カズマ「これからずっとずっと一緒だからな」めぐみん「はい!」 (43)

「あ、あ…あああああああ!」

 時間が止まった。
 朝食をみんなで食べていた。その時間が止まった。
 そいつは目の前に瞬間移動みたいに現れたと思ったら……え?涙?泣いてんの?こいつ?

「貴様なにものだ!」
 俺たちの中で一番素早く動いたのはダクネスだった。

「気を付けて!そいつリッチーよ!!」
 アクアも臨戦態勢だ!…………え?こいつなんて言った?リッチー?
 ウィズといいなんでこうリッチーって巨乳が多いんだ!?そういう種族なのか!?

「ち、違うんです!話を聞いてください!」
 そいつは涙を拭きながら言う。
 あー、たぶん、また面倒な件だ。
 絶対にかかわりたくない。かかわりたくない。よし、かかわらないでおこう。
 でも、ここ俺の家だしなー、どうするかなーっと悩んでいると、呆然としていためぐみんがようやく動きを見せた。

「あ、あなた……。まさか……」
「うん。そうだよ。めぐみん」
 そいつは俺の未来を……いや、一生を変える。とても重要な人物だった。


「実は未来から来ました。ゆんゆんです。その……お久しぶりです」


 そいつは未来からとかバカみたいな事を言ってきた。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458323519

 
  *  *  *



「なるほど。時間移動の神器を使ったのですね」
「へぇ~。すごい魔力の塊の宝石ねー」
「間違って封印するなよ」

「まったくカズマは私を何だと思ってるの?そんなミスするはずないじゃない」

 アクアがまじまじと宝石みたいな神器を見ている。
 というか、あれ、どう見てもソウルジェムだろ。
 日本からこっちに来たまどマギのファンが頼んだチートアイテムに違いない。

「それにしても、ゆんゆんがリッチーになるなんて未だに信じられません」
 めぐみんが不思議そうに聞く。
 そりゃそうだ、俺だって未だに信じられないしな。
 あのめぐみんと同じ紅魔族で、同級生のゆんゆんがリッチーになるなんて……。

「うん。色々あってウィズさんやバニルさんと友達になって、それで……その……友達と一緒に生きていたいなーって思って」
 うん、わかってたけど、ゆんゆんちょろすぎ。
 ダクネスは苦笑いしながら問いかけてきた。

「そもそも、リッチーというものは簡単になれるものなのか?」
「そうですね。そもそもリッチーは、魔法を極めた人が行なう禁断の儀式で成れる存在です。ゆんゆんがなれるなんて信じられませんね」
「えぇ!?私、紅魔族随一の魔法の使い手めぐみんのライバルだよね!?随一の魔法の使い手のライバルなんだから、それくらいなれるよ!」
「『自称』ライバルです。『自称』を忘れないでください」
「そんなぁ!?」

 そんな二人を視界にいれながら考えていた。
 こいつなんでわざわざ未来から来たんだ?
 でも、それを聞くとまた面倒なことになりそうだしな……。
「ねえねえ、なんで未来から来たの?旅行?」
 アクアが意気揚々として聞く。
 あぁ……、なに?こいつ俺の心が読めるの?というか旅行のわけねーだろうが!


「はい。最近時間旅行をやってまして。その長く生きると暇で……」
「いやいやいやいや、旅行とかダメだろ!時間旅行って知っているか!?
 簡単に過去とか変えれるんだぞ!タイムパラドックスって知ってるか!?」

 初めて俺の方を向いたゆんゆんが嬉しそうに指を立てて言い出した。
「その点は大丈夫です。私が来た時点で、この過去は別の平行世界になってますので」
 なんでこいつ嬉しそうなの?ドヤ顔なの?頬を微妙に染めてるの?
 そんな様子を見ていためぐみんが不機嫌そうに。

「おい、未来で何があったか知らないが、私の男に色目を使うのは止めて貰おうか?」
「なっ!?い、いつのまに、カズマはめぐみんの男に!?」
「へぇ~。知らない間にそんな関係になっていたのね。いいわ。女神の私が祝福してあげるわよ」
 ダクネスが驚愕し、アクアが天に向かってお祈りを始めた。
 慌てた俺は。

「ち、ちちち違うぞ!まだ俺はお前の男になったつもりじゃ」
「カズマ!?『まだ』とはどういうことだ!?」
 し、しまった!心にもないことを……。
 い、いや、思ってるし、めぐみんルートに入っている以上、そういう関係になるのを夢見ているというか。
 って、違う違う!そういう事じゃない!ああ!なんでこんな展開に!

「ふふっ。あはははははは」
 ゆんゆんが急に笑い出した。
 あ、あれ?そんな笑い方をする子……だったかな?といかちょっぴり泣いてるし。
 ゆんゆんの涙に気付いためぐみんが心配そうに近寄る。
「ゆんゆん?どうしたのですか?お腹が痛いのですか?あれほど拾い食いをするなと散々注意していたというのに」
「違うよ!?それは私がめぐみんに言ってたよね!?」

 深呼吸して落ち着いたゆんゆんがめぐみんをじっと見つめて。
「その久々で、本当に懐かしくて……。だから、ごめんね。今日だけは泣くのも許してね。めぐみん」
「え?あなたいつも泣いてるじゃないですか?『今日だけ』ってそんな見栄を張らなくても」
「泣いてないよ!あれ?泣いてないよね!私!!」
 涙を拭うゆんゆんを見ながら俺は考えていた。

 『本当に懐かしくて』……か。
 ゆんゆんはどれくらい生きたんだろうか?
 ウィズとバニルが友達と言っていたけど、ウィズとバニルとアクアぐらいしか長生きして友達になれる人がいなかったのかもな……。

 それにしても長く生きるか……。どんだけ大変なんだろうな……。周りの知っている人はどんどんいなくなっていくし……。
 きっとゆんゆんは、俺が想像する以上の大変な日々を送って生きてきたんだろう。

「では、今晩はご馳走にしましょう。まだ滞在するのでしょう?」
 たぶん、俺と同じ事を考えていたんだろう。めぐみんがそんな事を言い出した。
 こいつ、なんだかんだ友達想いだよな。
「ああ、そうしよう。せっかく来てくれたんだ。ご馳走にしようぜ」
 せっかく遊びに来てくれたんだ。これくらいはしてやらないとな!
「そうね。私はとっておきのお酒をだすわ」
「ああ、私も何かおいしいものを用意するとしよう」

「ありがとう。めぐみんにカズマさん、アクアさん、ダクネスさん。本当にありがとうございます。
 うぅ……今度は本当に泣きそう。それにめぐみんがご馳走してくれるなんて、実をいうと初めてで……。
 いつも私が奢っていたから」
 うんうん、いい話だなーと思っていると、めぐみんが不思議そうに。

「え?何を言ってるのです?ご馳走を用意するのはあなたでしょ?」


 俺は紅魔族随一の魔法使いの頭を思いっきり叩いてやった。

 
  *  *  *



「す、すごい!」
 ゆんゆんが喜びの声を上げた。
 今晩のメニューは最近宴会の時の定番となってきた霜降り赤ガニだ。
「みんなからの奢りよ!たくさん食べてよね!」
「アクア!お前は1エリスも出してないだろうが!」
「ふふふふふ。甘いわねカズマ!私は今からとっておきの宴会芸を披露してあげる!」


 アクアが意気揚々と暖炉の前に飛び出した。
「さあ、変哲もないただの箱ですが、なんと中には」

「そういえば昔から思っていたんですが、アクアさんの宴会芸の種を教えてほしくて」
「そ、そんな!未来とはいえ、ゆんゆんがアクアの宴会芸を見る機会が来るなんて……」
「私もたまには一緒にご飯食べたりしてたんだよ!?」
 と、嬉しそうに喋っていたゆんゆんの笑顔が止まった。
 いや、全員の空気が止まった。


「じゃじゃーん。なんと初心者殺しが現れました♪」


 このトラブルメイカーのせいで!!!!

 
  *  *  *



「はぁーはぁーはぁー」
「ごめんなさいぃぃぃ。謝るから謝るからーーーー」
「うっせぇ!お前何してくれてんだよ!この駄女神が!!!」
「だ、だって、初心者殺しならみんなびっくりするかなーって」
「お前の辞書には『やりすぎ』って単語がないのか!!?」

 初心者殺し。一言でいうとサーベルタイガーみたいなモンスター。
 初心者の冒険者を狩るという事で、初心者殺しという名前がついた凶悪なモンスター。
 それをこいつは宴会芸のためだけに呼び出したのだ。


「だが、危なかったな。もう少しでみんな殺られるところだった」
 ダクネスが息を切らしながら言った。今回は本当にダクネスに助けられた。
 初心者殺しが現れた時に、初心者殺しに突進。
 そのまま、相撲みたいに初心者殺しを外まで押して行った。
 その後は、ゆんゆんの爆裂魔法でなんとかなったのだが----。

「それにしても、まさかゆんゆんが爆裂魔法を覚えるとは……」
「うん。ウィズさんに教えてもらったの。スキルポイントも余ってたし」
「なるほど……」
「それにしてもゆんゆんの爆裂魔法は凄かったな。めぐみん、負けてるんじゃないか?」
「なっ!?言ってはいけないことを言いましたね!」

 めぐみんがバサッとかっこよくマントを翻す。
「カズマ!私が今日はもう爆裂魔法をうてないと油断しているようですが
 命を全部削れば、もう一発爆裂魔法をうつ事もできるんですよ!?」
「謝るからそれはやめてくれ」
「そうだよ!めぐみん。そういうのは駄目だよ!」
「ふふふ。命拾いしましたね!カズマ!いいでしょう。今日は見逃してあげます。しかし明日は覚悟しておいてください!」

 めぐみんはそれだけ言うと、満足したように家の中に戻って行った。
 あっ、あいつ!先にカニを食べるつもりだな!って、よく見たらアクアもいなくなってる!?
 ダクネスもいない……って、あいつは着替えにでも行ったんだろうな。汚れてたし。


「あー、もう楽しいなぁー」
 ゆんゆんと俺だけが残った。ちょっと疑問に思っていたんだが。
「というかさ、爆裂魔法じゃなくて、違う魔法でもよかったんじゃないか?」
「え?」

「いや、ほら『ライト・オブ・セイバー』とか使ってくれたら、屋敷の中で討伐できたんじゃないかって思ってな」
「その……あまり慌てたせいで使うのを忘れてて……あははは」
「ふーん」
 上級魔法を使って、色んな修羅場を潜り抜けて来たゆんゆんが……なんでよりにもよって爆裂魔法で討伐を?

「それより、早くカニを食べましょう」
「あ、あぁ。そうだな」
 うーん。やっぱり年月が経つと人間ってこんなに変わるのか?

 
  *  *  *



 夜。宴会は終わり。もう解散した後、俺はゆんゆんの部屋の前にいた。
「ゆんゆん?起きてるか?」
「どうかしました?」
「実はちょっと話があるんだが。よかったら暖炉の前でどうだ?」
「いえ、部屋の方にどうぞ」

 客室とはいえ、女性の部屋……。意識するな意識するなー。
「どうかしました?」
「き、聞きたいんだが、今日は本当に旅行で来たのか?」

「さすがカズマさんですね。半分本当で半分嘘です。
もうはっきり言いますが、実を言うと私リッチーになった事を後悔しています」
「……」
 俺は無言のまま次の言葉を待った。

「ウィズさんみたいに目標があれば良かったんですが、私は特に……ただ死にたくないからリッチーになりました。
 本当にバカです。情があるせいかアクアさんも浄化してくれませんし、だからと言って自殺は怖いです……。
 だから、過去に戻って忠告したくて……」
「ん?じゃあ、なんで俺たちの所に来たんだ?今の時代のゆんゆんは、この屋敷にいないぞ?」

「いえ、どうせ自分自身に会っても忠告は聞いてくれないと思います。
 ------だって私はバカですから」
 ゆんゆんが悲しそうな表情をしながら、俺をまっすぐ見つめながら。

「だから、カズマさんにお願いしたいんです。
 今後カズマさんの知り合いでリッチーになりたいという人がいたら止めてください。
 リッチーになったら不幸になります。こんな……永遠のような命なんて……別に欲しくないんです。私が欲しかったのは別の……」

「はぁ……。ったく、なんでこう面倒な件ばかり俺に頼むんだよ」
「す、すいません。でも、私カズマさんにしか頼めなくて……いえ!やっぱりめぐみんにも!」
 この言い方。やっぱりめぐみんには頼めないのか。


「いいよ」
「え?」
「いつも面倒事ばかりしているからな。リッチーにならないように止めればいいんだろう?
 魔王軍の幹部を相手するより簡単だ。任せてくれ」

「は、はい!ありがとうございます!」

 ----とびっきりの笑顔だった。

「じゃあ、寝るから。おやすみ」
「あ、あのカズマさん」
「ん?」
「その……今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました」
「ああ、俺も楽しかったよ」
「はい……。では、おやすみなさい。カズマさん」


 そして、俺は部屋を出ていこうとして、ふと思い出したかのように言ってやった。

「そういえばめぐみん。今日の爆裂は百点だったぞ。ナイス爆裂!」(`・∀・´)bグッ!
「ナイス爆裂」(`・ω・´)bグッ!
「やっぱりめぐみんだったのか……」
「……」

 ゆんゆんは固まって動かない。
 俺はそんなゆんゆんに謎を解いた探偵みたいにゆっくり話していく。

「いや、おかしいと思ってたんだよ。アクアやダクネスとすごく仲が良いしさ。
 未来から来たといっても少しフレンドリーすぎだろ?
 まるで何年も一緒に戦ってきた仲間みたいだったぞ?
 あと、決め手は爆裂魔法だ。ゆんゆんが上級魔法をなぜ使わない?」

「そ、それは忘れていたから」
 ようやくゆんゆんが口を開いた。
「忘れる?そんなわけないだろう。じゃあ、なんで『上級魔法を使う事は忘れていた』のに、ネタの『爆裂魔法を使う事は覚えていた』んだよ?」
「……」
「なにか反論はあるか?」





「さすがカズマ。ええ、カズマはこんな人でしたね。どうでもいい事ばかりに頭が回るそんな人」

 ゆんゆん……いや、めぐみんはそんな事を言いながら俺に微笑みかけてきて---。
 一瞬光ったと思ったら、めぐみんが……、ちょっと大人になったっぽいめぐみんが現れた。ゆんゆんの変身は解けたようだ。

 めぐみんのその姿は、めぐみんのお母さんと、今のめぐみんを足してちょうど割る2したような感じの人。
 出るところは出ていないが、髪は長く、少し背も高くなっている気がする。


「なんだ?変身の魔法か何かか?すげーなリッチーってそんな事もできるのか?」
「この姿に戻りたくなかったです。なかったんですよ。だってこの姿に戻ったらもう自分を抑えられなくなって……。
 そうゆんゆんの姿だったから……私はゆんゆんを演じて、自分を抑えて----」
 ん?なにを言ってるんだこいつ?


「!!?」
 なっ!!!急に抱き着いてきた!?しかも泣いてる!?


「カズマぁぁぁ!会いたかった会いたかった!会いたかった!!!」
「めぐみん……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!カズマーーーーーー」

 俺に抱き着いて泣いてくる、同世代くらいの女の子。
 こういう経験が全然ない俺はどうしていいかわからなくて……。
 わからないが、胸を貸すくらいはできる。
 それくらいはできる。

「カズマ!カズマ!カズマ!カズマ!カズマ!カズマ!」
 俺の胸の中にいる女の子が泣き叫びながら俺の名前を連呼する。
 俺はできる限り、誰にもした事がないくらい優しい声で。

「ああ、カズマだよ」

「すいませんでした!すいませんでした!すいませんでした!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「……」
「リッチーになってしまってごめんなさい!爆裂魔法が未来永劫うてるからとリッチーになってごめんなさい!」
 ……こいつ長生きした分、爆裂魔法が沢山うてるからリッチーになったのか……。

「なんで!なんで!なんで!先に……私を置いて死んじゃったんですか!このバカ!」
 めぐみんの頭を俺は優しく撫でて。
「……そうか。悪かったな」

「あなたはバカです!なんでそこで優しくするんですか!本当に大バカです!その優しさに甘えた私のバカ!!」
「……」

「本当に怖かった。怖かった。どんどんカズマやダクネス、ゆんゆんが老いていく……。あれ?私は?なんで老いていかないの?」
「……」

「そこで気付いたんです!私はとんだ大バカ者と!」
「……」

「怖くなった。怖くなった。怖かった。バカの私は逃げ出した」
「……」

「そして、どうなったと思います?もうお墓ですよ。数十年後に勇気を出して戻ってきたら……みんなが……みんなが!!!」
「……」

「あぁ……。私はなんてバカなんでしょう。カズマにあんなにバカ呼ばわりされて、なんでわからなかったのでしょう
もうこんな私なんて私なんて私なんて死んでしまえば----」

 俺は泣きじゃくってだんだん眼の光がなくなるめぐみんを----強く……力いっぱい抱きしめた。
「お前はバカだ。確かにバカだ!でもな俺はもっと大バカだ。リッチーになろうとしたお前を止められなかった俺が悪い。
だからめぐみんだけが悪いわけじゃない!」


 だから死ぬなと言う前に---俺は思ってしまった。
 無責任じゃないか?


「カズマ……カズマ……あぁ、今日がどれだけ私に堪えたか……わかりますか?」

 言うのは簡単だ。でも言ったあと……
 この目の前で泣きじゃくる女の子は……どうなる?


「楽しかった。楽しかった。今日という一日は楽しかった……もっと一緒にいたかった」

 俺は……

「でも、一緒にいられない。ふふっ。当たり前ですよね。だって私はこの時間軸に生きていないんですから……」
「だって、こっちにはここの『私』がいる。どうしようもありません」


 俺は----------------------

「なあ?過去を変えたら、未来はどうなるんだ?」
「……どうもなりません。ここの未来はここの未来です。私がいた所は平行世界的な扱いになって、なにも変わりません」
 やっぱり、そうか。ここまではっきり言うということは、すでに試したんだろう。

「もう少しだけ、もう少しだけでいいから、このまま……お願いいます」
「あ、ああ」
 めぐみんが力いっぱい抱きしめてきた。
 今までめぐみんはどんな事を思って生きてきたのだろう?
 爆裂爆裂言っているが、なんだかんだ仲間想いのめぐみん。
 そして、俺の事を好きと言ってくれるめぐみん。



 俺の胸の中で泣いている大切な仲間を見て、俺は一つ決意した。



「うぅ……カズマぁ……ごめんなさい。最期を看取れなくて……怖くて……逃げちゃって……神器を使って会いに来てしまって……卑怯でごめんなさい」
 あーあ、やっぱり面倒な件になっちまったなー。
 でも、仕方ないか。大切な仲間。しかもめぐみんの為だ。



「ありがとう。めぐみん。俺のためにそこまで泣いてくれて」
「あ……あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 その後もめぐみんは泣きまくった。

 
  *  *  *



「もう大丈夫です。もう少ししたら朝。もう部屋に戻ってください。この時代の私が怪しむかもしれません」
「なぁ、めぐみん」
「やめてください!その優しい声をやめてください!帰る決意が鈍ります!お願いしますから!」
「わかった」

 俺はそれだけを言うと部屋を出ようと。

「あの……この時代の私を……よろしく頼みます」
「ああ。絶対にリッチーにはしてやらない」
「……」
「……」

「ありがとう。カズマ。あなたに会えて本当によかった」

 最後にめぐみんが微笑んでた気がする。気がする。
 あまり見えない?あれ?なんでだろう?

「カズマ!?そこは泣くところではないですよ……うっ……ほ、ほら、カズマがそんな顔をするから、私まで……」

 あーくそ!最後は未練がないように送るつもりだったんだが!

「な、なぁ、ゆんゆんに変身してたのは、変身魔法か何かか?いや、お前が爆裂魔法以外を覚えるなんて……」
「いえ、あれも神器です。実をいうと、アクアが借してくれて……」
「じゃ、じゃあさ、裸の巨乳のお姉さんとかに変身できたりするのか!?」
「……」
 ひぃぃ!後ろにゴゴゴゴって文字が見えるんですけど!?

「カズマ?他に言いたいことはあります?」

「さっき抱きしめた時に思ったんだが、お前あまり成長してないな……え?めぐみん……さん?
なんで爆裂魔法の詠唱なんか?いや、マジごめんなさい。勘弁してください!」

「ぷっ……あはははははは。こんな所で本気でうったりしませんよ。何を慌ててるんですか」

 いや、お前、絶対にうつつもりだっただろ!




「じゃあな、めぐみん。今日はありがとう。あっちでも頑張れよ」
 雰囲気は良し!これで別れやすい。

「あ、あの……その……」
「ん?」
「えーと……そのですね……」
「何モジモジしてるんだ?トイレか?」

「違います!紅魔族はトイレなんか行かないっていつも言ってたじゃないですか!
そうじゃなくて!あれです!今晩のあれはどうでしたか?」

 あれ?……ああ、あれか。
 そういえばそうだった。俺達と言えばあれだったな


「今日の爆裂魔法は百点と言ったな。あれは嘘だ-----本当は----」

 そりゃあもちろん。


「二百点だ。さすがめぐみんだな」


それを聞いためぐみんが、とびきりの笑顔を見せた----



 

 
  *  *  *



 暖炉の前で今日あったことを考えていると、めぐみんが二階から降りてきた。
「あれ?ゆんゆんは?」
「みんなに挨拶をするのが恥ずかしくて、もう帰ったよ」
 俺が部屋を出た後、すごい光がめぐみん……いや、ゆんゆんがいた部屋からすごい光が放たれた。
 すぐに部屋に戻ると、もうそこには誰もいなかった。
 ったく、最後の挨拶くらい……、いや、俺たちにとってはあれが挨拶だよな。

 ああ、最高の挨拶だった。


「そうですか」

 そう言いながら、暖炉の前のソファーに座っていた俺の隣にめぐみんが座ってきた。
 な、なんでこいつこんなにぴったり座ってるの?

「私はリッチーになりませんから」

 そんな事を言ってきた。
「ゆんゆんには感謝ですね。もし『長生きできれば爆裂魔法をうてる回数も増えますよー』とか勧誘されていたら、すぐにリッチーになっていた事でしょう」
 もしかして、こいつあの話聞いていたんじゃ……?
「カズマ?何かを決意したような顔をしていますが、何を決意したんですか?」


そして、俺は隣にいるめぐみんに力強く、はっきり答えた。



「魔王を倒すぞ。絶対に」

「え?はい?もちろんですが……え?」




-----俺は魔王討伐を決意したのだった-----






 

■エピローグ


 私は帰ってきてしまった。
 この残酷な世界……いえ、元の私の未来に。

 あぁ……夢のような時間だった。本当はもっと一緒にいたかった。
 でも、あの別れ以上の別れを私は知らない。

『二百点だ。さすがめぐみんだな』

 もう、あの別れ方を覚えてしまった以上、普通の別れ方では満足できない。


 あぁ……あぁ……あぁ……やっぱりもう一度会いたい。
 会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい!


 アクアとはもう使わないという約束でしたが、この魔道具でもう一度過去に……


「ようやく帰ってきたか」
「え?」
 私が振り向くとそこには-----



「どうしたんだ?鳩が豆鉄砲を食ったような顔してるぞ?」

 え?そんな……え?そんな……
 なんで彼がそこにいるの?


 その男はニマニマして意地汚く言ってくる。
「もしかして、会うのが数百年ぶりだから俺の事を忘れたのか?
おいおい、紅魔族随一の魔法使いは知力が高いんじゃなかったのか?」


 忘れるはずがない。だってその人はずっと私が一緒にいたかった。
 忘れるはずがない。だってその人はずっと私が好きだった。
 忘れるはずがない。だってその人は生きている間は私の未来を心配してくれて。


「か、カズマ? ほ、本物ですか?」

「ああ、本物のカズマだよ」
 カズマがいる!ここにいる!ちゃんと生きてる!微力ながら魔力も感じる!幻影じゃない!?

「な、なんで!?」
「お前が行った過去。そこで魔王が討伐されたんだよ」
「え?そ、それはこの世界でも」
 わ、わからない。魔王はこの世界でも討伐されてる。
 カズマがここにいる理由がわからない。

「実を言うとさ、魔王を討伐するとエリス様から何でも願いが叶うって言われててさ」
「そ、それは聞いたことがあります。それでカズマは『この異世界で暮らしていきたい』と願ったと」

「……だが、お前が行った過去の俺は違う願いをしたんだ」

「え?


 カズマが力強く、はっきりした声で。

「平行世界だろうが未来だろうが、どんな世界でもめぐみんとずっとずっと一緒にいたい」




 ってな。とカズマが続ける。

「あ、あれ?めぐみん」

 バカ!カズマはバカです!カズマは!
 あれ?過去のカズマがバカなんでしょうか?それとも平行世界のカズマ?
 ああ、よくわからなくなってきました!

「おーい、めぐみん?」

「あなたはバカです!」

「え?」

「願い事が叶うのに、なんでも叶うのに!私のために使うなんて!本当にバカ!」

「はぁ……。あのな。これは俺のためなんだよ。俺がお前と一緒にいたいからだ。
お前が俺と一緒にいたいからじゃなく、俺がお前と一緒にいたいんだよ。
だから、これからお前は俺とずっと一緒な。今後絶対に一人にしてやらないからな」


 この言葉を聞いて、私は嬉しくて。


「本当に……本当に!本当に!?私はリッチーですよ。長生きですよ?」
「うーん。俺は人間かよくわからないけど、大丈夫。そういう願いなんだから」

 あぁ……本当に……カズマは……カズマは。



 本当にバカ------


 

「って、泣くなよ。嬉しいのはわかるけどさ」
「違います。あなたとずっと一緒だと思うと悲しくて……いえ、本当は嬉しいです!カズマ!本当に離しませんよ!?いいんですか!」

 そして、彼は優しい声で私に言った。


「ああ。これからずっとずっと一緒だからな。めぐみん」


 そして、私は涙を流しながら最高の笑顔でーー





「はい!」








       終わり

これにて終わりになります。
読んでくださった方がいらしたらありがとうございました!
まが機会があればよろしくお願いします!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年04月13日 (水) 06:59:00   ID: PdEb5Xxy

カズマらしい願いですね。

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom