ことり「ふたつの太陽」 (166)
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若干ドロリと
キャラ崩壊閲覧注意
医学的な要素はほとんど想像なのでリアルとはかけ離れていると、思います。
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ことり「ん……ぅ」
その日は雨が降っていた。
寝ぼけ眼の目をこすって、窓の外に見える校庭をなんとなく見つめる。朝は小雨だったはずの雨は、次第に大粒になっていき現在はスコールと言ってもいいほどまで雨の勢いは増していた。
衣装作りのために部室で一人ミシンを動かしているうちに眠ってしまったらしい。その証拠に手の甲が赤くなっているし、手鏡で前髪を見てみるとせっかくセットしたというのに、パックリと割れてしまっている。……誰もいなくてよかった。
練習が中止になり、少しだけお喋りをしたあとみんなは小雨のうちに帰ってしまっていた。きっと手伝ってと言えば全員が手伝ってくれただろうけれど、自分のペースでするのも悪くないよね。と、いうよりも私はこれくらいしか出来ないし。うんっ。
やはり一度眠ってしまうと、気が抜けてしまう。これ以上ここで作業してもミスを増やしてしまうだけかもしれないと思った私は、すぐに作業中の糸を切って片付けに取り掛かった。
打ち付けるような激しい雨音が響く空間の中、窓の外から鳥の鳴き声が聞こえてくる。ちょうどミシンを片付け終わったところで視線を鳴き声の方に移すと、窓の下枠に止まってこちらを覗き込む小鳥さんと目が合った、ような気がした。
ことり「入りたいの?」
こんな雨の中じゃきっと飛ぶのも辛いもんね。そんなことを考えながら鍵に手をかけて、窓を開ける。
ことり「ぁ……」
こっちへとことこ入ってくるかも、なんて言う期待とは裏腹に小鳥さんはすぐに飛び立っていってしまった。
窓を開けたことで雨の日特有の独特なむわっとした熱気に包み込まれる。じっとりとした汗が額から噴き出して来て、前髪がさらに割れてしまう。
雨は、一向に止みそうにない。
ことり「なんか、嫌な感じ」
これから合宿とか色々、楽しいことがたくさんあるはずなのに。
夏休み初日の季節外れのスコールは、まるで何かを表しているようだった。
◆――――◆
穂乃果「ごめん、なさい……」
目の前の人が泣きそうになりながら私に頭を下げてくる。ああ……意識が朦朧とする。笑ってくれれば私も笑顔になって、沈んでいる時は私も沈んで行く。まるで魔法でも使っているみたいなその人の答えは、私の思考回路を全て奪っていった。
もしかしたら、大丈夫なんじゃないか、特別な存在になれるんじゃないかって、不安の海に小さく浮かんでいた私の淡い期待ごと、夏の暑さに葬り去った。ああ、私は魔法をかけられた。今やその人が笑おうが泣こうが、私のこの気持ちを奪ったことへの、憎しみへと変わるだろう。
欲しい。欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい!!! 穂乃果のことが、たまらなく、欲しかった。全てを失ってでも、欲しかった。
自己中心的? 仕方ない、それが私だもの。ああ、なるほど。こんな自己中心的な私だからこそ、目の前の人はそういう答えを出したんだ。
だとするならば――それも仕方ない。
すぅっと、膨らみかけた憎しみの感情が縮んでいく。その中心に現れたのは、また別の感情。自分を守ろうとして、自分を良く見せようとして、私が普段絶対に人に見せない感情がむくむくと膨らむ。それは真っ黒な雲だった、私の中をそれが支配した時、たまらず目から液体が溢れ出したのは、心が泣いているって証拠。
ああ、どうしよう。こんな問題に対する問いを用意していない。こんなになるだなんて、思っていなかった。傲慢ね。勉強は得意、それでもこんなこと、習ってないし勉強したことはない。
穂乃果はそんな私を見て、また小さくごめん、と呟く。答えが出せなかったことじゃない、結果が伴わなかったことでもない。目の前の人が私の自己中心的な想いをぶつけたせいで、きっと苦しんでいる。私は穂乃果のことを思って想いを伝えるべきだったのに、間違ってしまった。それが、なによりも辛かった。
◆――――◆
海未「真姫は……」
穂乃果「……」
絵里「穂乃果が気に病むこと、ないわ」
穂乃果「……勘違い、させちゃった、のかな」
海未「……」
海未「そうかも、しれませんね」
穂乃果「――穂乃果が、絵里ちゃんと付き合ってること、みんなに言ってれば……」
穂乃果「真姫ちゃんを、傷つけることなかったよね」
海未「え………?」
海未「ど、どういうこと、ですか……?」
絵里「……付き合ってるの、私達」
海未「!?!?」
絵里「――いつかは言わなきゃとも思ったんだけれど」
穂乃果「き、気持ち悪いよね……女の子同士なんて」
海未「……」
海未「いえ……」
海未「そん、な」
絵里「穂乃果は怖がってたの、軽蔑されるんじゃないかって」
穂乃果「……」
海未「……」
絵里「みんなには、後で言うつもりよ」
海未「そうですか……」
海未「お似合い、です……っ」
◆――――◆
ことり「あ、あのね……」
海未「……」
ことり「……なんでも、ない」
海未「いいんです、おかしいとは、思っていましたから」
海未「そもそも、私なんかが絵里のことを好きになったのが、間違いだったんです」
ことり「そ、そんなことないよ……」
海未「……いいじゃないですか、きっと失恋も、いい経験になります」
ことり「……海未ちゃんなら、きっと他にもいい人、見つかるよ」
海未「そうだと、いいんですが」
海未「初恋がこんな形で終わるとは……」
海未「ことり、今まで相談に乗ってくれて、本当にありがとうございます」
ことり「うんっ……」
海未「正直、未だに何が起こったのかわかりません」
海未「私に手紙を渡してくれたり、告白してくれたりした方々はみなこんな気持ちだったのでしょうか」
海未「……だとしたら、悪いこと……してしまいましたね」
ことり「…………」
海未「くす……でも、なんだかいい歌詞が作れるかもしれません」
◆――――◆
凛「え、絵里ちゃんと穂乃果ちゃんが、付き合ってる!?」
ことり「うん」
凛「そ、それって」
ことり「――海未ちゃん、失恋したっていう、ことだよ」
凛「……」
凛「で、でも……」
ことり「海未ちゃんは、とっても傷ついてる。こんなこと言うのは変だけど、海未ちゃんのこと、支えてあげて欲しいの」
凛「り、凛なんかじゃ……」
ことり「海未ちゃんのこと、好きなんでしょ? それなら、お願いっ……」
ことり「私も協力する、だから二人でがんばろう……?」
凛「でも……」
ことり「……」
凛「……やってみる、にゃ」
◆――lily white ――◆
希「いくぞ凛三等兵!!!」
凛「なんで階級下がってるにゃ!?」
希「あの時何故突撃しなかったのだ!?」
凛「そ、それは……」
凛「こ、怖くて」
希「そんなんじゃダメや!」
希「さあ早く、強くなるために園田大尉に教わってくるんや!」
凛「……」チラッ
海未「……」
海未「え?」
希「はぁ、海未ちゃんがツッコまないなんて成立しないやん」
海未「す、すみません」
希「やっぱり変や……」
凛「……」
海未ちゃん、やっぱり気にしてるんだ……。
ことりちゃんでも元気をつけてあげられなかった、それなのに、凛に出来るの?
海未ちゃんのことを好きっていう気持ちは凛個人のもの。これを押し付けてしまったら、また海未ちゃんを苦しめてしまうかもしれない。
海未ちゃんは、絵里ちゃんのことが好きだったんだって。海未ちゃんと絵里ちゃんと言えばµ’sの中でも女の子に人気のある二人、海未ちゃんが絵里ちゃんのことを好き、と凛の相談相手のことりちゃんから聞いていた。その話を聞いて、凛は諦めかけた。
希ちゃんは、海未ちゃんが絵里ちゃんのこと好きなの、知らないかな。凛のこと応援してくれてるのも、本当に感謝してるんだ、ことりちゃんと希ちゃん。ふわふわしてる二人から全力で応援されてるのにも関わらず、一歩が踏み出せない。
だって、勝てるわけないもん。スタイルも顔も歌もなにもかも絵里ちゃんに勝ってるところなんてない。そんなんじゃ海未ちゃんが振り向いてくれるはずないってわかってる。
希「ほーら、がんばれ」ボソッ
凛「……///」
凛「……海未ちゃん」
凛「元気だしてっ!!!」
海未「……凛」
希「なにかあったん?」
海未「……ええ、でも大丈夫です」
海未「……」
海未「きっと少しくらい失敗してみても、いいと思うんです」
凛「……?」
希「ウチ、ちょっとトイレ行ってくるね」
凛「うん」
希(がんばれ……!)
凛「……」///
凛「ね、ねえ……」
凛「ま、また海未ちゃんの家で剣道とか、したいなーって……」
海未「……?」
海未「ど、どうしたのですか急に」
海未「あんなに嫌がっていたのに」
凛「えへへ……」
凛「海未ちゃん、凛はよくわからないけどなんだか色々あったみたいだし、その……一緒に身体を動かせば少しは忘れられるんじゃないかって」
凛「それに、凛……海未ちゃんと一緒だと安心する、し」//
海未「……」
ことりちゃんならこんなこと絶対しないはず。なら凛は凛のやり方で海未ちゃんを笑わせたいんだ。
海未「ふふ……ええ、わかりました。そこまで言うのなら」
凛「ほんとっ!?」
ほら、ちょっとだけ笑ってくれた。
◆――――◆
――BiBi――
にこ「あんた、なにも聞いてないの?」
絵里「なにが?」
にこ「真姫のことよ」
絵里「いえ特には……」
にこ「そう……」
にこ「絵里のせいじゃないから、変なこと考えないでよね」
絵里「大丈夫よ、ありがとう」
にこ「それにしてもあんたら、付き合ってたのね」
絵里「……気持ち悪い?」
にこ「別に。私は女同士に興味はないけれど、本人達がいいなら何も問題ないでしょ」
にこ「だーかーら、絵里もそんな卑屈な返ししないで」
絵里「ご、ごめんなさい……」
にこ「で、いつからなの?」
絵里「二か月前から……」
にこ「へえ! まったく気がつかなかったわ……」
にこ(あいつは、気がついてたかな)
にこ「穂乃果なんて付き合いだしたらすぐわかりそうだと思ったんだけど」
絵里「結構演技出来る方なのかもね?」
◆――――◆
printemps
穂乃果「ユニット練習、やめた方が良かったんじゃかなー……」
ことり「一人いないもんね……」
花陽「海未ちゃんと絵里ちゃんがそう決めたんだから、きっとこれが一番効率が良いんじゃないかな」
穂乃果「うーん、だよね!」
穂乃果「ごめんね、私のせいで……」
穂乃果「真姫ちゃんから連絡あった?」
ことり「ううん」
花陽「私も……」
穂乃果「そっか……」
ことり「穂乃果ちゃんのせいじゃないよ?」
穂乃果「……」
ことり「付き合ってるってこと言うと色んなことが変わっちゃいそうってのも分かるから」
ことり「だから元気出して? 真姫ちゃんも、きっとすぐ復帰してくれるよ」
花陽「そうだよ、私たちも頑張るから」
穂乃果「うん……ありがとう、二人とも!
◆――――◆
穂乃果「お待たせ」
絵里「帰りましょうか」
穂乃果「終わったー休みだー!!」
絵里「ふふっ、どこかへ行く?」
穂乃果「えーそうだなぁ」
穂乃果「あ……」
絵里「?」
穂乃果「真姫ちゃんの家、行こうかなって……」
絵里「……穂乃果は行かない方がいいと思うわ。……私もね」
穂乃果「……私が行くとなんでダメなの?」
絵里「私と穂乃果が行ったら余計に傷つけるだけよ……わかるでしょう?」
穂乃果「だって……っ」
絵里「こんな時こそみんなに頼りましょう?
穂乃果「うん……」
穂乃果「絵里ちゃんがさ昔、告白される側も辛いっていうの分かった気がする」
穂乃果「私は一回しか告白されてないのに、こんなに……その堪えてるんだからきっと絵里ちゃんはすっごく辛かったんだよね」
絵里「でも、嬉しいでしょ?」
穂乃果「え?」
絵里「家族以外で自分のことを本気で想ってくれるなんてこと、なかなかないわ。感謝もしなきゃね」
穂乃果「そっか……確かに」
穂乃果「ねえ、今日絵里ちゃんのお家行っていい?」
ギュッ
絵里「ええ、私も穂乃果と一緒にいたかったから」
穂乃果「やった♡」
絵里「穂乃果」
穂乃果「?」
絵里「んっ」チュゥ
穂乃果「ひゃ……////」
穂乃果「な……///// き、きききキス……!?!?」
穂乃果「えと、えと……っ」
絵里「ごめんね、こんなところで……その、いきなりしちゃって//」
穂乃果「うぅ……ふぁ、ふぁーすときす……//」
絵里「くす……穂乃果と話してたらキスしたくなっちゃったの」
穂乃果「もぉっ!!」///
絵里「全く可愛いんだから」ナデナデ
穂乃果「な、なんで絵里ちゃんはそんなに慣れてるの?」
絵里「どうしてだと思う?」
穂乃果「い、いろんな人としてきたから?」
絵里「な……//そんなわけないでしょ」
絵里「私も……気絶しそうなくらい、緊張、してるのよ?」
穂乃果「そ、そうなんだ」
絵里「……ええ、さあ帰りましょ」ギュッ
◆―――◆
ことり「真姫ちゃんのこと、なんとかしなくちゃだよね」
ことり「うーん……こういうときはいっつも穂乃果ちゃんがなんとかしてくれるんだけど、今回はそうも行かないし。絵里ちゃんももちろんだめだし……」
ことり「難しいなぁ……」
ことり「海未ちゃん……はきっとショックだろうし凛ちゃんだって海未ちゃんのことで精一杯だよね」
ことり「残ってるメンバーで、頑張ってみようっ!」
ことり「私だってみんなのために何かしたいもん」
◇――――◇
凛「めーん!」
好きになったきっかけって、なんだったっけな。うん、本当に大した理由じゃないんだけど。
こうやって剣道をした後だった気がする! 気軽になんだかやってみたいなーって言っただけなのに、海未ちゃんはこんな広い道場を使わせてくれたんだよ! まあ、やってみたら……厳しいしちょっと凛には向いてないかもー? って思ったりもして……。厳しいけれど同世代の子にこんな厳しくされたことなんてなかったから……ちょっと新鮮で、なんだか海未ちゃん、お姉ちゃんみたいだにゃ! って言ったら顔を赤くしててとっても可愛かったにゃ。
へとへとになって時間を見てみると、あれまだそんなに経ってない。
海未「さあ次は――」
凛「まだやるのー!?」
◆――――◆
凛「はにゃぁ……疲れたー」
海未「お茶とジュース、どちらがいいですか?」
凛「んー、ジュース!」
海未「わかりました」
縁側に座って東京のど真ん中にあるとは思えないほど綺麗なお庭を眺める。うーん、風流だにゃー。
海未「――お待たせしました」
凛「ありがとー海未お姉さま❤︎」
海未「もう、なんですかそれは//」
凛「だって海未ちゃんのことそういう風に呼ぶ人時々いるよね?」
海未「さ、最近はいませんよ……」
凛「そうなんだー。でもさ、そういう人って今の凛みたいに海未ちゃんとふたりっきりになりたいって強く思ってるんだよね?」
海未「それは……わかりません」
凛「じゃあ凛は幸せものだね! 海未ちゃんのこと独り占めしてる❤︎」
海未「全く……どうしたんですか今日はなんだかおかしいです」
凛「そうかなあ?」
凛「凛ねなんだか、海未ちゃんといると安心するんだー。かよちんとはなんだか違う感じ」
海未「私も凛といると楽しいですよ。……そうですね、少し穂乃果に似てる気がしますけれど、凛は……妹のような感じでしょうか」
凛「さすがお姉さま!」
海未「そ、そう繋がるのですね」
凛「ねえ! 凛、海未ちゃんのお部屋みたい!」
海未「何もないですよ?」
凛「それでもいいよ!」
海未「それなら……」
◆――――◆
凛「うわあ!!」
凛「って、本当に何もないね?」
海未「そう言ったではないですか」
凛「でも、海未ちゃんてベッドなんだー!」
ポフッ
凛「んー、海未ちゃんの匂いっ」
海未「そ、そんなのやめてください//」
凛「えへへー」
海未「まったく……」
凛「海未ちゃんが本当にお姉ちゃんだったらいいのに」
本当はお姉ちゃんじゃなくて……。
海未「凛は一人っ子なんですよね」
凛「そうだよ、海未ちゃんもでしょ?」
海未「私は姉がいるんですよ」
凛「そうなの!?」
海未「ええ、とは言え歳もかなり離れていますしもう家を出ていますから」
凛「そうなんだ……見てみたいな」
海未「いつか見ることができるかもしれませんね」
凛「うん」
海未「……」
ナデナデ
凛「にゃ!?」
海未「す、すみません。なんだか……撫でたくなって」
凛「えへへなにそれ?」
海未「凛が動物みたいだからでしょうか」
凛「もおっ!」
凛「でも、気持ちいいにゃ」
横に座られてなでなで。ふたりきりでこんなことされるなんて、とっても嬉しいけど。……動物みたいってことは、凛、なんにも意識されてないんだよね。そりゃ、そうだよね……。絵里ちゃんのこと諦めたばっかりだし、凛なんかじゃ。
海未「凛は……可愛いですね」
凛「へ!?」
海未「実を言うと、ここ最近少し辛いことがありまして」
凛「そう、なんだ」
絵里ちゃんのことだ……。
海未「なんだか凛と一緒にいると癒される気がするんです」
凛「本当?」
海未「ええ、だからもう少し撫でていてもいいですか?」
凛「う、うん!!///」
◆――――◆
部屋の外から甘い声がする。ううん、甘いだけでは物足りない、甘ったるくて優しくて暖かい声。お母さんじゃない、よく知っている声だけれどどうして私の部屋の外から聞こえてくるの?
