穏乃「宝くじが当たった!」 憧「え、一億円!?」 (196)


――放課後、部室――

穏乃「あーあ、また夏休みにならないかなー」

灼「まだ9月が始まったばっかりだから無理だとおも……」

憧「灼、なかなかに辛辣よね」

玄「私にもダメージ来るよー……」

宥「あったかいから夏がいい……」

灼「あったかい……?」

宥「でも、今日はごめんね。私達の急な都合で部活が無理になっちゃって」

玄「どうしても家の手伝いしないといけなくって! 本当にごめん!」

穏乃「いえいえ! インハイで和に会うっていう目標は達成できましたし、しばらく部活はお休みでも大丈夫なくらいです」

穏乃「だから、心置きなく家のお手伝いに行ってください!」

憧「そうそう。全然気にしなくていいわよ」

憧「それに、シズも部活だけじゃなくて勉強とか色々あるでしょ」

穏乃「ギクッ……その話は今は関係ないだろー!」

憧「関係ないことないでしょ! 推薦で大学決まってる宥姉を見習いなさい!」

穏乃「宥さんはインハイの活躍に加えて、学校の成績もいいからなー」

宥「そんなことないよー」

灼「でも、うらやまし……」

宥「もう! 灼ちゃんまで!」


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宥「ごめんね。玄ちゃんにまで手伝いさせちゃって」

玄「いいよいいよ。旅館のみんなが忙しい中、私だけが手伝わないのは申し訳ないくらいだし」

灼「それに秋の大会は人数足りないから練習してもあんまり意味ないかも」

宥「私はもう出られないしねー」

穏乃「個人戦もなー……」

玄「やっぱり団体じゃないとみんなでーって感じがしないし私はやめとこうかな」

玄「それに、旅館の方も忙しいし……」

憧「私はちょっと興味はあったけど、みんなが出ないならパスかな」

憧「夏休みサボった分勉強もやらなきゃだし」

灼「私も……」

穏乃「来年まで待ちぼうけかー」

憧「さすがに今から部員探すのも辛そうだしね」

穏乃「うーん、残念!」


灼「じゃあ今日は解散ってことで」

穏乃「あ! サンマとかどうですか? それなら三人でも!」

灼「ごめん、私も今日は用事が……」

穏乃「あらら……」

憧「大人しく勉強しろってことよ」

穏乃「うー、やだ! 頭が完全に遊び気分なのに……」

憧「わがまま言わないの!」

穏乃「えー、だってさー……」

憧「……」

穏乃「頼むよ、憧ー」

憧「……あぁもう、分かったわよ! じゃあ今日は私と二人で遊びましょ」

穏乃「やった!」

玄「ごめんね。今度埋め合わせするから」

灼「じゃあ、また明日」

宥「じゃあね~」

穏乃・憧「さようならー」


――放課後、町――

憧「で、遊ぶとは言ったものの」

穏乃「結局通学路をぶらぶら歩いてるだけか……」

憧「この辺何にもないからね……」

穏乃「そうだ、憧! 久しぶりに山とかどう?」

憧「えー、それなら一人で行きなさいよ」

憧「せっかく二人で遊ぶんだから、もっと、その……二人でしかできないこととか、ね?」

穏乃「二人でしかできないこと……」

穏乃「……?」

穏乃「最近麻雀しかやってなかったから分かんないや」

憧「もう、シズったら……」

穏乃「そういう憧こそ! 何か案あるの?」

憧「え? あー、その……」

穏乃「?」

憧「……とにかく! 歩くわよ!」

穏乃「結局憧も何にも思いついてないんじゃん!」

憧「こういうのは歩いたら見つかるものなの!」


穏乃「憧」

憧「何よ」

穏乃「もうすぐ家についちゃうよ……?」

憧「……」

穏乃「ねぇ憧ってば!」

憧「聞こえてるわよ!」

穏乃「結局どこで遊ぶつもりなんだよー」

憧「……」

穏乃「憧ってばー」

憧「ああ、悪かったわよ! 何も見つからなかったわよ!」

穏乃「もう、通学路なんだからそれくらい分かるでしょ……」

憧「言っとくけど、通学路じゃなくても何もないからね!」

穏乃「ぬぬぬぬぬ……」

???「お嬢ちゃんたち」


憧「!?」

穏乃「うわっ!!」

???「ちょっと驚きすぎじゃないかい?」

穏乃「ど、どなたですか!?」

???「あぁ、私かい」

???「私はそこの宝くじ売り場で売り子をしてるものさ」

穏乃「宝くじ!」

憧「宝くじか……」

穏乃「いっ、一等はいくらですか!!」

売り子「一等は一億円だよ!」

穏乃「いちおくえん!!!!!」

憧「ちょっとシズ、宝くじってのは大体当たらないのよ」

憧「ここの売り場で当たったなんて話今まで聞いたことないし……」

憧「それ以前に、私達学生だからこういうの買えないわよ」


売り子「ま、暇だから学生さんでもおまけして売ってあげるよ」

穏乃「ほ、本当ですか!」

売り子「もちろん」

穏乃「ありがとうございます!」

穏乃「ねぇねぇ憧! せっかくなんだしさー、買おうよー」

憧「えー、こんなのにお金使うの……?」

穏乃「こんなの……?」

穏乃「こんなのって何さ! 私達が買うのは夢だよ!」

穏乃「誰でも一度は夢見たことがある億万長者」

穏乃「それに簡単になれる可能性がわずかでも手の届くところにあるなら」

穏乃「私はつかみ取りたい……!」


憧「シズ、なんか変な番組でも見た……?」

穏乃「見てない見てない! いたって普通だって!」

憧「変な雑誌の裏でも見たのかと思ったわ……」

穏乃「そ、そんなことないって」

憧「……ふーん。ならいいけど」

憧「ま、シズの心意気に免じて一枚くらい買ってあげるわよ」

憧「じゃあ一枚お願いします」

売り子「はい、300円ね。はい、これが宝くじね」

憧「どうも」

憧「ほら、シズも早く買いなよー」

穏乃「ぬぬぬぬ……」


憧「どうしたの?」

穏乃「いや、何十枚買おうかなと思って」

憧「……シズ、アンタ馬鹿なの?」

穏乃「馬鹿ってなにさ、馬鹿って! こっちは夢と現実の間で必死に悩んでるのに!」

憧「ちなみに、今いくら持ってるの?」

穏乃「……あっ、見るの忘れてた」

穏乃「頼む、私の財布・……はっ!」

穏乃「」

憧「いくら入ってたの?」

穏乃「300円」

憧「……」

穏乃「……」

穏乃「一枚でお願いします」

売り子「はい、まいどあり」


売り子「当選発表は三日後だからね。忘れちゃだめだよ」

憧「はい、ありがとうございます」

穏乃「……」

憧「こら、シズ!」

穏乃「はい、あっ! ありがとうございます」

売り子「当たってるといいね」

穏乃「はい!」

穏乃「はぁ……思ったより現実は厳しかった……」

憧「まあまあ、買えただけましじゃない」

穏乃「……だよね!」

穏乃「今、私と憧の手には大きな大きな夢が……ある!」


憧「ま、たまにはシズの言う通りこういうのも悪くないかもね」

憧「……ってあれ?」

憧「シズ、さっき財布に300円しかなかったわよね」

穏乃「うん」

憧「ってことはさ」

憧「もしかして、今からどこかに遊びにいくのって無理なんじゃ……」

穏乃「あっ……」

憧「……」

穏乃「や……」

憧「や……?」

穏乃「や、やま!」

憧「……はぁ、分かったわよ。宝くじ落とさないように気をつけてよね」

穏乃「やった! ありがと憧、大好き!!!」 

憧「……も、もう!!!」


とりあえず一旦ここまで。
続きはなるべく早く投下します。


――三日後、放課後――

穏乃「うぅ、お腹すいた……」

穏乃「買い食いしたいけどお金がない」

憧「どれだけやりくり下手なのよ……」

穏乃「憧ー、おごってよー」

憧「嫌よ! 私に得がないじゃん」

穏乃「ぶーぶー」

穏乃「うぅ……」

憧「……あっ、そう言えば!」

穏乃「何? やっぱりおごってくれるの!?」

穏乃「それとも何か美味しいものの話?」

憧「違う違う。どれだけ食い意地張ってるのよ……」

憧「ま、別の意味で美味しいかもしれないけど」

穏乃「……?」


憧「ほら、三日くらい前に買ったじゃん! 宝くじ」

穏乃「ん、宝くじ……?」

穏乃「あー! 一億!!」

憧「相変わらず気が早いんだから……」

憧「まだ当たってもないでしょ」

穏乃「一億あればうまい棒が一千万本……!」

穏乃「世界の食糧難も解決しちゃうかもしれない!」

憧「うまい棒って……」

憧「もうちょっと女子高生らしくスイーツとかで考えなさいよ」

穏乃「だって! だってさー!」

穏乃「」グゥー

憧「相当お腹すいてるのね……」

穏乃「……こうしちゃいられない。今すぐ当選番号見に行くよ! 憧!」

憧「はいはい」


――宝くじ売り場――

穏乃「とうちゃく!」

穏乃「すいませーん! これ当たってるか見てください!」

売り子「はいはい、そこに当たり番号貼ってるから各自で見てね」

穏乃「分かりましたー!」

憧「はぁっ、はぁっ……ようやく追いついた」

憧「ちょっ、シズ。いくら何でも走るの速すぎでしょ」

