用心棒「派手にいくぜ」 (256)


 スボッ スボッ スボッ スボッ スボッ…

番頭「おお、寒い寒い……」ブルブル

番頭(江戸にこんな大雪なんて、いつぶりだろう……歩くたびに、すぼ、すぼ、って音がすらあ)

番頭(黒船が来てから全部狂っちまったみてえだ……ナンマンダブナンマンダブ)ハアー


番頭「おい!居るんだろう!開けろ」バンバン

大工「誰です何です一体?」ガラッ

大工「げっ……番頭さんじゃないですか」

番頭「そうだよ番頭さんだよ。なんか文句あるのかい」

番頭「わざわざ雪の中を来たんだ、今日こそは三両、耳を揃えて返してもらうよ」

大工「きょ、今日は都合が悪くて……」

番頭「何言ってるんだい、おとついに明後日返すと言ってたじゃないか」

番頭「今日は返してもらうまでてこでも……ん?」


 スボッスボッスボッスボッ…

少年「はあ……はあ……」

少年「痛っ!」ズキッ


番頭「……子供が……」

大工「……江戸もすっかり物騒になったもんでさ」

 ガラッ ピシャリ


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1459593163


 スボッスボッスボッスボッ…

少年「はあ……はあ……」

少年「あっ」ズルッ

 ズボッ! 

少年「……う、う……」


?「鬼ごっこはこれくらいで十分だろう、小童」

少年「!」クルッ

浪人甲「そろそろ首と体にお別れしてもらう時間だぜぇ」スラッ

浪人乙「でもまあ、嬉しいだろう?親父とお袋のところに行けるんだからよ!」スラッ

浪人丙「……お前の家の人間を一人も残すな、との依頼なんでな。念仏でも唱えていろ」

少年「……!」ギロッ

浪人甲「そう睨むなよぉ。ね、いい子ちゃ~ん……」ジリジリ

浪人乙「痛いのは最初だけだからよ……なあ、おとなしく……」ジリジリ

少年「うあーっ!」ダッ

浪人甲「おっ!?」ガッ グラッ

浪人乙「わっ!?」ガッ グラッ

 ズボッ! ズボッ ズボボッ

少年「はあっ、はあっ……」ヨロヨロ

浪人丙「はっ!」シュッ

少年「ぎゃあっ!」スパッ

浪人丙「手間取らせやがって……」

少年「ううっ……」ヨロッ ドサッ

 グラグラ

浪人丙「……む?」

 ドサドサッ

浪人丙「うおっ!?ゆ、雪が!」

少年「!」

 スボッスボッスボッ…

浪人甲「逃げやがった!」バタバタ

浪人乙「おのれ、クソガキ!」バタバタ

浪人丙「いつまで雪遊びしてんだお前らは!?」バタバタ

浪人甲・乙『田舎と雪質が違うんですよ!』バタバタ

浪人丙「クソッ、坊主め!この代償は高くつくぞ!」バタバタ


 スボッ スボッ スボッ…

少年「はあ……はあ……」トボトボ


少年(……おや、橋だ……)

少年(……武家の家に生まれながら、家族も守れないなんて……)

少年(……いっそ、川に飛び込んで死んでしまおうか……)

少年「っ……目眩が……」クラッ

 ズボッ

少年「……」

少年(もう、起き上がる気力もない……)


<スボッ スボッ スボッ…
 <スボッ スボッ スボッ…

?甲「……」

?乙「……」


少年(……男と、女だ……)

少年「……父上……」

少年「……母上……」

<スボッ スボッ スボッ…
 <スボッ…

?乙「……」ピタ…

?甲「……?」クルッ

?乙「……」

?甲「……ほうっておけ。行くぞ」

?乙「……」

?甲「……おい!」


<ズボッズボッズボッズボッ
 <ズボッズボッズボッズボッ
  <ズボッズボッズボッズボッ

浪人甲「おっ!いやがった、クソガキ!」

少年「!……」

浪人乙「へっへっへえ、雪の布団が火照った体に心地よかろう?」

浪人丙「……む?何だ手前らは」

?甲「!」

浪人甲「さては正義の味方だな?」ヘラヘラ

浪人乙「おう、おう、とっとと尻尾巻いて逃げたほうが自分のためだぞ?」

浪人丙「……男、貴様は見たところ浪人のようだが」

?甲→用心棒「……いや、俺は用心棒。こっちは相棒だ」

?乙→相棒「……」

浪人丙「そうか。とっとと消え……」


浪人甲「わかった、こいつ、このガキの叔父だな!」

浪人乙「そうだった!こいつの叔父は、家を襲ったとき留守だったから逃がしちまったんだった!……待てよ?」

浪人乙「……そういえば、追ったのはお前だったな?そして仕留めそこねた……」

浪人甲「うっ……」

浪人丙「お、おいキサマら、何を早とちりして……」

用心棒「そうだ、人違い……」

浪人甲「ええい問答無用!死ねっ!」ビュンッ

用心棒「チッ!」ゴソッ

 ガキインッ!

浪人甲「――な!?」

浪人乙「――に!?」

浪人丙(あ、あいつ……刀を短銃で受け止めやがった!?)

浪人丙(それより、何であいつは短銃なんて持っていやがる?)

浪人丙(もしや、浪人のような風貌だが――幕府の役人か!?)

浪人丙(だとしたらそいつに斬りかかった俺たちは――)


浪人丙「殺せ!早く殺せ、証拠を残すな!」

浪人甲「!?――は、はい!せいやっ!」ビュンッ!

用心棒「馬鹿め!」ジャキッ

 ズドンッ! ズドンッ!

浪人甲「ゴフッ」ドサッ

浪人乙「ガフッ」ドサッ

浪人丙「は、速――」ゴソッ

用心棒「遅い」ジャキッ

 ズドンッ!

浪人丙(お、俺は……なんてついてないんだ)

浪人丙「ゲフッ」ドサッ

用心棒「……!」スッ

用心棒「……」スッ ゴソッ


用心棒「……ところで、そいつは生きてるのか?」

相棒「たぶん」

少年「……う……」

用心棒「……生きてるみたいだな」

相棒「うん」

用心棒「どうするんだ?」

相棒「……」グイッ

用心棒「何でそいつを背負って……まさか」

相棒「助ける」

用心棒「……まったく……」ハア

<スボッ スボッ スボッ…
 <スボッ スボッ スボッ…


?(用心棒と相棒……?なぜこんなところに現れたんだ)

?(俺の計画では、浪人どもが子供を殺し、俺が浪人どもを殺すはずだったんだが……)

?(……まあいい。どうせあの坊主は助からん。浪人どもも死んだ)

?(しかし、あの用心棒……俺の計画に組み込むには少々『強すぎる』かな)

?(始末してしまうか)

 スボッ スボッ スボッ スボッ スボッ…

今日はここまで


少年(……はっ)

少年「……こ、ここ、は……」

?甲「俺の家だ、坊主」

少年「!?」ガバッ

少年「っ……」ズキッ

少年「……?」

少年(ケガが手当されている……)

?甲「あいつが妙なところで人情味を発揮しやがるから、また面倒のタネが……」ブツブツ


少年(……長方形の部屋だ。短い一辺に土間があり、竈と玄関がある。長屋の一室だろうか?)

少年(大きな衝立で区切られている。僕はその奥側に敷かれた布団に寝かされていたようだ)

少年(浪人風の男はやはり奥側に置かれた卓の上で、手のひらに収まるくらいの大きさの何かをいじっている)


少年「……すいません、あなたは……」

?甲「俺は用心棒だ」

少年「用心棒……さん」

用心棒「言っておくが……俺がお前を助けたのは偶然の結果に過ぎない」

用心棒「お前をここまで連れてきたのも、手当したのも、相棒なんだからな」

少年「相棒……」

用心棒「俺と一緒に居た女だ」

 ガラッ ピシャリ

相棒「……」

用心棒「噂をすれば影が差す、とはよく言ったもんだ……」

用心棒「おい、相棒。坊主が目を覚ましたぞ」

相棒「……そう」

 ガサガサ カチッカチッ ボッ

用心棒「おい、わざわざ飯なんて作ってやらなくても……」

相棒「……温め直すだけ」

用心棒「フン、そうかよ……」


少年「……」

少年(僕は、殺された家族のことを思い出していた)


少年(僕は養子だが、家族は僕を至極優しく迎えてくれた。歴史ある武家にも関わらず、その家庭は温かだった)

少年(源氏の子孫である立派な父上、温厚な母上、物知りな叔父上と、僕の四人での生活は実に楽しかった……)

少年(しかしある日、叔父上の留守中に、浪人たちが我が家を襲った)

少年(父上に恨みのある、油商人が差し向けたのだ!十中八九間違いない)

少年(父上と母上は僕を逃がし、刀を取って戦ったが……)

少年(……たまらなくなって家に戻ってしまった僕が目にしたのは、父上と母上の死体だった)

少年(そして戻ったために浪人たちに見つかり、追われたが、用心棒さんたちに匿われたのだ)

少年(今となっては叔父上の生死もわからない……もしかしたら、僕を除いて一家は全滅してしまったのかも……)


相棒「……坊主」

少年「っ!はい!?」

相棒「ん」スッ

少年(……粥だ)

少年「あ、ありがとうございます」

相棒「……」

 ノシノシ… ドカッ

相棒「……」ゴソゴソ

相棒「……」パラ…

用心棒「おう、また借本屋から借りてきたのか。好きだな」

相棒「ん」パラ…


少年(よく見たら、相棒さんはかなり器量がいいようだ。愛想はともかく親切なようだし……)カチャッ

少年(しかし頬には傷があるし、杖を持っているということは足も悪いんだろうか?)フーフー

少年(……これからどうしよう)パクッ

少年(油商人を……仇を、討ちたいけれど……僕には力がない)モグモグ


少年(……そういえば、意識が朦朧としていたけれど、見た気がする)ゴクン

少年(用心棒さんが短銃で、浪人たち三人をあっという間に倒してしまったところを)フーフー

少年(……強いんだな。格好いいな……)パクッ

少年(僕にもそんな力があったら、仇が討てるのに……)モグモグ


少年(……弟子にしてくれないだろうか)ゴクン

少年(どうせ家族はいないんだ。構うことはない……掃除でも洗濯でも何でもしてやるぞ)フーフー

少年(……弟子にしてくれるだろうか?)パクッ

少年(用心棒さんは少し、とっつきずらそうだけれど……)モグモグ

少年(いや、弟子にしてくれるまで頼み込んでやるぞ。土下座だってしてやる……もう失うものなんてないんだ)ゴクン

少年「ごちそうさまでした」カチャッ

相棒「ん」


少年(でも、それは明日にしよう……)ウトウト

少年(……今日は少し、眠い……)ウトウト


用心棒「……おい。これを見てみろ」ヒソヒソ

相棒「?」

用心棒「この前の浪人が持ってたものだ」ヒソヒソ

 ガチャリ

相棒「……洋式短銃?」

用心棒「ああ。火縄銃より遥かに高価で高性能だ」ヒソヒソ

用心棒「そんなもんをただの浪人が持ってる訳無いだろう?あいつらは誰かに雇われたんだ」ヒソヒソ

用心棒「役人か……もしくは商人。おそらくは後者だろうな」ヒソヒソ

用心棒「あの坊主、なかなか面倒なことを持ち込んでくれたかもしれん……」ヒソヒソ

相棒「……そうかな」

用心棒「否定しようと思えば簡単だが……この短銃、欲しいか?」ヒソヒソ

相棒「いらない」

用心棒「そうか。じゃあ折を見て売り払ってしまおう」ヒソヒソ ゴソリ

相棒「……ところで、何で小声なの?」

用心棒「え、そりゃあ坊主に聞こえるとまずいから……」ヒソヒソ

相棒「……」チョイチョイ

用心棒「……?」クルッ


少年「……ぐう……ぐう……」


用心棒「ケッ、呑気なヤツ」

相棒「……」


相棒「……」ペラ…

用心棒「……何の本だ?」

相棒「……」スッ

用心棒「『滅ビシ剣法』……需要あるのかこんな本?」

相棒「ある」コクコク

用心棒「ふうん……ちょっと見せてくれ」パラパラ

用心棒「『三日月流』、『不破流』、『南部流』に『呑流』……」

用心棒「……ん?『草薙流』ってお前の流派じゃ……」

相棒「!」バシッ

用心棒「……フフッ、何で滅びたことにされてんだ?クックック」

相棒「……」ワナワナ

用心棒「まあ、女で、しかも得物が仕込み刀じゃあな……流派以前に、剣術家かどうかの時点で外道だ」

相棒「……」ウルウル

用心棒「……あっ!?いや、その……」

用心棒「戦う上では有利だと思うぞ?不意打ちもできるし……な!な!」

相棒「……」スック

 ノシノシ… ガラッ ドサッ ストンッ

相棒「寝る」ゴロリ

用心棒「……ところで、この家には布団が二つしかなかったよな?俺のぶんは?」

相棒「ぐーぐー」

用心棒「おいこら」


用心棒(チッ……あっ、火鉢の炭まで切れやがった)

用心棒(……もう雪はやんだし、これから買いに行くか)

用心棒(その間には相棒の機嫌も直るだろう……)スック

用心棒「炭を買ってくる」

相棒「……」

用心棒「……」ハア

 ノシノシ… ガサガサ ガラッ ピシャンッ

相棒「……」

<スボッ スボッ スボッ…



相棒「……」ゴソゴソ


相棒「……」ペラ…


相棒「……」ペラ…


相棒「……」チラッ

少年「……ぐう……ぐう……」


相棒「……」ペラ…


<…スボッ スボッ


相棒「……?」


<スボッ スボッ スボッ
 <スボッ スボッ スボッ


相棒「!」

相棒「……」グイッ

少年「うぅん?あ、相棒さん?」ムニャムニャ

相棒「……」ピッ

少年(相棒さんは緊張した面持ちで押し入れを指した。隠れろ、ということだろう)

少年「……」コクリ

 ガラッ ゴソゴソ ストンッ

少年(また、浪人たちが襲って来るんだろうか……)

少年(相棒さんはどうするつもりなんだろう)


刺客甲「……ここか、兄貴」ヒソヒソ

刺客乙「……そのはずだ」ヒソヒソ

刺客乙「標的は女だ。外出した男は『狐小僧』が仕留める」ヒソヒソ

刺客甲「女に二人がかりとはね……まあいい」ヒソヒソ

刺客甲「準備はいいか?」ジャキッ

刺客乙「いいとも」スラッ


 ガラッ


刺客甲「死ね……あ?」キョロキョロ

刺客乙「馬鹿な、誰もいないだなんて……そんなはずは」キョロキョロ


刺客甲「ちくしょう!どこに行き……」

 バキャアッ ドスッ

刺客甲「ぐあっ!?か、肩が!」ズブッ

刺客乙「天井裏か!?くらえっ!」ビュッ

 バキャッ

刺客乙(手応え……なし……)


 ガタゴトッ

相棒「……」スタッ

刺客乙(やはり無傷か……おそろしい女だ)

刺客甲「てめえ……そんな杖で……戦うつもりか?」

刺客甲「……ンフッフッフッフ……ハッハッハッハッハ!」

刺客甲「さっき使った刀はどこにやったんだよ?斬れ!おう、俺を斬ってみろ!」ズカズカ

刺客乙「ま、待て!そいつは――」

刺客甲「女のくせに、よくも!」ジャキッ

相棒「……」スラッ


 ズバッ! ドバッ! ドヒュッ!

刺客甲「グウッ」ドシャッ

刺客乙「ば、馬鹿な……!」

相棒「……見せてあげる」

相棒「女の……力」

刺客乙「……」

刺客乙「……ヒッ、ヒヒヒヒヒヒヒ」

刺客乙「ォオオッ!」ダッ

相棒「……!」チャキッ


刺客乙「てやぁっ!」ブンッ!

相棒「……」カキイン


刺客乙「はあっ!」ビュンッ!

相棒「……」キインッ


刺客乙「うりゃあっ!」ブオンッ!

相棒「……」バッ


刺客乙「――!」ヨロッ

相棒「フッ」シュッ

 ズバッ

刺客乙「ぐわっ!」ドタッ カランッ

相棒「……」チャキッ

刺客乙「――な」

刺客乙(な、なんてやつ――)

相棒「……」ブンッ


 ドシャッ


<スボッスボッスボッスボッ…

用心棒「無事か!?」ガラッ

用心棒「うっ、死体……やっぱり、こっちにも刺客が来ていやがったか」

相棒「そっちにも?」

用心棒「ああ。スリの名手狐小僧と名乗る刺客が、帰り道に襲ってきてな」

用心棒「例の洋式短銃をスリ盗って『これでお前は丸腰だ』とか抜かした」

用心棒「とりあえず俺の短銃で蜂の巣にして川に放り込んで、全速力で帰ってきたんだが……」

用心棒「……急ぐことはなかったな」

相棒「……」フフン

用心棒「とりあえず、死体を床下の秘密倉庫に隠してしまおう」


 ガチャッ ドサッ ドチャッ ギイー バタンッ


用心棒「……で、あいつらは何者だ?」

用心棒「また浪人か?それにしては帯刀していないのが妙だが……」

相棒「……彼岸花兄弟」

用心棒「は?」

相棒「こいつらは彼岸花兄弟……殺し屋の」

用心棒「……こ、殺し屋だと……?」

用心棒「……一体、誰に雇われたんだ?」

 ガラッ

少年「油商人です……!父の仇、油商人に違いありません!」

少年「奴が僕を狙って差し向けたんです……」

少年「いたたたた……」ズキッ

相棒「……油、商人……?」

用心棒「……江戸の油の売買を、一人で仕切っている大物だ。いよいよ面倒になってきやがった」

相棒「……!」

用心棒「おい、坊主……もう俺たちは一蓮托生だ」

用心棒「身の上話くらい、聞かせてくれんだろうな?」

少年「……はい」


 …スボッ スボッ スボッ スボッ

?「……」

?(用心棒と相棒に、狐小僧と彼岸花兄弟を差し向けたのはいいが……)

?(狐小僧が追った用心棒は、無事長屋に帰ってきたし)

?(彼岸花兄弟はいつまで経ってもあの長屋から出てこない。留守番の女に敗れたようだな)

?(……相棒の女でさえそれほどの力を持つということは……)

?(用心棒は、相当の手練なのだろうな)

?「……ンフッ、フッフッフッフッフ……」

?(戦いたい、戦いたいぞ……)

?(やはり計画には用心棒を利用しよう……)

?(計画を実行する中で用心棒と戦い、そして計画の目的をも達成する……まさに一石二鳥だ……)

 スボッ スボッ スボッ スボッ…

今日はここまで



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

魔物「ゴアーッ」

魔物「オオオーン」

魔物「ヒャアアアアアアアア」

 ワラワラワラワラ… ゴソゴソゴソゴソ…

少年「うわ、わ、わっ!」

少年「く、来るな……来るなぁーっ!」

……


少年「はっ!」ガバッ

少年「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」

少年(……夢か)


 <チュンチュン ピピッ チチチチチ… バタタタ

少年(……朝だ。肌寒い……)


少年(……僕は、さっきの夢とそう違わない状況にあるのかもしれない)

少年(長屋に漂う嫌な匂いと、畳に残る黒ずんだ染み)

少年(……昨夜の殺し合いの、痕跡……)

少年(しかし、二人の刺客を切り捨てた人物は涼しい顔で刀を研いでいた)


相棒「……」ショリ…ショリ…

相棒「……」チャキッ

相棒「……坊主」

少年「は、はい」

相棒「水はあれを使え」

少年(相棒さんはそう言って、土間に置いてある瓶を指さした)

相棒「飯はもう少し待て」

少年「はい……あれ」

少年「……あ、あの……用心棒さんは?」

 ガラッ

用心棒「手前の仇討ちの準備をしてきたんだよ。手前が眠り込んでる間にな」

少年「あ……」


 ピシャリ ガサガサッ ドスドス…

用心棒「まったく、とことん呑気なやつだぜ」ドカッ

相棒「……怪我人」

用心棒「知ったことか」

相棒「……寝る子は育つ」

用心棒「こんな状況で子供も大人もあるかよ」

少年「……す、すいません」

用心棒「……別に謝るこたねえよ……」ゴソゴソ

用心棒「……チッ、煙草まで昨日の雪で湿気たようだ」フー

少年「……」


<もし?


少年「!」ビクッ

相棒「!」ガチャッ

用心棒「落ち着け。刺客は踏み込む前に声なんてかけない……ただの客かもしれん。俺が対応する」ヒソヒソ

用心棒「ただ、坊主と相棒は衝立の裏に隠れていろ」ヒソヒソ

相棒「わかった……坊主、こっちへ」ヒソヒソ

少年「はい……」ヒソヒソ

用心棒「安心しろ、妙な動きをしたら即座に俺が始末する」ヒソヒソ


用心棒「どなたかな?」

<仕事を頼みに参った……開けてもらいたいな。

用心棒「おっと、これは失礼」

 ガラッ

用心棒「茶でもお出ししよう……!?」


覆面の男「いえ、お構いなく」

今日はここまで


覆面の男「……おっと、この覆面はお許しいただきたいな」

覆面の男「私は武士。あまり褒められたものではない稼業のあなたを訪れたことは、誰にも知られたくはないのだ」

覆面の男「わざわざ早朝に人目を忍んで訪れることからもおわかりいただけると思うがね」

用心棒「……こちらもこういう客は初めてではないが、信頼関係に支障が出るんでね……」

用心棒「報酬なんかの条件面で、ある程度譲歩いただくがよろしいか?」

覆面の男「全く問題ない」

用心棒「では早速話を伺おう。こちらへ」

 ガサガサ ドスドス ドカッ

 ゴソリ トストス スッ

用心棒「……で、どんなご依頼かな?」

覆面の男「……依頼は」


覆面の男「油商人の暗殺」

用心棒「な――!?」

相棒「!?」

少年「!?」


用心棒「……貴方は、用心棒と殺し屋を取り違えていらっしゃるようだ」

覆面の男「そんなことはない」

用心棒「……でははっきり申し上げる」

用心棒「無理だ!そんな仕事はとてもお受けできない」

用心棒「油商人は腕の立つ浪人を雇って身辺警護にあたらせていると聞く」

用心棒「俺は……いや、俺以外でも不可能だ!」

覆面の男「そんなことはない。貴方ならできる……間違いない」

用心棒「!?」


用心棒「……あんた、何を知ってる?」

覆面の男「いつとも、どことも申さないが……ある雄藩で、発生したと聞く」

覆面の男「陣屋撫で斬り事件」

用心棒「――!」

覆面の男「……撫で斬りとは言っても、使われたのは鉄砲」

覆面の男「それも、最新型の――アメリカよりもたらされたコ式短銃。持っている者はそうそういない」


覆面の男「用心棒、貴方はそれをお持ちだと小耳に挟んだ」

覆面の男「そして、事件が発生したときその雄藩にいらっしゃったということも」

覆面の男「……これは偶然の一致とは思えないな」ニヤリ

用心棒「……あんた……」

用心棒「一体何者だ?」

覆面の男「フッフッフッフ、それを申し上げては覆面の意味がない」

用心棒「……」


覆面の男「で、報酬だが……一千両でいかがかな?」

用心棒「……仕事の難易度にもよるから、下調べをしないことにはその額が妥当かどうかわからん」

覆面の男「ふん……それもそうだ。ではその『下調べ』をしていただこうか……」ゴソゴソ

覆面の男「これは前金として用意したが、その費用として使っていただいて結構」ガシャッ

用心棒「……これは?」

覆面の男「一応、百両用意した」

覆面の男「下調べした上でどうしても無理だというのなら、無理と言ってもらっても構わない」

覆面の男「まあ……そう言われると、こちらもそちらも損しかないとは思うがね」ニヤリ

用心棒「……」

覆面の男「では、私はこれでお暇する」スック

 トス トス ゴソッ ガラッ

覆面の男「おっと、うっかり忘れるところだった……」ゴソゴソ

覆面の男「これは油商人の館の見取り図だ。役立てたまえ」

覆面の男「用心棒君、それに衝立の向こうの君、次の面会の後も平和に別れられることを期待する。さらばだ」

 ピシャンッ


用心棒「……」

相棒「……何だあれは」

用心棒「……さあな」


少年「……用心棒さん、依頼は……引き受けるんですか?」

用心棒「……後ろ向きに検討中だ」

少年「後ろ向きに?なぜです?」

用心棒「仕事が難しいということもあるが……胡散臭いんだよ」

用心棒「この騒ぎ自体が、今までないほどに胡散臭い」

用心棒「なぜか油商人の館の見取り図を持っている覆面の依頼人にしてもそうだし……」

用心棒「油商人は浪人を大勢雇っているのに、わざわざ殺し屋を雇うというのも妙だ」

少年「……」


用心棒「それに……お前もだ、坊主」

少年「僕?」

用心棒「最近江戸は物騒でね。俺たちも忙しいんだ」

用心棒「しかし、お前と会った時はちょうど仕事帰り……暇だったんだよ」

用心棒「そんなとき、お前と出くわすというのはどうにも『出来すぎている』……」

少年「っ!」

少年「ぼ……僕が、油商人の手のものだとでも……」

用心棒「そうは言わんが……もしこの騒ぎに、油商人ではなく別の『黒幕』が居たとしたら……」

少年「やめてくださいっ!」

用心棒「!……」


少年「僕は……僕は、貴方を尊敬していました。弟子にしてほしいとも思っていました」

少年「強さはもちろん、なにより『面倒のタネ』である僕を匿ってくれた優しさを尊敬していたんです」

少年「それなのに……信用されないだけならともかく、そんな風に思われていただなんて!」

少年「……かままでかけられるなんて……」


用心棒「……ええと」

少年「失礼しますっ」スック

相棒「何処へ行く」

少年「油商人のところです。金物屋かどこかで包丁を盗んで、あいつだけでも道連れに……」

用心棒「ま、待て待て!俺が悪かった、弟子にでも何でもしてやるから落ち着け!」

少年「……」

用心棒「……というのは物の例えだが」

少年「やっぱり行きます」

用心棒「わかった!わかったから落ち着け……」


<もスもス?馬借でス、馬をお届けに参りまスた。


用心棒「おっ!馬が到着したようだぞ、坊主!」パンッ

少年「馬……?」

相棒「私が対応する」スック

 トストス ゴソッ ガラッ ピシャリ

少年「……馬って?」

用心棒「ああ、油商人の手の者から逃れるため、一度江戸を離れようと思ってな……」

用心棒「その足として、朝に出かけたとき手配した」

少年「何処に?」

用心棒「箱根の方のあばら家だ。今朝『闇商人』を通じて手に入れたんだ」

用心棒「その代金と、『鍛冶屋』に頼んだ武器の代金で、この前の仕事の報酬は吹っ飛んじまったがな」

用心棒「お前も来るだろう?命あっての物種だろう、な?」

少年「……弟子にしてくれるんですよね」

用心棒「わかった、わかったから……」

 ガラッ ピシャリ

相棒「荷物をまとめろ」

用心棒「……こんな血の匂いの染み込んだボロ屋、引き払うのは惜しくないが……」

用心棒「道中で油商人の手の者が襲ってくる可能性もある」

用心棒「いよいよこの先は茨の道だ……しかし、弟子にしろと言うならそのくらい耐えられるだろうな?」

少年「……」


少年「無論です!」

用心棒「……よく言った」ニヤリ



手下甲「……おっ?用心棒が長屋から出てきました!相棒の女も一緒です……」

手下甲「あっ、大きなタンスを運び出してきました」

手下甲「本当に大きいです、中をくり抜けば子供の一人くらい入りそうです……」

手下甲「運び出す家財道具はあれだけのようですね。今、車に積みました」

手下甲「車を馬に繋いで……歩き始めました。南に向かうようです」


剣士「しかし、南蛮渡来の遠眼鏡とは便利なものだな。遠くの敵の行動も手に取るようにわかる……」

手下乙「どうしますか剣士さん、早速襲いますか?」

剣士「まあ待て……敵は手練だというだろう。待ち伏せのほうが良い」

剣士「とはいえどんな状況でも、油商人近衛四天王の一人である私は遅れなど取らぬが、な……」

剣士「用心棒、そしてその相棒よ、せいぜい今のうちに生を楽しんでおくがよいわ。クックックックック……」

今日はここまで



 ガラガラガラ ガタッ ガラガラガラガラガラ…

用心棒「おら、どう、どう……暴れるな、引いてる車が揺れるだろうが」

馬「ブヒヒン」

用心棒「……ところで相棒、なんでお前まで車に乗ってるんだ」

相棒「休憩……」

用心棒「かれこれ半刻は乗ってるだろうが……代われよ」

相棒「……」

<旅のお方、寄って行きませんかァ?

