角谷杏「軟式戦車道やろっか」西住みほ「軟式……!?」 (122)

生徒会室

優花里「あの、お話しとはなんでしょうか」

桃「急に呼び出してすまない。お前たちにこれを見せておきたくてな」ペラッ

麻子「チラシか」

桃「近日、大洗にて催されるイベントだ」

柚子「全国大会優勝校の地元では今、空前の戦車ブームだから、当然イベントも戦車に偏っているんだけど……」

優花里「それは素晴らしいです!! 私たちも是非、協力させてください!!」

華「できる限りのことでしたら、なんでもいたします」

沙織「これでまたモテ期がきちゃうなぁ、どーしよー」

華「来たこと、ありました?」

みほ「会長。この軟式戦車道大会って……?」

杏「お、やっぱりそこに気が付いた? 流石は西住ちゃんだねぇ」

優花里「軟式ってどういうことですか?」

麻子「戦車道に軟式なんてあったのか」

杏「いや、ないよ。これは大洗女子学園オリジナルだからね」

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みほ「オリジナル?」

桃「かつてはメジャースポーツであった戦車道も、今ではマイナーに分類されてしまっている。だが、大洗の優勝により、各地で盛り上がりを見せ始めた」

杏「私たちとしては来年度以降の入学者確保のためにも、それに乗っからないわけにはいかない」

優花里「それは理解できますが」

桃「そこで更に大洗の認知度を高めるために、会長が考えたイベントがこの『軟式戦車道』だ」

沙織「どんなことやるんですか?」

杏「まぁまぁ、口で説明するよりは実際に見てもらったほうが早いから。小山ぁ」

柚子「は、はい」

杏「あれに乗ってきて」

柚子「わ、私がですか?」

杏「うん。河嶋でもいいけど」

桃「いや、私は……」

柚子「桃ちゃん、おねがい」

桃「柚子が会長に言われたのだから、柚子が行くべきだ」

みほ(なんだか嫌がってるみたいだけど……?)

