男 「十年後の八月」(110)
男 「ただいまー」
男 「つっても誰もいないんだよなぁ…」
男 「はぁ… ビールでも飲も」カシュ
男 「グビグビ」
男 「ぷはぁ」
男 「はぁ、郵便もたまってたな… ん?」
男 「同窓会?」
同窓会なんていつぶりだろうか。
高校出てから初めのうちは割りと顔を合わせていたが…
男 「出るだけでとくか…」
大学を出て、世間では一流と呼ばれるような外資系の会社に入社。
そこそこに仕事をこなし、そこそこに出世していき、同年代の中では多くが羨むようなビジネスマンとしての生活を送っている。
そんなそこそこに忙しい生活の中で、かつての友人達のことも意識の隅に追いやられてしまっていた。
同僚 「男君、今日暇?」
男 「なんで?」
同僚 「他の課の子達が合コンセッティングしてくれって五月蝿くてさ」
男 「そうなんだ、悪いけど俺今日先約があって…」
同僚 「そっか… 男君人気だから結構頼りにしてたのになぁ」
男 「埋め合わせはちゃんとするよ」
同僚 「はーい、そんときはよろしくね」
ツンデレラは多分出せない
―なんかよさげな居酒屋―
店員 「ラッシャーセー」
男 「◯◯学園同窓会で予約してあると思うんすけど…」
店員 「ッチラヘドーゾー」
男 「失礼しまーっす…」
友 「お、男! やっぱ来たか!!」
女 「なんで来んのよもー」
男 「いきなりご挨拶だなお前」
友 「賭けてたんだよ、お前がくるかどうか」
女 「昔みたくめんどいとか言って来ないと思ってたのにぃ」
男 「人を賭けの対象にするな。あんまり集まってないんだな」
友 「まだ早いからな、不参加もいるけど結構集まるみたいだぜ」
女 「じゃあ次委員長が来るか賭けよー!」
友も女も昔と余り変わっていない。
高校を出てからも結構付き合いがあったし、お調子者なところも変わっていないようだ。
友 「委員長は来ないね」
女 「えーなんで?」
友 「委員長って今研究職なんだろ? そんなに暇じゃないんじゃね?」
男 「委員長は来るんじゃないか?」
女 「私も男にさんせー」
友 「なんでさ」
男 「だって委員長イベント事大好きだったじゃん」
善処します
友 「確かにそうだけどさぁ…」
男 「来るにドリンク一杯」
友 「う…」
女 「私も私も」
友 「来ないに一杯…!」
委員長 「じゃあ私は来るに一杯賭けますね」
男 「ほれみろ」
女 「久しぶりー委員長ちゃん」
委員長 「お久しぶりです」ニコ
男 「おら金出しな」
友 「うぅぅ…」チャリーン
女 「仕事大丈夫なの?」
委員長 「えぇ、年中研究室に籠っているわけではありませんから」
友 「それじゃあ改めまして、かんぱーい!」
男 「乾杯」
女 「かんぱーい」
委員長 「乾杯」
他にも集まって来たが、やはり仲のよかった三人と同じ卓を囲むことになる。
男 「友はなにしてんだっけ?」
友 「普通のリーマンだよ。いいよなお前は高収入で」
男 「僻むなって」
女 「私は雑誌編集ー」
友 「訊いてねぇし」
男 「まぁまぁ、どんなことしてんだ?」
女 「取材いったりコーナーのレイアウト考えたり特集組んだり… 何でもやるよ」
委員長 「すごいですねぇ」
女 「研究者に言われるとなんだかヘコむ…」
委員長 「えぇ!?」
友 「委員長って今どんな研究してんの?」
委員長 「今は新しく発見された成分から病気の治療にうんぬん…」
女 「うー頭痛い…」
友 「同じく」
男 「今度アメリカで臨床実験するんだっけ?」
委員長 「そうなんですよ男君。よく御存知ですね」
男 「今度取引するのが医療品メーカーでさ、予備知識ってやつだ」
女 「男が委員長の話に着いていってる」
友 「流石敏腕社員…」
風呂入ってきます