ああそうか。お母さんが入れたんだ。確か花陽の時もお母さん、私になんにも話を通さずにリビングに入れていた。――ことりもそうしたんだろう。私の友達といえば、正直女の子なら誰でもこの家に進入できてしまうんじゃないだろうか。それはお母さんに注意した方がいいかもしれない。まあ、ことりの場合花陽とは少し違うらしいけれど。
甘い声の持ち主である南ことりは、小さい頃私と遊んでいたらしい。向こうも私も覚えていないけれど、お母さん同士が友達で、家に遊びに来たことがあったという。てことは、一応幼なじみ、なのかしら?
ことりはさきほど真姫ちゃん真姫ちゃんと小鳥のように呼びかけ続けている。お菓子持ってきたよとか、またみんなで踊ろうよって。
一人で来たらしい。ことりにしては珍しいような気がするけれど、穂乃果に頼まれたっていうのが正解なんじゃないかしら。どっちでもいいけど、もう……どうでもいい。
こつんこつん。ドアが叩かれる。もう20分が経過しているのにことりは帰る気配がない。それ以上に、なんだか話を始めている。私がいない間になにがあったのか、みんな帰りを待ってるよって。
ことりは優しい。私が欲しい言葉を言い続けてくれる。少しだけ暖かい気持ちになったような気がする。でも――涙で染みになった枕を掴んで、投げる。
扉にドンと当たって、外からことりの小さい悲鳴が聞こえた気がした。
ことりは優しい。
でも……今の私が欲しい言葉は、穂乃果しか言えないの。
子供みたい、でも……欲しいものは、欲しいの。
ことり「……ごめんね、邪魔だったよね」
ことり「でも本当にね、ことりは待ってるからね」
ことり「……ケーキ、作ってきたんだ」
ことり「私が作ったのおいしくないと、困るから……ちゃんとしたケーキ屋さんのも、入ってるからね」
ことり「置いておくね?」
足音が少しずつ遠ざかっていった。音が完全になくなって、また一人の世界に戻る。
やっぱり、落ち着く。
そういえば扉の前に……。
扉を開けると、足元に可愛らしい布の袋が置いてあった。手にとって開けてみるとアルミホイルに包まれている。
……チーズケーキ。ことりらしい、好きって話何回聞かされたかわからないくらいだったのを思い出す。
…………。
? 紙が入ってる。
これまたことりらしい何かのキャラクターが描かれているピンク色のメモ用紙には、一言が描かれていた。
――この袋、いつか返してねっ!
……そういう、ことね。
ことりは私の家にこれを置いて、直接返させるために……。そうまで私のこと。
……私、何をしていたんだろう。ことりだけじゃない、みんな、私のこと心配してくれてた。携帯電話の通知は止まらないし、迷惑だって思っていたのに。
穂乃果にフラれただけじゃない、初恋なんて実る方がすごいだけ。そう考えたらすぅっと心が軽くなったような気がした。
電源を切っていた携帯電話を起動させるとロック画面に表示しきれないほどの不在通知記録があった。
みんな、ごめん。
締め切っていたカーテンを開くと、夏の熱い日差しが差し込んだ。
◆――――◆
凛「ま、ままままま」
凛「真姫ちゃん!?」
ことり「来てくれたんだねっ!!」ギュッ
真姫「ち、ちょっと!」
ことり「本当に嬉しいよ! 大丈夫? 痛いとことかない?」
真姫「だ、大丈夫よ」
にこ「心配かけさせるんじゃないわよ」
真姫「ごめん……」
にこ「なんかそんな普通に謝られると」
真姫「悪い?」
にこ「別に! 可愛くないんだから」
真姫「知ってる」
希「まあまあ、ちょっと痩せた?」
真姫「そう?」
希「久しぶりだからそう見えただけかな?」
真姫「ことり、本当にありがとう」
真姫「みんなも」
海未「何かしたんですか?」
ことり「う、うん」
海未「一体何を?」
ことり「えっとね、真姫ちゃんの家に行ってねことりが部屋の扉の前から一方的に喋って、ケーキ置いてきたんだ」
凛「真姫ちゃんち行ったんだ!?」
ことり「うん」
にこ「すごい行動力ね……」
ことり「力になりたいなって……」
花陽「真姫ちゃんちのお母さん、初対面でも家に入れてくれるもんね」
真姫「そうなのよね……私の了承なんかとらないの」
ことり「確かにそうだったかも」
真姫「――ことり、はいこれ」
ことり「あ! 確かに、返却受け付けました♪」
真姫「その……美味しかったわ……ありがとう」///
ことり「うんっ!!」
凛「あー、凛も食べたーいっ」
ことり「今度作ってきてあげるね❤︎」
凛「やった!」
真姫「……ねえ」
ことり「?」
真姫「――あの二人は?」
ことり「……」
希「……そういえば遅いねえ」
真姫「私、謝らなきゃ。きっと、余計な心配させてる、あの二人は何も悪くないのに」
にこ「そうね、心配してたわね。でも二人も喜ぶに決まってる」
真姫「そうだといいんだけど」
プルルルルルルルッ
海未「?」
ことり「電話だー海未ちゃん?」
海未「そうみたいです、絵里……から」
凛「絵里ちゃん?」
海未「……はい」
海未「もしもし、海未です」
絵里『う、うみ!! あ、ああああのっ!!』
海未「?」
絵里『いやっ、いや穂乃果っ!!!』
海未「どうしたんですか!?』
ことり「?」
絵里『あ、ああ……ごめんね。えっと! えっと!』
海未「落ち着いてください、何かあったんですか?」
絵里『穂乃果がっ、穂乃果が!!』
にこ「どうしたの?」
海未(ただ事ではなさそうです)
海未「落ち着きなさい絵里!!」
絵里『っ………』
絵里『……穂乃果が――車に轢かれたの』
海未「え……?」
海未「ぶ、無事なんですか!?」
絵里「命は無事だけど、意識がっ……」
海未「っっ……」
海未「どこの病院ですか!? 向かいます!!」
絵里『ま、真姫の病院よ!!』
海未「わかりました!!」
ことり「……なに、どうしたの?」
海未「……」
凛「う、うみちゃん?」
海未「――穂乃果が交通事故に、遭いました」
◆――――◆
数時間後
海未「手術まではいかないらしいのですが……意識が戻らない、と」
真姫「頭を強く打ったらしいの。あと腕を骨折してる、幸い骨折箇所は大したことないし安静にしてれば日常生活に支障は出ないそうよ」
海未「よかった……」
真姫「……」
海未「……なんで、こんなことに」
真姫「………」
海未「ひっぐ……ぅぅ」
真姫「海未ももう帰った方がいいわ、今日は疲れたでしょう?」
海未「私は」
ことり「――海未ちゃん、帰ろう?」
海未「ことり……」
ことり「ダメ、海未ちゃんが無理してもいいことないよ。気持ちは、わかるけど」
海未「……」
真姫「そうよ、あとは私に任せて」
ことり「あの、絵里ちゃんまだ病室に……」
真姫「……私が話をするわ」
ことり「うん……」
ことり「海未ちゃん、歩ける?」
海未「はい……」
海未「真姫、よろしくお願いします」
真姫「私が何かするわけじゃないけれど、何か分かったら知らせるわ」
真姫「おやすみなさい」ヒラヒラ
真姫「……絵里は穂乃果の病室ね」
真姫「入るわよ」
ガララ
絵里「ひっぐ……ほの、かあ」
真姫「……絵里」
絵里「……私の、せいよ」
絵里「穂乃果が道路ではしゃいでるの見てたもの」
絵里「すぐ注意すればこんなことにはならなかった!!! 私がしばらく見てたせいで!!」
真姫「絵里のせいじゃないわ」
真姫「……そろそろ絵里も帰りなさい、そうやってずっと泣いてたら絵里までおかしくなっちゃうわ」
絵里「私なんてどうでもいいっ」
真姫「あなたが良くても、みんながいいって思わない」
真姫「穂乃果が目を覚ました時、あなたがおかしくなってたらどうするの」
絵里「……」
真姫「ね」
絵里「そう、よね。うん、死んだわけじゃないんだものね」
真姫「ええ、明日もっと精密な検査が行われるけれど、おそらく命に関わるようなことはないはずよ」
真姫「穂乃果を信じましょう」
絵里「うん……」
絵里「じゃあ私は帰るわね、真姫は?」
真姫「パパのところに行って、情報貰えるように頼んでみるわ」
真姫「パパ、私に甘いから。友達って言えば、失礼なことだけれどなんでも教えてくれる」
絵里「そう、お願いね?」
真姫「任せて」
絵里「じゃあ、おやすみなさい。穂乃果も早く、目を覚ましてね」
バタン
真姫「……」
真姫「穂乃果」
誰もいなくなった病室で、穂乃果は何を思うのだろう。寂しいって思うのかな。穂乃果はとっても明るい人だから、一人でいるのをなんだか想像出来ない。
痛かったわよね。苦しかったわよね。今も、苦しいのかしら。
頬に手を当てると、ほんのりと暖かい。機械はもちろん鼓動を示しているけれど、こんなに静かだとまるで死んでしまっている、みたい。でも、暖かい。穂乃果が確かに生きているという証明だ。
真姫「よかった……うぅ、生きてて……よかった……っ」
ごめんね穂乃果、涙が止まらないの。みんなの前でずっと我慢してたから。
ギュッ
真姫「穂乃果……っ」
◆――――◆
次の日
真姫「ええ、特に問題はないみたいよ」
絵里「よかった……」
絵里「なら、目が覚めて怪我を直したら……完治ってこと?」
真姫「おそらくね」
海未「よかったです……」
凛「よかったね!!!」
花陽「うんっ!!」
にこ「まさか身内にこんなことが本当に起こるなんてね……」
希「怖いよね……」
にこ「ええ」
真姫「みんなも遅くまで病院に居て疲れたんじゃない?」
絵里「そうね……でも穂乃果のことだから」
ことり「絵里ちゃんは一番心配だよね……」
絵里「みんな同じ気持ちよ」
ことり「そっか、そうだよね」
海未「惜しいですが、穂乃果が帰ってきた時に安心出来る場所を作ってあげましょう」
海未「ということで、明日から通常通り練習をします」
海未「練習が終わったら、お見舞いに来ましょう」
ことり「うんっ!」
絵里「じゃあ帰りましょうか」
真姫「あ、ごめんなさい。私はちょっとすることがあって」
絵里「そう? じゃあまた明日」
真姫「ええ」
バタン
真姫「……」
真姫「……今日も目を覚まさず、か」
真姫「穂乃果……あなたは目を覚ました時――私を覚えていてくれるのかしら」
真姫「……忘れてたら、許さないんだから」
みんなには、言えなかった。目を覚ました時、私たちのことを忘れている可能性があるってことを。――多少の記憶障害が、残るかもしれないってことを。
◆――――◆
その日は、雨が降っていた。
穂乃果のいない朝の練習に行くだけでも憂鬱だと言うのに、この雨なんだもの。まあ、そんなことで休むわけにもいかないから支度をして玄関で靴を履き替えた時だった。
お母さんが何かを叫んだ。その声は次第に私の方に近づいてくるのが分かった。
家の中を走ってきたお母さんは、酷く慌てていた。私、忘れ物でもしたかしら。荷物を確認しようか迷った時――穂乃果が目を覚ましたとの知らせが入ってきていた。
◆――――◆
真姫「穂乃果!!!」
病室内は走ってはいけません、何度か言われたことがあるけれど今は気にしていられない。
病室のドアを勢いよく開けると、穂乃果のお母さんとお父さん、妹の雪穂ちゃん、だったかしら、が穂乃果のベッドを囲んでいた。
そしてその中心には、身体を起こして笑っている穂乃果がいた。
真姫「穂乃果……」
穂乃果の家族の方々は、私の姿を見ると友達が来てくれたわよ、と語りかけた。家族の方々は、一時間前から穂乃果と話をしていたらしい。そしてこの後医師から説明を受けるらしく、私によろしくねと言って部屋を出ていった。
再び穂乃果と二人だけになる。
真姫「穂乃果……よかった」
距離を詰めていく、この世で一番好きな人、私が変わるきっかけを作ってくれた人、感謝をしても、しきれない人。ずっと練習をしてきて、二人で歌ったりご飯たべたり。
――なのに、なんで……どうして、そんな……他人が来たみたいな表情をするの?
かしこまって、背筋を伸ばして……あのって……他人行儀。
嫌な予感が頭をよぎる。記憶障害……でも家族の人たちは普通そうにしていた。どういう、こと?
