バルクホルン「私は……卑怯者と呼ばれたウィッチ」 (17)

バルクホルン「この世界から全てのネウロイが消滅して4年。

共通の敵を失った人類は共存の道を歩むことなく戦乱の時代が始まった。

我がカールスラントも欧州諸国に宣戦布告、オラーシャとガリアに侵攻し、ブリタニアに攻撃を加えた。

だがネウロイ戦争の傷が癒えぬ我が国の攻勢もリベリオンが参戦した昨年半ばから破綻。

今では連合軍にカールスラント本土を侵攻される有様…」

私は朝霧の中カールスラント上空を飛んでいた。本土に侵攻する敵機を発見、撃墜するためである。

敵機。以前はネウロイという、人類とは異なる未知の魔物であった。

だが今は我々と同じ人間に銃を向ける。過去の仲間も多くが戦死していた。

ネウロイ戦争に参加したウィッチは殆どが魔法力を喪失している。

あのマルセイユでさえ、作戦中に魔法力が尽き、墜落死した。

読みたいけど眠すぎ

バルクホルン「飛行雲が出てるぞ。スロットルを絞れ」

傍らに飛ぶFw190に向かって無線を送る。

戦力の不足によりウィッチだけによる編隊は望めず、今では通常の航空機を僚機とせざるを得ない。

僚機「了解」

だが飛行雲が消えるよりも早く、僚機に鋭い銃弾が食い込んだ。

振り向けば端を切った楕円の翼が3つ。ブリタニアのスピットファイアだ。

燃料タンクにまで到達した弾丸は僚機を火球に変える。

バルクホルン「何をしている、脱出しろ!」

僚機「キャノピーが開かない! うわああああ!!」

味方は脱出することなく機体と共に爆散した。

>>3
書き溜めてるから起きてくれると嬉しい

敵機は残った私を狙って容赦なく攻撃を続ける。

上空に退避し、追い越させたところにMG42の、毎分1200発の猛烈な銃撃を叩きつけた。

だが弾は全て敵機をかすめ、遥か前方の大地へ消えていった。

スピットファイアは旋回する。後を追おうとするも出力が出ない。

またも私は後ろを取られた。

鉛の弾丸が私のすぐ横を通り過ぎていく。あと数センチずれていればこの体は引き裂かれていたであろう。

20歳を超えた私はもはやシールドを張る力さえ残っていないのだ。

バルクホルン「こちらバルクホルン、現在マンハ湖上空で敵と交戦。追撃を振り切れない。飛行脚を捨てて離脱する」

無線報告の後、私はストライカーユニットと武装を全て排除、水面に向かって真っ逆さまに降下した。

敵機が離れていく。戦う意思のないものを攻撃するほど血に飢えている訳ではないようだ。

落下傘の展開の直後に私の体は水面に叩きつけられた。

水鳥達が慌てて飛び立っていくが、次第に静寂が辺りを包んでいく。

私は暫くの間、湖上を漂い続けていた。

夜空に瞬く星空は、私に生きる気力を奪い去るようであったからだ。

いつしか私は岸にたどり着き、哨戒中のカールスラント兵を発見した。

兵士「運がいいな、あんた。ここがガリアだったら今頃ゲリラにやられてた。あんたの機体もな」

彼の向く先、ありえるはずもない光景が私を驚かせた。

強制排除した私のストライカー、Fw190が地面に突き刺さっている。

それは全くの無傷であった。一発の弾痕も無く、一片の欠損もない。

自分はまだ戦える、何故放棄したのか。戦闘から離脱した私に恨み言を言っているかのように思えた。

――味方が落とされたのに自分だけおめおめと逃げ出したのか

――何が誇り高きウィッチだ

――空よりも地上の方が勇ましいのかもな

兵士同士の会話であったが、それははっきりと私に向けられていた。

―――その日、ゲルトルート・バルクホルンは卑怯者の烙印を押された。

ミーナ「哨戒中に敵機と遭遇、僚機が撃墜され、自身は戦闘から離脱」

ミーナ「……落ちぶれたわね、トゥルーデ」

バルクホルン「久し振りだな……お前は変わり無いか」

あれから数週間。卑怯者になった私を迎えたのは、かつての上司であり戦友であったミーナだった。

ウィッチとしての魔法力は失っても戦闘指揮で培われた能力は健在であり、今では作戦指揮官として手腕を発揮している。

飛ぶことしか出来ない私とは大違いだ。

ミーナ「ええ……あなたと違って。ネウロイ戦争の撃墜王も過去の遺物ね」

バルクホルン「ウィッチの役割は魔法力でネウロイに打撃を加えること」

バルクホルン「特にFw190とMG42の組み合わせは大型のネウロイには有効だが、小型で素早い敵相手には分が悪すぎる」

ミーナ「トゥルーデ、ウィッチとストライカーを侮辱する気?」

ミーナ「機動力は通常の航空機の比じゃない。例えその相手が人間であってもその地位は揺らぎないわ」

バルクホルン「性能の問題じゃない。ウィッチ自体、ネウロイ以外の敵と戦うのは適さないと言いたいんだ」

ネウロイ戦争の撃墜王と言われた私達も、この戦争が始まってからはスコアが伸び悩んだ。

……相手がネウロイだったからこそ、私達はエースでいられたんだ。

ウィッチはネウロイを倒すために生まれた。人間の戦いでの役割なんてあるはずもない。

特に魔法力の欠如したウィッチなど。ミーナだって分かってるはずだろう。

しかしカールスラントが置かれた状況はウィッチを駆り出さなければならないほどに逼迫している。

それもまた事実である。

バルクホルン「あれは?」

爆音と共に一筋の閃光が闇夜を引き裂くのが見える。

ミーナ「新兵器のV-2ロケットよ。世界初の大陸弾道弾。カールスラント本土から無人でロンドンを爆撃できるわ」

ミーナ「……これからはウィッチも必要無くなるかもしれない」

バルクホルン「行き過ぎた力だ」

思い起こすのはネウロイと化した扶桑の軍艦。ネウロイの力を利用しようとして、御せ無かった人類の驕り。

操ることが出来るころには同じ人間にその力を向けている。

バルクホルン「戦争は銃剣でやりあうくらいでやめておけばよかったと思うよ」

ミーナ「今更後には戻れないわ。先に進むしかないの、私達は……」

ミーナ「トゥルーデ、あなたに名誉挽回のチャンスを与えます」

格納庫の扉が開く中、ミーナは説明を続ける。

ミーナ「クルト・タンク技師の新型ストライカー、Ta152」

ミーナ「ジェットストライカーのMe262と比べればやや劣るものの、安定性と信頼性ではこちらが上」

ミーナ「レシプロストライカーでは最高の機体よ」

ミーナ「この機体であなたにまた飛んでもらうわ。トゥルーデ」

バルクホルン「……ああ分かった。任務内容は何だ」

ミーナ「あれを見て」

彼女の指差す方には四発のエンジンを積んだ巨大な航空機が控えていた。

ミーナ「リベリオンから鹵獲したB-17爆撃機よ。あれで秘密裏の輸送を行います」

バルクホルン「私はその護衛か」

ミーナ「ええ。敵に悟られたくないから護衛は出来るだけ少なくしたいの」

腐ってもエース、というわけか。

バルクホルン「いいのか? また逃げ出すかもしれないんだぞ」

ミーナ「いいえ。あなたに逃げることなんて出来ないわ」

B-17の脇で資材の積み込みの支持をしてる者に、私は見覚えがあった。

バルクホルン「ハルトマン……ウルスラ・ハルトマン!?」

ウルスラ・ハルトマン……かつて対ネウロイ用の兵器を開発していたな。

彼女のジェットストライカーは皮肉にもこの戦争で実用化の目途が立ったと聞く。

ウルスラ「お久し振りです。バルクホルンさん」

バルクホルン「あなたがここにいるとは」

ウルスラ「これでペーネミュンデへ行きます。バルクホルンさんが護衛と聞いて安心しました」

ウルスラ「私も……姉も」

彼女の目線の先、ウルスラに瓜二つの女性が一人。

バルクホルン「エーリカ……」

ウルスラ「ウィッチとしての力をなくした姉は私の助手として役立っています。姉さん、出発まで時間があるから…」

ミーナが、私が逃げ出さないと言い切った根拠を今はっきりと理解した。

エーリカ・ハルトマン。ネウロイ戦争での僚機であり、軍人になって以来の親友であり、

そして私がかつて最も愛した女性。

二度と会うことは無いと思っていただけに、驚きを隠せなかった。

ウルスラの計らいで基地内の談話室で二人きりになる。

エーリカ「……主人は戦死したよ。アフリカの砂漠で」

エーリカ「夫婦の生活は僅か半年。あの人が死んでからはずっとウルスラを手伝ってた」

エーリカはネウロイ戦争後、完全にウィッチとしての力を失った。それ以来私達は別れ、彼女は結婚して私の前から姿を消したのだ。

エーリカ「トゥルーデにずっと謝りたかった……」

バルクホルン「昔のことは忘れたよ」

エーリカ「私は忘れられなかった。ウルスラの研究資金のため、あの人と結婚してしまった」

エーリカ「トゥルーデを……捨てて」

バルクホルン「それは違う。私にエーリカを奪う勇気が無かった」

バルクホルン「同性だから、社会や常識が許さないからといって私は逃げたんだ」

バルクホルン「だが互いに自分を責めたって、もう昔には戻れないんだ」

エーリカ「そうだね…でも501にいた時はとっても楽しかった」

エーリカ「みんなで冗談を言い合って、トゥルーデには早く起きろって怒られて」

エーリカ「そんな日々がずっと続くと思ってた……」

互いに負い目を持ち、直視することは出来なかった。

人類同士の戦争の始まる前、まだウィッチの力が残っていた頃に戻れればどんなに喜ばしいだろうか。

気まずい沈黙が続く。

バルクホルン「積荷は何だ」

どうにかして沈黙を打開したかった私は外のB-17に話題を向ける。

バルクホルン「いや、いい。軍事機密だ。話す必要なんて無いんだ」

すぐに自分の発言を訂正する。

自分から切り出しておいて、なんて意気地が無い。だがエーリカは違った。

エーリカ「……付いて来て」

B-17の内部は薄暗く、エーリカの細い手を取って乗り込む。

バルクホルン「エーリカ、何故こんなことを」

彼女は答えず、しかし彼女の示す先にその答えはあった。

格納庫の中には見慣れない大型の爆弾がむき出していた。

……いや、それは爆弾ではなかった。

バルクホルン「これは……まさか核弾頭…!」

エーリカ「ウルスラの作った世界初の核兵器。実験は出来てないけど構造的には何の問題ないよ」

バルクホルン「ペーネミュンデ……あそこにはV-2ロケットの発射場が!」

エーリカ「そう。連合軍の都市のどれかが、この核弾頭を乗せたV-2ロケットで地上から抹消される」

エーリカ「この戦争の決着をつけるために、ね」

バルクホルン「馬鹿な! 行き過ぎた力はネウロイと同じだと、何故気付かない!」

バルクホルン「人類同士が破滅し合うというのか」

エーリカ「ウルスラが作らなくても、いつか発明されてるよ…きっと」

エーリカ「核を最初に人類に向けて使った者は……悪魔に魂を売ったと言われるだろうね」

永久に。エーリカはか細い声で付け加えた。

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