委員長 「そう言えば先生見えませんね」
友 「あぁ、さっき連絡入ってな。居残りの生徒の面倒見てたって」
男 「いい歳こいて元気だなジジイも」
委員長 「失礼ですよ」
女 「つかまだ現役なんだ」
男 「そもそも何故お前に連絡が?」
友 「いや俺幹事だし」
男 「マジかよ…」
女 「よく同窓会として成立してるわね…」
委員長 「まぁ、確かに…」
友 「いつまでもガキじゃねーんだから飲み会の仕切りくらい出来るっつの」
男 「人って変わっていくんだな…」
委員長 「ですね…」
友 「泣くぞ」
先生 「なにを騒いどるアホども」
男 「おぉジジイ、久しぶり」
友 「途中で倒れて死んだかと思ったぞジジイ」
女 「てか生きてたんだねジジイ」
先生 「帰りたくなってきた」
委員長 「ごめんなさい…」
先生 「相変わらず口の悪いガキどもだな、少しは成長した姿をみせてみんか」ドッコイショ
男 「なんだよここに座んのかよジジイ」
友 「気まずいよジジイ」
先生 「どの口が言うか…」
男 「ほれ、お酌してやるよ」トクトクトク
先生 「すまんな」
女 「ジジイ年長者なんだから奢ってよ」
先生 「年長者を敬わんか。ったくお前らは変わらんな…」
委員長 「お忙しい中すいません」
先生 「いいんだよ、お前らの頼みとあっちゃ断れんしな」
友 「委員長に気使わすなよ」
先生 「いい加減切れるぞ」
男 「まだ仕事してんのな」
先生 「地元の名門校だからな、これがいいんだよ」
女 「ジジイやらしい」
先生 「実際金は大事さ。お前らだって生きる為に働くだろ? 文化的に生きる為に必要なもんはなんだよ」
友 「言うとおり金だけどさ…」
委員長 「そろそろゆっくりされてもいいんじゃないですか、って話ですよ」
先生 「お前らに心配される日がくるとはな、俺も歳食ったもんだ」
男 「死期も近いんじゃないか?」
先生 「だぁっとれい」
男 「ジジイもう出来上がってるだろ」
先生 「まだワシは現役だぞーい」
委員長 「口調が乱れて来ましたね」
友 「早すぎだろ。連れ帰る役決めとかねーとな」
女 「じゃ友だね」
友 「はぁ!?」
男 「ドリンクいらねぇから頼んだ」
委員長 「頑張ってくださいね」
友 「畜生面倒事ばっか押し付けやがって…」
先生 「酒もってこーい!」
感化されたのはあの花じゃなくて久しぶりにみた秒速
練り直してくるんで今日は寝ます
あんまりハードルあげないでけれ
続けます
先生 「ウェヒヒヒヒ…」
男 「完全に酔ってやがる…」
友 「まぁジジイはほっといて俺らも飲もうや」トクトクトク
男 「悪いな」ゴクゴク
女 「そういやみんな結婚とかどう?」
男 「仕事が恋人」
委員長 「私もです」
友 「俺は出会いが無いな…」
男 「なんでまたそんな話を?」
女 「いや、私その、ほら」
友 「?」
女 「あれよほら、チューリップになるやつ、されちゃったの」
委員長 「求婚…ですか?」
女 「そ」
友 「お前彼氏いないとか言って無かったか?」
女 「だからなんていうのかな、お付きあいを前提にした結婚?」
男 「逆だ逆」
委員長 「嫌いな方なんですか?」
女 「いや、顔も普通だし気のいい奴だし。好きか嫌いかで言われたら好きなんだけど…」
友 「現実味がない?」
女 「それかなぁ? 結婚願望が無いってわけじゃないけどそこまで焦って無いし、まだまだ20代だしいけるかなみたいな」
男 「贅沢な奴だな」グビグビ
女 「だって見た目どうよどうみえるよ?」
男 「歳相応」
友 「限りなくアウトに近いアウト」
委員長 「に、25くらいですね!」
女 「ありがとう委員長ちゃん愛してる」
男 「世辞はこいつの為にならんぞ」
友 「うんうん」
委員長 「お世辞じゃありませんよぉ」
