まゆ「夜は、忙しい」 (26)

モバマスSS初投稿です。

とある曲を元にして書きました。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458920604

『私達の、欠点?!』

仕事と仕事の合間、ほんの少しだけでも事務所に顔を出して欲しいと彼に頼まれたので、マネージャーさんの車を急がせて事務所についた時、ドアの向こう側から高低入り混じった、一斉の声が聞こえた。

思わずびくりと体が硬直し、しばらくドアをノックするのをためらってしまう。

すると次に聞こえてきたのは、今も愛しい彼の声。

「ああ。みんなは自分の長所を伸ばす事で、ここまで成長してきた。もちろんこれからもだ。だが同時に、自分の短所を知る事も大きな成長に繋がると俺は考えるんだ」

こっそりとドアを開けて、隙間から事務所の様子を覗いてみれば、熱弁をふるうあの人の姿。

彼の熱意に押されてか、最初は乗り気ではなさそうだった他のみんなも、段々と真剣な表情をして耳をすませる。

しんと静まり返り、あの人の声だけが響く事務所の中、不意にキィとドアが軋んだ。

「っ」

「ん、ああ。まゆか。忙しい中わざわざすまなかったな」

「い、いえ……」

そわそわと後ろ髪をいじりながら、駆け足で立って並んでいるみんなの中に紛れ込む。

そうしつつも、彼の全身が見える位置は譲らない。少し誰かを押してしまうような形になるが、ぐいと体をねじ込んだ。

あ、書き溜めアリです。遅かったですけど、地の文あります。

私が列の中に入って行ったのを確認すると、あの人はわざとらしく二、三回咳払いをして再び語り始めた。

曰く、欠点を客観視する事の重要性。曰く、欠点を長所に変化させる事で増す魅力等。

限られた時間の中、何度も鏡の前で練習したのであろう理路整然としながらも力強い言葉は、私がスカウトされた時の事を思い出させる。

キミは素敵だ、魅力的だ、なんてモデル時代に何度も言われて辟易としていた所に、突然彼は現れて。

「君は素敵な色をしている。情熱的な赤色だ」

だなんて、歯の浮くようなセリフを私の手を取って、真顔で言いだしたんですから。

その時でした。私は自分の中に走った稲妻のような感情に、気づいてしまったのです。「ああ、この人しかいない」って。

今思えばあれは、当時私が好きだった少女漫画で、主人公がヒロインを口説く時に使っていたセリフでしたね。心に響いて当然です。

そのままの勢いで私は、あれよあれよとモデルをやめ、気づけば大手プロダクションの今をときめく売れっ子アイドルの一人です。人生とはわからないものですね。

「そんなワケで、各自、自分で思いつく自分の欠点を書いてきて欲しい。内容が内容だけに強制はしないが、協力してくれると提案した俺としては嬉しい」

彼がそう締めくくると、私の周りの人達は散り散りに去って行った。

ある人は、仕事があるからとそそくさと事務所から出ていき、ある人は、せっかく集まったのだからとオフのアイドルを誘って街へ出かける話をしている。

当然、彼の周りに集まる人たちもいて、私もその一人に他ならなかった。

「プロデューサーさん」

「ああ、そういう事で……あれ、まゆ。時間は大丈夫なのか?」

「はい……その前に一つ、確認したい事があって……」

「なんだ?」

「自分の欠点を纏めて……それを、プロデューサーさんに提出するんですよね……?」

「そうだな。そんで俺から見て、その通りだと思ったところや、そうじゃないと思ったところにコメントを書いて返す。なんか先生みたいだな」

「それは……どれだけ書いても、ですかぁ?」

私の言っている意味がわからないというように、彼は首をかしげた。

だがすぐに、「当たり前だろ」と私に笑いかけて、他のアイドルの相手を始めてしまった。

「その言葉……忘れないでくださいね」

私のそんな呟きは、彼の耳に入ったかは知らないが、大多数の喧噪の中に消えていった。

次の仕事現場では、少し表情が硬いと注意された。

その次のテレビ番組では、上手く喋れなくて、何回かNGをもらってしまった。

移動中の車の中でも、マネージャーさんから体調が悪いの?と心配されてしまった。

「いえ、大丈夫です。少し、考え事をしていて」

そんな言葉で誤魔化し誤魔化し、わざと手を抜いたのがバレないように控えめに笑いかけて。

それでもまだ心配そうに、自宅まで送ると言いだしたマネージャーさんを無理やり帰らせて。

歩いて自宅に帰るとすぐに、大学ノートを鞄から引っ張り出した。

「佐久間まゆの、欠点……と……」

ノートの表紙に赤いペンで書き記し、まだ何も描かれていない真っ白なページを開いた。

開いたページの左上から、ボールペンで、汚していくように今日のミスを文章にして空白を塗りつぶしていく。

後でプロデューサーさんがコメントを残しやすいように、一行書いたら一行空白にして。

不意に、ボールペンが滲んで文の途中に染みのように黒い円を描く。それはさながら、私が吐きだした血痕だ。

だけど、そんな自分をナイフで切り刻んでいくような感覚が病みつきになりそうで。

気がつけば、あっという間にページは私の血で染まっていた。

この自虐を快楽としてとらえてしまう事も、欠点として書き記しておこうかと、時計を見れば深夜1時を回っていた。

これ以上は明日の仕事に支障が出ると思い、その半面支障が出ればノートに書き記す事が増えそうだなんて考えたりして。

私はあくびを一つして、ノートを閉じた。

「プロデューサーさん。よろしくお願いします」

翌日。目の下にほんの少しの違和感を覚えながらも、事務所に向かった私はいの一番でノートをあの人に差し出した。

彼は驚いた表情をして、ノートを手に取るとペラペラとめくり始めた。

「一日でこんなに細かく纏めたのか?」

「はい。プロデューサーさんの頼みでしたから、まゆ、頑張ったんですよ」

「……これに関しては頑張らなくてもよかったんだが……とにかく、見てみるよ。できるだけ今日中に返す」

プロデューサーさんはそう頷いて私のノートを鞄にしまった。

「まゆちゃん、今日は大丈夫なの?」

仕事先に移動中、マネージャーさんがバックミラー越しに話しかけてくる。

たぶん、昨日私の調子が悪かったのをまだ心配してくれているのだろう。

「心配ありません。考え事、やっとまとまったので」

控えめに笑いかけて伝えると、マネージャーさんは安心した顔をしてアクセルを踏み込んだ。

そう、今日は失敗する必要はない。

だって、もう、書く事は決まっているんだから。

「まゆ!」

雑誌の写真撮影の仕事を終えると、あの人が駆け寄ってきた。

手には、今朝私が渡した大学ノート。

「とりあえず見てみて、気になった所には色々書いてみた。参考にしてくれ」

「ありがとうございます」

「他にも今日提出してきた子達はいたんだが、まゆは量が多くて時間がかかっちゃって。すまん」

困ったような顔で彼が差し出したノートを受け取った時、私は気づいてしまいました。

この人は、私だけのために、他の誰でもない、私と誰かじゃない、私だけに時間を割いてくれているのだと。

そう思った瞬間、邪な独占欲が頭の中を埋め尽くした。

「……明日も」

「ん?」

「もし、また明日も、その次の日も、またその次の日も」

受け取った大学ノートを、大事に抱きしめて、上目づかいで彼に尋ねてみる。

もしこれで彼に引かれたとしても、私は構わなかった。

「これを出したら……見て、くれますか? まだ、書けてない事も、たくさん、あると思うんです」

少しの沈黙の後、

「……わかった。まゆが欠点がなくなったと感じるまで、続けるよ」

「ありがとう……ございます……」

下を向いて、表情を見られないように泣きそうなフリをする一方で、

私の口は、三日月型に裂けていた。

家に帰って、手を洗う前に、うがいの前に、夕食の前に、ノートを急いで開く。

真面目に書いていた最初のページではなく、真ん中のあたりを開いてしまったせいで、今思えばどうでもいい文章が目に入ってきた。

だけど、そんなどうでもいい文章の下に、ところどころ赤いペンでコメントが入っていて。



今日は天気が悪かった。そのせいか、傘を持ってきていない事が異様に気になって、仕事に集中できなかった。ごめんなさい。

↑なら常に折りたたみ傘を持ち歩くようにしよう。それに、忘れてしまった時は俺を呼んでくれればいいんだぞ?

信号が黄色の時に、急いでいたので走って横断歩道を渡ってしまった。ごめんなさい。

↑交通事故に繋がるかもしれないし、危険だからしないで欲しい。まゆに怪我があったら俺はどうすればいいかわからない。

気まぐれにやってみた占いで悪い運勢が出たのが気になって、本当に転んで少し膝をすりむいてしまった。ごめんなさい。

↑運勢は当てにならないんだから、気にしないでいい。怪我、大丈夫か?

 
 

その前のページ、前の前のページにも、赤いペンでコメントが入っていて、

自分がナイフで抉った傷口を、彼が優しく看病してくれているような錯覚に陥る。

それがまた快感となって、そして私のために使ってくれた時間に比例して、汚い独占欲に変わっていく。

ああ、心地いい。

そうして私はまた、口から吐いた血で空白を染めていく。

親ゆずりの悪癖、事務所のアイドルとライブバトルをする事になった時、雰囲気が悪くなるのが嫌でこっそり手を抜いた事。

実は弱虫で、泣き虫で、ものぐさな事。

真っ黒をめくって、次の真っ白へ。

突然震えた携帯には目もくれず、がむしゃらに。

目の下の違和感が、大きくなった気がした。

「まゆさん!」

事務所に入って突然かけられた、少し怒ったような声に、体がびくりと反応してしまう。

声の主を探してみると、幸子ちゃんが腕を組んで立っていた。

「昨日、ボク、メールしたんですけど届いてませんでしたか?」

「えっと……ごめんなさい。見てなかったです」

スカートのポケットから携帯を取り出してみると、そこには「Eメール3件」の文字。

全て、二時間前後を空けて幸子ちゃんからのものだった。

「届いてました。ごめんなさい、幸子ちゃん。私、最近夜は忙しくて……」

「あ、いや、それならいいんです。ボ、ボクが開いてる時間が夜しかなかったっていうだけで……とにかく、一通でも返事をください!不安になりますから!」

ばつの悪そうな顔をして幸子ちゃんは事務所のソファに座ってノートを取り出しました。

遠目からじゃよく見えませんけれど、もしかしてあれは……

「おはよう、幸子、に……まゆ」

がちゃり、と音がしたので急いで横に飛び退くと、プロデューサーさんが入ってきました。

彼は私を見て……というより、私の持っている物と、幸子ちゃんが書いているものを見て、苦笑いを浮かべているようでした。

でも、約束、しましたよね?

「プロデューサーさん」

今日も、また。

「待ってます、ね」

表紙だけは真新しいノートを、私は彼に差し出した。

初めての作品だったので、色々稚拙な部分もあるかと思いますが、どうにかこうにか形にしました。

読んでくださった方はありがとうございました。

参考にしましたのは、倉橋ヨエコさんの「夜な夜な夜な」という曲です。

よろしければ聞いてみてください。

https://www.youtube.com/watch?v=FFFmTRdMItU

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年09月14日 (金) 00:39:46   ID: J_NZf-R7

むぅーとかいう女さっさとDM返せや。
何が今日時間あるから話せるよだ。全然返事来ねえじゃねえか。
死ねやクソ女

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