スカアハ「ちくしょう! 海開きだ!!!」 (21)

乖離性ミリオンアーサーの山無し谷無しssです。4500字程度の短い物ですが投下します

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夏特有の、強い陽射しがキャメロット中を覆い尽くしている。

 今年、訓練城ヘヴリディーズの近郊では、かつてない程の猛暑が連日続いていた。

 太陽はいつにも増して機嫌がよく、加減など知らんとばかりに辺り構わず照らしつける。雨も降らず、日照りが続けば気温も上がって行くのは当然の事だった。

「ああああ!! もう我慢ならん!!!」

そして、暑さが続けばそれに耐えられない様な人間も現れる訳で。

「ちくしょうめ! ウアサハ! 海開きだ! 海開きの準備をしろ!」

まだスズメが鳴いているような朝早くの城に、甲高い魔女の叫びがこだました。

 大声のせいで、城で寝ていた数人が目を覚ましたが、それはそれ。

この地を守る4人のアーサーの訓練教官を務める魔女スカアハには、ここ数日の暑さはどうしようもなく堪えるものだったのだ。

「いいえ、スカアハ様。まだ今日中に終わらせなければならない仕事が幾つか残っています。」

 無茶な要求を一蹴するのは、サポートとしてスカアハが自ら造り出した妖精のウアサハである。最も、サポートというものが軍事方面ではなく主に日常生活面の方にしか活かされていない事の方が多いのはご愛敬。

「知らーーーん!! そんなものは知らん!!! だいたい、こんなクソ暑くてやる気もなにもかも全部削がれる状態でマトモに仕事なんて出来る訳が無いだろうが!」

「いいえ、スカアハ様。そうは言われましても、仕事というのは待ってくれる訳でもありません。せめてこの書類だけは完成させて下さい。」

 ウアサハは手に持った書類をスカアハに突き出す。外交として必要最低限、調印等が必要な物だけを、これでもかなり精査して数を減らして出しているのだ。これ以上サボられると、ウアサハとしてもたまったものではない。

「私は非効率的な作業は嫌いなんだ! こんな状況では進む物も進まんだろう! ……だからウアサハぁ……お願いだ、海へ行こう。出来れば本日中に。いや、今すぐにでも。」

 だが、こういう時のスカアハは頑として譲らない。

完全に開き直ってしまい、これでは力づくでやらせたとしてもきっと、本当に効率が悪くなるだろう。ウアサハは些か扱いに困る主人に向かって深いため息をついた。

「……はい、分かりました、スカアハ様。海で涼んだら仕事を進めてもらえるのですね。」

「うむ! がんばってな。期待しているぞ!」

何とも調子の良い事で。

 こういう事はもう慣れっこのウアサハであるが、ステステとスカアハの部屋を去る背中には、どこか哀愁が漂っていた。

***

「それで、この騒ぎかね……」

 そうして昼過ぎ、昼食もまだだというのに招集されたアーサー達は、ウアサハとスカアハに連れ立って海岸沿いへと向かった。

 ここでは大変な事件が何度も起こっている。突然ドラゴンの様な強力な外敵が現れたり、コナハトの大艦隊を迎え討ったり、レウィと殺し合ったり、色々と思うところが無いでもない富豪アーサーである。

その色々とあった海岸が、今やたくさんの人で賑わうビーチと化している。

人、というか、騎士なのだが。

 富豪アーサーの顔を炎夏型トールが出した泡が横切る。

目を逸らせばその先では第二型トールがトリストラムと激しい剣舞を繰り広げていた。模擬戦でもしているのだろうか。周りを逆行型の子供達がはやしたてている。

遠くを見れば海の家で炎夏型エターナルフレイムが焼いた焼きそばを美味しそうに頬張る逆行型トールの姿が目に映った。

「って、トールだらけではないか。区別がつかなくて気持ち悪いぞ。」

「トールは器用だし、こういう時には役に立つからな。総動員したんだろう。」

 ぼやく富豪アーサーにドヤ顔で答えるスカアハ。横でそれをウアサハが無表情で見ているが、口を開くことはない。

「それにしても、結構な数居ますねぇ。あ! 魔ーサーちゃんまでいますよ! やっぱり女装してるけど。」

 盗賊アーサーが遠くでライフセーバーとして待機している炎夏型アーサーの、魔法の派を発見して駆けていく。

 駆けて舞った砂が、横でパラソルを差して本を読んでいた炎夏型フィオナーレの顔にかかったのを富豪アーサーは見ないふりをした。

「こんな所で歌っても、声は響かないしなぁ……せっかくだし、私も泳いでこよ……ウアサハ、着替えはあるのよね?」

「はい、アーサー様達の着替えはこちらに用意しております。お着替えはあちらの納屋でどうぞ。」

 ウアサハは横に抱えていた鞄の中からいくつかの袋を取り出してアーサー達に渡し、少し離れた場所にある小屋を指示した。
小屋と言うより、コテージだろうか。いやにこぎれいであるし、小屋というにはどうにも大きすぎる。

歌姫は着替えを受け取ると、さっさと奥へ引っ込んでしまった。

「なんというか……いつ、またここが襲われるとも分からないという事を、皆分かっているのだろうか。」
「まぁ、襲われても何とかなりそうな連中ではあるけどな。」
「確かに、それは言えているな。」

 この中には、街に住む一般人など1人も居ない様に見える。目に映る人物全てが、ヘヴリディーズ内で生み出された、一人一人が強大な戦闘力を持つ「騎士」達だ。それも、服装が水着でも問題なく実力が発揮できる炎夏型やそれに近い者達はフル投入されているようだ。
先程から複数居るトールのよく通る声(洒落に非ず)が非常に喧しいし、特に関係の無いが涼しそうな格好をしているタンザナイトや華恋型リトルグレイなどの姿も見えた。

「はい。彼らには朝から突貫工事でこのビーチの準備をしてもらいました。こうして遊ばせてあげるのは、正当な報酬と言えます。万が一の事も考えて、この面子となりましたが。」

 ウアサハはそう言った後、パラソルとシートを用意してそこに座り込んだ。

炎夏型ティストが持っている様な立派なパラソルである。人1人が入るには十分過ぎる大きさだ。

「私はここに居りますので、何かあればお申し付け下さい。」
「お前は泳がないのか?」

 しっかりと腰を落ち着けて陣取ったウアサハに傭兵が思わず尋ねた。ウアサハは特に表情を変えずに返す。

「はい。ウアサハは妖精ですので、別段休養を必要としません。」

「お、今韻を踏んだな。」

表情は変わらないままに少し赤くなるウアサハである。

「ふむ。そういうものかね。だがしかしウアサハ、あれを見ろ。」
「?」

 意味もなく顎に手をあてて何かを考えるような仕草をしていた富豪アーサーの言葉に、ウアサハが指し示された方向を見てみると、そこには。

「おーいウアサハー! 何してるんだー! お前もこっちにこーい!」

 いつの間に着替えたのやら、水着になって、海でびしょ濡れになってはしゃぐスカアハの姿が。

あまりのテンションに、隣の歌姫アーサーも苦笑している。

「……はぁ。申し訳ありません、アーサー様。私も行かなくてはならない様です。」

「みたいだな。まぁ、いいじゃないか。たまにはこういうのも。」

 ウアサハが申し訳なさそうに頭を下げると、傭兵アーサーがポンポンとその肩を叩いた。

その手をさっと払いのけてウアサハは着替えを持って屋へと向かった。

ウアサハが去ってしまったので、これで残るは二人。この場に立っている者はむさくるしい男だけとなってしまった。

「ウアサハめ、随分と素っ気のないものだな。」
「まぁ、あっても困るけどな。」
「困るのかね?」
「ん……? 困るのか?」
「いや、私に聞かれても困るな。」

 そんな脳ミソが溶けているような頭の悪い、意味のない問答を繰り広げている内に、魔法の派を弄りつくした盗賊アーサーが何かをやりとげた顔で帰ってきた。

「いやぁー、やっぱりアレはもう男らしくとか諦めてますね。むしろ女っぽくあろうとしてる節さえありますよ。反応が。もう反応がね。アレは男の娘とはもう言えませんって。ふたなりです、ふたなり。」
「お前は何を言ってるんだ。」

 傭兵アーサーは盗賊アーサーの言葉を半分も理解できなかったが、とりあえずロクでも無い事なのだということだけは分かったのであった。

 そんな盗賊アーサーは手に持った白い布を指にかけてくるくると回している。

怪訝な顔で富豪が覗き込むと、いります? と聞かれたので、丁重にお断りしておいた。どうせこれもロクなものではない。

「あ、着替えコレですか? じゃ、私もちゃっちゃと着替えましょうかねー」
「何というか、君も大概順応性が高いのだな。」
「盗賊ですからね。」

 ぼやく富豪の言葉に答えた盗賊アーサーのにやりとした悪い笑顔に、そういうものかねと暢気に返すと、んじゃ、そういう事で!と言いながら盗賊は納屋の方へ走っていった。その途中でつっ立っていた第二型カルディスの下着をなぜか剥ぎ取って行ったのを、富豪は見ないふりをした。

「さてと、俺達もそろそろ着替えるか。」
「あぁ、そうするとしようか。しかし、男連中は数が少ないな。どうも肩身が狭い気がする。」

 傭兵はその言葉に辺りを見回すと、確かに砂浜で遊んでいるのも、海で泳いでいるのも女、女、女。
 男はイゾルデに半ば強引に連れてこられたであろうトリストラムに、ロウエナに半ば強引に連れてこられたであろうランスロット、後は逆行型のモードレッドくらいのもので、他にはもう自分たちくらいしか居ないのではないだろうか。

 傭兵や富豪に娼館の経験でもあれば話は違ったのかもしれないが、生憎二人にそんな都合の良い経験は無かった。

「確かに、何をするにもこれじゃ、少し気が滅入るな……クーホリンはどうしたんだ? 呼ばなかったのか?」
「知らないが、あの暑苦しい堅物が来たところで何になる。それに、どうせ来てもレウィと乳繰り合って要らぬ反感を買うだけだとは思わんかね。」
「あー。」

 わかる、と深く頷いた傭兵アーサー。
それきり、ぼけーっと立ちつくす2人の間に、少し沈黙が流れた。

「夏だなぁ。」 
「夏だねぇ。」

 つぶやいた二人の視線の先では、ビーチバレーに励む炎夏型エヴェインがその豊満なアレをナニしている。
炎天下で運動しているせいか、汗がアレの間で弾けているのが見えた。目を凝らさなければ確実に見えないであろうそれを、二人は見逃さない様に視界に捉えている。

うむ、まっことけしからん。あれは良いものだ。

「だいたい、ここの連中はどいつもこいつも露出が激しすぎるだろう。何なんだ? そういう趣味なのか?全く、最近の若者というものは……」
「アレはおそらくスカアハの趣味だろう。自分にはできない格好をさせたいんだよ。運動不足のが祟ってるだろうからな。あ、これ本人の前で言うなよ。確実に悲惨な目に遭うぞ。」
「肝に銘じておこう。女性の風紀の乱れにしたって、元より私達の預かる所ではない訳だ。」
「全くだな。」

 やれアレは目に毒だ、だのやれあんな格好で斬撃でも受けたらどうするつもりだ、だのと言いながら思いきり凝視しつつ、二人はオヤジくさいやりとりをしていたが、その内話題も無くなって来たのか、会話も減ってきた。

「なんか喉乾いてきたな。そうだ、あそこで何か飲み食いしないか?」
「あぁ、花より男子とはよく言ったものだな。立場は逆だが、まあ、私としてもそちらの方が楽しめそうだ。」

 そう言って、二人は未だエターナルフレイムが嬉々として鉄板を熱している海の家の方へと歩き出す。着替えはもうウアサハの鞄の中にしまっておいた。
海に来たからと言って、無理に泳ぐこともないだろう。
何が置いているかは分からないが、城から色々と持ちこんでいる筈だから、頼めばなんでも出てくるだろう。
給仕をしているのがガネイダなのが只管に不安を煽るが、まぁ、大丈夫だと思いたい。

「どれ、折角の機会だ。一杯私が奢るとしようか。どうだ、スコッチウィスキーでも。」
「お、やはり富豪は言うことが違うな。ありがたく頂こう。だが昼からそんなもん飲んで大丈夫なのか?」
「何、この騒ぎだ。この後に訓練をする程、スカアハも野暮ではないだろう。まぁ、海の家にウィスキーが置いてあるかと聞かれれば、首を傾げざるを得ないがな。」
「違いない!」

はっはっは、と笑いながら肩を組んで海の家へと向かう二人だった。


 その後、ウアサハに結局遊び疲れて仕事をしなかった事で制裁を受けたスカアハの八つ当たりで、地獄のような訓練クエストが四人に課されるのであるが、それはまた別の話。

以上です。

本職富豪だから富豪の台詞が多くなるのは仕方ないね。

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