相棒「おや、茶屋だ。寄ろう」トッ スタスタ

用心棒「おいこら!」

用心棒「……チッ、今度はお前が歩くんだからな……」スタスタ


店番「いらっしゃいませェ……あっ、お客様ァ、外に馬を繋ぐ杭があるんですが分かりましたかァ?」

用心棒「ああ。ちゃんとそこに繋いできたさ」スタスタ

相棒「……」モグモグ

用心棒(もう食ってやがるよ、こいつ)

店番「お客様は何に致しますゥ?」

用心棒「茶を一杯と、団子を一本……いや二本くれ」

店番「承りましたァ」スッ


相棒「この団子、一本でも結構な量だぞ」モグモグ

用心棒「……一本は坊主の分だ」ヒソヒソ

相棒「……てっきり甘党かと」モグモグ

用心棒「こっちの台詞だ。食いながら喋るんじゃない、汚いな」


店番「団子と茶ですゥ」コトッ

用心棒「どうも」

店番「ところでお客様は、お伊勢参りですかァ?」

用心棒「え?……」

相棒「違う。引越し」ズズー

店番「ああ、だからタンスなんて引いてたんですねェ……奥さん、新しい住まいはどちらですゥ?」

相棒「小田原」モグモグ

店番「小田原ですかァ!あそこはいいですよォ?江戸ほどせわしくはなく、箱根ほど寂しくはないんですゥ」

相棒「それは良かった」モグモグ


用心棒「……嘘はお前に叶わないな」ヒソヒソ

相棒「……『馬』に団子を食わせてみるんじゃなかったのか」ズズー

用心棒「おっと、そうだった。『馬』にな」スック

店番「細かくしてやらないと喉につっかえますよォ?」

用心棒「相分かった」スタスタ


店番「でも馬は甘い物が好きだって言いますよねェ、奥さん?」

相棒「初耳だ」モグモグ

店番「……実は私も『甘い物』に目がなくてねェ」ギュッ

相棒「フンッ」グサッ

店番「うぎゃっ、容赦ねェ!」


馬「ヒヒインッ!ブルルッ、ヒヒインッ!」

用心棒「畜生に団子なんてやるわけないだろう」

馬「」ガーンッ


 ゴトゴトッ ギイッ…

用心棒「おーい坊主生きてるか……」

少年「ぷはあっ!ぜえ、ぜえ、はあ、はあ……」

用心棒「……生きてるか?」

少年「ち、窒息死するところでしたよ!」

少年「何ですかこのタンス、作った奴入って確かめてみたんですか!?」

用心棒「人を入れるのを想定したタンスなんて無いだろう……」

用心棒「非常事態だ、我慢しろ。団子やるから、ほら」

少年「そ、それより水を……」

用心棒「欲が無いな」スッ

少年「ゴクッゴクッゴクッ……ぷはっ。タンスの中に入ってみればわかりますよ、僕の気持ちが」

少年「……ちょっと入ってみませんか」

用心棒「冗談じゃない!軟体人間でもあるまいし入るものか……」

用心棒「というより……思ったより余裕だな?よし、もう少し入っていろ!」

少年「ま、待ってください!厠に……」

用心棒「そこの茂みでしてこい」ビシッ

少年「……ひぃい……」スタスタ


用心棒「……」

用心棒(団子が余ってしまったな……しかし、捨てるのも勿体無い)

用心棒「……」チラッ

馬「……」チラッ

用心棒「……」

用心棒「……」ブチッ

用心棒「……」スッ…

馬「……」アーン

?「本当に馬に団子をやってるのか。店番の冗談かと思ったが」

用心棒「!?」クルッ

?「おっと、そんなに緊張するなよ……俺だ。闇商人だよ」

用心棒「……」チラッ

相棒「……」コソッ

用心棒「……闇商人が、何の用だ?」

闇商人「そう邪険にするなよ。例の隠れ家を調達してやったのも俺だろうが」

闇商人「……おい、用心棒。俺たち、長い付き合いだよなあ」

用心棒「……ああ。そうだな」

用心棒「だから、お前がそういう切り出し方をするときは大概ロクなことじゃないということも知ってる」

闇商人「なに、御城を攻め落としてこいとかは言わないさ……」

用心棒「じゃあ海を渡ってペルリ提督の眉間に弾丸を叩き込んでくればいいのか?」

闇商人「まあ茶化さずに聞けって!」

闇商人「話だ、話を聞かせてくれよ……どうもお前の周囲は、昨日から物騒じゃねえか?」

闇商人「どことは言わねえが……長屋の床下とかよ?」

用心棒(……彼岸花兄弟の死体を見つけやがったな)

闇商人「その後すぐに、こうやって江戸を出たってのも物騒だ。実に物騒だ」

闇商人「その騒ぎに関して、知ってることを教えて欲しいのさ」

用心棒「……」

闇商人「もちろん金は払うぜ?こっちもそれで儲けさせてもらうからな」

闇商人「お互い損はないだろう?断っちゃお前も損だぜ、な?」

用心棒「……」

闇商人「……頑なだな、おい?」


?「闇商人殿」

闇商人「ん?忍か?」

忍「たった今、なかなか興味深い奴らが街道を通っていきました」

闇商人「誰だ?」

忍「それは……ヒソヒソ」

用心棒「……物騒な話のようだな?」

闇商人「ああ、物騒な話だ。実に物騒だ、死人が出るぜ」

闇商人「だが教えてやらんぞ。お前も俺に教えてくれないからな……仕方ないなあ?」

用心棒「……」

闇商人「じゃあ、俺はこれで失礼するぜ。損したな、用心棒」

闇商人「油商人を敵に回して、俺の助けも得られないんじゃ死ぬしかないぜ……」

用心棒「……!?待て、手前なぜそれを……」


闇商人「教えられんな。あばよ!」タタッ

忍「……」タタッ


用心棒「……くっ……」

相棒「……何故、あいつが油商人のことを」

用心棒「……あいつは……今回の騒ぎにはほとんど関係していないはずだ」

用心棒「情報を手に入れられるとしたら、せいぜい彼岸花兄弟からだが……」

用心棒「とすると、やはり殺し屋を雇ったのは油商人なのか……?」

 ガサガサ

少年「……もう出ても大丈夫ですよね?」

用心棒「おう……あの状況で、出てこないという判断は妥当だ。一度殺されかけただけのことはあるな」

用心棒「タンスの中に入れ、坊主……出発だ。どうやら立ち止まってはいられんらしい」


 ガラガラガラガラ…

用心棒「……そういえば、団子はいくらだったんだ?」

相棒「タダにしてくれた」

用心棒「……何をしたんだ?」

相棒「何もしてない」

用心棒「……」


用心棒(……『物騒な奴』が、茶屋の前を通っていったという)

用心棒(『物騒な奴』とは、十中八九油商人からの刺客だろう)

用心棒(そいつらが、俺たちを追い越したとして――何をするか?)

用心棒(待ち伏せだろうな)

用心棒(しかしこのあたりは人家があり、そこそこ明るい。待ち伏せには適さない)

用心棒(待ち伏せするとしたら、この先の橋を渡った先の、林沿いの道――)

馬「――!」ピクッ

用心棒「!?……!」

相棒「!」


用心棒(橋の上に、仁王立ちしている男――手には、ぎらつく打刀)


剣士「――私は油商人近衛四天王が一角、剣士だ」

今日はここまで



用心棒「……思ったより早いな。ここまで追ってくるのも、襲って来るのも……」

用心棒「襲ってくるのについては早すぎなくらいだ。待ち伏せの才能がないな」

剣士「浪人を何人か斬った程度でいい気になるなよ、下郎……」

剣士「私は、あんな掃いて捨てるほどいるような者共とは違う」

用心棒「フン、どうかな」

剣士「軽口はそこまでだ。私と勝負しろ……」

剣士「お前も侍なら、種子島で撃たれるより斬られて死にたかろう?」

剣士「既に私の手下が手前らに狙いをつけている……抜け!」

用心棒「……」


相棒「私が勝負する」スッ

用心棒「!?……大丈夫なんだろうな」

相棒「私を誰だと思っている……」

剣士「……お前など相手になるものか」

剣士「馬鹿にしているのか……それとも、よほど頭が悪いのか……どちらにしても死ぬべきだが」


相棒「……」スラッ

剣士「……ほう、仕込み刀か。それに、構えも思ったより様になっておるわ」チャキッ

剣士「参る」シュザッ

相棒「ッ!」チャキ

用心棒(――速い……あいつ、滑るように動く!)


剣士「はあっ!」ビュンッ

相棒「……」カキインッ

剣士「とぉッ!」ブンッ

相棒「ッ」キンッ

剣士「ぜあっ!」ビューンッ

相棒「くっ……」ガキンッ

剣士「喰らえァ!」ビュッ

相棒「……死ねッ!」ビュンッ


 ガキインッ!


剣士「……」

相棒「……」

剣士「……フッ」

相棒「ぐっ!?」ガクッ

相棒(馬鹿な……!?)ボタボタ

剣士「踏み込みが甘かったな……フフ、フ」

剣士「では、とどめを――!?」

 シュザッ ドゴオンッ!

相棒「……用心棒」

剣士「手前、よくも邪魔を――」

用心棒「……ヘッ、ヘッヘッヘ」

剣士「――何がおかしい?」

用心棒「この距離で俺の弾を避けやがるとはな。なかなかの化物だぜ……」

剣士「化物か……フッフッフッフッフッ。確かにお前にとって、私は化物だろう」

剣士「お前の命を奪うのは私だからな!」シュザッ

用心棒「ほざけ、トンマが!」ジャキッ

 ドゴオンッ! ドゴオンッ! ドゴオンッ!

剣士「死ね!」シュザザッ ザッ!

用心棒「うおっ!?」バッ ゴロゴロッ


用心棒「……フン、四天王の名は伊達じゃないということか……」

相棒「駄目だ、用心棒……!」

用心棒「弱音なんてお前らしくないぞ。ところで……傷は大丈夫か?動けるか?」

相棒「ああ……しかし……」

用心棒「お前は奴の手下を始末してくれ。多分、隠れているのは周りの家の陰だ……」

相棒「こ、こいつは?剣士はどうするんだ……?」

用心棒「俺はどうにかする……早く、行け!」

相棒「……ッ!」バッ

 タタタ…

剣士「!逃がすか!」シュザッ

用心棒「おっと待てよ」ジャキッ

 シュザッ ドゴオンッ!

用心棒(……また避けられた)

剣士「……チッ。いちいち癪に障るやつだ……そろそろケリをつけてやる!」シュザッ


剣士「フッ!」ブンッ

用心棒「うおっ」ヒョイッ

剣士「ハッ!」ビュンッ

用心棒「よっと……」トッ

剣士「おのれ……」グッ

用心棒(やつめ、力を溜めているな――今だ!)ジャキッ


 シュザッ ドゴオンッ!


剣士「……」ニヤッ

用心棒「な……!?」

用心棒(まずい、弾切れだ!こいつ、わざと隙を作りやがったな……!)


剣士「――死ね!」シュザッ

用心棒「うおおっ!」ガシッ

剣士「何ッ!?」

用心棒「手前が死ねぇ――ッ!」グイーッ

 ブンッ ドボーンッ!


用心棒(再装填……)ガシャッ

用心棒「駄目押しだ!」ジャキッ

 ドゴオンッ! ドゴオンッ! ドゴオンッ!

用心棒「……」

用心棒(雪解け水が流れ込んで増水しているせいで、川の水が濁っていてよく分からないが……死んだだろう)

用心棒「踏み込みの勢いが良すぎたな……」


相棒「用心棒」

用心棒「手下は?始末したか?」

相棒「……」ブンッ

手下甲「」ドサッ
手下乙「」ドシャッ

相棒「良い銃を持っていた」

用心棒「売りに行く余裕はない。死体もろとも川に沈めるか……」

相棒「私が」

用心棒「おい、怪我は大丈夫なのか?」

相棒「……」ズルズル

用心棒(……負けたのがこたえているようだな……)


 ガチャッ

少年「ぷはあっ……」

少年「……刺客が、来ていたんですか」

用心棒「……ああ。化物だった」

<ドボーンッ ボチャンッ…

相棒「済んだ」

用心棒「……進むぞ」

 バタンッ

 ガラガラガラガラガラガラ…


闇商人「……行ったか」コソッ

忍「行きましたね」コソッ

闇商人「しかしすごい戦いだったな。特に剣士の腕前だ……最終的に勝ったのは用心棒ではあるが」

忍「しかも自分は四天王の一人だと名乗っていました。あんな奴があと三人居るのでしょうか」

闇商人「いや、それはわからない。あいつが四天王の中で最強なのかもしれない」

闇商人「しかし……もし、剣士以上の奴らが三人居るとしたら、用心棒に勝ち目はないぜ」

闇商人「……待てよ?用心棒が死んだら、次に狙われるのは誰だ?」

闇商人「次に狙われるのは、用心棒と腐れ縁の俺じゃないのか……?」

闇商人「……ううむ。俺はどうしたものか……用心棒に力を貸すべきか、それとも……」

忍「……闇商人様。もう少し様子を見ましょう」

忍「その上で判断しても、遅くはないはずです……」


医者「……うん、包帯も巻いたし、とりあえずこれでよかろう」

医者「あとは時々包帯を取り替えて……傷にこの薬を塗ると良い」

医者「これは南蛮渡来の医学書をもとに作った薬でな。支那の漢方など問題にならんほどよく効く」

医者「毎日、奥さんに塗ってやるんだよ」

農夫?「はい、わかりました」

妻?「鉈を使うときは注意しなきゃいけないねえ、亭主にまで迷惑をかけちまったよ……」

農夫?「……ところでお医者さん、このことは秘密にしておいてくれませんかねえ」

農夫?「私を目の敵にしてる履物屋がこのことを知ったら、私が妻を切りつけたとか言い出しかねませんから」

医者「ああ、わかったよ」

農夫?「じゃあこれ、お代です。ありがとうございました、本当に」ジャラ

医者「はいよ……」

 ガラッ ピシャリ

農夫?「……傷が浅くてよかったな、相棒」

妻?「……」


用心棒「……あまり気にするなよ」

相棒「何が」

用心棒「……何がって……」

相棒「何が」

用心棒「……」ハア


 ガラガラガラガラ…

用心棒(……もう暗くなってきたな)

用心棒(今日一日歩き通せば、隠れ家に着けるかと思っていたんだが……)

用心棒「どうやらそろそろ宿をとらなければならないようだ……」

相棒「……野宿?」

用心棒「それが一番危険だ。右からも左からも正面からも後ろからも上からも襲われる」

用心棒「ちゃんとした宿屋なら、窓と扉以外からは襲われない……」

用心棒「それに、腹が減った。飯を食わないと倒れそうだ」

相棒「……」

用心棒「しかし……このタンスの中の『貴重品』はどう扱ったらいいものか」

用心棒「かなり目立つが、どうにかして部屋の中に持ち込むしかないか……」


用心棒「……待てよ。そもそも宿なんてあるのか?東海道からは少し離れているが……」

相棒「……地図」スッ

用心棒「どれどれ……ん、ここしかないな。この先の『湊屋』」

相棒「……あれか?」

用心棒「え?……何だ、もうあそこに見えてるのか。あやうく通り過ぎるところだった」

用心棒「さあ馬!急げ、急げ!」

馬「ヒヒーンッ」

 ガラガラガラガラガラガラ…


 ガラッ

女将「はいはい、いらっしゃいませ……木賃ですか?旅籠ですか?」

用心棒「旅籠で……できれば一階の部屋がいいんですがね」

用心棒「貴重な家具を持っていまして、部屋に持ち込みたいんですよ」

女将「はいはい、では、すぐそこの『柳の間』へどうぞ」

女将「すぐ夕餉をお出ししますので、少々お待ちください」


用心棒「よし、タンスを運び込もう」

相棒「……」コクリ

?「手ぇ貸したろうか?」

用心棒「いや、結構……!?お前は!」

?「そうや、鍛冶屋や」

鍛冶屋「へへ、あんたを探し当てるのは骨が折れたで……闇商人に聞いたんで、奴に借りが出来てしもたわ」

鍛冶屋「何や相棒の姉ちゃん怪我しとるやんけ!大丈夫か?」

相棒「……」コクリ

鍛冶屋「……あ!それよりよく見たらこれ、うちがやった船箪笥やん!」

鍛冶屋「うちのからくり趣味を散々に馬鹿にしとるけど、何だかんだ大切にしてくれとるんやなあ……」

用心棒「お、おう……」

鍛冶屋「ほな運ぶで!」


 スッ

女将「失礼します。夕餉を持って参りました……」

女将「本当に三人分でよろしかったんですか?その……お代も、少しお高くなりますが」

用心棒「いや、全然構わないです」

相棒「ほほほ、夫は旅先で食事をするといつも足りない足りないと騒ぐんですよ」

女将「ああ、左様ですか……では、ごゆっくり」

 ストンッ


用心棒「……さて」スック

 ガチャッ

少年「刺客?刺客ですか!?」オドオド

用心棒「うろたえんな。飯だ」

相棒「あんたの分」ズイッ

少年「あ、ああ……どうもありがとうございます」


用心棒「モグモグ……そういえば、坊主。『油商人近衛四天王』って聞いたことがあるか」

少年「は、はい……油商人の私兵の中でも、特に強い浪人たちです」

少年「『剣士』、『槍使い』、『大男』、『武士』の四人です……おそらく、いつか戦うことになるかと……」

用心棒「なるほどな……剣士はさっき、地獄に叩き込んでやったが」

少年「本当ですか!?」

用心棒「ああ……おっと、悪いな。食事中にこんなこと聞いて」

用心棒「この湯豆腐を食ってみろ、なかなかいけるぞ……」


鍛冶屋「一緒に飯食おうや……おっ!?なんじゃそのガキ、どっから湧いた!?」スパーンッ

相棒「!?」ガタッ

用心棒「しまった、見られた!」ガタッ

 チャキッ ジャキッ

鍛冶屋「な、何や?何や!?」

用心棒「このことをよそで喋ってみろ……」

相棒「……死ぬぞ」

鍛冶屋「わ、わかった!わかったわ、はよその物騒なもん下ろしてえな!」

用心棒(……闇商人はともかくこいつに裏表はない、と思いたいが……)スッ

相棒「……」スッ

鍛冶屋「……一体、何事なんや……?」

用心棒「……」


用心棒「……鍛冶屋。この騒ぎは、耳に入れるだけで口封じに殺されかねない」

用心棒「お前を憎からず思っている俺としては、話すわけにはいかない……わかるだろう?」

鍛冶屋「……」


鍛冶屋「……ええわ、とりあえず納得しといたる。うちも後暗い奴ら相手に商売してる身や、わきまえとるがな」

鍛冶屋「でも、『あんたから頼まれてるもの』は値段上乗せにさしてもらうで。百両分な」

鍛冶屋「うちにどんな火花が飛んでくるかわからんわ……」

用心棒「……ああ」

鍛冶屋「それだけや。精々死なないように……」スック

相棒「チョクトウ」

鍛冶屋「え?何や?」

相棒「直刀をひと振り。出来るだけ良い物を……」

鍛冶屋「……あんなあ、相棒の姉ちゃん」

鍛冶屋「江戸は今黒船騒ぎでぴりぴりしとる。火薬も、鉄も、そうそう手に入らんもんなんやで?」

鍛冶屋「長い付き合いやから『用心棒の頼んだもの』は引き受けたけど、この上刀なんて……」

相棒「頼む」ペコリ

用心棒「……!」

鍛冶屋「……もう百両、上乗せやで」

相棒「ありがとう」

鍛冶屋「まったく、大赤字や……」


鍛冶屋「……もたもたしとるとあんたらの言う『騒ぎ』に巻き込まれる。うちは退散さしてもらうで」

鍛冶屋「夜道やけど……あんたらの依頼の品も用意せなあかんしな」

用心棒「ああ、頼む」

 ドスドス… スッ

 スパンッ

用心棒「さて、夕餉だ、夕餉だ」パンッ

用心棒「坊主、冷めたから食いたくないとか我が儘言うんじゃないぞ?」

用心棒「いつまでタンスに隠れていられるかもわからん。腹が減っては戦はできぬ、だ……」

少年「はい……!」



 その頃 江戸

 油商人の館


油商人「まさか、あの剣士が負けるとは……」

油商人「『あの武士の一家の生き残りが、用心棒を雇って油商人様を殺そうとしている』と知らせてきたのも、奴なのに……」

油商人「……用心棒というやつは、そこまで強いのだろうか?」


武士「クックック……恐れることはありません油商人様。剣士は近衛四天王の中でも最弱……」

武士「剣士を打ち負かしたとしても……槍使いや大男を倒すことは、思いもよらないでしょう」

武士「……俺が相手なら、俺を楽しませることもできないだろう……はあ……」ポツリ

油商人「……そうか?まあ、現に奴は江戸から逃げ出しているしな……」

大男「う、う……つぎは、おでが、いく」

大男「……おでが、そいつ、ころす」

油商人「……フッフフフ。こっちも気合充分だな」

油商人「そうだ、恐れることはないのだ……私は日の本の明かりの全てを統べる油商人……!」


油商人「だが大男。お前に次鋒を任せることはできんな」

大男「う……?」

油商人「既に槍使いが奴の後を追っている。奴が宿で休んでいるなら、そろそろ追いつくはずだ……」

油商人「フッフフフ……用心棒、私に牙を剥こうとて、そうはいかんぞ……!」


?「……」コソッ

?(もし油商人が手勢を集めて館にこもるようだったら、どうにかして妨害しなければならなかったが……)

?(そんな知恵はないようだな、馬鹿どもめ……よくもこれほどこちらの想定通りに動いてくれるものだ)

?「ンッフッフッフ……」


武士「むっ?」クルッ

?(おっと)サッ

武士「……」

武士(今、邪な気配を感じたように思ったが……気のせいだったようだな)

武士(どんな手練の忍だろうと、館の最深部であるこの部屋までたどり着くことはできやしない)


武士(一つ。この館は高い壁と警備の浪人たちに守られている。門以外から入ることはできないが、門の警備は特に厳重だ)

武士(浪人たちの目を逃れて館に入れる秘密の入口は、作った大工と俺たち四天王、それに油商人しか知らんだろう)


武士(二つ。この館は迷路のような構造だ。八幡の藪知らずだ)

武士(たとえ秘密の入口を見つけて忍び込んだとしても必ず迷う)


武士(三つ。館の中も大勢の浪人が巡回している……)

武士(順路は厳密に定められていてやり残しはありえない。侵入者は即、殺されるのだ)


武士(……あーあ。それにしても、ヒマだぜ……)

武士(どうせ用心棒は、槍使いには勝てねえだろう)

武士(だがその槍使いも、俺の相手じゃあない……)

武士(俺の血を沸き立たせてくれるような好敵手が現れないものか……)

今日はここまで



少年「ごちそうさまでした……」

少年「……用心棒さんはどちらにいらっしゃったんです?」

相棒「……」

少年「……?」


相棒「……」

相棒「さあ?」

少年「……はあ」

相棒「……」

少年(相棒さん、なんか様子がおかしいな……ずっとぼうっとしてるし)


 ガラッ

用心棒「今戻った」

少年「あ……今までどこに?」

用心棒「お前を鍛えるのに手頃な道具を拾いに行っていたんだ」スッ

少年「……それ、ただの棒じゃ?」

用心棒「たかが棒、されど棒……」グッ

少年(用心棒さんはそう言って、棒を槍のように構えた)

少年(そして突然天井を向き、棒を天井に突き刺した!)

 ドガッ!

<ギャッ

用心棒「……」スッ

少年(引き抜かれた棒の先端には――)

少年(べっとりと血がついていた)

用心棒「……と、このように使い道がいろいろあるわけだが、それを教えるのはまた今度だ」ポイッ

少年「……えっ!?あっ、これ、どうすればいいんですか!?」パシッ

用心棒「持ってろ」

用心棒「……外に妙な目つきのやつらが居る。全部で四人……宿を取り囲むように立っていた」

少年「!」


用心棒「その中の一人は槍を持っていた。十文字槍だ」

少年「『槍使い』……!」

用心棒「……しかし……」

相棒「少ない」

用心棒「ああ」

相棒「天井裏のゴミムシを含めても、五人」

用心棒「ゴミ……」

用心棒「……とにかく。剣士が三人がかりで襲い、しくじったことは奴らも知っているはずだ」

用心棒「それにしては少なすぎる。奴らの狙いがわからない」ジャキッ


少年「……どうするんです?」

用心棒「出て行くと待ち伏せを食う恐れがある。少し様子を見る」

用心棒「伏兵がいるなら出て行かない」

用心棒「いないなら出て行く……速やかにな。奴らは増援の到着を待っているのかもしれない」

用心棒「踏み込んできたら部屋の前の狭い廊下で迎え撃つ」

用心棒「……ないとは思うが、宿に火をつける奴や爆薬を仕掛ける奴がいたら窓から撃って阻止する」

用心棒(……本当に、これでいいんだろうか?可能性はこれだけなんだろうか……?)

用心棒(何だか嫌な予感がするな……)


相棒「もし」

用心棒「え?」

相棒「もし槍使いと戦うなら……私に、やらせてほしい」

少年「!」

用心棒「……それは、駄目だ」

相棒「なぜ?」

用心棒「お前は怪我人だ。それに、今のお前は冷静じゃない」

相棒「私は冷静」

用心棒「冷静じゃない!」

相棒「……」

用心棒「……お前と俺とは長い付き合いだろう。今回だけは、俺の言うことを聞いて欲しい……」

用心棒「わかってくれるな?」

相棒「……」


相棒「わかった」

用心棒「後で団子でも奢ってやるから、な」

相棒「……」ジロッ

用心棒「……冗談だ」


少年「……」

少年(きっとこの人たちは、こうやってバカを言ったり、諌め合ったりしながら生き抜いてきたんだろうな……)


用心棒「……さて、外の奴らはどうしているのか」

少年(そう言って用心棒さんは窓に近づくと、障子を細く開けて外の様子を窺った)


用心棒「……」

用心棒「……まずい、かもしれない」

少年「!?」

相棒「増えた?」

用心棒「……いや、減った。三人しかいない」

少年「減ったなら、別に……」

用心棒「さっきの俺の想定のどれかが当たっているなら、人が減るなんてことは有り得ないんだ」

少年「……!」


 ……ドン……


用心棒「っ!?何だ、今の音は!?」

少年「太鼓?いや、こんな時間に……」


 ズドォンッ
グラグラ


用心棒「な!?」

相棒「っ!?」

少年「い、今のは一体……」


 メキメキ パリーンッ

<キャアアアア!
<カミナリカ!?
<ブツバツダ!ブツバツダ!


用心棒「……まさか!」


 ……ドン……


用心棒「あ、あの音は……やはり!」

用心棒「くそっ、何てことだ!伏せろっ!」バッ

相棒「坊主!」バッ

少年「い、一体、何が――」バッ


 ズドォンッ
グラグラ

 ガラガラ…
ゴゴンッ

ズズンッ



 ドン… ズドォンッ


部下甲「西に逸れた。東に修正させろ」

部下乙「『東に修正』はこの振り方だったな……」ブンブン

部下丙「砲撃班への合図とはいえ、提灯を振り回すのは何だか馬鹿らしいな」


 ドン… ズドォンッ


部下甲「次は北に逸れたぞ」

部下乙「『南に修正』っと……外しすぎじゃないのか?」ブンブン

部下丙「さっきドンピシャだっただろう。夜中でこれなら抜群の腕だ」


 ドン… ズドォンッ

ギギイッ キャーグシャ


部下甲「おっ!当たったぞ!」

部下乙「『修正なし』っと」ブンブン

部下丙「……それにしても、槍使いさん」

槍使い「『二人を始末するのに大筒とはあまりにも大げさだ』と言いたいんだろう?」

部下丙「えっ……は、はい」

部下丙(相変わらず人の言いたいことを読むなあ……)

槍使い「それだけ油商人はあの二人が怖いのだろう」

槍使い「臆病なあの男らしいことだ。大げさな対策をとるのも無理はない」

部下丙「まあ……そうですね」


槍使い「しかし……そいつらが怖いというそれだけの理由で……」ゴゴゴゴゴ

部下丙「……?」


槍使い「私を夜中に呼びつけ、こき使うとは!」ビュンッ

部下丙「ヒイッ!?」

槍使い「この!私は!人束いくらの浪人とは違うのだ!」ブンッ

槍使い「日々人の暮らすそれならざる世界より形なき文を受けその内容のすべてを代行者としてこの世へ生み出す宿命を神仏すら超越する大いなる存在より受けた人であって人ではない私を個人の恐怖心を由に軽々しく呼びつけるなど許されんのだぁああ!」ビューンビューンビューン

部下丙「わ、わかりました!わかりましたから、落ち着いてください!」

槍使い「……」ピタッ

部下丙(……本当に落ち着いた?)

槍使い「……おい、下郎ども……今すぐ、砲撃班に加勢しに向かえ」

部下甲「え?」

部下乙「へ?」

部下丙「な、なぜです?」

槍使い「……砲撃班が、奴らの片割れに襲撃される」

部下甲「ええっ!?奴ら、もう死んだのでは!?」

部下乙「たとえ襲撃が行われるにしても……片割れということは、一人でしょう?」

部下丙「たった一人なら、砲手たちと、さっき伝令に向かった部下丁で充分に始末できるのでは?」

槍使い「無理だ。襲撃者は女だが、砲撃班は撫で斬りにされる」

部下達「「「!?」」」

部下甲「や、槍使いさん!そんなこと起こるわけが……縁起でもない!」

槍使い「……『視えた』んだよ」

部下達「「「……?……」」」

槍使い「とっとと行け。今私は気が立ってるんだ」

槍使い「二度同じことを言うくらいなら、手前らを全員この槍の錆にするぞ!」

部下達「「「今すぐ向かいますっ!」」」ピュー


槍使い(……面倒だが、もう一人は私が相手せざるをえないな)

槍使い(もうあの宿屋から脱出し、攻撃を仕掛けてきてもいいことだが……)

槍使い(……!)


――――――――

――――

――


 ズドンッ!

槍使い『ぐっ!?』ガクッ

槍使い『う、撃たれ……あ、あそこの木の裏からか……!』ジャキッ

 ……ザッ

用心棒『……お前が〈槍使い〉か』

槍使い『……〈用心棒〉……』スック

用心棒『クックック……無茶するな。傷が広がるぞ……』ジャキッ

槍使い〈――短銃だと!?〉

 ズドンッ!


――

――――

――――――――


槍使い(……『視えた』)

槍使い(浪人とはいえ武士だろうに、短銃とは……)ジャキッ

槍使い「……まあ、外道はお互い様だな」ボソリ

槍使い「そこだ、短銃使い!」ビュンッ!

 ジャララララララララ…

用心棒「何ッ!?くっ!」ゴロゴロッ

 バキャアッ!

槍使い「……避けたか。中々の身のこなしだ」


用心棒(何故だ……完璧に気配を消していたはずなのに、見つかるとは……)

用心棒(――それよりも……あの槍は、一体何だ?)

用心棒(柄と穂先が鎖で繋がっている……なるほど、鎖鎌のようにも使える仕掛けか)

用心棒(夜闇で遠くが狙えず弱体化している短銃が相手なら、引けを取らぬ得物……)

用心棒(いや、発射炎で現在位置を露呈する短銃より強力か――?)


槍使い「……フッフッフッフッフ。思ったより私を楽しませてくれるようだな」

槍使い「だが、それだけだ。どうあがいても私に勝つことなどできんぞ……」

槍使い「――私には全てが『視える』!」

今日はここまで



 ドンッ!

砲手甲「ヒュウ……これで弾は最後だったな?」

砲手乙「ああ。宿屋は用心棒ごと木っ端みじんさ」

砲手甲「いや、何だか知らんがしばらく修正の合図が無いから、後半は外したかもしれん」

<ザッザッザッ

砲手甲「うっ!?敵か!?」ジャキッ

砲手乙「待て、合図に使う提灯を持っているぞ。味方だ」

砲手甲「何?……じゃあ、合図を中断したのはこっちに移動するためだったのか?」

砲手乙「だろうな」


部下甲「大筒はこのあたりだったか?」ザッザッ

部下乙「たぶん……おっ、居たぞ」ザッザッ

部下丙「無事か砲手ども!」ザッザッ

砲手甲「はっ、無事です!」

砲手乙「一体何故こちらにお越しになったんです?」

部下甲「あ、いや……槍使いさんが、お前らが襲撃を受けると言ったものだからな」

部下乙「しかし、このぶんでは外れだな。珍しいことだ、博打でも外したことはないのに」

部下丙「いや、すでに敵は近くまで来ているのかもしれん。急いで撤収だ!」



<ガチャガチャ ゴトゴト

<アブラショウニンサンハ、ドコカラオオヅツナンテモッテキタンデショウ?

<サアナ


少年「敵が増えましたよ」ヒソヒソ

相棒「……見ればわかる」ヒソヒソ

相棒(短銃を持っているのが二人と、腕が立ちそうなのが三人……)

相棒(坊主を抱えたままでは持て余す……)

相棒(……しかし、坊主を一人にするのは心許ないような)

少年「……相棒さん、僕に何かできることはありませんか?」ヒソヒソ

相棒「!」

少年「……戦いたいんです。いつまでも守ってもらうなんて嫌だ」ヒソヒソ

少年「家族の……家族の仇を、討ちたいんです!」ヒソヒソ

少年「……それに、僕は用心棒さんの弟子でもあります」ヒソヒソ

相棒「……」

相棒「……」

相棒「……」ゴソゴソ

相棒「ん」スッ

少年「これは……短銃?」パシッ

相棒「浪人どもから奪った洋式短銃……これが早合」ヒソヒソ

少年「ずっと持っていらっしゃったんですか?何故使わずに……」ヒソヒソ

相棒「元々は用心棒が持っていた。団子屋の話をしたら護身用にと渡された」ヒソヒソ

少年(団子屋……?)

相棒「……坊主。お前はこの短銃を持って山から下り、街道を南へ向かえ」ヒソヒソ

相棒「大きな楠にぶつかったら、右の脇道を上れ。そこに隠れ家がある」ヒソヒソ

少年「あ、相棒さん!僕も一緒に……」

相棒「坊主。お前の仕事は、何としても生き延びることだ」

少年「……!?」

相棒「……万に一つもないことだが」

相棒「もし私たちも死んだら、誰が仇を討ってくれる?」

相棒「誰がお前の家族の仇を討つ?」

少年「……」

相棒「……お前は何としても生き延びるんだ、坊主」

相棒「分かったら行け。静かに、な……」

少年「……」

少年「待ってますからね……これでお別れなんて、いやですからね!」ダッ


相棒「……」

相棒「……さて」スッ

短刀「ジャキッ」
短刀「ジャキッ」
短刀「ジャキッ」
短刀「ジャキッ」

相棒「……始めるか」



砲手甲「そっち引っ張れ!」

砲手乙「待て、車輪がつかえている……」ゴソゴソ

部下甲「ええい、何を手間取ってるんだ、大筒を牛に繋ぐだけだというに……」

 ヒュッ

部下甲「ッ」ブスリ

部下乙「……?おい、どうした、甲……」トンッ

部下甲「」ドシャッ

部下乙「な……!?せ、背中に短刀が……」

部下丙「どうしたッ!」バタバタ

 ヒュッ

部下丙「ぐおっ!」ブスリ

部下丙「う、腕が……短刀を投げやがったのか!」

部下乙「用心棒の手の者か!?」スラッ

 ヒュッ

部下乙「馬鹿め、そうそう何度も通用……」カキインッ

相棒「……」シュザッ

部下乙「何ッ!?」

相棒「……」スラッ

 ヒュパッ! ドバッ!

部下乙「」ドシャッ

部下丙「お、おのれ……!」スラッ

砲手乙「このアマがァ!」

相棒「……」ザッ

部下丙「喰らえッ!」ビュッ

相棒「……」ヒョイッ

砲手乙「風穴を開けてやるッ!」ジャキッ

相棒「……」グイッ

砲手乙「うおっ!?」ブンッ グッカチッ

部下丙「馬鹿野郎どこを狙って……」

 バアンッ!

部下丙「」ドシャッ

砲手乙「ひっ……」

相棒「ご苦労」チャキッ

 ズバッ! ドヒュッ!

砲手乙「」ドシャッ

相棒(残り一人は……居ない?逃げたか?)

砲手甲「うおおおおッ!」ザザッ

相棒(し、茂みの中に――!?)

砲手甲「死ねぇ――ッ!」ジャキッ


 バアンッ

今日はここまで


 ザザザッ

 ズドンッ

 シュザザッ パキパキ

 ズドンッ ズドンッ

 ザザッ ジャラランッ バキャッ

 シュザザッ


用心棒「……」ザッ

用心棒(槍使いはどこに隠れた……?)キョロキョロ

用心棒(くそっ、夜のうえに森の中だから隠れられると見つからん……!)

用心棒(森に逃げるあいつに取り合わず、宿屋の跡地に居座るべきだったんだろうが……)

用心棒(砲台の敵と合流されると相棒が危険になるから、奴を自由にするわけにはいかなかったんだ……仕方ないことだ!)


槍使い「喰らえ!」ジャララッ

用心棒「うおっ!?」サッ

用心棒「そこか!鼠野郎!」ズドンッ ズドンッ

槍使い「フン、視えてるぞ……」サッ サッ

槍使い「これならどうだ、鼠野郎!」ジャラランッ

用心棒「くそっ!」サッ チュインッ

 バキャアッ!

用心棒(――くっ、腕にかすったが、何とかかわしたぞ)

槍使い「……」ニヤリ

 メキメキ

用心棒(ハッ!?槍が刺さった木が――!)

 メキメキッ ズドッ


槍使い「そしてこれは、大筒用の火薬を少々失敬して作ったものだ……」ゴソゴソ

槍使い「とっておきな!」シュバッ ポイッ

 バチバチ… 

 ドゴオンッ!


 メラメラ… パチパチ…

槍使い「……流石に、死んだか?」

槍使い「――!」

槍使い「ハッ!」バッ

 ドゴオンッ! チュイーンッ

用心棒「……チッ」

槍使い「……フフッ。あの一瞬で……私の後ろに回り込むとは……」

槍使い「剣士が敗れたのも無理はない、といったところか……フフフ……」

用心棒(……再装填……)スッ

槍使い「おっと、再装填なら急がなくていいぞ」

用心棒「!……親切なことだな」ガシャッ

槍使い「フフフ……相模くんだりまで追ってきたんだからな、もう少し楽しませてもらう」


槍使い「ところで、もうわかっているだろう?」ゴソゴソ

用心棒(野郎、銀の櫛を出して……髪を整え始めたぞ……)

槍使い「私に攻撃は通用しない……『視え』てるんだ、全部な……」サッサッ

用心棒「フン、面白い目なんだな。目薬をやろう」ドゴオンッ

槍使い「いらないな」サッ

 バキイーンッ!

用心棒(――!こ、こいつ、櫛で銃弾を弾きやがった!)

用心棒(まるで弾丸の軌道がわかっていたかのような――ハッ!?)

槍使い「フフ、フ、ようやくわかったようだな」

槍使い「そう、私の目は未来が視える面白い目なのさ……」


槍使い「『無意識のうちに相手の体の小さな動きを見て、しようとしていることを読み取っている』……」

槍使い「外国で医学を学んだ医者はそう予想していたな……フン」

用心棒「……」

槍使い「この力は神が私に分け与えた神通力ゆえ、一介の医者風情にはそのようにしか定義付けできまいよ」

槍使い「神通力というのは人の言葉では説明できないのだ。言葉は神通力の産物なのだから、な……」

槍使い「鏡に鏡を写すことができないのと同義よ」

用心棒(……なかなか頭がイってる鼠野郎だな)

用心棒(しかしこのままでは俺がジリ貧だ……ならば……)

槍使い「おい、何とか言ったらどうなん……」

槍使い「――!」


用心棒「視えたな?避けてみろッ!」ジャキッ

ドゴンッ
 ドゴンッ
  ドゴンッ
   ドゴンッ
    ドゴンッ


槍使い「――ハッ」

槍使い「考えが!」サッ

槍使い「安易だ!」バッ

槍使い「鼠野郎!」シュバッ

槍使い「視えててもかわせないほど攻撃すればいい、なんてな……!」

槍使い「次はこっちの番……」ジャキッ


用心棒「うおおおおお」ダダダダダ


槍使い「な!?アイツ逃げやがった!?」


槍使い(あれほどの戦闘力を持ちながら……逃げるだと?)

槍使い(どこまでも安易な……いや……なめているのか?私を?)

槍使い(私を……私を……オレを馬鹿にしてるってのかッ!)

槍使い「……ふ」

槍使い「ふざけんなゴミが――ッ!」

槍使い「槍の射程内だ!その無防備な背中にぶち込んでやる!」ジャキッ


用心棒「出てこい!木の陰から!」ガシッ ズルッ

部下丁「わっ!?ば、ばれて……!?」スラッ

用心棒「当たり前だ!オラァ!」バシッ

部下丁「ひいい――っ!」カランッ

用心棒「行け!」ゲシッ


槍使い「チッ……」ヒョイッ

部下丁「うわあっ!」ドタッ

槍使い「何をやっていやがる、役立たずめ!」

部下丁「た、た、た、大変なんです!砲台が!砲台班が全滅です!」

部下丁「私は命からがら逃げて、槍使いさんに合流するためにここまで来たのですが……」

部下丁「戦闘中で割り込めなくて隠れていたらあんなことに……」

槍使い「砲台班が全滅……?増援をよこしたのに……」

槍使い「チッ、奴の相棒も手練ってのか?オレの想定外だってか?」

槍使い「どこまでもオレをコケにしやがって……」

槍使い「――!」


用心棒「刀を返すぞ!」ブンッ

槍使い「よけろボンクラ!」バッ

部下丁「ひいっ!」ドタッ

 ビューンッ

部下丁「あ、ありがとうございますっ」

槍使い「なに、大事な盾だからな」ガシッ

部下丁「はっ?」

用心棒「こいつはおまけだ!」ドゴオンッ

槍使い「それも視えてる!」グイッ

部下丁「や、槍使いさ――グハッ!」バスッ

部下丁「」ガクッ


用心棒「チッ、便利な目だ……!」ダッ

槍使い「逃がさん……絶対に逃がさんぞ……!」ダッ

短いですが今日はここまで



 シュザザザザ…

用心棒(チッ、道が崖でドン詰まりになってやがる……回り込んで崖をよけるか)ダダダ

用心棒(しかし……さっきのひと悶着で少し引き離せただろう)ダダダ

用心棒(そうだ、この隙に弾倉を交換しなければ……)カシャッ

<ビューンッ

用心棒「っ!?」サッ

 ズバッ

用心棒「ぐうっ!」

用心棒(くそっ、左腕が……奴の『槍』か!)

用心棒(弾倉交換のために少し速度を緩めたところを狙われたか……)

用心棒(しかし何故だ!?奴は俺の後方に居たはずだ、何故左から槍が……!)

用心棒「――!そこかッ!」ドゴオンッ

 チュイーンッ

槍使い「当たらねえな、そんな攻撃は」ザッ

用心棒「……貴様……」

槍使い「『どうやってそこに移動した』と聞きたいんだろう?」

用心棒「!」

槍使い「……フフフフ、ウッフフフ……誰が手前に教えるかよ!」

用心棒「……」ジャキッ

槍使い「おーおー、勇ましいな。だが手前は間抜けだぜ」

槍使い「逃げ続ければ良かったものを、動揺して無駄な攻撃を試みた結果……槍の射程内から逃れられていないッ!」

用心棒(……!し、しまった!)

槍使い「そしてこれからは二度と逃さない!槍を喰らえ!」ブンッ

用心棒「チッ……!」

用心棒(……むっ?槍の穂先の速さが……宿屋の跡地で対峙していたときより、落ちている?)

用心棒「これなら……撃ち落とせる!」ドゴオンッ!

 カキインッ!

 ガシャッ

槍使い「くっ、小癪な……」ジャラジャラ


槍使い「――!……これならどうだ!」ビュンッ!

用心棒(近くの木を狙っている?また倒木を引き起こす気か……だが、遅い)

用心棒(――そうか、わかったぞ)

用心棒(奴は、俺がよけたあの崖を飛び降りてきやがったんだ。だから先を行く俺に追いつけた)

用心棒(そのとき足を痛めたせいで、槍を振るとき十分踏み込めず、その結果攻撃が遅くなっているんだ)

 バギャッ

 メキメキメキ…

用心棒(倒木の当たらないところに移動しよう)サッ

用心棒(そして奴に反撃を――)ジャキッ


用心棒「――ハッ!?あいつはどこに行った!?」


槍使い「手前の後ろだッ!喰らえ!」ブンッ

用心棒「ぐはっ!?」ポロッ

用心棒(うっ、短銃が!)バッ

槍使い「取らせん!」ビュンッ

用心棒「ぐふぅっ」ドタッ

用心棒(し、しまった……俺が倒木に気を取られるのを視ていやがったな!)

用心棒(その隙に後ろへ回り込み、槍の柄で攻撃してきたのか!)

槍使い(穂先を回収……)ジャラジャラ

用心棒(――はっ!槍使いの後ろの、木の陰に……!)


相棒「……」コソッ

用心棒(やっと……合流できた!)

用心棒(俺が槍使いから逃げたのは、砲台の敵を排除して戻る相棒といち早く合流するためだったんだ!)

相棒「……」チャキッ

用心棒(槍使いはこれから俺にとどめを刺すため、槍を振りかぶるだろうが……)

用心棒(その瞬間、すなわち隙が生じた瞬間、相棒が後ろから短刀を投げて奴の心の臓を突き通す!)


槍使い「――!……」

槍使い「……さて……これでとどめだッ!」グッ

用心棒(今だ相棒!)

相棒「ッ!」ビュンッ


 カキインッ!

用心棒「……!?」

相棒「……!?」

槍使い「……」

用心棒(ば……馬鹿な!)

用心棒(槍使いがッ!槍を振りかぶると見せかけて、飛んでくる短刀を叩き落としやがったッ!)


槍使い「フッ……フハハハ……ハーッハッハッハァ!」

槍使い「全部視えてんだよクソボケどもがあああッ!」

用心棒「ぐ……!」

相棒「……!」ゴソリ チャキッ


槍使い「雑魚が一匹増えたところで何も変わらねえよ……転がる死体が一つ増えるだけだ」

槍使い「さて……順番は、用心棒からかな?」チャキッ

相棒「ッ……!」ダッ

槍使い「手前はおとなしくしてろッ!」ポイッ

相棒「!」

 ドガアンッ!

用心棒「あ、相棒――ッ!」


槍使い「おいおい!向こうを気にしてる暇があるのか用心棒?」チャキッ

用心棒「ぐッ……!」

槍使い「ヒッハッハッハッハ!そう睨むなよ、できるだけ苦しんで死ねるように取り計らってやるから――」

 ピシッ

槍使い「――あ?」

用心棒(……地割れ?)

 ピシッ ピシピシッ ピシッ ピシッ

 ズズズズズズズズズ… グラグラグラグラ

槍使い「おっ?うおおっ?」

槍使い「な、な、な、な、な、何だこれは――っ!?こんなの視えなかったぞッ!?」

用心棒(地震!?……いや、違う!)

用心棒(『土砂崩れ』だ!今いる場所は、崖の上だったんだ!)

用心棒(この前の雪で土が緩んでいたから、爆発の衝撃で崖が崩れ始めたんだ……!)

用心棒(好機ッ!この隙に短銃を手に入れる!)ダッ

槍使い「――!させるか!槍を喰ら――」グッ

 ミシミシミシ グラグラグラ

槍使い「うおっ!?」スポッ

 ガキッ

槍使い(しまった!足元が揺れて狙いが狂って――槍の穂先が木に突き刺さっちまった!)

槍使い「ぬ、抜けない……!」グッグッ

用心棒(もう少し!もう少しで短銃に手が届く――)


 ゴゴゴゴゴゴゴ

 ガラガラガラガラガラッ

用心棒「うおっ!」ドタッ

用心棒(や、やばいぞ!地面が傾いて……!)

 ゴゴゴゴゴゴガガガガガガッ

槍使い「お、落ちる――ッ!」ズルッ

用心棒「うおあああ!?」ズルッ

槍使い(――ハッ!槍が!木に突き刺さった槍が手がかりになってくれているッ!)プラーンッ

槍使い(用心棒!滑ってこい、こっちに!槍は使えないが、爆弾で爆殺してやる!)ゴソッ

槍使い(――!)

用心棒(ま、まずい!このまま槍使いのほうに落ちていくと爆弾の餌食だ!)ズルズル

用心棒(何かに捕まらなければ!くそっ、手がかりが無い――)ズルーッ

 ガシッ

用心棒「!?お、お前は――」

相棒「……」ギュッ

用心棒「相棒――ッ!」

槍使い(くそっ!やはり生きていた――さっきの爆弾を紙一重でよけていやがったな!)

槍使い(視えてはいたが、崖からぶら下がっているこの状況では対応できん……!)

 グワン ガラララッ ズズズズズ

相棒「あ」ズルッ

用心棒「おい」ズルッ

槍使い(来たッ!傾斜が酷くなって、奴らこっちに落ちてきやがった!)

槍使い(あと六尺落ちてこい!そうすれば投げた爆弾が届く!)


用心棒(踏ん張るッ!ぐぐぐぐぐ)ズザザッ

相棒「……」ズルーッ ゴソゴソ

槍使い(あと四尺!……――!)


用心棒(ダメだ!傾斜がきつすぎる!)ズザザッ

相棒「フンッ!」ズルーッ ビュンッ

槍使い「また短刀を――だが、視えているぞッ!」ピシッ

用心棒(し、真剣白羽取り!)ズルーッ

相棒(……もう打つ手は……!)ズルーッ

槍使い(あと二尺!……――!)


 ヒュウーッ

用心棒「!落ちてきた!短銃がッ!」パシッ

用心棒「喰らいやがれ槍使い――ッ!」ドゴオンッ ドゴオンッ ドゴオンッ

槍使い(視えていた!視えていたが――避けられん!この姿勢では!)

槍使い(俺の――俺の取るべき行動は――最も生き残る可能性の高い方法は――!?)


槍使い「これだ――っ!南無三!」ピョーンッ

用心棒「何ッ!?」

用心棒(崖から飛び降りた!?何て奴だ!)

用心棒(――だが、後から落ちてくる土砂に生き埋めにされてお陀仏は確実……)

用心棒(俺の勝ちだ、槍使い!)


用心棒「俺たちまで落ちてはたまらん!奴の槍に掴まれ!」ズルルーッ パシッ

相棒「はっ」パシッ


 ガラガラガラ……

 ズズンッ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 ……

 ……


用心棒「……ひゅう……」プラーンッ

相棒「……」プラーンッ



 付近の山中


闇商人「……終わったようだな」

忍「熾烈な戦いになったようですな」

闇商人「ああ……偶然に味方されて用心棒が勝ったものの、油商人四天王は強者ぞろいのようだ……」

闇商人「残り二人はおそらく槍使いよりも強いのだろう……用心棒は勝てんだろうな」

忍「……では」

闇商人「……」

闇商人「俺は油商人につくことにする」

忍「……はっ」


闇商人「……用心棒と相棒の姿が消えた。土砂崩れの跡へ行くぞ」

忍「槍使いを探すのですか」

闇商人「ああ。四天王の一人である奴を救助したとなれば、俺は油商人から信頼されるに違いない」

闇商人「まあ、槍使いが生きていればの話だが……さあ、行くぞ」

忍「御意」

 ザッ ザッ ザッ ザッ……

今日はここまで
地の文は入れたほうがいいでしょうか?



