柊志乃「文香の怪奇帳・怪獣の姫君」 (139)

あらすじ
巨大な獣に殺された死体が発見された。鷺沢文香は獣使いと獣の行方を追う。


文香の怪奇帳・第2話
設定は全てドラマ内のものです。
グロ注意

それでは、投下していきます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458472215

目次

プロローグ 追うモノ
第1話 鏡裏
鷺沢文香「文香の怪奇帳・鏡裏」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454410368/)

第2話 怪獣の姫君

第3話 あいくるしい

最終話 宙を結ぶ

エピローグ ブライト・ブルー



某雑居ビル・屋上

城ヶ崎莉嘉「ねーねー、梨沙ちゃん」

的場梨沙「なによ、莉嘉」

莉嘉「アタシ、これキラーイ」

梨沙「押し付けるんじゃないわ。アタシもキライなの」

莉嘉「じゃあ、ぽーい!」

梨沙「ああ、もったいなーい。久しぶりのまともなご飯なのに」

莉嘉「いいのー、だってアタシ達、肉食系だし☆」

梨沙「そうね。だから、これもいらなーい」

莉嘉「梨沙ちゃん、ワルー☆」

梨沙「莉嘉こそ、悪い顔ね!そもそも、こんなものしか持ってこないのが悪いわ!」

莉嘉「そうだそうだー!ケチー!」

梨沙「あんなにド派手にしたのにね。失礼しちゃうわ」

莉嘉「われわれは、お肉をもっともっと要求するぞー!」

梨沙「おー!カワイくて、セクシーな服もよ!」

莉嘉「だから、しちゃう?」

梨沙「しちゃいましょ?」

莉嘉「だって、タイクツなんだもん」

梨沙「アクビが出ちゃうわ」

莉嘉「ここには強い奴もほとんどいないし」

梨沙「アレもニセモノだったみたいだし」

莉嘉「ここにはお姉ちゃんもいないし」

梨沙「私達を止められるものなんてないわ」

莉嘉「さー、いっくぞー☆」

梨沙「アタシ達の凄さを見せてあげましょ」

序 了



日曜日

北苗商店街・派出所

鷹富士茄子「しばらくはここに出勤するんですか?」

片桐早苗「何かあってからじゃ遅いでしょ。もう遅いけど」

茄子「そうですねぇ」

早苗「茄子ちゃんを信頼してないわけじゃないけど、ね」

茄子「わかってますよ。心強いです」

早苗「茄子ちゃん達は今まで通りの仕事を続けて。刑事課でやるわ」

茄子「来るのは、早苗さんと。そこのお方ですか?」

早苗「ええ。初めましてかしら、紹介するわ。惠ちゃん」

伊集院惠「伊集院巡査です。お見知りおきを」

伊集院惠
刑事。階級は巡査。性格は生真面目。誕生日は9月24日。

茄子「よろしくお願いします」

惠「こちらこそ」

早苗「そろそろ、科捜研が来る頃ね」

茄子「何かあったら、教えてくださいね」

早苗「わかってるわ。あたしは現場に戻るけど、惠ちゃんは?」

惠「この辺を見回っています。現場は片桐刑事にお任せします」

早苗「そう?それじゃ、茄子ちゃん、また来るわ」

茄子「はい。お疲れ様でした」

早苗「それと、茄子ちゃん。ひとつだけ質問」

茄子「何でしょう?」

早苗「調査情報、誰にも話してないわよね?」

茄子「そんなわけないじゃないですか~。私は警察官ですからっ」

惠「……」

早苗「なら、いいけど。惠ちゃんも、またね」

惠「はい。失礼します」



レコードショップ・ロータス

ロータス
昔からあるレコードとCDのお店。15年ほど前までは長富音楽堂という店名だった。

長富蓮実「ふふふふ、ふふふふふん、ふふふふーん♪」

長富蓮実
ロータスの看板娘。両親や常連客の薫陶を受け、すくすくと成長中。誕生日は3月19日。

結城晴「ゴキゲンだな」

蓮実「こんにちは、晴ちゃん。Wのシングルは来週発売ですよ?」

晴「違うから。待ちきれないみたいに言うなよ」

蓮実「楽しみじゃないですか?」

晴「……楽しみだけどよ」

蓮実「ふふっ♪そうだ、ポスターもあげますね」

晴「邪魔になるからいいよ。うち、狭いしさ」

蓮実「?」

晴「お部屋の壁に貼らないんですかぁ?みたいな顔するなよ!」

蓮実「それなら、額に入れるのはどうでしょう?」

晴「ますます無理だ……そんなことより、蓮実は手伝いか?」

蓮実「はい。新曲のポスターを頂いたので、貼ろうかと」

晴「誰の?」

蓮実「城ヶ崎美嘉ちゃんです。ほら、見てください!」

晴「おおっ、サインが入ってる!」

蓮実「お父さんが挨拶に行った時に貰って来たんです」

晴「蓮実の親父さん、凄いのか?」

蓮実「違います。昔のお知り合いだとか」

晴「ふーん」

惠「こんにちは」

蓮実「いらっしゃいませ!」

惠「ごめん、お客さんじゃないの」

晴「なら、なんだよ」

惠「警察よ。少し話を聞いていいかしら」

晴「茄子と違って、制服じゃないんだな?」

蓮実「ということは、刑事さん?」

惠「当たり」

晴「殺人だもんな……何でも協力するぜ」

惠「ありがとう。変な質問だと思わないで、聞いて」

蓮実「変?」

惠「最近、虎とかライオンとか見たかしら」

晴「はぁ?」

蓮実「トラ……動物の?」

惠「ごめん。忘れて」

蓮実「え、はい、そうします」

惠「お邪魔したわ。そのポスター、いいわね」

晴「……なんだったんだ?」

蓮実「動物園から虎でも逃げたのでしょうか?」

晴「それなら大変だけど、刑事の仕事か?」

蓮実「違うと思います」

晴「だよなぁ。蓮実も気をつけろよ、虎がいたとしたらだけど」

蓮実「どうやって?」

晴「ほら、肉を投げるとか?」

蓮実「お守りにカルパスでも持ってましょうか?」

晴「いいかもな。何が起こるかわからないしさ」



古書店・Heron

柊志乃「……」

鷺沢文香「……」

志乃「観念なさい……」

文香「えっと、やっぱり……その」

志乃「いいえ。連れて行くわ」

文香「せめて、明日に……」

志乃「明日は月曜日、お休みよ……」

文香「うぅ……」

晴「おっす、用事もないけど来た、って、なにしてんだ?」

志乃「晴さん」

晴「なんだ、睨み合って」

文香「晴さん……助けてください」

晴「わっ、どうしたんだ?」

志乃「こら……年下に縋らないの」

文香「志乃さんがイジメる……」

晴「よし。わかった」

文香「晴さん……」

晴「ねーちゃんに聞いても仕方がない。志乃、何があった?」

文香「晴さん、ヒドい……」

志乃「美容室に連れて行くのよ。前髪も伸びてきたもの」

晴「いいじゃないか。商店街のだろ?」

志乃「困ったことに、予約の時間なのに行こうとしないの」

文香「……」

志乃「小学校で働いてるのだから、目が隠れるほどのはどうかしら?」

晴「あんまり良くはないよな。司書のおばちゃんと真逆だし」

文香「でも……恥ずかしいです」

志乃「いつまでも恥ずかしがってるわけにはいかないわ……行きましょう」

文香「や、いやです!」

晴「こんな時に貴重な大声使うなよ……」

文香「やだ、やだぁ……」

晴「駄々こねるほどか?」

志乃「仕方がないわね……晴さん」

晴「おう。引きずっていくか」

志乃「ええ、そうしましょう」

文香「なんて、横暴な……」

志乃「はいはい……切るのが嫌いなのは聞いてるわ」

晴「美容室にも迷惑だし、行こうぜ」

川島瑞樹「その必要はないわ!」

晴「瑞樹先生、なんでここに?」

瑞樹「待つだけの女はいい女じゃない。そうでしょ?」

文香「まさか……」

太田優「こんにちはぁ♪美容師の太田です☆」

太田優
北苗商店街にある美容室勤務の美容師。犬派。両利き。誕生日は1月28日。

文香「……」

志乃「逃げないの」

瑞樹「さて、冗談はこのくらいにして」

優「ごめんねぇ。美容室使えないからぁ、訪問カットしてるんだー」

晴「何かあったのか?」

志乃「警察が来てるのかしら」

優「うん。あたしはもう話はしたからいいけどぉ」

瑞樹「銀色の大きいカバンを持った人達が入って行ったわ」

文香「鑑識……でしょうか」

優「カットするならどこがいいかなぁ?」

志乃「洗面所にしましょう。案内するわ」

優「はぁーい。ねぇ、今日はどんな髪型にするの?」

文香「私は……別に」

瑞樹「清潔、爽やか、若々しく!」

晴「それは瑞樹先生のリクエストじゃないのか?」

瑞樹「ちがいますー。文香さん、行ってらっしゃい」

文香「共犯なのですね……」

瑞樹「まぁ、人聞きの悪い。私は志乃さんに相談を受けただけですー」

晴「行かないと、また志乃に怒られるぞ」

文香「わかりました……清水の舞台から飛び降りる気持ちで」

瑞樹「そんなに気張らないの。優ちゃんは信頼できるから、いってらっしゃい」

文香「……店番をお願いします」

晴「おう。行ってきな」

瑞樹「いってらっしゃーい」

晴「なんで、あんなに髪の毛を切るのを拒むんだ?」

瑞樹「うーん。前髪で顔を隠したいのかしら?」

晴「なんでだ?」

瑞樹「恥ずかしいから、かしら」

晴「ふーん。ねーちゃん、美人だし気にしなくていいのにな」

瑞樹「晴ちゃん……」

晴「なんだよ、その顔は」

瑞樹「オンナタラシね……末恐ろしいわ」



北苗商店街・カエール公園

カエール公園
北苗商店街のど真ん中にある公園。名物のカエル像に粉物をお供えすると良いことがあるとかないとか。

佐城雪美「ペロ……おいで……」

佐城雪美
北苗小学校の4年生。愛猫のペロと遊んでいる。誕生日は9月28日。

雪美「良い子……」

惠「こんにちは、雪美ちゃん。ペットと遊んでるの?」

雪美「そう……」

惠「一人?」

雪美「……」

惠「どうしたの?」

雪美「お姉さん……誰……?」

惠「……あれ」

雪美「会うの……はじめて……」

惠「はじめて……だったかしら」

雪美「うん……はじめまして……」

惠「はじめまして。私は伊集院惠よ」

雪美「佐城雪美……こっちはペロ……」

惠「ペロちゃん、あら、人懐っこいのね」

雪美「ペロ……懐いてる……惠……良い人……」

惠「一人?」

雪美「ううん……ペロと一緒……」

惠「そうね。でも、ボディガードにはちょっと頼りないかも」

雪美「……惠、警察の人?」

惠「そうよ。事件があったから、気をつけて。保護者の方と一緒にいてね」

雪美「……うん……ペロ……おうちに帰ろう……」

惠「ごめんなさいね。邪魔をして」

雪美「……」

惠「どうしたの?」

雪美「……ここ……危ないの……?」

惠「いいえ。私達に任せて」

雪美「……信じる」

惠「一つ聞いていいかしら」

雪美「なに……?」

惠「大きい猫を見たりしなかった?」

雪美「ううん……」

惠「ありがとう。ばいばい、雪美ちゃん」

雪美「ばいばい……」



古書店・Heron

三船美優「こんにちは……」

瑞樹「あら」

晴「美優先生、どうしたんだ?」

美優「川島先生がここにいると聞いたので……」

瑞樹「瑞樹でいいわよ。オフなんだから」

美優「仕事のお話なので……川島先生で」

瑞樹「何かしら?」

晴「日曜なのに仕事か。先生も大変だな」

美優「明日から集団登校と下校を……」

瑞樹「緊急で職員会議?」

美優「集まれる人は……と」

瑞樹「わかったわ。今から美優ちゃんも行くかしら?」

美優「はい……」

瑞樹「ええ。晴ちゃん、お願いがあるのだけど」

晴「店番は任せとけ」

瑞樹「違うわ。文香さんのカット、写メで送って。いいわね?」

晴「わかったよ。お仕事がんばれよ」

瑞樹「ええ。さ、三船先生」

美優「行きましょうか……」

瑞樹「最近、ドラマとか見てる?私は……」

晴「美優先生、わざわざ探しに来たんだろ?」

志乃「お客様かしら……?」

晴「違う。美優先生が迎えに来ただけ」

志乃「そう……」

晴「ねーちゃんは?」

志乃「大人しくしてるわ」

晴「むしろ、普段が静かなのになぁ」

志乃「そうね……」



古書店・Heron

優「おまたせー☆」

志乃「終わったかしら?」

優「うん。追加でカラーとかしちゃうー?」

文香「黒髪、清楚、大切……」

優「まだ出てきちゃだめぇ。髪を洗うまで我慢してねぇ」

晴「あんまり変わってないな」

志乃「もっとばっさり……」

優「本人が嫌がることはダメだよぉ。お風呂場借りていい?」

志乃「どうぞ」

文香「髪なら自分で洗えますから……」

優「遠慮しないでぇ。ほらほら☆」

晴「うーん、先は長いな」

志乃「そうね……」

晴「そもそも、どうしてあんなに嫌がるんだ?」

志乃「隠れていたいから、かしら」

晴「堂々としてればいいのに」

志乃「そうね……もう少し社交的なら叔父様も安心するのだけれど」

晴「ま、人それぞれだよな」

志乃「ええ……ゆっくりと、文香さんの世界を広げてくれる?」

晴「オレに言ってんのか?」

志乃「全部じゃないわ……そのうちの一人として」

晴「サッカーするかな、ねーちゃん」

志乃「サッカーは……文香さんには、激しすぎるかしら」



おおはらベーカリー

大原みちる「刑事さん、ここです!」

大原みちる
おおはらベーカリーの看板娘。パンを愛し、愛するがゆえにたくさん食べる。誕生日は4月12日、パンの日。

惠「ここ?」

みちる「正確にはここでした!」

惠「ゴミ箱が荒らされていたのよね?」

みちる「はい、きっと廃棄するしかなかったパン達の霊が化けて出たんです」

惠「……これは」

みちる「うう、出来ることならあたしが食べたかったです。ナムアミダ……」

惠「みちるちゃん」

みちる「どうしましたか?」

惠「この毛、見覚えある?」

みちる「猫じゃありませんね、これは」

惠「人の金髪よ。染めてるか、脱色してるか、どちらかね」

みちる「うーん、お店にはいないです」

惠「心当たりは?」

みちる「ありません!」

惠「ハッキリとした回答ありがとう」

みちる「でも、良かったです。怪獣とかじゃないですね」

惠「怪獣……」

みちる「もうゴミが散乱してて!お掃除が大変でした!」

惠「そっちもいたのかもね……」

みちる「え?」

惠「なんでもないわ。ありがとう」

みちる「いえいえ!そうだ、パンはいかがですか?焼き上がり時間です!」

惠「いただくわ。案内してくれる?」



古書店・Heron

優「ふんふふーん♪もう少しで乾くから待っててねぇ」

文香「はい」

晴「長いと大変なんだな」

優「晴ちゃんも伸ばす?」

晴「やめとくよ。サッカーもあるし」

志乃「……」

文香「志乃さん……近い、です」

志乃「まぁ……いいかしら」

優「文香さんの髪、とっても綺麗だよねぇ。櫛もするする入るしぃ」

文香「そうでしょうか……若白髪もありますし」

優「気になるなら、染める?」

文香「いえ……嫌いではありませんから」

志乃「そうだったの?」

文香「いけませんか……?」

志乃「いけないわけはないけれど。もう少し明るい印象でも」

優「自分が好き、が一番いいよぉ」

文香「優さんもこう言っています……」

優「でも、人が見るんだから妥協点って感じかなぁ」

志乃「ほら」

文香「……今はこれで」

志乃「わかったわ。優さん」

優「なぁに?志乃さんも少しカットする?」

志乃「私は別の日に……お話を聞いても?」

優「どうぞぉ」

志乃「事件のこと、教えて」

晴「どうなってんだ?」

優「事件のこと?」

文香「知ってることだけでいいので……」

優「どうして、皆が知りたがってるのかなぁ?」

文香「……」

晴「気になるんだよ。奏の件もあったしさ」

優「ふーん。ならぁ、秘密にしてねぇ?」

志乃「もちろんよ」

優「美容室の入ってる雑居ビル、上にレッスンスタジオがあるの」

志乃「知ってるわ……」