女 「話進めるけどさぁ、実際結婚する気ある?」
男 「するべき人に出会えたらな」
友 「まぁロマンチスト」
男 「実際お前もそうだろ?」
友 「まぁなあ」
委員長 「私もしたいとは思いますけど…」
友 「委員長とか研究室内でモテるんじゃないの?」
委員長 「いえ、同職の方と付き合いたいとは思えないですね。仕事は不定期ですし時間の都合はつけづらいですから。家庭を持つには向いていないと思います」
男 「それで遊ぶ暇は無いときたらもう独身ルートまっしぐらじゃ無いか?」
委員長 「そうなった時は仕方ありませんね」
友 「結構ドライだね」
委員長 「それよりも諦感ですかね。初めの頃は期待もしてたんですけど」
委員長 「研究者の方って大抵がよくいえば個性的っていいますか…」
男 「なるほどな、友はどうなんだよ」
女 「どうなんだよ」
友 「色気もクソもねぇぞ?」
友 「女の数は少ないし狙い目はもっと給料がいい奴だし。社会人になってから彼女が出来たことなんて一度もねーよ」
委員長 「意外ですね」
男 「あんなに節操無しだったのに」
友 「大人になったんだよ。第一そんなに節操無しじゃねぇし」
女 「よく言うよ…」ハァ
友 「なんだよその意味深な溜め息は」
女 「ほら、高一の時の文化祭でさ…」
男 「あぁ、あれな…」
委員長 「あれはかばいようがありませんね…」
友 「あれ…なにそれ?」
男 「人間は都合の悪いものから忘れていくらしいな」
友 「えー…?」
男 「忘れたのか? 不良に恥かかせたやつ」
友 「あー、やめろ、やめてくれ」
女 「思い出した?」
友 「バッチリ思い出した…」
不良 「よぅ、遅くなった」
委員長 「不良君、ですか…?」
不良 「そうだけど?」
友 「どうしたんだよふりょー、金髪じゃないじゃん!」
不良 「そりゃ社会人だからな、もとの色に戻したさ」
女 「地毛もけっこう茶色いんだねー」
不良 「だろ?」
男 「おい、不良、おい!」コソコソ
不良 「なに?」コソコソ
男 「お前、今日は仕事忙しいんじゃ無いのかよ?」コソコソ
不良 「ちょーっとさぼっちった」テヘペロ
男 「ったく…」
女 「どしたのー?」
不良 「なんでも無い、何の話してたんだ?」
委員長 「丁度不良君の話をしてたんですよ」
不良 「はん?」
そろそろナイトスクープの為に瞑想したいので今日はここまでにしたいと思う
異論は認める
男 「高一、春、文化祭」
不良 「わかったもうやめろいややめてくださいお願いします」
友 「あー死にてぇ…」グビグビ
女 「あれは流石に引いた」
友 「うるせぇやい」
何故ここまで友と不良がこの話を拒絶するのか。
話は前述した通り高一の春まで遡る。
確か、まだ友とは仲よくなる前だったか。
俺と不良は仕方無く文化祭に参加していた。
特に理由は無く、強いて言えば日数が稼げるから。
だから本当に仕方無く、当時流行っていた執事、メイド喫茶なんて企画に参加していた。
ここまでは何ら問題ない。
しかし問題は、昼頃にやってきた。
休憩時間を迎え、俺たちが裏で休んでいた時、不良の母親が突入してきたのである。
因みに不良の母親は若くて美人。
節操無しの友は不良の母親を見るや否や口説き始めてしまう。
ここまでならばただの若気の至り。
母親が自分の正体をばらせば事態は事なきを得るはずだった。
結論からいうと、不良母が悪のりしてしまったのだ。
友のナンパに乗ってしまったのである。
イチャコラとトークを始める二人。
すると母親は不良を見つけ声をかける。
母親の正体発覚。
友、唖然。
母、自慢気にナンパ自慢。
不良、友と母に挟まれていたたまれない。
更にそこに不良父参上。
事態はいよいよ混沌としてくる。
