モバP「靴ひも」 (16)

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楓「...っ!」ダッ

モバP(以下、P)「楓さんっ!........」

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夜/事務所

P「......」カタカタ...カタ...タン...

ちひろ「...追いかけなくていいんですか?」

P「......」

P「...もうすぐ美波たちが帰ってきますし、明日の仕事の確認と、もう遅いのでありすを寮まで送っていかないと。」

ちひろ「...」

P「だ、大丈夫ですよ! 楓さんも大人ですから、仕事はしっかりと」 ちひろ「Pさんは」

ちひろ「.....Pさんは本当に、これでいいんですか?」

ちひろ「あんな嘘まで吐いて...」

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同日夕刻/事務所

P『実は...楓さんの担当を外してもらおうかと、考えているんです。』

楓『えっ....』

P『...』

楓『....どうして、ですか?』

P『...』

P『自分に限界を感じたんです。俺では、楓さんの魅力を目一杯に引き出すことができないと。』

P『他の、もっと優秀なプロデューサーの下についたほうが楓さんはきっと...』

楓『そんなことありません。』

楓『私は、Pさんと一緒だったから、ここまでやってこれたと思っているんです。それに、これからも。殻に籠りがちだった私を変えてくれたのはPさんです。』

P『でも...』

楓『私がまだまだアイドルとして未熟なのは承知しています。早く立派になれるようにもっと頑張りますよ?』

P『楓さんは今でも立派なアイドルですよ。さっき言った通り、これは俺の方の問題なんです。』

楓『問題なし、です。』

P『あるんです。』

楓『のーぷろぶれむ』

P『......』

楓『...』

P『...』

楓『ダメ、なんです...』

楓『正直にお話しますね。私は...Pさんと一緒にお仕事に行ったり、お酒を飲みに行ったりすることが...Pさんと過ごす時間が、いつしか私の中でとても大きなものになっていて...それが無くなってしまうのが...嫌なんです。』

P『...』

楓『私はPさんの事が......Pさんも私の気持ちに...きっと気付いていますよね?』

P『...』

楓『Pさんは...Pさんは...私の事を、どう思っているんですか?』

P『俺は、楓さんの想いに...応えることはできません。』

楓『違うんです。』

楓『そうじゃないんですっ...それは、私も分かっています。アイドルとプロデューサー、ですから...』

楓『Pさんの本心を知りたいんです...私の事、ひとりの女性として、どう思っているんですか?』

P『......』グッ

P『......好きでは.....ありません...』

楓『...っ...そう...ですか...』

P『も、もちろんアイドルとしては大好きですよ!楓さんなら絶対トップアイd』 楓『...っ!』ダッ

P『楓さんっ!』

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P「...これが一番いい方法なんです。」

ちひろ「そんな..」

P「たしかに俺は楓さんを...大切に思っています。アイドルとして、だけでなく。楓さんの好意にも気付いていましたよ。」

P「でも楓さんは今、アイドルとしてとても重要な時期にいるんです。そんなときに担当プロデューサーとのあれやこれやで、ましてやスキャンダルで、道を閉ざされるなんてことはあったらいけない。」

ちひろ「...」

ちひろ「Pさんなら楓さんの仕事とプライベート、それこそ上手にプロデュースできるんじゃないですか?」

P「...わかりません。はい、と言えないくらい、俺の想いも強いんだと気付いてしまったんです。」

ガチャ

美波・奏・ありす「ただいま戻りました!」

ちひろ「あら、おかえりなさい。」

P「おお、3人ともお疲れ。」

美波「お疲れ様です。...あれ、もう誰もいないんですか?」

P「そうだな。美波たちが最後だぞ。」

美波「そうなんですか。うーん、楓さんに少し聞きたいことがあったんだけどな...」

P「」ピクッ

奏「なに動揺してるの?Pさん。」

P「べ、別に動揺なんてしてないぞ。」

ありす「バレバレですよ。何かあったんですか?」

P「なんにもな」 ちひろ「ちょっと3人とも聞いてくださいよ!」バンッ!

P「」

カクカクシカジカ

美波「な、なるほど。」

奏「...Pさん、楓さんに会って正直に話すべきだと思うわ。」

P「いやでも、スキャンダルは...」

奏「そうなるって決まっているわけではないでしょう?」

P「それはそうだが、でm」

奏「嘘をついたことよ。」

P「...」

奏「Pさんは嘘をついて、楓さんを傷つけた。それは一番やってはいけないこと。プロデューサーがアイドルに、って考えてもそうでしょう?」

P「...はい。」

美波「...どうして、自分ひとりで決めようとしたんですか?」

美波「相思相愛なんだったら、ふたりで相談して関係の在り方を決めるとか、もっとやりようはあったと思うんです。」

P「...はい。」

美波「Pさんも楓さんも立派な大人ですし、それくらいの器用さは身についているはずですよ。きっと。」

P「...」

P(美波といい奏といい、最近の10代は大人だなぁ...俺が10代の頃なんて...)

ありす「迎えに行ってください。Pさん。」

P「...でも明日の仕事の確認と」

美波「私はアーニャちゃんと歌番組」
奏「私はシューコと新発売お菓子のイベント」
ありす「わたしはとときら学園の収録」

3人「ちなみに場所も時間もバッチリです。」

P「」

P「ありすを寮まで」

ありす「美波さんと奏さんに送ってもらいます。」
ちひろ「なんなら私もいます。」

P「」

ちひろ「Pさん、行ってあげてください。」

P「...でも...」

ちひろ「」ブチッ

ちひろ「...まったくもう!いつまでうだうだしてるんですか!」

ちひろ「本当はPさんだって楓さんを追いかけたいくせに!さっきから全然仕事に身が入ってないじゃないですか!」

P「うっ...」

ちひろ「...どうしたらいいか...自分がどうしたいか、分かってるんでしょう?」

P「...」

P「......はいっ」

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彼女の行先の検討はついていた。

---

数か月前/

楓『Pさん、今晩飲みに行きませんか?』

P『いいですよ。今日は久しぶりに定時に上がれそうですし。』

楓『あっ、ならちょっと遠出してみませんか? バスでちょこっと出たところに美味しいお店知っているんです。』

P『楓さんのおすすめなら期待できそうですね。行きましょうか!』

郊外/居酒屋

P『本当に美味しいですね。お酒も肴も。』

楓『お口に合ったようで良かったです。私の郊外での隠れ家なので口外しないでくださいね?』フフッ

P『はは、秘密にしてたらもったいない気もしますけどね。ここには結構頻繁に来ているんですか?』

楓『いえ、モデル時代はよく来ていましたけど、最近はあんまりですね。』

楓『このお店には、普段と違う気分の時に来ているんです。特別な出来事があったときとか、悲しいことがあったとき、とか。』

楓『モデルをやっていた頃は気持ちが落ち込んだりすることが多かったので、自然とここに足が向かっちゃっていました。』

P『そうなんですか...ということは、今日も何かあったんですか?』

楓『いえ今日は特に......あっ、今日は珍しくPさんが定時上がりなので、特別な出来事があった、ということにしておきます。』

P『あはは、確かにそうですね。でも、何か悩みとかあったら言ってくださいね。いつでも相談に乗りますよ。』

楓『はい、ありがとうございます。ふふっ』

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バスの発車時刻まであとわずか。慌ててスリッパから外出時の靴に履き替え事務所を飛び出す。

P(間に合うか...?)ハァッ、ハァッ

腕時計は既に発車時刻を指している。
バス停にたどり着くとちょうどお目当てのバスが動き出したところだった。

P「すいませんっ!...乗せてください!!」

運転手に息切れした声が聞こえたのか、ミラーで気付いたのか分からないが、バスは親切にも俺を乗せてくれた。

P「すみません...ハァッ..ありがとうございます。」

バスに乗り込んですぐ、自分が靴ひもを結び忘れていたことに気が付いた。相当に慌てていたのだろう。
それは同時に、それだけ自分にとって彼女が大切な存在であるという証でもあった。

赤信号でバスが停まり、吊り革を握る手に自然に力が入ってしまう。

P(くそ...タイミングが悪いな...)

彼女は本当にあの店にいるのだろうか?
家に帰ったのでは?
それともどこかを当てもなく彷徨っているのではないか。
そんな不安が頭をよぎる。

ふと車窓に目を向けると、リードをガードレールに繋がれた雑種犬が目に入った。
買い物をしている主人を待っているのだろう。犬はスーパーマーケットの入口をじっと見つめ、時折耳をピクピクさせていた。

P(なんだか今の俺と似ているな...)

待つ者と、向かう者。立場こそ違えど、両者の持つ独特のそわそわした雰囲気と
"早く会いたい" という共通するであろう焦燥を持っていることに、やけに親近感を覚えた。

信号が青に変わってもバスはスムーズに動かない。道路工事が原因で渋滞してしまっているようだ。
思い通りに事が進まず、苛立つ頭の中で楓さんについた嘘を反省する。

彼女が愛しいがゆえに自分が苦しみ、
自分の苦しみを正当化・肯定したいがゆえに相手を傷つけ、
それがまた自分を苦しめる。

愛とは難しいものだとつくづく思い知らされる。

でもそれが、愛しく、嬉しい。
やはり彼女がいて自分がいるのだという実感。
彼女を愛している自分が一番自分らしいのだと。


それが正しいのかどうかは分からない。

ただ、今は



一瞬でも早く君の待つ場所へ

終点までの運賃を運転手に支払い、足が止まったバスから飛び出す。
運転手だけでなく他の乗客からも奇異の目を向けられる。
だが、そんなことはどうでもよかった。


一秒でも早く君の待つ場所へ


頭の中の不安は既に消えていた。
必ず、彼女に会える。そんな確信があった。

走っている最中、靴ひもがほどけた。
それに気付きはしても、直す気は起きなかった。


一瞬でも早く君の待つ場所へ


以上です。
終始、稚拙な文章となってしまいました。
元ネタはMr.Childrenの靴ひもという曲です。良かったら聴いてみてください。

SS書いたらSSR楓さんをお迎えできるんですよね?ね?
では30連回してきます。

30連+10連回した結果はSSR美穂でした。
楓さんの復刻を気長に待つことにします。

リクエストありがとうございます。また時間ができたら書きたいです。

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