杏「河嶋も小山も嫌なのか」

桃「いえ、決してそういうわけでは!!」

杏「分かった。私が行く。ちょっとまっててねぇ」

みほ「は、はい」

柚子「会長……」

華「一体、何に乗るのでしょうか」

沙織「戦車じゃない?」

麻子「話の流れからいえば、軟式用戦車なんだろう」

優花里「それなら生徒会のみなさんで向かわれたほうがいいですし、私たちも屋外へ出て待ったほうがよくないですか?」

沙織「屋内でも乗り回せる戦車なんじゃない?」

優花里「カルロ・ベローチェでも流石に屋内では走りにくいと思うのですが」

杏「――おまたせぇ」ブゥゥン

みほ「あ、会長――えぇぇ!?」

優花里「おぉぉ!! ミニサイズのⅣ号ですぅ!! それ、どこに売っているのですか!?」

麻子「子ども用電動自動車ぐらいの大きさだな」

杏「よっと。これぐらいの大きさなら、私も一人で乗れるんだけどねぇ」

華「とっても愛らしいⅣ号ですわ」

沙織「よくできてるー」

優花里「ちゃんと砲塔も回りますよ、これぇ!!」

みほ「なんとなく、分かりましたけど……」

桃「お前の考えている通りだ。幼児では戦車に触れることはできても、実際乗ることは難しい。そこでせんしゃ倶楽部の協力のもと、このような玩具を作った」

柚子「小さな子どもも楽しめる戦車道。それが軟式戦車道なの」

優花里「あのあの!! ナヒュール中戦車はないのですか!?」

杏「とりあえず試作品で作ったのはこれだけだから、ごめんね」

優花里「そうですかぁ……」

麻子「この戦車に乗って当日はどんなことをするんだ」

桃「無論、戦車道講座と試合を行う」

華「ここを押すと砲弾が発射されるのでしょうか?」ポチッ

バシュッ

沙織「いたっ!? ちょっと華!! 危ないでしょ!! 飛んできたのゴムボールだけど!!」

みほ「これで試合、ですか」

杏「んで、西住ちゃんたちには当日の戦車道講座で講師をやってもらうから」

みほ「えぇぇ!?」

優花里「おまかせください!!」

みほ「あ、あんまり人前に出るのは……」

桃「今更何を言っている。今年の高校戦車道では西住が顔になっているというのに」

みほ「そ、そうかもしれないですけど」

杏「二時間程度の講義でいいし、教えることも歴史とかルールとかでいいし。あんまり深く考えなくてもオッケーだよ」

みほ「は、はぁ」

麻子「試合をすると言ったが、この戦車は一台しかないんだろう。これから増やすつもりなのか」

柚子「参加者がはっきりしないと作っても無駄になっちゃうから」

優花里「参加者ならここにいるではありませんか」

桃「戦車道そのものを盛り上げるためのイベントでもあるんだぞ。参加者が大洗だけでどうする」

華「それはどういうことでしょう」

柚子「まだ返事はもらってないけど、色々な学校に話をしているところなの」

みほ「色々って……」

杏「そこはまぁ、西住ちゃんは気にしなくてもいいよ。私たちに任せといて」

みほ「あ、いや、もしかして、黒森み――」

杏「んじゃ、そういうわけだから、よろしくぅ」

桃「イベントの開催はその広告に書かれている通り、一ヶ月後だ。どのような講義にするのかは、あんこうチームに任せる」

柚子「無理を言ってごめんね」

優花里「いえ、戦車の良さを広めるために尽力するのは、望むところです!!」

沙織「美人講師、沙織。ちょっと魅力的な女になっちゃうかも」

華「そうですか?」

みほ「あの、会長、だから、その、黒森み――」

杏「おっし、河嶋ぁ、小山ぁ。いくぞ」

桃「はっ」

柚子「忙しくなりますね」

みほ「……」

沙織「あとでお姉さんに訊けばいいじゃない」

戦車倉庫

桂利奈「おー!! これすごーい!!」ブゥゥン

あや「いいなぁー!! 桂利奈ちゃん、私ものりたーい!!」

ナカジマ「なるほど、ああいう戦車も需要ありそう」

ツチヤ「あれでドリフトできるかな」

ホシノ「モーターの出力をあげればなんとかなるかも」

左衛門佐「あれこそ豆戦車か」

おりょう「楽しそうぜよ」

エルヴィン「職人の魂が垣間見える作品だ。フェルディナント・ポルシェような開発者に違いない」

おりょう「職人といえば宮田栄助ぜよ」

左衛門佐「五郎入道正宗」

カエサル「どう考えてもアルキメデスだろ」

エルヴィン・おりょう・左衛門佐「「それだぁ!!!」」

優花里「早速注目の的ですよ、あのミニ戦車!!」

みほ「そ、そうだね」

典子「バレーボールが発射できれば尚よかった」

あけび「でもレシーブ練習はできます!!」

忍「アターック!!」ポヒュッ

あけび「レシーブ!!!」ポヨンッ

典子「いける!!」

妙子「練習になってないと思いますけど」

優希「やわらかぁいボールしかでないのかなぁ?」

梓「小さい子が主に乗るならゴムじゃないと危ないし」

あゆみ「M3バージョンも作ってくれないかなぁ」

優希「6人であのサイズだと少し窮屈かもぉ」

桂利奈「じゃあ、もっとおっきくしよー!」

梓「別に全員で乗らなくても」

みどり子「こういう大きなイベントではいつも風紀が乱れがちになるわね」

モヨ子「風紀強化月間にしないと」

希美「さっそく風紀ポスター作らないと」

みほ「うーん……」

沙織「どーしたの、みぽりん」

みほ「うん。お姉ちゃんもこのイベントの話を聞いてるのかなって」

沙織「あの会長のことだし、いってるんじゃない?」

みほ「だよね……」

華「何か不安があるのですか?」

みほ「今の時期の黒森峰は、引継ぎで忙しいはずだから……」

沙織「引き継ぎって?」

みほ「次の隊長を決める校内戦とか個人能力テストとか、色々あって」

優花里「常勝黒森峰らしくストイックなんですね」

みほ「だから、今こういうイベントに誘うことは迷惑になるんじゃないかなって」

麻子「大洗での開催だが、戦車道のイベントだからな。黒森峰のような名門の選手に頼むとなると個人だけが動くわけにもいかないか」

優花里「学園艦全体でバックアップすることも考えられますからね」

みほ「それに現隊長としての仕事も多いから……」

華「そうでしたか……」

沙織「みぽりんの不安って、それ?」

みほ「うん。ただでさえ忙しいのに、無理なスケジュール調整なんてしなきゃいいんだけど……」

優花里「そんなに大変なのですか」

みほ「毎日、テストの内容を決めて、そのテスト結果をレポートにまとめて、選手の能力を数値化させて、それから――」

優花里「や、やはり、名門は一味違いますね」

麻子「徹夜になる日も出てくるな」

華「では、今から連絡をとってみるのは?」

みほ「そう思って、電話を握りしめてたんだけど……」

沙織「今まさに忙しいかもしれないから、電話もかけにくい、と」

みほ「うん……」

沙織「みぽりんらしいね」

麻子「メールは?」

みほ「もう送ったけど、返信がまだなくて」

優花里「困りましたね。あとは会長に直接きいてみるほかないかと」

みほ「そ、そうだね。ちょっと聞いてくる!」

生徒会室

みほ「あの、失礼します」

桃「どうした、西住。まだ補習の時間だろう」

みほ「今、休憩にしたんです」

桃「優勝校だからこそ、来年も恥ずかしくない試合をしなければならない我々にとって、休憩などと言う時間はない」

柚子「桃ちゃん、来年度はもう卒業なのに……。もしかして、成績悪すぎて留年しちゃうの?」

桃「しない!! ちゃんと卒業できる!!!」

みほ「ごめんなさい。でも、どうしても確認したいことがあって」

桃「何をだ」

みほ「黒森峰に連絡はもう……」

柚子「うん。でも、会長は断られたって」

みほ「え……」

桃「かなり多忙なようでな。参加することは難しいという回答をもらった」

みほ「そ、そうだったんですか……」

柚子「やっぱり、西住まほさんにも参加してほしかった?」

みほ「いえ、逆です。お姉ちゃんにとって大事な時期だし、無理しないか心配で」

桃「そういうことだったか」

みほ「ありがとうございました。それでは戻ります。あれ、そういえば、会長は?」

柚子「今、プラウダ高校と交渉中みたい」

みほ「カチューシャさんが参加してくれたら嬉しいですね」

桃「サンダースと聖グロリアーナは快諾してくれた。アンツィオは渋々といったところだったな」

みほ「もうそんなに……」

柚子「会長の行動力は並じゃないからね」

桃「あの人の行動力がなければ、今頃学園艦は……」

みほ「その他の学校にも声をかけるんですか?」

桃「分からない。プラウダ高校の参加が決定すれば十分すぎるほどにイベントとしては成立するからな」

みほ「わかりました。それではまた後ほど」

桃「西住」

みほ「はい?」

桃「あとは頼んだ」

みほ「……」

桃「な、なんだ。まだ補習があるだろう。それを頼むと言っている」

みほ「はい」

桃「はぁ……」

柚子「桃ちゃん、練習に参加したい?」

桃「別に。私たちはもう出席する必要はないからな」

柚子「桃ちゃん、嘘つくと鼻の穴が広がるよね」

桃「広がってないぃ!!!」

杏「いやぁ、よかった、よかった。カチューシャも嫌々ながら参加してくれるってさ」

桃「そうですか。では、他校への連絡は控えることにします」

杏「一応、声をかけておいて。来てくれるならそれに越したことはないしな」

桃「はっ」

柚子「成功、させましょうね」

杏「ああ。生徒会としての最後の大仕事だ。失敗な許されない」

柚子「もちろんです、会長」

アンツィオ高校

カルパッチョ「軟式戦車道……」

ペパロニ「それなんっすか?」

アンチョビ「大洗女子学園が考案した、オリジナルの戦車道らしい」

カルパッチョ「それに参加するのですか」

アンチョビ「どうしても力を貸してほしいと言ってきたからな。だが、ただでは引き受けない」

ペパロニ「お、さっすが、姉さん。あくどいっすねぇ」

アンチョビ「こちらにもそれなりに見返りがなければならないだろ」

カルパッチョ「P40の修理、まだ手を付けられていませんもんね」

アンチョビ「そうじゃない!! いや、それもあるけど、それだけのことで参加を決めたりはしない!!」

ペパロニ「他にもなんか目的が?」

アンチョビ「勿論だ。私を誰だと思っている」キリッ

ペパロニ「かっこいいっす、ねえさん!!」

カルパッチョ「たかちゃんにあえるかなぁ」

アンチョビ「さぁ、準備にとりかかれー!!! ありったけの食材を用意しろー!!!」

サンダース大付属高校

ケイ「ふぅん。なかなか、エンジョイできそうね。このレクリエーション」

アリサ「まるで子どもの玩具みたいな戦車ね」

ナオミ「砲弾は飛ぶのか」

ケイ「榴弾みたいに飛ぶんじゃない?」

アリサ「この日は確か午前中に補習がありましたが」

ケイ「うん。アリサはそれに出席しておいて、大洗へは私が行くから」

アリサ「私も行きます」

ケイ「アリサはナオミの指導をうけながら補習。次、一回戦負けなんてしたら、アリサの立場、ナッシングになっちゃうよ」

アリサ「うっ……」

ナオミ「いいのですか」

ケイ「ごめんねー。私だけバケーションで」

ナオミ「いえ。ゆっくりしてきてください」

ケイ「サンキュー、ナオミ。アリサ、しっかりね」

アリサ「イエス、マム」

聖グロリアーナ女学院

オレンジペコ「ミニ戦車にチャーチルはあるのでしょうか」

ダージリン「さぁ、でも、用意してもらわなければならない。わたくしが参加するのですから」ズズッ

オレンジペコ「そうですか」

ダージリン「こんな格言を知ってる?」

オレンジペコ「はい?」

ダージリン「人は敗れたゲームから教訓を学び取るものである。私は勝ったゲームからはまだ何も教えられたことはない」

オレンジペコ「まさか、また大洗のみなさんに勝つつもりですか」

ダージリン「対大洗戦では未だ無敗。それは試合の形を変えても変わりはしないわ」

オレンジペコ「無敗を保つために参加すると」

ダージリン「軟式戦車道でも、わたくしに泥をつけることはできないことを証明しなければならない」

オレンジペコ「応援、いきますね」

ダージリン「よろしくね」ズズッ

オレンジペコ(ダージリン様、よほど大洗のみなさんが好きなんですね。私もですけど)

ダージリン「楽しみだわ。ふふっ」

プラウダ高校

ノンナ「こちらが先ほど届きました」ペラッ

カチューシャ「なによ、これ」

ノンナ「戦車を選べるようです」

カチューシャ「ふぅん。ま、カチューシャが乗る戦車はKV-2しかありえないけど」

ノンナ「分かりました。では発注しておきます」

カチューシャ「あれよ。他の連中よりも車高を50センチぐらい高くするように言っておいて」

ノンナ「車高を上げるとカチューシャの戦車だけ異様に大きくなると思いますよ」

カチューシャ「それがいいの!!」

ノンナ「分かりました。伝えておきます」

カチューシャ「ありがと、ノンナっ」

ノンナ「いえ。同志カチューシャの願いですから」

カチューシャ「ふふ。軟式戦車道だろうが、私を見下ろすことなんてできないのよ。今度こそ、全員しょくせいしてやるんだから」

カチューシャ「あーっはっはっはっは」

ノンナ「もしもし。プラウダ高校なのですが、はい、お世話になります。ミニ戦車の発注をしたいのですが、車高を上げることはできますか? できない。そうですか。いえ、なんでもありません」

訂正

>>25
カチューシャ「ふふ。軟式戦車道だろうが、私を見下ろすことなんてできないのよ。今度こそ、全員しょくせいしてやるんだから」

カチューシャ「ふふ。軟式戦車道だろうが、カチューシャを見下ろすことなんてできないのよ。今度こそ、全員しょくせいしてやるんだから」

黒森峰女学園

まほ「明日はこのテストを行わなくてはならないか。しまった。計画表の作成が滞っていたな。先にそちらを片付けておくか」

エリカ「隊長。私に手伝えることはありますか」

まほ「これは現隊長の務めだ。エリカは明日以降の試験に備えていればいい」

エリカ「ですが……」

まほ「その気遣いだけで十分よ」

エリカ「……」

エリカ(大洗からの誘い、やはり断って正解だった。この状態ではとても大洗へ行く余裕はないわね)

まほ「ん? どうした、エリカ? まだ何かあるの」

エリカ「いえ、何も。では、私はこれで」

まほ「ああ、ゆっくり休んでくれ」

エリカ「はい。お先に失礼します」

エリカ(これで良かったのよ。隊長にとって、今が最も忙しい時期なんだから)

まほ「あとは今日のレポートを書き上げれば終了か」

エリカ(大会が終わっても黒森峰は大洗みたいに遊んではいられないのよ)

まほ「終わった……。流石に疲れるな……」

まほ(もうこんな時間か。戻って寝よう……)

まほ「む……。みほからメール……?」ピッ


突然ごめんね。
大洗のイベントの話は聞いてるかな
もし誘われていても無理しなくていいからね
今が黒森峰にとって大事な時期なのは知ってるから
また連絡するね


まほ「大洗のイベント……?」ピッ

まほ「……」

みほ『もしもし、お姉ちゃん?』

まほ「すまない。今、メールを確認した」

みほ『いいの、いいの。忙しいんだよね』

まほ「そうだな。たった今、レポートが書きあがったばかりだ」

みほ『こんな時間まで……』

まほ「ところで、大洗のイベントとはなんだ。私は何も聞いていない」

みほ『え? そうなの? 断ったって聞いたけど』

まほ「断った? いや、そもそもそのような誘いすら受けていない」

みほ『そ、そうなんだ。だったら、あれは間違いだったのかな……』

まほ「いつだ」

みほ『え?』

まほ「そのイベントはいつだ」

みほ『さ、参加するの!?』

まほ「ダメなの?」

みほ『そ、そういうことじゃなくて、忙しいんだよね……?』

まほ「忙しいな。試験内容、校内戦の段取り、レポートの作成、そして、大洗のイベント。やることは山ほどある」

みほ『お姉ちゃん、無理はしないで。ただでさえ夜遅くまで作業があるのに』

まほ「無理かどうかはみほが決めることじゃない。私が決めることだ」

みほ『お、お姉ちゃん……』

まほ「教えて。イベントの日取りはいつ?」

みほ『一ヶ月後、だけど……』

まほ「この日か……。分かった」カキカキ

みほ『ホントにいいの?』

まほ「構わない。一日ならなんとでもなる」

みほ『そ、そう……』

まほ「しかし、一度黒森峰側が断っているというのが気になる。誰が受け答えをしたのか」

みほ『もしかしたら、誰かがお姉ちゃんのことを気遣って先に断ったのかも』

まほ「余計な気遣いだな。私がこの程度のことで音を上げると思っているのだろうか」

みほ『私と同じで、お姉ちゃんに無理をさせたくなかっただけだと思うけど』

まほ「その気持ちはありがたいが……。ところで明日にでもイベントの詳細を送ってほしい。内容ぐらいは知っておきたい」

みほ『うん、わかった。……ありがとう、お姉ちゃん』

まほ「どうしてお礼を言うの」

みほ『だって、大事な時期に時間を割いてくれるから』

まほ「大事なことに時間を割くのは当然のことよ」

みほ『あはは、また連絡するね』

まほ「ああ。待っている。おやすみ、みほ」

翌日 大洗女子学園

杏「西住ちゃんのお姉さんも参加するってさぁ」

柚子「本当ですか!?」

杏「だよね、西住ちゃんっ」

みほ「はい。昨日、連絡をもらいました」

桃「多忙につき、参加することはできないと言っていたのでは?」

杏「まぁ、本人が言ってたわけじゃないからなぁ」

柚子「誰が応対したんですか?」

杏「逸見ちゃんだよ」

みほ「あぁ……なるほど……」

桃「なにがなるほどなんだ?」

みほ「い、いえ、こちらの話です!!」

杏「なんにせよ、これで役者は揃ったな。これだけ名門から集まれば盛り上がること間違いなーし。ね、西住ちゃん」

みほ「はい、そう思います」

杏「用意する軟式用戦車もこれで決まったも同然だな。おーし、河嶋ぁ、リスト通りに発注しといてー」

桃「はい」

みほ「何輌ぐらい用意するんですか?」

杏「Ⅳ号、八九式、三突、M3、三式の5輌だよー」

みほ「38tかヘッツァーはいいんですか?」

桃「我々生徒会は進行役に徹するつもりでいる」

みほ「え……」

柚子「西住さんたちがメインで動いてほしいの」

杏「なんていっても高校戦車道の顔だからねぇ」

みほ「で、でも……」

杏「メンドーな事務なんかはぜぇんぶ、小山と河嶋に任せて、西住ちゃんはみんなの前でキラキラ輝いててよ。それだけで大洗に人が集まるしな」

みほ「キラキラ……?」

柚子「会長は何をするんですか?」

杏「干し芋食べてからかんがえるー」

桃「では、お茶を用意します」

みほ(いつもの会長なら率先して参加するはずなのに、どうしてだろう……?)

倉庫

華「確かに裏方に徹する会長はあまり記憶にありませんね」

沙織「なんでも参加して優勝を掻っ攫っていくイメージしかないよね」

麻子「言い出した本人が何もしないのはおかしい、というのが会長の信条だと聞いたことがある」

優花里「泥んこプロレス大会のときは会長ひとりが最後までリングの上に立っていましたからね」

みほ「そ、そうだったんだ」

沙織「あ、わかったー。きっと会長のことだからサプライズ参戦をしちゃうんだよ」

華「それはありえそうですわ」

みほ「……」

麻子「何か気になるのか」

みほ「うん、少し。……優花里さん?」

優花里「なんでしょう」

みほ「調べてほしいことがあるんだけど、いいかな」

優花里「はい!! なんでも仰ってください!!」

みほ「あのね――」

桃「全員、揃っているか!」

柚子「みんなー、注目してくださーい」

ねこにゃー「なんだろう」

ももがー「新しい練習でもするなり?」

桃「各員、そこのミニ戦車には触れたか」

あゆみ「たっぷり遊びましたー」

桂利奈「あれ楽しいし、可愛いです!!」

杏「それはよかった。こっちも作った甲斐がある」

カエサル「あの戦車、軟式用だと聞いたが」

桃「艦内にも既に貼り出されているが、一ヶ月後に大洗で大規模なイベントを開催する。そのときのメインとなる企画が軟式戦車道だ」

柚子「小学校低学年以下の子にも戦車道の良さを知ってもらうために会長が考えたの」

桃「その日は軟式戦車道の試合も執り行うことが決定している。軟式は5輌対5輌の殲滅戦を考えている」

典子「相手は誰ですか」

杏「正式に決まったわけじゃないけど、サンダース、聖グロ、プラウダ、アンツィオ、黒森峰から隊長が参加する」

梓「そ、そんな人たちと誰が試合をするんですか?」

桃「それをこの場で発表する」

柚子「まずは西住さん」

みほ「はい」

柚子「それから磯辺さん、エルヴィンさん、猫田さん、澤さんの計五名で試合をしてほしいんだけど」

典子「はい!! 大洗バレー部代表として根性で戦います!!」

妙子「まだ復活してませんけど」

杏「軟式の試合に買ったら、バレー部復活させてあげてもいいよ」

忍「え……!?」

あけび「ほ、ほんとうですか!?」

杏「うんっ、ホント」

典子「うぉぉぉぉぉぉ!!! もえてきたぁ!!!!」

妙子「キャプテン!!! 今から軟式の特訓をしましょう!!!」

あけび「軟式用戦車に装甲の薄さとか火力の差とかはありませんから!!」

忍「根性と気合次第で勝てます!!」

典子「やるぞー!!! バレー部、復活させてやるー!!!」

>>42
杏「軟式の試合に買ったら、バレー部復活させてあげてもいいよ」

杏「軟式の試合に勝ったら、バレー部復活させてあげてもいいよ」

典子「バレー部、ファイトー!!!」

妙子・あけび・忍「「おぉぉ!!!」」

優花里「アヒルさんチーム、公式大会並に気合が入りましたね!!」

麻子「人数の問題はどうするつもりなんだ」

あや「軟式でも重戦車キラーをねらっちゃおうよ」

優希「あぁ、それいいかもぉ」

梓「で、でも、あれって一人乗りだよね。一人で操縦して砲手まで務めるのって、大変そう」

優希「梓ならできるってぇ」

桂利奈「がんばれー!!」

あゆみ「梓ならできる!!」

梓「む、無責任な……」

紗希「……」チョンチョン

梓「紗希? どうしたの?」

紗希「交通安全のお守り、あげる」

梓「……ありがと」

エルヴィン「当日は単騎で死地へと乗り込むか。ふっ、悪くない。自分の人生においていい演出だとは思わないか」

左衛門佐「ここは一つ、カバさん戦術『秋でも大坂夏の陣』で行くか」

カエサル「なるほどな。七人の影武者を用意するのか」

おりょう「ダンボールで小さな戦車のハリボテを作るぜよ」

エルヴィン「それはオリジナルとして使っていい戦術なのか」

ももがー「まさかの大抜擢なり!!」

ぴよたん「ねこにゃー、アリクイさんの強さを大洗に轟かせるチャンスずら」

ねこにゃー「ボ、ボクにできるかはわからないけど、選ばれた以上、が、がんばらないと」

杏「磯辺ちゃんたちだけにご褒美もなんだから、勝利したら全員に豪華なプレゼントするよー」

ナカジマ「流石会長」

ホシノ「新しいパーツが欲しかったところだ」

スズキ「ここは自動車部の威信にかけて、ミニ戦車の整備をしないと」

桃「だが、負ければわかっているな」

沙織「へ? 負けると、何かあるんですか?」

みほ(訊くまでもないような気が……)

杏「負けたら選ばれた5人プラス同チーム全員であんこう踊りしてもらうよ。今回はテレビ中継もするし、みんなが踊ってる姿は全国に放送されるからそのつもりで」

沙織「同チーム全員って……」

カエサル「ま、負けたら私たちも観客の前で醜態をさらさなくてはいけないのか!?」

みほ「あはは……」

麻子「連帯責任なのは分かるが」

華「そこまで厳しい罰ゲームを何故?」

杏「そのほうがみんなもやる気でるかなーと思って」

典子「いやいやいや!! 初めから燃えてますから!!」

梓「せめて、せめて試合に参加する5人だけにしてください!!」

優花里「西住殿でなくても同チームから一人選出するのでもいいと思います!! 西住殿の代わり、不肖秋山優花里がカメラの前で踊ります!!!」

桃「既に決定していることだ。諦めろ」

沙織「勝手に生徒会が決めてるだけじゃない!! せめてもう少し話し合いをしよー!!」

麻子「横暴だ」

桃「勝てばいいんだ。それに、相手もこの罰ゲームを受けることになっているんだぞ」

みほ「え……!? ど、どういうことですか!?」

杏「参加を頼み込むときにちゃん説明しとかなきゃいけないからねぇ。負けたら罰ゲームがあるけど、いい?って」

桃「サンダース隊長、ケイ。アンツィオ隊長、安斎。プラウダ副隊長、ノンナ。聖グロリアーナ隊長、ダージリン。各人にそのルールを説明し、許諾してもらっている」

みほ「え……あ……」

杏「だから、こっちもその罰ゲームはやらないと、立つ瀬がないんだよね。悪いけど、がんばって」

あや「えぇぇぇ!? やだー!!」

優希「もうお嫁にいけないかもぉ」

桂利奈「なんで?」

桃「優勝校である我々がふぬけた試合だけは晒せない。この程度の緊張感はあって然るべきだと考えている」

エルヴィン「これほどまでに大洗が追い詰められたことがあるだろうか……」

カエサル「割とある」

沙織「み、みぽりん!! みぽりんだけがたよりだよぉ!!」

麻子「負けないで欲しい」

華「わたくしたちはみほさんを信じています」

優花里「西住殿!! いつでも、私が身代わりになりますから!!!」

みほ「あ、うん、ありがとう……」

ねこにゃー「あ、あの、練習とかはできないんですか?」

杏「今ある軟式用戦車がそこのⅣ号だけだからねぇ。手元に全部揃うのは早くても二週間後になるかなぁ」

典子「それまでまともに練習できないということですか!?」

桃「条件は相手も同じだ。安心しろ」

梓「できませんよぉ」

エルヴィン「せめてルールぐらいは知っておきたいところだ」

おりょう「ゴムボールが被弾したら白旗がでるぜよ?」

モヨ子「どこに損傷計測装置が……」

杏「小山、あれ」

柚子「はい。軟式戦車道ではこれをかぶりまーす」

みどり子「紙風船付きのヘルメット……」

優花里「もしかしてその紙風船を割られたら走行不能ということですか」

杏「うんっ」

麻子「もっと何かなかったのか」

桃「戦車に取り付けられている自動損害判定システムをこのような小さな機体には搭載できない。代替措置としては十分だろう」

沙織「十分かなぁ」

杏「まぁまぁ、搭乗者が被弾したら戦車は動けなくなるし、いいんじゃない?」

カエサル「搭乗者が被っているものに、あのゴムボールを当てることは可能なのか」

左衛門佐「ボールは放物線を描くように緩く発射されるから、狙えないことはないはず」

桃「一度、試しにやってみればいい。おい、西住」

みほ「は、はい」

桃「お前がⅣ号に乗れ。ヘルメットは秋山が」

優花里「私ですか!?」

柚子「はい、どうぞ」

優花里「は、はぁ。こんな感じでよろしいでしょうか」

桃「いいだろう。では、始めろ」

みほ「優花里さん……」

優花里「覚悟はできています。どこからでもどうぞ、西住殿!」

みほ「えいっ」ポシュッ

優花里「はぅ」パァン

ももがー「なんていうか……」

モヨ子「間抜け……」

桃「何を言っている!! これは軟式だ!! これが正しいんだ!!」

桂利奈「たのしそー!!」

あゆみ「こういう戦車道なら怖くないよね」

優希「迫力はないけどぉ」

あや「私もうちたーい」

みどり子「意外と好評ね」

華「対象年齢が低いのですから、これぐらいでいいのではないでしょうか。個人的には良いと思いますけど」

麻子「それを高校生がやるんだな」

沙織「歌とか体操とかじゃなくて、戦車のお姉さんになっちゃうよね。年下にモテるかもしれないけど、年下すぎるぅ」

カエサル「いつも思うが、武部さんはどこまでが本気なんだ」

麻子「常に本気だ」

みほ「優花里さん、大丈夫?」

優花里「はい、平気です。しかし、いきなりの実戦で命中とは、やはり西住殿はすごいであります!!」

忍「撃つときだけ実際の砲撃音とかつければ様になりそう」

妙子「それいいかも」

左衛門佐「では火縄銃の実音をつけよう」

カエサル「あえてここはバリスタで」

エルヴィン「砲撃音ならばキング・タイガーだ」

おりょう「ウィンチェスターもいいぜよ」

カエサル・左衛門佐・エルヴィン「「それだぁ!!」」

桃「却下だ」

カエサル「何故だ!! ウィンチェスター銃は中々カッコいい音を奏でるのに!!」

おりょう「レバーアクションが素敵ぜよ」

桃「実際の音を出してしまえば、子どもが泣いてしまう可能性もある。それだけは採用できない」

柚子「桃ちゃん、やさしい」

梓「河嶋先輩、ごめんなさい。まさか、そんな奥深い考えがあったなんて……」

優希「河嶋先輩、すてきぃ」

桃「ち、ちがう!! 会長が考えたことだ!! 私ではなく会長を褒めろ!!」

杏「ともかく、しばらくはこのⅣ号で射撃訓練でもしておいてよ。戦車が届かないと、実践的な練習はできないしな」

ねこにゃー「不安……」

エルヴィン「私たちに与えられた選択肢は多くない。その中でベストを尽くすしかないということか」

典子「根性でどうにかなればいいけど」

梓「と、とにかく練習しましょう!! 的に当てる練習ぐらいはしておかないと!!」

ねこにゃー「全国放送であんこう踊り、だもんね」

沙織「それだけはヤダー!!」

梓「でも、私たちには西住先輩がいますから!!」

カエサル「マルクス・クラウディウス・マルケルスのように隊長は大洗の剣だからな」

みほ「そ、そんなやめてください」

ナカジマ「戦車戦術が今まで通りってわけにはいかなさそう」

ホシノ「うん。軟式戦車は遅いし、ボールの飛距離もあまりないし」

優花里「全ての常識を覆すような戦術でなければならないということですか」

みほ(あとでお姉ちゃんに連絡しないと……。罰ゲームのことなんて、きっと知らないはず……)

ぴよたん「西住さん、もう色々と考えてるみたいずら。やっぱ頼もしい」

典子「練習あるのみだ!! そーれそれそれー!!!」ポシュポシュポシュ

あけび「レシーブ!!」

忍「アターック!!!」

妙子「きゃっ」パァン

典子「バレー部復活のときは近いぞー!!」

妙子「ちゃんと戦車で狙ってくれないと練習の意味ないですから!!」

エルヴィン「私たちも軟式戦車について研究しなければならない」

カエサル「軟式三突もやはり待ち伏せに適しているのだろうか」

桂利奈「M3も車高がちょっと高いのかな?」

梓「砲門が二つあれば、ボールを同時に二個まで発射できることになるけど、扱えるかどうかは微妙……」

みほ「……」ピッ

『はい、西住です』

みほ「あ、お姉ちゃん? あのね……」

『ただいま応答することができません。御用のかたは発信音のあとに伝言をどうぞ』

みほ(やっぱり、忙しいのかな……。メールで伝えよう)

黒森峰女学園

まほ「遅い!! 何をやっている!! それでは簡単に懐へ入られてしまうぞ!! 最初からやり直しだ!!」

「「はい!!」」

エリカ「隊長。少し休憩してください。あとの指揮は私が」

まほ「そういうわけにもいかない。黒森峰が弱くなったと言われるのだけは我慢できないからな」

エリカ「隊長……」

まほ「逸見エリカが率いる黒森峰こそ最強チーム。そう世間に言わせたい。それが今の私の目標よ」

エリカ(そこまで次代のことを想ってくれているなんて……やはり、隊長を越えることはできそうもありません……)

まほ「エリカ、聞きたいことがある」

エリカ「はい!! なんでしょうか、隊長!!」

まほ「大洗女子学園から何か誘いがなかった?」

エリカ「え?」

まほ「……」

エリカ「いえ、何も」

まほ「そうか」

エリカ「大洗がどうかしたのですか」

まほ「大洗で大規模な戦車道のイベントがあるらしい」

エリカ「そうなのですか」

エリカ(まさか大洗から直接隊長に連絡が……)

まほ「黒森峰もそのイベントに誘われたが既に断られたという情報を耳にした」

エリカ「それで……?」

まほ「何故、断ったのか理由を知りたい。黒森峰側に断る理由はなかったはず」

エリカ「そんなことはありません。居間はとても大事な時期です。とても遊んでいる余裕はないはずです」

まほ「……」

エリカ「現に隊長は毎日選手たちの監督だけでなく、細かいデータ処理や事務作業をこなしているではないですか」

エリカ「そんな最中に大洗まで出向くことはありません。イベントに参加できる時間があるなら、休息に使うべきだと私は思います」

まほ「だが、頼まれたことを簡単に断るのは戦車道精神に反する」

エリカ「正当な理由があれば、反するものではないと思います」

まほ「エリカ……。大洗からのイベント参加要請を断ったりしていない?」

エリカ「していません」

訂正

>>60
まほ「黒森峰もそのイベントに誘われたが既に断られたという情報を耳にした」

まほ「黒森峰もそのイベントに誘われたが既に断ったという情報を耳にした」


エリカ「そんなことはありません。居間はとても大事な時期です。とても遊んでいる余裕はないはずです」

エリカ「そんなことはありません。今はとても大事な時期です。とても遊んでいる余裕はないはずです」

大洗女子学園 倉庫

あゆみ「お風呂はいってこー」

あや「さんせー」

エルヴィン「我々も汗を流すか」

カエサル「サウナだな」

杏「おつかれー」

典子「お疲れさまでした!!」

桃「明日もいつもの練習に加え、軟式試合出場者は別メニューをこなすことになる。そのつもりでいろ」

梓「わかりました」

ねこにゃー「結構、ハードだにゃぁ」

みほ「猫田さん、辛かったら言ってね。個別メニュー程度なら、私が組み直すから」

ねこにゃー「西住さん……ありがとう……」

優花里「西住殿。これより秋山優花里、任務に向かいます」

みほ「ごめんね、優花里さん」

優花里「気にしないでください。では、行ってきますね」

沙織「ゆかりん、お風呂いいのかなぁ」

華「みほさんが気になっていることを調べに向かったのですね」

麻子「私たちも一緒に行けばよかったのに」

みほ「大勢で動くと怪しまれちゃうし、それにあそこなら優花里さんが出入りしてても誰も不思議に思わないはず」

沙織「けどさ、それって調べる必要あるの? 別にいいんじゃない?」

みほ「もし会長が――」

杏「あたしがなに?」

みほ「わっ!?」

杏「どうかしたぁ、西住ちゃん」

みほ「い、いえ、なんでもありませんから」

杏「んじゃ、ちょっと生徒会室に来てくれない? 勿論、お風呂のあとでいいから」

みほ「わかりました」

杏「よろしくぅ」

沙織「なんだろうね」

麻子「今度のイベントのことだろう」

生徒会室

柚子「継続高校のミカさんがカンテレ講座なら講師を務めてもいいといってるんだけど」

桃「却下だ。戦車道のイベントだと言っているだろう」

杏「折角なんだし、やってもらったら?」

桃「しかし、会長、戦車のことを聞きに来た者に民謡楽器について語るのはどうでしょうか?」

杏「楽しければなんでいいよー」

桃「いや、ですが……」

みほ「あのー」

杏「おっ。西住ちゃん、いらっしゃい。こっちきて、こっち」

みほ「はい。それで、なんでしょうか」

杏「今回のイベント。今期の生徒会にとって最後の大仕事になるわけだ」

みほ「は、はい」

杏「失敗だけはどうしても避けたいんだよねぇ。んで、成功させるためには西住ちゃん他、みんなの協力が必要になってくる」

みほ「何をもって成功なんですか?」

杏「勿論、みんなが楽しめたらだ」

みほ「みんなが……」

桃「この度のイベントは、大洗存続が決定してから急遽企画されたものなんだ」

柚子「会長がね、どうしてもやりたいって言って」

みほ「それはどうして」

桃「お前たちへの、せめてもの礼だ」

みほ「……」

杏「お礼なのにこうして頼み込んでるのも、おかしな話だけどね」

みほ「どうして、そんなことを今……?」

杏「純粋に楽しんで欲しいんだ。何も詮索しなくていい」

みほ「……!」

みほ(会長、私の考えに気づいて……)

杏「深く考えるのは、もう私たちだけで十分だから。西住ちゃんは、ゆっくりしてよ」

みほ「会長……」

杏「ありがと、西住ちゃん。ホントに感謝してる」

みほ「いえ……私は……」

廊下

みほ「……」

沙織「みぽりーん、話は終わったー?」

みほ「あ、沙織さん。待っててくれたの?」

沙織「麻子も華も外で待ってるよ。一緒にかえろっ」

みほ「ありがとう」

沙織「で、なんの話だったの? あんこう踊りをどこで踊るかとか?」

みほ「ううん。もっと、大切なこと」

沙織「大切って?」

ピリリリ……

沙織「お、電話」

みほ「優花里さんだ。はい、もしもし」

優花里『西住殿、秋山優花里、任務を遂行したであります』

みほ「どうだったかな?」

優花里『はい。せんしゃ倶楽部の店長から聞いたとことによれば、今のところ10輌分の発注書が届いているそうです。追加の予定は聞いていないと言っていました』

>>68
優花里『はい。せんしゃ倶楽部の店長から聞いたとことによれば、今のところ10輌分の発注書が届いているそうです。追加の予定は聞いていないと言っていました』

優花里『はい。せんしゃ倶楽部の店長から聞いたところによれば、今のところ10輌分の発注書が届いているそうです。追加の予定は聞いていないと言っていました』

みほ「やっぱり、そうなんだ」

優花里『西住殿が予想していた通り、大洗5輌、オールスター5輌の軟式戦車道で間違いないかと』

みほ「サプライズもきっとないよね。追加が予定されていないなら」

優花里『はい。そう思います』

みほ「ありがとう、優花里さん。もう少しだけ、お店にいることはできるかな?」

優花里『はい! ここになら開店から閉店まで居続けても苦にはなりません!!』

みほ「すぐ連絡するね」

優花里『お待ちしています!!』

沙織「どうするの?」

みほ「電話、してみる」

沙織「誰に? お姉さん?」

みほ「ううん。エリ……逸見さんに」

沙織「どうして?」

みほ「次のイベント、どうしても成功させたい」

沙織「どゆこと?」

黒森峰女学園

まほ「何をしている!! それでは相手の的になるだけだ!!」

エリカ(隊長がいつにも増して厳しいのは、私たちのため……。こんなに幸せなことは――)

ピリリリ……ピリリリ……

エリカ「ん? 誰よ、こんなとき……に……!?」

まほ「どうした?」

エリカ「い、いえ。なんでもありません」

エリカ(転校していって以来、連絡なんてなかったのに……何故、今頃……?)

エリカ(まさか、私が隊長に黙ってイベント参加を断ったことに気が付いて……? いいえ、いくらあの子でもそこまで賢しいはずは……)

まほ「相手の一手二手先を読み、行動しろ!!」

エリカ(ある。それぐらいのことは感づいていてもおかしくはないわ)

ピリリ……ピリリ……

エリカ(ここで着信拒否をしてしまうのは簡単だけど、もし隊長に直接連絡がいってしまうほうが恐ろしい……)

エリカ「は、はい、もしもし?」

みほ『あ、えっと、今、大丈夫ですか?』

エリカ「用件はなによ」

みほ『あの、大洗で今度あるイベントのこと、なんだけど……』

エリカ「そう、やっぱりね……」

みほ『え?』

エリカ「なにが望みなの?」

みほ『その、よかったら、逸見さんにも参加してほしいと思って……」

エリカ「私に……? それは隊長の代わりにってこと?」

みほ『そういうわけじゃないけど』

エリカ「下手な脅しはしないでちょうだい。断れないのは分かっているくせに」

みほ『あ、参加してくれるの?』

エリカ「隊長には秘密よ」

みほ『どうして?』

エリカ「いちいち分かり切っていることを訊かないで!!」

みほ『ご、ごめんなさい』

エリカ「こっちは今、忙しいの。もう切るわよ!」ピッ

エリカ「もう、あの子ったら……」

まほ「……」

エリカ「た、隊長……!?」ビクッ

まほ「誰と話していたの?」

エリカ「あ、その、昔の友人から、突然電話があって」

まほ「そう。それにしては声を荒げていたようだけど」

エリカ「あまり、良い別れ方をしなかったので……つい……」

まほ「そう。大丈夫?」

エリカ「はい。気遣いは不要です」

まほ「そうか」

エリカ(大洗のイベントの日、もし補習になるならどう理由をつけて休もう……。風邪でどうにかなるかしら……)

まほ「ん……?」

まほ(みほからメールか……。罰ゲーム……あんこう踊り……。なるほど……)

まほ(この程度のことで私は逃げ出さない。受けて立つ、みほ)

エリカ(隊長が不敵に笑っている……。何か新しい訓練でも思いついたに違いない)

大洗女子学園 倉庫

みほ「え? いいんですか? はい、はい、よろしくお願いします」

みほ「よかったぁ……」

麻子「次はどこと交渉したんだ」

華「サンダースの方みたいですけど」

沙織「どんどん参加者増えてない?」

麻子「人徳だな」

華「みほさんには人を惹きつける魅力がありますからね」

沙織「男を惹きつける魅力では、負けないもん」

麻子「どういうことだ」

みほ「はぁー……。これでいいかな。あとは優花里さんに……」ピッ

優花里『はい!! 秋山優花里です!!』

みほ「待たせてごめんね、優花里さん。これからいう軟式戦車を追加注文したいんだけど」

優花里『はい、問題ありませんよ。今、目の前に店長がいるので、すぐに注文できますよ』

みほ「まずは――」

優花里『了解でぇす!! それでは後ほど!!』

みほ「うん」

沙織「結局、何輌になりそうなの?」

みほ「両チーム10輌にしようかなって」

華「ということは、もう5人選抜しなければなりませんね」

麻子「誰にするのかは、聞くまでもないか」

みほ「ごめんね、みんな。こんな風にしかできなくて」

沙織「気にしないで。いつもいつも、私たちが驚かされてるんだもん。一度ぐらい、驚かす側になるのもいいよね」

華「秘密の共有は、わたくしワクワクします」

麻子「ところで大洗側はいいとして、向こうの新しい参加者には罰ゲーム等のルール説明はしているのか」

みほ「勿論。でも、逸見さんだけは説明する前に切られちゃって」

華「逸見さんは会長から説明を一度、受けているんですよね」

みほ「うん。だから、そのときに一通りのルールは聞いているとは思うんだけど」

沙織「それならオッケーだね。いやぁ、まさか黒森峰から隊長と副隊長が参加してくれるなんて、軟式戦車道はバカにできないよね」

みほ(エリカさん、罰ゲームのこと知ってるよね……)

サンダース大付属高校

アリサ「正式に応援要請があった以上、私も大洗のイベントには参加します」

ケイ「でもねぇ」

アリサ「もう戦車の注文もしました」

ケイ「そんなに行きたいの?」

アリサ「ダメですか?」

ケイ「オーケー、オーケー。そこまで言うなら一緒に行きましょ」

アリサ「ありがとうございます!!」

ケイ「ただし、その日の補習時間をどこかにあてるようにね」

アリサ「イエス、マム!!」

アリサ「ふふふ……やった……やったわ……」

ケイ「アリサ?」

アリサ「な、なんでしょう」

ケイ「参加するからにはエンジョイするわよ」

アリサ「もちろんです!」

アンツィオ高校

カルパッチョ「私が参加でいいんですか?」

アンチョビ「ああ。追加選手はカルパッチョに任命する」

カルパッチョ「ありがとうございます」

ペパロニ「姉さん、あたしは?」

アンチョビ「お前には更に重要な役目があるだろう」

ペパロニ「それは……?」

アンチョビ「トーゼン、料理部隊長だ」

ペパロニ「部隊長……!!」

アンチョビ「お前の腕次第で我がアンツィオの名を全国に轟かせることができるかもしれないんだ」

ペパロニ「ま、まじっすか……」

アンチョビ「大役だ。実に重責だ。アンツィオの名をその背中と双肩にかけなくてはならないからな。しかし、私は信じている。お前ならできると」

ペパロニ「ふっ。あたしを誰だと思ってるっすか。あたしは副隊長。姉さんの右腕っすよ。それぐらいの重責、軽いっすよ」

アンチョビ「よく言った。それでこそだ」

カルパッチョ(罰ゲームあるんだ……どんな踊りなのかたかちゃんに聞いておかないと……)

聖グロリアーナ女学院

オレンジペコ「私も参加するのですか?」

ダージリン「そうよ」

オレンジペコ「罰ゲームがあるみたいですね」

ダージリン「そのようね」

オレンジペコ「罰ゲームは大洗伝統のダンスなのですね」

ダージリン「困ったものね」

オレンジペコ「私、参加は事態したいのでアッサム様に……」

ダージリン「あら、わたくしは既に追加選手はダージリンにしてしまったの。ごめんあそばせ」

オレンジペコ「どうしてそんな勝手に……!!」

ダージリン「わたくしが貴方と共に戦いたかったからよ」キリッ

オレンジペコ「ダージリン様……」

ダージリン「わたくしと貴方はいつも一緒だった。わたくしの隣は、貴方しか考えられないの」

オレンジペコ「分かりました……そこまでダージリン様が仰るなら……」

ダージリン「ふふ、ありがとう。黙って参加を決めたお詫びに紅茶を淹れてあげるわ」

>>79
オレンジペコ「私、参加は事態したいのでアッサム様に……」

オレンジペコ「私、参加は辞退したいのでアッサム様に……」

プラウダ高校

ノンナ「カチューシャ。例の戦車が届きましたよ」

カチューシャ「ほんと? どこ?」

ノンナ「こちらです」

カチューシャ「へー。ふーん。まあまあね。小さくなっているのが気に食わないけど」

ノンナ「これはそういうものですから我慢してください」

カチューシャ「それでこれはもう乗れるの?」

ノンナ「はい。乗れますよ」

カチューシャ「ちょっと試乗しておこうかしら。やっぱりいきなり乗ると本領を発揮できないこともあるもの。まぁ、カチューシャはそんなことないけど」

ノンナ「……」

カチューシャ「よっと。うーん。やっぱりダメね。景色が低いし、KV-2に乗ってる感じがまるでないわ」ブゥゥン

ノンナ「……」

カチューシャ「こんなので喜ぶのは小学生までよ!!」キャッキャッ

カチューシャ「で、どこで主砲を発射するの? これかしら。あ、こっちはなに? おー、なるほどねー」キャッキャッ

ノンナ(今宵の日記は分厚くなりそうです)

大洗女子学園 倉庫

桃「軟式試合に参加する者、集合!!」

ねこにゃー「あ、はい」

典子「なんでしょうか!!」

桃「ついにお前たちの軟式戦車が到着した」

梓「わー、すてき!!」

エルヴィン「ミニ三突……。なんとも慎ましく、だが雄々しい」

桃「残り2週間もないが、しっかり練習をするように。負ければカメラの前であんこう踊りだぞ」

典子「それだけは嫌です!!!」

ねこにゃー「ま、負けるわけには……! ボク、あの踊り、苦手で……」

梓「得意な人って会長ぐらいだと思います」

エルヴィン「我々は何度不退転の決意をしなければならないのか、誰か教えてほしい」

みほ「あの!」

柚子「どうしたの?」

みほ「えっと、い、一応、その、参加者だけじゃなくて、みんなこの軟式戦車に乗っておきませんか?」

杏「……」

桃「何故だ?」

みほ「万が一、当日のイベントに参加できなくなったら、代わりの選手を用意しなければいけなくなります」

沙織「つまり、補欠選手が必要ってことです」

華「みほさんや磯辺さんが五体満足でイベントの日を迎えられるかどうかは、誰にも分りません」

優花里「五十鈴殿、縁起でもないことをいわないでください」

麻子「5人だけしか練習しないというのは危うい。寝坊する者だってでてくるかもしれない」

みどり子「それは冷泉さんだけよ」

麻子「そど子も人間だ。絶対に寝坊しないという保障はない」

みどり子「私は寝坊しないわよ!! 失礼ね!! あとそど子って呼ばないで!!!」

ナカジマ「その案はいいですね。私たちもちょっと興味がありましたし」

ホシノ「ミニレオポンなら是非、卒業記念に欲しいぐらい」

桃「時間がないんだ。参加者だけに練習時間を割いたほうがいいに決まっているだろ。それとも西住は大洗のあんこう踊りを全国のお茶の間に披露したいのか」

みほ「そ、そういうわけじゃ……」

杏「いいんじゃない? 西住ちゃんがそういうなら」

柚子「いいんですか?」

桃「会長。いくらなんでもあんこう踊りを全国に放送してしまう事態は避けたいのですが」

杏「当日、代表者の誰かが風邪とかで欠場になったらそれこそあんこう踊りは避けられないからな」

桃「その通りではありますが……」

みほ「あの」

杏「いいよ。みんなで練習ね。おっけー、おっけー」

みほ「ありがとうございます」

あや「わーい! M3にのろー!」

桂利奈「あいー!!」

あゆみ「よーし、軟式でも重戦車キラーめざすよー」

優希「梓、がんばろうね」

梓「いや、みんなでは乗れないから」

桃「仕方ない……。あとのことは任せるぞ、西住」

沙織「ちょっとまって!! みんなで練習なんだから、カメさんチームも一緒にしましょう!!」

桃「なに……?」

沙織「だって、最悪の場合、カメさんチームからも出てもらうことになるかもしれないし」

桃「これだけの人数がいて、そのような事態になるわけがないだろう。それに我々は今回、その試合に出る暇はない」

柚子「イベントを円滑に進めるためにはそれなりの人員が必要だからね」

杏「こっちもやること多いんだ」

沙織「生徒会って結構人がいるんじゃないんですか」

桃「陣頭指揮を執るものがいなければ、混乱することもあり得る」

沙織「それはわかるんだけどぉ」

優花里「一応で構いませんから」

華「はい。練習には参加していただければ、それで」

杏「うーん……」

みほ「だ、だめですか?」

杏「うんっ。ダメ」

みほ「そ、そうですか」

杏「それじゃ、よろしくぅ」

みほ(会長……)

ナカジマ「会長の様子、少しおかしくないですか」

みほ「え?」

みどり子「今度の試合、罰ゲームはあっても廃校なんていう重たいものは抱えてないはずなのに、どうして会長はノリ気じゃないの」

麻子「そう思うか」

みどり子「だって、いつもの会長なら「やろう、やろう」って河嶋さんと小山さんの静止を振り切って参加しようとするはずなのに」

麻子「そうだな」

みどり子「また何か隠してるのかしら」

みほ「……」

優花里「西住殿、練習はどうされますか」

みほ「そうだね。とりあえず、今ある5輌で練習しましょう」

エルヴィン「心得た」

みほ「それから園さん、ナカジマさん」

ナカジマ「はいはい?」

みどり子「なんですか」

みほ「二人はイベント当日、試合に出るつもりでいてください」

みどり子「それは構わないですけど」

ナカジマ「欠員が出る予定なんですか」

みほ「いえ。戦車が追加される予定です。あと5輌ほど」

みどり子「そんなに!?」

ナカジマ「私と園さんが出るとして、残り三人は誰が出るんですか」

みどり子「……カメさんチーム、ですか」

みほ「はい」

みどり子「でも、あの様子で出てくれるのかしら」

妙子「そのこと、会長には説明をしてないんですか」

あけび「ちゃんと説明したら参加してくれるかもしれませんよ」

みほ「会長は、きっと私たちを表に出したいんだと思います」

忍「どういう意味ですか?」

あや「表にって、会長たちは裏ってこと?」

みほ「最初に代表として選ばれた五人は2年生と1年生でした」

ねこにゃー「そういえば、3年生は選ばれてなかったような……」

みほ「会長は言いました。来年度以降の入学者確保のために、このイベントを開催する、と」

カエサル「なるほど。来年度は3年生はこの学園にいない。次代の大洗を支える者たちを舞台の役者に選んだということか」

みどり子「それで会長は今回、裏方に徹しているってことですか」

みほ「私はそう考えています」

ナカジマ「あの様子だと、当たってますよ。たぶん」

ツチヤ「確かに学園に残る人が主役っていうのは分かるけどね」

エルヴィン「老兵は死なず、ただ消えゆくのみ」

カエサル「それだ。本来の意味の通り、会長は消えゆくことを許される」

優花里「私はまだ許されていないと思います」

おりょう「同感ぜよ、グデーリアン」

左衛門佐「なにより、拙者たちの許しなくして消えるなどあり得ない」

みほ「みなさん……」

典子「難しいことはよくわかりませんが、とにかく練習しましょう!! ただの遊びかもしれませんが、それでも負けていい試合はありません!!」

沙織「だよねー。あんこう踊りはしたくないし、なにより上手くなっておかないと試合自体が楽しくなくなるもん!」

みほ「分かりました。それでは軟式戦車道の練習を始めます。軟式戦車に乗り込んでください」

梓「澤梓、行きます!!」

ねこにゃー「よろしくおねがいします」

梓「えい」ポシュ

ねこにゃー「わっ。このっ」ポシュッ

梓「くっ……。ここは回り込んで……」ブゥゥン

ねこにゃー「こっちに……!!」ポシュッ

梓「これなら避けられる!!」

あや「ぎゃっ!?」

優希「あやに流れ球がぁ」

あや「あー、眼鏡われたー」

あゆみ「ゴムボールでも割れるの!?」

ナカジマ「いやぁ、迫力、ないですねー」

優花里「でも、あれはあれでいいと思いますぅ」

ぴよたん「あの戦車、ゲームセンターとかでリアル筐体機として設置したら人気でそうずら」

ももがー「それは良い考えなり!」

生徒会室

桃「こちらが参加者リストと支援団体の一覧になります」

杏「んー」

柚子「ホントに大きなイベントになりましたね」

杏「うん……」

桃「会長?」

杏「……」

柚子「(どうしたのかな?)」

桃「(西住の誘いを断ったことを気にしているんだろう)」

柚子「(やっぱり、会長だけでもみんなと練習してもらったほうがよくないかな)」

桃「(忘れたのか。会長から言い出したことだ。このイベントの主役は2年生と1年生でなくてはならないとな)」

柚子「(桃ちゃんだってホントはみんなと一緒に戦車に乗りたいって思ってるのに……)」

桃「(思ってない!!)」

柚子「(おもってるぅ)」

杏「……」

黒森峰女学園

まほ(各選手のデータを再度修正して数値化。それから明日以降の練習メニューの再検討か。今夜も就寝時は日付が変わるな)

小梅「隊長。お疲れ様です」

まほ「ああ。気を付けて帰りなさい」

小梅「はい。ありがとうございます。あの、この戦車が先ほど隊長あてで届いたのですが」

まほ「これは……」

小梅「随分可愛いティーガーですよね」

まほ(例の軟式戦車か)

小梅「これは一体……?」

まほ「注文していたものだ。気にしなくていい」

小梅「なんのために……?」

まほ「おやすみ」ブゥゥン

小梅「乗って帰るんですかー!?」

まほ(良い乗り心地だ。練習は登下校時ぐらいしかできないが、それでもイベントを成功させるためにやるしかない)

小梅(隊長って時々すごく可愛い瞬間がある気がする)

別の日 大洗女子学園

みどり子「えい!」ポシュッ

麻子「当たらない」

みどり子「ちょっと冷泉さん!! なんで私の相手が貴方なの!? 今日はナカジマさんと練習の予定なの! それに冷泉さんは軟式の選手に選ばれてないでしょ!?」

麻子「そのナカジマさんが軟式戦車の整備を行っているからこうして練習に付き合っているんだ。そど子」

みどり子「分かってるわよ!! けど、貴方の操縦がうますぎて全然当たらないじゃない!!」

麻子「だから、練習になるんだ。そど子」

みどり子「もー!! 自信だけがなくなっていくじゃない!! あとそど子って呼ばないで!!!」ポシュッ

麻子「はずれだ、そど子」

みどり子「この! この!!」

ナカジマ「相変わらず、仲がいいなぁ」

スズキ「いつもの戦車整備に比べたらかなり楽で助かるね」

ツチヤ「これでドリフトができればサイコーなんだけどなぁ」

みほ「みなさん、すみません。無理を言って」

ナカジマ「いえいえ。イベントも三日後ですから、ラストスパートかけないといけないですし」

典子「結局、会長は練習に顔を出しても参加はしてくれませんでしたね」

みほ「……」

エルヴィン「補充選手だが、我らのリーダー、カエサルを推薦する」

みほ「うん。そのつもりでした。カエサルさん、いいですか?」

カエサル「好きに使ってくれ」

おりょう「あと二人はどうするぜよ」

左衛門佐「五十鈴さんと冷泉さんで決まりだな」

カエサル「ティベリウス・ユリウス・アブデス・パンテラとローマ軍を苦しめたヌミディア騎兵か」

エルヴィン「ヨーゼフ・アラーベルガーとハンス・ウルリッヒ・ルーデルが手を組んだようなようなものだな」

おりょう「新島八重と小笠原清務」

左衛門佐「稲富祐直と伊達政宗」

カエサル・エルヴィン・おりょう「「それだぁ!!」」

華「よろしいのでしょうか。わたくしのような不束者で……」

沙織「不束者って」

優花里「西住殿の望んだ形にはできないのでしょうか」

みほ「私にできることは、精一杯やったつもりだから」

優花里「しかし!」

みほ「ありがとう、優花里さん。でも会長の気持ちも考えないと。きっと会長は私たちに未来の大洗を託したいんだと思う」

優花里「西住殿がそういうのでしたら……」

みほ「優花里さんに色々とお願いしたのに、ごめんなさい」

優花里「そんな。私は西住殿に共感したからこそ、尽力したのです。気にしないでください」

みほ「優花里さん……」

沙織「ゆかりんがみぽりんに教官できなかったことってあったっけ?」

優花里「ありません!!」

華「優花里さんはみほさんのことを心から敬愛していますね」

優花里「そんなの戦車道履修者の皆さんも同じのはずです!!」

典子「秋山さんの言う通りです!! 私たちは西住さんを尊敬しています!!」

エルヴィン「ハイル・ニシズミー!!」

みほ「や、やめてください!!」

桂利奈「ハイル・ニシズミー!!」

>>105
沙織「ゆかりんがみぽりんに教官できなかったことってあったっけ?」

沙織「ゆかりんがみぽりんに共感できなかったことってあったっけ?」

カエサル「今更心配しても仕方ない、というのも事実だ。イベントの日は迫っているからな」

希美「風紀委員も忙しくなるし」

モヨ子「そど子も会長のことばかりは気にしていられないっていってし」

おりょう「無念ぜよ」

沙織「もっとうまく説得できたのかな」

華「分かりません。そもそも会長が頑なに参加しようとしない理由も不明瞭ですから」

優花里「想像はできても、確証は得ることができません」

妙子「そこまで深刻になることもないと思いますけど」

あけび「どうして?」

妙子「だって、会長はみんなに楽しんでほしくて今回のイベントを企画したはずだから、絶対に楽しくなるよ」

妙子「強引なところもあるけど、いつだってみんなのために動いていたのが会長だよ?」

妙子「だから、最後はみんなが笑顔になって、終わることができるって私は思うよ」

忍「そういわれると、そんな気も……」

優花里「近藤殿の言う通りですね。会長のことですから、私たちの不安なんて爆風で吹き飛ばしてくれるかもしれません」

みほ(みんなのまとめてくれていたのは会長なんだって改めて思える……。だからこそ、私は会長たちも、ううん会長たちにこそ参加してほしい……)

生徒会室

桃「寄港と同時にイベントを開始することができるようです」

杏「んじゃ、予定通りに始められるな。小山、タイムスケジュールの最終確認よろしくぅ」

柚子「はい」

杏「楽しくなるといいな」

桃「会長がプロデュースしたのですから、問題はありません」

杏「……」

桃「会長……?」

柚子「(最近の会長、らしくないというか、よく物思いにふけってる気がする)」

桃「(あんな会長を見るのは生徒会長として立候補する前ぐらいだったな)」

柚子「(そういえば……)」

桃「(廃校も撤回されたのに、会長は何を悩んでいるんだ)」

柚子「(戦車道の授業に出なくなったからかな)」

桃「(それは生徒会としての仕事が山のようにあったからで……。会長も納得していたはずだが)」

杏「どうしよっかな……」

放課後 通学路

麻子「そど子もまだまだ甘いな。当日が不安だ」

優花里「冷泉殿、少しは手加減してあげてもいいような……」

麻子「そど子のためだ。各校の隊長も練習をして参戦するはずだ。優勝校として恥ずかしくない試合をするには多少厳しくしないと意味がない」

優花里「おぉー。冷泉殿、失礼なことを言って申し訳ありません。私が間違っていました。そうです。研鑽を積んだ相手に失礼ですよね」

沙織「もっともらしいこといって。楽しんでたでしょ、麻子」

麻子「すこしな」

華「西住まほさんも小さな戦車に乗って練習しているのでしょうか」

みほ「うん。お姉ちゃんのことだから、練習しないっていうのは考えられないかな」

優花里「大丈夫なのですか。今の時期、黒森峰の隊長は多忙だと以前聞きましたが」

みほ「何度かメールでやりとりもしてるんだけど。心配ない、問題ない、気にするな、って」

沙織「た、倒れたりしないよね、お姉さん」

みほ「無理だけはしてほしくないけど……お姉ちゃんだから……」

麻子「あの性格だ。周囲の制止も押し切ってしまうだろうな」

華「みほさんを想ってのことですから、言葉が見つかりませんわ……」

黒森峰女学院

まほ(甘いものでも飲もうか)ピッ

ガコンッ

エリカ「隊長、まだ残っていたのですか? 早く休まれたほうが……」

まほ「ん? エリカか」

エリカ(隊長の手にあるのは、無糖コーヒー……。いつも砂糖とミルクがたっぷりのものしか口にしないのに……。そうか……!!)

まほ(間違えた。私も疲れているようだ。エリカは確かコーヒーをブラックで飲んでいた気がする。渡そう)

エリカ「まだやるべきことがあるのですね。だから、無糖のコーヒーを……。感服します」」

まほ「え?」

エリカ「どうか。お体にはご自愛ください」

まほ「あ、ああ」

まほ(そうだな。これから軟式戦車に乗らなくてはいけない。疲れたなど言ってはいられない。これは私が飲もう)ゴクッ

エリカ(無糖コーヒーを飲む姿がとても様になっている。カレーも甘口ばっかりだったし、てっきり甘党だと思っていたけど……。日頃から飲んでいたのね。かっこうをつけるためだけにブラックを飲んでいる私とは違う)

まほ「……」ゴクゴクッ

まほ(ココアが飲みたい……)

大洗女子学園

みどり子「ちょっとそこ! 列が乱れてる! そこ! 看板が右に下がってるわよ!」

希美「こうなの、そど子?」

モヨ子「これでいいの、そど子?」

優花里「明日のイベントだけあってあわただしいですね」

華「わたくしたちも何かお手伝いできることはないでしょうか」

沙織「園さーん。手伝えることありますかー?」

みどり子「え? いいです。これは生徒会の仕事ですから」

沙織「そんな遠慮しなくてもいいのに」

麻子「そうだぞ、そど子」

みどり子「いいから。それに貴方達は明日が忙しいでしょう。戦車道講義の内容、決まってるの?」

優花里「……」

沙織「……?」

みどり子「ちょ、ちょっと、もしかして……」

華「何かしないといけないんでしたっけ、わたくしたち」

優花里「すっかり忘れていましたー!!」

麻子「軟式の練習ばかりしていたからな」

みどり子「はぁ……」

沙織「ど、どうしよう!! 園さん!!」

みどり子「知りません。こっちも風紀委員の仕事があるんですから」

沙織「そんなこと言わないでぇ」

麻子「そどこぉ」

みどり子「あーもー! くっつかないで!! 西住さんと秋山さんがいるなら、大丈夫でしょ」

華「そうですね。みほさんと優花里さんが講師となるなら、心配はいりませんね」

優花里「いや、しかし、私は戦車にことになればきっと何時間も話してしまいますよ」

みどり子「自覚はあるのね」

沙織「私も教えられるとしたら……」

みどり子「それぞれの得意なことを説明したらいいじゃない。それだけで十分聞きに来てくれた人は喜ぶはずよ」

華「得意な……こと……」

みどり子「自信をもって。貴方達、あんこうチームは大洗で最強のチームなんだから」

生徒会室

桃「特に問題は見当たりません」

杏「うん」

柚子「明日、予定通りにイベントを開催できます」

杏「ああ。……西住ちゃん」

みほ「あ、はい」

杏「最後までよろしくね」

みほ「はい」

桃「戦車道の講義はスケジュール通り11時から12時まで専用ブースにて行う。内容は決まっているな」

みほ「……」

杏「ん?」

柚子「西住さん?」

みほ「あ、あの……」

桃「お前……」

みほ「わ、忘れてました……」

桃「本番は明日なんだぞ」

みほ「す、すみません! 今から考えます!!」

杏「そんなに気張らなくてもいいって。初心者にもわかる戦車道講座にしてくれたらいいだけだしね」

みほ「そういわれても、準備しておかないと不安になります」

柚子「そうよねぇ」

桃「もしものときは他の隊長を頼ればいいが……」

みほ「ケイさんやダージリンさんも傍にいてくれるんですか?」

桃「隣のブースで講義することになっているからな」

杏「パニックになったら隣までいって助けてもらうといいよ」

みほ「それはそれで恥ずかしいような」

柚子「大丈夫。西住さんたちが困ったら手を貸してあげてほしいって私からもお願いしておくから」

みほ「ありがとうございます。そんなことまでしてもらって」

杏「これぐらいはさせてよ」

みほ「私、講義も軟式戦車道もがんばります。成功させるために」

杏「うん。期待してるよぉ。西住ちゃん」

みほ「では、失礼します」

杏「おやすみー」

みほ「また、明日」

桃「本当に大丈夫なんだろうな……」

柚子「心配ないよ。だって、西住さんだもん」

桃「戦車に乗っているときとそうでないときの差があるからな」

杏「西住ちゃんの考えてること、なんとなくわかった」

柚子「なんのことですか」

杏「意地張っても、いいことはないかなぁって」

桃「よくわかりませんが」

杏「なぁ、河嶋。今、楽しい?」

桃「は? え、ええ」

杏「小山は?」

柚子「勿論、楽しいですよ」

杏「そっか。そうだな。なら、いいんだ。明日、成功させるぞ」

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