の気形ばかり……
  いや、中には衣の懊悩を理解できる者もいたな)

睦月「……?」

衣(衣の同志は鶴賀のお前だけだ。よし、我等で目に物見せてやろう)

睦月「あ、ツモった」

衣「な、ツモだと!?」

睦月「うむ。300・500」

衣(衣の親を蹴られた……そうか、こいつは胸囲こそ脅威は無いが、
  身の丈は集まった者の中でも上位。お前とは違うという宣戦布告なのだな)

智紀(これはまずい……今の和了りを変に勘違いして敵意と捉えたとしたら、
   感情が高ぶってくるはず。そうなればこの子は、衣は――炎を宿す)

衣(いいだろう、そうやって衣を独り法師に追いやるというならば、
  まとめて蹴散らしてくれよう。この有象無象の生猪口才!)


♪ 大量の胸に 鶴賀「うむ」蹴れば この子、衣 炎になる


睦月(!? 凄いプレッシャーだ)

宥(あったかいけどあったかくない……)

智紀(不可抗力だけど私も原因の1人だから、下手にフォローを入れても火に油。
   いつもだったら困ったときのネット頼りで匿名掲示板で相談するのに、
   対局中じゃその手は使えない……)

智紀(ネットと繋がれない私は無力。今の私はネット難民……Net poor)


●21世紀●


~~島根の温泉~~


はやり「ふうぅ~気持ちいい~」

良子「大会の疲れも吹き飛びますね。そういえば今年の大会は
   21世紀最高の決勝だったと評判になってるみたいですね」

はやり「えー、どうせ毎年言ってるんでしょ。ボジョレー・ヌーボーみたいに」

良子「そんな卑屈にならなくても。競技人口が増えるほどレベルは上がって当然なんですから。
   21世紀になってだいぶ経ちますけど、いまだに麻雀人口は右肩上がりだそうで」

はやり「……うん、そうだね。私もこの世界に入ってから20年かぁ……
    その間に世の中ではいろいろなことがあったな。iPS細胞の研究も進んでるし」

良子「そのうち同性婚も認められるかもしれませんね」

はやり「はややっ、そうなったら三尋木良子になっちゃうかもしれないね☆」

良子「はい?」

はやり「あ、良子ちゃんしっかりしてるから、戒能咏になる方が合うかな」


♪ 21世紀に戒能咏はありますか


良子「何をバカな話を」

はやり「わかんないよ~。ここの温泉はありとあらゆる――七色の効能がある、
    別名虹湯って言われてるからね。いろんなものが促進されて……過ちを……」

良子「ノーウェイノーウェイ。そもそもどうして三尋木プロなんですか」

はやり「え~、だって準決勝の後わかり合ったような感じだったじゃない」

良子「健闘を称え合っただけです。向こうも他意はないと思いますよ」

はやり「な~んだ。でも来たるべき時に備えてお肌は若さを保っておかないとね」

良子「理由はともかく、長湯するのはやぶさかではありませんね」

はやり「うんうん、今日は一晩お湯につかってリフレッシュしよう。これぞ21世紀だね」

良子「何がこれぞなのかわかりませんけど」

はやり「虹湯一夕☆」


●ひとり咲き●


~~2年後~~


久「靖子のチームは相変わらず振るわないわねぇ」

靖子「くそっ……だからこうして藁にもすがる思いで知恵を借りようとだな」

久「ま、今の3年生は私の高校時代唯一の大会出場のときにいくらか面識あるから、
  わかることがあれば手助けするわ」

靖子「ここで将来有望な新人を確保できるかに懸かってるんだ。デマはやめてくれよ」

久「わかってるって。でももうそんな時期なのね。大学生になってから時間が過ぎるのが早いわ」

靖子「遊び呆けてるからだろ。せっかく地元の強みを生かしてスカウトするつもりが、
   長野の高校生は欲のないのが多くて困る」

久「美穂子もゆみも進学選んだものね」

靖子「去年も龍門渕のお嬢様はともかく、衣まで見聞を広めるなんて言い出してプロの道を蹴るとは……
   お前がそそのかしたんじゃないかと思ってるんだけどな」

久「まだ言ってるの? 誤解だってば。それで去年誰採ったんだっけ、佐久フェレッターズは」

靖子「池田。爆発力に期待したんだけど、結果は知ってのとおりだ。
   熱意を燃やすのはいいんだが、あえなく散ってばかりだよ」


久「1年目ならそんなもんでしょ。2軍とはいえ頑張ってる方じゃないの?」

靖子「他のチームに対抗するにはそれじゃダメなんだよ。まわりは宮永照を筆頭に、
   辻垣内だの荒川だの江口や愛宕だ白水鶴田のコンビなんかも起用してきてる」

久「インターハイが懐かしいわ……」

靖子「それらの若手がスタメン入りする頃に、うちだけ世代交代できませんじゃまずいだろ。
   だから今年こそ、ある程度名が知られていて、
   プロの世界でも一花咲かせそうなのに来てもらわないと困るんだ」

久「ならもう決まりね」

靖子「誰だ?」

久「そんな条件満たせる長野の高校3年生なんてただひとり、宮永咲よ」


♪ 燃えて散るのが華菜 有名で咲くのが来い ひとり、咲


~~宮永家~~


照「――お風呂あがったよ」

咲「あ、じゃあ私入ってくるね」

照「ごゆっくり」

照「……さて、久しぶりに長野の実家に帰ってるわけだけど、これからちょっと麻雀打って、
  明日の朝には帰らなくちゃならない。咲は別れるのがつらくて泣いちゃうだろう。
  私は泣かないけど。ほんとだよ」

照「だから今日のうちにお別れは済ませておこうと思う。湿っぽくならないように。
  作戦はこう――」


  咲(あーあ、この1局が終わったらもう寝るだけ。そしたら大好きなお姉ちゃんとお別れか……
    今度はいつ会えるのかな。お姉ちゃんだってプロ2年目の駆け出しの若手だし、
    忙しいのは仕方ないよね……)

  照(照魔鏡発動)

  咲『えっ……なんでこのタイミングで――!?』

  咲『鏡になんか書いてある……』

  【バイバイ。またお正月に会おうね】

  咲『……ふふ……しかもこれチョコレートの香りがする……お菓子で文字書いたの?
    お姉ちゃんらしいや……うん、待ってるね……』


照「――そして咲は感激して私と同じチームを目指すことになる。うん、完璧」


照「それじゃ早速照魔鏡を出して、と。そして用意するのはこれ、口紅型チョコ。
  どこからどう見ても口紅にしか見えないのに、実態はチョコ。けっこうな高級品」

照「お父さんがもらってきたお土産だ。お風呂あがりに咲と一緒に食べることにしたけど、
  1つぐらい先に使わせてもらってもいいよね。これで文字を……」

照(あ、いい香り……食べたいなぁ。あれ、これ文字書くのに使っちゃうのもったいなくない?
  いや、でも普通のペンとかだと私らしさの演出にならないし……
  全部書くのにどれくらい減るだろう)

照(もっと簡潔にするか……いや、“バイバイ”だけじゃなんか冷たい感じがするし……
  軽く当てて薄ーく引き伸ばせば使うのちょっとで済むか……よし、そーっとそーっと……)

照「……文字にならない。ちょっと舐めて濡らせば書きやすくなるかな。
  むっ! これはおいしい……色によって味が違うのかな……こっちもなかなか……」

咲「替えの下着忘れちゃった――」

照「あ」

咲「……」



照「もしもし菫? 咲から“妹に隠れてお土産独り占めの糖魔狂”
  のレッテル貼られたんだけど」

菫「ご愁傷さま」



終章

意味がわからなかったら曲を聴くか歌詞検索してみてね
美月さんばりの駄洒落が散りばめられてるので
読んでくれてありがとう

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