それからなんやかんやあって、友は怒れる不良父から痛いのを一発いただいたらしい。
第三者から見れば笑い話だが、当事者達はかなり嫌だったらしい。
不良 「今でも自慢されるからな…」ゲンナリ
友 「がたいのいいおじさんを見ると今でも顔が痛くなる…」ズキズキ
女 「よく顔の骨折れなかったよね」
友 「うん…」
委員長 「あれから男君達と仲良くなったんですよね」
友 「そうそう」
男 「そうだっけ?」
委員長 「男君怖かったですもん、いつも機嫌悪そうでしたし」
友 「いつも隅の席で本読んでるだけだったしな」
男 「陰キャラだったんだよ」
女 「不良君とは仲良さげに話してたのにね」
男 「シャイなんだよ」
不良 「シャイな奴はあんなに恐くじゃないって」
男 「んだよ…」
ミスた
恐くじゃない→恐くないって
男 「俺が恐いわけがないじゃん」
友 「いや、ノリが軽いぶん不良のほうが恐くなかったよ」
委員長 「私あの件があるまで単語でしか喋って貰った覚えがありません」
不良 「つか『うん』とか『わかった』とかしか言ってなかったよな」
男 「お前とは話してただろ」
女 「私たちと話す時よ」
友 「まぁそんな陰キャラ男とも無事に仲良くなったわけだ」
男 「陰キャラ言うな」
女 「自分で言うてましたやん」
委員長 「でも不良君を見て笑ってる男君は恐くなかったですよ」
男 「よせゃーい」
女 「でもほら、昔キレた時は恐かったよね」
友 「あれはほんとにキチガイかと思った」
男 「なんだっけ…?」
委員長 「でもかっこよかったですよ」
不良 「あぁ、あれな。流石に焦ったよ」
男 「マジでわからね…」
不良 「覚えて無いか? 夏祭りでお前が…」
男 「わかった黒歴史だなやめろ」
友 「確実に殺られるって思った」
女 「あと男は怒らせないようにしようって思った」
不良 「中学ん時はわりとあんなもんだったよな」
委員長 「そういえば男君は中学の時の事を話したがりませんよね」
男 「黒歴史だって…」
端的に言えば、俺は不良だった。
別に漫画やアニメみたく、不良にみられがちな奴、なんかではない。
どうしようもなく不良だったのだ。
気に入らない奴は力で捩じ伏せる。
他人に迷惑をかける不良の中でも最底辺にいる不良だった。
まあ、高校に入ってからは陰キャラになっていたわけだが。
委員長 「男君?」
男 「んぁ?」
委員長 「どうしたんです?」
男 「いや…」
不良 「ちょっとセンチ入ったんだよな? そういやみんな何してんの?」
友 「もうその話したよ」
不良 「へぇ、女ちゃんが雑誌編集ねぇ…」
女 「意外だった?」
不良 「いや、予想通りって感じ?」
女 「誉め言葉?」
不良 「もちろん」
女 「なら許す」
友 「で、不良は何やってんだ?」
不良 「んー、俺?」
委員長 「気になりますね」
不良 「しゃちょー」
友 「は?」
委員長 「しゃちょーって、社長?」
不良 「うん」
女 「冗談が上手いね…」
不良 「嘘じゃないし」
友 「いやいや嘘だろ」
不良 「ちっちゃい会社でも社長は社長だろ?」
男 (ちっちゃい、ね。よく言うよ…)
携帯 「ヴーンヴーン」
男 「悪い、電話だ」
友 「あーい」
男 (同僚からだが…)
男 「もしもし?」
同僚 『男君? 社長知らない?』
男 「…いや、知らないけど」
同僚 『また社長が失踪しちゃってさぁ。携帯も繋がんないし。男君なら知ってるかなって…』
男 「連絡ついたらキツく言っておくから」
同僚 『ごめんね邪魔しちゃって。バイバイ』
男 「あぁ、またな」ピッ
男 「不良君集合」
不良 「」ビクッ
友 「どしたん?」
男 「ちょっとなちょっと。トイレ行こうか」
不良 「ハイ…」
男 「あのな、サボるならサボるで言伝てておけって言ってるだろ?」
不良 「面目無い…」
男 「お前社長だろ、少しは落ち着きを持てよ」
不良 「だって俺も遊びたいもん…」
男 「スケジュール管理しろよ。お前秘書さんに任せっきりだろ」
不良 「あーまた秘書の肩持つんだー!」
男 「秘書さんにチクるぞ」
不良 「すんません」
男 「はぁ… 今日は黙っておいてやるから、明日秘書さんに謝っとけよ」
不良 「ありがと男愛してる」
男 「はいはい」ハァ
この男こそが俺が勤める会社の社長であった。
有能ではあるがかなりずぼらな性格な為、度々スケジュールをケツカッチンにしては秘書さんを泣かせている。
友 「おーおかえりー」
男 「悪かったな、今度は何の話だ?」
女 「そろそろだよねーって話」
委員長 「主語が抜けてますよ」
友 「ほら、あれだよ。十年前に埋めたタイムマシン?」
男 「なにそれこわい」
委員長 「タイムカプセルですよ」
不良 「あー、そういやそんなのも埋めたねぇ」
女 「十年後の八月に掘り返しに行こうって約束したじゃん?」
そうだ、覚えている。
確か学校の裏庭だったかに埋めたのだ。
友 「ほら、もう十年ですよ。掘り返してやんねーと」
男 「みんな都合つくのかよ?」チラッ
不良 「善処します…」
友 「休みならいつでも」
女 「わたしもー」
委員長 「帰国してからなら大丈夫です」
男 「じゃあ委員長が帰ってきてからの休みにだな」
友 「男仕切ってよ」
男 「いやだよめんどい」
女 「任せたよ男ー」
男 「いやだから…」
委員長 「お願いしますね」
不良 「がんばれ」
男 「うるせぇ」
それから少し経って、会は終わりへと向かい始める。
学生の頃ならば二次会三次会と洒落こむところだが、もうそれぞれの生活がある。
友 「おめぇよジジイ…」
先生 「まだわしゃ現役じゃぞーい」ヒック
男 「悪酔いしてやがる…」
友 「手伝ってくれよー」
男 「しゃーねーなー」
威厳たっぷりだったジジイの背中は驚く程に小さく感じた。
友 「ちとトイレ!」
男 「逃げんなよ」
友 「わかってるって」
先生 「おーう男じゃねぇかー」
男 「おらシャキッとしやがれ。タクシー呼ぶぞ」
先生 「てめーはいっつもふらふらしてやがってよぉ。俺はお前がろくな人間になれるかどうかハラハラしてたんだぞー」
男 「…余計なお世話だ」
先生 「夏祭りの時だってなー、お前がついにやっちまったかと思ったんだよ…」
男 「………」
思い出話にも出てきた夏祭りのこと。
今でもあまり思い出したくはない出来事だ。
夏祭りの時、喧嘩をした。
喧嘩というよりかは、一方的に痛め付けただけだったが。
出店をみんなで回っていたとき、ガラの悪い学生達に絡まれてしまった。
そいつらは同じ中学の出身で、かつて女子にしつこくつきまとっていた。
俺は不良づたいに女子から頼まれ、そいつらをシメた。
その時、そいつらは『もうしない、許してくれ』と必死に泣きわめいた。
だが数年後、そいつらは同じことを委員長と女にやっていた。
俺の見た目が変わっていて、気づかなかったのもあったのだろう。
中学の時は眼鏡に染髪もしていた。
しつこく委員長と女に絡むかつての知り合いに、俺はキレた。
俺は何よりも嘘が嫌いだった。
一方的な暴力でそいつらを痛め付けた。
よくは知らないが、大怪我だったらしい。ジジイが色々と手回ししてくれたらしく、これといった問題にはならなかったが。
先生 「人の苦労も知らんでよぉ。よくもやってくれたよ…」
男 「悪かったよ…」
あまり混ぜかえさないでほしい。
先生 「そのお前が今じゃ有名企業の社員だもんな、不良もよくやるよ」
男 「知ってたのかよ」
先生 「バーロォ先生は何でもしってんだぞぉ?」
男 「はいはい…」
友 「待たせたなー」
男 「ジジイを人に押し付けんなよな」
友 「悪い悪い、もう帰っていいぜ」
男 「いいのか?」
友 「タクシー乗せるだけだって」
先生 「もいっけんいくぞー」ウーイ
友 「勘弁してくれよ…」
男 「大丈夫か?」
友 「大丈夫だから行ってやれって」
男 「行く?」
男 「委員長?」
委員長 「あ、男君…」
男 「友が送ってやれって五月蝿くてよ」
委員長 「別に構わないのに」
男 「まぁここまできたら送らせてくれよ」
委員長 「じゃあお願いしますね」
男 「おぅ」
男 「………」
委員長 「………」
いざ二人きりになるとなんだか気恥ずかしい。
いい歳こいてかつての憧れの人にドギマギするとはまだまだ俺も青いようだ。
委員長 「今日は楽しかったですねぇ」
男 「そだな」
委員長はいつも健気だった。
誰にでも分け隔て無く接し、どんなことにも懸命に頑張る。
無気力だった俺には少し眩しかった。
委員長 「あの時、男君は私達を助けてくれたんですよね」
男 「どうだかな…」
あの時と言えば、夏祭りのことだろう。
もしかしたら、いや多分俺は委員長が絡まれたから怒ったのだろう。
委員長 「怖かったですけど、かっこよかったです」
男 「よせやーぃ」
委員長 「八月末には帰国できると思いますから、その時は連絡しますね」
男 「あいよ」
委員長 「楽しみにしててくださいね」
男 「?」
それから委員長を駅まで送ってから、自分も我が家を目指すのだった。
それから数日経ち、今日も元気に会社へと向かう。
不良もちゃんと仕事をこなしているらしい。
友と女からもまだかまだかと度々連絡がくる。
少しは落ち着けよとせっかちな友人達に呆れながら学校側と折り合いをつけていた時だった。
米国に向かう飛行機の墜落事故の話を聞いたのは。
友 「よ…」
男 「おぅ」
友 「ついてねぇよな、委員長も」
男 「だな…」
飛行機事故の確率は四百年に一度くらいだと聞いたがそれに当たるのだから委員長のツキも大概だったのだろう。
友 「美人薄命とはよく言ったもんだよ」
男 「女は?」
友 「さっきまで棺んとこで泣いてたよ」
友 「遺族よりも泣く奴があるかよ。不良は?」
男 「仕事終わったらすぐ来るってよ」
友 「そか…」
友 「遺体が見つかっただけよかったよ。見つかってない人の方が多いんだと」
男 「だろうな」
酷い事故だったらしい。
ニュースでも連日報道されていた。
友 「ちゃんと挨拶してきな」
男 「あぁ…」
棺の中の委員長はまるで眠っているかのように静かな顔をしていた。
まるで今にも目を開いて起き上がりそうなほどに。
男 「なに約束破ってんだよアホ」
近くの遺族に睨まれた。
先生 「すんませんね、礼儀を知らん奴で。来いあほんだら」
突如現れたジジイに頭を叩かれた。
先生 「何をしとんじゃアホ」
男 「俺流別れの挨拶」
先生 「アホ」
友 「よう、ジジイも来てたのか」
先生 「ちっとは神妙にせんかお前ら」
男 「当人は葬式は明るく執り行ってくれと…」
先生 「嘘こけ」
男 「テヘペロ」
友 「ぴーぴー泣くよりそっちのがいいだろうさ」
先生 「口の達者なクソガキどもよのぅ…」
男 「口の達者なジジイを持ったからな」
先生 「よう言うわ。次死ぬのはお前じゃな」
男 「絶対お前だろ」
先生 「わしが死んだら真っ先に呪ってやるから安心せぇ」
男 「マジでやめろ」
友 「洒落になってねーな」
先生 「しかし美人薄命とは…」
友 「その話したから別ので頼む」
先生 「」
先生 「…親やジジイより先に逝く奴があるかい」
男 「無難に纏めたな」
友 「当たり障りない話題だな」
先生 「なんやねんお前ら…」
先生 「お前らは親不孝せんようにな」
友 「なんだよ帰んのかよ」
先生 「お前らみたいなガキはどこにでもいるんだよ」
男 「よくやるよ」
先生 「まだまだわしも現役だもんでな」
友 「とっとと隠居しちまいな」
先生 「お前らが手のかからんようになったらな」
男 「はいはい」
先生 「達者でな」
男 「葬式にはワイン? シャンパン?」
先生 「だぁっとれぃ」
不良 「おぃっす」
男 「来たか」
友 「お疲れさん」
不良 「どんな?」
男 「厳かに執り行われましたってやつだ。丁度ジジイと入れ違いだぞ」
不良 「あぁ、会った会った。なんかほくそ笑んでたぞ」
友 「きんもちわり」
男 「全くだ」
不良 「しかし美人薄命とは…」
男 「もういいってマジで」
友 「天丼は二回までだな」
不良 「は?」
男 「友もジジイもそのネタだったんだよ」
不良 「知るかよ… しかし親不孝なもんだな…」
友 「それもジジイがやった」
不良 「じゃあ何を話せばいいんだよ!?」
遺族の冷たい眼差しを意にも介さずにバカな話をしていた。
委員長もそっちの方が喜ぶだろうし、自分達も虚勢を張っていないとやっていられなかった。
友 「そろそろ帰るわ」
男 「そうか」
不良 「たまには一緒に飲もうよ」
友 「ヒラは明日も朝早いのよ」
男 「ヒラがどうとか関係ねーし」
友 「タイムカプセル掘り返す時でもいいだろ、じゃな」
男 「おぅ」
不良 「まったねぇーぃ」
男 「はぁ、俺らも帰るか」
不良 「飲もうよー」
男 「何が悲しくてお前と二人酒しなきゃいけないんだよ」
不良 「いーじゃんいーじゃん、悲しみは酒で誤魔化そうぜ」
男 「別にいいって」
不良の誘いを突っぱねて斎場の出口へ向かう。
不良 「おい男!」
男 「あん?」
不良 「大丈夫か?」
やっぱり、こいつには敵わない。
男 「あぁ」
不良 「ならいい」
その次の日曜日、俺達四人は十年ぶりに母校を訪れた。
先生 「騒ぎは起こすなよ」
男 「わーってるよ」
不良 「じゃあねー」
辛気臭い顔の出迎えを受けてから、タイムカプセルのある裏庭へと向かう。
目印にと植えていた桜の苗は誰に世話をされたわけでもないであろうにも関わらず、青々とした葉を繁らせていた。
友 「どのへんだっけ、埋めたの」
女 「確か植えたところよりも少し離れてたよ」
確か不良が苗の根元に埋めようとした時、委員長が根に巻き込まれたらいけないからと離れた場所に埋めたはずだ。
不良 「さて肉体労働だな」
女 「頑張ろう頑張ろう!」
男 「面倒だな…」
友 「今日中に見つかるかね?」
四人は用務員から借りたシャベルを地面に突き刺した。
ざくざくと地を掘り進めていくと、土臭い臭いが一帯に広がる。
早くも全員泥だらけだ。
友 「あったかー?」
女 「なーい」
私服にしておいて正解だった。終わったらちゃんとクリーニングに出しておこう。
不良 「どこだよー」
男 「口動かす前に手動かしな」
不良 「ほーい」
男 「あー…」
流石に疲れてきた。
はや一時間近く掘り続けているがタイムカプセルは一向に姿を現さない。
男 「ちっくしょ!」
自棄っぱちになって思いきりシャベルを突き刺す。
そのときガンと無骨な音が響いた。
男 「…あった」
友 「マジ!?」
三人が嬉々としながら駆け寄る。
先程までの疲れはどこへ行ったのか、一心不乱に鉄の箱の回りを掘り返し、被った土を手で払う。
不良 「マメできちった」
女 「早く開けようよぅ!」
端正な文字で書かれたタイムカプセルの文字と、周りに埋め尽くされた色とりどりの落書き。
あの時の記憶が昨日のことのように蘇る。
男 「まぁ落ち着けって。第一埋めたて作業もも残ってんだぞ」
友 「えー…」
桜の樹の周りは大小様々な穴でぼこぼこだ。
やる気が残っているうちに作業を済ませるべきだろう。
男 「やったるぜ!」
女 「おー!」
友・不良 「「おー…」」
昼前から作業を始め数時間。
既に陽は傾きかけていた。
男 「さて…」
友 「死ぬ…」
不良 「同じく…」
男 「運動不足め」
女 「開けよう開けよう!」
友 「ちなみにお前らは元気過ぎな」
錆びついた鉄の缶の蓋に手をかける。
思いきり突いた時に蓋が歪んだお陰で殊の外簡単に開いた。
友 「うっひょ!」
不良 「へぇ」
女 「懐かしー」
男 「あぁ…」
かつて、少年時代を彩った思い出たち。
流行りだった音楽やゲーム、果ては赤点のテストまで。
女 「誰、スケベ本なんて入れたの?」
友 「あー俺のお宝本!」
女 「きっしょ…」
友 「若気の至りじゃんちょっとしたおふざけじゃん」
不良 「あ、俺とお前のメモリー!」
男 「言い方がいちいち癪に触る」
不良 「見ろよこの写真お前の髪がパツキンだぜ?」
男 「なんてもん入れてやがんだよ!?」
黒歴史の遺産も残っていたが、数々の思い出の品々のお陰で学生の頃に戻ったような気がしてくる。
男 「ん…?」
そしてそれは、一番底に鎮座していた。
誤字とか多くてすまん
よくある、未来の自分に向けて書いた手紙だ。
しかしおかしい。
何故か一枚分多いのだ。
友 「お、手紙?」
男 「あぁ…」
それぞれに手紙を渡し、余った二枚を確認する。
一枚はもちろん、委員長から委員長へ。
そしてもう一枚は、委員長から俺に宛てられたものだった。
それぞれが自分の手紙をはにかみながら読んでいる中、俺は委員長からの手紙を開いた。
『十年後の男君、お元気ですか? みんなもきっと元気だと思います。私は元気にしているでしょうか?』
男 (死んじまったよ…)
そんな風に、手紙は始まった。
それから、他愛もない世間話のような話が続く。
委員長が内容を考えに考えながら机に向かっていたのが容易く浮かぶ。
『きっと私はどんくさいから結婚どころか誰ともお付き合い出来ていないと思います』
男 (あぁ、出来てなかった)
『だから、勇気の無い私は今ここで言います。ずっと男君のことが好きです』
男 「…ぇ?」
『でした、ではありません。十年後もきっと、絶対に好きです』
『私は小賢しい女なので、このように小賢しい真似しかできません。今の私にはあなたに告白するような勇気はありませんでした』
『だから、もし十年後の男君が付き合っていたり、結婚していたりしていなかったなら、臆病な私に声をかけてあげてください』
『断って貰って構いません。今の私が我が儘を言っているだけですから』
『でも私は、十年後も変わらずにあなたのことが大好きです』
男 「っはは……」ポロポロ
友 「男…?」
男 「くっせぇなぁ…」
十年越しの告白。
青臭すぎて吐きそうだ。
不良 「男……」
男 「大丈夫だよ… 大丈夫」ポロポロ
人前で泣くなんていつぶりだろう。
口に入りかけた涙をなめると、ひどくく懐かしい味がした。
男 (あぁ、俺も大好きだったよ…)
初恋は上手くいかない。
そんな話をよく耳にする。
そんなもの当人達次第だろ、と半分馬鹿にしていたが、自分もあまり馬鹿にできた立場ではなかったようだ。
男 (本当だったんだな、あれ…)
今でも、夏が来るとふと思い出す。
いつか見た真っ青な青空をを。
一応終わりです
誤字脱字も多かったと思いますが私の自慰行為にお付き合いいただいたみなさまありがとうございます
感化されたのは
・秒速5センチメートル
・ウサギ
イメージはliaさんの青空
題はsecret baceから
本当にお疲れさまでした
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