 隠れ家


少年「……」ハラハラ

少年「……」ソワソワ

少年「!」スック

少年「……」ストン

少年「……」ハラハラ


<…パカラ パカラ パカラ


少年「!」スック

少年「……!」ソワソワ


 パカラ パカラ パカラ…>


少年「……?……?」オロオロ

少年「……」ストン


少年「……」ソワソワ

少年「……」キョロキョロ

少年「!」スック

少年「……」スタスタ

少年「……」ゴトゴト

少年「……」ガサガサ

少年「……」ギュッギュッ


<…パカラ パカラ パカラ パカラ


少年「!」



用心棒「居るか坊主ゥ!」ガラッ

相棒「生きてるか坊主」


少年「ああっ!用心棒さん!相棒さん!よくご無事で……!」

用心棒「は、は、は。俺にかかれば槍使いでさえも……」

用心棒「……何で蓑なんか着てるんだ?」

少年「あ、これは……手持ち無沙汰で、何となく……」

用心棒「……お、おう」


 ガパッ

用心棒「よーし、闇商人はちゃんと食料も用意しておいてくれたな」

少年「何で床下に食料保管庫が?」

用心棒「さあな。あいつの用意する家ってのは大概床下に仕掛けがあるんだよな……たぶん闇商人の趣味じゃないか」

少年「ふうん……変わった趣味ですねぇ」

用心棒(……これでとりあえず、食料の不安はないが)

用心棒(――弾薬が残り少ないな……剣士と槍使いに散々使わされてしまったからな……)

用心棒(隠れ家を出て調達するわけにもいかん……どうしたものか……)


少年(……用心棒さんは何だか難しそうな顔をして考え込んでしまったな)

少年(そういえば、相棒さんは……)クルッ

相棒「……」キョロキョロ

少年「?どうされました?」

相棒「……風呂……」

少年「お風呂ですか?」

少年(改めて見れば相棒さんは、至近距離で爆裂弾が爆発したかのようにススだらけだった)

少年「向こうにありましたよ。この廊下の突き当たりに」


相棒「……用心棒」スッ

用心棒「……ん?」

用心棒「……ああ。おうよ……勝ったほうが薪割り、負けたほうが水汲みだ」スッ

二人「じゃーんけーん……」

少年「あ!お風呂の準備なら出来てますよ」

用心棒「ほう?よく気が回るやつだな!」

少年「……手持ち無沙汰で」

用心棒「……お、おう」

相棒「……坊主」

少年「はい!沸かすのもやります、少しだけお待ちを!」ダッ

 ガラッ ピシャリ


相棒「……」

相棒「……手ぬぐいは……」キョロキョロ

相棒「!」ヒョイッ

用心棒「ん?どうした?……おい、それは」

相棒「坊主に持たせた……洋式短銃」

用心棒「……俺たちが帰ってきたとはいえ、暴発すりゃ人死が出る凶器を置きっぱなしにして行くとは」

用心棒「あの坊主……気が回るんだか、そそっかしいんだか……」

用心棒「なんにせよ俺たちみたいな仕事は向いてないな」

相棒「……全く」

用心棒「……短銃なんて持たせておいて大丈夫なのか?」

相棒「……」

相棒「……護身用」

用心棒「まあ、そうだが……」


用心棒(……おっと。馬と荷車を外に置きっ放しだった)

用心棒(油商人の追っ手に見つからないとも限らん。裏手の厩に移動しておかなければ……)

用心棒「馬を移動してくる」

相棒「ん」


 ガラッ ピシャリ

用心棒(しかし、寒いな……このあたりはまだ雪が融けていないのか)

用心棒(考えてみれば、あの馬も悪運が強いな。あの砲撃の中でも無傷だった)スボッ スボッ

用心棒(おかげで箪笥を捨てずに済んだ……)スボッ スボッ


用心棒(……?)スボッ…

用心棒(何だ……馬の近くに……人影が……)

用心棒「……!?」


覆面の男「……」

覆面の男「……おや、用心棒」


用心棒「……貴方は……何故、ここに」


覆面の男「……全く、無用心が過ぎるな」

覆面の男「これこれこういうものが借りた、ということが知れ渡っている馬を繋いでおけば」

覆面の男「これこれこういうものはその近くにいる、ということは猿でもわかる……」

覆面の男「……さて。勉強代として茶の一杯でもいただけるかな」

覆面の男「手土産は持ってきたのでね……」


用心棒(そういえば……覆面の男は、大きな袋を背負っている。あれが手土産なのだろう)

用心棒(……それよりも)


用心棒(――何故この男は、俺がこの街道沿いに居るとわかったんだ……?)



 同時刻 江戸

 油商人の館


油商人「や、や、や、槍使いまでも敗れ去るとは……虎の子の大筒も持たせたにも関わらず!」

油商人「用心棒とは一体どれほどの実力を持っているというのだ……!」

油商人「恐ろ……いや!いやあ!恐ろしくはない!まずいんだ!まずいだけだ!」

油商人「そうだ、まずい、まずい、まずいんだ!私は死にたくない……もとい……死んではならない人間だ、この国にとって!」

油商人「武士!館の防備は十分なのか?固めろガチガチに!死んでからではどうにもならん!」

武士「落ち着いてくだされ油商人殿……」

武士(チッ……面倒くせえなあ……)ボリボリ

武士(こういうとき剣士がいると押し付けやすかったんだが……今この場にいるのは……)チラッ

大男「ああー……うう」

武士(……こいつではなあ……)


武士「聞くところによると、用心棒が槍使いに勝利したのは単に偶然が味方したためのようです。何ら恐れることは……」

油商人「何だ!?何を言っているお前は!?」

油商人「お前は江戸から動いていないではないか、戦いの顛末などわかるものか!」

油商人「私にとりいりたいのか騙したいのか知らんが出鱈目を言うんじゃあないッ!」ブンッ

武士(!ボケが、香炉を……)ゴソッ

 ドキューンッ

 バキーンッ ゴトッ ゴロロ…

油商人「ひいっ!?き、きさま、短銃を……まさか……きさま……」ブルブル

武士「……落ち着いてくだされ油商人殿」

武士「父上が朱印船貿易で手に入れたとかいう、『まにら』の煙草でもお吸いになったらいかがです」

油商人「『まにら』の煙草……?」ブルブル


油商人「……」ブルブル ゴソゴソ

油商人「……」ブルブル スパーッ

油商人「……」スパーッ

油商人「……」スパーッ

油商人「……」コトッ

油商人「……ふ」

油商人「ふふふふふ……ははははは」

油商人「すまんな武士よ。私ともあろうものが何を取り乱していたのか……」

武士(……あの煙草、何が入ってるんだろうか)


油商人「にして……武士よ……何故貴様が用心棒と槍使いの戦いについて知っているのか……」

武士「全てを見ていた『協力者』から文が届いたからです油商人殿」

油商人「『協力者』……とな?」

武士「はい。文にて、用心棒の抹殺に関して油商人殿に協力したいと申し出た男にございます……『闇商人』と名乗っておりました」

武士「現在用心棒が身を隠している隠れ家を用意した男らしく」

油商人「ほう……」

武士「現在相模からこの屋敷へ向かっているそうです」

武士「到着次第、隠れ家の位置と用心棒に関する情報、『とっておきの襲撃手段』を油商人様に全てお伝えするほか、襲撃にも自分の部下を加勢させるとのことです」

油商人「……ふむ。隠れ家の位置に……『とっておきの襲撃手段』……」

油商人「それにしても、隠れ家を用意しておきながらこちらに協力するとはなかなか良い根性をしているな」

武士(そういう話を世間話でもするような顔でできるあんたも大概だけどな……)

油商人「まあ……協力の申し出を受けることに損はあるまい。返事は?」

武士「そう仰ると思い、既に返事を出してございます」

油商人「良い良い……ふっふっふ……その協力者から情報を聞き出し次第、隠れ家の襲撃を決行するとしよう」

油商人「襲撃の音頭は大男、お前にとってもらう……存分に刀を磨いておくのだぞ」

大男「う……」

大男「……」


大男「御意」

今日はここまで
地の文は無しでいきます



 ホーッホーッ ホッホーッ

 ホーッホーッ ホッホーッ……


少年「……」

少年「……」

少年「……」パチリ


少年「……」ムクリ

少年「……」

少年「……」キョロキョロ


用心棒「グゴゴゴゴ……グゴゴゴゴ……」

相棒「……ワガダンゴケンハムテキ……ムニャムニャ」


少年(……癖で、早く起きてしまった)

少年(毎朝、父上に剣を教えてもらっていたから……)

少年「……」

少年(いかん、いかん、こんな弱気では!)フルフル

少年(……顔を洗おう)スック

少年(水は土間の瓶にあるけど……桶と手ぬぐいは……あ、あった)パシッ

少年(うう……寒い……)スタスタ


 ガサゴソ スタスタ

 カタッ…ザパッ バシャバシャ バシャバシャ ビシャッ…カタン


少年「つ、冷たい……目が覚めたぞ……!」ブルリ

少年(しかし……あまりにも寒すぎるような。昨日は囲炉裏の火をずっと燃やしていたのに……)ゴシゴシ

少年(……隠れ家のどこかに大穴でも空いてるんじゃあないか?)キョロキョロ

少年(……ないか)


少年(ひょっとして、昨晩僕が寝た後に雪が降ったんだろうか?)

少年(少し外の様子を見てみよう……)



 ホーッホーッ ホッホーッ

 ホーッホーッ ホッホーッ…

 ガラッ  バササササ…>


少年(寒い……けれど、新しく積もった様子はないな……)

少年(なぜ隠れ家の中はあんなに寒かったんだろうか……?)

少年(……気のせいかな)


少年「……」

少年「……」クルッ


<グゴゴゴゴ… グゴゴゴゴ…


少年「……」

少年「……」キョロキョロ…

少年(……おや)

少年(雪の重さで折れたのか、太い木の枝が落ちている……ちょうど、打刀ほどの長さだ)


用心棒『たかが棒、されど棒……』


少年「……」

少年「……」


 スボッ スボッ スボッ ヒョイッ


少年「……」グッ


少年「フンッ!」ブンッ


少年「フンッ!」ブンッ


少年「フンッ!」ブンッ



今日はここまで
たった2レスですが生存報告も兼ねて



少年「はあ……はあ……」

少年(少し休憩しよう……どこか座るところは……)キョロキョロ

少年(おや、戸口の近くに岩が雪から突き出しているぞ……雪の下には庭があるんだろうか)

少年(何にせよ丁度いい、あそこに腰掛けよう)


少年「……ふう」

少年「……」

少年(雪の上には、ついさっきの僕のもののほかに幾筋かの足跡が伸びている)

少年(そのうちのほとんどは僕と用心棒さん、相棒さんのものだが……二筋だけは違う)

少年(それは……あの得体の知れない覆面の男が往復したときのものだ……)



 昨晩


 スボッ スボッ スボッ…
  スボッ スボッ スボッ…

覆面の男『ほう……なかなか立派な隠れ家をお持ちだな……』

用心棒『しばしここでお待ちいただきたい』

覆面の男『……』

用心棒『……?……』

 スボッ スボッ…


 ガラッ サッ ピシャリ

用心棒『相棒』ボソッ

相棒『!』ガシッ

少年『え?何がモガモガ』

相棒『来い』ヒソヒソ

 ズルズル…

 ピシャリ
 ガラッ!

覆面の男『失礼する』ダッ!

用心棒『!?』

相棒『!』

覆面の男『……』キョロキョロ

覆面の男『……』

覆面の男『中の造りも……ご立派だな』

相棒(坊主は……見られなかっただろうな……)


用心棒『……嫌ですな、〈なにがし〉殿。お待ちいただきたい、と申し上げたはずですが……』

覆面の男『ふむ。私は待つとは一言も申していないが……や、申し訳ない』

覆面の男『裏の世界を生きている用心棒殿の暮らしがどのようなものか伺いたく……気持ちがはやってな』


用心棒(適当なこと言いやがって……クソッ)

用心棒(不気味なヤツだ。こういう何を考えているのかわからない奴が一番手に負えない)

用心棒(こいつに坊主の存在を察知されるのは危険だぜ……)


覆面の男『まあそう怖い顔をしないでいただきたいな……この手土産を差し上げよう。機嫌を取っていると受け取ってもらって構わない』スッ

用心棒『……』パシッ

用心棒『開けても?』

覆面の男『どうぞ』

用心棒『……』ゴソゴソ

用心棒『……!これは!』

覆面の男『コ式短銃の弾と玉薬……それに脇差やら匕首やらもかき集めて詰めてある』


覆面の男『……だが……』

覆面の男『……不必要だったかもしれないな?』


用心棒(……実のところ、この手土産は有難い……が……)

用心棒(……こいつは何を言っているんだ?)

用心棒(何か勘違いしているのか……それとも……)

用心棒(……俺でも見抜けていないことを見抜いているのか)

用心棒(とりあえず、無邪気に喜んでおいて損はないか……)


用心棒『いや、必要ですよ。すごく必要でした。全く有難い差し入れですな。有り難く頂きましょう』

用心棒『……ただし油商人暗殺を引き受けるかは別問題ですよ』

覆面の男『……ンフ。もちろんだ。フッフフフ……』

覆面の男『では私は失礼する。私が居座っていて都合の良いことはないしな……』

用心棒『……』

 ドスドス ガサゴソ スタスタ ガラッ

覆面の男『ではまた』

用心棒『……今度はこちらから伺いますよ』

覆面の男『!……左様か。フフフフフ……』

覆面の男『楽しみにしている』

 ピシャリ

<スボッ スボッ スボッ…


用心棒『……とは……言ったが』

用心棒『奴は一体……』

相棒『……用心棒』

用心棒『何だ?』

相棒『あいつ、どこかで……会ったことがない……?』

用心棒『……いや……俺は知らないと思うが。まさかとは思うが、お前の剣道場時代の先輩とかじゃあないのか?』

相棒『……気のせいかも……しれないけれど』

用心棒『……チッ……とことん得体の知れない奴だぜ……』



 チュンチュン ピチチチチッ

 バタタタタタ…


少年「ふわぁあ……」

少年「……」


少年(……押入れの中から聞いたその男の声はくぐもっていて聞き取りづらかった)

少年(後から聞いた話では、その男は頭巾のような覆面で顔を隠していたのだという……)

少年(……この騒動には、油商人と僕たちのほかに、あの覆面の男の思惑も絡んでいるのだろうか……)


 ガラッ

相棒「坊主」

少年「わっ!?起きておられたんですか?」

相棒「ん……飯だ」


 スタスタ ピシャリ

少年(いつの間にか三人分の朝餉の用意が出来ていて……すっかり身支度を済ませた用心棒さんと相棒さんが座った)

用心棒「朝が早いな坊主」

少年「あ、はい、体に染みついているもので……」

用心棒「実に健康的だ、実に……さあ、頂くとするか」


 カチャカチャ パクパク ズルズル

少年(おいしい……)モグモグ

用心棒「……それと、坊主」

少年「ゴクン……何でしょう?」

用心棒「お前の剣はそこそこ形になっちゃいるが、いかんせん『剣道』だな。実戦じゃあ刀は振り抜かなきゃ斬れん」

少年「み、見ていたんですか……?」

用心棒「ああ……この後、もう一本棒を拾ってこい。どうせやることもなし、お前に本物の剣ってのを教えてやる」

少年「……!はい!お願いします!」



 江戸 油商人の館


 ザワザワ ガヤガヤ


武士「火薬の積み込みを急げ!これで用心棒どもを焼き殺してやるんだからな!」

浪人甲「はっ!」

浪人乙「おーい!車をもっと持って来い!全然足りんぞ!」

浪人丙「すぐ持ってくる!おい、誰か馬を厩から出してきてくれ!」タタタ

大男「うう……ぶ、武士……」

武士「ああわかってるさ大男。俺が仕切るのはここまでだ……用心棒を仕留めるのはお前に譲るさ」

武士(奴は俺の相手になる人物かもしれんが……どっちにしろこの脳足りんに負けるようでは仕方がないしな)

武士「……むっ?あいつは……」


油商人「貴様が闇商人か……」

闇商人「はっ。隠れ家の情報と援軍、それにもう一つ情報を届けに参りました」

闇商人「こっちが腹心の忍、こっちの二人も私の部下にございます」

忍「よろしくお願い申し上げます」

闇部下甲「我々二人は鉄砲を帯びたままであることをお許しください」

闇部下乙「用心棒が刺客を送り込んでくるやも知れませんので……」

油商人「……フフ、構わんよ」

武士(あの二人……そこそこの手練れだな)

闇商人「早速ですが……これが隠れ家の情報にございます」スッ

油商人「ふむ……思ったより街道に近い位置にあるのだな……」パラ

闇商人「そして……忍を油商人様にお預けします。道案内もさせますので、迷うことはないでしょう」

忍「……」ペコリ

油商人「そうか……して、『とっておきの襲撃手段』とは?」

闇商人「おそらく一人も傷つくことなく用心棒を仕留められる手段にございます……」

闇商人「しかし、放置しておけば用心棒の起死回生の一手ともなりえます。差し向けた者たちが全滅することもあり得るかと」

油商人「ほう、物騒だな。どんな手段なんだね?」

闇商人「それについては忍に伝えておりますので、現地で忍にお聞きになってください。それまではお楽しみ、ということで……」

油商人「……フフッ、ハハハハハ。そうか……よろしい」

武士(……闇商人とかいう奴、切り捨てられないように二重に手を打ってやがる。若いがなかなかキレる奴だぜ……)


闇商人「あと、もう一つ情報を持って参りました。江戸に居る、用心棒の協力者です」スッ

油商人「!何だと……?」パシッ パラッ

油商人「……『鍛冶屋』?聞いたことがあるぞ、お天道様の下を歩けない者の刀を打っているのはこいつだとか」

闇商人「そいつは用心棒と長い付き合いのようで……その上、最近何か怪しい動きをしております」

闇商人「もしかすると……奴の逆襲のために何か武器を造っているやも」

油商人「……よく知らせてくれた。こちらで手を打とう」ゴソッ


武士「油商人様。用心棒討伐隊、準備完了致しました」

油商人「む、そうか……忍とやら、隊に加われ」

忍「はっ」ササッ

油商人「夜には向こうに着けるだろう。今度という今度は用心棒も最期だ……出発せよ!」


 ザワザワ バタバタ ガラガラ ザワザワ……


闇商人(……ヘッ。用心棒……お前は俺が今まで出会った中で最も馬鹿だぜ)

闇商人「では我々はこれで失礼します」

油商人「ああ。良い知らせを待っているがよい」


 スタスタ… スタスタ… スタスタ…


武士「……油商人殿。あやつ、どうするおつもりで?」

油商人「つい最近まで用心棒とズブズブだった奴を放置しておくのは危険だな」

油商人「まずお前はこれから鍛冶屋を始末しにいけ。用心棒討伐の知らせが届き次第、あいつも処分しろ」

油商人「まさかとは思うが、あの二人の護衛が邪魔だなどと言うまいな?」

武士「全く問題ございません……では早速鍛冶屋を始末して参ります」

油商人「ああ、適当に金目のものも盗ってこい。奉行所が騒ぐと耳障りだ、強盗の仕業に見せかけておけ」

武士「御意」

今日はここまで



 …スタ スタ スタ スタ

覆面(おや……もう夕方か)

覆面(朝、用心棒の隠れ家から出た後……近くの町に向かい、昼飯をとり、夕食の握り飯を調達して……)

覆面(すぐに隠れ家のほうへ引き返して、近くの山をここまで登る……思ったより時間がかかってしまったな)

覆面(このあたりに腰を据えよう。ちょうど座りやすそうな岩もあるな)スタスタ ドッカリ


覆面(思った通り、この山からは用心棒の隠れ家がよく見える)

覆面(ではここで……これからやってくるであろう油商人の兵と用心棒の戦いを見物するかな)

 グッ パサッ

?「ふぅ……」

?(この覆面は息苦しくてかなわんが……誰かに顔を見られると私の計画が破綻するかもしれん。仕方がないな)

?(……鍛冶屋のやつはちゃんと用心棒の武器を作っているかな)

?(用心棒のやつはとぼけていたが、宿屋で密会していたのはわかっているのさ……そのときに武器の依頼をしたのは想像がつく)

?(すぐには届きそうになかったから私が差し入れをしておいてやったが、今回の戦いでまた武器を切らして鍛冶屋のもとへ向かうだろうな)

?(そこで先回りした私が事前に鍛冶屋を殺しておくと、用心棒は『油商人に突然恨まれ、刺客を送り込まれるようになった末に長い付き合いの仲間を殺された』と思い込み……)

?(鍛冶屋の作った武器を持って油商人の館へ殴り込むというわけだ)

?(はあ、やれやれ。用心棒が何もかも金で動く男だったらこんな面倒くさいことしなくて済むんだがなあ)

?(誰か鍛冶屋を殺しておいてくれると助かるんだが……)


?(おっと、そういえば……鍛冶屋を殺したあと、作った武器の中に『強すぎるもの』がないかどうか点検しておかなければ……)

?(用心棒が強くなりすぎないようにな……)



 夜

<グゴゴゴゴ… グゴゴゴゴ…
<スー… スー…

少年(風呂で修行の汗を流してきたら……お二人はもう眠ってらっしゃる)

少年(休むときは思い切り休むというのも生き残る秘訣なんだろうか……)

用心棒「グゴゴゴゴ… グゴゴゴゴ…」

少年(……別にそういうわけでもないんだろうか)


少年(でも、お二人は僕の分の布団も敷いておいてくださっている……なんとありがたいことだろうか)ゴソゴソ

少年(……)


 …  …


少年(……ん?)

少年(……)


 …ウ …ウウ


少年(布団に……横になったら)

少年(……何か聞こえるような……)


 …ヒュウウ ヒュウウウウウウウ


少年(!?)

少年(な、何だこの音は?風の音みたいだ……)

少年(床下から……聞こえてくる……?)



 …


少年(……止まった)

相棒「……」スック

少年「!」

相棒「……」シャキンッ

 ドガッ! バキャッ! バキッ!

少年(あ、相棒さんが急に起き上がって、床をめったざしに……)

相棒「……」

相棒「気のせいか」モゾモゾ

相棒「……スー……スー……」

少年(……じゅ、熟睡していたのにあの微かな音を聞きつけたのか……すごい方だ)

少年(……でも床が穴だらけだ……)


少年(しかし、妙だな……ついさっきまで確かにしていた音が、今では少しもしないぞ……)

少年(……風、か……)

少年(……)

少年(……)

少年(……!)

少年(妙に寒かった室内……闇商人の床下からくり趣味……風の音……ま、まさか……)


少年(この隠れ家の床下には、外へ通じる抜け道が……!?)


 …


少年(!!)

少年(きょ、鏡台の鏡ごしに見える……僕の背後で……)

少年(床板が『ずれて』……ぽっかりと穴が空いた!)

少年(……その中から……黒い……人くらいの大きさの……何かが……)


 …


忍「……」


少年(あいつは……!?)

短いですが今日はここまで。
のろのろとひっそりとやっていきます



少年(敵……明らかに敵だ……!)

少年(それに、動くとき布擦れの音一つ立てない……明らかに手練れ……!)


忍「……」… …


少年(用心棒さんたちのほうへ近づいていく……!)

少年(用心棒さんたちは……!?)


用心棒「グゴゴゴッゴ……ゴグッ」

相棒「スー…スー…」


少年(駄目だ……すっかり眠り込んでいる!)

少年(どうしよう、どうしよう、どうしよう、このままじゃ何もかも……)

少年(でも下手に動いて気づかれれば、すぐさまお二人を殺して、返す刀で僕も殺され、すべてがパーに……)


少年(ーーハッ!座卓の上にーー脇差しが置きっぱなしになっている!)

少年(あれを取って、不意打ちを仕掛ければ……どうにかなるかもしれない!)


忍「……」…


少年(ば、抜刀した!もう一刻の猶予もない!)

少年(やるしかない、あの脇差しでーー)

少年(ーー本当にそれでいいのか?)

少年(本当に、そんな方法しかないのか?)

少年(用心棒さんは木の棒で敵を倒していたぞ……探せばなんだって武器になるはずだ)

少年(短刀で斬りかかるなんて無謀なこと以外にも、選択肢はあるはずだ!)



用心棒「グゴゴゴゴ…グゴゴゴゴ…」

相棒「スー…スー…」

忍(フフフ……起きる素振りもみせぬ。他愛もない……)

忍(恨みはないが、こちらも生活がかかっているのでな……せめて一撃で……)グッ


 バ ッ !

忍「!」ビュンッ!

 バサッ

忍「クッ!?」

忍(これは!?布団かッ!)バサッ

少年「……」

忍「き、貴様は……!?」


 ザシュッ!

忍「がふっ!?」

相棒「……寝かせろ。呆けが」

忍(し、しまった……!布団を振り払うとき、音を……)

忍「うおおおお!」ビュビュンッ!

相棒「……」サッ

用心棒「このッ!」ジャキッ

忍「!」


 ドゴオンッ!


忍「」ドシャッ

用心棒「……入り込んできやがったのか」

相棒「……危なかった」

用心棒「……坊主、お前が……」

少年「……」


少年(……嬉しく……ない……)

少年(……こんな……)


用心棒「……」



用心棒「この穴は……抜け道か。そしてこの刺客は……」

用心棒「……おい!よく見たらこいつは闇商人の手の者だぜ」

相棒「……闇商人」

用心棒「裏切ったんだろうな……だからこの抜け道の存在も、俺たちに黙っていた……」

相棒「……」

相棒「殺す」


用心棒(……しかし、この隠れ家は既に取り囲まれているとみるべきだろうな)

用心棒(抜け道を通じて送り込んだ刺客が帰ってこないとなれば、力ずくでねじ伏せるべく包囲の輪を縮める……)

用心棒(……あるいは……)


 ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!

用心棒「!」

相棒「!」

少年「!この音は……?」

用心棒「火薬だ!隠れ家を取り囲むように爆ぜた!」

用心棒「畜生、奴ら火薬と油でこのあたり一帯ごと俺たちを焼き尽くすつもりだ!」

少年「そんな無茶苦茶な!」

用心棒「相手は宿屋に大筒ぶち込むような奴らだぞ……!」

少年「じゃあ抜け道から……!」

相棒「待ち伏せが怖い……」

少年「で、では……」


用心棒(クソッ……だが、こんなところでくたばる俺様じゃあないはずだぞ!)

用心棒(どうする……考えろ!ここにあるものだけでなんとかするんだ!)

用心棒(このまま坊主まで巻き添えにして死んでたまるか……!)



 隠れ家の外


 ゴオオオオオオオオオアアアアアアアアア
メラメラ… パチパチ…


浪人甲「お、おい……こんなに燃やして大丈夫なのか?」

浪人乙「相手は剣士さんと槍使いさんを倒すような奴らだろ。これくらいで十分だ」

浪人丙「ハハハハ、しかし炎に囲まれちまえばどんな剣豪も形無しだぜ」


大男「……」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
パチパチ… バチッ パチパチ…


大男「……」

大男「……」ピクッ

大男「……」キョロキョロ



 山中


?(炎の光と陰に彩られた山々もまた、乙なもんだな……)

?(……おっ?大男のやつ、やけに辺りを見回していやがるな)

?(俺に気づいたのか?野生の勘かな……とんでもないやつだ)

?(だが、用心棒も……こんなことでくたばるような奴じゃあないぜ……)



ドゴオンッ!


浪人甲「ぎゃう!」ビシッ

浪人甲「」ドサッ


大男「……!」

浪人乙「おおっ!?」シャキンッ

浪人丙「な!?まさか……そんな、まさか!」ジャキッ


用心棒「そのまさかさ……!喰らえッ!」ドゴオンッ!


浪人丙「うあっ!俺の種子島が!」バギャンッ


相棒「……」シュザッ

浪人乙「おのれッ!」ビュンッ

相棒「……」カキインッ

相棒「刻む」ヒラッ


 ザシュッ! ズバッ! ドウッ!

浪人乙「」ドシャッ

相棒「……」カチンッ


用心棒(まったく、天才的な思いつきだったぜ……)ザッザッ

用心棒(『風呂の残り湯でずぶ濡れにした布団をかぶり、炎の包囲網を突破』!)ザッザッ

用心棒(坊主は近くに隠してきたし……あとは心おきなく、こいつらを片付けるだけだな!)ザッザッ

浪人丙「あ、あ、あ……!」ガタガタ

用心棒「よくも焼き殺そうとしたな……」

用心棒「もう一発くれてやるぞ……怯えろ……!」

浪人丙「ひ、ひいいーーッ!」ダダダッ


 ヒュンッ


浪人丙「」ズシャッ

用心棒「!?」

相棒「!?」


大男「……」ノシッ ノシッ


用心棒(今のは……あいつがやったのか?)

用心棒(しかし、あいつと浪人の間には距離があった……刀なんて届きそうにない距離が……)

用心棒(それなのに、浪人の骸にはーー『切り傷』しかないッ!)

用心棒(……こいつ、四天王か……!)


大男「……」


大男「おまえらを殺す」

今日はここまで



用心棒「……チィッ!」ドゴオンッ!ドゴオンッ!

大男「!」シュバッ

用心棒(早い……!)

大男「うおあああッ!!」ビュンッ

用心棒「ッ!」サッ

 ドカンッ!

用心棒(奴の剣で地面が割れた……!?凄まじい威力ッ!)ドゴオンッ!

大男「しいっ!」サッ

大男「あうっ!ええーーっ!」ビュウンッ!ブオンッ!

用心棒(!まずっ……)


相棒「ふっ……!」シュザッ

 カキインッ!キインッ!

大男「ああ……?おしぇっ!」ゴオッ!ブンッ!