晴「何してるところだっけ?」

志乃「色々よ……場所を貸していて、ヨガ教室とかをやってるのよ」

優「そうそう。色んな人が出入りしてるのー」

文香「事件は……何が」

優「殺人らしいよ……」

晴「……またか」

優「死んじゃったのは、木場真奈美さんていうインストラクターなんだ」

木場真奈美
レッスンスタジオのインストラクター。英語の歌が上手だったとのこと。誕生日は8月8日。

文香「木場さん……?」

志乃「真奈美さんね……」

晴「知り合いか?」

志乃「この街でお酒が飲める人は全員知り合いよ……おそらく」

晴「凄い、のか?」

文香「どのような状況だったのでしょう……」

優「ごめん、教えてくれなかったのぉ。あたしが知ってるのは時間だけ」

志乃「いつ?」

優「事件が起こったのは深夜だってぇ。あたしも誰も美容室にはいなかったから。他のテナントさんも同じ」

晴「見つかったのは?」

優「朝だったと思うよぉ。今日は一日中騒がしくてぇ」

文香「それで出張カット……」

優「前からやってて準備もあるからぁ、心配しないで」

志乃「何か、兆候は」

優「ううん、ぜんぜーん」

晴「……突然か」

優「でもぉ、気になることがあって」

文香「なんでしょう……」

優「真奈美さん、護身術の教室もやってたくらい強いんだよぉ」

晴「へぇ、それは妙というか」

文香「通り魔は選びにくいでしょうね」

志乃「……手慣れたものの犯行」

優「あと、刑事さん達に変なこと聞かれたかなぁ」

晴「変なこと?」

優「大きな猫を探してるんだってぇ」



北苗商店街・派出所

茄子「おかえりなさーい」

惠「ただいま。これ、いかがかしら」

茄子「おおはらさんのパンですね。いっぱい買いましたねー」

惠「ついね。だって、美味しそうに紹介するんだもの」

茄子「それじゃ、遠慮なくいただきます♪私、ウグイスパンが好きなんです」

惠「ひとつだけ買ってきてたわ。あげる」

茄子「ありがとうございます。何か、収穫はありましたか?」

惠「特には。そっちは?」

茄子「派出所に駐在してるだけは何もありませんね」

惠「そうね。片桐巡査部長はどうかしら?」

茄子「特に連絡はありません」

惠「そう。現場も見に行ってみようかしら」

茄子「それがいいと思います」

惠「怪獣の足跡も見たいわ。本当にそんなものがあるの?」

茄子「はい。本当です」

惠「このご時世に猛獣使いとは信じられないわ」

茄子「誰かのねつ造だと思ってますか?」

惠「思ってるだけ。だけど、そんなことをする意味がわからない」

茄子「うーん……そうですね」

惠「それを明らかにするのが、私達の仕事でしょう?」

茄子「ええ」

惠「休憩したら、現場に行ってくるわ。あなたは?」

茄子「夕方に交替なので、お供します。私も調査状況聞きたいですから」

惠「そうしましょう」

茄子「お茶、淹れますね。休憩できる時に休憩です」

10

古書店・Heron

文香「本当なのでしょうか……」

晴「さっき会った刑事も言ってたぞ」

志乃「どなた?」

晴「わかんない。初めて見た。キリッとした顔立ちの姉ちゃんだった」

志乃「事件に関係があると言ってたかしら……?」

晴「言ってはなかった」

志乃「けれど、言っているようなものね……」

文香「大きな猫……ですか」

晴「なんか出たのかもな」

志乃「茄子さんに確認する必要がありそうね……」

文香「ええ……」

晴「夕飯の時にでも呼ぶか?」

文香「はい……仕事があるか確認してみます」

志乃「それがいいわね……」

古澤頼子「こんにちは」

文香「あ……いらっしゃいませ」

志乃「この前の本はいかがだったかしら?」

頼子「素晴らしかったです……でも、問題が」

文香「何か……問題が」

頼子「今日の旅行代がなくなってしまいました。なので、今日はここで暇つぶしです」

志乃「それなら、責任を取らないとね」

頼子「お店の中、見させてもらいます」

文香「ごゆっくり……」

晴「あのメガネの姉ちゃん、常連なのか?」

文香「はい……良くいらっしゃいます」

志乃「将来の上客ね……」

晴「猫背だなぁ。背が高いのにもったいない」

頼子「……ん?」

晴「ん……?」

文香「どうしましたか……?」

頼子「あの、何か聞こえませんでしたか?」

文香「なにも……」

晴「聞こえた。サイレンだ、パトカーの」

頼子「止めたのでしょうか。もう聞こえませんね」

志乃「私にも聞こえなかったけれど。文香さん、晴ちゃん」

晴「おう。見てくる」

文香「はい……店番をお願いします」

11

北苗商店街・空き店舗前

空き店舗
売約済み。帽子屋が出来る予定だったとか。

文香「……キープアウトです」

晴「何かあったみたいだな。でも、この騒ぎの少なさから考えると」

文香「見つけたのは……警察官でしょうか」

晴「それなら、サイレンもいらないし」

文香「野次馬も少ないと……」

茄子「こんにちは」

晴「茄子」

茄子「気になりますか?」

文香「はい……」

惠「お知り合いかしら」

晴「あっ、さっきの刑事だ」

文香「……」

惠「ごめんなさい。ちゃんと説明はするから、今は帰ってちょうだい」

文香「そうですか……」

惠「鷹富士さん、お願い」

茄子「わかってますー。場所は準備しておきますね」

晴「場所?」

茄子「商店街の人達にはご説明を、と。寄合所を使わせてもらいます」

文香「では、何が起こっただけ……聞いても」

茄子「昨日から行方不明の女の子が見つかりました。死体で」

12

古書店・Heron

志乃「時間ね」

文香「お願いします……事件のことを聞いてきてください」

晴「なぁ、ただの事件なのか?」

志乃「違うでしょうね」

文香「茄子さんを、呼べるでしょうか……?」

志乃「話はしておくわ。お夕飯を食べる時間くらいあるでしょう」

文香「お願いします……」

志乃「行ってくるわ」

文香「いってらっしゃい……」

晴「今度は一度に2人か」

文香「ええ……」

晴「学校のどれか、から来たのか?」

文香「わかりません……でも、候補は一つあります」

晴「どれだ?」

文香「地下室です……私からは入ることが出来ませんでしたから」

晴「そっから、殺人犯が来たのか」

文香「わかりません……でも、可能性は捨てられない……」

晴「待った。お客さんだぞ」

並木芽衣子「こんばんは!」

並木芽衣子
トラベラー。古ぼけた大きなパラソルとトランクを所持。誕生日は10月14日。

文香「いらっしゃいませ……」

芽衣子「はじめまして!私は並木芽衣子、よろしくねっ!」

文香「はじめまして……鷺沢です」

芽衣子「これ、あげるね。私の名刺と、ポストカード」

文香「綺麗なポストカードですね……」

芽衣子「あなたにも」

晴「おう、ありがとよ。オレは結城晴だ」

芽衣子「……あはっ」

晴「どうしかしたか?」

芽衣子「なんでもないよ」

文香「なにか、ご用でしょうか……?」

芽衣子「少しここに滞在しようと思って、ご挨拶に」

晴「職業、旅人?」

芽衣子「そうだよ。旅先で買ったものを売ったりしてるんだ」

文香「綺麗なポストカードですね……」

芽衣子「本もあるんだー。買ってくれる?」

文香「ぜひ……お見せください」

芽衣子「ありがとう。この三冊なんだけど」

晴「古いけど、綺麗だな」

文香「……」

晴「わからないけど、ラッキーか?」

芽衣子「どうですか?」

文香「この2冊で……4万円で買い取りを」

晴「おお、凄いな!」

芽衣子「そっちはそれぐらいだよね。もう一冊は?」

文香「……」

晴「ねーちゃん?」

文香「これは……もう少し時間を」

芽衣子「だよねー。わかったら、名刺の番号に電話してね」

文香「わかりました……明日には必ず」

芽衣子「焦らないでいいよ。それはついでなんだ」

晴「古本を売る以外に、本題があるのか?」

芽衣子「うん。さっき、空き店舗を見てきたんだけど」

晴「あそこか。警察がいた所か?」

芽衣子「そうそう。あそこってね、帽子屋さんが立つはずだったんだよ」

文香「そうなのですか……」

芽衣子「何があったの?」

晴「事件だよ。死体があったとか」

芽衣子「そっか。それじゃあ、辞めちゃうかなぁ」

文香「辞める……?」

芽衣子「マッドハッターっていう帽子屋さん、ここでは建たないんだ。ふーん、同じ時間軸に戻るのも難しいんだ。あはっ、でも、そっちの方が楽しい」

晴「なに言ってんだ?」

芽衣子「こっちの話。もし、私に似た人が来たら、よろしくね」

晴「ん?」

文香「あの……」

芽衣子「そうだ、この辺に美味しいラーメン屋さんある?」

晴「麺洋っていうラーメン屋があるぞ。そこは美味いぜ」

芽衣子「ありがと、行ってみるね。それじゃ、電話してねー!」

文香「わかりました……またのお越しを」

芽衣子「これから、きっと楽しいことが起こるよ!ばいばーい!」

文香「……」

晴「マッドハッター、どっかで聞いたような……」

文香「不思議の国のアリスから、だと思います……それよりも」

晴「どうした?」

文香「あの人には気をつけてください……」

晴「なんか、あったか?危ない奴には見えなかったけど」

文香「3冊目……ここを見てください」

晴「名前が書いてある……ねーちゃんの名前だ、なんでだ?」

文香「わかりません……いったいどこから」

晴「盗まれたとか」

文香「違うと思います。おそらくですが……この本、この世にありません」

晴「ケータイで調べてみるか」

文香「この私も……私ではないと思います」

晴「本当だ……見つからないぞ」

文香「あの人、どこから来たのでしょうか……?」

晴「今回の犯人とかじゃないよな」

文香「そうだと良いのですが……」

晴「困ったな」

文香「本については志乃さんと相談します……あの人については」

晴「茄子に話してみるか」

文香「はい……あ、こんな時間です」

晴「店じまいか。手伝うぜ」

文香「ありがとうございます……そうしたら、お夕飯にしましょう」

13

レコードショップ・ロータス

莉嘉「あっ!」

梨沙「なによ、大きな声だして」

莉嘉「梨沙ちゃん、これ見て!」

梨沙「これ、女王様?」

莉嘉「お姉ちゃんだよ!間違いないよ」

梨沙「違うわよ。ここにはいないわ、アレも出てこなかったじゃない」

莉嘉「でもぉ、このカリスマは絶対に本物だよ!」

梨沙「むー。確かに、このヘソは女王様だわ」

莉嘉「でしょー?」

梨沙「でも、何の印刷物なのかしら?」

莉嘉「んー、なんだろー?」

蓮実「こんばんは」

莉嘉「あっ、ここの店員さん?」

梨沙「教えてほしいことがあるわ」

蓮実「どうしました?」

梨沙「これ、なんなの?」

蓮実「城ヶ崎美嘉ちゃんの新曲のポスターです」

莉嘉「新曲のポスター?歌手なの?」

蓮実「えっと、知らないですか?」

梨沙「わからないから聞いてるのよ」

蓮実「彼女はアイドルです」

莉嘉「アイドル?」

蓮実「歌ったり、お芝居をしたりする、女の子の憧れ、です」

梨沙「人の上に立つという意味なら、同じね」

莉嘉「さっすが、お姉ちゃん!」

梨沙「こっちの方が楽しそう」

莉嘉「……うん」

蓮実「あれ、もしかして……」

莉嘉「たぶん、人違いだよっ!」

梨沙「ばいばい。アンタは違うみたいだから、助かったわね」

莉嘉「お腹すいたー。くんくん、ポケットになにか入ってる?」

蓮実「カルパスですが……」

莉嘉「ちょーだい♡」

蓮実「ええ、差し上げますけど」

梨沙「太っ腹ね、アタシはあんたは好きよ」

莉嘉「ありがとー!ばいばーい!」

梨沙「じゃあね」

蓮実「なんだったのでしょう……?」

14

古書店・Heron

志乃「ただいま」

文香「おかえりなさい……」

茄子「お邪魔しまーす」

晴「茄子もいるのか」

文香「いかがでしたか……?」

志乃「現実の常識内に合わせた感じだったわ」

茄子「大変なことが起こってるのに変わりはありません」

文香「ふむ……」

志乃「晴ちゃん、お家に連絡はしたかしら」

晴「しておいた。茄子は?」

茄子「もう非番です」

志乃「なら、いいわね。茄子さん、説明してちょうだい」

文香「お夕飯の準備を……」

茄子「あのー」

志乃「どうしたの?」

茄子「ご飯を食べながらする話じゃありませんよ?」

文香「……」

志乃「なら、食べ終えてからすればいいだけ」

晴「……オレ、聞かない方がいいか」

志乃「逃げてはいけないこともあるわ」

文香「ええ……」

志乃「文香さん、夕食にしましょう」

文香「話はそれからです……」

15

北苗商店街・派出所

惠「……」

早苗「惠ちゃん」

惠「お疲れ様であります」

早苗「しかめっ面」

惠「え?」

早苗「若いうちからそんな表情ばっかりしてると、しわが増えるわよー」

惠「そんなに渋い表情でしたか?」

早苗「ええ。だから、命令よ。帰って、休みなさい」

惠「ですが」

早苗「眺めてても何も出ないわ」

惠「……ええ。でも、一つだけ」

早苗「一つだけよ」

惠「目的は、何でしょうか」

早苗「わかったら苦労しないわ」

惠「そうですね……」

早苗「さ、帰った帰った。業者には私から連絡しておくわ」

16

古書店・Heron

晴「……」

文香「……」

茄子「写真を見たのは、秘密ですよ?刑事さんには止められてるんです」

晴「飯の後で良かったな……」

志乃「これは……酷いわね」

茄子「今回の事件は、二つです」

晴「最初はレッスンスタジオか」

文香「美容室の上の……です」

志乃「被害者は木場真奈美さん……」

茄子「誰かから聞きました?」

文香「美容師の太田さんに……」

茄子「では、詳しい話を」

志乃「お願いするわ」

茄子「事件現場は、レッスンスタジオです」

晴「見つかったのは、いつだ?」

茄子「今朝です。土曜日の夜と日曜日の朝は、木場真奈美さん主催のボイストレーニング教室がありますから」

志乃「第一発見者は、生徒かしら」

茄子「はい。朝に訪れた受講生が見つけました」

文香「レッスンスタジオの管理は……」

茄子「土曜の夜と日曜の昼までは、木場真奈美さんが担当です」

志乃「管理会社は関わっていないのね」

茄子「そういうことのようです。発見された時も、カギは閉められていませんでした」

文香「帰る前……でしょうか」

茄子「そうだと思います。木場さんは帰る前に、犯人に襲撃されたかと」

志乃「なら、犯人を絞り込むことは出来てないの?」

茄子「はい。怨恨や金銭トラブルは見当たりませんでした」

文香「……」

茄子「目撃情報もほとんどありませんでした。殺されたのは深夜みたいですから」

晴「むぅ……」

志乃「なら、手段から」

文香「今回は何でしょうか……」

茄子「では、何があったかご説明しますね♪」

晴「テンションあげないでくれ……逆に怖い」

17

古書店・Heron

茄子「死因は出血多量による、ショック死だそうです」

志乃「凶器は……」

茄子「大きくて鋭利な刃物と」

文香「……穴が二つ」

茄子「牙と評したなにか」

晴「爪と牙……みたいだな」

文香「ええ……」

志乃「遺体の場所も気になるわ」

茄子「遺体は天井に磔でした。天井の壁が壊れていて、そこにぶら下がってました」

晴「ひえ……」

茄子「それと、これが見つかりました」

文香「銃弾ですか……?」

茄子「はい。発射されたあとに、何か硬いものにぶつかったみたいです」

晴「はじき返された?」

志乃「発射した銃の方は」

茄子「こちらも部屋の中に」

文香「えっと……これは」