穂乃果「えっ、と……真姫、ちゃん?」
真姫「わ、私のことがわかるの!?」
穂乃果「う、うん……」
真姫「ほんとに!?」
穂乃果「わかるってば」
真姫「よかった……」
穂乃果「――だってあのとき曲を作ってくれたの、真姫ちゃんだよね?」
真姫「え?」
穂乃果「ほら、ことりちゃんと海未ちゃんでやった三人のライブ」
真姫「そう、だけどなんで今更そんなこと?」
穂乃果「今更……?」
真姫「今更でしょ、もう私たち他にも曲をたくさん作ったし踊ってきたじゃない」
穂乃果「え………?」
嫌な予感は、当たったらしい。
真姫「……うそ、でしょ?」
真姫「穂乃果、あなたどこまで覚えてるの!?」
穂乃果「え? えっと」
◆――――◆
穂乃果「私……そんな大切なことを忘れてるの……?」
真姫「µ’sに関する記憶がある時から抜けちゃってるみたいね」
真姫(花陽が入ったこともわからないってことは……穂乃果の中のµ’sは春の時点で止まってる)
真姫(時間が、すっぽり抜けちゃってる、みたい)
真姫「他のことは覚えているのよね?」
穂乃果「うーん、でもなんか……全体的にモヤモヤして、思い出せない」
真姫「印象が強い最近の出来事の方が忘れやすいし、思い出しやすいの」
真姫「穂乃果にとって、µ’sのことは印象に強く残っていたっていうことね」
真姫「自分がだれかもわからないみたいな重度の記憶障害でもないみたいだし、しばらくすれば治る可能性は十分にあるわ」
穂乃果「ほえー」
真姫「他人事みたいね?」
穂乃果「そんなことないよ」
穂乃果「でも、"穂乃果"は、ちゃんとやれたんだって」
真姫「え?」
穂乃果「だって私ね、スクールアイドル始めたの本当に思い付きなんだよ? でも真姫ちゃんのお話聞く限りだと結構うまくやれてる、んだよね?」
穂乃果「それに、真姫ちゃんとも仲良くなれてるみたいだし!!」
真姫「……///」
穂乃果「"穂乃果"に感謝しなくちゃ」
穂乃果「ね、真姫ちゃんもっと色んなお話聞かせて?」
この穂乃果は私の知っている"穂乃果"とは違う。性格はもちろん同じなんだけれど、この四ヶ月くらいがごっそり抜けてるってことは、"穂乃果"と過ごしてきた私にとって別人と同じ。それはまだ……何者にも染まっていない、真っ白な証。
私が好きになった人とは、もしかしたら違うのかも、しれない。
穂乃果「? ふふっ、どうしたの?」
……それでも私はこの人のことが、欲しい。
――絵里にも、染まってない。
真姫「ええ、いいわよ」
――私の中の悪魔が、囁いた。
◆――――◆
絵里「穂乃果!!」
穂乃果「あ……」
絵里「よかった……穂乃果っ!!」
穂乃果「――え、っと……絢瀬、絵里さん」
絵里「え?」
海未「穂乃果、どうしたのですか」
真姫「……」
穂乃果「みんな、µ’sのメンバー?」
真姫「ええ、そうよ」
穂乃果「……すごいや、こんなに集めたんだ"穂乃果"」
絵里「ほ、穂乃果、さっきから何を言っているの?」
穂乃果「ごめんなさい……私ね……みんなのこと、覚えて、ないんだ」
絵里「え……?」
真姫「正確には、三人でやったファーストライブの後のことは覚えてないの」
真姫「この四ヶ月が抜けちゃってる感じね……」
絵里「どういうこと!?」
真姫「……記憶障害が、残っちゃってるみたいなの」
凛「そんな……穂乃果ちゃん、凛とラーメン行ったことも覚えてないの?」
穂乃果「う、ん」
凛「……」
ことり「私と海未ちゃんと真姫ちゃんのことは、覚えてるんだよね?」
穂乃果「うん、それははっきり覚えてる。観客が全然こなかったことも。でもその先が……あんまり」
絵里「……っっ」
希「えりち……」
にこ「……」
真姫「穂乃果にとっては……私も含めことりと海未以外は初対面みたいなものよ。……それだけは覚えておいて」
◆――――◆
希「はい、ジュース」
絵里「……っ」
希「……辛い、よね」
希「言わないん? 自分と恋人なんだってこと」
絵里「言えるわけないじゃない……。穂乃果は私のこと、ほとんど覚えてないんだもの」
絵里「ツンケンしていた頃の私しか知らないってことだから、印象は最悪でしょうね」
希「……」
絵里「……穂乃果からµ’sに誘ってもらったことも、全部なくなる、のかな……」
絵里「うぅ」
希「えりち……」
希「大丈夫やって、絶対思い出してくれるよ」
希「恋人だった時とか、色々写真も撮ったんでしょ?」
絵里「自分の携帯の写真を見て思い出してくれたら、嬉しい」
絵里「私はほとんど写真とかとらないから……撮っておけばよかったわ」
希「そうやね……」
絵里「しばらく様子を見て、思い出せなかったら……私から言うわ。みんなにも言っておいてくれる?」
希「うん」
絵里「……穂乃果のところ、戻りましょうか」
◆――――◆
穂乃果「ほぇぇ……本当に九人で踊ってるー」
穂乃果「"穂乃果"踊るのうまくなってないー!?」
ことり「たくさん練習してたもん」
穂乃果「えへへ、そうなんだー」
穂乃果「私も出来るかなあ?」
海未「身体に染み込んでいるはずですから、少し練習すれば自然に踊れるんじゃないですか?」
穂乃果「そうかなそうかな!?」
真姫「……全然変わってないように見えるけど、私たちとの思い出が無くなってるって、辛いわね」
にこ「ええ……"穂乃果"と本当に仲良くなれたのって色んなトラブルを乗り越えてきたからってのもあると思うし」
にこ「……それが無くなるってなると……」
真姫「……」
にこ「絵里が心配ね、どうしてた?」
真姫「希と話してたわ」
にこ「そう……恋人だったことまで、忘れちゃうんだものね」
真姫「そうね……非情よね」
にこ「……」
◆――――◆
退院は一週間もすれば出来るらしい。検査の限り、今のところ脳に記憶以外の異常はない。外傷は打撲と腕の骨折だけだしギプスを巻けば自然治癒するからだった。ちょっと日常生活に支障は出るけどしばらくすれば問題なく復帰出来るだろうとのことだった。
記憶障害については、通院によってリハビリ形式になるらしい。私たちと会話することもリハビリになるから、どんどん会話をして欲しいと家族の人たちから言われたことだ。
ふと時計を見ると、もうすぐで面会時間が終わってしまう。先ほど帰った絵里は、酷い顔をしていた。……気持ちはとても、わかるけど。絵里は自分から恋人だったということを言うつもりはないらしい、思い出してくれることに。"穂乃果"に賭けたらしい。
絵里がそうするというのならば、私は……穂乃果に賭けてみよう。
真姫「穂乃果」
穂乃果「あ、真姫ちゃんっ」
あなたは絵里とどんなことをしてきたのかしら。あなたは絵里にどんな風に染められてしまったのかしら。でも"穂乃果"は今、眠っている。
穂乃果「さっきまでね絵里さ……ちゃんとふたりでお話してたんだー」
穂乃果「あんなに怖かったのに、あんなに優しい人なんだね?」
真姫「そうね、絵里は優しいわ」
こんな私より、ずっと優しくてずっと大人で、ずっと出来た人間。穂乃果にふさわしい、だろう。
真姫「どんな話をしていたの?」
穂乃果「µ’sの話かな! 私、やっぱりみんなのことあんまり知らないから聞いてたんだ!」
真姫「じゃあ少しだけ私とも話をしない?」
穂乃果「うんいいよ!」
穂乃果「あっ、とその前に……トイレ行きたい」
穂乃果「んっしょ……」
穂乃果がトイレに行って見えなくなると、私は枕元にあった穂乃果の携帯電話を掴んだ。
――この携帯電話には、絵里との想い出があるはず。それを消さなきゃ、また"穂乃果"が起きてしまう。絵里に穂乃果を盗られて、しまう。
巡ってきたチャンスを無駄にするわけには行かない。
穂乃果の携帯はパスワードがかけられていなかったため、まずはµ’sのメンバーのLINEのトーク履歴をすぐに消した。これはもう見ている可能性もあるけれど、効果はあるはずだ。次に大本命の、写真フォルダを見てみる。
真姫「……っ」
そこには"穂乃果"と絵里の写真がたくさんあった。どれも穂乃果は他の人に見せない笑顔で笑っていて……悔しくなった。私に向けてくれない、絵里ばかりにこんな笑顔を向けていたなんて。
私はこんなにも穂乃果のことを好きなのに。
一括で選択して――削除。
真姫「……さようなら」
ここで穂乃果がトイレから出てくる音がしたので、携帯を元に戻す。目を覚ましてからしばらく経っているけれど、写真はどれくらい目を通していたんだろう。
穂乃果「いやー不便だねー」
真姫「そうね、何かあったらいいなさいよ」
穂乃果「うん」ゴロン
真姫「――穂乃果、写真を見れば何か思い出せるんじゃない?」
穂乃果「あ、写真か! そうだね! 何か撮ってるかな!?」
どうやら、まだ手をつけていなかったらしい。他のだれも言わなかったのかしら、とにかく運が良い。
穂乃果「あ、ことりちゃんの寝顔だ」
真姫「合宿の時のね」
穂乃果「合宿、どんななんだろー!」
穂乃果「あ、これ!?」
真姫「そこに泊まったのよ」
穂乃果「すごーい!」
写真を見ながらいちいち大きな反応を見せてくれる。二人きりでこんな時間が過ごせるだなんて……幸せ。
真姫「何か思いだした?」
穂乃果「……ううん」
真姫「そう……」
真姫「ねえ、大事な話をしていい?」
穂乃果「大事な話?」
真姫「ええ、とっても大事な話よ」
穂乃果「ごくっ」
真姫「……みんなには内緒よ――穂乃果と私ね、恋人だったのよ」
穂乃果「え……?」
真姫「……そうよね」
穂乃果「ち、ちょっと待ってよっ!」
穂乃果「説明を――」
ギュッ
穂乃果「!?」
真姫「ごめんなさいお願いだから……少しの間、こうさせて……?」
穂乃果「……真姫、ちゃん?」
◆――――◆
海未「絵里、大丈夫ですか?」
絵里「ええ、穂乃果が目を覚ましてくれたんだもの。少しは元気が出た気がする」
希「あとは、恋人ってこと思い出してくれるといいね」
絵里「ええ、そうね」
海未「っ…………」
海未「……」
海未「そう、ですね……」
海未「ことり、ちょっといいですか……」
ことり「?」
海未「私は……最低です」
ことり「ど、どうしたの……!?」
海未「私はいま、最低なことを考えてしまいましたっ……」
ことり「えっと……何を考えたの?」
海未「――穂乃果が、思い出さなければ……いいのにって」
ことり「!?」
海未「そんなこと、そんなこと本当は思っていませんっ! 思いたくもないはずなのにっ……」
ことり「また……絵里ちゃんと穂乃果ちゃんが、付き合っちゃうから、だよね?」
海未「……っ」
ことり(海未ちゃんが一瞬でもそんなこと考えちゃうなんて……そんなに絵里ちゃんのことが好きなんだ……)
ことり「辛いよね……でも、絵里ちゃんも苦しんでる。好きな人が辛そうにしてるところなんて、見たくないでしょ?」
海未「はい……」
ことり「辛くなったら海未ちゃんの周り、見てみて? 支えてくれる人はことりを含めて、たくさんいるから」
海未「ありがとう……ございます」
海未「絵里のことは……今度こそきっぱりと、諦めようと思います」
ことり「そっか……わかった」
凛「海未ちゃーん?」
海未「?」
凛「あ、いたいたこんなところに」
ことり「じゃあことりはこれで♪」
凛「ぁ……」
海未「……どうしたのですか凛」
凛「え、あ……特に理由はないんだけど」
海未「?」
凛「海未ちゃんと話したかった……のかにゃ……////」
海未「私と、ですか? 私は他の人のように面白い話があるわけでもないですし」
凛「そんなことないよ! だって凛、海未ちゃんとお話するの楽しいもんっ」
海未「そ、そうですか」
凛「あと、穂乃果ちゃんがあんなになっちゃって海未ちゃんも辛そうだったから」
海未「私のことをよく見てくれてるんですね」
凛「そ、そうかな//」
海未「そうですよ。では、練習始めましょうか」
◇――――◇
絵里「穂乃果、元気にしてた?」
穂乃果「あ……絢瀬さ……――え、絵里ちゃん!」
絵里「……」
希「流石にまだ慣れないかなー?」
穂乃果「ぅ、大丈夫!」
絵里「仕方ないわよ、穂乃果にとったらただの無愛想な先輩だもの」
穂乃果「そんなことないよ!」
穂乃果「確かにそう思ってたけど」
絵里(思ってたのね……)
穂乃果「昨日話してみたら、別人みたいに印象違うんだもん」
穂乃果「私ね絵里ちゃんのこと、優しいから好きだよ!」
絵里「……/////」
真姫「――はいるわよ」
穂乃果「!?」
真姫「あら、元気そうね穂乃果」
穂乃果「あ、ま……真姫ちゃん///」
絵里「……?」
穂乃果(こいびと……こい、びと)
穂乃果("穂乃果"って女の子のこと好きだったのかな……。私もそうなのかな……もうま、真姫ちゃんとちゅーとか……しちゃってる、のかな///)
真姫「ふふ……」
凛「今日も会いにきたよー!」
穂乃果「凛ちゃん! あ、ことりちゃん達も!」
ことり「穂乃果ちゃん体調悪い? お顔が赤い気がする」
穂乃果「ん、そうかな? 全然大丈夫。みんなが来てくれたから興奮しちゃったのかも!」
海未「安静にしていないとだめですよ」
穂乃果「わかってるよー」
◇――――◇
希「穂乃果ちゃんに誘われる前のえりち、わんわん泣いちゃって」
絵里「そんな風に言わないでっ」
穂乃果「へぇ!」
絵里「……あなたのおかげで私は救われたの、ありがとうね」
穂乃果「……そんな」
絵里「ふふっ、じゃあ私たちもそろそろ帰ろうかしら」
穂乃果「もう夜だもんね」
絵里「じゃあ、また来るわね」
希「またねー」
穂乃果「うんっ」
◇――――◇
真姫「……入るわよ」
穂乃果「ん、どうぞ」
真姫「眠くない?」
穂乃果「大丈夫」
穂乃果の様子が大丈夫そうだということで、昨日よりもみんなはすぐに解散することになった。絵里もしばらくいたけれど、あまり長居すると穂乃果のストレスになる可能性もあるってことで少し前に帰宅している。
私も前にみんなと帰るふりをして、今は穂乃果の病室に来ていた。
真姫「……」
穂乃果「ねえ真姫ちゃん、"穂乃果"と私、何か違うところあるかな?」
真姫「違うところ?」
穂乃果「みんなに迷惑かけてるんじゃないかなって……」
真姫「……そうね、強いて言うなら今みたいなことじゃない?」
穂乃果「え?」
真姫「穂乃果が周りの目を気にして怯える必要なんてないわ。あなたはあなたなの、他に穂乃果なんていないんだから」
穂乃果「真姫ちゃん……」
真姫「どうしてそんなこと、私に話してくれたの?」
穂乃果「だ、だって……私達恋人だったんでしょ? 真姫ちゃんなら、"穂乃果"の扱い、慣れてるかなって」
真姫「なるほどね」
真姫「不安なことがあったらいつでも言って」
穂乃果「うん」
ギュッ
穂乃果「ふぁ……///」
真姫「こうされて、嫌じゃない?」
穂乃果「う、うん……嫌じゃない」
穂乃果(なんだか懐かしい……昔もこうされてたのかな)
穂乃果「……////」
真姫「そう、じゃあしばらくこうさせて?」
穂乃果「うん」
真姫「好きよ、穂乃果」ササヤキ
穂乃果「//////」
穂乃果「ま、まきちゃ……//」
真姫「穂乃果が覚えてなくても、私は好き。今の穂乃果も、昔の穂乃果も好き。これだけは言いたかったの」
穂乃果「わ、わたし……そういうの、わかんない、よ……」
真姫「うん、こんなこと言うの間違ってるのかもね。でも……いつか返事をきかせて? ダメならダメでいい、"その時の穂乃果の気持ちを聞かせてほしいの"」
穂乃果「私の、気持ち……」
真姫「そうよ」
穂乃果「私は恋愛とか、よくわからないけど……真姫ちゃんにこうされてるの、全然嫌じゃない、よ」
ごめんね、絵里。ごめんね、"穂乃果"。
この人のこと……渡したく、ないの。
こんな子供な私で、ごめん、なさい。
真姫「……」スッ
コンコン
絵里「絵里よ、いい?」
真姫「!?」
穂乃果「あ、どうぞ」
絵里「ごめんねこんな時間に……って、真姫?」
真姫「パパに用事があったついでに来たの、別になにもないわ」
絵里「……」
真姫「じゃあ私は帰るわ、またね」
穂乃果「おやすみ!」
穂乃果「絵里ちゃんどうしたの?」
絵里「携帯の充電器忘れちゃって……」
穂乃果「あ、これ? 病院で携帯はだめだよ!」
絵里「ぅ……ほ、穂乃果もね」
穂乃果「はい……」
絵里「一応LINE、したんだけど……」
穂乃果「あ、気づかなかった……」
絵里(……ん、待って。トーク履歴見れば、思い出すんじゃない? ほ、穂乃果のLINE……結構、その……大胆というか正直というか……だし///)
穂乃果「ん、ほんとだ」
絵里(……? あれ、なんでこんなに無反応なのかしら)
絵里「あの、穂乃果……私とのLINE履歴とか見てれば……何か思い出すんじゃない?///」
穂乃果「ん……私もそう思ったんだけど、"穂乃果"直前に消しちゃってたみたいで……みんなとのやつ、なんにも残ってなくて」
絵里「え……?」
穂乃果「はー、なにしてるんだろうねー」
絵里「それは、災難ね」
絵里(はぁ……)
絵里「そろそろ面会時間も終わりね、じゃあ穂乃果また明日」
◇――――◇
一週間後
あれから今日まで、面会時間終了直前の私と穂乃果の時間は続いていた。私が顔をだせばぱあっと輝く笑顔で迎えてくれる。まるで新婚さんにでもなった気分にさせてくれた。穂乃果と話すのは楽しいし、向こうからハグをしてくれる機会も増えた。死んでしまうほど好きだった穂乃果からの行為は、私の心を満たしてくれるのには十分すぎた。
でも絵里もやっぱり穂乃果と二人きりで話がしたいみたいで、遅くまで残っていることも多々あった。……そういう時は、私は我慢するしかない。
穂乃果は穂乃果だ。例え少しの期間記憶が無くなっていてもそれは変わらない。
私は言った。その時の穂乃果の気持ちを聞かせてほしいって。絵里が油断しているのが悪いんだ、私は正々堂々……穂乃果の方からから好きになってもらう。絶対に。
絵里より幸せにしてあげる自信だってある。私は……穂乃果のために。
穂乃果「うーん! やっぱり難しいー!!」
海未「だ、だめですよ! 腕を骨折してるんですから!!」
穂乃果「ご、ごめんなしゃぃ……」
海未「まったく、穂乃果は穂乃果ですね」
絵里「じゃあしばらく私たちの練習を見ていてもらう? 見てるだけだと暇だと思うから帰ってもいいけど……」
穂乃果「見てる見てる! 掛け声くらいならできるもん!」
絵里「そう、じゃあお願いできるかしら」
穂乃果「うんっ」
真姫「穂乃果、無理しないでね」
穂乃果「う、うん……////」
◇――――◇
凛「いやー穂乃果ちゃんが帰ってきてくれて良かったね!」
真姫「そうね」
花陽「なんだか真姫ちゃん、穂乃果ちゃんと前より仲良くなってない?」
真姫「そう?」
真姫「記憶無くした方が、フィーリングがあったんじゃないかしら」
凛「そんなことあるのかにゃ」
花陽「あれ、海未ちゃんだ。なにしてるのかな?」
凛「……//」
真姫「ほら、行かなくていいの?」
凛「へ!? な、ななななにが!?」
真姫(いくら鈍感な私でもわかるわよ)
凛「……」
タッタッタッ
花陽「いつから気がついてたの?」
真姫「つい最近」
真姫「花陽はもっと前から?」
花陽「そうだね、結構前からかも」
真姫「流石ね」
花陽「あはは、凛ちゃん隠すの下手だもん。海未ちゃんは気がついてないのかな」
真姫「どうなのかしらね」
◇――――◇
凛「うーみちゃん、なにしてるの?」
海未「あ、凛。いえ、穂乃果を待っていたんですよ」
凛「それならことりちゃんが連れてくるはずだよ」
海未「そうなんですか、ではそれまで待っていましょう」
凛「えへへ、良かったね。穂乃果ちゃんが戻ってきて!」
海未「はい、穂乃果は穂乃果ですね」
凛「うふふっ」
凛「そうそう海未ちゃん、今度一緒に……ラーメン食べに行かない?」
海未「ラーメン、ですか? 久しぶりにいいですね」
凛「ほんと! やった!」
凛「あの……二人でだけど、大丈夫?」//
海未「はい」
凛「///」
海未「私はいつでもいいですよ、凛の好きな時で大丈夫です」
凛「じ、じゃあ明後日がいい!」
海未「明後日……はい、大丈夫ですよ」
凛(ふたりきりふたりきりふたりきりふたりきりふたりきりふたりきり)
凛「あのさ、海未ちゃん……ラーメンだけじゃなくて……その日一日……海未ちゃんと遊びたい……にゃ///」
海未「そうですね……構いませんよ? では帰ったら連絡しますね」
凛「う、うんっ!!」
凛(やったやったやった!!!!)
凛(で、でも……凛の気持ちを押し付けるんじゃなくて……海未ちゃんのお話を聞いてあげよう。海未ちゃん、時々絵里ちゃんのこと見て辛そうにしてるし)
ことり「ふふふー」
海未「ことり?」
穂乃果「お待たせー」
穂乃果「なにしてたの?」
凛「ん、えっとね」
ことり「――がんばったね、凛ちゃん」ボソッ
凛「!?!?」
凛「きいてたの!?」
ことり「こっそりね♡」
凛(だから来るのちょっと遅かったんだにゃ! 穂乃果ちゃんはよくわかってないみたいだけど)
凛「じゃあり、凛は帰るね! またね!」
海未「さようなら」
穂乃果「ばいばーい!」
◇――――◇
希の家
希「にこっちまだー?」
にこ「今作ってるでしょ」
希「おなかへったー!」
にこ「あーもうちょっと待ってて」
希「んー」
希「ふふっ」
にこ「なによ」
希「いやーにこっちは優しいなーって」
にこ「にこにーは常に優しいのよ♡」
希「……えりちにフラれてから、なんかにこっちと話すこと、増えたね」
にこ「……そう?」
希「ウチがちょっとえりちのこと、避けただけかもしれないけど」
にこ「……」
にこ「はい、出来た」
希「わ、お肉♡」
にこ「好きでしょ?」
希「うんっ♡」
希「いただきまーす! わ、美味しいね!」
にこ「当たり前でしょ」
希「……あったかい、ね」
にこ「……絵里のこと、いつから好きだったの?」
希「っ……」
希「あはは……気がついてるか。にこっち鈍感なのに」
にこ「失礼ね」
にこ「今日だって、あんたが絵里のこと見てどんよりしてるから来てあげたんでしょ」
希「あはは……そんな風に見えたかなあ」
にこ「見えたわよ」
希「それは失礼いたしました」
希「……だって穂乃果ちゃんが記憶取り戻したらまたえりちのこと好きになるでしょ? それか、例え穂乃果ちゃんがあのままでも……えりちは自分から行くと思うから」
にこ「それでいいの?」
にこ「諦めるの?」
希「……しつこいのって、嫌われちゃうやん? えりちとは友達でいたいから」
にこ「そう……希が決めたなら、それがただしいんだと思う」
希「うん……ありがとう」
◇――――◇
絵里「はあぁ……穂乃果ったら、どうして思い出してくれないのよ……」
絵里「まだ付き合って二カ月だからプレゼントもしたことないし、私から写真を撮ったこともないし……穂乃果が思い出してくれないとなにもできない」
絵里「穂乃果、あんなに写真撮ってたんだから勘付いてもいいのに。もしかしてすぐ消すタイプだったのかしら?」
絵里「いえ、思い出は残したいって言ってたし」
絵里「はあぁ……ちょっとはアプローチというか……色々しないとダメね」
◇――――◇
真姫「……」
早い方がいい。呑気にしていたら"穂乃果"が起きて……絵里のもとへ行ってしまう。今のところ穂乃果の心は私に少しずつ向いてきているとは思うけれど、決定打にしては弱すぎる。
そんなもの、"穂乃果"が起きてしまった瞬間無くなってしまうだろう。だとしたら、私はとにかく早く強く、押すこと。穂乃果の気持ちを惹きつけること、それも短期間で。
悠長に構えてなんか、いられない。
自分勝手な想いで、ここまで非情になれるだなんて、思っていなかった。でも、今はそれすら……味方してくれている。冷静になれている。
プルルル
真姫「……あ、穂乃果? いえ、ちょっと用事があって」
◇――――◇
凛「海未ちゃんお風呂入ったの?」
海未『はい。ちょうどあがったところです』
凛「海未ちゃんの髪の毛長いから大変そうだよね? 乾かすのとか、ケアとか」
海未『それは、そうですね。お風呂に入った時は気をつけています』
凛「すごいなぁ……トリートメントしてタオルで蒸したりするんでしょ?」
海未『よくわかりますね。ことりが言っていたので、やるようにしています』
凛「凛には考えられないや……でもしてみようかなあ」
海未『無理はしなくてもいいと思いますよ。凛は髪の毛が短いですから、あまり痛んでいないでしょうし』
凛「い、いたんでるよー!」
海未『凛の髪の毛、綺麗だと思いますよ』
凛「そ、そうかな///」
凛「えへへ……海未ちゃんとお話するの、楽しい」
凛「明後日どうしよっか?」
海未『どこか行きたい場所はありますか?』
凛「渋谷とか……そっち行ってみたい、かも」
海未『な、なるほど。ことりの得意な場所ですね』
凛「凛はあんまり行ったことないから行ってみたくて。あ、でも海未ちゃんが行きたいところあるなら、そっちにしよ?」
海未『いえ、特にないのでそこに行きましょう』
凛「わかったにゃ! じゃあまた学校でね!」
海未『はい、おやすみなさい』
プツッ
凛「にゃぁああああああ!!!!!」
凛「海未ちゃんとふたりきり……で、でーとみたいなもの、だよね?/////」
凛「どうしよどうしよどうしよ!!」
凛「……もう、ほんとに好きだよ……海未ちゃん……っ」バタバタバタッ
凛「でも……こんな風に思ってるの、凛だけなんだろうな」
凛「……」
ピロリン
ことり『海未ちゃんとのでーと、頑張ってね! 良かったらお洋服の相談ものるよ!』
凛「ことりちゃん……」
凛「お洋服かぁ、そうだ……凛の私服男の子みたいなのばかり……一応女の子っぽいのはあるけど」
凛「相談してみよ」
◇――――◇
練習後 部室
穂乃果「あれー、海未ちゃんと凛ちゃんどこへ行くの?」
凛「へ!?」
凛「えっと、その……//」
穂乃果「?」
ことり「遊びに行くんだって、二人で♪」
穂乃果(ふたりで? 凛ちゃんと海未ちゃん、そんなに仲良かったんだ)
凛「うん、そうなのっ! じゃあ行こう海未ちゃん」
海未「はい、お疲れ様でした」
穂乃果「ばいばーいっ」
穂乃果「ふたりって、ふたりきりで遊びに行くくらい仲がよかったっけ? 記憶が無いだけ?」
ことり「うーん、最近、かな?」
穂乃果「そうなんだー」
ことり「凛ちゃんわかりやすいけれど……海未ちゃんはまだ気がついてないのかなあ」
穂乃果「どういうこと?」
ことり「穂乃果ちゃんも、きっとわかると思うよ♡」
絵里「――あ、いたいた探したのよ穂乃果」
穂乃果「絵里ちゃん?」
穂乃果「どうかしたの?」
絵里「え、ええ」
ことり(ありゃ、お邪魔なパターン……?)
絵里「穂乃果、この後空いてる?」
穂乃果「この後?」
穂乃果「わ、えーと……ごめん、ちょっと予定入ってて」
絵里「そ、そう……」
ことり(絵里ちゃん……)
穂乃果「また今度遊びに行こうよ!」
絵里「! え、ええ!」
穂乃果「じゃあ穂乃果は帰るね!」
ことり「ばいばーい」
ことり「……言わなくていいの?」
絵里「……思い出してもいないのに、言っても意味あると思う?」
ことり「穂乃果ちゃん、絵里ちゃんのこと本当に好きだったんだよねきっと。なら教えてあげたら、記憶を取り戻すきっかけにもなるんじゃないかな」
ことり「穂乃果ちゃんのことを想ってあげるなら、そうしてあげたほうがいいと思うよ。ことりたち第三者が言うべきことじゃ、ないから」
絵里「…………ええ」
◇――――◇
凛(結局お洋服は制服になっちゃった。休みの日も練習があるし、その終わりにいちいち帰って着替えてたら時間かかっちゃうもんね)
凛(でもこっちのほうが女子高生って感じがしていいかも)
凛(でもそれより……海未ちゃんとふたりでこうやって街を歩くの、楽しい)
海未「?」
凛「/////」
凛(どうしよどうしよ……顔がにやけちゃぅ……凛だけ楽しむんじゃなくて、海未ちゃんに辛いこと忘れてもらわなくちゃ)
海未「やはり休日は人が多いですね」
凛「地方からもいっぱいくるだろうしねー」
凛「きゃっ」ドンッ
海未「大丈夫ですか?」ギュッ
凛「ぁ」
凛(て……手)//
海未「はぐれるといけません、人混みがなくるところまでこうしていましょう」
凛「ぅ、ん」カァァアアアアア
海未「!?」
海未(な、なんだか可愛らしい、です。いえ、凛はいつも可愛いですけれど、なんだか今日は……)
凛「は、はぐれるとわわわわわるいから……もっと、くっついてて……いい?」ギュッ
海未「!?////」
海未「は、はい」
凛「えへへ……失礼するにゃ」
凛(シアワセ……)
◇――――◇
渋谷
穂乃果「で、でーと!?」
真姫「わ……私はそのつもりだったっていうか……」
真姫「い、いやなら帰っても、いいけど」//
穂乃果(でーと……ま、漫画でしかみたこと、ないよぉ……どうすればいいの?)