憧「って、もう番号見てるのか……私も見ようっと」

憧「……」

憧「あー、ダメだ。私のはどれにも下一桁すらかすってないや」

憧「ま、しょせんこんなもんよねー」

憧「……で、シズはどうだったの?」

穏乃「……憧」


憧「えっ、もしかして……」

穏乃「……」

憧「……当たってたの?」

穏乃「……」

憧「ねぇ、シズってば!」

穏乃「……」

穏乃「番号の見方が分からない」

憧「……は?」

憧「ここに貼ってあるでしょ!」

穏乃「だってたくさん番号あってどこ見ればいいのか分からないんだよ!」

穏乃「ましてや一億が当たってるかと思うと興奮しちゃって……」

憧「……はぁ、一瞬本当に当たったのかと思ってびっくりしちゃったじゃない」

穏乃「そんなこと言わないでよ! まだ当たってるかもしれないだろ!」

憧「分かった分かった。じゃあ一緒に見て行ってあげるわよ」

穏乃「そうこなくっちゃ! サンキュー、憧!」


憧「えーっと、まずは……」

穏乃「一等からお願い!」

憧「シズ、こういうのは五等くらいから見ていった方が夢があっていいのよ」

穏乃「だって待ちきれなくて!」

憧「はいはい」

憧「じゃあ一等の番号言うわよ」

穏乃「」ソワソワ

憧「一等は……

憧「××組の○○○○○○番ね」

憧「ま、こんなの当たる確率なんて数千万分の一何だけどね」

憧「シズ、次行っていい?」

穏乃「……」


憧「……ってシズ? どうかした?」

穏乃「……」

憧「まさか、また興奮して聞いてなかったとかいうんじゃないでしょうね」

穏乃「……」

憧「もう一回言うわよ。一等は××組の○○○○○○番ね」

憧「どう、ちゃんと聞こえた?」

穏乃「……ってる」

憧「え?」

穏乃「当たってる……」


憧「……」

憧「……え?」

穏乃「うおおおおおおおおお!!!!!!!!」

穏乃「わーーーーーーー!!!!!!!!!!」

穏乃「一億円!!!」

憧「ちょっ! ちょっと宝くじみせて!」

憧「嘘……ホントに当たってんじゃん……」

憧「シズ! ちょっと私のほっぺ引っ張って」

穏乃「うおおおおお!!!!!」

憧「痛い痛い痛い! いくらなんでも引っ張りすぎよ!」

憧「……夢じゃないんだ」

憧「夢じゃ、ない……」

憧「ええええええええええ!!!!!!!!」

穏乃「そうだよ! 夢じゃないんだよ!!!!」

穏乃「いや、むしろ夢だよ! I have a dreamだよ!!」


憧「……」

憧「と、とにかく! 当たってるのよね!」

憧「一億円かぁ……」

憧「……へへっ」

穏乃「憧、変な声でてるよ!」

憧「な! そういうシズだってさっきまで、わーーーーってはしゃいでたくせに」

穏乃「何をー!」

憧「……ってこんなことしてる場合じゃないわ」

穏乃「はっ、そうだった」

憧「えーっと。宝くじが当たったらはまず……」

憧「そう、換金!」

穏乃「そうだ! 早くお金に換えないと!」

穏乃「すいません! 換金お願いします!」


売り子「ごめんねぇ、高額当選の場合は色々手続きがいるからここじゃ換金できないんだよ」

穏乃「えっ……分かりました。ありがとうございます」

憧「よく考えたらそりゃそうだわ。この売り場に一億円があるわけなんてないし」

穏乃「それもそうだよね……」

憧「それに、私達って高校生だから銀行とか行ってもダメだろうし……」

穏乃「うーん……」

憧「困ったわね」

穏乃「あ」

穏乃「……よく考えたらさっき騒いでたのいろんな人に見られてたかも」

憧「ちょっ、冷静に考えたらヤバいじゃん」

憧「一億って連呼してたし」

憧「……もしかしたらお金目当てで近づいてくる人が出るかもってことでしょ?」

穏乃「あわわわわ」

憧「と、とりあえず安心できる場所まで行きましょ」

穏乃「そ、そうだね!」

ちょっとペースが遅いのでいったん書きためてきます。

学生って宝くじ買っちゃダメだったんだ・・・

>>26
売り場によっては自主規制で宝くじは高校生以下には売らないというのがあるみたいなので、
このSSもそれに準じる感じで書いています。

では、再開します。


穏乃「ふぅ……」

憧「はぁっ、着いた……」

憧「とりあえずここまで来れば大丈夫よね」

穏乃「誰にもつけられてない……はず」

憧「だといいんだけど……」

穏乃「さすがに学校までは入ってこないでしょ」

憧「ま、念のために校舎の中に入りましょうか」

穏乃「そうだね。部室なら誰も来ないかも」

憧「……でも、部室は鍵かかってるんじゃない?」

穏乃「あっ、そっか」

穏乃「じゃあ教室にでも行ってどうするか話し合おっか」

穏乃「誰かいたら場所変えればいいし」

憧「そうね。とりあえずそうしましょうか」


――教室――

憧「……」ガラガラ

憧「……うん、誰もいないみたいね」

穏乃「ラッキー!」

穏乃「つけられてたとしても、ここまでは入ってこれないだろうし」

穏乃「ここでどうするか話しちゃおう」

憧「うん、そうね」

憧「……まず、念のためもう一回一等が当たってるか確認しおきましょうか」

穏乃「え? さっき見たんだから別にいいじゃん」

憧「念のためよ、念のため。あれがもし前回の番号だったりしたら困るでしょ?」

穏乃「確かに」


憧「でしょ? じゃあ携帯で調べるから番号教えてくれる?」

穏乃「えーっと」カサコソ

穏乃「××組の○○○○○○番だね」

憧「おっけー」

憧「えっと、今回の当選番号は……」

憧「△△組の□□□□□□番ね」

穏乃「!?」

憧「あれ……!?」


憧「……ああ、これは前回の一等の番号か」

穏乃「もう! しっかりしてよ!!」

憧「ごめんごめん! 今調べ直すから」

憧「ちょっと待ってね。今回は……」

憧「××組の○○○○○○番ね」

穏乃「よかった……ちゃんと当たってる……」

憧「……やっぱりホントに当たってたんだ」

憧「一億円、よね……」


穏乃「どどど、どうしよう」

穏乃「改めて当たってるって分かったらまた急に落ち着かなくなってきちゃった」

穏乃「あわわわわわ」

憧「もう、落ち着きなさいよ」

憧「ここには怪しい人は誰も来ないだろうし、ゆっくり話しましょ」

憧「それと、あんまり騒ぎ過ぎないようにね。先生とか来たら困るし……」

穏乃「そ、そうだね」

穏乃「すぅーーはぁーーーー」

穏乃「よし、もう大丈夫。多分!」

憧「心配だなぁ……」


穏乃「……で、換金の話だったっけ?」

憧「そうそう」

憧「で、今調べてるんだけどどうもまずいのよねー」

穏乃「なにが?」

憧「どうやら高校生だと換金できないみたい」

穏乃「えっ……」

穏乃「それじゃあ、宝の持ち腐れってこと……?」

憧「うーん、一応保護者がいれば換金してもらえるみたいだけど」

穏乃「うちの親にそんなの言ったら怒られるかも……」

憧「かと言って、私が代わりに私の親に頼んで換金するってのもあれだしね」

憧「思わぬところで困ったわ……」


穏乃「……」

穏乃「……そうだ!!」

憧「わっ、なんか思いついたの!?」

穏乃「ふっふっふ、完璧な案を思いついたよ」

穏乃「それは……」

憧「それは……?」

穏乃「赤土先生に頼めばいいんだよ!!」デデーン

憧「……ハルエに?」

穏乃「うん! 赤土先生ならきっと良い案を教えてくれるし、何なら換金もしてくれるかも!」

憧「うーん。私はあんまり賛成できないかも」

穏乃「えー、何でさー」

憧「そう簡単に信用していいのかってこと」


憧「お金のことになると人って簡単に目の色を変えるって聞いたことあるの」

憧「もしかしたらハルエも……」

穏乃「……そんな言い方って」

憧「分かってる。ハルエは多分そんなことしないって」

憧「でも、万に一つでもそんな可能性があるなら……」

穏乃「……」

穏乃「……じゃあどうすればいいんだよ!!」


キーンコーンカーンコーン

穏乃「……ごめん。熱くなり過ぎた」

憧「……私の方こそごめん。変なこと言っちゃったね」

穏乃「ううん。憧は私を心配してくれてるんでしょ」

穏乃「ありがとね」

憧「……ふふっ、よかった。いつものシズだ」

憧「宝くじ当たって人が変わっちゃっうのかなってほんの少し思っちゃったけど」

憧「……よかった」

穏乃「そんな心配いらないって」

穏乃「ちゃんといつもの私でしょ?」フフーン

憧「……そうみたいね」フフッ


憧「さて、下校時間だし宝くじの事はまた明日話しましょうか」

穏乃「そうだね。またこうやってゆっくり話したほうがいいかも」

憧「そうね。メールとかよりも直に会って話すのがいいわね」

穏乃「うん!」

穏乃「じゃあ、明日までこの宝くじは私が持っておけば……ってあれ?」

憧「どうかしたの?」

穏乃「ない! どっかいった!!」

穏乃「さっきここに置いてたはずなのに!」

憧「は!?」


穏乃「ヤバいヤバい……」

憧「お、落ち着いて。シズ」

憧「さっきから誰もこの部屋には入ってないんだから、きっとこの部屋にあるはずよ」

憧「落ち着いて近くを探しましょ!」

穏乃「そ、そうだね」キョロキョロ

憧「……あ、あそこにあるじゃない!」

穏乃「え?」

穏乃「あ、ホントだ! 風で飛んじゃってたのか」

穏乃「早くとらないと……」

???「おーい。もう下校時刻だぞー」


穏乃「わわっ!」

憧「ハルエ!?」

晴絵「何さそんなに驚いて……」

晴絵「ははーん。もしかして二人で何か良からぬことでもしてたんじゃないか?」

穏乃「」ギクッ

憧「そ、そんなことないわよ」

晴絵「……図星か? 二人とも演技下手だなー」

穏乃「……」

憧「……」

晴絵「冗談だよ、冗談! そんな怖い顔するなって!」

晴絵「誰でも人に知られたくない事の一つや二つはある」

晴絵「教師として、人として、深く詮索はしないさ」


穏乃「赤土先生……!」キラキラ

憧「ハルエ……! 見直した!」

晴絵「もう、二人ともどうしたんだよ! 今日はおかしいぞ!」

晴絵「じゃあ、さっさと帰るようにな!」

晴絵「……っと何だこの紙」

穏乃「そっ、それは!」

晴絵「シズのか……? お、宝くじじゃん!」

晴絵「……ははーん、分かったぞ」

晴絵「お前達、宝くじを買ってたんだなー」

晴絵「それでこっそり番号確認してたってわけだ」

穏乃「!!」

晴絵「……で、宝くじは当たったの?」


穏乃「あ、当たっ……」

憧「当たってない、当たってない! ハズレよハズレ」

憧「シズに乗って私まで買ったのが馬鹿みたいだったわ」

晴絵「なんだ、二人とも買ってたのか」

晴絵「……しかし、この宝くじ本当に外れなのか?」

晴絵「二人の様子もどうもおかしいし」

憧「私が番号見たんだから確実よ。ねえ、シズ?」

穏乃「う、うん! そうそう、惜しかったんだけどなー」

晴絵「ほほぅ……」

穏乃「も、もう一枚買ってたら当たってたかもなー。ははっ」

晴絵「……」ニヤ

晴絵「……そう言えば、うちの校則でこういうのは買っちゃいけないってのがあったような」

晴絵「これはれっきとした校則違反だなー」

晴絵「本来なら二人とも反省文を書いてもらう所なんだけど」

穏乃「!!」


晴絵「今なら、このハズレくじを私にくれたら特別に黙っておいてあげるよ」

穏乃「そ、それは!!」

憧「……ハルエめ」

晴絵「ほら、ここは私に甘えてこのくじを渡してくれたら見逃すよ」

晴絵「さあ、どうする?」

憧「……」

穏乃「……」

憧「……当たったわよ」

晴絵「始めっから素直にそう言えばいいのに」

憧「……ったく、何が深く詮索はしない、よ。ノリノリで詮索しに来てるじゃない」

晴絵「ま、固いこと言うなって憧。子供だけじゃ宝くじの換金できないだろ?」

晴絵「私にもちょっと何か奢ってくれたら換金手伝ってやるって!」

晴絵「……どうせそんな大金当たってないか」ハハッ


晴絵「で、いくら当たったの? 三百円? 五千円?」

穏乃「……」

晴絵「……もしかして五万円くらいあたったの?」

穏乃「あの」

晴絵「なわけないよな、悪い悪い!」

穏乃「実は、一億円……」

晴絵「そうかそうか! 一億円か!」

晴絵「……」

晴絵「……」

晴絵「……一億!!??」

晴絵「はっ、ははっ、二人ともいくら宝くじが当たったからって大人をからかったらいけないぞ」

晴絵「そう、簡単に、一億なんて、なっ、ははっ」


憧「晴絵、ちょっといったん落ち着いて」

晴絵「なんだよ、憧まで冗談言うのか?」

晴絵「今日はエイプリルフールでもないんだしそういう嘘はだな……」

憧「ほら、これ見て」

晴絵「……当選番号?」

晴絵「……まさか、本当に!?」

晴絵「……」

晴絵「あ、当たってる……」

憧「ね?」

晴絵「あ、ああ……」

晴絵「……一周回って落ち着いたわ」

憧「そりゃ良かった」


晴絵「しっかし、この宝くじどうするつもりなんだ?」

憧「……仕方ないか」

憧「ばれちゃったし、大人しくハルエに換金をお願いしよっか、シズ?」

穏乃「うん。私は最初からそのつもりだったし」

穏乃「赤土先生なら信頼できる」

憧「ということでハルエ、これの換金お願い」

晴絵「いいのか……? そんなに簡単に信用して」

憧「ま、ハルエが逃亡したら逃亡したで面白いしね」

憧「その時は容赦なく指名手配してもらうけど」

穏乃「……憧ならやりかねないな」カタカタ

晴絵「笑えない冗談だな……」

憧「ちょっ! そこは笑う所でしょ!」


晴絵「……じゃあ日数かかるかもしれないけど、必ず二人に一億円渡すから!」

憧「うん、お願い!」

穏乃「お願いします」

晴絵「それと、下校時刻だからちゃんと残らないで帰るんだぞ」

穏乃「はーい!」

憧「分かってるって」

晴絵「じゃあ、また部活でな!」

穏乃・憧「さようならー」

憧「……これで、よかったのよね」

穏乃「……きっと大丈夫!」


穏乃「ふぅー、赤土先生に宝くじ渡したら気が抜けちゃった」

憧「当選確認してから休めてなかったもんね」

穏乃「でも、まだ当たった実感は何にもないや……」

憧「……」

憧「……一億か」ボソッ

穏乃「どうかした、憧?」

憧「ううん! 何でもない!」

憧「本当に当たったんだな、って思うとぼけーっとしちゃった」

穏乃「変な憧ー」

憧「むっ、それを言うなら今日のシズだって」

穏乃・憧「ふふっ」

穏乃「じゃ、帰ろっか!」

憧「……そうね!」

憧(一億円か……)

憧(ハルエも含めて変なトラブルに巻き込まれないといいけど……)

ここまででいったん終わりです。
続きはまた書きためてきます。


――数日後、部室――


穏乃「」タン

憧「ポン!」

玄「」タン

憧「あ、それロン」

玄「ひぅっ!」

憧「よし、一位!」

宥「二位か~」

穏乃「憧、最近調子いいよなー」

玄「うぅ……最近全然勝てないよ……」

穏乃「じゃあ、次私抜けるんで灼さんどうぞ」

灼「……」

穏乃「灼さん……?」

灼「あ、ごめん……」

穏乃「……?」


憧「ほら灼、早くやりましょ」

灼「うん」

宥「次は負けないよ!」

玄「私も次は一位取っちゃうから……!」

穏乃「みんな頑張れー!」

ガラガラガラ

晴絵「お、やってるね!」

灼「ハルちゃん!」

穏乃「あれ? その袋は?」

晴絵「ああ、これはまた後でね」

穏乃(……! もしかして一億円!?)


晴絵「それよりも久しぶりにお前たちの麻雀を見られるんだ」

晴絵「良いもの見せてくれよー!」

憧「当たり前! またトップ取ってやるんだから!」

玄「わ、私も次は誰かを飛ばすくらいの勢いで頑張る!」

宥「お手柔らかにお願いね……」

灼「……負けないから!」

穏乃「いちおく……」

灼「……シズ? どうかした?」

穏乃「あ! いえいえ、皆さんさっきの一億倍くらいやる気でてるなって!」

穏乃「頑張ってくださいね!!」

灼「うん、任せて」

晴絵「さあさあ、時間もないしちゃちゃっと始めちゃえよー」

晴絵「対局開始だ!」


玄「……」

灼「……」タン

憧「あ、ツモ! 500・1000」

玄「やった! 久しぶりにトップ!」

灼「なっ、二確……一位取るんじゃなかったの」

憧「そんなの状況によるに決まってるでしょ、リーチかけたら玄が怖いし」

玄「憧ちゃんありがとー! 大好きー!」

灼「そんな手で私の逆転手が……」

憧「あがれなきゃ意味ないのよ」

灼「うううう……」


宥「こらこら、喧嘩しないの」

晴絵「うん! みんなちゃんと自分の打ち方が出来ててよかったね!」

晴絵「特に憧の今のあがりは団体の大会なら完璧だったね」

憧「でしょー!」

晴絵「でも、個人戦ならもうちょっと欲を出してもよかったかもな」

晴絵「強い気持ちでの攻めの姿勢ってのがここぞって時に大事になることもあるし」

憧「うーん……そっかー」

穏乃「私も! 私も打ちたい!」

玄「じゃあ私が抜けるね!」

憧「えー、玄の勝ち逃げ?」

宥「じゃあ、私が抜けようかな」

玄「えー、勝ち逃げがしたかったのに……」

キーンコーンカーンコーン

穏乃「あっ……」


穏乃「終わっちゃった……」

晴絵「また明日、だな」

穏乃「あー、赤土先生の前で打ちたかったなー」

灼「ハルちゃん、今度はいつ来てくれるの……?」

晴絵「そうだなー。色々終わって落ち着いたから、また明日も来れるかな」

灼「ん」

晴絵「何だ灼。私に来てほしいのかー」

灼「……っ」カァッ

灼「わずらわし……」

憧「モチベ上がるし、まあ暇なら来てよ」

晴絵「みんな辛辣だな……」


晴絵「あ、そういえば今日はいいもの持ってきたぞ」

晴絵「この袋の中にだな……」

穏乃(その袋って……)

穏乃(え、もしかして一億円をみんなにも公開しようとしてる!?)

穏乃(ダメダメ! みんなにばれるとどうなるか分からないって)

穏乃(そりゃあみんなの事は信頼してるけどさ)

穏乃(でも、こんな形で急にみんなの前で公開するなんて)

穏乃(……止めないと)

晴絵「実はいいものが……」

穏乃「わーーーーっ!!!」


憧「うわっ! びっくりした!」

玄「穏乃ちゃんどうかした?」

穏乃「いや、何でもその……」

宥「もしかして、袋の中身知ってるの……?」

玄「あっ、もしかして中身を独り占めしようとしてるの!?」

玄「そうはいかないよー」ギュー

穏乃「むぎゅっ! ちょっと玄さん!」

灼「ささっハルちゃん、穏乃に邪魔されないうちに良いもの見せて」

宥「あったかいものだといいなー」

晴絵「じゃあ、みんなのお楽しみ。じゃじゃーん!!」

穏乃「ダメー!!!!」

玄「わわっ」

宥「これって……」


灼「高級お菓子セット……!」

穏乃「わーーーーっ……え?」

憧「凄いじゃん、ハルエー!」

晴絵「でしょ? 麻雀部OBと後援会の人たちに感謝しなよ」

憧「はーい」

玄「もしかして穏乃ちゃん、これを独り占めしようとしてたの……?」

穏乃「え?」

宥「中にこれが入ってるのを知ってて」

灼「野生の勘……」

憧「シズ! そういうのはダメでしょ」

穏乃「……ああ! ごめんごめん!!」

穏乃「いやー、独り占めしたかったな! お菓子!」


晴絵「こらシズ! ちゃんと謝らないとお菓子は無しにするぞ」

穏乃「……ごめんなさい」

憧「……もう、シズったらそんなに落ち込まなくてもいいのに!」

宥「でも、独り占めはだめだよ~」

玄「そうそう!」

灼「玄もドラ独り占めしないでね」

玄「それとこれとは話が別だよー!」

穏乃「……よし! じゃあみんなでお菓子食べちゃいましょう!」


全員「」モグモグ

憧「おいしっ!」

灼「麻雀の後のお菓子は格別……」

玄「うん!」

宥「美味しいね~」

穏乃「はい!」

晴絵「……って私の分は!?」

憧「え、残してほしいなら早く言ってよ……」

玄「もうほとんど食べちゃいました……」

晴絵「う、嘘……」

穏乃「嘘ですよ、はいこれどうぞ!」

晴絵「良かった……ありがとうみんな!」

灼「子供みたい……」

晴絵「美味しいものはいくつになっても食べたくなるんだよ!」


晴絵「さて、そろそろ最終下校時刻だ。みんな気を付けて帰れよ」

全員「はーい」

晴絵「……あ、そうだ。一年生の二人はちょっと話があるから残ってくれ」

穏乃「はい……!」

憧「はーい」

晴絵「じゃあ、解散!」


晴絵「さて……みんな帰ったかな」

晴絵「はいシズ、これが例のやつだよ」

穏乃(封筒……?)

穏乃(ここに札束が……!)

