雪歩「花になる煙になる」 (12)

「読むだけ無駄ではない」と申し上げたことはありません。

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 春香ちゃんが煙になって薄く煙突から空へと昇っていきます。

 千早ちゃんは空を両手で四角く区切って煙の流れを見ていました。

 そんな千早ちゃんの瞳はなんだか青みがかっていました。

 それから千早ちゃんは事務所に来なくなりました。みんなでマンションに行くのですが、千早ちゃんはインターホンをいくら鳴らしてもでできてはくれません。

 ある日、千早ちゃんは伊織ちゃんに「お金を貸して欲しいの」と頼んだと聞きました。

 春香ちゃんを蘇生する研究をしたい、と言っていたそうです。

 これらは全て後で判ったことでしたが、千早ちゃんの研究は万年筆であったり、豆腐屋の数の変遷であったりと多岐に渡りました。ある日の千早ちゃんは花になる研究に着手しました。

 「花になれば香りとなって漂い、香りは思い出を想起させ、天国では花を贈り合うことで会話をする。花と知れる花は花と知れぬ花より数えられぬほどある」

 そして全てが徒労に終わると千早ちゃんは眠りました。 眠ったあと数十年間花になりました。誰も見たことのない咲くはずのない花になりました。

 花が枯れた後、またこの世界に戻ってきて、今度は歌になりました。今でもたまにそっと私の耳にその歌が流れ込んできています。それは「静寂」という名前の歌でした。

 あるいは、人と人との間で沈黙が起こったら千早ちゃんが歌っているのだと思えばいいです。幸せな、悲しい、辛い、いろいろな沈黙があるけれど、沈黙には静寂がつきもので、千早ちゃんはその人と人の間を縫って静寂を歌っているのです。

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