穂乃果「ううん、いやじゃない。嬉しいよ?」
真姫「っ……////」
穂乃果「真姫ちゃん、顔真っ赤」
真姫「し、仕方ないじゃないっ」
穂乃果「ふふっ、じゃあどこいこっか?」
ギュッ
穂乃果「!?///」
真姫「……////」
穂乃果(私、真姫ちゃんとて……つないでる///)
真姫(こ、こんなことして、大丈夫かしら……だめ、止まっちゃだめよ)
真姫「わたし、あんまりこういうところ来ないんだけど……とりあえずあっち行きましょう?」
穂乃果「う、ん」
◇――――◇
凛「海未ちゃんプリクラ硬いよー」
海未「し、仕方がないじゃないですかっ」
海未「凛は慣れてるんですか?」
凛「かよちんと時々!」
海未「なるほど、私はあまり撮ったことがなくて」
凛「そうなんだ……あ、これホーム画面にしよーっと」
凛「えへへ、これで海未ちゃんのこといつでも見れるにゃ」
海未「そんな変な顔の写真やめたくださいっ」
凛「可愛いってば」
海未「ぅぅ」
凛「あ、クレープたべよ!」
海未「そうですね……私は大丈夫です」
凛「そう? じゃあ凛のあげるね」
凛「これくださーい」
凛「はむっ」
凛「おいしーにゃー。はい、海未ちゃんもどーぞ」
海未「いいんですか?」
凛「うんっ」
海未「では一口……あむ」
海未「ふふっ、美味しいですね」
凛「本当だよねっ」
海未「――?」
凛「どうしたの?」
海未「いえ、あれって……」
凛「?」
凛「え、真姫ちゃんと穂乃果ちゃん…?」
凛(後ろ姿しか見えないけれど……あの髪型は絶対そうだ)
海未「手を、繋いでいる?」
海未「……どういうことでしょう」
凛「わかんない……思い出してないだけで、絵里ちゃんと恋人なんじゃ」
海未「まあ穂乃果はスキンシップが過剰ですからね……あのようなこともある、のでしょう」
凛「まあそうだよね。穂乃果ちゃんだもん」
凛「…………」
凛「ね……ねえ、凛たちも……さっきみたいに、手、繋がない?」ウワメ
海未「///手、ですか」
凛「うん、海未ちゃんと手繋ぐとね……なんだか心地いいっていうのかにゃ」
凛「わかんない、けど」
海未「いいですよ、私も……い、意外とこのようなことは大丈夫みたいです」//ギュッ
海未「さあ、あっちへ行きましょう?」
凛「うんっ」
◇――――◇
穂乃果「いいのかな、送ってもらうなんて」
真姫「いいのよ」
真姫「じゃあ私は帰るわね、また明日」
穂乃果「ぁ……」ギュッ
真姫「……?」
穂乃果「///」
真姫「……穂乃果?//」
穂乃果「よ、よよ良かったらうちに、あがってかない? 和菓子でいいならいくらでもあるよ?」
真姫「……ええ、喜んで」
穂乃果「やった!」
◇――――◇
穂乃果「ひゃー、久しぶりに歩いたなー」
真姫「ふふ、疲れちゃった?」
穂乃果「そうかも!」
穂乃果「でも真姫ちゃんと一緒だったからかな、さっきまで全然疲れなんてなかったよ!」
真姫「//」
真姫「私も……穂乃果といると楽しいから」
穂乃果「……でも、迷惑だったよね。ご飯とか片手しか使えないから……うまく食べれなくて」
真姫「私だって時々病院にいるとき手伝ってたでしょ。まあ……ほとんど絵里がやってたけれど」
穂乃果「でも今日は……あんなお店であーんしてもらったり……は、恥ずかしかったよ?」
真姫「……」
穂乃果「///」
ドキドキ
穂乃果(な、なんでこんなにドキドキするの!? や、やっぱり恋人だったから、かな? ううぅ……真姫ちゃんは今でも私のことが好きなんだよね? ど、どうすればいいかわかんないよっ)
ギュッ
穂乃果「まき、ちゃん……」
真姫「……こうすると、とても安心するの。ごめんね、毎回毎回」
穂乃果「ううん……嬉しい、よ」ドキドキ
穂乃果「ね、ねえ真姫ちゃん……あのさ、真姫ちゃんは、"私"のことが好きなんだよね?」
真姫「ええ」
穂乃果「な……なんで私なんかのこと、好きになったの? どうやってその気持ちに気がついたの?」
真姫「……そうね、初めの頃はいい印象なかったわね。だっていきなり失礼なこと言ってくるんだもの」
穂乃果「あはは……」
真姫「でもそれが良いところなんだってわかった。いつでもどこでも見かけたら笑いかけてくれるし、私の話も楽しそうに聞いてくれる。こんな捻くれた私なのに……穂乃果は他の人と変わらず相手をしてくれた」
真姫「好きって気がついた瞬間があったわけじゃないわ。気がついたらいつも穂乃果のことを考えてた、授業中だって家で課題をしているときだって」
真姫「穂乃果の声が聞きたかった穂乃果と話したかった穂乃果の笑顔が見たかった、穂乃果の近くに、"いたかった"」
真姫「こんな感じで、いい?」
穂乃果「…………////」
穂乃果(人からこんな風に想われるのって……すっごく、ドキドキ、しちゃう)
穂乃果「……どっちから、告白したの?」
真姫「っ……」
真姫「それは、秘密よ」
穂乃果「むぅ」
作り物の恋人だった人を演じることにも、少しだけ慣れてきた。穂乃果を騙すたびに生まれる罪悪感を心の奥底にしまいこんで、言い聞かせる。自分は正しいんだと、私なら、穂乃果を幸せにできる。なんの確証もないけれど、そんな気がしてならなかった。
穂乃果「ね、ねえ、真姫ちゃん……私ね……真姫ちゃんと話してるとドキドキ……しちゃうの」
真姫「へ……?」
穂乃果「あの……あのねっ」
穂乃果「――多分私……真姫ちゃんのこと、好き……なんだと思う」
真姫「……」
耳の端まで真っ赤に染めて、涙目になった穂乃果は、必死にその言葉を絞り出したようだった。私がすべてを捧げても欲しかった言葉、すべてを捧げても、手に入れられなかった、言葉。
やっと、私のものになってくれた。やっと、穂乃果のものになれた。
穂乃果「記憶なくなってから……忙しいのに、話し相手にもなってくれた」
穂乃果「昔の穂乃果がどんなだったかは、わからないけれどそれでも真姫ちゃんは私のこと、好きって言ってくれた」
穂乃果「恥ずかしかったけど、すっごく嬉しかったの」
穂乃果「な、なんとか言ってよっ!」////
真姫「――絵里は?」
穂乃果「え?」
真姫「もし……絵里にも、告白されてたら、どうする?」
穂乃果「どう、したの急に?」
真姫「穂乃果の意見じゃ、絵里だって当てはまるはずよ。絵里だって穂乃果に優しくしてたし、私よりも二人でいる時間はあったはず」
穂乃果「え、えっと……よく、わかんないけど。絵里ちゃんも優しいよね――でもドキドキ、しちゃうのは真姫ちゃんの方、だよ?」
真姫「っ」
真姫「それが、"今の穂乃果の気持ち"?」
穂乃果「うん」
真姫「……そう」
真姫「ふふ……じゃあ、私達、付き合いましょ?」
穂乃果「う、ん」ギュッ
あの時は私がうじうじしてなにも動かなかったから、だけれど……今回はあなたが、何も動かなかったせい。ごめんね、絵里。わたしの、勝ちよ。
◇――――◇
海未ちゃんのお家に泊まるのとか……だめ?
離れたくなかった。半日は一緒にいたはずなのに、全然凛の中の気持ちは満たされない。もっと近くで海未ちゃんのことを見ていたい、もっと近くで海未ちゃんに寄り添いたい。
そんな凛のわがままを、海未ちゃんは聞いてくれた。
殺風景……といったら失礼だけど、最小限のモノしか置かれていない海未ちゃんのお部屋に来るとなんだか懐かしい気持ちになれた。小さな丸机に海未ちゃんは、入れてくれたほうじ茶を持ってきてくれて、その独特な香りが部屋を満たしている。この雰囲気……好きかも。
凛は向かい合って座った海未ちゃんのお顔を見ることをやめられなかった。
海未「どうしたのですか?」
凛「ううん」
海未「私の顔……なにか変でしょうか」
凛「ぜーんぜん変じゃないよ」
海未「……?」
凛「じゃあお茶、いただきますにゃ」
凛「――あっつっ!!」
海未「だ、大丈夫ですか!?」
海未「勢いよく飲みすぎですよっ」
凛「あぅ……」
海未「まったく……」
海未「凛は穂乃果に負けず劣らずおっちょこちょいですね……」
凛「だって……」
海未ちゃんのことばっかり考えてたら他のことなんて。
海未「でも……それが良いところ、なんですけれどね」
凛「え?」
海未「放っておけないといいますか……ついつい手を出したくなってしまうといいますか」
凛「心配、かけてるってこと?」
海未「いえ、そうではありませんよ。一緒に居て楽しいという意味です」
凛「/////」
海未「ふふっ、さてこのお茶を飲んだら眠りましょうか。布団を持ってきますね」
凛「え?」
凛「……」
凛「んー……ふたりで、一緒にベッドは……だめにゃ?///」
海未「な……///」
海未「だ、だめではないですが……嫌ではないですか?」
凛「凛から言ったのに嫌とかないよっ!」
凛「むしろ……海未ちゃんが嫌かなって」
海未「私は、大丈夫ですよ。では、そうしましょうか」
◇――――◇
凛「失礼しまーす……」
海未「狭くないですか?」
凛「もうちょっとそっちにいっていい?」
海未「構いませんよ」
凛「……」スッ
海未「やっぱり、凛と一緒にいると癒される気がします。今日は楽しい時間をわありがとうございます」
凛「こ、こちらこそ//」
凛(ずるいよ……海未ちゃん……っ)
凛「ね……ねえねえ、海未ちゃん……海未ちゃんて、好きな人とか……いる?」
海未「……急にどうしたんですか」
凛「だ! だって海未ちゃんて色んな人から告白されるけど、受けたことないよね」
海未「そうですね」
凛「好きな人が、いるんでしょ?」
海未「……」
海未「……凛、もしかして」
凛「……凛、知ってるよ」
海未「!? そう、ですか……」
海未「――でも、叶いませんでした」
海未「その人にはすでに大切な人がいました。私のことを見る余裕など、ありません」
海未「邪魔をする気もありません、どちらにも幸せになって欲しいんです」
海未「もう、諦めていますから」
凛「……」
凛「海未ちゃん……ごめんね、こんなこと話させちゃって」
海未「いえ」
海未「――凛はいるんですか、好きな人」
凛「へ!?」
凛「凛は……」
海未「……?」
凛「……海未ちゃんのことが、す……好き、です」
海未「!?!?」
凛「/////」
凛(い、言っちゃっ、た)
海未「本気、ですか?」
凛「うん……気がつかなかったにゃ?」
海未「え、ええ」
凛(そっか……やっぱり意識してたのは、凛だけ、か)
海未「……」
凛「……」ギュッ
凛「ごめんね、海未ちゃんが穂乃果ちゃんのことや絵里ちゃんのことで苦しんでいるの、知ってるのに……自分勝手なこと、言って……ぅぅ」
海未(泣い、てる)
凛「あ、あれれ……ごめんにゃ。ごめんね……いうつもりなんてなかったの。迷惑かけるのわかってる、から。ほんとに、ごめん」
海未「どうして謝るんですか?」
海未「人を好きになって……その気持ちを伝えられる……素晴らしいことですよ」
海未「私は逃げてしまった。たとえ私の好きな人がその人と付き合っていなくても、私が言うことはなかったでしょう。そんな恐怖心に勝てないだなんて、私は偉そうなことを言う割に随分と弱いんだとわかりました」
海未「凛は……強いですね。尊敬、します」
凛「海未ちゃん……」
海未「凛の気持ち、嬉しいです」
凛「うん……っ」
凛「うみちゃん……り、りんと……付き合って、ください」
海未「……」
海未「……っ」
海未「1日だけ、時間を、くれませんか?」
凛「……」
海未「心の整理が、したいんです。失礼なのは、わかっています。でも、お願いします。納得の行く答えを出したいんです」
凛「うん、わかった……」
凛「でも今だけは、こうしててもいい?」
海未「はい……」ギュッ
◇――――◇
穂乃果「おはよう真姫ちゃん!」
真姫『んぅ、朝っぱらから電話とかどうしたの?』
穂乃果「だって! 泊まっていけばよかったのに、帰っちゃうんだもん」
真姫『仕方ないでしょ?』
穂乃果「昨日の夜真姫ちゃんのこと考えちゃって全然眠れなかったのにぃ』
穂乃果『私だけー?』
真姫『はいはい私も私も』
穂乃果「むぅー!!」
真姫『今日も練習あるんだから準備、しなくちゃでしょ?』
穂乃果「わかってるよー」
真姫『あ、この前も言ったけれど……恋人になったことは秘密にしましょう? 前も秘密だったから、恥ずかしくて』
穂乃果「うん、いいよ。穂乃果も、なんかみんなに知られちゃうの恥ずかしいかも」
真姫『ええ、じゃあそういうことで。学校でね。ばいばい』
穂乃果「はーっ……恋人、かぁ……///」
穂乃果「私に、女の子だけど……恋人が出来るなんて思わなかったなぁ」
穂乃果「えへへ……」
穂乃果「――あ、絵里ちゃんから電話来てた。気づかなかった。なんだろう……今日行ったらでいいよね?」
穂乃果「あーあ、夏休みももう少しで終わっちゃうなあ」
◇――――◇
早朝 学校
ことり「どうしたの、こんな早くに呼び出して」
海未「……相談があるんです」
海未「凛から、何か相談を受けていますよね?」
ことり「へ!?」
海未「私が絵里のことを好きだったこと、凛が知っていました」
海未「それを知っているのは、ことりしかいません」
海未「態度からばれたという可能性もありますが、凛はどこか確信めいているように見えました
ことり「っ……ごめん」
海未「……そのことはいいです」
海未「凛からなんの相談を受けていたのですか?」
ことり「……い、いえないよ」
海未「そうですか……では、こんなこと、本当は人に言ってはいけないのですが……許してください。凛」
ことり「?」
海未「――昨日、凛から告白されました」
ことり「!!!!!」
海未「ことりになら、まだ言ってもいいと思いました。そう、ですよね?」
ことり「……うん」
ことり「そっか、凛ちゃん。……返事はどうしたの?」
海未「どうしたらいいか、わからないんです」
ことり「え?」
海未「凛の気持ちを聞いて……一晩考えてみたんです。思えばここ最近、辛いことがあったらいつも一緒に居てくれた、と」
海未「話を聞いてくれまして、どんな小さなことでも聞いてくれました。いたずらをされました、でもそれも凛なりの励まし方だったのかもしれません。凛といた時、確かに私は笑っていました……辛いことが、忘れられました」
海未「凛と一緒にいて、楽しい……心地よいんです」
ことり「でも、好きじゃないの?」
海未「都合の良い話ですが……告白されて、意識してしまいました。おそらく、いえ……私は凛のことが、好き……だと思います」
ことり「うん、なら付き合うのはだめなの?」
ことり「――絵里ちゃんのことが忘れられない?」
海未「!? そ、そうじゃ、ないんです!! …………絵里のことは私なりに諦めたつもり、です」
海未「でも……凛に対して、自分がおかしくなってしまうくらいの恋心が湧いて来ないんです……」
海未「好きなんです、確かに私は……凛のことが好きなんですよ? でも……どうして……」
海未「こんな気持ちで、私は付き合って……いいんでしょうか……どう、すれば」
ことり(……)
拳を握りしめて、俯く海未ちゃん。唇を強くくいしばる姿を、ここ最近何度も見てきた。海未ちゃんは強くてかっこよくてモテモテで……完璧に見えるけれど、恋愛に関しては全然答えを持っていないようだった。
最初は絵里ちゃんが好きかもしれないと相談された。
次に絵里ちゃんが好きだと相談された。
海未ちゃんはとっても奥手で、でもその心は絵里ちゃんに対して、燃え上がっていた。心のギャップに、とても苦しんでいた。行動したくても、怖い、辛い……でも、好き、好き、好き好き好き。
甘えているのはわかっている、とその時も唇を強く引き結んで辛そうな表情を浮かべていたのをよく覚えている。
ことりの前でしかそういう表情は見せないみたいだったけれど、なんとなく凛ちゃんはわかっていたんじゃないかな。だから、凛ちゃんはあんなに前に出るの、怖がってた。
案の定……海未ちゃんはこうして唇を強く引き結んでいる。普通の人だったらちょっと気になっているくらいで、付き合ってしまうだろう、でもそうしないのは……海未ちゃんが優しすぎるから。そんな中途半端な気持ちで接したら、凛ちゃんを傷つけてしまうんじゃないかって思っちゃってるから。
ことり「海未ちゃん……凛ちゃんのこと、すっごく想ってあげてるんだね?」
海未「え……」
ことり「どうでもよかったら、適当に付き合ってみてダメなら別れちゃえばいいもん」
ことり「でも海未ちゃんはそうしない。元の性格が真面目なのもあるんだと思うけど、そんなに誠実に考えてあげられるのは、凛ちゃんのこと大切に想ってあげてる証なんじゃないかな?」
ことり「ことりは恋愛、よくわかんないけど……そういう人が恋人だときっと、嬉しいよ?」
海未「っ……」
ことり「絵里ちゃんの時の気持ちは、きっと初恋だったからだよ。海未ちゃんの心が慣れてなくて、すぐに沸騰しちゃったの」
ことり「今回もきっと、どんどん熱くなっていくよ」
海未「ことり……」
海未「ありがとう、ございます。あなたに相談すると、なんでも解決してしまいますね……」
ことり「そ、そんなことないよぉ」
海未「いえ……ありがとうございます。凛も、だからことりに相談したのかもしれませんね」
ことり「そうなのかな?」
ことり(私と希ちゃんが無理やり聞き出したみたいなものなんだけど……)
ことり「あ、希ちゃんにも相談してたから多分隠すのとかは無理、かな?」
海未「え!? 希まで……確かに思い当たる節がいくつも……思い返すと、ユニット練習の時は露骨でしたね……」
ことり「花陽ちゃんは相談されなくてもわかってたみたいだし♪」
海未「わ、わかりました……みんなに、報告、しますから……////」
ことり「うんっ、おめでとっ」
海未「では、あの……凛のところへ行ってきます」
ことり「?」
海未「廊下で待たせてしまっているんです」
ことり「どういうこと?」
海未「昨日、遊んだ帰りに私の家に泊まっていったんです。それでこのまま練習に来たので」
ことり「な、なるほど」
ことり(お泊まり……)
ことり「///」
ことり(凛ちゃん、けっこーダイタン……?)
◇――――◇
穂乃果「おはよー!! もう、久しぶりに一人で登校したよー、海未ちゃんなんで先に行っちゃうのさー」
海未「すみません、少々用事がありまして」
真姫「おはよう」
ことり「あれ、真姫ちゃんと一緒に来たの?」
穂乃果「え、ああ校庭でたまたま!」
穂乃果「ね?///」
真姫「ええ」
ことり「……?」
絵里(なんか、変)
海未(これで全員ですね……)
凛「……///」モジモジチラッ
海未「……」コクリ
ことり(り、りんちゃんかわいいよぉー!!!!)