穏乃「ありがとうございます! ……ってあれ?」

憧「どうかした?」

穏乃「思ったより薄い」

穏乃「それに、札束じゃ……ない?」

晴絵「え」

憧「……当たり前でしょ! 一億も持ち歩いてどうすんの!」

憧「それとも一億円札でもあると思ってたの?」

穏乃「一億円札……? そんなのあるわけないじゃん。何言ってるの、憧?」

憧「じゃああんたは何を想像してたのよ……」


穏乃「ドラマとかでよくあるじゃん! こう取引とかで札束を……」

憧「あんた一億円ってどれくらいの大きさか知ってる?」

憧「1000万円でも積み上げたら10cmの高さになるんだから、一億円なんて簡単に持ち運べるわけないでしょ!」

穏乃「えっ……」

穏乃「ってことはその十倍だから……」

穏乃「あわわわわわ、思ったより多いや」

憧「だから、晴絵は札束なんて持ってきてないのよ」

晴絵「そう。私が持ってきたのは私名義の通帳とカードだ」

穏乃「……ああ! お金下ろせるやつ!」

穏乃「で、どうやって下ろすんだっけ……?」

憧「……」

晴絵「……」


晴絵「……憧、やっぱりこれは憧に渡しておいていいか?」

憧「了解、今のシズの渡すのはさすがに不安だからね」

穏乃「え、なんで! 私の一億円!」

憧「今のシズにこれを渡すのは不安しかないわ……」

憧「それに、お金が必要になったらちゃんと渡すから!」

穏乃「ぶー」

晴絵「シズ。憧とシズだったらどっちがちゃんとお金の管理できる?」

穏乃「そりゃあ憧だけどさぁ……」

晴絵「なら、ちゃんと憧に管理任せな」

憧「私だって泥棒したりしないから大丈夫だって」

穏乃「……分かった」

穏乃「じゃあ、憧! 早速おいしいもの食べにいこ!」

穏乃「私のおごりで!」


憧「はいはい……でも、もう晩御飯でしょ? 家の人待ってるんじゃないの?」

穏乃「そうだった!」

穏乃「じゃあ明日! クレープとか食べようよ!」

憧「おっけー。じゃあお金降ろして準備しとくわー」

穏乃「よっしゃー!」

晴絵「くれぐれもお金の使い方には気を付けろよー」

憧「はーい!」

穏乃「分かってるって!」

晴絵「じゃっ、また明日!」

憧・穏乃「さようなら!」

とりあえずここまで。投下ペース遅くて申し訳ない……
次は頑張って早く来ます。

――翌日、放課後――

穏乃「憧ーー!!!」

憧「わっ! 何よ、終礼終わっていきなり……」

穏乃「何か待ちきれなくって……」

穏乃「憧と遊びにいくのがっ!」

憧「……っもう!」カァッ

穏乃「どうしたの? お金降ろし忘れたの?」

憧「……それくらいちゃんとあるわよ!」

憧「はぁ……」

穏乃「変な憧ー」


憧「で、どこに行くのよ?」

穏乃「それはもちろん……これだよ!」

憧「……クレープ?」

穏乃「そうそう! 昨日家帰ってからおいしそうな店の広告を一通り見たんだ」

穏乃「そしたらこのチラシを見つけてね!」

穏乃「中でも……これ!」

憧「プリンセスラブリークレープ……なにこれすごっ!」

穏乃「でしょー! 旬のフレッシュなフルーツとふんわりしたホイップ!」

穏乃「それに加えて厳選されたベリーのソースに、食感を加えるためにに軽くナッツを使用!」

穏乃「そしてなによりこのボリューム!!!」

憧「2000キロカロリー……」


穏乃「ね! いこいこ!」

憧「私は別のに……」

穏乃「だーめ、今日は私のおごりなんだから一緒にいこ!」

憧「……今日だけね! 今日だけ!」

憧「はぁー、明日からダイエットしなきゃかも」

穏乃「大丈夫! その時は山に行けばいいからさ!」

憧「もう、山は前行ったばっかりでしょ……」

穏乃「むぅー」

憧「さっ、私の気が変わらないうちに行きましょ」


――放課後、町――

穏乃「クレープクレープ、クレクレクレープ!」

穏乃「今日のクレープはプリンセスラブリークレープ!」

穏乃「ふふっ、ふふふっ!」

憧「何、その変な歌……」

穏乃「ふぇっ!? 何か声出てた!?」

憧「無意識だったの!?」

穏乃「え!? 何が!? ちょっと憧やってみてよ!」

憧「えー……」


憧「……クレープクレープ、クレクレクレープ!」

憧「今日のクレープはプリンセスラブリークレープ!」

憧「ふふっ、ふふふっ!」

穏乃「え、何その変な歌……」

憧「はああーーーー!? アンタねえーーーー!!」

穏乃「ほら、憧。クレープ屋さんにに着いたよ。良かったね」

穏乃「『ふふっ、ふふふっ!』ってね」

憧「シズーーーー!!!!」

穏乃「わわっ!」


穏乃「……まあ、中に入ろうよ!」

憧「むぅ……」

ガラガラ

店員「いらっしゃいませ!」

穏乃「あ、あのっ!」

穏乃「プリンセスラブリークレープ二つください!!」

店員「はい、分かりました!」

店員「店内でお召し上がりですか?」

穏乃「はい!」

店員「では、二つで6000円になります」

穏乃「憧ー、お願い!」

憧「はいはい」

店員「はい、では一万円からお預かりいたします」

穏乃「おー、ぶるじょわじー!」

憧「アンタそれ意味わかってる……?」


店員「では、席の方にてお待ちください」

穏乃「分かりました」

憧「……クレープのサイズどれくらいかな?」

穏乃「3000円だよ! きっとめちゃくちゃ大きいよ……!」

憧「でも、もしかしたら高級な分小さいかもしれないわよ」

憧「そう、エスプレッソとかみたいに……」

憧「手のひらサイズしかないかも!」

穏乃「!!」

穏乃「いや、まさかそんな……」


穏乃「どどど、どうしよう……」

憧「シズなら味分かんないまま一口で終わっちゃうかもねー」

穏乃「えっ、そんな!」

憧「だってシズ、安いお肉と高いお肉の違い分からないでしょ?」

穏乃「ぐぬぬ……否定できない」

憧「ふふふー。じゃあ私が店員さんが持って来たら味のレビューしてあげるわ」

憧「シズは目をつぶってそれを聞いてイメージを膨らませるの」

憧「そしたら、ちゃんと美味しく食べられるわよ!」

穏乃「……うん、わかった!」


店員「お待たせしましたー」

穏乃「!!」

憧「まだ開けないで」

穏乃「っ!」

憧「ドキドキしてきたでしょ……じゃあ食べます!」パクッ

憧「……あっ!」

穏乃「えっ!?」

憧「ちっちゃすぎてシズの分まで全部食べちゃった!」

穏乃「えーーーーー!!!」

憧「……なんてね、嘘よ。さっきの仕返し」

憧「目開けて見てみて」

穏乃「うん……、えっ!」


穏乃「すごい……大きい」

穏乃「えっ、これ二人分……じゃないよね?」

憧「うん、ちゃんと一人分よ。ほら、ここにもう一つあるし」

穏乃「すごい……めちゃくちゃ小さいの予想してたから余計にすごい」

穏乃「憧……食べようか!」

憧「ふふっ、2000キロカロリーもあるしゆっくり食べましょ」

穏乃「ううううっ、もう我慢できない!」パクッ

憧「私も食ーべよっと」

二人「」モグモグ


穏乃「……おいしい」

穏乃「なにこれ……おいしいとしか言えない」

憧「濃厚な生クリームと新鮮なフルーツの甘さの調和すごっ、こんなの食べたことない……!」

穏乃「えっ、何これ何これ……」

穏乃「おいしいね、憧」

憧「私もびっくりしてるわ……」

憧「やっぱり高いのってすごいんだ……」

憧「勧めてくれてありがとね、シズ」

穏乃「うん……!」

穏乃「また食べに来ようよ!」

憧「もう、まだ半分も食べてないのに気が早いんだから」

穏乃「ね!」

憧「はいはい」


穏乃「」モグモグ

憧「」モグモグ

穏乃「あー、おいしかったー!」

憧「もうお腹いっぱいだわー」

穏乃「結局おいしすぎて食べながらおしゃべりできなかったね」

憧「おいしかったからね……」

穏乃「絶対また来ようね!」

憧「もちろん!」

穏乃「じゃっ、今日は帰ろっか!」

憧「そうね、思ったより食べるの時間かかっちゃったし」


店員「ありがとうございましたー」

ガラガラ

穏乃「ふー、クレープ最高ー! 宝くじ最高ー!」

憧「ねー」

憧「しかも一億円あれば今日みたいな事があと1万回は出来るわよ」

穏乃「1万回……10年くらい?」

憧「30年くらいは出来るかもね」フフッ

穏乃「その時はもう私達もおばさんかー」

憧「えー、おばさんって嫌な響きー」

憧「……いっそのこと一億円で不老不死の薬買っちゃうとか!」

穏乃「なにそれっ! でも面白そう!」

二人「ふふふっ!」

憧「……じゃあ、また明日!」

穏乃「うん、また明日!」

今日はここまでです。
GW中に頑張って進めます。

――放課後、部室――

穏乃「今日こそ麻雀!」

穏乃「前打てなかった分リベンジするぞー!」

憧「もう、はしゃいじゃってー」

灼「今日いつもよりテンション高いね」

穏乃「当然っ!なんたって昨日クレープを食べたからね!」

灼「ぜいたく……」

穏乃「それになんとなんと、昨日食べたクレープは……」

穏乃「その名もプリンセ……」

憧「プリンをイメージしたアイスが入ったやつよね! おいしかったなー!」

穏乃「プリン……?」

憧「シズは味音痴なんだからー」

穏乃「なにー!」


憧(バカ! あんな高いのを二人で食べたら明らかに変でしょーが!)

憧(ただでさえあんたは金欠なのに)

穏乃(あっ、そっか……)

穏乃「プリ、プリンだった気がしてきたな、ははっ!」

憧(わ、わざとらしい……)

灼「……」

灼「いいな、うらやましい」

灼「お金……」

灼「宝くじでも当たればなぁ……」

穏乃「!!」

灼「……どしたの?」

灼「もしかして……当たったとか?」

穏乃「何でもないっ! です!」

灼「残念」

穏乃「当たってもあげませんよ! 金欠なんですから!」

灼「ふふっ、穏乃らし」

灼「……」


灼「じゃあ、私みんなが来る前にお手洗いに行くね」

穏乃「はーい」

バタン

穏乃「……」

憧「……」

穏乃「危うくばれるかと思ったー!」

憧「気を付けてよね」

憧「ああ見えて、結構勘が鋭かったりするんだから」

穏乃「うん、宝くじが当たったなんて安易に言うもんじゃないよ……」

バタン


灼「……」

憧「あ」

穏乃「灼さん……? ずいぶん早いですね」

憧「やばっ……」

灼「」タッタッタッ

憧「ちょっ、急に近づいてきて何!? 何!?」

穏乃「あわわわわわわわわ」


灼「……」

灼「穏乃お願い!」

灼「宝くじ、当たったお金貸してほしい!」

穏乃「え……」

憧「……は?」

憧「アンタ自分が何言ってるか分かってるの!?」

憧「仮にも後輩に先輩がお金借りるなんて恥ずかしくないの?」

憧「それも頭下げて……」

憧「いくらシズが宝くじ当たったって周りがそんなんじゃシズが不幸に……!」

穏乃「憧」

憧「でも! こういうのはちゃんとしとかないと!」

穏乃「……まずはさ、話を聞こうよ」


憧「……ごめん」

憧「で、何でお金が必要なの?」

灼「……」

灼「おばあちゃんがね、病気なの……」

灼「手術をしないと治らないのに」

灼「手術をしないって……」

穏乃「!!」

灼「おばあちゃん……」

灼「私がちゃんと学校に通える方が大事だって」

灼「大学の資金も大事だって」

灼「話を聞かなくって」

灼「だから、だから……」

灼「お金があれば……こんなこと……」


穏乃「……いくら、いるんですか?」

灼「!?」

憧「シズ!!」

穏乃「いいんだよ、憧」

穏乃「どうせあぶく銭なんだから」

穏乃「そんなお金で誰かの命が助かるなら安いもんだよ」

灼「……ありがとう」

灼「穏乃……本当に……ありがとう」

穏乃「いいんですって」

灼「費用は……確か、100万くらい……」

穏乃「分かりました」

灼「……本当にありがとう」


憧「……灼、今回だけだからね」

灼「ありがとう、憧」

穏乃「早く元気になられるといいですね」

灼「……うん!」

憧「……」

憧「シズも」

穏乃「え?」

憧「こういうのは今回だけよ」

穏乃「……分かってる。もう誰にも宝くじのことは言いふらしたりしないって」

憧「それならいいんだけど……」

憧(……心配)

今日はここまでです。ありがとうございます。


憧「それにしても灼、よくシズが宝くじ当たったの分かったわね」

憧「もしかしてエスパー?」

灼「いや、最近様子おかしかったし」

灼「前ハルちゃんが来た時とか」

憧「あー……お菓子持ってきたときね」

穏乃「あちゃー」

憧「あちゃー、じゃないわよ……」

憧「これじゃあ玄と宥姉にばれるのも時間の問題ね」

穏乃「だ、大丈夫だって……」


灼「そういえば昨日ハルちゃんが怒ってたよ」

灼「一昨日に『明日も麻雀!』って言ってたのに穏乃達が来なかったって」

穏乃「あっ……」

灼「おかげで三人してハルちゃんにボコボコにやられたんだから……」

穏乃「ご、ごめんなさい!」

憧「お金貰った瞬間その使い道しか考えてなかったからね……」

穏乃「うぅ、赤土先生にも謝らないと」

灼「ハルちゃん、今日も来れるみたいだからビシバシしごいてもらうといいよ」ニコッ


ガラガラ

宥「ごめんねー、遅くなって」

玄「委員会が長引いちゃってー」

穏乃「昨日は部活すっぽかしちゃってごめんなさい!」

宥「いいよー、私たちも最近参加できてないし。おあいこだよ」

玄「……せっかく今日はみんな揃ってるんだし、パパッと打とうよ!」

灼「よし、じゃあ打とっか」

穏乃「はい! 今日こそよろしくお願いします!」

憧「じゃあ私が最初に抜けるからみんな頑張ってー」


――数十分後――

ガラガラ

晴絵「お、やってるやってる!」

穏乃「あ、赤土先生!」

晴絵「おー、シズ。昨日はひどいじゃないか……」

穏乃「すいませんでした……」

晴絵「ま、いっか! 今度何かおごってくれよ!」

穏乃「え!?」

晴絵「ははっ、冗談冗談!」

憧「もう……」

穏乃「おごりは出来ませんが、今から勝つので見ててくださいね!」

灼「負けないよ……」

玄「私もだよ!」

宥「今のトップは私なんだけどなぁ……」


――数時間後――

キーンコーンカーンコーン

穏乃「よし! 最後はなんとかトップ!」

宥「稼ぎ負けちゃった……」

玄「今日はダメだぁ~~」

晴絵「みんなおつかれー! 良かったよ!」

憧「途中ハルエが入るのはやっぱり反則だわー」

灼「やっぱり強い……」

晴絵「いやー、みんな強くなったね!」

晴絵「まだまだ私には敵わないけど!」キラッ

灼「……」

灼「片づけて帰ろうか」

晴絵「せめて突っ込んでくれよ!」ダッ


晴絵「……まあいいか、下校時刻だ。適当に解散してくれよー」

晴絵「私は微妙に雑務が残ってるからそれをやりに戻るわ」

憧「おー、さすが教師!」

灼「麻雀やってる所しか見てないから忘れてた」

晴絵「お前らも安い賃金で長時間労働してみるか?」

憧「わー、ごめんごめん! 仕事頑張って!」

灼「尊敬してる……」

晴絵「……」

晴絵「じゃあまた手が空いた日に打とうなー!」

全員「ありがとうございました!」


灼「じゃあ私たちも帰ろうか」

玄「あ、今日ちょっとだけ残っていいかな?」

穏乃「え、何かあるんですか?」

玄「ちょっとだけ掃除してから帰ろうと思って」

玄「最近来れてないからそうしようってお姉ちゃんと話してたんだ」

憧「私たちも手伝おうか?」

宥「ううん、大丈夫。私たちだけで何とかなるよー」

玄「みんなには別の日にやってもらおうかな」

穏乃「分かりました! じゃあ今日はよろしくお願いします」

玄「おまかせあれ!」

憧「じゃあお願い! また明日ねー!」

灼「また明日」

穏乃「さようなら!」


玄「みんな、行ったかな」

宥「うん……」

玄「じゃあ掃除しようか!」

宥「……」

宥「玄ちゃん」

宥「どうして私とここに残ったの?」

宥「掃除しよう、なんて話一言もしてなかったのに」

玄「それは……」

宥「宝くじ」

玄「!」


宥「玄ちゃんも今日部室に入る前に聞いてたんだよね」

宥「穏乃ちゃんが宝くじ当たったって」

宥「灼ちゃんに100万円渡すって言ってたし、結構な額が当たったみたいだね」

玄「……」

宥「家に帰ったら忙しいし、誰に聞かれるかもわからない」

宥「だから、それについて部室で話そうってことだよね」

玄「……お姉ちゃんはどう思うの?」

宥「どうって……」

宥「うらやましいなって思うよ?」

宥「もしたくさんお金があれば松実館も……」

玄「お姉ちゃん!」


宥「……冗談だよ」

玄「言っていい冗談と悪い冗談があるよ」

宥「……」

宥「……でも、さ」

宥「もし、今の松実館の経営状態を知って穏乃ちゃんが助けてくれる」

宥「そう言ってくれたらどうするの?」

玄「それは……」

宥「それを話し合うために今日残ったんでしょ?」

玄「……」

玄「私は……松実館の人たちも穏乃ちゃんも笑顔でいてほしい」

玄「ううん、この地域みんなに幸せでいてほしいの……」

玄「だから、ね……」


玄「分からないよ……」

玄「私にはどうしたらいいのか」

玄「何が正しくて何が間違っているのか、分からないよ……」

宥「玄ちゃん……」

宥「大丈夫、焦らなくても大丈夫」

宥「玄ちゃんは優しい子だからいつも通りしてればいいの」

玄「……本当に?」

玄「本当にこのままでいいのかな?」

玄「旅館の経営からも友達からも目をそらして」

玄「本当に、これで……」


宥「大丈夫」

宥「玄ちゃんはいつもまっすぐ向き合ってるよ」

宥「松実館とも、友達とも」

宥「だから、心配しなくて大丈夫」

宥「玄ちゃんがまっすぐ向き合って悪くなったことなんてないんだから」

宥「ね?」

玄「ううぅぅぅ……」

玄「おねえちゃぁぁあああんん!!!」グスッ

宥「もう、泣き虫なんだから……」

宥「よしよし」

宥(そう、玄ちゃんはまっすぐ向き合ってくれたらいいの)

宥(だって玄ちゃんには来年がある)

宥(まだ一年阿知賀に通わないといけない)

宥(だから、玄ちゃんに負担をかけるなんてあまりにも酷だ)



宥(だから)

宥(……だから、悪役は私だけでいい)

宥(私には、松実館も友達関係も両方存続させるなんて思い浮かばないけど)

宥(悪役になるなら私にも出来る)

宥(私が泥をかぶりさえすればすべては解決するんだ)

宥(うん、きっと大丈夫)

宥(普段は何の手伝いも出来ないけど)

宥(たまにはお姉ちゃんらしいところ見せないとね)

宥(……ごめんね、玄ちゃん)

宥「さ、穏乃ちゃんたちに言った手前ちゃんと掃除しないとね?」

玄「うん! ありがとうお姉ちゃん!」

今日はここまでです。ありがとうございます。

――翌日、部室――

穏乃「おー、ピカピカ!」

憧「やっぱり旅館の娘が本気出すとすごいわー」

宥「えへへー、ありがと」

玄「昨日は珍しくお姉ちゃんも頑張ったしね」

宥「水拭きが辛くて凍えるかと思ったよー……」

灼「凍える……?」

宥「秋だからねー」

穏乃「夏休み終わりましたし、仕方ないですね」

玄「そうだよねー」

憧「みんなどこまで本気で言ってるのよ……」


穏乃「じゃあ今日も打ちましょうか!」

玄「うん!」

宥「あっ……?」

玄「ん、どうかした? お姉ちゃん?」

宥「ごめん、今日先生に呼ばれてたんだった……」

宥「大学の推薦の話……かな?」

宥「ちょっと行ってくるね」

憧「半荘一回終わるまでには戻ってきてよねー」

宥「はーい、ぱぱっと終わらせるね」

灼「……よし、じゃあ打とう!」

玄「お、灼ちゃんやる気だね!」

穏乃「負けませんよー!」


キーンコーンカーンコーン

穏乃「あー! 負けたー!」

憧「今日は灼の独壇場だったわね」

玄「強かったー」

灼「これが実力……!」

憧「くぅー、勝った日だけそういうこと言うのずるい~~」

穏乃「明日こそリベンジ!」

玄「……そういえば、お姉ちゃん帰ってこなかったね」

穏乃「確かにそうですね」


玄「もしかして進路の話で何かあったのかな……?」

憧「まあ宥姉なら大丈夫でしょ、きっと」

灼「うん」

穏乃「うーん……宥さんなら悪いようにはならないよ!」

玄「でも、ちょっと心配かな……」

玄「帰ってこっそり聞いておくね」

憧「あー、あんまり無理に聞くのもあれだから出来たらでいいわよ」

玄「大丈夫! これでも15年くらい妹やってるから!」

玄「おまかせあれ!」

穏乃「玄さん、頼もしい!」

玄「じゃあそろそろ解散しようか!」

全員「お疲れさまでした!」


――数時間後、松実家――

宥「ただいまー」

玄「あ、お姉ちゃんおかえりー」

玄「遅かったね、何かあった?」

宥「……んー、進路の話が長引いちゃって」

宥「ちょっと疲れたからお風呂先にいただくねー」

玄「はーい」

宥「じゃあ荷物置いてくるね」


宥「じゃあお風呂行ってきます」

玄「ゆっくり温まってきてねー」

宥「うん! ポカポカになって帰って来るね」

ガラガラ

玄「……」

玄(……進路の話って言ってたけど)

玄(今、鞄を見ればお姉ちゃんと先生が何話してたか分かるかな……?)


玄「よし!」

ガラガラ

宥「着替え忘れちゃったー」

玄「ひゅわぁっ!」

宥「わっ!」

宥「もう、玄ちゃんびっくりしたよー」

玄「ごめん! でも、お姉ちゃんこそいきなりドア開けないでよ」

宥「着替え忘れちゃったんだからそれくらい許してよね」ガサゴソ

宥「よし、今度こそ準備OK!」

宥「じゃあ、改めてお風呂行ってくるね」

玄「行ってらっしゃーい」


玄(今度こそ戻ってこないよね)

玄「……」ガラガラ

玄「誰もいないっと……」

玄(ちょっと良心が痛むけど……ごめんね、お姉ちゃん!)

玄「……」ガサゴソ

玄「……パンフレット?」

玄「あれ、お姉ちゃんの推薦の大学ってこんな名前だっけ……」ガサゴソ

玄「しかも、別の大学のパンフレットまで……」

玄「これって……」

ガラガラ

宥「また、忘れ物しちゃったー……って」

玄「ひゃっ!」

宥「……玄ちゃん?」


宥「見ちゃったんだね」

玄「え、いや、あのね! これはね!」

宥「……見ちゃったなら、話そうかな」

宥「お姉ちゃんね、今の志望大学の推薦やめようかなって思うんだ」

玄「えっ……」

宥「今日はね、元々推薦の最終確認の話だったんだけど」

宥「先生にね、別の大学の推薦もどうかって確認されたの」

宥「それで色々話してたら学費免除の大学があってね」

宥「今の松実館の経営状況見るとそっちの方がいいかなって……」

玄「でも! お姉ちゃん、今の志望大学で勉強したいことがあるって……」

宥「……これ以上みんなに迷惑かけられないかなって」


玄「……お金が問題なの?」

宥「え?」

玄「なら、大丈夫! 私が高校卒業と同時に働くから!」

玄「私は別に特に勉強したいこととかもないから……」

玄「お姉ちゃんは行きたい大学に行きなよ!」

宥「でも……」

玄「大丈夫だって!」

宥「……ごめん、ちょっと考えるね」

宥「玄ちゃん。大事な事なんだから思い付きで言っちゃだめだよ」

玄「……うん」

宥「でも、ありがと。うれしかったよ」

玄「お姉ちゃん……」

宥「さ、とりあえずご飯にしよっか。お腹すいちゃった」

玄「う、うん。そうだね」

玄(……お金、か)

今日はここまでです。また、しばらく更新できなさそうで申し訳ないですが8月中の完結を目標に頑張ります。

――数日後、部室――

灼「あれ、今日は穏乃一人?」

穏乃「はい、憧は掃除当番あるみたいで」

穏乃「ほかの二人もまだみたいです」

灼「そっか」

灼「……そうだ」

灼「穏乃」

灼「ありがとう、おかげで手術の日程が決まった」

灼「これで、おばあちゃんは助かる……」グスッ

穏乃「わわわっ、灼さん! 気にしなくて大丈夫ですって」


穏乃「泣くのは手術が終わってからにしましょ? ね?」

灼「……うん、ありがとう穏乃」

灼「手術自体の成功率はある程度高いみたいだからもう大丈夫だと思う」

灼「本当にありがとう」

穏乃「……へへっ、どういたしまして」

穏乃「ささっ、元気出して麻雀の準備しましょ!」

灼「……うん!」


――部活終わり、部室――

穏乃「ふぅー、打った打った」

憧「食った食ったーみたいに言わないの」

穏乃「はーい」

晴絵「ささっ、今日も遅くまで残らずに早く帰れよー」

憧「はーい。じゃあ帰りましょっか」

灼「また明日」

宥「バイバイ」

穏乃「さようなら!」

玄「またねー」

玄「しーずのちゃん、一緒に帰ろ?」

穏乃「あ、はい! いいですよ」


玄「穏乃ちゃん、最近なんかいい事あった?」

穏乃「ふぇっ!? 急にどうしたんですか?」

玄「いやー、最近なんかずっと機嫌いいなーって」

穏乃「えーっと、ちょっといい事したんで」

玄「いい事?」

穏乃「はい! 人助けっていうか……そんな感じです」

玄「ふむふむ……気になるね。何したの?」

穏乃「あー……シュヒギムがあるのでです!」

玄「シュヒギム? あー、守秘義務か。気になるなー」


玄「もしかして……」

穏乃「ぎくっ」

玄「……」

玄「……いや、なんでもない」

穏乃「え?」

玄「ごめんね、あんまり聞くもんじゃないよね」

穏乃「……い、いえ! こちらこそ変に気にさせちゃってごめんなさい」

玄「謝るほどの事じゃないよ。穏乃ちゃんはいい事したんだからもっと自信もって、ね?」

穏乃「へへっ、そういうの言われると何か照れちゃいますね」

玄「そんなことで照れないでよー」

穏乃「えへへ」


玄「あははっ」

玄(……)

玄(ダメ……聞いたら全部終わっちゃう)

玄(これは開けてはいけないパンドラの箱だ)

玄(開けてしまうと、きっと何もかもダメになってしまう)

玄(だからこのままでいい)

玄(お金なんてなくっても)

玄(きっと何とかやっていけるから)

玄(今までだって何とかなったんだ)

玄(今度だってきっと……きっと……)

玄(……でも、もしダメだったら?)

玄(私だけの問題じゃない)


玄(お金があれば、旅館の経営だってもっと楽になるかもしれない)

玄(従業員さん……それにお姉ちゃんだって)

玄(お姉ちゃんはもしかしたら、このままだと本当に行きたい大学に行かないかもしれない)

玄(その大学でしたいことの話、楽しそうにしてたのに……)

玄(……そうなるくらいなら)

玄(穏乃ちゃんに余裕があるならちょっとくらいダメ、かな)

玄(だ、だって。私が宝くじに当たったらきっと、みんなに……)

玄(私なら……)

玄(……)

玄(……何考えてるんだろ、私)

玄(最悪だ)


穏乃「……玄さん?」

玄「……」

穏乃「ねえ、玄さんってば」

玄「ふぇっ!?」

穏乃「わっ、どうしました? いきなりぼーっとして」

穏乃「それに、ちょっと顔色も悪いような……」

玄「え、いや、そんなことないよ!」

玄「大丈夫……だから!」

玄「……ちょっとお手洗い行ってくるね。ごめんね、また明日一緒に帰ろうね! バイバイ!」

穏乃「え、ああ、はい。さようならー!」

穏乃「……大丈夫かな?」

今日はここまでです。


――同日、高鴨家――

穏乃「うーん……」

穏乃(玄さんの今日のあれは何だったのかな……)

穏乃(――やっぱり、宝くじの事ばれちゃってるのかな)

穏乃(玄さんにならバレても大丈夫だと思うけど)

穏乃(むむむ……)

穏乃(憧に相談してみるのは……ダメだよね)

穏乃(こんな事まで頼っちゃったら憧にまた変な心配かけちゃう)

穏乃(何よりバレるバレないじゃなくていつも通りの麻雀部でいるのが一番だよね!)


穏乃(それにこんな事で悩んでるのも馬鹿らしい、か)

穏乃(……)

穏乃(なんで宝くじあてたのに悩まないといけないんだろ)

穏乃(……そうだ。悩まなくていいじゃん。悪いことしてるわけじゃないし!)

穏乃「うおおおおおおお!!!!」

穏乃母「こら! 静かにしなさい!」

穏乃「いっけな……はーい!!」

穏乃(……よし、明日は何も考えず部活楽しむぞ!)

穏乃(そうだ! 面白いこと考えた!)

――翌日放課後、部室――

穏乃「……」ソワソワ

憧「?」

穏乃「……」ソワソワ

憧「……シズ、今日ずっとそわそわしてない?」

憧「何かあった?」

穏乃「よくぞ聞いてくれました!」

憧「おぉう」

穏乃「私たちってさ、大会出ないじゃん?」

憧「そうね」

穏乃「ということは、本来大会があった日は遊ぶ……じゃなくて、ガッツリ麻雀しないともったいないわけじゃん」

穏乃「……そこで! 合宿をしたいと思うのです!」

憧「おおー。あんたにしてはいい案じゃん」

憧「確かに大会ないのは退屈だし、合宿なら刺激があっていいかも!」

穏乃「でしょー!」


憧「でも、玄や宥姉は行けるかな? なんか最近忙しそうだし……」

穏乃「うっ……」

憧「それに灼だっておばあちゃんがまだ大変だし」

穏乃「うぐぅ」

憧「それにハルエの許可だってとれるかどうかわからないよ」

穏乃「がはぁっ」

穏乃「うぅ……褒めといてからそんなにボコボコに言わなくてもいいじゃん」

憧「ごめんごめん! ま、みんなが集まってからでも聞いてみましょ?」

憧「楽しそうじゃん! 合宿!」

穏乃「うん!」


――数十分後――

穏乃「……みんな揃ったね」

宥「?」

穏乃「では、発表します!」

灼「いきなり何……」

穏乃「その内容は……!」

玄「ふむふむ」

穏乃「合宿です!」

一同「おー」

穏乃「どうでしょう皆さん!」


玄「日程にもよるけどいいんじゃないかな!」

宥「うんうん。引退しちゃったけど私も参加していいのかな?」

穏乃「もちろんです!」

灼「最後にみんなで盛り上がるのも悪くない」

憧「これでみんなの同意は得られたわね!」

穏乃「あとは赤土先生だけだね!」

玄「……といっても来るまで時間かかりそうだね」

宥「じゃあ麻雀してよっか」

穏乃「ですね!」


――数時間後――

穏乃「……ということなんですが」

晴絵「ふーん……」

穏乃「」コクリ

晴絵「ちょっと予定が急すぎるから難しいかも……」

穏乃「えっ、そんな」ガーン

晴絵「……ま、でも何とかしてみるよ! せっかくだし大会に合わせたほうがやる気出るだろうし」

晴絵「それに久しぶりに私もガッツリ打ちたいからなー!」

穏乃「……ということは!」

晴絵「ああ、OKだよ」

穏乃「やったー!」


晴絵「で、日程は……大会と一緒なら来週末か再来週末あたりかな?」

穏乃「うーん……じゃあ来週末で!」

憧「決めるのはやっ。みんなの予定くらい聞きなさいよ」

穏乃「えー、だって善は急げって言うじゃん」

憧「そうだけどみんなが来れなかったら意味ないでしょー。私は行けるけど」

灼「私も大丈夫」

宥「私たちも大丈夫だよー」

玄「今のところは何とかなる、かな」

穏乃「おおっ、みんなさすが! じゃあ来週末にしましょう!」

晴絵「はいはい。じゃあ許可取れたらまた連絡するからね」

晴絵「……急なことだから取れなくても文句言うなよ」

穏乃「はーい」


晴絵「じゃあ今日も寄り道せずに帰るんだぞー」

全員「はーい」

穏乃「……やったー! 合宿だー!」

憧「案外思い付きで何とかなるものね」

憧「それにしてもみんな本当に予定大丈夫なの? 宥姉たちは旅館忙しいんじゃ……?」

宥「実はあんまり大丈夫じゃないかもしれないんだけど……」

穏乃「えっ」

宥「でも、部分的にでも参加は出来るかなって」

玄「一応確認は取らなきゃだけどね。でも、頑張って参加するよ!」

穏乃「……ありがとうございます!」


穏乃「灼さんもありがとうございます!」

灼「こっちこそ……」

灼「まあ、部長として欠席するわけにはいかないし」

憧「そんなこと言って、一番楽しみにしてるのは灼だったりして」

灼「なっ……! ちがっ……」

穏乃「えっ、楽しみじゃないんですか……」シュン

灼「いやっ、そうじゃなくって」アセアセ

穏乃「冗談ですよ! みんなで楽しみましょう!」

灼「……うん!」


――同日夜、高鴨家――

穏乃(思ったより順調に計画が進んだ……!)

穏乃(やっぱり言ってみるもんだなー!)

穏乃(みんな大変そうだけど、だからこそ楽しめるような合宿にしなきゃね!)

穏乃「よーし! やるぞ――!」

穏乃母「こら! 静かにしなさい!」

穏乃「はーい!!」

穏乃(いけないいけない。楽しみ過ぎて声に出ちゃった!)

穏乃(……ちゃんと楽しい合宿に出来るように計画しなきゃね!)

穏乃(よーし、まずは……)

今日はここまでです。


同日、松実家

玄「合宿楽しみだねー」

宥「うん。私もインハイ終わってからちょっと何か物足りなかったからちょうどいいかも」

宥(合宿、か……)

宥「ふふっ」

玄「……? お姉ちゃん、どうかした?」

宥「いや、穏乃ちゃんらしいなって思って」

宥「最近私たちあんまり部活に行けてなかったから」

宥「せっかくの部活だから一緒にいられる時間が多いほうがいいなって」

宥「きっと、そう考えてくれたのかなと思ってね」

宥「それに……」

玄「それに?」

宥「……ううん、気にしないで」

玄「それならいいけど……」


玄「でも、確かに穏乃ちゃんたちには色々心配かけちゃってたかも」

玄「よし!」

玄「私たちも、合宿の間は色々忘れて楽しめるといいな」

玄「ううん! 楽しまなきゃ!」

宥「ふふっ、その意気だよ」

宥「平日はみんなと一緒にいられる時間が短いけど」

宥「合宿なら夜までみんなといられるからあったかいよぉ」

玄「あったかい……?」

宥「はっ! 学校にお風呂ってあったっけ?」

玄「うーん、どうだろ。近くに銭湯はあったような」

玄「でも、学校の中にはないかも」

宥「うぅ……あったかくない……」


宥「そうだ! この際、こたつを持ち込んじゃダメかな?」

宥「夜もこたつでぬくぬくぽかぽかだよー」

玄「うーん、こたつはあんまりかな……」

玄「まだ、九月だからみんな入ってくれないかも」

宥「あったかくない……」

宥「……仕方ないから湯たんぽで我慢するね」

玄「う、うん」

宥「なんて、冗談だよー。玄ちゃん」

玄「目が怖いよ、お姉ちゃん……」

玄「……ふふっ」


宥「? どうしたの、玄ちゃん?」

玄「こんな風にやり取りするのも久しぶりだなって思って」

玄「ほら、最近色々あったし……」

玄「何気ない会話が出来るのって意識してなかったけど大事なんだなって」

玄「あっ、ごめん……またしんみりさせちゃったかも」

宥「……ううん。玄ちゃんの言う通りだよ」

宥「インハイが終わってから思うんだ」

宥「もっと早く麻雀部の一員でいたかったなって」

宥「灼ちゃんと玄ちゃんがいれば去年からでもできたわけだから」

宥「楽しかったけど、もう終わっちゃうのかなって」

宥「数か月間、私にとっては当たり前の空間だったけど」

宥「終わりが近づくとやっぱり辛いかな」


宥「でも、ね」

宥「ううん。だからこそ、みんなには感謝してるの」

宥「私を麻雀部に誘ってくれて」

宥「こんなに、素敵な時間を私にくれて」

宥「とってもうれしかった」

宥「だから、ね」

宥「玄ちゃんはその時間を、当たり前の時間を大事にしてほしいなって思うの」

宥「お姉ちゃんとの約束だよ……?」

宥「……って玄ちゃん!?」

玄「おねえちゃぁぁあああんん」グスッ

玄「ごめんねぇええええ。私がもっと早く誘ってたら」グスッ

宥「あわわわ……変なこと言っちゃってごめんね」

宥「よーしよーし」


玄「うぅ……」

玄「お姉ちゃん……」

宥「なあに?」

玄「……合宿、絶対楽しもうね!」

宥「玄ちゃん……」

宥「うん、もちろんだよ!」


宥「……もうこんな時間、遅くなっちゃったね」

玄「そうだね、もう寝ないと」

宥「うん。寝る前にお手洗いだけ行こうかな」

玄「ん、じゃあ先に寝てるね」

玄「おやすみ! お姉ちゃん」

宥「おやすみ~」ガラガラ

宥「……」

宥(……ごめんね、玄ちゃん)

宥(玄ちゃんに大事にしてほしい当たり前の時間はね、麻雀部の時間だけじゃないの)

宥(学校でも家でも笑顔でいてほしいから……)

宥(だから……)

宥「……」プルルルルルル

宥「……もしもし、夜遅くにごめんね?」

――翌日放課後、教室――

穏乃「ふわぁ~~」

憧「大きなあくびね……昨日夜更かしでもしてた?」

穏乃「うーん……そんな感じかな……」

憧「そんなんだからハルエに授業で怒られるのよ。授業中もずっとそんなだったじゃん」

穏乃「そうだっけ……てか今何時間目? そろそろお昼ごはん?」

憧「もう、今終礼終わったでしょ! これから部活よ!」

穏乃「ふぇっ! もうそんな時間!」

憧「そうよ、どれだけぼーっとしてるのよ……」

穏乃「……てことは私のお昼ご飯は?」

憧「私と一緒に食べてたんだからとっくにアンタの胃の中よ、もう!」

穏乃「そんなぁー……」


穏乃「ねぇねぇ憧、買い食いしちゃダメかな?」

穏乃「ほら、私ってお金持ちなわけだし?」

憧「ダーメ、万年金欠のアンタが学校で豪勢な事してたら変でしょ」

穏乃「えー、それくらい大丈夫だって」

憧「噂ってのは怖いの」

穏乃「でもさー……」

憧「考えて見なさい。購買のおばちゃんから、ハルエに伝わって、うちのお姉ちゃんに伝わって……ね?」

穏乃「……」

穏乃「田舎って怖いね……」

憧「アンタが普段からもうちょっとお金の使い方上手かったらごまかせたんだけどねー」

穏乃「あー! 世の中不公平だー!」


憧「そんな話してるうちにほら、着いたわよ」

穏乃「え、どこに? 購買?」

憧「いつまで寝ぼけてんの? 部室よ! ぶ・し・つ!」

ガラガラガラ

宥「憧ちゃん、穏乃ちゃん」

穏乃「あ、宥さん。おはようございます」

宥「……? もう昼だよ?」

穏乃「そっかぁ……こんにちは、宥さん」

宥「こんにちはー」

憧「何のやり取りよ、これ……」


宥「憧ちゃんもこんにちは」

憧「こんにちは……じゃなくて、部活!」

憧「って宥姉かばん持ってるじゃん。どこ行くの?」

宥「先生に呼ばれちゃって、ごめんね……」

宥「今日出れないって、それだけ言いに来たんだ。ちょうど部室に灼ちゃんもいたし」

憧「そっかぁ、残念」

宥「灼ちゃんが言うには玄ちゃんもちょっと遅れるみたい」

憧「むー、それは困った……」

宥「ごめんね……なるべく早く戻って来るから」

憧「ううん、気にしなくて大丈夫! 色々大変だと思うけど頑張って!」


宥「ありがとね、憧ちゃん」

宥「穏乃ちゃんも、ごめんね」

穏乃「……ふぁい、宥さん! 任せてください!」

穏乃「責任もって頑張りますから!」

憧「もう、いつまで寝ぼけてんのよ!」

穏乃「ふぇっ……あれ? 宥さん、かばん持って購買でも行くんですか?」

憧「あー、もう話が進まない……」

憧「宥姉、シズのことはほっといていいからね。いってらっしゃい」

宥「うん、灼ちゃんにもよろしくね。行ってくるねー」

穏乃「いってらっしゃーい」

本日投下します

ガララ

憧「やっほー」

灼「あ、憧。穏乃、やっほ」

穏乃「やっほー!」

憧「一人だけ山のテンションね……」

灼「玄は委員会でちょっと遅れるみたい。それまで三麻でもする?」

憧「んー……」

穏乃「」ムニャムニャ

憧「シズの様子見る限り無理そうね……」

灼「そっか……なんでこんなに眠そうなんだろ」

灼「……」

灼「おーい、シズ。三麻しない?」

穏乃「サンマですか、いいですね! 七輪取ってきます!」

灼「……ダメみたいだね」

憧「ここまでのボケが出来ると逆に行けるんじゃないかとさえ思えて来るわ……」


灼「そういえば、さ」

灼「前に私のおばあちゃんのために100万円持って来てくれたことあったよね」

憧「うん」

灼「……どうやらあれが見られてたらしい」

憧「ふぇっ!?」

憧(……まずいまずいまずい! 誰かに知られたら町中に知れ渡る!)

憧「ちょっ、いつ!? どこで!?」

灼「私も宥さんからまた聞きなんだけど……」

憧「宥姉から!?」

憧(最悪……)

憧(よりにもよってこんなに近い人間に知られてるなんて……)

灼「憧が銀行でお金下ろすときを旅館の常連さんが見てたらしい」

灼「宥さんも何かの見間違いじゃないかって言ってたけど……」

憧(私としたことが……迂闊だったわ)

憧「……それで、灼は何か言ったの?」


灼「何も知らない、とは言ったけど」

灼「もしかしたら表情に出てたかも……」

憧「宥姉にはバレてるって考えたほうがいいのかな」

灼「ごめん、私のせいで……」

憧「いや、これは私の失態だわ」

灼「……」

憧「……」

灼「そうだ。ハルちゃんに協力してもらって部活関係のお金だって事にすればどうだろ」

憧「……うん、そうね。とりあえずハルエにはそれで口裏合わせてもらうか」


憧(それにしても合宿直前にしてこれはまずいわね)

憧(ぼんやりとでもこの話題を切り出されたらさすがにしんどい……)

灼「憧、大丈夫?」

憧「……あぁ、ごめんごめん。ちょっと考え事してた」

灼「私が言うのもなんだけどさ、宥さんと玄にはもう本当のこと言うってのはどうだろ」

灼「あの二人ならきっと大丈夫だろうし」

憧「……いや、まだ言わない方がいい」

憧「今でさえ私のキャパをオーバーしてるのにこれ以上考えないといけないことが増えたら……」

憧「だから、ごめん。ちょっと、考えさせて」

灼「……分かった」


憧「しかし、弱ったな……」

灼「どうかしたの?」

憧「もし……もしうちの親にまでその話が伝ってたらヤバいかなーって」

憧「バレててこっそり部屋を調べられたりでもしたら……ね?」

灼「……確かにそうだね」

灼「となると、もう二択かな」

憧「二択……?」

灼「通帳をハルちゃんに渡すか、穏乃に渡すかの二択だよ」

憧「うー……やっぱりそうなるか」


憧「……」

憧「よし、腹くくった。シズに渡す」

穏乃「え、憧何か言った??」

憧「はぁ……大丈夫かなぁ……」

灼「……」

穏乃「ご、ごめん! ちょっと寝てた、かも……」

憧「あんたねぇ……」

灼「まあまあ……」

灼「じゃあ今日はもう帰る?」

憧「ん、そうするわ」

憧「変なのに巻き込んじゃってごめんね」

灼「いや、これくらいじゃこっちも恩返しにならないし」

灼「いくらでも力になるから」

憧「……ありがと」

憧「じゃあ、悪いけど先帰るわ」

灼「ん」


灼「……」

灼(……これで、いいんだよね)

ガラッ

玄「ごめん、遅れて!」

玄「ってあれ? まだ灼ちゃんだけ?」

灼「ん……」

灼「穏乃と憧は用事があるらしくて帰っちゃった」

玄「あちゃー……」

玄「お姉ちゃんも、まだかな?」

灼「先生に呼ばれたっぽい」

玄「二人だけかー。どうする? 今日はもう解散にしちゃう?」

灼「……」

玄「灼ちゃん?」


灼「玄は……」

玄「ん?」

灼「……いや、なんでもない」

玄「えー、気になるよー」

灼「何でもないって。玄なら宥さん帰って来るまで待つのかなって思っただけ」

玄「ほんとに?」

灼「ほんとだって」

玄「んー、まあいっか。お姉ちゃんは待つよー」

灼「うん、じゃあ二人で待ってようか」

灼(……玄は宥さんの考えてること知ってるのかな)

灼(私は何も言える立場じゃないけど……)

今日はここまでです。

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