相棒「……我が草薙流は柔の極……」キュインッ!カキインッ!

用心棒「……ひゅう。さっすが」


相棒「味わえ」ビュンッ

大男「ううん!」ガギインッ!

相棒「……」ヒュオッ

大男「……あ?」

用心棒(うまい!敵の払いの力を利用して、一瞬で後ろに回り込んだ!)


相棒「はっ!」ビシュッ!



大男「む」ガギイン


相棒「ーー!」

用心棒(完全に入ったのに、弾かれた!?)

大男「ほっしゃーーッ!」ブンッ!

用心棒「おっと!」ドゴオンッ!

大男「んんんー……」ガキイン

相棒「……」サッ


大男「……んんん……」ユラユラ

用心棒(銃弾までも……これは……)

相棒「鎖帷子……」

用心棒「ああ。それも特別頑丈な」


用心棒(常人ならそんなものを着ていたとしても、銃弾を受ければ吹っ飛ぶんだが……)

用心棒(あいつの体格なら、踏ん張れば済むってわけだ)

用心棒(そのうえ手足も、金属の籠手と脛当てでがっちり防御していやがる)



大男「めええーーんッ!」ビュン!

相棒「……」カキインッ

用心棒(だが、頭はむき出しだ!)チャキッ

用心棒「受けてみろ!」ドゴオンッ!

大男「おおう!」シュザッ! ガキインッ!

相棒「逃さん……」シュビッ!

大男「いやあーー」スパッ ブオンッ!

相棒(!顔を切られたのに……!)ゴロッ

大男「みゃーー……」チャキッ

相棒「……」


用心棒「おっと。そんなに近くていいのか?」スッ

大男「!?」

用心棒(相棒の体の陰からの奇襲……!)

用心棒「喰らいな!」チャキッ

大男「!ーー」


大男「『飛閃』」ブンッ!

 シュバアーーッ

用心棒「うおおっ!?」サッ

用心棒(何だこれはーー風の刃!?駄目だ、よけきれん!)

用心棒「ぐふうっ!」ズバッ

相棒「……!」ビュンッ!ブンッ!

大男「……」ガキン ガギン

大男「『飛閃』!」シュバアーッ

相棒「!」ダッ ゴロゴロッ


相棒「……怪我……」

用心棒「……だ、大丈夫だ、この程度……問題ない」

用心棒(再装填……)ゴソゴソ

用心棒(……奴は、刀で空を切り裂きーー風の刃を作り出しているのか……?)

用心棒(これが……さっきの浪人を斬った技か!)


大男「はひゃひゃひゃひゃーーっ!」ダダダ

用心棒「チッ、化け物め!」ドゴオンッ!

大男「お?」ガキイン

相棒「……!」シュザッ ビュンッ!

大男「きえーーっ!」ブウーーンッ

相棒「!」サッ

相棒「短剣ッ……!」ヒュッ!

大男「しいっ!」バキーンッ

用心棒「このッ!」ドゴオンッ!

大男「むむむー……」サッ

大男「『飛閃』!」シュバアーッ

用心棒「くっ!」サッ

相棒「……」シュザッ

大男「うああんっ!」ビュンッ!

相棒「!」


 パキインッ!



 カランッ


相棒「……!」

用心棒(あ、相棒の仕込み杖が……折れた……!)

大男「……」ニイッ

大男「『飛ーー』」グッ


相棒「五月蠅い」ヒョイッ ドスッ

大男「がばっ!?」ブシュウッ

用心棒(やったッ!さっき防がれた短刀を、拾い上げて奴の首に押し込んだッ!)


大男「が、ぎ、ご……」ブシュウウウウ

相棒「……」サッ

用心棒「とどめだッ!」ドゴオンッ!

大男「ぐごばああああああああああッ!」ガキインッ!

用心棒「うっ!?」

用心棒(あいつ、まだ動けるのか!?)


用心棒「地獄に落ちろッ!」ドゴオンッ!
大男「『飛閃』ッ!」シュバアーッ


 ガギインッ!



 付近の山中


?「……終わったな」


?(さて、もうこの景色にも飽きた……次の場所に向かうとするか)スック

?(馬も近くに隠してある。ぬかりはない)スタスタ

?(江戸……鍛冶屋のところへ……)スタスタ



大男「……」

用心棒「……」


大男「……無念……」ズズウンッ…

用心棒「!」カランッ

用心棒(奴の死に際の飛閃で……俺のコ式短銃が、真っ二つに!)


相棒「……」フー

用心棒「……全く、面倒な奴だったな。お前の仕込み杖も俺の短銃も真っ二つだ」

相棒「……それに……」コクリ

用心棒「ああ、俺の怪我か……忘れてたぜ。新しい短刀を貸してくれ」

相棒「……」スッ

用心棒(羽織を適当に切り裂いて、っと……)ビーッ

用心棒「こいつを俺の傷口に巻いておいてくれないか」

相棒「承知……」グイグイ

用心棒「後で闇医者にでもかかればよかろう……」

用心棒「……残った得物はお前の短刀くらいか?それに、俺もお前も傷だらけときてる……絶体絶命だな、ええ?」

相棒「……」グイグイ

相棒「終わり」パシンッ

用心棒「いってッ!」ズキーンッ

相棒「……縁起でもない……」ブツブツ

用心棒「そういうなよ……もちろん死ぬ気なんてさらさら無いって」

用心棒「この後坊主をタンスに入れて馬車に乗せて、一っ走り鍛冶屋のところまで……」


 ゴオオアアアアアアアアアアアアアアア
メラメラ… パチパチ…


用心棒「……あ。タンスも馬車も、馬ごと焼けちまってるなこりゃ。覆面野郎の持ってきた脇差しも使い物になるまい」

相棒「……」

用心棒「……よ、よし。そこらへんの浪人の死体を二つほど、滅茶苦茶に切り刻んでから火の中に放り込んでおこう。短銃と仕込み杖も落としていけば完璧さ」

用心棒「そのうえで俺たちが姿を消してしばらく静かにしていれば、油商人は俺たちが大男と相討ちになったと勘違いするに違いない……」

用心棒「俺たちはゆっくりと江戸に戻るとしよう」



 江戸


 路地裏の小さな鍛冶屋

 
鍛冶屋「隣のうちの千兵衛が~煎餅喰って屁をこいて~♪」カーン カーン

<ガラッ

鍛冶屋「ん?悪いなあ、今日はもう店仕舞いやねん……」クルッ


武士「いや、問題無い。俺は商談じゃなく、あんたに用があってきたんだからな」

鍛冶屋「……え?」


 ドキューンッ…


今日はここまで
温かいレス、励みになります



 数日後


 江戸


 ピヨピヨ チュンチュンチュン チピピピ…
<バサササ


 ガラッ

大工「ふああ……」ノソノソ

大工「……ううーん!」ノビー

大工(いやあ、今日は暖かい……小春日和だな!)

大工(……)

大工(これで腹一杯朝飯を食えれば幸せなんだがな……)ハア

番頭「よう、お早う」

大工「ひゃあ!?番頭さん!?」ビクーンッ

番頭「なんだよ幽霊でも見たような顔して……」

大工「い、いやあ、何でも……」オドオド

番頭「そんなにビクビクしなくったっていいんだよ。金はきっちり返してもらったから」

大工「ははは……でもこっちはケツの毛までむしられて、朝飯だって……」

番頭「博打辞めてから言いな」

大工「ハイ……」


番頭「そういえば、聞いたかい?」

大工「?……何をです?」

番頭「相模のほうで大きな山火事があったらしいんだよ。江戸からの旅行者の夫婦が犠牲になったらしいね」

大工「ひええ、おおこわ、なんばんだぶなんばんだぶ!」

大工「どうせ焼け死ぬなら江戸で華になりたいもんだ……」


用心棒「……フン」コソッ

相棒「……」コソッ

少年「……」コソッ



 ガヤガヤ ワイワイ ザワザワ

<ヤスイヨーアジガヤスイヨ!
<エチゴノタンモノイカガッスカ!
<カワラバンデゴーザーイ!オッダンナ、マイドアリ!


用心棒「……」バサッ

用心棒「……瓦版も同じか。まったく恐ろしいもんだ、油商人のやつあんな派手な人殺しを山火事ってことにしちまいやがった」

少年「とすると……奉行所は……」

用心棒「はん、奉行所なんてハナからあてにしてないさ……」グシャ…

相棒「読む」

用心棒「ん?ああそうか」スッ

相棒「……」バサッ


少年「このあと鍛冶屋さんのところへ行くんですよね?」

用心棒「ああ。クソッタレの油商人に一泡吹かせるには武器が必要だ」

用心棒「鍛冶屋に頼んだ武器はとっくに完成しているはずだ……しかし……」

少年「……しかし?」

用心棒「……奴らの勘が、ちょっぴり冴えていたとしたら……」


相棒「……」

相棒「……」パラリ

相棒「……!用心棒ッ!」

用心棒「!?何だ!?」

少年「!」

相棒「この記事……!」


『鍛冶屋の店舗兼住宅に盗人か?店主負傷』


用心棒「……これは……!?」

少年「た、大変です!急いで行かなくては……!」

用心棒「……」

用心棒(これは……罠か?)

用心棒(いや、道中俺を探すような動きは見られなかった)

用心棒(これが罠だとすると、俺を生存を想定していることになる。やってることが丸っきりチグハグだ)


少年「……用心棒さん?」

用心棒「……」

用心棒「……行くぞ。ただしそこらへんで武器を調達してから、だ……」

少年「はあ……あっ!では僕の短銃を!相棒さんから預かったんですが、僕が持っていても仕方ありませんし……」

用心棒「いや、それはお前に預けておく」

少年「え……?しかし……」

用心棒「……」

用心棒「いいから持っておけ」



 鍛冶屋前


用心棒「……」コソッ

相棒「……」コソッ


用心棒(調達できた武器は……俺の持っている旅人の護身用の脇差と、相棒の持つ包丁だけだが)

用心棒(金も尽きてきた今じゃあ、それが精一杯だ……いや、弘法筆を選ばず、という……)

用心棒(そもそも、これは念のための用心だし構わんだろう)

用心棒(ここで奴らが待ち伏せしているという確率は低いのだ)

用心棒(坊主を隠してきたのも、あくまで念のためだ……)


用心棒「……」チョイチョイ

相棒「……」コクリ


用心棒「ッ!」ガラッ シュタッ!

相棒「ッ!」シュタッ!


用心棒「……!?」



浪人甲「!来たなッ!」スック

浪人乙「用心棒に相棒……!間違いない!」スック

鎧武者「クカカカカカカカカ……予想通り予想通り予想通り予想通り……」スック


用心棒「チッ……何たることだ……!」シャキンッ

相棒「……」シャキッ


鎧武者「我が名は油商人近衛四天王が一角『武士』……」ジャコン

用心棒「!よけろッ!」バッ

相棒「!」バッ

鎧武者「 こ れ よ り 貴 様 ら を 抹 殺 す る ! 」ドゴオンッ!


 バキイッ!グシャンッガラガラ……



 カキインッ! キインッ! ドゴオンッ キューンッ ガシャーンッ


浪人甲「せえいっ!」ビュンッ

相棒「……」ガキンッ

浪人乙「はあっ!たあっ!」ブンッ ブオンッ

相棒「ッ!」サッ

相棒「そこッ!」ヒュンッ

浪人乙「おっと!」カキンッ

浪人甲「このアマ!」ブンッ

相棒「くっ……!」サッ

相棒(こちらは手負いな上数で不利……そのうえ得物がこれでは……!)


鎧武者「かあっ!」ブオンッ!

用心棒「くっ!」サッ

鎧武者「ええい!ちょこまかと!」ブオン!ブオンッ!

用心棒「おっとッ!」ガキインッ!

用心棒(し、痺れる……)ジーンッ


用心棒(この野郎、ばかでかい種子島を棍棒みたいに……)

用心棒(四天王と名乗ってはいたが、こいつ……戦法も技量も明らかに今までの三人より劣る)

用心棒(クソッ、短銃さえあればこんな奴……!)


鎧武者「ハエが……」ガチャガチャ

用心棒「ッ!」

鎧武者「堕ちろ!」ドゴオンッ!

用心棒「うおおおっ!!」サッ

 キュイーンッ ガシャーン…

用心棒(な、なんとかかわし……)

鎧武者「うおっしゃああああッ!」ブオンッ!

用心棒「がふうっ!?」ドカッ ズダアン



用心棒「……クッ……」

用心棒(ま、拙い……今の一撃は……少し、拙い……立ち上がれん!)


鎧武者「……クク、ク」

鎧武者「クカカカカカカカカカカカカカカカカカ」

鎧武者「まともな武器がないとはいえ……こんなものか、用心棒よ」ガチャガチャ

鎧武者「引導を渡してやろう」ジャキッ


用心棒(いよいよ拙い……!くっ、武器は……どこかに、武器は……!)

用心棒(ーー!)


鎧武者「死ねッ!」ドゴオンッ!

用心棒「うおおっ……!!」ググーッ


 キュイーンッ バキャッ!


用心棒「ハア、ハア、ハア……」

鎧武者「這って避けたか……」

鎧武者「だがまだ立ち上がれまいて。刀で首を掻き切るまでよ……!」シャキンッ

用心棒「……へ、へへへ」


用心棒「じゃあ俺はその前にお前を撃つだけさ」ジャキッ

鎧武者「!?貴様ーー」


 バアンッ!



鎧武者「……な、なぜ、短銃、を」

用心棒「……鍛冶屋も闇社会に生きてきた人間だ、殺されるかもしれないのは弁えている」

用心棒「俺は……鍛冶屋が、自分が殺されても商品まで奪われぬよう、箪笥の中に商品を隠した可能性に賭けた」

用心棒「そして箪笥を壊せるよう、お前の銃弾を誘導したんだ……!」

用心棒「あいつの趣味……仕込み箪笥にな……!」

鎧武者「……ク、カカカカカカカカカ……」

鎧武者「その、胆、力……見事……!」

鎧武者「」ドシャッ

用心棒「……刀、借りるぜ」ヒョイッ

用心棒「相棒ッ!」ビュンッ


相棒「!」パシッ

浪人甲「はっ!鎧武者がやられたのか!?」

浪人乙「何っ!?」

相棒「私から……」シャキンッ

浪人甲「あっ、きさーー」

浪人乙「こいつーー」


 シュパッ! ザシュッ!


浪人甲「」ドシャッ

浪人乙「」ドサッ

相棒「目を反らすな」チャキンッ

今日はここまで


用心棒「……はああ……し、死にかけたぜ……あやうく」

相棒「……こいつらは……」

用心棒「おそらくは……闇商人から鍛冶屋のことを聞きつけた油商人が差し向けたんだろう」

用心棒「鍛冶屋を殺し……あわよくば、訪ねてくるかもしれない俺たちも殺そうとしていたわけだ」

 ガラッ

用心棒「!」

相棒「!」

少年「はあ、はあ、よかった!ご無事ですか!」

用心棒「……なんだ、坊主か……どうしたんだ、薪なんか持って」

少年「ああ、いえ……銃声が聞こえたので、何か武器を持って行こうと思ってそのあたりの家から……」

用心棒「……」

用心棒「はっ、遅えんだよ」


相棒「……二人共。引き揚げを……」

用心棒「んっ?ああ……ドタバタ騒ぎを聞きつけた野次馬が集まってくるかもしれんしな」

少年「あ……そういえば、向かいの家が騒がしかったような」

相棒「大変だ。急ごう」

少年(淡々としてて全然大変そうじゃないなあ)

用心棒「心配しなくていい。こういう後ろめたい奴の家には、決まって……」ウロウロ ガチャガチャ

 バチッ バクンッ!

少年「あっ!」

少年(壁がばね仕掛けで開いた!奥には暗い通路が続いている……!)

相棒「よし。早速」

用心棒「待て、持って行けるものは持って行こう。風呂敷は……あった」ゴソゴソ

用心棒「まず仕込み箪笥の中にあった武器弾薬……」ガチャガチャ

相棒「提灯……それに火……」カチャカチャ

少年「えーと、えーと……あっ、櫃にご飯が残ってます」カパッ

用心棒「おお良いな、適当に握って、何かに包んでおいてくれ」ガチャガチャ

相棒「浪人どもの武器は」

用心棒「重いからやめておこう。一応使えないように壊しておいてくれ」

用心棒「多分鍛冶仕事用の鎚がそのあたりにあるはずだから、それで強かに打てばいい」

相棒「……」コクリ

 スタスタ ガチャガチャ

 ガキーンッ! バキャッ! ガキンッ!

用心棒(四天王が全滅したとはいえ、いつ追手が襲ってくるかわからん。欲張って大量の武器を抱えて疲れるのは悪手……)

用心棒(……四天王が、全滅……か)


用心棒「よし、武器はこれでよし」ギュッ

相棒「終わった。準備万端」

少年「こっちも終わりました!」

用心棒「俺も今……ん?」パラッ

用心棒(これは……手紙?)



 ……


 ザワザワ ガヤガヤ


魚屋(んっ?なんだ、もう日も落ちたっていうのにこんな裏通りに人込みが……)

魚屋「あっチョウさん!反物屋のチョウさんじゃないか!」

反物屋「おお、あんた魚屋の」

魚屋「何ですこの人込みは、一体何があったっていうんです?」

反物屋「うんにゃ、私もよくわからんが、どうも斬り合いがあったようだよ」

魚屋「斬り合い!」

反物屋「なんでも鉄砲も使われたとか」

魚屋「鉄砲!」

反物屋「それに、騒ぎを起こした奴らがまだ中にいるようでね」

魚屋「ヒエーッ!」

反物屋「おっと、しかしもう安心だ。見なよ、奉行所の連中が来た」


町奉行「全員整列ッ!」

侍甲「はっ!」
侍乙「はっ!」
侍丙「はっ!」
侍丁「……はっ」

町奉行「よしッ!これより状況を説明する!」

町奉行「この鍛冶屋で斬り合いがあったとの情報が入ったッ!鉄砲も使われたらしい!」

町奉行「更に!下手人どもはまだ中にいるらしい……これに収集をつけるのは楽ではない」

町奉行「しかし商人の胡散臭い私兵や尊王攘夷の馬鹿どもに我々の力を示すには絶好の機会だッ!」

町奉行「これより突入する!さすまたァ!」

侍甲「準備よし!」ガチャッ

町奉行「十手ェ!」

侍乙「準備よし!」カチャッ

町奉行「提灯ッ!」

侍丙「準備よし!」スチャッ

町奉行「特別装備!竹束ァ!」

侍丁「……準備よーし」ガサッ

町奉行「行くぞァ!……スウーッ」



町奉行「 御 用 だ - ッ ッ ! !」ズバーンッ


侍甲「御よ……うおっ死体!」

侍乙「なんという……」

侍丙「……ウップ」

侍丁「…………」


町奉行「下手人は?下手人はどこだ?」ウロウロ

町奉行「ここか?」ガラッ

町奉行「ここか?」ガラッ

町奉行「それともここか?」パカッ

侍甲「さすがに櫃の中に隠れる奴はいないと思います町奉行」

町奉行「実に綺麗に食べ切ってある」


町奉行「?……参った、下手人がどこにもいないぞ」

侍乙「向かいの住人は『銃声が鳴った後は注目していたので出入りを見逃すことはない』と言っておりましたが……」

侍丙「『子供だったりしたらわからないが』とは言っていたが……子供がやったとは思えないしなあ」

町奉行「……?????」


侍丁「……」コソコソ


 ガヤガヤ ガヤガヤ

侍丁「……」キョロキョロ

怪しい男「ここだ」

侍丁「おう、そこにいたか……」


 スタスタ……


怪しい男「……で、どうだ」

侍丁「『鎧武者』たちは全滅。用心棒どもの姿はない」

怪しい男「なるほどな……武士様の想定通りになったわけだ」

侍丁「ああ。武士様にその旨お伝えしてくれ」

怪しい男「確かに」スタスタ……

侍丁(……さて、町奉行や他の侍に気づかれないうちに鍛冶屋に戻るか)



 カツーンッ コツーンッ

 カツーンッ コツーンッ

 カツーンッ コツーンッ……


相棒「……」

用心棒「……」

少年「……」


相棒「段差だ」ヒョイッ

用心棒「おっと」ヒョイッ

少年「よっと……」ヒョイッ


相棒「……」

用心棒「……」

少年「……」


相棒「長い」

用心棒「長いな」

少年「長い……ですね」

用心棒「このぶんだと港のあたりまで続いていそうだな……くっ」ズキン

用心棒「すまん、少し傷が痛む。休憩しよう」ドカッ

少年「そうですね……僕も、少しくたびれてしまいました……」

相棒「やむなし」

用心棒「……そうだ、相棒。明かりを寄越せ。ついでに少し読みたいものがある」

相棒「ん」スッ

用心棒「さて……」ガサガサ

少年「それは……?」

用心棒「……鍛冶屋からの手紙だ」



『ハイケー、用心棒様。お元気やろか。
 
 この手紙が読まれとるゆうことは、うちは油商人の手のモンに殺されてもーたんやろな。

 しゃあない。お天道様の下を歩けないうちにはお似合いの最期や。

 でもうちもそのまま引っ込んでおられるほど諦めがよくない。用心棒、敵討ち頼むわ。

 この手紙と一緒に入ってる武器と、それに、港の近くにあるうちの蔵の中身を丸々くれたる。

 隠し通路を抜ければ、蔵はそこから見える場所にあるからすぐわかると思うで。

 蔵の中には間違いなく油商人をやりこめられる〈大駒〉もあるで。

 ほな、ご武運をお祈りするで』



用心棒「……なるほどな」

少年「……あっ、端に走り書きがあります」

『うち、用心棒に売る武器を仕込み箪笥に一時保管するだけなのになんでこんなん書いとるんやろ。あほくさ』

用心棒「……鍛冶屋……」

相棒「……」


用心棒「……そろそろ進むか。今度は俺が先頭を歩く」スック

少年「……はい」

相棒「……ん」


 カツーンッ コツーンッ カツーンッ コツーンッ…



 ギギギギギ…


用心棒「おっ、外だ」


 ザザア… ザザア…


少年「本当に港のそばですね……」

相棒「蔵は……」キョロキョロ

用心棒「船着き場の向こうに、一つだけあるな……行くぞ」


用心棒(夜はまだ深く……紺碧の海に引き立てられて、闇は一層深い……まだ何か、一悶着がありそうだ)

用心棒(しかし日が昇らないことはない。女神様が閉じこもった岩戸……こじあけてやるとも)

用心棒(……〈大駒〉でな……)

今日はここまで
次回四天王戦です



 蔵


「……」

(所せましと大小さまざまな木箱が置かれた蔵)

(その中央、人の背丈ほどもある大きな木箱の横に、俺は居る……)


(ーー鍛冶屋の仕込み箪笥の中にあったあの手紙……)

(俺と同じように見つけられたなら、用心棒は必ずここに来る)


<ザザア… ザザア…


「……」


用心棒「そこのお前。動くな」ジャキッ

「!」ピクッ

用心棒「振り向くのも駄目だ。少しでも身じろぎしたら撃つ」


用心棒(まさか先客が居たとはな……しかし、どういうわけか無警戒に突っ立っていたおかげでこの位置を取れたぜ)


「……」


用心棒(……この男。背後から見た限りでは、そこそこ身だしなみの整った侍、といったところか)

用心棒(覆面ヤローではない……不気味に先回りしている人影ーー奴かと思ったのだがな)


侍?「……何か言うことはないのか?」


用心棒(……この余裕)

用心棒(上っ面だけではないな)


用心棒(ーー掴みかかられるほど近くはない。不意に横っ飛びされた程度では急所を外さん)

用心棒(撃鉄を戻す隙を与えないために……撃つとなれば必殺、一発で仕留める)


用心棒「……この場所をどこで知った」

侍?「……鍛冶屋さ。仕込み箪笥の中の文……」

用心棒「!……」

用心棒「……貴様が、鍛冶屋を?」

侍?「……ふん。日陰者も少しは賢くなきゃあな」

用心棒「……そうか」ジャキッ

侍?「まあ待てよ用心棒……」


侍?「耳を澄ましてみろ」

侍?「匂いを嗅いでみろ」

侍?「目を凝らしてみろ」


侍?「全てがこの出逢いを引き立てているんだぜ」

用心棒「……?」


侍?「波の音」

侍?「潮の香」

侍?「そして……高窓の月光!」ピカッ


用心棒(うっ!?奴、いつのまに手の中に鏡をーー月光の目くらまし!)

用心棒「このァ!」バアンッ!

侍?「フッ」シュバッ

用心棒(くっ、バカでかい木箱の陰に隠れられた……)

用心棒(ーーまだだ!裏口から入り込んだ相棒が背後から斬る!)


侍?「用心棒。正直俺は最初はお前のことを見くびっていたよ」

侍?「だがお前は剣士、槍使い、大男を下した。素晴らしい!俺でも容易にはいくまい」

用心棒「な、何を……」

侍?「そう思ったからわざわざ部下ーーあの鉄砲を振り回す替え玉に待ち伏せさせ、騒ぎを起こして……」

侍?「抜け道、そして邪魔の入らないこの戦場に誘導したんだ!」

相棒(完全に背後をとった……狩る!)シュザッ

侍?「ーーだから」ジャキインッ ズドオンッ!


 チュイーンッ


相棒「ぐ!?」バスッ ガクッ

用心棒「!?」


侍?「せいぜい楽しませてくれよ」


相棒「くっ……物陰に……」ズルルッ

相棒(ーー馬鹿な!跳弾が、私の脇腹に……)

相棒(奴は前を向いたままだったのに……まるで狙いすましたかのように……!)

用心棒(ーーこの特殊技能ッ……それに『武士』と名乗っていた奴を『替え玉』と……)

用心棒(そうか、こいつは……!)


武士「ーーこの武士様をよォ!」



 鍛冶屋の抜け道 出口


 ギギギ……


?「……」スタスタ

?「……」キョロキョロ

?(チッ……用心棒たちの行方を見失ってしまった……)


?(鍛冶屋の店に入るまでは把握していた)

?(しかし鍛冶屋が死んでいる以上、そこに有益なものは無いはず)

?(すぐに移動すると思い、周辺に網を張っていたんだが……こんな抜け道があったとはな)

?(奉行所の連中が居なくなった後探し回ってようやく見つけたはいいが……)

?(今からではどこを探したらいいかもわからん……)


?「……」

?(用心棒の行方を把握するのは不可欠なことではないとはいえ……)

?(奴らが、俺の予想を超えてきた)

?(俺の計画が、崩れたーー?)

?(ーーまさかな)


 スタスタ……



武士「そら踊れっ!踊れっ!踊れーーっ!」ズドオンッ! ズドオンッ! ズドオンッ!

 カキーンッ! バキーンッ! ガシューンッ!

用心棒「うおおっ!?」サッ

 キューンッ プシューンッ

バキャッ!

用心棒(ヒャッ!耳のすぐ横に着弾しやがった!)


相棒「喰らえ……!」ビュンッ

武士「おっと。投剣か、いい腕だ!」サッ ズドオンッ!

相棒「チッ」サッ

 カキーンッ

相棒「!」サッ ヨロッ

相棒(うっ、脇腹の傷が……!)ドタッ

武士「少し早いが終わりだな!」ジャキッ


用心棒(相棒の投剣から逃れようとして俺の射線上に出てきた!ーーそれにお前はもう六発撃ち切ったじゃないか!馬鹿め!)

用心棒「くたばれ!」バッ ジャキッ

武士「おおどうした!お前が先かァ!」ガシャーンッ! ジャキンッ!

用心棒「!?」

用心棒(奴の袖から弾丸が沢山ついた鉄の棒が出てきて……短銃に弾を込めるカラクリか!)

用心棒(しかし撃つのは俺のほうが早い!奴の眉間に一発ーーぐっ!?)ズキッ

用心棒(あちこちの傷が、今に、なって……!)

用心棒「う、おあああああ!」バアンッ!
武士「そらよっ!」ズドオンッ!


 キューンッ

武士「ぐっ……!」バスッ

武士(おのれ、左腕を……!)


 カキーンッ

キュイーンッ

 キーンッ

用心棒「ぐふっ!」バスッ

用心棒(い、いかん……右脚に……!)


武士「……フフフフフ」サッ

武士「フフフフフッ!いいぞ!久々に血が沸き立つようだ……!」

武士「さあ、まだまだ夜は長いぞ……!」ジャキッ


相棒「……!」

用心棒「……上等、じゃあ、ねえかッ!」

今日はここまで
格ゲーになったら槍使いが強キャラだと思います



 蔵の外


<バアンッ!バアンッ!
<ドキューンッ!カキーンッ! ドキューンッ!
<ドカッ! ドキューンッ!


少年(銃声が……すごい戦いみたいだ)

少年(相手はそんなに強いのだろうか?第一用心棒さんたちは傷だらけだ……!)ハラハラ


 ……ザッ ザッ ザッ


少年「!」ササッ


侍丁「……もう始まっているようだな。大分激しいようだ」

怪しい男「なに、俺たちは武士様に言われたとおり周りを固めるだけさ」


少年(武士……?中にいるのは四天王の一人、武士なのか!)

少年(こうしちゃいられない、僕も何かお二人の手助けを……)


侍丁(……ん?蔵の角の向こうのほうへ、足跡が続いている。それも新しい……)

怪しい男「!……おい」

侍丁「ああ」ゴソゴソ ジジジ……


少年(……ん?何の音だ?)


侍丁「……」コロロ…


少年(顔が出せないからわからないが……奴等、何かこちらへ転がした?)

少年(ーー導火線の音?--)

少年(ハッ!爆弾!)ダッ



 蔵


用心棒(あちこちに積まれた木箱……)


用心棒(その山の陰一つ一つが、夜の森の茂み……死の潜む闇……)


用心棒(どこから来る……右か……左か……)

 チカッ

用心棒(む、あの木箱の上に置いてあるのはさっきの鏡?ーー見ている!奴が!)

用心棒(銃弾の軌道は――!?)

 ビューンッ

用心棒「うおっ!?」バッ

 ズドッ!

用心棒(これは、槍?奴め、鏡越しに槍を投げてきやがったのか!)

用心棒(そうか、周りの木箱に武器が――ハッ!)


武士「飛び出してきたな――今度は鏡無しで見える」ジャキッ

用心棒(まず――)



 ズドオンッ!


武士「うおっ!?」フラッ

用心棒「おおっ!?」フラッ

用心棒(煙が――爆弾か!?)

武士「くそっ、逃さん!」ジャキッ

相棒「撃たせない……!」バッ ビュンッ

武士「ぐっ!」ズバッ

武士「痛ぇなあ!」ドキューンッ

相棒(木箱から見つけた盾で……!)ガシャッ

 カキーンッ

  キュイーンッ

相棒「がっ……!」バスッ

武士「盾など通用せんなあ!とどめ喰らえッ」ジャキッ

用心棒「バカめ!後ろだ!」ジャキッ


<タタタタタ

<ダダダッ マテ!クソガキ!

<ニカイニニゲタゾ!オエ!


用心棒(――爆発の粉塵の中から、坊主が!それに追手が――)


武士「……へっ」ニヤリ

武士「俺の背後は死角じゃあねえぜッ!」ドキューンッドキューンッドキューンッ

用心棒「はっ!?」サッ

 カキーンッ
キュイーンッ
 バキーンッ

用心棒「ぐ」バスッ

武士(――?避けても二発は当たる計算だったんだが……ッ!)

相棒「……」ガシャッ

武士(こ、こいつ、弾丸に盾を当てて軌道を……!)

相棒「ふんっ」ブンッ ビューンッ

武士「チッ!」ゲシッ

 ガランッ

相棒「隙あり」シュバッ

武士「うっ!?」

 ザシュッ!

武士「ぐふっ……退け!退けッ!」ドキューンッ ドキューンッ
 
相棒「……」サッ

武士「……くく、く……」サッ

武士(最高だ……これほど死を……生を間近に感じたことはない……!)ガシャーンッ ジャキッ!


用心棒「はあ……はあ……」

用心棒(よし……物陰に隠れた。また……振り出し……)

用心棒(――いや、坊主が……!)



 蔵 二階


少年「うわわわわ……!」タタタ

侍丁「待ておらァ!クソガキ!何してやがったッ!」タタタ

怪しい男「クソッ、木箱が邪魔だ……おい!挟み撃ちだ、お前はそっちから回り込め!」タタタ

侍丁「わかった!」クルッ タタタ…


少年(ううっ……このままじゃ捕まってしまう……!)タタタ…

少年(そうだっ!洋式短銃!)ゴソゴソ

少年(仕方ない、仕方ないんだ、これで……)ジャキッ

少年(……ん?)ガチャガチャ

少年(火薬が湿気てる――!)ガーンッ

少年(ど、ど、ど、どうしよう……いや、撃てなくて気づくよりはよかったと考えよう!)

少年(周りに何か……)キョロキョロ

少年(!……この木箱は……?)



 一階


用心棒「……」

用心棒(相棒は……どこだ……)

用心棒(奴は……どこだ……?)

 ガタッ!

用心棒「!」ジャキッ

鼠「チューチュー!チチチ」

用心棒「ふう……」

<ドキューンッ

 カキーンッ

  キュイーンッ

鼠「ギッ」バシュッ

鼠「」コロッ

用心棒「!?」

用心棒(音だけを頼りにここまで精密に……!?)

用心棒(……動けば死ぬってか……!)

用心棒(ッ)クラッ

用心棒(……クソッ。しかしいい加減止血をしなくちゃあ冗談抜きに死にかねないぜ……!)



 二階


侍丁「……」シャキンッ


侍丁「……」スタ… スタ…


侍丁「……」スタ… スタ…

 ググッ

侍丁(!足元に、縄が――!?)

 バララッ

侍丁「はっ!」バッ

 ガタタタンッ! カランッ…

侍丁(槍の束が倒れてくる仕掛けか……あのクソガキ、よくも……!)

<ギシッ…

侍丁「!そこか!」バッ


少年「!」


侍丁「浅知恵は今ので終わりか……?」

侍丁(追い詰めたぞ……クソガキの後ろは吹き抜け。奴に飛び降りる度胸なんてあるまい……)


怪しい男「さ、侍丁……」ヨロヨロ

侍丁「おお、挟み撃ちは成功……ゲッ!何だお前……ゲホッ!ゲホッ!何でそんな粉まみれなんだ!?」

怪しい男「張ってあった縄に引っかかって……」

侍丁「……」


侍丁「……」

少年「……」

侍丁「……ク・ソ・ガ・キィーッ!」シャキンッ ダッ


少年「今だ!」ゴソッ グッ

侍丁(む?クソガキが床に何かを押し付けて――あれは短銃か?)

侍丁「何かわからんが喰ら……?」カチッ

侍丁「うおっ!?足が!?」ガグンッ

少年(最後の足止め……狩猟用の罠!)

少年「今だ!」ガチンッ

侍丁(クソガキが短銃の火打石の部分を押し付けて、床に火を――)

 シュボッ

怪しい男「こ、これはッ!?」

侍丁(うっ!?暗くて気づかなかったが、床に火薬の粉が一直線に敷いてある!)

 ボボボボボボボボボ……

侍丁(その先には――その先の木箱は――!)


『火薬』


侍丁「ぬおあああ――ッ!こんのクソガキィ――ッ!」ビュンッ

少年(!?か、刀を投げ――)



 一階


<クソガキーッ!


用心棒(……?)

 ガランッ

用心棒(刀が落ちてきた?)

少年「わーっ!南無三宝!」ドターッ

用心棒「げっ!?」

少年「あっ用心棒さん……刀!刀刺さってませんか!?」

用心棒「な、何を言ってん……」

<ドキューンッ

用心棒「!しまっ――」

 カキーンッ
キュイーンッ

用心棒「ごふっ!」バスッ

少年「ああっ!?」

武士「勝った!直接ド玉をぶち抜いて終わりだあああっ!」バッ ジャキッ


 ド ゴ ォ ン ッ


武士「うおおおっ!?またかッ!」フラッ

謎の男「うぎゃあ――っ!死んだ――っ!」ドターッ

武士「うおっ!?射線を塞ぐなバカが!」

武士(落ちてきたバカと粉塵でよく見えんが、用心棒の場所はわかっている!壁に反射させて撃ち込む!)

武士「最後の一発!喰らえ!」ドキューンッ!


カキーンッ

バスッ

「ぐうっ」


武士(当たった!)


侍丁「あ、悪魔め……」ガクッ

用心棒「……」


武士(――バカな!落ちてきた侍丁を盾に!?)

武士(まだだ、部下が射線を塞いでいる……この隙に狙いを付け直して――)ジャキッ


用心棒「悪魔で結構……!」ジャキッ バアンッ

 カキーンッ

武士「ぐおおっ!?」バスッ

武士(お、俺の軌道を利用しやがっ――)

 ドスッ!

武士「がっ……!?」

相棒「……」

武士(こ、この、女……!)

武士(だが……後ろから刺された衝撃で、さっきの軌道からは脱した!)

武士(探せ、新しい軌道……俺の、勝利への軌道――)

 バアンッ

怪しい男「こ、今度こそ死ん……だ……」ドタッ

武士(――!射線がッ!)


用心棒「死んで仏になるよりも」ジャキッ

用心棒「生きて悪魔になってやる!」バアンッ


武士「――」バスッ


武士(死に近づこうとした俺に、生を渇望するあいつを殺せるわけもなし、か……)

武士(構わんさーーああ、楽しかった)



相棒「……死んだ……」ブンッ

武士「」ドシャッ

用心棒「……そう、か……」ガクッ

相棒「……」ガクッ


少年「よ、用心棒さん!相棒さん!怪我が……大変な……!」

用心棒「……ああ、鉛玉は……好みじゃないんだが……もう、腹いっぱいだ」

用心棒「……相棒、お前は……」

相棒「……」

用心棒「……」

相棒「……」

用心棒「……何か喋れ」

相棒「……腹が減った」

用心棒「今か?」

少年「あ、あの……鍛冶屋の家から持ってきた握り飯なら、いくつか」

相棒「食べよう」

用心棒「今か?」

相棒「嫌か?」

用心棒「……」

用心棒「とりあえず……申し訳程度にでも、傷の手当てをしてからにしよう」



 ゴソゴソ ガサガサ…


用心棒「モグモグ……さて、これからどうしたものか……」

相棒「モグモグここは危険……か……ハグハグ」

用心棒「ああ……そろそろさっきの爆音を聞きつけた野次馬が集まってくるだろう……」

用心棒「それに混じって油商人の手の者も……な。モグモグハグハグ……ゴクンッ」

相棒「モグモグ……この体で……どこまで行けるか。モグモグゴクン」

用心棒「……厳しい、だろうな……」

用心棒「どこかに……隠れなければならないんだが――くっ」ズキッ

用心棒「人心地ついたら……いよいよ痛み出してきやがった……」ズキズキ

相棒「……」

相棒「……?坊主は……」

用心棒「ああ……?さっき、蔵の中を見てくるといって……」


<ガタンッ!


相棒「ッ!?」チャキッ

用心棒「何の音だ!?」ジャキッ


用心棒「――あれは!?」



 日の出後


 蔵の外


 ガヤガヤ ザワザワ


魚屋(朝一で仕入れをしようと海沿いを歩いてきたら……なんだこの人混みは?)

反物屋「うーん、ここからじゃ何も見えんなあ……」キョロキョロ

魚屋「あっ反物屋!」

反物屋「あっ魚屋!」

魚屋「また何かあったみたいですなあ、今度は何だっていうんです?」

反物屋「どうもそこの蔵で爆発があったらしい。それも続けて二度……」

魚屋「爆発?ここは花火でも収めてるんですかねえ?」

反物屋「いや、そういうわけじゃないようだが……おっ見なよ、町奉行のお出ましだ」


町奉行「全員整列ッ!」

侍甲「はっ!」
侍乙「はっ!」
侍丙「はっ!」

町奉行「……ん?全員整列!」

侍甲「はっ!」
侍乙「はっ!」
侍丙「はっ!……あれ?町奉行、侍丁のやつが居ません!」

町奉行「何?……ふむ、まあいい。これから状況を説明する!」

町奉行「今日の未明、この蔵で二度の爆発があったとの情報が入った!昨晩の鍛冶屋での事件との関連も疑われる!」

町奉行「これより蔵に突入、関係者及び証拠物件の確保を行うーーさすまたァ!」

侍甲「準備よし!」ガチャッ

町奉行「十手ェ!」

侍乙「準備よし!」カチャッ

町奉行「提灯ッ!」

侍丙「準備よし!」スチャッ



 蔵 一階


町奉行「御用だ――ッ!」ズバーンッ

侍甲「うおっ!凄い火薬の臭いだ……」

侍乙「……木箱だらけだな」

侍丙「……どうも、南蛮渡来の品も混じっているようだ……」


町奉行「――うおっ!?これは!」

侍甲「一体何です――ああっ!?」


侍丁「」


町奉行「さ、侍丁!――駄目だ、死んでいる!」

侍乙「何だって!?侍丁がなぜここに!?」

侍丙「あっ、見てください!他にも死体がっ!」

侍甲「生きている者はいないのか?」

侍乙「いや、死体だけです……」


町奉行(攘夷を叫ぶ連中の影も無いのに、ここ最近の物騒さは何だ!?)

町奉行(その上奉行所の役人までが――!)

侍甲「町奉行、如何しましょう!?」

町奉行「……」


町奉行「これより箝口令を発する!鍛冶屋の事件、そしてこの蔵の事件に関する情報を絶対に漏らさぬよう心せよ!」

町奉行「こちらの動きを掴ませず、電撃!下手人をひっ捕らえるのだ!」

今日はここまで



 蔵


 地下


用心棒「……上が騒がしい。どうやら奉行所の連中が到着したようだな……」

相棒「……」キョロキョロ

用心棒「気にするな相棒。奴ら、この秘密の地下室に気づきやしないさ」

用心棒「坊主が入口を見つけなきゃ、俺たちも気づかなかっただろう……」

少年「僕も驚きました……まさかとは思いましたが、ここにも隠し部屋があったなんて」

用心棒「ああ……しかし手紙にこのことが書いていなかったことからして、鍛冶屋もこの部屋のことは知らなかったんだろう」

用心棒「おそらくこの隠し部屋は闇社会には関係ない、この蔵を建てたやつの趣味なんだ」

用心棒「それにしては実に丁寧な作りのようだが……」

少年「え?……あ、そういえば、息苦しくないような……」

相棒「潮の匂い……」クンクン

用心棒「どこかに空気穴が開いてるようだな。僅かに風が通っているおかげでホコリも積もっていない……」

用心棒「ちょっとばかし気は滅入るが上等な隠れ家だ。これで布団があれば言うことはないんだが……」

少年「布団ですか……あっ!見てください、あっちに寝台があります!」

用心棒「寝台?――おおっ、本当だ!」

用心棒「坊主、一日だけここで休むことにしようじゃねえか。相棒も――」

相棒「スー… スー… ムニャムニャ…」

用心棒「早いな!?」

用心棒「くそっ、俺ももう寝るぜ……痛みもあるが、それ以上に、くたくた、だ……」ドサッ

用心棒「グゴゴゴゴゴゴゴゴ…」

少年(早いなあ……)

少年(ああ、でも僕もすっかり疲れてしまった……)ドサッ

少年(すえた臭いのする布団だけど……なんとか……人心地……つい……て……)

少年「グウ…グウ…」



 昼


 油商人の屋敷


油商人「闇商人!どうするんだッ!」

油商人「武士が行方知れずだ……きっと奴も用心棒に敗れたんだ!」

油商人「用心棒たちは今にも私たちを殺しに来るかもしれんぞ!」

闇商人「油商人様……どうか落ち着いてください」


闇商人(やれやれ……えらい慌てようだ、みっともない)

闇商人(この部屋まで来る途中もこれでもかというほど警備が配置されていたし……)

闇商人(それはそうと、四天王をことごとく破るとは……用心棒の奴めそうとう発奮しているな)

闇商人(しかし奴も相当の傷を負っているはず。無敵などでは決してない……)


油商人「落ち着けだと!?どうやって落ち着けというんだ奴を倒す手段すら無いというのに!」

闇商人「そんなことはありません、油商人様。実はこういうときのために、江戸でも一、二を争う腕の殺し屋の二人組を雇っておいたのです……」

油商人「何だと!?」

闇商人「その二人組ーー『赤袖』と『青袖』といいますがーーここに連れてきておりますが、お目にかけましょうか?」

油商人「無論だ!入れ!」


赤袖「失礼致ぁーすぅぅう!」ガラーッ ダダンッ!


油商人「うわっ!?なんだこいつは!?」

油商人(鮮やかな赤の狩衣を着た男?太刀まで履いている……一体いつの時代の服装だ!?)

赤袖「拙者が闇商人殿のご依頼に応じっ……不貞の輩を除くためぇぇ~」

赤袖「巷の闇より参上した陰の士ーー赤袖でございまするぅぅぅッ!」ババンッ!


油商人「……闇商人」

闇商人「う、腕前は折り紙つきでございます!おい!青袖もご挨拶するんだ!」

青袖「どうも、連れがご無礼を……」スタスタ

油商人(紺の着物の女……女、か)

油商人(頭のおかしい時代錯誤野郎と、特別大柄なわけでもない女の二人組……)

赤袖「むぅ?油商人殿、拙者共の力をお疑いになりますかぁぁぁ!?」

赤袖「さすればこの場で鎌倉の昔より伝わりし剣の舞をご覧に入れーー」

青袖「フンッ」ドッ

赤袖「」ガクッ

青袖「申し訳ありません。今日は相方の調子が悪いようなのでここで失礼します」

闇商人「……では、私もこの辺で」

 ガラッ スタスタ

 ピシャリ

油商人「……」


?「……」コソッ


?(何だあいつらは……あんなふざけた奴らが江戸で一、二を争う殺し屋だっていうのか?)

?(知恵遅れの大男よりあてになるまい。計画には変更なしだ)


<聞いたか?武士たちが行方不明だとよ

<それは本当か?鍛冶屋を始末した後帰ってきたのは見たが……


?(おっと、巡視か)サッ


警備一「その後部下を連れて出かけて、それっきりさ。用心棒にやられちまったのかね?」スタスタ

警備二「うーん、そうとも限らんぜ。何せ武士とその直属の部下たちは無断で動くことが多かったからなあ」スタスタ

警備一「それもそうだな。秘密行動というのも不思議じゃあない……武士の部下の中には奉行所に潜り込んだ密偵も居たらしいし」スタスタ

警備二「ふうん、じゃあ奉行所の方向から武士たちの情報を仕入れられるんじゃないかね?」スタスタ

警備一「いや、それが……奉行所の連中、どうもピリピリしていてな。とても調べられる状況じゃあないらしい」スタスタ

警備一「それだけじゃあない、どこで何があったからそんな状況なのかも徹底的に隠していやがる……」スタスタ


<なるほどな……

<何かあるぜこれは……


?「……」



 昼過ぎ


 闇商人の屋敷・門前


闇商人「ケッ、お前らよくもまああんな印象最悪の登場ができたものだ」スタスタ

赤袖「ふうん。人の欲を喰らい生きる下衆が……」スタスタ

闇商人「何だと?きさま雇われの分際で……もう一度言ってみろ」

赤袖「人の欲をモゴモゴ」

青袖「失礼。相方は見ての通り戦い以外はからきしなもので」グイグイ

闇商人「チッ……まったくそうみたいだな」


闇商人「これから行く私の蔵で、契約通り予備の武器と弾薬はくれてやる」スタスタ

闇商人「それが終われば油商人の屋敷へ戻って警備につくんだ。いいな」スタスタ

青袖「承知しました」スタスタ

赤袖「承服しよう……渋々」スタスタ

闇商人「いちいち一言多いやつだな……む?」スタスタ ピタッ


少年「ええと……あっちかな」キョロキョロ

少年「……ふぁあ……」スタスタ


闇商人(……あのガキ、どこかで見たような?)

闇商人(そうだ!この前、物騒な臭いのするところを見て回ってるときに見かけたんだ)

闇商人(あれはたしか、油商人に目を付けられていた武士の家のせがれだったか……)

闇商人(……む?そういえば、あの家は一人残らず殺されたと聞いたような……?)

闇商人(死んだはずの人間……それも、油商人に恨みを持つ……)

闇商人(――臭い!臭いぞ!)


闇商人「赤袖、青袖……あのガキの後をつける」ヒソヒソ

赤袖「む?小童の後を追うとはモゴモゴ」

青袖「もうあんたは何も喋らないでよ」グイグイ

闇商人「とにかく!ついてくるんだ……」

闇商人(もしかしたら用心棒と相棒の居場所を突き止め、息の根を止めてやれるかもしれん……!)ジャキッ



 武家屋敷


少年「……」スタスタ


闇商人「武家屋敷に入っていくぞ……」コソッ

赤袖「あのような小童が、なにゆえ……?」コソッ

青袖「小遣いでももらいにいくのかしら」コソッ


少年「ええと……一、二、三軒目……ここか」スタスタ

少年「……」キョロキョロ

闇商人「!」サッ

青袖「!」サッ

赤袖「いよっ!」サッ

少年「……」キョロキョロ

少年「……」スタスタ

闇商人(尾行を警戒したな……)


少年「ごめん!」

 ガチャガチャ ギイ…

下男「はいはい、どなたさま……ん?なんだおまえは?」

下男「ふるくはノブナガコーのチスジの『発明家』さまのオヤシキに、おまえのようなこぞうがなんのようだ?」

少年「とある重要な要件です……用心棒からの遣いだ、とお伝えしてください」

下男「ヨウジンボーカラノツカイ……?しばらくまて」

下男「ヨウジンボーカラノツカイ…ヨウジンボーカラノツカイ…」ブツブツ

 バタンッ ガチャッ


闇商人「もはや間違いない…奴は用心棒の手先!」

青袖「始末しようか?」チャキッ

闇商人「バカやめろ!用心棒たちの目的と居場所を探り出してからだ……!」

赤袖「ふん、さかしい……」

闇商人「言ってろ。先回りしてこの屋敷に忍び込むぞ、ついてこい!」



 発明家の屋敷


発明家「……」ペラ… ペラ…

発明家(ふっふふふ……読める、読めるぞ……)ペラ… ペラ…

発明家(物理、化学、生物……南蛮渡来の本には見たことも聞いたこともない事実が盛りだくさんだ)ペラ… ペラ…

発明家(まったく、蘭語を習ってよかった……)ペラ… ペラ…

下男「シツレイします発明家さま」ガラッ

発明家「ん?なんだ?」パタン

下男「……ええと……」

下男「あれ?なんだったかな?」

発明家「おいおい、またか……よく思い出してみてくれ」

下男「うーんと……あ、そうだ」

下男「ヨウジンボーのツッカイボーというものがたずねてきたんでした、どうしましょう」

発明家「『用心棒』の『つっかい棒』だと?」

発明家(はて、そんな扉を必死に抑えてそうな名前の知り合いはいないはずだが……?)

発明家「まあいい、通してやってくれ」

下男「ショーチしました」スタスタ ガラッ


 門前


 ガチャガチャ バタンッ

下男「はいれ」

少年「よかった、失礼します」


 スタスタ…

少年「……見事な庭ですね……」

下男「ブシのヤシキだぞ。トウゼンだ」フンス

少年(なんでこの人が威張っているんだろう……)


鹿?「……」キョロキョロ

少年「あっ!鹿!?」

下男「よくみろ。カラクリだ」

少年「え?……あっ、本当だ」

少年(よく見ると水車が接続されている。その動きを首に伝えているんだ……)

下男「発明家さまがおつくりになったのだ。発明家さまはカラクリをたしなみなさる」

少年(教養のある方なんだな……用心棒さんが『あの件』を頼むために僕をやったのも頷ける)



 屋敷内


下男「発明家さまがいるのはこのおくだ」スタスタ

少年(屋敷自体も、派手ではないがなかなか立派だ……この廊下一つとってもかなり広いし)スタスタ

下男「おっと。ここはみぎのカベギワをあるけ」ヒョイッ スタスタ

少年「ええ?なぜ?」ヒョイッ スタスタ

下男「発明家さまはナンバントライのめずらしいものをたくさんもっている。それをまもるためのしかけがあるのだ」スタスタ

少年(仕掛け……?)スタスタ


闇商人「いったか……」コソッ

赤袖「早速後をつけるとしようぞ」コソッ

青袖「……それにしても、仕掛け、か……」コソッ

青袖「庭のからくりといい、この館の主は相当な変人のようだ」

闇商人「そんな奴に用心棒の遣いが何の用なのか……おい、聞いたな。右の壁際を歩くんだぞ」

青袖「承知――おい赤袖!」

赤袖「む?何だと?」ズカズカ

 カチッ パカッ

ヒュウウウウウウ…
<ウアアアアアアアアア…

闇商人「あっ!?」

青袖「落とし穴だ!」

next



 庭


 パカッ

赤袖「うおおおおお!?」ゴロゴロゴロッ

 ドボーンッ

赤袖「ぐあっはっ!」ザバア

赤袖(ここは池か!なんの、泳いで抜け出すのにわけはない――む!?)

赤袖(なんだこの水は!?『重い』ぞ!?)

赤袖「ぬおおおおおお――!」バシャバシャ



 屋敷内


下男「つぎはひだりをとおれ」ヒョイッ スタスタ

少年「左側ですね……とすると、右側には?」ヒョイッ スタスタ

下男「しかけがある。発明家さまがナンバンからてにいれた『おもいみず』のいけのなかにドボンだ」スタスタ


闇商人「……返す返す憎い、あの脳足りんめが……」コソッ

青袖「……ん?」コソッ

青袖「外からその脳足りんの声がするような……」ガラッ

<ヌオオオオオー!

青袖「……」

闇商人「……どうやら床下の坑道を転がって池に落ちたようだな」

闇商人「お前の相棒だろうが、迎えに行っている時間はない。もう少し水遊びさせていても構わないか?」

青袖「ええ。しばらく頭を冷やさせておきましょう」ピシャッ

闇商人「……あっ、しまった――この俺としたことが!」

闇商人「また仕掛けの種明かしをしていたかもしれんのに、あの二人から目を離してしまった……!」

青袖「右に同じ、不覚ッ」

青袖「……とすると、右か、左か……もしかしたら仕掛けはあれ一つかも?」

闇商人「よし、二人で同時に行こう。俺は左、お前は右だ」

闇商人「せーの!」
青袖「せーの!」

 カチッ



 庭


 パカッ

青袖「ぎゃあああああ!」ドボーンッ

青袖「ここは池?――うわっ、なんだこの水は!?」バシャバシャ

赤袖「やあやあ我が相棒、地獄へようこそブクブクブク」

青袖「じょ、じょ、じょ、冗談じゃあないっ!」バシャバシャ




 屋敷内


闇商人「ふう、やはり罠があったか……」

闇商人(帰りに殺し屋二人組を拾ってやらなくちゃあ、くそ)

闇商人(しかしガキと下男は屋敷の主の部屋に到着したようだ。仕掛けはもうないだろう)

闇商人(俺はせいぜい近づいて耳を澄ますとしよう……)



 発明家の部屋


発明家「おや、『用心棒のつっかい棒』氏とは子供だったのか?」

少年「『用心棒のつっかい棒』?私は『用心棒の遣い』と名乗ったはずですが……」

発明家「ははあ、あの下男が間違ったな。まったく困ったもんだ……」

少年「はは……」

発明家「それで、『用心棒の遣い』というのは……」

発明家「おや!用心棒ってあの用心棒かい?いや、久しぶりにその名前を聞いたな」

少年「お知り合いなんですか?」

発明家「聞いていないのかい?うーん、まあ、昔ちょっとあったのさ……」

発明家「それよりどういうご用件だね?」

少年「はい、詳しく話すと長くなるのですが、今私や用心棒さんたちは危ない状況に居まして……」


少年「……ということなのです」

発明家「なるほどな。またあいつは危ないことに足を突っ込んでいるのか……」

発明家「しかし君も災難だね……母上と父上の冥福をお祈りするよ」

少年「……はい」

発明家「あいにく僕は彼のように強くはないし、疎遠とはいえ親族もいる……」

発明家「あまり表だって動くことはできないが、それでもよければ喜んで協力するよ」

少年「そうですか、ありがとうございます!」

少年「では本題に入らせていただきますが、用心棒さんはこれについて詳しく知りたがっているのです」ガサッ

発明家「なんだいこれは?」

少年「鍛冶屋が持っていた切り札……と思われるものに付属していた説明書です」

少年「しかしどうも南蛮渡来の品らしく、説明書きも全部、漢字とも仮名ともちがう外国の言葉なのでさっぱり……」

少年「そこで用心棒さんがあなたなら読めるだろう、と……本人たちは怪我がひどいので、僕を寄越したんです」

発明家「どれどれ……」



 部屋の外


闇商人(なるほど、事態の推移は丸ごと理解できたぞ……まさかあのタンスの中に隠れていたとはな……)

闇商人(しかし、鍛冶屋の切り札とは一体……?)

<スタスタ

闇商人(!)サッ


下男「……」スタスタ カチャカチャ

闇商人(チッ、一番聞きたいところで茶を持ってきた下男が……早く行っちまえ、くそ!)

鼠「チューッ!」チョロチョロッ

下男「あ……これはこのあたりにおいておいて、と……」カチャッ

下男「まて、このチクショウ!」バタバタ

鼠「チュー、ヒー、ヒー!」チョロチョロ

闇商人(ぐあああああ畜生は手前だ!鼠なんてどうでもいいだろうがっ!とっとと失せやがれ!)


下男「どこだ?どこにいった?」キョロキョロ

発明家「いったい何の騒ぎだ?」ガラッ

下男「発明家さま、ネズミがでたんです」

下男「あんチクショウ、このまえころしたやつでサイゴだとおもってたんですが」

発明家「鼠か……今度南蛮渡来のネズミ捕りを試してみるかな」

下男「あ、そういえばおちゃをおもちしたんでした。どうぞ」

発明家「おお、気が利くな。あとは僕がやる、戻っていいぞ」

下男「ショーチしました」スック スタスタ

 ガラッ ピシャリ


闇商人(いったか……池で溺れてる殺し屋を見つけないといいんだが)

闇商人(どうも一番肝心なところを聞き逃したような気がするが、とにかく盗み聞きに戻ろう)コソッ



 発明家の部屋


発明家「粗茶だが、よければ」スッ

少年「あっ、ありがとうございます」

発明家「さて、説明書の翻訳に戻ろう……」カキカキ


発明家「……」カキカキ

少年「……」


発明家「……」カキカキ

少年「……」ズズズ


発明家「……」カキカキ

少年「……」


発明家「よしっできた!これでこの秘密兵器の使い方はすっかりわかる」

発明家「これが翻訳した文章だ、間違いなく用心棒に渡してくれ……おっと、原本も返すよ」スッ

少年「はい、たしかに受け取りました……」



 部屋の外


闇商人(結局秘密兵器の正体は聞き逃してしまったか……まあいい)

<ドタドタ

闇商人「!」サッ

下男「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」ドタドタ

闇商人(なんだこいつ、こんなに慌てて……まさか!)


ガラッ

下男「タイヘンです発明家さま!」

発明家「なんだ、どうした!」

下男「イケにおかしなレンチュウがいます、それもふたり!」

発明家「池!?池に落ちてるってことは――罠にはまった侵入者だ!」

少年「侵入者!?まさか油商人の――」


闇商人「まあそんなところだ」バッ グイッ

下男「うぐっ!」

少年「!?」
発明家「!?」

闇商人「おっと動くなよ、こいつの頭に風穴を開けたくなきゃあな……」ジャキッ

下男「ぐぐぐ……」

発明家「し、従ったほうがいいかもしれん、少年!この男の目は本気だ!」

少年「くっ……!」

発明家「……しかし、人質の選び方は下手なようだが……」ボソッ

少年「……?」


少年(そういえばこの男、たしか隠れ家へ行く途中の茶屋で――!)

少年「闇商人か!よくも用心棒さんたちを裏切って――」

闇商人「はん、何が裏切りだ。こっちの世界をちょっと覗いたくらいで一人前に口をきくんじゃない……」

闇商人「商人の才覚も特別ないうえに、油商人の手下どもより弱い俺を前にして手も足も出ないようじゃあ発言権なんて無いんだ、こっちの世界ではな!」

闇商人「よし、まずはその翻訳書を……」

下男「えっ」

闇商人「ん?何だ?遺言か?」

下男「おまえ、そんなによわいのか」

闇商人「何だと?貴様、この状況でよくもそんな……」

下男「……えいっ」グイッ

闇商人「うおっ!?」ドタッ

闇商人「き、貴様、なんだその力は――!?」ジャキッ

下男「……」ガシッ

 ギギギギギギギ

闇商人(あああっ!?俺は夢でも見ているのかっ……!?)

闇商人(こいつ、鉄砲を飴のように捻じ曲げやがった――!)

下男「ほんとうだ、すごくよわい」ポイッ

闇商人「うおおおお、くそっ!」ゴロゴロッ シュタッ


下男「発明家さまをおどしたツミはおもいぞ……!」ズカズカ

闇商人「き、き、き、き、き、貴様は一体――!?」

?「退け!闇商人!」

闇商人「!?」サッ

 ズダンッ!ズダンッ!

下男「!」シュバッ

赤袖「おのれ……鬼神の如き剛力、その動きは電光石火……さては妖怪変化の類か?」ジャキッ

青袖「その冗談笑えない」チャキッ

闇商人「おお、赤袖!青袖!」タタッ

闇商人「早く、早くその化け物を挽肉にしてしまえ!」

赤袖「応!妖怪変化は成敗されるものと相場が決まっている、神妙にせい!」ビシッ

青袖「……まあ、正直あの忌々しい池のせいでだいぶくたびれてるんだけど……」チャキッ

下男「ふふん、イヌども。ひねりつぶしてやる」


発明家「今だ少年、下男が食い止めているうちに逃げよう!」

少年「しかし、下男さんは……」

発明家「大丈夫だ、あいつは死なない。自信作なんだ」

少年「……?」

発明家「早く!」

少年「は、はい……」タタッ

発明家「あれと、これと、それと……」ゴソゴソ

発明家「よし、僕も逃げよう」タタッ


下男「くらえ!」ビュンッ

赤袖「ぬおっ!」サッ

 ガシャーンッ!

青袖「青袖様のクナイを受けてみなさい……!」ビュビュビュンッ

下男「オモチャであそぶとしじゃないだろう」パシパシパシッ

青袖「ああもうやんなっちゃう」

<タタタタタ…

闇商人「ハッ!いかん!ガキどもが逃げるぞ!」

赤袖「追う余裕があると思うてか!?」ズダンッ!ズダンッ!

下男「ふんっ!」サッ ビュンッ

赤袖「おおおおお!」サッ

 バキャーンッ!


闇商人「チッ!じゃあお前らはそいつを始末したあと、直接油商人の屋敷に戻れ!」

闇商人「あのガキに用心棒たちの居場所を吐かせれば予備の弾薬など必要無い……!」ダッ

赤袖「承知!」
青袖「了解!……あ、いや、始末は無理――」

下男「からだのほねぜんぶおれろ!」サッ ビュンッ

青袖「折れかねない!」サッ
赤袖「南無三!?」

 ドガーンッ!
<ギャアアアア!
<アカソデーッ!



 発明家の屋敷の門前


発明家「はあはあはあ、よし、ここで二手に分かれよう。追いかけてくるかもわからない!」

少年「わかりました、では私はこっちに!」

発明家「――おっと、その前にこれをあげよう。『三枚のお札』だ」スッ

少年(差し出されたのは、硯ほどの大きさの三つの木箱……)

少年「――『お札』、ですか?」

発明家「そうだ。追いかけてくる山姥から君を助けてくれる……と、思う」

発明家「印のない札を使うには、札を掲げて、『身代わり、出でよ』と叫べばいい」

発明家「青い印のついた札を使うには、札を掲げて、『大きな川、出でよ』と叫べばいい」

発明家「赤い印のついた札を使うには、札を掲げて、『火の海、出でよ』と叫べばいい」

発明家「だけど気を付けるんだ。実際に身代わりや川や火の海が出るわけじゃないし、札はそれぞれ一回しか使えない」

少年「わかりました!重ね重ねありがとうございます、ではお達者で!」

発明家「ああ――おっと、待ってくれ!」

少年「なんでしょう?」

発明家「君の叔父がどんな人か聞いてもいいかい?」

少年「え?叔父上ですか?――ええと、体つきは並で……鼻が高くて、顎のところにホクロがあるのです」

少年「叔父上がどうかしたのですか?」

発明家「いや……わかった、ありがとう。引き留めてすまなかった」

少年「……?はい、ではこれで!」タタタタ…

発明家「僕も逃げなくては……!」クルッ タタタタタ…

発明家(話を聞いた時点でもしや、と思っていたが……間違いない!)



 裏路地


少年「はあ、はあ、はあ……ここまで来れば……」


「ここまで来れば……なんだって?」


少年「!?」クルッ


闇商人「ゼエ…ハア…追いついたぜ……ゼエ…ハア…」

少年(し、しまった……!逃げるのに必死で、わかりやすい道を使いすぎたんだ!)

少年(きっと途中で先回りされて差を詰められてしまったにちがいない!)

少年(そのうえ、どこから調達してきたのか――闇商人は刀を一振り、持っている!)

闇商人「ゼエ…ハア…逃がしはしないぜ、二度と……!」シャキンッ ジリジリ

少年(逃げなければ……どうにかして……!)ジリジリ

少年(しかし、闇商人……息を切らしてはいるが、隙が無い)

少年(考えなしに逃げ出して、無防備な背中を見せるわけには……!)

少年(――!そうだ!)


少年「『身代わり、出でよ』!」サッ

闇商人「!?」

 カチッ!

バシュッ!

少年「うわっ!?」

闇商人「ぐおっ!?光弾かッ!?」クラクラ

少年(ぼ、僕も目がくらんでしまっているけど……こっちはやたらめったら逃げればいいんだ!)

少年(でもあいつは逃げる僕を見なければ、追いかけることはできない!)ダダッ

闇商人「おのれガキがぁーッ!畜生、畜生、畜生ッ!」クラクラ

今日はここまで
「?」の正体を見抜ければ賞金が出ます(大嘘)



 夕方


 油商人の館


油商人「何ィ!?鍛冶屋!?それに下男だと!?まだ敵がいたのか!」

青袖「はい……私たちもほうほうのていで逃げてきて、ようやく人心地ついたところです」

赤袖「あの物の怪めが……あの力は一体……」ブツブツ

油商人「くそっ、くそっ、くそっ!私は油商人だぞ!?」

油商人「天下の夜の太陽はすべて私が握っているのに、それがなぜこれほど怯えねばならんのだ!」


<油商人様!闇商人でございます!

油商人「!?入れ!」

 スパーンッ!

闇商人「!?赤袖、青袖!あの化け物はどうした!?」

青袖「打ち捨てて逃げてきました」

赤袖「やんぬるかな……」

闇商人「チッ!何たる怠慢!」

油商人「そんなことはどうでもいい、一体何事だ闇商人!?」

闇商人「用心棒の協力者が判明しました!貴方が以前手討ちになさった一家のせがれです!奴は生きていたんです!」

油商人「以前手討ちに……まさか、あの一家か!?生き残ったのは叔父ではなかったのか!?」

闇商人「わかりません……しかし、せがれといってもほんのガキです。用心棒たちを雇う金を持っているはずはありません」

闇商人「おそらくそいつと貴方の因縁の中で、何かの手違いで用心棒たちを狙うこととなってしまったのかと!」

油商人「では剣士の報告は一体……?」

闇商人「……?そんな些細なことは後です、油商人様!奴らは金ではなく自分の報復のためにこの館に殴りこんできます!」

闇商人「もはや戦あるのみです!もっと手勢を集めねばなりません……」



 門前


<ガヤガヤ…
<ザワザワ…

門番甲「西日が眩しいな……」

門番甲「……?おい、なんだか中が騒がしくないか?」

門番乙「そうだな……さっき闇商人が泡を食って駆け込んでいったじゃないか、あいつが何か持っていたに違いない」

門番甲「何かって?」

門番乙「用心棒の首とかか?」

門番甲「そりゃあ嬉しくないな。臨時に雇われただけの俺たちはまた浪人に逆戻りだ……ん?」


酔漢「ういー、ひっく……おお、お侍さん方!よろしくやっておられますかあ!」フラフラ


門番乙「うへえ、こいつこんな時間から一杯やっていやがる!」

門番甲「オイコラ、この薄汚いフーテン野郎!あっちへ行け!」

酔漢「そう邪険にしなくたっていいじゃありませんかぁ~ささ、一杯、いかがですぅ?」フラフラ

門番甲「うるせえ、とっとと消えねえとぶち転がすぞ!」

門番乙「うわっ酒臭ぇな!」

酔漢「えぇ?私、そんなに臭いですかぁ?」フラフラ

門番乙「ああ、鼻がねじ切れそうだ!」


酔漢「じゃあいっそねじ切ってやろう」ガシッ

門番乙「うおっ――」

 ボギッ!

門番乙「ぐわあああああ――っ!」ドターッ

門番乙「鼻が!俺の、鼻が……」ゴロゴロ

門番甲「!?――貴様ッ!?」シャキンッ


酔漢「俺か?俺は一杯やりにきた酔漢さ……」バサッ

用心棒「手前らの主人の首をつまみになぁ!」ジャキッ

 バアンッ!バアンッ!



 廊下


警備甲「銃声!門のほうだ!」ドタドタ

警備乙「用心棒の野郎、いよいよ来やがった!」ドタドタ

警備丙「警報の鐘を鳴らさなければ……」ドタドタ


用心棒「ふんっ!」ゲシッ

玄関番「ぐわーっ!ま、待て、話せばわかる!」ドタッ

用心棒「問答無用!」ジャキッ!

 バアンッ!


警備甲「!用心棒ッ!」シャキンッ

警備乙「死にぞこないめが、こんなところにまで……!」シャキンッ

警備丙「今本当に殺してくれるわ!」ガシャッ

用心棒「新手か!さっきの奴の後を追わせてやろう!」

警備丙「ぬかせ!」ジャキッ
用心棒「そら、一丁!」ジャキッバアンッ!

警備丙「ゴボッ……!?」ドタッ

警備甲「クソッ!喰らえ!」ダダダッ ビュンッ!

用心棒「おっと!」サッ クルッ

警備甲「おのれ……!?」クルッ

用心棒「後ろだ!」ドカッ!

警備甲「ごふっ!?」ガクンッ

警備乙「この下郎めが!」ビュンッ!

用心棒「ふんっ!」サッ ジャキッ

 バアンッ!バアンッ!バアンッ!

警備乙「」ドシャッ

用心棒「ハエが止まるぜ」

警備甲(な、何て奴だ……しかし奴の短銃はもう弾切れ!)

警備甲「死ね!用心棒!死ね――ッ!」ビュンッ!ビュンッ!

用心棒「おっと!そう慌てるなよ……」ガシャーンッ!ジャキンッ!

警備甲(弾を込めるカラクリ!あれはたしか武士殿の……!?)

警備甲「ウオオ――ッ!」ビュンッ

 バアンッ!

警備甲「」ドシャアッ

用心棒「結果は同じだ」

用心棒「……」



 時は巻き戻り……

 昼過ぎ


 蔵


 ガチャッ バタンッッッ!

少年『はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……』

少年(完全に撒いた!)

少年(しかし闇商人に見つかったということは、すぐに油商人のところにも情報がいくはずだ……!)

用心棒『どうした坊主、泡を食って!』ドカドカ

相棒『おちおち眠れない……』ドカドカ

少年『ああ、用心棒さん!例の図面の訳書はここに!』

用心棒『よし、よくやった!』

少年『し、しかし途中で闇商人と、その手下二人に見つかってしまいまして……』

用心棒『なんだと?手下というのはどんなやつだ?』

少年『赤い狩衣の短銃使いと、青い小袖の剣士です!』

相棒『赤袖と青袖!』

用心棒『ああ。奴め、江戸一の殺し屋を引っ張り出してきやがった』


用心棒『つけられてはいないだろうな?』ガチャッ キョロキョロ

少年『それは大丈夫です、発明家さんが役立つものをくれたので!』

用心棒『ヘン、相変わらず変な気の利く奴だ……』バタンッ


用心棒『だがこれで油商人もすべてに気が付いただろう』

用心棒『近衛四天王は既に亡い。奴がいよいよ守りを固める前に館に踏み込み、叩く!』



<バアンッ!バアンッ!

増援甲「ええい、好き勝手させおって!浪人どもは一体何をやっているんだ!」ドタドタ

増援乙「やはり雇われはあてにならん、我々、油商人様の警護隊がなんとかしなくては……」ドタドタ

用心棒「フン、次から次へと!」サッ

増援甲「あっ貴様!」ジャキッ ズドンッ!
増援乙「死ね!」ジャキッ ズドンッ!

 チュイーンッ チュイーンッ

用心棒「危ねぇな……お返しだ!」ポイッ

 ゴロリ

増援甲「むっ!?これは!?」

増援乙「まずい、下がれ――」


 ドゴオンッ!



<ドゴオンッ!

油商人「ひいっ!」

闇商人「いよいよ来たな、あのバカどもめ……!赤袖!奴を迎え撃て!」

赤袖「承知!」シュバッ スパアンッ! タタタタタ…

油商人「お、おい闇商人!玄関からここまでは一本道だぞ!?」

油商人「私は逃げるぞ、こんなこともあろうかと、向こう部屋の床の間に隠し通路を作っておいたのだ!今こそ!」

闇商人「ええ?よくもまあそんな金のかかりそうなものを……」

闇商人「しかし油商人殿、貴方がここを動かれては士気にかかわります。青袖が護衛致します、安全です!」


「――それに、私もおります、油商人殿」

油商人「お、おお!そうであった!」

闇商人「……」

青袖(!私が気配を感じなかった……?)

青袖(全身を……顔まで包帯で覆い、その上から小袖を着た男……)

青袖(……こいつ、手練れか)


包帯男「私は館の搦め手の守りに就きましょう。奴らは別行動です、きっともう一人が搦め手……もしかすると隠し通路から、突入してきます」


青袖「なぜそう言い切れるのです?」

包帯男「……」ニヤリ

青袖「……?」

今日はここまで
新キャラは出てません



 バサッ! バサッ! バサッ!


用心棒『こっちがあの覆面野郎が寄越した図面。こっちは江戸の地図。こっちが〈切り札〉の図面と、その訳書だ』

少年『……』ゴクリ

相棒『……』

用心棒『まず、覆面野郎の寄越した図面だ』

用心棒『玄関から最奥、主人の間まで、角が一つあるきりの一本道だ』

用心棒『殴りこむには手ごろな形だ……俺は正面から突入する。奴らの裏の裏もかけるかもしれん』

相棒『囮か』

少年『囮……大丈夫なんですか』

用心棒『心配しなくても死ぬつもりは無いぜ……死んだ武士から拝借したカラクリと、鍛冶屋の蔵にある武器をしこたま持って行くさ』


用心棒『……そして』

用心棒『さっき見ていて気付いたんだが、地下一階のこの部分……妙な空白がある。それも一直線に』

相棒『……確かに』

少年『……隠し通路』

用心棒『ああ。奴らの中でも一部しか知らない、秘密の脱出路ってとこだろう』

用心棒『そして隠し通路がだいたい一直線に伸びているとして、江戸の地図を比較してみると、隠し通路の先は……』

用心棒『〈潮光寺〉!油商人の氏寺だ、ここが脱出路の出入り口で間違いない!』



 潮光寺


?「……」ザッ

?(用心棒……それに相棒も、いないようだな)

?(しかしいずれ奴はここに来る。しかしたら用心棒と相棒のどちらかが陽動を仕掛けるかもしれんが、本命は間違いなくここに来る)

?(抜け道から突入し、油商人の首をとるために……そのことが俺の思惑とも知らずにな)

?(油商人の屋敷の図面を渡したのは、秘密通路の存在に気づかせ、そこに誘導するため)

?(俺はそれを確認し、後をつけ、そして……)



 油商人の屋敷


 ドキューンッ バアンッ
ズドンッズドンッ バアンッ

傭兵甲「なんてやつだ、あいつは!あれだけ居た兵が今では半分だ!」ドキューンッ

傭兵乙「クソッ、こうなりゃ意地だ!絶対に仕留める!」ズドンッズドンッ

用心棒「いい気概だ!それを遂げることなく死ぬのが残念だな!」バアンッバアンッ

 バキャン バキャン

傭兵甲「ほざけ!狙いが逸れてやがるぜ、欄間なんか撃ってどうしようって……」

 グラッ ガタタンッ!

傭兵乙「うおっ障子が!?くそっ!」バサッ

用心棒「バカめ……!」ダダッ バアンッ

傭兵乙「おごっ!?」ドターッ

傭兵乙「」ガクリ

傭兵甲「なにい!?こん畜生!」シャキンッ

用心棒「トロいぞ!」ゲシッ

傭兵甲「ぐわっ!」ドタッ

用心棒「ふんっ!」ガシッ

傭兵甲「ぐっ!?ご、ががががが……」ジタバタ

用心棒「はあっ!」グイッ

傭兵甲「が」ゴキャッ


傭兵甲「」ドシャッ

用心棒「……とりあえずひと段落、か……」

用心棒(一本道は一本道だが想像以上に敵が多いな……とりあえず装填だ)ガシャン

用心棒(爆弾はあと一つ、銃弾は……)ゴソゴソ

用心棒「ッ!?」サッ

 ズダンッ!

赤袖「避けたか。それでこそだ、用心棒とやら」ザッ

用心棒「赤袖……薄汚い殺し屋が商人の奴隷になったのか、笑える話だ」

赤袖「貴様こそ。穢れた人斬りが童の敵討ちなど、ずいぶん気取ったものよの」

用心棒「そうとも。俺は気取り屋なんだよ」

赤袖「では武士(もののふ)にも人斬りにもなれんな。そして何者にもなりきれぬ貴様に某は殺せん」チャキッ

用心棒「じゃあ精々試してみるとするか!」チャキッ バアンッ

赤袖「無駄なことよ!」シュザッ ズダンッ

用心棒「フン、どうだか……」サッ

用心棒「俺の鉛玉を味わってから判断しな!」バアンッバアンッバアンッ

赤袖「そんなことは――」タッ クルクルッ ダッ

赤袖「するまでもないッ!」スタッ ズダンッ!

用心棒「う、うおおっ!?」サッ

用心棒(こ、こいつ、今壁を蹴って、天井を蹴って――三角跳びならぬ『四角跳び』を!?)

用心棒(あんな動きづらそうな狩衣でなんて軽快な動きをしやがる!)

用心棒「こンの……!」バアンッ!

赤袖「これが!」シュバッ ズダンッ!

用心棒「おのれ!猿かッ!」サッ バアンッ!

赤袖「答えだ!」ダッ ガッ スタッ ズダンッ!

用心棒「ちょこまか、と――!」ガシャンッ

赤袖「隙あり!」ゲシッ

用心棒「ぐおっ!?」ドガッ ドターンッ

赤袖「庭に転げ落ちてひっくり返ってカエルの如き無様よの!そのまま死ね!」ズダンッ

用心棒「御免被るぜ!」シュバッ

赤袖(むっ!屋根の上に逃げたか……)カチャカチャ

赤袖(弾込めよし!奴を追う!そして殺す!)シュバッ



 ドサドサ
ガチャガチャ


相棒『有用な武器はこれで全部』

用心棒『おう、有難う』

少年『あれ?これは……刀ですか?』

相棒『いや……』ガチャガチャ シャキーンッ!

相棒『こうすると鉄砲になる』

少年『変形するんですね!』

用心棒『面白いな。一応持って行くか……』


用心棒『打ち合わせを再開するぞ。まず、例の秘密通路だが……』

用心棒『使わん』

相棒『何故?』

用心棒『怪しいからだ。あの頭巾野郎の意図を感じる』

用心棒『それでも使わなければならない状況もありえただろうが……俺達には鍛冶屋が遺してくれた秘密兵器がある』

用心棒『相棒。お前はそれを使って油商人の屋敷に侵入するんだ』

相棒『……』コクリ

少年『……』


少年『……用心棒さん、僕も行ってはいけませんか』

用心棒『……何故だ?』

少年『油商人は……油商人は、僕の父と母の仇でもあります』

少年『この戦いは僕の戦いでもあるんです。黙って見ているなんて……できません』

用心棒『……』

相棒『……用心棒』

用心棒『……わかった。行くがいい……』

用心棒『相棒がお前を油商人のところまで連れて行くだろう』

少年『……ありがとうございます』

用心棒『礼を言われる筋合いはない。……死ぬなよ』

少年『はい』

用心棒『……で、鍛冶屋の秘密兵器の使い方だが……』



 油商人の屋根


 屋根の上


赤袖「……遁走しなんだか。見直したぞ」

用心棒「言っただろうが……お前を殺せるかどうか試すってな!」ダッ バアンッ!

赤袖「まだわからんとは!浅はか!」サッ ズダンッ!

用心棒「浅はかなのはお前だ!」シュザッ バアンッ!

赤袖「童じみた問答は無用!」サッ ズダンッ!

用心棒「ならよく考えろることだな!今の!自分の状況を!」シュザッ バアンッ!

赤袖(……!?押されている!?)サッ ジリジリ

赤袖(壁や天井が無いが場所に誘き寄せられたために今までのような動きができぬ!)

赤袖「た、たばかりおったなァ!」ズダンッ!

用心棒「そうだ。貴様は――」シュザッ

用心棒「負けたんだ!」バアンッ!バアンッ!バアンッ!

赤袖「ぐおおおあああああッ!」バスッバスッバスッ グラリ


 ヒュウウウウ… ドボーンッ


用心棒(池に落ちたか……)

用心棒(こいつには青袖とかいう相棒がいたはず。そいつはどこに……?)

<ヒュンッ

用心棒「ッ!?」サッ


 …カツーンッ カラカラカラ…


用心棒(今、何かが……)

「ほう、避けたな」スタスタ

用心棒「!」ガシャンッ

棒使い「私は棒使いだ。貴様を殺しに来た」ザッ

用心棒「……次から次へと」ガシャーンッ

用心棒「ちなみに今のは何だ?」

棒使い「さあな。天狗礫ではないか」チャキッ


 …ヒュウウウウウウウウウウ


棒使い「……?この音は……?」チラッ

用心棒(来たか――相棒!坊主!)

用心棒「喰らえ!」シュバッ ゲシッ!

棒使い「ぐわっ!?」ドタッ



 油商人の屋敷


 上空


 ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ……
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……


少年「うわっ!うわわあっ!落ちる!落ちるぅ!」グラグラ

相棒「暴れるな、本当に落ちる」

少年「こ、こ、これ……『ぐらいだあ』!南蛮どもはこんなもので、空を飛ぶって……ひいいいい!」

少年「な、なんで相棒さんは平気なんですか!?というより、なんで乗りこなせるんですか!?」

相棒「説明書を読んだ」

少年「そ、それだけですか!?やっぱり駄目です僕は!もう降ります!」

相棒「我慢しろ。あとは屋敷の中に落ちるだけだ」

少年「落ちる!?落ちるんですか!?」

相棒「当たり前だ。いつまでも飛んでいられるものか」

相棒「……おや、用心棒だ」

少年「えっ!?用心棒さんが!?」

相棒「屋根の上」

少年「あっ本当――」

 ゴオオオオオオオオ――ッ

 グラグラグラグラ

相棒「横風だ。落ちる」

少年「ひ、ひいいいいいいいい――っ!」


 ヒュウウウウウウウウ…

 ガシャーンッ



 屋根の上


棒使い「い、一体あれは――!?」

用心棒「お前には関係ないものだ!死ね!」チャキッ

伏兵「フッ!」ヒュンッ

用心棒「うぐっ!?」グサッ

棒使い「せいやァ!」ビュンッ

用心棒「ぐはあっ!」ドタッ


用心棒「……っく」スック

用心棒「吹き矢か……ずいぶんせせこましい真似をするんだな」

棒使い「せせこましい真似も、極めれば武器となる」

伏兵「ククク、吹き矢の毒が回るまでせいぜい足掻くがいい……」


用心棒(クソッ、一度見せられていた不意打ちをむざむざと喰らうとは……)

用心棒(相棒たちの到着で冷静さを欠いたのは俺のほうだな。冷静にならねば)

用心棒(これはまだ最後の戦いではないかもしれないのだから……!)


用心棒「毒が回るまで……か」チャキッ

用心棒「それまでに貴様らは死ぬことになる……!」バアンッバアンッバアンッ

棒使い「やってみるがいい!」ギュイーンッ

 カキンカキンカキンッ!

用心棒(!?棒が目にも止まらない速さで回転して――銃弾を弾き飛ばした!?)

伏兵「フッ!」ヒュンッ

用心棒「はっ!」サッ

用心棒(そうだ!冷静になればあんなもの俺には当たらない)

棒使い「私のことも忘れるなよ!」ビュンッ

用心棒(あとはこいつの棒の分析だ……)サッ バアンッバアンッ

棒使い「無駄なことを!」ギュイーンッ

 カキンカキンッ!

用心棒(むっ、よく見ると奴の腕輪と棒が妙な動きを……)

伏兵(再装填完了!もらった!)チャキッ

用心棒「ふんっ!」チャキッ バアンッ

伏兵「がはっ!?」バスッ

伏兵「」ドサッ

棒使い「チッ……!」チャキッ


棒使い「喰らえ!」サッ ギュイーンッ

用心棒「なんの!はあっ!」サッ ゲシッ

棒使い「フンッ!」サッ

用心棒「……やるな」ガシャーンッ チャキッ

棒使い「……そちらこそ。もう少し疲れているのかと思ったが……面倒だ」チャキッ


用心棒(腕輪と棒が、互いに退け合うような奇妙な動きをしている)

用心棒(その力で棒を回転させているようだな……攻撃にも応用できるようだ)

用心棒(しかし、仕組みは皆目見当がつかんな。材質がその秘密だろうか……)

棒使い(……どうも手の内がばれたようだな)

棒使い(吹き矢の毒が回るまで奴の攻撃を捌けるか……?それも、割れた手札で!)



 江戸市中

 とある長屋の玄関先


発明家「頼む!お前がかくまっている『あいつ』の居場所をすぐに教えてくれ、一大事なんだ!」

下男「おしえろ」

学者「わ、わかったわかった!教えるから頭を上げてくれ!」

学者「しかしくれぐれもよそで喋らないでくれよ……あいつは油商人の手の者に狙われているんだ」

発明家「無論だ!」

下男「はやくおしえろ」

学者「『藤屋』のところの角を曲がった先だ、そう遠くはない……」カキカキ

学者「これが地図だ。これも使い終わったらすぐに処分してくれよ」サッ

発明家「かたじけない!」ダッ

下男「かたじけない」ダッ

学者「やれやれ、一体何だって言うんだ……?」


発明家(あの少年……あんな子供が殺し合いに巻き込まれるなんて、あってはならないことだ!)タタタタタ

発明家(僕は用心棒たちに比べれば非力だが、できることはあるはず……!)タタタタタ

下男「発明家さま。きこえます」タタタタタ

発明家「何がだ!?」タタタタタ

下男「ジュウセイ……バクオン……チョウチョウハッシ……アブラショウニンのヤカタのほうから」タタタタタ

発明家「くそっ、始まってしまったか……!」タタタタタ


発明家「この家だな!……地図を処分して、と!」グシャグシャビリビリ

発明家「もしもし!」バンバン

髭面の男「学者か?」ガラッ

髭面の男「むっ!?誰だお前は!?さては油商人の……!?」

発明家「違う!話を聞いてくれ!」

今日はここまで



 油商人の館


 油商人の部屋


<ヒュウウウウ…
<ガシャーンッ!

油商人「ひいっ!」ビクッ

闇商人「何の音だ今のは!」チャキッ

包帯男「庭からでしたな」

青袖「何か大きなものが落ちたような……?見てきましょうか」

闇商人「よし行け!」

青袖「はっ」

 スパンッ タタタタタ…


油商人「くそっ、くそっ、くそっ!」ウロウロ

油商人「いったい何なんだ、次から次へと私に不都合なことが……!」ウロウロ

闇商人「……」

包帯男「そういえば、赤袖はまだ戻らないのでしょうか?」

油商人「そ、それもそうだ!棒使いも増援に差し向けたのにいくらなんでも遅すぎる!」

包帯男「ではそちらは私が見てきましょうか」

油商人「やめろ!私を一人にするつもりか!」

闇商人「一応私もいるのですが……」

油商人「黙れ薄汚いちっぽけなヤクザ商人め!貴様などハナからアテになどしておらんわ!」

闇商人「……」

包帯男「しかし用心棒がここに乗り込んできてからでは手遅れです。私は行きます」

包帯男「油商人様は例の隠し通路で脱出なさっては?」

油商人「な……し、しかし……」

包帯男「警備兵も、減ってはいますがあちこちに残っております……何かあればそちらに」

包帯男「では私はここで」

 スパンッ タタタタタ…

包帯男(……フッフッフッフ……用心棒、あの戦いは無効試合だ。今度こそ決着をつけようぞ……!)タタタタタ



 庭


少年「……い、いてててて……相棒さん、大丈夫ですか……」ヨロヨロ

相棒「大丈夫だ」スック

少年「『ぐらいだあ』は……完全に壊れてしまいましたね」

相棒「帰りは血路を開いていく。問題無い……」

相棒「!」チャキッ


青袖「……相棒、だったかしら。噂は聞いているわ、あなたと用心棒の腕前は裏社会でも有名だもの」

相棒「……」

青袖「そしてそっちは……あのときの子供ね。なぜついてきたの?こんな危ない凧にまで乗って……」

少年「……僕も、この戦いを引き起こした者の一人だからだ」

青袖「そう。まあ何にせよあなたたちを生かしておくわけにはいかないわね。そういう契約なの」チャキッ

相棒「……坊主。先に行け」

少年「はいっ!」ダッ

青袖「通すと思う!?」ダッ

相棒「フンッ!」ビュンッ

青袖「ッ!?」サッ

相棒「……お前の相手は、私」チャキッ

青袖「……それなら精々、一対一の対決を楽しむとしましょうか」チャキッ



 廊下

少年(油商人はどこだ?……いや、会ったところでどうする?)タタタタタ

少年(決まっている。鍛冶屋の蔵で、用心棒さんに火薬を詰めなおしてもらったこの洋式短銃で……)タタタタタ

少年(……僕に、できるのか?)タタタタタ

少年(いや、やるしかないんだ。もう後戻りできないんだ!)タタタタタ


少年「油商人は……この部屋か!?」スパーンッ

 ガラーン

少年「居ない……!」ダッ



 縁側


敗残兵「ハアーッ!ハアーッ!ハアーッ!ハアーッ!」ダダダダダ

敗残兵(死んだ!みんなみんな、死んでしまった!用心棒に殺された!)ダダダダダ

<ガシャンッ!ガシャンッ!ガシャンッ!

敗残兵「!?何だ、屋根の上から……?」


用心棒「はあっ!だあっ!らあっ!」ブンッブンッブンッ

棒使い「ぐわあっ!があっ!ごほおっ……!」ガシャンガシャンガシャン


敗残兵「ああ!ああ!」ブルルッ

敗残兵「だ、駄目だ、駄目だ、駄目だあああっ!」ダダダダダ…


用心棒「うおおっ!おおっ!おおあああっ!」ブンッブンッブンッ

棒使い「ゴボッ……待っ……ゴボッ」ガシャンガシャンガシャン


用心棒「ハアーッ……ハアーッ……ハアーッ……」スック

棒使い「……ゴボッ……」グッタリ

用心棒「ハアーッ……ハアーッ……」ジャキッ


 バアンッ


棒使い「」

用心棒「……ハアッ……ハアーッ!」

用心棒(息……息が……毒!クソッ……!)



 廊下


少年「油商人は……この部屋か!?」スパーンッ

 ガラーン

少年「居ない……!」ダッ



 庭


相棒「フッ……!」ビュンッ

青袖「ふんっ!はあっ!」カキインッ ビュッ

相棒「ハッ……ハアッ!」キンッ ヒュッ

青袖「せいやァッ!」ブウンッ!

相棒「!」サッ

青袖「ふうーっ……!」サッ

相棒「ハッ!」ビュンッ
青袖「セイッ!」ビュンッ

 カチインッ!

相棒(クナイ手裏剣……か)チャキッ
青袖(こいつ投剣もやるのか……!)チャキッ

相棒「……」ジリジリ

青袖「……」ジリジリ

<チャプ…

青袖(……?池に何か……)チラッ


赤袖「」グッタリ


青袖「!?」

相棒「隙あり」シュバッ ヒュッ

青袖「!?くっ!」カキインッ

相棒「甘い」ヒュンッ

青袖「ぐっ」ズパッ

相棒「……」サッ チャキッ

青袖「……」サッ チャキッ


青袖「……どうやら、負け戦みたいね」ジリジリ

相棒「……」

青袖「白星をくれてやるのは惜しいけど……こっちも、命あっての物種なのよね」ジリジリ

相棒「……つまり?」

青袖「こういうことよ!」ゴソッ ブンッ!

 ボンッ!モクモクモクモク…

相棒「!」チャキッ

相棒「……」キョロキョロ

相棒(……逃げたか。赤袖を担いで……)



 廊下


少年「油商人は……この部屋か!?」スパーンッ

包帯男「ん?油商人様ですか?今支度中で……」クルッ

少年「うわっ!?何だお前は!?」ビクッ
包帯男「うおっ!何だ貴様!?」ビクッ

包帯男「こっちのセリフだ!さては貴様例の生き残りの坊主だな?話は聞いているぞ!」シャキンッ

少年「うわわわわ……!あっ、そうだ!」ゴソゴソ

包帯男「……!」ピクッ

包帯男「させん!」ビュンッ!

少年「うわっ!」ガンッ ポロッ

少年(『大きな川』の『お札』が!――でも!)

少年「『火の海、出でよ』!」サッ

 ボシュウッ!

包帯男「うおっ!?ゲホッゲホッ!煙幕か!?」

包帯男(一つは察知できたんだが……もう一つあったとは!)

包帯男「ガキめ、小癪な真似を……」スック

包帯男「ぬうっ!?」フラッ

包帯男(こ、この煙は一体……!?)フラフラ


少年(これは光弾じゃなかったのか……!)タタタタタ

少年(でも光弾だと思っていたおかげで使うと同時に顔を覆ったから、煙にまかれずにすぐ逃げ出せたぞ!)タタタタタ

包帯男「ヌウウ……!待て坊主……!」フラフラ



 油商人の部屋


敗残兵「あ、あ、あ、油商人様……!」ドタドタ

油商人「!な、何だ!今度は!」

闇商人「仕留めたか!?」

敗残兵「と、とんでもない!棒使いさんが、棒使いさんが……!」

闇商人「棒使いがやられたのか!?……となると赤袖も……!?」

敗残兵「早く増援を!殺されてしまいます、早く!」

闇商人(油商人……手勢は、もう……!)チラッ

油商人「ああ、ああああ!逃げる!私は逃げるぞ!」

油商人「今あの隠し通路を使わずにいつ使うんだ……そうだ!そして私は生き残り、またいつもと同じように……!」

敗残兵「!?ふざけるな!」ジャキッ


 バアンッ!


油商人「」ドサッ

闇商人「……な」

敗残兵「……こ、こいつが……こいつがいけないんだ……」ブルブル

敗残兵「これだけ味方を殺しておきながら、そんな身勝手な……!」ブルブル

闇商人(……油商人が、死んだ!)

闇商人(俺は、俺は……どうすればいい!?どうすれば奴らの追跡から逃れられ――)



 ドスドス スパンッ


?「……!?これは!?」

闇商人「!?貴様は!?」ジャキッ

敗残兵「!?」ジャキッ

?「……」

闇商人「……ん?あんた、たしか……」

?「五月蠅い!」ビュビュンッ


 シュバアーッ ズバッ
シュバアーッ ドウッ


闇商人「ぐはっ……!?」ドサッ

敗残兵「」ドサッ


?「……何たることだ……何たることだ!」

?「彼奴ら、俺の筋書きを破ったうえ糞までかけていきやがったな!許せん!」


 ドスドス ガラッ ドスドス…


闇商人(ば、馬鹿な……あいつは……味方のはず……)

闇商人(いや、そもそも、あいつは……)



 庭


用心棒「ハアーッ……ハアーッ……」フラフラ

相棒「!用心棒!」タタタ

用心棒「……よお、へへ……少し、ドジを踏んじまった」フラフラ

相棒「……あとは油商人だけ」

用心棒「ああ。終わったら、しばらくは……休めるだろう……」


?「あいにくだが、そんな機会は永遠に来ない。ここで死ぬからだ」ザッ


用心棒「!?」
相棒「!?」

用心棒「その頭巾は……覆面野郎!なぜここに……」

?「貴様らが……貴様らが、筋書きに従ってれば……全ては丸く収まったのに!」シュルッ


 パサッ


用心棒「……!?」
相棒「!?」


用心棒「バカな……そんな、バカな!き、貴様は――ッ!」




用心棒「『剣士』!?」





?→剣士「……いらん知恵を蓄えて、何もかも台無しにしてくれたな」

剣士「代償は支払ってもらう……!」チャキッ

今日はここまで
消去法で包帯男の正体が推理できるんだけどわかるかな



用心棒「じょ、浄瑠璃書き気取りか……死ね!」バアンッ

剣士「貴様らが誘導通りに抜け道を使っていれば――」スッ

用心棒「!?」

用心棒(何だあの動きは!?まるで銃弾の動きを予測しているような……!?)

用心棒(武士……いや、槍使いの技か!?)

剣士「油商人の目前で私が貴様らの前に立ちはだかり、貴様らを殺し――」ツカツカ

相棒「ッ……!」ジリジリ

用心棒「クソッ……!」バアンッ

剣士「私は油商人から重用されるようになり、やがては跡継ぎとなれたのに――」スッ

用心棒「当たれッ!」バアンッ

剣士「そのために私がどれほど貴様に手を貸してやったか――」スッ

用心棒「な、何なんだ……」バアンッ

剣士「そもそも私はそのために油商人の配下になったのに――」スッ

用心棒「何なんだ貴様はッ!?」バアンッ

剣士「全てを!全てを無駄にしてくれたな――」スッ

用心棒「うおお――ッ!」バアンッ

剣士「断固!殺す!」キインッ!

用心棒(バカな!?銃弾を刀で――)

相棒「!危ない!」

用心棒「ぐふっ!」バスッ

用心棒「……かはっ……」ドサッ


相棒「……!」ダッ

剣士「向かってくるか、バカめ……『飛閃』!」ブンッ シュバアーッ

相棒「!?がっ……」ズバッ

相棒(こ、これは大男の……!?)

相棒「は、はあっ!」ビュンッ

剣士「!これは!」カキインッ

相棒「たあっ……!」ビュンッ

剣士「草薙流、か!」カキインッ

相棒「そうよ……覚悟はいい!?」ビュンッ

剣士「お前も草薙流の使い手だったとはな……しかし!」カキインッ

剣士「ぜいッ!」ビュンッ

相棒「!?」カキインッ

剣士「そうだ!俺も!草薙流!」ビュンッビュンッビュンッ

相棒「そ、そんな……!」カキインッカキインッカキインッ

剣士「そしてお前のその歳では……俺のほうが兄弟子だろう」パッ

相棒「……だから?」チャキッ

剣士「なに、もしかすると道場で会ったことがあるかもしれんと思ったんだ――そしてッ!」シュバッ

相棒(!この踏み込みは以前戦ったときの――いや、キレが数倍!?)


剣士「はあっ!」ビュンッ
相棒「やッ!」ビュンッ


剣士「……」

相棒「……」


相棒「ぐ」ドサッ

剣士「弟弟子……もとい、妹弟子では、兄弟子に敵わないのが道理だ」


相棒「……ゴボッ……」ピクピク

剣士「フン、全てが終わってしまった今では慰めにもならんが……トドメだ」チャキッ

用心棒「待て……!」ヨロヨロ

剣士「……おや、もう死んだと思っていたんだが……お前からにするか」クルッ

用心棒「喰らえ!」ポイッ

剣士「ぬうっ!?これは――」


 ボガーンッ!


用心棒「ハアーッ……ハアーッ!相棒ッ……!」ヨロヨロ

相棒「……よ……よう、用心棒……ゴボッ」

用心棒「や、やめろ……喋るな、傷が……!」

相棒「……用心棒!まだだ!奴は!」

用心棒「――ッ!?」ガシャーンッ クルッ
剣士「『飛閃』!」シュバアーッ


 ガシャーンッ!


用心棒「た、短銃が……!」

剣士「おまけだ!」シュバアーッ

用心棒「ぐはっ!」ズバッ ドターッ

剣士「驚かせやがって。どうだ!どうだ!オラッ!」ゲシッゲシッゲシッ

用心棒「がっ……ぐっ……」ガッガッガッ

剣士「痛いか。痛いだろうな。だが私はその何倍も痛いんだ、貴様の勝手のせいでな!」ゲシッゲシッゲシッ


用心棒「……」ピクピク

相棒「……よ、用心棒……ゴボッ」グッタリ

剣士「フウーッ……おや?用心棒、お前ちゃんと刀を持っているじゃないか。短銃使いのくせに……殊勝な心がけだな」

剣士「……フム。そういえば、ただ殺してもつまらないしな……」


相棒「……用心棒……逃げろ……お前だけでも……」

用心棒「……そんなことが……できるか」

用心棒「こんな……クソ野郎に、お前は殺されて、俺だけ、逃げろってのか……」


剣士「なんだお前ら結構元気だな……フウーム、ではこうしようじゃないか、用心棒」

剣士「五歩の距離で見合って、俺が投げたこの石が地面に着いたらお互い抜刀して、最終決着だ」

剣士「形の上だけでも正々堂々の勝負としよう……おい立てるか?できないならこのまま蹴り殺すぞ」


用心棒「……ああ、できるさ……できるとも。ぶっ殺してやるぜ、クソッたれ」フラフラ

剣士「フン……」ザッザッザッザッザッ


剣士「この石が合図だ。いくぞ」ポイッ


 ヒュウウウウウウウウ…


剣士(用心棒……滅茶苦茶やってくれたお前もこれまでだ。俺は大阪ででもやりなおすとするさ……)

剣士(幸い、四天王から吸収した技の数々がある。これがあれば新設されるという噂のある京都警備隊あたりで成りあがれるだろう)

用心棒(……最後の一手も、奴の目には通じるまい)

用心棒(万事……窮す、か……)

相棒「……用心棒ッ!」

用心棒「相棒ッ……先に行って、待ってるぜ!」


 ポトンッ


用心棒「ウオオオオーッ!」シャキンッ
剣士「『飛せ』――!?」シャキンッ
少年「うわあああああああ――っ!」ジャキッ


 ズダンッ!ダアンッ!



 ……


剣士「……」


用心棒「……」


少年「……」


相棒「……」


 ドシャッ


剣士「」

用心棒「……」

用心棒「……やった。殺した……俺が」

相棒「……ゴボッ……その、刀、は……」

少年「……あのときの?」

用心棒「……ああ。鉄砲に変形する刀……」ポイッ

 ガランッ

用心棒「……最後の最後で、こいつは読み間違った」

少年「……僕の、弾丸は?」

用心棒「……バカめ。鉄砲ってのは……一朝一夕で、当たるようになるもんじゃ、ねえんだ……」

相棒「……」


少年「……あっ!用心棒さん、相棒さん、その傷は!?大丈夫なんですか!?」

用心棒「大丈夫なわけ……ねえだろッ!クソッ!クソ痛ぇ!」

相棒「まったく……ね……」

相棒「……私、ちょっと……眠っても、いい?」

用心棒「おい」

相棒「バカ……死ぬわけ……な……」

相棒「……」ガクッ

少年「相棒さん!?」

用心棒「相棒!?おいっ!」ユサユサ

相棒「……!死なないから、眠らせろって、言ってるだろッ!」ブンッ

用心棒「ぐわっ!?」ガンッ

相棒「……起こすな……」ガクッ

用心棒「……」

少年「……」

用心棒「……ははっ」

少年「……えへへ」

用心棒「……行くぞ。表には奉行所の連中がいるだろう、裏から出よう」

少年「はい!」

用心棒「よいしょっと」グイッ

相棒「……うーん……」



 裏門


発明家「用心棒ッ!」

用心棒「うわっ……発明家!?なんでここに……?」

発明家「こんなドンパチやってればツンボでも気づく。その傷は……!」

用心棒「大丈夫だ……ほっとかなければ、死ぬ傷じゃあない」

相棒「……死なないって……」

用心棒「わかったわかった」


発明家「君も……いたのか、この鉄火場に」

少年「はい……お札、ありがとうございました。無かったら僕、おかしな包帯男に殺されていました」

用心棒「包帯男だと?」

少年「あっ、はい。全身包帯でぐるぐる巻きの男です」

少年「途中で出くわして……発明家さんからもらったカラクリで撒いたのですが」

用心棒「……」

用心棒(そういえば……槍使いは死体を確認していないが、剣士と同じようなことは……)

用心棒(……まさか、な)


発明家「……そして、少年。君に会わせたい人が居るんだ」

少年「え?」

発明家「……出てきてくれ」

髭面の男「……」ザッ

少年「……!あなたは!」


髭面の男「うおおーッ!少年ッ!」ガシーッ
少年「叔父上ーッ!」ガシーッ


髭面の男「うおお、うおっ、うおおおおーっ!少年、少年……」

髭面の男「ああ、見つけてやれなくてすまない、俺は君が兄上ともども死んだものとばかり……」

少年「僕もです、僕もなんです、叔父上……きっと生きていると自分に信じ込ませようとしてはいたけど……どうせ殺されてしまったんだろうと!」

髭面の男「いいんだ、いいんだ、そんなことは……」

髭面の男「少年、俺と肥前に行こう。俺の死んだ妻の家が肥前にあるんだが、彼らが俺たちを受け入れてくれると言っている……」

少年「はい、もちろんです……もちろんですとも!ご一緒します!」


用心棒「……大団円だな」

相棒「……うるさい……」

発明家「……さあ、そろそろここを出よう。奉行所の連中が来ると面倒だ」


用心棒「……じゃあ、少年。ここでお別れだ」

少年「え……」

用心棒「……俺たちとお前の生きる道は違うんだ。交わっちゃならないんだ、それは」

少年「……もう、会えないんですか」

用心棒「……少年。俺たちは傷を癒したら、闇商人を殺しに行くんだ」

用心棒「そういう世界だ、俺たちが生きているのは。お前もこの何日かでよくわかっただろう」

少年「……」

用心棒「……まあ、覚えとくさ。ちょっとでも俺たちと一緒に戦った奴が、肥前にいるってな」

用心棒「あばよ、少年」ザッ

少年「……!」

少年「用心棒さん!僕も……僕も、忘れませんよ!」

少年「相棒さんも!僕を助けてくれた人たちが、江戸に居るって……僕、絶対忘れませんから!」

少年「本当に、本当に……ありがとうございました!」ペコリ


用心棒「……おう」スタスタ

相棒「……ええ」


発明家「……さあ、行こうか」

髭面の男「……格好いい人たちだな」

少年「……はい。善い人じゃありませんが、格好良い人たちです」

少年「……!あっ!」

少年「用心棒さん、僕のこと、坊主じゃなくて少年って……!」



 路地


用心棒「闇医者は……向こうだったか……?」スタスタ

相棒「……そこ、右」

用心棒「ああ、そうか……」

用心棒「……あの、バカめ。絶対忘れねえとよ」

用心棒「忘れたほうが……平和だってのによ」グスッ

相棒「……用心棒」

用心棒「うるせえ。泣いてねえよ」グスッ

相棒「……違う。最後の、一発」

用心棒「ん?……」

相棒「……剣士を殺した銃弾、本当にお前が撃ったのか」

用心棒「……」

用心棒「どっちだっていいだろ」

相棒「……そうね」


用心棒「……ああクソ、この道やけにドロドロだな……雪がまだ残ってやがる。足袋が汚れて仕方ねえ」

用心棒「日陰だからかな。ひでえ道だ」

相棒「……下ろして」

用心棒「ん?大丈夫なのか?」

相棒「大丈夫。私も、一緒に歩く」



 潮光寺


包帯男「着いた……とりあえずここに下ろすぞ」

闇商人「ああ、優しくやってくれ、やさしく……あいててて!」

闇商人「……ああ、助かった。何分この刀傷だ」

闇商人「あんたがこうして抜け道から運び出してくれなければ用心棒に見つかって……なすすべなく殺されていたかもしれん」

闇商人「本当に感謝するよ、槍使いさん」

包帯男→槍使い「……まあ、一度命を救われた恩があるのは事実だからな」

槍使い「しかし、剣士の奴が生きていたとは……」

闇商人「何も変わらん、何も変わらんよ槍使いさん。用心棒は奴を二度殺すだろう」

槍使い「……その言い回しは私もぞっとしないが」

闇商人「そうか?すまんな……ところで」

槍使い「何だ」

闇商人「用心棒の奴がいるせいで江戸で暮らしにくいのは俺もあんたも一緒だ。そうだろ」

槍使い「……私は奴に負けたわけではないのだが……まあ、傷も完全に癒えたわけでないしな」

闇商人「そうだろう?そこでだ……」


闇商人「俺と一緒に神戸に行かないか」

以上で完結です。
劇中では10日と経過していませんが、執筆には1年半近くかかってしまいました。
最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。
依頼も忘れずに出しておきます。

ちなみに自分の中でのベストバウトは槍使い戦です。
皆さんは如何だったでしょうか。
その他感想、ご指摘等あれば一言だけでも書き込んでいただければ今後の参考にさせていただきます。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom