勇者「」
J('-`)し「」
勇者「……何やってんの母さん」
J('-`)し「いや、アンタこそ……」
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勇者「俺は見ての通り……女神様の信託を受け勇者になって……」
勇者「国王に依頼されて……魔王を倒しに来た」
J('-`)し「そうかい。アンタが勇者かい…」
J('-`)し「近所の子に苛められてずーっと泣いてたアンタが、ねぇ……」
勇者「む、昔のことはいいだろ。それよりも母さんだよ」
勇者「なんで魔王の部屋にいるの?」
J('-`)し「……勇者、アンタが家を出たのっていつだったっけ?」
勇者「……10年前かな」
勇者「母さんを一人残していくのは不安だったけど……俺には王都で立派な騎士になるっていう夢があったからね」
J('-`)し「そうか……もうそんな前なのねぇ」
J('-`)し「あの人と、出会ったのも……」
勇者「」
勇者「えっと、その、あの人って?」
J('-`)し「勇者、あんたのトーチャンはアンタが産まれる前に死んじゃったことは知ってるわよね?」
勇者「え、うん」
J('-`)し「そのときは随分と泣いたもんさ……ずっと二人でいようねって約束したのに、ぽっくり逝っちまうんだからさ…」
J('-`)し「それでもね、勇者。あなたがいてくれたから、私はなんとか生きてこれたの」
J('-`)し「その勇者がいなくなった……アンタが決めたことだし、私もアンタに依存してばっかりじゃいられないと思って何も言わなかったけど」
J('-`)し「悲しかったよ。寂しかったよ。1人の夜が怖くて、ずっと震えてた」
勇者「…………」
J('-`)し「そんなとき、私たちの村に魔物が襲ってきやがったのさ」
勇者「えっ!?」
J('-`)し「私らみたいな辺境の村には兵隊さんなんかいやしない。いるのは老いぼればかり。武器にいたっては鋤や鍬くらいのものしかない」
J('-`)し「地獄絵図だった。家は燃やされ、畑は荒らされ、女も子供も見境なく虐殺されたよ」
勇者「そ、そんな……俺たちの村がそんなことになってたなんて……」
J('-`)し「カーチャンはその光景を見て、ある一つの感情が芽生えた」
J('-`)し「そしてその感情が、新しい生きる原動力となったのさ」
勇者「!!」
勇者「まさか……母さん!」
J('-`)し「美しい」
勇者「は?」
J('-`)し「人が死にゆく姿。人が死に抗う姿。抗いきれなくして絶望していく姿」
J('-`)し「これほどまでに、何かを美しいと感じたことはなかったよ」
J('-`)し「正直痺れた」
J('-`)し「その戦慄が。その衝動が。冷めきったカーチャンの心を燃え上がらせた」
J('-`)し「そしてカーチャンに新しい人生の目標がうまれた」
J('-`)し「命が奪われる瞬間をこの目で見続けること」
J('-`)し「それがカーチャンの生きがいであり、存在意義になっていた」
勇者「」
勇者「……待ってくれ母さん」
勇者「冗談だよな?冗談を言って久々に会った息子とコミュニケーションをとろうとしてくれてるだけだよな?」
J('-`)し「こんな趣味の悪い冗談をカーチャンがいうと思うかい」
勇者「で、でも………!!」
勇者「……まさか、数年前に起きた王都の大火災は……」
J('-`)し「カーチャンだよ」
勇者「西の国のとある街が原因不明の大洪水で壊滅したのは……」
J('-`)し「カーチャンだよ」
勇者「魔界がなんか想像以上に荒れていたのは……!」
J('-`)し「カーチャンだよ」
J('-`)し「とりあえず破壊するための魔法と技術はだいたい身につけた」
J('-`)し「人を殺すといろいろめんどうなことになりそうだったからまずは魔物たちを沢山殺すことにした」
J('-`)し「三日もすれば森一つ分の魔物を狩ることができた」
勇者「数年前、急に魔界との停戦協定が解かれた理由はそれか……!」
J('-`)し「さすがに魔物ばかり狩ってるのも飽きたから、たまには火をつけたり水攻めにしたり雷を落としたりして街を襲ったりもした」
J('-`)し「やっぱり人間の方がいい声で鳴いてくれるねぇ」
J('-`)し「王都に火を放ったときの貴族どもの慌てっぷりったらなかったよ」
勇者「あの火災で俺右腕失ってんだけど…」
J('-`)し「西の国の街を水攻めしたときもよかったねぇ」
J('-`)し「水につかりながら、じっくりと酸素が奪われていき……すぐには死ねず、ずぅーっと苦しむ人の顔」
J('-`)し「もう一度見たいねぇ。今度は東の国でやってみようかしら」
勇者「……あの洪水のせいで未だに微妙に下半身不随なんだぞ俺!?」