茄子「サイレンサーです」

志乃「犯人の指紋は出たの?」

茄子「いいえ。出たのは被害者のものだけです。トリガーから」

文香「被害者が発砲したのですか……?」

茄子「その通りです。ちなみに、この銃も木場真奈美さんの持ち物です」

志乃「真奈美さん、護身術の教室もやってたのよね?」

文香「昼に聞きました……」

茄子「そうみたいですね。同じ場所で、水曜日の夜です」

晴「護身術教室は、銃も使うのか?」

志乃「まさか。私も初めて知ったわ」

文香「通り魔が狙うには……いささか難しい人物です」

茄子「ええ。犯人は狙っていたのだと思います」

志乃「成し遂げる力もあった」

晴「……厄介だな」

文香「これから推測するに……」

志乃「まだ早いわ。夕方の件も聞かせて」

茄子「わかりました」

18

古書店・Heron

茄子「事件はもう一つ」

文香「空き店舗の……ですか」

茄子「はい。被害者は星輝子さん、中学生です」

星輝子
事件の被害者。土曜日の昼から行方不明だった。誕生日は6月6日。

志乃「殺害方法は同じようね……」

茄子「その通りです。失血性のショック死と推測されています」

文香「いつ頃、殺害されたのでしょうか……」

茄子「木場さんが深夜1時ごろでした。彼女はそれよりも前です」

文香「早く見つけてあげたかったです……」

志乃「そうね……」

茄子「警察に帰ってこないという話がありましたが、最悪の展開です」

晴「……」

志乃「見かけない子ね。商店街に何か用だったのかしら?」

茄子「わかりません。道を歩いているところは目撃されていますから、何かの理由でここを訪ねていたのは確かです」

文香「何か……情報は」

茄子「特には。遺体は酷い状況でしたけど」

晴「暴れまわった感じじゃないな……」

志乃「どこかで殺されて、運ばれたのかしら」

茄子「そうだと思います。これ、室内の写真です」

文香「ゴミが落ちてますね……」

茄子「生ゴミです。誰かがここにいたのではないかと推測されています」

志乃「犯人、でしょうね」

茄子「はい」

晴「何人かいたのか?」

茄子「人間はおそらく、二人以上」

文香「人間は……」

晴「人間じゃないのもいるのかよ」

茄子「これ、足跡の写真です。レッスンスタジオのものと合わせて、見てください」

志乃「血で、跡が残ったのね」

茄子「何に見えますか?」

晴「オレには、猫の足跡に見える」

文香「それにしては大きいです……」

茄子「はい。推測された大きさは全長2メートル、体重200kg」

晴「ライオンか、虎か……」

志乃「ここ、人間の足跡もあるわ」

茄子「はい。体躯のしっかりした男性のようです」

文香「男性……」

茄子「足のサイズは約26cm。身長170cmくらいだそうです」

志乃「まとめると」

晴「被害者は二人」

文香「残忍な殺害方法……」

茄子「怪力みたいです」

志乃「犯人は2人以上」

文香「護身術の先生を相手にしないほどの……強さ」

茄子「凶器は、大きな爪と牙」

晴「足跡が残ってた、大きな猫の」

志乃「銃弾をはじくほどの硬い獣が」

文香「ふむ……」

茄子「警察の情報は以上です。細かいことは、志乃さんが聞いてきた通りです」

晴「つまりさ、犯人は獣使いなのか?」

文香「素直に考えれば……」

茄子「何とも言えません。誰も見てませんから」

志乃「獣がいると装っているだけ、とか」

晴「なんでそんなことするんだよ?」

文香「わかりませんが……やる以上は意味があるのかと」

茄子「獣の話は正式にはしてません」

志乃「警察は動いてはいるの?」

茄子「はい。明日には業者の人が来ますよ」

文香「業者……」

茄子「害獣駆除の業者です。動物園から逃げた豹を捕まえた実績があるんですって」

志乃「そう……でも」

文香「そんな単純な獣ではないかと……」

茄子「例えば?」

文香「目撃されていないことから考えると……召喚の類では」

晴「ねーちゃんは小説の読み過ぎだ、とも言えない」

志乃「いずれにせよ、真実はあるわ」

茄子「そこで、私がお聞きしたいのですが」

文香「どうぞ……」

茄子「どこかから連れてきた可能性はありますか?」

文香「可能性は、あると思います……」

晴「でも、どこかは特定できないな」

文香「戻ったかどうかもわかりません……」

志乃「まだ、この街に潜伏しているかもしれないわ」

茄子「むー、それは警察で最大限に警戒します」

文香「私は、何とか来た場所の特定を……」

茄子「お願いします」

晴「それにしても、追うモノ、鏡のむこう、次は怪獣か」

志乃「相変わらず、黒幕は尻尾をつかませないわね」

文香「口封じもしていますから……」

晴「奏か……」

茄子「まずは、目の前のことに集中しましょう。ね?」

志乃「ええ。文香さん、経路を調べて」

文香「わかりました……」

茄子「私は、警察を通じて捜査を進めます」

志乃「ええ。これは私の勘だけれど」

晴「なんだ?」

志乃「早くしないと、次の被害者が出るわ。そんな気がするの」

19

深夜

古書店・Heron

文香「……」

志乃「文香さん……もう遅いわ」

文香「志乃さん……」

志乃「本を読んでるのね……」

文香「はい……今日、預かりました」

志乃「体が冷えるわ……せめて、自室に」

文香「あの……」

志乃「どうしたの……不安なことがあるなら、言って」

文香「これを預かったのですが……ここを見てください」

志乃「名前、文香さんが手放したものかしら……?」

文香「どこかの私が、残したものです……」

志乃「誰が、こんなものを」

文香「名刺を……この人です」

志乃「旅人ね……この本はどうするの?」

文香「私の物ですから……名前まで書いて大切にしていたものなら、私が持っていようかと」

志乃「いいわ」

文香「買い取ります……この世界にはありませんが、大量に流通してると思われます。保存状態から考えて、100円です」

志乃「妥当ね……その人、呼び出すのかしら」

文香「はい……」

志乃「一人で会わないで。お願いよ」

文香「わかっています……話せて安心しました」

志乃「文香さん……何も気にしないでいいの。私には迷惑をかけるの、いいわね?」

文香「ありがとうございます……おやすみなさい、志乃さん」

志乃「おやすみなさい、文香さん」

20

翌朝

北苗小学校・職員室

文香「おはようございます……」

美優「文香さん、おはようございます」

文香「図書室のカギ、お借りします……」

留美「む……」

文香「和久井先生はどうしたのでしょう……?」

持田亜里沙「おはよう、鷺沢さん」

真鍋いつき「おはよっ」

持田亜里沙
北苗小学校の教諭。5年2組の担任。腹話術を練習しているらしい。誕生日は8月24日。

真鍋いつき
北苗小学校の教諭。5年1組の担任。初恋は彼女の男子も多いとか。誕生日は12月29日。

文香「おはようございます……」

亜里沙「留美先生は今朝からしかめっ面です」

いつき「なんでかな?」

留美「あなた達にはさっき話したわ」

亜里沙「ふふっ。ダメですよ」

いつき「子供の前では笑顔です。はい、にー」

留美「わかってる。大丈夫よ」

文香「何かあったのでしょうか……?」

留美「気にしないで。それでも気になるなら、放課後に」

文香「えっと……」

亜里沙「放課後に聞きに来て、だって」

いつき「うんうん」

文香「そうですよね……そう聞こえました」

いつき「亜里沙せんせー、行きましょう」

亜里沙「はい、いつき先輩」

文香「私も……図書室に行かないと」

21

休み時間

北苗小学校・1階

晴「やっちまった……」

橘ありす「晴さん、どうしたのですか……また、ですか」

晴「げっ、橘」

ありす「げっ、じゃありません。また、ズボンに穴をあけたんですか」

晴「仕方ないだろ!低学年の子と遊んでたんだから」

ありす「遊ぶのはいいですが、あとちょっとで中学生なんですから」

晴「また怒られるな……サトシンの所に行くか」

ありす「まったく」

晴「ありすは何してたんだ?」

ありす「三船先生に質問に行ってました」

晴「小春もか?」

ありす「小春さん?」

晴「ほら、あそこにいるし」

ありす「職員室にはいませんでしたよ」

晴「小春!」

古賀小春「あれ~、晴ちゃん、ズボンはどうしたんですかぁ?」

ありす「いつも通りです」

晴「いつもじゃねぇよ。たまに、だ」

ありす「小春さんは何をしていたのですか」

小春「えっと~」

キンコンカーン……

小春「予鈴ですぅ。美優先生に怒られちゃうから、戻ります~」

ありす「行ってしまいましたね」

晴「オレも同じ教室に戻るんだけど」

ありす「何か探してたのでしょうか。スカートが汚れてました」

晴「イグアナの餌でも探してたとか」

ありす「それだったら、隠しません。隠して欲しいくらいです」

晴「だな。まっ、小春にも秘密の遊びくらいあるだろ」

ありす「鏡のむこうが、あったりしませんか」

晴「……それは、ねーちゃんに相談だ。探してもらおう」

22

お昼休み

北苗小学校・図書室

晴「ねーちゃん」

文香「晴ちゃん、こんにちは……」

晴「今、大丈夫か」

文香「はい……何かお探しでしょうか」

晴「別の世界を探してる」

文香「それは……私もです」

晴「でもさ、オレ放課後は付き合えないんだ」

文香「一斉下校ですか……」

晴「ああ。後輩を送り届けないとな」

文香「それが、良いと思います……私、1人で」

晴「ねーちゃんも狙われてんだろ?」

文香「今は……特に問題ないようですが」

晴「今はなくても、起こったら終わりだろ」

文香「……そうですね、すみません」

晴「だから、今だ」

文香「どういうことでしょう……?」

晴「今のうちに探す」

文香「なるほど……ですが、司書のお仕事が」

晴「橘、ここは頼む」

ありす「文香さん、任せてください」

文香「わかりました……ありすさん、お願いします」

晴「あんまり時間がない。どこに行く?」

文香「ならば……地下倉庫です」

23

北苗小学校・地下倉庫

晴「前より、綺麗になったな」

文香「古本を処分しましたから……」

晴「ねーちゃん、どうだ?」

文香「やはり……向こうから閉じられています」

晴「開けた形跡は、あるか?」

文香「わかりません……あっ……」

晴「どうした、おっ」

文香「珍しい……『本』の方から字が」

晴「見えちまった……ごめん」

文香「大丈夫ですよ……向こうの私、が残したものですから」

晴「……」

文香「読みましょう……」

晴「……わかった」

文香「危ないから来ないでください……争い事が続いています」

晴「……」

文香「生きるには大変な世界です……逃げたくなるような所です」

晴「そのまま、ねーちゃんが読んでくれ」

文香「ここでない、どこからなら、幸せかもしれません……」

晴「……」

文香「でも、平和のためにがんばってる人がいます……」

晴「これで、終わりか」

文香「もう一文あります……」

晴「なんて書いてあるんだ?」

文香「だから、こちらから閉じれるようにしました。どうか、お元気で」

晴「どういう意味だ?」

文香「そのまま、だと思います……向こうから、誰かが閉じているようです」

晴「閉じる奴がいるなら、開けられる奴もいるな」

文香「そう……そうですよね」

晴「何かが向こうから来てるかもしれない」

文香「ええ……逃げられるのなら、それが幸せもかもしれません」

晴「それが、怪獣の可能性だってあるだろ」

文香「どうして……そう思うのですか」

晴「そこだ」

文香「そこ……?」

晴「何か、落ちてる」

文香「ふむ……土でしょうか」

晴「土なんか、あるのか?」

文香「ありませんね……小学校は土足厳禁ですから」

晴「なら、誰かが持って来たはずだ」

文香「どこか違う世界から……」

晴「ここは扉のカギが内側から開けられる」

文香「出れると……」

晴「でも、なんかオカシイな」

文香「ええ……誰かが閉めないといけません」

晴「誰だ?」

文香「わかりませんが……カギさえ持っていければ誰でも」

晴「うーん……」

文香「先生に聞いてみます……休み時間が終わりますよ」

晴「やべっ、もうそんな時間か。またな、ねーちゃん」

文香「はい……また」

24

喫茶・St.V

St.V
北苗商店街にある、紅茶が美味しい喫茶店。マスターは相原雪乃。

志乃「こんにちは」

槙原志保「いらっしゃいませ!」

槙原志保
St.Vのウェイトレス。よく動きよく働く原動力はパフェ。誕生日は4月27日。

志乃「空いてるかしら」

志保「あら、柊さん!お好きな席へどうぞ!」

志乃「ありがとう」

志保「今日は、古書店はお休みですか?」

志乃「臨時休業よ。あっちで呼んでるわ」

志保「あっ、少々お待ちください!」

志乃「ここに座ってもいいかしら……?」

惠「いいですけど……他にも席は空いてますよ」

志乃「いいのよ……あなたに話を聞きに来たのだから」

惠「私、ですか。ランチを食べ終わったところなのだけど」

安部菜々「いらしゃいませっ!」

安部菜々
St.Vの店員。童顔小柄で年齢不詳。メイド喫茶仕込みのサービス可能(無料・繁忙時不可)。誕生日は5月15日。

志乃「こんにちは、菜々ちゃん。この前は付き合ってくれてありがとう」

惠「お知り合いですか?」

志乃「お酒が飲める人は全員知り合いよ」

惠「店員さん、さっき17歳って……」

菜々「し、志乃さん!営業妨害です!」

惠「大丈夫よ。永遠の17歳なことに変わりはないわ」

菜々「それはそれで、問題が……」

志乃「今日の紅茶をちょうだい」

菜々「ブランデーは入れますか?」

志乃「入れないわ。アルコールが入ってなくても飲むわよ。たまには」

惠「たまになんですか……」

志乃「あなた、紅茶をご馳走するわ。私とお話でもどうかしら」

惠「仕事がありますので」

志乃「仕事だから、了解ということね」

惠「……ごちそうになるわ。私にも同じものを」

菜々「かしこまりました!マスター、本日のブレンド二つでーす!」

志乃「あなた、菜々ちゃんに聞かれた?」

惠「何をですか?」

志乃「ウサミンメイドのおもてなしか、普通か」

惠「聞かれました」

志乃「どっちにしたの?」

惠「もちろん、ウサミンメイドを」

志乃「……」

惠「なんですか、その表情は」

志乃「第一印象よりも愉快な性格ね、あなた」

25

喫茶・St.V

相原雪乃「ごゆっくり、おつろぎくださいませ」

相原雪乃
St.Vのマスター。物腰等々柔らかそう。誕生日は2月14日、店名の由来だと思われる。

志乃「ありがとう」

惠「私に、何か聞きたいことでも」

志乃「挨拶してはいけないかしら……?」

惠「そうですか……私のことは先ほど紹介した通りです」

志乃「刑事さん、なのよね」

惠「はい。今回の事件を担当しています」

志乃「目的は、主に聞き込み」

惠「ご迷惑をおかけしてるわ」

志乃「それで、不思議なウワサを聞いたのだけれど」

惠「……なんでしょう」

志乃「ライオンでもいるのかしら?」

惠「私が聞きたいわ。この街にいるのかしら」

志乃「いないわ。あなたが聞いて回っているらしいから、尋ねただけ」

惠「……」

志乃「事件と関係があるのかしら……?」

惠「あなたの目的がわからないわ」

志乃「目的は、平穏よ。文香さんと穏やかな古書店経営を、それだけ」

惠「なら、目的は同じです」

志乃「そう?教えてくれるかしら」

惠「いるかどうかで言えば、わかりません」

志乃「犯人が獣使いという可能性は?」

惠「わかりません」

志乃「死因が獣に襲われたことの可能性は?」

惠「わかりません」

志乃「意地でも断定しないのね」

惠「決めつけてはいけません」

志乃「決めつけてはいけないなら、否定もしないのね。対策はしてるのかしら」

惠「……ご内密に。業者が来ます」

志乃「そう……」

惠「あなた……いえ、なんでもありません」

志乃「お互いさまでしょう。他に、見つけたことはある?」

惠「犯人に繋がる証拠は何も」

志乃「例えば、被害者からは辿れないかしら」

惠「二人目の被害者がこの街に来ていた理由はわかりました」

志乃「あら……そうなの?」

惠「ええ。会っていた人物からお話も既に聞いています」

志乃「何が目的だったのかしら……?」

惠「治療……というほど大仰ではありませんが」

志乃「治療?」

惠「カウンセリングです。治療というよりは悩みを聞いてもらった程度ですけれど」

志乃「ということは……高峯さん?」

惠「はい。彼女は特に事件とは関係ないようですが」

志乃「話でも聞いてみようかしら……」

惠「業者が到着したから、呼び出しが来たわ。ごちそうさま」

志乃「……犯人、捕まえられる?」

惠「善処します。何かあればお知らせください」

志乃「ええ……ご健闘を」

惠「失礼します」

26

放課後

北苗小学校・職員室

亜里沙「晴ちゃん、こずえちゃんをよろしくね」

遊佐こずえ「ふわぁ、はるー、いっしょにかえるのー」

遊佐こずえ
北苗小学校の5年生。のんびりとした性格。誕生日は2月19日。

晴「おう。行くぞ、こずえ」

こずえ「つなぐのー」

晴「え?」

こずえ「おててつないで……かえるのー」

晴「参ったな、わかったよ。ほら」

文香「あら……仲良しですね」

晴「ねーちゃん、今日は終わりか?」

文香「はい……お仕事は終わりです」

こずえ「はるー、かえるのー」

晴「わかったわかった。こずえ以外も待ってるからな」

亜里沙「こずえちゃん、さようなら」

こずえ「ありさー……ばいばい」

文香「さようなら……」

亜里沙「文香さん、カギは預かるわ」

文香「ありがとうございます……あの」

亜里沙「どうしたの?」

文香「和久井先生はいらっしゃいますか……?」

亜里沙「ええ。朝の話、気になったのかな?」

文香「はい……少し気になったので」

亜里沙「今は会議スペースにいるの。気になるなら、子供達の話を聞いてあげてね」

文香「子供達の……ですか」

亜里沙「ちょっと怖いと思うことがあったのね。あなたも聞いてあげて。それだけでも安心するから」

27

北苗商店街・迷い込みの空き地

早苗「惠ちゃん、お疲れ」

惠「お疲れ様です」

早苗「紹介するわね、大和さんよ」

大和亜季「大和亜季であります!今回はよろしくお願いするであります」

大和亜季
害獣・害虫駆除業者の社員。豹、鹿、カンガルー、ワニガメ等の捕獲実績がある。誕生日は12月16日。

惠「ご丁寧にどうも。巡査の伊集院です」

早苗「資料は読んでくれた?」

亜季「もちろんであります。極秘ミッションでありますな」

惠「時期に漏れるわ。ベラベラと話さなければ、それで」

亜季「ふむ。もう一度、目的を確認しても良いでありましょうか」

早苗「ええ。目的は獣を捕まえること」

惠「野に放たれているか、誰かがけしかけているかはわからないけれど」

亜季「200キロとは大物でありますな」

早苗「実績はあるんでしょ?」

亜季「お任せあれ。ただ、気になることがありまして」

惠「何かしら?」

亜季「野に放たれているなら、どこかに食事痕はあったでありますか?」

早苗「惠ちゃん、あった?」

惠「一か所だけ。パン屋の廃棄場所ね」

亜季「野放しの可能性は否定できないでありますな。どこかに、隠れているでありましょうか」

早苗「ええ。夜行性なのかしら?」

亜季「例えばライオンなどは夜行性であります。十分に考えられるかと」

惠「ここは使っていいわ。資材でも罠でも自由に置いて」

亜季「了解であります。それと、もう一点はこの写真であります」

早苗「爪で切られたような傷の写真ね。見覚えある?」

亜季「これは、本当に動物の爪でありますか?」

惠「違うと?」

亜季「うーん、断定はできないでありますが。その可能性だけはお伝えしようと」

早苗「不発の可能性もあるってことね」

亜季「正直な話をしますと、獣を御せるとは思わないであります。人間だけの方がこれ以上の不幸は小さいと思うであります」

早苗「費用は気にしないで。万が一は困るから」

惠「ええ」

亜季「わかってるであります」

惠「お願いするわ」

早苗「情報は適宜伝えるわ」

亜季「動物は私にお任せください!警察は犯人の検挙を!」

惠「もちろんよ」

28

北苗小学校・職員室

文香「何かが着いてくるのは……怖かったですね」

横山千佳「そうなんだよー!」

横山千佳
北苗小学校の3年生。留美先生に変身セットを没収されたことがある。それで留美先生がポーズを決めていたのを見てなんかいない。誕生日は12月18日。

文香「正体は……わかりましたか?」

千佳「ううん、わからない。悪い魔法使いとか?」

文香「魔法使いですか……?」

留美「アニメの見過ぎじゃないかしら」

千佳「そうじゃないよ!チカは見たんだから!」

文香「なにを……でしょう」

千佳「すっごい大きな影だったんだよー、でも消えちゃった」

文香「消えた……」

留美「私は車のライトで大きく見えたと思うのだけれど。文香さんはどう思うかしら?」

文香「横山さんは……何に追いかけられていたのですか」

千佳「わかんない」

文香「何か……特徴だけでもあれば」

千佳「えっと、何か聞こえたような」

文香「どうのような、音でしょうか……」

千佳「ぐるるる、みたいな……」

留美「うめき声……?」

文香「動物が威嚇する声、でしょうか……」

千佳「そうだったかな?」

文香「では、どうして、追いかけるのをやめたのでしょうか……?」

千佳「なんでだろー?」

市原仁奈「がおーっ!ライオンの気持ちになるですよ!」

市原仁奈
北苗小学校の3年生。キグルミのような私服を着ている。誕生日は2月8日。

文香「わっ……こんにちは」

仁奈「市原仁奈でごぜーます!」

文香「私は鷺沢文香です……彼女はどうしてこちらに……?」

留美「横山さんと帰る方向が一緒だから、待っててもらってるの」

仁奈「それだけじゃないでごぜーますよ」

留美「横山さんが見たかもしれないものを、市原さんも見てるわ。追われてるわけではないけれど」

仁奈「そうでごぜーます。聞きやがりますか?」

文香「はい……」

仁奈「大きな爪を持つ、人間だったでごぜーます」

文香「人間……?」

千佳「仁奈ちゃん、違うよー。動物だったよ」

仁奈「立ち上がったライオンかもしれないでごぜーます……自信がなくなってきやがりました」

留美「こんな調子よ」

文香「和久井先生、怒っていますか……?」

千佳「そうなの?」

仁奈「ごめんなさいでごぜーますよ」

留美「あなた達に怒ってるわけじゃないわ。安心して」

文香「聞きそびれてしまいました……どうして、追うのをやめたと思いますか」

仁奈「肉食獣の気持ちになるですよ……」

千佳「何かにびっくりしたとか?」

留美「誰かに見られた」

文香「目撃者がいたから、諦めた……」

仁奈「わかったでごぜーます!」

留美「どうしたの、市原さん?」

仁奈「天敵がいたでごぜーますよ!そうに違いないでごぜーます」

文香「天敵……」

留美「犯罪者なら警察ね」

文香「警察関係者……誰かいましたか」

留美「派出所の鷹富士さんとか、近くにいたかしら」

千佳「交番のお姉さんじゃないけど、近くにいたよ。同じ学校の子」

文香「誰でしょう……?」

千佳「こはるちゃん、6年生の」

29

高峯ビル3階・ゾディアック

ゾディアック
高峯のあが経営するカウンセリング院。名前は経営者の趣味から。

志乃「こんにちは」

高峯のあ「……要予約よ」

高峯のあ
資産家。北苗商店街近辺には彼女が所有する土地と建物が数多くある。臨床心理士の仕事は暇つぶし。誕生日は3月25日。

志乃「知ってるわ……個人的な用事を」

のあ「なおさら話すことは……ないわ」

志乃「つれないわね。たまには飲みにでも……」

のあ「やめておくわ……」

志乃「相変わらず、世捨て人ね」

のあ「お褒めの言葉をありがとう……」

志乃「どうしてその性格でカウンセラーが務まるのかしら……?」

のあ「必ずしもコミュニケーションが必要とされてはいない。会話を続ける能力が、この仕事に必要なわけではないわ」

志乃「そう。それで、話をしてもいいかしら?」

のあ「手短に……今日はお客がもう一人いるの」

志乃「なら、一つだけ。星輝子さんという女の子についてなのだけれど」

のあ「話は聞いてるわ……お悔やみを」

志乃「あなたの患者だとか」

のあ「あの刑事から聞いたのね……そこにファイルが置いてあるでしょう」

志乃「ええ」

のあ「顧客リストよ……彼女の名もそこに記されている」

志乃「個人情報だわ……いいのかしら」

のあ「覚悟があるのなら……どうぞ」

志乃「彼女の名前だけ確認できればいいの、失礼するわ……」

のあ「見知った名前もあるでしょう……」

志乃「ええ……悪いことに巻き込まれたわ」

のあ「……」

志乃「ありがとう、確認したわ……」

のあ「真実はあるわ……嘘があるのは人の頭の中だけ」

志乃「目的は」

のあ「学校での意思疎通改善」

志乃「あなたが苦手としてそうね……大丈夫だったの」

のあ「解決傾向だったわ……意思を高めること、失敗を引きずらせないこと、残り何点かを導いただけ」

志乃「そう……」

のあ「私が苦手なこととは……別問題」

志乃「なにか、トラブルは」

のあ「ないわ……殺されるようなことは」

志乃「当日は」

のあ「ここを去った後は……知らないわ」

志乃「あなたは?」

のあ「一歩も外出してないわ……いつも通り」

志乃「久しぶりに会ったけど……また白くなったわね」

のあ「元からよ……」

志乃「もう少し、外に出たらいかがかしら……?」

のあ「……遠慮しておくわ」

志乃「……目的は聞けたわ、ありがとう。お邪魔したわね」

のあ「志乃」

志乃「あら、なに……?」

のあ「たまには……会いに行くわ。昼間なら古書店にいるかしら」

志乃「あら、歓迎するわ。営業日の昼間なら、いつでもいらっしゃい」

のあ「ええ……」

志乃「待ってるわ」

30

北苗小学校・職員室

美優「小春ちゃん……ですか?」

文香「何か……聞いていませんでしょうか」

美優「いいえ……何も」

瑞樹「あら、留美ちゃんは?」

文香「和久井先生は、横山さんと市原さんを送って行きました……」

瑞樹「そう。二人は何を話していたのかしら?」

美優「えっと……」

瑞樹「話してみなさい。何でも大丈夫よ」

美優「……」

瑞樹「秘密にしないといけないこと?」

美優「いえ、今回はそうではなくて……不思議な話を聞いたので」

文香「はい、不審者の話です……」

瑞樹「留美ちゃんが頭を悩ませているやつね。私のクラスの子からも聞いてるわ」

美優「そうなのですか……?」

瑞樹「夕方や暗い時に、何かに見られてる気がするんですって。この前は公園にいる時だったそうよ」

文香「どなたが言っていましたか……?」

瑞樹「佐城雪美ちゃんよ。敏感な子だから、何か見えるのかもしれないけれど」

美優「動物ですか?」

瑞樹「動物?雪美ちゃんはそんなことは言ってなかったけれど」

文香「何と……?」

瑞樹「たぶん……男の人……だそうよ」

美優「怖いですね……」

瑞樹「でも、そういう情報はないのよね。ライオンが出たとかいう話は聞くけど」

文香「もうウワサになってるのですか……?」

美優「もう……とはどういう意味でしょうか」

文香「いいえ、深い意味はありません……ウワサの伝搬は早いな、と……」

瑞樹「本当ね」

美優「あの……瑞樹さん」

瑞樹「なに?」

美優「雪美ちゃんは、怪しい人が逃げたのを見ましたか……?」

瑞樹「ええ。そう言ってたわ」

文香「誰かが来た、とかでしょうか……?」

瑞樹「あれ、もう話してたかしら?その通りよ」

美優「小春ちゃんですか……?」

瑞樹「ええ」

美優「……」

文香「やはり……」

瑞樹「小春ちゃん、がどうかしたの?」

文香「小春ちゃんからは逃げているようです……」

瑞樹「小春ちゃんから?あの小春ちゃんよ?」

美優「はい……小さくて可愛い小春ちゃんです」

文香「のんびりとした話し方の、古賀さんです……」

美優「イグアナが大好きで……」

瑞樹「お姫様みたいな小春ちゃんからどうして逃げるのよ?」

文香「わかりません……そもそも、何が逃げたのでしょう……」

瑞樹「小春ちゃんに話でも聞いて来たら?お家にいると思うし」

文香「そうですね……三船先生がいいのなら」

瑞樹「善は急げよ。美優ちゃん、今日にでも行って来たら?」

美優「あら……こんな時間です」

瑞樹「どうしたの?」

美優「予定があるので、失礼します……小春ちゃんのことは明日に」

瑞樹「あら、そうなの?またね、美優ちゃん」

美優「はい……失礼します」

文香「また明日……」

瑞樹「美優ちゃん、毎週月曜日はいないのよね」

文香「習い事でもしてるのでしょうか……?」

瑞樹「婚活?」

文香「川島先生は、いかがでしょうか……?」

瑞樹「私は恋人がいるわ」

文香「そうだったのですか、どちらの方でしょう……」

瑞樹「学校よ」

文香「職場恋愛……先生方には多いのでしょうか……?」

瑞樹「私の恋人は、子供達よ!毎日幸せだわ!」

文香「……」

瑞樹「そんな顔しないでよ……絶賛募集中ですぅー」

文香「責めてるつもりは……」

瑞樹「ところで、文香さんは帰らないの?図書室はもう閉めてるでしょ?」

文香「迎えが来るので……」

瑞樹「志乃さん?」

文香「はい……危ないから一人で帰らないようにと」

瑞樹「志乃さんが過保護なのも、わかるわ」

文香「どういうことでしょう……」

瑞樹「なんか危なっかしいから、目が離せないの。教師のサガね」

31

レコードショップ・ロータス

蓮実「確か、この棚にあったような……」

惠「閑散としてるわね」

蓮実「事件から昨日の今日ですから」

惠「一人になるのは避けてちょうだい。夜道は歩かないこと」

蓮実「わかっています」

惠「怪しい人を見なかったかしら?」

蓮実「いいえ。事件が起こってるなんて思えないくらい、平和です」

惠「そう……」

蓮実「そう言えば、見慣れない女の子は見ましたよ」

惠「どんな子だったの?」

蓮実「中学生くらいの二人組です。二人とも髪は染めてました」

惠「金髪?」

蓮実「はい。たまたま通りがかっただけかも知れないですけど」

惠「他に特徴は?」

蓮実「二人のうち一人は、よく似てました」

惠「似てた?」

蓮実「アイドルの城ヶ崎莉嘉ちゃんです。そこのポスターに貼ってある、美嘉ちゃんの妹の」

惠「ふーん……」

蓮実「あっ、ありました!」

惠「見せて」

蓮実「玲音の限定CDですっ!メジャーデビュー前のライブで販売された、カバーアルバムですよね?」

惠「凄い……」

蓮実「CDデビュー前にも関わらず、圧倒的な実力で有名でした。このライブももはや伝説です」

惠「……本当にあるなんて。ネットでも買えないのに」

蓮実「どうぞ、手に取って見てください」

惠「お値段は……」

蓮実「開封済みですから。少しお安めです。未開封なら凄いお値段ですよ」

惠「うぅ……」

蓮実「?」

惠「買うわ、買ってやるわ」

蓮実「ありがとうございます!」

惠「いいの、惠。たまにはいいのよ……」

蓮実「保護ケースはサービスです」

惠「ありがとう」

蓮実「どういたしまして。私の家のお店は、こういう機会を大切にしてるんです」

惠「そっちじゃないわ」

蓮実「そっちじゃない?」

惠「二人組の話。調べてみるわ」

32

古書店・Heron

文香「この袋はなんでしょう……」

志乃「手紙が入ってるわ。あら、古澤さんね」

文香「買取のお願いですね……」

志乃「来てくれたのに申し訳ないわ……」

文香「少しオマケをして、許してもらいましょう……」

志乃「そうね」

文香「あ……」

志乃「なにか、見つけたかしら」

文香「今日は……もうお店をあけませんか?」

志乃「そのつもりだけど……どうしたのかしら」

文香「この本……連絡しようかと」

志乃「旅人ね……」

文香「はい……今からお呼びしても良いですか」

志乃「ええ……ここで会いましょう」

文香「ありがとうございます……」

33

古書店・Heron

文香「はい……お待ちしてます……」

志乃「つながったようね」

文香「ええ……今から来るそうで……」

芽衣子「こんにちは!」

志乃「……ずいぶんとお早い到着で」

芽衣子「そっちの理由を知りたいの?」

文香「いらっしゃいませ……違います」

芽衣子「昨日の買い取りの話?」

文香「はい……」

芽衣子「良かった!ほとんどこの世界のお金を持ってないから困ってたんだ」

志乃「……」

文香「こちらの二つは……昨日言った通り、1冊2万円です……」

芽衣子「もう一冊は?」

文香「100円です、珍しいものではありません……」

芽衣子「ふーん」

志乃「不満そうね」

芽衣子「金額に不満はないよ。それでオッケー」

志乃「お渡しするわ……身分証明書はあるかしら」

芽衣子「免許証でいい?」

志乃「あるの……?」

芽衣子「あるよ?外国で運転したいから、国際免許証も」

文香「確かに、偽造ではなさそうですね……」

芽衣子「何か、気になる?気になるなら聞いた方がいいよ?」

文香「……」

志乃「文香さん」

芽衣子「ま、そっちが言わないなら私が言うね」

文香「……この本はこの世界に存在しません。ここに名前が書かれた私も、私ではありません」

芽衣子「知ってるよ」

文香「あなたも、別の世界に移動できるのですか……?」

芽衣子「あなたも?」

文香「はい……ここは別の世界と近いのです。そのせいで、事件も起きています」

志乃「……」

芽衣子「知ってる。楽しそうだから、私もここにいるんだ」

文香「事件に関わっているのですか……」

芽衣子「ううん。私は見てるだけ」

文香「事件の犯人を知っていますか……?」

芽衣子「もちろん」

志乃「え……?」

文香「どうやって……」

芽衣子「あっ、もしかして、時間軸は移動できないの?」

文香「あなたは、出来るのですか……?」

芽衣子「もちろん」

志乃「嘘でしょう……?」

芽衣子「何か勘違いしてない?」

文香「勘違い……」

芽衣子「私は、あなたが行ける世界から来たわけじゃないよ?」

文香「……」

芽衣子「もっと遠くから。楽しいことを求めて」

文香「まさか、この事件の結末を知ってるのですか……」

芽衣子「知らないよ。ここって不思議なんだよね、同じ時間を進んだり戻ったりできないんだ」

志乃「言ってる意味がわからないわ……」

芽衣子「普通の次元なら、色んな可能性があっても重ね合わせて一つの線を結ぶんだ。捨てられた可能性はあるけど、重ねあって見えない。だから、一つしかない」

文香「ここは違うと……」

芽衣子「それはあなたが一番わかってるよね?」

文香「……ええ」

芽衣子「そういうことだから、ここがどうなるか私にはわからない」

文香「……」

芽衣子「物語のように、わからない方が面白いでしょ?」

文香「でも、あなたにはこの物語を、強い力で捻じ曲げる力がある……」

芽衣子「あなたみたいに制限された、空間と時間の移動じゃないから」

志乃「なんでもできるのね……」

芽衣子「ルールはあるよ。同じ時に同じ場所に現れない、私は一人しかいない、の二つかな」

文香「まるでデウス・エクス・マキナのよう……」

芽衣子「私は神様じゃないよ。だって、神様のようにふるまっても面白くないもん」

志乃「……」

芽衣子「もしかして、私にお願いする?神様だったら、祈れば叶えてくれるかも?」

文香「……」

芽衣子「だって、この事件の犯人も黒幕も私よりは凄い能力ないもん」

文香「お断りします……」

志乃「文香さん……」

文香「機械仕掛けの神様、お願いです、何もしないでください……ここは、私と私達の問題です」

芽衣子「わかった。見守ってるだけにするね」

文香「信じてもいいのですか……」

芽衣子「うん。買取のお金だけ貰っていい?」

志乃「どうぞ……」

芽衣子「ありがとう。ここでもご飯が食べられる」

文香「……」

芽衣子「見てるだけにするね。私は事件には関わらないから、もともと関わってもいないけど」

文香「なら……この事件は、私達だけの問題なのですね」

芽衣子「そうだよ。ここから枝分かれした可能性のどこかと繋がっているだけ」

文香「わかりました……」

芽衣子「最後に、一個だけ」

文香「なにでしょう……?」

芽衣子「その本ね、あっちの彼女は凄いお気に入りなんだ。読んであげて」

文香「そうなの、ですか……?」

芽衣子「そこのあなたと結ばれた、どこかのあなたが尊敬する人が好きな本なんだって。強くて、カッコいい王女様のオススメだよ?」

文香「……」

芽衣子「あっ、神様っぽかった?」

文香「はい……私の未来が少し変わってしまいました」

芽衣子「少し話をするくらいは許してね?」

志乃「……できれば、いなくなってほしいわ」

芽衣子「あはは。お姉さんの正直な所、私好きだな」

志乃「どういたしまして……」

芽衣子「それじゃ、開けごま!」

文香「わっ……」

芽衣子「ばいばーい♪」

志乃「消えた……」

文香「消えました……」

志乃「はぁ……肝が冷えるわ」

文香「……ひとつ、重要なことが聞けました」

志乃「なにかしら……」

文香「事件はこの世界のものです……犯人もどこかに」

志乃「そうね……」

文香「この本……読んでみます」

志乃「信じるの?」

文香「あっちの私はいません……生きて、この本を取ることがないのなら、せめて私が」

志乃「……そうね」

文香「……あ」

志乃「お腹、空いたわね。今日は外に食べに行きましょう」

文香「……はい」

34

北苗商店街・派出所

惠「ただいま、帰りました」

茄子「おかえりなさい。いかがでした?」

惠「特別な収穫はなかったわ。あなたは?」

茄子「私もありませんでした」

惠「これから、夜勤かしら?」

茄子「はい。惠さん、お夕飯食べましたか?」

惠「ええ。仮眠室、お借りしていいかしら」

茄子「いいですけど……今日は帰らないのですか?」

惠「そのつもりだけれど。犯人、夜に行動してるみたいだから」

茄子「がんばり過ぎは体に毒ですよ?」

惠「使命を果たせないなら、そっちの方が毒よ」

茄子「使命感、難しい感情ですね」

惠「私でも良くわからないわ。でも、しないといけないとずっと思ってるの」

茄子「なんとなく、ですか」

惠「そういうものじゃないかしら。あなたも、警察になった理由を突き止めれば、もやもやとした感情に辿り着くと思うわ」

茄子「そうかもしれません」

惠「少し休むわ。日が越えたくらいに、また」

茄子「はい。お疲れ様でした」

35

深夜

北苗商店街・迷い込みの空き地

亜季「準備完了であります!とは言うものの、目的の写真すらないでありますからなぁ」

亜季「可能な限り大きいものを準備したでありますが、必要になるのでしょうか」

梨沙「ふーん、空き地に目隠しがしてあると思ったら」

亜季「わっ!驚かせないでくださいであります」

梨沙「これ、なんなの?」

亜季「もう深夜でありますよ。子供は帰るであります」

梨沙「質問に答えるのが礼儀でしょ?なにをしてるの?」

亜季「……秘密でありますよ?」

梨沙「アタシにも秘密があるわ。おあいこね」

亜季「実は、ライオンのような大きな獣が逃げたという話があるであります」

梨沙「で、罠でとらえようとしてるのね」

亜季「はい。灯りとエサの単純なものでありますが」

梨沙「そこに置いてあるのはなに?」

亜季「麻酔銃でありますよ。他にも万が一に備えて準備をしてるであります」

梨沙「ふーん。使えるのはアナタだけ?」

亜季「ここには私だけであります。社員は他にもいるでありますが」

梨沙「わかったわ。もう一つだけ、質問させてちょうだい」

亜季「答えたら、家に帰るでありますよ」

梨沙「アンタの名前は?」

亜季「大和亜季であります」

梨沙「やまとあき……あったわ。最近追加されたのよね。ありがと」

亜季「その手帳に、何が書いてあるでありますか?」

梨沙「狩りの標的と、出来た時のゴホウビよ」

亜季「今、なんと?」

梨沙「恨まないでよ?だって、そうしないと生きていけないの」

グルルルル……

亜季「はっ……」

梨沙「あら、電気棒も持ってるじゃない」

亜季「どこから入ってきたでありますか……私に気づかれずに、え……?」

梨沙「えいっ♪」

亜季「が、爪、どこから……」

梨沙「やっちゃいなさい」

6/12

36

北苗商店街・派出所

茄子「惠さん、惠さん」

惠「どうしたの?コーヒーでも淹れる?」

茄子「それは後に。事件です」

惠「……本当に?」

茄子「はい。場所は空き地です、行きますか」

惠「ええ」

茄子「片桐巡査もすぐに来ますから、急ぎましょう」

37

北苗商店街・迷い込みの空き地

早苗「行動が早いわ」

惠「……」

早苗「殺されたのはいつ?」

茄子「日付が変わる前後だと思います」

惠「第一発見者は?」

茄子「たまたま通りがかった雀荘BBの娘さんです。派出所に電話がありました」

早苗「なんて言ってるの?」

茄子「血まみれだったので、怖くなって電話したそうで」

惠「中には?」

茄子「誰も入っていないと思います」

早苗「なら、そのまま残されているわけね」

惠「血のニオイがするわ……」

早苗「目撃者は?」

茄子「いません」

早苗「こんなに大きな足跡があるのに?」

茄子「それでも、です。これまで通りと同じですね」

早苗「ガイシャは……これまた酷いわね」

惠「最初に爪で切られてるわ。死因はその後に」

早苗「何かに襲われて、ね」

茄子「でも、おかしくありませんか」

惠「ええ。抵抗してなさすぎよ」

早苗「無抵抗にやられてるわ」

茄子「顔見知りの犯行でしょうか?」

惠「いずれにしても、彼女は油断していた」

早苗「たぶんね。でも、犯人は失敗したわ」

茄子「そうなんですか?」

早苗「ええ、あそこを見なさい!監視カメラが……」

惠「破壊されてます」

茄子「グシャグシャに踏みつぶされてますね」

早苗「前言撤回。地道に行くわよ」

38

深夜

古書店・Heron

志乃「文香さん……起きてるかしら」

文香「志乃さん……この本を読んでしまおうと思って」

志乃「どうだったかしら……?」

文香「向こうの私もファンタジーが好きなようです……精霊と暮らす穏やかな日々が描かれています。挿絵も綺麗です……」

志乃「そう……」

文香「涙もついていました、何度も何度も読んで汚れています……大好きだったと思います……」

志乃「でも、夜更かしは良くないわ。そう、言いたいところだけれど」

文香「事件ですか……」

志乃「電話が来たの。頼子さん、帰っていないそうよ」

文香「え……?」

志乃「事件も起こってるわ。もう一つ増えるかも、というところね」

文香「……」

志乃「捜査は警察にお任せするわ。頼子さんがどこに行ったか、わからないでしょう?」

文香「ええ……」

志乃「今日はおやすみなさい。明日、状況を聞きましょう」

文香「わかりました……おやすみなさい」

39

翌朝

古書店・Heron

茄子「おはようございます」

文香「茄子さん、おはようございます……」

茄子「これから学校ですか?」

文香「はい……」

茄子「少しだけ、お話大丈夫ですか?」

文香「大丈夫です……時間には余裕があります」

茄子「古澤頼子さんの死体も見つかりました」

文香「……」

茄子「夕方にこの店を訪れると連絡していたそうです。お会いしてます?」

文香「会ってはいません……本は受け取りました」

茄子「ここに来たのは間違いないですね」

文香「おそらく……」

茄子「その後ですか」

文香「どこで見つかったのですか……?」

茄子「雑居ビルの屋上です。どうして、そこにいたのかわからなくて」

文香「私もわかりません……」

茄子「ありがとうございました。あの、文香さん」

文香「なんでしょう……」

茄子「夕方にお時間ありますか?」

文香「わかりました……」

茄子「お願いします。警察はお手上げの状態です」

文香「犯人は同じ、ですか……」

茄子「それだけは、確かだと思います」

文香「わかりました……私は、気になることを聞きましたから」

茄子「何かわかりました?」

文香「これから確認します……出来るだけ早めに帰ってきます」

40

北苗小学校・図書室

晴「小春?」

文香「はい……」

晴「小春が関わってるとは思えないんだけど」

文香「それは、私もです……」

晴「むー」

文香「放課後に三船先生にお時間も取っていただきました……」

晴「その前に、ちょっと聞いてみる」

文香「お願いします……」

晴「でも、小春かぁ」

文香「少なくとも何かと関係があります……」

晴「わかってるよ。ねーちゃんも、気をつけろよ」

文香「私……ですか」

晴「ねーちゃんが狙われてないのも、たまたまかもしれないだろ」

文香「そうですね……」

晴「小春のことは任せとけ。またな、ねーちゃん」

41

休み時間

北苗小学校・図書室

文香「ふむ……」

龍崎薫「おねえちゃん、なにみてるのー?」

龍崎薫
北苗小学校の3年生。留美先生のクラスの元気な女の子。最近は料理を習ってるとか。誕生日は7月20日。

文香「こんにちは……料理のキホンという本です」

薫「おねえちゃんも料理するの?」

文香「最近、やるように……」

薫「すごーい!上手なの?」

文香「ぜんぜん、です……簡単そうで難しいですね」

薫「かおるもお料理、べんきょうしてるんだー。一緒だね!」

文香「はい……何か、良い本を知ってますか?」

薫「うん!待ってて、持ってくるから!」

文香「はい……ですが、図書室ではお静かに」

薫「えっとぉ、これだよ!」

文香「ありがとうございます……読んでみますね」

薫「読むだけじゃダメだよ!ちゃんと、練習しなきゃ」

文香「ふふ……そうですね、練習します」

薫「今ね、すぐにお家に帰らないといけないし、外にも行けないから、かおるね、お家でお料理してるんだよ」

文香「……すみません」

薫「あれ?どうして、おねえちゃんがあやまるの?」

文香「最近、怖かったことはありませんか?」

薫「ないよ?」

文香「何も、ですか……?動物に追いかけられた、とか」

薫「ないよー」

文香「安心しました……でも、家にいてください。事件が解決するまでは」

薫「うん!るみせんせぇも言ってたから、かおる、お家にいるよ」

文香「お願いします……」

薫「あっ、忘れてた。これ、貸してください」

文香「はい……期限までのご返却を」

42

北苗商店街・派出所

早苗「ありがとう。また連絡するわ」

茄子「なんの連絡ですか?」

早苗「同じ傷だったわ。犯人は同じだって」

茄子「やっぱりですか」

惠「殺害時刻は?」

早苗「古澤頼子さんは19時前後、大和亜季さんは24時前後」

茄子「夕方に堂々と犯行を、ですか」

早苗「そうみたいね。前も同じだったわ」

惠「もし、今日動くならば」

早苗「夕方の早い時間かしら」

惠「でしょうね」

早苗「やけに、自信があるわね」

惠「起きて、お腹が空いたら動きはじめるでしょう」

早苗「惠ちゃん、何か見つけたわね」

惠「地図だと、ここね」

茄子「神社の裏側ですね」

惠「これが落ちてたわ」

早苗「未開封のレトルト食品じゃない」

茄子「これ、美味しいんですよー。少し高いですけど」

惠「どうして、落ちてたのかしら?」

茄子「落ちてたんですか?」

早苗「誰かが置いてる、って?」

惠「そうじゃないかしら。持って来たのはこれだけど、他にもあるはずよ」

早苗「置いておいて、誰かが回収してる?」

惠「そもそも、目的は何かしら?」

早苗「まさか、報酬目的?」

惠「それは想像に過ぎないけれど」

茄子「ふむ……」

早苗「他には見つけたの?」

惠「いいえ」

早苗「うーん……」

惠「……」

茄子「惠さん?」

惠「何でもないわ。聞き込みに行ってくるわ」

早苗「待って。私も行くから」

茄子「いってらっしゃい」

早苗「茄子ちゃん、非番でしょ?ちゃんと寝るのよ、いいわね」

茄子「わかってます。おやすみなさい」

43

お昼休み

北苗小学校・図書室

雪美「……」

文香「……」

雪美「……」

文香「……」

雪美「文香……」

文香「あ……呼びましたか」

雪美「文香……助けてくれる……?」

文香「本をお探しですか……?」

雪美「ペロ……怖がってる……」

文香「……どうして、でしょう」

雪美「わからない……でも……文香……助けてくれる……」

文香「よくわかりませんが……」

雪美「前は……小春が……連れてきてくれた」

文香「事件のこと……ですか」

雪美「次は……文香」

文香「え……?」

雪美「……」

文香「……」

雪美「時間……次も授業……ばいばい……」

文香「は、はい……がんばってください」

44

北苗小学校・6年2組の教室

小春「何にもありませんよ~」

晴「本当か?」

小春「本当ですぅ」

晴「ライオンとかに追いかけられてないか?」

小春「えっと、ないですぅ」

晴「事件が起こってるの、知ってるだろ?」

小春「……」

晴「小春が、もし何か知ってるなら教えて欲しいんだ。解決したい」

小春「小春、わからないです~」

晴「……」

小春「……」

晴「なんか、隠してないか?」

小春「隠してませんよぉ」

晴「オレにも言えないことか?」

小春「……」

晴「頼む」

小春「言わない方が、いいですぅ」

晴「え?」

小春「みんな、好きじゃないからですぅ」

キーンコーンカーンコーン……

美優「はーい、席についてー」

晴「オレは小春の好きなものなら、嫌いになったりしないよ」

小春「嫌いなことばっかりの人、いますぅ」

晴「……放課後、話してくれ。頼む」

45

古書店・Heron

芽衣子「こんにちは!」

志乃「……何かごようかしら」

芽衣子「寄ってみただけ」

志乃「そう……」

芽衣子「常連さん、亡くなったんだよね」

志乃「……将来の上客を失ったわ」

芽衣子「どんな気持ち、ですか?」

志乃「気分は良くないわ……話すことでもないでしょう」

芽衣子「やっぱり、冷静だよね」

志乃「何が言いたいのかしら……?」

芽衣子「気持ちを落ち込ませるには、繋がりが足らなかった」

志乃「……」

芽衣子「また、来るね。ばいばい」

志乃「……さよなら」

46

放課後

晴「桃華、頼む」

櫻井桃華「もちろんですわ。お任せくださいませ」

櫻井桃華
北苗小学校6年1組の児童。皆と別れて、私立中学に通うのはちょっと寂しいらしい。誕生日は4月8日。

晴「出来んのか?」

桃華「まぁ!私を誰だと思ってますの?」

晴「櫻井桃華。昨日は学校まで迎えの車が来てた」

桃華「それはそれ、ですわ!上級生の責務、今日は果たしてみせますわ!」

こずえ「ももかー……かえるのー」

福山舞「こずえちゃん、じゃましちゃだめだよ」

福山舞
北苗小学校の4年生。最近、一輪車の新技を川島先生から習った。誕生日は1月21日。

桃華「お待たせしてしまいましたわね」

晴「じゃあな」

こずえ「はる……ばいばーい」

舞「さようなら!」

桃華「さぁ、お手を貸してくださいまし」

こずえ「つなぐのー」

舞「えへへ♪」

晴「むぅ……あれがオレとの違いか」

美優「晴さん」

晴「美優先生、どうした?」

美優「あの人達、知ってますか……?」

晴「あの、玄関で留美先生と話してる2人か?」

美優「スーツですね、どなたですか……?」

晴「刑事だよ。事件の調査をしてるらしいぜ」

美優「お知り合いですか?」

晴「あんまり話したことないけど。髪の長い方が伊集院巡査だったような」

美優「背の低い方のお名前は……?」

晴「背が低くて胸の大きい方は、名前は片桐だったと思う」

美優「そう……片桐さん……」

晴「美優先生?」

美優「はい?」

晴「刑事が気になるか?」

美優「いえ……そういうわけでは。気になってなんか、いません。いませんったら」

晴「そんなムキにならなくても……」

文香「あの……」

美優「すみません……晴さんを呼びに来たのに」

晴「小春が待ってるな」

文香「こちらへ、どうぞ……」

47

北苗小学校・校庭

早苗「ヒントになる?」

惠「……」

早苗「どうしたの、好みの子でもいる?」

惠「いえ。最近、会ったわ」

早苗「どっちに?」

惠「こっちの大人しそうな黒髪の子よ。公園でネコと遊んでたわ」

早苗「ネコ?まさか、でっかいネコじゃないわよね?」

惠「違うわ。クロネコよ」

早苗「見間違い、かしら」

惠「そう決めつけるのも早計よ」

早苗「どっちか、狙われると思う?」

惠「……私には何とも」

早苗「ねぇ、惠ちゃん」

惠「なにかしら」

早苗「気になることがあるの」

惠「気になること?」

早苗「獣はいないわ」

惠「根拠は?」

早苗「刑事の勘よ」

惠「信じます」

早苗「そんな簡単に信じちゃだめよ。根拠があるの」

惠「根拠……」

早苗「移動してきた痕跡がないわ」

惠「人が移動してきたと……?」

早苗「ええ」

惠「では、あの傷をつけるのはどうやって」

早苗「それは、これからよ」

惠「……」

早苗「犯人を捕まえればいいわ。でしょう?」

惠「ふふっ……」

早苗「夕方になるわ。気を引き締めるわよ」

48

北苗小学校・職員室

小春「小春、知りません~」

文香「……」

晴「ずっと、こんな感じだ」

美優「本当に、何も知らないの?小さなことでもいいのよ」

小春「本当に何も知らないですぅ」

晴「美優先生」

美優「川島先生も心配してるので……小春ちゃん、お願い」

小春「……」

晴「さっき言ってた、好きじゃないものって、なんだ?」

小春「言ってないですよ~」

晴「……ねーちゃん」

文香「……わかりました」

美優「文香さん……?」

文香「古賀小春さん……でしたね」

小春「はい~」

文香「最近、ペットが増えましたか……?」

小春「いいえー。小春のペットはヒョウくんだけですぅ」

文香「ヒョウくん、はイグアナですか……?」

小春「はい~。カワイイですよぉ」

文香「いつもお世話を、してますか……?」

小春「いつもですぅ」

美優「6年生になってからは、お母さんに任されてるのよね」

晴「趣味はともかく、偉いよな」

小春「えへへ」

文香「では、自信はありますね……」

小春「はい、ヒョウくんのことならなんでも知ってますぅ~」

文香「どうして……本を借りたのですか……?」

小春「本ですかぁ?」

文香「イグアナの飼い方です……」

美優「……」

文香「小春さんは、知らないことを調べるタイプなのですね……偉いです」

晴「小春」

小春「えっとぉ、それは確認したいことがあってぇ……」

文香「地下室……」

美優「地下室……?」

小春「小春、知らないですぅ……」

文香「あそこから、何が出てきましたか……?」

小春「穴から何にも出てきてないですぅ~」

美優「出てくる……まさか、幽霊ですか?」

小春「あ……」

文香「小春さん……何がいたのですか」

小春「……」

晴「小春?」

小春「いない、何もいなかったですぅ。今もいないですぅ……」

美優「小春ちゃん……?」

小春「……逃げちゃいましたぁ」

美優「何が、逃げたの……?」

小春「……」

晴「小春……?」

小春「小さい、怪獣ですぅ……」

49

夕方

北苗商店街・某所

梨沙「莉嘉、おきてる?」

莉嘉「おきてるー。お腹すいたー」

梨沙「これでも食べなさい」

莉嘉「ありがとっ☆」

梨沙「……」

莉嘉「どうしたの、梨沙ちゃんも食べる?」

梨沙「もう食べたわ。莉嘉と違って、早起きなのよ」

莉嘉「なら、どうして、今日は元気がないの?」

梨沙「ねぇ、莉嘉」

莉嘉「なに、梨沙ちゃん?」

梨沙「こんなことして、いいのかしら」

莉嘉「なんで?」

梨沙「なんでって、ここは平和じゃない」

莉嘉「そうかなぁ」

梨沙「だから、こんなこと、することないんじゃないかしら」

莉嘉「アタシ達の仕事でしょー。自信を持たないと!」

梨沙「そうよね……」

莉嘉「うんうん」

梨沙「本当に、イライラすることばっかり」

莉嘉「キライなことばっかり」

梨沙「だから、やっちゃいましょう」

莉嘉「うん、やっちゃおう♪」

梨沙「次は」

莉嘉「この子とか、この人とか!」

梨沙「いいわね。お宅訪問しましょ」

莉嘉「いっくぞー!」

50

北苗商店街・派出所

茄子「怪獣ですか……?」

晴「ああ。これを見てくれ」

茄子「可愛らしい絵ですね」

晴「クラスメイトの小春が書いたんだ。何に見える?」

茄子「トカゲでしょうか。濃い赤い色ですね。志乃さんが好きそうな濃い赤」

晴「小春が、秘密に飼ってたんだ」

茄子「飼ってた……どこでですか?」

晴「小さかったから、最初は家に持って帰った。途中で学校の地下室。最後は、学校の裏山だ」

茄子「ふむ……これは、どこから来たのですか?」

晴「ねーちゃんによると、たぶん、地下室からつながるところだってさ」

茄子「どのくらいの大きさだったのですか?」

晴「小春によると、ヒョウくんよりは小さかったとか」

茄子「ヒョウくん、ってグリーンイグアナですよね?一度抱っこしてるのを見たことがあります」

晴「散歩してるのか、小春……」

茄子「でも、不思議ですね」

晴「なにが?」

茄子「そんな小さいのに、獣使いを追い払ったんでしょう?」

晴「んー、たまたまだったんじゃないか?」

茄子「ですが、怪獣という存在が出てきたのは見逃せません」

晴「むー」

茄子「ところで、文香さんはどちらにいるのですか?」

晴「志乃を呼びに、古書店に帰った。そのうち来るよ」

茄子「犯人が動くとしたら、そろそろだと思いますよ」

晴「そうだな……」

プルルル……

茄子「電話ですね。はい、北苗商店街派出所ですー」

晴「こいつが、獣を追っ払ってくれるのか。少なくとも、小春たちは守ってくれたんだよな……」

茄子「わかりました。出歩くのは危険ですから、連絡を待ってください」

晴「茄子、どうした?」

茄子「話題の小春ちゃん、話を聞いた後にどうしました?」

晴「美優先生とオレで一緒に家まで送ってったぞ」

茄子「じゃあ、お家から出て行ったんですね」

晴「え……?」

茄子「小春ちゃんがいなくなりました」

51

佐城雪美の家・庭

雪美「ペロ……どこ……?」

莉嘉「やっほー☆」

梨沙「おじゃましてるわ」

雪美「……誰……?」

梨沙「説明してもわからないわ。わからなくてもいい、わからないで」

莉嘉「うんうん♪難しいこと考えるのはダメだよ!」

雪美「ペロ……隠した……?」

梨沙「隠してないわ」

莉嘉「家の方に入って行ったよ?」

雪美「わかった……戻る……」

梨沙「ダメよ」

莉嘉「ダメだよー」

梨沙「せっかく、来てあげたんだから」

莉嘉「アタシ達に狩られちゃえー☆」

雪美「……え」

ピンポーン……

梨沙「こんな時に……イヤになっちゃうわ」

莉嘉「タイミングわるーい!いけてないよー!」

雪美「……逃げる」

梨沙「あっ、待ちなさいよ!」

莉嘉「待て待てー☆」

雪美「あ……」

惠「今回は、間に合ったようね」

莉嘉「あっ」

惠「何をしているのかしら?」

梨沙「ふーん……刑事か」

惠「あなた達、何者なの」

莉嘉「知りたい?」

梨沙「知りたいのなら」

莉嘉「つかまえてみて!」

梨沙「ばいばーい!」

惠「待ちなさい!雪美ちゃん、お家にいて!」

雪美「惠……行っちゃダメ……」

惠「仕事だから。片桐巡査!犯人と思わしき人物と接触しました!応援を!」

雪美「……」

52

北苗商店街・カエール公園

文香「いませんね……」

晴「小春はどこに行ったんだよ」

志乃「他に行きそうなところはある?」

晴「目ぼしい所はほとんど行ったぞ」

志乃「目的は、何かしら?」

晴「探しに行ったんだよ」

文香「何を……?」

晴「何って、さっき話してたろ」

志乃「怪獣を探しに?」

文香「あるいは……」

晴「あるいは、なんだよ」

文香「犯人を捜しに行ったのかもしれません……」

晴「そっちの可能性もあるか」

志乃「少なくとも、2回は追い払ってるわ」

文香「もしかしたら、それ以上かもしれません……」

晴「小春が、止めに?」

志乃「かもしれないわ……」

晴「小春と怪獣が止めていたなら、どうして事件が起こってんだ」

文香「止められなくなった……」

志乃「怪獣がいなくなった。あるいは」

文香「犯人が恐れなくなった……」

晴「今の状況は良くねぇ!小春は危ないだけじゃないか!」

文香「その通りです……」

茄子「皆さん!」

晴「茄子!見つかったか!?」

茄子「はい、犯人とおぼしき二人組です」

志乃「本当に……?」

茄子「惠さんが追いかけてます、私も行ってきます!」

文香「改めて思いますが……警察官の自転車は速いですね……」

晴「オレらも行くぞ」

志乃「ええ……」

文香「待って、ください……」

晴「どうした、『本』を眺めて」

文香「出来ないです……」

志乃「文香さん、話して」

文香「私には……出来ません」

晴「何が、書いてある……?」

文香「いいえ……急ぎましょう」

晴「志乃……」

志乃「今は、最優先事項を」

晴「わかった。行くぞ」

53

いきどまり

惠「行き止まりよ、観念なさい」

莉嘉「ひゅー、カッコいい☆」

梨沙「本当、ほれぼれするわ。息も切らしてないみたいだし」

惠「犯人は、アナタ達なのね」

莉嘉「せいかーい☆」

梨沙「隠したりしないわ。その通りよ」

莉嘉「さすが、刑事さん!」

惠「あなた、本当に似てるわ」

莉嘉「アタシ?」

惠「なんでもないわ。忘れなさい」

莉嘉「ケチー」

惠「大人しく捕まりなさい。手品の道具はないようだから」

莉嘉「手品?」

惠「大きな爪と獣の痕跡、残すような道具はここにはないわ」

梨沙「あはっ!」

莉嘉「あはは!」

惠「なによ」

梨沙「伊集院惠」

惠「どうして、名前を知ってるのかしら」

莉嘉「リストにあるから、だよ?」

惠「リスト……」

莉嘉「じゃあ、ここで間違い探し!」

梨沙「この状況の間違いは、どこかしら」

惠「間違い探し?ふざけてないで、遊びは終わりよ」

梨沙「時間切れよ。莉嘉、答えは?」

莉嘉「狩場に追い詰めたのは、アタシ達なんだ」

梨沙「どうして、建物に囲まれた入口のわかりにくい袋小路なんて来れるのかしら?」

莉嘉「それは、知ってるからだよね」

梨沙「だって、ここから出てきたんだから」

莉嘉「帰れなくなっちゃったけど」

惠「出てきた……?」

梨沙「ええ。私達、別の世界から来たのよ」

莉嘉「そうそう。平和じゃなくて、戦争ばっかりな、嫌な場所」

惠「何を、言ってるのかしら……」

莉嘉「あれ、聞いてないの?」

梨沙「この街にも、それを知ってる人はいるのに」

莉嘉「ねー。あっ、仲間外れにされてるんだー」

梨沙「あらあら、残念ね」

惠「戯言はそこまでにしなさい」

梨沙「銃ね、そんなもんで倒せないわ」

莉嘉「梨沙ちゃん、すっごく強いんだよ!」

梨沙「そして、あなたは」

莉嘉「アタシ達の獲物!」

梨沙「はいっ!」

莉嘉「とうっ☆」

惠「止まりなさい!」

梨沙「撃てば?」

莉嘉「あの兵士みたいなお姉さんの銃は、聞かなかったよ?アタシには」

惠「まさか……そんな」

梨沙「はい。こんな時に考え事をしたら、ダメよ。なぜなら」

惠「当たって!」

パーン……

莉嘉「ほら、慌てたらはずれたー」

梨沙「死ぬからよ。まぁ、私が殺すんだけど」

莉嘉「ばいばい。あの世で会おうね」

梨沙「いつか同じ場所に行けるって、信じてるわ」

54

5/12

北苗商店街・まちはずれ

文香「さっきの音……」

志乃「銃声だと思うわ」

晴「良いことは起こってないな」

文香「電話です……茄子さん、からです」

晴「まさか……小春」

文香「小春さんではないようです……」

志乃「拳銃を持ってる人物といえば」

文香「刑事さんが……亡くなったそうです」

晴「……ちっ」

志乃「犯人は」

文香「逃走中だそうです……」

晴「どんな奴だ?」

文香「はい……金髪の2人組……女子中学生?」

志乃「男性じゃないの?」

晴「ライオンはいたのか?」

文香「はい……わかりました」

晴「どうだ……?」

文香「よくわかりませんが……犯人は目立つ格好の女子中学生のようです……」

志乃「探さないと、ね」

晴「全然、イメージと違うぞ。どうなってんだ?」

文香「わかりません……ですが、一つだけ情報が」

志乃「言って」

文香「ライオンのような巨体を見た人が、いると……」

晴「やっと、見つかったか」

志乃「いるのは間違いないわ」

晴「小春を探さないと」

文香「はい……」

志乃「でも、どこに……?」

晴「オレに電話だ。美優先生?小春は、見つかったか!?」

志乃「先生方も探してくれてるのね」

文香「三船先生は、とても心配していました……」

晴「わかった。無理するな、休んでろよ!」

文香「小春さんは……」

晴「見かけた人がいたらしい。ビルに入って行ったとさ」

志乃「ビル……美容室が入ってるところかしら」

晴「正解だ」

文香「三船先生は……」

晴「緊張と走り過ぎのせいで、倒れた。瑞樹先生が見てくれてる」

志乃「そっちはお任せね……」

文香「私達は、小春さんの所へ……」

55

雑居ビル・屋上

梨沙「あーあ、騒ぎになっちゃったわね」

莉嘉「見られちゃったかな?」

梨沙「見られたかもしれないわね」

莉嘉「逃げる?」

梨沙「逃げて、どこに行くっていうのよ」

莉嘉「どこでも大丈夫だって!ここは、アタシ達の敵なんていないもん!」

梨沙「敵もいないけど、味方もいないわ。お腹が空いてくだけ」

莉嘉「えー、それはイヤー」

梨沙「それに、敵はいるかもしれないわ」

莉嘉「ここにはお姉ちゃんはいないもん!だから、気のせいだよ」

梨沙「そうかしら、ね」

莉嘉「そうだって……あっ」

梨沙「ウワサをすれば」

小春「こんばんは」

莉嘉「げっ、見つかった」

梨沙「手間が省けたわ。聞いてもいいかしら」

小春「もう、辞めて欲しいですぅ」

莉嘉「……知ってる?」

梨沙「知ってるでしょ。アタシ達を牽制してた」

莉嘉「ねぇねぇ、あの子、いるの?」

小春「いますぅ」

梨沙「嘘が下手だわ」

小春「……」

莉嘉「どうする?どうしよ?」

梨沙「今なら見逃してあげてもいいわ。アンタみたいな奴、嫌いなの」

小春「きらい……」

梨沙「なによ、嫌いなのが何か悪いの?」

小春「嫌いだから、こんなことするんですかぁ……?」

梨沙「こんなこと、ね」

莉嘉「こんなこと、だけど」

梨沙「私達にはこれしかないのよ」

莉嘉「キライなものばっかりだもん」

梨沙「ここは平和すぎるわ」

莉嘉「キライなものなんか食べたくない」

梨沙「最初からここに産まれてれば」

莉嘉「お姉ちゃんもあんなに大変じゃなかった」

梨沙「私達の場所は、ここにもないわ」

莉嘉「だって、アタシはアタシだし」

梨沙「仕方ないじゃない」

莉嘉「キライなものばっかり」

梨沙「だから、仕方がないの」

莉嘉「アタシ達の仕事は」

梨沙「誰かを殺すこと、なの」

莉嘉「だって、それしかないんだもん」

梨沙「私は嫌いよ」

莉嘉「野菜はキライ」

梨沙「昼間は嫌いだわ」

莉嘉「この仕事はキライ」

梨沙「私達のいた平和じゃない世界も嫌い」

莉嘉「平和過ぎるこの世界もキライ」

梨沙「だから、仕方がないの」

莉嘉「アタシ達は、兵士なんだよ」

小春「……」

梨沙「不服そうね?」

小春「どうして、嫌いなものしか増やさないんですかぁ」

莉嘉「アタシだって、イケてると思うものくらいあるもん」

小春「そう思ってるものしか、好きにならないんですか?」

梨沙「何もかも好きになれって?」

莉嘉「そんなのムリだよー」

小春「ここは、良い所だと思いますぅ」

梨沙「……」

小春「好きになってくれたら、きっと助けてくれましたぁ」

莉嘉「……うそ」

梨沙「嘘ね」

莉嘉「だって、好きになってなんかくれないもん!」

小春「え……?」

莉嘉「アタシは、あっちの世界でも怪獣なんだから!こっちの世界でも怪獣なんだよ!」

梨沙「アンタは……アイツを連れてたアンタが好きになってくれても」

莉嘉「みんな、キライなままだもん!」

梨沙「それがイヤだったのよ」

莉嘉「アタシ、いない方が良いって」

梨沙「……莉嘉」

莉嘉「ヤダッ、ヤダヤダ!」

梨沙「なんで、そう思うの」

莉嘉「どうして、みんなが嫌いなのにアタシが好きになれるの!?」

梨沙「チッ……応援が来たわね」

小春「それでも」

梨沙「逃げるわよ、莉嘉」

小春「好きなら、心は通じますぅ。あの子には通じました」

莉嘉「それを、おとぎ話って言うんだよ!」

梨沙「莉嘉、辞めなさい!その子はリストにいないわ!」

莉嘉「本当の女王様はいっつも大変なんだよっ!」

小春「ひっ……ライオンの手が」

莉嘉「キライ、アタシ、こんなところ、大っ嫌い!」

56

雑居ビル・玄関前

晴「小春!」

文香「屋上にいるようですね……」

茄子「間に合いましたか!」

晴「屋上だ!」

早苗「犯人もいるわね!茄子ちゃん、行くわよ!」

茄子「はいっ!」

志乃「何をしてるのかしら……?」

優「さっきからぁ、言い争ってるよぉ」

文香「太田さん……」

優「よく聞こえないけどぉ、好きとか嫌いとか」

晴「待て、何か聞こえねぇか?」

優「これ……うめき声、ライオンとかの」

志乃「出てきたの……?」

文香「はっ……」

優「きゃあ!」

晴「小春!」

志乃「突き落されたわ!」

文香「あ、ああ……」

晴「受け止め、受け止めるぞ!」

優「どうやってぇ!?5階立てなんだよぉ!」

文香「……ごめんなさい」

志乃「目をつぶるには、まだ、早い……わ」

晴「え……?」

優「え、ええ?」

文香「……」

志乃「文香さん、目をあけて」

文香「……なんと」

小春「えへへ……ありがとう」

晴「小春!大丈夫か!?」

小春「この子が助けてくれましたぁ」

優「えーっと……この子、なぁに?」

小春「わからないですぅ。大きくなりましたぁ、よしよし」

志乃「……なにかしら」

文香「ドラゴン、でしょうか……?」

小春「うん、あの子達、止めてきてくれるの?」

晴「会話できてる?」

優「わからない、出来てるのかなぁ?」

文香「まるで、ファンタジー小説ですね……」

志乃「目の前にいることに変わりはないわ……」

小春「おねがいですぅ」

晴「飛んで行った」

志乃「文香さん、上へ行くわよ」

文香「え……」

志乃「警察じゃ荷が重いわ。あなたが必要よ」

文香「……」

志乃「文香さん」

文香「わかりました……」

志乃「晴ちゃんはここにいて。小春さんを見てあげて」

晴「わかった」

優「どうしよぉ、外の方が安全かなぁ……」

晴「だな。離れてるぞ」

文香「行ってきます……」

小春「止めてください、誰もこんなこと、したくないと思いますぅ」

文香「わかりました、志乃さん……」

志乃「ええ、行くわよ」

57

雑居ビル・屋上

早苗「大人しくなさい!武器を捨てて、手をあげ、なにこれ!」

茄子「まぁ~、龍ですよ、龍!拝まないと!」

早苗「どうして、そんなに余裕なのよ……」

梨沙「警察まで来たわ!」

莉嘉「どうしよ!でも、どうして!?」

梨沙「なんで、コイツ、言うこと聞いてるのよ!」

早苗「なんか、慌ててるわね」

茄子「そうみたいですねー」

早苗「何でもいいわ!止まらないと撃つわよ!」

梨沙「莉嘉」

莉嘉「うん、梨沙ちゃん」

梨沙「行くわよ。見せてやるわ」

莉嘉「好きになってなんかくれなくていいもん」

梨沙「だって」

莉嘉「アタシ達は」

梨沙「殺してやるわ。この龍ごとね」

茄子「へぇ……簡単な理屈だったのですね」

早苗「いっ、何が起こってるの!?」

茄子「……」

早苗「茄子ちゃん?」

茄子「撃ちます」

早苗「無理よ!なんか、凄い速いわ!」

茄子「任せてください♪私、運がいいんですよ」

早苗「それは知ってるけど……」

茄子「はい、ばーん!」

莉嘉「わっ、ダメだよ☆」

茄子「あら?」

梨沙「莉嘉、助かったわ」

莉嘉「ガオー!ガオー、グルルルルル……」

早苗「牙が!」

志乃「間に合ったかしら」

茄子「間に合ってません。龍は、爪が大きい男性に襲われています」

早苗「あの子、ライオンに変わったんだけど!なによ、これ!?」

文香「なるほど……」

志乃「事は単純なわけね」

梨沙「そういうこと」

茄子「おっと」

早苗「近寄るんじゃないわよ」

志乃「爪が消えたわ」

文香「あなた達が獣使いであり、獣そのもの、です……」

梨沙「ええ。ここの人間には理解できないでしょうけど」

莉嘉「グルルルルル……」

梨沙「私達は、ろくでもないわ」

文香「そんなこと……」

梨沙「後にしてあげるわ。私達は、アレを仕留めてからにゆっくり相手をしてあげる」

早苗「ちっ……強者ね」

梨沙「銃弾を無駄にしない賢さは褒めてあげるわ」

志乃「このままだと……小春ちゃんのドラゴンは負けるわ」

茄子「援護します」

早苗「勝算は」

茄子「ありません!」

早苗「良い返事よ。行くわよっ!」

茄子「はいっ!」

文香「教えてください……」

志乃「文香さん……」

文香「『本』、答えてください……お願いします」

志乃「……」

文香「どうして……あの子達と同じ世界の私はいたんでしょう……」

志乃「文香さん」

文香「お願い、答えて……このままだと」

茄子「片桐さん!」

早苗「転がるのには慣れてるわ!」

志乃「手を」

早苗「ありがとう。でも、逃げておいて」

志乃「私、強いですよ……」

早苗「強くても一般人でしょ。任せておきなさい」

文香「どうして……答えてくれないんですか」

早苗「茄子ちゃん!」

茄子「わかってます!」

文香「違う……女王様の話じゃない……読みたいのは」

志乃「文香さん!」

文香「はっ……」

志乃「近づくんじゃないわ」

莉嘉「グルル……」

文香「ああ……」

莉嘉「ガオー、ねぇ、そこのお姉ちゃん?」

文香「私、ですか……?」

莉嘉「どうして、真っ白な本を眺めてるの?」

58

雑居ビル・屋上

志乃「文香さんから、離れなさい!」

梨沙「莉嘉、後になさい」

莉嘉「どうでもいっか☆ガオッー!」

志乃「文香さん……」

文香「あ、ああ……志乃さん」

志乃「……」

文香「ここには……書いてありませんか」

志乃「……」

文香「答えてください……」

志乃「最初から、何も書いてないわ」

文香「……」

志乃「あなたは、『本』を読んでいないわ……文香さんは」

文香「そうでしたか……私は、何も出来な……」

志乃「文香さん!」

文香「私、何も……」

志乃「見なさい。聞きなさい。あなたが本当に結んでいるものを!」

文香「……ああ」

早苗「茄子ちゃん、大丈夫?」

茄子「言ったじゃないですか。運が良いので、死にません!」

早苗「そういうこと言うんじゃないわ!」

志乃「『本』には何も書いてないわ。でも、あなたはどこからかの声を聞いてる」

文香「……」

志乃「お願い、文香さん」

文香「『本』を閉じ、道を開く……」パタン

梨沙「ふーん。やってみれば大したことなかったわ。怯えて損した」

文香「いつだって、聞こえていたのに」

志乃「……」

文香「無視していました。私は私を見るのが怖くて」

志乃「文香さん」

文香「結びます」

志乃「……」

文香「助けて、届いて、この世界を救って」

梨沙「莉嘉!」

莉嘉「梨沙ちゃん!」

梨沙「待って、開いてる!」

莉嘉「アタシ達が移動してきた穴じゃん!」

梨沙「アンタ、何者よ!」

文香「助けて、女王様……」

59

遠いどこか。

争い事が絶えず、争い事に特化した人と生き物が産まれた王国の片隅で。

少しだけ昔に、私とあの人は出会いました。

あの人が、私のベッドまで訪ねてくれました。

きっと色々なことが聞きたかったはずでした。

でも、聞けなかった。

私は、狭い世界しか知りませんでした。

言葉に詰まる私に、一冊の本をくれました。

お気に入りなんだ、読んでみてよ。

ありがとう、と嘘をつきました。

読んだことがありました。ただ通り過ぎた一冊でした。

何度も何度も手に取られて、その本はよれていました。

アタシ、がんばるからさ。

女王様は誓いました。化粧の裏に苦労が滲んでいました。

まだ、少女ともいえる年齢なのに。

私は、この人が大好きでした。

きっと、変えられる。この人なら変えられる。

だから、こちらから閉じることにしました。

どこの助けもいらない。どこにも、この災いを出さない。

死なないで、あの人が作った平和な世界を見たかった。

せめて、勇敢で強い女王様の、臨んだ場所が未来にあって欲しい。

「待って……」

私は女王様の背中に言いました。

どこにも、この災いを出さないのではないの、ですか。

それは、アンタの考え。生きてる間にアタシに言って欲しかった。

どう責任を取るのですか。

振り向かない彼女の背中に、私はこれまでのことを話しました。

そして、振り向きました。

獰猛さすら感じさせる黄金色の瞳が私を見据えていました。

その獰猛さがふっと消えて、柔らかな表情になりました。

そっか、と。優しい声が聞こえました。

イケてんね。生きてれば、こんなに美人になったんだ。

垣間見えた穏やかさはなくなり、声は毅然とした女王様の声が戻ってきました。

で、アンタはアタシに何をしてほしいわけ?

私は、答えます。

来てください。止めてください。助けてください。

女王様は不適に笑って、頷きました。

60

雑居ビル・屋上

茄子「うふっ。綺麗なドレス、ですね」

早苗「人が出てきた……」

茄子「はい。空間が割れて、女王様が出てきました」

早苗「茄子ちゃん、なにあれ?」

茄子「わかりません」

早苗「主役が来たのだけはわかるわ」

茄子「逃げましょう。私達の相手には負えません」

早苗「そうみたいね……」

茄子「お怪我は大丈夫ですか」

早苗「平気よ」

茄子「逃げろ、と目くばせされてますよ」

早苗「……わかったわ。お姫様の命令は無下に出来ないわね」

茄子「文香さん、お願いします」

60

雑居ビル・屋上

茄子「うふっ。綺麗なドレス、ですね」

早苗「人が出てきた……」

茄子「はい。空間が割れて、女王様が出てきました」

早苗「茄子ちゃん、なにあれ?」

茄子「わかりません」

早苗「主役が来たのだけはわかるわ」

茄子「逃げましょう。私達の相手には負えません」

早苗「そうみたいね……」

茄子「お怪我は大丈夫ですか」

早苗「平気よ」

茄子「逃げろ、と目くばせされてますよ」

早苗「……わかったわ。お姫様の命令は無下に出来ないわね」

茄子「文香さん、お願いします」

62

雑居ビル・屋上

美嘉「その子、アタシの言うことしか聞かないんだよね」

莉嘉「ウソ!凶暴なのに、大人しいもん!」

梨沙「アンタの言うことだけを聞いてるわけじゃないわ」

美嘉「ふーん。ここにも王女様がいるんだ」

文香「……はい」

美嘉「優しいお姫様なのかな」

文香「はい、とても」

美嘉「莉嘉が言った通り、本当は凶暴で手もつけられないんだ。言うことを聞かせられるのは、私だけ」

梨沙「信じないわ」

志乃「怖がっていたのは、そのせいかしら?」

莉嘉「そんなわけない!」

美嘉「まさか、アンタ達が知らないわけないよね?」

志乃「……」

美嘉「どいて。その子と話がしたい」

莉嘉「……」

美嘉「莉嘉」

莉嘉「……お姉ちゃん、本物なの」

美嘉「さあね」

莉嘉「……」

美嘉「痛かったよね。でも、暴れなかった」

文香「……」

美嘉「アンタが暴れてれば、こんなもんじゃ済まない」

梨沙「手加減されてたと、でも言うの?」

美嘉「どんな奇跡が起これば、魂ごと変えられるのかな」

文香「その答えは……知っています」

美嘉「たぶん、好きってことかな」

梨沙「……」

莉嘉「……」

美嘉「よしよし。アンタのお姫様の所に行っておいで」

志乃「あ……」

文香「言うことを、聞いたのですか……?」

美嘉「当たり前でしょ。だって、アタシは女王様なんだから」

莉嘉「お姉ちゃん!」

美嘉「そこの二人!」

莉嘉「どうしよー!」

梨沙「仕方ないでしょ!」

莉嘉「お姉ちゃんだから、って手加減なしだよ!」

梨沙「ええ、私達が獣なのはアンタのせいなんだから!」

莉嘉「だって、だってお姉ちゃんのためだもん!」

美嘉「アタシのためで逃げるような決意だったわけ?」

梨沙「当たり前でしょ!ここだったら、未来なんて何も考えなくていいのに!」

莉嘉「どうして、アタシ達の世界は、こうなの!?」

文香「それでも!」

美嘉「知ってる。そんなのわかってる」

文香「平和のために戦ってる人を信じてあげなかったの、ですか……?」

梨沙「うるさい、うるさい!うるさいんだから!」

莉嘉「キライ、キライ、キライ!ガオー、ガオー、グルルルル……」

梨沙「いいわ……私も、獣よ……そう変わるしか、生き延びれなかった……」

文香「ホワイトタイガー……」

志乃「……本気のようだけれど」

美嘉「いいよ。付き合ってあげる」

文香「美嘉さん……」

美嘉「見てて。アタシは、向こうのアンタが憧れてた最強の女王様なんだからっ!」

63

北苗商店街・カエール公園

優「わぁ……」

晴「ドラゴンが飛んできた……」

小春「怪我してますぅ」

晴「あっちは無事なのか」

小春「よしよし~」

優「凄いなついてるー」

晴「爪とか凄いのに」

小春「優しい子ですよぉ?」

優「うん、わかるよ。でも、それは小春ちゃんが優しいからだよぉ」

小春「ぺろぺろです~」

晴「ぺろぺろは、うん……どうなんだ」

優「えぇ~、晴ちゃんはしないの?」

晴「むしろ、普通なのか?」

小春「はい~」

優「ね~。あたしもアッキーにぺろぺろだもん」

晴「わかんねぇ……」

優「ねぇねぇ、名前はなに?」

小春「……」

晴「小春?」

優「決めてないの?」

小春「だって、小春のペットじゃないですぅ」

晴「……」

小春「きっと、お家がありますぅ」

優「うん、小春ちゃんは優しいね」

小春「えへへ……」

64

雑居ビル・屋上

莉嘉「わー!」

梨沙「喜んでんじゃないわ!」

美嘉「なに、まだ本気出してないでしょ?」

文香「存分にだしていると思います……」

志乃「だから、元の姿に戻ってるのよね……」

文香「女王様は、まだ余裕のようですが……」

梨沙「そこ!当てない!」

莉嘉「お姉ちゃん、すごーい☆」

美嘉「莉嘉」

莉嘉「……」

美嘉「おいで」

梨沙「莉嘉、ダメだってば!」

莉嘉「お、お姉ちゃーん!」

美嘉「よしよし」

莉嘉「ごめんなさーい」

美嘉「で、済むわけないでしょ!」

莉嘉「……だって」

美嘉「ここは、アンタがアンタらしく振舞ったらダメなんだよ。アタシ達の世界はあっちだから」

莉嘉「だって、お姉ちゃん、大変そうだもん」

美嘉「そっか」

莉嘉「こっちのお姉ちゃん、歌うのと踊るのが仕事なんだって。楽しそうだよ」

美嘉「……」

莉嘉「戦うのが仕事のお姉ちゃん、見たくないもん……」

美嘉「ありがと、莉嘉。ごめんね」

莉嘉「……お姉ちゃん」

美嘉「梨沙は、どうするつもり?」

梨沙「お手上げね。莉嘉がその状況なら、私に勝ち目はないわ」

美嘉「よろしい」

梨沙「女王様」

美嘉「言い訳はゆっくり聞くわ。向こうで」

莉嘉「ねぇ、お姉ちゃん。こっちは平和だよ」

梨沙「私達は失敗したわ。許されてもいないわ、でしょ?」

文香「ええ……」

梨沙「私達は戻るわ。戻らせて」

莉嘉「でも、お姉ちゃんは大丈夫だよ。ここで、暮らしてもいいよ」

梨沙「来てよかったわ。私はキライだけど」

莉嘉「アタシもここはキライ。でも、いい所だって」

志乃「……」

美嘉「莉嘉、梨沙」

文香「……」

美嘉「そんなことを言われたら、ますます残れない」

梨沙「……」

美嘉「アタシはアタシの場所のために、戦い続けてるみんなを置いて、逃げたりなんかしないから」

莉嘉「お姉ちゃん……」

美嘉「ねぇ、文香」

文香「私、ですか……?」

美嘉「取り返しのつかないことをやったのもわかってる。だけど、連れて帰らせて。お願い」

文香「……」

志乃「文香さん……選んで」

文香「わかりました……」

美嘉「ありがとう。莉嘉、梨沙、あやまんな」

莉嘉「……ごめんなさい」

梨沙「……悪かったわ」

美嘉「これで許されるとは思ってない。だけど」

文香「平和な世界を、きっと作れます、私が信じてました……」

美嘉「……そっか。そこにいるんだ」

文香「結びます……」

美嘉「莉嘉、梨沙、アンタ達がしたこと洗いざらい話しなさい」

梨沙「わかったわ……」

志乃「刑事を呼んでくるわ……」

美嘉「そしたら、先に戻りな」

莉嘉「わかった。でも、お姉ちゃんはどうするの?」

美嘉「絶対に帰るから安心して。文香、呼んでもらっていい?」

文香「誰を、でしょうか……?」

美嘉「ここのお姫様に会いたいんだ」

65

雑居ビル・屋上

晴「うおっ、城ヶ崎美嘉だ!」

美嘉「やっほー★こっちのアタシ、カッコいいじゃん」

晴「凄い恰好してるのが……スマホ見てる」

志乃「女王様らしいけど……」

美嘉「これとか、素肌出し過ぎじゃない」

文香「私に、言われても……」

晴「こっちの城ヶ崎美嘉じゃない、んだな」

志乃「ええ」

晴「あいつらは」

美嘉「事件のことは話させて、先に戻らせた」

晴「どうやって?」

文香「私が……この場で開けました」

晴「……そんなこと、できたのか?『本』はどうした?」

文香「もう、不要ですから……」

晴「そこの女王様も」

美嘉「呼ばれたんだ。文香に」

晴「ありがとよ。助けに来てくれたんだな」

美嘉「部下の不手際を、始末しに来ただけ。謝らないといけないのは、こっちだから」

晴「どこにいても、カッコいいんだな……」

美嘉「ここのお姫様はどこかな?」

文香「小春さん……」

小春「こんにちは~」

美嘉「名前は」

小春「古賀小春ですぅ。はじめまして、女王様」

美嘉「この子、見守っててくれたんでしょ」

小春「はい~」

美嘉「この子達、アタシにしか懐かないんだ。吠えるし、暴れるしさ、大変なんだよー」

小春「そんなことないですぅ。良い子でしたぁ」

美嘉「そっか。飼い主に似るっていうもんね。あっちの子達は、アタシに似ちゃったかな」

小春「女王様は、暴れん坊なんですかぁ?」

美嘉「……そうだよ」

小春「暴力はダメですぅ」

美嘉「ふふ。ねぇ、ウチの所に来る?きっと、アタシより良い女王様になれるよ」

小春「この子、寂しがってましたぁ。飼い主に会えて良かったですぅ」

美嘉「断られちゃった。見ていてくれて、ありがと」

小春「えへへ、どういたしまして~」

美嘉「小春、聞いていい?」

小春「なんですかぁ?」

美嘉「良い飼い主になる方法って、なに?」

小春「好きになること、ですぅ」

美嘉「そっか」

小春「小春も聞きたいことがあるんですぅ」

美嘉「なーに?アタシに答えられることなら、何でも言って」

小春「どうしたら、お姫様みたいになれますか?」

美嘉「お姫様って、アタシのこと?」

小春「はい~」

美嘉「アタシはそんな……」

文香「……」

美嘉「いいや。アタシは胸を張ってないとだよね。良く聞いて」

小春「はい」

美嘉「自分を認めて、自分らしく、自分を磨いて」

小春「女王様は、自分らしくいれてますか」

美嘉「もちろん★」

小春「この子、お返ししますぅ」

美嘉「ありがと。いこっか」

小春「ばいば~い」

美嘉「バイバイ!この世界のお姫様!」

66



北苗商店街・派出所

早苗「一件落着、かしら」

茄子「ひとまずは、ですね」

早苗「被害者は木場真奈美、星輝子、大和亜季、古澤頼子、それに」

茄子「惠さんですね」

早苗「警部補よ。殉職なんて、ズルいわ」

茄子「ええ、本当に」

早苗「今回は5人、全部で7人。何か意味があるのかしら」

茄子「わかりません」

早苗「わかったら、苦労はしないわね」

茄子「はい」

早苗「で、あたしはどうすればいいの?」

茄子「というと?」

早苗「いや、ちょっと常識の範囲外だったじゃない。茄子ちゃんは知ってたのよね?」

茄子「すみません、黙っていて」

早苗「いいわ。あたしも黙ってることにする」

茄子「お願いします」

早苗「他に見た人、いるかしら」

茄子「美容師の太田さんですね」

早苗「優ちゃんね……よし、わかったわ」

茄子「何がです?」

早苗「お酒をおごってもらえれば、忘れるわ」

茄子「うふふ。私も同席します」

早苗「誰にごちそうになろうかしら?」

茄子「志乃さんにしましょう。ご実家から良い日本酒が届いたとか」

早苗「決定ね!明日にでもやるわよー!」

茄子「おー」

早苗「忘れる前に、言っておくわ」

茄子「どうしました?」

早苗「実行犯は捕まったわ。リストと報酬の出所もわからなかった」

茄子「わかってます」

早苗「この世界のどこかにいるわ。見つけないと、よ」

67

古書店・Heron

晴「ねーちゃんは」

志乃「寝たわ……見るからに疲労してたもの」

晴「新しく見つかったのも閉じて、それに」

志乃「自分の意思で、繋げたわ……」

晴「『本』もなしに」

志乃「ええ……」

晴「ねーちゃんそのものが力を持ってた」

志乃「それはわかってたことよ……」

晴「ねーちゃんが狙われてる、理由にもなる」

志乃「ええ……でも、文香さんへの接触はほとんどないわ」

晴「ああ」

志乃「黒幕よりは、文香さんの方が……」

晴「上なのか。そんな気がする」

志乃「……でも、誰が」

晴「それは、わかんねぇな」

志乃「ええ……」

晴「……」

芽衣子「こんばんは~」

志乃「なっ……」

晴「どうして、階段から降りてくんだよ!」

芽衣子「どうしてって、文香さんの部屋から来たからです」

志乃「何かしたのなら……容赦しないわ」

芽衣子「あはは、ちょっと寝顔を見てきただけ」

志乃「あなたね……」

芽衣子「ご実家の日本刀、ここにはありませんよ?」

志乃「ちっ、どこまで知ってるのよ……」

晴「何もしてないんだな?」

芽衣子「約束は守ってますよ?私は何もしません」

志乃「なら、どうして、来たのかしら」

芽衣子「映画や劇が終わった後に、感想を言うのは楽しくないですか?」

晴「……悪趣味だな」

芽衣子「やっぱり楽しいですね!」

志乃「何が、かしら」

芽衣子「獣の世界から、この平和ボケした世界への拒絶反応」

晴「……」

芽衣子「愛は奇跡を起こすだなんて、今時三文芝居でも見られませんよ?ラッキーです!」

晴「奇跡の前に、事件が起こってる。人が死んでんだよ」

芽衣子「人なんていくらでも死にますよ?女王様の世界では、ほとんどの人が老人にすらなれません」

志乃「ここと別の場所ではわけが違うわ」

芽衣子「なら、この世界の命の価値は重く、他は軽いんですね。同じ命なのに」

晴「らちがあかねぇ……」

志乃「あなたと話すことはないわ」

芽衣子「そう、残念。それじゃあ、言いたいことだけ言ったら帰るね」

志乃「……」

芽衣子「いつか見た景色の中、どこかで感じた気持ちで、同じ罪を、違う人が犯します」

晴「どういう意味だよ」

芽衣子「いつかどこかで見たような、つまらない感情を利用されます」

志乃「利用される……?」

芽衣子「だから、ばいばい。つまらない場所にいても仕方がないよね」

志乃「……」

芽衣子「でもね、私も人間扱いされないのは嫌なんだー。すねちゃうかも」

晴「……?」

芽衣子「だから、機械仕掛けの神になってあげる」

志乃「どういう意味かしら?」

芽衣子「結城晴ちゃん」

晴「なんだよ」

芽衣子「あなたは、どこから来たの?」

志乃「なっ……」

芽衣子「そこのお姉さんがビックリするくらいだから、言っちゃまずいことなんだよね!」

志乃「わかってるなら、やめなさい!」

芽衣子「どこで生まれたの?」

志乃「あなた……」

芽衣子「あはは」

晴「……」

芽衣子「ばいばーい。さようなら」

志乃「消えた……」

晴「……」

志乃「晴ちゃん、気にしないで。信じるに値しないわ」

晴「……ああ、わかってるって」

志乃「遅くなったわね……送るわ」

晴「ああ……わかってる」

志乃「……行きましょう」

68

翌朝

北苗小学校・校庭

晴「ねーちゃん、昨日はよく寝れたか?」

文香「ええ……晴ちゃんは、どうでししたか……?」

晴「ああ。オレはいつでも快眠だぞ」

文香「それならば、良いのですが……」

晴「心配するなって!あっ、小春!」

小春「おはようございます~」

文香「おはようございます……」

小春「昨日はありがとうございました~」

文香「私は、何も……」

小春「あの子が、ちゃんと帰れました」

晴「ああ。さみしくないか?」

小春「……さみしいですぅ」

晴「オレ、小春の正直なところ好きだぜ」

文香「もっと、もっと、好きなものを、増やして行きましょう……」

小春「はい~。晴ちゃんにもヒョウくんを抱っこさせてあげます~」

晴「え、それはいい」

小春「みんなに好きになってもらいます~」

文香「ふふ……」

小春「だって、小春は」

晴「女王様が認めてくれた、お姫様だもんな」

小春「はい~」

文香「私、思います……」

晴「どうした?」

文香「信じられる、好きになれる人が、必ずいるのですね……」

小春「うん」

文香「信じていいですか、怪獣のお姫様達を……」

晴「ああ、信じようぜ」

文香「はい……」

第2話 怪獣の姫君 了

次回予告

好き好き、あなたが大好き。

ずっとずっと大好きでした。

でも、本当のことなんて、言えない。

あなたのために、言えない。

だって、あいしてるから。

あいしてるから、本当の自分なんて、いなくてかまいません。

第3話 あいくるしい
に続く。

あとがき

小春ちゃんはプリンセス。好きなものを好きでいてほしい。

次回は、
結城晴「文香の怪奇帳・あいくるしい」
です。

レッドカーペットを歩いたこともある名女優に活躍していただこう。

それでは。

61抜けてない?

>>131
抜けてます。ご指摘ありがとうございます。

訂正・追加

>>108

61

雑居ビル・屋上

梨沙「……」

莉嘉「……」

文香「……はぁはぁ」

志乃「文香さん!」

文香「大丈夫です……疲れただけ」

志乃「大丈夫かしら……ごめんなさい」

文香「謝らないでください……私が選びました……」

梨沙「本当に、何者よ、アンタ」

莉嘉「お姉ちゃん……?」

文香「はい、私が憧れた……女王様です」

志乃「女王様……?」

文香「平和のために戦って、いる……あなた達の女王様、です……」

莉嘉「ニセモノだ!」

梨沙「ええ、そうよ!」

文香「違います、あなた達が……一番、良く知ってる……はず……」

城ヶ崎美嘉「信じないなら、証拠、見せてあげる」

城ヶ崎美嘉
獣と戦い続けるしかない、選ばれなかった世界の女王様。

思ったより大事なシーン抜けてた。申し訳ない。

シーン番号つけといて良かった。

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