海未「みなさん、少し……いいですか?」
にこ「どうしたの?」
海未「あの……急な話ですが、私と凛が……お、お付き合いさせて……い、頂くことに、なりまし、た」
凛「……///」カァァアアアアアッ
希「ほんと!?」
真姫「へぇ」
花陽「凛ちゃん……」
凛「は、恥ずかしいよ……」
花陽「よかったね、凛ちゃんっ」
凛「かよちん、知ってたの?」
花陽「うん、凛ちゃんのこと見てればわかっちゃうよ」
凛「そんなに?」
花陽「だっていっつも海未ちゃんと話そうと必死だったもんね」
海未(そうだったんですか……//)
凛「ごめんね言えなくて……かよちんに恋愛のこと、言うの恥ずかしかったの」
花陽「ううん全然いいの。そんなことより、凛ちゃんの想いが叶って、よかったね!!」
凛「かよちん……っ」ギュッ
真姫「私でもわかっちゃうんだから、ほとんどの人はわかったんじゃないかしら」
にこ「も、もちろんね」
真姫「……」
穂乃果「うわー海未ちゃんがついに人とお付き合い、するなんてっ」
海未「……//」
穂乃果「――穂乃果達とまんま同じタイミング!」
真姫「ちょ……!!」
絵里「何が同じなの?」
穂乃果「へ……ぁ」
真姫「――ど、どうせ少女漫画か何かのお話でしょ?」
穂乃果「そ、そうそう! 穂乃果ってキャラクターがね、好きな人と付き合ったんだ」
絵里「少女漫画なのね」
海未「とにかく! では、そろそろみんな着替えましょうか」
◇――――◇
穂乃果「あの、ごめんね? つい……」
真姫「いいのよ」ナデナデ
穂乃果「ん……♡」
穂乃果「って、私の方がお姉さんだよ!」
穂乃果「逆逆!」
真姫「まあまあ、いいじゃない」ナデナデ
穂乃果(あれ……なんか、こんなこと……されてた、ような)
穂乃果(あれ……なんだろ、よく思い出せない……もしかしてこれが、"穂乃果"の記憶?)
真姫「どうしたの?」
穂乃果「ううん……なんでもない」
穂乃果「あ、明日病院行くんだ」
真姫「そうなの?」
穂乃果「うん、記憶のリハビリ!」
真姫「……穂乃果が望まないなら、しなくてもいいんじゃないの?」
穂乃果「え?」
真姫「だって、今でも全然不自由なことはないでしょ? 少しくらいの記憶をなくしたって穂乃果は穂乃果だし、みんなとの食い違いだってほとんどおこってないはずよ」
穂乃果「んー、そうなんだけど。なんか……とっても大切なこと、忘れてる気がして」
真姫「……」
穂乃果「なんか、真姫ちゃん……昔のこと、聞くと怖い顔する……」
真姫「そ、そんなことないわよ?」
穂乃果「――私に、昔のこと思い出して欲しくない、の?」
真姫「っ……違うわよ!」
穂乃果「そっか、真姫ちゃんがそんなこと思うはずないよね」
穂乃果「ごめん……」
絵里「――あ、穂乃果こんなところにいたのね」
絵里「……二人で何をしてたの?」
真姫「別に、ちょっと話をしてただけよ」
穂乃果「う、うんそうだよ!」
絵里「ふうん。そういえば穂乃果、昨日どうして電話に出てくれなかったの?」
穂乃果「あ、ごめんね。早く寝ちゃって、気がついたら朝で……」
絵里「なんだ、そうだったの」
チラッ
真姫(……なによ、私にどこかへ行けっていいたいわけ?)
真姫(どこもいかないけれど)
絵里「……」
絵里「穂乃果、今度どこかへ遊びに行きましょう?」
穂乃果「――え……ふ、ふたりで?」
絵里「っ……」
絵里(そ、そうよね……穂乃果にとって私は……つい先日まで怖い先輩、だったんだものね)
真姫「……」
絵里「あー……気まずいわよね、ごめんね?」
穂乃果「う、ううんそんなことない! 絵里ちゃん、穂乃果にすっごい優しいし!」
絵里「! そ、そう……」
穂乃果(あれ、でも……絵里ちゃんとふたりで遊んだりしていいのかな? 真姫ちゃんがいるし……でも絵里ちゃんは女の子の友達だし。あれれ、でも私の恋愛対象は女の子なわけで……女の子の友達でも浮気になる? ……よくわからなくなってきた)
穂乃果(で、でもでも……真姫ちゃんが違う女の子の友達と1日一緒に遊んだりすると……モヤモヤしちゃう、かも……穂乃果もやめたほうがいいのかな)
穂乃果「あ、でも……家の手伝いとか、記憶のリハビリとかあるから、近いうちは無理、かも……ごめんね?」
絵里「っ……え、ええ。また都合がよくなったら教えてね?」
穂乃果「うんっ」
絵里(どうすれば、いいのよっ……)
真姫「……ふふ」
◇――――◇
希の家
希「えりちも大変やね」
にこ「ほんとね」
希「最近……ひどい顔、してる」
にこ「ええ……」
希「ため息ばっかり」
にこ「……よく、見てるのね」
希「っ……でも、もうそういうのは、違うから」
にこ「そっか」
希「――えりちねウチにそういうことは相談して来ないし、ウチも聞かないようにしてる。お互い、気を使うだけ、やから」
にこ「……それで、いいの?」
希「時間が解決してくれるよ、きっと」
にこ「そういう考え方も無くはないわね」
希「気付かれてたんかなぁ……」
にこ「……そうかもね」
希「穂乃果ちゃんとまた付き合えるようにウチらも協力、してあげんとね」
にこ「そうね。はい、召し上がれ」
希「うわー、今日も美味しそう! ごめんなー、最近料理作りに来てもらってー」
にこ「あんたが寂しい寂しいーって顔してるからでしょ?」
希「な……///そ、そんなことないよ」
希「……でも、にこっち、来てくれると……この部屋がちょっとだけ狭くなったみたいで、嬉……しい」//
にこ「……なに変なこと言ってんのばか」/
希「じ、事実やし!」
にこ「はいはい」
にこ「なに?」
希「なんでもないっ」
希「いただきますっ」
希「あ、美味しい」
にこ「――それにしても、凛と海未が、ねえ?」
希「ふふーウチとことりちゃんの全力サポートのおかげ!」
にこ「そうなの?」
希「そうだよー」
にこ「凛があんたたちに相談してきたってこと?」
希「そんなわけないやーん。凛ちゃんは乙女やから、心の中で一人で抱え込むに決まってる」
希「ことりちゃんとウチはそれになんとなく気がついたから、声をかけただけ」
にこ「なるほどね。あれ、花陽は?」
希「そりゃ気がついてたと思うよ。でも……ほら、花陽ちゃんは見守るタイプやから」
にこ「それもそうね」
希「でね、一つ面白いのが――海未ちゃん、えりちのこと、好きだったんじゃないかな」
にこ「え!? いやいや、全然そんな感じしなかったけど」
希「ウチもなんとなく、なんやけど……まあ凛ちゃんと付き合ったし、違うのかな?」
にこ「違うでしょー」
希「うーん」
◇――――◇
海未(返信はまだ、でしょうか)
海未(ダメですダメです、まだ10分しか経っていないではありませんか)
海未(ことりの言う通り、でしたね……。凛のことばかり考えてしまいます)
海未(ほんの少し前まで絵里のことしか考えてなかったというのに)
海未「……やっぱり恋愛は、苦手、です……」
海未(どうしてこんなにも心がコントロールできないのでしょうか……私が弱いから、なんですかね)
~~~~♪♪♪
海未「!?!? え、り……?」
一つ前の想い人からの、着信でした。
海未「……」
海未「……もしもし」
絵里『あ、絵里よ。ごめんねこんな時間に』
海未「い、いえ……」
絵里『あ、凛とメールしてて起きてたの?』
海未「な……そ、そんなことありません!」
絵里『ふふ、まあどちらでもいいの』
海未「……」ドキ…ドキ
海未(な、なんでっ……私は!!)
絵里「どうしたの?」
海未「いえ……」
絵里『今日はね、穂乃果のことについて相談に乗って欲しいの』
海未「穂乃果のこと、ですか?」
絵里『ええ、ことりにも話してあるけど、海未にも聞かないと、ダメだと思って』
絵里『――あんまりよくないのは、わかってるけど……』ボソッ
海未「何か言いましたか?」
絵里『い、いえなんでも』
海未「あれから少し経ちましたけれど、記憶は戻らないようですね」
絵里『そうなの……どうすれば、距離を縮められるかしら……。なんでかあの子、二人きりで遊びたがらないの』
海未「……? 穂乃果はそういうことをあまり気にするタイプではないのですが」
絵里『そうなのよ、なんか……変な気がして』
絵里『なんか――真姫と穂乃果……変にくっついたり、してない?』
絵里『そんな疑うようなこと、言うつもりはないんだけど……』
海未「真姫……」
海未「あ、そういえば。昨日凛と渋谷方面で遊んだのですが、その時に穂乃果と真姫が一緒にいるのを見ました」
絵里『え!?』
海未「――手を繋いで、たと思います……」
絵里『……』
海未「一瞬だったので深く考えませんでしたが……絵里の違和感も、偶然ではないのかもしれません」
絵里『そんな、まさか……どういうこと?』
絵里『ま、真姫が穂乃果に何かしたってこと!?!?』
海未「落ち着いてください。まだそうとは決まったわけではないでしょう」
絵里『そうね……何日か様子を見るわ。海未もお願いできる?』
海未「わかりました、また話し合いましょう。おやすみなさい」
海未「……」
海未「真姫が……そんなまさか」
◇――――◇
次の日 階段踊り場
ことり「……真姫ちゃんがそんなことを……?」
海未「……何か理由があったのかもしれません」
ことり「どういうことなんだろう」
絵里「わからない、けど……もしかしたら穂乃果と何かあったのかも」
ことり「ねえ絵里ちゃん……もう穂乃果ちゃんに恋人だったって言った方がいいんじゃないかな?」
絵里「……」
海未「でも、ヘンじゃないですか?」
絵里「?」
海未「穂乃果は絵里とたくさん写真を撮っていたんですよね?」
絵里「そうね……何かあったら撮ってたわ。だから私がわざわざ撮る必要もなかったわけだし」
海未「それなら少しくらい何か勘付いてもよさそうですが。ここ何ヶ月か絵里の割合が多かったら、私たちに聞いてくるということがあっても良かったと思います」
ことり「そうだよね、穂乃果ちゃんあの時いろんなこと聞いてたし……」
絵里「……やっぱり何かあるわ」
ことり「ちょっとだけ……探ってみようか?」
絵里「私が言うのは警戒されそうだし、お願いできるかしら」
ことり「うん、わかったよ。真姫ちゃんどこかな、とにかく行ってくるね」
絵里「はぁ……」
海未「疲れてないですか?」
絵里「いえ、大丈夫よ」
海未「……」
海未「何かあったら相談してくださいね」
絵里「ええ、ありがとう……優しいのね」ニコ…
海未「っ」ドキン
海未「い、いえ……そんな」
海未「……//」ドキ…ドキ
海未(本当に……わ、わたしはなにをっ)
絵里「なんだか変よ?」
絵里「――まるで、ちょっと前に戻ったみたい」
海未「え!?」
絵里「いえ……そんなわけないわよね」ボソッ
凛「――あー、海未ちゃんと絵里ちゃんこんなところでなにしてるのー!?」
海未「っ……凛、いえ、なんでもないですよ」
凛「……なんでもないのに、こんなところくる?」
凛(しかも、絵里ちゃんとふたりっきり……)
凛「……」
絵里「ふふっ、愛されてるのね♡」
海未「……な///」
絵里「じゃあ私も行こうかしら」
凛「休憩時間になったのにふらーってどこかへ行っちゃうんだもん」
海未「すみません、少し話がありまして」
凛「?」
海未「穂乃果のことです。どうやったら絵里と穂乃果が前のような関係にもどれるか考えていました」
凛「そうだったんだ!」
海未「真姫と穂乃果が手を繋いでいるところを見ましたよね? ……実は絵里と話しているうちに、それがスキンシップ等の偶然ではない可能性が出てきたんです」
凛「どういうこと?」
海未「……簡単に言えば、穂乃果が真姫のことを好きになりかけてる、でしょうか」
凛「え!?!?」
海未「穂乃果は絵里との記憶がありません、真姫に告白されて断ったことも知りません。つまり……一時的とはいえ真っさらな状態から関係をやり直せるんです」
海未「前は絵里のことを好きになっていましたが、今回は違っていても不思議ではあひません」
凛「……」
海未「あくまで可能性の話、です」
凛「そんな……絵里ちゃんはどうなるの!」
海未「……信じましょう」
◇――――◇
ことり(真姫ちゃんより、穂乃果ちゃんにきいた方がいいかも……)
ことり(でも、確かにふたりでいること多いね。でも……今は穂乃果ちゃん一人だ!)
ことり「ほーのかちゃんっ」
穂乃果「ん、どうしたの?」
ことり「聞きたいことがあるの」
穂乃果「?」
ことり(どうしようかな……相手は穂乃果ちゃん……よしっ)
ことり「――真姫ちゃんのこと、好きなの?」ニコッ
穂乃果「ふぇ!?//////」
穂乃果「な……な、なななななに言ってるの!?」
穂乃果「わたし、真姫ちゃんのことなんて全然全然! す、すきじゃないよ!////」
ことり(うっそー……いやいや……隠す気ないよね)
穂乃果「……////」
ことり(……待って、本当にそういうこと、なの?)
ことり「うん、ごめんねこんなこと聞いて」
真姫「――どうしたの?」
ことり「ひっ」
穂乃果「あ!」
真姫「?」
ことり「ううん、なんでもないよっ」
タッタッタッ
真姫「……なにか話してたの?」
穂乃果「な、なんかねいきなり真姫ちゃんのこと、好き? って」
真姫「!?」
穂乃果「で、でも全力で否定しておいたから大丈夫だよ!」
真姫(だめね……穂乃果がことりをごまかしきれるはずない)
真姫(問題はどうしていきなりそんなことを聞いてきたか。そりゃ多少は穂乃果と仲良く見られてたかもしれないけれど、違和感が出るレベルじゃなかったはず)
真姫「……」
真姫(そんなことを聞くってことは、ことりの中ではほとんど確信になっていたっていうことよね)
真姫(一体なにで……?)
穂乃果「真姫ちゃん?」
真姫「……穂乃果、私のこと、好き?」
穂乃果「う、うん……」///
真姫(……ごめん、穂乃果。今は、とても悲しい思いをするかもしれない。でも絶対……幸せにするから)
真姫「――私はあなた以外、いらないから」
◇――――◇
ことり「……あ、あのね」
絵里「……」
ことり「――穂乃果ちゃん……真姫ちゃんのこと、好きだよ」
海未「!?」
絵里「っ……ど、どうして?」
ことり「穂乃果ちゃんね、真姫ちゃんの名前出すと反応が違いすぎて……海未ちゃんも試しにやってみたら、すぐにわかると思う」
海未「いえ……ことりがそこまで言うのならばそうなのでしょう」
絵里「……」クラリ
ことり「だ、大丈夫!?」
絵里「え、ええ……でも、一体どういうことなの。一体なにがあって穂乃果は真姫のことを……」
海未「一体なにがあったんでしょうか」
絵里「ねえ、これから……どうすればいいと思う?」
ことり「とにかく、もう二人に話を聞いてみるしかないよ。そこで絵里ちゃんと付き合ってたことも言ってみるしか」
海未「……真姫はおそらく、今でも穂乃果のことを好きでしょう。それが、私が見た手を繋ぐという行動と繋がっているとしたら……」
ことり「両想い……?」
絵里「そ、そんな!! なによそれ!!!」
ことり「落ち着いて……そうと決まったわけじゃないから、ね?」
絵里「っ……そうね……明日の朝部活始まる前に、とりあえず真姫に話してみるわ」
ことり「私も一緒に行こうか?」
絵里「いえ、大丈夫よ。ふたりで話すわ」
ことり「そっか……うん」
ことり「じゃあ今日はこれで。海未ちゃん、凛ちゃんが待ってるんじゃない?」
海未「あ、そうですね。では、さようならまた明日」
絵里「……幸せそうね」
ことり「……うん」
絵里「羨ましいわ」
ことり「大丈夫だよ、きっと」
絵里「……」
◇――――◇
海未「花陽は帰ったのですか?」
凛「うんっ、真姫ちゃんと途中まで一緒だから帰ったよ」
海未「気を使わせてしまいましたか……」
凛「そう、かもしれない」
海未「次からは先に帰らなくてもいいと言っておきましょうか。今日は……ふたりで帰りましょう」
凛「う、うん……///」
凛「わざわざ送ってくれなくても……大丈夫なのに。大変でしょ?」
海未「わ、わたしが一緒に居たいだけ……ですから」
ギュッ
凛「そ、そっか……//」
スタスタ
凛「あ……あのさ海未ちゃん。最近噂になってるの知ってる?」
海未「なにがですか?」
凛「凛と海未ちゃんが付き合ってるって、こと。もう音ノ木の生徒は、ほとんど知ってると思う」
海未「なるほど、この学校らしいといいますか」
凛「ちょっと、怖いかも」
海未「?」
凛「だって海未ちゃんのこと好きな人は何人もいるよ。その人達、凛が海未ちゃんとこうやってるところ……よく思わないにゃ」
海未「……そうかもしれませんね。もし何かあっても、私が守ってみせますよ」
凛「っ……ず、ずるいにゃ……海未ちゃん」
海未「凛が可愛いから、ですよ」
凛「……////」
凛「海未ちゃんさ、どうして凛にも敬語なの?」
海未「それは」
凛「敬語、やめて欲しいにゃ」
海未「い、今更いいではないですか!//」
凛「お願いにゃっ、ね?」
凛「じゃあ、今だけ、今だけ!!」
海未「……」
凛「凛のこと、好き……?」
絵里『海未は優しいのね』ニコッ
海未「っ……」ブンブン
凛「……?」
海未「え、ええ……好き、で――」
凛「むっ……」
海未「……///」
海未(け、敬語をやめろということ、でしょうか)
海未「……す」
凛「す?」
海未「――好き、だよ」プイ…///
◇――――◇
真姫「もしもし」
絵里『あ、真姫』
真姫「どうしたの?」
絵里『ちょっと話したいことがあるの。明日の練習が始まる30分くらい前に来てくれない?』
真姫「今じゃダメなの?」
絵里『会って話したいことなの』
真姫「……そう、わかったわ」
真姫「じゃあ、おやすみ」
絵里『おやすみなさい』
真姫「……覚悟しなくちゃね」
真姫「穂乃果さえいてくれれば、私は……」
◇――――◇
穂乃果「おはよー」
海未「おはようございます」
海未「課題はおわりましたか?」
穂乃果「んー、まあちょこちょこ……」
海未「本当ですか?」
穂乃果「もうっ、朝会って開口一番がそれはないよ海未ちゃん!」
海未「ぅ……私は心配をしてるだけですっ」
穂乃果「それよりそれより! 凛ちゃんとはどう? らぶらぶ?」
海未「い、言いません///」
穂乃果「教えて教えて!」
海未「嫌ですっ絶対だめです!//」
海未(……今頃絵里と真姫が話し合いをしているところ、でしょうか)
穂乃果「?」
海未「……どうですか、昔のことは思い出しましたか?」
穂乃果「んー……正直さっぱり」
海未「ま、まあ……最悪思い出さなくてもなんとかなりそうですし」
穂乃果「なんかね、すっごく大切なことを忘れてる気がするんだけど。……もうそれは起こってるっていうか」
海未「?」
穂乃果「なんて言ったらいいか、わかんないんだけど……」
海未「……」
海未「穂乃果、突然すみません」
穂乃果「?」
海未「――真姫のことが、好きなんですか?」
穂乃果「え!?」////
穂乃果「そ、そんなことないよっ。そんなそんな、私が真姫ちゃんのこと好きだなんて! すっごく頼りになるし可愛いし頭もいいしついつい見ちゃう……けど、す、すす……好きとかじゃ……ないもん///」
海未「」
穂乃果「な、なんでそんなこと聞くの?」
海未「いえ……」
海未(想像以上でした。まずい、ですね。絵里のことを考えたら釘を刺しておいた方が良いのでしょうか)
海未「穂乃果、あなたに一つ重要なことを教えます」
穂乃果「うんうん」
海未「……あなたは、記憶を失っている期間に恋人が出来ています。驚くかもしれませんが、相手は女性です」
穂乃果「うん」
海未「……うん?」
穂乃果「って、なんで海未ちゃんが知ってるの!?」
海未「ど、どういうことですか!?」
穂乃果「こっちのセリフ、だよ」
穂乃果「――真姫ちゃん、誰にも言ってないって……」
海未「……え?」
海未「ちょ、ちょっと待ってください。さっきから話が食い違っているような気がします」
穂乃果「うん……」
海未「確認します、あなたは真姫と付き合っていた……と思っているのですか?」
穂乃果「う、うん……だって真姫ちゃんがそう言ってたよ?」
海未「なるほど、そういうことですか……。真姫……」
穂乃果「な、なに? 私、真姫ちゃんと付き合ってたんだよね?」
海未「……残念ながら、それは違います」
海未「――穂乃果が付き合っていたのは、絵里です」
穂乃果「え………?」
海未「気がつきませんでしたか? 一番長く病室に居たのも絵里でしょう? 穂乃果と何度も遊びに行こうとしていたのも、絵里です」
穂乃果「……」
海未「いえ……それ以上に真姫のアプローチが強かったから、気がつかなかったのかもしれませんね」
穂乃果「たし、かに……絵里ちゃんと二人きりになる機会おおったかも。でも! 真姫ちゃんとも、多かったよ……?」
海未「やはり、ですか」
海未「穂乃果は記憶が無い期間に、真姫に告白されています。しかし、その当時は、既に絵里と付き合っていたため……それを断っているんですよ」
穂乃果「!?!?」
海未「真姫はそれがショックだったのか、一時的に引きこもってしまいました。みんなの協力もあり、復帰したのですが……その日に穂乃果は事故に遭ってしまいました」
穂乃果「…………」
海未「思い出しましたか?」
穂乃果「ごめん……でも真姫ちゃん、確かに穂乃果に昔のこと、思い出して欲しく無い感じ、したよ」
穂乃果「――穂乃果、ウソつかれてたの?」
海未「……はい」
穂乃果「ふたりに、話、聞きたい。もっと、もっと本当のこと知りたいよ」
海未「実は今、部室で真姫と絵里が話し合っている最中だと思います。昨日、部活が始まる前に話し合う、と言っていたので」
穂乃果「!!」
ダッッ
海未「ちょ、穂乃果!!!」
◇――――◇
二階教室
ことり「はっ、真姫ちゃんだ!」
ことり「8時2分……絵里ちゃんもさっき来てたし、練習始まる一時間前に呼び出した感じ、かな……?」
ことり「……盗み聞きは良く無いけど、なんだか嫌な予感がするし一応部室の前で話を聞いてよう」
◇――――◇
部室
真姫「おはよう、ごめんなさい。ちょっと遅れちゃって」
絵里「ううん、いきなり呼び出してごめんね?」
絵里「相変わらず、暑いわね」
真姫「そうね」
絵里「……」
真姫「……」
真姫「で、話ってなに?」
絵里「……穂乃果のことなんだけど」
真姫「……」
普通の精神をしていたら、絵里がそんなことを私に言うはずがない。本来絵里は気遣いも出来てとても優しい人だ。私とふたりきりになってわざわざ穂乃果の話題を出す……これは牽制。
絵里「あの、穂乃果、記憶なくなってるじゃない? 私とのことも忘れちゃってるから、どうしたらいいかな、と」
真姫「どうしてそんなこと私に聞くの?」
絵里「……あたりまえでしょ」
絵里「――あなた、穂乃果に何かした?」
真姫「……なに?」
真姫「いきなりそんなこと言われても困るんだけど?」
真姫「いくら穂乃果が思い出さないからって私に当たるのはやめて」
絵里「っ……あなたね。……凛と海未が見てるのよ」
絵里「この前、原宿渋谷方面であなたが穂乃果と手を繋いでいるところを」
真姫「!?」
なるほど。だからことりはいきなり穂乃果にあんなことを聞いたのね……海未達に見られてるなんて……。
絵里「ねえ、どういうつもりなの? 答えて」
真姫「……私は、今の穂乃果の気持ちを優先しただけ」
絵里「なにを言ってるの?」
絵里「それじゃあまるで、穂乃果が本当にあなたのことを好きみたいじゃない!!!」
真姫「――そうだって、言ったら?」
絵里「ありえない! だって穂乃果が目を覚ましてからまだ二週間くらいしか経ってないのよ!? そんな、そんなのありえるわけない!!」
真姫「そうやって呑気にしてるから……誰かに獲られちゃうんじゃないの? ――私はそうだったわよ」
絵里「!?」
真姫「穂乃果のことが、死ぬほど好きだった。初めてだったわ、人を好きになることがこんな感情だったなんて思いもしなかった。あの人のためならなにをしてもいいと思えた、なんでもしてあげたいと、思った」
真姫「でもね、私は動けなかったわ。臆病になって、行動出来なくていざ動いてみたら……穂乃果は絵里のことしか見ていなかった」
絵里「なによ……だから、だから……私から穂乃果を奪ったって、言うこと!?」
真姫「……」
真姫「ええ」
絵里「ふざけないでっ!!!」バンッッ
絵里「なにが穂乃果のためになんでもしてあげたい、よ! ただ真姫の気持ちを押し付けてるだけじゃない!!」
真姫「っ……」
真姫「……そう、かもしれないわね」
真姫「でも私は"今の穂乃果の気持ち"を、優先してる」
真姫「――絵里、お願い穂乃果を譲って」
絵里「何言ってるのよ!? 穂乃果は私の恋人よ!!」
絵里「絶対……絶対そんなの認めない」
真姫「……」
ことり「ちょ、ちょっと入っちゃだめだよぉ!!」
真姫「?」
穂乃果「いいからどいて!!」
ガチャ
絵里「穂乃果!? と、ことり」
ことり「……」
穂乃果「はぁっはぁっ……」
ことり「あ、あのごめんね。盗み聞きするつもりは、なかったんだけど」
穂乃果「真姫ちゃん!!」
真姫「?」
穂乃果「――私に、嘘ついてる?」
真姫「っ…………」
海未「はぁ、はぁ……」
真姫(海未も……)
穂乃果「答えて真姫ちゃん、私真姫ちゃんと付き合ってたんじゃないの!?」
絵里「!?」
ことり「!?」
絵里「なるほど……そんなウソ、ついてたのね」
絵里「穂乃果に意識させて、だからこんな短期間で」
ことり「真姫、ちゃん」
真姫「……」
穂乃果「ほ、ほんとに……私、絵里ちゃんと付き合ってたの……?」
絵里「穂乃果思い出したの!?」
穂乃果「……ごめん、聞いただけなの」
海未「すみません……流れで」
絵里「……穂乃果」
穂乃果「なんで真姫ちゃん、どうしてそんなウソついたの……?」
真姫「……」
絵里「穂乃果……私のところへ、戻ってきて?」スタスタ…
絵里「ね、真姫より……楽しい思い、させてあげるから」
ギュッ
穂乃果「っ」
穂乃果(この、感覚……なんか、懐かしい)
穂乃果(けど……)
穂乃果「私……は」
穂乃果「――私……ウソ、つかれても真姫ちゃんのこと嫌いになれない、よ……」
真姫「穂乃果……」
穂乃果「だって、だって好きになっちゃったんだもん……! "初めて"人のこと、好きになったんだもん……」ウル…ウル
絵里「!?!?」
絵里「なに、それ……ちょっと待ってよ穂乃果!」ガシッ
穂乃果「い、いたいよえりちゃん……!」
絵里「なんでよ、なんで!?」
絵里「思い出してよ穂乃果!!!」
海未「絵里……」
真姫「言ったでしょう、私は穂乃果の気持ちを尊重しているって」
絵里「っ……穂乃果、写真、携帯で私との写真たくさんとってたでしょ? それ見ても、思い出せない?」
穂乃果「……写真? 見てた、けど……そんなの、なかったよ」
絵里「私の家とか、一緒に遊びに行った時とか……あんなに撮ってたじゃないっ」
穂乃果「わ、わかんない、よ」
絵里「っ……」
真姫「ないものはないのよ、絵里……今の穂乃果に"穂乃果"を押し付けるのはやめた方がいいわ」
真姫「ほとんど変わらないけれど、あなただけが知っている"穂乃果"は今はいない」
絵里「っ」
絵里(おかしい、あんなに撮っていたのに……私との写真だけがなくなる?)
絵里「……真姫、あなた……」
真姫「……」
穂乃果「え、え?」
絵里「――穂乃果の写真を消したわね?」
絵里「ううん、写真だけじゃない……LINEのトークも」
穂乃果「え……そんな、だから全部なくなってたの?」
絵里「これを見て、穂乃果」
穂乃果【絵里ちゃん絵里ちゃん! 明日、どこ集合だっけ?】
絵里【また忘れたの?】
穂乃果【うーん、ごめん!】
穂乃果【そんなことよりとりあえず通話しよ!】
通話時間 1:34:22
穂乃果【楽しみで眠れない】
絵里【知らないわよ、さっきまであんなに話してたじゃない】
穂乃果【大好き♡♡♡】
穂乃果【ずっと絵里ちゃんの声聞いてたいもん!!】
絵里【わ、わかったから……ね? 明日は練習終わったら遊ぶんだから、早く寝ましょ?】
穂乃果【んー……わかった! おやすみ!!】
スタンプ
穂乃果「私……こんなの」
絵里「……この二日後、あなたは事故にあったわ。私の、せいよ。二人きりで遊ぶの、ちょっと久しぶりでね。穂乃果がはしゃいでるの、わかってたのに……」
絵里「ごめんなさい……っ」
穂乃果「うそ、そんな……私」
穂乃果「真姫ちゃん、どうして? うそ、だよね?」
真姫「…………そうよ」
絵里「っっ」パアアァッンッ‼︎‼︎
真姫「いっ……た」
穂乃果「絵里ちゃん!!」
真姫「……」ギロッ…
絵里「あなた、自分がなにしたかわかってるの!?」
ことり「だめだよ絵里ちゃんっ」
絵里「ことりはだまってて!!」
ことり「っ……ごめ、ん」
絵里「絶対……許さない」
真姫「……覚悟、してた」
真姫「でも、欲しいものは……欲しいのよ」
真姫「これでわかったでしょ……死ぬほど欲しかったものが、奪われるのがどんな気持ちか」
絵里「このっ――」
穂乃果「絵里ちゃんお願いやめて!!!」
ガシッ
穂乃果「お願い、だから……」
絵里「なんでなのよ!? なんで真姫のことをかばうの!? あなたが思い出さないように裏で動いてたのよ!? 許されるわけないじゃない!」
穂乃果「確かに、許せない」
北海道「酷いよ、真姫ちゃん……」
真姫「っ…………」
穂乃果「でもね絵里ちゃん、記憶を無くした私に一番優しくしてくれたのは……本当のこと、だもん」
穂乃果「すっごく、あったかかった……不安で不安でたまらなかったけど……真姫ちゃんが毎日夜来てくれたから……大丈夫だった」
真姫「穂乃果……ごめん、なさい……」
穂乃果「……」
絵里「なんでよ! 私だって優しくしてたじゃない! なんで私じゃだめなの!?」
穂乃果「……わかん、ないよ」
穂乃果「でも好きに、なっちゃったんだもん」ウル…ウル
穂乃果「ごめんね、絵里ちゃん……やっぱり私、真姫ちゃんのことが――」
北海道…!?
穂乃果「うっ……ぅ頭……ごちゃ、ごちゃ……わけ、わかんない」
絵里「穂乃果、私よ、わかる?」
穂乃果「うん……わかる」
穂乃果「――あ……あぁ……あぁ……思い、だ、した」
真姫「!?!?」
穂乃果「絵里ちゃんと付き合ってたことも……みんなとの、思い出も思い出した、よ」
海未「本当ですか!?」
ことり「穂乃果ちゃん!」
真姫(どういうこと!? もしかして……前に絵里とキスをしていて……それが強く印象に残ってたって、こと?)
絵里「よかった……穂乃果っ」ギュッ
絵里「心配したのよ!? もう、戻って来ないんじゃないかって」
穂乃果「ご……めん、みんな……」
真姫「……」
絵里「今度は忘れないように、二人で色々なところに、行きましょう?」
穂乃果「……絵里、ちゃん」
絵里「なに?」
穂乃果「ごめんね、絵里ちゃん……」ポロポロ…
絵里「どうしたの穂乃果!? 大丈夫?」
海未「?」
穂乃果「ひっぐ……うぅ、ひっ、ぅ」
穂乃果「……うぅ……ごめん、絵里ちゃん……私ね、私……あぅ……――真姫ちゃんのこと好きな気持ち、消えない、よぉ」
>>131
北海道、行きたかったんです。
絵里「え…………?」
真姫「!?」
絵里「な、なんで、なんで……? だって穂乃果は記憶を――」
真姫「なるほど……」
真姫「……絵里、記憶は過去のものよ。一定期間の記憶を失ったからといって、穂乃果の今ある人格自体が変わったわけじゃないわ」
真姫「今を過ごす穂乃果が記憶を取り戻しても、穂乃果にとって……絵里とのことは過去のことになっている」
真姫「――穂乃果の今ある心が……全部前の状態に戻るわけじゃない。今あった心に記憶が混じって、ごちゃ混ぜになる。私を好きって言ってくれた穂乃果がいなくなるわけないし、絵里を好きって思っていた穂乃果がいなくなるわけじゃない。少なくとも今言えることは、絵里、穂乃果はあなただけを好きになっているわけじゃない」
絵里「そん、な」
真姫「ま……結果はどうなるか、正直予想はできなかったけれど……」
真姫「それでも私は言ったはずよ、今の穂乃果の気持ちを優先しただけって」
絵里「…………穂乃果、ウソよね? ね、私のこと、まだ好きでいてくれるわよね?」
穂乃果「ぁ……ああ」
穂乃果「あああああああああっっ!!!!!!」
穂乃果「ごめん、なさい……なんで、なんで……ごめん、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいいぃぃ……っ」ポロポロ
>>132のとこです。申し訳ありません。
絵里「――んっ」チュゥッ
穂乃果「!?!?」
真姫「ちょっ」
ことり「ほわぁ……」
海未「//」
穂乃果「んっ……ふ///」
真姫「ちょっと!? 離れなさい!!」グイッ
絵里「なによ……穂乃果は私のものよ、あなたには関係ないでしょ!? 私が知ってた穂乃果は、少し眠っているだけ! こんなの……こんなの――穂乃果じゃない!」
穂乃果「えり……ちゃ、ん……?」
真姫「……っ、最っ低」
絵里「あなたにだけは、言われたくないわ」
穂乃果「ぅ……」クラリ
海未「穂乃果!?」
ことり「大丈夫!?」
穂乃果「ぅ……あ、あぁ……」
穂乃果「あああぁぁぁ…………」
絵里「ど、どうしたの?」
真姫「穂乃果?」
穂乃果「……ぅ」ポロポロ…
穂乃果「えり、ちゃん……ごめん、ね」
真姫「!?」
絵里「"穂乃、果"……?」
絵里「穂乃果っ!!」
穂乃果「いやぁあああ!!!」
海未「――絵里、やめましょう」
絵里「なんでよっ!」
海未「穂乃果は混乱しています……今日は帰ってもらって、また後日……」
穂乃果「…………」
海未「穂乃果、帰りましょう?」
穂乃果「ひ……ひとりは、やだよ……」
海未「では私が」
真姫「――いえ、私が家まで送っていくわ」
絵里「……ちょっとっ!!」
真姫「穂乃果、それでいい?」
穂乃果「……」チラッ
穂乃果「――……う、ん」
絵里「なん、で?」
真姫「ええ、分かったわ」
真姫「そういうことだから……いきましょ?」
スタスタ
絵里「……っ」
海未「絵里……」
絵里「あぁ……」
絵里「うぅ……ううっ……あああああああああああ!!!!!!」
◇――――◇
保健室
絵里「ううっ」
海未「……」
海未「少しは、落ち着きましたか?」
絵里「落ち着くわけないじゃない!!!」
絵里「なんでよ……穂乃果ぁ……」
海未「……力になれることがあったら、言って、ください」
絵里「うぅっ、ひっ……ぅ」
海未「……………」
ギュッ
絵里「へ……」
海未「す、少しは、落ち着き、ますか?」//
絵里「海未……あなた、ダメよ、こんなこと」
海未「……え、絵里は大切な友人、ですから」ドキ…ドキ
海未(そ、そうです。これも友人として……当然のことをっ)
絵里「海未……」
絵里「やっぱり、"あなたも"」
海未「?」
絵里「いえ、なんでもない」
絵里「とにかく――」
凛「――先生ー!!!」
ガラッ
海未「!?」
凛「え……………?」
海未「り、りん」
絵里「っ」
凛「ちょっと……なに、してるの?」
海未「こ、これは……その、色々ありまして」
海未「絵里の精神状態が不安定で、安心させなければと思って……」
絵里「……」
凛「……」
絵里「凛、信じてあげて?」
凛「う、うん……」
海未「凛はどうして?」
凛「足を擦りむいちゃったんだ!」
海未「そうですか……ここのモノ、勝手に使っていいと思いますか?」
絵里「常識的に考えたらダメでしょうね」
海未「そうですよね。それでは凛、とりあえずことりのところへ行きましょう?」
絵里「私は一人でも、大丈夫だから」
海未「……はい」
絵里(海未……お願い、だから)
海未「行きましょうか」
凛「うん……」ギュッっっ
海未「そ、そんなに強く寄らなくても」
凛「……凛にこうされるの、嫌なの?」
海未「そんなわけ、ありませんよ」
凛「じゃあいいでしょ?」
海未「……」
凛「……」
◇――――◇
穂乃果の家
真姫「少しは落ち着いた?」
穂乃果「うん」
真姫「……穂乃果、ごめんなさい。きっと私のことを許せないと思うわ」
穂乃果「……」
真姫「でも、私の気持ちは本当よ。これからはあなたのために、償いたい。穂乃果のために、生きていきたい」
穂乃果「……わたし、絵里ちゃんにひどいことしてる……絵里ちゃん……あんなに優しかったのに」
真姫「絵里のことが気になる?」
穂乃果「わかん、ない」
穂乃果「色々……わけわかんないよっ」
真姫「……私は酷いことをしたわ、あなたにもみんなにも」
真姫「それでも……私を好きでいてくれるの?」
穂乃果「…………」
穂乃果「う、ん……」
穂乃果「――でも、こんなのだめなのわかってる! だって、絵里ちゃんもいるのにっ」
穂乃果「私は絵里ちゃんのことも――」
真姫「ねえ穂乃果、今回のことは……全部私が悪いの。私が仕組んで私が穂乃果の心を利用して……私を好きにさせた」
真姫「穂乃果はなにも悪くないわ。悪いのは私」
真姫「そう考えると、少しは楽になるでしょ?」
穂乃果「……」
穂乃果「……私、悪く、ないの?」
真姫「ええ、記憶が飛んで、色々巻き込まれちゃっただけよ。穂乃果はなにも考えなくていいわ」
真姫「そっちの方が――幸せになれる」
ギュッ
真姫「穂乃果、私を選んでくれてありがとう」ナデナデ
穂乃果「///」
真姫「ずっと、こうしていられたらいいのにね」
◇――――◇
後日
ことり「凛ちゃん、大丈夫?」
凛「…………」ジワッ…
凛「海未ちゃん……全然構ってくれないよ」
ことり「でも、昨日もふたりきりでいたんだよね?」
凛「二人でいても、最近はいつも違うこと考えてるんだもん。携帯ばかり、気にして」
凛「きっと――絵里ちゃんと連絡取ってるんだよ」
ことり「っ……」
凛「凛……嫌われちゃったの、かな。何か変なこと、したかな」ポロ…ポロ
ことり「凛ちゃん……」
ことり「私が、なんとかするから。大丈夫、絶対私がなんとかする」
凛「うぅ……ごめん、ね」
ことり「ううん、辛いよね?」
ことり(なんとかしないと……私が、なんとかしないとっ……)
◇――――◇
後日
ことり「海未ちゃん!!」
海未「ことり?」
ことり「……また、絵里ちゃんのところへ行くの?」
海未「まだ、よくならないので」
ことり「ねえ、凛ちゃんのこと……ちゃんと考えてあげてね?」
海未「昨日も、会ったのですが」
ことり「……ただ会うだけじゃだめでしょ?」
海未「……私なりに考えているつもりです。ことりは、私が凛のことを嫌いになった、と言いたいんですか?」
ことり「そうじゃないよっ。でも……凛ちゃん、寂しそう、だよ」
海未「っ…………」
海未「夏休みが終わるまでの期間だけだと思うんです。だから……ことりからも、凛に言っておいて、くれませんか」
ことり「……っ」
海未「すみません……私はこれで」
◇――――◇
絵里「……」
絵里「穂乃果……」
海未「……」
絵里「海未も、もう来なくてもいいのよ」
海未「なら、絵里が練習に来てください。そうしないと私も、戻れません」
絵里「もういい……穂乃果がいないなら、そんなのっ……」
海未「絵里……」
絵里「ねえ、海未。どうしてあなた、私なんかのために、こんなに優しくしてくれるの?」
海未「それは……やはり、絵里がいないと」
絵里「――それだけ?」
海未「え?」
絵里「――希も、そうだったわ」
絵里「大切な友達だけど……"そんな風"に想われると色んなこと、相談出来なく、なるでしょ」
海未「あの……」
絵里「…………」
絵里「凛が悲しんでるんじゃない? だって、海未――私のこと好きだったんでしょ?」
海未「っっ!? な、なんで」
絵里「――今も、そうなんじゃない?」
海未「!? そ、そんなわけありません!! わ、私は凛のことが!」
絵里「嘘ね」
絵里「自分がどう見られてるかくらい、わかっちゃうのよ
海未「……な!?///」ドキドキ
絵里「……だめよ、海未。お願いだから……もう、これで終わりにして」
絵里「凛が悲しむわ、お願い」
海未「………っ、わたし、は……凛のことが、好き、です」
絵里「……そう、ならそれを本人に言ってあげて」
絵里「私とは、友達で、いて」
海未「……」
海未「はい……っ」
海未「絵里は、どうするのですか」
絵里「どうするって」
絵里「そうね。どうしよう、かしら」
絵里「はは…………私は、どうすれば、いいんでしょうね」
絵里「うっ………ぅ、穂乃果……」
◇――――◇
穂乃果「……」
穂乃果「ひっ……」
真姫「また絵里から?」
穂乃果「うん」
穂乃果「……」
真姫「大丈夫よ」ギュッ
穂乃果「絵里ちゃんに謝らなきゃ……謝らなきゃ……」
穂乃果「でも、怖いよっ……私、私っ……」
穂乃果「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……………」
真姫「……携帯の電源は切って」
真姫「ねえ、こうしていられれば、それでいいと思わない?」ギュッ
穂乃果「……」
穂乃果「まき、ちゃん……」
真姫「私がついてるわ、安心して」
穂乃果「うぅ……」
穂乃果「私達、夏休み終わったら、どうするの? 練習、しなきゃだよね?」
真姫「先のことなんて、考えなくていいの。私に任せて。穂乃果は私のそばで、そうしてくれてればいいの、ね?」
穂乃果「……」
穂乃果「でも、絵里ちゃ――」
真姫「あーもうっっ、ここ最近絵里絵里絵里絵里絵里って! あんな人!! どうでもいいでしょ!?」
穂乃果「ど、どうしたの真姫ちゃん……こわい、よ」
ガシッ…
真姫「穂乃果……私のことを好きって言ってくれたじゃない……絵里なんて、どうでもいいでしょ」
真姫「私が――忘れさせてあげるわ」
穂乃果「な、なに!? どうしたの!?」
真姫「んっぅ……」
穂乃果「!?!?」
ガバッ……ググッ
穂乃果「あっ……んっ、ふっぅ////」
真姫「っ……はぁ、はぁ」
穂乃果「うっ……うぅぅ、やだぁ……」グズグズ
真姫「っ……………」
真姫「大丈夫よ、私のことだけ見てくれるなら……優しくする、から」
◇――――◇
夏休みが終わるまであと一週間になりました。どこかから九つになるまで勝手に持ってきた椅子は、今は四つ、空いている。
絵里ちゃんはあれから、体調を崩しちゃったみたいでしばらく来ていない。穂乃果ちゃんが出て行った部室で崩れ落ちた姿が今でも目の裏側に焼き付いて、離れてくれなかった。綺麗な顔がぐちゃぐちゃになって、頭を掻き毟る様を見て……私は何もできなかった。ぼーっと立ち尽くす私と違って横にいた海未ちゃんは絵里ちゃんを連れて保健室に向かった。ふたりっきりで何を話したのかわからないけど……私はそれ以来絵里ちゃんの姿を見ていない。希ちゃんやにこちゃんも毎日メールや電話をしているんだけれど、返ってきた試しは一度としてなかった。
穂乃果ちゃんと真姫ちゃんは……しばらく練習には行けないというメールが来て以降。音沙汰すらないの。今どうしているかも、わからない。前とは違って真姫ちゃんの家には入れてもらえなくなって、穂乃果ちゃんの部屋の前で呼びかけても隣の部屋から雪穂ちゃんが出てきて、小さく首を横に振るだけ。何度も繰り返したけれど、どれも結果は同じだった。
記憶だとか心だとか……今の医学を持ってしても解明されてないことばかりらしい、だとしたら穂乃果ちゃんのようなケースがあっても……おかしくはない、のかもしれない。
凛ちゃんが空いている一つの席を見て大きなため息をついた。やがて携帯電話を取り出すと、慣れた手つきで文字を打ち込んでいく。この光景も見慣れたもので……朝のこのタイミングで、凛ちゃんはしばらく不在である海未ちゃんにメールを送信するのが日課になっていた。
凛ちゃんがこうする理由として、不安、以外の感情はないと思う。海未ちゃんがどうしてこの場にいないのか、それは……絵里ちゃんのところに行っているからだった。
体調を崩してしまった絵里ちゃんに少しでも力になりたい、と良くなるまで付き添うことを決めたことで……凛ちゃんは海未ちゃんと会う時間がとても減ったらしい。一応は電話をしたりもしてるらしいんだけど……何がダメって、海未ちゃんは昔、絵里ちゃんのことが好きだったことがあること。当然凛ちゃんもそれを知っているから、気が気ではないようだった。
メールが返ってこない、海未ちゃんが最近素っ気ない。凛ちゃんはとにかく些細なことでも泣き出してしまうようになった。なんとか私や花陽ちゃんが慰めようとしてあげてるんだけど……なんだか同じことを繰り返しているだけのようにも思えてしまう。
海未ちゃんは凛ちゃんを悲しませていることに気がついていないのかな……。今日だって、私、言ったはずなのにな……。凛ちゃんがこんな状態なの、気がついてないの? 夏休み終わるまでだなんて……凛ちゃんに言えないよ。だって、夏休みは一番一緒に居たい時間のはずでしょう? ……はやく戻ってきてよ、海未ちゃん。
ねえ、こんな時、穂乃果ちゃんがいたらどうする、かな?
太陽みたいな光で、みんなの心の隙間を埋めてくれたのかな。
でもそれも、沈んでしまった今となってはわからない。ううん、沈んだなんて失礼だ、穂乃果ちゃんはちょっとだけ休憩してるだけだよね。すぐ戻ってきて、また前みたいに私たちのこと、照らしてくれるもんね。穂乃果ちゃんは今まで頑張ってきたもんね……その間くらい私も頑張らないと、だよね。
とりあえず今日はまた穂乃果ちゃんの家に行ってみて、海未ちゃんに電話をかけて……明日は――。
ことり「……」
ことり「ぅ……うぅ」
にこ「……ことり?」
希「どうしたの、大丈夫?」
ごめんね……やっぱり、私じゃ、無理みたい。
穂乃果ちゃんみたいにみんなのこと、引っ張っていけないよ。私が何したって、ダメ、なんだ。みんなのして欲しいこと、わかんないよっ。
溢れ出るものを止められない私を見兼ねた花陽ちゃんが、両肩に手を添えてくれる。でもその優しさが、辛かった。何もできない自分が悔しかった。
泣いちゃだめなのに、泣いたら……余計な心配かけちゃうだけって、わかってるのに。私、頑張らなくちゃなのに。みんな、頑張ってくれてるのに、私だけ、こんなの……だめなのに。
そう思えば思うたび、我慢してきた何かが込み上げる。溢れ出る私の嗚咽をかき消すように、外では雨が降ってきたようだった。
べったりと張り付くような陰湿な空気感が、部室の中にまで漂ってしまっている。
再び日が出るのがいつなのかは、誰にもわからない。
◆――――終わり―――◇
相当前から書きたかったやつでした。色々ご都合主義でしたが、見てくれた方は、本当にありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
個人的にとても好きだった。続きが気になる…