J('-`)し「あらかた殺し尽くして」
J('-`)し「魔界もすっかり寂しくなって」
J('-`)し「カーチャンは酷い餓えに襲われた」
J('-`)し「もっと強いやつと戦いたい」
J('-`)し「戦ってそいつの命を奪いたい」
J('-`)し「敗北の屈辱を味合わせたい」
勇者「ひ、ひぃっ……」
J('-`)し「気づいたら」
J('-`)し「魔王倒してた」
勇者「………ちなみにそれは」
J('-`)し「そうねぇ、8年くらい前かしら」
勇者「2年!!」
J('-`)し「さすがに魔王は強かった。魔力は桁違いだし、体格も腕力も経験の差も全て私を上回っていた」
J('-`)し「実を言うと、私は1度魔王に負けている」
勇者「………?」
J('-`)し「ただ、魔王は人も魔物も見境なく殺すという私に、それは興味か、親近感か……利用価値を見出したらしい」
J('-`)し「私に稽古をつけてくれた」
J('-`)し「私を、もっと強くするために」
勇者「『あの人』って………」
J('-`)し「そう。魔王。私が生涯で2度目に愛した男……」
J('-`)し「1ヶ月の稽古のあと」
J('-`)し「私は魔王に決闘を申し込んだ」
J('-`)し「勝つつもりはなかった」
J('-`)し「自分はこの1ヶ月でどこまで強くなったのだろう、という、軽くテストを受ける感覚でしかなかった」
J('-`)し「魔王もそこは理解してたようだ」
J('-`)し「とりあえず私は実験的に、最初の一撃に全てのエネルギーをこめた」
J('-`)し「全エネルギーをもってして、この人にいくらまで通用するのだろうと」
J('-`)し「結果は最高だった」
J('-`)し「魔王は私の一撃で跡形もなく吹き飛んだ」
勇者「……………」
J('-`)し「それを理解するのに結構な時間がかかった」
J('-`)し「だって、あの魔王だ」
J('-`)し「私を唯一上回ることのできた魔王」
J('-`)し「そして私が誰よりも愛し、尊敬し、この人についていきたいと願った魔物」
J('-`)し「そんな人が……こうもあっさりと沈むものかと」
J('-`)し「でも、魔王が死んだという事実は、覆しようもないほどに私の目に焼き付けられた」
J('-`)し「そのとき、私はまたあの喪失感に襲われた」
J('-`)し「なにより私が一番悔やんだのは」
J('-`)し「魔王の死の瞬間。あまりにも唐突すぎるそれを、私は実感することができなかった」
J('-`)し「やっと、見つけたのに」
J('-`)し「それなのに、こんなにすぐに失われてしまうなんて」
J('-`)し「私は初めて、命の儚さを知った」
勇者「…………そして、母さんは」
J('-`)し「しばらくは何もする気が起きなかったよ」
J('-`)し「歯向かってくるものを殺して」
J('-`)し「殺して」
J('-`)し「殺す」
J('-`)し「それだけのなんの面白みもない日々」
J('-`)し「魔王を殺した私は新しい魔王として崇められることになったけれど」
J('-`)し「私はそんなものになる気はなかった」
J('-`)し「だけど、魔王の部屋だけは……あの人と過ごした部屋だけは。どうしても離れることが出来なかった」
J('-`)し「私は史上初の人間の魔王として君臨することとなった」
J('-`)し「魔王になっても私の生活は変わらなかった」
J('-`)し「むしろ、魔王となることで歯向かってくる魔物が減ったぶん、ますますつまらない日々を過ごすことになった」
J('-`)し「せめて地位は最大限活かしてやろうと。手下に魔王を蘇らせる方法がないか調べさせたけれど」
J('-`)し「人間の書物を漁ってもそんな方法は見つからなかったらしい」
J('-`)し「腹が立ったのでその手下は殺した」
J('-`)し「殺しても苛立ちは収まらなかった」
J('-`)し「いっそ、魔界を滅ぼしてやろうか――――――」
J('-`)し「そんなときだった」
勇者「……?」
J('-`)し「前の魔王が起こした人間との戦争はまだ続いていた」
J('-`)し「なぜかここ最近の魔界は魔物の数が激減しているらしく、魔界軍は苦戦を強いられ、ついに人間の軍が魔王城に攻め込んできた」
勇者「……初めて魔王城に攻め込んだ部隊」
勇者「………オドアケル先輩の……!!」
J('-`)し「魔王城はまたたくまに征服された」
J('-`)し「魔物は一匹残らず殺され、仕掛けた罠もすべて解除された」
J('-`)し「震えた」
J('-`)し「世の中には、まだこんな強いやつが残っていたのかと」
J('-`)し「私は正面から彼らを迎え撃った」
J('-`)し「正々堂々、真正面から」
J('-`)し「彼らはそんな私に怯むことなく、抜群のチームワークで私を追い詰めた」
J('-`)し「本当に危なかった」
J('-`)し「爆滅魔法を使うのがあと一瞬遅れてたら私はこの世にいなかったかもしれない」
勇者「………え?」
勇者「爆滅魔法って………!」
勇者「周囲にいる物体すべてを塵も残さず消し飛ばすっていう……伝説の……?」
J('-`)し「最初から爆滅魔法を使って一掃することもできたんだけど」
J('-`)し「それじゃあ、つまらないじゃない?」
勇者「お、オドアケル、先輩……!」
勇者「そんな……」
J('-`)し「うん、そいつらを殺したときかな」
J('-`)し「私が今まで見てきた『死の瞬間』の中で、一番痺れたもの」
J('-`)し「誰ひとり犠牲を出さず、私をあと一歩のところまで追い詰めて」
J('-`)し「勝利を確信した表情を見せて」
J('-`)し「次の瞬間」
J('-`)し「死の恐怖にそれを歪ませた」
J('-`)し「今でもくっきりと覚えてる」
J('-`)し「あの興奮をもう一度味わいたい」
J('-`)し「魔王に代わる、新たな生きがいを見つけた」
勇者「"母……さん"………」
勇者「……違う。あんたは俺の"母さん"じゃない」
勇者「……"魔王"ですらない」
勇者「お前は………"悪魔"だ………!!」
J('-`)し「憧れの先輩が殺されたと分かった途端急に態度が変わったね」
J('-`)し「言っとくけど先に攻めて来たのそっちだからね?」
J('-`)し「カーチャンは売られた喧嘩を買っただけだよ」
J('-`)し「それの何が悪いっていうんだい?」
勇者「黙れッ!!貴様に"母さん"を名乗る資格はないッ!!」
J('-`)し「他称がコロコロ変わるねぇ」
勇者「母さんの皮を被った悪魔め!貴様は俺が倒す!!それが先輩を……そして"母さん"を死なせてしまった俺の贖罪だ!」
J('-`)し「……いい目だ」
J('-`)し「その目を絶望に歪ませたい」
J('-`)し「それを見るために……それだけのために、女神を現世へおびき寄せたんだから」
勇者「………!?」
J('-`)し「魔王を蘇らせる方法を調べる過程で、いろんな知識ができた」
J('-`)し「人間界と魔界……その外側に、神界という世界があるらしいね」
勇者「……有名な話だ」
J('-`)し「神界に住まう神様が、私たち人間や魔物を作ったーなんて神話もあるけれど、それは想像にしか過ぎなくて、実際神界というものは謎に包まれているらしいじゃないか」
勇者「………そうだな」
J('-`)し「だけどね。蘇生魔法について調べるうちカーチャンはその神界の秘密というものの片鱗を知ることが出来た」
勇者「………!?」
J('-`)し「……女神はこの世界に幾度となく降臨している」
J('-`)し「大きな戦争が起きた時」
J('-`)し「大災害が起きた時」
J('-`)し「地上が無法と化した時」
J('-`)し「決まって人間界の存続が危うくなったときだ」
勇者「何が……言いたい……」
J('-`)し「さらに文献を漁ると、こう書かれてある」
『人間を滅ぼしかねないほどの驚異が人間を襲ったとき、女神が降臨し、勇者となる資格を持つものに加護を与える』
J('-`)し「残念ながら、神とどんぱちやる方法は見つからなかったがね」
J('-`)し「それでも、この話を見てみろ」
J('-`)し「つまり……『私が人間の驚異となれば、女神の加護を受けたチートキャラが私に挑みに会いに来てくれる』」
J('-`)し「こんな心躍る話が、他にあるか?」
勇者「………じゃあ、お前が、人間を襲ったのは」
J('-`)し「全てはこの時のためだよ、勇者」
J('-`)し「お前が私に会いに来てくれるのを、ずっと待っていた」
J('-`)し「まさか自分の息子だとは思いもしなかったがね……」
勇者「……ふっざ、けんなっ!!」
J('-`)し「おっと」パシッ
勇者「そんなもののために……そんなもののためにっ……!今までどれだけの人が苦しんできたと思ってるんだっ!!」
勇者「人の命を奪う瞬間がみたいだと……?人の命を消耗品のように……!」
勇者「あの火災で、どれだけの人が死んだか……!あの洪水で、どれだけの人が苦しんだか………!」
勇者「お前が意味もなく襲わせた街で、どれだけの人が、どれだけの人がっ……!」
J('-`)し「……っ!!さ、さすがは女神の加護をうけた勇者だ!!今までの奴らとは段違いじゃないか………!!」
J('-`)し「面白い!!もっと怒れ!!その怒気を力に変えろ!!その全てを、私にぶつけるがいい!!」
勇者「ッ…………!!」
勇者(なん、だよ………)
勇者(まったく、心に響いてねぇ……のか?)
J('-`)し「よそ見をするな」ドォッ!!!!
勇者「がァッ!!??」ドガッ!!
J('-`)し「この瞬間。この瞬間のために、カーチャンは今まで生きてきたんだよ」
J('-`)し「勇者も死ぬ気で戦って欲しい」
勇者(実の、息子を……)
勇者(サンドバッグとしか、見てねぇ、ってのか………)
勇者(………"母さん"………)
J('-`)し「はぁ………」
ドガッ バギッ グギャッ
勇者「ぐ、ぁぁぁぉぁぁぁぁぁ!!」
J('-`)し「ほら。戦わないとしぬよ」
J('-`)し「私を殺さないと、もっとたくさんの人が死ぬよ」
J('-`)し「さっさと私を殺しに来い。ふぬけてんじゃないよ。それでも魔王の息子?」
勇者「………お、れは」
勇者(幼少期に言われたことを思い出す)
勇者(いつまでも泣いてんじゃないの。それでもパパの息子?)
勇者(パパはね、決して泣かなかったぞ〜)
勇者(辛い時も、笑ってた)
勇者(それはもう、かっこよくてね)
勇者「………………俺は」
J('-`)し「ん?」
勇者「俺は……お前の息子なんかじゃねぇええええええええええええっっっ!!
」ドギャギャギャギャギャギャギャ!!!!
J('-`)し「が、ァ、ぁぁぁぁっ!!??」
勇者「ハァ………ハァ………」
J('-`)し「…………か、は……」
勇者「……"魔王"」ドガァッ
J('-`)し「ぐふ!」
勇者「教えてやるよ」ガインッ
J('-`)し「げはっ!」
勇者「『死の瞬間』ってのがさ……」ズドン
J('-`)し「ぼっ」
勇者「どういうものなのかを」グイグイグイグイ
J('-`)し「ぎ、は、い、いだい……いだ、いだい……ゃ、ゃめ。し、じぬ」
勇者「……そういえばお前、爆滅魔法ってのを使えるんだったな」
勇者「………喉を潰せば、詠唱はできないよな」グチャッ
J('-`)し「ぃ、ぃぃぃぃ〜〜〜ッ」
J('-`)し「ぁ………が………ぁ……」
勇者「なぁ……」
J('-`)し「」ガクガク
勇者「怖いだろう?」
J('-`)し「」コクコク
勇者「苦しいだろう?」
J('-`)し「」コクコク
勇者「助けて欲しいか?」
J('-`)し「」コクコクコクコク
勇者「そうか……なら」
J('-`)し「ひ………ぉね、が………」
勇者「死ね」ドスッ!!!!
J('-`)し「」
勇者「…………」
勇者「………は」
勇者「…………はは」
勇者「やったぞ………」
勇者「母さん……オドアケル先輩」
勇者「やった、やりました」
勇者「俺は………魔王を倒した!!」
勇者「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
時は流れ………
少女「………よし、今度の人は結構お金持ってたね」
少女「これでしばらくはお金には困らないかなぁ」
少女「スリ業もだいぶ板についてきたけど…」
少女「いつまでやっていけるのかな……」ザシュ!!!
少女「…………え?」ドクドク
少女「な、なに、ご、かはっ……」
??「……悪いことしてる子、見ぃつけた」
??「やっぱり、悪人の絶望にゆがむ顔はたまらないなぁ」
??「魔物はほとんど駆逐したし、あとはこういう腐った人間を残さず消せば」
??「善人しかいない、理想郷が出来上がる……」
??「ふふふふふ………」
??「ははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
終わりです
なおこのssの教訓はカエルの子はカエルです
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