「え?カズマさんが風邪を?」
「うん。それで風邪が治るポーションとかある?」
女神の私の直感だけど、このウィズのお店にはお手軽に風邪を治すポーションが売ってあるような気がする。
「もちろんありますよ。えーと……確かここに……」
やっぱり!さすが私!これでカズマも私に頭を向けて眠れないわね!……あれ?頭じゃなくて顔だったかな?
「はい。アクア様」
「ありがとうウィズ!これでカズマも喜ぶわ。代金はおいくらかしら?」
私が財布の準備をすると、ウィズがニコッと微笑み。
「無料でいいですよ。アクア様とカズマさんにはいつもお世話になっていますし」
やっぱり日頃の行いがいいせいかしら?カズマに自慢しなきゃ。
「ありがとうウィズ!今度絶対にお礼に来るわ」
「いえいえ、そんな」
「じゃあ、私は帰るわね!」
「気を付けて欲しいのですが。そのポーションは確かに風邪は治るんです。でも、その代わりに他の病にかかってしまう……。あ、あれ?アクア様がいない!?」
私はカズマが喜ぶ姿を早く見たくて走って帰ることにした。
ウィズが何かを言っていた気がするけど、きっと私を応援しているのだと思う。
まったくあのヒキニートだったカズマが、ウィズやめぐみんあとダクネスに心配されるなんてね。
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* * *
「……くっ、なんということだ。仲間がこんなに酷い状態なのに守ってやれないなんて……これではクルセイダー失格だ!」
「ダクネス。あまり自分を責めないでください。風邪なんだから仕方のない事ですよ」
「ハァハァ」
今の『ハァハァ』はダクネスではなく、暖炉の前で寝ているカズマの声……。
カズマはすごくきついようで、たまにうめき声を上げている。
こんなカズマを----きつそうなカズマを見るのは初めてで、心配しかできない自分が嫌になる。
「うぅ……うぅ」
この状態を見たアクアは『私に任せて』とどっかに行ってしまった。
カズマがどうになるんじゃないか?と怖くて何もできなかった私。
何かをしようと行動したアクア。
何もできなかった私。
ふっ、私もまだまだですね。このパーティーの中では一番大人のつもりだったのに……。
「そ、それにしてもきつそうだな。で、できれば変わってやりたいのだが……ハァハァ」
この変態は。
もしかしたら、アクア以上に空気が読めない存在なのかもしれない。
「それ以上カズマに近寄ると、可愛い服を着せて公衆の面前に晒しますよ?」
「ち、違う!近寄るのは私に風邪をうつすためだ!うつせば治るというだろう?大丈夫。私はクルセイダーだ。風邪ごときに屈したりしない」
涎を垂らしながら、このド変態は何を言っているのだろう?
「薬を買ってきたわよーーーー!」
「アクア!」
アクアがポーションを持ってきた。
この色は見たことがあり、昔私が作った病気を治すポーションにそっくりだ。
これでカズマの風邪が治る!
私は心の底からアクアを尊敬した----
「さあ、カズマ飲みなさい。これで風邪が治るわよ」
「あ、アクア?」
今まで眠っていたカズマがアクアに気付いたようだ。
アクアが優しく微笑み、カズマに薬を飲ませる。
最初は少しずつしか飲めなかったが、だんだん飲む力が強くなっていき、八分目くらいまで飲み干した。
「ご、ごほっごほっ」
私とダクネスがカズマの横で背中をさすってやる。
さっきまで真っ赤だったカズマの顔色が少しずつ正常になっていく。
どうやらポーションが効いたようで、私もホッとする。
「カズマ。すごい勢いで飲んでたわね……。このポーションそんなに美味しいのかしら?」
「あ、アクア!?なにをやってるのですか!?」
「ぷはーっ。なにこれ?結構いけるんですけど」
やっぱり、アクアはアクアだった。さっきの私の尊敬の眼差しを返してほしい。
「カズマ。風邪は大丈夫?大丈夫ならこの私を信仰しなさい。私がポーションを買ってきてあげたんだからね!」
「……!」
カズマが驚いた顔でアクアを見る。
きっとアクアが、自分の為にポーションを買って来てくれた事に驚いたのだろう。
「カズマ。驚いたと思いますが、アクアが言ったことは本当ですよ」
「ああ、今回ばかりはアクアの行動力を見習うべきと自分を恥じたぞ」
「ええ。あなたは本当に恥じるべきですよ。ダクネス」
「……ん」
アクアがいつもどおり胸を張りながら陽気な声で。
「カズマ。お礼なら高級なお酒でいいわよ……って、きゃっ」
アクアの小さな悲鳴で、ダクネスを見ていた私はアクアを見た。
カズマが真剣な顔でアクアの肩をつかんでいた。
「え?なに?ちょっとカズマ?痛いんですけど!」
そして、カズマは力を緩めずに----
「アクア。好きだ!!俺と結婚してくれ!!!」
----すごい真剣な顔で求婚したのだった。
「へ?え?」
アクアが変な声を出す。
私とダクネスは時間が止まる。
カズマは真剣な顔でアクアを見つめる。
「あっ……うん」
アクアはその求婚にYESしてしまった。
* * *
「どうやら、恋の病にかかってしまったようですね!」
ですね!と目をキラキラさせるウィズ。
この人、楽しそう……。私も他人事なら楽しいのかもしれない。
「カズマさんは幸運値が高く、ハーレムに憧れていたので、アクア様が飲んだ薬が惚れ薬になってしまったのでしょう。
逆にアクア様は幸運値が低く、カズマさんとそういう関係になりたくない!という事で、カズマさんが飲んだ薬が惚れ薬になったんだと思います!」
わ、わかりにくい。えーと、状況を整理しよう。
つまりカズマにとっては理想な状況。
アクアにとっては最悪な状況。
そして私にとっては面白くない状況。
「……で、その薬の効果はいつになったら消えるんだ?」
私も気になっていた質問をダクネスがする。
「えーと、数時間も続かないと聞いています。うーん、でもアクア様にこういうポーションが効くなんて……」
数時間か……その数時間のうちに間違いがないようにしないと……
「さあ!アクア!結婚式をあげるぞ!」
「う、うん」
間違いが起きないように……
この後、私とダクネスとウィズでカズマを取り押さえようとしたのだが、
アクアの支援魔法で強化されたカズマ+ステータスカンストチートアクアに為す術もなく敗北し、余計な事ができないように拘束されてしまった。
* * *
どうしよう。カズマが真剣な顔をしている。
どうしよう。カズマが真剣な目で見てくる。
そんなカズマが私と一緒になりたいと言ってくる。
どうしよう------
ここは教会。知り合いの冒険者で席は一杯になっている。
先ほどウィズから説明があったんだけど、どうやら私とカズマは恋の病にかかっているらしい。
恋……。女神には縁がない単語。
一応、漫画とか読んで知識としては知っていたけど……。今のこの気持ちが恋なんだ……。
私の目の前にはカズマがいる。
カズマは真剣な顔で私を見ている。
そんなカズマの事を想うと胸がキュッとなって切なくなる。
でも、カズマが私を見てくれると嬉しくて……嬉しくて……。もう訳がわからない。
これが恋なんだね。カズマ----
私は自然と優しく微笑んでいた。
* * *
ど、どうしよう。アクアが優しく微笑んでいる。
ど、どうしよう。アクアが凄く綺麗で頭がどうにかなりそうだ。
ど、どうしよう。教会にみんながいて…………みんな真剣に俺達を見ている。
ふぅ……
----惚れ薬の効果切れちゃったぜ!
とか言える空気じゃねーーーーー!!!!
関係ない人間を大量に呼んで結婚式をやろう!という作戦を考えたのは俺だ!
こうやって外堀を埋めておけば、例え薬の効果が消えたとしても、結婚式をあげるしかないだろうという俺の考え……
酷すぎるよ……俺。
めぐみんやダクネス達はいつもこんな俺と戦ってたのか……すごいな。
というか、アクアもアクアだ!
女神がそんな薬でホイホイ人を好きになるなよ!
そんな俺の心境も知らずにアクアは俺の事を真剣に見ている。
真剣なアクアを見て、俺は心の中で問いかける。
お前本当にそれでいいのか?
相手は俺だぞ?いつもケンカばかり……バカばっかりやってた俺だぞ?
というか、俺はアクア結婚相手なんか嫌だ。
何かあったらすぐに「カズマさーん。助けてー」って泣きついてくるお前の相手なんか……。
……まぁ、でもあの日々がずっと続くと思うと……ゾッとするけど退屈はしないのかもな。
「では指輪を交換してください」
アークプリーストの牧師さんの言葉に従い、俺とアクアは指輪を交換する。
アクアの手が透き通るように綺麗で……、ああ!俺なんでアクアにドキドキしてるんだよ!
アクアも頬を染めて、照れくさそうにするな!可愛いだろうが!!
「では、誓いのキスを」
------へ?
キスだとーーーーーー!?
しかも、この人数の前で!?
無理無理無理無理無理無理無理無理!!!
童貞の俺にはハードル高すぎる!なんで初キスが露出キスなんだよ!
お、おい!どうするアクア!?
俺無理だぞ。こんなみんなの前で初キスなんて!
すると俺の動揺なんか知った事かと、アクアが目を閉じる。
こ、こいつ……
アクアが目を閉じたまま、そのまま微動だにしない。
俺にすべてを任せているようだった。
そんな姿を見て俺は……アクアが涙を少し流した事に気付いた。
あぁ……。お前がこんなに覚悟しているのに俺は大バカだ。
いつもいつもお前にバカって言っているのに、本当は俺がバカだった。
お前の覚悟に気付いてやれず、グダグダ悩んでいた俺はバカだ。
----今度は俺が覚悟する番だ!!
さあ!見てろよアクア!俺の覚悟を!!!
「あーーーーー!惚れ薬の効果が切れた!!!!!!」
俺は精一杯大声で叫んで結婚式をぶち壊してやった。
「あっ、私も切れちゃったみたい」
「お前もかアクア!」
「あはははははは!」
俺とアクアは大笑いした。
それを見ていた他の連中は『なんだ所詮ヘタレのカスマかよ』『ちげーよ。ゲスマさんは結婚せずにハーレム目指してるんだよ』など好き勝手言っている。
「おい!今言った奴は顔覚えたからな!こらぁぁ!!!!!」
「ちょ、ちょっと、本気にすんなよ。冗談だよ」
「あはははは」
アクアが隣で笑っている。
やっぱり、惜しい事したかな……。
---だが、もし、本当にこんな日が来るときは、ちゃんと結婚式やろうなアクア。
* * *
あの結婚式の翌日、俺は暖炉の前でゆっくりしていた。
なんか昨日はいろいろあって疲れた。
主にめぐみんやダクネスのご機嫌取りのせいだ。
あいつら……風邪を引いたら、絶対に今回のポーション飲ませてやるから覚悟しておけよ。
俺がそんな事を考えていると、アクアが背後から声をかけてきた。
「ねえ、昨日の事は本当に惚れ薬のせいだったのよね?」
「ああ、そうだよ。じゃないとお前と結婚なんかするわけないだろ。というか、仮にも女神なんだから、あんな薬が効くなんて……」
「ふーん。へぇー」
アクアが、にへらと笑顔というか笑顔を通り越して、だらしない顔をして、俺の話を聞いていた。なんだこいつ?
「ん?どうかしたのか?」
「えーとね。カズマとは付き合いが長いから、嘘をついたら何となくわかっちゃうのよねーって思っただけー」
「っ!?」
心を読まれたのか!?とびっくりしていると、アクアは俺の反応を見て満足したのか「えへへへ」と幸せそうな笑顔を浮かべて、自分の部屋に戻って行った。
あぁ……ったく、あいつを可愛いと思う日がくるなんて……いや昨日も可愛かったなぁ。
でも、まぁ、もしアクアとそういう事になる日が来たとしても……。
それはそれで楽しい毎日になりそうだな。
暖炉の前でぼーっと、アクアとの結婚生活を考えていた俺は------
----今晩の夢はアクアと初々しい新婚さんプレイにしようと、密かに決意して屋敷を飛び出した。
* * *
私は自室に戻った。
未だにドキドキしてる。ううん。トクントクンしてる。
ドキドキしたり、苦しかったり、切なかったり、そして……今はすごく心地よい。
私はこの気持ちを教えてくれたカズマの事を想いながら----
----この素晴らしい恋に祝福をした!
終わり
これにて終わりになります。
また機会があればよろしくお願いします!
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